説明

高アスペクト比構造を有する機能性膜の製造方法及び製造装置

【課題】 低い製造コスト、高い歩留まりという量産化に適した高アスペクト比構造を有する機能性膜の製造方法及び製造装置を提供する。
【解決手段】 凸部アレイの反転型である凹部アレイが形成されたスタンパー13、13…をスットカ20から取り出す取出し工程30と、取り出したスタンパー13の凹部アレイに樹脂ポリマーの溶解液16を注入させて該樹脂ポリマーの溶解液16で凸部アレイを製造する注入工程40と、凸部アレイが形成された樹脂ポリマーの溶解液16を乾燥し硬化させる乾燥工程50と、硬化した樹脂ポリマーの凝固体をスタンパー13から剥離する剥離工程と、剥離された後のスタンパー13をストッカ20に戻す戻し工程70と、により製造されることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高アスペクト比構造を有する機能性膜の製造方法及び製造装置に関するものであり、特に、皮膚表層または皮膚角質層において、簡便に、かつ効率的に薬品等を注入するマイクロニードルシートと称される機能性膜の製造方法及び製造装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、生体表面、即ち皮膚や粘膜等より、薬品等を投与する方法としては、主に液状物質又は、粉状物質を付着させる方法が殆どであった。しかしながら、これらの物質の付着領域は、皮膚の表面に限られていたため、発汗や異物の接触等によって、付着している薬品等が除去される場合があり、適量を投与することは困難であった。また、薬品を皮膚の奥深くに浸透させるためには、このような薬品の拡散による浸透を利用した方法では、浸透深さを確実に制御することは困難であるため、十分な薬効を得ることは困難であった。
【0003】
このため、特許文献1から5に記載されている高アスペクト比構造を有する機能性膜を用い、その先端を皮膚内に挿入することにより、薬品を注入する方法が開示されている。
【特許文献1】特開2003−238347号公報
【特許文献2】特開2006−51361号公報
【特許文献3】特開2006−345983号公報
【特許文献4】特開2004−288783号公報
【特許文献5】特開2006−320986号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1〜5に開示されている発明は、生産性に乏しく、高コストになってしまうといった問題点があった。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、低い製造コスト、高い歩留まりという量産化に適した高アスペクト比構造を有する機能性膜の製造方法及び製造装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載の発明は、表面に高アスペクト比構造の凸部が複数配列された凸部アレイを有する機能性膜の製造方法において、前記凸部アレイの反転型である凹部アレイが形成されたスタンパーをストッカから取り出す取出し工程と、前記取り出したスタンパーの凹部アレイに樹脂ポリマーの溶解液を注入させて該樹脂ポリマーの溶解液で前記凸部アレイを製造する注入工程と、前記凸部アレイが形成された前記樹脂ポリマーの溶解液を乾燥し硬化させる乾燥工程と、前記硬化した樹脂ポリマーの凝固体を前記スタンパーから剥離する剥離工程と、前記剥離された後のスタンパーを前記ストッカに戻す戻し工程と、を備えたことを特徴とする高アスペクト比構造を有する機能性膜の製造方法である。
【0007】
請求項1によれば、スットカに保管されているスタンパーを取り出し、そのスタンパーに樹脂ポリマーの溶解液を注入し、樹脂ポリマーの溶解液を乾燥し硬化させ、硬化した樹脂ポリマーの凝集体をスタンパーから剥離し、スタンパーはストッカに戻すという方法により、低い製造コスト、高い歩留まりという量産化に適した高アスペクト比構造を有する機能性膜の製造方法を提供することがきる。尚、ここで、高アスペクト比構造とは凸部の底辺の直径に対して高さの比率が高い構造を云う。
【0008】
請求項2に記載された発明は、前記スタンパーは、前記凸部アレイが形成された原版の反転品を複数マトリックス状に繋ぎ合わせて形成した大面積のスタンパー、若しくは前記原版の複製品を複数マトリックス状に繋ぎ合わせ、その反転品として製造した大面積のスタンパーであることを特徴とする請求項1に記載の高アスペクト比構造を有する機能性膜の製造方法である。
【0009】
請求項2によれば、凸部アレイが形成された原版の反転品の部分は1つではなく複数であっても良い。原版の反転品を作製してマトリクス状に繋ぎ合せたもの、若しくは原版の複製品を繋ぎ合せて反転品を取ったものであることで、複数の高アスペクト比構造の部分を1つのスタンパーに設けることができるので、低い製造コスト、高い歩留まりという量産化に適した高アスペクト比構造を有する機能性膜の製造方法を提供することができる。
【0010】
請求項3に記載された発明は、前記大面積のスタンパーのマトリックス状に形成された繋ぎ合わせた部分には、撥水材料が設けられていることを特徴とする請求項2に記載の高アスペクト比構造を有する機能性膜の製造方法である。
【0011】
請求項3によれば、大面積のスタンパーのマトリックス状に形成された繋ぎ合わせた部分には、撥水材料が設けられているので、高アスペクト比構造パターン部に効率良く樹脂ポリマーが流れ込み高い歩留まりが達成される。
【0012】
請求項4に記載の発明は、前記注入工程において前記大面積のスタンパーに溶解液を注入する場合には、前記マトリックス状に形成された繋ぎ合わせ部分で囲まれた内側領域のみに溶解液を滴下することを特徴とする請求項2又は3に記載の高アスペクト比構造を有する機能性膜の製造方法である。
【0013】
請求項4によれば、マトリックス状に形成された繋ぎ合わせ部分で囲まれた内側領域(スタンパーの高アスペクト比構造パターン部)にのみに樹脂ポリマーの溶解液を滴下することで、溶解液の無駄が減り、低い製造コストで高アスペクト比構造を有する機能性膜を得ることができる。
【0014】
請求項5に記載の発明は、前記マトリックス状に形成された繋ぎ合わせ部分には、格子状部材を嵌め込むための格子状溝が形成されていることを特徴とする請求項2〜4の何れか1に記載の高アスペクト比構造を有する機能性膜の製造方法である。
【0015】
請求項5によれば、マトリックス状に形成された繋ぎ合わせ部分には、格子状部材を嵌め込むための格子状溝が形成されていることが好ましい。
【0016】
請求項6に記載の発明は、前記乾燥工程を減圧乾燥で行うことを特徴とする請求項1〜5の何れか1に記載の高アスペクト比構造を有する機能性膜の製造方法である。
【0017】
請求項6によれば、乾燥工程を減圧状態で行うことで、高アスペクト比構造に欠陥の無い機能性膜を提供することができる。
【0018】
請求項7に記載の発明は、前記乾燥工程では、乾燥ゾーン内に前記スタンパーをコンベア搬送させながら連続的に乾燥するコンベア乾燥を行うことを特徴とする請求項1〜6の何れか1に記載の高アスペクト比構造を有する機能性膜の製造方法である。
【0019】
請求項7によれば、スタンパーをコンベアで搬送させながら溶解液を乾燥させるので、効率的に機能性膜を製造することができる。
【0020】
請求項8に記載の発明は、前記剥離工程において前記大面積のスタンパーから前記凝固体を剥離する場合には、前記格子状溝に前記格子状部材を嵌め込んだ後、基材シートを前記スタンパーに重ね合わせて接着し、前記格子状部材で前記基材シートを持ち上げることにより前記凝固体を前記スタンパーから剥離することを特徴とする請求項5に記載の高アスペクト比構造を有する機能性膜の製造方法である。
【0021】
請求項8によれば、格子状溝に前記格子状部材を嵌め込んだ後、基材シートをスタンパーに重ね合わせて接着し、格子状部材で基材シートを持ち上げることにより凝固体をスタンパーから剥離することで、好適に高アスペクト比構造を有する機能性膜を得ることができる。
【0022】
請求項9に記載の発明は、前記基材シートの片面には、予め粘着層が塗布されていることを特徴とする請求項8に記載の高アスペクト比構造を有する機能性膜の製造方法である。
【0023】
請求項9によれば、基材シートの片面には、予め粘着層が塗布されていることが好ましい。
【0024】
請求項10に記載の発明は、前記スタンパーから剥離した凝固体を再乾燥させることを特徴とする請求項1〜9の何れか1に記載の高アスペクト比構造を有する機能性膜の製造方法である。
【0025】
請求項10によれば、スタンパーから剥離した凝固体を再乾燥させることで、残存した溶媒を蒸発することができるので好ましい。
【0026】
請求項11に記載の発明は、前記凝固体を剥離した前記スタンパーを、洗浄して前記ストッカへ戻すことを特徴とする請求項1〜10の何れか1に記載の高アスペクト比構造を有する機能性膜の製造方法である。
【0027】
請求項11によれば、凝固体を剥離したスタンパーを洗浄してストッカへ戻すことで、高い歩留まりという量産化に適した高アスペクト比構造を有する機能性膜の製造方法を提供することができる。
【0028】
請求項12に記載の発明は、前記洗浄は、紫外線照射又はプラズマ照射で洗浄することを特徴とする請求項11に記載の高アスペクト比構造を有する機能性膜の製造方法である。
【0029】
請求項12によれば、紫外線照射又はプラズマ照射で洗浄することで、スタンパーの表面を活性化させて洗浄することができるので、スタンパーの樹脂ポリマーの剥離性を維持することができ、高い歩留まりという量産化に適した高アスペクト比構造を有する機能性膜の製造方法を提供することができる。
【0030】
請求項13に記載の発明は、前記樹脂ポリマーは、水溶性であることを特徴とする請求項1〜12の何れか1に記載の高アスペクト比構造を有する機能性膜の製造方法である。
【0031】
請求項13によれば、樹脂ポリマーが水溶性であるので、製造された高アスペクト比構造を有する機能性膜を皮膚に突き刺しても安全である。
【0032】
請求項14に記載の発明は、前記樹脂ポリマーは、生分解性であることを特徴とする請求項1〜13の何れか1に記載の高アスペクト比構造を有する機能性膜の製造方法である。
【0033】
請求項14によれば、樹脂ポリマーが生分解性であることが好ましい。
【0034】
請求項15に記載の発明は、前記機能性膜は、前記凸部アレイとして微小針アレイが形成されたマイクロニードルシートであることを特徴とする請求項1〜14の何れか1に記載の高アスペクト比構造を有する機能性膜の製造方法である。
【0035】
請求項15によれば、機能性膜が、凸部アレイとして微小針アレイが形成されたマイクロニードルシートであることで、好適にマイクロニードルシートを提供することができる。
【0036】
請求項16に記載の発明は、表面に高アスペクト比構造の凸部が複数配列された凸部アレイを有する機能性膜の製造装置において、前記凸部アレイの反転型である凹部アレイが形成されたスタンパーをストッカから取り出す取出し手段と、前記取り出したスタンパーの凹部アレイに樹脂ポリマーの溶解液を注入させて該樹脂ポリマーの溶解液で前記凸部アレイを製造する注入手段と、前記凸部アレイが形成された前記樹脂ポリマーの溶解液を乾燥し硬化させる乾燥手段と、前記硬化した樹脂ポリマーの凝固体を前記スタンパーから剥離する剥離手段と、前記剥離された後のスタンパーを前記ストッカに戻す戻し手段と、を備えたことを特徴とする高アスペクト比構造を有する機能性膜の製造装置である。
【0037】
請求項16は、請求項1の方法発明を装置発明にしたものである。
【発明の効果】
【0038】
以上より、本発明における高アスペクト比構造を有する機能性膜の製造方法及び製造装置によれば、低い製造コスト、高い歩留まりという量産化に適した高アスペクト比構造を有する機能性膜の製造方法及び製造装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0039】
以下本発明の実施の形態における高アスペクト比構造を有する機能性膜の一例としてマイクロニードルシートの製造方法及び製造装置について説明する。尚、以下マイクロニードルシートについて記載するが、マイクロニードルシート以外の高アスペクト比構造を有する機能性膜についても本発明を適用することができる。
【0040】
最初に原版作製を行う。具体的には、図1(a)に示すように、マイクロニードルシートの製造のためのスタンパーを作製するための原版を作製するものである。
【0041】
この原版11の作製方法は2種類あり、1番目の方法は、Si基板上にフォトレジストを塗布した後、露光、現像を行い、RIE(リアクティブイオンエッチング)等によるエッチングを行うことにより、原版11の表面に円錐の形状部(凸部)12のアレイを作製する。尚、RIE等のエッチングを行う際には、Si基板を回転させながら斜め方向からのエッチングを行うことにより、円錐の形状を形成することが可能である。
【0042】
2番目の方法は、Ni等の金属基板に、ダイヤモンドバイト等の切削工具を用いた加工により、原版11の表面に四角錐等の形状部12のアレイを形成する方法がある。
【0043】
次に、スタンパー作製を行う。具体的には、図1(b)に示すように、原版11よりスタンパー13を作製する。通常のスタンパー13の作製には、Ni電鋳等による方法が用いられるが、原版11は、先端が鋭角な円錐形又は角錐形の形状を有しているため、スタンパー13に形状が正確に転写され剥離することができるように、安価に製造することが可能な4つの方法が考えられる。
【0044】
1番目の方法は、原版11にPDMS(ポリジメチルシロキサン、例えば、ダウコーニング社製のシルガード184)に硬化剤を添加したシリコーン樹脂を流し込み、100℃で加熱処理し硬化した後に、原版11より剥離する方法である。2番目の方法は、紫外線を照射することにより硬化するUV硬化樹脂を原版11に流し込み、窒素雰囲気中で紫外線を照射した後に、原版11より剥離する方法である。3番目の方法は、ポリススチレンやPMMA(ポリメチルメタクリレート)等のプラスチック樹脂を有機溶剤に溶解させたものを剥離剤の塗布された原版11に流し込み、乾燥させることにより有機溶剤を揮発させて硬化させた後に、原版11より剥離する方法である。4番目の方法は、Ni電鋳により反転品を作成する方法である。
【0045】
このようにして作製されたスタンパー13を図1(c)に示す。尚、上記3つのいずれの方法においてもスタンパー13は、何度でも容易に作製することが可能である。
【0046】
また、以上のように作成したスタンパーから、さらに上記4つの何れかの方法にて、再反転品である、原版の複製品を作製できる。そして、図2(a)に示すように、基板(ガラス板や金属板など)14に、複数の原版複製品11をマトリクス状に並べて貼付け、これを上記4つのいずれかの方法にて、原版の反転形状品を製造することにより、大面積のスタンパーを形成することができる。尚、剛性不足の場合には、大面積のスタンパーに別の基板15を貼付けてもよい。このように原版11、11…を繋ぎ合せてその反転品を製造することにより高アスペクト比構造の部分が複数ある大面積のスタンパー13を作成してもよい。また、同様に、原版11の反転品を複数作製してマトリクス状に繋ぎ合せたものを大面積のスタンパーとしてもよい。
【0047】
このように、スタンパーが、原版の反転品を作製してマトリクス状に繋ぎ合せたもの、又は、原版の複製を繋ぎ合せてその反転品を製造することにより、複数の高アスペクト比構造の部分を1つの大面積のスタンパーにすることができるので、低い製造コスト、高い歩留まりという量産化に適した高アスペクト比構造を有する機能性膜を提供することができる。
【0048】
このように作成された複数枚のスタンパー13、13…は、それを順次1枚ずつ搬送して使用するため、ストッカ20に保管される。
【0049】
本発明は、図3(A)及び図3(B)に示すように、凸部アレイの反転型である凹部アレイが形成されたスタンパー13、13…をスットカ20から取り出す取出し工程30と、取り出したスタンパー13の凹部アレイに樹脂ポリマーの溶解液16を注入させて該樹脂ポリマーの溶解液16で凸部アレイを製造する注入工程40と、凸部アレイが形成された樹脂ポリマーの溶解液16を乾燥し硬化させる乾燥工程50と、硬化した樹脂ポリマーの凝固体をスタンパー13から剥離する剥離工程と、剥離された後のスタンパー13をストッカ20に戻す戻し工程70と、により製造されることを特徴とする。
【0050】
樹脂ポリマーの溶解液16の調整を行う。溶解液16には、投薬する薬品を適量混入させることができる。用いられる樹脂ポリマーは、例えば、ゼラチン、アガロース、ペクチン、ジュランガム、カラギナン、キサンタンガム、アルギン酸、でんぷん等の粉体を温水で溶解することにより作製する。濃度は材料によっても異なるが10〜20〔%〕が好ましい。尚、溶解に用いる溶媒は、温水以外であっても揮発性を有するものであればよく、例えば、アルコール等を用いることも可能である。
【0051】
このような樹脂ポリマーの溶解液16をスタンパー13に注入する具体的な方法は、スピンコーターを用いた塗布が挙げられる。また、大面積のスタンパー13の場合には、溶解液16の注入は、図4に示すように、ディスペンサ18により、スタンパー13の微小針を形成するため凹部にのみに溶解液16を滴下することが考えられる。尚、スタンパー13に形成されている微小針を形成するため凹部には、空気の存在により樹脂ポリマーを溶解した溶液が奥まで入り込まない場合が考えられ、この工程は減圧状態において行うことが望ましい。
【0052】
また、図5に示すように、大面積のスタンパー13の繋ぎ合わせ部分には撥水材料17が設けられていることが好ましい。スタンパー13の繋ぎ合わせ部分に撥水材料17が設けられているので、高アスペクト比構造パターン部に効率良く樹脂ポリマー16が流れ込み、高価な薬品を含んだ樹脂ポリマーを節約できる。
【0053】
次に、図3(A)及び図3(B)に示す高アスペクト比構造が形成された樹脂ポリマーの溶解液16を乾燥し硬化させる乾燥工程50を行う。具体的には、塗布された樹脂ポリマーの溶解液16に温風を吹付けることにより乾燥させる。尚、乾燥が長時間必要な場合は、複数のスタンパー13、13…が同時に乾燥できるように、長い乾燥ラインを設けて、コンベア52で搬送させて乾燥させるとよい(図3(B)参照)。乾燥以外の工程は、短時間で可能であるため、同時に複数のスタンパーを乾燥することで、全体のサイクルタイムを短縮できる。
【0054】
また、乾燥は、例えば、4ゾーンに分けて、(1)15℃でのセット乾燥(低湿、風速4m/sec)、(2)35℃での弱風乾燥(低湿、風速8m/sec)、(3)50℃で強風乾燥(風速12m/sec)、(4)30℃で強風乾燥(風速20m/sec)のように条件に設定することで効率的に乾燥できる。
【0055】
また、塗布された樹脂ポリマーを溶解した溶液をゲル化させることにより、形状を縮小させスタンパー13からの剥離性を高める場合においては、低湿度の冷風を流すことにより樹脂ポリマーを溶解した溶液をゲル化させることができる。この場合では、完全にゲル化させるために10〜15〔℃〕の冷風を上記の場合よりも長時間吹付け、この後、上記と同様に温風を吹付ける。又、この場合において、この後の乾燥させるために高温の温風を流す際には、温風の温度が高すぎると、樹脂ポリマーを溶解した溶液におけるゲル化が戻ってしまったり、薬品によっては加熱により分解等により効能が変化したりするため、吹付ける温風の温度には注意を要する。このように、塗布された樹脂ポリマーを溶解した溶液を乾燥、あるいは、ポリマー溶液をゲル化させた後乾燥させることにより、図3(A)及び図3(B)に示すように、固化する。樹脂ポリマーが固化することにより、樹脂ポリマー溶解液を注入した際の状態よりも縮小し、特に、ゲル化を行う場合は顕著に縮小する。これにより、後述するスタンパー13から樹脂ポリマー16の剥離が容易となる。また、この工程においては、樹脂ポリマーの水分量が低くなりすぎると剥離しにくくなるため、弾力性を維持している状態の水分量を残存させておくことが好ましい。具体的には、樹脂ポリマーを構成する材料にも依存するが、10〜20〔%〕の水分量となったところで、乾燥を停止するか、若しくは、25〔℃〕、相対湿度40〔%〕程度の風を吹付ける。
【0056】
次に、図3(A)及び図3(B)に示す硬化した樹脂ポリマーの凝集体をスタンパー13から剥離する剥離工程60を行う。具体的には、図3(A)に示すように、スタンパー13上で乾燥し固化した樹脂ポリマー16の上に、粘着性の粘着層が形成されているシート状の基材19を付着させた後、端部より基材19をめくるように剥離を行う。このようにして、図3に示すように、マイクロニードルシート16が完成する。
【0057】
硬化した樹脂ポリマーの凝集体をスタンパー13から剥離する剥離工程60は、最も重要な工程である。通常、本実施の形態のように、アスペクト比の高い微小針の構造のものをスタンパー13から剥離する場合では、接触面積が大きいことから、強い応力がかかり、微小針が破壊されスタンパー13から剥離されることなくスタンパー13内に残存し、作製されるマイクロニードルシート16は致命的な欠陥を有するものとなってしまう。この点を踏まえ、本実施の形態においては、スタンパー13を構成する材料は、剥離が非常にしやすい材料により構成することが好ましい。また、スタンパー13を構成する材料を弾性が高く柔らかい材料とすることにより、剥離する際における微小針にかかる応力を緩和することができる。
【0058】
更には、硬化した樹脂ポリマーの凝集体をスタンパー13から剥離する剥離工程60では、図6に示すように、大面積のスタンパー13の繋ぎ合わせ部分には、格子状部材24を通せる溝24が形成されていることが好ましい。図4(b)のように、格子状部材24と粘着剤付き基材19の四隅を同時に引き上げることで、応力の集中を緩和し、剥離時での欠陥発生を抑制できる。
【0059】
尚、樹脂ポリマー16の表面の微小針に残存している水分を蒸発させるために、剥離後に、再度乾燥した風を吹付ける場合もある。具体的には、梱包する直前において、樹脂ポリマー内の水分量を10〔%〕以下、望ましくは5〔%〕以下とした後に梱包することが好ましい。
【0060】
そして、スタンパー13は複数回利用することが可能であることから、剥離工程60後のスタンパー13をストッカ20に戻す。
【0061】
以上説明したように、凸部アレイの反転型である凹部アレイが形成されたスタンパー13、13…をスットカ20から取り出す取出し工程30と、取り出したスタンパー13の凹部アレイに樹脂ポリマーの溶解液16を注入させて該樹脂ポリマーの溶解液16で凸部アレイを製造する注入工程40と、凸部アレイが形成された樹脂ポリマーの溶解液16を乾燥し硬化させる乾燥工程50と、硬化した樹脂ポリマーの凝固体をスタンパー13から剥離する剥離工程と、剥離された後のスタンパー13をストッカ20に戻す戻し工程70と、を繰り返すことにより、複数のマイクロニードルシート16を短時間に低コストで作製することができる。
【0062】
尚、剥離後のスタンパー13をストッカに戻す前に、スタンパーを洗浄することが好ましい。剥離後したスタンパー13を、例えば、UV照射やプラズマ照射など行うことでスタンパー13表面が活性化するので、エアの吹き付けやエアの吸い込みを行うことで効果的にゴミ、塵、樹脂ポリマーの粉などを取り除くことができる。
【0063】
そして、洗浄前後のスタンパー13はCCDカメラなどで外観検査することが好ましい。スタンパー洗浄前の外観検査で、明らかな素材残りがあった場合、信号を送って、その製品部を抜き取る操作を行ない、且つ、スタンパー洗浄後の外観検査で、欠陥があった場合、スタンパーを抜き取り、徹底洗浄(手動)を行なうことが好ましい。尚、経皮吸収シートの場合には、レベルにもよるが、ニードル部に10%程度以下の欠陥率は許容できる。
【0064】
また、スタンパー13から剥離した樹脂ポリマーの凝固体(機能性膜)は、次の工程であるトリミング(切断)工程や包装工程に送られる。機能性膜は、保護シートを重ね合せた後に裁断されて1枚の製品となる。尚、ここで、「保護シート」とは、ニードル構造を保護できるクッション材を含む。粘着層は、手で容易に剥離できることが必要である。
【実施例】
【0065】
本実施の形態における実施例を以下に示す。
【0066】
Cuからなる金属板に、ダイヤモンドバイトによる切削加工を行い、図1(a)における四角錐の形状部12が底面200〔μm〕、高さ400〔μm〕、ピッチ1000〔μm〕である四角錐アレイの形成された原版11を作製した。
【0067】
これを原版11として、Ni電鋳により、図1(c)に示す原版11とは反転形状のスタンパー13を作製する。
【0068】
スタンパー13を複数枚作製し、ストッカ20へ配置させる。
【0069】
ゼラチンを水に溶かし、攪拌し膨潤させた後、40〔℃〕に加熱・溶解させてゼラチン濃度20〔%〕の樹脂ポリマーを溶解した溶液を作製する。保温状態のまま、タンクに保管しておく。
【0070】
ストッカ20からスタンパー13を搬送して、溶解液をスタンパー13表面に塗布する。この際、減圧チャンバー等において、減圧状態において行う。
【0071】
スタンパー13を乾燥ゾーンのコンベアに搬送して、50℃の温風を与えて、30分乾燥させる。
【0072】
この後、図3に示すように粘着層の形成されている厚さ100〔μm〕のPETシート19をスタンパー13上の固化した樹脂ポリマー16に付着させ粘着させた後、端部からめくるように剥離する。
【0073】
スタンパー13はストッカ20へ、剥離した樹脂ポリマー16シートは、次工程(切断、包装)へ搬送される。
【0074】
以上の方法により、効率よく、高精度のマイクロニードルアレイシートを形成でき、量産化にも適していることがわかった。
【0075】
以上、マイクロニードルシートを例に、本発明の高アスペクト比構造を有する機能性膜の製造方法及び製造装置について詳細に説明したが、本発明は、以上の例には限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、各種の改良や変形を行うことが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】本発明に係るマイクロニードルシートの製造方法の工程図(1)
【図2】本発明に係るマイクロニードルシートの製造方法の工程図(2)
【図3(A)】本発明に係るマイクロニードルシートの製造方法の工程図(3)
【図3(B)】本発明に係るマイクロニードルシートの製造方法の工程図(4)
【図4】樹脂ポリマーの注入方法を示す説明図
【図5】樹脂ポリマーの乾燥・硬化を示す説明図
【図6】本発明における剥離する工程を示す説明図
【符号の説明】
【0077】
11…原版(原版複製品)、12…円錐又は角錐の形状部、13…スタンパー、14…基板、15…基板、16…樹脂ポリマー、17…撥水材料、18…ディスペンサ、19…PETシート(基材)、20…ストッカ、30…取出し工程、40…注入工程、50…乾燥工程、52…コンベア、60…剥離工程、70…戻し工程

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に高アスペクト比構造の凸部が複数配列された凸部アレイを有する機能性膜の製造方法において、
前記凸部アレイの反転型である凹部アレイが形成されたスタンパーをストッカから取り出す取出し工程と、
前記取り出したスタンパーの凹部アレイに樹脂ポリマーの溶解液を注入させて該樹脂ポリマーの溶解液で前記凸部アレイを製造する注入工程と、
前記凸部アレイが形成された前記樹脂ポリマーの溶解液を乾燥し硬化させる乾燥工程と、
前記硬化した樹脂ポリマーの凝固体を前記スタンパーから剥離する剥離工程と、
前記剥離された後のスタンパーを前記ストッカに戻す戻し工程と、を備えたことを特徴とする高アスペクト比構造を有する機能性膜の製造方法。
【請求項2】
前記スタンパーは、
前記凸部アレイが形成された原版の反転品を複数マトリックス状に繋ぎ合わせて形成した大面積のスタンパー、若しくは前記原版の複製品を複数マトリックス状に繋ぎ合わせ、その反転品として製造した大面積のスタンパーであることを特徴とする請求項1に記載の高アスペクト比構造を有する機能性膜の製造方法。
【請求項3】
前記大面積のスタンパーのマトリックス状に形成された繋ぎ合わせた部分には、撥水材料が設けられていることを特徴とする請求項2に記載の高アスペクト比構造を有する機能性膜の製造方法。
【請求項4】
前記注入工程において前記大面積のスタンパーに溶解液を注入する場合には、前記マトリックス状に形成された繋ぎ合わせ部分で囲まれた内側領域のみに溶解液を滴下することを特徴とする請求項2又は3に記載の高アスペクト比構造を有する機能性膜の製造方法。
【請求項5】
前記マトリックス状に形成された繋ぎ合わせ部分には、格子状部材を嵌め込むための格子状溝が形成されていることを特徴とする請求項2〜4の何れか1に記載の高アスペクト比構造を有する機能性膜の製造方法。
【請求項6】
前記乾燥工程を減圧乾燥で行うことを特徴とする請求項1〜5の何れか1に記載の高アスペクト比構造を有する機能性膜の製造方法。
【請求項7】
前記乾燥工程では、乾燥ゾーン内に前記スタンパーをコンベア搬送させながら連続的に乾燥するコンベア乾燥を行うことを特徴とする請求項1〜6の何れか1に記載の高アスペクト比構造を有する機能性膜の製造方法。
【請求項8】
前記剥離工程において前記大面積のスタンパーから前記凝固体を剥離する場合には、前記格子状溝に前記格子状部材を嵌め込んだ後、基材シートを前記スタンパーに重ね合わせて接着し、前記格子状部材で前記基材シートを持ち上げることにより前記凝固体を前記スタンパーから剥離することを特徴とする請求項5に記載の高アスペクト比構造を有する機能性膜の製造方法。
【請求項9】
前記基材シートの片面には、予め粘着層が塗布されていることを特徴とする請求項8に記載の高アスペクト比構造を有する機能性膜の製造方法。
【請求項10】
前記スタンパーから剥離した凝固体を再乾燥させることを特徴とする請求項1〜9の何れか1に記載の高アスペクト比構造を有する機能性膜の製造方法。
【請求項11】
前記凝固体を剥離した前記スタンパーを、洗浄して前記ストッカへ戻すことを特徴とする請求項1〜10の何れか1に記載の高アスペクト比構造を有する機能性膜の製造方法。
【請求項12】
前記洗浄は、紫外線照射又はプラズマ照射で洗浄することを特徴とする請求項11に記載の高アスペクト比構造を有する機能性膜の製造方法。
【請求項13】
前記樹脂ポリマーは、水溶性であることを特徴とする請求項1〜12の何れか1に記載の高アスペクト比構造を有する機能性膜の製造方法。
【請求項14】
前記樹脂ポリマーは、生分解性であることを特徴とする請求項1〜13の何れか1に記載の高アスペクト比構造を有する機能性膜の製造方法。
【請求項15】
前記機能性膜は、前記凸部アレイとして微小針アレイが形成されたマイクロニードルシートであることを特徴とする請求項1〜14の何れか1に記載の高アスペクト比構造を有する機能性膜の製造方法。
【請求項16】
表面に高アスペクト比構造の凸部が複数配列された凸部アレイを有する機能性膜の製造装置において、
前記凸部アレイの反転型である凹部アレイが形成されたスタンパーをストッカから取り出す取出し手段と、
前記取り出したスタンパーの凹部アレイに樹脂ポリマーの溶解液を注入させて該樹脂ポリマーの溶解液で前記凸部アレイを製造する注入手段と、
前記凸部アレイが形成された前記樹脂ポリマーの溶解液を乾燥し硬化させる乾燥手段と、
前記硬化した樹脂ポリマーの凝固体を前記スタンパーから剥離する剥離手段と、
前記剥離された後のスタンパーを前記ストッカに戻す戻し手段と、を備えたことを特徴とする高アスペクト比構造を有する機能性膜の製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3(A)】
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【図3(B)】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−245955(P2008−245955A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−91520(P2007−91520)
【出願日】平成19年3月30日(2007.3.30)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】