説明

高エネルギー粒子パルス発生用装置および方法

高エネルギー粒子パルスの発生装置が提供される。この装置は、1018W/cm2より大きく、好ましくは1020W/cm2(ワット/平方センチメートル)より大きなピーク強度に集束されることができる、パルス幅が100fs(フェムト秒)より短いレーザーパルスを発生させるレーザーシステムと、前記少なくとも1パルスのレーザーパルスに付随する時間的強度プロファイルを、レーザーコントラストが105以上、好ましくは107以上、特に1010に高まるように整形する装置と、少なくとも1パルスの前記レーザーパルスが照射されると、高エネルギー粒子パルス、特に電子または陽子パルス、を放出することができるターゲットとを備える。この装置を用いた対応する方法も記載される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、広義には、パルス幅(pulse length, パルス持続時間)が100fs(フェムト秒)より短く、1018W/cm2(ワット/平方センチメートル)より大きなピーク強度に集束させることができるレーザーパルスを発生させるレーザーシステムと、該レーザーパルスの少なくとも1パルスが照射されると高エネルギー粒子パルスを放出することができるターゲットとを用いた、高エネルギー粒子パルスの発生装置および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
薄いターゲットの表面に超高強度の超短レーザーパルスを集束(集光)させると、数百GV/m(ギガボルト/メートル)より大きな非常に強い電界を発生させることができ、この電界はターゲットから粒子、例えば、電子またはイオン、を高エネルギーに加速して、サイクロトロンなどの従来の粒子加速器に比べて非常に短いパルス幅スケールで平行化パルスビーム(collimated and pulsed beam)にすることができる。基本的には、衝突する強力なレーザーパルスに応答して、電子は相対論的エネルギーに加速され、熱膨張および/または動重力的電子放出によりターゲットから射出される。その後、この高エネルギー電子の発生中または発生直後の電荷分離に起因して創出される非常に強力な静電界によりイオン加速が引き起こされる。特に加速陽子が観察された。これらの粒子は、例えばターゲットの前面および/または後面に吸収された不純物あるいは多層ターゲットの陽子の多い外層が起点となる。
【0003】
これらのコンパクトな粒子加速器への関心は、特に医学および/または放射線医学用途の面から近年増大している。一方で、加速された電子または陽子もしくは炭素イオンのような軽イオンは、ガン組織を粒子束に暴露することによってガン治療のための放射線療法に直接利用されることが多い。他方では、高エネルギー粒子は電磁相互作用または核反応を誘導することができる。従って、それらを使用して、短波長の光子、例えば、紫外線もしくはX線を送出し、または核医学、医学的診断または放射線医学における画像化に利用することができる同位体を発生させることができる。
【0004】
米国特許公開2002/0172317には、高エネルギー粒子を発生させ、核反応を誘導する方法および装置が開示されている。この装置は、超短パルス持続時間で高強度のレーザービームを放出するレーザーと、そのレーザービームを受けて平行ビームの高エネルギー粒子を発生する照射ターゲットとを備える。高エネルギー粒子の平行ビームは核を含む第2のターゲットに衝突させて、第2ターゲット内で核反応を誘導してもよい。この米国特許公開2002/0172317の全開示内容を本明細書中に参考のために援用する。
【0005】
一般に、加速粒子のエネルギーはレーザー光強度が増大するほど増大する。しかし、加速粒子のエネルギー収率は制限されることが判明した。これは、レーザーパルスの時間依存性強度構造:メインレーザーパルスにはペデスタル強度、換言すると、パルスの立ち上がり(上昇)エッジ部の前にある前駆強度とパルスの立ち下がり(下降)エッジ部の後に続く後続強度とが付随していこと、に起因する。本質的に一定であるか、メインレーザーパルスに対してゆっくり変動することが多いこのペデスタル強度は、基本的にはレーザーシステムにおける自然放出光子の増幅(増幅自然放出、ASE)により創出される。それはまた、さらなる強度スパイク、グリッチもしくはサイドローブ(例えば、プリパルス)を伝えることもある。メインレーザーパルスが1psより短いのに対し、ペデスタル強度の持続時間は数桁もより長いことがあり、ns(ナノ秒)の時間スケールに達することさえある。相互作用するレーザーパルスのピーク強度をある限度を超えて増大させると、ペデスタル強度の大きさは、メインパルスのピーク強度がターゲットに到達する前にターゲットをイオン化して、実質的なプリプラズマ(密度不足 <under-dense> なプラズマ)を生じるのに十分なものとなることがある。典型的には、このイオン化は1010〜1011W/cm2で始まり、約1013〜1014W/cm2で顕著となる。この場合、相互作用が起こると、粒子を高エネルギーに加速するのを弱めるか損なう別の物理的反応を伴う望ましくない密度不足プラズマの状態になる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
解決すべき技術的課題は、超高強度の超短レーザーパルスが照射されたターゲットでのプリプラズマの発生の影響を低減するか、または発生を回避することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この課題は、請求項1に記載の要件を備えた装置および/または請求項9に記載の要件を備えた方法により解決される。さらなる改善ならびに有利な態様および改良は従属請求項に記載された要件により規定される。
【0008】
本発明によれば、高エネルギー粒子パルスの発生装置が提供される。この装置は、パルス幅が1ps(ピコ秒)より短く、好ましくは100fs(フェムト秒)より短く、かつ1018W/cm2より大きく、好ましくは1020W/cm2(ワット/平方センチメートル)より大きなピーク強度に集束されることができるレーザーパルスを発生させるレーザーシステムと、前記少なくとも1パルスのレーザーパルスに付随する時間的強度プロファイル(例、その直前および/もしくは直後の、またはそれと同伴する、またはそのサイドウイング(サイド翼)を変形させる、ならびに/またはそのパルスの)を、レーザーコントラストを105以上、好ましくは107以上、特に1010、に高めるよう整形(shaping、波形整形)する装置と、前記レーザーパルスの少なくとも1パルスが照射されると、高エネルギー粒子パルス、特に電子または陽子パルス、を放出することができるターゲットとを備える。レーザーコントラストとは、レーザーパルスのペデスタル強度に対するピーク強度の比である。換言すると、本装置は、好ましくはレーザーパルスのピークパワーを変化させずに、レーザーパルスの立ち上がり時間に影響する要素、特にそれを短縮することができる要素、を備えている。有利には、メインレーザーパルス(メインパルス)を持つレーザー出力を整形する。時間的強度プロファイル(temporal intensity profile)を整形する装置は、そのパルスのメインレーザー周波数を本質的に変化させることがないものである。この装置は、レーザーシステムそれ自体の一部とすることができ、あるいはレーザーシステムを出たがターゲットとの相互作用が起こる前のレーザーパルスに作用するように構成してもよい。具体例は、粒子パスを小さなエミッタンスまたは拡散(発散)で示されるように平行化することである。
【0009】
有利には、本装置は、加速粒子、特に電子および陽子の到達可能なエネルギーの増大を生ずる。プリプラズマの発生を避けることができると同時に、相互作用におけるレーザーパルスピーク強度を増大させることができる。ペデスタル強度の存在下で必要なターゲットより薄いターゲットを使用することも可能となる。
【0010】
好適態様において、時間的強度プロファイルを整形する装置は、該レーザーパルスの翼(ウィング)の少なくとも1つ、特に付随するペデスタル強度パルスを構成する翼である該レーザーパルスの立ち上がり翼または立ち上がりエッジ部、の強度を低減させることができる。換言すると、この装置は、特にレーザーパルスのピークパワーを本質的に変化させずに保持しながら、ペデスタルパワーを低減させる非線形フィルターまたは非線形減衰装置を含むことができる。この有利な様式では、ペデスタル強度はターゲットとの相互作用の前に該レーザーパルスから取り除かれる。
【0011】
有利な態様では、時間的強度プロファイルを整形する装置は強度依存性の透過または強度依存性の反射を示す。
高エネルギー粒子パルスを発生させる装置の具体的実現例において、時間的強度プロファイルを整形する装置は、プラズマミラー、非線形サニャック干渉計、非線形偏光回転装置、飽和吸収フィルター、または高速(fast)ポッケルスセル、特に光スイッチ型高速ポッケルスセルを備えることができる。
【0012】
本発明に係る装置の好ましいレーザーシステムは、0.6Jより大きい出力エネルギー、20TWより大、特に100TWより大きい出力パワー、および5Hzより大きく、特に10Hz以上の繰返し周波数を持ち、40fs(フェムト秒)より短く、特に30fsより短く、例えば、25fsのレーザーパルスを発することができる、自己モードロック型のTi:サファイアレーザーのチャープパルス増幅(CPA)設備、特にダブルCPAレーザーシステムである。
【0013】
ターゲットは、ガスジェット、または薄膜水カーテン、または液滴ジェット、または固体金属ドーテッド(metal-doted)プラスチックポリマーとすることができる。ターゲットは真空チャンバー内に配置することができる。具体的にはターゲットの厚みは数ミクロンのオーダー、特に15ミクロン以下とすることができる。薄いターゲットにより、強力な粒子加速を生ずる強い電界を得ることが可能となる。
【0014】
一部の態様では、ターゲットの材質、形状および寸法を、ターゲットが1MeV以上のエネルギーの電子を放出することができるように選択することが好ましい。具体的には、1GeVまでのエネルギーの電子を発生させることができる。
【0015】
別の態様では、レーザーコントラストが106より大きく、特にレーザーピーク強度が1019W/cm2より大きく、そしてターゲットの材質、形状および寸法を、ターゲットが1MeV以上のエネルギーの陽子を放出できるように選択することが好ましい。具体的には、400MeVまでのエネルギーの陽子を発生させることができる。ターゲットは厚みわずか数ミクロンの固体ターゲットとすることができる。
【0016】
例えば、医学および放射線医学分野での可能な用途を考慮して、本発明に係る装置は、前記高エネルギー粒子パルスを整形するための変換装置を含むことができる。この変換装置は、エネルギー分布、伝搬方向、エミッタンス、拡散、フルーエンスまたは角度分布のようなビーム特性を変更するために粒子フィルターおよび/または磁石を含むことができる。
【0017】
高エネルギー粒子パルスを発生させる方法も提供される。この方法においては、パルス幅が1psより短く、好ましくは100fsより短く、かつ1018W/cm2より大きく、好ましくは1020W/cm2より大きなピーク強度に集束されることができるレーザーパルスが発生する。このレーザーパルスの少なくとも1パルスに付随する時間的強度プロファイルを整形して、レーザーコントラストを105以上、好ましくは107以上、特に1010に高める。その後、照射により高エネルギー粒子パルス、特に電子パルスまたは陽子パルスを放出することができるターゲットに前記の整形されたレーザーパルスの少なくとも1パルスを照射する。
【0018】
本発明に係る方法の好適態様においては、少なくとも1パルスのレーザーパルスを真空条件下で前記ターゲットに伝搬する。ターゲット自体での相互作用も真空条件下で行われる。両方の手段が互いに独立して作用し、レーザーパルスの劣化の危険性が有利に低減される。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係る装置および方法は、医学用途、放射線医学用途、放射線生物学用途、放射線化学用途、または物理工学、特に加速器物理学若しくは材料工学における用途に広範かつ有利に使用することができる高エネルギー粒子を提供する。
【0020】
さらなる改良、改善、ならびに有利な態様、特色および特徴は、以下に記載し、添付図面を参照しながらより詳しく説明する。以下の好適態様を示しながらの詳細な説明および具体例は、例示を目的とするものであって、本発明の範囲を不当に制限する意図はない。
【0021】
本発明のさまざまな特色、利点および可能な使用は以下の説明および添付図面からより明らかとなろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
図1には、高エネルギー粒子パルスの発生装置の1好適態様のトポロジー(接続形態)の概要が示されている。レーザーシステム10は、1018W/cm2より大きなピーク強度に集束させることができる、サブピコ秒(ピコ秒未満)の超高強度レーザーパルス列14を放出することができる。レーザーシステム10は、発射されたレーザー光またはレーザー出力の時間的強度プロファイルを整形する装置12を含んでいる。レーザー出力は、有利には急峻な立ち上がりエッジ部(図2も参照)を有するサプピコ秒レーザーパルス14から構成される。光導波路素子、拡散(発散)またはエミッタンス転換素子などから構成しうる送り出し光学系22(図1では単純なミラーにより示されている)が、レーザーパルス14を反応または相互作用部に案内する。レーザーパルスは放物面鏡24によってターゲット16に集束(集光)される。ターゲット16は好ましくは、レーザーパルス14の焦点に、または焦点近傍、例えば、焦点のレイリー範囲内、に配置される。ターゲット16は表面層18を有し、この表面層は吸着された炭化水素、例えば、プロトンに富むか水素に富む材料(微視的な層)と、プロトンに富む材料、例えば、有機ポリマーからなるターゲット16上に受容された層(巨視的な層)のいずれでもよい。レーザーパルス14がターゲット16と相互作用すると、ターゲット16の後面に本質的に垂直に出て行く高度に平行化された(非常に低エミッタンスの)粒子パルス20を生ずる。図1に示した態様はまた、生じた粒子パルス20の伝搬方向、エネルギー分布、フルーエンス、拡散またはエミッタンスのようなパラメータを変化させて、医学または放射線医学用途に使用しうる整形された粒子パルス28にすることができる変換装置26も含んでいる。
【0023】
図2は、レーザーパルス14の時間的プロファイルを整形する装置12が本発明に係る2つの可能な配置でレーザーシステム10と共働することができる仕組みを説明するための図である。図2の上部において、発信器(オシレータ)30、前置増幅器(プリアンプ)32および主増幅器(メインアンプ)34から構成されるレーザーシステム10は、ペデスタル強度38にかぶさったサブピコ秒レーザーパルス14の形態のレーザー出力36を有する。このペデスタル強度38は、時間的強度プロファイルを整形する装置12により除去または抑制することができる。この装置12から出力される結果は、急激またはシャープに立ち上がるエッジを特色とし、本発明で使用可能なクリーンなサブピコ秒レーザーパルス14である。図2の下部では、予備増幅されたシードパルス40を発生するように発信器30と前置増幅器32とが共働する。かかる増幅は、パルスエネルギーをナノジュールからミリジュールレベルに増大させる。レーザーコントラストの劣化の主な寄与は予備増幅段階から始まる。時間的強度プロファイルを整形する装置12は予備増幅されたシードパルス40をサブピコ秒シドパルス42に変換し、このシードパルス42はその後に主増幅器34により増幅されて、本発明で使用可能なサブピコ秒レーザーパルス14になる。
【0024】
図3には本発明に係る装置に使用するレーザーシステムの好適態様のスキームが示されている。このレーザーシステムはいわゆるダブルCPAレーザーシステムである。モード結合型発信器30は、アルゴンイオンレーザーによりポンピングされるチタン:サファイア結晶を備える。発信器30の出力はフェムト秒パルス、具体的にはエネルギーが2nJで繰返し周波数が約88MHzの本質的に15fs長のフェムト秒パルスからなる。発信器30のパルスは、ストレッチャ44において一対の光学回折格子(グレーティング)によりストレッチされ(パルスチャープ)、その後に音響光学変調器を用いて、発信器30およびストレッチャ44を出た高周波パルス列から周波数10Hzの個々のパルスを選択する。その後、本質的に400ps長でエネルギーが約500pJのパルスが8パス(8回通過)の前置増幅器32に入る。前置増幅器32は、周波数が10Hzで、エネルギーが200mJ/パルスの周波数二倍化パルス化Nd:YAGレーザーによりポンピングされる。ストレッチャ44と前置増幅器32とは、偏光子間にポッケルスセルの配置を用いて光学的に隔離される。前置増幅器32の出力は空間フィルター46(無限焦点x4)を通過し、2mJ/パルスのエネルギーを伝える。今度は、10Hzのパルス列が部分的または完全に再圧縮され(コンプレッサ52、パルス脱チャープ)、時間的強度プロファイル(予備増幅後の好ましいトポロジー)を整形する装置12を通過する。上に既に述べたように、予備増幅段階の直後にレーザーコントラストを増大させることが有利である。かかる装置12のより具体的ないくつかの態様は、添付の図4〜7も参照しながら、後で詳述する。
【0025】
装置12の次には第2のストレッチャ44(パルスチャープ)と、主増幅器34とが続く。主増幅器34は、10Hzでエネルギーが1J/パルスの周波数二倍化パルス化Nd:YAGレーザーによりポンピングされる5パスの第1パワー増幅器48から構成される。200mJのエネルギーに増幅されたパルスは空間フィルター46、好ましくは真空空間フィルター(無限焦点x4)を通過し、主増幅器34の4パスの第2パワー増幅器50に入る。第2パワー増幅器50の結晶は温度120Kの低温チャンバーに収容されている。次のようにいくつかの周波数二倍化パルス化Nd:YAGレーザーがこの増幅段階をポンピングする:1.7Jの3個のレーザー、1.5Jの3個のレーザー、そして1.7Jの1個のレーザーを使用する。この配置は400ps長で3.5Jのエネルギーを有するパルスの出力を生ずる。第2の増幅後に、空間フィルター46、好ましくは真空空間フィルター(無限焦点x1)を通過させる。パルスは最終的に一対の光学回折格子を用いて真空圧縮器52で圧縮され(パルス脱チャープ)、25fs長でエネルギーが2.5のパルスに到達する。
【0026】
この時点で、カー(Kerr)レンズ・モードロック方式に基づいた発信器のフェムト秒パルスが9〜10桁にまで達する大きさの非常に高いレーザーコントラストを持つ時間的強度プロファイルを示すことを指摘しておくことは価値がある。自然放出を増幅して、非常に高いレーザーコントラストを損なうか、または劣化させるのは、別のいくつかの増幅段階のレベルである。それにもかかわらず、高エネルギー粒子パルスを発生させるための装置に使用される上記装置では、レーザーパルスピーク強度に到達するために、CPAレーザーシステムを採用する必要がある。
【0027】
さらに、発信器からのシードレーザーパルスを約10μJに直接増幅する時に、このシードパルスをさらなる増幅のためにストレッチ(チャープ)する前に、ナノ秒の時間スケールのペデスタル強度を生ずる増幅自然放出(ASE)を、飽和吸収体を用いた非線形フィルターにより抑制することができる。
【0028】
図4は、時間的強度プロファイルを整形する装置12の有利な1態様として使用される非線形サニャック干渉計54の原理的構成を説明する図面である。光はリング形状の干渉計54を通って光路56上を進んでいる。光はビームスプリッタ58により案内されて干渉計54に入り、2つのミラー60により形成されたリングを通って光路56を両方向に進む。その光路56上で、光は一対のチャープミラー62およびn2物質64、すなわち、強度依存性の光学屈折率を有する物質、を通過する。この配置により、サニャック干渉計の強度依存性の応答または透過を意味する非線形の挙動を達成することができる。すなわち、ペデスタル強度38に重なるサブピコ秒パルス14からなる光は、強度依存性の反射および透過を受ける。ペデスタル強度38の強度レベルの光はペデスタル強度38の反射が起こるようにサニャック・リング干渉計内で干渉を受けるのに対し、干渉計54の有効光路長に影響することができるサブピコ秒パルス14の強度レベルの光は、サブピコ秒パルス14の透過が起こるように干渉を受ける。
【0029】
図5は、時間的強度プロファイルを整形する装置12の別の有利な態様に使用される非線形偏光回転装置を表示する。サブピコ秒パルスとペデスタル強度とを含む入力時間的強度プロファイルは、第1位相板66、集束(フォーカシング)レンズ68、空間フィルター装置として作用するピンホール72、脱集束(デフォーカシング)レンズ74、および第2位相板66を順に通過する。この態様は空気中における誘導非線形複屈折を利用する。すなわち、偏光子74は、サブピコ秒パルス14が第1方向に線形偏光を獲得したのに対し、ペデスタル強度38は第1方向と垂直の第2方向に線形偏光を獲得したことを表している。
【0030】
図6には、高速ポッケルスセルを用いたレーザーパルスの時間的プロファイルを整形する装置12の配置が略図で示されている。光路56を進む光は、ビームスプリッタ58により2つの部分に分離される。第1部分はミラー60で反射され、光スイッチ式ポッケルスセルであるポッケルスセル80の高速スイッチとして作用する光伝導体82に衝突する。第2部分は、その光路を並進方向78内で変えることができる光遅延ライン76を通って進む。光遅延ライン76を出た光はポッケルスセル80内に結合され、光の第1部分が光伝導体82に衝突することにより高速スイッチが閉じている場合には、その偏光方向を回転させてポッケルスセル80を横断し通過する。光スイッチ式ポッケルスセルの反応時間は50ps程度であり、ジッターは2psより短い。このような配置は、部分的または完全に再圧縮された光パルスの時間的プロファイルを整形するのに有利に使用することができる。すなわち、光の第1部分がスイッチを閉じつつあり、光の第2部分がまさにポッケルスセル80に到着している時の事象の慎重な時間の相関関係によって、ポッケルスセル80より下流の偏光子84を通る透過が、ペデスタル強度だけが存在する場合には遮断され、ある強度閾値を超えて、例えば、サブピコ秒パルスが到達すると、偏光子84を通る透過が可能となるように、ポッケルスセル80を動作させ、または動作解除することができる。
【0031】
図7は、時間的プロファイルを整形する装置12の別の態様としてプラズマミラー86を用いた本発明に係る装置の態様に関する。プラズマミラー86は、基本的には透明板から構成されるが、この透明板は、その表面に低光束で衝突すると普通の反射率(フレネル反射に似た)を示し、高光束ではブレークダウンを受けてプラズマになり、結果として増大した反射率を示す。この態様では、レーザーコントラストの増大は、フレネルからプラズマ領域への反射率の増大と本質的に同じ大きさだけ達成することができる。プラズマミラー86上に集束される光が高密度であるほど、誘起プラズマの温度が高くなり、従って反射率が向上する。1つの時間的強度プロファイルを持つある衝突光パルスに対して複数のプラズマミラーを次々に使用すると、レーザーコントラストをさらに一層増大させることができる。プラズマミラー86を使用するための実際的かつ有利な配置を図7に示す。光はミラー60を経て光路56上を進み、プラズマミラー86に光を集束させるオフアクシスの放物面鏡90に達する。プラズマミラー86は、無反射層88で被覆されている。プラズマミラー86がブレークダウンのためにプラズマになると、光は反射されて、オフアクシスの放物面鏡90により集束が解除され、第2のミラー60によりさらに案内される。この配置は有利には真空チャンバー92内に配置される。このような設備の典型的な寸法は、長さが5m、幅が0.4mである。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明に係る装置の1態様のトポロジーの概要図である。
【図2】レーザーパルスの時間的プロファイルを整形する装置がレーザーシステムと一緒に動作することができる方式に関する2つの可能な配置を示す。
【図3】本発明に係る装置に使用されるチャープパルス増幅(CPA)レーザー設備の好適態様のスキームを示す。
【図4】非線形サニャック干渉計の原理的構成を説明する図である。
【図5】本発明に係る装置の1態様に使用される非線形偏光回転装置を示す。
【図6】高速ポッケルスセルを用いたレーザーパルスの時間的プロファイルを整形する装置の配置を示す。
【図7】時間的プロファイルを整形する装置としてプラズマミラーを用いた本発明に係る装置の1態様に関する。
【符号の説明】
【0033】
10:レーザーシステム、12:時間的強度プロファイルを整形する装置、14:サブピコ秒レーザーパルス、16:ターゲット、18:表面層、20:粒子パルス、22:送り出し光学系、24:放物面鏡、26:変換装置、28:整形された粒子パルス、30:発信器、32:前置増幅器、34:主増幅器、36:レーザー出力、38:ペデスタル強度、40:予備増幅されたシードパルス、42:サブピコ秒シードパルス、44:ストレッチャ、46:空間フィルター、48:第1パワー増幅器、50:第2パワー増幅器、52:圧縮器、54:非線形サニャック干渉計、56:光路、58:ビームスプリッタ、60:ミラー、62:一対のチャープ・ミラー、64:n2物質、66:位相板、68:集束レンズ、70:集束解除レンズ、72:ピンホール、74:偏光子、76:光遅延ライン、78:並進方向、80:ポッケルスセル、82:光伝導体、84:偏光子、86:プラズマミラー、88:無反射層、90:オフアクシス放物面鏡、92:真空チャンバー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
−パルス幅が100fsより短く、かつ1018W/cm2より大きなピーク強度に集束されることができるレーザーパルス(14)を発生するレーザーシステム(10)、
−該レーザーパルス(14)の少なくとも1パルスを照射されると高エネルギー粒子パルス(20)を放出することができるターゲット(16)、
を備える高エネルギー粒子パルス(20)の発生装置であって、
−該少なくとも1パルスのレーザーパルス(14)に付随する時間的強度プロファイルを、レーザーコントラストを105以上に高めるように整形する装置(12)を備えることを特徴とする上記発生装置。
【請求項2】
時間的強度プロファイルを整形する装置(12)が該パルスの少なくとも1つの翼(ウイング)の強度を低減させることができることを特徴とする、請求項1に記載の高エネルギー粒子パルス(20)の発生装置。
【請求項3】
時間的強度プロファイルを整形する装置(12)が強度依存性の透過を示すことを特徴とする、請求項1に記載の高エネルギー粒子パルス(20)の発生装置。
【請求項4】
時間的強度プロファイルを整形する装置(12)が、プラズマミラー(86)、非線形サニャック干渉計(54)、非線形偏光回転装置、飽和吸収フィルター、または高速ポッケルスセル(80)を備えることを特徴とする、請求項1に記載の高エネルギー粒子パルス(20)の発生装置。
【請求項5】
レーザーシステム(10)が、0.6Jより大きい出力エネルギー、20TWより大きい出力パワー、および5Hzより大きい繰返し周波数で40fsより短いレーザーパルスを発することができる、自己モードロックのTi:サファイアレーザーのチャープパルス増幅設備であることを特徴とする、請求項1に記載の高エネルギー粒子パルス(20)の発生装置。
【請求項6】
ターゲット(16)が、ガスジェット、または薄膜水カーテン、または液滴ジェット、または固体金属ドーテッドプラスチックポリマーであることを特徴とする、請求項1に記載の高エネルギー粒子パルス(20)の発生装置。
【請求項7】
ターゲット(16)が1MeV以上のエネルギーの電子を放出することができることを特徴とする、請求項1に記載の高エネルギー粒子パルス(20)の発生装置。
【請求項8】
レーザーコントラストが106より大きく、ターゲット(16)が1MeV以上のエネルギーの陽子を放出することができることを特徴とする、請求項1に記載の高エネルギー粒子パルス(20)の発生装置。
【請求項9】
前記高エネルギー粒子パルスを整形するための変換装置(26)を備えることを特徴とする、請求項1に記載の高エネルギー粒子パルス(20)の発生装置。
【請求項10】
−パルス幅が100fsより短く、かつ1018W/cm2より大きなピーク強度に集束されることができるレーザーパルス(14)を発生させ、
−該レーザーパルス(14)の少なくとも1パルスを照射されると高エネルギー粒子パルス(20)を放出することができるターゲット(16)に照射する、
ことを含む高エネルギー粒子パルス(20)の発生方法であって、
−該レーザーパルス(14)の少なくとも1パルスに付随する時間的強度プロファイルを、該ターゲット(16)の照射の前に整形して、レーザーコントラストを105以上に高めることを特徴とする上記方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2008−507084(P2008−507084A)
【公表日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−520922(P2007−520922)
【出願日】平成17年7月13日(2005.7.13)
【国際出願番号】PCT/IB2005/002620
【国際公開番号】WO2006/008655
【国際公開日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【出願人】(505179971)サントル・ナシオナル・ドゥ・ラ・ルシェルシュ・シアンティフィーク(セーエヌエールエス) (18)
【氏名又は名称原語表記】CENTRE NATIONAL DE LA RECHERCHE SCIENTIFIQUE(CNRS)
【出願人】(507012607)エコール・ナシオナル・スペリウール・ドゥ・テクニーク・アバンセ (1)
【氏名又は名称原語表記】ECOLE NATIONAL SUPERIEURE DE TECHNIQUES AVANCEES
【出願人】(503378028)エコール・ポリテクニク(イーピー) (12)
【Fターム(参考)】