説明

高分子電解質並びにその処理方法、耐久性判別方法及び品質管理方法

【課題】高分子電解質の耐久性評価に有用な処理方法であって、長時間の燃料電池運転試験を行う必要がなく簡易であり、かつ燃料電池の運転状態に近い状態を再現可能な高分子電解質の処理方法を提供すること。
【解決手段】本発明はイオン交換基を含む高分子電解質の処理方法であって、高分子電解質に水、鉄イオン及び過酸化水素を共存せしめた後、該高分子電解質の水分量が20重量%以下になるまで該高分子電解質を乾燥させる方法である。また、本発明は鉄イオンを含む水溶液に高分子電解質を浸漬させたのち、該高分子電解質の重量を基準とした水分量が20重量%以下になるまで該高分子電解質を乾燥させる第1処理工程と、第1処理工程における処理を経た高分子電解質を過酸化水素水に浸漬させたのち、該高分子電解質の重量を基準とした水分量が20重量%以下になるまで乾燥させる第2処理工程とを備える処理方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は高分子電解質に関する。また本発明は高分子電解質を加速劣化させるための処理方法並びにこれを利用した耐久性判別方法及び品質管理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
固体高分子形燃料電池(以下、「燃料電池」と略記することがある)は、水素と酸素の化学的反応により発電させる発電装置であり、次世代エネルギーの一つとして電気機器産業や自動車産業等の分野において大きく期待されている。
【0003】
固体高分子形燃料電池は基本的に2つの触媒電極と、電極に挟まれた高分子電解質膜から構成される。燃料である水素は一方の電極でイオン化され、この水素イオン(プロトン)は高分子電解質膜中を拡散した後に他方の電極で酸素と結合する。このとき副反応によって発生する過酸化物(例えば、過酸化水素等)又は該過酸化物からラジカル(例えばヒドロキシラジカル)が発生することが知られている。高分子電解質が前記のような環境下にあるとき、高分子劣化が引き起こされていることが知られている。
【0004】
従来、高分子電解質の耐久性を評価する手法としてフェントン試験が広く利用されてきた。フェントン試験は、過酸化水素に鉄(II)が触媒的に反応して酸化力の強いヒドロキシラジカルを発生させることを利用するものである。具体的には、特許文献1では、100℃の3%過酸化水素水に塩化第二鉄2ppmを添加した水溶液中に膜を浸漬して化学劣化を行っている。非特許文献1では、高分子電解質膜を鉄イオンや銅イオンなどの金属イオンにイオン交換し、100℃の30重量%過酸化水素水に該高分子電解質膜を浸漬して化学劣化を行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−118591号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】「Durability of perfluorinated ionomer membrane against hydrogen peroxide」、Journal of Power Sources、2006年、第158号、p.1222−1228
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、燃料電池の運転状態では、温度が高いため高分子電解質が気相中で劣化すると考えられる。しかし、従来の処理法には高分子電解質を気相中で化学劣化させるものは存在せず、上記の通り試料を液相に浸漬して行っていた。気相と液相では高分子電解質中の水や過酸化水素の拡散挙動が異なるため、従来の処理法は高分子電解質の化学耐久性を判別する方法としては適切ではなかった。
【0008】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであり、高分子電解質の耐久性評価に有用な処理方法であって、長時間の燃料電池運転試験を行う必要がなく簡易であり、かつ燃料電池の運転状態に近い状態を再現可能な高分子電解質の処理方法、並びに、これを利用した耐久性判別方法及び品質管理方法を提供することを目的とする。また本発明は、優れた耐久性を有する高分子電解質膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するべく、燃料電池の運転状態と類似した環境下で高分子電解質を加速劣化させる方法について鋭意検討を重ねた。その結果、高分子電解質の試料に鉄イオンを吸着させるとともに過酸化水素水で膨潤させた後、試料を気相中で加熱すると、長時間の燃料電池運転試験を実際に行なった場合と同様に高分子電解質の親水性を有する部分が優先的に劣化することを見出し、本発明に至った。
【0010】
すなわち、本発明は、イオン交換基を含む高分子電解質の処理方法であって、高分子電解質に水、鉄イオン及び過酸化水素を共存せしめた後、該高分子電解質の重量を基準とした水分量が20重量%以下になるまで該高分子電解質を乾燥させる方法を提供する。この処理方法によれば、気相中でフェントン反応を生じさせることで燃料電池内において高分子電解質が曝される環境に類似した条件下で劣化が進行する。これにより、長時間の燃料電池運転試験を実際に行なった場合と同様の結果を短時間で安全に得ることができる。
【0011】
また本発明は、イオン交換基を含む高分子電解質の処理方法であって、鉄イオンを含む水溶液に高分子電解質を浸漬させたのち、該高分子電解質を水溶液から取り出し、該高分子電解質の重量を基準とした水分量が20重量%以下になるまで該高分子電解質を乾燥させる第1処理工程と、第1処理工程を経た高分子電解質を過酸化水素水に浸漬させたのち、該高分子電解質を過酸化水素水から取り出し、該高分子電解質の重量を基準とした水分量が20重量%以下になるまで乾燥させる第2処理工程とを備える方法を提供する。
【0012】
上記処理方法によれば、長時間の燃料電池運転試験を実際に行なった場合と同様の結果を短時間で安全に得ることができる。この処理方法は過酸化水素水に高分子電解質を浸漬させた後に気相中で乾燥させるため、燃料電池内において高分子電解質が曝される環境に類似した条件下で劣化が進行する。
【0013】
本発明においては、高分子電解質に含まれるイオン交換基の個数を100とすると、第1処理工程後において高分子電解質に含まれる鉄イオンの個数が1〜50であることが好ましい。鉄イオンを含む水溶液の濃度や浸漬時間を調整して高分子電解質中の鉄イオンの存在量を制御することで、燃料電池の運転状態と類似した種々の条件下にて劣化処理を行うことができる。
【0014】
本発明は、イオン交換基を含む高分子電解質の耐久性を判別する方法であって、高分子電解質の分子量を測定する第1測定工程と、鉄イオンを含む水溶液に高分子電解質を浸漬させたのち、該高分子電解質を水溶液から取り出し、該高分子電解質の重量を基準とした水分量が20重量%以下になるまで該高分子電解質を乾燥させる第1処理工程と、第1処理工程を経た高分子電解質を過酸化水素水に浸漬させたのち、該高分子電解質を過酸化水素水から取り出し、該高分子電解質の重量を基準とした水分量が20重量%以下になるまで乾燥させる第2処理工程と、第2処理工程を経た高分子電解質の分子量を測定する第2測定工程とを備える方法を提供する。
【0015】
本発明の耐久性判別方法は、上述の処理方法によって高分子電解質を劣化させるため、長時間の燃料電池運転試験を実際に行なった場合と同様の結果を短時間で安全に得ることができる。この判定方法は高分子電解質の分子量を測定する第1及び第2の測定工程を備えるため、分子量の変化を耐久性の判断基準とすることができる。
【0016】
本発明の耐久性判断方法によって複数の高分子電解質の耐久性を判別する場合、高分子電解質に含まれるイオン交換基の個数と第1処理工程後の高分子電解質に含まれる鉄イオンの個数との比率が各高分子電解質について一定となるように第1処理工程を実施することが好ましい。上記比率を一定にして複数の高分子電解質の化学劣化させることにより、高分子電解質の化学構造の耐久性を比較検討することが可能となる。
【0017】
本発明の耐久性判断方法によって複数の高分子電解質の耐久性を判別する場合、高分子電解質の重量と第1処理工程後の高分子電解質に含まれる鉄イオンの重量との比率が各高分子電解質について一定となるように第1処理工程を実施してもよい。上記比率を一定にして複数の高分子電解質の化学劣化させることにより、外部から一定の割合で劣化因子が供給される場合を想定した判定が可能となる。
【0018】
高分子電解質がイオン交換基を有するブロックと、イオン交換基を実質的に有しないブロックとを有する共重合体を含むものである場合、第1測定工程及び第2測定工程においてイオン交換基を有するブロックの分子量の測定を行うことが好ましい。イオン交換基を有するブロックの分子量測定を行うことで、イオン交換基を有するブロック及びその他の部分(疎水性ブロック)の劣化の程度をそれぞれ評価することもできる。
【0019】
本発明は、イオン交換基を含む高分子電解質の品質を管理する方法であって、高分子電解質の分子量を測定する第1測定工程と、鉄イオンを含む水溶液に高分子電解質を浸漬させたのち、該高分子電解質を水溶液から取り出し、該高分子電解質の重量を基準とした水分量が20重量%以下になるまで該高分子電解質を乾燥させる第1処理工程と、第1処理工程を経た高分子電解質を過酸化水素水に浸漬させたのち、該高分子電解質を過酸化水素水から取り出し、該高分子電解質の重量を基準とした水分量が20重量%以下になるまで乾燥させる第2処理工程と、第2処理工程を経た高分子電解質の分子量を測定する第2測定工程とを備える方法を提供する。
【0020】
上記品質管理方法によれば、第1処理工程及び第2処理工程からなる一連の劣化処理による分子量の変化の小さいものが化学耐久性に優れた高分子電解質であると判断することができ、この分子量変化の程度を品質管理の基準とすることができる。
【0021】
本発明に係る品質管理方法によって複数の高分子電解質の品質を管理する場合、上述の耐久性判断方法と同様、高分子電解質に含まれるイオン交換基の個数と鉄イオンの個数との比率が各高分子電解質について一定となるように、あるいは、高分子電解質の重量と鉄イオンの重量との比率が各高分子電解質について一定となるように第1処理工程を実施することが好ましい。また、高分子電解質がイオン交換基を有するブロックと、イオン交換基を実質的に有しないブロックとを有する共重合体を含むものである場合、第1測定工程及び第2測定工程においてイオン交換基を有するブロックの分子量の測定を行うことが好ましい。
【0022】
本発明は、イオン交換基を有するブロックと、イオン交換基を実質的に有しないブロックとを含むブロック共重合体を含む高分子電解質膜であって、下記式(a)で表される条件を満たすことを特徴とする高分子電解質膜を提供する。
【数1】


式中、Mは下記工程(1)及び工程(2)による処理を経た後の上記イオン交換基を有するブロックの平均分子量を示し、Mは下記工程(1)による処理がなされる前の上記イオン交換基を有するブロックの平均分子量を示す。
(1)高分子電解質膜に鉄イオンを吸着させる工程であって、鉄イオンを含む水溶液に高分子電解質膜を浸漬させたのち、水溶液から取り出した該高分子電解質膜を温度25℃圧力10hPa以下の条件下で1時間以上にわたって乾燥させて該高分子電解質膜の重量を基準とした水分量を10重量%以下にするとともに該高分子電解質膜に含まれるイオン交換基の個数100に対して当該工程後において該高分子電解質膜に含まれる鉄イオンの個数を8〜12に調整する工程;
(2)上記(1)の処理を経た高分子電解質膜を劣化させる工程であって、0〜30℃の範囲にある3重量%過酸化水素水に該高分子電解質膜を浸漬させたのち、過酸化水素水から取り出した高分子電解質膜を50℃の空気中に20分以上静置し、該高分子電解質膜の重量を基準とした水分量が20重量%以下になるまで乾燥させる工程。
【0023】
上記式(a)で表される条件を満たす高分子電解質膜は、優れた化学耐久性を有する。このため、該高分子電解質膜を具備する燃料電池は長期にわたって十分に高い性能を発揮し得る。
【0024】
本発明の高分子電解質膜においては、ブロック共重合体がイオン交換基を有するブロックとイオン交換基を実質的に有しないブロックとを含む芳香族系ブロック共重合体であることが好ましい。また、イオン交換基を有するブロックは、ホスホン基、カルボキシル基、スルホ基及びスルホンイミド基からなる群から選ばれる1種類以上のイオン交換基を有することが好ましい。なお、本発明において、「ブロック共重合体」とは、化学的に性質の異なる2種以上のポリマーが共有結合でつながり、長い連鎖になった分子構造のものをいう。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、長時間の燃料電池運転試験を行うことなく、簡易に、かつ燃料電池の運転状態に近い状態で高分子電解質の耐久性を評価することができる。また、本発明によれば、化学耐久性が十分に高い高分子電解質膜が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】処理方法1−5による処理がそれぞれ施された高分子電解質の分子量維持率を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
[高分子電解質の処理方法]
まず、イオン交換基を含む高分子電解質の化学耐久性を短時間で評価するのに有用な処理方法について説明する。この処理方法は、高分子電解質に水、鉄イオン及び過酸化水素を共存せしめた後、該高分子電解質の重量を基準とした水分量が20重量%以下になるまで該高分子電解質を乾燥させるものである。高分子電解質の乾燥は、例えば気相中において高分子電解質を加熱することによって行うことができる。
【0028】
本実施形態に係る処理方法は、鉄イオンを含む水溶液に高分子電解質を浸漬させたのち、該高分子電解質を水溶液から取り出し、該高分子電解質の重量を基準とした水分量が20重量%以下になるまで該高分子電解質を乾燥させる第1処理工程と、第1処理工程を経た高分子電解質を過酸化水素水に浸漬させたのち、該高分子電解質を過酸化水素水から取り出し、該高分子電解質の重量を基準とした水分量が20重量%以下になるまで乾燥させる第2処理工程とを備える。
【0029】
第1処理工程において使用する溶液は、鉄イオンが含むものであれば特に限定されず、鉄イオン以外の陽イオンを1種または2種以上含む溶液、種々の陰イオンを含む溶液であってもよい。鉄イオンとしては、2価の鉄イオンであっても、3価の鉄イオンであってもよいが2価の鉄イオンが好ましく、溶液として塩化鉄(II)溶液を用いることが特に好ましい。溶媒は溶液中で鉄イオンとして存在するのであれば特に限定されず、水を含むことが好ましい。
【0030】
なお、上記の第1処理工程においては、鉄イオンを含む水溶液に高分子電解質を浸漬する方法を例示したが、高分子電解質に鉄イオンを含む水溶液がしみとおる方法であれば、これに限定されない。例えば、高分子電解質に対して鉄イオンを含む水溶液を滴下する方法を採用してもよいし、高分子電解質に対して該水溶液を吹き付ける方法を採用してもよい。鉄イオンを膜中にとどめる観点から、高分子電解質に対して鉄イオンを含む水溶液を滴下する方法がより好ましい。
【0031】
鉄イオンを含む水溶液に高分子電解質を浸漬する時間は、高分子電解質に吸着させるべき鉄イオンの量に応じて適宜設定すればよいが、好ましくは24時間以内であり、特に好ましくは2時間以内である。
【0032】
第1処理工程における高分子電解質の乾燥方法は、水分量が規定値以下に至る手法であれば特に限定されず、大気中での乾燥、窒素やアルゴンなどの不活性気体中での乾燥、大気圧以下での減圧乾燥などを適用できる。これらのうち、特に好ましい乾燥方法は10hPa以下での減圧乾燥である。高分子電解質の重量を基準とした水分量が20重量%以下になるまで高分子電解質を乾燥させるが、作業効率及び消費エネルギー等の観点から、第1処理工程後の水分量は好ましくは0〜15重量%であり、より好ましくは0〜10重量%である。
【0033】
第1処理工程を実施するにあたり、該工程後における高分子電解質中の鉄イオン濃度が所定の範囲内となるように制御することが好ましい。すなわち、高分子電解質に吸着させる鉄イオンの個数は、該高分子電解質に含まれるイオン交換基の個数100に対して0.5〜50であることが好ましく、さらに好ましくは0.5〜40であり、特に好ましくは0.5〜30である。なお、高分子電解質中に存在する鉄イオンの個数は、例えば誘導結合プラズマ発光分析装置による測定結果に基づいて算出でき、イオン交換基の個数はイオン交換容量の測定結果に基づいて算出できる。
【0034】
第2処理工程において使用する過酸化水素水は過酸化水素を含む水溶液であればよく、その他のイオン、有機物を含む水溶液であってもよい。過酸化水素水の濃度は、フェントン反応が起こる条件であれば特に限定されないが、安全性、試験時間の観点から、好ましくは0.001重量%以上30%重量%以下であり、さらに好ましくは0.1重量%以上5重量%以下である。過酸化水素水に高分子電解質を浸漬する時間は、鉄イオンの膜中での拡散を抑制する観点から、好ましくは1分〜24時間であり、特に好ましくは10〜120分である。過酸化水素水に高分子電解質を浸漬する温度は、膜浸漬時におけるフェントン反応を抑制する観点から、好ましくは0〜30℃であり、特に好ましくは0〜20℃である。
【0035】
なお、上記の第2処理工程においては、過酸化水素を含む水溶液に高分子電解質を浸漬する方法を例示したが、高分子電解質に過酸化水素を含む水溶液がしみとおる方法であれば、これに限定されない。例えば、高分子電解質に対して過酸化水素を含む水溶液を滴下する方法を採用してもよいし、高分子電解質に対して該水溶液を吹き付ける方法を採用してもよい。過酸化水素を膜中にとどめる観点から、高分子電解質に対して過酸化水素を含む水溶液を滴下する方法がより好ましい。
【0036】
第2処理工程における高分子電解質の乾燥方法は、水分量が規定値以下に至る手法であれば、大気中の静置による自然乾燥、大気圧以下での減圧乾燥などを適用できる。これらのうち、鉄と過酸化水素との反応性の観点から、大気中の静置による乾燥が好ましい。乾燥温度は、鉄と過酸化水素の反応性の観点から、40℃以上であることが好ましく、ヒドロキシラジカルと高分子電解質の反応性の観点から、高分子電解質の熱分解温度以下であることが好ましい。
【0037】
高分子電解質の重量を基準とした水分量が20重量%以下になるまで高分子電解質を乾燥させるが、作業効率及び消費エネルギー等の観点から、第2処理工程後の水分量は好ましくは0〜15重量%であり、より好ましくは0〜10重量%である。乾燥時間は、水分量が規定値以下至る時間であれば、特に限定されず好適に適用され、作業効率の観点から、24時間以下が好ましく、1時間以下がさらに好ましい。
【0038】
[高分子電解質膜]
次に、本発明に係る高分子電解質膜について説明する。該高分子電解質膜は、優れた化学耐久性を有し、下記式(a)で表される条件を満たすものである。
【数2】


式中、Mは下記工程(1)及び工程(2)による処理後の上記イオン交換基を有するブロックの平均分子量を示し、Mは下記工程(1)による処理がなされる前の上記イオン交換基を有するブロックの平均分子量を示す;
(1)高分子電解質膜に鉄イオンを吸着させる工程であって、鉄イオンを含む水溶液に高分子電解質膜を浸漬させたのち、水溶液から取り出した該高分子電解質膜を温度25℃圧力10hPa以下の条件下で1時間以上にわたって乾燥させて該高分子電解質膜の重量を基準とした水分量を10重量%以下にするとともに該高分子電解質膜に含まれるイオン交換基の個数100に対して当該工程後において該高分子電解質膜に含まれる鉄イオンの個数を8〜12に調整する工程;
(2)上記(1)の処理を経た高分子電解質膜を劣化させる工程であって、3重量%過酸化水素水に該高分子電解質膜を浸漬させたのち、過酸化水素水から取り出した高分子電解質膜を50℃の空気中に20分以上静置し、該高分子電解質膜の重量を基準とした水分量が20重量%以下になるまで乾燥させる工程。
【0039】
なお、イオン交換基を有するブロックの平均分子量を測定する方法として、ポリスチレン換算数平均分子量を測定する方法が挙げられ、例えば、特開2008−031452号公報に記載の方法を用いることができる。
【0040】
上記高分子電解質膜をなす高分子電解質としては、イオン交換基を有するものであれば特に限定されず、フッ素系高分子電解質及び/又は炭化水素系高分子電解質を単独または2種以上組み合わせて用いることができる高分子電解質があげられる。より具体的には、イオン交換基を有するブロックとイオン交換基を実質的に有しないブロックと有しており、膜の形態に転化したときに、イオン交換基を有する部位が主に凝集している領域と実質的にイオン交換基を有しない部位が主に凝集している領域との少なくとも2相にミクロ相分離構造を発現し得るものがあげられる。
【0041】
2相以上にミクロ相分離する高分子電解質として、例えば主鎖又は側鎖に芳香族基を有しイオン交換基を有するブロックと主鎖又は側鎖に芳香族基を有しイオン交換基を実質的に有しないブロックを含む芳香族系ブロック共重合体が挙げられる。なお、本発明において「主鎖」とは、重合体を形成する最も長い鎖のことをいう。この鎖は共有結合により相互に結合した炭素原子から構成されていて、その際、この鎖は、窒素原子、酸素原子等により中断されていてもよい。
【0042】
上記ブロック共重合体のイオン交換基を実質的に有しないブロックの鎖長は、劣化後の水に対する溶出性の観点から短いものが好適に適用される。疎水性を有するブロックの数平均重合度が200以下であることが好ましく、さらに好ましくは100以下であり、特に好ましくは50以下である。
【0043】
該芳香族基としては例えば、1,3−フェニレン基、1,4−フェニレン基等の2価の単環性芳香族基、1,3−ナフタレンジイル基、1,4−ナフタレンジイル基、1,5−ナフタレンジイル基、1,6−ナフタレンジイル基、1,7−ナフタレンジイル基、2,6−ナフタレンジイル基、2,7−ナフタレンジイル基等の2価の縮環系芳香族基、ピリジンジイル基、キノキサリンジイル基、チオフェンジイル基等の2価の芳香族複素環基等が挙げられる。
【0044】
本発明に好適に適用できる高分子電解質は、該芳香族基を主鎖に有していても側鎖に有してもよいが、電解質膜の安定性の観点から、主鎖に有していることが好ましい。該芳香族基を主鎖に有している場合は、芳香環に含まれる炭素、あるいは窒素原子が共有結合することにより高分子主鎖を形成していても、芳香環以外の炭素、あるいはホウ素、酸素、窒素、ケイ素、硫黄、リンなどを介して高分子主鎖を形成していてもよいが、高分子電解質膜の耐水性の観点から、芳香環に含まれる炭素、あるいは窒素原子が共有結合することにより高分子主鎖を形成している、あるいは芳香族基をスルホン基(−SO−)、カルボニル基(−CO−)、エーテル基(−O−)、アミド基(−NH−CO−)、式(A)に示すイミド基を介して高分子鎖を形成している高分子が望ましい。また、イオン交換基を有するブロックとイオン交換基を実質的に有しないブロックとで同じ種類の高分子主鎖を用いてもよいし、異なる種類の高分子鎖を用いてもよい。
【化1】


としては、アルキル基、アリール基等があげられる。
【0045】
ここで、「イオン交換基」とは、高分子電解質を膜にして用いたとき、イオン伝導、特にプロトン伝導に係る基であり、「イオン交換基を有する」とは繰り返し単位当たり有しているイオン交換基が、概ね平均0.5個以上であることを意味し、「イオン交換基を実質的に有しない」とは繰り返し単位あたり有しているイオン交換基が概ね平均0.1個以下であることを意味する。このイオン交換基は、カチオン交換基(以下、酸性基と呼ぶことがある)、アニオン交換基(以下、塩基性基と呼ぶことがある)のどちらでもよい。
【0046】
該酸性基としては、弱酸、強酸、超強酸等の酸性基が挙げられるが、強酸基、超強酸基が好ましい。酸性基の例としては、例えば、ホスホン基、カルボキシル基等の弱酸基;スルホ基、スルホンイミド基(−SO−NH−SO−R。ここでRはアルキル基、アリール基等の一価の置換基を表す。)等の強酸基が挙げられ、中でも、強酸基であるスルホ基、スルホンイミド基が好ましく使用される。また、フッ素原子等の電子吸引性基で該芳香環および/またはスルホンイミド基の置換基(−R)上の水素原子を置換することにより、フッ素原子等の電子吸引性基の効果で前記の強酸基を超強酸基として機能させることも好ましい。
【0047】
これらのイオン交換基は、単独で用いてもよく、あるいは2種類以上を同時に用いてもよい。2種類以上のイオン交換基を用いる場合は、限定されないが異なるイオン交換基を持つ高分子をブレンドしてもよいし、共重合などの方法で高分子中に2種類以上のイオン交換基を有する高分子を用いてもよい。また、イオン交換基は部分的にあるいは全てが、金属イオンや4級アンモニウムイオンなどで交換されて塩を形成していても良いが、燃料電池用高分子電解質膜などとして使用する際には、実質的に全てが塩を形成していない状態であることが好ましい。
【0048】
アリール基としては、例えばフェニル基、ナフチル基、フェナントレニル基、アントラセニル基等のアリール基、及びこれらの基にフッ素原子、ヒドロキシル基、ニトリル基、アミノ基、メトキシ基、エトキシ基、イソプロピルオキシ基、フェニル基、ナフチル基、フェノキシ基、ナフチルオキシ基等が置換されたアリール基等が挙げられる。
【0049】
本発明の処理方法を好適に適用できる高分子電解質の形態として、形状は塊状であっても膜状であっても特に制限無く好適に適用され、劣化の均一性の観点から膜状であることがさらに好ましい。また、高分子電解質に、1種以上の低分子、高分子が混合されていても好適に適用される。
【0050】
本発明で用いられる共重合体に係る、イオン交換基を有するブロックとしては、下記式(1)で表されるブロックが好適である。さらに、式(1)で表されるブロックと他の繰返し構造との共重合ブロックであって、繰返し単位当たりのイオン交換基数で計算して、平均0.5個以上有するものでもよい。他の繰返し構造との共重合ブロックの場合、式(1)で表されるブロックの含有率は、50モル%〜100モル%が好ましく、70モル%〜100モル%であると燃料電池用の高分子電解質として、プロトン伝導度が十分であるので特に好ましい。
【化2】


(式中、mは5以上の整数を表し、Ar1は2価の芳香族基を表し、ここで2価の芳香族基は、フッ素原子、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルコキシ基、置換基を有していてもよい炭素数6〜20のアリール基、置換基を有していてもよい炭素数6〜20のアリールオキシ基または置換基を有していてもよい炭素数2〜20のアシル基を置換基として有していてもよい。Ar1は主鎖を構成する芳香環に、少なくとも一つのイオン交換基が直接結合する。)
【0051】
式(1)におけるmは5以上の整数を表し、5〜1000の範囲が好ましく、さらに好ましくは10〜1000であり、特に好ましくは20〜500である。mの値が5以上であると、燃料電池用の高分子電解質として、プロトン伝導度が十分であるので好ましい。mの値が1000以下であれば、製造がより容易であるので好ましい。
また、イオン交換基を有するブロックが他の繰返し構造との共重合ブロックの場合、該共重合ブロックの中に、上記式(1)で表されるブロックを含むものである。
【0052】
上記式(1)におけるAr1は、2価の芳香族基を表す。該2価の芳香族基としては、例えば、1,3−フェニレン基、1,4−フェニレン基等の2価の単環性芳香族基、1,3−ナフタレンジイル基、1,4−ナフタレンジイル基、1,5−ナフタレンジイル基、1,6−ナフタレンジイル基、1,7−ナフタレンジイル基、2,6−ナフタレンジイル基、2,7−ナフタレンジイル基等の2価の縮環系芳香族基、ピリジンジイル基、キノキサリンジイル基、チオフェンジイル基等の2価の芳香族複素環基等が挙げられる。好ましくは2価の単環性芳香族基である。
【0053】
式(1)におけるArは、イオン交換基を有するものであり、主鎖を構成する芳香環に少なくとも一つのイオン交換基が直接結合したものであることが好ましい。
また、Ar1は、フッ素原子、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルコキシ基、置換基を有していてもよい炭素数6〜20のアリール基、置換基を有していてもよい炭素数6〜20のアリールオキシ基または置換基を有していてもよい炭素数2〜20のアシル基を置換として有していてもよい。
【0054】
ここで、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、イソブチル基、n−ペンチル基、2,2−ジメチルプロピル基、シクロペンチル基、n−ヘキシル基、シクロヘキシル基、2−メチルペンチル基、2−エチルヘキシル基、ノニル基、ドデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基、イコシル基等の炭素数1〜20のアルキル基、及びこれらの基が有する水素原子の少なくとも1個が、フッ素原子、ヒドロキシル基、ニトリル基、アミノ基、メトキシ基、エトキシ基、イソプロピルオキシ基、フェニル基、ナフチル基、フェノキシ基、ナフチルオキシ基等からなる群から選ばれる置換基に置換され、その総炭素数が20以下であるアルキル基等が挙げられる。
【0055】
また、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルコキシ基としては、例えばメトキシ基、エトキシ基、n−プロピルオキシ基、イソプロピルオキシ基、n−ブチルオキシ基、sec−ブチルオキシ基、tert−ブチルオキシ基、イソブチルオキシ基、n−ペンチルオキシ基、2,2−ジメチルプロピルオキシ基、シクロペンチルオキシ基、n−ヘキシルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基、2−メチルペンチルオキシ基、2−エチルヘキシルオキシ基、ドデシルオキシ基、ヘキサデシルオキシ基、イコシルオキシ基等の炭素数1〜20のアルコキシ基、及びこれらの基が有する水素原子の少なくとも1個が、フッ素原子、ヒドロキシル基、ニトリル基、アミノ基、メトキシ基、エトキシ基、イソプロピルオキシ基、フェニル基、ナフチル基、フェノキシ基、ナフチルオキシ基等からなる群から選ばれる置換基に置換され、その総炭素数が20以下であるアルコキシ基等が挙げられる。
【0056】
置換基を有していてもよい炭素数6〜20のアリール基としては、例えばフェニル基、ナフチル基、フェナントレニル基、アントラセニル基等のアリール基、及びこれらの基が有する水素原子の少なくとも1個が、フッ素原子、ヒドロキシル基、ニトリル基、アミノ基、メトキシ基、エトキシ基、イソプロピルオキシ基、フェニル基、ナフチル基、フェノキシ基、ナフチルオキシ基等からなる群から選ばれる置換基に置換され、その総炭素数が20以下であるアリール基等が挙げられる。
【0057】
置換基を有していてもよい炭素数6〜20のアリールオキシ基としては、例えばフェノキシ基、ナフチルオキシ基、フェナントレニルオキシ基、アントラセニルオキシ基等のアリールオキシ基、及びこれらの基が有する水素原子の少なくとも1個が、フッ素原子、ヒドロキシル基、ニトリル基、アミノ基、メトキシ基、エトキシ基、イソプロピルオキシ基、フェニル基、ナフチル基、フェノキシ基、ナフチルオキシ基等からなる群から選ばれる置換基に置換され、その総炭素数が20以下であるアリールオキシ基等が挙げられる。
【0058】
置換基を有していてもよい炭素数2〜20のアシル基としては、例えばアセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、イソブチリル基、ベンゾイル基、1−ナフトイル基、2−ナフトイル基等の炭素数2〜20のアシル基、及びこれらの基が有する水素原子の少なくとも1個が、フッ素原子、ヒドロキシル基、ニトリル基、アミノ基、メトキシ基、エトキシ基、イソプロピルオキシ基、フェニル基、ナフチル基、フェノキシ基、ナフチルオキシ基等からなる群から選ばれる置換基に置換され、その総炭素数が20以下であるアシル基が挙げられる。
【0059】
Ar1は、主鎖を構成する芳香環に少なくとも一つのイオン交換基を有する。イオン交換基としては、酸基が通常使用される。該酸基としては、弱酸、強酸、超強酸等の酸基が挙げられるが、強酸基、超強酸基が好ましい。酸基の例としては、例えば、ホスホン基、カルボン酸基等の弱酸基;スルホ基、スルホンイミド基(−SO−NH−SO−R。ここでRはアルキル基、アリール基等の一価の置換基を表す。)等の強酸基が挙げられ、中でも、強酸基であるスルホ基、スルホンイミド基が好ましく使用される。また、フッ素原子等の電子吸引性基で該芳香環および/またはスルホンイミド基の置換基(−R)上の水素原子を置換することにより、フッ素原子等の電子吸引性基の効果で前記の強酸基を超強酸基として機能させることも好ましい。
【0060】
これらのイオン交換基は、部分的にあるいは全てが、金属イオンや4級アンモニウムイオンなどで交換されて塩を形成していても良いが、燃料電池用高分子電解質膜などとして使用する際には、実質的に全てが遊離酸の状態であることが好ましい。
【0061】
上記式(1)で示される構造単位の好ましい例としては、下記式(3)で表される構造単位が挙げられる。このような、構造単位を有するブロックは、後述する該ブロックの製造において、市場から容易に入手できる原料を用いることができるため、好ましい。
【化3】


(式中、mは前記と同等の定義である。Rは、同一あるいは異なり、Rは、フッ素原子、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルコキシ基、置換基を有していてもよい炭素数6〜20のアリール基、置換基を有していてもよい炭素数6〜20のアリールオキシ基または置換基を有していてもよい炭素数2〜20のアシル基から選ばれる置換基を表す。pは0以上3以下の整数である。)
ここで、Rは上記Arの置換基として例示した、アルキル基、アルコキシ基、アリール基またはアシル基から選ばれ、後述の重合反応において、その反応を阻害しない基である。その置換基の数pは、0または1であると好ましく、特に好ましくはpが0、すなわち置換基を有しない繰返し単位である。
【0062】
次に、本発明で用いられる共重合体におけるイオン交換基を実質的に有しないブロックについて説明する。イオン交換基を実質的に有しないブロックは、上記のように、その繰返し単位当たりで計算してイオン交換基が0.1個以下であるものであり、繰返し単位当たりのイオン交換基が0、すなわちイオン交換基が実質的に皆無であると特に好ましい。
【0063】
該イオン交換基を実質的に有しないブロックとして、下記式(2)で表される構造単位を含むブロックが好ましい。
【化4】


(式中、a、b、cは互いに独立に0か1を表し、nは5以上の整数を表す。Ar、Ar、Ar、Arは互いに独立に2価の芳香族基を表し、ここでこれらの2価の芳香族基は、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルコキシ基、置換基を有していてもよい炭素数6〜20のアリール基、置換基を有していてもよい炭素数6〜20のアリールオキシ基または置換基を有していてもよい炭素数2〜20のアシル基を置換基として有していてもよい。X、X’は、互いに独立に直接結合または2価の基を表す。Y、Y’は、互いに独立に酸素原子または硫黄原子を表す。)
ここで、式(2)におけるa、b、cは互いに独立に0か1を表す。nは5以上の整数を表し、5〜200であると好ましい。nの値が小さいと、成膜性や膜強度が不十分であったり、耐久性が不十分であったりするなどの問題が生じやすくなるため、nは10以上であると特に好ましい。また、nを5以上、好ましくは10以上とするには、式(2)のブロックにおけるポリスチレン換算数平均分子量で表して、2000以上、好ましくは3000以上であると充分である。
また、式(2)におけるAr、Ar、Ar、Arは、互いに独立に2価の芳香族基を表す。2価の芳香族基としてはArに例示したものと同様のものが挙げられる。
【0064】
また、Ar、Ar、Arは、フッ素原子、置換基を有していてもよい炭素数1〜200のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルコキシ基、置換基を有していてもよい炭素数6〜20のアリール基、置換基を有していてもよい炭素数6〜20のアリールオキシ基または置換基を有していてもよい炭素数2〜20のアシル基で、置換されていても良く、これらは、上記のArにおいて例示したものと同様のものが挙げられる。
上記式(2)におけるY、Y’は、互いに独立に酸素原子または硫黄原子を表す。また、式(2)におけるX、X’は、互いに独立に直接結合または2価の基を表すものであるが、中でも、カルボニル基、スルホニル基、2,2−イソプロピリデン基、2,2−ヘキサフルオロイソプロピリデン基または9,9−フルオレンジイル基であると好ましい。
【0065】
上記式(2)で表される構造単位の好ましい代表例としては、例えば以下のものが挙げられる。なお、nは上記式(2)と同等の定義である。
【化5】

【0066】
【化6】

【0067】
【化7】

【0068】
【化8】

【0069】
【化9】

【0070】
【化10】

【0071】
【化11】

【0072】
【化12】

【0073】
【化13】

【0074】
【化14】

【0075】
【化15】

【0076】
本発明で用いられる共重合体のイオン交換基を有するブロックのイオン交換基導入量は、イオン交換容量で表して、2.5meq/g〜10.0meq/gが好ましく、さらに好ましくは5.5meq/g〜9.0meq/gであり、特に好ましくは5.5meq/g〜7.0meq/gである。イオン交換容量が2.5meq/g以上であると、イオン交換性同士が密接に隣接することとなり、ブロック共重合体としたときのプロトン伝導性がより高くなるので好ましい。一方、イオン交換基導入量を示すイオン交換容量が10.0meq/g以下であると、製造がより容易であるので好ましい。
【0077】
また、ブロック共重合体全体のイオン交換基の導入量は、イオン交換容量で表して、0.5meq/g〜4.0meq/gが好ましく、さらに好ましくは1.0meq/g〜2.8meq/gである。イオン交換容量が0.5meq/g以上であると、プロトン伝導性がより高くなり、燃料電池用の高分子電解質としての機能がより優れるので好ましい。一方、イオン交換基導入量を示すイオン交換容量が4.0meq/g以下であると、耐水性がより良好となるので好ましい。
【0078】
また、本発明で用いられる共重合体は、分子量が、ポリスチレン換算の数平均分子量で表して、5000〜1000000であることが好ましく、中でも15000〜400000であることが特に好ましい。
【0079】
次に、本発明の、好適なブロック共重合体の製造方法について説明する。
該ブロック共重合体における、好適なイオン交換基を有するブロックは、上記式(1)に表されるブロックであり、Ar1における主鎖を構成する芳香環に結合するイオン交換基の導入方法は、予めイオン交換基を有するモノマーを重合する方法であっても、予めイオン交換基を有しないモノマーからブロックを製造した後に、該ブロックにイオン交換基を導入する方法であってもよい。
イオン交換基を有するモノマーを用いて、本発明で用いられる共重合体の製造を行う方法としては、例えば、ゼロ価遷移金属錯体の共存下、下記式(7)で示されるモノマーと、下記式(6)で示されるイオン交換基を実質的に有しないブロックの前駆体を縮合反応により重合することにより製造し得る。
Q−Ar1−Q (7)
(式中、Ar1は上記式(1)と同等の定義である。Qは、縮合反応時に脱離する基を表し、2つのQは同一であっても異なっていても良い。)
【化16】


(式中、Ar、Ar、Ar、Ar、a、b、c、n、X、X’、Y、Y’、Qは前記と同等の定義である。)
【0080】
上記式(7)で示されるモノマーは、好ましいイオン交換基であるスルホ基で例示すると、2,4−ジクロロベンゼンスルホン酸、2,5−ジクロロベンゼンスルホン酸、3,5−ジクロロベンゼンスルホン酸、2,4−ジブロモベンゼンスルホン酸、2,5−ジブロモベンゼンスルホン酸、3,5−ジブロモベンゼンスルホン酸、2,4−ジヨードベンゼンスルホン酸、2,5−ジヨードベンゼンスルホン酸、3,5−ジヨードベンゼンスルホン酸、2,4−ジクロロ−5−メチルベンゼンスルホン酸、2,5−ジクロロ−4−メチルベンゼンスルホン酸、2,4−ジブロモ−5−メチルベンゼンスルホン酸、2,5−ジブロモ−4−メチルベンゼンスルホン酸、2,4−ジヨード−5−メチルベンゼンスルホン酸、2,5−ジヨード−4−メチルベンゼンスルホン酸、2,4−ジクロロ−5−メトキシベンゼンスルホン酸、2,5−ジクロロ−4−メトキシベンゼンスルホン酸、2,4−ジブロモ−5−メトキシベンゼンスルホン酸、2,5−ジブロモ−4−メトキシベンゼンスルホン酸、2,4−ジヨード−5−メトキシベンゼンスルホン酸、2,5−ジヨード−4−メトキシベンゼンスルホン酸、3,3’−ジクロロビフェニル−2,2’−ジスルホン酸、3,3’−ジブロモビフェニル−2,2’−ジスルホン酸、3,3’−ジヨードビフェニル−2,2’−ジスルホン酸、4,4’−ジクロロビフェニル−2,2’−ジスルホン酸、4,4’−ジブロモビフェニル−2,2’−ジスルホン酸、4,4’−ジヨードビフェニル−2,2’−ジスルホン酸、4,4’−ジクロロビフェニル−3,3’−ジスルホン酸、4,4’−ジブロモビフェニル−3,3’−ジスルホン酸、4,4’−ジヨードビフェニル−3,3’−ジスルホン酸、5,5’−ジクロロビフェニル−2,2’−ジスルホン酸、5,5’−ジブロモビフェニル−2,2’−ジスルホン酸、5,5’−ジヨードビフェニル−2,2’−ジスルホン酸等が挙げられる。
【0081】
また、他のイオン交換基の場合は、上記に例示したモノマーのスルホ基を、カルボン酸基、ホスホン基等のイオン交換基に置き換えて、選択することができ、これら他のイオン交換基を有するモノマーも市場から容易に入手できるか、公知の製造方法を用いて、製造することが可能である。
さらに上記に例示するモノマーのイオン交換基が塩の形でもよく、特に、イオン交換基が塩の形であるモノマーを用いることが、重合反応性の観点から好ましい。塩の形としては、アルカリ金属塩が好ましく、特に、Li塩、Na塩、K塩の形が好ましい。
【0082】
上記の式(6)、式(7)に示すQは、縮合反応時に脱離する基を表すが、その具体例としては、例えば、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子、p−トルエンスルホニルオキシ基、メタンスルホニルオキシ基、トリフルオロメタンスルホニルオキシ基等が挙げられる。
【0083】
また、イオン交換基の導入を重合後に行い、本発明で用いられる共重合体の製造を行う方法として、例えば、ゼロ価遷移金属錯体の共存下、下記式(8)で示される化合物と、上記式(6)で示されるイオン交換基を実質的に有しないブロックの前駆体を縮合反応により重合し、その後、公知の方法に準じてイオン交換性基を導入することにより製造し得る。
Q−Ar−Q (8)
(式中、Arはイオン交換基を導入することで、上記式(1)のArとなりえる2価の芳香族基を表し、Qは上記式(7)と同等の定義である)
【0084】
ここで、Arは、フッ素原子、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数1〜20のアルコキシ基、炭素数6〜20のアリール基、炭素数6〜20のアリールオキシ基または炭素数2〜20のアシル基で置換されていても良いが、Arは少なくともひとつのイオン交換基を導入可能な構造を有する、2価の芳香族基である。該2価の芳香族基としては、例えば、1,3−フェニレン基、1,4−フェニレン基等の2価の単環性芳香族基、1,3−ナフタレンジイル基、1,4−ナフタレンジイル基、1,5−ナフタレンジイル基、1,6−ナフタレンジイル基、1,7−ナフタレンジイル基、2,6−ナフタレンジイル基、2,7−ナフタレンジイル基等の2価の縮環系芳香族基、ピリジンジイル基、キノキサリンジイル基、チオフェンジイル基等の複素環基等が挙げられる。置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルコキシ基、置換基を有していてもよい炭素数6〜20のアリール基、置換基を有していてもよい炭素数6〜20のアリールオキシ基または置換基を有していてもよい炭素数2〜20のアシル基としては、上記のArにおける置換基として例示したものと同様のものが挙げられる。
【0085】
Arにおけるイオン交換基を導入可能な構造としては、芳香環に直接結合している水素原子を有しているか、イオン交換基に変換可能な置換基を有していることを示す。イオン交換基に変換可能な置換基としては、重合反応を阻害しない限り特に制限はないが、例えば、メルカプト基、メチル基、ホルミル基、ヒドロキシ基、ブロモ基等が挙げられる。
【0086】
イオン交換基の導入方法としてスルホ基の導入方法を例として挙げると、重合して得られたブロック共重合体を濃硫酸に溶解あるいは分散することにより、あるいは有機溶媒に少なくとも部分的に溶解させた後、濃硫酸、クロロ硫酸、発煙硫酸、三酸化硫黄などを作用させることにより、水素原子をスルホ基に変換する方法を挙げることができる。これらのモノマーの代表例としては、例えば1,3−ジクロロベンゼン、1,4−ジクロロベンゼン、1,3−ジブロモベンゼン、1,4−ジブロモベンゼン、1,3−ジヨードベンゼン、1,4−ジヨードベンゼン、1,3−ジクロロ−4−メトキシベンゼン、1,4−ジクロロ−3−メトキシベンゼン、1,3−ジブロモ−4−メトキシベンゼン、1,4−ジブロモ−3−メトキシベンゼン、1,3−ジヨード−4−メトキシベンゼン、1,4−ジヨード−3−メトキシベンゼン、1,3−ジクロロ−4−アセトキシベンゼン、1,4−ジクロロ−3−アセトキシベンゼン、1,3−ジブロモ−4−アセトキシベンゼン、1,4−ジブロモ−3−アセトキシベンゼン、1,3−ジヨード−4−アセトキシベンゼン、1,4−ジヨード−3−アセトキシベンゼン、4,4’−ジクロロビフェニル、4,4’−ジブロモビフェニル、4,4’−ジヨードビフェニル、4,4’−ジクロロ−3,3’−ジメチルビフェニル、4,4’−ジブロモ−3,3’−ジメチルビフェニル、4,4’−ジヨード−3,3’−ジメチルビフェニル、4,4’−ジクロロ−3,3’−ジメトキシビフェニル、4,4’−ジブロモ−3,3’−ジメトキシビフェニル、4,4’−ジヨード−3,3’−ジメトキシビフェニル等が挙げられる。
【0087】
また、上記式(8)で示されるモノマーがメルカプト基を有すると、重合反応終了時にメルカプト基を有するブロックを得ることができ、該メルカプト基を、酸化反応によりスルホ基に変換することができる。このようなモノマーの代表例としては2,4−ジクロロベンゼンチオール、2,5−ジクロロベンゼンチオール、3,5−ジクロロベンゼンチオール、2,4−ジブロモベンゼンチオール、2,5−ジブロモベンゼンチオール、3,5−ジブロモベンゼンチオール、2,4−ジヨードロベンゼンチオール、2,5−ジヨードベンゼンチオール、3,5−ジヨードベンゼンチオール、2,5−ジクロロ−1,4−ベンゼンジチオール、3,5−ジクロロ−1,2−ベンゼンジチオール、3,6−ジクロロ−1,2−ベンゼンジチオール、4,6−ジクロロ−1,3−ベンゼンジチオール、2,5−ジブロモ−1,4−ベンゼンジチオール、3,5−ジブロモ−1,2−ベンゼンジチオール、3,6−ジブロモ−1,2−ベンゼンジチオール、4,6−ジブロモ−1,3−ベンゼンジチオール、2,5−ジヨード−1,4−ベンゼンジチオール、3,5−ジヨード−1,2−ベンゼンジチオール、3,6−ジヨード−1,2−ベンゼンジチオール、4,6−ジヨード−1,3−ベンゼンジチオール等が挙げられ、さらに上記に例示するモノマーのメルカプト基が保護されたモノマー等が挙げられる。
【0088】
次に、カルボン酸基の導入方法を例として挙げると、酸化反応により、メチル基、ホルミル基をカルボン酸基に変換する方法や、ブロモ基をMgの作用により−MgBrとした後、二酸化炭素を作用させカルボン酸基に変換する等の公知の方法が挙げられる。ここで、メチル基を有する代表的なモノマーとしては、2,4−ジクロロトルエン、2,5−ジクロロトルエン、3,5−ジクロロトルエン、2,4−ジブロモトルエン、2,5−ジブロモトルエン、3,5−ジブロモトルエン、2,4−ジヨードトルエン、2,5−ジヨードトルエン、3,5−ジヨードトルエン等が挙げられる。
【0089】
ホスホン基の導入方法を例として挙げると、ブロモ基を、塩化ニッケルなどのニッケル化合物の共存下、亜リン酸トリアルキルを作用させてホスホン酸ジエステル基とした後、これを加水分解してホスホン基に変換する方法や、ルイス酸触媒の共存下、三塩化リンや五塩化リンなどを用いてC−P結合を形成させ、続いて必要に応じ酸化及び加水分解してホスホン基に変換する方法とする方法、高温でリン酸無水物を作用させ、水素原子をホスホン基に変換する方法等の公知の方法が挙げられる。
【0090】
スルホンイミド基の導入方法を例として挙げると、縮合反応、置換反応等により、前述のスルホ基をスルホンイミド基に変換する方法等の公知の方法が挙げられる。
【0091】
ここで、Qは、縮合反応時に脱離する基であり、上記式(6)、式(7)で例示したものと同等である。
【0092】
また、上記式(6)で表される前駆体の好適な代表例としては、下記に例示するモノマーが挙げられる。これらの例示の中で、Qは上記と同等の定義である。
【化17】

【0093】
【化18】

【0094】
【化19】

【0095】
【化20】

【0096】
【化21】


かかる例示の化合物は、市場から容易に入手できるか、市場から容易に入手できる原料を用いて製造することが可能であり、例えば、上記(6a)で示される末端に脱離基Qを有するポリエーテルスルホンは、例えば住友化学(株)製スミカエクセルPES等の市販品を入手することも可能であり、これを式(6)で示される前駆体として用いることもできる。また、nは上記と同等の定義であり、これらの化合物のポリスチレン換算数平均分子量で2000〜150000、好ましくは3000〜60000であるものが選択される。
【0097】
縮合反応による重合は、例えば遷移金属錯体の共存下に実施される。
上記遷移金属錯体は遷移金属にハロゲンや後述の配位子が配位したものであり、後述の配位子を少なくとも一つ有するものが好ましい。遷移金属錯体は市販品でも別途合成したもの何れを用いてもよい。
遷移金属錯体の合成方法は、例えば遷移金属塩や遷移金属酸化物と配位子とを反応させる方法等の公知の方法が挙げられる。合成した遷移金属錯体は、取り出して使用してもよいし、取り出すことなく、in situで使用してもよい。
配位子としては、例えばアセテート、アセチルアセトナート、2,2’−ビピリジル、1,10−フェナントロリン、メチレンビスオキサゾリン、N,N,N’N’−テトラメチルエチレンジアミン、トリフェニルホスフィン、トリトリルホスフィン、トリブチルホスフィン、トリフェノキシホスフィン、1,2−ビスジフェニルホスフィノエタン、1,3−ビスジフェニルホスフィノプロパンなどが挙げられる。
【0098】
遷移金属錯体としては、例えばニッケル錯体、パラジウム錯体、白金錯体、銅錯体等が挙げられる。これら遷移金属錯体の中でもゼロ価ニッケル錯体、ゼロ価パラジウム錯体のようなゼロ価遷移金属錯体が好ましく用いられ、ゼロ価ニッケル錯体がより好ましく用いられる。
ゼロ価ニッケル錯体としては、例えばビス(1,5−シクロオクタジエン)ニッケル(0)、(エチレン)ビス(トリフェニルホスフィン)ニッケル(0)、テトラキス(トリフェニルホスフィン)ニッケルなどが挙げられ、中でも、ビス(1,5−シクロオクタジエン)ニッケル(0)が、安価という観点から好ましく使用される。
ゼロ価パラジウム錯体としては、例えばテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)が挙げられる。
これらゼロ価遷移金属錯体は、上記のように合成して用いてもよいし、市販品として入手できるものを用いてもよい。
ゼロ価遷移金属錯体の合成方法は例えば、遷移金属化合物を亜鉛やマグネシウムなどの還元剤でゼロ価とする方法等の公知の方法が挙げられる。合成したゼロ価遷移金属錯体は、取り出して使用してもよいし、取り出すことなくin situで使用してもよい。
【0099】
還元剤により、遷移金属化合物からゼロ価遷移金属錯体を発生させる場合、使用される遷移金属化合物としては、通常、2価の遷移金属化合物が用いられるが0価のものを用いることもできる。なかでも2価ニッケル化合物、2価パラジウム化合物が好ましい。2価ニッケル化合物としては、塩化ニッケル、臭化ニッケル、ヨウ化ニッケル、ニッケルアセテート、ニッケルアセチルアセトナート、塩化ニッケルビス(トリフェニルホスフィン)、臭化ニッケルビス(トリフェニルホスフィン)、ヨウ化ニッケルビス(トリフェニルホスフィン)などが挙げられ、2価パラジウム化合物としては塩化パラジウム、臭化パラジウム、ヨウ化パラジウム、パラジウムアセテートなどが挙げられる。
還元剤としては、亜鉛、マグネシウム、水素化ナトリウム、ヒドラジンおよびその誘導体、リチウムアルミニウムヒドリドなどが挙げられる。必要に応じて、ヨウ化アンモニウム、ヨウ化トリメチルアンモニウム、ヨウ化トリエチルアンモニウム、ヨウ化リチウム、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化カリウム等を併用することもできる。
【0100】
上記遷移金属錯体を用いた縮合反応の際、重合体の収率向上の観点から、用いた遷移金属錯体の配位子となりうる化合物を添加することが好ましい。添加する化合物は使用した遷移金属錯体の配位子と同じであっても異なっていてもよい。
該配位子となりうる化合物の例としては、前述の、配位子として例示した化合物等が挙げられ、汎用性、安価、縮合剤の反応性、重合体の収率、重合体の高分子量化の点でトリフェニルホスフィン、2,2’−ビピリジルが好ましい。特に、2,2’−ビピリジルは、ビス(1,5−シクロオクタジエン)ニッケル(0)と組合せると重合体の収率向上や、重合体の高分子量化が図れるので、この組合せが好ましく使用される。配位子の添加量は、ゼロ価遷移金属錯体に対して、通常、遷移金属原子基準で、0.2〜10モル倍程度、好ましくは1〜5モル倍程度使用される。
【0101】
ゼロ価遷移金属錯体の使用量は、上記式(7)で示される化合物および/または上記式(8)で示される化合物と上記式(6)で示される前駆体の総モル量に対して、0.1モル倍以上である。使用量が過少であると分子量が小さくなる傾向があるので、好ましくは1.5モル倍以上、より好ましくは1.8モル倍以上、より一層好ましくは2.1モル倍以上である。使用量の上限は特に制限はないが、使用量が多すぎると後処理が煩雑になる傾向があるために、5.0モル倍以下であることが好ましい。
なお、還元剤を用いて遷移金属化合物からゼロ価遷移金属錯体を合成する場合、生成するゼロ価遷移金属錯体が上記範囲となるように設定すればよく、例えば、遷移金属化合物の量を、上記式(7)で示される化合物および/または上記式(8)で示される化合物と上記式(6)で示される前駆体の総モル量に対して、0.01モル倍以上、好ましくは0.03モル倍以上とすればよい。使用量の上限は限定的ではないが、使用量が多すぎると後処理が煩雑になる傾向があるために、5.0モル倍以下であることが好ましい。また、還元剤の使用量は、上記式(7)で示される化合物および/または上記式(8)で示される化合物と上記式(6)で示される前駆体との総モル量に対して、例えば、0.5モル倍以上、好ましくは1.0モル倍以上とすればよい。使用量の上限は限定的ではないが、使用量が多すぎると後処理が煩雑になる傾向があるために、10モル倍以下であることが好ましい。
【0102】
また反応温度は、通常0〜250℃の範囲であるが、生成する高分子の分子量をより高くするためには、ゼロ価遷移金属錯体と上記式(7)で示される化合物および/または上記式(8)で示される化合物と、上記式(6)で示される前駆体とを45℃以上の温度で混合させることが好ましい。好ましい混合温度は通常45℃〜200℃であり、とりわけ好ましくは50℃〜100℃程度である。ゼロ価遷移金属錯体、上記式(7)で示される化合物および/または上記式(8)で示される化合物並びに上記式(6)で示される前駆体とを混合させた後、通常45℃〜200℃程度、好ましくは50℃〜100℃程度で反応させる。反応時間は、通常0.5〜24時間程度である。
またゼロ価遷移金属錯体と、上記式(7)で示される化合物および/または上記式(8)で示される化合物並びに上記式(6)で示される前駆体とを混合する方法は、一方をもう一方に加える方法であっても、両者を反応容器に同時に加える方法であっても良い。加えるに当っては、一挙に加えても良いが、発熱を考慮して少量ずつ加えることが好ましいし、溶媒の共存下に加えることも好ましい。
【0103】
これらの縮合反応は、通常、溶媒存在下に実施される。かかる溶媒としては、例えばN、N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)、N−メチルピロリドン(NMP)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ヘキサメチルホスホリックトリアミド等の非プロトン性極性溶媒。トルエン、キシレン、メシチレン、ベンゼン、n−ブチルベンゼン等の芳香族炭化水素系溶媒。テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、ジブチルエーテル、tert−ブチルメチルエーテル、ジメルカプトエタン、ジフェニルエーテル等のエーテル系溶媒。酢酸エチル、酢酸ブチル、安息香酸メチルなどのエステル系溶媒。クロロホルム、ジクロロエタン等のハロゲン化アルキル系溶媒などが例示される。なお、括弧内の表記は溶媒の略号を示すものであり、後述する表記において、この略号を用いることもある。
【0104】
生成する高分子の分子量をより高くするためには、高分子が十分に溶解していることが望ましいので、高分子に対する良溶媒であるテトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、DMF、DMAc、NMP、DMSO、トルエン等が好ましい。これらは2種以上を混合して用いることもできる。なかでもDMF、DMAc、NMP、DMSO、及びこれら2種以上の混合物が好ましく用いられる。
溶媒量は、特に限定されないが、あまりにも低濃度では、生成した高分子化合物を回収しにくくなることもあり、また、あまりにも高濃度では、攪拌が困難になることがあることから、溶媒、上記式(7)で示される化合物および/または上記式(8)で示される化合物と上記式(6)で示される前駆体との総量を100重量%としたとき、溶媒量が好ましくは99.95〜50重量%、より好ましくは99.9〜75重量%となるような溶媒量が好ましく使用される。
【0105】
かくして本発明で用いられる共重合体が得られるが、生成したブロック共重合体の反応混合物からの取り出しは、常法が適用できる。例えば、貧溶媒を加える等してポリマーを析出させ、濾別等により目的物を取り出すことができる。また必要に応じて、更に水洗や、良溶媒と貧溶媒を用いての再沈殿等の、通常の精製方法により精製することもできる。また、生成したブロック共重合体のスルホ基が塩の形である場合、燃料電池に係る部材として使用するために、スルホ基を遊離酸の形にすることが好ましく、遊離酸への変換は、通常酸性溶液での洗浄により可能である。使用される酸としては、例えば、塩酸、硫酸、硝酸などが挙げられ、好ましくは塩酸である。
【0106】
本発明で用いられる共重合体の代表例を上記式(3)で示した好適なイオン交換基を有するブロックで例示すると、以下の構造が挙げられる。
【化22】

【0107】
【化23】

【0108】
【化24】

【0109】
【化25】

【0110】
【化26】

【0111】
【化27】

【0112】
【化28】

【0113】
【化29】

【0114】
【化30】

【0115】
【化31】

【0116】
【化32】

【0117】
また、本発明で用いられる共重合体の好適な実施形態として、上記イオン交換基を有するブロックが、下記式(4)で示される構造単位を有するブロックであると、上記式(3)に示すブロックを効率よく製造することが可能であるため、好ましい。
【化33】


(式中、R2は、同一あるいは異なり、R2は、フッ素原子、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルコキシ基、置換基を有していてもよい炭素数6〜20のアリール基、置換基を有していてもよい炭素数6〜20のアリールオキシ基または置換基を有していてもよい炭素数2〜20のアシル基から選ばれる置換基を表す。m2は3以上の整数であり、p1、p2はそれぞれ0以上3以下の整数である。)
【0118】
上記式(4)で表される構造単位を、イオン交換基を有するブロックとして含み、さらに上記式(2)で表される構造単位を、イオン交換基を実質的に有しないブロックとして含むブロック共重合体は、上記のように、プロトン伝導度の湿度依存性が小さく、吸水時の寸法安定性が小さいことに加えて、後述のように高分子量体を得やすく、燃料電池に係る部材として好適な高分子電解質となりうる。
【0119】
上記のような、好ましいイオン交換基を有するブロックを含むブロック共重合体の製造方法としては、下記式(5)で表される化合物と、上記式(6)で表される化合物とを、共重合することによって達成できる。
【化34】


(式中、R2、p1、p2は上記式(4)と同等の定義であり、Qは脱離基を示す。)
上記式(5)で示される化合物は、後述の重合方法によって容易に高分子量化することが可能であり、このようにスルホ基を有するブロックを高分子量化することで、容易に実用的なイオン交換容量を有するブロック共重合体を得ることができる。
また、R2はベンゼン核にある置換基であり、後述する縮合反応による重合において、それを阻害しない基であることが好ましく、前記Ar1の置換基として例示した基と同様のものが挙げられる。
【0120】
ここで、式(5)で表される化合物の代表例としては、上記式(7)で例示した化合物の中でも、4,4’−ジクロロビフェニル−2,2’−ジスルホン酸、4,4’−ジブロモビフェニル−2,2’−ジスルホン酸、4,4’−ジヨードビフェニル−2,2’−ジスルホン酸、4,4’−ジクロロ−3,3’−ジメチルビフェニル−2,2’−ジスルホン酸、4,4’−ジブロモ−3,3’−ジメチルビフェニル−2,2’−ジスルホン酸、4,4’−ジヨード−3,3’−ジメチルビフェニル−2,2’−ジスルホン酸、4,4’−ジクロロ−3,3’−ジメトキシビフェニル−2,2’−ジスルホン酸、4,4’−ジブロモ−3,3’−ジメトキシビフェニル−2,2’−ジスルホン酸、4,4’−ジヨード−3,3’−ジメトキシビフェニル−2,2’−ジスルホン酸等が挙げられ、さらに上記に例示する化合物のイオン交換基が塩の形でもよく、特に、イオン交換基が塩の形である化合物を用いることが、重合反応性の観点から好ましい。塩の形としては、アルカリ金属塩が好ましく、特に、Li塩、Na塩、K塩の形が好ましい。
このように式(5)で表される化合物は、そのベンゼン核に置換基を有していてもよいが、その置換基数p1、p2は0または1が好ましく、該置換基数が0、すなわち置換基R2を有しないと、より好ましい。
【0121】
上記式(5)で示される化合物と、上記式(6)で表される化合物との縮合は、上記縮合反応条件において示した溶媒および溶媒量、反応温度並びに反応時間については、「式(7)で示される化合物および/または式(8)で示される化合物」を、「式(5)で表される化合物」に置き換えることで、同等の条件が例示できるが、とりわけ上記式(5)で示される化合物に係る縮合反応に用いられる触媒としては、ニッケル錯体が好ましく、該ニッケル錯体としては、例えば、ニッケル(0)ビス(シクロオクタジエン)、ニッケル(0)(エチレン)ビス(トリフェニルホスフィン)、ニッケル(0)テトラキス(トリフェニルホスフィン)等のゼロ価ニッケル錯体、フッ化ニッケル、塩化ニッケル、臭化ニッケル、沃化ニッケル、ギ酸ニッケル、酢酸ニッケル、硫酸ニッケル、炭酸ニッケル、硝酸ニッケル、ニッケルアセチルアセトナート、(ジメトキシエタン)塩化ニッケル等の2価ニッケル錯体が例示され、好ましくはニッケル(0)ビス(シクロオクタジエン)と塩化ニッケルが例示される。特に、2価ニッケル錯体を、亜鉛を還元剤として共存させることが、好ましい。
【0122】
ニッケル錯体に、さらに中性配位子を共存させることが好ましく、かかる配位子としては、例えば、2,2’−ビピリジル、1,10−フェナントロリン、メチレンビスオキサゾリン、N,N’−テトラメチルエチレンジアミン等の含窒素配位子などが例示され、2,2’−ビピリジルが特に好ましい。
【0123】
上記ニッケル錯体の使用量は、通常、上記式(5)で示される化合物および式(6)で示される前駆体の総和に対して1〜5モル倍程度、好ましくは1.5〜3.5モル倍程度使用される。また配位子を使用する場合は、通常、ニッケル錯体に対して0.2〜2モル倍程度、好ましくは1〜1.5モル倍程度使用される。
【0124】
上記の製造方法により、上記式(4)で表されるブロックを有する、ブロック共重合体を得ることができるが、該製造方法において得られるブロック共重合体のスルホ基が塩の形である場合、燃料電池に係る部材として使用するために、スルホ基を遊離酸の形にすることが好ましく、遊離酸への変換は、通常酸性溶液での洗浄により可能である。使用される酸としては、例えば、塩酸、硫酸、硝酸などが挙げられ、好ましくは塩酸である。
【0125】
このようにして得られるブロック共重合体のイオン交換基を有するブロックのイオン交換基導入量は、イオン交換容量で表して、2.5meq/g〜10.0meq/gが好ましく、さらに好ましくは5.5meq/g〜9.0meq/gであり、特に好ましくは5.5meq/g〜7.0meq/gである。
また、ブロック共重合体全体のイオン交換基の導入量は、イオン交換容量で表して、0.5meq/g〜4.0meq/gが好ましく、さらに好ましくは1.0meq/g〜2.8meq/gである。
【0126】
上述する方法によって、式(4)で表される構造単位を、イオン交換基を有するブロックとして含むブロック共重合体を得ることが可能であり、該ブロック共重合体を具体的に例示すると、下記の共重合体が挙げられる。
【化35】

【0127】
【化36】

【0128】
【化37】

【0129】
【化38】

【0130】
【化39】

【0131】
【化40】

【0132】
【化41】

【0133】
【化42】

【0134】
【化43】

【0135】
【化44】

【0136】
上記に例示した本発明で用いられる共重合体に係る製造方法としては、上記式(7)および/または式(5)で表される化合物を縮合せしめて、下記式(10)で表される化合物を製造してから、この化合物を上記式(6)で表される化合物と縮合させることでも得ることができる。
【化45】


(式中、Ar1、Qは上記式(7)と同等の定義であり、R、p1、p2は上記式(4)と同等の定義であり、m3、m4は独立して1以上の整数を表わすが、m3+m4は5以上の整数である)
上記式(10)で表される化合物において、式(7)で表される化合物の一部または全部を、上記式(8)で表される化合物(上記式(10)のAr1の一部または全部がAr6)に置き換えてもよく、その場合はAr6を上記と同様にして、Ar1に変換することにより、式(10)で表される化合物を得ることができる。それを上記式(6)で表される化合物と縮合させることにより、本発明で用いられる共重合体を得ることができる。
【0137】
上記に示す、本発明で用いられる共重合体は、いずれも燃料電池用の部材として好適に用いることができる。
次に、該ブロック共重合体を燃料電池等の電気化学デバイスのプロトン伝導膜として使用する場合について説明する。
この場合は、本発明で用いられる共重合体は、通常、膜の形態で使用されるが、膜へ転化する方法に特に制限はなく、例えば溶液状態より製膜する方法(溶液キャスト法)が好ましく使用される。
具体的には、本発明で用いられる共重合体を適当な溶媒に溶解し、その溶液をガラス板上に流延塗布し、溶媒を除去することにより製膜される。製膜に用いる溶媒は、ポリアリーレン系高分子が溶解可能であり、その後に除去し得るものであるならば特に制限はなく、DMF、DMAc、NMP、DMSO等の非プロトン性極性溶媒、あるいはジクロロメタン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン等の塩素系溶媒、メタノール、エタノール、プロパノール等のアルコール類、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル等のアルキレングリコールモノアルキルエーテルが好適に用いられる。これらは単独で用いることもできるが、必要に応じて2種以上の溶媒を混合して用いることもできる。中でも、DMSO、DMF、DMAc、NMP等がポリマーの溶解性が高く好ましい。
【0138】
膜の厚みは、特に制限はないが10〜300μmが好ましい。膜厚が10μm以上の膜では実用的な強度がより優れるため好ましく、300μm以下の膜では膜抵抗が小さくなり、電気化学デバイスの特性がより向上する傾向にあるので好ましい。膜厚は、溶液の濃度および基板上への塗布厚により制御できる。
【0139】
また、膜の各種物性改良を目的として、通常の高分子に使用される可塑剤、安定剤、離型剤等を本発明で用いられる共重合体に添加することができる。また、同一溶剤に混合共キャストする等の方法により、他のポリマーを本発明の共重合体と複合アロイ化することも可能である。
さらに燃料電池用途では他に水管理を容易にするために、無機あるいは有機の微粒子を保水剤として添加することも知られている。これらの公知の方法はいずれも本発明の目的に反しない限り使用できる。また、膜の機械的強度の向上等を目的として、電子線・放射線等を照射して架橋することもできる。
【0140】
また、本発明で用いられる共重合体を有効成分とする高分子電解質を用いたプロトン伝導膜の強度や柔軟性、耐久性のさらなる向上のために、本発明で用いられる共重合体を有効成分とする高分子電解質を多孔質基材に含浸させ複合化することにより、複合膜とすることも可能である。複合化方法は公知の方法を使用し得る。
多孔質基材としては、上述の使用目的を満たすものであれば特に制限は無く、例えば多孔質膜、織布、不織布、フィブリル等が挙げられ、その形状や材質によらず用いることができる。多孔質基材の材質としては、耐熱性の観点や、物理的強度の補強効果を考慮すると、脂肪族系、芳香族系高分子、または含フッ素高分子が好ましい。
【0141】
本発明で用いられる共重合体を用いた高分子電解質複合膜を固体高分子形燃料電池のプロトン伝導膜として使用する場合、多孔質基材の膜厚は、好ましくは1〜100μm、さらに好ましくは3〜30μm、特に好ましくは5〜20μmであり、多孔質基材の孔径は、好ましくは0.01〜100μm、さらに好ましくは0.02〜10μmであり、多孔質基材の空隙率は、好ましくは20〜98%、さらに好ましくは40〜95%である。
多孔質基材の膜厚が1μm以上であると、複合化後の強度補強の効果あるいは、柔軟性や耐久性を付与するといった補強効果がより優れ、ガス漏れ(クロスリーク)が発生しにくくなる。また、該膜厚が100μm以下であると、電気抵抗がより低くなり、得られた複合膜が固体高分子形燃料電池のプロトン伝導膜として、より優れたものとなる。該孔径が0.01μm以上であると、本発明で用いられる共重合体の充填がより容易となり、100μm以下であると、ブロック共重合体への補強効果がより大きくなる。空隙率が20%以上であると、プロトン伝導膜としての抵抗がより小さくなり、98%以下であると、多孔質基材自体の強度がより大きくなり補強効果がより向上するので好ましい。
また、該高分子電解質複合膜と、上記高分子電解質膜とを積層して燃料電池のプロトン伝導膜として用いることもできる。
【0142】
[高分子電解質の判別方法1]
次に、本発明に係る処理方法を利用して高分子電解質膜の耐久性を判別する方法について説明する。本発明に係る耐久性判別方法は、高分子電解質の分子量を測定する第1測定工程と、鉄イオンを含む水溶液に高分子電解質を浸漬させたのち、該高分子電解質を水溶液から取り出し、該高分子電解質の重量を基準とした水分量が20重量%以下になるまで該高分子電解質を乾燥させる第1処理工程と、第1処理工程を経た高分子電解質を過酸化水素水に浸漬させたのち、該高分子電解質を過酸化水素水から取り出し、該高分子電解質の重量を基準とした水分量が20重量%以下になるまで乾燥させる第2処理工程と、第2処理工程を経た高分子電解質の分子量を測定する第2測定工程とを備える。
【0143】
複数の高分子電解質の耐久性を判別する場合、高分子電解質に含まれるイオン交換基の個数と第1処理工程後の高分子電解質に含まれる鉄イオンの個数との比率が各高分子電解質について一定となるように第1処理工程を実施することが好ましい。上記比率を一定にして複数の高分子電解質の化学劣化させることにより、高分子電解質の化学構造の耐久性を比較検討することが可能となる。
【0144】
イオン交換基の個数を基準とした鉄イオンの個数の比率が一定の条件では高分子電解質の親水部位周辺に一定の量のヒドロキシラジカルが存在していると考えられる。したがって、鉄イオンの個数の比率が同じである高分子電解質を処理して分子量変化に違いがあることは、高分子電解質を構成する高分子鎖の化学構造のヒドロキシラジカルに対する反応性が異なることを示す。なお、この方法において「比率が各高分子電解質について一定」とは、各高分子電解質に含まれるイオン交換基の個数をそれぞれ100としたとき、各高分子電解質に含まれる鉄イオンの個数の差が10以内であることを意味し、5以内であることがさらに好ましく、特に好ましくは2以内である。
【0145】
判別基準として用いる分子量の変化は、イオン交換基を有するブロックの分子量変化でも、共重合体の分子量変化でも特に制限無く好適に適用され、親水部位の耐久性判別という観点から、イオン交換基を有するブロックの分子量変化であることが好ましい。
【0146】
判別基準として用いる分子量は、同種の分子量で判別すれば、数平均分子量、重量平均分子量、z平均分子量、粘度平均分子量など特に制限無く好適に適用され、耐久性の判別においてより変化の大きい分子量という観点から、数平均分子量であることが好ましい。
【0147】
判別基準として用いる分子量の測定方法は、同手法によって測定した分子量で判別すれば、サイズ排除クロマトグラフィー、粘度法などによる換算分子量、静的光散乱法、超遠心法、浸透圧法、蒸気圧法などによる絶対分子量など特に制限されることなく好適に用いることができる。
【0148】
[高分子電解質の判別方法2]
耐久性判別方法の別の態様について説明する。本発明の耐久性判断方法によって複数の高分子電解質の耐久性を判別する場合、高分子電解質の重量と第1処理工程後の高分子電解質に含まれる鉄イオンの重量との比率が各高分子電解質について一定となるように第1処理工程を実施してもよい。上記比率を一定にして複数の高分子電解質の化学劣化させることにより、外部から一定の割合で劣化因子が供給される場合を想定した判定が可能となる。
【0149】
高分子電解質重量を基準とした鉄イオンの個数の比率が一定の条件では、高分子電解質中において一定の量のヒドロキシラジカルが存在していると考えられる。したがって、高分子電解質重量当りの鉄イオンの個数の比率が同じである高分子電解質を処理して分子量変化に違いがあることは、高分子電解質のヒドロキシラジカルに対する安定性が異なることを示す。なお、この方法において「比率が各高分子電解質について一定」とは、各高分子電解質の鉄イオン含有量(高分子電解質の重量基準、単位:重量%)の値の差が10以内であることを意味し、5以内であることがさらに好ましく、特に好ましくは2以内である。
【0150】
ここで、判別基準として用いる分子量の変化は、イオン交換基を有するブロックの分子量変化でも、共重合体の分子量変化でも特に制限無く好適に適用され、親水部位の耐久性判別という観点から、イオン交換基を有するブロックの分子量変化であることが好ましい。
【0151】
判別基準として用いる分子量は、同種の分子量で判別すれば、数平均分子量、重量平均分子量、z平均分子量、粘度平均分子量など特に制限無く好適に適用され、耐久性の判別においてより変化の大きい分子量という観点から、数平均分子量、重量平均分子量であることが好ましい。
【0152】
判別基準として用いる分子量の測定方法は、同手法によって求めた分子量で判別すれば、ゲル排除クロマトグラフィー(GPC)、粘度法などによる換算分子量、静的光散乱法、超遠心法、浸透圧法、蒸気圧法などによる絶対分子量など特に制限されることなく好適に用いることができる。
【0153】
[高分子電解質の品質管理方法]
前記の判別方法において、分子量の変化が小さいものほど、高分子電解質の化学耐久性が高いことを示す。分子量の変化を品質管理基準とすることで、分子量変化の小さいものが、化学耐久性という点で品質を保証する基準として用いることができる。
【0154】
品質保証をおこなう装置としては、高分子電解質を塩化鉄水溶液および過酸化水素に浸漬しうる容器を有し、高分子電解質を保持する部位を有しておれば特に制限無く好適に適用される。該装置を構成する部材が、塩化鉄および過酸化水素水に対して耐性の高い部材あり、高分子電解質を加熱する装置を有していることがさらに好ましい。
【実施例】
【0155】
下記の通り高分子電解質1〜4を調製し、これらの化学耐久性を評価する試験を行った。高分子電解質の分子量及びイオン交換容量は以下のようにしてそれぞれ測定した。
【0156】
(1)高分子電解質および高分子電解質膜の分子量の測定
重量平均分子量および数平均分子量の測定にはGPCを用いた。すなわち、高分子電解質の重量平均分子量および数平均分子量の測定は、臭化リチウムを10mmol/dmになるように添加したN,N−ジメチルホルムアミド8mLに高分子電解質4mgを溶解し、GPC測定によって実施した。試験前後の高分子電解質膜のイオン交換基を有するブロックの重量平均分子量の測定方法は、高分子電解質膜を4mgに対して、DMSOを8ml、25%テトラメチルアンモニウムヒドロオキサイドのメタノール溶液10μlを混合して100℃にて2時間加熱し、該高分子電解質溶液をGPC測定によって実施した。試験前後の高分子電解質膜の重量平均分子量の測定方法は、高分子電解質膜を4mgに対して、DMSOを8ml、25%テトラメチルアンモニウムヒドロオキサイドのメタノール溶液10μlを混合して100℃にて2時間加熱し、該高分子電解質溶液をGPC測定によって実施した。なお、GPCの分析条件は下記の通りである。
[GPC分析条件]
カラム:TSKGEL GMHHR−M (東ソー株式会社製)
カラム温度:40℃
移動相溶媒:N,N−ジメチルホルムアミド
(臭化リチウムを10.mmol/dmになるように添加)
溶媒流量:0.5mL/min
検出:示差屈折率
分子量標準試料 :ポリスチレン
【0157】
(2)イオン交換容量(IEC)の測定
測定に供するポリマーを溶液キャスト法により成膜してポリマー膜を得た。得られたポリマー膜を適当な重量になるように裁断した。裁断したポリマー膜の乾燥重量を加熱温度110℃に設定されたハロゲン水分率計を用いて測定した。次いで、このようにして乾燥させたポリマー膜を0.1mol/L水酸化ナトリウム水溶液5mLに浸漬した後、更に50mLのイオン交換水を加え、2時間放置した。その後、ポリマー膜が浸漬された溶液に、0.1mol/Lの塩酸を徐々に加えることで滴定を行い、中和点を求めた。そして、裁断したポリマー膜の乾燥重量と中和に要した塩酸の量から、ポリマーのイオン交換容量(単位:meq/g)を算出した。
【0158】
<高分子電解質1の調製>
アルゴン雰囲気下、フラスコに無水臭化ニッケル7.69g(35.2mmol)、2,2’−ビピリジル5.49g(35.2mmol)N−メチルピロリドン460gを加え、65℃に昇温してニッケル含有溶液を調製した。
フラスコに、亜鉛粉末17.2g(263.8mmol)、特開2007−270118号公報の実施例1記載の方法により合成した、4,4’−ジクロロビフェニル−2,2’−ジスルホン酸ジ(2,2−ジメチルプロピル)100.0g(175.9mmol)、N−メチルピロリドン898g、下記式(C−1)で示されるスミカエクセルPES 3600P(住友化学株式会社製;Mw=44,000、Mn=26,000:上記分析条件で測定)56.73gを加え50℃に調整した。フラスコ内を十分に窒素で置換した後、メタンスルホン酸/N−メチルピロリドン溶液(重量比1/66の混合溶液)13.52gを加え、40℃で3時間撹拌した。これに、前記ニッケル含有溶液を注ぎ込み、20℃で12時間重合反応を行い、黒色の重合溶液を得た。
【化46】

【0159】
得られた重合反応液100重量部にトルエン200重量部、メチルエチルケトン160重量部、19重量%塩酸30重量部を加え80℃で1時間撹拌した。その後、30分静置したところ、分液し、上層は白色懸濁液、下層は薄青色透明液となった。水層を分離後、得られた有機層を減圧下、濃縮し、トルエンとメチルエチルケトンを留去後、N−メチルピロリドンを加えて、10重量%のポリアリーレンを含むN−メチルピロリドン溶液を得た。
【0160】
次に、以下のようにしてスルホン酸前駆基をスルホ基に変換した。
上記N−メチルピロリドン溶液100重量部に、19重量%塩酸を5重量部加えて、120℃で24h加熱し、脱保護反応を行った。得られた反応マスをアセトンに注ぎ込みポリアリーレンを析出させて、液を分離後、析出したポリアリーレンをアセトン洗浄(1回)、13重量%塩酸洗浄(1回)、93℃の熱水洗浄(5回)、メタノール洗浄(4回)した。得られたポリマーを乾燥することにより下記式(C−2)で表される高分子電解質1を得た。
GPC分子量: Mn=173000、Mw=346000
IEC: 2.8meq/g
【化47】

【0161】
高分子電解質1をジメチルスルホキシドに溶解して、濃度が10wt%の溶液を調製した。得られた溶液を、支持基材(東洋紡績社製社製PETフィルム、E5000グレード厚さ100μm)を用いて、約30μmの高分子電解質膜を作製した。この膜を2N硫酸に2時間浸漬後、再度イオン交換水で水洗せしめて、更に風乾することで、高分子電解質膜1を作製した。
【0162】
<高分子電解質膜1の耐久性評価>
(処理方法1)
鉄イオンを1.0mM含む水溶液に高分子電解質膜1を1時間浸漬させた後、空気中に静置して水分量が高分子電解質に対して10重量%に至るまで乾燥させた。その後、この高分子電解質を0.3%過酸化水素水に浸漬させた後、空気中に静置して水分量が10重量%に至るまで乾燥させた。
【0163】
[膜中の鉄の量の測定]
膜に吸着した鉄量について、下記条件で誘導結合プラズマ発光分析装置(ICP発光)による塩化鉄(II)溶液の測定を行い、浸漬前後での塩化鉄(II)溶液のFe量から、膜に吸着したFe量を算出した。鉄イオンを含む水溶液へ浸漬及び乾燥処理を経た後(第1処理工程後)の高分子電解質膜1における鉄イオンの存在量は、スルホ基の個数100に対して鉄イオンの個数11に相当する量であった。
(ICP発光測定条件)
測定装置: エスアイアイ・ナノテクノロジー社製、SPS 3000
測定波長: 238.28nm
【0164】
分子量測定の結果、共重合体の重量平均分子量維持率は92%であり、イオン交換基を有するブロックの重量平均分子量維持率は85%であり、(M/M−1)/Mの値は、1.5×10-6であった。
【0165】
イオン交換基を有するブロックとこれを実質的に有しないブロックの劣化のバランスを示す指標として、共重合体およびイオン交換基を有するブロックの分子量変化があげられる。試験後の共重合体およびアミン分解物の分子量維持率は、共重合体およびイオン交換基を有するブロックの分子切断に関する情報を与えている。イオン交換基を実質的に有しないブロックの劣化の割合が進行すると共重合体の分子量維持率の低下を引き起こす。
【0166】
(処理方法2)
[MEAの作製]
高分子電解質膜1の片面の中央部における5cm×5cmの領域に、スプレー法にて触媒インクを塗布した。この際、吐出口から膜までの距離は6cm、ステージ温度は75℃に設定した。同様にして重ね塗りをした後、溶媒を除去してアノード触媒層を形成させた。アノード触媒層として39.5mgの固形分(白金目付け:0.6mg/cm)が塗布された。続いて、もう一方の面に同様に触媒インクを塗布して、カソード触媒層を形成させて、MEAを得た。カソード触媒層として39.5mgの固形分(白金目付け:0.6mg/cm2)が塗布された。
【0167】
[燃料電池セルの組み立て]
MEAの両外側にガス拡散層としてカーボンクロスと、ガス通路用の溝を切削加工したカーボン製セパレータとを配した。さらにその外側に集電体及びエンドプレートを順に配置し、これらをボルトで締め付けることによって、有効電極面積25cmの燃料電池セルを組み立てた。
【0168】
[燃料電池運転条件]
燃料電池セルの温度を95℃、水素極ガス入口露点を95℃、空気極ガス入口露点を25℃、水素ガス流量を70mL/min、空気流量を174mL/min、水素極ガス出口背圧を0.1MPaG、空気極ガス出口背圧を0.05MPaGとし、110時間、開回路で保持した。
【0169】
分子量測定の結果、共重合体の重量平均分子量維持率は94%であり、イオン交換基を有するブロックの重量平均分子量維持率は83%であった。処理方法1と処理方法2の結果を比較すると、図1に示すように、共重合体及びイオン交換基を有するブロックの分子量維持率の関係は類似しており、共重合体及びイオン交換基を有するブロックの劣化の頻度はほぼ同じであった。
【0170】
(処理方法3)
20mgの高分子電解質1を8ppmのFe2+および3%の過酸化水素を含む水溶液50mlに浸漬し、60℃にて2時間静置した。分子量の測定結果から共重合体の重量平均分子量維持率は52%であり、イオン交換基を有するブロックの重量平均分子量維持率は64%であった。処理方法3にあっては、図1に示すように、共重合体の分子量維持率がイオン交換基を有するブロックのそれよりも低い値であった。このことから、処理方法3は、処理方法1,2と比較すると、共重合体のイオン交換基を実質的に有しないブロックを高い頻度で劣化させるものであることが分る。
【0171】
(処理方法4)
鉄イオンを0.1mM含む水溶液に高分子電解質膜1を1時間浸漬させた後、空気中に静置して水分量が高分子電解質に対して10重量%に至るまで乾燥させた。鉄イオンを含む水溶液へ浸漬及び乾燥処理を経た後(第1処理工程後)の高分子電解質膜1における鉄イオンの存在量は、スルホ基の個数100に対して鉄イオンの個数2に相当する量であった。
その後、この高分子電解質を0.3%過酸化水素水に浸漬させた後、空気中に静置して水分量が10重量%に至るまで乾燥させた。過酸化水素水への浸漬及びその後の乾燥という一連の工程を計24回繰り返した。
分子量測定の結果、共重合体の重量平均分子量維持率は74%であり、イオン交換基を有するブロックの重量平均分子量維持率は70%であった。処理方法4にあっては、図1に示すように、共重合体の分子量維持率がイオン交換基を有するブロックのそれよりも低い値であった。このことから、処理方法4は、処理方法1,2と比較すると、共重合体のイオン交換基を実質的に有しないブロックを高い頻度で劣化させるものであることが分る。
【0172】
(処理方法5)
燃料電池運転条件を下記に示す条件とした以外は、処理方法2と同様の方法で高分子電解質膜1を処理した。
[燃料電池運転条件]
燃料電池セルの温度を95℃、水素極ガス入口露点を45℃、空気極ガス入口露点を55℃、水素ガス流量を25mL/min、空気流量を63mL/min、水素極ガス出口背圧を0.1MPaG、空気極ガス出口背圧を0.05MPaGとし、開回路と一定電流での負荷変動試験を233時間実施した。
【0173】
分子量測定の結果、共重合体の重量平均分子量維持率は87%であり、イオン交換基を有するブロックの重量平均分子量維持率は82%であった。図1に示すように、処理方法5における共重合体及びイオン交換基を有するブロックの分子量維持率の関係は、処理方法1,2,4におけるものと類似しており、共重合体及びイオン交換基を有するブロックの劣化の頻度はほぼ同じであった。
【0174】
<高分子電解質2−4の調製及び耐久性評価>
(高分子電解質2)
共沸蒸留装置を備えたフラスコに、窒素雰囲気下、4,4’−ビフェノール10.19g(54.72mmol)、炭酸カリウム8.32g(60.20mmol)、N,N−ジメチルアセトアミド96g、トルエン50gを加えた。バス温155℃で2時間30分トルエンを加熱還流することで系内の水分を共沸脱水した。生成した水とトルエンを留去した後、室温まで放冷し、4,4’−ジクロロジフェニルスルホン22.00g(76.61mmol)を加えた。バス温を160℃に昇温し、14時間保温撹拌した。放冷後、反応液を12N塩酸/メタノール溶液(重量比1/5の混合溶液)に加え、析出した沈殿を濾過した後、イオン交換水で中性になるまで洗浄し、次いでメタノールで洗浄した後、乾燥した。得られた祖生成物27.19gをN,N−ジメチルアセトアミド97gに溶解し、不溶物を濾過した後、12N塩酸/メタノール溶液(重量比1/11の混合溶液)に加え、析出した沈殿を濾過した後、イオン交換水で中性になるまで洗浄し、乾燥し下記式(A−1)で表されるポリマー25.87gを得た。
GPC分子量: Mn=1700、Mw=3200
【化48】

【0175】
次に、アルゴン雰囲気下、フラスコに無水臭化ニッケル2.12g(9.71mmol)、N−メチルピロリドン96gを加え、バス温70℃で攪拌した。無水臭化ニッケルが溶解したのを確認した後、バス温を50℃に冷却し、2,2’−ビピリジル1.82g(11.65mmol)を加え、ニッケル含有溶液を調製した。
【0176】
アルゴン雰囲気下、フラスコに上記式(A−1)で表されるポリマー4.02g、N−メチルピロリドン384gを加え50℃に調整した。得られた溶液に、亜鉛粉末3.81g(58.23mmol)、メタンスルホン酸/N−メチルピロリドン溶液(重量比1/9の混合溶液)1.05g、および、特開2007−270118実施例1記載の方法により合成した、4,4’−ジクロロビフェニル−2,2’−ジスルホン酸ジ(2,2−ジメチルプロピル)24.00g(45.85mmol)を加え、50℃で30分間撹拌した。これに、前記ニッケル含有溶液を注ぎ込み、50℃で6時間重合反応を行い、黒色の重合溶液を得た。
【0177】
得られた重合溶液を、6N塩酸に投入し、室温で30分間撹拌した。生じた沈殿を濾過した後、6N塩酸を加え、室温で30分間撹拌し、濾過し、イオン交換水で濾液のpHが4を越えるまで洗浄した。得られた粗ポリマーに、粗ポリマーとイオン交換水の合計の重量と、メタノールの重量とが同じになるように、イオン交換水とメタノールとを、粗ポリマーが浸かるまで加え、バス温90℃で1時間加熱撹拌した。粗ポリマーをろ過し、乾燥することで、スルホン酸前駆基(スルホン酸(2,2−ジメチルプロピル)基)を有するポリマー23.88gを得た。
【0178】
次に、以下のようにしてスルホン酸前駆基をスルホ基に変換した。
上述のようにして得られたスルホン酸前駆基を有するポリマー23.88g、イオン交換水47.76g、無水臭化リチウム15.93g(183.4mmol)及びN−メチルピロリドン478gをフラスコに入れ、バス温126℃で12時間加熱撹拌し、ポリマー溶液を得た。得られたポリマー溶液を6N塩酸に投入し、1時間攪拌した。析出した粗ポリマーを濾過し、大量の12N塩酸/メタノール溶液(重量比1/1の混合溶液)で数回洗浄した後、濾液のpHが4を越えるまでイオン交換水で洗浄した。続いて、得られたポリマーに大量のイオン交換水を加え、90℃以上に昇温し、約10分間加熱保温し濾過する洗浄操作を、5回繰り返した。得られたポリマーを乾燥することにより下記式(A−2)で表されるポリマー17.25gを得た。
【0179】
得られたポリアリーレン系共重合体をN―メチルピロリドンに溶解し、高分子電解質溶液を調製した。その後、得られた高分子電解質溶液をPETフィルム上に流延塗布し、常圧下、80℃で2時間乾燥させる事により溶媒を除去した後、塩酸処理、イオン交換水での洗浄を経て、約20μmの高分子電解質膜2を作製した。
GPC分子量: Mn=340000、Mw=706000
IEC: 4.6meq/g
【化49】

【0180】
高分子電解質膜2に対して処理方法1に準拠して試験を実施した。高分子電解質膜2における鉄イオンの存在量は、スルホ基の個数100に対して鉄イオンの個数12に相当する量であった。分子量の測定結果から(M/M−1)/Mの値は、1.0×10-6であった。
【0181】
(高分子電解質3)
共沸蒸留装置を備えたフラスコに、窒素雰囲気下、9,9−ビス(4−ヒドキシフェニル)フルオレン14.82g(42.29mmol)、炭酸カリウム6.43g(46.52mmol)、N,N−ジメチルアセトアミド96g、トルエン51gを加えた。バス温155℃で2時間30分トルエンを加熱還流することで系内の水分を共沸脱水した。生成した水とトルエンを留去した後、室温まで放冷し、4,4’−ジクロロジフェニルスルホン17.00g(59.20mmol)を加えた。バス温を160℃に昇温し、14時間保温撹拌した。放冷後、反応液を12N塩酸/メタノール溶液(重量比1/5の混合溶液)に加え、析出した沈殿を濾過した後、イオン交換水で中性になるまで洗浄し、次いでメタノールで洗浄した後、乾燥した。得られた祖生成物27.61gをN,N−ジメチルアセトアミド95gに溶解し、不溶物を濾過した後、12N塩酸/メタノール溶液(重量比1/11の混合溶液)に加え、析出した沈殿を濾過した後、イオン交換水で中性になるまで洗浄し、乾燥し下記式(B−1)で表されるポリマー25.39gを得た。
GPC分子量: Mn=2000、Mw=3500
【化50】

【0182】
次に、アルゴン雰囲気下、フラスコに無水臭化ニッケル3.41g(15.62mmol)、N−メチルピロリドン200gを加え、バス温70℃で攪拌した。無水臭化ニッケルが溶解したのを確認した後、バス温を50℃に冷却し、2,2’−ビピリジル2.93g(18.74mmol)を加え、ニッケル含有溶液を調製した。
【0183】
アルゴン雰囲気下、フラスコに上記式(B−1)で表されるポリマー3.35g、N−メチルピロリドン240gを加え50℃に調整した。得られた溶液に、亜鉛粉末3.06g(mmol)、メタンスルホン酸/N−メチルピロリドン溶液(重量比1/9の混合溶液)0.863g、および、特開2007−270118実施例1記載の方法により合成した、4,4’−ジクロロビフェニル−2,2’−ジスルホン酸ジ(2,2−ジメチルプロピル)20.00g(38.21mmol)を加え、50℃で30分間撹拌した。これに、前記ニッケル含有溶液を注ぎ込み、50℃で6時間重合反応を行い、黒色の重合溶液を得た。
【0184】
得られた重合溶液を、6N塩酸に投入し、室温で30分間撹拌した。生じた沈殿を濾過した後、6N塩酸を加え、室温で30分間撹拌し、濾過し、イオン交換水で濾液のpHが4を越えるまで洗浄した。得られた粗ポリマーに、粗ポリマーとイオン交換水の合計の重量と、メタノールの重量とが同じになるように、イオン交換水とメタノールとを、粗ポリマーが浸かるまで加え、バス温90℃で1時間加熱撹拌した。粗ポリマーをろ過し、乾燥することで、スルホン酸前駆基(スルホン酸(2,2−ジメチルプロピル)基)を有するポリマー20.46gを得た。
【0185】
次に、以下のようにしてスルホン酸前駆基をスルホ基に変換した。
上述のようにして得られたスルホン酸前駆基を有するポリマー19.65g、イオン交換水44.21g、無水臭化リチウム13.27g(152.8mmol)及びN−メチルピロリドン295gをフラスコに入れ、バス温126℃で12時間加熱撹拌し、ポリマー溶液を得た。得られたポリマー溶液を6N塩酸に投入し、1時間攪拌した。析出した粗ポリマーを濾過し、大量の12N塩酸/メタノール溶液(重量比1/1の混合溶液)で数回洗浄した後、濾液のpHが4を越えるまでイオン交換水で洗浄した。続いて、得られたポリマーに大量のイオン交換水を加え、90℃以上に昇温し、約10分間加熱保温し濾過する洗浄操作を、5回繰り返した。得られたポリマーを乾燥することにより下記式(B−2)で表されるポリマー15.1gを得た。
得られたポリアリーレン系共重合体をN―メチルピロリドンに溶解し、高分子電解質溶液を調製した。その後、得られた高分子電解質溶液をPETフィルム上に流延塗布し、常圧下、80℃で2時間乾燥させる事により溶媒を除去した後、塩酸処理、イオン交換水での洗浄を経て、約20μmの高分子電解質膜3を作製した。
GPC分子量: Mn=362000、Mw=683000
IEC: 4.7meq/g
【化51】

【0186】
高分子電解質膜3に対して処理方法1に準拠して試験を実施した。高分子電解質膜3における鉄イオンの存在量は、スルホ基の個数100に対して鉄イオンの個数10に相当する量であった。分子量の測定結果から(M/M−1)/Mの値は、1.1×10−6であった。
【0187】
(高分子電解質4)
国際公開番号WO2007/043274パンフレット実施例7、実施例21記載の方法を参考にして、スミカエクセルPES 3600P(住友化学株式会社製)を使用して合成した、下記
【化52】


で示される繰り返し単位からなる、スルホ基を有するブロックと、下記
【化53】


で示される、イオン交換基を実質的に有しないブロックを有する高分子電解質4を得た。
【0188】
高分子電解質4をジメチルスルホキシドに溶解して、濃度が10wt%の溶液を調製した。得られた溶液を、支持基材(東洋紡績社製社製PETフィルム、E5000グレード厚さ100μm)を用いて製膜した。この膜を2N硫酸に2時間浸漬後、再度イオン交換水で水洗せしめて、更に風乾することで、高分子化電解質4を作製した。
【0189】
高分子電解質4に対して処理方法1に準拠して試験を実施した。Fe吸着率はスルホ基に対して9mol%であり、分子量の測定結果から(M/M−1)/Mの値は、3.4×10−6であった。
【0190】
高分子電解質4に対して処理方法2に準拠して試験を実施した。分子量測定の結果、共重合体の重量平均分子量維持率は54%であり、イオン交換基を有するブロックの重量平均分子量維持率は38%であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン交換基を含む高分子電解質の処理方法であって、
前記高分子電解質に水、鉄イオン及び過酸化水素を共存せしめた後、該高分子電解質の重量を基準とした水分量が20重量%以下になるまで該高分子電解質を乾燥させる方法。
【請求項2】
イオン交換基を含む高分子電解質の処理方法であって、
鉄イオンを含む水溶液に高分子電解質を浸漬させたのち、該高分子電解質を水溶液から取り出し、該高分子電解質の重量を基準とした水分量が20重量%以下になるまで該高分子電解質を乾燥させる第1処理工程と、
前記第1処理工程における処理を経た高分子電解質を過酸化水素水に浸漬させたのち、該高分子電解質を過酸化水素水から取り出し、該高分子電解質の重量を基準とした水分量が20重量%以下になるまで乾燥させる第2処理工程と、
を備える方法。
【請求項3】
前記高分子電解質に含まれるイオン交換基の個数を100とすると、前記第1処理工程後において前記高分子電解質に含まれる鉄イオンの個数が1〜50である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
イオン交換基を含む高分子電解質の耐久性を判別する方法であって、
高分子電解質の分子量を測定する第1測定工程と、
鉄イオンを含む水溶液に高分子電解質を浸漬させたのち、該高分子電解質を水溶液から取り出し、該高分子電解質の重量を基準とした水分量が20重量%以下になるまで該高分子電解質を乾燥させる第1処理工程と、
前記第1処理工程における処理を経た高分子電解質を過酸化水素水に浸漬させたのち、該高分子電解質を過酸化水素水から取り出し、該高分子電解質の重量を基準とした水分量が20重量%以下になるまで乾燥させる第2処理工程と、
前記第2処理工程における処理を経た高分子電解質の分子量を測定する第2測定工程と、
を備える方法。
【請求項5】
複数の高分子電解質の耐久性を判別する場合において、高分子電解質に含まれるイオン交換基の個数と、前記第1処理工程後の高分子電解質に含まれる鉄イオンの個数との比率が各高分子電解質について一定となるように前記第1処理工程の処理を行う、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
複数の高分子電解質の耐久性を判別する場合において、高分子電解質の重量と、前記第1処理工程後の高分子電解質に含まれる鉄イオンの重量との比率が各高分子電解質について一定となるように前記第1処理工程の処理を行う、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
前記高分子電解質はイオン交換基を有するブロックと、イオン交換基を実質的に有しないブロックとを有する共重合体を含むものであり、前記第1測定工程及び前記第2測定工程において前記イオン交換基を有するブロックの分子量の測定を行う、請求項4〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
イオン交換基を含む高分子電解質の品質を管理する方法であって、
高分子電解質の分子量を測定する第1測定工程と、
鉄イオンを含む水溶液に高分子電解質を浸漬させたのち、該高分子電解質を水溶液から取り出し、該高分子電解質の重量を基準とした水分量が20重量%以下になるまで該高分子電解質を乾燥させる第1処理工程と、
前記第1処理工程における処理を経た高分子電解質を過酸化水素水に浸漬させたのち、該高分子電解質を過酸化水素水から取り出し、該高分子電解質の重量を基準とした水分量が20重量%以下になるまで乾燥させる第2処理工程と、
前記第2処理工程における処理を経た高分子電解質の分子量を測定する第2測定工程と、
を備える方法。
【請求項9】
複数の高分子電解質の品質を管理する場合において、高分子電解質に含まれるイオン交換基の個数と、前記第1処理工程後の高分子電解質に含まれる鉄イオンの個数との比率が各高分子電解質について一定となるように前記第1処理工程の処理を行う、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
複数の高分子電解質の品質を管理する場合において、高分子電解質の重量と、前記第1処理工程後の高分子電解質に含まれる鉄イオンの重量との比率が各高分子電解質について一定となるように前記第1処理工程の処理を行う、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
前記高分子電解質はイオン交換基を有するブロックと、イオン交換基を実質的に有しないブロックとを有する共重合体を含むものであり、前記第1測定工程及び前記第2測定工程において前記イオン交換基を有するブロックの分子量の測定を行う、請求項8〜10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
イオン交換基を有するブロックと、イオン交換基を実質的に有しないブロックとを含むブロック共重合体を含む高分子電解質膜であって、
下記式(a)で表される条件を満たすことを特徴とする高分子電解質膜;
【数1】


式中、Mは下記工程(1)及び工程(2)による処理後の前記イオン交換基を有するブロックの平均分子量を示し、Mは下記工程(1)による処理がなされる前の前記イオン交換基を有するブロックの平均分子量を示す;
(1)高分子電解質膜に鉄イオンを吸着させる工程であって、鉄イオンを含む水溶液に高分子電解質膜を浸漬させたのち、水溶液から取り出した該高分子電解質膜を温度25℃圧力10hPa以下の条件下で1時間以上にわたって乾燥させて該高分子電解質膜の重量を基準とした水分量を10重量%以下にするとともに該高分子電解質膜に含まれるイオン交換基の個数100に対して当該工程後において該高分子電解質膜に含まれる鉄イオンの個数を8〜12に調整する工程;
(2)上記(1)の処理を経た高分子電解質膜を劣化させる工程であって、0〜30℃の範囲にある3重量%過酸化水素水に該高分子電解質膜を浸漬させたのち、過酸化水素水から取り出した高分子電解質膜を50℃の空気中に20分以上静置し、該高分子電解質膜の重量を基準とした水分量が20重量%以下になるまで乾燥させる工程。
【請求項13】
前記ブロック共重合体は、イオン交換基を有するブロックとイオン交換基を実質的に有しないブロックとを含む芳香族系ブロック共重合体である、請求項12に記載の高分子電解質膜。
【請求項14】
前記イオン交換基を有するブロックは、ホスホン基、カルボキシル基、スルホ基及びスルホンイミド基からなる群から選ばれる1種類以上のイオン交換基を有する、請求項12または13に記載の高分子電解質膜。

【図1】
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【公開番号】特開2011−103297(P2011−103297A)
【公開日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−232640(P2010−232640)
【出願日】平成22年10月15日(2010.10.15)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】