説明

高剛性ポリプロピレン系樹脂の製造方法およびそれを用いたブロー成形体

【課題】軽量で、かつ剛性,寸法安定性,耐熱性に優れる大型ブロー部品の製造が可能な耐ドローダウン性の良好な高剛性ポリプロピレン系樹脂を開発し、該ポリプロピレン系樹脂からなる、特に、自動車用大型部品、例えば、バンパー,バンパービーム,シートバック,インストルメントパネル等に好適に用いられるブロー成形体を提供する。
【解決手段】立体規則性触媒を用い、第一段階及び第二段階でそれぞれ極限粘度〔η〕が異なるプロピレン重合体を生成させ、さらに、第三段階においてプロピレン−エチレン共重合体を生成させる多段重合法による高剛性ポリプロピレン系樹脂の製造方法及び、該方法により製造された高剛性ポリプロピレン系樹脂からなるブロー成形体である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高剛性ポリプロピレン系樹脂の製造方法及びそれを用いたブロー成形体に関する。さらに詳しくは、軽量で、かつ剛性,寸法安定性,耐熱性に優れる大型ブロー部品の製造が可能な耐ドローダウン性の良好な高剛性ポリプロピレン系樹脂の製造方法、及びこの高剛性ポリプロピレン系樹脂から得られた、特に、自動車のバンパーやバンパービームなどのバンパー類に好適に用いられるブロー成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ポリプロピレン系樹脂は、汎用樹脂として押出成形、射出成形、ブロー成形など、種々の成形法によって、所望形状の製品に成形されている。これらの成形法の中で、ブロー成形法は、金型が安価であり、かつ一体成形による工程の簡素化が可能であるなどの長所を有することから、自動車部品を中心とした大型構造材の成形に盛んに用いられるようになってきた。この場合、材料として、比重,剛性,寸法安定性,耐熱性などの観点から、ポリプロピレン系樹脂が多用されている。
【0003】
しかしながら、一般のポリプロピレン系樹脂においては、ブロー成形に要求される耐ドローダウン性、あるいは剛性が必ずしも充分に満足しうるものではなく、そのため、これまで種々の改良が試みられてきた。
例えば、特許文献1には、プロピレン単独重合体とプロピレン−エチレン共重合体とを特定の極限粘度と組成比で生成させることによって、ドローダウン性の改良されたポリプロピレン系樹脂を得る方法が提案されているが、このようなポリプロピレン系樹脂は一方で成形品とした場合の剛性が十分でなく、更なる改良が望まれていた。また、多段重合と造核剤による剛性の改良(特許文献2)、特定の多段重合と造核剤による耐ドローダウン性及び剛性の改良(特許文献3)などの技術も開示されている。
【0004】
しかしながら、これらの技術においては、剛性や耐ドローダウン性はある程度向上するものの、約5kg以上のいわゆる大型ブロー部品を成形しようとすると、耐ドローダウン性が不充分であって、成形不可能となったり、製品の肉厚分布が不均一になるなと、満足な製品が得られないという問題があった。このため、5kg以上の大型ブロー成形品の成形にあっては、ポリプロピレン系樹脂に高密度ポリエチレンなどのポリエチレン系樹脂を配合することによってドローダウンの解消を図っているのが実情である。しかし、高密度ポリエチレンの配合は樹脂の剛性を大幅に低下させるため、実際はこれに更にタルクなどの無機フィラーを添加していた。
【0005】
いずれにしても、ポリエチレン系樹脂の配合,タルクの配合などによってポリプロピレン系樹脂の本来の特性が失われ、特にブロー成形におけるピンチオフ強度が極端に低下する欠点があることから、タルクの配合による重量増加とともにポリプロピレン自体で大型のブロー成形品が成形できる樹脂の出現が望まれている。このことは、単に技術的な面だけでなく、成形品のリサイクルという社会的事情からも解決しなければならない問題点である。
【0006】
【特許文献1】特公昭63−36609号公報
【特許文献2】特公平3−74264号公報
【特許文献3】特開昭63−213547号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、このような状況において、軽量で、かつ剛性,寸法安定性,耐熱性に優れる大型ブロー部品の製造が可能な耐ドローダウン性の良好な高剛性ポリプロピレン系樹脂を開発することを目的とするとともに、このポリプロピレン系樹脂からなる、特に、自動車用大型部品、例えば、バンパー,バンパービーム,シートバック,インストルメントパネル等に好適に用いられるブロー成形体を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記の好ましい性質を有する高剛性ポリプロピレン系樹脂、及びこれからなるブロー成形体を開発すべく鋭意研究を重ねた。その結果、プロピレン重合体とプロピレン−エチレン共重合体との3段重合による特定条件により製造されたポリプロピレン系樹脂が、その目的を達成しうることを見出した。本発明は、かかる知見に基づいて完成したものである。
【0009】
すなわち、本発明は、以下の高剛性ポリプロピレン系樹脂の製造方法及びブロー成形体を提供する。
1.ラクトン類を含む立体規則性触媒を用いてプロピレン重合体とプロピレン−エチレン共重合体とを、第一段階では50〜70℃でプロピレンの重合を行い、135℃のデカリン中で測定された極限粘度〔η〕が0.5〜3.5デシリットル/gのプロピレン重合体を全重合量の60〜80重量%の割合で生成させ、第二段階では50〜70℃でプロピレンの重合を行い、135℃のデカリン中で測定された極限粘度〔η〕が3.5〜5.5デシリットル/gのプロピレン重合体を全重合量の10〜20重量%の割合で生成させ、第三段階では45〜65℃でプロピレンとエチレンの共重合を行い、135℃のデカリン中で測定された極限粘度〔η〕が3.5〜5.5デシリットル/gで、かつエチレン単位含有量が40〜75重量%のプロピレン−エチレン共重合体を全重合量の8〜15重量%の割合で生成させる3段重合により製造することを特徴とする高剛性ポリプロピレン系樹脂の製造方法。
2.立体規則性触媒が、遷移金属のハロゲン化物、有機アルミニウム化合物およびラクトン類からなり、遷移金属のハロゲン化物1モルに対して0.01〜10モルのラクトン類を含有するものである上記1の高剛性ポリプロピレン系樹脂の製造方法。
3.ラクトン類がγ−ラクトン及び/又はε−ラクトンである上記2の高剛性ポリプロピレン系樹脂の製造方法。
4.上記1〜3の方法により製造された高剛性ポリプロピレン系樹脂からなるブロー成形体。
5.自動車用バンパー類に用いられる上記のブロー成形体。
【発明の効果】
【0010】
本発明の方法により、軽量で、かつ剛性,寸法安定性,耐熱性に優れる大型ブロー部品の製造が可能な耐ドローダウン性の良好な高剛性ポリプロピレン系樹脂を製造することができる。
本発明の高剛性ポリプロピレン系樹脂から得られたブロー成形体は、特に、自動車用大型部品、例えば、バンパー,バンパービームなどのバンパー類、シートバック,インストルメントパネル等に好適に用いられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明のポリプロピレン系樹脂を製造する方法としては、プロピレン重合体とプロピレン−エチレン共重合体とを多段重合により生成させる方法が用いられる。
この多段重合法としては、立体規則性触媒を用い、第一段階及び第二段階でそれぞれ極限粘度〔η〕が異なるプロピレン重合体を生成させ、さらに、第三段階においてプロピレン−エチレン共重合体を生成させる方法が用いられる。
【0012】
上記多段重合に用いられる立体規則性触媒としては、例えば、遷移金属のハロゲン化物と、有機アルミニウム化合物と、立体規則性が向上した分子量分布の広い重合体を得るために添加される、例えばラクトン類と、からなるものを挙げることができる。
【0013】
ここで、遷移金属のハロゲン化物としては、チタンのハロゲン化物が好ましく、特に、三塩化チタンが好適である。この三塩化チタンとしては、例えば、四塩化チタンを種々の方法で還元したもの、これをさらにボールミル処理及び/又は溶媒洗浄(例えば、不活性溶媒や極性化合物含有不活性溶媒を用いた洗浄)により活性化したもの、三塩化チタン又は三塩化チタン共晶体(例えば、TiCl3 ・1/3AlCl3)をさらにアミン,エーテル,エステル,硫黄,ハロゲンの誘導体、有機若しくは無機の窒素又はリン化合物などと共粉砕処理したものなどを挙げることができる。また、チタンのハロゲン化物をマグネシウム系担体上に担持したものも用いることができる。
【0014】
また、有機アルミニウム化合物としては、一般式(I)
AIRn3-n ・・・(I)
〔式中、Rは炭素数1〜10のアルキル基、Xはハロゲン原子、nは0<n≦3の数を示す。〕
で表される化合物を挙げることができる。
このような有機アルミニウム化合物の具体例としては、ジメチルアルミニウムクロリド,ジエチルアルミニウムクロリド,エチルアルミニウムセスキクロリド,エチルアルミニウムジクロリド,トリエチルアルミニウムなどが挙げられる。これらのアルミニウム化合物は、それぞれ単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。また、この有機アルミニウム化合物は、前記遷移金属のハロゲン化物1モルに対して、通常、1〜100モルの割合で用いられる。
【0015】
さらに、上記ラクトン類としては、例えば、一般式(II)
【化1】

【0016】
〔式中、R1及びR2は、それぞれ水素原子又は炭素数20以下の飽和脂肪族,不飽和脂肪族,脂環式,芳香族などの炭化水素基を示し、それらはたがいに同一でも異なっていてもよく、mは2〜8の整数を示す。〕
で表されるものが挙げられる。
【0017】
このラクトン類としては、例えば、γ−ブチロラクトン,γ−バレロラクトン,γ−カプロラクトン,γ−カプリロラクトン,γ−ラウロラクトン,γ−パルミラクトン,γ−ステアロラクトンなどのγ−ラクトン、δ−バレロラクトン, δ−カプロラクトンなどのδ−ラクトン、ε−カプロラクトンなどのε−ラクトン、β−プロピオラクトン,ジメチルプロピオラクトンなどのβ−ラクトンなどが挙げられる。これらのラクトン類の中では、γ−ラクトン及びε −ラクトンが好ましく、特に、γ−ブチロラクトン,γ−カプロラクトン及びε−カプロラクトンが好適である。これらのラクトン類は、それぞれ単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。また、このラクトン類は、前記遷移金属のハロゲン化物1モルに対して、通常、0.01〜10モルの割合で用いられる。
【0018】
前記多段重合においては、第一段階において、50〜70℃でプロピレンの重合を行い、極限粘度(135℃,デカリン中)〔η〕が0.5〜3.5デシリットル/gのプロピレン重合体を全重合量の60〜80重量%の割合で生成させるのがよい。このプロピレン重合体の極限粘度〔η〕が0.5デシリットル/g未満では、得られるポリプロピレン系樹脂の衝撃強度が低く、また、3.5デシリットル/gを超えると、ブロー成形時の吐出量が低下する場合がある。更に、生成量が60重量%未満では、得られるポリプロピレン系樹脂の剛性が不充分であり、80重量%を超えると、衝撃強度が低下する場合がある。
【0019】
次に、第二段階では、50〜70℃でプロピレンの重合を行い、極限粘度(135℃,デカリン中)〔η〕が3.5〜5.5デシリットル/gのプロピレン重合体を全重合量の10〜20重量%の割合で生成させるのがよい。このプロピレン重合体の極限粘度〔η〕が3.5デシリットル/g未満では、得られるポリプロピレン系樹脂の衝撃強度が低く、5.5デシリットル/gを超えると、ブロー成形時の吐出量が低下する場合がある。また、生成量が10重量%未満では、得られるポリプロピレン系樹脂の剛性が不充分であり、20重量%を超えると、衝撃強度が低下する場合がある。
【0020】
そして、第三段階では、45〜65℃でプロピレンとエチレンとの共重合を行い、極限粘度(135℃,デカリン中)〔η〕が3.5 〜5.5デシリットル/gで、かつエチレン単位含有量が40〜75重量%のプロピレン−エチレン共重合体を全重合量の8〜15重量%の割合で生成させるのがよい。このプロピレン−エチレン共重合体の極限粘度〔η〕が3.5デシリットル/g未満では、得られるポリプロピレン系樹脂の衝撃強度が低く、5.5デシリットル/gを超えると、ブロー成形時の吐出量が低下する場合がある。また、生成量が8重量%未満では、得られるポリプロピレン系樹脂の衝撃強度が低く、15重量%を超えると、剛性が低下する場合がある。さらに、該プロピレン−エチレン共重合体において、エチレン単位含有量が40重量%未満では、得られるポリプロピレン系樹脂の衝撃強度が低く、75重量%超えると、剛性が低下する場合がある。このエチレン単位の含有量は、赤外線吸収スペクトルを測定することにより求めることができる。
【0021】
なお、各段階における重合体の極限粘度〔η〕の調節は、例えば、水素などの分子量調節剤の濃度を適宜変化させることにより行うことができる。また、重合反応における圧力は、各段階共に、通常、常圧〜30kg/cm2G、好ましくは1〜15kg/cm2Gの範囲で選ばれる。
【0022】
さらに、重合形式としては、例えば、3槽以上の重合槽を用いて連続的に行う方法、1槽以上の重合槽を用いて回分式に行う方法、さらには、これらの連続的方法と回分式方法とを組み合わせて行う方法などを適用することができる。また、重合方法については、特に制限はなく、例えば、懸濁重合、溶液重合、気相重合など、いずれの方法も採用することができる。
溶媒を用いる場合、溶媒としては、例えば、ヘプタン,ヘキサンなどの脂肪族炭化水素、シクロヘキサンなどの脂環式炭化水素、ベンゼン,トルエンなどの芳香族炭化水素などが挙げられる。これらの溶媒は一種用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
このようにして得られた本発明のポリプロピレン系樹脂は、耐ドローダウン性が良好であって、軽量で、かつ剛性,寸法安定性,耐熱性に優れる大型ブロー部品を与えることができる。
【0023】
本発明の方法により製造されるポリプロピレン系樹脂は、JIS K−7210に準拠し、温度230℃,荷重2,160gで測定したメルトインデックス〔MI〕が0.1〜1.2グラム/10分の範囲にあることが好ましい。このMIが0.1g/10分未満では、ブロー成形時の吐出量が著しく低下し、生産性が悪くなる。また、1.2g/10分を超えると、大型ブロー成形が不可能となる。更に好ましいMIの範囲は成形性などの点から0.2〜1.0グラム/10分である。
【0024】
さらに、該ポリプロピレン系樹脂は伸長粘度〔Y(Pas)〕と上記MIとの関係が、好ましくは式 2.0×105×MI-0.68≦Y≦8.0×105×MI-0.68
更に好ましくは、2.3×105×MI-0.68≦Y≦4.8×105×MI-0.68
を満たすものである。このYが、2.0×105×MI-0.68未満では、ブロー成形時のパリソンのドローダウンが激しく、5kg以上の大型ブロー成形品のブロー成形が困難となる。また、Yが、8.0×105×MI-0.68を超える場合は、押出特性が低下し、成形品の外観に劣るものとなる。
なお、伸長粘度〔Y(Pas)〕は延伸レオメーター(例えば、岩本製作所(株)製)を用い、直径3mm,長さ20cmの棒状試料を175℃のシリコーンオイル中に15分間静置し、温度175℃,歪速度0.05sec-1、歪2.0の条件で測定した値である。
【0025】
本発明のブロー成形体は、前記ポリプロピレン系樹脂に、所望に応じて各種添加成分、例えば、軟質エラストマー,変性ポリオレフィン,酸化防止剤,耐熱安定剤,耐候安定剤,無機又は有機充填剤,造核剤,帯電防止剤,塩素捕捉剤,スリップ剤,難燃剤,着色剤などを配合し、ブロー成形することにより得られる。ブロー成形法については、特に制限はなく、従来ポリプロピレン系樹脂のブロー成形において慣用されている方法を用いることができる。
本発明のブロー成形体は、従来一般に用いられているタルク等の無機充填材を大量に配合したポリプロピレンをブロー成形してなるブロー成形体に比べて軽量で、かつ剛性,寸法安定性,耐熱性に優れており、特に、自動車のバンパーやバンパービームなどのバンパー類に好適に用いられる。
【0026】
以下に、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明は、これらの例によって何ら制限されるものではない。
なお、ポリプロピレン系樹脂のメルトインデックス〔MI〕及び伸長粘度〔Y〕は、明細書に記載した方法に従って求め、エチレン単位含有量は赤外線吸収スペクトルの測定により、引張弾性率はJIS K7113、アイゾット衝撃値(−20℃)はJIS K7110に従って求めた。
また、各段階における重合体の極限粘度〔η〕は、135℃のデカリン中で測定した値である。
【0027】
実施例1
内容積10リットルの攪拌機付オートクレーブに、n−ヘプタン4リットル,ジエチルアルミニウムクロリド5.7ミリモル,三塩化チタン0.7g及びε−カプロラクトン0.2ミリリットルを仕込んだ。
次に、液相温度を60℃に維持し、生成するプロピレン重合体が所定の極限粘度となるように計量された水素及び反応圧力が9kg/cm2Gとなるようにプロピレンを連続的に上記オートクレーブに供給し、90分間攪拌しながら第一段目の重合を行った。その後、未反応プロピレンを除去し、温度を60℃に維持しながら、計量された水素とプロピレンとを反応圧力が7kg/cm2Gとなるように連続的に供給し、40分間第二段目の重合を行った。
さらに、温度を57℃に維持しながら、プロピレンとエチレンとの混合物及び計量された水素を、反応圧力が5kg/cm2Gとなるように連続的に供給し、30分間第三段目の重合を行った。
重合生成物にn−ブタノールを加え、65℃で1時間攪拌して触媒の分解を行ったのち、分離,洗浄,乾燥の各工程を経て、白色粉末状のポリプロピレン系樹脂を得た。
各段階で得られた重合体の極限粘度〔η〕及び重合量を第1表に示す。また、ポリプロピレン系樹脂の物性を第2表に示す。
【0028】
実施例2
実施例1において、各段階における重合体の極限粘度〔η〕と重合量を第1表に示すように変えた以外は、実施例1と同様にして重合を行った。結果を第2表に示す。
【0029】
実施例3
実施例1において、各段階における重合体の極限粘度〔η〕と重合量を第1表に示すように変えた以外は、実施例1と同様にして重合を行った。結果を第2表に示す。
【0030】
実施例4
実施例1で得られた重合体に対して、核剤として、メチレンビス(2,4−ジ−t−ブチルフェノール)アシッドホスフェートナトリウム塩0.1重量%を添加してポリプロピレン系樹脂を得た。このものの物性を第2表に示す。
【0031】
比較例1及び2
内容積10リットルの攪拌機付オートクレーブに、脱水n−ヘキサン5リットルを投入し,ジエチルアルミニウムクロリド1.0gと三塩化チタン0.3gを加えた。
液相温度を65℃に維持し、生成するプロピレン重合体が所定の極限粘度となるように計量された水素及び反応圧力が9kg/cm2Gとなるようにプロピレンを連続的に上記オートクレーブに供給し、90分間攪拌しながら第一段目の重合を行った。その後、未反応プロピレンを除去し、液相温度を50℃まで下げた。 次に、温度50℃,圧力9kg/cm2Gに維持しなから、計量された水素及びプロピレンを連続的に供給し、40分間第二段目の重合を行った。
更に、温度を50℃に維持しながらプロピレン−エチレン混合物及び計量された水素を供給し、30分間第三段目の重合を行った。次いで、未反応ガスを除去し、重合生成物にn−ブタノール50ミリリットルを加え、65℃で1時間攪拌して触媒分解を行った。しかる後、分離工程、洗浄工程、乾燥工程を経て白色粉末ポリマーを得た。 各重合段階で得られた重合体の極限粘度〔η〕及び重合量を第1表に示すように変えて重合を行った。また、ポリプロピレン系樹脂の物性を第2表に示す。
【0032】
比較例3
実施例1において、触媒成分として、ε−カプロラクトンを添加しなかったこと以外は、実施例1と同様にして重合を行った。各段階における重合体の極限粘度〔η〕と重合量を第1表に示し、またポリプロピレン系樹脂の物性を第2表に示す。
【0033】
比較例4
実施例1において、各段階における重合体の極限粘度〔η〕と重合量を第1表に示すように変えた以外は、実施例1と同様にして重合を行った。結果を第2表に示す。
【0034】
比較例5
二段重合として、第一段目の重合量を増加させ、実施例1に準じて重合を行った。各段階における重合体の極限粘度〔η〕と重合量を第1表に示し、またポリプロピレン系樹脂の物性を第2表に示す。
【0035】
比較例6
下記の組成の混合物に所定の酸化防止剤を添加したのち、異方向二軸混練機〔(株)神戸製鋼所製,2FCM)を用いて設定温度200℃,スクリュー回転数800回転にて混練した。このとき、溶融体の温度は250℃であった。押出機にてストランドを形成したのちペレタイザーにて造粒し、バンパービーム用複合材料を作製し、その物性を測定した。結果を第2表に示す。
ポリプロピレン(エチレン含量;5重量%,MI;0.9g/10分) 70重量%
高密度ポリエチレン(HLMI:3.8g/10分) 20重量%
タルク 10重量%
ここで、HLMIは、温度190℃,荷重21.6kgの条件下で測定したMIを表す。
【0036】
【表1】

【0037】
【表2】

【0038】
【表3】

【0039】
実施例5〜8,比較例7〜12
実施例1〜4及び比較例1〜6の各々の条件に準じてスケールアップして得られたポリプロピレン系樹脂を用い、各々について以下に示す成形条件及び温度条件にて、自動車用バンパービーム(1,400×100×100mm,重量5kg)及びトラック用バンパー(2,100×400×70mm,重量7.2kg)を成形した。但し、トラック用バンパーは実施例8についてのみ成形を行った。
【0040】
〔成形条件〕
成形機 : 90mmφ
スクリュー :90mmφ
ダイ : 100mmφ
アキュームレータ: 15リットル(自動車用バンパービーム)
25リットル(トラック用バンパー)
型締圧力: 60ton
スクリュー回転数 : 40rpm
モーター負荷: 115A
【0041】
〔温度条件〕
シリンダー No.1:230℃
No.2:210℃
No.3:190℃
No.4:190℃
クロスヘッドNo.1:190℃
No.2:190℃
No.3:190℃
ダイス No.1:190℃
No.2:190℃
成形サイクル :200sec
金型温度 :28℃
樹脂温度 :225℃
【0042】
自動車用バンパービーム及びトラック用バンパーについて、(1)成形性,(2)肉厚分布,外観,(3)製品剛性,(4)吐出量,(5)ピンチオフ強度及び(6)耐衝撃性を調べ、総合評価を行った。結果を第3表〜第5表に示す。但し、第3表の結果は実施例8についての値であり、第4表及び第5表は自動車用バンパービームの成形について得られたものである。
なお、各項目の測定は、次に従った。
【0043】
(1)成形性
必要パリソン長/パリソン重量物[バンパービーム:1,900mm/10kg,バンパー:2,600mm/15kg]をアキュームレータより射出し、金型が締まるまでの時間5秒までのパリソン長の変化;
L/Lo<1.10 ◎ 良好
1.10≦L/Lo≦1.15 ○ やや良好
L/Lo >1.15 × 不良
Lo :射出終了時のパリソン長
L :射出終了5秒後のパリソン長
【0044】
(2)肉厚分布
各断面の肉厚測定:肉厚変動10%以下 ◎ 良好
肉厚変動10%より大きく20%以下 ○ やや良好
肉厚変動20%より大 × 不良
【0045】
(3)製品剛性(のり上がり剛性, 100kg)
変形量をスチール製のものと比較
○; ≦3mm(スチールと同等またはそれ以下)
×; >3mm(スチールより大きい)
【0046】
(4)吐出性能
1時間当たりの吐出量を測定;ブロー用90mmφ押出機により、比較例6の複合材料使用の場合との比較で示した。
◎; 複合材料より優れている
○; 複合材料とほぼ同等
【0047】
(5)ピンチオフ強度
ブロー成形品には、型締めの際にパリソンの内側どうしか融着し、ピンチオフ部と称される融着部を形成する。このピンチオフ部は、破壊の起点となりやすいため、特に構造部品,強度部品においてはその融着性の向上が必要とされる。従って、以下の方法でピンチオフ部の融着強度を評価した。
実施例4及び比較例6の各々において得られた樹脂を用い、所定形状のボトルをブロー成形により作成し、その底部からピンチオフ部を幅方向に含むように幅20mmの帯状の試験片を切り出した。得られた試験片のピンチオフ部の両端に切り欠き(ノッチ刃;R=2.0)を入れ、ピンチオフ部の幅を10mmとなるようにした。
この試験片を引張試験機(INSTRON 1125,米国INSTRON社製)を用いて、引張速度50mm/分で試験した。
得られる降伏強さ及び破断エネルギーをピンチオフ強度の指標とした。即ち、これらの値が大きい程融着性に優れることとなる。尚、降伏強さは応力−歪み曲線における最大応力の値で示され、破断エネルギーは応力−歪み曲線において、〔(応力)×Δ(歪み)〕の値を歪み値の変域0〜破断点における歪み値の間で積分して得られる値で表され、簡便には、得られる応力−歪み曲線と横軸との間の面積で示すことができる。
【0048】
(6)耐衝撃性
実施例4及び比較例6の各々において得られた樹脂を用い、ブロー成形して得られたバンパービームについて、米国連邦自動車安全基準(Federal Motor Vehicle Safety Standards;略称FMVSS)PART 581に準拠したペンデュラム試験(Pendulum test)を行った。即ち、重量1000kgの台車にバンパービームを取付け、重量1000kgの振り子(impact ridge)を時速5マイル/時(約8km/時)で衝突させ、発生荷重と変形量の関係を得た。衝突箇所はバンパービームの中央部とした。 試験温度は、実車搭載を考慮して高温(50℃),常温(23℃),低温(−10℃,−30℃)とした。尚、評価は最大変形量、割れの有無で行った。
【0049】
【表4】

【0050】
【表5】

【0051】
【表6】

【0052】
尚、第4表における総合評価は、第5表のピンチオフ強度及び耐衝撃性の結果も考慮したものである。
また、第5表においては、実施例8では、比較例12に対し、降伏づよさで約1.7倍、破断エネルギーで約10倍の融着強度を有することが示された。また、ペンデュラム試験における、実施例8の優れた耐衝撃性の発現はピンチオフ部の融着強度の大幅な向上によると考えられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラクトン類を含む立体規則性触媒を用いてプロピレン重合体とプロピレン−エチレン共重合体とを、第一段階では50〜70℃でプロピレンの重合を行い、135℃のデカリン中で測定された極限粘度〔η〕が0.5〜3.5デシリットル/gのプロピレン重合体を全重合量の60〜80重量%の割合で生成させ、第二段階では50〜70℃でプロピレンの重合を行い、135℃のデカリン中で測定された極限粘度〔η〕が3.5〜5.5デシリットル/gのプロピレン重合体を全重合量の10〜20重量%の割合で生成させ、第三段階では45〜65℃でプロピレンとエチレンの共重合を行い、135℃のデカリン中で測定された極限粘度〔η〕が3.5〜5.5デシリットル/gで、かつエチレン単位含有量が40〜75重量%のプロピレン−エチレン共重合体を全重合量の8〜15重量%の割合で生成させる3段重合により製造することを特徴とする高剛性ポリプロピレン系樹脂の製造方法。
【請求項2】
立体規則性触媒が、遷移金属のハロゲン化物、有機アルミニウム化合物およびラクトン類からなり、遷移金属のハロゲン化物1モルに対して0.01〜10モルのラクトン類を含有するものである請求項1に記載の高剛性ポリプロピレン系樹脂の製造方法。
【請求項3】
ラクトン類がγ−ラクトン及び/又はε−ラクトンである請求項2に記載の高剛性ポリプロピレン系樹脂の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3に記載の方法により製造された高剛性ポリプロピレン系樹脂からなるブロー成形体。
【請求項5】
自動車用バンパー類に用いられる請求項4に記載のブロー成形体。

【公開番号】特開2008−63587(P2008−63587A)
【公開日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−291712(P2007−291712)
【出願日】平成19年11月9日(2007.11.9)
【分割の表示】特願平8−504884の分割
【原出願日】平成7年7月14日(1995.7.14)
【出願人】(505130112)株式会社プライムポリマー (180)
【Fターム(参考)】