説明

高周波モジュール及びその高周波線路の接続方法

【課題】伝搬特性の劣化が少なく、低コスト化及び組立作業の簡易化を実現する高周波モジュール及びその高周波線路の接続方法を提供する。
【解決手段】ステム43を貫通するガラスフィードスルー44aと、高周波光デバイス42を搭載するキャリア基板49と、ガラスフィードスルー44aとキャリア基板49の中心導体53aとを中継する中継基板48とを備えた高周波モジュール41において、中継基板48の中心導体51がマイクロストリップ線路構造であり、キャリア基板49の中心導体53aがグランデッドコプレーナ線路構造であり、中継基板48の中心導体51とキャリア基板49の中心導体53aとを対向して配置すると共に、中継基板48と対向するキャリア基板49の側面に、キャリア基板49裏面のグランド面と中心導体53a脇のグランド面53bとを短絡する側面メタライズ53cを設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高周波電気信号により駆動される高周波モジュール及びその高周波線路の接続方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高周波電気信号により駆動される高周波モジュールとして、ガラスフィードスルーからなる同軸タイプの高周波線路と、高周波電子デバイス又は高周波光デバイス(若しくは、高周波電子デバイス及び高周波光デバイス)とを有する各種の高周波モジュールがある。これらの高周波モジュールの高周波線路の構成に関して、従来のCAN形光モジュールを図1に示す。
【0003】
従来のCAN形光モジュール1において、高周波光デバイス2や高周波電子デバイス3を搭載するCAN形パッケージ4(ステム5、キャップ6)は、その内部に搭載された高周波光デバイス2や高周波電子デバイス3に外部からの電気信号を加えるための電極ピン7や配線ワイヤ10、高周波光デバイス2や高周波電子デバイス3を気密封止するための構造(ステム5、キャップ6)、高周波光デバイス2と外部との光の送受信のための窓構造(窓11)などを有している。高周波モジュールの設計においては、それらの構造を最適化して、必要となる特性スペックやパッケージサイズの達成、低コスト化や生産性の高い構造に仕上げることが重要となっている。近年、光通信用部品をはじめ、高周波モジュールの急激なコストダウンが進む中、特性の確保と同じくらい低コスト化の重要性が高まっている(非特許文献1)。
【0004】
CAN形パッケージは、電子デバイス、光デバイスの低コスト用パッケージとして従来から広く利用されてきた。CAN形パッケージでは、電極ピンをガラスハーメチック構造とした構成が一般的で、電極ピン部分の電気的な特性は、同軸タイプの高周波配線構造として設計することができる。例えば、図1では、中心導体となる電極ピン7と、その周囲のハーメチックガラス8とによりガラスフィードスルー9が構成され、高周波光デバイス2と接続されるガラスフィードスルー9が同軸タイプの高周波線路となっている。一般的には、同軸タイプの電極構造は、広い周波数に渡って特性の制御がしやすい理想的な電極形状であるが、パッケージサイズの制約や機械強度及び気密性を確保する観点から、小型のCAN形パッケージにおいては、構造と特性の最適化が困難な場合が多く、高周波用の電子デバイスや光デバイス用パッケージとしての用途ではあまり利用されてこなかった。
【0005】
又、従来のCAN形パッケージでは、低コスト化のために、電極ピンからデバイスまでの電気信号配線を簡素化できるように設計されることが多く、例えば、電極ピンからデバイスまでボールボンダ等によるワイヤ配線のみで電気的な接続を行う方法が採られていた。比較的広帯域な電気信号駆動を要するCAN形パッケージの適用例として、直接変調レーザ用のパッケージとしての利用が広く知られているが、この場合、電極ピンとデバイスを直接ワイヤ配線した形態では高周波特性が悪くなるため、コストを妥協して、電極ピンとデバイスの間に中継基板を配置したり、デバイスのヒートシンクに中継用の高周波線路を構成したりする構造が利用されてきた。この比較的高周波の用途で利用されている直接変調レーザ用のCAN形パッケージを図2(a)、(b)に示し、その電極ピンからデバイスまでの高周波線路の従来の構成を説明する。
【0006】
図2(a)、(b)に示すように、CAN形光モジュール21は、直接変調レーザからなる高周波光デバイス22を有する。そのステム23には、高周波電気信号用のガラスフィードスルー24a、DC駆動用のガラスフィードスルー24bを貫通して設けており、それらの中心には、中心導体となる電極ピン25a、25bを設け、電極ピン25a、25bの周囲にハーメチックガラス26a、26bを設けている。又、ステム23と一体成型して、平坦な側面(実装面)を有するテラス27が設けられており、このテラス27の実装面に、中継基板28、高周波光デバイス22を搭載するキャリア基板29、レンズ30等を実装している。そして、ステム23に実装された高周波光デバイス22等を覆うように、ステム23の周囲を封止する窓付きキャップが設けられるが、ここでは図示を省略している。
【0007】
図2(a)、(b)において、CAN形光モジュール21に搭載した高周波光デバイス22を駆動するための高周波電気信号は、モジュールパッケージ(ステム23)に取り付けられたガラスフィードスルー24aからなる電極ピン25aから導入され、電気配線となる中継基板28の高周波線路31aや配線ワイヤ32aなどを介して高周波光デバイス22まで伝搬される。ステム23に取り付けられたガラスフィードスルー24aからなる高周波用電極ピン25a、中継基板28の高周波線路31a、配線ワイヤ32aなどは、それぞれ高周波電気信号の伝搬性能を引き出すために、理想的には特性インピーダンスを制御されていることが望ましく、銀ペースト、メタルワイヤなどを使って電気的な接続が行われ、全体として高周波線路としての機能を果たす。この高周波線路を伝搬した高周波電気信号は、キャリア基板29上の高周波線路33aからの配線ワイヤ34によって高周波光デバイス22に電気的に接続され、高周波光デバイス22の駆動に必要な高周波電気信号が供給されて、光モジュールとしての特性が発揮されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】岡安雅信、他1名、「10Gbit/s 光トランシーバ/光モジュールの小型・省電力化の動向」、信学技報IEICE Technical Report LQE2007-119(2007-12)、社団法人 電気通信情報学会、2007年、P33−36
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
高周波モジュールにおいて、高周波配線同士の接続方法については、特性劣化を極力抑えることに加え、それぞれの電気配線部分のサイズや電気配線のための作業性を考慮して決められるのが一般的であり、小型のCAN形パッケージにおいては、特性劣化の抑制と作業性の確保を両立することが課題となっている。特に、中継基板とキャリア基板に形成された高周波線路の接続部分においては、信号線、グランド線をそれぞれワイヤリングすることで、高周波線路の接続部分における線路特性の急激な変化を抑制し、高周波電気信号の伝搬特性を劣化させないように設計されることが一般的である。例えば、図2(a)においては、中継基板28に形成された高周波線路31aとキャリア基板29に形成された高周波線路33aが配線ワイヤ32aにより接続され、中継基板28に形成されたグランド面31bとキャリア基板29に形成されたグランド面33bが配線ワイヤ32bにより接続されている。しかしながら、ワイヤボンディングのために必要なスペースが確保できない、特性を確保するために必要な電極サイズが確保できないなど設計上の課題があった。又、従来の中継基板とキャリア基板上の高周波線路の構成においては、信号線及び信号線両側のグランド線をそれぞれワイヤリングする必要があり、作業数が多く、スループットが悪いという課題があった。
【0010】
又、高周波電気信号の伝搬損失を低減するため、高周波線路の接続部分におけるマイクロ波の電界の広がり形状が同じようになるように、中継基板、キャリア基板を設計しており、対向する部分の高周波線路構造は、中継基板、キャリア基板の両方とも同様の構造に揃えたものが一般的であった。
【0011】
又、中継基板、キャリア基板の両方とも、高周波線路の接続部分において、信号線の両側に安定なグランド面を構成するために、裏面グランドと信号線両側のグランド面をショートするメタル膜を、セラミック基板端の側面に無電解メッキや蒸着によって構成するか、又は、裏面グランドと信号線両側のグランド面をショートするビアを、セラミック基板端に近い部分に形成することなどが一般的であった。しかしながら、側面メタライズやビア形成を中継基板、キャリア基板の両方とも実施しているため、価格への影響が比較的大きいことが問題であった。
【0012】
近年、光送信器の小型化、低コスト化に対するニーズが強くなり、光送信器に搭載される電子モジュールや光モジュールに対しても、小型化、低コスト化と合わせて、広帯域化に向けた研究開発が盛んに行われている。このような背景の中で、ガラスフィードスルーを搭載した高周波モジュールにおいて、前述のような問題を解決することはとても重要であり、この課題解決に寄せる期待は非常に大きくなっている。特に、10Gbps(bit per seconds)を超えるような高周波駆動が必要となる光モジュールにおいても、小型化と併せて低コスト化に対する要求が急速に高まっている。本発明は、このガラスフィードスルーを搭載した高周波モジュールにおける高周波特性向上の過程で検討され、見出された高周波線路の接続構造及び接続方法に関するものであり、このような高周波配線技術を適用して構成した高周波モジュールに関するものである。
【0013】
ガラスフィードスルーを使った同軸タイプの高周波モジュールにおいて、高周波特性の劣化要因の解明や特性劣化を抑制するための検討が盛んに行われるに従って、ガラスフィードスルーから高周波モジュールに搭載される電子デバイスや光デバイスまでの高周波線路の接続構造及び接続方法の最適化が進んできた。このような中で、本発明では、ガラスフィードスルーからなる高周波線路を有する高周波モジュールと配線基板(中継基板、キャリア基板)について、特性劣化のない接続を実現する接続構造及び接続方法を提供すること、特に、小型化、低価格化を実現するために重要性が高まっている同軸タイプの高周波モジュールにおいて、ガラスフィードスルーから高周波デバイスまでの高周波線路について、特性劣化が少なく効率的な高周波電気信号の伝搬を実現する接続構造及び接続方法を提供することを目的としている。このように、本発明では、伝搬特性の劣化が少なく、低コスト化及び組立作業の簡易化を実現する、新たな高周波モジュールの構造及びその高周波線路の接続方法を提案する。
【課題を解決するための手段】
【0014】
一般に、高周波モジュールの高周波線路部分は、特性制御が難しく、低コスト化のための構造最適化が難しい部分である。低コスト化のためには、側面のメタライズやビア構造を無くすことが有効であるが、グランド電位が不安定になることによる伝搬特性劣化や高周波電気信号の伝搬モードに影響を与えることによる過剰な反射損失の増加が発生してしまう。特性劣化を抑制するため、従来のように、それぞれの高周波電気信号の接続部で対向する信号線、信号線両脇のグランドをそれぞれワイヤ接続すれば、それぞれの基板コストが高くなる、作業工数が多く、コスト抑制ができないなどの問題が残り、特性劣化抑制と低コスト化にはトレードオフの関係が見られる。
【0015】
そこで、本発明では、以下に示す高周波モジュール及びその高周波線路の接続方法を提案する。
【0016】
上記課題を解決する第1の発明に係る高周波モジュールは、
パッケージ筐体を貫通するガラスフィードスルーからなる同軸タイプの高周波線路と、
メタルパターンからなる高周波線路を有し、高周波電気信号によって駆動される電子デバイス又は光デバイスの少なくとも一方を搭載するキャリア基板と、
メタルパターンからなる高周波線路を有し、前記同軸タイプの高周波線路と前記キャリア基板の高周波線路とを中継する中継基板とを備えた高周波モジュールにおいて、
前記中継基板の高周波線路がマイクロストリップ線路構造であり、
前記キャリア基板の高周波線路がグランデッドコプレーナ線路構造であり、
前記中継基板の高周波線路と前記キャリア基板の高周波線路とを対向して配置し、
前記中継基板と対向する前記キャリア基板の側面に、前記キャリア基板裏面のグランド面と前記キャリア基板表面の高周波線路脇のグランドとを短絡する側面メタライズ構造を設け、
前記同軸タイプの高周波線路を前記中継基板の高周波線路に直接接続し、
前記中継基板の高周波線路を前記キャリア基板の高周波線路にワイヤで接続したことを特徴とする。
【0017】
つまり、このような構造を採用することによって、中継基板には側面メタライズやグランドビアを構成する必要がないため、中継基板を低コストに作成することができ、ワイヤを介して高周波電気信号を伝搬させる部分において、伝搬損失を少なくするためのモード変換をスムーズに実現することが可能となる。更に、中継基板からキャリア基板の間の高周波電気信号の接続において、信号線路同士をワイヤ接続するだけで高周波電気信号の伝搬が実現でき、作業工数を抑制することができる。中継基板のエッジとキャリア基板のエッジの両方でモード変換を行うことに比べ、ワイヤ接続部でモード変換を行うことで、モード変換する部分を減らすことができ、更に基板トータルのコストを低減することが可能となる。従って、このような構造により、特性劣化の抑制と部材コストの抑制を両立させている。
【0018】
上記課題を解決する第2の発明に係る高周波モジュールは、
上記第1の発明に記載の高周波モジュールにおいて、
前記中継基板と対向する前記キャリア基板の側面に加え、前記キャリア基板のその他の側面にも、前記キャリア基板裏面のグランド面と前記キャリア基板表面の高周波線路脇のグランドとを短絡する側面メタライズ構造を設けたことを特徴とする。
【0019】
上記課題を解決する第3の発明に係る高周波モジュールは、
上記第1の発明に記載の高周波モジュールにおいて、
前記中継基板と対向する前記キャリア基板の側面と、当該側面と反対側の前記キャリア基板の側面の2面に、前記キャリア基板裏面のグランド面と前記キャリア基板表面の高周波線路脇のグランドとを短絡する側面メタライズ構造を設けたことを特徴とする。
【0020】
つまり、高周波特性の改善効果を更に引き出すために、中継基板と対向するキャリア基板の側面に加え、中継基板と対向するキャリア基板の側面と反対側の側面やその他の側面にも、裏面のグランドと信号線脇のグランドをショートする側面メタライズを行っている。このような構造により、キャリア基板において、高周波電気信号の基板共振による特性劣化を抑制できる。
【0021】
上記課題を解決する第4の発明に係る高周波モジュールの高周波線路の接続方法は、
パッケージ筐体を貫通するガラスフィードスルーからなる同軸タイプの高周波線路と、
メタルパターンからなる高周波線路を有し、高周波電気信号によって駆動される電子デバイス又は光デバイスの少なくとも一方を搭載するキャリア基板と、
メタルパターンからなる高周波線路を有し、前記同軸タイプの高周波線路と前記キャリア基板の高周波線路とを中継する中継基板とを備えた高周波モジュールの高周波線路の接続方法であって、
前記中継基板の高周波線路としてマイクロストリップ線路構造を用い、
前記キャリア基板の高周波線路としてグランデッドコプレーナ線路構造を用い、
前記中継基板の高周波線路と前記キャリア基板の高周波線路とを対向して配置し、
前記中継基板と対向する前記キャリア基板の側面に、前記キャリア基板裏面のグランド面と前記キャリア基板表面の高周波線路脇のグランドとを短絡する側面メタライズ構造を形成し、
前記同軸タイプの高周波線路を前記中継基板の高周波線路に直接接続し、
前記中継基板の高周波線路を前記キャリア基板の高周波線路にワイヤで接続することを特徴とする。
【0022】
上記課題を解決する第5の発明に係る高周波モジュールの高周波線路の接続方法は、
上記第4の発明に記載の高周波モジュールの高周波線路の接続方法において、
前記中継基板と対向する前記キャリア基板の側面に加え、前記キャリア基板のその他の側面にも、前記キャリア基板裏面のグランド面と前記キャリア基板表面の高周波線路脇のグランドとを短絡する側面メタライズ構造を形成することを特徴とする。
【0023】
上記課題を解決する第6の発明に係る高周波モジュールの高周波線路の接続方法は、
上記第4の発明に記載の高周波モジュールの高周波線路の接続方法において、
前記中継基板と対向する前記キャリア基板の側面と、当該側面と反対側の前記キャリア基板の側面の2面に、前記キャリア基板裏面のグランド面と前記キャリア基板表面の高周波線路脇のグランドとを短絡する側面メタライズ構造を形成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、中継基板をマイクロストリップ線路構造とし、キャリア基板をグランデッドコプレーナ線路構造とし、互いに異なる高周波線路構造を採用し、中継基板には側面メタライズやビア構造を施さず、キャリア基板のみに側面メタライズを施しているので、キャリア基板では、デバイス直近まで高周波電気信号の伝搬損失を抑制すること、デバイスを搭載した段階でデバイス特性を簡単に評価できることなど、従来から有用であった特性的なメリットや高生産性を維持することが可能であり、このような利点を維持したまま、中継基板では、その低コスト化と組立作業時の工程を少なくすることを可能にしている。
【0025】
又、本発明によれば、高周波モジュールのガラスフィードスルーから高周波モジュール内に配置された高周波電子/光デバイスまで高周波電気信号を伝搬する高周波線路において、中継基板とキャリア基板との接続部における高周波電気信号の伝搬損失、反射損失を低減することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】従来のCAN型光モジュールを示す斜視図である。
【図2】従来の高周波モジュールにおける高周波線路の接続例を示す図であり、(a)は側面図、(b)は斜視図である。
【図3】本発明に係る高周波モジュールにおける高周波線路の接続例を示す図であり、(a)は側面図、(b)は斜視図、(c)は拡大図である。
【図4】本発明に係る高周波モジュールの構成における高周波電気信号の伝搬特性である。
【図5】従来の高周波モジュールの構成における高周波電気信号の伝搬特性である。
【図6】本発明に係る高周波モジュールの他の構成における高周波電気信号の伝搬特性である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明に係る高周波モジュール及びその高周波線路の接続方法の好適な実施例を以下に説明する。なお、ここでは、高周波モジュールとして、光デバイス用のモジュール(光モジュール)を例示して説明を行うが、電子デバイス用のモジュールにも適用可能である。
【0028】
(実施例1)
本実施例では、一般的な電子デバイスや測定装置の特性インピーダンスである50Ωと整合する小型のCAN形パッケージを利用した光モジュールであって、高周波線路部分が特性インピーダンス50Ωに近くなるように設計された光モジュールについて説明する。そのような光モジュールの高周波線路の接続例を図3(a)、(b)に示す。
【0029】
図3(a)、(b)に示すように、CAN形光モジュール41は、直接変調レーザからなる高周波光デバイス42を有する。そのパッケージ筐体となるステム43には、高周波電気信号用のガラスフィードスルー44a、DC駆動用のガラスフィードスルー44bを貫通して設けており、それらの中心には中心導体(高周波線路)となる電極ピン45a、45bを設け、電極ピン45a、45bの周囲にはハーメチックガラス46a、46bを設けている。又、ステム43と一体成型して、平坦な側面(実装面)を有するテラス47が設けられており、このテラス47の実装面に、中継基板48、高周波光デバイス42を搭載するキャリア基板49、レンズ50等を実装している。そして、ステム43に実装された高周波光デバイス42等を覆うように、ステム43の周囲を封止する窓付きキャップが設けられるが、ここでは図示を省略している。なお、CAN形光モジュール41において、ステム43は、後述するように鉄系材料を用いており、テラス47と共に筐体グランドとなっている。
【0030】
一般的に、CAN形パッケージにおける電気配線ピンは低コスト化のためガラスフィードスルー構造で構成されることが多い。本実施例でも、高周波用の電極ピン45a及びDC駆動用の電極ピン45bともガラスフィードスルー構造で全ての電極ピンを構成している。
【0031】
本実施例では、高周波用電極ピン45aのハーメチックガラス46aは、特性インピーダンスを50Ωに近づけるため、図3(b)に示すように、他のDC駆動用電極ピン45bのハーメチックガラス46bよりも径が大きくなっている。一般に、ガラスフィードスルー44a、44bの特性インピーダンスは、ハーメチックガラス46a、46bの誘電率、中心導体となる電極ピン45a、45bの直径、ハーメチックガラス46a、46bの直径によって特性が決定される。その他、機械的な強度を維持するために、ステム43の厚さによってハーメチックガラス46a、46bの直径の最小値が制限されることや、電極ピン45a、45bの本数やステム43のサイズからハーメチックガラス46a、46bの最大直径が制限される。又、ステム43の材料とハーメチックガラス46a、46bの線膨張係数の整合性によって、ハーメチックガラス46a、46bの誘電率が制限されることや電極ピン45a、45bの強度によって中心導体の直径が制限される。本実施例では、光モジュールに求められる温度制御の観点から放熱性が良いことを考慮し、ステム43の材料として鉄系材料を用い、それにしたがってハーメチックガラス46a、46bの材料の誘電率:約6.5、直径:1.2mm、中心導体径:0.2mmとして、特性インピーダンス:約43Ωを得ている。
【0032】
次に、この高周波用電極ピン45aから内部に搭載される高周波光デバイス42までの配線部分について説明する。高周波用電極ピン45aと高周波光デバイス42を搭載したキャリア基板49を直接接続すると、高周波用電極ピン45aとキャリア基板49の電気接続のための位置合わせによって、キャリア基板49に搭載した高周波デバイス42の光出力部の位置が最適な位置からずれるため、通常は、高周波用電極ピン45aとキャリア基板49を直接接続せず、中継基板48を間に挟むことで、高周波用電極ピン45aからの電気的な接続とキャリア基板49の搭載位置の最適化の両方を実現する方法が一般的である。本実施例でも同様の配線構成を採用しており、高周波用電極ピン45aと中継基板48のメタルパターンからなる中心導体51(高周波線路)は、ハンダで電気的に直接接続されている。このハンダ接続が容易にできるように、中継基板48の中心導体51は電極ピン45aよりも広くなるように設計し、特性インピーダンスが50Ωとなるように中継基板48の基板厚が決められている。本実施例では、基板厚:0.4mm、中心導体幅:0.4mm、誘電率:約9の材料を用いて中継基板48を作製した。
【0033】
高周波用電極ピン45aから、中継基板48を介して、キャリア基板49に搭載した高周波光デバイス42へ高周波電気信号を伝搬させるため、中継基板48上で中心導体51を曲げ、キャリア基板49上の中心導体53a(高周波線路)と中継基板48上の中心導体51が対向するように設計している。中継基板48の低コスト化のため、中継基板48上の高周波線路は全てマイクロストリップ線路構造としている。つまり、中継基板48の表面に中心導体51となる信号線を形成し、反対側の裏面にグランド面を形成することで、マイクロストリップ線路構造としている。ここでは、マイクロストリップ線路の特徴であるマイクロ波の閉じ込めが強いことから、中心導体51の経路が曲っても高周波電気信号の伝搬損失が少ないこともメリットになっている。なお、中継基板48は、その一部をマイクロストリップ線路構造としてもよい。
【0034】
そして、中継基板48とキャリア基板49との間は、中継基板48上の中心導体51とキャリア基板49上の中心導体53aとを配線ワイヤ52のみで接続している。つまり、高周波線路における信号線路側のみ接続しており、グランド側は、中継基板48裏面のグランド面とキャリア基板49裏面のグランド面がテラス47により電気的に接続され、更に、後述するように、側面メタライズにより、キャリア基板49裏面のグランド面とキャリア基板49表面にグランド面53bが電気的に接続されている。このように、配線ワイヤ52のみで接続を行っているため、組立作業時の工程を少なくすることを可能にしている。配線ワイヤ52は、後述する配線ワイヤ54を含めて、高周波電気信号の伝搬性能を引き出すために、理想的には特性インピーダンスを制御されていることが望ましく、銀ペースト、メタルワイヤなどを使って電気的な接続が行われ、高周波線路として機能している。
【0035】
中継基板48と対向して電気信号を受けるキャリア基板49では、高周波光デバイス42の搭載のため、メタルパターンからなる中心導体53aの両脇であって、キャリア基板49の表面にグランド面53bを形成している。そのため、キャリア基板49上の高周波線路はグランデッドコプレーナ線路構造を採用している。この構造は、デバイス直近まで高周波電気信号の伝搬特性を所望の特性に制御すること、キャリア基板49に高周波光デバイス42を搭載した段階で、高周波光デバイス42の特性を簡単に評価できることなど、キャリア基板49上に高周波線路を構成することで、特性的なメリットが得られ、又、生産性を高めるために有用であることから利用されることが多い。そして、キャリア基板49と高周波光デバイス42との間は、キャリア基板49上の中心導体53aと高周波光デバイス42とを配線ワイヤ54で接続している。
【0036】
従来の高周波モジュールでは、キャリア基板上の高周波線路構造をグランデッドコプレーナ線路構造にした場合、高周波電気信号の伝搬損失を低減するという目的で、中継基板との接続部におけるマイクロ波の電界の広がり形状が同じようになるように設計しており、キャリア基板と対向する中継基板の高周波線路構造も同様の構造に揃えたものが一般的であった。これに対して、本発明では、中継基板48上の高周波線路構造を、キャリア基板49上の高周波線路構造とは敢えて異なる構造とし、マイクロストリップ線路構造を採用しており、これにより、中継基板48の低コスト化と組立作業時の工程を少なくすることを可能にしている。
【0037】
又、本実施例では、高周波電気信号の伝搬特性を改善するため、キャリア基板49上に構成されたグランデッドコプレーナ線路において、中継基板48と対向するキャリア基板49の側面(配線ワイヤ52が接続される方の側面)に側面メタライズ53cを施しており、キャリア基板49の裏面のグランド(図示省略)とキャリア基板49表面のグランデッドコプレーナ線路のグランド面53bとを短絡させている。このことによって、中継基板48のマイクロストリップ線路からキャリア基板49上のグランデッドコプレーナ線路への高周波電気信号の伝搬特性の改善も実現している。
【0038】
図4は、本実施例の高周波モジュールにおける高周波電気信号の伝搬特性を電磁界解析より計算した結果である。なお、グラフ中のS11は反射特性を、S21は透過特性を示している。一方、図5は、中継基板と対向するキャリア基板の側面に側面メタライズを施さなかった場合であり、10GHzあたりでのマイクロ波の反射が大きくなって、伝搬損失が増えている様子が顕著である。これに比べて、図4に示す本実施例の高周波モジュールでは、伝搬損失の急激な劣化が現れる周波数が13GHz以上まで広帯域化されている様子が確認できる。
【0039】
以上の結果から、本実施例の高周波モジュールは、10Gbps以上の高周波電気信号駆動に用いることができる。
【0040】
以上説明したように、本実施例では、中継基板をマイクロストリップ線路構造とし、キャリア基板をグランデッドコプレーナ線路構造とし、互いに異なる高周波線路構造を採用し、中継基板には側面メタライズやビア構造を施さず、キャリア基板のみに側面メタライズを施している。そのため、キャリア基板では、デバイス直近まで高周波電気信号の伝搬損失を抑制すること、デバイスを搭載した段階でデバイス特性を簡単に評価できることなど、従来から有用であった特性的なメリットや高生産性を維持することが可能である。そして、このような利点を維持したまま、中継基板では、その低コスト化と組立作業時の工程を少なくすることを可能にしている。
【0041】
又、本実施例では、図4に示した電磁界解析の結果から、電気透過特性及び電気反射特性とも、10GHz付近の損失が小さくなって、効率的に電気信号を伝搬できることが明らかであり、特性上の効果が確認できる。つまり、高周波モジュールのガラスフィードスルーから高周波モジュール内に配置された高周波電子/光デバイスまで高周波電気信号を伝搬する高周波線路において、中継基板とキャリア基板との接続部における高周波電気信号の伝搬損失、反射損失を低減することが可能である。
【0042】
(実施例2)
本実施例の高周波モジュールは、キャリア基板49における高周波電気信号の共振を無くすため、実施例1の構成に加えて、中継基板48と対向するキャリア基板49の側面の反対側の側面にも側面メタライズを施して、キャリア基板49裏面のグランドとキャリア基板49表面のグランド面53bとを短絡している。つまり、中継基板48と対向するキャリア基板49の側面と、その反対側の側面の2面に側面メタライズを施している。
【0043】
本実施例の高周波モジュールにおける高周波電気信号の伝搬特性を電磁界解析より計算した結果が、図6である。本実施例では、実施例1の特性(図4に示した特性)を更に改善し、10GHz付近の伝搬ロスが約1dB改善されて、高周波領域における伝搬損失の平滑化が実現されている。
【0044】
更に、中継基板48と対向するキャリア基板49の側面、中継基板48と対向する側面と反対側のキャリア基板49の側面の2面に加えて、その他の側面にも側面メタライズを形成して、キャリア基板49裏面のグランドとキャリア基板49表面のグランド面53bとを短絡するようにもよい。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明は、ガラスフィードスルーからなる同軸タイプの高周波線路と高周波電子デバイス、高周波光デバイスを有する各種の高周波モジュールに好適である。
【符号の説明】
【0046】
41 CAN形光モジュール
42 高周波光デバイス
43 ステム
44a、44b ガラスフィードスルー
45a、45b 電極ピン
46a、46b ハーメチックガラス
48 中継基板
49 キャリア基板
51、53a 中心導体
52、54 配線ワイヤ
53b グランド面
53c 側面メタライズ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パッケージ筐体を貫通するガラスフィードスルーからなる同軸タイプの高周波線路と、
メタルパターンからなる高周波線路を有し、高周波電気信号によって駆動される電子デバイス又は光デバイスの少なくとも一方を搭載するキャリア基板と、
メタルパターンからなる高周波線路を有し、前記同軸タイプの高周波線路と前記キャリア基板の高周波線路とを中継する中継基板とを備えた高周波モジュールにおいて、
前記中継基板の高周波線路がマイクロストリップ線路構造であり、
前記キャリア基板の高周波線路がグランデッドコプレーナ線路構造であり、
前記中継基板の高周波線路と前記キャリア基板の高周波線路とを対向して配置し、
前記中継基板と対向する前記キャリア基板の側面に、前記キャリア基板裏面のグランド面と前記キャリア基板表面の高周波線路脇のグランドとを短絡する側面メタライズ構造を設け、
前記同軸タイプの高周波線路を前記中継基板の高周波線路に直接接続し、
前記中継基板の高周波線路を前記キャリア基板の高周波線路にワイヤで接続したことを特徴とする高周波モジュール。
【請求項2】
請求項1に記載の高周波モジュールにおいて、
前記中継基板と対向する前記キャリア基板の側面に加え、前記キャリア基板のその他の側面にも、前記キャリア基板裏面のグランド面と前記キャリア基板表面の高周波線路脇のグランドとを短絡する側面メタライズ構造を設けたことを特徴とする高周波モジュール。
【請求項3】
請求項1に記載の高周波モジュールにおいて、
前記中継基板と対向する前記キャリア基板の側面と、当該側面と反対側の前記キャリア基板の側面の2面に、前記キャリア基板裏面のグランド面と前記キャリア基板表面の高周波線路脇のグランドとを短絡する側面メタライズ構造を設けたことを特徴とする高周波モジュール。
【請求項4】
パッケージ筐体を貫通するガラスフィードスルーからなる同軸タイプの高周波線路と、
メタルパターンからなる高周波線路を有し、高周波電気信号によって駆動される電子デバイス又は光デバイスの少なくとも一方を搭載するキャリア基板と、
メタルパターンからなる高周波線路を有し、前記同軸タイプの高周波線路と前記キャリア基板の高周波線路とを中継する中継基板とを備えた高周波モジュールの高周波線路の接続方法であって、
前記中継基板の高周波線路としてマイクロストリップ線路構造を用い、
前記キャリア基板の高周波線路としてグランデッドコプレーナ線路構造を用い、
前記中継基板の高周波線路と前記キャリア基板の高周波線路とを対向して配置し、
前記中継基板と対向する前記キャリア基板の側面に、前記キャリア基板裏面のグランド面と前記キャリア基板表面の高周波線路脇のグランドとを短絡する側面メタライズ構造を形成し、
前記同軸タイプの高周波線路を前記中継基板の高周波線路に直接接続し、
前記中継基板の高周波線路を前記キャリア基板の高周波線路にワイヤで接続することを特徴とする高周波モジュールの高周波線路の接続方法。
【請求項5】
請求項4に記載の高周波モジュールの高周波線路の接続方法において、
前記中継基板と対向する前記キャリア基板の側面に加え、前記キャリア基板のその他の側面にも、前記キャリア基板裏面のグランド面と前記キャリア基板表面の高周波線路脇のグランドとを短絡する側面メタライズ構造を形成することを特徴とする高周波モジュールの高周波線路の接続方法。
【請求項6】
請求項4に記載の高周波モジュールの高周波線路の接続方法において、
前記中継基板と対向する前記キャリア基板の側面と、当該側面と反対側の前記キャリア基板の側面の2面に、前記キャリア基板裏面のグランド面と前記キャリア基板表面の高周波線路脇のグランドとを短絡する側面メタライズ構造を形成することを特徴とする高周波モジュールの高周波線路の接続方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−4833(P2013−4833A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−136025(P2011−136025)
【出願日】平成23年6月20日(2011.6.20)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】