説明

高周波加熱装置、高周波加熱方法および表面温度センサ

【課題】本発明は、熱間鍛造部材においてその素材を目標加熱温度に精度よく均一にかつ迅速に加熱する高周波加熱装置と高周波加熱方法と、また、このために用いる計器誤差の小さい安定した測定値の得られる表面温度センサを提供することを課題とする。
【解決手段】本発明の高周波加熱装置1は、鍛造素材10を加熱する高周波加熱コイル20と、この鍛造素材10の表面温度を測定する表面温度センサ30と、鍛造素材10の表面温度によって高周波加熱コイル20の出力および/又は加熱時間を制御する制御手段50とを備える。加熱コイル20は鍛造素材10の形状に合わせて2個のコイル22,24に分割されており各加熱コイルを個別に制御する。また、表面温度は接触式の表面温度センサ30を用いて測定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鍛造部材においてその素材を加熱する高周波加熱装置と高周波加熱方法およびこれに用いる表面温度センサに関する。
【背景技術】
【0002】
鍛造部材は、予め棒状素材をロール鍛造機に供して、ロール成形を施し段付き形状の棒状粗形材を成形し、次にこの棒状粗形材をトランスファプレスに供して、荒地鍛造や仕上げ鍛造などを行って順次鍛造成形し、最終的にトリミングを施して所望の鍛造部材を得ることができる。上記のような鍛造部材製造工程において、棒状素材や段付き形状の棒状粗形材は変形抵抗を小さくするために所定の温度まで加熱されてからロール鍛造機やトランスファプレスに供される。
【0003】
このような棒状粗形材を加熱するために抵抗加熱による電気炉やガスまたは燃料油などを熱源とするバーナ式加熱炉が一般的に用いられている。これらの加熱炉は、比較的簡単かつ迅速に温度制御が可能であり、真空中や雰囲気ガス中でも加熱できるために広く採用されている。しかし、これら従来の加熱炉では装入した素材が所定温度に均一に昇温するまでに長時間を要し生産のリードタイムが長い。このため、仕掛かり材を削減し生産のリードタイムを短縮して生産性を向上させるためのネック工程となっていた。
【0004】
上記の問題を解決する加熱方法として高周波加熱が知られている(例えば、特許文献1参照)。高周波加熱は鍛造素材を短時間で所望の温度にまで昇温することができるので鍛造部材製造工程を連続工程として大幅な仕掛かり材の削減と生産リードタイムの短縮とを実現することができる。しかし、従来の高周波加熱方法は1個の加熱コイルで一定出力、一定時間加熱するというもので、素材の形状や加熱開始時の素材温度などは考慮されていなかった。このため、段付き形状の棒状粗形材など異形状のワークでは、局部加熱が発生して目標加熱温度を上回るオーバーヒートを起こしたり、異形状ワークの成形部と未成形部とでは温度差があるために部位によって加熱到達温度が異なることがあった。また、頻発停止などのライン状態の変化により素材間の加熱開始温度がばらつき、結果的に素材間の加熱到達温度のバラツキを大きくするという問題があった。
【0005】
また、従来は鍛造素材の表面温度を知るために非接触の赤外線放射温度計が用いられていた。しかし、赤外線放射温度計は被測定物の表面性状により認識誤差が大きく、さらに測定値のバラツキも大きい。このため加熱開始時の素材温度を測定したとしても得られた測定値を基に加熱条件を制御することができなかった。
【特許文献1】特開2003−155519号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記のような従来の問題点を解決するためになされたものであり、熱間鍛造部材においてその素材を目標加熱温度に精度よく均一にかつ迅速に加熱する高周波加熱装置と高周波加熱方法とを提供することを課題とする。また、このために計器誤差の小さい安定した測定値の得られる表面温度センサを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の高周波加熱装置は、熱間鍛造で成形される鍛造部材の鍛造素材を加熱する高周波加熱装置であって、鍛造素材を加熱する高周波加熱コイルと、この鍛造素材の表面温度を測定する表面温度センサと、鍛造素材の表面温度によって高周波加熱コイルの出力および/又は加熱時間を制御する制御手段とを備えることを特徴とする。
【0008】
本発明の高周波加熱装置は、鍛造素材の表面温度を測定する表面温度センサと、鍛造素材の表面温度によって高周波加熱コイルの出力および/又は加熱時間を制御する制御手段とを備えているので、表面温度に沿った加熱が可能となるので加熱到達温度のバラツキを小さくすることができる。従って、鍛造作業の安定化と鍛造部材の品質を安定化することができる。また、加熱開始温度がばらついても到達温度と時間とを制御できるので、鍛造素材の前工程の残熱を利用することができ加熱時間を短縮するとともに省エネルギ化に寄与することができる。
【0009】
また、本発明の高周波加熱装置は、複数の高周波加熱コイルを備え、制御手段によって各々の加熱コイルの出力と加熱時間とを個別に制御することが望ましい。このような高周波加熱装置においては、鍛造素材が外径の異なる複数の段部を有する段付き軸状ワークであってもよい。例えば、相対的に外径が大きい大径部と、相対的に外径が小さい小径部とを有する軸状ワークを1個の加熱コイルで同時に加熱すると、大径部と小径部とでは昇温速度が異なり、小径部に比べて大径部では昇温速度が遅く、目標加熱温度に到達する時間が遅れることになる。このため、段付き軸状ワークにおいては、ワークの形状に合わせて分割した複数個の高周波加熱コイルを備えることが望ましい。上記のように大径部と小径部とを有するワークでは分割された2個の加熱コイルを用い、それぞれの出力や加熱時間を制御手段で制御することにより鍛造素材全体を均一に加熱昇温することができる。
【0010】
本発明の第1の高周波加熱方法は、熱間鍛造で成形される鍛造部材の鍛造素材を加熱する高周波加熱方法であって、鍛造素材の表面温度を測定しながら加熱し、昇温途中の所定の温度で高周波加熱コイルの出力を段階的に変更することを特徴とする。この第1の高周波加熱方法によれば、鍛造素材の表面温度を測定しながら加熱し、昇温途中の所定の温度で高周波加熱コイルの出力を段階的に変更するので、鍛造素材の過加熱を回避できるとともに素材間の加熱のバラツキを小さくできる。また、部位により加熱開始温度が異なっても部位毎の到達温度のバラツキを抑制することができる。
【0011】
本発明の第2の高周波加熱方法は、熱間鍛造で成形される鍛造部材の鍛造素材を加熱する高周波加熱方法であって、高周波加熱前の鍛造素材の表面温度を測定し、この表面温度を加熱開始温度として予め記憶されている加熱パターンに沿って高周波加熱の出力と加熱時間とを制御することを特徴とする。この第2の高周波加熱方法によれば、高周波加熱前の鍛造素材の表面温度のみを測定すればよいので、鋼鍛造部材など高温加熱を要する鍛造素材にも所望の加熱を精度よく施すことができる。
【0012】
本発明の高周波加熱方法において、鍛造部材はアルミ鍛造部材であることが望ましい。従来の高周波加熱方法では部位によって形状の異なる異形の素材を均一に加熱することが困難であった。このため軟化点や融点の低いアルミ鍛造部材に高周波加熱を採用することは適当ではないと考えられていた。しかし、本発明の第1の高周波加熱方法では加熱中の表面温度を常時測定し、また、第2の高周波加熱方法では予め設定された加熱パターンに沿って加熱することができ、複数の外径を持つ段付き軸状ワーク等の異形の素材についても各外径に対応するように加熱コイルを分割して備えているので、各加熱コイルを個別に昇温制御することでワークの温度分布を比較的均一にすることができる。従って、アルミ鍛造部材についても安定して迅速に加熱することができ、従来、困難であった仕掛かり部材の削減やリードタイムを短縮して生産性を向上することができる。
【0013】
本発明の表面温度センサは、熱間鍛造で成形される鍛造部材の鍛造素材の表面温度を検出する表面温度センサであって、表面温度を検出する熱電対と、鍛造素材の表面に接触させる感温部と、熱電対を収容し感温部を支持する支持体とを備え、感温部は熱伝導率が100W/mK以上の受熱体を有することを特徴とする。 本発明の高周波加熱装置では高周波加熱前に鍛造素材の表面温度を精度よく測定しなければならない。従来用いられていた非接触の赤外線放射温度計による測定では実温に対する認識誤差(計器誤差ともいう)が大きく、また、被測定物の表面状態などによる測定値のバラツキも大きいために不適当である。従って、本発明の高周波加熱方法では精度の高い接触式の熱電対で鍛造素材の表面温度を測定することが望ましい。本発明の表面温度センサは、感温部に熱伝導率の高い受熱体を有しているので、受熱体は鍛造素材の表面温度と迅速に平衡して表面温度を精度よく測定することができる。ここで、受熱体は鍛造素材表面に接触する一端面が凸状球面であり他端面の中心部に熱電対の接続点を固着していることが望ましい。鍛造素材表面に接触する一端面が凸状球面であるので、鍛造素材の曲面に受熱体を確実に当接することができる。また、受熱体の他端面の中心部に熱電対の接続点を固着しているので、鍛造素材の表面温度を迅速にかつ精度よく測定することができる。
【0014】
上記のような受熱体は銅、銅合金、モリブデン、マグネシウム、銀、アルミニウム、アルミニウム合金、あるいは金のうちのいずれかを形成したものであることが好ましい。これらの材料からなる受熱体は熱伝導率が高いので鍛造素材の表面温度を迅速にかつ精度よく測定することができる。
【0015】
また、支持体の感温部近傍に所定形状の窓部を開設することが好ましい。感温部近傍に窓部を設けることで、鍛造素材の熱の支持体への移動が抑制され、表面温度測定による表面温度の大幅な変動を回避することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の好適な実施の形態について図を参照しながら高周波加熱装置、高周波加熱方法、表面温度センサの順に詳しく説明する。
【0017】
(1)高周波加熱装置
図1は好適な実施の形態の構成を説明する一部断面概略構成図である。高周波加熱装置1は、鍛造素材10を加熱する高周波加熱コイル20と、鍛造素材10の表面温度を測定する表面温度センサ30と、鍛造素材10の表面温度によって高周波加熱コイル20の出力および/又は加熱時間を制御する制御手段50とを備えている。
【0018】
本実施の形態においては、鍛造素材10はアルミ鍛造部材のトランスファプレスに供する棒状粗形材であり、棒状素材をロール鍛造機に供してロール成形を施し段付き軸状ワークWとしたものである。
【0019】
また、高周波加熱コイル20は、段付き軸状ワークWの形状に合わせて、ロール成形を施されていない未成形部分である大径部12を加熱する第1の加熱コイル22と、ロール成形されたロール成形部分である小径部14を加熱する第2の加熱コイル24とに分割されている。そして大径部12の表面温度は第1の表面温度センサ32で、また、小径部14の表面温度は第2の表面温度センサ34をそれぞれの適宜の被測定表面に当接して測定できるようになっている。
【0020】
制御部50は高周波加熱装置1全体を制御するマイクロコンピュータ(ECUともいう)であり、マイクロコンピュータの入力ポートには、操作パネルやキーボードあるいは各種センサなどが接続されており、ワークの種類などの所望の情報や各センサによる測定値などのデータを入力することができる。また、出力ポートには各加熱コイル22、24の出力(電圧)や加熱時間などを制御するのに必要な各種信号を生成する回路(図示せず)を介して高周波電源40が接続されている。
【0021】
マイクロコンピュータのメモリには、例えば、ワークの形状データや段付き軸状ワークWの大径部12と小径部14の加熱パターン(加熱条件)などがワークの種類毎に予め格納されている。また、これらのデータや加熱パターンなどによって高周波加熱コイルの出力(電圧)や加熱時間を変化させて加熱温度を制御するプログラムなどが格納されている。
【0022】
本実施の形態ではワークの所定の温度で高周波加熱コイルの出力を段階的に変更するようにプログラムされている。例えば、ワークを所定の温度まで迅速に加熱するように高電圧を印可する第1ステップと、加熱目標温度に対して過加熱を回避するように印可電圧を下げる第2ステップと、加熱目標温度を維持する第3ステップとであり、測定温度に合わせて加熱電圧を切り替える。つまり、加熱目標温度をTmとした場合に、ワークの温度が常温から第1ステップ温度T1までは加熱コイルの出力をV1とし、第1ステップ温度T1を超えて第2ステップ温度T2までは加熱コイルの出力をV2とし、さらに第2ステップ温度T2を越えて加熱目標温度Tmまでの第3ステップでは加熱コイルの出力をV3に切り替えて加熱するようにする。このようにワークの温度上昇に合わせて段階的に出力を変化させて加熱することでワークを短時間にかつ精度よく加熱目標温度まで昇温することができる。
【0023】
(2)高周波加熱方法
本発明の第1の高周波加熱方法は、熱間鍛造で成形される鍛造部材の鍛造素材を加熱する高周波加熱方法であって、鍛造素材の表面温度を測定しながら加熱し、昇温途中の所定の温度で高周波加熱コイルの出力を段階的に変更することを特徴とする。
【0024】
この第1の高周波加熱方法を、第1加熱コイル22と第2加熱コイル24とを有し、段付き軸状ワーク(以降、単にワークともいう)Wの大径部12を第1加熱コイル22で、また、小径部14を第2加熱コイル24で加熱する場合を例に説明する。段付き軸状ワークWは加熱した棒状素材をロール成形して得られるので、ロール成形された小径部は成形時に成形ロールに熱を奪われる。従って、一般的に再加熱工程前では小径部は未成形部である大径部に比べて温度が低い。ここでは、表面温度が大径部で400℃、また、小径部では250℃となっている段付き軸状ワークWを高周波加熱装置1を用いて加熱目標温度450±15℃に再加熱する場合を例に図2に示すフローチャートに沿って具体的に説明する。
【0025】
まず、ステップS1でワークWを加熱コイル20の所定の位置へ配置する。加熱コイル内へはロボットハンドなど適宜の手段を用いて搬入し、ワークWの両端部をコイル内位置決めストッパーなどで挟持してワークWを加熱コイル内の所定の位置に配置する。
【0026】
次に、ステップS2では表面温度センサ32、34をワークWの所定表面に当接させて大径部と小径部の表面温度を測定する。表面温度センサは後述する先端の受熱体が表面温度と平衡となるまで被測定表面に当接する。例えば、当接してから3秒後の測定値を加熱開始温度とする。(この例では加熱開始温度は大径部では400℃、小径部では250℃である。)
【0027】
ステップS3でECUは表面温度を測定しながら高周波加熱コイル22、24に通電してワークの加熱を開始する。メモリには第1ステップ温度T1=280℃、第1ステップ加熱電圧(出力)V1=560V、第2ステップ温度T2=300℃、第2ステップ加熱電圧(出力)V2=500V、第3テップ温度T3=430℃、第3ステップ加熱電圧(出力)V3=300Vと設定されているので、ECUは、まず大径部を加熱する第1加熱コイル22には300V(大径部の加熱開始温度は400℃)を、また、小径部を加熱する第2加熱コイル24には560V(小径部の加熱開始温度は250℃)を印可する。
【0028】
次に、ステップS4では、ECUは小径部の温度が280℃に到達したら第2加熱コイル24の加熱電圧を500Vに切り替える。しかし、第1加熱コイル22の加熱電圧は300Vを維持する。
【0029】
ステップS5では、ECUは小径部の温度が300℃に到達したら第2加熱コイル24の加熱電圧を300Vに切り替える。なお、第1加熱コイル22の加熱電圧は引き続き300Vを維持する。
【0030】
所定時間経過後、大径部の表面温度と小径部の表面温度とが加熱目標温度450℃で一致したら、ECUはステップS6で各加熱コイルの加熱を終了する。
【0031】
ステップS7では、ECUは加熱終了後速やかにワークWを加熱コイル20から取り出し、トランスファプレスなど次工程へ送るようにする。加熱コイルからのワークの取り出しと次工程への搬送は、ステップS1と同様にロボットハンドなど適宜の手段を用いればよい。なお、ワークWは1個ずつ加熱して順次次工程へ搬送するようにする。
【0032】
このようにして得られたワークWの大径部と小径部との昇温曲線を図3に示す。図中◆は大径部の昇温曲線A’であり、▲は小径部の昇温曲線B’である。図3では再加熱開始後約30秒で昇温曲線A’とB’とが破線で示す加熱目標温度450℃で一致することが分かる。
【0033】
また、本発明の第2の高周波加熱方法は、熱間鍛造で成形される鍛造部材の鍛造素材を加熱する高周波加熱方法であって、高周波加熱前の鍛造素材の表面温度を測定し、この表面温度を加熱開始温度として予め記憶されている加熱パターンに沿って高周波加熱の出力と加熱時間とを制御することを特徴とする。
【0034】
第1の高周波加熱方法では、ワークの表面温度を測定しながら到達温度によってそれぞれの加熱コイルの加熱電圧を制御する温度制御としたが、本第2の方法は、各部分の加熱開始温度のみを測定して予め設定されている加熱条件を基に加熱パターンを決定して、この加熱パターンに沿って加熱コイルの加熱電圧と加熱時間とを制御する方法である。図4の昇温曲線Aのグラフを参照しながら第2の高周波加熱方法を詳細に説明する。
【0035】
図4で縦軸は表面温度T(℃)、横軸は加熱時間t(秒)であり、T1は第1ステップ温度、T2は第2ステップ温度、T3は第3ステップ温度である。なおT3は加熱目標温度Tmとしてもよい。また、V1は第1ステップにおける加熱電圧、V2は第2ステップにおける加熱電圧、V3は第3ステップにおける加熱電圧であり、t1〜t1はそれぞれのステップにおける加熱時間である。
【0036】
すなわち、常温から目標温度Tmまでこの昇温曲線Aに沿って加熱する加熱パターンは、V1×t1(第1ステップ:常温〜T1)+V2×t2(第2ステップ:T1〜T2)+V3×t3(第3ステップ:T2〜Tm)である。
【0037】
ここで、このワークの加熱開始温度をTsとすると、昇温曲線Aではa点となり第1ステップの途中から加熱を開始することになので第1ステップの加熱時間はtsとすればよい。従って、この場合の加熱コイルの加熱パターンは、V1×ts+V2×t2+V3×t3となる。すなわち、加熱開始温度Tsを測定して、メモリに格納されている加熱パターン(V1×t1+V2×t2+V3×t3)から第1ステップの加熱時間tsを算出すれば加熱開始温度Ts測定部位に対応する加熱コイルの加熱パターンを決定することができる。加熱コイルが複数個に分割されている場合には、各加熱コイル毎に同様にして加熱パターンを決定して、このパターンに沿って加熱すればよい。
【0038】
以上のような高周波加熱方法によれば、鋼の熱間鍛造のように熱電対の仕様限界を超えるような1200〜1300℃という高温加熱に対しても加熱前の温度測定精度のみを考慮すればよいので、精度よく加熱することができる。
【0039】
(3)表面温度センサ
図5にプローブタイプの表面温度センサ30の一例を示す。表面温度センサ30は先端の表面温度を検知する感温部302と、この感温部302を支持する支持体304とを備えている。支持体304はステンレス管など所定の強度と耐熱性とを有し誘導加熱の影響を受けにくい非磁性体の中空材からなり、この中空材の軸芯部にシース熱電対306が挿通されている。熱電対306は一端側がスリーブ(位置決め用のブロックを兼ねる)308の内部でリード線310に接続され、リード線310の端部にはコネクタ312が接続されており温度計を介して制御手段などへ測定温度を入力できるようになっている。
【0040】
図7に示すように従来の表面温度センサ30のセンサヘッド30bでは、感温部302bは小径の管にマグネシアなどの断熱材305を充填しその軸芯部にシース熱電対306が挿通され、シース熱電対306の先端の接続部307が感温部302b先端の表面から僅かに露出して直接被測定物の表面に接触するようになっている。また、支持体304bは感温部302bよりも大きい径のパイプからなり、段差部303で感温部302bと一体的に接続している。このような従来の表面温度センサ30bでは、熱電対306の先端(接続部307)を被測定物に直接接触させるので、応答は早いものの熱電対先端部の熱容量が小さいので不安定であるとともに、感温部302bと支持体304bとが一体的に形成されているので、支持体304bを通じて被測定部位の熱が移動することによって安定して精度の高い表面温度を測定することができなかった。
【0041】
本発明の表面温度センサ30のセンサヘッド30a(図5の円内)の断面を図6に模式的に示す。センサヘッド30aの感温部302aは熱伝導率が100W/mK以上の受熱体320を有している。この受熱体320は鍛造素材表面に接触する一端面321が凸状球面であり他端面322の中心部にはシース熱電対306の接続点307が埋め込まれ耐熱接着剤などで固着されている。シース熱電対306の先端に金属半球の受熱体320を付けるのは、熱電対先端の温度を被測定物の表面温度に等しくさせるためである。このため受熱体320は100W/mK以上の高い熱伝導率を持つ材料であることが望ましい。このような高い熱伝導率を持つ材料としては、銅、銅合金、モリブデン、マグネシウム、銀、アルミニウム、アルミニウム合金、あるいは金等を例示することができる。受熱体320は小さい方が被測定物の表面温度に対する応答性が高くて好ましいが、余り小さいと被測定物の表面と安定的な熱平衡状態を作ることができないのでノイズが大きくなり好ましくない。受熱体320としては、直径が2〜4mm、厚さが0.5〜1.5mm程度のものが適当である。また、シース熱電対306も細い方が誘導加熱の影響が小さく応答性も早いので好ましく、例えば、その外径が0.5mm程度のものが適当である。
【0042】
また、支持体304aには、窓部309を設けて、受熱体310を通じて支持体304aへの被測定物の熱の移動を小さくしている。支持体304aへの熱の移動を少なくすることで温度センサ30aは表面温度を実温に近似して認識することができ、かつ測定値のバラツキを小さくすることができる。
【0043】
以下、具体的な態様により本発明をさらに詳しく説明する。図5に示す構造を有し、センサヘッド部のみが異なる本態様の表面温度センサCと従来の表面温度センサDとを準備し、直径80mm×長さ415mmのアルミニウム鍛造素材(JIS6061材)を周波数2.5kHzの高周波加熱装置1で加熱し、各表面温度センサC、Dの昇温特性を求めた。また、シース熱電対Eの先端をワークWの表面から0.5mmの深さに埋め込み、同時に加熱して実温の変化とした。
【0044】
本態様の表面温度センサCは図6に示すセンサヘッド30aとなっている。受熱体320は真鍮(C3604BD−F)とし、直径4mm×厚さ1.5mmで接触面321の曲面は10mmRの球面であり、反対面322の中心部にシース熱電対(φ0.09mmのアロメルクロメル(K(CA)熱電対線を外径0.5mmのインコネル(NCF600)のシースに封入したもの)306aを軸心方向に延伸するように耐熱接着剤で固定してある。また、支持体304aは外径4mm×内径2mmのSUS304のパイプからなり、先端に受熱体320をカシメて支持している。支持体304aの受熱体320近傍には幅2mm×長さ10mmの軸方向に長い窓部309、309が軸に対して対称に2個穿設されている。なお、上記のセンサヘッド30aを除くその他の部分は図5で示す構成となっており、コネクタ312が図示しない温度記録計に接続されている。
【0045】
また、従来の表面温度センサDは図7に示すセンサヘッド30bとなっている。感温部302bは外径6mm×内径4mm×長さ165mmのSUS304のパイプにマグネシアを断熱材305として充填し、平面状の断熱材305の先端面からシース熱電対(φ0.51mmアロメルクロメル(K(CA)熱電対線を外径3.2mmのステンレス(SUS316)のシースに封入したもの)306bを先端を僅かに(約0.5mm)突出させて軸心上に配置してある。感温部302bは段差部303を介して支持体304bに一体的に接続されている。なお、上記のセンサヘッド30bを除くその他の部分は表面温度センサCと同様に図5に示す構成となっている。
【0046】
上記の表面温度センサCとDとを鍛造素材の実温を測定するシース熱電対Eの近傍表面に当接して、高周波加熱コイルの加熱電圧を段階的に変化させながら実温が450℃に到達するまで素材を加熱して表面温度センサCとDとの昇温特性を比較した。加熱電圧は本態様の表面温度センサCの測定温度が常温〜350℃までは560V(STEP1)、350℃〜430℃までは500V(STEP2)、430℃以上は350V(STEP3)とした。結果を図8に示す。図8でCは本態様の表面温度センサC、Dは従来技術になる表面温度センサD、Tは実温Tを示す熱電対Eの昇温曲線である。
【0047】
図8から分かるように、表面温度センサCが目標温度の450℃を表示したSTEP3終了時には、実温Tは表面温度センサCの表示温度よりも約15℃高い465℃であり、表面温度センサDは実温Tよりも50℃以上も低い410℃を表示した。
【0048】
また、上記の測定試験を30回繰り返して(N=30)、STEP3終了時における実温Tに対する表面温度センサCとDの平均表示温度の差ΔT(認識差ともいう)とバラツキ(3σ)とを求めた。従来の表面温度センサDではΔT=68.6℃、3σ=22.5℃であり、本態様の表面温度センサCではΔT=15.0℃、3σ=11.5℃であった。本態様の表面温度センサCは従来の表面温度センサDに比べて表面温度の認識差とバラツキとを大幅に改善できることが分かる。
【0049】
なお、本発明の高周波加熱装置、高周波加熱方法および表面温度センサは上記の実施の形態に限定されることなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲で変更することができる。例えば、上記の表面温度センサの実施の形態では、受熱体の先端形状を凸状球面としたが、ワークの被測温部が平面の場合には受熱体の先端形状を平面としてもよい。平面は加工が容易であるので表面センサの加工費を低減することができる。また、実施の形態では、棒状粗形材を段付き軸状ワークとしたが、軸状ワークに制約されることなく単に異形のワークでもよい。なお加熱コイルも形状に合わせて2個以上に分割して設けることができる。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明の高周波加熱装置は熱間鍛造部材の棒状素材を加熱したり、あるいはロール成形後の段付き軸状ワーク等の異形素材を再加熱する加熱装置として好適である。特に本発明の高周波加熱方法によれば、従来困難であった自動車部材であるナックル、キャリアあるいはアームなどのアルミ鍛造部材の熱間鍛造に高周波加熱を採用することができるので、仕掛かり品の削減と大幅なリードタイムの短縮を実現することができ生産性の向上に寄与すること大である。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の高周波加熱装置の好適な実施の形態を説明する概要図である。
【図2】本発明の高周波加熱方法の手順を説明するフローチャートである。
【図3】第1の高周波加熱方法により段付き軸状ワークを加熱した場合の大径部(A’)と小径部(B’)との昇温曲線を示すグラフの一例である。
【図4】第2の高周波加熱方法を概念的に説明する昇温曲線を示すグラフである。
【図5】本発明の高周波加熱装置に用いる表面温度センサのプローブ形状の概要を説明する説明図である。
【図6】本発明の実施態様における表面温度センサのセンサヘッドの断面概要図である。
【図7】従来技術になる表面温度センサのセンサヘッドの断面概要図である。
【図8】各表面温度センサの昇温特性を実温の変化と比較して示したグラフである。
【符号の説明】
【0052】
10:ロール成形素材 12:大径部 14:小径部 20:高周波加熱コイル
22:第1の加熱コイル 24:第2の加熱コイル 30:表面温度センサ 40:高周波電源 50:制御手段 302:感温部 304:支持体 306:シース熱電対 309:窓部 310:リード線 320:受熱体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱間鍛造で成形される鍛造部材の鍛造素材を加熱する高周波加熱装置であって、
前記鍛造素材を加熱する高周波加熱コイルと、
前記鍛造素材の表面温度を測定する表面温度センサと、
前記鍛造素材の表面温度によって前記高周波加熱コイルの出力および/又は加熱時間を制御する制御手段とを備えることを特徴とする高周波加熱装置。
【請求項2】
複数の前記高周波加熱コイルを備え、前記制御手段は前記各高周波加熱コイルの出力と加熱時間とを個別に制御する請求項1に記載の高周波加熱装置。
【請求項3】
前記鍛造素材は外径の異なる複数の段部を有する段付き軸状ワークである請求項2に記載の高周波加熱装置。
【請求項4】
熱間鍛造で成形される鍛造部材の鍛造素材を加熱する高周波加熱方法であって、
前記鍛造素材の表面温度を測定しながら加熱し、昇温途中の所定の温度で高周波加熱コイルの出力を段階的に変更することを特徴とする高周波加熱方法。
【請求項5】
熱間鍛造で成形される鍛造部材の鍛造素材を加熱する高周波加熱方法であって、
高周波加熱前の前記鍛造素材の表面温度を測定し、該表面温度を加熱開始温度として予め記憶されている加熱パターンに沿って高周波加熱コイルの出力と加熱時間とを制御することを特徴とする高周波加熱方法。
【請求項6】
前記鍛造部材はアルミ鍛造部材である請求項4又は5に記載の高周波加熱方法。
【請求項7】
熱間鍛造で成形される鍛造部材の鍛造素材の表面温度を検出する表面温度センサであって、
前記表面温度を検出する熱電対と、
前記鍛造素材の表面に接触させる感温部と、
前記熱電対を収容し前記感温部を支持する支持体と、を備え、
前記感温部は熱伝導率が100W/mK以上の受熱体を有することを特徴とする表面温度センサ。
【請求項8】
前記受熱体は一端面が前記鍛造素材表面に接触する凸状球面であり他端面の中心部に前記熱電対の接続点を固着している請求項7に記載の表面温度センサ。
【請求項9】
前記受熱体は銅、銅合金、モリブデン、マグネシウム、銀、アルミニウム、アルミニウム合金、あるいは金のうちのいずれかを形成したものである請求項7又は8に記載の表面温度センサ。
【請求項10】
前記支持体の前記感温部近傍に窓部を開設した請求項7〜9のいずれかに記載の表面温度センサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−351477(P2006−351477A)
【公開日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−179507(P2005−179507)
【出願日】平成17年6月20日(2005.6.20)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(592082778)豊通エンジニアリング株式会社 (8)
【Fターム(参考)】