説明

高周波誘電加熱装置の制御方法

【課題】 スパークを発生させることなく、被加熱体を最適の溶着状態にするための加熱装置の制御方法を提供する。
【解決手段】 複数の合成樹脂シートを重ね合わせた重ね合わせ部を溶着する少なくとも一対のシール用の高周波電極(1)・(2)を配置し、この高周波電極(1)・(2)に高周波電力を印加して、合成樹脂シート同士を溶着するにあたり、高周波電極(1)・(2)での加熱度合いを制御する方法であって、 高周波電極(1)・(2)間に供給する高周波電力を、溶着作業開始当初はあらかじめ設定された所定の電力を供給し、所定時間経過後にその供給電力を制限して溶着作業を継続させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として、ポリプロピレン樹脂や塩化ビニル樹脂などの熱可塑性合成樹脂材、その他の誘電体である被加熱体を一対の高周波電極によって挟持し、高周波電極間の高周波誘導加熱によって、加熱作業もしくは溶着作業を行う高周波誘電加熱装置の制御方法に関し、特に、スパークの発生をなくすことにより、安定した溶着を実現することのできる高周波誘電加熱装置の制御方法を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、高周波誘導加熱装置を利用して樹脂シートなどの溶着を行う高周波ウェルダーの場合、加熱に伴う溶着が進行すると、高周波電極間の間隔が狭くなりスパークが発生することがある。そして、高周波電極間でスパークが発生すると、被加熱体に孔が開いたり、電極を構成している金型が放電侵食を受けるという問題がある。
【0003】
そこで従来、塩化ビニル樹脂シート材やポリプロピレン樹脂シート材を高周波誘電加熱装置で溶着するものとして、たとえば、高周波電極に供給される高周波電流を検出し、検出電流の変化率によって、被加熱体の加熱完了を検知するようにしたものが知られている(特許文献1) 。
【特許文献1】特開2005−85660
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、前記従来のものは、被加熱体の温度によって負荷インピーダンスが変化することを利用して電流変化率により、溶着完了を推定するようにしているが、この場合、被加熱体や作業環境温度による補正を行わなければ、電流変化率が一定の安定域になるまでに電極間隙が所定寸法を下回って、スパークが生じる事がある。
【0005】
本発明は、このような点に着目して、スパークを発生させることなく、被加熱体を最適の溶着状態にするための加熱装置の制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述の目的を達成するために本発明は、溶着作業開始当初はあらかじめ設定された電力で供給し、所定時間経過後供給電力を制限して、溶着作業を継続するようにしたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0007】
本発明では、溶着作業開始時には、あらかじめ設定された電力で供給し、溶着作業が進行して、溶着作業開始からタイマーに設定されている時間あるいは両電極で検出した静電容量差が所定容量差に達すると、高周波電源からの出力電力を制限するように構成していることから、スパークを発生させることなく、対象とする被加熱体を加熱して確実に溶着させることができることになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
図1は本発明の一実施形態を示す高周波溶着装置の概略構成図であり、加圧機の金型を兼ねる一対の高周波電極(1)(2)に高周波電源(3)からの高周波電力を整合器(4)を介して印加することにより、両電極(1)(2)間に挟持した被加熱体(5)を加熱処理して溶着するようになっている。図1中符号(6)は高周波電極に印加する時間を計時するタイマーである。
【0009】
上述の構成からなる高周波溶着装置では、図2に示すような手順で、溶着作業が進行することになる。
すなわち、一対の高周波電極(1)(2)間に被加熱体(5)を配置して溶着作業を開始する。すると、プレス機が加圧作動するとともに、高周波電源がONしてあらかじめ設定されている電力(フルパワー)を出力する(ステップS01)。このフルパワーの出力をタイマーに設定されている所定時間(第一設定時間)だけ保持し(ステップS02)、タイマーに設定されている所定時間が経過すると、高周波電源からの出力を制限する(ステップS03)。次いでこの制限された出力をタイマーに設定されている所定時間(第2設定時間)だけ維持し(ステップS04)、第2設定時間が経過すると、高周波電源からの出力を停止する(ステップS05)。
【0010】
上記の電力供給を図式化すると、図3のようになる。これは定格出力3kWの高周波電源を使用して、3kWを継続した場合に1秒でスパークの発生が見られるときの模式図であり、スタート後0.8秒経過すると、出力を1/2出力である1.5kWに出力制限し、出力制限をした状態で4秒作動させた状態を示している。
【0011】
なお、図1に示すように一対の高周波電極(1)(2)間にスパーク検知器(7)を配置して、図4に示すような手順で溶着作業を進行させるようにしてもよい。
すなわち、溶着作業の開始に伴い、高周波電源がONしてあらかじめ設定されている電力(フルパワー)を出力する(ステップS01)。このとき、加圧機や高周波電源系に異常があって、フルパワー出力時にスパークの発生があったことをスパーク検知器が検知すると(ステップS01−2)、高周波電源からの出力を停止するステップS05に進み、スパーク検知器がスパークの発生を検知しないときには、前記と同じ手順を踏んで、出力制限することになる。
【0012】
高周波電源装置として、出力周波数27.12MHz、定格出力3kWのものを使用し、プレス圧力2kg/cm でスタート時の被加工物厚み(電極間厚み)を0.7mmに設定して3kWの電力を電極に印加した場合の結果を表1に示す
【表1】


この結果、3kwの電力を1秒印加すると、スパークが発生してしまうことがわかる。
また、このままでは、十分な溶着とされる被加工物厚み0.1mmを達成することができないこともわかる。
【0013】
次いで、3kWの出力を0.8秒継続後、その出力を制限して、その制限電力を金型同士間に印加した場合の結果を表2に示す。
【表2】


その結果、制限後の電力が2kWよりも大きいと厚み0.1mm近傍でスパークが発生してしまい、適切ではなく、制限後の電力が1kw未満では、所定の厚みになるまで時間がかかりすぎるという問題があり、適切な制限出力は1〜2kWすなわち、開始当初の電力に対して、1/3〜2/3程度にその出力を絞ることで、スパークの発生なしに、十分な溶着が行えることがわかる。
【0014】
図5は本発明の別の実施形態を示す高周波溶着装置の概略構成図であり、この実施形態では、加圧機の金型を兼ねる一対の高周波電極(1)(2)に高周波電源(3)からの高周波電力を整合器(4)を介して印加することにより、両電極(1)(2)間に挟持した被加熱体(5)を加熱処理して溶着するようになっている。そして、両電極(1)(2)間に、両電極(1)(2)での静電容量差を検出して溶着強度を検出する溶着強度検出器(8)を配設するとともに、両電極(1)(2)間に発生するスパークを検知するスパーク検知器(7)を配設したものである。
【0015】
上述の構成からなる高周波溶着装置では、図6に示すような手順で、溶着作業が進行することになる。
すなわち、一対の高周波電極(1)(2)間に被加熱体(5)を配置して溶着作業を開始する。すると、プレス機が加圧作動するとともに、高周波電源がONしてあらかじめ設定されている電力(フルパワー)を出力する(ステップS21)。この高周波電源の投入時に、加圧機や高周波電源系に異常があって、フルパワー出力時にスパークの発生があったことをスパーク検知器が監視し(ステップS22)、スパークの発生がなければ、フルパワーの出力を維持して溶着し、溶着度合いが80%完了したか否かを溶着強度検出器で判断し(ステップS23)、80%以上の溶着が進行していないと溶着強度検出器が判断した場合にはフルパワーの出力を継続し、80%の溶着が完了していると溶着強度検出器が判断した場合には、高周波電源の出力を制限する(ステップS24)。次いで、この制限された出力を維持して溶着を進行させ、溶着強度検出器で100%溶着が完了したか否かを判断し(ステップS25)、100%の溶着が進行していないと溶着強度検出器が判断した場合には制限された出力を継続し、100%溶着が完了していると溶着強度検出器が判断した場合には、高周波電源からの出力を停止する(ステップS26)。そして、ステップS22で電源投入時にスパークの発生を検知した場合には、システム的に異常があるものとして、ステップS26に進み、高周波電源から出力を停止することになる。
【0016】
上記の電力供給を図式化すると、図7のようになる。これは定格出力3kWの高周波電源を使用して、3kWの電力を継続して印加した場合に静電容量差が6pF以上ある場合にスパークの発生が見られるときの模式図であり、両電極間で測定した静電容量の差が5pFになると、出力を1/2出力である1.5kWに出力制限し、この出力制限をした状態で強力な溶着強度が得られる静電容量差である7pFになるまで、その制限された出力を印加し続けるようにしている。
【0017】
図8は、さらに別の実施形態を示す高周波溶着装置の概略構成図であり、この実施形態では、加圧機の金型を兼ねる一対の高周波電極(1)(2)に高周波電源(3)からの高周波電力を整合器(4)を介して印加することにより、両電極(1)(2)間に挟持した被加熱体(5)を加熱処理して溶着するようになっている。そして、両電極(1)(2)間に、両電極(1)(2)間に発生するスパークを検知するスパーク検知器(7)を配設するともに、整合器(4)でのバリアブルコンデンサのポジションを検出するポジション検知器(9)を配設してある。このポジション検知器(9)は整合器(4)でのバリアブルコンデンサのポジションを検出して高周波電源の出力を制御するようにしてある。
【産業上の利用可能性】
【0018】
本発明は、合成樹脂シート同士を溶着して袋体を形成したり、袋体の途中を区画する溶着あるいは、溶着するとともに所定形状に切断する合成樹脂シートの溶着等に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本第一発明の一実施形態を示す高周波溶着装置の概略構成図である。
【図2】電力供給の制御手順を示す流れ図である。
【図3】電力供給の状態を示す出力−時間関係図である。
【図4】異なる電力供給の制御手順を示す流れ図である。
【図5】本発明の別の実施形態を示す高周波溶着装置の概略構成図である。
【図6】電力供給の制御手順を示す流れ図である。
【図7】電力供給の状態を示す出力−静電容量差関係図である。
【図8】本発明のさらに別の実施形態を示す高周波溶着装置の概略構成図である。
【符号の説明】
【0020】
1・2…高周波電極。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の合成樹脂シートを重ね合わせた重ね合わせ部を溶着する少なくとも一対のシール用の高周波電極(1)・(2)を配置し、この高周波電極(1)・(2)に高周波電力を印加して、合成樹脂シート同士を溶着するにあたり、高周波電極(1)・(2)での加熱度合いを制御する方法であって、
高周波電極(1)・(2)間に供給する高周波電力を、溶着作業開始当初はあらかじめ設定された所定の電力を供給し、所定時間経過後にその供給電力を制限して溶着作業を継続させるように構成した高周波誘電加熱装置の制御方法。
【請求項2】
所定電力から制限電力への切換えをタイマーで行う請求項1に記載した高周波誘電加熱装置の制御方法。
【請求項3】
所定電力から制限電力への切換えを両電極(1)(2)間の静電容量差で行う請求項1に記載した高周波誘電加熱装置の制御方法。
【請求項4】
制限された供給電力が、当初供給電力の1/3から2/3の範囲である請求項1から3のいずれか1項に記載した高周波誘電加熱装置の制御方法。
【請求項5】
高周波電極(1)・(2)に高周波電力を供給する高周波電源が他励式電源である請求項1から4のいずれか1項に記載した高周波誘電加熱装置の制御方法。
【請求項6】
他励式電源が周波数固定で半導体方式である請求項5に記載した高周波誘電加熱装置の制御方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−344535(P2006−344535A)
【公開日】平成18年12月21日(2006.12.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−170317(P2005−170317)
【出願日】平成17年6月10日(2005.6.10)
【出願人】(591288056)パール工業株式会社 (6)
【Fターム(参考)】