説明

高圧ガスタンク製造装置及び高圧ガスタンクの製造方法

【課題】フィラメント・ワインディング法によって製造される高圧ガスタンクにおいて、熱硬化性樹脂に発生する気泡を除去する技術を提供する。
【解決手段】熱硬化処理装置200は、熱硬化性樹脂を含浸させた繊維を巻き付けることにより外表面に繊維強化樹脂層が形成された繊維強化タンク容器10の全体を加熱して、繊維強化樹脂層の熱硬化処理を実行する。また、熱硬化処理装置200は、熱硬化処理において、気泡除去部230のノズル235から温度調整された高温空気を噴射して、タンク容器の表層における一部領域の温度を局所的に上昇させるとともに、その風圧により、当該一部領域に生じる気泡を除去する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ガスを貯蔵するための高圧ガスタンクに関する。
【背景技術】
【0002】
高圧ガスタンクは、燃料電池車両などの移動体に搭載される場合があり、その軽量化が要求されている。高圧ガスタンクを軽量化する方法としては、フィラメント・ワインディング法(FW法)による高圧ガスタンクの製造方法が知られている。フィラメント・ワインディング法による高圧ガスタンクの製造方法では、比較的軽量な樹脂製のタンク容器の外周にエポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂を含浸させた繊維を巻き付け、熱硬化性樹脂を熱硬化させることにより、タンク容器の強度を向上させる。
【0003】
しかし、フィラメント・ワインディング法では、その熱硬化過程において、繊維間に入り込んでいた空気などが、次第に熱硬化性樹脂層の表層へと移動して、熱硬化性樹脂層に気泡が発生してしまうという問題があった。高圧ガスタンクにおいて、熱硬化性樹脂層に気泡が生じると、高圧ガスタンクの外表面に気泡による凹凸が生じることとなる。すると、高圧ガスタンクの寸法に誤差が生じ、高圧ガスタンクの組み付け性が悪化してしまう。また、そのような外表面の凹凸は、高圧ガスタンクの意匠性の低下を引き起こす。さらに、高圧ガスタンクの外表面に表示ラベル等を貼付する場合には、表示ラベルの貼付性が低下するばかりでなく、貼付された表示ラベルの視認性も低下してしまう。
【0004】
これまで、フィラメント・ワインディング法の熱硬化過程における気泡の発生を抑制するために、種々の技術が提案されてきた(特許文献1等)。しかし、これらの技術によっても、熱硬化過程において、熱硬化性樹脂中の気泡の発生を十分に抑制されていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−53853号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、フィラメント・ワインディング法によって製造される高圧ガスタンクにおいて、熱硬化性樹脂に発生する気泡を除去する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態又は適用例として実現することが可能である。
【0008】
[適用例1]
高圧ガスタンク製造装置であって、熱硬化性樹脂を含浸させた繊維を巻き付けることにより外表面に繊維強化樹脂層が形成されたタンク容器の全体を加熱して、前記繊維強化樹脂層の熱硬化処理を実行するタンク容器熱硬化部と、前記熱硬化処理において、前記タンク容器の表層における一部領域の温度を局所的に変化させるとともに、前記一部領域にガスを吹き付けて、前記タンク容器の表層に生じる気泡を除去する気泡除去部とを備える、高圧ガスタンク製造装置。
この高圧ガスタンク製造装置によれば、熱硬化処理において、タンク容器の表層の一部領域の温度を局所的に変化させることによって、当該一部領域において生じる気泡を破泡しやすい不安定な状態とした上で、当該気泡を、ガスの風圧によって破泡し、消滅させることができる。従って、フィラメント・ワインディング法によって製造される高圧ガスタンクにおいて、タンク容器表層の熱硬化性樹脂に発生する気泡を、確実に除去することができる。
【0009】
[適用例2]
適用例1記載の高圧ガスタンク製造装置であって、前記気泡除去部は、前記タンク容器の表層に温度調整されたガスを前記一部領域に局所的に吹き付けることにより、前記一部領域の温度を変化させる、高圧ガスタンク製造装置。
この高圧ガスタンク製造装置によれば、温度調整されたガスによって、タンク容器の表層の一部領域の温度を局所的に変化させ、当該一部領域において生じる気泡を破泡しやすい不安定な状態とした上で、当該気泡を、当該ガスの風圧によって破泡し、消滅させることができる。
【0010】
[適用例3]
適用例2記載の高圧ガスタンク製造装置であって、前記気泡除去部は、前記タンク容器硬化部による前記タンク容器の加熱温度より高い温度に調整された高温ガスを、前記タンク容器の表層に吹き付けて、前記一部領域を局所的に加熱する、高圧ガスタンク製造装置。
この高圧ガスタンク製造装置によれば、高温ガスによって、タンク容器の表層の一部領域の温度を局所的に上昇させ、当該一部領域の熱硬化性樹脂の粘度の低下を促進させ、当該一部領域に生じる気泡を破泡しやすい状態とした上で、高温ガスの風圧によって破泡し、消滅させることができる。
【0011】
[適用例4]
適用例2または適用例3記載の高圧ガスタンク製造装置であって、前記気泡除去部は、温度の異なる第1と第2のガスを、前記タンク容器の表層に、交互に吹き付けて、前記一部領域の温度を局所的に変化させる、高圧ガスタンク製造装置。
この高圧ガスタンク製造装置によれば、温度の異なる第1と第2のガスを吹き付けることによって、タンク容器の表層の一部領域の温度を局所的に、交互に上昇・下降させることができる。そして、この温度変化により、当該一部領域に生じる気泡に膨張・収縮を繰り返させ、当該気泡を、破泡しやすい不安定な状態とした上で、第1と第2のガスの風圧によって破泡し、消滅させることができる。
【0012】
[適用例5]
適用例1ないし適用例4のいずれか一項に記載の高圧ガスタンク製造装置であって、前記気泡除去部は、前記ガスを噴射するガス噴射口を有しており、前記ガス噴射口は、前記タンク容器の外表面に沿って移動可能である、高圧ガスタンク製造装置。
この高圧ガスタンク製造装置によれば、ガス噴射口が、タンク容器の外表面全体を走査することができるため、タンク容器の形状に拘わらず、タンク容器全体の気泡除去を万遍なく実行することができる。
【0013】
[適用例6]
高圧ガスタンクの製造方法であって、
(a)熱硬化性樹脂を含浸させた繊維強化樹脂層が外表面に形成されたタンク容器を準備する工程と、
(b)前記繊維強化樹脂層の全体を加熱して熱硬化させつつ、前記タンク容器の表層における一部領域の温度を局所的に変化させるとともに、前記一部領域にガスを吹き付けて、前記タンク容器の表層に生じる気泡を除去する工程と、
を備える、製造方法。
この高圧ガスタンクの製造方法によれば、繊維強化樹脂層を熱硬化させる熱硬化処理において、タンク容器の表層の一部領域の温度を局所的に変化させることによって、当該一部領域において生じる気泡を破泡しやすい不安定な状態とした上で、ガスの風圧によって、当該気泡を破泡し、消滅させることができる。従って、フィラメント・ワインディング法を用いた高圧ガスタンクの製造工程において、タンク容器表層の熱硬化性樹脂に発生する気泡を、確実に除去することができる。
【0014】
[適用例7]
適用例6に記載の製造方法であって、前記工程(b)は、前記タンク容器の表層に温度調整されたガスを前記一部領域に局所的に吹き付けることにより、前記一部領域の温度を変化させる工程を含む、製造方法。
この高圧ガスタンクの製造方法によれば、温度調整されたガスによって、タンク容器の表層の一部領域の温度を局所的に変化させ、当該一部領域において生じる気泡を破泡しやすい不安定な状態とした上で、当該気泡を、温度調整されたガスの風圧によって破泡し、消滅させることができる。
【0015】
[適用例8]
適用例7に記載の製造方法であって、前記工程(b)は、前記繊維強化層の全体を熱硬化させるための加熱温度より高い温度に調整された空気または水蒸気を、前記タンク容器の表層に吹き付けて、前記一部領域を局所的に加熱する工程を含む、製造方法。
この高圧ガスタンクの製造方法によれば、高温ガスによって、タンク容器の表層の一部領域の温度を局所的に上昇させ、当該一部領域の熱硬化性樹脂の粘度の低下を促進させ、当該一部領域に生じる気泡を破泡しやすい状態とした上で、高温ガスの風圧によって破泡し、消滅させることができる。
【0016】
[適用例9]
適用例7または適用例8に記載の製造方法であって、前記工程(b)は、温度の異なる第1と第2のガスを、前記タンク容器の表層に、交互に吹き付けて、前記一部領域の温度を変化させる工程を含む、製造方法。
この高圧ガスタンクの製造方法によれば、温度の異なる第1と第2のガスを吹き付けることによって、タンク容器の表層の一部領域の温度を、局所的に変化させることができる。そして、この温度変化により、当該一部領域に生じる気泡に膨張・収縮を繰り返させ、当該気泡を、破泡しやすい不安定な状態とした上で、第1と第2のガスの風圧によって破泡し、消滅させることができる。
【0017】
[適用例10]
適用例6ないし適用例9のいずれか一項に記載の高圧ガスタンク製造装置であって、前記工程(b)は、前記ガスを噴射するガス噴射口を、前記タンク容器の表層に沿って移動させつつ、前記ガスを前記タンク容器の表層に吹き付ける工程を含む、製造方法。
この高圧ガスタンクの製造方法によれば、ガス噴射口が、タンク容器の外表面全体を走査することができるため、タンク容器の形状に拘わらず、タンク容器全体の気泡除去を万遍なく実行することができる。
【0018】
なお、本発明は、種々の形態で実現することが可能であり、例えば、高圧ガスタンクの製造装置および高圧ガスタンクの製造方法、それらの方法または装置の機能を実現するためのコンピュータプログラム、そのコンピュータプログラムを記録した記録媒体等の形態で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】繊維強化タンク容器の準備工程を説明するための模式図。
【図2】第1実施例の熱硬化処理装置の構成を示す概略図。
【図3】第1実施例における繊維強化層表層の気泡除去工程を説明するための模式図。
【図4】第1実施例における繊維強化層表層の気泡除去工程を説明するための模式図。
【図5】第2実施例の熱硬化処理装置の構成を示す概略図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
A.第1実施例:
図1(A)〜(C)は、本発明の一実施例としてのフィラメント・ワインディング法による高圧ガスタンクの製造工程の一部を説明するための模式図である。図1(A)は、タンク容器10を示す模式図である。高圧ガスタンクの製造にあたり、まず第1工程として、このタンク容器10を準備する。タンク容器10は、略円柱状のシリンダ部11と、その両端に設けられた略ドーム形状のドーム部13とを有する中空の容器である。タンク容器10は、例えば、ナイロン系樹脂などの樹脂によって構成される。なお、タンク容器10は、他の形状を有していても良く、他の部材によって構成されるものとしても良い。
【0021】
図1(B)は、タンク容器10の外表面にカーボン繊維20を巻き付ける工程を示す模式図である。この工程では、タンク容器10を、回転駆動部110に取り付け、シリンダ部11の中心軸CXを中心として回転させる。さらに、カーボン繊維20が巻かれたリール120を、中心軸CXの軸方向に沿って往復動させつつ、シリンダ部11及びドーム部13の外表面にカーボン繊維20を巻き付ける。なお、このカーボン繊維20には、熱硬化性樹脂であるエポキシ樹脂が予め含浸されている。この熱硬化性樹脂は、後述する熱硬化処理によって熱硬化させることにより、カーボン繊維20の接着剤として機能する。
【0022】
図1(C)は、カーボン繊維20が巻き付けられた後のタンク容器10を示す模式図である。タンク容器10は、カーボン繊維20が外表面に巻き付けられることによって、その強度が向上する。以後、このカーボン繊維20が巻き付けられたタンク容器10を、「繊維強化タンク容器10」と呼ぶ。なお、この繊維強化タンク容器10では、例えば、約3mm程度のナイロン系樹脂の容器壁の厚みに対して、カーボン繊維20による繊維強化層が約20μm〜30μm程度の厚みで形成されている。
【0023】
図2(A)は、繊維強化タンク容器10の熱硬化性樹脂を熱硬化させるための熱硬化処理を実行する熱硬化処理装置200を示す概略透視斜視図である。図2(A)では、装置全体を覆う隔壁215が破線で図示されている。なお、図2(A)には、互いに直交する三次元方向を示す矢印x,y,zが図示されている。矢印z方向は、重力方向上向きと一致しており、矢印y方向は、繊維強化タンク容器10の中心軸CXの軸方向と一致する。
【0024】
図2(B)は、熱硬化処理装置200を、図2(A)のx軸方向に沿った方向から見たときの概略側面図である。なお、図2(B)では、図2(A)において破線で図示された隔壁215の図示は省略されている。また、図2(B)には、図2(A)の矢印x,y,zと対応する矢印x,y,zが図示されている。
【0025】
熱硬化処理装置200は、隔壁215によって囲まれた内部空間WSに、基台210と、タンク取付部221,222と、回転駆動部225と、気泡除去部230とを備えている。タンク取付部221,222と、回転駆動部225とはそれぞれ、基台210上に配置されている。タンク取付部221,222は、繊維強化タンク容器10をその中心軸CXを中心に回動可能なように、その両端から保持する。回転駆動部225は、タンク取付部221,222に保持された繊維強化タンク容器10を、矢印R方向に、ほぼ一定の速度で回転させることができる。
【0026】
熱硬化処理装置200は、熱硬化処理として、タンク取付部221,222に取り付けられた繊維強化タンク容器10を回転駆動部225によって回転させつつ、内部空間WSを約130℃程度まで昇温して、繊維強化タンク容器10を約7〜8時間程度加熱する。これにより、カーボン繊維20に含浸された熱硬化性樹脂が熱硬化する。なお、一般に、熱硬化性樹脂は、熱硬化のための加熱が開始されると、一旦その粘度が低下し、ほぼ液状となるまでに軟化する。また、熱硬化性樹脂は、この軟化した状態から、さらに、加熱が継続されると、架橋反応が進行して硬化する。
【0027】
ここで、熱硬化性樹脂は、硬化に伴って収縮する性質を有する。従って、熱硬化性樹脂の硬化が進行すると、繊維強化タンク容器10には、熱硬化性樹脂の収縮により、そのタンク径が縮小する方向に力が働くこととなる。そこで、この熱硬化処理装置200では、図示せざるタンク内圧力調整部によって、繊維強化タンク容器10の内部の圧力を調整し、当該圧力と、熱硬化性樹脂の収縮によりタンク径を縮小させる方向に働く力とを均衡させて、熱硬化処理工程においてタンク径が縮小してしまうことを抑制する。
【0028】
ところで、繊維強化タンク容器10の繊維強化層には、カーボン繊維20の巻き付け時に繊維間に入り込んだ空気や、もともとカーボン繊維20内に入り込んでいた空気などが存在する。上述したように、繊維強化タンク容器10の熱硬化処理工程において、熱硬化性樹脂の粘度が比較的低下した状態のときには、そうした繊維強化層に入り込んでいる空気が、熱硬化性樹脂中を移動しやすくなる。従って、熱硬化処理工程において、そうした空気が、熱硬化性樹脂中を繊維強化層の表層に向かって移動することにより、繊維強化層の外表面に気泡が発生してしまう場合がある。
【0029】
繊維強化層の外表面に気泡が生じたまま熱硬化性樹脂が硬化してしまうと、繊維強化タンク容器10の外表面に気泡による凹凸が生じる。繊維強化タンク容器10がそうした凹凸を有すると、完成品である高圧ガスタンクの寸法誤差の原因となり、高圧ガスタンクの組み付け性が悪化する可能性がある。また、そのような外表面の凹凸は、高圧ガスタンクの意匠性の低下の原因にもなり、高圧ガスタンクの外表面に表示ラベル等を貼付する場合には、表示ラベルの貼付性の低下や、貼付された表示ラベルの視認性の低下の原因にもなる。
【0030】
そこで、本実施例の熱硬化処理装置200には、熱硬化処理過程において繊維強化タンク容器10の外表面に発生する気泡を除去するための気泡除去部230が設けられている。気泡除去部230は、タンク取付部221,222に取り付けられた繊維強化タンク容器10の重力方向上側に、取り付けられており、繊維強化タンク容器10に向かって開口するノズル235を備える。気泡除去部230は、ノズル235から、高温度に調整された高温空気を高圧力で噴射することができる。ここで、「高温」とは、熱硬化処理過程における熱硬化処理装置200の内部空間WSの昇温温度よりも高い温度を意味する。
【0031】
この構成により、気泡除去部230は、熱硬化処理過程において、回転駆動している繊維強化タンク容器10の外表面に、高温空気を吹き付け、発生する気泡を破泡・除去する。なお、図では、ノズル235は、高温空気をシリンダ部11全体に吹き付けているが、ノズル235は、高温空気の吹き付け領域を任意に絞ることが可能である。
【0032】
図3は、熱硬化処理工程における気泡除去部230による気泡の除去を説明するための模式図である。図3は、図2(B)に示す破線領域3を拡大して示す概略断面図である。図3には、繊維強化タンク容器10の容器壁の一部断面と、当該容器壁に積層され、カーボン繊維20と熱硬化性樹脂23によって形成された繊維強化層20Lの一部断面と、高温空気が吹き付けられる方向を示す矢印とが模式的に示されている。なお、熱硬化性樹脂23は、硬化する前の比較的軟化した状態である。
【0033】
図2で説明したように、軟化しはじめた熱硬化性樹脂23中には、気泡25が生じ、気泡25は次第に繊維強化層20Lの表層に向かって移動する。このときに、気泡除去部230のノズル235から高温空気を吹き付ける。吹き付けられた高温空気により、熱硬化性樹脂23の表層23sが熱せられて、表層23sの粘度の低下が促進されるとともに、その液体成分の蒸発により、表層23sの薄化が促進される。これによって、繊維強化層20Lの表層23sに生じた気泡25は、破泡しやすい状態となる。この破泡しやすい状態となった気泡25を、気泡除去部230が噴射した高温空気の風圧によって破泡する。このように、気泡除去部230は、熱硬化性樹脂23に直接的に接触することなく気泡25を除去できる。従って、気泡の除去工程において、熱硬化性樹脂23に接触して繊維強化タンク容器10の外表面を損傷させてしまうことを回避できる。
【0034】
なお、この気泡除去部230による気泡の除去工程は、熱硬化性樹脂23の粘度が低下しはじめ、その粘度が上昇しはじめる前の熱硬化処理の初期段階において実行されることが好ましい。これによって、気泡除去部230の加熱によって、熱硬化性樹脂23の表層23sの粘度の低下をより促進することができ、破泡しやすい状態の気泡25を効率的に除去することが可能となる。
【0035】
ここで、気泡除去部230は、図2(B)における矢印yに沿った方向に移動可能である。また、気泡除去部230は、矢印zに沿った方向に移動して、ノズル235と繊維強化タンク容器10との間の距離を調整することが可能である。これによって、気泡除去部230は、繊維強化タンク容器10の外表面に沿って移動しつつ、高温空気の噴射による気泡除去を実行する。
【0036】
図4は、上記の気泡除去工程における気泡除去部230の移動を説明するための模式図である。図4は、気泡除去部230の移動軌跡を段階的に図示している点以外は、図2(B)とほぼ同じである。気泡除去部230は、ノズル235と繊維強化タンク容器10との間の距離をほぼ一定に保つように、矢印zの方向に沿って高さを変位しつつ、略一定速度で、矢印yに沿った方向に移動するとともに、繊維強化タンク容器10に対して高温空気を噴射する。
【0037】
ところで、繊維強化層20Lの局所的な加熱時間が長くなると、かえって、その加熱によって、当該局所部位における気泡25の発生が促進されてしまう場合がある。しかし、本実施例の気泡除去部230は、熱硬化性樹脂23の表層23sを加熱できる程度の短時間(例えば数秒程度)の局所的な高温空気の噴射を繰り返しつつ、繊維強化タンク容器10全体を走査する。従って、この気泡除去部230によれば、長時間にわたって必要以上に高温空気を局所的に加熱して、気泡25の発生を促進してしまうことを抑制できる。
【0038】
また、気泡除去部230は、ノズル235と繊維強化タンク容器10との間の距離をほぼ一定に保つことにより、径が略同一のシリンダ部11も、径の変化するドーム部13も同様に気泡を除去することができる。即ち、この熱硬化処理装置200によれば、繊維強化タンク容器10が、外表面に凹凸を有するするような複雑な形状であっても、気泡除去を確実に実行することが可能である。
【0039】
熱硬化処理が終了した後、繊維強化タンク容器10は、熱硬化処理装置200から取り外される。この繊維強化タンク容器10にバルブなどが取り付けられ、高圧ガスタンクが製造される。このように、本実施例の構成によれば、フィラメント・ワインディング法によって製造される高圧ガスタンクの熱硬化処理において、熱硬化性樹脂に直接的に接触することを回避しつつ、熱硬化性樹脂層に発生する気泡をより確実に除去することができる。
【0040】
B.第2実施例:
図5(A),(B)は、本発明の第2実施例としての熱硬化処理装置200Aの構成を示す概略図である。図5(A),(B)はそれぞれ、気泡除去部230に換えて第1と第2のノズル235a,235bを有する気泡除去部230Aが設けられている点以外は、図2(B)とほぼ同じである。なお、図5(A)は、第1のノズル235aが後述する温風を噴射している状態を示しており、図5(B)は、第2のノズル235bが後述する冷風を噴射している状態を示している。この熱硬化処理装置200Aには、第1実施例と同様に予め準備された繊維強化タンク容器10(図1)が取り付けられる。
【0041】
気泡除去部230Aの第1と第2のノズル235a,235bはそれぞれ、タンク取付部221,222に取り付けられた繊維強化タンク容器10に向かって開口する互いに並列に設けられたノズルである。第1のノズル235aは、第1実施例で説明したのと同様な高温空気(温風)を噴射し、第2のノズル235bは、第1のノズル235aから噴射される高温空気より比較的低い温度に調整された低温空気(冷風)を噴射する。なお、図5(A),(B)では、温風と冷風とを異なるハッチングによって区別して図示してある。
【0042】
この熱硬化処理装置200Aでは、熱硬化処理工程が開始され、繊維強化タンク容器10における熱硬化性樹脂23の粘度が比較的低下しはじめたときに、第1と第2のノズル235a,235bから温風と冷風とを交互に噴射する。この温風による加熱と冷風による冷却とを交互に繰り返すことによって、熱硬化性樹脂23の表層23sに生じる気泡25に膨張と収縮とを交互に繰り返させる。これによって、気泡25を、不安定な状態へと導き、より破泡しやすくしたうえで、温風または冷風の風圧によって破泡し、除去する。
【0043】
ここで、この第1と第2のノズル235a,235bによる温風と冷風の噴射周期は、熱硬化性樹脂23の粘度が高くなりはじめるのに従って速くすることが好ましい。これによって、比較的粘度が高くなった熱硬化性樹脂23に生じた気泡25であっても、膨張と収縮の周期が短くなることにより、破泡しやすい状態にすることができる。なお、温風の温度と冷風の温度との間の温度差は大きいほど好ましい。また、冷風の温度は、熱硬化処理過程における熱硬化処理装置200Aの内部空間WSの昇温温度より低い温度であっても良い。
【0044】
このように、この気泡除去部230Aによれば、熱硬化性樹脂23の表層23sに生じる気泡25を破泡しやすい不安定な状態にした上で、確実に除去することが可能である。また、この気泡除去部230Aによれば、冷風による熱硬化性樹脂23の冷却によって、温風による加熱のために、熱硬化性樹脂23に発生する気泡25が増加することを抑制することができる。
【0045】
C.変形例:
なお、この発明は上記の実施例や実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば次のような変形も可能である。
【0046】
C1.変形例1:
上記第1実施例において、熱硬化処理装置200の気泡除去部230は、高温空気を噴射することによって、繊維強化タンク容器10の外表面の一部を局所的に加熱していた。また、上記第2実施例において、熱硬化処理装置200Aの気泡除去部230Aは、第1と第2のノズル235a,235bから、温度の異なる第1と第2のガスを吹き付けることによって、繊維強化タンク容器10の外表面の一部を局所的に温度変化させていた。しかし、熱硬化処理装置200,200Aは、電熱線などの他の加熱手段や、冷却手段によって、繊維強化タンク容器10の外表面の一部領域を局所的に加熱または冷却して温度変化させるものとしても良い。この場合には、当該一部領域に温度調整されていない空気を噴射して気泡を除去することも可能である。
【0047】
C2.変形例2:
上記実施例において、気泡除去部230,230Aは、空気を噴射することによって、気泡25を除去していた。しかし、気泡除去部230,230Aは、空気以外のガスを温度調整して噴射し、気泡25を除去するものとしても良い。例えば、気泡除去部230,230Aは、蒸気を噴射するものとしても良い。
【0048】
C3.変形例3:
上記実施例において、気泡除去部230,230Aでは、繊維強化タンク容器10の表面形状に沿って移動することにより、ノズル235,235a,235bと、繊維強化タンク容器10の外表面との間の距離をほぼ一定に保持しつつ、気泡除去を実行していた。しかし、気泡除去部230,230Aは、繊維強化タンク容器10の表面形状に沿って移動しなくとも良い。この場合には、ノズル235,235a,235bと繊維強化タンク容器10の外表面との間の距離に応じて、噴射するガスの圧力や温度を調整するものとしても良い。
【0049】
C4.変形例4:
上記第2実施例において、気泡除去部230Aは、第1と第2のノズル235a,235bのそれぞれから、温度の異なる第1と第2のガスを噴射していた。しかし、気泡除去部230Aは、単一のノズルから、温度の異なる第1と第2のガスを交互に噴射するものとしても良い。
【0050】
C5.変形例5:
上記実施例において、カーボン繊維20には、熱硬化性樹脂としてエポキシ樹脂が含浸されていたが、カーボン繊維20には、他の熱硬化性樹脂が含浸されるものとしても良い。例えば、熱硬化性樹脂としては、フェノール樹脂や、ユリア樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂などが用いられるものとしても良い。
【0051】
また、上記実施例では、カーボン繊維20に予め熱硬化性樹脂が含浸されていたが、熱硬化性樹脂は、予め含浸されていなくとも良い。例えば、熱硬化性樹脂は、タンク容器10へのカーボン繊維20の巻き付け工程において、カーボン繊維20に含浸されるものとしても良い。
【符号の説明】
【0052】
10…タンク容器(繊維強化タンク容器)
11…シリンダ部
13…ドーム部
20…カーボン繊維
20L…繊維強化層
23…熱硬化性樹脂
23s…表層
25…気泡
110…回転駆動部
120…リール
200,200A…熱硬化処理装置
210…基台
215…隔壁
221,222…タンク取付部
225…回転駆動部
230,230A…気泡除去部
235…ノズル
235a…第1のノズル
235b…第2のノズル
WS…内部空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高圧ガスタンク製造装置であって、
熱硬化性樹脂を含浸させた繊維を巻き付けることにより外表面に繊維強化樹脂層が形成されたタンク容器の全体を加熱して、前記繊維強化樹脂層の熱硬化処理を実行するタンク容器熱硬化部と、
前記熱硬化処理において、前記タンク容器の表層における一部領域の温度を局所的に変化させるとともに、前記一部領域にガスを吹き付けて、前記タンク容器の表層に生じる気泡を除去する気泡除去部と、
を備える、高圧ガスタンク製造装置。
【請求項2】
請求項1記載の高圧ガスタンク製造装置であって、
前記気泡除去部は、前記タンク容器の表層に温度調整されたガスを前記一部領域に局所的に吹き付けることにより、前記一部領域の温度を変化させる、高圧ガスタンク製造装置。
【請求項3】
請求項2記載の高圧ガスタンク製造装置であって、
前記気泡除去部は、前記タンク容器硬化部による前記タンク容器の加熱温度より高い温度に調整された高温ガスを、前記タンク容器の表層に吹き付けて、前記一部領域を局所的に加熱する、高圧ガスタンク製造装置。
【請求項4】
請求項2または請求項3記載の高圧ガスタンク製造装置であって、
前記気泡除去部は、温度の異なる第1と第2のガスを、前記タンク容器の表層に、交互に吹き付けて、前記一部領域の温度を局所的に変化させる、高圧ガスタンク製造装置。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載の高圧ガスタンク製造装置であって、
前記気泡除去部は、前記ガスを噴射するガス噴射口を有しており、
前記ガス噴射口は、前記タンク容器の外表面に沿って移動可能である、高圧ガスタンク製造装置。
【請求項6】
高圧ガスタンクの製造方法であって、
(a)熱硬化性樹脂を含浸させた繊維強化樹脂層が外表面に形成されたタンク容器を準備する工程と、
(b)前記繊維強化樹脂層の全体を加熱して熱硬化させつつ、前記タンク容器の表層における一部領域の温度を局所的に変化させるとともに、前記一部領域にガスを吹き付けて、前記タンク容器の表層に生じる気泡を除去する工程と、
を備える、製造方法。
【請求項7】
請求項6に記載の製造方法であって、
前記工程(b)は、前記タンク容器の表層に温度調整されたガスを前記一部領域に局所的に吹き付けることにより、前記一部領域の温度を変化させる工程を含む、製造方法。
【請求項8】
請求項7に記載の製造方法であって、
前記工程(b)は、前記繊維強化層の全体を熱硬化させるための加熱温度より高い温度に調整された空気または水蒸気を、前記タンク容器の表層に吹き付けて、前記一部領域を局所的に加熱する工程を含む、製造方法。
【請求項9】
請求項7または請求項8に記載の製造方法であって、
前記工程(b)は、温度の異なる第1と第2のガスを、前記タンク容器の表層に、交互に吹き付けて、前記一部領域の温度を変化させる工程を含む、製造方法。
【請求項10】
請求項6ないし請求項9のいずれか一項に記載の高圧ガスタンク製造装置であって、
前記工程(b)は、前記ガスを噴射するガス噴射口を、前記タンク容器の表層に沿って移動させつつ、前記ガスを前記タンク容器の表層に吹き付ける工程を含む、製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−264718(P2010−264718A)
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−119926(P2009−119926)
【出願日】平成21年5月18日(2009.5.18)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】