説明

高圧ガスタンク

【課題】タンク内圧に起因する部材変形を防止でき得る簡易な構成の高圧ガスタンクを提供する。
【解決手段】常圧よりも高い圧力でガスを貯留する高圧ガスタンク10は、その内部がガス貯留空間18として機能する中空形状のライナ12と、ライナ12の端部に配置される口金14と、口金14が装着されたライナ12の外側面を覆う補強層16と、を備える。口金14は、さらに、略筒状の筒部30や、当該筒部30の外側面から外側に張り出してライナ12の端面に沿う鍔部32、補強層16の変位を規制する変位規制部材を有する。変位規制部材は、具体的には、筒部30の外側面から張り出して補強層16内に突出する突起部40や、補強層16の最外層に当接する当接部42を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、常圧よりも高い圧力でガス(例えば天然ガスや水素ガス)を貯留する高圧ガスタンクに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、天然ガスや水素ガスなどの燃料ガスを、常圧より高い圧力、すなわち、高圧(例えば35MPaや70MPa)で貯留する高圧ガスタンクが広く知られている。かかる高圧ガスタンクは、これらガスを燃料とする移動体、例えば、燃料電池自動車や、CNG車などに搭載される。
【0003】
この種の高圧ガスタンクとしては、例えば、特許文献1に記載のものが知られている。特許文献1記載の高圧ガスタンクは、合成樹脂製の内殻と、該内殻に取り付けられた口金と、内殻および口金の外面を覆うFRP(Fiber Reinforced Plastics)製の外殻(補強層)と、を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−14342号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、こうした従来の高圧ガスタンクでは、内殻と外殻との間に位置する鍔部(フランジ部)が延設されていることが多い。かかる鍔部は、他の部位に比して負荷が集中しやすく、当該負荷を受けて変形が生じやすい。この鍔部の変形は、高圧ガスタンクの性能低下や寿命低下の要因の一つになる。この鍔部変形を防止するために、補強層を肉厚にすることが考えられる。しかし、かかる補強層の肉厚化は、コスト増加やタンクのサイズや重量増加を招く。
【0006】
こうした問題を低減するために、特許文献2には、タンク内圧により変形が生じやすい鍔部と補強層との間に、当該鍔部への圧縮応力を吸収・緩和する緩衝材を設ける技術が開示されている。かかる技術によれば、タンク内圧に起因する部材変形を多少は低減できる。しかし、この技術では、緩衝材という新たな部品が必要であり、コストや製造の手間増加という問題があった。つまり、従来、タンク内圧に起因する部材変形を防止でき得る簡易な構成の高圧ガスタンクを得ることは困難であった。
【0007】
そこで、本発明では、タンク内圧に起因する部材変形を防止でき得る簡易な構成の高圧ガスタンクを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の高圧ガスタンクは、常圧よりも高い圧力でガスを貯留する高圧ガスタンクであって、その内部がガス貯留空間として機能する中空形状のライナと、前記ライナの端部に配置され、前記ライナの内外を連通する口金であって、略筒状の筒部および当該筒部の外側面から外側に張り出して前記ライナの端面に沿う鍔部を含む口金と、前記口金が装着されたライナの外側面を覆う補強層と、を備え、前記口金は、当該口金との接触面積が小さくなる方向に変位しようとする補強層の少なくとも一部に当接することで当該補強層の変位を規制する変位規制部材を有する、ことを特徴とする。
【0009】
好適な態様では、前記変位規制部材は、前記筒部の先端近傍から外側に張り出すとともに、前記補強層の最外層に当接して当該補強層の変位を阻害する当接部を含む。この場合、前記当接部は、先端に近づくほど外径が大きくなる略ラッパ形状である、ことが望ましい。また、前記補強層は、前記口金が装着されたライナの外側面に繊維状材料を巻回することで構成される場合に、前記当接部は、前記筒部に対して着脱自在であって、前記補強層形成後に前記筒部に装着される、ことが望ましい。また、前記補強層は、前記口金が装着されたライナの外側面に繊維状材料を巻回することで構成される場合に、前記当接部の先端側の端面には、縁に近づくほど前記ライナの端面に近づくようなテーパが施されている、ことが望ましい。
【0010】
他の好適な態様では、前記変位規制部材は、前記筒部の外側面のうち前記補強層との接触部分から外側に張り出して前記補強層内に突出する突起部を含む。この場合、前記筒部の内側面には、バルブアッセンブリを着脱するための雌ネジが形成されており、前記突起部は、前記筒部の外側面のうち前記雌ネジの形成箇所の対向部分から外側に張り出している、ことが望ましい。また、前記補強層は、口金が装着されたライナの外側面に繊維状材料を巻回することで構成される場合に、前記突起部の先端側の端面には、縁に近づくほど前記ライナの端面に近づくようなテーパが施されている、ことが望ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、口金が、当該口金との接触面積が小さくなる方向に変位しようとする補強層の少なくとも一部に当接することで当該補強層の変位を規制する変位規制部材を有しているため、タンク内圧に起因する部材変形を効果的に防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施形態である高圧ガスタンクの概略断面図である。
【図2】図1におけるA部拡大図である。
【図3】他の高圧ガスタンクの一例を示す図である。
【図4】補強層形成の様子を示すイメージ図である。
【図5】他の高圧ガスタンクの一例を示す図である。
【図6】他の高圧ガスタンクの断面を示す図である。
【図7】従来の高圧ガスタンクを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。図1は、本発明の実施形態である高圧ガスタンク10の概略断面図である。また、図2は、図1におけるA部拡大図である。
【0014】
この高圧ガスタンク10は、水素ガスや天然ガスなどの燃料ガスを常圧より高い圧力、すなわち高圧(例えば数十MPa〜100MPaなど)で貯蔵するための容器である。高圧ガスタンク10は、据え置き型として用いられてもよいし、車両などの移動体に搭載されて用いられてもよい。例えば、燃料電池自動車に搭載されて使用される場合、この高圧ガスタンク10には、数十Mpa〜100Mpa程度の圧力の燃料ガス(水素ガス)が充填される。
【0015】
高圧ガスタンク10は、樹脂などからなるライナ12や、当該ライナ12の端部に装着される口金14、ライナ12および口金14の外側面を覆う補強層16などを備えている。ライナ12は、ガスバリア性を有する略円筒状部材で、樹脂などから構成される。このライナ12は、より正確に言えば、円筒の両端に、略半球面を接続したような形状となっており、当該ライナ12の内部が、高圧ガスが充填されるガス貯留空間18となる。さらに、ライナ12の一端または両端(図示例では両端)は、タンクの内側に折りこまれており、口金14が挿入される挿入筒20を形成している。この挿入筒20は、口金14の外径とほぼ同じ、あるいは、若干大きい内径を有した略円筒形部位である。
【0016】
口金14は、ライナ12の端部に配置され、ライナ12の内外を連通する部材である。そして、この口金14には、バルブアッセンブリ(図示せず)が着脱される。口金14は、ステンレスやアルミニウムなどの金属からなり、略円筒形の筒部30と、当該筒部30の外側面から突出形成される鍔部32、および、後述する変位規制部材などを有している。なお、以下の説明では、口金のうち、ライナ12に挿入される側の端部(すなわち図2において右側端部)を「後端」、ライナ12の外側に突出する側の端部(すなわち図2において左側端部)を「先端」と呼ぶ。
【0017】
筒部30は、その内径が、バルブアッセンブリの外径より僅かに小さい筒状部位である。この筒部30のうち、鍔部32より後端寄りの部分(図2において右寄り部分)は、ライナ12の挿入筒20に挿入される挿入部34として機能し、鍔部32より先端寄りの部分は、ライナ12より外側に突出した首部36として機能する。この首部36の内側面には、バルブアッセンブリの着脱を許容する雌ネジ38が形成されている。
【0018】
鍔部32は、筒部30の中間高さ位置から外側に張り出した略円盤状の部位である。この鍔部32は、筒部30と一体成形された部位である。鍔部32は、ライナ12の半球面周辺に対応した形状をしており、当該口金14をライナ12に装着した際、この鍔部32とライナ12の端面とが滑らかに連続するようになっている。
【0019】
ここで、後に詳説するように、ライナ12の内部にガスを充填した場合、当該ガスの圧力により口金14が外側方向(図2における左側方向)に押圧されることになる。この口金14の外側方向への押圧に伴い鍔部32が、補強層16を外側に押圧し、これにより、補強層16が変形することがある。かかる補強層16の変形は、種々の問題を招くことが知られている。そこで、本実施形態では、この鍔部32による補強層16の変形を防止または低減するために、当該口金14に、補強層16の変位を防止または低減する変位規制部材を設けている。この変位規制部材は、突起部40u,40d(以下、特に区別しない場合は単に「突起部40」と略す)および当接部42を含むが、これらの具体的構成および作用については後に詳説する。
【0020】
補強層16は、樹脂などからなるライナ12を補強する目的設けられる層で、例えば、繊維強化複合材としての単位繊維強化プラスチック(CFRP)などから構成される。この補強層16は、繊維状材料であるCFRPを、例えば、フィラメントワインディング法(以下「FW法」と略す)などにより、口金14が装着された状態のライナ12の外側面に巻回することで形成される。なお、図面から明らかなとおり、口金14の先端は、当該補強層16の外側に突出しており、補強層16には、この口金14の突出を許容するための開口50が形成されることになる。
【0021】
ここで、この補強層16には、タンク内に充填されたガスの圧力が、口金14およびライナ12を介して伝達される。この伝達される圧力は、均一ではなく、口金14の鍔部32周辺において過大になり易いことが知られている。その結果、従来の高圧ガスタンクでは、当該鍔部周辺において補強層の変形が生じる場合があった。これについて、図7を参照して詳説する。
【0022】
図7は、従来の高圧ガスタンクの概略断面図であり、図7(a)は補強層16の変形前を、図7(b)は補強層16の変形後を示している。従来の高圧ガスタンクも、樹脂製のライナ12、当該ライナ12の端部に装着される口金14、ライナ12および口金14の外側面を覆う補強層16などを備えている。ただし、本実施形態の高圧ガスタンクと異なり、従来の高圧ガスタンクの口金14には、補強層16の変位を規制する変位規制部材である突起部40や当接部42などは設けられていない。したがって、従来の口金14は、略円筒形の筒部30と、当該筒部30の中間高さ位置から外側に張り出す略円盤状の鍔部32と、から構成される。この口金14の内部には、バルブアッセンブリ100が螺合により装着される。
【0023】
ここで、高圧ガスタンクに高圧ガスが充填された場合、当該高圧ガスの圧力がライナ12および口金14を介して補強層16に伝達され、補強層16が、外向きに押圧されることになる。この押圧を受けて、補強層16の開口50周辺が、当該開口50が広がる方向、換言すれば、口金14との接触面積が減少する方向に変形し、結果として、図7(b)で図示するような状態になることがある。
【0024】
かかる変形が生じる原因としては、まず、補強層16のなかでも開口50周辺は、他の部位に比して強度が低く、変形し易いことが挙げられる。また、もう一つの原因として、当該開口50周辺には、口金14の鍔部32を介して、他の部位に比して過大な押圧力が伝達されやすいことが挙げられる。
【0025】
すなわち、高圧ガスの圧力は、ライナ12の内側面に均等にかかるだけでなく、口金14の筒部30の底面や当該口金14に螺合連結されたバルブアッセンブリ100の底面にもかかる。この内圧を受けて、バルブアッセンブリ100および口金14は、外側に突出しようとする。ただし、この口金14等の突出は、口金14の鍔部32が補強層16に当接することで阻害される。別の見方をすれば、補強層16のうち当該鍔部32との接触部分には、当該鍔部32に作用する内圧だけでなく、口金14およびバルブアッセンブリ100が外側に突出しようとする力もかかることになる。
【0026】
より具体的に説明すると、高圧ガスの圧力をP、鍔部32の外径をb、口金14の筒部30の外径をrとした場合、当該鍔部32を介して補強層16に伝達される圧力P*は、P*=(b2×P)/(b2−r2)という数式で表される。つまり、補強層16のうち鍔部32に接触する部分は、他の部位に比して{b2/(b2−r2)}倍の圧力を受けることになる。その結果、補強層16のうち開口50周辺が、口金14との接触面積が減少する方向、すなわち、外側方向に変位しやすくなる。
【0027】
この開口50周辺における補強層16の変形が生じた場合、図7(b)に図示するように、口金14、ライナ12、および、補強層16の間に微小な間隙が形成され、ガスバリア性能が低減したり、高圧ガスタンク全体としての強度が低下したりすることもある。そして、なによりも、かかる補強層16の変形は、口金14と補強層16との接触面積の更なる低減、ひいては、負荷(圧力)のさらなる集中を招き、結果として、補強層16のさらなる変形を誘発するという悪循環を招く。
【0028】
本実施系形態では、かかる補強層16の変形、ひいては、荷重(圧力)の集中を防止または低減するために、口金14の形状を特殊なものとしている。以下、これについて、再び、図1、図2を参照して説明する。
【0029】
既述したとおり、本実施形態の口金14は、補強層16の変位を規制(防止または低減)する変位規制部材を有している。この変位規制部材は、基本的には、口金14との接触面積が小さくなる方向に変位しようとする補強層16の少なくとも一部に当接することで、当該補強層16の変位を規制する構成となっている。より具体的に説明すると、本実施形態では、変位規制部材として、突起部40および当接部42を口金14に設けている。
【0030】
突起部40は、筒部30の外側面のうち補強層16との接触部分(すなわち、首部36の外側面)から外側に張り出した略円盤状のリブである。この突起部40は、略円筒形である筒部30の軸線に対して略直交する方向、換言すれば、鍔部32の延設方向に略平行な方向に延びている。そのため、タンクに充填された高圧ガスの圧力を受けて、口金14等が外方向に突出しようとした場合、補強層16は、鍔部32だけでなく、この突起部40の上面にも当接することになる。そして、これにより、口金14等の外側への突出が阻害される。別の見方をすれば、口金14等の突出力が、鍔部32だけでなく、突起部40の上面にも分散されて補強層16に伝達されることになる。
【0031】
換言すれば、本実施形態の場合、口金14等の突出力を伝達するために補強層16に接触する面積が、突起部40の分だけ従来よりも増加している。その結果、鍔部32だけで突出力の伝達を行っていた従来の高圧ガスタンク(図7に図示の高圧ガスタンク)に比して、単位面積当たりの押圧力が低減されることになる。そして、その結果、部分的に過大圧力がかかることが防止されるため、補強層の変形が効果的に防止または低減されることになる。
【0032】
また、鍔部32から圧力を受けて補強層16が外側方向に変形しようとした場合、この突起部40の底面が当該補強層16に当接することになるため、補強層16の変形が効果的に防止される。換言すれば、当該突起部40により補強層16の変位が拘束されることになる。
【0033】
つまり、この突起部40を設けることにより、口金14と補強層16との接触面積を増加、ひいては、単位面積あたりの押圧力を低減でき、また、補強層16の変位を拘束することができる。その結果、補強層16の変位を効果的に防止または低減できる。
【0034】
当接部42は、口金14の先端近傍に設けられる部位である。この当接部42は、筒部30の先端近傍から外側に張り出すとともに、補強層16の最外層に当接して当該補強層16の変位を阻害できるのであれば、その形状は特に限定されない。本実施形態では、図2に図示するように、当接部42を、先端に近づくほど外径が拡大する略ラッパ形状としている。タンクの内圧を受けて補強層16が外方向へ変位しようとした場合、この当接部42の底面が当該補強層16の最外層に当接することになる。そして、この当接により、当該補強層16の外方向への変位が効果的に防止または低減される。
【0035】
以上の説明から明らかなとおり、本実施形態では、口金14との接触面積が小さくなる方向に変位しようとする補強層16の少なくとも一部に当接することで当該補強層16の変位を規制する変位規制部材(突起部40および当接部42)を有している。そして、かかる変位規制部材を有することで、補強層16の変形を効果的に防止または低減できる。
【0036】
なお、ここで説明した構成は一例であり、補強層16の少なくとも一部に当接することで当該補強層16の変位を規制できるのであれば、その具体的構成は、適宜、変更されてもよい。例えば、上述の実施形態では、突起部40と当接部42の両方を設けているが、いずれか一方のみを設けるようにしてもよい。例えば、突起部40のみを設けて当接部42を省略してもよい。また、逆に当接部42のみを設けて突起部40を省略するようにしてもよい。
【0037】
また、図2は、異なる形状の二つの突起部40、すなわち、断面略矩形の上側突起部40uと、断面略三角形の下側突起部40dと、を設けている。しかし、突起部40の個数は、特に限定されず、一つであってもよいし、三つ以上であってもよい。また、突起部40を複数、設ける場合には、当該複数の突起部40の形状を全て同じにしてもよいし、互いに異ならせてもよい。
【0038】
また、この突起部40の形成位置は、少なくとも、口金14の筒部30の外側面のうち補強層16との接触部分であるならば、特に限定されない。しかし、口金14の強度向上のためには、当該突起部40は、筒部30の外側面のうちバルブアッセンブリを螺合装着するための雌ネジ38形成部分に対向する位置に設けることが望ましい。すなわち、バルブアッセンブリを螺合装着するための雌ネジ38形成部分は、その構成上、他の部位に比して、若干ながら肉薄になり、強度低下しやすい。かかる強度低下しやすい部位に突起部40を設けることで、当該突起部40が筒部30の強度を補強する補強材としても機能することになり、口金14全体の強度を向上することができる。
【0039】
また、当接部42および突起部40の形状も、変位しようとする補強層16に当接できるのであれば、特に限定されない。ただし、口金14を装着したライナ12の外側面に繊維状材料を巻回することで補強層16を形成する場合、当接部42および突起部40は、その上面にテーパが施されていることが望ましい。
【0040】
すなわち、図3に図示するように、当接部42および突起部40のいずれも、その上面は、縁に近づくほどライナの端面に近づくような(図3において右側に近づくような)テーパが施されていることが望ましい。かかる形状とすることで、補強層16の形成工程、すなわち、繊維状材料の巻回工程を容易に行うことができる。これについて図4を参照して説明する。
【0041】
図4は、FW法での補強層16形成の様子を示すイメージ図である。FW法では、樹脂に含浸したFCRPの束、すなわち、繊維束をライナに巻回する。この巻回の際、ライナは、その長軸を中心として回転させられる。また、繊維束を保持するボビンも適宜、回転および移動させられる。
【0042】
巻回の方法は、特に限定されるものではなく、例えば、フープ巻きにしてもよいし、ヘリカル巻きにしてもよいし、その他の巻回方法を用いてもよい。ここで、フープ巻きとは、繊維束を回転軸に対してほぼ垂直にセットし、徐々に巻回箇所をずらしていく巻き方である。また、ヘリカル巻きは、繊維束を回転軸に対して斜めにセットし、巻回箇所を大きくずらしていく巻き方である。いずれにしても、繊維状材料をライナ12に巻回していくことで補強層16が形成される。
【0043】
ここで、この補強層16は、当接部42と突起部40との間や、突起部40と突起部との間、および、突起部40と鍔部32との間にも当然、形成する必要がある。このとき、当接部42および突起部40の上面が略水平や、縁に近づくほどライナ12端面から離れるようなテーパである場合、巻回の過程で、当該当接部42および突起部40の上面に引っ掛かった繊維材料は、当該上面に引っ掛かったまま留まることになる。一方、図3に図示するように、突起部40および当接部42の上面が略下向きのテーパ(縁に近づくほどライナ端面に近づくテーパ)である場合を考える。この場合、巻回の過程で、当該上面に繊維材料が引っ掛かったとしても、当該繊維材料を上面に押し当てる方向に引っ張れば、繊維材料は当該上面を滑って、当接部42や突起部40の下側に自動的に落ちてくることになる。その結果、当接部42や突起部40の下側にも、繊維材料を簡易に配置させることができる。換言すれば、下向きのテーパを形成することにより、補強層16をより簡易に形成することができる。
【0044】
また、これまでの説明では、当接部42および突起部40を、口金14の筒部30と一体成形する場合のみを例示しているが、これらは、筒部30に対して着脱自在であっても、例えば、図5に図示するように、筒部30の外側面に雄ネジを形成し、当接部42を、当該雄ネジに螺合可能な雌ネジを有した管体または環状体としてもよい。このように当接部42を着脱自在とすることで、補強層16の成形作業、すなわち、繊維材料の巻回作業をより容易化できる。
【0045】
すなわち、この場合、繊維材料の巻回作業時には、当接部42を筒部30から取り外しておけば、巻回時に繊維材料が当接部42の上面に引っ掛かることがなく、繊維材料の巻回作業を簡易に行うことができる。そして、繊維材料の巻回が完了し、補強層16が完全に形成された後に、当接部42を螺合などの装着手段により、筒部30に装着するようにすれば、補強層16のその後の変形も効果的に防止または低減できる。
【0046】
また、これまでの説明では、当接部42および突起部40が、筒部30の全周囲から延びる略円盤状部材の場合のみを例示したが、当接部42および突起部40は、筒部30の外側面において、周方向に並ぶ複数のリブであってもよい。例えば、図2におけるB−B断面が、図6に図示するような形状となってもよい。かかる構成とする場合であっても、これら複数のリブ(当接部42または突起部40)は、変位しようとする補強層16の一部に当接して、当該変位を阻害しようとするため、従来の高圧ガスタンクに比して、部材の変形を効果的に防止または低減できる。なお、周方向に並ぶ複数のリブで当接部42または突起部40を構成する場合、圧力を均等に受けられる世に、当該複数のリブは、周方向に等間隔で並べることが望ましい。
【符号の説明】
【0047】
10 高圧ガスタンク、12 ライナ、14 口金、16 補強層、18 ガス貯留空間、20 挿入筒、30 筒部、32 鍔部、34 挿入部、36 首部、38 雌ネジ、40 突起部、42 当接部、50 開口、100 バルブアッセンブリ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
常圧よりも高い圧力でガスを貯留する高圧ガスタンクであって、
その内部がガス貯留空間として機能する中空形状のライナと、
前記ライナの端部に配置され、前記ライナの内外を連通する口金であって、略筒状の筒部および当該筒部の外側面から外側に張り出して前記ライナの端面に沿う鍔部を含む口金と、
前記口金が装着されたライナの外側面を覆う補強層と、
を備え、
前記口金は、当該口金との接触面積が小さくなる方向に変位しようとする補強層の少なくとも一部に当接することで当該補強層の変位を規制する変位規制部材を有する、
ことを特徴とする高圧ガスタンク。
【請求項2】
請求項1に記載の高圧ガスタンクであって、
前記変位規制部材は、前記筒部の先端近傍から外側に張り出すとともに、前記補強層の最外層に当接して当該補強層の変位を阻害する当接部を含む、ことを特徴とする高圧ガスタンク。
【請求項3】
請求項2に記載の高圧ガスタンクであって、
前記当接部は、先端に近づくほど外径が大きくなる略ラッパ形状である、ことを特徴とする高圧ガスタンク。
【請求項4】
請求項2または3に記載の高圧ガスタンクであって、
前記補強層は、前記口金が装着されたライナの外側面に繊維状材料を巻回することで構成される場合に、
前記当接部は、前記筒部に対して着脱自在であって、前記補強層形成後に前記筒部に装着される、
ことを特徴とする高圧ガスタンク。
【請求項5】
請求項2から4のいずれか1項に記載の高圧ガスタンクであって、
前記補強層は、前記口金が装着されたライナの外側面に繊維状材料を巻回することで構成される場合に、
前記当接部の先端側の端面には、縁に近づくほど前記ライナの端面に近づくようなテーパが施されている、
ことを特徴とする高圧ガスタンク。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載の高圧ガスタンクであって、
前記変位規制部材は、前記筒部の外側面のうち前記補強層との接触部分から外側に張り出して前記補強層内に突出する突起部を含む、ことを特徴とする高圧ガスタンク。
【請求項7】
請求項6に記載の高圧ガスタンクであって、
前記筒部の内側面には、バルブアッセンブリを着脱するための雌ネジが形成されており、
前記突起部は、前記筒部の外側面のうち前記雌ネジの形成箇所の対向部分から外側に張り出している、
ことを特徴とする高圧ガスタンク。
【請求項8】
請求項6または7に記載の高圧ガスタンクであって、
前記補強層は、口金が装着されたライナの外側面に繊維状材料を巻回することで構成される場合に、
前記突起部の先端側の端面には、縁に近づくほど前記ライナの端面に近づくようなテーパが施されている、
ことを特徴とする高圧ガスタンク。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−266029(P2010−266029A)
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−119193(P2009−119193)
【出願日】平成21年5月15日(2009.5.15)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】