説明

高圧タンク用ライナーの製造装置、高圧タンク用ライナーの製造方法及び高圧タンク

【課題】2つの分割体の両溶着端部の間の隙間を無くすように接合する高圧タンク用ライナーの製造装置等を提供する。
【解決手段】高圧タンク用ライナーの製造装置は、第1及び第2の分割体10,20の両溶着端部を対向接触させてなるレーザー溶着部30を直接外周側から保持する押さえ治具40と、第1の分割体10の内部にレーザー光52を照射するレーザー源50と、照射されたレーザー光52をレーザー溶着部30の内周側に反射する反射鏡60が一方端に設けられた反射鏡付き回転軸62と、反射鏡付き回転軸62を回転させる回転手段64と、第2の分割体20を把持する把持具70と、把持具70に設けられ第2の分割体20に対し振動を加える振動発振機72を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高圧タンク用ライナーの製造装置、高圧タンク用ライナーの製造方法及び高圧タンクに関する。
【背景技術】
【0002】
図10に示すように、高圧タンク300等の高圧容器は、鉄等に比べ軽量であって強靱性を有するFRP(Fiber Reinforced Plastic)部材が用いられ、中空のライナー310の表面にFRP部材からなるFRP層320が形成されている。ここで、FRP部材は、例えば、繊維と樹脂を含み、プラスチックが強化されたものである。
【0003】
図11に示すように、FRP層320を形成する方法として、例えば、フィラメントワインディング法(以下「FW法」ともいう)が知られており、このフィラメントワインディング法は、樹脂を含浸した繊維を、中空のライナー310に巻き付けて、FRP層320を形成する方法である。FRP層320を形成したのち、通常、熱硬化処理が施される。
【0004】
上記中空のライナーは、例えば、2つ以上の分割体を接合することにより形成することができる。特許文献1には、樹脂組成物からなる2つ以上の分割体を接合して中空のライナーを形成することが記載され、樹脂組成物として、ポリアミド6、共重合ポリアミド、耐衝撃材を含むポリアミド樹脂組成物を用いることが記載されている。
【0005】
一方、特許文献2には、レーザー光に対して吸収性を有する樹脂からなる2つの樹脂成形体の溶着端部を対向させてレーザー溶着する方法が記載されている。溶着に際し、レーザー光は、ライナーの外周側から照射されている。
【0006】
ところで、従来、樹脂組成物からなる2つの分割体110,120の溶着して中空のライナー200を形成する一般的な方法は、例えば、図8に示すように、2つの分割体110,120の溶着端部を対向させ、さらに、対向接触させた両溶着端部からなるレーザー溶着部30を露出させた状態で分割体110,120の一方を押さえ治具40で押さえ、口金部14,24を貫通する回転軸(図示せず)によって分割体110,120を同時に回転させながら、レーザー源50からのレーザー光52を分割体110,120の外側からレーザー溶着部30に照射し、2つの分割体110,120の溶着端部を溶着して中空のライナー200を形成している。
【0007】
上記方法をさらに詳細に説明すると、2つの分割体は、レーザー透過材からなる分割体110とレーザー吸収材からなる分割体120とからなり、図9に示すように、例えば、両分割体110,120の溶着端部は、それぞれ嵌合可能な段差切り欠き形状を有し、互いに段差切り欠き部を嵌め合わせることでレーザー溶着部30が形成されている。そして、レーザー溶着部30におけるレーザー透過材からなる分割体110にレーザー光52が照射されると、分割体110を透過したレーザー光52がレーザー吸収材からなる分割体120に到達し、レーザー光52を吸収した分割体120の溶着端部が発熱して溶融するとともに、分割体120の発熱が分割体110の溶着端部に伝わり、分割体110の溶着端部も溶融して、分割体110,120の両溶着端部が溶融し混ざり合うことにより、分割体110,120が接合される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2004−130606号公報
【特許文献2】特開2009−191871号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述した従来の樹脂組成物からなる2つの分割体を溶着して中空のライナーを形成する方法において、2つの分割体を対向接触させた時に、仮に、2つの分割体の両溶着端部の間に少なくとも一個所に隙間が発生した場合、レーザー光が照射されてレーザー吸収材からなる分割体が発熱しても、その熱が隙間のためにレーザー透過材からなる分割体に伝達されず、隙間が発生した個所の両溶着端部の溶着精度が低下するおそれがある。また、2つの分割体の対向接触個所の外側からレーザー光を照射するため、2つの分割体を保持する押さえ治具は、レーザー溶着部を直接押さえることができず、従って直接押さえた場合に比べ隙間の発生を抑制し難く、さらにレーザー照射面は外気に晒され冷却し易いため、溶着端部の発熱溶融個所は比較的狭く、また発熱溶融時間も比較的短くなることから、レーザー光を照射した両溶着端部のみ発熱して溶融接合されるため、仮に、それ以外の両溶着端部間に隙間が発生している場合でも、その状態で溶着による接合が進行してしまうおそれがある。
【0010】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、少なくとも2つの分割体の両溶着端部の間の隙間を無くすように接合する高圧タンク用ライナーの製造装置、高圧タンク用ライナーの製造方法および高圧タンクを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明の高圧タンク用ライナーの製造装置、高圧タンク用ライナーの製造方法及び高圧タンクは以下の特徴を有する。
【0012】
(1)レーザー光に対して透過性を有する樹脂からなる第1の分割体の溶着端部とレーザー光に対して吸収性を有する樹脂からなる第2の分割体の溶着端部とを対向接触させてなる周回部を外周側から保持する押さえ治具と、第1の分割体に設けられた口金部を介して第1の分割体の内部にレーザー光を照射するレーザー源と、第2の分割体に設けられた口金部を介して第2の分割体内に挿入され、照射されたレーザー光を前記周回部の内周側に反射する反射鏡が一方端に設けられた反射鏡付き回転軸と、反射鏡付き回転軸を回転させる回転手段と、を有する高圧タンク用ライナーの製造装置である。
【0013】
第1の分割体の溶着端部と第2の分割体の溶着端部とを対向接触させてなる周回部を外周側から押さえ治具により保持するため、従来に比べ、両溶着端部間の隙間の発生が抑制される。さらに、第2の分割体内に挿入された反射鏡付き回転体を回転させながら、反射鏡によって第1の分割体内に照射されたレーザー光を前記周回部の内周側に反射させ両溶着端部を発熱させるので、発生した熱は第1の分割体及び第2の分割体の内部に籠もり、両溶着端部の溶融時間が従来に比べ長くなる。これにより、仮に対向接触時に両溶着端部間に隙間が生じても、十分に隙間を埋めながら溶着接合することができる。
【0014】
(2)上記(1)に記載の高圧タンク用ライナーの製造装置において、さらに、第2の分割体を把持しながら、第1の分割体の口金部と第2の分割体の口金部を結ぶ軸方向に対して振動を加える振動発振機を有する高圧タンク用ライナーの製造装置である。
【0015】
第2の分割体内に挿入された反射鏡付き回転体を回転させながら、反射鏡によって第1の分割体内に照射されたレーザー光を前記周回部の内周側に反射させ、両溶着端部を発熱させ溶融させて接合する際に、第1の分割体の溶着端部及び第2の分割体の溶着端部のそれぞれの溶融時の溶け込み量に応じて、第1の分割体の口金部と第2の分割体の口金部を結ぶ軸方向に対して振動発振機から振動を加えるので、さらに両溶着端部間の隙間を無くして接合することができる。
【0016】
(3)上記(1)または(2)に記載の高圧タンク用ライナーの製造装置において、さらに、反射鏡の角度を調整する反射鏡角度調整手段が設けられている高圧タンク用ライナーの製造装置である。
【0017】
第1の分割体の溶着端部と第2の分割端部の溶着端部との対向接触部分の幅に応じて、反射鏡角度調整手段を用いて反射鏡により反射されるレーザー光の幅を調整することができるので、両溶着端部の溶着に必要な量を十分に溶融させ、両溶着端部をより確実に溶着させることができる。
【0018】
(4)レーザー光に対して透過性を有する樹脂からなる第1の分割体の溶着端部とレーザー光に対して吸収性を有する樹脂からなる第2の分割体の溶着端部とを対向接触させてなる周回部を外周側から保持する工程と、第2の分割体に設けられた口金部を介して挿入された一方端に反射鏡が設けられた反射鏡付き回転軸を回転させるながら、第1の分割体に設けられた口金部を介して反射鏡に対しレーザー光を照射し、照射されたレーザー光を前記周回部の内周側に反射させて両溶着端部を溶着接合する工程と、を有する高圧タンク用ライナーの製造方法である。
【0019】
第1の分割体の溶着端部と第2の分割体の溶着端部とを対向接触させてなる周回部を外周側から保持するため、従来に比べ、両溶着端部間の隙間の発生が抑制される。さらに、第2の分割体内に挿入された反射鏡付き回転体を回転させながら、反射鏡によって第1の分割体内に照射されたレーザー光を前記周回部の内周側に反射させ両溶着端部を発熱させるので、発生した熱は第1の分割体及び第2の分割体の内部に籠もり、両溶着端部の溶融時間が従来に比べ長くなる。これにより、仮に対向接触時に両溶着端部間に隙間が生じても、十分に隙間を埋めながら溶着接合することができる。
【0020】
(5)レーザー光に対して透過性を有する樹脂からなる第1の分割体の溶着端部とレーザー光に対して吸収性を有する樹脂からなる第2の分割体の溶着端部とを対向接触させた周回部を外周側から保持する工程と、第2の分割体に設けられた口金部を介して挿入された一方端に反射鏡が設けられた反射鏡付き回転軸を回転させるながら、第1の分割体に設けられた口金部を介して反射鏡に対しレーザー光を照射し、照射されたレーザー光を前記周回部の内周側に反射させ、且つ、第2の分割体を把持しながら第1の分割体の口金部と第2の分割体の口金部を結ぶ軸方向に対して振動を加え、両溶着端部を溶着接合する工程と、を有する高圧タンク用ライナーの製造方法である。
【0021】
第1の分割体の溶着端部と第2の分割体の溶着端部とを対向接触させてなる周回部を外周側から保持するため、従来に比べ、両溶着端部間の隙間の発生が抑制される。また、第2の分割体内に挿入された反射鏡付き回転体を回転させながら、反射鏡によって第1の分割体内に照射されたレーザー光を前記周回部の内周側に反射させ両溶着端部を発熱させるので、発生した熱は第1の分割体及び第2の分割体の内部に籠もり、両溶着端部の溶融時間が従来に比べ長くなり、さらに、両溶着端部を発熱させ溶融させて接合する際に、第1の分割体の溶着端部及び第2の分割体の溶着端部のそれぞれの溶融時の溶け込み量に応じて、第1の分割体の口金部と第2の分割体の口金部を結ぶ軸方向に対して振動発振機から振動を加えるので、さらに両溶着端部間の隙間を無くして接合することができる。
【0022】
(6)上記(1)から(3)のいずれか1つに記載の高圧タンク用ライナーの製造装置または上記(4)又は(5)に記載の高圧タンク用ライナーの製造方法により2つの分割体を接合してなるライナーと、ライナーに熱硬化性樹脂を含浸した繊維を巻回して硬化させてなる繊維強化樹脂層と、を有する高圧タンクである。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、少なくとも2つの分割体の両溶着端部の間の隙間を無くすように接合される。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1A】本発明の実施の形態におけるライナー形成用のレーザー光に対して透過性を有する樹脂からなる第1の分割体の一例の断面図である。
【図1B】本発明に実施の形態おけるライナー形成用のレーザー光に対して吸収性を有する樹脂からなる第2の分割体の一例の断面図である。
【図2】本発明の実施の形態における第1の分割体の溶着端部と第2の分割体の溶着端部との対向接触部の構造の一例を示す断面図である。
【図3】本発明の実施の形態における高圧タンク用ライナーの製造装置の構成の一例を説明する概略構成図である。
【図4】本発明の実施の形態における反射鏡の角度を調整する反射鏡角度調整手段の構成の一例を示す概略構成図である。
【図5A】本発明の実施の形態における反射鏡角度調整手段を用いて反射角度θ1にした時の反射されるレーザー光の幅を説明する図である。
【図5B】本発明の実施の形態における反射鏡角度調整手段を用いて反射角度θ2にした時の反射されるレーザー光の幅を説明する図である。
【図6】本発明の実施の形態における高圧タンク用ライナーの製造方法の一例を説明するフローチャートである。
【図7】本発明の実施の形態における高圧タンク用ライナーの製造方法の他の例を説明するフローチャートである。
【図8】従来の高圧タンク用ライナーの製造方法の一例を説明する概略図である。
【図9】従来のレーザ透過材からなる分割体とレーザー吸収材からなる分割体の両溶着端部を嵌合させた部分にレーザー光を照射した際の溶着メカニズムを説明する図である。
【図10】高圧タンクの構造の一例を説明する一部破断断面図である。
【図11】図10の一点破線で囲んだX部分の拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施形態について、図面に基づいて説明する。
【0026】
本実施の形態の高圧タンク用ライナーの製造装置及び高圧タンク用ライナーの製造方法では、図1A及び図1Bに示すように、レーザー光に対して透過性を有する樹脂からなる第1の分割体10と、レーザー光に対して吸収性を有する樹脂からなる第2の分割体20とを用い、図2に示すように、第1の分割体10の溶着端部12と第2の分割体20の溶着端部22とを対向接触させ、さらに溶着させて接合することにより、高圧タンク用ライナーを製造している。ここで、図2に示す溶着端部12には、溶着端部22の突出部と嵌合可能な切り欠き部が設けられており、両溶着端部12,22は嵌合した状態で溶着されて接合されている。
【0027】
レーザー光に対して透過性を有する樹脂からなる第1の分割体10としては、レーザーを透過する樹脂であれば如何なる樹脂でも良いが、例えば、ポリアミド系樹脂組成物が用いられ、ポリアミド系樹脂組成物としては、例えば、ωアミノ酸の重縮合反応で合成されるn−ナイロン、ジアミンとカルボン酸の共縮重合反応で合成されるn,m−ナイロンが挙げられ、n−ナイロンとしては、ナイロン6、ナイロン11、ナイロン12が挙げられ、n,m−ナイロンとしては、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン6T、ナイロン6I、ナイロン9T、ナイロンM5Tが挙げられ、その他、ナイロン612,ケプラー(デュポン社の登録商標、poly-p-phenyleneterephthalamide)、ノーメックス(デュポン社の登録商標、poly-m-phenyleneisoephthalamide)などが用いられる。
【0028】
レーザー光に対して吸収性を有する樹脂からなる第2の分割体20としては、レーザー光を吸収する樹脂またはレーザーを吸収する材料を含有する樹脂であれば如何なるものでも良く、例えば、上述したポリアミド系樹脂組成物、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、スチレン−アクリロニトリル共重合体、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリスチレン、ABS、アクリル(PMMA)、ポリカーボネート(PC)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリフェニレンスルファイド(PPS)等の樹脂に、カーボンブラック、染料や顔料等の所定の着色材を混入したものが挙げられる。
【0029】
さらに、本実施の形態では、第1の分割体10に用いるレーザー光に対して透過性を有する樹脂と第2の分割体20に用いるレーザー光に対して吸収性を有する樹脂との透過率(%)の差が、30%〜70%であることが好ましい。ここで、透過率は、半導体レーザー(レーザー光の波長:500〜1000nm)を照射したときの透過率である。
【0030】
また、第2の分割体20の全体を、上述したレーザー光に対して吸収性を有する樹脂から成形してもよいが、例えば、第2の分割体20の溶接端部のみをレーザー光に対して吸収性を有する樹脂を用いて成形してもよい。
【0031】
本実施の形態における高圧タンク用ライナーの製造装置は、図3に示すように、第1の分割体10の溶着端部と第2の分割体20の溶着端部とを対向接触させてなる周回部であるレーザー溶着部30を直接外周側から保持する押さえ治具40と、第1の分割体10に設けられた口金部を介して第1の分割体10の内部にレーザー光52を照射するレーザー源50と、第2の分割体20に設けられた口金部を介して第2の分割体20内に挿入され、照射されたレーザー光52をレーザー溶着部30の内周側に反射する反射鏡60が一方端に設けられた反射鏡付き回転軸62と、反射鏡付き回転軸62を回転させる回転手段64とを有する。
【0032】
レーザー溶着部30を直接外周側から押さえ治具により保持するため、従来に比べ、両溶着端部間の隙間の発生が抑制される。また、第2の分割体20内に挿入された反射鏡付き回転軸62を回転させながら、反射鏡60によって第1の分割体10内に照射されたレーザー光52をレーザー溶着部30の内周側に反射させ両溶着端部を発熱させるので、発生した熱は第1の分割体10及び第2の分割体20の内部に籠もり、両溶着端部の溶融時間が従来に比べ長くなり、仮に対向接触時に両溶着端部間に隙間が生じても、十分に隙間を埋めながら溶着接合することができる。
【0033】
また、反射鏡付き回転軸62を高速回転させることで、所定時間内に、両溶着端部の周回部全体にレーザー光を均一に照射することができるので、両溶接端部の周回部全体にほぼ均一に発熱を生じさせながら溶着を行うことができる。これにより、レーザー光による溶着が高速で且つ安定した溶着品質を確保することができる。ここで、本実施の形態における反射鏡付き回転軸62の回転速度は、例えば、2〜3秒で1回転する速度で、6〜7回転させて溶着させ接合させること好ましいが、これに限るものではなく、レーザー光の強度と第2の分割体20におけるレーザー光を吸収する樹脂の透過率に応じて適宜回転速度及び回転数が選択される。
【0034】
本実施の形態におけるレーザー源50から照射されるレーザー光52の種類としては、レーザー光を透過させる透過樹脂材の吸収スペクトルや板厚(透過長)等との関係で、透過樹脂材内での透過率が所定値以上となるような波長を有するものが適宜選定される。例えば、ガラス:ネオジム3+レーザー、YAG:ネオジム3+レーザー、ルビーレーザー、ヘリウム−ネオンレーザー、クリプトンレーザー、アルゴンレーザー、H2レーザー、N2レーザー、半導体レーザー等のレーザー光をあげることができる。より好ましいレーザーとしては、YAG:ネオジム3+レーザー(レーザー光の波長:1060nm)や半導体レーザー(レーザー光の波長:500〜1000nm)が挙げられる。
【0035】
本実施の形態における高圧タンク用ライナーの製造装置は、さらに、図3に示すように、第2の分割体20を把持する把持具70と、把持具70に設けられ第1の分割体10の口金部14と第2の分割体20の口金部24を結ぶ軸方向に対して振動を加える振動発振機72とが設けられている。
【0036】
従って、第2の分割体20内に挿入された反射鏡付き回転軸62を回転させながら、反射鏡60によって第1の分割体10内に照射されたレーザー光52をレーザー溶着部30の内周側に反射させ、両溶着端部を発熱させ溶融させて接合する際に、第1の分割体10の溶着端部及び第2の分割体20の溶着端部のそれぞれの溶融時の溶け込み量に応じて、第1の分割体10の口金部14と第2の分割体20の口金部24を結ぶ軸方向に対して振動発振機72から振動を加えることにより、仮に、両溶着部の間に隙間が発生した場合でも溶着しながら隙間を無くして、常に隙間なしの接合が行われる。このように、反射鏡付き回転軸62を高速回転させ、分割体内部からレーザー光を照射して溶着させ、且つ、分割体に振動を加えることにより、ライナーの生産性は飛躍的に向上する。
【0037】
ここで、上述した把持具70は、例えば、第2の分割体20の口金部24を挟むように把持する把持具であっても、また第2の分割体20の外周部分を把持する把持具であってもよい。また、振動発振機72として、例えば、超音波振動発振機を用いることができる。
【0038】
また、本実施の形態における高圧タンク用ライナーの製造装置は、図4に示すように、さらに、反射鏡60の角度を調整する反射鏡角度調整手段が設けられている。反射鏡角度調整手段は、図4に示すように、反射鏡付き回転軸62に隣接して進退可能に駆動可能な軸66であって、軸の先端には回動可能なヒンジが設けられ、ヒンジを介して反射鏡60と接続されている。
【0039】
これにより、例えば、第1の分割体の溶着端部と第2の分割端部の溶着端部との対向接触部分(例えば嵌合部分)の幅(図2に示す「レーザー照射範囲」に相当する)が狭い場合には、図4に示す軸66を進出させて、図5Aに示すように反射鏡60を角度θ1に調整することで、反射されたレーザー光の幅を狭く調整してレーザー溶着部を効率よく溶着させることができる。一方、対向接触部分の幅が広い場合には、図4に示す軸66を退行させて、図5Bに示すように反射鏡60を角度θ2に調整することで、反射されたレーザー光の幅を広く調整してレーザー溶着端部全体を十分に溶着させることができる。
【0040】
次に、本実施の形態における高圧タンク用ライナーの製造方法の一例は、図6に示すように、レーザー光に対して透過性を有する樹脂からなる第1の分割体の溶着端部とレーザー光に対して吸収性を有する樹脂からなる第2の分割体の溶着端部とを対向接触させてなる周回部を直接外周側から保持する工程(S100)と、第2の分割体に設けられた口金部を介して一方端に反射鏡が設けられた反射鏡付き回転軸を挿入する工程(S102)と、反射鏡付き回転軸を回転させながら、第1の分割体に設けられた口金部を介して反射鏡に対しレーザー光を照射し、照射されたレーザー光を前記周回部の内周側に反射させて両溶着端部を溶着接合する工程(S104)と、を有する。
【0041】
第1の分割体の溶着端部と第2の分割体の溶着端部とを対向接触させてなる周回部を外周側から保持するため、従来に比べ、両溶着端部間の隙間の発生が抑制される。また、レーザー光を周回部の内周側に反射させ両溶着端部を発熱させるので、発生した熱は第1の分割体及び第2の分割体の内部に籠もり、両溶着端部の溶融時間が従来に比べ長くなり、仮に対向接触時に両溶着端部間に隙間が生じても、十分に隙間を埋めながら溶着接合することができる。
【0042】
本実施の形態における高圧タンク用ライナーの製造方法の他の一例は、図7に示すように、レーザー光に対して透過性を有する樹脂からなる第1の分割体の溶着端部とレーザー光に対して吸収性を有する樹脂からなる第2の分割体の溶着端部とを対向接触させた周回部を外周側から保持する工程(S100)と、第2の分割体に設けられた口金部を介して一方端に反射鏡が設けられた反射鏡付き回転軸を挿入する工程(S102)と、反射鏡付き回転軸を回転させながら、第1の分割体に設けられた口金部を介して反射鏡に対しレーザー光を照射し、照射されたレーザー光を前記周回部の内周側に反射させ、且つ、第2の分割体を把持しながら第1の分割体の口金部と第2の分割体の口金部を結ぶ軸方向に対して振動を与え、両溶着端部を溶着接合する工程(S108)と、を有する。
【0043】
図7に示す高圧タンク用ライナーの製造方法において、さらに、両溶着端部を発熱させ溶融させて接合する際に、第1の分割体の溶着端部及び第2の分割体の溶着端部のそれぞれの溶融時の溶け込み量に応じて、第1の分割体の口金部と第2の分割体の口金部を結ぶ軸方向に対して振動発振機から振動が加えられるので、さらに両溶着端部間の隙間を無くして接合することができる。
【0044】
本実施の形態における高圧タンクは、図3に示す高圧タンク用ライナーの製造装置または図6,7に示す高圧タンク用ライナーの製造方法により2つの分割体を接合してなるライナーと、ライナーに熱硬化性樹脂を含浸した繊維を巻回して硬化させてなる繊維強化樹脂層と、を有する。
【0045】
上述したように、従来に比べ、安定した溶着品質を有するライナーを高速で生産することができるので、品質の安定した高圧タンクの生産性が従来に比べ向上する。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明は、高圧タンクを用いる用途であれば、いかなる用途にも有効であるが、特に車両用の燃料電池に燃料ガスを供給するための高圧タンクに供することができる。
【符号の説明】
【0047】
10 第1の分割体、12,22 溶着端部、14,24 口金部、20 第2の分割体、30 レーザー溶着部、40 押さえ治具、50 レーザー源、52 レーザー光、60 反射鏡、62 反射鏡付き回転軸、64 回転手段、66 軸、70 把持具、72 振動発振機、300 高圧タンク。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザー光に対して透過性を有する樹脂からなる第1の分割体の溶着端部とレーザー光に対して吸収性を有する樹脂からなる第2の分割体の溶着端部とを対向接触させてなる周回部を外周側から保持する押さえ治具と、
第1の分割体に設けられた口金部を介して第1の分割体の内部にレーザー光を照射するレーザー源と、
第2の分割体に設けられた口金部を介して第2の分割体内に挿入され、照射されたレーザー光を前記周回部の内周側に反射する反射鏡が一方端に設けられた反射鏡付き回転軸と、
反射鏡付き回転軸を回転させる回転手段と、
を有することを特徴とする高圧タンク用ライナーの製造装置。
【請求項2】
請求項1に記載の高圧タンク用ライナーの製造装置において、
さらに、第2の分割体を把持しながら、第1の分割体の口金部と第2の分割体の口金部を結ぶ軸方向に対して振動を加える振動発振機を有することを特徴とする高圧タンク用ライナーの製造装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の高圧タンク用ライナーの製造装置において、
さらに、反射鏡の角度を調整する反射鏡角度調整手段が設けられていることを特徴とする高圧タンク用ライナーの製造装置。
【請求項4】
レーザー光に対して透過性を有する樹脂からなる第1の分割体の溶着端部とレーザー光に対して吸収性を有する樹脂からなる第2の分割体の溶着端部とを対向接触させてなる周回部を外周側から保持する工程と、
第2の分割体に設けられた口金部を介して挿入された一方端に反射鏡が設けられた反射鏡付き回転軸を回転させながら、第1の分割体に設けられた口金部を介して反射鏡に対しレーザー光を照射し、照射されたレーザー光を前記周回部の内周側に反射させて両溶着端部を溶着接合する工程と、
を有することを特徴とする高圧タンク用ライナーの製造方法。
【請求項5】
レーザー光に対して透過性を有する樹脂からなる第1の分割体の溶着端部とレーザー光に対して吸収性を有する樹脂からなる第2の分割体の溶着端部とを対向接触させた周回部を外周側から保持する工程と、
第2の分割体に設けられた口金部を介して挿入された一方端に反射鏡が設けられた反射鏡付き回転軸を回転させながら、第1の分割体に設けられた口金部を介して反射鏡に対しレーザー光を照射し、照射されたレーザー光を前記周回部の内周側に反射させ、且つ、第2の分割体を把持しながら第1の分割体の口金部と第2の分割体の口金部を結ぶ軸方向に対して振動を加え、両溶着端部を溶着接合する工程と、
を有することを特徴とする高圧タンク用ライナーの製造方法。
【請求項6】
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の高圧タンク用ライナーの製造装置または請求項4又は請求項5に記載の高圧タンク用ライナーの製造方法により2つの分割体を接合してなるライナーと、
ライナーに熱硬化性樹脂を含浸した繊維を巻回して硬化させてなる繊維強化樹脂層と、
を有することを特徴とする高圧タンク。

【図1A】
image rotate

【図1B】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5A】
image rotate

【図5B】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate


【公開番号】特開2011−240669(P2011−240669A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−116708(P2010−116708)
【出願日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】