説明

高圧型電気式脱イオン装置及び高純度水製造方法

【課題】原子力施設などの施設にて使用可能な高圧型電気式脱イオン装置及び高純度製造方法を提供する。
【解決手段】高圧型電気式脱イオンシステムは、電気式脱イオン装置本体10と、電気式脱イオン装置本体10を格納する圧力容器11と、圧力容器内に不活性ガスを導入する流入配管21及び不活性ガスを排出する流出配管22と、圧力容器内電気式脱イオン装置本体の周囲圧力を検知する周囲圧力検出器26と、圧力容器に取り外し可能に接続されている被処理水導入配管31及び処理水流出配管32、濃縮液導入配管41及び濃縮液流出配管42とを具備する。処理水流出配管には処理水出口圧力検出器36が設けられており、濃縮液流出配管には濃縮液出口圧力検出器46が設けられている。周囲圧力検出器、処理水出口圧力検出器36及び濃縮液出口圧力検出器は、圧力演算機24に電気的に接続されていて、差圧に基づいて不活性ガス入口制御弁23を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高純度水製造に適する電気式脱イオン装置に関し、特に、例えば原子力施設など設置機器が法規や規格で定められている厳しい基準を満たす必要がある分野において、用水及び排水の処理に用いる高圧型電気式脱イオン装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、原子力発電所等、放射性物質を取り扱う施設の用水・排水処理設備において、不純物であるイオン成分を除去する装置としては、粒子状イオン交換樹脂を用いたイオン交換装置が用いられてきた。これはイオン交換樹脂を充填したイオン交換塔へ被処理水を通水することで、不純物イオンを除去するものである。
【0003】
しかし、イオン交換樹脂の交換容量には限界があり、破過したイオン交換樹脂を新品に交換するか、もしくは破過前にアルカリや酸などの再生液でイオン交換樹脂を再生する必要があった。原子力施設の用水・排水処理の対象である被処理水は放射性物質を含むので、使用済みイオン交換樹脂や使用済みイオン交換樹脂再生液は放射性廃棄物となるため、別途、放射性廃棄物処理設備にて処理を行い最終的に処分する必要があった。また、イオン交換樹脂の定期的な交換には、高価なイオン交換樹脂を多量に消費しなければならなかった。
【0004】
上述のように、原子力施設で発生する放射性液体廃棄物は所内の処理設備で浄化し、放射性物質濃度やその他不純物濃度を基準値以下とした上で、所内で回収再使用するか海洋へ放出しているが、液体から分離された放射性物質を含む不純物は、所内で濃縮等の処理を行った後、最終的にドラム缶内でセメント等により固化し、施設内で保管後最終処分場へ送られる。この廃棄物処理処分に要する費用は莫大なものであり、各原子力施設では発生する廃棄物量の低減化、減容化が運用上の課題の一つになっている。特に使用済イオン交換樹脂は難燃性であり、焼却による減容が困難なことから、施設内にそのまま貯蔵されているケースが殆どであるが、近年貯蔵能力の余裕が問題となっているケースも生じている。
【0005】
そこで、最近では、高純度水製造など不純物イオンの除去処理に対して、従来のイオン交換樹脂に代えて、イオン交換樹脂の薬液再生や頻繁な交換等を不要とした電気式脱イオン装置が用いられるようになっている。電気式脱イオン装置は、両端部の陽極室と陰極室との間に1枚以上のイオン交換膜で区画された1以上の脱塩室と濃縮室とが配置されており、両極室間に電圧をかけることで、被処理水中の不純物イオンをその極性により陽極または陰極方向へイオン交換膜を通って移動させ、濃縮室では不純物イオンを濃縮させて濃縮液を得て、脱塩室では不純物イオンを除去して高純度化された処理水を得る装置である。電気式脱イオン装置は、電気的極性を利用してイオンを陽極室側と陰極室側に移動させて分離するために、被処理水からの不純物イオンの除去には原則として電力以外必要とせず、イオン交換樹脂再生やイオン交換樹脂の定期的な交換を要しないので二次処理を要する放射性廃棄物の発生も低減できる。
【0006】
しかし、従来の電気式脱イオン装置は、合成樹脂製のフレーム内に組み込まれたイオン交換不織布とイオン交換膜とを積層させて圧縮するフィルタープレス方式で組み立てたスタック形態を有するため、耐圧性能は一般には0.3〜0.5MPa程度であり、それ以上の圧力ではシール部等からの漏洩が生じる問題があり、放射性物質を取り扱う原子力施設などで用いるために必要とされる耐圧性を満足できなかった。たとえば沸騰水型原子力発電所では、原子炉で発生した蒸気でタービンを回し発電を行った後、蒸気は主復水器にて負圧下で冷却されて復水となる。その後、復水は低圧復水ポンプで約1.5MPaまで圧力が上昇し、復水浄化装置で不純物が除去され、高圧復水ポンプ、給水加熱器、原子炉給水ポンプを経て、約6.5MPaの高圧で原子炉へ冷却材として供給される。ここで、原子炉はユースポイントであり、主復水器のホットウェルは被処理水源である。
【0007】
また、電気式脱イオン装置の内部リークを防止するためには脱塩室内の圧力と濃縮室内の圧力間の差圧を、一般には0.05MPa以下とする必要があるため、中高圧の被処理水を直接処理することは困難であった。そのため、図1に示すように、高圧の被処理水を電気式脱イオン装置に導入する前に、受けタンクに導入して圧力を解放した後、低圧ポンプで電気式脱イオン装置へ導入している。また、電気式脱イオン装置からの処理水を高圧施設内での用水として再利用する場合には、受けタンクに導入し、高圧ポンプで圧力を負荷した後、高圧施設内に送水している。このため、高圧施設内での高純度水製造システムに電気式脱イオン装置を組み込む際には、システムが大規模になるため設備投資が膨大な額に上り、処理操作も煩雑になるという問題があった。特に、原子力施設などに既設のイオン交換樹脂塔を電気式脱イオン装置で代替しようとしても、機器設置面積が制約されるので事実上不可能であった。さらに、高圧施設からの用水・排水の圧力解放のために受けタンクを用いる場合には、大気中の酸素や二酸化炭素が被処理水に溶解し、不純物濃度が増加し、処理能力に対する負荷が増大する欠点もある。
【0008】
要するに、高圧の水利用施設の水処理用として、電気式脱イオン装置にそのままの圧力で用水・排水を注入すると、脱塩室からの外部漏洩を生じるのみならず、濃縮室内の圧力を脱塩室のそれに見合う様適切に制御しない場合は、内部漏洩を生じ、水質の悪化をまねくこととなる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
したがって、本発明の目的は、原子力発電施設などからの高圧被処理水であっても高純度用水として再生利用することを可能とする高純度水製造システムに好適な電気式脱イオン装置を提供することを目的とする。具体的には、主復水器のホットウェルなどからの高圧被処理水を電気式脱イオン装置に直接導入して、高純度水を製造し、製造された高純度水を原子炉などのユースポイントに供給することができる高圧型電気式脱イオン装置及び当該装置を使用する高純度水製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、電気式脱イオン装置本体を圧力容器に格納し、更に圧力容器内部の圧力、すなわち電気式脱イオン装置本体の周囲圧力を制御することにより本発明の目的を達成できることを知見し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、
陽極室及び陰極室の間に、イオン交換膜で区画された少なくとも1以上の脱イオン室と少なくとも2以上の濃縮室とを具備する電気式脱イオン装置本体と、
当該電気式脱イオン装置本体を格納する圧力容器と、
当該圧力容器内における電気式脱イオン装置本体の周囲雰囲気に不活性ガスを導入する不活性ガス流入配管及び不活性ガスを排出する不活性ガス流出配管と、
当該圧力容器内電気式脱イオン装置本体の周囲圧力を検知する周囲圧力検出器と、
当該圧力容器に取り外し可能に接続されている被処理水導入配管及び処理水流出配管と、
当該被処理水導入配管に設けられている被処理水流量制御機構と、
当該処理水流出配管に設けられている処理水出口圧力検出器と、
当該圧力容器に取り外し可能に接続されている濃縮液導入配管、濃縮液流出配管及び濃縮液タンクと、
当該濃縮液流出配管に設けられている濃縮液出口圧力検出器及び濃縮液出口圧力制御弁を含む濃縮液出口圧力制御機構と、
を具備し、
当該処理水出口圧力検出器によって検出される処理水出口圧力又は当該濃縮液出口圧力制御機構によって検出される濃縮液出口圧力と、当該周囲圧力検出器によって検出される当該圧力容器内電気式脱イオン装置本体の周囲圧力との差に基づいて、当該圧力容器内電気式脱イオン装置本体の周囲圧力を制御する高圧型電気式脱イオン装置を提供する。
【0012】
処理水出口圧力及び濃縮液出口圧力は、それぞれ処理水流出配管及び濃縮液流出配管に設けられている圧力検出器によって直接測定することができる。各圧力検出器で直接検出された処理水出口圧力[A]の信号、濃縮液出口圧力[B]の信号及び圧力容器内電気式脱イオン装置本体の周囲圧力[C]の信号は、圧力演算機に送られる。圧力演算機は、所定の演算を行って、圧力容器内への不活性ガスの流入を制御する信号を不活性ガス入口弁又は不活性ガス出口弁に送る。
【0013】
濃縮液出口圧力制御機構は、濃縮液流出配管圧力を直接計測する濃縮液出口圧力検出器の代わりに濃縮液流出配管に設けられている濃縮液出口蓄圧器及び濃縮液出口圧力制御弁、当該濃縮液出口蓄圧器内の圧力を検出する濃縮液圧力検出器、当該濃縮液圧力検出器で検出された濃縮液圧力に基づいて当該濃縮液出口圧力制御弁を制御する濃縮液出口圧力コントローラを具備する構成でもよい。処理水圧力検出器の代わりに、処理水流出配管に設けられている処理水出口蓄圧器、当該処理水出口蓄圧器内の圧力を検出する処理水出口蓄圧器用圧力検出器、当該処理水圧力検出器で検出された処理水圧力に基づいて濃縮液出口の圧力を制御する圧力制御機構を具備する構成でもよい。蓄圧器は内部にガスゾーンを設けることで、圧力変動に冗長性を与え、制御性を向上させる。したがって、例えばコントローラのPID制御などの他の方法で圧力変動をある程度制御することができない場合には、蓄圧器を設ける構成が好ましい。蓄圧器は処理水流出配管に設けられていてもよく、この場合には、処理水出口圧力検出器によって処理水流出配管に設けられた蓄圧器内部の圧力を検出する。
【0014】
本発明の高圧型電気式脱イオン装置は原子力施設などの厳しい構造規格が要求される施設での用排水の処理に好適であり、特に原子力施設で使用される高純度水製造システムとして好適である。
【0015】
したがって、本発明によれば、上述の高圧型電気式脱イオン装置を用いて高純度水を製造する方法も提供される。本方法は、
被処理水流量制御機構を制御して、被処理水の入口流量をユースポイントで必要な流量に設定し、
処理水圧力検出器によって処理水出口圧力[A]を測定し、
濃縮液出口圧力検出器によって濃縮液出口圧力[B]を測定し、
濃縮液出口圧力[B]が処理水出口圧力[A]と±0.05MPaの誤差内で等しくなるように、濃縮液出口圧力制御弁を制御して濃縮液出口圧力を調節し、
周囲圧力検出器によって圧力容器内電気式脱イオン装置本体の周囲圧力[C]を測定し、
処理水出口圧力[A]と周囲圧力[C]との差又は濃縮液出口圧力[B]と周囲圧力[C]との差が0.3MPa以上になった時点で、不活性ガスを圧力容器内電気式脱イオン装置本体の周囲に供給し、処理水出口圧力[A]と周囲圧力[C]との差又は濃縮液出口圧力[B]と周囲圧力[C]との差が0.1MPa以下になった時点で、不活性ガスの供給を停止するか、又は、
処理水出口圧力[A]と周囲圧力[C]との差又は当該濃縮液出口圧力[B]と当該周囲圧力[C]との差がが−0.3MPa以下になった時点で、不活性ガスを圧力容器内電気式脱イオン装置本体の周囲から排出し、処理水出口圧力[A]と周囲圧力[C]との差又は当該濃縮液出口圧力[B]と当該周囲圧力[C]との差がが−0.1MPa以上になった時点で、不活性ガスの排出を停止する
工程を含む。
【発明の効果】
【0016】
本発明の高圧型電気式脱イオン装置は、厳しい構造規格が法令によって定められている原子力施設などの用排水処理に適用することができる。イオン交換樹脂の交換や再生が不要となるため、イオン交換樹脂再生廃液や使用済イオン交換樹脂の発生が無くなり、廃棄物処理処分費を軽減することが可能となる。また、電力の供給のみでシステム運転が可能となるため、運転維持費が軽減される。
【実施形態】
【0017】
以下、添付図面を参照しながら本発明を説明する。
図1は、従来の高純度製造システムの概略構成図であり、図2は本発明による高圧型電気式脱イオン装置を使用する高純度製造システムの概略構成図である。図3は、本発明の高圧型電気式脱イオン装置の全体構成を示す概略構成図であり、図4は、本発明の高圧型電気式脱イオン装置に用いられる電気式脱イオン本体の概略構成を示す模式図である。
【0018】
本発明の高圧型電気式脱イオン装置は、図2に示す高純度水製造システムとして利用することができる。以下、図3及び図4を中心に、本発明の高圧型電気式脱イオン装置の構成を説明する。
【0019】
図3に示す高圧型電気式脱イオン装置1は、電気式脱イオン装置本体10と、電気式脱イオン装置本体10を格納する圧力容器11とを具備する。圧力容器11には、圧力容器11内における電気式脱イオン装置本体10の周囲雰囲気に不活性ガスを導入する不活性ガス流入配管21及び不活性ガスを排出する不活性ガス流出配管22が設けられている。また圧力容器11には、被処理水導入配管31及び処理水流出配管32と、濃縮液導入配管41及び濃縮液流出配管42と、が取り外し可能に接続されている。
【0020】
本実施例において用いられる電気式脱イオン装置本体10は、周囲を圧力容器11で密閉されている。圧力容器11はフランジ付きの円筒状の本体11aと両端の圧力容器蓋板11bとからなり、圧力容器蓋板11bがガスケットを挟んでボルト締めされる構造(図示せず)となされている。電気式脱イオン装置本体10は、圧力容器11内部のフレーム12上に固定され、両端の濃縮液出入口13,14及び被処理水入口15、処理水出口16の計4個のノズルは耐圧ホース17a及び17bを介してホースコネクション18に接続され、圧力容器蓋板11bの外部との取合ノズル13,14,15,16へ接続する。一方、電気式脱イオン装置本体10への直流電流は、直流電源装置19から、圧力容器両端の給電端子19aを介して電気式脱イオン装置の両極へ供給される。なお、耐圧ホース17、ホースコネクション18、給電端子19a及び給電ケーブル19bは、設計条件に合致した耐圧性能を有すものを選定する。
【0021】
圧力容器11の底部にはドレンノズル11cを設け、ドレン排出先と配管11dで連結するが、圧力容器11の近傍に止め弁11eを設け、その入口に漏洩検出器11fを設置する。止め弁11eは常時閉止しておき、万一圧力容器内で液体の漏洩が生じた場合は、弁の入口に液が溜まったことを速やかに漏洩検出器11fで検知可能とする。尚、故障復旧に際しては、先ず止め弁11eを開けて内部に溜まった液体を排出する。
【0022】
圧力容器11内に収納した電気式脱イオン装置本体10の組み立ては以下の手順で行うことができる。まず、電気式脱イオン装置本体10の濃縮液入口13及び出口14並びに被処理水入口15及び出口16にそれぞれ耐圧ホース17a及び17bを接続し、陽極室及び陰極室の電極に給電ケーブル19bを取り付け、圧力容器11のフレーム12上に固定した後、耐圧ホース17a及び17bと給電ケーブル19bとを圧力容器蓋板11bに設けられている開口部を通して外部へ出す。圧力容器本体11aと両側の圧力容器蓋板11bとをボルト締めし、耐圧ホース17a及び17bを液出入り口13,14,15,16のホースコネクション18へ接続し、給電ケーブル19bを給電端子19aに接続の上、液出入り口13,14,15,16と給電端子19aをそれぞれ圧力容器蓋板11bのノズルにボルト締めする。こうして、電気式脱イオン装置本体10を圧力容器11内に格納した本実施形態の構成とすることができる。
【0023】
圧力容器11に接続されている不活性ガス流入配管21には、電気式脱イオン本体10の周囲雰囲気の圧力を検知する周囲圧力検出器26と、周囲圧力検出器26の検出値に基づいて制御される不活性ガス入口弁23と不活性ガス出口弁25、が設けられている。圧力容器11に供給する不活性ガスとしては窒素、アルゴンなどを用いることができる。不活性ガスを使用する理由は、処理水とガスが接触した場合にガス中の成分が処理水に溶解することによる純度の低下を防止すると共に、圧力容器内金属部品の腐食防止、万一の電気スパーク発生時の延焼防止などである。
【0024】
被処理水導入配管31は、水利用施設の被処理水源に接続されていて、電気式脱イオン装置本体10に被処理水を供給する。被処理水導入配管31には、被処理水流量制御弁33及び当該被処理水出口圧力制御弁33を制御する被処理水流量コントローラ34と、が設けられている。
【0025】
処理水流出配管32は、水利用施設のユースポイントに接続されていて、電気式脱イオン装置本体10で脱イオン処理された高純度水をユースポイントに供給する。処理水流出配管32には、処理水出口圧力検出器36及び処理水出口弁38が設けられている。
【0026】
濃縮液導入配管41及び濃縮液流出配管42は、電気式脱イオン装置本体10と濃縮液タンクとの間で濃縮液を循環するように両者に接続されている。濃縮液流出配管42には、濃縮液出口圧力検出器46と、濃縮液出口圧力制御弁43と、濃縮液出口圧力制御弁43を制御する濃縮液出口圧力コントローラ44と、が設けられている。
【0027】
周囲圧力検出器32、処理水出口圧力検出器36及び濃縮液出口圧力検出器46は、圧力演算機24と電気的に接続されていて、各圧力測定値の信号を圧力演算機24に送るように構成されている。圧力演算機24は、不活性ガス入口弁23と不活性ガス出口弁25にも電気的に接続されていて、演算処理後の差圧信号に基づいて不活性ガス入口弁23又は不活性ガス出口弁25を制御するように構成されている。
【0028】
演算処理機24は、処理水出口圧力検出器36によって検出される処理水出口圧力[A]又は濃縮液出口圧力検出器46によって検出される濃縮液出口圧力[B]と、周囲圧力検出器26によって検出される圧力容器内電気式脱イオン本体の周囲圧力[C]との差に基づいて、不活性ガス入口弁23又は不活性ガス出口弁25を制御して、圧力容器内電気式脱イオン本体の周囲圧力を制御する。
【0029】
一般に処理水出口圧力は被処理水流量によってほぼ決まるが、電気式脱イオン装置本体を経由することによって圧力変動が生じる。したがって、圧力容器内電気式脱イオン装置本体の周囲圧力を制御するためのパラメータとしては、この圧力変動を加味した処理水出口圧力を計測する必要がある。電気式脱イオン装置本体内での濃縮室内圧力すなわち濃縮液出口圧力と、脱塩室内圧力すなわち処理水出口圧力との差圧は、電気式脱イオン装置本体内部でのリークを防止するために±0.05MPa以下とする必要がある。したがって、濃縮液出口圧力[B]は処理水出口圧力[A]と±0.05MPaの誤差範囲内で等しくなるように、圧力演算機24からの信号制御によって濃縮液出口圧力制御弁43を調整する。
【0030】
このようにして、濃縮液出口圧力[B]と処理水出口圧力[A]とをほぼ等しくなるように調整した後、周囲圧力検出器26によって検出される圧力容器内電気式脱イオン本体の周囲圧力[C]と濃縮液出口圧力[B]又は処理水出口圧力[A]との差圧を演算処理し、差圧が0.3MPa以上であれば不活性ガス入口弁23を開いて圧力容器11内に不活性ガスを流入させ、差圧が0.1MPa以下になれば不活性ガス入口弁23を閉じて圧力容器11内への不活性ガスの流入を停止させる。
【0031】
圧力容器内電気式脱イオン本体の周囲圧力[C]を調節した後に、処理水出口圧力[A]が変動し、圧力容器内電気式脱イオン本体の周囲圧力[C]と処理水出口圧力[A]との差圧又は当該濃縮液出口圧力[B]と当該周囲圧力[C]との差圧が−0.3MPa以下になった場合、不活性ガス出口弁25を開いて圧力容器11内から不活性ガスを排出させ、差圧が−0.1MPa以上になれば不活性ガス出口弁25を閉じて圧力容器11内からの不活性ガスの排出を停止させる。
【0032】
このようにして、圧力容器内電気式脱イオン本体の周囲圧力[C]と処理水出口圧力[A]又は当該濃縮液出口圧力[B]との差圧を±0.1MPa以内になるように調整する。
また、処理水出口圧力[A]と濃縮液出口圧力[B]との差がイオン交換膜の強度に基づいて設定した最終値を超えた時点で、被処理水、濃縮液及び不活性ガスの流入を停止して圧力容器内電気式脱イオン装置本体10の周囲雰囲気を大気圧に解放することもできる。周囲圧力[C]と処理水出口圧力[A]との差圧がイオン交換膜の耐圧強度である±0.4MPaを超えると、電気式脱イオン装置本体10の内部圧力がタイロッドでの締付力に打ち勝って内部液が外部に漏洩するおそれがあるので、±0.4MPa以内となるように調節することが好ましい。
【0033】
図5に本発明の別の実施形態の高圧型電気式脱イオン装置を示す。なお、図3に示す実施形態と同じ構成要素には同じ参照符号を付して説明を割愛し、以下、異なる構成について説明する。
【0034】
図5に示す実施形態において、処理水出口圧力及び濃縮液出口圧力を直接検出する圧力検出器を設ける代わりに、蓄圧器を利用する。処理水流出配管32には、処理水と不活性ガスを蓄えることができる処理水出口蓄圧器35が設けられている。また、濃縮液流出配管42には濃縮液と不活性ガスを蓄えることができる濃縮液出口蓄圧器45が設けられている。処理水出口畜圧器35には処理水出口蓄圧器圧力検出器36aが、濃縮液出口畜圧器45には濃縮液出口蓄圧器圧力検出器46aが、それぞれ連結されている。
【0035】
圧力演算器24と処理水出口蓄圧器圧力検出器36aと濃縮液出口圧力コントローラ44とは、それぞれ相互に、電気的に接続されている。また、濃縮液出口圧力コントローラ44は濃縮液出口蓄圧器圧力検出器46aに電気的に接続されている。
また、処理水出口畜圧器35には窒素を導入する窒素導入管37が、濃縮液出口畜圧器45には窒素を導入する窒素導入管47が、それぞれ設けられている。本形態の高圧型電気式脱イオン装置において、処理水出口圧力制御機構は、処理水流出配管32に設けられている処理水出口蓄圧器35、処理水圧力と同視できる処理水出口蓄圧器35内の圧力を検出する処理水出口蓄圧器圧力検出器36a、処理水出口蓄圧器圧力検出器36aで検出された処理水圧力に基づいて濃縮液出口圧力制御弁43を制御する濃縮液出口圧力コントローラ44を具備する。
なお、濃縮液出口圧力制御機構は、濃縮液流出配管42に設けられている濃縮液出口蓄圧器45及び濃縮液出口圧力制御弁43、濃縮液出口蓄圧器45内の圧力を検出する濃縮液出口蓄圧器圧力検出器46a、濃縮液出口蓄圧器圧力検出器46aで検出された濃縮液圧力に基づいて濃縮液出口圧力制御弁43を制御する濃縮液出口圧力コントローラ44を具備する。
【0036】
本実施形態において、処理水の圧力は、被処理水流量コントローラ34により流量制御され、処理水出口蓄圧器35の圧力を処理水出口蓄圧器圧力検出器36aにより検出する。濃縮液の圧力は、電気的に接続された圧力演算器24及び処理水出口蓄圧器36a、濃縮液出口圧力コントローラ44により濃縮液出口蓄圧器45の圧力を下記する設定値に維持するよう濃縮液出口圧力制御弁46を開閉して制御される。
【0037】
濃縮液出口圧力コントローラ44と圧力演算器24は、処理水出口蓄圧器35の圧力に追従したカスケード制御をおこなっており、濃縮液出口蓄圧器45と圧力容器11内の圧力設定値が、刻々と変化する処理水出口蓄圧器35の圧力に追従して変化する中で、実際の圧力がそれに追従するに必要な制御弁の操作量を出力信号として発信している。
【0038】
具体的には、処理水出口蓄圧器35内で検出される処理水圧力は電気式脱イオン装置本体10の脱塩室内の圧力を表す。処理水出口蓄圧器35内で検出される処理水圧力に基づいて、処理水出口蓄圧器圧力検出器36aの制御信号が、濃縮液出口圧力コントローラ44及び圧力演算器24にそれぞれ送られ、濃縮液出口圧力制御弁43及び不活性ガス入口弁23又は不活性ガス出口弁25をそれぞれ作動させる。濃縮液出口圧力制御弁43の作動によって電気式脱イオン装置本体10の濃縮室を流通する濃縮液の流量が制御されることにより、結果として濃縮室内の圧力が制御される。一方、不活性ガス入口弁23又は不活性ガス出口弁25の作動によって圧力容器11内の窒素量が制御されることにより、結果として圧力容器11内の圧力が制御される。このとき、濃縮液(濃縮室内)圧力[B]は処理水(処理室内)圧力[A]との差圧が±0.05MPa以内になるように調節することが適切である。差圧が±0.05MPaを超えると、濃縮室と処理室とを区画しているイオン交換膜に過剰な差圧がかかり、室枠からの内部漏洩が生じる。圧力容器内圧力(電気式脱イオン装置本体10の周囲圧力)[C]は処理水圧力(処理室内=電気式脱イオン装置本体10内圧力)[A]との差圧が±0.4MPa以内となるように調節することが適切である。差圧が±0.4MPaを超えると、電気式脱イオン装置の内部圧力がタイロッドでの締付力に打ち勝って内部液の外部への漏洩を生じる。
【0039】
以上のように、濃縮液出口圧力と圧力容器11内の周囲圧力は、当初設定した処理水出口圧力とほぼ等しくなるよう制御される結果、電気式脱イオン装置内外は常時ほぼ同圧に保たれ、電気式脱イオン装置本体10内の濃縮室と脱イオン室間の差圧も殆ど生じないこととなる。これにより、被処理水圧力が電気式脱イオン装置本体10の耐圧性能を超える場合でも、内外への漏洩が無く安全な処理が可能となる。
【0040】
また、圧力容器11や電気式脱イオン装置本体10を制御機能不良に伴う過剰圧から保護するため、安全弁や逃し弁を必要に応じ設けることは言うまでもないが、本図では省略している。同様に、濃縮液と処理水の蓄圧器の差圧を監視し、制御上応答上の問題で万一、設定値以上の差圧が生じた場合、装置を停止する。
【0041】
また、圧力容器11が、上述の圧力容器蓋板11bを有していることにより、内部の点検や部品交換が可能である。
さらに万一、圧力容器内での液体漏洩があった場合でも、ドレンノズル11cに接続するドレン配管に漏洩検出器が設置されていることにより、速やかに検知可能である。
【0042】
本発明の高圧型電気式脱イオン装置は、原子力施設に適用される構造規格における圧力バウンダリを構成する構造及び使用材料の制限から、標準のものでは適用が困難であったフィルタープレス型の電気式脱イオン装置本体を、圧力容器であるオーバーパックに収納することにより、構造規格に適合させ、万一の放射性物質の漏洩にも安全に対処できるように構成したので、従来のイオン交換装置を電気式脱イオン装置で代替することができ、特に運転に伴う廃棄物発生量を低減することができる。
【0043】
また、圧力容器内に窒素ガス等の不活性ガスを封印し、その圧力を例えば処理水出口圧力と等しくなるよう制御すると共に、濃縮液出口圧力も処理水出口圧力と等しくなるよう制御することで、電気式脱イオン装置本体内外及び電気式脱イオン装置本体の濃縮室と脱イオン室の圧力差を解消し、被処理水圧力の制限無く電気式脱イオン装置本体外部への液体漏洩と電気式脱イオン装置本体の内部リークを完全に回避できる。
【0044】
なお、本発明は、上述の実施形態に制限されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々種変更可能である。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】図1は、従来の高純度製造システムの概略構成図である。
【図2】図2は、本発明による高圧型電気式脱イオン装置を使用する高純度製造システムの概略構成図である。
【図3】図3は、本発明の高圧型電気式脱イオン装置の全体構成を示す概略構成図である。
【図4】図4は、本発明の高圧型電気式脱イオン装置に用いられる電気式脱イオン装置本体の概略構成を示す模式図である。
【図5】図5は、本発明の別の実施形態による高圧型電気式脱イオン装置の全体構成を示す概略構成図である。
【符号の説明】
【0046】
1:高圧型電気式脱イオン装置
10:電気式脱イオン装置本体
11:圧力容器
21:不活性ガス流入配管
22:不活性ガス流出配管
23:不活性ガス入口弁
24:圧力演算機
25:不活性ガス出口弁
26:周囲圧力検出器
31:被処理水導入配管
32:処理水流出配管
33:被処理水流量制御弁
34:被処理水流量コントローラ
35:処理水出口蓄圧器
36:処理水出口圧力検出器
36a:処理水出口蓄圧器圧力検出器
38:処理水出口弁
41:濃縮液導入配管
42:濃縮液流出配管
43:濃縮液出口圧力制御弁
44:濃縮液出口圧力コントローラ
45:濃縮液出口蓄圧器
46:濃縮液出口圧力検出器
46a:濃縮液出口蓄圧器圧力検出器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極室及び陰極室の間に、イオン交換膜で区画された少なくとも1以上の脱イオン室と少なくとも2以上の濃縮室とを具備する電気式脱イオン装置本体と、
当該電気式脱イオン装置本体を格納する圧力容器と、
当該圧力容器内における電気式脱イオン装置本体の周囲雰囲気に不活性ガスを導入する不活性ガス流入配管及び不活性ガスを排出する不活性ガス流出配管と、
当該圧力容器内電気式脱イオン装置本体の周囲圧力を検知する周囲圧力検出器と、
当該圧力容器に取り外し可能に接続されている被処理水導入配管及び処理水流出配管と、
当該被処理水導入配管に設けられている被処理水流量制御機構と、
当該処理水流出配管に設けられている処理水出口圧力検出器と、
当該圧力容器に取り外し可能に接続されている濃縮液導入配管、濃縮液流出配管及び濃縮液タンクと、
当該濃縮液流出配管に設けられている濃縮液出口圧力検出器及び濃縮液出口圧力制御弁を含む濃縮液出口圧力制御機構と、
を具備し、
当該処理水出口圧力検出器によって検出される処理水出口圧力又は当該濃縮液出口圧力検出器によって検出される濃縮液出口圧力と、当該周囲圧力検出器によって検出される当該圧力容器内電気式脱イオン装置本体の周囲圧力との差に基づいて、当該圧力容器内電気式脱イオン装置本体の周囲圧力を制御する高圧型電気式脱イオン装置。
【請求項2】
前記濃縮液出口圧力制御機構は、前記濃縮液流出配管に設けられている濃縮液出口蓄圧器及び濃縮液出口圧力制御弁、当該濃縮液出口蓄圧器内の圧力を検出する濃縮液出口圧力検出器、当該濃縮液圧力検出器で検出された濃縮液圧力に基づいて当該濃縮液出口圧力制御弁を制御する濃縮液出口圧力コントローラを具備する、請求項1に記載の高圧型電気式脱イオン装置。
【請求項3】
前記処理水流出配管にはさらに処理水出口蓄圧器が設けられ、前記処理水出口圧力検出器は当該処理水出口蓄圧器内の圧力を検出する、請求項1又は2に記載の高圧型電気式脱イオン装置。
【請求項4】
原子力施設の用水・排水を処理するための請求項1〜3のいずれか1項に記載の高圧型電気式脱イオン装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の高圧型電気式脱イオン装置を用いて高純度水を製造する方法であって、
前記被処理水流量制御機構を制御して、被処理水の入口流量をユースポイントで必要な流量に設定し、
前記処理水圧力検出器によって処理水出口圧力[A]を測定し、
前記濃縮液出口圧力検出器によって濃縮液出口圧力[B]を測定し、
当該濃縮液出口圧力[B]が当該処理水出口圧力[A]と±0.05MPaの誤差内で等しくなるように、前記濃縮液出口圧力制御弁を制御して濃縮液出口圧力を調節し、
前記周囲圧力検出器によって圧力容器内電気式脱イオン装置本体の周囲圧力[C]を測定し、
当該処理水出口圧力[A]と当該周囲圧力[C]との差又は当該濃縮液出口圧力[B]と当該周囲圧力[C]との差が0.3MPa以上になった時点で、不活性ガスを前記圧力容器内電気式脱イオン装置本体の周囲に供給し、当該処理水出口圧力[A]と当該周囲圧力[C]との差又は当該濃縮液出口圧力[B]と当該周囲圧力[C]との差が0.1MPa以下になった時点で、不活性ガスの供給を停止するか、又は、
当該処理水出口圧力[A]と当該周囲圧力[C]との差又は当該濃縮液出口圧力[B]と当該周囲圧力[C]との差が−0.3MPa以下になった時点で、不活性ガスを前記圧力容器内脱イオン装置本体の周囲から排出し、当該処理水出口圧力[A]と当該周囲圧力[C]との差又は当該濃縮液出口圧力[B]と当該周囲圧力[C]との差が−0.1MPa以上になった時点で、不活性ガスの排出を停止する
工程を含む方法。
【請求項6】
前記処理水出口圧力[A]と濃縮液出口圧力[B]との差がイオン交換膜の強度に基づいて設定した最終値を超えた時点で、被処理水、濃縮液及び不活性ガスの流入を停止して前記圧力容器内電気式脱イオン装置本体の周囲雰囲気を大気圧に解放する、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記最終値は0.4MPaである、請求項6に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−101301(P2009−101301A)
【公開日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−276036(P2007−276036)
【出願日】平成19年10月24日(2007.10.24)
【出願人】(000000239)株式会社荏原製作所 (1,477)
【Fターム(参考)】