高撥水性複合繊維及びこれを用いた嵩高不織布
【課題】良好な帯電防止性と高撥水性を発揮することができる繊維を提供し、及び高撥水性を発揮する風合いの良い嵩高い不織布を提供する。
【解決手段】複数の熱可塑性樹脂を主体とする複合繊維であって、少なくとも下記の成分(A)と、成分(B)を含む繊維処理剤が、繊維質量に対して0.1〜1.0質量%付着していて、該繊維処理剤中で、成分(A)が75〜97質量%、成分(B)が25〜3質量%を占めることを特徴とする高撥水性繊維。
成分(A):ポリシロキサン
成分(B):アルカンスルホネート金属塩
【解決手段】複数の熱可塑性樹脂を主体とする複合繊維であって、少なくとも下記の成分(A)と、成分(B)を含む繊維処理剤が、繊維質量に対して0.1〜1.0質量%付着していて、該繊維処理剤中で、成分(A)が75〜97質量%、成分(B)が25〜3質量%を占めることを特徴とする高撥水性繊維。
成分(A):ポリシロキサン
成分(B):アルカンスルホネート金属塩
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の熱可塑性樹脂を主体とする、帯電防止性に優れた高撥水性複合繊維及びこれを用いた嵩高不織布に関する。更に詳しくは、使い捨ておむつ、生理用ナプキン、吸収パッド等の漏れ防止材あるいは液不透過性シートに適した高撥水性繊維及びこれを用いた嵩高不織布に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、広く使用されるようになった使い捨ておむつにおいては、尿や軟便の股への横漏れ、あるいは腹部、腰部への漏れを防ぐためにサイドギャザーやウエストギャザー等の漏れ防止材が具備されている。また、生理用ナプキンにおいても、経血の横漏れ防止のためにサイドギャザーが備えられた製品が市販されている。このような漏れ防止材には、尿や経血を透過させないように撥水性が要求される。また、このような部材は肌と直に接して使用されることから、触感がよく、風合いに優れたものでなければならない。
従来より、このような部材には、ポリオレフィン系重合体などの熱可塑性樹脂を用いたスパンボンド法で得られる不織布などが用いられているが、触感や風合いといった面では、改良の余地が大きいものである。
上記の要求を満足させるために、数多くの提案がなされ、その改良技術も多い。例えば、特許文献1では、アルキルリン酸エステルで処理した後、ポリシロキサンで処理したポリオレフィンを含む繊維またはフィラメントが提案されている。
また、特許文献2では、シリコン系成分とエチレンオキサイド付加アルキルアミン成分を含む繊維処理剤が付着した熱接着性繊維が提案されている。
【0003】
上記のような改良技術においても、帯電防止性と高撥水性との両立という観点から、実用上なお改善の余地を残すものである。例えば、特許文献1では帯電防止剤としてアルキルリン酸エステルを用いていて、繊維を不織布に加工する工程において、その帯電防止性は充分ではなく、また、不織布を得るためにカレンダーロール加工を用いており、この手法では嵩高で風合いのよい不織布を得難い。一方特許文献2では、繊維処理剤中においてシリコン系成分の比率が比較的低く、エチレンオキサイド付加アルキルアミンの撥水性を加味しても、充分な撥水性を得難い。一般に、不織布が嵩高くなると、構成繊維の密度が下がり、不織布の撥水性が低くなる傾向があるため、このような構成の繊維処理剤を付着させた繊維では、嵩高な高撥水性不織布を得ることは難しい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第2908841号明細書
【特許文献2】特開平5−321156号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、良好な帯電防止性と高撥水性を発揮することができる繊維を提供することである。本発明の目的はまた、そのような繊維を用いて、高撥水性を発揮する嵩高い不織布を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、熱可塑性樹脂を主体とする複合繊維に、撥水性の高いポリシロキサンと帯電防止効果に非常に優れているアルカンスルホネート金属塩とを含む繊維処理剤を付着させることにより、その複合繊維が、不織布に加工される工程において充分な帯電防止性を持ち、かつ、該複合繊維によって嵩高で風合いの良好な高撥水性不織布が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
従って本発明は、複数の熱可塑性樹脂を主体とする複合繊維であって、少なくとも下記の成分(A)と、成分(B)を含む繊維処理剤が、繊維質量に対して0.1〜1.0質量%付着していて、該繊維処理剤中で、成分(A)が75〜97質量%、成分(B)が25〜3質量%を占めることを特徴とする高撥水性繊維である。
成分(A):ポリシロキサン
成分(B):アルカンスルホネート金属塩
本発明の実施態様として、上記の熱可塑性樹脂の少なくとも1種類がポリオレフィン系重合体及びポリエステル系樹脂から選ばれる高撥水性繊維が挙げられる。
本発明はさらに、上記の高撥水性繊維を用いて、カード工程を含む工程で加工された嵩高不織布に向けられている。
【発明の効果】
【0007】
本発明の複合繊維には、繊維処理剤が付着しており、該繊維処理剤は、撥水成分である成分(A)ポリシロキサンが75〜97質量%を占め、帯電防止剤である成分(B)アルカンスルホネート金属塩が25〜3質量%を占めるものである。該繊維処理剤において、帯電防止剤である成分(B)アルカンスルホネート金属塩の帯電防止効果が非常に高いため、その構成比率を低く抑えることが可能で、このため、撥水成分であるポリシロキサンの構成比率を75〜97質量%に上げて、高い撥水性を発現させることができる。本発明の複合繊維は帯電防止効果が高く、かつ、撥水性が高いことから、該複合繊維を不織布に加工する工程では、静電気の発生がなく、安定した加工が可能である。
また、本発明の複合繊維は複数の熱可塑性樹脂を主体としているため、構成する熱可塑性樹脂の融点差を利用して、熱風循環式の加工機などで繊維交絡点を溶融接着させて、嵩高不織布に加工することができる。このように嵩高となって、構成繊維密度が低くなっても、本発明の複合繊維の撥水性が充分に高いものであるため、本発明によれば高撥水性を損なわずに嵩高不織布が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の複合繊維に付着させる繊維処理剤を構成する成分(A)ポリシロキサンの例として、ポリジメチルシロキサン、アミノ変性ポリシロキサン、ポリプロピレングリコール変性ポリシロキサンなどが挙げられ、特に、撥水性能と安全性に優れている点でジメチルポリシロキサンが好ましい。成分(A)ポリシロキサンとして市販品を使用することができ、そのような市販品として例えばポリジメチルシロキサンの例では、東レ・ダウコーニング株式会社の「DOW CORNING TORAY SH 200 C FLUID」、旭化成ワッカー株式会社の「WACKER SILICONE FLUID AK」、信越化学工業株式会社の「KF−96」などが挙げられる。
繊維処理剤を構成する成分(A)としてポリジメチルシロキサンを用いる場合、その重合度として5〜200が好ましく、より好ましくは10〜100である。
本発明の複合繊維に付着させる繊維処理剤を構成する成分(A)ポリシロキサンは、繊維処理剤の有効成分の75〜97質量%を占めることが必要である。ここでいう有効成分とは、繊維処理剤全体から水分を除いた成分のことである。繊維処理剤における成分(A)ポリシロキサンの構成比率が75〜97質量%の範囲にあることで、複合繊維の撥水性を充分にして、同時に、帯電防止剤などの他の成分による効果も良好に発揮させることができて、繊維を不織布に加工する工程で静電気の発生を抑え加工しやすくなる。
【0009】
本発明の複合繊維に付着させる繊維処理剤を構成する成分(B)アルカンスルホネート金属塩におけるアルキル基は、飽和または不飽和で、分枝状もしくは直鎖状であって、炭素数は10〜20が好ましく、特に炭素数13〜17の直鎖状のアルキル基を含むものがより好ましい。成分(B)アルカンスルホネート金属塩におけるスルホン基は、炭素鎖の任意の位置に存在することができる。
本発明で使用する繊維処理剤を構成する成分(B)アルカンスルホネート金属塩は、単一種または2種類以上の、炭素数が異なるものやスルホン基の位置が異なるアルカンスルホネート金属塩の混合物であってもよい。
成分(B)アルカンスルホネート金属塩におけるカチオンとしては、アルカリ金属であるナトリウム、カリウムが好ましく、特に水溶性に優れているナトリウムが好ましい。成分(B)アルカンスルホネート金属塩として市販品を用いることができ、そのような市販品の例として、クラリアントジャパン株式会社の「HOSTAPUR SAS」、LEUNA−TENSIDE GmbHの「EMULGATOR E30」、Sasol Japan KKの「MARLON PS」などが挙げられる。
【0010】
本発明で使用する繊維処理剤を構成する成分(B)アルカンスルホネート金属塩は、繊維処理剤の有効成分の25〜3質量%を占めることが必要である。繊維処理剤における成分(B)アルカンスルホネート金属塩の構成比率が25〜3質量%の範囲であることによって、該繊維処理剤の適当な付着量、すなわち繊維質量に対して0.1〜1.0質量%の付着量で、帯電防止効果を充分に発揮させることができるとともに、成分(A)ポリシロキサンによる撥水効果も充分に示すことができる。
なお、繊維処理剤の過剰な付着量は、繊維の表面特性を悪化させ、また、繊維を不織布に加工する工程で繊維処理剤の脱落などで機器が汚染する原因となる。
【0011】
本発明の複合繊維に付着させる繊維処理剤には、本発明の目的が損なわれない範囲で、各種添加剤を配合することができる。そのような添加剤の例として、乳化剤、防腐剤、防錆剤、pH調整剤、消泡剤などが挙げられる。
【0012】
本発明の複合繊維は、繊維質量に対して、上記繊維処理剤が有効成分として0.1〜1.0質量%付着しているものであって、好ましくは0.2〜0.8質量%付着しているものである。該付着量が0.1〜1.0質量%の範囲にあることにより、帯電防止性が充分にあり、該複合繊維を不織布に加工する工程で静電気の発生が抑えられ、加工しやすくなる。また、この付着量の範囲では、繊維から脱落する該処理剤の量が極めて少なく、よって、機器への該処理剤の蓄積や加工性低下の問題を避けることができる。
【0013】
本発明において、複合繊維に上記繊維処理剤を付着させる方法は特定の方法に限定されず、従来公知の方法を採用することができる。複合繊維に上記繊維処理剤を付着させる方法として具体的に、繊維を生産する工程である、いわゆる紡糸工程、延伸工程、又はその両方の工程において、オイリングロール法、浸漬法、噴霧法など、公知の方法を利用することができる。
複合繊維に上記繊維処理剤を付着させるに当たって、上記の成分(A)と成分(B)を一括して付着させる簡便な操作によって、所望の充分な効果が奏される点において本発明の工業的意義は大きい。例えば、上記の成分(A)及び成分(B)、並びに任意の添加剤を配合した繊維処理剤を調製しておき、該繊維処理剤を上記のような繊維生産工程において、適当な方法によって複合繊維に付着させることができる。または、これらの成分を分別して付着させることもできる。
【0014】
本発明の複合繊維は、複数の熱可塑性樹脂を主体とする。該複合繊維に用いられる熱可塑性樹脂としては、ポリオレフィン系重合体、ポリエステル系重合体、ポリアミド系重合体を例示できる。中でもポリオレフィン系重合体は疎水性が大きいので、本発明の目的である高撥水性を満足させる効果に優れているので、好ましく用いられる。また、ポリエステル系重合体も、嵩高性や嵩回復性に優れているので、好ましく用いられる。
ポリオレフィン系重合体としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン酢酸ビニル共重合体、エチレン・プロピレン共重合体、エチレン・オクテンー1共重合体、エチレン・ブテンー1共重合体、エチレン・プロピレン・ブテンー1共重合体などを例示できる。ポリエステル系重合体としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート・イソフタレート、共重合ポリエステルなどを例示できる。
本発明の複合繊維は2種以上の熱可塑性樹脂を主体として構成され、その熱可塑性樹脂の少なくとも1種が、上記のポリオレフィン系重合体及びポリエステル系重合体から選択されることが好ましい。また、本発明の複合繊維は、ポリオレフィン系重合体及びポリエステル系重合体以外の熱可塑性樹脂を含んでいてもよい。
【0015】
本発明の高撥水性繊維を構成する熱可塑性樹脂の組合せとしては、その組合せ例を2種類の場合で表すと、ポリオレフィン系重合体/ポリオレフィン重合体、ポリオレフィン重合体/ポリエステル重合体、ポリエステル重合体/ポリエステル重合体、ポリアミド重合体/ポリエステル重合体、ポリオレフィン重合体/ポリアミド重合体、ポリオレフィン重合体/スチレン系重合体などの組合せが例示できる。
本発明の複合繊維に用いる熱可塑性樹脂には、本発明の目的が損なわれない範囲で、各種添加剤を配合することができる。そのような添加剤の例として、耐熱安定剤、酸化防止剤、耐候安定剤、帯電防止剤、着色剤、平滑剤などが挙げられる。また、必要に応じて他の熱可塑性樹脂をブレンドしたり、二酸化チタン、炭酸カルシウム及び水酸化マグネシウムなどの無機物などを配合しても差し支えない。
【0016】
本発明の高撥水性複合繊維の繊維断面構造は、鞘芯タイプ、並列タイプ、中空タイプ、分割タイプ、多葉異型タイプをとることができ、また、並列中空タイプ、分割中空タイプなど、組み合わせたタイプをとることができる。嵩高で風合いのよい不織布を得るためには、鞘芯タイプ、並列タイプ、偏心鞘芯タイプ、中空タイプの繊維断面構造が好ましい。
本発明の高撥水性複合繊維に、熱接着性能を発揮させるためには、該複合繊維が、例えば芯成分と鞘成分とからなる場合、鞘成分の熱可塑性樹脂が芯成分の熱可塑性樹脂よりも低融点であり、鞘成分が繊維表面に露出していることが必要である。
本発明の高撥水性繊維が、例えば芯成分と鞘成分とからなる鞘芯タイプの複合繊維であった場合、鞘成分と芯成分との複合比は20/80質量%〜80/20質量%の範囲にすることが好ましく、より好ましくは40/60質量%〜60/40質量%である。
【0017】
本発明の複合繊維は、溶融紡糸法によって得られるものである。複合繊維を得るための溶融紡糸は、融点が異なる複数の熱可塑性樹脂を用いて、夫々を融点以上に加温された押出機に投入して溶融させ、鞘芯型などの複合口金から押し出し、押し出された溶融樹脂を冷却させながら一定の速度で引き取って紡糸を行うものである。紡糸後、熱ロールなどを用いて特定の倍率に延伸し、機械捲縮を付与した後、乾燥、切断処理を行う。
こうして得られた複合繊維に、または、その製造工程中の複合繊維に、上記のように繊維処理剤を付着させて、本発明の高撥水性繊維を製造することができる。
【0018】
本発明の高撥水性複合繊維の繊度は、0.5〜30dtexの範囲から任意に選択できる。該複合繊維を不織布に加工し、使い捨ておむつや生理用ナプキンの漏れ防止材に用いるためには、柔軟性、風合いを考慮して、繊度は1.0〜6dtexが好ましい。
本発明の高撥水性複合繊維を用いて不織布に加工する際に、カード工程を採用する場合、繊維を、カード機を通過させるために任意の長さにカットする必要がある。繊維をカットする長さ、カット長は、繊度やカード機の通過性能を考慮して、15〜125mmの範囲から選択することができ、好ましくは、30〜75mmである。
【0019】
本発明の高撥水性複合繊維を不織布に加工するためには、繊維ウェブを形成した後に、熱処理を行い、繊維ウェブを構成する繊維の交絡点を熱接着させて不織布化する手法を用いることが好ましい。
繊維ウェブを形成する方法として、上記のように所定に長さにカットした繊維をカード機に通過させるカーディング法があり、嵩高な繊維ウェブを形成するには、カーディング法は最も適した方法である。
【0020】
カーディング法で形成された繊維ウェブを熱処理する公知の方法としては、熱風接着法や熱ロール接着法などの方法を例示でき、本発明の複合繊維を繊維ウェブに形成した後に行う熱処理法としては、熱風接着法が好ましい。
この熱風接着法は加熱した空気や蒸気を繊維ウェブ全体、または一部分に通過させることで、繊維ウェブを構成する複合繊維の低融点成分を軟化、溶融させて繊維交絡部分を接着する方法であって、熱ロール接着法のように一定面積を押しつぶして嵩高さを損じる方法ではないため、本発明の課題である、嵩高で風合いの良好な不織布を提供するのに適した熱処理法である。
【0021】
本発明の高撥水性複合繊維が発揮する高撥水性は、該繊維を用いて製造した不織布における耐水圧を指標として、確認することができる。例えばJIS L1092−A法(低水圧法)を用いて、不織布の耐水圧を測定することができ、所定の耐水圧値を目安として繊維の高撥水性を確認できる。
【0022】
本発明の高撥水性複合繊維を嵩高不織布に加工した場合の不織布の目付(単位面積あたりの質量)は、5〜100g/m2の範囲で選択することができる。使い捨ておむつや生理用ナプキンの漏れ防止材に使用するのに適した目付としては、所望の充分な効果とコストのバランスから、20〜50g/m2の目付が好ましい。
また、本発明の複合繊維を不織布に加工した場合の不織布の嵩高さは、比容積(単位質量あたりの容積)や、空隙率(単位体積あたりの空隙が占める割合)で算出しすることができる。不織布が嵩高になると、構成する繊維同士の間の平均的な距離が大きくなり、単位体積あたりの繊維の本数が減少する傾向にあることから撥水性を維持するのが難しくなるが、本発明の不織布の場合、繊維に付着した繊維処理剤の撥水性が高いため、より嵩高な不織布となっても、その優れた効果を維持することが出来る。
比容積で算出した場合、好ましい嵩高さは15〜150cm3/gで、20〜100cm3/gがより好ましく、この範囲で本発明の優れた効果が最もよく発揮される。この場合の嵩高さにおいて、15cm3/g以上の数値であれば、嵩高さは十分に良好であり、また、150cm3/g以下の数値の場合、不織布自体の強度が十分強く保持されるので好ましい。
空隙率は、好ましくは90〜99%で、95〜99%がより好ましく、本発明の優れた効果が最もよく発揮される。
【実施例】
【0023】
次に本発明を実施例と比較例によって具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、本明細書、特に実施例と比較例において用いられる用語の定義及び測定方法は、以下の通りである。
(1)処理剤の付着量
繊維に付着した処理剤の繊維質量あたりの比率を示し、抽出法にて算出する。(単位:質量%)
試料短繊維50gをミニチュアローラーカード機にかけて繊維ウェブとして、繊維ウェブから2gを取り出して迅速残脂抽出装置を用いて測定した。抽出溶媒として2−プロパノール25mLを用いた。以下の式で付着量を算出した。
付着量(質量%)=(抽出量(g)/2)×100
【0024】
(2)帯電防止性
カード工程で発生した静電気の電圧値を示す。(単位:V(ボルト))
試料短繊維50gを、温度20℃、相対湿度45%の雰囲気下で、500mm幅のミニチュアローラーカード機に出口ローラー速度7m/minで通して繊維ウェブとし、カード機出口から巻き取りドラムに渡る途中の繊維ウェブに発生した静電気の電圧を測定した。この電圧が100V未満であれば、この繊維を用いて加工する際に、帯電性が充分に抑止されていて加工が順調に行えたと判断した。
【0025】
(3)目付
不織布及び繊維ウェブの単位面積当たりの質量を示し、一定面積で切り出された不織布または繊維ウェブの質量から算出する。(単位:g/m2)
250mm×250mmに切り出した試料不織布を、上皿電子天秤で計量し、その数値を16倍して目付を算出した。
【0026】
(4)嵩高さ(比容積と空隙率)
(i)比容積:不織布の単位体積当たりの質量を示し、目付測定と厚み測定から算出する。(単位:cm3/g)
試料不織布の厚みを、厚み測定機を用いて、荷重3.5g/cm2、速度2mm/secの条件で測定し、その厚みの数値(mm)と目付(g/m2)から以下の式を用いて算出した。
比容積=t/w×1000
t:試料不織布の厚み(mm)
w:目付(g/m2)
(ii)空隙率:不織布の単位体積あたりの空隙が占める割合を示し、不織布の目付及び厚み、構成繊維の比重から算出する。(単位:%)
試料不織布の厚みを、厚み測定機を用いて、荷重3.5g/cm2、速度2mm/secの条件で測定し、その厚みの数値(μm)と目付(g/m2)、及び構成繊維の比重(g/cm3)から以下の式を用いて算出した。
空隙率={(t−w/ρ)/t}×100
t:試料不織布の厚み(μm)
w:試料不織布の目付(g/m2)
ρ:構成繊維の比重(g/cm3)
【0027】
(5)撥水性
不織布の耐水圧で表す。(単位:mm)
試料不織布を150mm×150mmに切り出し、JIS L1092−A法(低水圧法)に準じて、上昇速度10cm/minで測定した。耐水圧の値が大きければ撥水性が良好であることを示す。この耐水圧の値が40mm以上であれば、材料となっている複合繊維の撥水性が充分にあって、製品として満足のいく高撥水性不織布が提供されたと、判断した。
【0028】
(6)風合い
不織布の、見た目の地合と、手触りによる柔らかさ、こし、ふくらみなどを総合的に判断した。
試料不織布を150mm×150mmに切り出し、5人のパネラーによる官能試験によって判断した。
○:5人全員が「良好」と感じる。
△:1〜2人が「悪い」と感じる。
×:4人以上が「悪い」と感じる。
の3段階の基準で評価した。
【0029】
[実施例1]
メルトマスフローレイト(条件:230℃、荷重21.18N)が15g/10min、融点が162℃である結晶性ポリプロピレンを芯成分とし、密度0.96g/cm3、メルトインデックス(条件:190℃、荷重21.18N)が16g/10min、融点が131℃である高密度ポリエチレンを鞘成分として、孔数350孔を有する鞘芯型複合口金を用いて、温度220〜280℃、引き取り速度800m/minの条件で、質量比50%/50%の鞘芯型複合繊維を紡糸した。紡糸後、90℃の熱ロールにて4倍に延伸し、この延伸工程で表1に示した繊維処理剤1を、有効成分10質量%の水性エマルジョンの状態で、オイリングロールを用いて付着させた。繊維処理剤を付着させた繊維に機械捲縮を付与し、乾燥後、切断処理して、2.2dtex、51mmの試料短繊維を得た。
得られた試料短繊維について、上記(1)、(2)の測定方法で、付着量及び帯電防止性を測定した。その結果を表2に示す。
また、得られた試料短繊維50gを、ミニチュアローラーカード機を用いてカーディング法にて繊維ウェブとした。これらの繊維ウェブを熱風循環式の熱処理加工機に通し、130℃の設定温度、平均風速0.8m/sec、加工時間12secの条件で、熱風接着法にて試料不織布とした。
【0030】
[実施例2]
延伸工程で表1に示した繊維処理剤2を付着させた以外は、実施例1と同じ方法で、試料短繊維を得た。得られた試料短繊維について、上記(1)、(2)の測定方法で、付着量及び帯電防止性を測定した。その結果を表2に示す。
また、実施例1と同じ方法で、試料不織布を得た。
【0031】
[実施例3]
延伸工程で表1に示した繊維処理剤3を付着させた以外は、実施例1と同じ方法で、試料短繊維を得た。得られた試料短繊維について、上記(1)、(2)の測定方法で、付着量及び帯電防止性を測定した。その結果を表2に示す。
また、実施例1と同じ方法で、試料不織布を得た。
【0032】
[比較例1]
延伸工程で表1に示した繊維処理剤4を付着させた以外は、実施例1と同じ方法で、試料短繊維を得た。得られた試料短繊維について、上記(1)、(2)の測定方法で、付着量及び帯電防止性を測定した。その結果を表2に示す。
また、実施例1と同じ方法で、試料不織布を得た。
【0033】
[比較例2]
メルトマスフローレイト(条件:230℃、荷重21.18N)が15g/10min、融点が162℃である結晶性ポリプロピレンを、孔数350孔を有する紡糸口金を用いて、温度260〜280℃、引き取り速度800m/minの条件で紡糸した。この紡糸工程で、表1に示した繊維処理剤5を、有効成分5質量%の水性エマルジョンの状態で、オイリングロールを用いて目標付着量0.6質量%で付着させた。紡糸後、90℃の熱ロールにて4倍に延伸し、この延伸工程で表1に示した繊維処理剤6を、有効成分10質量%の水性エマルジョンの状態で、オイリングロールを用いて目標付着量0.1質量%で追加付着させた。繊維処理剤を付着させた繊維に機械捲縮を付与し、乾燥後、切断処理して、2.2dtex、51mmの試料短繊維を得た。
得られた試料短繊維について、上記(1)、(2)の測定方法で、付着量及び帯電防止性を測定した。その結果を表2に示す。
また、得られた試料短繊維50gを、ミニチュアローラーカード機を用いてカーディング法にて繊維ウェブとした。この繊維ウェブを、一方の表面には凸部が彫刻されている加熱された2つのロール間に通し、部分的に熱圧着を施して試料不織布とした。この熱ロール接着法の条件は、表面温度154℃、回転速度0.6m/min、線圧196N/cm、圧着面積率25%であった。
【0034】
[比較例3]
延伸工程で表1に示した繊維処理剤7を付着させた以外は、実施例1と同じ方法で、試料短繊維を得た。
[比較例4]
融点が160℃である結晶性ポリプロピレンから成るスパンボンド法で得られた、フィラメント繊度が2.3dtex、圧着面積率が14%である不織布を試料不織布とした。
【0035】
上記のように得られたそれぞれの試料不織布について、上記(3)〜(6)の測定方法で、目付、嵩高さ、撥水性、風合いを測定、評価した。それらの結果を表2に示す。
【0036】
表1(単位:有効成分における質量%)
*1:商品名「DOW CORNING TORAY SH 200 C FLUID」/東レ・ダウコーニング(株)製
*2:商品名「HOSTAPUR SAS」/クラリアントジャパン(株)製
【0037】
表2
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明の高撥水性繊維は、帯電防止性に優れているため、不織布に加工する工程において静電気の発生によるトラブルを生じることもなく、また、本発明の高撥水性繊維を用いた不織布は嵩高で、かつ、撥水性に優れたものである。このため、該不織布は使い捨ておむつ、生理用ナプキン、吸収パッド等の漏れ防止材あるいは液不透過性シートに好適に利用できる。
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の熱可塑性樹脂を主体とする、帯電防止性に優れた高撥水性複合繊維及びこれを用いた嵩高不織布に関する。更に詳しくは、使い捨ておむつ、生理用ナプキン、吸収パッド等の漏れ防止材あるいは液不透過性シートに適した高撥水性繊維及びこれを用いた嵩高不織布に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、広く使用されるようになった使い捨ておむつにおいては、尿や軟便の股への横漏れ、あるいは腹部、腰部への漏れを防ぐためにサイドギャザーやウエストギャザー等の漏れ防止材が具備されている。また、生理用ナプキンにおいても、経血の横漏れ防止のためにサイドギャザーが備えられた製品が市販されている。このような漏れ防止材には、尿や経血を透過させないように撥水性が要求される。また、このような部材は肌と直に接して使用されることから、触感がよく、風合いに優れたものでなければならない。
従来より、このような部材には、ポリオレフィン系重合体などの熱可塑性樹脂を用いたスパンボンド法で得られる不織布などが用いられているが、触感や風合いといった面では、改良の余地が大きいものである。
上記の要求を満足させるために、数多くの提案がなされ、その改良技術も多い。例えば、特許文献1では、アルキルリン酸エステルで処理した後、ポリシロキサンで処理したポリオレフィンを含む繊維またはフィラメントが提案されている。
また、特許文献2では、シリコン系成分とエチレンオキサイド付加アルキルアミン成分を含む繊維処理剤が付着した熱接着性繊維が提案されている。
【0003】
上記のような改良技術においても、帯電防止性と高撥水性との両立という観点から、実用上なお改善の余地を残すものである。例えば、特許文献1では帯電防止剤としてアルキルリン酸エステルを用いていて、繊維を不織布に加工する工程において、その帯電防止性は充分ではなく、また、不織布を得るためにカレンダーロール加工を用いており、この手法では嵩高で風合いのよい不織布を得難い。一方特許文献2では、繊維処理剤中においてシリコン系成分の比率が比較的低く、エチレンオキサイド付加アルキルアミンの撥水性を加味しても、充分な撥水性を得難い。一般に、不織布が嵩高くなると、構成繊維の密度が下がり、不織布の撥水性が低くなる傾向があるため、このような構成の繊維処理剤を付着させた繊維では、嵩高な高撥水性不織布を得ることは難しい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第2908841号明細書
【特許文献2】特開平5−321156号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、良好な帯電防止性と高撥水性を発揮することができる繊維を提供することである。本発明の目的はまた、そのような繊維を用いて、高撥水性を発揮する嵩高い不織布を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、熱可塑性樹脂を主体とする複合繊維に、撥水性の高いポリシロキサンと帯電防止効果に非常に優れているアルカンスルホネート金属塩とを含む繊維処理剤を付着させることにより、その複合繊維が、不織布に加工される工程において充分な帯電防止性を持ち、かつ、該複合繊維によって嵩高で風合いの良好な高撥水性不織布が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
従って本発明は、複数の熱可塑性樹脂を主体とする複合繊維であって、少なくとも下記の成分(A)と、成分(B)を含む繊維処理剤が、繊維質量に対して0.1〜1.0質量%付着していて、該繊維処理剤中で、成分(A)が75〜97質量%、成分(B)が25〜3質量%を占めることを特徴とする高撥水性繊維である。
成分(A):ポリシロキサン
成分(B):アルカンスルホネート金属塩
本発明の実施態様として、上記の熱可塑性樹脂の少なくとも1種類がポリオレフィン系重合体及びポリエステル系樹脂から選ばれる高撥水性繊維が挙げられる。
本発明はさらに、上記の高撥水性繊維を用いて、カード工程を含む工程で加工された嵩高不織布に向けられている。
【発明の効果】
【0007】
本発明の複合繊維には、繊維処理剤が付着しており、該繊維処理剤は、撥水成分である成分(A)ポリシロキサンが75〜97質量%を占め、帯電防止剤である成分(B)アルカンスルホネート金属塩が25〜3質量%を占めるものである。該繊維処理剤において、帯電防止剤である成分(B)アルカンスルホネート金属塩の帯電防止効果が非常に高いため、その構成比率を低く抑えることが可能で、このため、撥水成分であるポリシロキサンの構成比率を75〜97質量%に上げて、高い撥水性を発現させることができる。本発明の複合繊維は帯電防止効果が高く、かつ、撥水性が高いことから、該複合繊維を不織布に加工する工程では、静電気の発生がなく、安定した加工が可能である。
また、本発明の複合繊維は複数の熱可塑性樹脂を主体としているため、構成する熱可塑性樹脂の融点差を利用して、熱風循環式の加工機などで繊維交絡点を溶融接着させて、嵩高不織布に加工することができる。このように嵩高となって、構成繊維密度が低くなっても、本発明の複合繊維の撥水性が充分に高いものであるため、本発明によれば高撥水性を損なわずに嵩高不織布が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の複合繊維に付着させる繊維処理剤を構成する成分(A)ポリシロキサンの例として、ポリジメチルシロキサン、アミノ変性ポリシロキサン、ポリプロピレングリコール変性ポリシロキサンなどが挙げられ、特に、撥水性能と安全性に優れている点でジメチルポリシロキサンが好ましい。成分(A)ポリシロキサンとして市販品を使用することができ、そのような市販品として例えばポリジメチルシロキサンの例では、東レ・ダウコーニング株式会社の「DOW CORNING TORAY SH 200 C FLUID」、旭化成ワッカー株式会社の「WACKER SILICONE FLUID AK」、信越化学工業株式会社の「KF−96」などが挙げられる。
繊維処理剤を構成する成分(A)としてポリジメチルシロキサンを用いる場合、その重合度として5〜200が好ましく、より好ましくは10〜100である。
本発明の複合繊維に付着させる繊維処理剤を構成する成分(A)ポリシロキサンは、繊維処理剤の有効成分の75〜97質量%を占めることが必要である。ここでいう有効成分とは、繊維処理剤全体から水分を除いた成分のことである。繊維処理剤における成分(A)ポリシロキサンの構成比率が75〜97質量%の範囲にあることで、複合繊維の撥水性を充分にして、同時に、帯電防止剤などの他の成分による効果も良好に発揮させることができて、繊維を不織布に加工する工程で静電気の発生を抑え加工しやすくなる。
【0009】
本発明の複合繊維に付着させる繊維処理剤を構成する成分(B)アルカンスルホネート金属塩におけるアルキル基は、飽和または不飽和で、分枝状もしくは直鎖状であって、炭素数は10〜20が好ましく、特に炭素数13〜17の直鎖状のアルキル基を含むものがより好ましい。成分(B)アルカンスルホネート金属塩におけるスルホン基は、炭素鎖の任意の位置に存在することができる。
本発明で使用する繊維処理剤を構成する成分(B)アルカンスルホネート金属塩は、単一種または2種類以上の、炭素数が異なるものやスルホン基の位置が異なるアルカンスルホネート金属塩の混合物であってもよい。
成分(B)アルカンスルホネート金属塩におけるカチオンとしては、アルカリ金属であるナトリウム、カリウムが好ましく、特に水溶性に優れているナトリウムが好ましい。成分(B)アルカンスルホネート金属塩として市販品を用いることができ、そのような市販品の例として、クラリアントジャパン株式会社の「HOSTAPUR SAS」、LEUNA−TENSIDE GmbHの「EMULGATOR E30」、Sasol Japan KKの「MARLON PS」などが挙げられる。
【0010】
本発明で使用する繊維処理剤を構成する成分(B)アルカンスルホネート金属塩は、繊維処理剤の有効成分の25〜3質量%を占めることが必要である。繊維処理剤における成分(B)アルカンスルホネート金属塩の構成比率が25〜3質量%の範囲であることによって、該繊維処理剤の適当な付着量、すなわち繊維質量に対して0.1〜1.0質量%の付着量で、帯電防止効果を充分に発揮させることができるとともに、成分(A)ポリシロキサンによる撥水効果も充分に示すことができる。
なお、繊維処理剤の過剰な付着量は、繊維の表面特性を悪化させ、また、繊維を不織布に加工する工程で繊維処理剤の脱落などで機器が汚染する原因となる。
【0011】
本発明の複合繊維に付着させる繊維処理剤には、本発明の目的が損なわれない範囲で、各種添加剤を配合することができる。そのような添加剤の例として、乳化剤、防腐剤、防錆剤、pH調整剤、消泡剤などが挙げられる。
【0012】
本発明の複合繊維は、繊維質量に対して、上記繊維処理剤が有効成分として0.1〜1.0質量%付着しているものであって、好ましくは0.2〜0.8質量%付着しているものである。該付着量が0.1〜1.0質量%の範囲にあることにより、帯電防止性が充分にあり、該複合繊維を不織布に加工する工程で静電気の発生が抑えられ、加工しやすくなる。また、この付着量の範囲では、繊維から脱落する該処理剤の量が極めて少なく、よって、機器への該処理剤の蓄積や加工性低下の問題を避けることができる。
【0013】
本発明において、複合繊維に上記繊維処理剤を付着させる方法は特定の方法に限定されず、従来公知の方法を採用することができる。複合繊維に上記繊維処理剤を付着させる方法として具体的に、繊維を生産する工程である、いわゆる紡糸工程、延伸工程、又はその両方の工程において、オイリングロール法、浸漬法、噴霧法など、公知の方法を利用することができる。
複合繊維に上記繊維処理剤を付着させるに当たって、上記の成分(A)と成分(B)を一括して付着させる簡便な操作によって、所望の充分な効果が奏される点において本発明の工業的意義は大きい。例えば、上記の成分(A)及び成分(B)、並びに任意の添加剤を配合した繊維処理剤を調製しておき、該繊維処理剤を上記のような繊維生産工程において、適当な方法によって複合繊維に付着させることができる。または、これらの成分を分別して付着させることもできる。
【0014】
本発明の複合繊維は、複数の熱可塑性樹脂を主体とする。該複合繊維に用いられる熱可塑性樹脂としては、ポリオレフィン系重合体、ポリエステル系重合体、ポリアミド系重合体を例示できる。中でもポリオレフィン系重合体は疎水性が大きいので、本発明の目的である高撥水性を満足させる効果に優れているので、好ましく用いられる。また、ポリエステル系重合体も、嵩高性や嵩回復性に優れているので、好ましく用いられる。
ポリオレフィン系重合体としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン酢酸ビニル共重合体、エチレン・プロピレン共重合体、エチレン・オクテンー1共重合体、エチレン・ブテンー1共重合体、エチレン・プロピレン・ブテンー1共重合体などを例示できる。ポリエステル系重合体としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート・イソフタレート、共重合ポリエステルなどを例示できる。
本発明の複合繊維は2種以上の熱可塑性樹脂を主体として構成され、その熱可塑性樹脂の少なくとも1種が、上記のポリオレフィン系重合体及びポリエステル系重合体から選択されることが好ましい。また、本発明の複合繊維は、ポリオレフィン系重合体及びポリエステル系重合体以外の熱可塑性樹脂を含んでいてもよい。
【0015】
本発明の高撥水性繊維を構成する熱可塑性樹脂の組合せとしては、その組合せ例を2種類の場合で表すと、ポリオレフィン系重合体/ポリオレフィン重合体、ポリオレフィン重合体/ポリエステル重合体、ポリエステル重合体/ポリエステル重合体、ポリアミド重合体/ポリエステル重合体、ポリオレフィン重合体/ポリアミド重合体、ポリオレフィン重合体/スチレン系重合体などの組合せが例示できる。
本発明の複合繊維に用いる熱可塑性樹脂には、本発明の目的が損なわれない範囲で、各種添加剤を配合することができる。そのような添加剤の例として、耐熱安定剤、酸化防止剤、耐候安定剤、帯電防止剤、着色剤、平滑剤などが挙げられる。また、必要に応じて他の熱可塑性樹脂をブレンドしたり、二酸化チタン、炭酸カルシウム及び水酸化マグネシウムなどの無機物などを配合しても差し支えない。
【0016】
本発明の高撥水性複合繊維の繊維断面構造は、鞘芯タイプ、並列タイプ、中空タイプ、分割タイプ、多葉異型タイプをとることができ、また、並列中空タイプ、分割中空タイプなど、組み合わせたタイプをとることができる。嵩高で風合いのよい不織布を得るためには、鞘芯タイプ、並列タイプ、偏心鞘芯タイプ、中空タイプの繊維断面構造が好ましい。
本発明の高撥水性複合繊維に、熱接着性能を発揮させるためには、該複合繊維が、例えば芯成分と鞘成分とからなる場合、鞘成分の熱可塑性樹脂が芯成分の熱可塑性樹脂よりも低融点であり、鞘成分が繊維表面に露出していることが必要である。
本発明の高撥水性繊維が、例えば芯成分と鞘成分とからなる鞘芯タイプの複合繊維であった場合、鞘成分と芯成分との複合比は20/80質量%〜80/20質量%の範囲にすることが好ましく、より好ましくは40/60質量%〜60/40質量%である。
【0017】
本発明の複合繊維は、溶融紡糸法によって得られるものである。複合繊維を得るための溶融紡糸は、融点が異なる複数の熱可塑性樹脂を用いて、夫々を融点以上に加温された押出機に投入して溶融させ、鞘芯型などの複合口金から押し出し、押し出された溶融樹脂を冷却させながら一定の速度で引き取って紡糸を行うものである。紡糸後、熱ロールなどを用いて特定の倍率に延伸し、機械捲縮を付与した後、乾燥、切断処理を行う。
こうして得られた複合繊維に、または、その製造工程中の複合繊維に、上記のように繊維処理剤を付着させて、本発明の高撥水性繊維を製造することができる。
【0018】
本発明の高撥水性複合繊維の繊度は、0.5〜30dtexの範囲から任意に選択できる。該複合繊維を不織布に加工し、使い捨ておむつや生理用ナプキンの漏れ防止材に用いるためには、柔軟性、風合いを考慮して、繊度は1.0〜6dtexが好ましい。
本発明の高撥水性複合繊維を用いて不織布に加工する際に、カード工程を採用する場合、繊維を、カード機を通過させるために任意の長さにカットする必要がある。繊維をカットする長さ、カット長は、繊度やカード機の通過性能を考慮して、15〜125mmの範囲から選択することができ、好ましくは、30〜75mmである。
【0019】
本発明の高撥水性複合繊維を不織布に加工するためには、繊維ウェブを形成した後に、熱処理を行い、繊維ウェブを構成する繊維の交絡点を熱接着させて不織布化する手法を用いることが好ましい。
繊維ウェブを形成する方法として、上記のように所定に長さにカットした繊維をカード機に通過させるカーディング法があり、嵩高な繊維ウェブを形成するには、カーディング法は最も適した方法である。
【0020】
カーディング法で形成された繊維ウェブを熱処理する公知の方法としては、熱風接着法や熱ロール接着法などの方法を例示でき、本発明の複合繊維を繊維ウェブに形成した後に行う熱処理法としては、熱風接着法が好ましい。
この熱風接着法は加熱した空気や蒸気を繊維ウェブ全体、または一部分に通過させることで、繊維ウェブを構成する複合繊維の低融点成分を軟化、溶融させて繊維交絡部分を接着する方法であって、熱ロール接着法のように一定面積を押しつぶして嵩高さを損じる方法ではないため、本発明の課題である、嵩高で風合いの良好な不織布を提供するのに適した熱処理法である。
【0021】
本発明の高撥水性複合繊維が発揮する高撥水性は、該繊維を用いて製造した不織布における耐水圧を指標として、確認することができる。例えばJIS L1092−A法(低水圧法)を用いて、不織布の耐水圧を測定することができ、所定の耐水圧値を目安として繊維の高撥水性を確認できる。
【0022】
本発明の高撥水性複合繊維を嵩高不織布に加工した場合の不織布の目付(単位面積あたりの質量)は、5〜100g/m2の範囲で選択することができる。使い捨ておむつや生理用ナプキンの漏れ防止材に使用するのに適した目付としては、所望の充分な効果とコストのバランスから、20〜50g/m2の目付が好ましい。
また、本発明の複合繊維を不織布に加工した場合の不織布の嵩高さは、比容積(単位質量あたりの容積)や、空隙率(単位体積あたりの空隙が占める割合)で算出しすることができる。不織布が嵩高になると、構成する繊維同士の間の平均的な距離が大きくなり、単位体積あたりの繊維の本数が減少する傾向にあることから撥水性を維持するのが難しくなるが、本発明の不織布の場合、繊維に付着した繊維処理剤の撥水性が高いため、より嵩高な不織布となっても、その優れた効果を維持することが出来る。
比容積で算出した場合、好ましい嵩高さは15〜150cm3/gで、20〜100cm3/gがより好ましく、この範囲で本発明の優れた効果が最もよく発揮される。この場合の嵩高さにおいて、15cm3/g以上の数値であれば、嵩高さは十分に良好であり、また、150cm3/g以下の数値の場合、不織布自体の強度が十分強く保持されるので好ましい。
空隙率は、好ましくは90〜99%で、95〜99%がより好ましく、本発明の優れた効果が最もよく発揮される。
【実施例】
【0023】
次に本発明を実施例と比較例によって具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、本明細書、特に実施例と比較例において用いられる用語の定義及び測定方法は、以下の通りである。
(1)処理剤の付着量
繊維に付着した処理剤の繊維質量あたりの比率を示し、抽出法にて算出する。(単位:質量%)
試料短繊維50gをミニチュアローラーカード機にかけて繊維ウェブとして、繊維ウェブから2gを取り出して迅速残脂抽出装置を用いて測定した。抽出溶媒として2−プロパノール25mLを用いた。以下の式で付着量を算出した。
付着量(質量%)=(抽出量(g)/2)×100
【0024】
(2)帯電防止性
カード工程で発生した静電気の電圧値を示す。(単位:V(ボルト))
試料短繊維50gを、温度20℃、相対湿度45%の雰囲気下で、500mm幅のミニチュアローラーカード機に出口ローラー速度7m/minで通して繊維ウェブとし、カード機出口から巻き取りドラムに渡る途中の繊維ウェブに発生した静電気の電圧を測定した。この電圧が100V未満であれば、この繊維を用いて加工する際に、帯電性が充分に抑止されていて加工が順調に行えたと判断した。
【0025】
(3)目付
不織布及び繊維ウェブの単位面積当たりの質量を示し、一定面積で切り出された不織布または繊維ウェブの質量から算出する。(単位:g/m2)
250mm×250mmに切り出した試料不織布を、上皿電子天秤で計量し、その数値を16倍して目付を算出した。
【0026】
(4)嵩高さ(比容積と空隙率)
(i)比容積:不織布の単位体積当たりの質量を示し、目付測定と厚み測定から算出する。(単位:cm3/g)
試料不織布の厚みを、厚み測定機を用いて、荷重3.5g/cm2、速度2mm/secの条件で測定し、その厚みの数値(mm)と目付(g/m2)から以下の式を用いて算出した。
比容積=t/w×1000
t:試料不織布の厚み(mm)
w:目付(g/m2)
(ii)空隙率:不織布の単位体積あたりの空隙が占める割合を示し、不織布の目付及び厚み、構成繊維の比重から算出する。(単位:%)
試料不織布の厚みを、厚み測定機を用いて、荷重3.5g/cm2、速度2mm/secの条件で測定し、その厚みの数値(μm)と目付(g/m2)、及び構成繊維の比重(g/cm3)から以下の式を用いて算出した。
空隙率={(t−w/ρ)/t}×100
t:試料不織布の厚み(μm)
w:試料不織布の目付(g/m2)
ρ:構成繊維の比重(g/cm3)
【0027】
(5)撥水性
不織布の耐水圧で表す。(単位:mm)
試料不織布を150mm×150mmに切り出し、JIS L1092−A法(低水圧法)に準じて、上昇速度10cm/minで測定した。耐水圧の値が大きければ撥水性が良好であることを示す。この耐水圧の値が40mm以上であれば、材料となっている複合繊維の撥水性が充分にあって、製品として満足のいく高撥水性不織布が提供されたと、判断した。
【0028】
(6)風合い
不織布の、見た目の地合と、手触りによる柔らかさ、こし、ふくらみなどを総合的に判断した。
試料不織布を150mm×150mmに切り出し、5人のパネラーによる官能試験によって判断した。
○:5人全員が「良好」と感じる。
△:1〜2人が「悪い」と感じる。
×:4人以上が「悪い」と感じる。
の3段階の基準で評価した。
【0029】
[実施例1]
メルトマスフローレイト(条件:230℃、荷重21.18N)が15g/10min、融点が162℃である結晶性ポリプロピレンを芯成分とし、密度0.96g/cm3、メルトインデックス(条件:190℃、荷重21.18N)が16g/10min、融点が131℃である高密度ポリエチレンを鞘成分として、孔数350孔を有する鞘芯型複合口金を用いて、温度220〜280℃、引き取り速度800m/minの条件で、質量比50%/50%の鞘芯型複合繊維を紡糸した。紡糸後、90℃の熱ロールにて4倍に延伸し、この延伸工程で表1に示した繊維処理剤1を、有効成分10質量%の水性エマルジョンの状態で、オイリングロールを用いて付着させた。繊維処理剤を付着させた繊維に機械捲縮を付与し、乾燥後、切断処理して、2.2dtex、51mmの試料短繊維を得た。
得られた試料短繊維について、上記(1)、(2)の測定方法で、付着量及び帯電防止性を測定した。その結果を表2に示す。
また、得られた試料短繊維50gを、ミニチュアローラーカード機を用いてカーディング法にて繊維ウェブとした。これらの繊維ウェブを熱風循環式の熱処理加工機に通し、130℃の設定温度、平均風速0.8m/sec、加工時間12secの条件で、熱風接着法にて試料不織布とした。
【0030】
[実施例2]
延伸工程で表1に示した繊維処理剤2を付着させた以外は、実施例1と同じ方法で、試料短繊維を得た。得られた試料短繊維について、上記(1)、(2)の測定方法で、付着量及び帯電防止性を測定した。その結果を表2に示す。
また、実施例1と同じ方法で、試料不織布を得た。
【0031】
[実施例3]
延伸工程で表1に示した繊維処理剤3を付着させた以外は、実施例1と同じ方法で、試料短繊維を得た。得られた試料短繊維について、上記(1)、(2)の測定方法で、付着量及び帯電防止性を測定した。その結果を表2に示す。
また、実施例1と同じ方法で、試料不織布を得た。
【0032】
[比較例1]
延伸工程で表1に示した繊維処理剤4を付着させた以外は、実施例1と同じ方法で、試料短繊維を得た。得られた試料短繊維について、上記(1)、(2)の測定方法で、付着量及び帯電防止性を測定した。その結果を表2に示す。
また、実施例1と同じ方法で、試料不織布を得た。
【0033】
[比較例2]
メルトマスフローレイト(条件:230℃、荷重21.18N)が15g/10min、融点が162℃である結晶性ポリプロピレンを、孔数350孔を有する紡糸口金を用いて、温度260〜280℃、引き取り速度800m/minの条件で紡糸した。この紡糸工程で、表1に示した繊維処理剤5を、有効成分5質量%の水性エマルジョンの状態で、オイリングロールを用いて目標付着量0.6質量%で付着させた。紡糸後、90℃の熱ロールにて4倍に延伸し、この延伸工程で表1に示した繊維処理剤6を、有効成分10質量%の水性エマルジョンの状態で、オイリングロールを用いて目標付着量0.1質量%で追加付着させた。繊維処理剤を付着させた繊維に機械捲縮を付与し、乾燥後、切断処理して、2.2dtex、51mmの試料短繊維を得た。
得られた試料短繊維について、上記(1)、(2)の測定方法で、付着量及び帯電防止性を測定した。その結果を表2に示す。
また、得られた試料短繊維50gを、ミニチュアローラーカード機を用いてカーディング法にて繊維ウェブとした。この繊維ウェブを、一方の表面には凸部が彫刻されている加熱された2つのロール間に通し、部分的に熱圧着を施して試料不織布とした。この熱ロール接着法の条件は、表面温度154℃、回転速度0.6m/min、線圧196N/cm、圧着面積率25%であった。
【0034】
[比較例3]
延伸工程で表1に示した繊維処理剤7を付着させた以外は、実施例1と同じ方法で、試料短繊維を得た。
[比較例4]
融点が160℃である結晶性ポリプロピレンから成るスパンボンド法で得られた、フィラメント繊度が2.3dtex、圧着面積率が14%である不織布を試料不織布とした。
【0035】
上記のように得られたそれぞれの試料不織布について、上記(3)〜(6)の測定方法で、目付、嵩高さ、撥水性、風合いを測定、評価した。それらの結果を表2に示す。
【0036】
表1(単位:有効成分における質量%)
*1:商品名「DOW CORNING TORAY SH 200 C FLUID」/東レ・ダウコーニング(株)製
*2:商品名「HOSTAPUR SAS」/クラリアントジャパン(株)製
【0037】
表2
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明の高撥水性繊維は、帯電防止性に優れているため、不織布に加工する工程において静電気の発生によるトラブルを生じることもなく、また、本発明の高撥水性繊維を用いた不織布は嵩高で、かつ、撥水性に優れたものである。このため、該不織布は使い捨ておむつ、生理用ナプキン、吸収パッド等の漏れ防止材あるいは液不透過性シートに好適に利用できる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の熱可塑性樹脂を主体とする複合繊維であって、少なくとも下記の成分(A)と、成分(B)を含む繊維処理剤が、繊維質量に対して0.1〜1.0質量%付着していて、該繊維処理剤中で、成分(A)が75〜97質量%、成分(B)が25〜3質量%を占めることを特徴とする高撥水性繊維。
成分(A):ポリシロキサン
成分(B):アルカンスルホネート金属塩
【請求項2】
上記の熱可塑性樹脂の少なくとも1種類がポリオレフィン系重合体またはポリエステル系重合体である請求項1に記載の高撥水性繊維。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の高撥水性繊維を用いて、カード工程を含む工程で加工された嵩高不織布。
【請求項1】
複数の熱可塑性樹脂を主体とする複合繊維であって、少なくとも下記の成分(A)と、成分(B)を含む繊維処理剤が、繊維質量に対して0.1〜1.0質量%付着していて、該繊維処理剤中で、成分(A)が75〜97質量%、成分(B)が25〜3質量%を占めることを特徴とする高撥水性繊維。
成分(A):ポリシロキサン
成分(B):アルカンスルホネート金属塩
【請求項2】
上記の熱可塑性樹脂の少なくとも1種類がポリオレフィン系重合体またはポリエステル系重合体である請求項1に記載の高撥水性繊維。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の高撥水性繊維を用いて、カード工程を含む工程で加工された嵩高不織布。
【公開番号】特開2010−196229(P2010−196229A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−46123(P2009−46123)
【出願日】平成21年2月27日(2009.2.27)
【出願人】(506276907)ESファイバービジョンズ株式会社 (16)
【出願人】(506276712)イーエス ファイバービジョンズ ホンコン リミテッド (16)
【出願人】(506275575)イーエス ファイバービジョンズ リミテッド パートナーシップ (16)
【出願人】(506276332)イーエス ファイバービジョンズ アーペーエス (16)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年2月27日(2009.2.27)
【出願人】(506276907)ESファイバービジョンズ株式会社 (16)
【出願人】(506276712)イーエス ファイバービジョンズ ホンコン リミテッド (16)
【出願人】(506275575)イーエス ファイバービジョンズ リミテッド パートナーシップ (16)
【出願人】(506276332)イーエス ファイバービジョンズ アーペーエス (16)
【Fターム(参考)】
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