説明

高減衰ゴム組成物及びその用途

【課題】広い温度域において高い振動減衰特性を有し、圧縮永久歪が小さく、かつ低コストの高減衰ゴム組成物を提供する。
【解決手段】エピクロルヒドリンゴム(A)100重量部、エチレン・プロピレン・ジエンゴム(B)50〜280重量部、及び軟化点が70〜110℃、かつ数平均分子量が200〜2000である樹脂からなる振動特性改良剤(C)2〜20重量部を含有することを特徴とする高減衰ゴム組成物とする。橋梁ケーブル用制振部材又は建築物用制振部材が好適な実施態様である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高減衰ゴム組成物に関する。特に、広い温度域において安定して高い振動減衰特性を有する高減衰ゴム組成物に関する。また、そのような高減衰ゴム組成物からなる橋梁ケーブル用制振部材及び建築物用制振部材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、美観上の観点から実績が急拡大している斜張橋に用いられるケーブルには、交通振動や台風などに起因する振動をいち早く収束させることや、ケーブル本体と外装との接触による損傷を防止することなどを目的として、ケーブル防振機構が取り付けられている。一方、住宅においても、地震や交通などに起因する振動が建物や内装建材に及ぼす損傷を防ぐことを目的として、壁内に防振機構を設けることが多くなっている。これらの防振機構に組み込まれている防振材は、ブチルゴム(IIR)、天然ゴム(NR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)などの汎用ゴムを架橋させた防振ゴム;非架橋型ブチルゴム系などの粘弾性体;あるいは変性エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)やスチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体(SIS)などの熱可塑性樹脂を主成分としたポリマーなどにより構成されている。
【0003】
上記の従来のポリマーは、防振性能が温度によって大きく変動するという問題点があった。IIR、NR、SBRなどの汎用ゴムを架橋させた防振ゴムでは、防振性能の指標となる損失係数が、ゴムのガラス転移点(Tg)付近で極大値をとるので、添加剤を配合することによってその極大値を常温側にシフトさせている。しかし、防振性能の温度依存性が大きく、温度が高くなるにしたがって防振性能が低下し、広い温度域においては減衰性能が一定にならず、しかも損失係数が低いという欠点があった。また、非架橋型ブチルゴム系などの粘弾性体、あるいは変性EVAやSISなどの熱可塑性樹脂は高い減衰性能を有するが、圧縮永久歪が大きい上に、長期的な安定性に欠けるので、耐久性の面でも架橋されたゴムに劣るという欠点があった。
【0004】
一方、エピクロルヒドリンゴムを使用した防振材は、防振性能の温度依存性が小さく、良好な動的特性を持ち、圧縮永久歪が小さいという特徴が知られているが、反面、コストが非常に高い上、ポリマー粘度が極端に低いという加工上の難点を有している。加工性を改善する方法として、可塑剤、充填剤あるいは共架橋剤などを添加する方法が挙げられるが、減衰性能の低下を招き、かつ圧縮永久歪の大幅な増大を招くので、前述の用途の防振材として用いるのは困難になる。また、他種のポリマーを添加する方法も行われていて、それによってコストと加工性は改善できるものの、減衰性能が低下して、その温度依存性が大きくなる上に、圧縮永久歪の増大を招くこととなる。
【0005】
特許文献1には、低分子材と媒体材とを含む低分子材保持媒体材複合物と、高分子材料とを含む高分子組成物を用いて構成される制振材が記載されている。低分子材としては、軟化剤、可塑剤、粘着付与剤、オリゴマー、滑剤等が記載されている。ここで、粘着付与剤としては、クマロン樹脂、クマロン−インデン樹脂、フェノールテルペン樹脂、石油系炭化水素、ロジン誘導体等が例示されている。また、媒体材としては、好適なものの一つとして、エチレン・プロピレン・ジエンゴム(EPDM)が例示されている。更に、高分子材料として、EPDM及びエピクロルヒドリンゴムが多数の例示の中に記載されている。この発明によれば、著しく制振作用に優れた制振材が提供されるとある。しかしながら、実施例では、EPDMもエピクロルヒドリンゴムも使用されていない。また、明細書においても、これらを混合することについては何ら記載されていないし、示唆もされていない。さらに、減衰係数の温度依存性についても何ら記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平7−324167号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、広い温度域において安定して高い振動減衰特性を有し、圧縮永久歪が小さく、かつ、低コストの高減衰ゴム組成物を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題は、エピクロルヒドリンゴム(A)100重量部、エチレン・プロピレン・ジエンゴム(B)50〜280重量部、及び軟化点が70〜110℃、かつ数平均重合度が200〜2000である樹脂からなる振動特性改良剤(C)2〜20重量部を含有することを特徴とする高減衰ゴム組成物を提供することによって解決される。
【0009】
このとき、前記振動特性改良剤(C)が、クマロン樹脂、フェノール樹脂、テルペン樹脂、石油系炭化水素樹脂及びロジン樹脂からなる群から選択される少なくとも1種の樹脂からなるものであることが好ましい。また、前記高減衰ゴム組成物が、さらにゴム用軟化剤(D)を含有し、エピクロルヒドリンゴム(A)100重量部に対するエチレン・プロピレン・ジエンゴム(B)とゴム用軟化剤(D)の合計含有量が280重量部以下であり、かつゴム用軟化剤(D)とエチレン・プロピレン・ジエンゴム(B)の重量比(D/B)が0.2〜2であることも好ましい。前記高減衰ゴム組成物が、ハロゲン化ポリエチレンゴム、ニトリルゴム、及びスチレンブタジエンゴムからなる群から選択される少なくとも1種の相溶化剤(E)を、エピクロルヒドリンゴム(A)100重量部に対して3〜10重量部含有することも好ましい。前記高減衰ゴム組成物が、振動数1Hz、引張り方向+1.5%の条件での動的粘弾性測定における損失係数tanδが、−20〜100℃の全温度範囲にわたって0.15以上であることも好ましい。
【0010】
本発明の好適な実施態様は、橋梁ケーブル用制振部材である。また、他の好適な実施態様は、建築物用制振部材である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の高減衰ゴム組成物は、広い温度域において安定して高い振動減衰特性を有していて、圧縮永久歪が小さく、かつ低コストである。したがって、橋梁ケーブル用や建築物用などの制振部材の材料として特に適している。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の高減衰ゴム組成物は、エピクロルヒドリンゴム(A)、エチレン・プロピレン・ジエンゴム(EPDM)(B)及び振動特性改良剤(C)を含有するものである。
【0013】
本発明で用いられるエピクロルヒドリンゴム(A)は、エピクロルヒドリンを主たる単量体単位とするゴムである。エピクロルヒドリンゴム(A)におけるエピクロルヒドリン単位の含有量は通常50重量%以上であり、好適には60重量%以上である。このようなエピクロルヒドリンゴム(A)を用いることによって、広い温度域において、振動減衰特性の温度依存性が小さいゴム組成物が得られる。また、耐熱性や耐油性に優れたゴム組成物を得ることができる。
【0014】
エピクロルヒドリンゴム(A)は、エピクロルヒドリンの単独重合体(CO)であってもよいし、エピクロルヒドリンと共重合可能な他の単量体との共重合体であってもよい。共重合体である場合の他の単量体単位の含有量の上限は、通常50重量%以下であり、好適には40重量%以下である。一方、共重合体である場合の他の単量体単位の含有量の下限は、通常1重量%以上であり、好適には5重量%以上である。当該共重合体としては、エピクロルヒドリン−エチレンオキサイド共重合体(ECO)、エピクロルヒドリン−アリルグリシジルエーテル共重合体(GCO)、エピクロルヒドリン−エチレンオキサイド−アリルグリシジルエーテル三元共重合体(GECO)などが例示される。
【0015】
エピクロルヒドリンゴム(A)のムーニー粘度(ML1+4、100℃)は特に限定されないが、加工性の点から、50〜100であることが好ましい。エピクロルヒドリンゴム(A)としては、1種類のゴムを用いてもよいし、複数種のエピクロルヒドリンゴムを用いてもよい。エピクロルヒドリンゴム(A)としては、市販されている日本ゼオン株式会社製Hydrinシリーズ、ダイソー株式会社製エピクロマー、Hercules社製Herclarなどを用いることができる。
【0016】
本発明で用いられるエチレン・プロピレン・ジエンゴム(B)は、エチレン、プロピレン及びジエンの共重合によって得られるゴムである。このようなエチレン・プロピレン・ジエンゴム(B)を用いることによって、得られるゴム組成物のコストを低減することができる。
【0017】
前記ジエンとしては、エチリデンノルボルネン(ENB)、ジシクロペンタジエン(DCPD)、1,4−ヘキサジエン(HD)などが例示される。この中で、架橋しやすさの点から、エチリデンノルボルネン(ENB)が好ましい。ジエンとして複数種のジエンを用いてもよい。エチレン・プロピレン・ジエンゴム(B)中のジエン含有量は特に限定されないが、適切な架橋密度を得る観点から、エチレン・プロピレン・ジエンゴム(B)中の単量体単位の総数に対するジエン単位の数の割合が、1〜20モル%であることが好ましい。このときのエチレン・プロピレン・ジエンゴム(B)中の単量体単位の総数に対するエチレン及びプロピレンの単位の数の合計は、80〜99モル%であることが好ましい。エチレン・プロピレン・ジエンゴム(B)におけるエチレンとプロピレンとの共重合モル比(プロピレン/エチレン)は、特に限定されないが、加工性の点から、10/90〜50/50であることが好ましい。
【0018】
エチレン・プロピレン・ジエンゴム(B)のムーニー粘度(ML1+4、100℃)は特に限定されないが、加工性の点から、30〜150であることが好ましい。エチレン・プロピレン・ジエンゴム(B)としては、複数種のエチレン・プロピレン・ジエンゴムを用いてもよい。
【0019】
本発明で用いられる振動特性改良剤(C)は、軟化点が70〜110℃、かつ数平均分子量が200〜2000である樹脂からなるものである。このような振動特性改良剤(C)を用いることによって、広い温度域において安定して高い振動減衰特性を有するゴム組成物が得られる。
【0020】
振動特性改良剤(C)の軟化点が70〜110℃であることによって、60〜100℃近辺の高温域における高い振動減衰特性が達成される。軟化点が75℃以上であることが好ましく、80℃以上であることがより好ましい。また、軟化点が105℃以下であることが好ましく、100℃以下であることがより好ましい。なお、振動特性改良剤(C)の軟化点は、JIS K2207に準じて測定した値である。
【0021】
振動特性改良剤(C)の数平均分子量が200未満だとブルームを起こすおそれがあり、長期間の使用に耐えない。数平均分子量が250以上であることが好ましく、300以上であることがより好ましい。数平均分子量が2000を超えるとゴムに溶解しなくなるおそれがあり、均一なゴム組成物が得られにくくなる。数平均分子量が1600以下であることが好ましく、1300以下であることがより好ましい。なお、振動特性改良剤(C)の数平均分子量は、実施例記載の方法にしたがって、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって分析し、算出した値である。
【0022】
本発明で用いられる振動特性改良剤(C)は、クマロン樹脂、フェノール樹脂、テルペン樹脂、石油系炭化水素樹脂及びロジン樹脂からなる群から選択される少なくとも1種の樹脂からなるものであることが好ましい。ここで、クマロン樹脂は、クマロンの単独重合体、又はクマロンを50モル%以上含み、インデン、スチレンなどの共重合成分を合計50モル%未満含む共重合体である。フェノール樹脂は、フェノール又は置換フェノールとホルムアルデヒドなどのアルデヒドとの縮合体である。テルペン樹脂は、(Cの組成式で表わされる炭化水素又はこれらの含酸素誘導体であるテルペン類の単独重合体又は共重合体、あるいはそれらの水素添加物である。石油系炭化水素樹脂は、C留分やC留分などの不飽和石油留分を主原料とする樹脂である。ロジン樹脂は、アビエチン酸などの樹脂酸を主原料とする天然樹脂又はその水素添加物、もしくは、それらのエステル化物又はアルカリ金属塩などの誘導体である。振動特性改良剤(C)としては、1種類の樹脂を用いてもよいし、複数種の樹脂を用いてもよい。
【0023】
本発明の高減衰ゴム組成物は、エピクロルヒドリンゴム(A)100重量部、エチレン・プロピレン・ジエンゴム(B)50〜280重量部、及び前記振動特性改良剤(C)2〜20重量部を含有することが重要である。このような含有量にすることによって、広い温度域において安定して高い振動減衰特性を有するゴム組成物が得られる。また、圧縮永久歪が小さく、かつ低コストのゴム組成物が得られる。
【0024】
エチレン・プロピレン・ジエンゴム(B)の含有量が、エピクロルヒドリンンゴム(A)100重量部に対して50重量部未満だと、ゴム組成物をロール混練する際に生地にコシがなく、混練加工性が低下するとともに、コストが高くなる。エチレン・プロピレン・ジエンゴム(B)の含有量は80重量部以上であることが好ましく、120重量部以上であることがより好ましい。一方、エチレン・プロピレン・ジエンゴム(B)の含有量が280重量部を超えると、振動減衰性能が低下するとともに、圧縮永久歪も大きくなる。含有量が250重量部以下であることが好ましい。
【0025】
振動特性改良剤(C)の含有量が、エピクロルヒドリンゴム(A)100重量部に対して、2重量部未満だと、振動減衰性能が不十分になる。振動特性改良剤(C)の含有量は3重量部以上であることが好ましく、5重量部以上であることがより好ましい。一方、振動特性改良剤(C)の含有量が20重量部を超えると、振動特性改良剤(C)が混練機のロールなどへ付着しやすくなり、作業性が低下する。振動特性改良剤(C)の含有量は15重量部以下であることが好ましく、10重量部以下であることがより好ましい。
【0026】
本発明の高減衰ゴム組成物は、さらにゴム用軟化剤(D)を含有してもよい。本発明で用いられるゴム用軟化剤(D)は、ゴム組成物中に配合することにより、該組成物に柔軟性、加工性などを付与するものである。ゴム用軟化剤(D)として、パラフィン系オイル、ナフテン系オイル、芳香族系オイルなどの鉱物油系炭化水素又はこれらの水素添加物;ヤシ油、ヒマシ油などの植物油;ジオクチルフタレート、ジオクチルアジペートなどのエステル系可塑剤などが例示される。この中で、コストの点から、鉱物油系炭化水素が好ましい。市販の油展エチレン・プロピレン・ジエンゴムは、エチレン・プロピレン・ジエンゴム(B)にゴム用軟化剤(D)が配合されているものであり、本発明の高減衰ゴム組成物の原料としてこれを用いることもできる。
【0027】
本発明の高減衰ゴム組成物が、ゴム用軟化剤(D)を含有する場合、得られるゴム組成物の硬度を適切にするためには、エピクロルヒドリンゴム(A)100重量部に対するエチレン・プロピレン・ジエンゴム(B)とゴム用軟化剤(D)の合計含有量が280重量部以下であることが好ましく、250重量部以下であることがより好ましい。また、該合計含有量は、50重量部以上であることが好ましく、80重量部以上であることがより好ましく、120重量部以上であることがさらに好ましい。このとき、ゴム用軟化剤(D)とエチレン・プロピレン・ジエンゴム(B)との重量比(D/B)は、0.2〜2であることが好ましい。重量比(D/B)が0.2未満だと硬度を低下させる効果が不十分になる場合がある。重量比(D/B)は0.3以上であることがより好ましく、0.35以上であることがさらに好ましい。一方、重量比(D/B)が2を超えると振動減衰性能が低下するおそれがある。重量比(D/B)が1.5以下であることがより好ましく、1.1以下であることがさらに好ましい。
【0028】
本発明の高減衰ゴム組成物は、相溶化剤(E)を含有することが好ましい。本発明で用いられる相溶化剤(E)は、エピクロルヒドリンゴム(A)とエチレン・プロピレン・ジエンゴム(B)を含むゴム組成物中に配合することによって、それらのゴム同士の相溶性を改善するものである。エピクロルヒドリンゴム(A)とエチレン・プロピレン・ジエンゴム(B)との相溶性は、必ずしも良好でないので、相溶化剤(E)を配合することによって、高減衰ゴム組成物中における各ポリマー成分の分散性が向上する。このようにすることによって、得られる高減衰ゴム組成物の溶融粘度を向上させることができるとともに、ロール加工性を改善することができる。
【0029】
相溶化剤(E)としては、同一分子内に、エピクロルヒドリンゴム(A)に対する親和性を有する極性成分と、エチレン・プロピレン・ジエンゴム(B)に対する親和性を有する疎水性成分とを併せ持つゴムが好適に用いられる。例えば、クロロスルホン化ポリエチレン(CSM)、塩素化ポリエチレン(CM)などのハロゲン化ポリエチレンゴム;ニトリルゴム(NBR);及びスチレンブタジエンゴム(SBR)が好適に用いられる。これらの中でも、得られるゴム組成物の振動減衰特性を向上させ、圧縮永久歪を低下させるためには、ハロゲン化ポリエチレンゴム、特にクロロスルホン化ポリエチレンゴムがより好ましい。
【0030】
相溶化剤(E)の含有量は、特に限定されないが、エピクロルヒドリンゴム(A)100重量部に対して3〜10重量部であることが好ましい。含有量が3重量部未満だと、加工時に焼けが生じるおそれがあるとともに、混練生地の表面肌が粗くなるおそれがある。含有量が10重量部を超えると混練加工時に焼けが生じるおそれがあるとともに、均一な物性の成型物が得られなくなるおそれがある。相溶化剤(E)の含有量が8重量部以下であることがより好ましい。
【0031】
本発明の高減衰ゴム組成物は、架橋されていることが好ましい。架橋方法としては、パーオキサイド架橋、アミン架橋、硫黄架橋などの方法が挙げられる。架橋することによって、得られる高減衰ゴム組成物の強度が高くなり、また圧縮永久歪が小さくなる。架橋剤の配合量は、エピクロルヒドリンゴム(A)100重量部に対して、通常0.5〜10重量部であり、好ましくは、1.5〜6重量部である。
【0032】
パーオキサイド架橋に用いられる架橋剤としては、有機過酸化物が好適に用いられる。有機過酸化物としては、ジ第3ブチルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキシン−3、1,1−ジ(t−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサンなどが例示される。この中で、練り生地保存性の点から、ジクミルパーオキサイド、1,1−ジ(t−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサンが好ましい。用いられる有機過酸化物は、純品であってもよいし、安定化された希釈物であってもよい。
【0033】
パーオキサイド架橋においては、上記有機過酸化物とともに、共架橋剤として、多官能性不飽和化合物を併用することが好ましい。多官能性不飽和化合物としては、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリアリル(イソ)シアヌレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリアリルトリメリテートなどが例示される。この中で、反応性の点から、トリアリルイソシアヌレートが好ましい。共架橋剤の配合量は、エピクロルヒドリンゴム(A)100重量部に対して、通常、0.1〜10重量部であり、好ましくは0.2〜5重量部である。
【0034】
アミン架橋は、架橋剤として、グアニジンとジアミン化合物を併用して行うことができる。ジアミン化合物としては、ジアミノトリエチレンテトラミン、メチレンジアニリンなどが例示される。
【0035】
硫黄架橋に用いられる架橋剤としては、硫黄、硫黄化合物などが例示される。硫黄架橋は、エピクロルヒドリンゴム(A)の架橋には適さないものの、エチレン・プロピレン・ジエンゴム(B)の架橋には好適な架橋方法である。
【0036】
本発明の高減衰ゴム組成物は、本発明の目的を損なわない範囲で、カーボンブラック、白色充填剤などの補強剤を含むことができる。また、必要に応じて、老化防止剤、加工助剤、架橋促進剤、架橋促進助剤などの添加剤を含んでいてもよい。
【0037】
本発明の高減衰ゴム組成物の製造方法は特に限定されない。エピクロルヒドリンゴム(A)、エチレン・プロピレン・ジエンゴム(B)及び振動特性改良剤(C)を、ロール、ニーダー、バンバリーミキサーのような公知の混練機を用いて混練してから成形することができる。好適には、こうして得られた混合物に架橋剤や共架橋剤を加えてから精練りし、続いて熱プレス機など公知のゴム成型機を用いて加硫を行う。加硫は通常、100〜200℃の温度で、5〜60分間程度行う。
【0038】
こうして得られた本発明の高減衰ゴム組成物は、振動数1Hz、引張り方向+1.5%の条件での動的粘弾性測定における損失係数tanδが、−20〜100℃の全温度範囲にわたって0.15以上であることが好ましい。このように、広い温度域において安定して高い損失係数を持つことによって、橋梁ケーブルや建築物など、屋外に設置される制振部材の材料として、特に好適に用いることができる。ここで、損失係数は、実施例記載の方法にしたがって測定した値である。
【0039】
本発明の高減衰ゴム組成物の好適な実施態様は、橋梁ケーブル用制振部材、建築物用制振部材、住宅用制震壁用部材、設備機器用制振部材などである。これらの制振部材は、温度変化が大きい環境で用いられるので、広い温度域において安定して高い振動減衰特性を有する本発明の高減衰ゴム組成物を採用する利益が特に大きい。
【実施例】
【0040】
以下、実施例を用いて本発明をさらに詳細に説明する。以下の実施例における分析及び評価は下記の方法にしたがって行った。
【0041】
(1)軟化点
JIS K2207(石油アスファルト)に基づく軟化点試験に準じて測定した。
【0042】
(2)数平均分子量
ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により、数平均分子量を算出した。
【0043】
(3)デュロメータ硬さ(タイプA)
JIS K6253(加硫ゴム及び熱可塑性ゴム−硬さの求め方)に基づくデュロメータ硬さ試験に準じて測定した。高分子計器株式会社製タイプAデュロメータを用いて、温度23℃の環境下で測定した。
【0044】
(4)圧縮永久歪
JIS K6262(加硫ゴム及び熱可塑性ゴム−常温、高温及び低温における圧縮永久歪の求め方)に準じて測定した。試験温度は70℃、試験時間は72時間とした。
【0045】
(5)損失係数
長さ20mm×幅5mm×厚さ2mmの試験片を作製し、エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製粘弾性測定装置「DMS6100」を用い、振動数1Hz、引張り方向+1.5%の条件で、2℃/分の昇温速度で、−20℃から100℃まで測定した。ここで、「引張り方向+1.5%」とは、試験体の有効長に対する片振幅の変異幅を意味する。
【0046】
本実施例で使用した原料は以下のとおりである。
[エピクロルヒドリンゴム(A)]
ダイソー株式会社製「エピクロマーC」。ムーニー粘度(ML1+4、100℃)は65である。
[エチレン・プロピレン・ジエンゴム(B)]
三井化学株式会社製エチレン・プロピレン・ジエンゴム「EPT#4095」。ジエン成分として、5−エチリデン−2−ノルボルネン(ENB)を含む。エチレン・プロピレン・ジエンゴム(B)中のジエン単位の含有量は8.0wt%、エチレン単位の含有量は54wt%である。ムーニー粘度(ML1+4、100℃)は90である。
[油展エチレン・プロピレン・ジエンゴム]
三井化学株式会社製油展エチレン・プロピレン・ジエンゴム「EPT♯4075E」。ゴム用軟化剤(D)であるパラフィンオイルを、エチレン・プロピレン・ジエンゴム(B)100重量部に対して、20重量部含んでいる。
[振動特性改良剤(C)]
日塗化学株式会社製クマロン樹脂「クマロンG90」。上記方法により測定した軟化点は90、上記方法により測定した数平均分子量は625である。
[相溶化剤(E)]
・クロロスルホン化ポリエチレンゴム
デュポン・パフォーマンス・エラストマーズ社製クロロスルホン化ポリエチレン(CSM)「ハイパロン#40」。
・ニトリルゴム
日本ゼオン株式会社製アクリロニトリルブタジエンゴム「Nipol1043」。
・スチレンブタジエンゴム
JSR株式会社製乳化重合スチレン・ブタジエンゴム「JSR#1502」。
[架橋剤]
日油株式会社製「パークミルD」。ジクミルパーオキサイドを主成分(98%以上)とする。1分間半減期温度は175.2℃である。
[共架橋剤]
日本化成株式会社製「TAIC」。トリアリルイソシアヌレートを主成分とする。
[補強剤]
旭カーボン株式会社製「旭サーマル#60」。カーボンブラックの粉体である。電子顕微鏡法によって測定した平均粒子径は45nm、窒素吸着法(BET法)によって測定した比表面積は40m/gである。
【0047】
実施例1
エピクロルヒドリンゴム「エピクロマーC」(A)100重量部、エチレン・プロピレン・ジエンゴム「EPT#4095」(B)200重量部、振動特性改良剤「クマロンG90」(C)8重量部、相溶化剤「ハイパロン#40」(E)5重量部、補強剤「旭サーマル#60」30重量部を秤量し、混合した。得られた配合物を、ロール混練機を用いて約80℃の温度で15分間程度混練りした。得られた混合物に、4重量部の架橋剤「パークミルD」及び1重量部の共架橋剤「TAIC」を加えてから精練りした後、熱プレス機を用いて、170℃の温度で20分間プレス加硫を行い、ゴム組成物の試験片を得た。
【0048】
こうして得られた試験片を用いて、上記方法にしたがって、デュロメータ硬さ(タイプA)、圧縮永久歪及び損失係数を測定した。また、得られたゴム組成物の加工性を、ロール混練り時の圧延の状況を目視で観察することにより、◎、○、△、×の4段階で評価した。さらに、得られるゴム組成物のコストを、配合単価を基に製品価格に照らして、◎、○、×の3段階で評価した。得られた結果を表1に示す。
加工性 ◎:表面が滑らかであり、加工性が非常に良好であった。
○:表面は滑らかであるが、溶融粘度が低いために加工性が低下した。
△:表面に焼けが観察されるが混練可能であった。
×:ロールに付着して混練が不可能であった。
コスト ◎:非常に安価である。
○:安価である。
×:高価である。
【0049】
実施例2
実施例1において、エチレン・プロピレン・ジエンゴム「EPT#4095」(B)の配合量を、エピクロルヒドリンゴム(A)100重量部に対し、100重量部に変えた以外は、実施例1と同様にして試験片を作製し、評価を行った。得られた結果を表1に示す。
【0050】
実施例3、4
実施例1において、相溶化剤(E)として、「Nipol1043」(実施例3)又は「JSR#1502」(実施例4)をそれぞれ5重量部配合した以外は、実施例1と同様にして試験片を作製し、評価を行った。得られた結果を表1に示す。
【0051】
実施例5
実施例1において、エチレン・プロピレン・ジエンゴム「EPT#4095」(B)を200重量部配合する代わりに、油展エチレン・プロピレン・ジエンゴム「EPT#4075E」を200重量部配合した以外は、実施例1と同様にして試験片を作製し、評価を行った。得られた結果を表1に示す。
【0052】
実施例6、7
実施例1において、相溶化剤「ハイパロン#40」(E)の配合量を、エピクロルヒドリンゴム(A)100重量部に対し、1重量部(実施例6)又は30重量部(実施例7)に変えた以外は、実施例1と同様にして試験片を作製し、評価を行った。得られた結果を表1に示す。
【0053】
実施例8
実施例1において、相溶化剤「ハイパロン#40」(E)を配合しなかった以外は、実施例1と同様にして試験片を作製し、評価を行った。得られた結果を表1に示す。
【0054】
比較例1
実施例1において、エチレン・プロピレン・ジエンゴム「EPT#4095」(B)、振動特性改良剤「クマロンG90」(C)及び相溶化剤「ハイパロン#40」(E)を配合しなかった以外は、実施例1と同様にして試験片を作製し、評価を行った。得られた結果を表1に示す。
【0055】
比較例2、3
実施例1において、エチレン・プロピレン・ジエンゴム「EPT#4095」(B)の配合量を、エピクロルヒドリンゴム「エピクロマーC」(A)100重量部に対して、10重量部(比較例2)又は300重量部(比較例3)に変えた以外は、実施例1と同様にして試験片を作製し、評価を行った。得られた結果を表1に示す。
【0056】
比較例4
実施例1において、振動特性改良剤「クマロンG90」(C)を配合しなかった以外は、実施例1と同様にして試験片を作製し、評価を行った。得られた結果を表1に示す。
【0057】
比較例5
実施例1において、振動特性改良剤「クマロンG90」(C)の配合量を、エピクロルヒドリンゴム「エピクロマーC」(A)に対し、30重量部に変えた以外は、実施例1と同様にして試験片を作製し、評価を行った。得られた結果を表1に示す。
【0058】
比較例6
実施例1において、エピクロルヒドリンゴム「エピクロマーC」(A)及び相溶化剤「ハイパロン#40」(E)を配合しなかった以外は、実施例1と同様にして試験片を作製し、評価を行った。得られた結果を表1に示す。
【0059】
【表1】

【0060】
実施例1〜8のゴム組成物においては、−20℃〜100℃の広い温度域において高い振動減衰特性が得られた。かつ圧縮永久歪も低く、コストも大幅に低減でき、橋梁ケーブル用制振部材や建築物用制振部材に最適な高減衰ゴム組成物を得ることができた。実施例3は、相溶化剤(E)としてNBRを用いた場合、実施例4は、相溶化剤(E)としてSBRを用いた場合であり、相溶化剤(E)としてCSMを用いた実施例1と比べて、圧縮永久歪が少し大きくなった。実施例6〜8は、相溶化剤(E)の配合量が0、1あるいは30重量部の場合であり、いずれもロール圧延後の生地肌に焼けが認められた。
【0061】
比較例1は、エチレン・プロピレン・ジエンゴム(B)、振動特性改良剤(C)及び相溶化剤(E)を配合せず、ポリマー成分としては、エピクロルヒドリンゴム(A)のみからなる架橋成型物の場合であり、物性は良好であるものの、エピクロルヒドリンゴム(A)単体では柔らかいためにコシがなく、練り加工性に劣る。また、ポリマーが非常に高価なことからコストが高くなる。比較例2は、エチレン・プロピレン・ジエンゴム(B)の配合量が10重量部の場合であり、物性は良好であるが、練り加工性に劣り、コストも高くなる。比較例3は、エチレン・プロピレン・ジエンゴム(B)の配合量が300重量部の場合であり、加工性とコストは良好であるが、圧縮永久歪が大きくなり、損失係数が低くなった。比較例4は、振動特性改良剤(C)が配合されない場合であり、損失係数が低くなった。比較例5は、振動特性改良剤(C)が30重量部の場合であり、加工時においてロールへの付着が激しく、圧延できなかった。比較例6は、エピクロルヒドリンゴム(A)及び相溶化剤(E)を配合せず、ポリマーとしては、汎用ゴムのエチレン・プロピレン・ジエンゴム(B)のみからなる架橋成型物の場合であり、損失係数が低くなった。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
エピクロルヒドリンゴム(A)100重量部、エチレン・プロピレン・ジエンゴム(B)50〜280重量部、及び軟化点が70〜110℃、かつ数平均分子量が200〜2000である樹脂からなる振動特性改良剤(C)2〜20重量部を含有することを特徴とする高減衰ゴム組成物。
【請求項2】
前記振動特性改良剤(C)が、クマロン樹脂、フェノール樹脂、テルペン樹脂、石油系炭化水素樹脂及びロジン樹脂からなる群から選択される少なくとも1種の樹脂からなるものである請求項1記載の高減衰ゴム組成物。
【請求項3】
高減衰ゴム組成物が、さらにゴム用軟化剤(D)を含有し、エピクロルヒドリンゴム(A)100重量部に対するエチレン・プロピレン・ジエンゴム(B)とゴム用軟化剤(D)の合計含有量が280重量部以下であり、かつゴム用軟化剤(D)とエチレン・プロピレン・ジエンゴム(B)の重量比(D/B)が0.2〜2である請求項1又は2記載の高減衰ゴム組成物。
【請求項4】
高減衰ゴム組成物が、ハロゲン化ポリエチレンゴム、ニトリルゴム、及びスチレンブタジエンゴムからなる群から選択される少なくとも1種の相溶化剤(E)を、エピクロルヒドリンゴム(A)100重量部に対して3〜10重量部含有する請求項1〜3のいずれか記載の高減衰ゴム組成物。
【請求項5】
振動数1Hz、引張り方向+1.5%の条件での動的粘弾性測定における損失係数tanδが、−20〜100℃の全温度範囲にわたって0.15以上である請求項1〜4のいずれか記載の高減衰ゴム組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか記載の高減衰ゴム組成物からなる橋梁ケーブル用制振部材。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれか記載の高減衰ゴム組成物からなる建築物用制振部材。

【公開番号】特開2012−52063(P2012−52063A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−197658(P2010−197658)
【出願日】平成22年9月3日(2010.9.3)
【出願人】(591000506)早川ゴム株式会社 (110)
【Fターム(参考)】