説明

高炉主樋

【課題】バックライニング層に発生する亀裂の貫通を抑制、防止し、かつ、耐火材を短い時間で施工することが可能な高炉主樋および高炉主樋の構築方法を提供する。
【解決手段】鉄皮40の内側に耐火材を施工することにより形成された高炉主樋において、溶銑に接するウエアーライニング層10と、ウエアーライニング層の外側に設けられたバックライニング層20とを備え、バックライニング層を構成する底面側バックライニング層22と側面側バックライニング層21のうち、少なくとも側面側バックライニング層が、(a)鉄皮側に位置する湿式吹付け耐火材層21aと、(b)湿式吹付け耐火材層よりも溶銑側に位置する、湿式吹付け耐火材層とは異なる1層以上の耐火材層21bとを備えた構成とする。
バックライニング層と鉄皮との間に断熱層30を備えた構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は高炉主樋およびその製造方法に関し、詳しくは、高炉主樋の作製時における耐火材の施工時間の短縮や、耐火材層への貫通亀裂の発生の抑制、防止を可能にするための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
高炉から出銑された溶銑が流れる高炉主樋は、溶銑に接する部分から順に外側に向かって配設された、ウエアーライニング層、バックライニング層、断熱層(断熱層をバックライニング層の一部とする考え方もある)、鉄皮を備えている。
【0003】
ウエアーライニング層は、高温の溶銑と接し、耐火物の劣化が進むため、補修を繰り返しながら使用されるが、その寿命は通常1年程度である。
【0004】
また、バックライニング層は、直接溶銑と接しないため、ウエアーライニング層よりも劣化の進行が緩やかで、使用状況にもよるが、底面側はほぼ永久的に使用され、側面側の寿命は一般的に約3年程度である。
【0005】
従来の高炉主樋において、バックライニング層は、鉄皮または断熱層の内側に、アルミナ質、アルミナ−スピネル質、炭化珪素質などの耐火物を、れんが積み、プレキャストブロック、流し込みなどの工法で施工することにより形成されている。
【0006】
ウエアーライニング層は、使用するうちに焼結が進み、亀裂が発生しやすくなる上に、近年では残厚が薄くなるまで使用する傾向が強く、高温の溶銑と接するウエアーライニング層の亀裂を通して、溶銑がバックライニング層まで達する場合がある。そして、ウエアーライニング層の耐火物の亀裂は、底面側よりも樋側面(側面側)に発生しやすい。
【0007】
バックライニング層も、ウエアーライニング層側から伝達される熱による膨張−収縮の繰り返しにより、亀裂を発生する場合がある。
そして、バックライニング層まで達した溶銑が、バックライニング層に発生した亀裂に差し込むと、漏銑、漏滓などの重大事故となるおそれがある。
そして、バックライニング層の亀裂も、ウエアーライニング層の場合と同様に、底面側よりも樋側面に発生しやすい。
【0008】
このような高炉主樋の耐火ライニングに関し、特許文献1には、高炉鋳床樋の溶湯に接する耐火物であるウエアーライニング層と、樋の外枠を形成する鉄皮との間に、上記ウエアーライニング層側から順に、アルミナ質耐火物層、断熱れんが層、アルミナ炭珪れんが層を配するようにした高炉鋳床樋の耐火物構造が記載されている。この特許文献1の発明によれば、ウエアーライニング層と鉄皮の間に熱伝導率の異なる耐火物を配置することにより、樋全体として熱応力を緩和して、樋全体としての耐久性を向上させることができるとされている。
【0009】
しかしながら、この特許文献1では、バックライニング層がアルミナ炭珪れんがと、断熱れんがと、アルミナ質流し込み(水平面はアルミナ質プレキャスト)材から構成されており、アルミナ炭珪れんがと断熱れんがの2層のれんが層を施工することが必要で、施工に要する時間が非常に長くなるため、生産性が悪いという問題点がある。
【0010】
また、特許文献2には、少なくとも湯当り部に、MgOが1〜40重量%、Al23が55〜98重量%のプレキャストブロックを配置することにより、現地鋳込みによる施工不良をなくして、長寿命で安定した操業が可能な脱珪処理用高炉鋳床樋が提案されている。
【0011】
この特許文献2によれば、バックライニングはアルミナ系のキャスタブルを流し込んでもよいし、予め、鉄皮に吹き付け材もしくはラミング材を施工してもよいとされている(引用文献2の明細書、段落0006)。しかし、バックライニング層の構成に特に具体的な記載がなく、一般的な単層構成であると考えられることから、バックライニング層に生じる亀裂が鉄皮にまで達してしまうおそれがあるものと考えられる。
【0012】
また、特許文献3には、永久張り(バックライニング)耐火物のうち、樋底である樋敷部から平均スラグラインより150mm高い位置までの高さに相当する部位に、熱伝導度が2W・m-1・K-1以上の耐火物を用いた高炉樋が提案されている。この特許文献3の構成の場合、高炉樋からの抜熱が促進され、ワークライニング材の寿命が長くなるとされている。
しかしながら、この特許文献3の場合も、バックライニング耐火物の構成に関し、特に具体的な記載がなく、一般的な単層構成であると考えられることから、バックライニング層に生じる亀裂が鉄皮にまで達してしまうおそれがあるものと考えられる。
【0013】
また、特許文献4には、高炉主樋裏張り(バックライニング)に、スラグゾーンとメタルゾーンでそれぞれSiC含有量が異なる組成のキャスタブル耐火物を用いることが開示されており、この特許文献4の構成によれば、耐溶銑性および耐滓性が良好で焼結性に優れ、耐用性の良好な信頼性の高い高炉主樋を得ることができるとされている。
しかしながら、特許文献4には、バックライニングのライニング構造について、層数などに関する具体的な記載はなく、一般的な単層構成であるとすれば、亀裂が鉄皮まで達してしまう恐れがある。
【0014】
また、高炉主樋の耐火ライニングに関し、施工期間の短縮を意図した高炉主樋として特許文献5に示されているような一体型高炉鋳床樋が提案されている。
すなわち、特許文献5には、外側から順に、コンクリートブロック、耐火断熱材(不定形耐火物)、耐火材(側壁が水冷盤またはプレキャストブロック、底部が耐火煉瓦)が積層され、これらが施工前に一体化された一体型高炉鋳床樋が記載されている。また、上記耐火断熱材として、樋用不定形耐火物が配置されることが記載されている。
また、特許文献5においては、耐火材は、煉瓦、不定形耐火物(吹き付け施工によるものも含む)、プレキャストブロックの1層または2層以上からなる構造の何れでもよいとされている(特許文献5、段落0022)。
しかしながら、鉄皮が固定されているタイプの高炉主樋の場合には、施工前に一体化するこの特許文献5の方法は採用することができないのが実情である。
【0015】
また、特許文献6には、溶鉱炉から排出される溶銑の流路となる溶銑樋の構築方法において、溶銑樋の側板と側部形鋼に永久張り材を施工した側部ユニット、および、底板と底部形鋼からなる底部ユニットをそれぞれ個別に作製し、さらに底部ユニットに、側部ユニットを接合した後、底部ユニットに永久張り材を施工し、得られた構造体を樋受け梁に載置するようにした、溶銑樋の構築方法が提案されている。
しかしながら、特許文献6の場合にも、側面側の永久張り材の構成に特に具体的な記載がなく、また、側面側の永久張り材を施工する方法にも特別の記載がなく、側面側の永久張り材は一般的な単層構成であると考えられることから、亀裂が容易に側板と側部形鋼にまで達してしまうおそれがあり、また、側面側の永久張り材の構造を例えば複数層構造にしようとした場合には、施工に時間がかかってしまうという問題点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特許第3785449号公報
【特許文献2】特開平11−172308号公報
【特許文献3】特開2003−183713号公報
【特許文献4】特開2004−099937号公報
【特許文献5】特開2004−323865号公報
【特許文献6】特開2009−167508号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明は、上記課題を解決するものであり、バックライニング層に発生する亀裂の貫通を抑制、防止し、かつ、耐火材を短い時間で施工することが可能な高炉主樋および高炉主樋の構築方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記課題を解決するため、本発明(請求項1)の高炉主樋は、
鉄皮の内側に耐火材を施工することにより形成された高炉主樋であって、
溶銑に接するウエアーライニング層と、
前記ウエアーライニング層の外側に設けられたバックライニング層と
を備え、
前記バックライニング層を構成する底面側バックライニング層と側面側バックライニング層のうち、少なくとも側面側バックライニング層が、
(a)前記鉄皮側に位置する湿式吹付け耐火材層と、
(b)前記湿式吹付け耐火材層よりも溶銑側に位置する、前記湿式吹付け耐火材層とは異なる1層以上の耐火材層と
を備えていることを特徴としている。
【0019】
また、本発明の高炉主樋は、前記バックライニング層と前記鉄皮との間に断熱層を備えていることを特徴としている。
【0020】
本発明の高炉主樋においては、前記湿式吹付け耐火材層が第1のスタッドにより支持され、前記湿式吹付け耐火材層とは異なる1層以上の耐火材層が第2のスタッドにより支持されていることが望ましい。
【0021】
また、断熱層を備えた本発明の高炉主樋においては、前記断熱層が第3のスタッドにより支持されていることが望ましい。
【0022】
また、本発明の高炉主樋の構築方法は、
請求項1〜4のいずれかに記載の高炉主樋の構築方法であって、
前記側面側バックライニング層を形成する工程が、
(a)耐火材を湿式吹付け施工することにより、前記湿式吹付け耐火材層を形成する工程と、
(b)前記工程で形成された前記湿式吹付け耐火材層上に、耐火材を1回以上施工することにより、前記湿式吹付け耐火材層とは異なる1層以上の耐火材層を形成する工程と、
を備えていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0023】
本発明の高炉主樋は、バックライニング層のうち、少なくとも側面側バックライニング層が、(a)鉄皮側に位置する湿式吹付け耐火材層と、(b)湿式吹付け耐火材層よりも溶銑側に位置する、湿式吹付け耐火材層とは異なる1層以上の耐火材層とを備えている(すなわち、バックライニング層が複数層構造を有している)ので、バックライニング層に発生する亀裂が鉄皮にまで貫通してしまうことを抑制、防止することが可能になる。
【0024】
また、鉄皮側に位置する湿式吹付け耐火材層は、湿式吹付け工法により効率よく施工することができるため、例えば、側面側バックライニング層の一部または全部を、れんが積み工法などにより施工する場合に比べて、短い時間で施工することが可能になる。
したがって、本発明によれば、バックライニングに発生する亀裂の貫通を抑制、防止し、かつ短い時間で施工することが可能な高炉主樋を得ることができる。
【0025】
また、側面側バックライニング層を構成する湿式吹付け耐火材層、湿式吹付け耐火材層とは異なる1層以上の耐火材層を、それぞれを個別に支持する第1のスタッドおよび第2のスタッドにより支持することにより、各層間が剥離して、開いてしまうことを確実に防止して、より信頼性を向上させることができる。
【0026】
また、断熱層を備えている場合に、断熱層を第3のスタッドにより支持することにより、さらに信頼性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の一実施形態にかかる高炉主樋の構成を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下に本発明の実施の形態を示して、本発明の特徴とするところをさらに詳しく説明する。
【0029】
本発明の高炉主樋は、高炉主樋のバックライニング層を構成する底面側バックライニング層と側面側バックライニング層のうち、少なくとも側面側バックライニング層を、鉄皮側に位置する湿式吹付け耐火材層と、湿式吹付け耐火材層よりも溶銑側に位置する、上記湿式吹付け耐火材層とは異なる1層以上の耐火材層を備えた複数層構造とすることにより、バックライニング層に発生する亀裂が鉄皮にまで貫通することを抑制、防止して、漏銑を阻止することができるようにしている。
【0030】
また、側面側バックライニング層を構成する複数層構造の耐火材層のうち、少なくとも鉄皮側に位置する1層を、湿式吹付け法で施工するようにしているので、容易に、かつ、流し込み施工やれんが積み施工と比較して短時間で、流し込み材と同等程度の高い強度と耐食性を有するバックライニング層を形成することが可能になる。
【0031】
なお、バックライニング層のうち、底面側を構成する部分(底面側バックライニング層)は、側面部に比べて施工が容易であること、また、永久的に使用されるものであるため、施工に少し多くの時間を要しても特に問題にならないことから、底面側バックライニング層については、例えば、アルミナ−シリカ質れんがを施工してもよい。
【0032】
また、本発明の高炉主樋は、バックライニング層と鉄皮の間にさらに、断熱層(例えば、耐火材料を乾式吹付け法により施工した層など)を備えていてもよい。なお、断熱層については、本願明細書では、バックライニング層とは別の層として説明しているが、断熱層をバックライニング層の一部と考えることもできる。
【0033】
したがって、本発明の高炉主樋には、例えば、以下の[構成例1]あるいは[構成例2]のような構成のものが含まれる。
[構成例1]
a)溶銑に接するウエアーライニング層と、
b)ウエアーライニング層の外側に設けられたバックライニング層であって、少なくとも側面側バックライニング層が、鉄皮側に位置する湿式吹付け耐火材層と、湿式吹付け耐火材層よりも溶銑側に位置する、湿式吹付け耐火材層とは異なる1層以上の耐火材層とを備えたバックライニング層と、
c)最外層である鉄皮と
を備えた高炉主樋。
[構成例2]
a)溶銑に接するウエアーライニング層と、
b)ウエアーライニング層の外側に設けられたバックライニング層であって、少なくとも側面側バックライニング層が、鉄皮側に位置する湿式吹付け耐火材層と、湿式吹付け耐火材層よりも溶銑側に位置する、湿式吹付け耐火材層とは異なる1層以上の耐火材層とを備えたバックライニング層と、
c)前記バックライニング層の外側に配設された断熱層と、
d)最外層である鉄皮と
を備えた高炉主樋。
【0034】
なお、図1は、本発明の実施の形態にかかる高炉主樋の代表的な構成を模式的に示す図である。
図1に示すように、この高炉主樋は、溶銑50に接するウエアーライニング層10と、ウエアーライニング層10の外側(鉄皮40側)に設けられたバックライニング層20と、バックライニング層20の外側(鉄皮40側)に設けられた断熱層30と、最外層である鉄皮40とを備えている。
そして、バックライニング層20は、鉄皮40の側面側に配設された側面側バックライニング層21と、鉄皮40の底面側に配設された底面側バックライニング層22とを備えている。
【0035】
そして、側面側バックライニング層21は、鉄皮40側に位置する、湿式吹付け法により施工された湿式吹付け耐火材層(以下、「第1耐火材層」ともいう)21aと、湿式吹付け耐火材層21aよりも溶銑50側に位置する、湿式吹付け耐火材層21aとは異なる1層以上(この実施形態では1層)の耐火材層(以下、「第2耐火材層」ともいう)21bとを備えている。なお、湿式吹付け耐火材層21aとは異なる耐火材層(第2耐火材層)21bは、この実施形態では、水と混練した耐火材を流し込むことにより形成された流し込み耐火材層である。
【0036】
また、底面側バックライニング層22は、鉄皮40の底面側に位置する、アルミナ−シリカ質れんがを施工することにより形成された下層側耐火材層22aと、下層側耐火材層22aの上にアルミナ−シリカ−炭化珪素質れんがを施工することにより形成された上層側耐火材層22bとを備えた2層構造のライニング層とされている。
【0037】
また、ウエアーライニング層10を構成する耐火材の種類に特別な制約はないが、例えば、アルミナ−SiC−カーボン質の耐火材料を、例えば、厚さが約500mmになるように流し込み施工した流し込み耐火材が用いられる。また、ウエアーライニング層はスラグゾーンとメタルゾーンで異なる材料を施工する多層構造とすることもできる。
【0038】
また、断熱層30を構成する耐火材の種類や、施工方法には特に制約はなく、例えば、アルミナ質やアルミナ−シリカ質の耐火材を、流し込み、吹付けなどの公知の工法により、厚みが約100mmとなるように施工して、断熱層とすることができる。なお、安価であること、かさ比重が小さいこと(施工重量を減らせる)などを考慮すると、断熱層としては、アルミナ−シリカ質の断熱耐火材を乾式吹付け法により施工して形成したものなどが、特に好ましい例として挙げられる。
【0039】
また、上述の側面側バックライニング層21を構成する、鉄皮側に位置する湿式吹付け耐火材層21aは、湿式吹付け法により施工されるが、この鉄皮側に位置する湿式吹付け耐火材層21aを施工するにあたっては、具体的には、例えば、以下に説明するような方法で行われる。
すなわち、鉄皮40側に位置する湿式吹付け耐火材層21aを湿式吹付け法により施工するにあたっては、
(a)炭化珪素、アルミナ、ボーキサイト、バン土ケツ岩、カイヤナイト、ムライト、シリカフラワー、粘土、ロー石、珪石、スピネル、マグネシア、ジルコン、ジルコニア、クロム鉱、カルシア、窒化珪素鉄、炭化硼素、黒鉛、ピッチ、コークス、ピッチペレット、ベントナイト、含水無定形シリカ、無水無定形シリカなどより選択される耐火性粉末(80〜98重量%)と、
(b)2〜20重量%のアルミナセメントなどの結合剤と、
(c)外掛けで3〜20重量%程度の水と
を配合して混練した混錬物を、ピストンポンプ、スクイズポンプ、あるいはスクリューポンプなどの圧送機を使用して配管内を高圧空気で圧送し、配管先端に取り付けられた吹付けノズルにおいて、圧搾空気により送られた凝集剤と混合し、吹付けることにより施工して、断熱層30上に湿式吹付け耐火材層21aを形成する。
【0040】
なお、湿式吹付け耐火材層21aを構成する耐火性粉末には、必要に応じて、アルミニウム粉末、アルミニウム合金粉末、シリコン粉末、発泡剤、金属ファイバー、有機ファイバー、セラミックファイバー、一般的に使用される分散剤などを添加してもよい。
【0041】
なお、本発明においては、湿式吹付け耐火材層21aを構成する材質として、上述のように種々のものを用いることが可能であるが、耐溶銑性、耐高炉スラグ性などを考慮すれば、特に好ましい耐火材として、それらに優れるアルミナ−シリカ質や、アルミナ−炭化珪素質などが挙げられる。
【0042】
また、湿式吹付け法で形成される湿式吹付け耐火材層(第1耐火材層)21aの厚みは、高炉主樋全体の大きさにもよるが、100mm〜300mmの範囲とすることが好ましい。100mmより薄い場合には、溶銑50が差し込んだ場合に、容易に鉄皮40まで達してしまうおそれがあり、また、300mmを超えると、湿式吹付け耐火材層(第1耐火材層)21a上に形成される第2耐火材層21bの厚みを十分に確保できない場合が生じるため好ましくない。
【0043】
湿式吹付け耐火材層(第1耐火材層)21a上に形成される第2耐火材層21bの材質や施工方法には、特に制約はなく、アルミナ質やアルミナ−シリカ質やアルミナ−炭化珪素質の耐火材を、流し込み、乾式吹付け、湿式吹付けなどの公知の工法により1層または複数層形成することができる。
なお、第1耐火材層21a上に形成される第2耐火材層21bは、耐スラグ性、耐溶銑性がバランスよく優れているという見地から、アルミナ−炭化珪素質の耐火材を流し込み施工することにより形成される流し込み耐火材層とすることが好ましい。
【0044】
また、第1耐火材層21a上に形成される第2耐火材層21bの厚みは、樋全体の大きさにもよるが、100mm〜600mmの範囲とすることが好ましい。これは、第2耐火材層21bの厚みが100mmより薄い場合には、永久張りとしての長期間に渡る使用に十分耐えることができず、また、600mmを超える場合は、耐火材の使用量が多くなりすぎ、コストが高くなることによる。
【0045】
なお、側面側バックライニング層21の、上端から所定の距離(例えば400mm)以内の領域は、高炉主樋を流れる溶銑50の液面より高い位置にある(すなわち、ウエアーライニング層10が溶銑50に接する領域よりも高い位置にある)ため、その領域については、湿式吹付け耐火材層である第1耐火材層と、流し込み耐火材層である第2耐火材層との複数層構造とはせずに、バックライニング層21を、第2耐火材層(流し込み耐火材層)21bのみからなる単層構造として、製造工程の簡素化を図っている。ただし、他の領域と同じく、第1耐火材層と第2耐火材層の2層構造としてもよいことはいうまでもない。
【0046】
また、この実施形態の高炉主樋においては、側面側バックライニング層21には、各層、すなわち、湿式吹付け法により施工される湿式吹付け耐火材層21a、および、流し込みによる方法で施工された第2耐火材層を支持するスタッドを設置することが望ましく、この実施形態の高炉主樋においても、第1のスタッドS1により第1耐火材層21aを支持し、第2のスタッドS2により第2耐火材層21bを支持するようにしている。
【0047】
なお、上述のように、側面側バックライニング層21のうち、上端から所定の距離(例えば400mm)までの領域を、第2耐火材層(流し込み耐火材層)21bのみからなる単層構造とした場合、上端から所定の距離(例えば400mm)までの領域では、第2耐火材層21bを、第2のスタッドS2で支持するように構成することができる。
【0048】
また、鉄皮40と上記の湿式吹付け法により施工される第1耐火材層21aとの間に断熱層を備えている場合には、断熱層30を支持するスタッドを設置することが好ましく、この実施形態の高炉主樋においても、断熱層30を第3のスタッドS3により支持するようにしている。
【0049】
各耐火材層を確実に支持して、各耐火材層間および断熱層と鉄皮の間の開きを防止するという目的からは、上述のように、第1のスタッドS1、第2のスタッドS2、および第3のスタッドS3を用いて、第1耐火材層21a、第2耐火材層21b、および断熱層30をそれぞれ支持するようにすることが望ましい。
【0050】
ただし、全ての耐火材層を貫通するスタッドを用いて各耐火材層を一体に支持する方法は、各耐火材層間の開きを防止する機能が不十分になりやすく、また、施工が複雑になるため、好ましくない。
【0051】
なお、スタッドの材質や形状は特に限定されないが、好適に用いることが可能なスタッドとして、例えば、Y型スタッドなどが挙げられる。
【実施例】
【0052】
以下、本発明の実施例を示して、その特徴とするところをさらに詳しく説明する。
【0053】
この実施例では、以下に説明する方法で、図1に示すような構造を有する高炉主樋を作製した。
まず、高炉主樋を構成する鉄皮40に、断熱層30を施工した。それから、鉄皮40の底面側の断熱層30上に、アルミナ−シリカ質れんがを施工して下層側耐火材層22aを形成するとともに、下層側耐火材層22a上にアルミナ−シリカ−炭化珪素質れんがを施工して上層側耐火材層22bを形成することにより、2層構造を有する底面側バックライニング層22を形成した。
【0054】
それから、鉄皮40の側面側の断熱層30上に、耐火材を湿式吹付け施工して湿式吹付け耐火材層(第1耐火材層)21aを形成するとともに、耐火材を流し込み施工することにより流し込み耐火材層(第2耐火材層)21bを形成することにより、2層構造を有する側面側バックライニング層21を形成した。
【0055】
そして、上述のようにして形成した側面側バックライニング層21と底面側バックライニング層22を備えてなるバックライニング層20上に、アルミナ−SiC−カーボン質の耐火材料を厚さ500mmとなるように流し込み施工して、ウエアーラインニング層10を形成することにより、表1の実施例1の高炉主樋を作製した。
【0056】
この実施例では、上記実施形態においても説明したように、湿式吹付け法により施工される湿式吹付け耐火材層(第1耐火材層)21aを支持する第1のスタッドS1と、流し込み工法により施工される流し込み耐火材層(第2耐火材層)21bを支持する第2のスタッドS2と、断熱層30を支持する第3のスタッドS3を備えた高炉主樋を作製した。なお、スタッドS1,S2,S3としては、いずれもY型スタッドを使用した。
【0057】
また、比較のため、
(a)断熱層と、流し込み耐火材層(第2耐火材層)は備えているが、湿式吹付け耐火材層(第1耐火材層)を備えていない側面側バックライニング層を備えた、比較例1の高炉主樋(すなわち、側面側バックライニング層が単層構造の高炉主樋)、
(b)断熱層と、2つの流し込み耐火材層(流し込み耐火材層1および流し込み耐火材層2)からなる2層構造の側面側バックライニング層を有する比較例2の高炉主樋、
(c)断熱層と、2つのれんが層(れんが層1およびれんが層2)からなる2層構造の側面側バックライニング層を有する比較例3の高炉主樋
を作製した。
【0058】
なお、各耐火材の施工方法は、以下の通りである。
(イ)断熱層の施工方法
耐火材料を、乾式吹付け法により、厚さが100mmとなるように施工した。
(ロ)湿式吹付け耐火材層(第1耐火材層)の施工方法
表1の実施例1の高炉主樋を作製する際に、側面側バックライニング層を構成する湿式吹付け耐火材層(第1耐火材層)を施工するにあたっては、上から400mmよりも下側の領域に、耐火材材料を湿式吹付け法により吹付けて、厚さが150mmとなるように施工した。
(ハ)流し込み耐火材層の施工方法
実施例1、比較例1および2の高炉主樋を作製する際に、流し込み耐火材層を施工するにあたっては、枠掛けをし、耐火材料に水を6%添加して流し込みを行った後、雰囲気温度にて12時間養生した。
(ニ)れんが層の施工方法
比較例3において、側面側バックライニング層を構成するれんが層を形成するにあたっては、下記の第1および第2のれんが層を構成するれんがを、アルミナ質モルタルにて接着させることにより施工した。
【0059】
上記のこの実施例の高炉主樋おいて、断熱層、側面側バックライニング層に用いた耐火材の組成は、以下の通りである。
(1)断熱層
:Al23 38%、 SiO2 44%
(2)湿式吹付け耐火材層
:Al23 65%、 SiO2 31%
(3)他の耐火材層(流し込み耐火材層)
(a)流し込み耐火材層1
:Al23 74%、 SiO2 8%、 SiC 15%
(b)流し込み耐火材層2
:Al23 78%、 SiO2 4%、 SiC 15%
(c)れんが層1
:Al23 55%、 SiO2 44%
(d)れんが層2
:Al23 46%、 SiO2 30%、 SiC 22%
【0060】
上述のようにして各高炉主樋を作製するにあたって、側面側バックライニング層の施工時間を調べた。
表1にその結果を示す。
なお、表1における施工時間は、側面側断熱層と側面側バックライニング層の両方を施工するのに要した時間(合計時間)である。
【0061】
また、上述のようにして作製した、実施例1の高炉主樋と、比較例1,2,3の高炉主樋を、実炉にて1年間使用した。
そして、1年間の使用後に、鉄皮にまで達する貫通亀裂の発生の有無、各層間の開き(剥離)の有無を調べた。
その結果を表1に併せて示す。
【0062】
【表1】

【0063】
表1に示すように、側面側バックライニング層が、本発明の要件を備えた実施例1の高炉主樋の場合、側面側断熱層と側面側バックライニング層の施工時間が36時間と短く、しかも、貫通亀裂は認められず、また、各層間の開きも発生しないことが確認された。
【0064】
これに対し、側面側バックライニング層が、湿式吹付け耐火材層を備えておらず、流し込み耐火材層のみからなる単層構造を有する比較例1の高炉主樋の場合、側面側断熱層と側面側バックライニング層の施工時間が短く、各層間の開きも発生しないが、貫通亀裂が発生し、実用上問題があることが確認された。
【0065】
また、側面側バックライニング層が、第1および第2の流し込み耐火材層からなる2層構造を有する比較例2の高炉主樋の場合、貫通亀裂の発生は認められなかったが、側面側断熱層と側面側バックライニング層の施工に長い時間がかかるばかりでなく、各層間の開きも発生し、好ましくないことが確認された。
【0066】
また、側面側バックライニング層が、れんが層1と、れんが層2とからなる2層構造を有する比較例3の高炉主樋の場合、比較例2の高炉主樋の場合と同様に、貫通亀裂の発生は認められなかったが、側面側断熱層と側面側バックライニング層の施工に長い時間がかかるばかりでなく、各層間の開きも発生し、好ましくないことが確認された。
【0067】
なお、上記実施例1の高炉主樋では、断熱層を備えた構成としているが、断熱層を備えていない構成の場合にも、本発明の要件(すなわち、側面側バックライニング層を、鉄皮側に位置する湿式吹付け耐火材層(第1耐火材層)と、湿式吹付け耐火材層よりも溶銑側に位置する、第1耐火材層とは異なる1層以上の耐火材層(第2耐火材層)とを備えているという要件)を備えることにより、上記実施例1の高炉主樋の場合と同様に、貫通亀裂や各層間の開きの生じにくい高炉主樋が得られることが確認されている。
【0068】
なお、本発明の高炉主樋を構成する耐火物の種類や組成、各部の寸法などは、上記実施形態および実施例に限定されるものではなく、発明の範囲内において変更することが可能である。
【0069】
本発明は、さらにその他の点においても上記実施形態や実施例に限定されるものではなく、発明の範囲内において、種々の応用、変形を加えることが可能である。
【符号の説明】
【0070】
10 ウエアーライニング層
20 バックライニング層
21 側面側バックライニング層
21a 湿式吹付け耐火材層(第1耐火材層)
21b 第1耐火材層とは異なる耐火材層(第2耐火材層)
22 底面側バックライニング層
22a 下層側耐火材層
22b 上層側耐火材層
30 断熱層
40 鉄皮
50 溶銑
S1 第1のスタッド
S2 第2のスタッド
S3 第3のスタッド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄皮の内側に耐火材を施工することにより形成された高炉主樋であって、
溶銑に接するウエアーライニング層と、
前記ウエアーライニング層の外側に設けられたバックライニング層と
を備え、
前記バックライニング層を構成する底面側バックライニング層と側面側バックライニング層のうち、少なくとも側面側バックライニング層が、
(a)前記鉄皮側に位置する湿式吹付け耐火材層と、
(b)前記湿式吹付け耐火材層よりも溶銑側に位置する、前記湿式吹付け耐火材層とは異なる1層以上の耐火材層と
を備えていることを特徴とする高炉主樋。
【請求項2】
前記バックライニング層と前記鉄皮との間に断熱層を備えていることを特徴とする、請求項1記載の高炉主樋。
【請求項3】
前記湿式吹付け耐火材層が第1のスタッドにより支持され、前記湿式吹付け耐火材層とは異なる1層以上の耐火材層が第2のスタッドにより支持されていることを特徴とする、請求項1記載の高炉主樋。
【請求項4】
前記断熱層が第3のスタッドにより支持されていることを特徴とする、請求項2記載の高炉主樋。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の高炉主樋の構築方法であって、
前記側面側バックライニング層を形成する工程が、
(a)耐火材を湿式吹付け施工することにより、前記湿式吹付け耐火材層を形成する工程と、
(b)前記工程で形成された前記湿式吹付け耐火材層上に、耐火材を1回以上施工することにより、前記湿式吹付け耐火材層とは異なる1層以上の耐火材層を形成する工程と、
を備えていることを特徴とする高炉主樋の構築方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−102357(P2012−102357A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−250983(P2010−250983)
【出願日】平成22年11月9日(2010.11.9)
【出願人】(000001971)品川リフラクトリーズ株式会社 (112)
【Fターム(参考)】