説明

高粘度指数を有する基油の調製方法

水素化処理、水素化脱ロウ、および場合により水素化精製を含む、高VI潤滑油基油の調製方法。水素化処理工程は、343℃への転化量が原料油の5重量%未満でありかつVI増加が原料油から4VI未満の増加であるような条件下で行われる。水素化脱ロウでは、低アルファ触媒が使用され、水素化精製は、M41S族をベースにした触媒で達成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワックス含有原料から高粘度指数(VI)を有する潤滑油基油を調製する方法に関する。より詳細には、ワックス含有原料油を穏やかな条件下で水素化処理し、接触水素化脱ロウし、そして水素化精製する。
【背景技術】
【0002】
歴史的にみると、自動車エンジン油のような用途に使用するための潤滑油製品では、完成品の調製に使用される基油の特定の性質を改良するために添加剤が用いられてきた。環境への関心が高まったことにより、基油自体に対する性能要求事項が増加した。グループII基油に対する米国石油協会(API)の要求事項には、少なくとも90%の飽和分、0.03重量%以下の硫黄分、および80〜120の粘度指数(VI)が含まれる。グループIII基油に対する要求事項は、VIが少なくとも120であるという点を除けば、グループII基油の場合と同じである。
【0003】
水素化分解または溶剤抽出のような従来の基油調製法では、これらのより高い基油品質を得るために、高い圧力および温度または高い溶剤:油比および高い抽出温度のような過酷な操作条件が必要とされる。いずれの選択肢を用いても、高価な操作条件および低い収率を伴う。
【0004】
水素化分解は、予備的工程として水素化処理と組み合わされてきた。しかしながら、この組合せを行っても、水素化分解プロセスには一般に留出物への転化が伴うので、潤滑油の収率は減少する。
【0005】
【特許文献1】米国特許第5,246,566号明細書
【特許文献2】米国特許第5,282,958号明細書
【特許文献3】米国特許第4,975,177号明細書
【特許文献4】米国特許第4,397,827号明細書
【特許文献5】米国特許第4,585,747号明細書
【特許文献6】米国特許第5,075,269号明細書
【特許文献7】米国特許第4,440,871号明細書
【特許文献8】米国特許第6,310,265号明細書
【特許文献9】国際公開第0242207号パンフレット
【特許文献10】国際公開第0078677号パンフレット
【特許文献11】米国特許第6,303,534号明細書
【特許文献12】米国特許第4,900,707号明細書
【特許文献13】米国特許第6,383,366号明細書
【特許文献14】米国特許第6,294,077号明細書
【特許文献15】米国特許第5,282,958号明細書
【特許文献16】米国特許第5,098,684号明細書
【特許文献17】米国特許第5,198,203号明細書
【非特許文献1】米国化学会誌(J.Amer.Chem.Soc.)、1992年、第114巻、10834頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
低沸点留出物への転化を最小限に抑えることによりグループIII基油を高収率で調製すると同時に、優れた低温特性、高い粘度指数(VI)、および高い安定性を有する製品を製造する、経済的な方法を備えることが望ましいであろう。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、少なくとも約135のVIを有する潤滑油基油を調製する方法であって、
(1)原料油の5重量%未満が650°F(343℃)生成物に転化されてVI増加が原料油のVIから4未満の増加である水素化処理された原料油を生成するように、有効な水素化処理条件下において、原料油を基準にして少なくとも約60重量%のワックス含有率を有する潤滑油原料油を水素化処理触媒で水素化処理する工程と;
(2)該水素化処理された原料油をストリッピングして液体生成物からガス状生成物を分離する工程と;
(3)有効な接触水素化脱ロウ条件下において、ZSM−48、ZSM−57、ZSM−23、ZSM−22、ZSM−35、フェリエライト、ECR−42、ITQ−13、MCM−71、MCM−68、ゼオライトベータ、フッ素化アルミナ、シリカ−アルミナ、またはフッ素化シリカアルミナのうちの少なくとも1つである脱ロウ触媒で該液体生成物を水素化脱ロウする工程であって、該脱ロウ触媒は、少なくとも1種の第9族または第10族貴金属を含有する工程と;
を含むことを特徴とする方法に関する。
【0008】
他の実施形態は、少なくとも約125のVIを有する潤滑油基油を調製する方法であって、
(1)原料油の5重量%未満が650°F(343℃)生成物に転化されてVI増加が原料油のVIから4未満の増加である水素化処理された原料油を生成するように、有効な水素化処理条件下において、原料油を基準にして少なくとも約50重量%のワックス含有率を有する潤滑油原料油を水素化処理触媒で水素化処理する工程と;
(2)該水素化処理された原料油をストリッピングして液体生成物からガス状生成物を分離する工程と;
(3)有効な接触水素化脱ロウ条件下において、ZSM−22、ZSM−23、ZSM−35、フェリエライト、ZSM−48、ZSM−57、ECR−42、ITQ−13、MCM−68、MCM−71、ゼオライトベータ、フッ素化アルミナ、シリカ−アルミナ、またはフッ素化シリカ−アルミナのうちの少なくとも1つである脱ロウ触媒で該液体生成物を水素化脱ロウする工程であって、該脱ロウ触媒は、少なくとも1種の第9族または第10族貴金属を含有する工程と;
(4)水素化精製条件下において、M41S族のメソ細孔性水素化精製触媒で工程(3)から得られた生成物を水素化精製する工程と;
を含むことを特徴とする方法に関する。
【0009】
他の実施形態は、少なくとも約135のVIを有する潤滑油基油を調製する方法であって、
(1)原料油の5重量%未満が650°F(343℃)生成物に転化されてVI増加が原料油のVIから4未満の増加である水素化処理された原料油を生成するように、有効な水素化処理条件下において、原料油を基準にして少なくとも約60重量%のワックス含有率を有する潤滑油原料油を水素化処理触媒で水素化処理する工程と;
(2)該水素化処理された原料油をストリッピングして液体生成物からガス状生成物を分離する工程と;
(3)有効な接触水素化脱ロウ条件下において、ZSM−48である脱ロウ触媒で該液体生成物を水素化脱ロウする工程であって、該脱ロウ触媒は、少なくとも1種の第9族または第10族貴金属を含有する工程と;
(4)水素化精製条件下において、MCM−41で工程(3)から得られた生成物を水素化精製する工程と;
を含むことを特徴とする方法に関する。
【0010】
本発明に係る基油は、グループIII基油の要求事項を満たし、かつ高収率で調製できると同時に、高VIおよび低流動点のような優れた性質を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
[原料油]
本発明の方法において使用される原料油は、ASTM D86またはASTM D2887により測定したときに、潤滑油範囲に沸点を有する、典型的には650°F(343℃)超の10%留出点を有するワックス含有原料であり、かつ鉱物源または合成源から誘導される。原料油のワックス含有率は、原料油を基準にして少なくとも約50重量%であり、100重量%までのワックスを有しうる。原料のワックス含有率は、核磁気共鳴分光法(ASTM D5292)により、相関n−d−M法(ASTM D3238)により、または溶媒法(ASTM D3235)により、決定可能である。ワックス質原料は、ラフィネートのような溶剤精製プロセスに由来する油、部分溶剤脱ロウ油、脱瀝油、留出物、減圧軽油、コーカーガス油、スラックワックス、フーツ油など、およびフィッシャー・トロプシュワックス、のようないくつかの供給源から誘導可能である。好ましい原料は、スラックワックスおよびフィッシャー・トロプシュワックスである。スラックワックスは、典型的には、溶剤脱ロウまたはプロパン脱ロウにより炭化水素原料から誘導される。スラックワックスは、いくらかの残油を含有し、典型的には脱油される。フーツ油は、脱油されたスラックワックスから誘導される。フィッシャー・トロプシュワックスは、フィッシャー・トロプシュ合成法により調製される。
【0012】
原料油は、高含有率の窒素汚染物質および硫黄汚染物質を有している可能性がある。原料を基準にして0.2重量%までの窒素および3.0重量%までの硫黄を含有する原料を本発明の方法で処理することができる。高ワックス含有率を有する原料は、典型的には200まで、またはそれ以上の高粘度指数を有する。硫黄および窒素の含有率は、それぞれ、標準的なASTM D5453およびASTM D4629法により測定可能である。
【0013】
溶剤抽出に由来する原料では、常圧蒸留から得られる高沸点石油留分は、減圧蒸留装置に送られ、この装置から得られる留分は溶剤抽出される。減圧蒸留から得られる残留物は、脱瀝することが可能である。溶剤抽出プロセスでは、エキストラクト相中に芳香族成分を選択的に溶解させ、一方、ラフィネート相中により多くのパラフィン系成分を残存させる。ナフテン類は、エキストラクト相とラフィネート相との間で分配される。溶剤抽出に供させる典型的な溶剤としては、フェノール、フルフラール、およびN−メチルピロリドンが挙げられる。溶剤対油の比、抽出温度、および抽出される留出物を溶剤に接触させる方法を制御することにより、エキストラクト相とラフィネート相との間の分離度を制御することができる。
【0014】
[水素化処理]
水素化処理では、触媒は、第6族金属(第1〜18族を有するIUPAC周期表方式に基づく)、第8〜10族金属、およびそれらの混合物を含む触媒のような水素化処理に有効な触媒である。好ましい金属としては、ニッケル、タングステン、モリブデン、コバルト、およびそれらの混合物が挙げられる。これらの金属または金属の混合物は、典型的には、耐火性金属酸化物担体に担持された酸化物または硫化物として存在する。金属の混合物は、また、バルク金属触媒として存在していてもよく、その場合、金属の量は、触媒を基準にして30重量%以上である。好適な金属酸化物担体としては、シリカ、アルミナ、シリカ−アルミナ、またはチタニアのような酸化物、好ましくはアルミナが挙げられる。好ましいアルミナは、ガンマまたはイータアルミナのような細孔性アルミナである。金属の量は、単独または混合物のいずれにおいても、触媒を基準にして約0.5〜35重量%の範囲である。第9〜10族金属と第6族金属との好ましい混合物の場合、第9〜10族金属は、触媒を基準にして0.5〜5重量%の量で存在し、第6族金属は、5〜30重量%の量で存在する。金属の量は、原子吸光分析、誘導結合プラズマ原子発光分析、または個々の金属に対してASTMにより規定された他の方法により、測定可能である。
【0015】
金属酸化物担体の酸性度は、プロモーターおよび/またはドーパントを添加することにより、または金属酸化物担体の性質を制御することにより、たとえば、シリカ−アルミナ担体中に組み込まれるシリカの量を制御することにより、制御できる。プロモーターおよび/またはドーパントの例としては、ハロゲン、とくにフッ素、リン、ホウ素、イットリア、希土類酸化物、およびマグネシアが挙げられる。ハロゲンのようなプロモーターは、一般的には、金属酸化物担体の酸性度を増加させるが、イットリアまたはマグネシアのような弱塩基性ドーパントは、そのような担体の酸性度を減少させる傾向がある。
【0016】
水素化処理条件は、150〜400℃、好ましくは200〜350℃の温度、1480〜20786kPa(200〜3000psig)、好ましくは2859〜13891kPa(400〜2000psig)の水素分圧、0.1〜10液空間速度(LHSV)、好ましくは0.1〜5LHSVの空間速度、および89〜1780m/m(500〜10000scf/B)、好ましくは178〜890m/mの水素対原料比を含む。
【0017】
水素化処理により、後続の脱ロウ工程で許容できないほど脱ロウ触媒に影響を及ぼすことのないレベルにまで窒素含有汚染物質および硫黄含有汚染物質の量を減少させる。また、本発明の穏やかな水素化処理工程を通過する多核芳香族種が存在する可能性がある。これらの汚染物質は、もし存在するのであれば、後続の水素化精製工程で除去されるであろう。
【0018】
水素化処理時、原料油の5重量%未満、好ましくは3重量%未満、より好ましくは2重量%未満が650°F(343℃)生成物に転化されて、VI増加が原料油のVIから4未満、好ましくは3未満、より好ましくは2未満の増加である水素化処理された原料油が生成される。本発明では、原料のワックス含有率が高いので、水素化処理工程時のVI増加は最小限に抑えられる。
【0019】
水素化処理された原料油は、脱ロウ工程に直接送ってもよいし、好ましくは、脱ロウ前に硫化水素およびアンモニアのようなガス状汚染物質を除去するためにストリッピングを行ってもよい。ストリッピングは、フラッシュドラムまたは分留器のような従来の手段により行うことができる。
【0020】
[脱ロウ触媒]
脱ロウ触媒は、結晶質であっても非晶質であってもよい。結晶質材料は、少なくとも1つの10または12環チャネルを含有するモレキュラーシーブであり、アルミノシリケート(ゼオライト)またはシリコアルミノホスフェート(SAPO)を基材とするものであってよい。酸素化物処理に使用されるゼオライトは、少なくとも1つの10または12チャネルを含有しうる。そのようなゼオライトの例としては、ZSM−22、ZSM−23、ZSM−35、ZSM−48、ZSM−57、フェリエライト、ITQ−13、MCM−68、およびMCM−71が挙げられる。少なくとも1つの10環チャネルを含有するアルミノホスフェートの例としては、ECR−42が挙げられる。12環チャネルを含むモレキュラーシーブの例としては、ゼオライトベータおよびMCM−68が挙げられる。モレキュラーシーブについては、(特許文献1〜7)に記載されている。MCM−68については、(特許文献8)に記載されている。MCM−71およびITQ−13については、PCT公開出願(特許文献9)および(特許文献10)に記載されている。ECR−42については、(特許文献11)に開示されている。好ましい触媒としては、ZSM−48、ZSM−22、およびZSM−23が挙げられる。とくに好ましいのは、ZSM−48である。モレキュラーシーブは、好ましくは水素形である。還元は、脱ロウ工程時にそのままin situで行うことができるか、または他の容器でex situで行うことができる。
【0021】
非晶質脱ロウ触媒としては、アルミナ、フッ素化アルミナ、シリカ−アルミナ、フッ素化シリカ−アルミナ、および第3族金属をドープしたシリカ−アルミナが挙げられる。そのような触媒については、たとえば、(特許文献12)および(特許文献13)に記載されている。
【0022】
脱ロウ触媒は、二官能性である。すなわち、少なくとも1種の第6族金属、少なくとも1種の第8〜10族金属、またはそれらの混合物である金属水素化成分が充填される。好ましい金属は、第9〜10族金属である。とくに好ましいのは、Pt、Pdまたはそれらの混合物のような第9〜10族貴金属である(第1〜18族を有するIUPAC周期表方式に基づく)。これらの金属は、触媒を基準にして0.1〜30重量%の比率で充填される。触媒調製法および金属充填法については、たとえば、(特許文献14)に記載されており、たとえば、イオン交換法および分解性金属塩を用いる含浸法が挙げられる。金属分散法および触媒粒子サイズ制御については、(特許文献15)に記載されている。小さい粒子サイズおよび良好に分散された金属を有する触媒が好ましい。
【0023】
モレキュラーシーブは、典型的には、脱ロウ条件下で利用される可能性のある高温に耐えるバインダー材料で複合化されて完成脱ロウ触媒を形成するか、またはバインダーを含まない(自己結合型)。バインダー材料は、通常、無機酸化物であり、たとえば、シリカ、アルミナ、シリカ−アルミナ、シリカと他の金属酸化物(チタニア、マグネシア、トリア、ジルコニアなど)との2種の組合せ、およびこれらの酸化物の3種の組合せ(シリカ−アルミナ−トリア、シリカ−アルミナ−マグネシアなど)である。完成脱ロウ触媒中のモレキュラーシーブの量は、触媒を基準にして10〜100、好ましくは35〜100重量%である。そのような触媒は、噴霧乾燥法、押出法などのような方法により形成される。脱ロウ触媒は、硫化形でも非硫化形でも使用可能であり、好ましくは硫化形である。
【0024】
有効な脱ロウ条件は、250〜400℃、好ましくは275〜350℃の温度、791〜20786kPa(100〜3000psig)、好ましくは1480〜17339kPa(200〜2500psig)の圧力、0.1〜10hr−1、好ましくは0.1〜5hr−1の液空間速度、および45〜1780m/m(250〜10000scf/B)、好ましくは89〜890m/m(500〜5000scf/B)の水素処理ガス速度を含む。
【0025】
[水素化精製]
脱ロウから得られた生成物の少なくとも一部分は、分離することなく水素化精製工程に直接送られる。製品品質を所望の規格に調整するために、脱ロウから得られた生成物を水素化精製することが好ましい。水素化精製は、もしあれば潤滑油範囲オレフィンおよび残留芳香族化合物を飽和させ、さらにもしあれば残存するヘテロ原子および着色体を除去することを目的とした穏やかな水素化処理の形態である。脱ロウ後水素化精製は、通常、脱ロウ工程に続いて連続的に行われる。一般的には、水素化精製は、約150℃〜350℃、好ましくは180℃〜250℃の温度で行われるであろう。全圧力は、典型的には、2859〜20786kPa(約400〜3000psig)である。液空間速度は、典型的には0.1〜5LHSV(hr−1)、好ましくは0.5〜3hr−1であり、水素処理ガス速度は、44.5〜1780m/m(250〜10,000scf/B)である。
【0026】
水素化精製触媒は、第6族金属(第1〜18族を有するIUPAC周期表方式に基づく)、第8〜10族金属、およびそれらの混合物を含む触媒である。好ましい金属としては、強力な水素化機能を有する少なくとも1種の貴金属、とくに、白金、パラジウム、およびそれらの混合物が挙げられる。金属の混合物はまた、バルク金属触媒として存在していてもよく、その場合、金属の量は、触媒を基準にして30重量%以上である。好適な金属酸化物担体としては、シリカ、アルミナ、シリカ−アルミナ、またはチタニアのような低酸性酸化物、好ましくはアルミナが挙げられる。芳香族化合物の飽和に好ましい水素化精製触媒は、細孔性担体に担持された比較的強力な水素化機能を有する少なくとも1種の金属を含むであろう。典型的な担体材料としては、アルミナ、シリカ、およびシリカ−アルミナのような非晶質または結晶質の酸化物材料が挙げられる。触媒の金属含有率は、多くの場合、非貴金属に対して約20重量パーセント程度である。貴金属は、通常、約1重量%以下の量で存在する。
【0027】
水素化精製触媒は、好ましくは、M41S類またはM41S族の触媒に属するメソ細孔性材料である。M41S族の触媒は、高シリカ含有率を有するメソ細孔性材料であり、その調製については、(非特許文献1)にさらに記載されている。例としては、MCM−41、MCM−48、およびMCM−50が挙げられていた。メソ細孔性とは、15〜100Åの細孔サイズを有する触媒を意味する。このクラスの好ましいメンバーは、MCM−41であり、その調製については、(特許文献16)に記載されている。MCM−41は、六角形構成の均一サイズの細孔を有する無機細孔性非層状相である。MCM−41の物理構造は、ストローの束のような構造であり、ストローの開口(細孔のセル径)は、15〜100オングストロームの範囲である。MCM−48は立方対称を有し、たとえば、(特許文献17)に記載されており、一方、MCM−50は、ラメラ構造を有する。メソ細孔性範囲のさまざまなサイズの細孔開口を有するMCM−41を作製することができる。メソ細孔性材料は、第8族、第9族、または第10族金属のうちの少なくとも1つである金属水素化成分を保持しうる。好ましいのは、貴金属、とくに第10族貴金属であり、最も好ましのは、Pt、Pd、またはそれらの混合物である。
【0028】
一般的には、水素化精製は、約150℃〜350℃、好ましくは180℃〜250℃の温度で行われるであろう。全圧力は、典型的には、2859〜20786kPa(約400〜3000psig)である。液空間速度は、典型的には0.1〜5LHSV(hr−1)、好ましくは0.5〜3hr−1であり、水素処理ガス速度は、44.5〜1780m/m(250〜10,000scf/B)である。
【0029】
本発明に係る方法から得られる生成物は、非常に高い粘度指数を有し、ワックス質原料から高収率で生成できる。かくして、145以上のVIを有する優れた低温特性を備えた潤滑油基油を取得することが可能である。
【0030】
次に、図について説明する。この図では、スラックワックスのようなワックス質原料油が、ライン10を介して水素化処理装置14に供給される。水素は、ライン12を介して水素化処理装置14に添加される。水素化処理装置14には、水素化処理触媒床16が充填される。水素化処理された原料油は、ライン18を介してストリッパー20に移送され、軽質ガスは、ライン22を介して除去される。次に、液体生成物は、ライン24を介してストリッパー20から水素化脱ロウ装置28に送られる。追加の水素は、ライン26を介して添加される。水素化脱ロウ装置28には、水素化脱ロウ触媒床30が充填される。次に、水素化脱ロウされた生成物は、ライン32を介して、水素化精製触媒床36が充填された水素化精製装置34に送られる。次に、水素化精製された生成物は、ライン38を介して減圧ストリッパー40に送られる。軽質生成物は、ライン42を介して除去され、残りの液体生成物は、ライン44を介して減圧蒸留装置(図示せず)に送られる。
【0031】
以下の実施例により本発明についてさらに説明するが、これらの実施例に限定しようとするものではない。
【実施例】
【0032】
[実施例1]
この実施例では、硫化型水素化脱ロウ触媒でクリーンな原料を処理することにより、優れた収率で高品質の脱ロウ油を生成できることを示す。原料は、240℃の低過酷度で水素化処理された150Nスラックワックスである。その性質は表1に与えられている。0.5%の繰返し精度を有するホウイロン・自動粘度計(Houillon Automated Viscometer)を用いて標準的なASTM試験(D445−94およびD2270−91)により粘度を測定した。流動点は、標準的なASTM試験(D 97)により決定される。硫黄および窒素の含有率は、それぞれ、標準的なASTM法D5453およびD4629により測定可能である。収率および流動点の誤差限界は、それぞれ、±1および±3である。
【0033】
【表1】

【0034】
表1の原料を次の水素化処理条件下において、アクゾ・ノーベル(Akzo Nobel)KF848触媒で水素化処理した。240℃、0.7v/v/時のLHSV、1000psig(6996kPa)、1500scf/B H(267m/m)の処理速度。水素化処理された生成物の370℃収率は、原料を基準にして94.4重量%であった。水素化処理された生成物の性質を表2に示す。
【0035】
【表2】

【0036】
水素化処理された生成物を次の条件下において、ex situ硫化型ZSM−48触媒で水素化脱ロウした。1v/v/時、1000psig(6996kPa)、2500scf/B H(445m/m)。35重量%のアルミナで結合されたZSM−48触媒に金属として0.6重量%のPtを充填し、窒素中の400ppmHSによりHSを破過させてex situで硫化させた。水素化脱ロウされた結果を表3に示す。
【0037】
【表3】

【0038】
水素化脱ロウされた生成物を、水素化精製触媒としてPt/Pdを含むMCM−41により水素化精製した。水素化脱ロウされた生成物を次の条件下において水素化精製した。200℃、2.5v/v/時のLHSV、1000psig H(6996kPa)、2500scf/B H(445m/m)。MCM−41触媒を用いて水素化精製することにより、脱ロウ生成物の他の性質に影響を及ぼすことなく芳香族化合物の全量を本質的にゼロにすることができた。これは、低温におけるこの触媒の高い飽和活性に基づく。この実施例および後続の実施例の脱ロウ生成物は、このようにして水素化精製された。
【0039】
[実施例2]
この実施例では、硫化型水素化脱ロウ触媒でクリーンな原料を処理することにより、優れた収率で高品質の脱ロウ油を生成できることを示す。原料は、150Nスラックワックスであり、その性質は、表4に与えられている。345℃のかなり高い過酷度で、原料を水素化処理した。
【0040】
【表4】

【0041】
表4の原料を次の水素化処理条件下において、アクゾ・ノーベル(Akzo Nobel)KF848触媒で水素化処理した。345℃、0.7v/v/時、1000psig(6996kPa)、1500scf/B H(267m/m)。水素化処理された生成物の370℃収率は、原料を基準にして93.2重量%であった。水素化処理された生成物の性質を表5に示す。
【0042】
【表5】

【0043】
水素化処理された生成物を次の条件下において、ex situ硫化型ZSM−48触媒で水素化脱ロウした。1v/v/時、1000psig(6996kPa)、2500scf/B H(445m/m)。窒素中の400ppm HSによりHSを破過させてZSM−48触媒(実施例1)をex situで硫化させた。水素化脱ロウの結果として得られた生成物の性質を表6に示す。
【0044】
【表6】

【0045】
[実施例3]
この実施例では、還元型水素化脱ロウ触媒でクリーンな原料を処理することにより、優れた収率で高品質の脱ロウ油を生成できることを示す。原料は、150Nスラックワックスであり、その性質は、表7に与えられている。
【0046】
【表7】

【0047】
表7の原料を次の水素化処理条件下において、アクゾ・ノーベル(Akzo Nobel)KF848触媒で水素化処理した。345℃、0.7v/v/時、1000psig(6996kPa)、1500scf/B H(267m/m)。水素化処理された生成物の370℃収率は、原料を基準にして93.9重量%であった。水素化処理された生成物の性質を表8に示す。
【0048】
【表8】

【0049】
水素化処理された生成物を次の条件において、還元型ZSM−48触媒で水素化脱ロウした。1v/v/時、1000psig(6996kPa)、2500scf/B H(445m/m)。水素化脱ロウされた結果を表9に示す。
【0050】
【表9】

【0051】
[実施例4]
この実施例では、硫化型水素化脱ロウ触媒でクリーンな軽質原料を処理することにより、優れた収率で高品質の脱ロウ油を生成できることを示す。原料は、より高い油含有率を有する150Nスラックワックスであり、その性質は、表10に与えられている。
【0052】
【表10】

【0053】
表10の原料を次の水素化処理条件下において、アクゾ・ノーベル(Akzo Nobel)KF848触媒で水素化処理した。270℃、0.7v/v/時、1000psig(6996kPa)、1500scf/B H(267m/m)。水素化処理された生成物の370℃収率は、原料を基準にして95.3重量%であった。水素化処理された生成物の性質を表11に示す。
【0054】
【表11】

【0055】
水素化処理された生成物を次の条件下において、ex situ硫化型ZSM−48触媒で水素化脱ロウした。1v/v/時、1000psi(6996kPa)、2500scf/B H(445m/m)。窒素中の400ppm HSによりHSを破過させてZSM−48触媒(実施例1)をex situで硫化させた。水素化脱ロウされた結果を表12に示す。
【0056】
【表12】

【0057】
[実施例5]
この実施例では、硫化型触媒でクリーンな原料を処理することにより、優れた収率で高品質の脱ロウ油を生成できることを示す。原料は、600Nスラックワックスであり、その性質は、表13に与えられている。
【0058】
【表13】

【0059】
表13の原料を次の水素化処理条件下において、アクゾ・ノーベル(Akzo Nobel)KF848触媒で水素化処理した。317℃、0.7v/v/時、1000psig(6996kPa)、1500scf/B H(267m/m)。水素化処理された生成物の370℃収率は、原料を基準にして97.3重量%であった。水素化処理された生成物の性質を表14に示す。
【0060】
【表14】

【0061】
水素化処理された生成物を次の条件下において、ex situ硫化型ZSM−48触媒で水素化脱ロウした。1v/v/時、1000psig(6996kPa)、2500scf/B H(445m/m)。窒素中の400ppm HSによりHSを破過させてZSM−48触媒(実施例1)をex situで硫化させた。水素化脱ロウされた結果を表15に示す。
【0062】
【表15】

【0063】
[実施例6]
この実施例では、より高い水素化処理温度でクリーンな原料を処理することにより、優れた収率で高品質の脱ロウ油を生成できることを示す。原料は、600Nスラックワックスであり、その性質は、表16に与えられている。
【0064】
【表16】

【0065】
表16の原料を次の水素化処理条件下において、アクゾ・ノーベル(Akzo Nobel)KF848触媒で水素化処理した。340℃、0.7v/v/時、1000psig(6996kPa)、1500scf/B H(267m/m)。水素化処理された生成物の370℃収率は、原料を基準にして94.6重量%であった。水素化処理された生成物の性質を表17に示す。
【0066】
【表17】

【0067】
水素化処理された生成物を次の条件下において、ex situ硫化型ZSM−48触媒で水素化脱ロウした。1v/v/時、1000psig(6996kPa)、2500scf/B H(445m/m)。窒素中の400ppm HSによりHSを破過させてZSM−48触媒(実施例1)をex situで硫化させた。水素化脱ロウされた結果を表18に示す。
【0068】
【表18】

【0069】
[実施例7]
この実施例の方法では、還元型水素化脱ロウ触媒でクリーンな原料を処理することにより、優れた収率で高品質の脱ロウ油を生成できることを示す。原料は、600Nスラックワックスであり、その性質は、表19に与えられている。
【0070】
【表19】

【0071】
表19の原料を次の水素化処理条件下において、アクゾ・ノーベル(Akzo Nobel)KF848触媒で水素化処理した。340℃、0.7v/v/時、1000psig(6996kPa)、1500scf/B H(267m/m)。水素化処理された生成物の370℃収率は、原料を基準にして93.9重量%であった。水素化処理された生成物の性質を表20に示す。
【0072】
【表20】

【0073】
水素化処理された生成物を次の条件において、還元型ZSM−48触媒(35重量%アルミナ/0.6重量%Pt)で水素化脱ロウした。1v/v/時、1000psig(6996kPa)、2500scf/B H(445m/m)。水素化脱ロウされた結果を表21に示す。
【0074】
【表21】

【0075】
表21の結果は、ワックス質原料から非常に高いVIの生成物を高収率で取得できることを示している。
【0076】
[実施例8]
この実施例では、ワックス中の油含有率が高いクリーンな原料を処理することにより、優れた収率で高品質の脱ロウ油を生成できることを示す。原料は、600Nスラックワックスであり、その性質は、表22に与えられている。
【0077】
【表22】

【0078】
表22の原料を次の水素化処理条件下において、アクゾ・ノーベル(Akzo Nobel)KF848触媒で水素化処理した。340℃、0.7v/v/時、1000psig(6996kPa)、1500scf/B H(267m/m)。水素化処理された生成物の370℃収率は、原料を基準にして95.8重量%であった。水素化処理された生成物の性質を表23に示す。
【0079】
【表23】

【0080】
水素化処理された生成物を次の条件下において、ex situ硫化型ZSM−48触媒で水素化脱ロウした。1v/v/時、1000psig(6996kPa)、2500scf/B H(445m/m)。窒素中の400ppm HSによりHSを破過させてZSM−48触媒(実施例1)をex situで硫化させた。水素化脱ロウされた結果を表24に示す。
【0081】
【表24】

【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】本発明の方法の概略フロー図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも135の粘度指数(VI)を有する潤滑油基油を調製する方法であって、
(1)原料油の5重量%未満が650°F(343℃)生成物に転化されて、VI増加が原料油のVIから4未満の増加である水素化処理された原料油を生成するように、有効な水素化処理条件下において、原料油基準で少なくとも60重量%のワックス含有率を有する潤滑油原料油を水素化処理触媒で水素化処理する工程と;
(2)該水素化処理された原料油をストリッピングして液体生成物からガス状生成物を分離する工程と;
(3)有効な接触水素化脱ロウ条件下において、ZSM−48、ZSM−57、ZSM−23、ZSM−22、ZSM−35、フェリエライト、ECR−42、ITQ−13、MCM−71、MCM−68、ゼオライトベータ、フッ素化アルミナ、シリカ−アルミナ、またはフッ素化シリカアルミナのうちの少なくとも1つである脱ロウ触媒で、該液体生成物を水素化脱ロウする工程であって、該脱ロウ触媒は、少なくとも1種の第9族または第10族貴金属を含有する水素化脱ロウ工程と;
を含むことを特徴とする潤滑油基油の調製方法。
【請求項2】
前記脱ロウ触媒は、ZSM−22、ZSM−23、ZSM−48またはZSM−57のうちの少なくとも1つであることを特徴とする請求項1に記載の潤滑油基油の調製方法。
【請求項3】
前記水素化処理触媒は、少なくとも1種の第6族、第9族または第10族金属を含有することを特徴とする請求項1に記載の潤滑油基油の調製方法。
【請求項4】
前記水素化処理条件は、150〜400℃の温度、1480〜20786kPaの圧力、0.1〜10hr−1の液空間速度、および89〜1780m/mの水素処理速度を含むことを特徴とする請求項1に記載の潤滑油基油の調製方法。
【請求項5】
前記脱ロウ触媒は、ZSM−22、ZSM−23、ZSM−48またはZSM−57のうちの少なくとも1つであることを特徴とする請求項3又は4に記載の潤滑油基油の調製方法。
【請求項6】
前記脱ロウ触媒は、ZSM−48であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の潤滑油基油の調製方法。
【請求項7】
前記脱ロウ触媒は、Pt、Pdまたはそれらの混合物を含有することを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の潤滑油基油の調製方法。
【請求項8】
前記水素化脱ロウ条件は、250〜400℃の温度、791〜20786kPaの圧力、0.1〜10hr−1の液空間速度、および45〜1780m/mの水素処理速度を含むことを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載の潤滑油基油の調製方法。
【請求項9】
前記脱ロウ触媒は、硫化型、還元型または硫化還元型であることを特徴とする請求項1〜8のいずれか一項に記載の潤滑油基油の調製方法。
【請求項10】
工程(3)から得られる水素化脱ロウされた液体生成物は、有効な水素化精製条件下において水素化精製されることを特徴とする請求項1〜9のいずれか一項に記載の潤滑油基油の調製方法。
【請求項11】
前記水素化精製は、少なくとも1種の第6族、第9族または第10族金属を含有する水素化精製触媒を含むことを特徴とする請求項10に記載の潤滑油基油の調製方法。
【請求項12】
前記水素化精製は、M41S族のメソ細孔性触媒である水素化精製触媒を含むことを特徴とする請求項10又は11に記載の潤滑油基油の調製方法。
【請求項13】
前記水素化精製触媒は、少なくとも1種の貴金属を含有することを特徴とする請求項11又は12に記載の潤滑油基油の調製方法。

【図1】
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【公表番号】特表2006−502297(P2006−502297A)
【公表日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−543801(P2004−543801)
【出願日】平成15年10月7日(2003.10.7)
【国際出願番号】PCT/US2003/033320
【国際公開番号】WO2004/033597
【国際公開日】平成16年4月22日(2004.4.22)
【出願人】(390023630)エクソンモービル リサーチ アンド エンジニアリング カンパニー (442)
【氏名又は名称原語表記】EXXON RESEARCH AND ENGINEERING COMPANY
【Fターム(参考)】