説明

高負荷伝動ベルトおよびその製造方法

【課題】ブロックの走行方向の揺動を抑えて、ベルトの振動、騒音、発熱を防止することができると共に製造も容易にすることができる高負荷伝動ベルトおよびその製造方法を提供する。
【解決手段】センターベルト3の長手方向に沿って複数のブロック2を装着してなる高負荷伝動ベルトであって、表面に接着剤6を被覆したセンターベルト3をセットした状態でセンターベルト3を金型で取り囲み樹脂材料を送り込んでブロック2を成形すると同時にセンターベルト3にブロック2を取り付けることによって得られる高負荷伝動ベルト1とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、センターベルトの長手方向に沿って複数のブロックを固定した高負荷伝動ベルトに係り、ブロックの走行方向の揺動を抑えて、ベルトの振動、騒音、発熱を防止した高負荷伝動ベルトおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ベルト式無段変速装置に使用するベルトは、プーリのV溝幅を変化させることによってプーリに巻きかかる有効径を変化させ変速比を調節するような変速プーリに巻きかけて使用するものであり、プーリからの側圧が大きくなるのでベルト自体が大きな側圧に耐えるものではなくてはならない。また、無段変速の用途以外にも通常のゴムベルトでは寿命が短くなりすぎるような高負荷伝動の用途には特別に高負荷に耐えうるようなベルトを用いる必要がある。
【0003】
そのようなベルトとして使用されるものの中に、センターベルトにブロックを固定してベルト幅方向の強度を高めた引張伝動式の高負荷伝動ベルトがあり、具体的な構成としては、心線をエラストマー中に埋設したセンターベルトにボルトやリベットなどの止着材を用いてセンターベルトに使用しているエラストマーよりも比較的硬質のエラストマーからなるブロックを止着固定したものがある。
【0004】
このような引張伝動式の高負荷伝動ベルトに用いられるブロックの要求品質としては、上記のように摩擦伝動において高負荷の伝動を目的としているために、曲げ疲労性、耐摩耗性、耐熱性、剛性、耐衝撃性などの性質をバランスよく保有する必要がある。更にプーリを摩耗させないようにすることも大切な要素である。
【0005】
これらの要求を満たす高負荷伝動ベルトとして、例えば、特許文献1に開示されているようなものがある。このベルトのブロックは金属製のインサートをフェノール系樹脂によって被覆した2重構造のブロックを用いたものである。
【0006】
また、特許文献2には金属製のインサートを埋設していないブロックを用いたベルトであり、金属製のインサートを有していないことから多少ブロックの強度面では劣るところがあるものの、ベルトを大幅に軽量化することが可能となっている。インサートを埋設したブロックを用いたベルトが比較的重量があり、ベルトを高速で回転させると遠心力によるセンターベルトの劣化が早いという問題があるのであまり高回転の用途に向いていないということがあった。それに対して特許文献2に開示されているような金属製のインサートを埋設していないベルトでは遠心力の問題が少なく高回転にも適用できる。
【0007】
このような高負荷伝動ベルトはセンターベルトに多数のブロックを設けたベルトはベルトの製造の際にセンターベルトへのブロックの装着に手間がかかり、効率のよい機械化もなかなか困難であることからコスト的には不利であった。
【0008】
特許文献3にはそのようなベルトを製造する方法が開示されている。金型内にセンターベルトを配置してセンターベルトを取り囲むようにキャビティを形成して樹脂を射出することによってブロックを成形すると共にセンターベルトに取り付ける方法である。この方法によればブロックの成形とセンターベルトへのブロックの取り付けが一度で行える。
【0009】
特許文献4にはブロックの金属補強部材(インサート)が軟質ゴム部材を介して連結されているベルトが開示されている。軟質ゴム部材を介して連結することによって、ベルト走行時のブロックの揺動を防止することができるといったものである。
【0010】
【特許文献1】特開昭63−34342号
【特許文献2】特開2001−311453号
【特許文献3】特開2003−202054号
【特許文献4】実願昭61−51090号(実開昭62−162434号)のマイクロフィルム
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献3で開示されているベルトは、センターベルトへのブロックの取り付けをブロックの成形と同時に行うことができるため、製造の面では非常に有利であるものの、ブロックを成形するための金型の厚みによって隣り合うブロックの間隔が広くなってしまう。ブロック同士の間隔が広くなるとブロックが動くやすくなり、センターベルトに対して進行方向に揺動するという問題が出てくる。また、ブロックのピッチが大きくなるとベルトの騒音は大きくなるといった問題もある。
【0012】
特許文献4ではブロックを軟質ゴム部材で連結することによって、ブロックの揺動は防止することができるが、センターベルトにブロックを取り付ける手間はもとより、更にブロックを軟質ゴム部材で連結する作業が必要となるので、ブロックの製造の面ではあまり好ましい形態であるとはいえない。
【0013】
そこで本発明ではブロックをセンターベルトに取り付ける工程はブロックの成形と共にごく簡単に行うことができ、ベルト走行時のブロックのセンターベルトに対する揺動を抑えることができ、発熱や摩耗といった問題を解消した高負荷伝動ベルトの提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
このような課題を解決するために本発明の請求項1では、センターベルトと、該センターベルトの長手方向に沿って複数のブロックを設けた高負荷伝動ベルトであって、センターベルト保持部と、該センターベルト保持部に保持されたセンターベルトの所定位置に成形されたブロックが嵌合されるように配置したブロックを成形するためのキャビティを有した金型を用いて、センターベルトを前記センターベルト保持部にセットした状態で金型内のキャビティに樹脂材料を送り込んでブロックを成形すると同時にセンターベルトにブロックを取り付けることによって得た高負荷伝動ベルトにおいて、センターベルトの表面に接着剤を被覆してなることを特徴とする。
【0015】
請求項2では、接着剤にはセンターベルトを構成するゴムと同種のゴムを5〜30質量%添加してなる高負荷伝動ベルトとしている。
【0016】
請求項3では、接着剤の厚みを10〜200μmの範囲内に設定した高負荷伝動ベルトとしている。
【0017】
請求項4では、センターベルトと、該センターベルトの長手方向に沿って複数のブロックを設けた高負荷伝動ベルトの製造方法において、金型はセンターベルト保持部と、該センターベルト保持部に保持されたセンターベルトの所定位置に成形されたブロックが嵌合されるように配置したブロックを成形するためのキャビティを有しており、センターベルトを前記センターベルト保持部にセットした状態で金型内のキャビティに樹脂を射出することによって、ブロックを成形すると同時にセンターベルトにブロックを取り付ける高負荷伝動ベルトの製造方法において、センターベルトの表面に接着剤を処理したものを用いたことを特徴とする。
【0018】
請求項5では、接着剤にはセンターベルトを構成するゴムと同種のゴムを5〜30質量%添加してなる高負荷伝動ベルトの製造方法としている。
【0019】
請求項6では、接着剤の厚みを10〜200μmの範囲内に設定した高負荷伝動ベルトの製造方法としている。
【発明の効果】
【0020】
センターベルト表面に接着剤を処理しておくことによって、ブロックを成形するとセンターベルトとブロックが接着固定されるので、ブロックのセンターベルトに対する揺動を効果的に抑制することができるとともに、両者の間での振動や摩擦を防止することができセンターベルトの摩耗やブロックとセンターベルト間の摩擦による発熱の問題を解消することができる。
【0021】
また、接着剤にセンターベルトを構成するのと同種のゴムを所定量添加することによって接着剤とセンターベルトとの接着力を向上させることができる。
【0022】
接着剤の厚みを10〜200μmの範囲内に設定することによって、十分な接着力を発現するとともに接着剤がブロックの物性等への影響を及ぼすことも防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明の高負荷伝動ベルトは図1、図2に示すようなベルトで、ゴム4内に心線5をスパイラル状に埋設してなるセンターベルト3と、このセンターベルト3の上下面に所定ピッチで形成された凹部に嵌合し、係止固定されている複数のブロック2から構成されている。このブロック2の両側面2a、2bは、プーリのV溝と係合する傾斜のついた面となっており、駆動されたプーリから動力を受け取って、係止固定されているセンターベルト3を引張り、駆動側プーリの動力を従動側プーリに伝動している。
【0024】
ブロック2は、図1、2に示すように、上ビーム部11および下ビーム部12と、両側部13、14が一体的にセンターベルト3の周囲に形成されている。ブロック2の中央にはセンターベルト3を嵌めこむ開口部15を有し、開口部15内の上面および下面にはセンターベルト3の上面に設けた凹条部7と下面に設けた凹条部8に係合する凸条部16、17が形成されている。
【0025】
このようにブロックにセンターベルトを嵌め込んで形成するような高負荷伝動ベルトの製造するにあたり、図3および図4、図5に示すように一対の金型30、31を用い、その金型30、31にはセンターベルト保持部32を有するとともに、一対の金型30、31が合さった状態でブロック2を成形するためのキャビティ33を形成するようになっており、センターベルト3を前記センターベルト保持部32にセットした状態で金型30、31内のキャビティ33に樹脂を射出する。センターベルト3には上下面のブロック2と嵌合する凹条部7、8の間に金型のセンターベルト保持部32と嵌合する凹部9、10を有しており、ブロック2を射出成形で成形する際にセンターベルト3の位置決めを行うようになっている。
【0026】
ブロック2を成形するキャビティ33以外のところではセンターベルトは固定する必要がなく、金型を閉じる時のベルトの逃げ場所としてベルトの概略形状よりやや広い通路34が形成されている。
【0027】
それぞれのキャビティ33にはブロックの上側中央付近に射出成形のゲート35を配置しており、溶融した樹脂を射出することによってブロック1を形成するものである。
【0028】
キャビティ33はセンターベルト保持部32にセンターベルト3を嵌め込んだ状態でセンターベルト3を取り囲むように配置されており、キャビティ33でブロック2を成形するとセンターベルト3にブロック2が凹条部7、8で嵌合された状態で成形されるようになっている。
【0029】
本発明においてセンターベルト3の表面には接着剤6が処理されている。ブロック2の成形に先立って表面に接着剤6を処理したセンターベルト3をセンターベルト保持部32にセットし、ブロック2を成形することによって、センターベルト3とブロック2とが接着されるので、ブロック2のセンターベルト3に対する揺動を効果的に抑制することができるとともに、両者の間での振動や摩擦を防止することができ、センターベルト3やブロック2の摩耗やセンターベルト3とブロック2間での発熱を防止することができるのでベルト1の長寿命化にもつながる。
【0030】
接着剤6として用いることができるものは、後述のようにブロック2は熱可塑性樹脂からなりセンターベルト3はゴムからなっているので夫々の材料との接着性を有するものを用いることができる。その例としてエポキシ樹脂化合物、シランカップリング剤、多官能芳香族イソシアネート化合物を挙げることができる。また、それらの化合物に対してセンターベルト3を構成するゴムと同種のゴム5〜30質量%が添加されていることが好ましい。センターベルト3を構成するゴムを添加することによって接着剤6のセンターベルト3との接着性を向上させることができる。5質量%未満であるとゴムを添加することによるセンターベルト3との接着力向上の効果が薄く、30質量%を超えて添加するとゴム分の割合が多くなりすぎてブロック2側との接着性が低下するので好ましくない。このような範囲でゴムを添加した接着剤をもちいると樹脂であるブロック2ともゴムであるセンターベルト3とも十分な接着力を有する接着を行うことができる。
【0031】
エポキシ樹脂化合物としては、分子中に2個以上のエポキシ基を有するものであればどんな化合物を用いても差し支えなく得に限定されるものではないが、例えば、分子内に水産機を有する化合物から得られるグリシジルアミン型エポキシ樹脂、分子内にアミノ基を有する化合物から得られるグリシジルアミン型エポキシ樹脂、分子内にカルボキシル気を有する化合物から得られるグリシジルエステル型エポキシ樹脂、分子内に不飽和結合を有する化合物から得られる環式脂肪族エポキシ樹脂、トリグリシジルイソシアネートなどの複素環式エポキシ樹脂、あるいはこれらから選ばれる2種類以上のタイプが分子内に混在するエポキシ樹脂などを用いることができる。
【0032】
シランカップリング剤としては、例えばγ−アミノプロピルエトキシシラン、ビニルトリエトキシシランなどを挙げることができる。
【0033】
多官能芳香族イソシアネート化合物としては、例えば、トリレンジイソシアネート、メタフェニレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ポリメチレンポリフェニルジイソシアネート等を挙げることができる。
【0034】
これらの接着剤に対して添加するゴムはセンターベルト3に用いているものと同種のゴムであり、クロロプレンゴム、天然ゴム、ニトリルゴム、スチレン−ブタジエンゴム、水素化ニトリルゴムなどの単一材またはこれらを適宜ブレンドしたゴムあるいはポリウレタンゴム等が挙げられる。これらのゴムを前記接着剤に対して添加する際には一旦ゴムを溶媒に溶かした状態で添加することが好ましく、ゴムを溶かすための溶媒としてはベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素系溶媒やエーテル類、トリクロロエチレン類などのハロゲン化脂肪族炭化水素、メチルエチルケトンなどが好適に用いられる。
【0035】
接着剤をセンターベルトに処理する方法としては、容器内に溜めた接着剤6にセンターベルト3を浸す(ディップする)ことによってセンターベルト3の表面全体に接着剤6を被覆することができる。また刷毛などを用いてセンターベルト3表面の必要な箇所に塗布するといった方法でも可能である。ディップや塗布して乾燥した状態で接着剤6が10〜200μmの範囲の厚みになるようにすることが好ましい。接着剤6の厚みが10μm未満であると接着剤が接着剤が剥がれたり十分な接着力を出すことができずブロックやセンターベルトの摩耗につながり、200μmを超えると接着剤中の成分や溶剤が成形したブロックへ移行する量が多くなり、ブロックの物性等へ影響を及ぼすことから好ましくない。
【0036】
また、従来このような高負荷伝動ベルトの製造においてはセンターベルト3を製造し、別途ブロック2を製造した上でセンターベルト3にブロック2を一つ一つ嵌め込んでいく作業を行っており、特にブロック2をセンターベルト3に嵌め込んでいく作業に多くに時間をとられていたが、上記のような製造方法を採ることによって、ブロック2をセンターベルト3の所定位置に成形しているので、ブロック2を成形し終わった時点でブロック2はセンターベルト3に嵌め込まれた状態となり、改めてブロック2をセンターベルト3に嵌め込むといった作業が不要になり、製造に要する時間を大幅に短縮することができるものである。
【0037】
図4に示す例では、金型30、31に設けられたキャビティ33は5箇所であり、一度に成形できるブロックの数は5個である。よって5個のブロックを成形した後に金型から一度ベルトを取り外してブロック5個分を図4中の矢印方向に回転させて次の位置にブロック2を成形できるようにして再度金型30、31に装着し、次の位置に5個のブロック2を成形する。このような操作を繰り返してベルト全周のブロック2全部を成形してベルトが完成する。
【0038】
ブロックの成形が完了したら金型30、31を開いてブロック2を金型から脱型する。脱型には金型から突出するイジェクトピンを用いて行うのが便利であり、例えば図5に示すブロックのようにブロック2の傾斜した側面2a、2bの上下位置に垂直面部2cを形成してイジェクトピンを当接させる箇所としてもよい。
【0039】
このようなセンターベルト3にブロック2を取り付けた高負荷伝動ベルト1においてブロック2のピッチ(センターベルト3に取り付けるブロック2同士の間隔)は騒音の問題などに関与するものであり、ピッチが大きすぎると騒音が増すことになる。しかし、一方でブロック2の成形をする際のブロック間に存在する金型の厚みが薄くなりすぎると射出圧力によって金型が変形しブロック2の変形にもつながるので好ましくない。そこで、ブロック2とブロック2間の金型の厚みはブロック2の厚みの1/6〜3/2程度になってしまう。
【0040】
以上の説明ではブロック2は一度に5個を成形し、順送り的に全数を成形して高負荷伝動ベルト1を完成させているが、ブロック2の全数と同じ数のキャビティを有する金型を用いて一度に全部を成形しても構わない。
【0041】
本発明の高負荷伝動ベルトは図1で示した例に限られることはなく、様々な形態を採ることができる。図6に示すベルトは図1に示すベルトとほぼ同じ形状を有しているが、センターベルト3の幅方向の中央にブロックを取り付けるのと同じピッチで貫通孔18を有しており、ブロック2が成形される際にその貫通孔18を通して樹脂が連結19されている。
【0042】
このようにセンターベルト3に設けた貫通孔18を通して上下でブロックを形成する樹脂が連結19されていることによって、ブロック2とセンターベルト3とが接着剤により接着されていることと相まって、ブロック2とセンターベルト3との固定力がより強固なものになる。ベルト1が長期にわたって走行を続けるとブロック2とセンターベルト3とのがたつきが発生し、それが原因でベルト1の騒音が大きくなったり、ブロック2の破損やセンターベルト3の切断したりといった故障につながることがあるが、ブロック2とセンターベルト3の固定力を高めることによってベルト1の寿命を長期化することができるものである。
【0043】
このブロック2は合成樹脂素材のみからなっているものに限られず、センターベルト3にアルミニウム合金などの金属などからなるインサート材を装着してブロックを成形することも可能である。
【0044】
このような射出成形でブロックを成形する場合に用いられる素材の樹脂として用いることができるのは、ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド(PAI)樹脂、ポリフェニレンスルフィド(PPS)樹脂、ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂、ポリイミド(PI)樹脂、ポリエーテルスルフォン(PES)樹脂、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂等の合成樹脂が用いられるが、中でも低摩擦係数で耐摩耗性に優れ、剛性があるとともに曲げに対しても弾力性を有しており、簡単に破損してしまうことのない樹脂がよく、ポリアミド樹脂、なかでもナイロン46が好ましいといえる。
【0045】
本発明では前述のようにブロックを形成する合成樹脂中に繊維状の補強材やウィスカ状の補強材を配合することは可能であり、繊維状の補強材は15〜40重量%の範囲で配合する。15重量%未満であると補強効果が少なくブロックの耐摩耗性が十分でないなどの問題があり、40重量%を超えると樹脂への配合が困難になったり射出成形が困難になったりするなどの問題があるので好ましくない。合成樹脂に配合する繊維状補強材としては、アラミド繊維、炭素繊維、ガラス繊維、ポリアミド繊維、ポリエステル繊維などを挙げることができる。繊維状補強材として上記の有機繊維のほかにも酸化亜鉛ウィスカ、チタン酸カリウムウィスカ、ホウ酸アルミニウムウィスカなどの無機繊維を配合してもよい。これらの他に、二硫化モリブデン、グラファイト、フッ素系樹脂から選ばれてなる少なくとも一つを混入することによってもブロック2の潤滑性を向上させることができる。フッ素系樹脂としては、ポリ4フッ化エチレン(PTFE)、ポリフッ化エチレンプロピレンエーテル(PFPE)、4フッ化エチレン6フッ化プロピレン共重合体(PFEP)、ポリフッ化アルコキシエチレン(PFA)等が挙げられる。
【0046】
樹脂材中にインサート材を埋設したものの場合、インサート材は、ブロック2の耐側圧性や曲げ剛性を持たせる部分となるインサート材であり、素材としてはアルミ合金、セラミックス、セラミックスとアルミニウムとの複合材料、炭素繊維強化樹脂や鉄などの素材が挙げられる。
【0047】
耐側圧性や曲げ剛性を持たせるという面では金属材料が好ましく、金属材料の中ではアルミ合金の弾性率が7000kgf/mmで比重が2.8であるのに対し、鉄は弾性率が22000kgf/mmで比重が7.8であり、強度的には鉄を用いるほうが高いといえるが、高速で回転するベルトにとって、ベルト重量は寿命に大きく影響を与えるため軽量化の面で有利なアルミ合金を用いることが好ましい。ただし、耐側圧性や曲げ剛性を持たせるという面では金属材料が優れており、インサート材22の所定箇所に樹脂材21を被覆したブロック2を用いることが好ましい。
【0048】
樹脂材を所定の箇所に配置する場合、ブロック2の大きさよりもひと回り小さい金属材料からなるインサート材を用いてそのほぼ全面を樹脂材で被覆したものを用いると、部分的に樹脂材を被覆配置したものに比べて、樹脂材の剥離などの問題が発生しにくいので好ましい形態ということができる。ただし、全面といっても製造工程の上で樹脂材を被覆する際にインサート材を固定する部材が接触しているところは、インサート材が露出する箇所が発生することになるが、その程度のインサート材の露出は、実質的に全面を樹脂材で被覆している形態に含まれるといってよいものである。
【0049】
センターベルト3のゴム4として使用されるものは、クロロプレンゴム、天然ゴム、ニトリルゴム、スチレン−ブタジエンゴム、水素化ニトリルゴムなどの単一材またはこれらを適宜ブレンドしたゴムあるいはポリウレタンゴム等が挙げられる。そして、心線5としてはポリエステル繊維、ポリアミド繊維、アラミド繊維、ガラス繊維、スチールワイヤ等から選ばれたロープが用いられる。また、心線5はロープをスパイラル状に埋設したもの以外にも、上記の繊維の織布、編み布や金属薄板等を使用することもできる。また、凹条部6、7を有するセンターベルトの上下面にはポリエステル繊維、ポリアミド繊維、アラミド繊維、ガラス繊維などからなる織布や編布にRFL処理液やゴム糊などを被覆することによって接着処理したものが積層されている。
【実施例】
【0050】
(実施例1)
実施例1としては、図1に示すよう高負荷伝動ベルトであり、ブロックに用いた樹脂材料としてはカーボン繊維を30質量%含有した46ナイロンを使用した。そしてセンターベルトとして心線5にアラミド繊維、エラストマー4にクロロプレンゴムを用いたものとした。センターベルトの表面には芳香族イソシアネート化合物にゴムが15質量%になるようにクロロプレンゴムをトルエンに溶かしたものを添加した接着剤をディップすることによって約30μm厚みで被覆した。ベルトのサイズはベルトピッチ幅18mm、ピッチ周長690mm、ブロックピッチ5mmとした。
【0051】
得られたベルトを表1に示す条件で走行させて、発生した騒音レベルと寿命時間を測定した。その結果を表2に示す。
【0052】
(実施例2)
接着剤中のゴムの含有率を5質量%とした以外は実施例1と全く同じ条件でベルトを作成した。得られたベルトを表1に示す条件で走行させて、発生した騒音レベルと寿命時間を測定した。その結果を表2に示す。
【0053】
(実施例3)
接着剤中のゴムの含有率を30質量%とした以外は実施例1と全く同じ条件でベルトを作成した。得られたベルトを表1に示す条件で走行させて、発生した騒音レベルと寿命時間を測定した。その結果を表2に示す。
【0054】
(比較例1)
接着剤中のゴムの含有率を1質量%とした以外は実施例1と全く同じ条件でベルトを作成した。得られたベルトを表1に示す条件で走行させて、発生した騒音レベルと寿命時間を測定した。その結果を表3に示す。
【0055】
(比較例2)
接着剤中のゴムの含有率を40質量%とした以外は実施例1と全く同じ条件でベルトを作成した。得られたベルトを表1に示す条件で走行させて、発生した騒音レベルと寿命時間を測定した。その結果を表3に示す。
【0056】
(比較例3)
センターベルト表面に接着剤を付着させなかった以外は実施例1と全く同じ条件でベルトを作成した。得られたベルトを表1に示す条件で走行させて、発生した騒音レベルと寿命時間を測定した。その結果を表3に示す。
【0057】
(比較例4)
センターベルト表面の接着剤の厚みを5μmとした以外は実施例1と全く同じ条件でベルトを作成した。得られたベルトを表1に示す条件で走行させて、発生した騒音レベルと寿命時間を測定した。その結果を表3に示す。
【0058】
(比較例5)
センターベルト表面の接着剤の厚みを230μmとした以外は実施例1と全く同じ条件でベルトを作成した。得られたベルトを表1に示す条件で走行させて、発生した騒音レベルと寿命時間を測定した。その結果を表3に示す。
【0059】
【表1】

【0060】
【表2】

【0061】
【表3】

【0062】
表2、表3の結果から、センターベルト表面に接着剤を設けなかった比較例3と比べるとその他のベルトは騒音レベルも低く寿命も長くなっていることから、ブロックとセンターベルトを接着剤で接着固定することの効果が確認できる。また、実施例1〜3では騒音レベルも低く長時間走行しても異常が発生していないのに対して、比較例1、4はセンターベルトの摩耗による切断で寿命となっており、接着剤中のゴムの含有量が少ないために接着剤がセンターベルトに対して十分な接着力を示さず走行する中でその界面で剥離が生じ、摩擦が発生しているためと考えられる。比較例3ではブロックとセンターベルトが最初から全く接着されていない状況で早い段階でセンターベルトの切断による寿命を迎えており、騒音も大きくなっている。
【産業上の利用可能性】
【0063】
自動車や自動二輪車、農業機械の無段変速装置など、プーリの有効径が変化し大きなトルクを伝達するようなベルトの製造に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本発明の高負荷伝動ベルトの要部斜視図である。
【図2】本発明の高負荷伝動ベルトの側面図である。
【図3】本発明の製造方法で用いられる製造装置の概要斜視図である。
【図4】金型を開いたところから見た正面図である。
【図5】ブロック形状の別の例を示す正面図である。
【図6】本発明の別の例を示す高負荷伝動ベルトの斜視図である。
【符号の説明】
【0065】
1 高負荷伝動ベルト
2 ブロック
2a 側面
2b 側面
3 センターベルト
4 ゴム
5 心線
6 接着剤
7 凹条部
8 凹条部
11 上ビーム部
12 下ビーム部
13 側部
14 側部
15 開口部
16 凸条部
17 凸条部
18 凸条部
30 金型
31 金型
32 センターベルト保持部
33 キャビティ
35 スライド部
36 スライド部
37 キャビティ
38 ゲート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム中に心体を埋設したセンターベルトと、該センターベルトの長手方向に沿って複数のブロックを設けた高負荷伝動ベルトであって、センターベルト保持部と、該センターベルト保持部に保持されたセンターベルトの所定位置に成形されたブロックが嵌合されるように配置したブロックを成形するためのキャビティを有した金型を用いて、センターベルトを前記センターベルト保持部にセットした状態で金型内のキャビティに樹脂材料を送り込んでブロックを成形すると同時にセンターベルトにブロックを取り付けることによって得た高負荷伝動ベルトにおいて、センターベルト表面の少なくともブロックを取り付ける箇所の一部に接着剤を被覆してなることを特徴とする高負荷伝動ベルト。
【請求項2】
接着剤にはセンターベルトを構成するゴムと同種のゴムを5〜30質量%添加してなる請求項1記載の高負荷伝動ベルト。
【請求項3】
接着剤の厚みを10〜200μmの範囲内に設定した請求項1記載の高負荷伝動ベルト。
【請求項4】
センターベルトと、該センターベルトの長手方向に沿って複数のブロックを設けた高負荷伝動ベルトの製造方法において、金型はセンターベルト保持部と、該センターベルト保持部に保持されたセンターベルトの所定位置に成形されたブロックが嵌合されるように配置したブロックを成形するためのキャビティを有しており、センターベルトを前記センターベルト保持部にセットした状態で金型内のキャビティに樹脂を射出することによって、ブロックを成形すると同時にセンターベルトにブロックを取り付ける高負荷伝動ベルトの製造方法において、センターベルト表面の少なくともブロックを取り付ける箇所の一部に接着剤を処理したものを用いたことを特徴とする高負荷伝動ベルトの製造方法。
【請求項5】
接着剤にはセンターベルトを構成するゴムと同種のゴムを5〜30質量%添加してなる請求項3記載の高負荷伝動ベルトの製造方法。
【請求項6】
接着剤の厚みを10〜200μmの範囲内に設定した請求項1記載の高負荷伝動ベルトの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−57835(P2006−57835A)
【公開日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−211896(P2005−211896)
【出願日】平成17年7月21日(2005.7.21)
【出願人】(000006068)三ツ星ベルト株式会社 (730)
【Fターム(参考)】