説明

高電圧パルス発生装置及びこれを用いた放電励起ガスレーザ装置

【課題】高効率に高電圧短パルスを負荷に印加可能な高電圧パルス発生装置、及びこれを用いた放電励起ガスレーザ装置を提供する。
【解決手段】高電圧パルスを発生するパルス発生回路24と、発生した高電圧パルスを圧縮するパルス圧縮回路25とを備え、パルス発生回路24及びパルス圧縮回路25を構成する要素部品のうち、少なくとも一部が絶縁性冷媒に満たされた容器中に設置され、容器中に設置された要素部品と容器の外部に設置された要素部品との間が、電流導入端子44を介して電気的に接続される高電圧パルス発生装置において、電流導入端子44が、高圧側及び接地側の通電部材57、58を備え、前記高圧側及び接地側の通電部材57、58のうち少なくとも一方が面形状となっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高電圧パルス装置、及びこれを用いた放電励起ガスレーザ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体集積回路の微細化、高集積化につれて、その製造用の投影露光装置においては解像力の向上が要請されている。このため、露光用光源から放出される露光光の短波長化が進められており、半導体露光用光源として、従来の水銀ランプに代わって波長248nmのKrFエキシマレーザ装置が用いられている。
【0003】
また、現在は波長193nmのArFエキシマレーザ装置が使用され始めており、さらに、次世代の半導体露光用光源として、波長157nmのフッ素分子レーザ装置等の紫外線を放出するガスレーザ装置が有力である。
【0004】
これらの露光用ガスレーザ装置においては、レーザ媒質であるレーザガスが数百kPaで封入されたレーザチャンバの内部に所定距離離間して対向した一対の主放電電極が設置される。そして高電圧パルス発生装置を用いて主放電電極に高電圧パルスを印加してパルス放電を発生させることによってレーザガスを励起し、レーザ光を発振させる。ガスレーザ装置では上記した放電動作が繰返し行われ、所定の発振周波数でのパルスレーザ発振が行われる。
【0005】
露光用ガスレーザ装置においては、スループットの増大や、露光量の安定化のため、高繰り返し発振(例えば、KrFエキシマレーザ装置やArFエキシマレーザ装置においては発振周波数4kHz以上、フッ素分子レーザ装置においては発振周波数2kHz以上)が要求される。
高繰り返し発振を実現するには、主放電電極に印加する高電圧パルスは立上りが速く、また短パルスであることが望ましい。
【0006】
図10は、下記特許文献1に示すような露光用ガスレーザ装置において、レーザ媒質であるレーザガスを励起するためにレーザガスが封入されたレーザチャンバ内で主放電を発生させるための、高電圧パルス発生装置の回路の一例を示している。図10において、高電圧パルス発生装置は、高電圧パルスを発生させるパルス発生回路24と、発生したパルスを圧縮するパルス圧縮回路25とを備えている。
【0007】
パルス発生回路24及びパルス圧縮回路25は、可飽和リアクトルからなる3個の磁気スイッチSR1、SR2,SR3と、主コンデンサC0、第1コンデンサC1、第2コンデンサC2、ピーキングコンデンサCpと、昇圧トランスTrと、固体スイッチSWとを備えている。図10において、GNDが接地側、HVが高圧側である。
【0008】
磁気スイッチSR1、SR2,SR3、コンデンサC1、C2、及び昇圧トランスTrは、絶縁ならびに冷却のために、絶縁性冷媒である絶縁オイルを充填したオイルタンク11の内部に設置されている。
また露光用ガスレーザ装置は、レーザガスを封入したレーザチャンバ12を備えている。レーザチャンバ12の内部には、主放電電極14、15、予備電離電極21、及び予備電離コンデンサCcが設置されている。
【0009】
固体スイッチSWは、例えばIGBT等の半導体スイッチ素子からなり、図示しないゲート回路からの信号に基づき、急激に短絡する。
また磁気スイッチSR1、SR2,SR3は、例えば可飽和リアクトルからなり、それらの両端に印加された電圧と電圧の印加時間との積(電圧の時間積分値)が、各磁気スイッチの特性で決まる所定の値になると飽和して、急激に低インピーダンスとなる。尚、磁気スイッチSR1は固体スイッチSWにおけるスイッチングロスを低減させるために用いられるものであり、磁気アシストとも呼ばれる。
【0010】
まず、パルス発生回路24について説明する。
パルス発生回路24は、主コンデンサC0、磁気アシストSR1、昇圧トランスTrの1次側、及び固体スイッチSWを備えている。
高圧電源CHGから、所定の高電圧が主コンデンサC0に印加され、主コンデンサC0が充電される。このとき、固体スイッチSWは、オフ(絶縁)状態になっている。
【0011】
主コンデンサC0の充電が完了し、固体スイッチSWを図示しないコントローラからオン(短絡)状態にすると、固体スイッチSW両端にかかっていた電圧VC0が、磁気アシストSR1の両端にかかる。上述したように、磁気アシストSR1の両端にかかる電圧VC0の時間積分値が、磁気アシストSR1の特性で定められた所定値に達すると、磁気アシストSR1は飽和して低インピーダンスとなる。
【0012】
これにより、主コンデンサC0、磁気アシストSR1、昇圧トランスTrの1次側、及び固体スイッチSWからなるループに、1次側巻線19を通って、電流i1が流れる。そして、昇圧トランスTrに発生した磁束によって、その2次側に電流が誘導され、昇圧トランスTrの2次側及び第1コンデンサC1からなる第1のループに電流i2が流れて、第1コンデンサC1が電圧VC1で充電される。
【0013】
このとき、昇圧トランスTrの1次側巻線対2次側巻線の巻数(ターン数)比に応じて、電圧が昇圧される。一例として、1次側対2次側の巻数比は1対8になっており、高圧電源CHGから3.8kVの電圧VC0が主コンデンサC0に印加されると、第1コンデンサC1には、そのほぼ8倍の約30kVの高電圧VC1が充電されることになる。
【0014】
次に、パルス圧縮回路25について説明する。
第1コンデンサC1に充電された高電圧VC1の時間積分値が、磁気スイッチSR2の特性で決まる所定の値に達すると、磁気スイッチSR2が飽和して低インピーダンスとなる。その結果、第1コンデンサC1、磁気スイッチSR2、及び第2コンデンサC2からなる第2のループに図示しない電流が流れ、第1コンデンサC1に蓄えられていた電荷が、第2コンデンサC2に移行する。
【0015】
このとき、第2のループは、第1のループよりもインダクタンスが小さくなるように構成されている。これによってパルスの圧縮が行われ、第2のループを流れる電流は、第1のループを流れる電流i2よりもパルス幅が小さく、尖頭値が大きなパルス電流となっている。
【0016】
第2コンデンサC2に電荷が蓄えられ、磁気スイッチSR3の両端部に印加された電圧VC2時間積分値が磁気スイッチSR3の特性で決まる所定値になると、磁気スイッチSR3が飽和して低インピーダンスとなる。
これにより、第2コンデンサC2、磁気スイッチSR3、及びピーキングコンデンサCpからなる第3のループに図示しない電流が流れ、第2コンデンサC2に蓄えられていた電荷が、ピーキングコンデンサCpに移行する。
【0017】
予備電離電極21は、棒状の金属からなる第1予備電離電極17と、その周囲を取り囲む誘電体チューブ16と、誘電体チューブ16に接触した金属製の第2予備電離電極18とを備えている。第1予備電離電極17は高圧HV側に、第2予備電離電極18は接地GND側に、それぞれ接続されている。
【0018】
ピーキングコンデンサCpの充電が進むにつれて、第1予備電離電極17と第2予備電離電極18との間の電位差が増大し、所定の電位差になると、誘電体チューブ16表面に、コロナ放電が発生する。このコロナ放電によって誘電体チューブ16の表面に紫外線が発生し、これにより、主放電電極14、15間のレーザガスが電離され、予備電離が起きる。
【0019】
ピーキングコンデンサCpの充電がさらに進んで、ピーキングコンデンサCpの電圧VCpがブレークダウン電圧に達すると、主放電電極(14、15)間のレーザガスに絶縁破壊が生じて、放電空間で主放電が開始される。これにより、レーザガスが励起され、レーザ光が発生する。
主放電によって、ピーキングコンデンサCpの電圧は急激に低下する。
【0020】
このような放電動作が、固体スイッチSWのスイッチング動作によって繰り返されることにより、所定の発振周波数で、パルスレーザ発振が行われる。
尚、上記のパルス圧縮回路25は、磁気スイッチを用いていることから、磁気パルス圧縮回路とも呼ばれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0021】
【特許文献1】特開2001−217492号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
しかしながら、前記従来技術には、次に述べるような問題がある。
図11に、上記のような高電圧パルス発生装置における要素部品の配置図を示す。
上述したパルス発生回路24の磁気アシストSR1及び昇圧トランスTr、並びに、パルス圧縮回路25の磁気スイッチSR2,SR3、第1コンデンサC1、及び第2コンデンサC2は、動作時の発熱量が大きいために冷却する必要がある。
【0023】
通常これらは、冷却のために、絶縁オイル等の絶縁性冷媒が満たされ、オイルタンク11の内部に設置される。
即ち、図11に示すように、磁気アシストSR1及び昇圧トランスTrは、オイルタンク11の内部に設置されている。37及び38は、電流をオイルタンク11の内部に導入する、第1及び第2の電流導入端子である。
【0024】
第1電流導入端子37と第2電流導入端子38は、略同様の構造をしている。図12に、第1電流導入端子37の斜視図を示す。
図11、図12に示すように、碍子等の絶縁性の筒状絶縁部材51の中心部には、金属製のロッド52が挿入されている。筒状絶縁部材51の外部には、金属製のフランジ53が取り付けられ、フランジ53とオイルタンク11の壁面との間は、図示しないボルトで固定されている。
【0025】
オイルタンク11の壁面にはOリング溝54が設けられ、図示しないOリングによってフランジ53との間を封止している。また、ロッド52と筒状絶縁部材51との間、及び筒状絶縁部材51とフランジ53との間には、図示しないOリング溝が設けられ、Oリングで封止されている。
【0026】
図10に示したように、第1の電流導入端子37のロッド52は、オイルタンク11の外側で、固体スイッチSWに接続されている。また、第2の電流導入端子38のロッド52は、オイルタンク11の外側で主コンデンサC0と、高圧電源CHGの高圧側HVに接続されている。
【0027】
また、図11に示すように、第1電流導入端子37のロッド52は、オイルタンク11の内側で、1次側巻線19の一端部19Aに接続されている。1次側巻線19は、磁気アシストSR1及び昇圧トランスTrの外側を通って、昇圧トランスTr及び磁気アシストSR1を、それぞれ所定回数だけターンする。そして、1次側巻線19の他端部19Bは、オイルタンク11の内側で、第2電流導入端子38のロッド52に接続されている。
【0028】
このとき、短絡や沿面放電を防ぐために、第1の電流導入端子37のロッド52と、第2の電流導入端子38のロッド52との距離L1は、非常に大きくなっている。
その結果、1次側巻線19が囲む、図11中にハッチングで示す領域28の面積が大きくなってしまう。これにより、上述したパルス発生回路24のインダクタンスが大きくなり、パルス発生回路24で発生する電圧パルスのパルス幅を狭くすることが困難になるという問題がある。
【0029】
また、電流導入端子37、38において、電流を導入する部材であるロッド52、52は、いずれも棒状の部材となっている。そのため、ロッド52、52を電流が通る際の浮遊インダクタンスが大きく、パルス発生回路24のインダクタンスが大きくなるという問題がある。
【0030】
上述したように露光用ガスレーザ装置(KrFレーザ装置、ArFレーザ装置、フッ素分子レーザ装置)は、高繰り返し発振が求められている。また、KrFレーザ装置、ArFレーザ装置、フッ素分子レーザ装置と放出するレーザ光の波長が短くなるにつれ、放電空間に投入するエネルギーも大きくなる。
【0031】
一方、高繰り返し化の要請に応えるためには、ピーキングコンデンサCpへのエネルギー移行時間(図1における磁気パルス圧縮回路25の最終段のコンデンサC2からピーキングコンデンサCpへの電荷の移行時間)を短くする必要がある。
【0032】
ピーキングコンデンサCpへの充電時間が短くない場合、すなわち、主放電電極14、15へ印加される電圧パルスの立上りが速くない場合、放電開始電圧Vbが小さいうちに主放電電極14、15間で放電が発生するのでレーザ出力が小さくなる。特に波長の短いレーザ光を放出するガスレーザ装置ほど、放電空間に大きなエネルギーを投入しなければならないので、影響は大きい。
【0033】
また、ピーキングコンデンサCpに移行しきれない余剰電流が、磁気パルス圧縮回路25の最終段のコンデンサ(図1ではコンデンサC2)から放電空間へ流れ込むが、この余剰電流はレーザ発振に寄与しない。よって、放電パルスの後半部で、電界集中等により放電が不均一となって、次回のパルス放電に悪影響を及ぼすことがある。
【0034】
特に、発振周波数が高くなると、パルス間隔が短くなるので、前回のパルス放電の影響を受ける可能性が高くなる。よって、上記履歴の影響を受けないようにするには、ピーキングコンデンサCpへの充電時間をできるだけ短くする必要がある。
【0035】
上記の例のように、パルス発生回路24で発生させるパルスのパルス幅を短くできない場合、磁気パルス圧縮回路25の圧縮比を大きくしなければならない。
圧縮比を増大させるには、2つの方法がある。一つは、磁気パルス圧縮回路25の段数は増大させず(例えば、2段)、各段での圧縮比を増大させる方法である。すなわち、各磁気スイッチを構成する可飽和リアクトルのコアへの巻数を減らして、コアの断面積を大きくする。もう一つは、磁気パルス圧縮回路25の各段の圧縮比はそのままかあまり増大させず、段数を増やす方法である。
【0036】
前者の方法では、可飽和リアクトルのコアの断面積が増大するので、磁気パルス圧縮回路25が大型化する。一方、後者の方法では、各段の圧縮比は増大しないので各段個別には大型化しないが、段数が増える分、磁気スイッチとコンデンサのセットの数が増大するので、結局、磁気パルス圧縮回路25が大型化する。
【0037】
いずれにしても磁気パルス圧縮回路25が大型化することにより、メンテナンスも大掛かりなものとなり、また、磁気パルス圧縮回路25そのものの材料コストが増加する。
従って、パルス発生回路24のインダクタンスを、少しでも小さくすることが、求められている。
【0038】
本発明は、上記の問題に着目してなされたものであり、高効率に高電圧短パルスを負荷に印加可能な高電圧パルス発生装置、及びこれを用いた放電励起ガスレーザ装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0039】
上記の目的を達成するために、本発明は、
高電圧パルスを発生するパルス発生回路と、発生した高電圧パルスを圧縮するパルス圧縮回路とを備え、
パルス発生回路及びパルス圧縮回路を構成する要素部品のうち、少なくとも一部が絶縁性冷媒に満たされた容器中に設置され、
容器中に設置された要素部品と容器の外部に設置された要素部品との間が、電流導入端子を介して電気的に接続される高電圧パルス発生装置において、
前記電流導入端子が、高圧側及び接地側の通電部材を備えている。
これにより、高圧側通電部材と接地側通電部材との間の距離が短くなるので、パルス発生回路又はパルス圧縮回路の回路面積が小さくなり、インダクタンスが小さくなって、パルス幅の短い高電圧パルスを発生可能となる。
【0040】
また、本発明に係る高電圧パルス発生装置は、
前記高圧側及び接地側の通電部材のうち少なくとも一方が、面構造となっている。
これにより、通電部材の有する浮遊インダクタンスが小さくなるので、パルス発生回路又はパルス圧縮回路のインダクタンスが小さくなる。
【0041】
また本発明に係る高電圧パルス発生装置は、
前記高圧側及び接地側の通電部材のうち一方が柱状又は筒状形状であり、
他方がそれを同軸状に囲むような筒状形状となっている。
これにより、電流導入端子をコンパクトに構成可能である。
【0042】
また本発明に係る高電圧パルス発生装置は、
前記高圧側及び接地側の通電部材が、互いに略平行に配置された平板状である。
これにより、通電部材の有する浮遊インダクタンスが、より小さくなる。
【0043】
また本発明の放電励起ガスレーザ装置は、
レーザガスが密封されたレーザチャンバと、
レーザチャンバ内部に対向して配置された主放電電極とを備え、
上記の高電圧パルス発生装置から発生した高電圧パルスによって主放電電極間に主放電を発生させ、レーザガスを励起してレーザ光を発生させている。
これにより、立上りの速い、狭いパルス幅の電流で主放電を起こすことができるので、大量のエネルギーを主放電電極間に注入することができ、レーザ光の発振効果が向上する。また、安定な高繰り返し発振動作が可能となる。
【0044】
また本発明の放電励起ガスレーザ装置は、
前記放電励起ガスレーザ装置がエキシマレーザ装置又はフッ素分子レーザ装置のいずれかである。
本発明を、エキシマレーザ装置又はフッ素分子レーザ装置に応用することにより、発振周波数が増大するので、これらのレーザ装置を半導体露光用の光源として用いることにより、半導体製造の効率が向上する。
【0045】
また本発明の放電励起ガスレーザ装置は、
前記放電励起ガスレーザ装置がフッ素分子レーザ装置であり、
発振周波数が2kHz以上である。
フッ素分子レーザ装置においては、半導体露光用の光源として2kHz以上の発振周波数を得ることが求められており、そのためには本発明を応用して、立上りの速い、狭いパルス幅の電流で主放電を起こす必要がある。
【0046】
また本発明の放電励起ガスレーザ装置は、
前記放電励起ガスレーザ装置及びエキシマレーザ装置であり、
発振周波数が4kHz以上である。
エキシマレーザ装置においては、半導体露光用の光源として4kHz以上の発振周波数を得ることが求められており、そのためには本発明を応用して、立上りの高い、狭いパルス幅の電流で主放電を起こす必要がある。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】第1実施形態に係る高電圧パルス発生装置の回路図。
【図2】第1実施形態に係る高電圧パルス発生装置の斜視図。
【図3】高電圧パルス発生装置を図2の矢印Cから見た正面図。
【図4】高電圧パルス発生装置を図2の矢印D方向から見た側面図。
【図5】ピーキングコンデンサの斜視図。
【図6】両極型電流導入端子44と磁気スイッチ及び昇圧トランスとの接続を示す正面図。
【図7】両極型電流導入端子44の斜視図。
【図8】第2実施形態に係る両極型電流導入端子の斜視図。
【図9】第3実施形態に係る両極型電流導入端子の斜視図。
【図10】従来技術に係る高電圧パルス発生装置の回路図。
【図11】従来技術に係る高電圧パルス発生装置の要素部品の配置図。
【図12】従来技術に係る電流導入端子の斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0048】
以下、図を参照しながら、本発明に係る実施形態を詳細に説明する。
図1は、第1実施形態に係る露光用ガスレーザ装置において、レーザ媒質であるレーザガスを励起するためにレーザガスが封入されたレーザチャンバ内で主放電を発生させるための、高電圧パルス発生装置の一例を示している。
図2は、第1実施形態に係る高電圧パルス発生装置の斜視図、図3は高電圧パルス発生装置を図2の矢印C方向から見た正面図、図4は高電圧パルス発生装置を図2の矢印D方向から見た側面図を、それぞれ示している。
【0049】
図3、図4に示すように、高電圧パルス発生装置は、レーザガスを封入したレーザチャンバ12の内部に、上下方向に対して配置された主放電電極14、15を備えている。
主放電電極14、15のうち、上側のカソード15の側面には、長手方向に沿って、複数のピーキングコンデンサCpが配置されている。
【0050】
図5にピーキングコンデンサCpの斜視図を示す。ピーキングコンデンサCpはセラミックコンデンサであり、円筒形状の両端部に、それぞれ金属製のコンデンサ電極30、30を備えている。コンデンサ電極30には、ネジ山が切られた取付穴31が設けられ、ボルトをねじ込んで巻線を固定することができる。尚、コンデンサC1、C2の形状も、ほぼ同様である。
ピーキングコンデンサCpは、両側のコンデンサ電極30、30を結んだ方向が、主放電電極14、15を含む平面と略垂直になるように固定されている。そして、一側コンデンサ電極30は、主放電電極14、15に接続され、他側コンデンサ電極30は、レーザチャンバ12に接地されている。
【0051】
レーザチャンバ12の上部には開口部32が設けられ、絶縁板33で封止されている。カソード15の上部には、金属製の電流通電部材34が突出し、絶縁板33を貫通して、レーザチャンバ12の上部に設置されたオイルタンク11の内部に突出している。電流通電部材34と絶縁板33及びオイルタンク11との間は、それぞれ図示しないOリングによって封止されている。
【0052】
オイルタンク11内部の最下段には、細長いループ状のコアを備えた、最終段磁気スイッチSR3が設置されている。図2においては、ループの形状として、平行な直線の両端部同士を曲線で接続した、例えば陸上競技のトラックのような長穴形状を例示したが、これらに限られるものではない。例えば、楕円(長円)形状や、或いは長方形の四隅に曲率を設けた(R面取りを施した)形状など、細長いループ状であればよい。
尚、以下の説明においては、コアの端面47に平行な平面をコアのループ面、コアの側面48に平行な方向を、コアの軸方向と呼ぶ。
【0053】
最終段磁気スイッチSR3は、コアのループ面が主放電電極14、15の対向方向と垂直な水平面内にあるように、かつ、ループ面の長軸が主放電電極14、15の長手方向と一致するように設置されている。
最終段磁気スイッチSR3の上方には、それぞれ略円形のコアを有する磁気アシストSR1と、昇圧トランスTrと、磁気スイッチSR2とが、コアの軸方向を主放電電極14、15の長手方向と略一致させ、かつそれぞれのコアの中心軸を略一致させて配置されている。
【0054】
尚、本実施形態においては、冷却のために、昇圧トランスTrはコアを軸方向に3分割し、磁気スイッチSR1は2分割して構成されている。これは、コアの放熱が両側端面47、47のみから行われることから、端面47の数を増やして、コア内部に熱がこもらないようにしているものである。但し、分割数は、これに限られるものではなく、また、分割しない場合もある。
【0055】
最終段磁気スイッチSR3の両側方には、複数の第2コンデンサC2が、主放電電極14、15の長手方向に沿って、両側コンデンサ電極30、30を結ぶ方向が略鉛直となるように配置されている。このとき、第2コンデンサC2の数と、ピーキングコンデンサCpの数とを一致させることは、必須ではないが好適である。
【0056】
これにより、「第2コンデンサC2−最終段磁気スイッチSR3−ピーキングコンデンサCp」の距離を最小にし、浮遊インダクタンスを低減させられる。さらには、第2コンデンサC2の位置を、対応するピーキングコンデンサCpの位置になるべく近づけるようにすると、なおよい。
第2コンデンサC2の上方には、第2コンデンサC2と略同数の第1コンデンサC1が、主放電電極14、15の長手方向に沿って両側コンデンサ電極30、30を結ぶ方向が略鉛直となるように配設されている。
【0057】
オイルタンク11の内部には、絶縁性のオイルが充満している。オイルタンク11内部のコアの上方には、絶縁オイルを冷却する熱交換器39が設置されており、熱交換器39の内部には、外部から冷却水が導入されている。
図4に示すように、オイルタンク11内部の下部の、最終段磁気スイッチSR3の手前側側方には、オイルタンク11と長手方向を一致させて、クロスフローファン41が設置されている(図2、図3には図示せず)。
【0058】
クロスフローファン41は、例えば図示しない磁気カップリング等を介して、オイルタンク11の外部に設置された図示しないモータによって駆動され、絶縁オイルをオイルタンク11の内部で循環させる(矢印40)。クロスフローファン41の長手方向の寸法は、オイルタンク11の長手方向の寸法に、なるべく近くなるようになっている。
【0059】
これにより、絶縁オイルはコアで発生した熱を奪い、熱交換器39で冷却されてクロスフローファン41に戻る。このとき絶縁オイルの流れは、コアの端面47,47間を、コアの端面47に平行に通過する。コアは、上述したように、その両側端面47、47から大半の熱を放熱するので、絶縁オイルにコアの端面47、47間を通過させることにより、効率的に熱を奪うことができ、好適な冷却が可能となっている。
【0060】
以下、電気的な接続について説明する。レーザチャンバ12及びオイルタンク11は接地されており、カソード15に対向するアノードも、レーザチャンバ12を介して接地されている。
第2コンデンサC2の下側のコンデンサ電極30は、例えば銅製の第2接地プレート36によって、それぞれのオイルタンク11に接地されている。また、第2コンデンサC2の上側のコンデンサ電極30に接続された第2巻線43は、最終段磁気スイッチSR3を所定巻数だけターンして、電流通電部材34に接続されている。
【0061】
第1コンデンサC1の下側コンデンサ電極30は、例えば銅製の第1接地プレート35によって、それぞれオイルタンク11に接地されている。尚、図3においては、説明のために銅プレートが図中左右に折り曲げられているように描画されているが、実際には、図4に示すように、第2コンデンサC2の外側に折り曲げられている。
【0062】
また、第1コンデンサC1の上側コンデンサ電極30は、水平方向に渡された銅製のプレート状電極29によって、互いに短絡されている。プレート状電極29には、例えば図示しない孔が設けられ、ボルトとナットを用いて、第1巻線42が接続自在となっている。第1巻線42は、電気スイッチSR2を所定巻数だけターンして、第2コンデンサC2の上側コンデンサ電極30に接続される。
また、前記プレート状電極29には、2次側巻線20も接続され、昇圧トランスTrを所定巻数だけターンして、GNDに接地されている。
【0063】
図3に示すように、オイルタンク11の壁面には、実施形態に係る両極型電流導入端子44が取着されている。以下、両極型電流導入端子44について、詳細に説明する。
図6に、両極型電流導入端子44と磁気スイッチSR1及び昇圧トランスTrとの接続を示す正面図、図7に両極型電流導入端子44の斜視図を示す。
【0064】
図6、図7に示すように、両極型電流導入端子44は、中央部を貫通する金属製の柱状の高圧側通電部材57と、その周囲を取り巻く絶縁部材56と、その周囲を筒状に取り巻く金属製の接地側通電部材58と、その周囲を取り巻く絶縁性のフランジ59とを備えている。
フランジ59にはOリング溝60が設けられ、図示しないOリングによって、オイルタンク11の壁面との間を封止している。フランジ59の、Oリング溝60の内周側には、図示しないボルト穴が設けられ、オイルタンク11の外側からボルトによって固定されている。
【0065】
両極型電流導入端子44の接地側通電部材58は、オイルタンク11の内側において、1次巻線19の一端部19Aに接続している。1次側巻線19は、磁気アシストSR1及び昇圧トランスTrの外側を通って、昇圧トランスTr及び磁気アシストSR1を、それぞれ所定回数だけターンする。そして、1次側巻線19の他端部19Bは、オイルタンク11の内側で、両極型電流導入端子44の高圧側通電部材57に接続されている。
【0066】
一方、高圧側通電部材57は、オイルタンク11の外側で、主コンデンサC0と、高圧電源CHGの高圧側HVに接続されている。また、接地側通電部材58は、オイルタンク11の外側で、固体スイッチSWに接続されている(図1参照)。
【0067】
以上説明したように第1実施形態によれば、電流導入端子を両極型として、1つの両極型電流端子44が、高圧側と接地側との通電部材57、58を備えるようにしている。これにより、通電部材間の距離L2が小さくなるので、1次側巻線19が囲む領域28の面積が小さくなる。
その結果、パルス発生回路24のインダクタンスが小さくなるので、パルス発生回路24で発生する電圧パルスのパルス幅を狭くすることが容易となる。
【0068】
また、接地側電流通電部材を筒型形状としているので、接地側電流通電部材における浮遊インダクタンスが小さくなり、同様にパルス発生回路24のインダクタンスが小さくなる。
【0069】
従って、磁気パルス圧縮回路25の圧縮比を大きくする必要がなく、高電圧パルス発生装置を大型化しなくても、ピーキングコンデンサCpへの充電時間が短くなり、高繰り返し発振が可能となる。
【0070】
図8に、第2実施形態に係る両極型電流導入端子44の斜視図を示す。図8において、両極型電流導入端子44は、中央に平板型の高圧側通電部材57を備え、その周囲を絶縁部材56で囲み、その上下両側に平板型の接地側通電部材58を配置している。
そして、フランジ59によって、これらの部材をオイルタンク11に固定している。両極型電流導入端子44を、1次側巻線19を用いて磁気スイッチSR1及び昇圧トランスTrに接続した場合の正面図は、図6に示したものと同様である。
【0071】
第2実施形態によれば、高圧側通電部材57を平板としている。これにより、高圧側通電部材57における浮遊インダクタンスも小さくなるので、第1実施形態に加えて、パルス発生回路24のインダクタンスをさらに小さくすることができる。
【0072】
図9に、第3実施形態に係る両極型電流導入端子44の斜視図を示す。図9において両極型電流導入端子44は、中央に棒状の絶縁部材61と、その周囲を取り巻く筒状の高圧側通電部材57とを備えている。そして、その周囲を筒状に取り巻く絶縁部材56と、その周囲を筒状に取り巻く金属製の接地側通電部材58と、その周囲を取り巻く絶縁性のフランジ59とを備えている。
それぞれの間は、図示しないOリングによって封止されている。
【0073】
第3実施形態によれば、高圧側通電部材57を筒状としているので、高圧側通電部材57の浮遊インダクタンスが小さくなり、しかも全体を同軸状に構成しているので、両極型電流導入端子44がコンパクトとなる。
尚、第1、第3実施形態の説明において、高圧側通電部材57及び接地側通電部材58を、円柱状や円筒状としたが、これに限られるものではなく、断面が楕円や多角形の、柱状や筒状でもよい。
【0074】
尚、高電圧パルス発生装置の回路例として、まずパルス発生回路によって発生したパルスを昇圧トランスTrによって増幅し、磁気パルス圧縮回路25によって圧縮する場合について説明したが、これに限られるものではない。
例えば、パルス圧縮回路25が前段にあって、パルスを圧縮してから、これを昇圧トランスTrによって増幅してもよい。或いは、入力が充分大きい場合、昇圧トランスTrを省略してもよい。
このような場合においても、本発明に係る両極型電流導入端子44を用いることにより、インダクタンスを小さくすることができるので、パルス圧縮回路25のコアが小さく、段数も少なくなる。
【符号の説明】
【0075】
11:オイルタンク、12:レーザチャンバ、14:主放電電極(アノード)、15:主放電電極(カソード)、16:誘電体チューブ、17:第1予備電離電極、18:第2予備電離電極、19:1次側巻線、20:2次側巻線、21:予備電離電極、24:パルス発生回路、25:パルス圧縮回路、28:領域、29:プレート状電極、30:コンデンサ電極、31:取付穴、32:開口部、33:絶縁板、34:電流通電部材、35:第1接地プレート、36:第2接地プレート、37:第1電流導入端子、38:第2電流導入端子、39:熱交換器、40:オイル流、41:クロスフローファン、42:第1巻線、43:第2巻線、44:両極型電流導入端子、47:コア電極、48:コア側面、51:筒状絶縁部材、52:ロッド、53:フランジ、54:Oリング溝、56:絶縁部材、57:高圧側通電部材、58:接地側通電部材、59:フランジ、60:Oリング溝、61:絶縁部材。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高電圧パルスを発生するパルス発生回路(24)と、発生した高電圧パルスを圧縮するパルス圧縮回路(25)とを備え、
パルス発生回路(24)及びパルス圧縮回路(25)を構成する要素部品のうち、少なくとも一部が絶縁性冷媒に満たされた容器中に設置され、
容器中に設置された要素部品と容器の外部に設置された要素部品との間が、電流導入端子(44)を介して電気的に接続される高電圧パルス発生装置において、
パルス発生回路(24)及びパルス圧縮回路(25)を構成する要素部品のうち、少なくともパルス発生回路を構成する要素部品が絶縁性冷媒に満たされた容器中に設置され、
電流導入端子が、容器の内外を貫く高圧側通電部材と、高圧側通電部材の周囲を取り巻く絶縁部材(56)と、絶縁部材の周囲に配される接地側通電部材と、接地側通電部材の周囲を取り巻き、かつ、容器内面に密着して絶縁性冷媒の流出を防ぐ絶縁性のフランジとを具備する
ことを特徴とする上記の高電圧パルス発生装置。
【請求項2】
容器の外側に、高圧電源が設けられ、
容器の内側において、電流導入端子の接地側通電部材は、パルス発生回路の巻線の一端に接続され、巻線の他の一端が、電流導入端子の高圧側通電部材に接続され、
容器の外側において、電流導入端子の高圧型通電部材は、高圧電源の高圧端子側に接続され、電流導入端子の接地側通電部材は、高圧電源の接地側端子に接続される
ことを特徴とする請求項1に記載の高電圧パルス発生装置。
【請求項3】
絶縁性のフランジと容器内面との間にOリングを設け、絶縁性冷媒を封止する請求項1又は2に記載の高電圧パルス発生装置。
【請求項4】
高圧側通電部材が、容器の内外方向に延びる絶縁部材(61)の外側を取り巻くよう設けられ、その形状が筒状である請求項1〜3のいずれかに記載の高電圧パルス発生装置。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれかに記載の高電圧パルス発生装置において、
前記高圧側及び接地側の通電部材(57、58)のうち少なくとも一方が面形状となっている
ことを特徴とする高電圧パルス発生装置。
【請求項6】
請求項5記載の高電圧パルス発生装置において、
前記高圧側及び接地側の通電部材(57、58)のうち一方が柱状又は筒状形状であり、
他方がそれを同軸状に囲むような筒状形状となっている
ことを特徴とする高電圧パルス発生装置。
【請求項7】
請求項5記載の高電圧パルス発生装置において、
前記高圧側及び接地側の通電部材(57、58)が、互いに略平行に配置された平板状である
ことを特徴とする高電圧パルス発生装置。
【請求項8】
放電励起ガスレーザ装置において、
レーザガスが密封されたレーザチャンバ(12)と、
レーザチャンバ(12)内部に対向して配置された主放電電極(14、15)とを備え、
請求項1〜7のいずれかに記載の高電圧パルス発生装置から発生した高電圧パルスによって主放電電極(14、15)間に主放電を発生させ、レーザガスを励起してレーザ光を発生させている
ことを特徴とする放電励起ガスレーザ装置。
【請求項9】
請求項8記載の放電励起ガスレーザ装置において、
前記放電励起ガスレーザ装置がエキシマレーザ装置又はフッ素分子レーザ装置のいずれかである
ことを特徴とする放電励起ガスレーザ装置。
【請求項10】
請求項9記載の放電励起ガスレーザ装置において、
前記放電励起ガスレーザ装置がフッ素分子レーザ装置であり、
発振周波数が2kHz以上である
ことを特徴とする放電励起ガスレーザ装置。
【請求項11】
請求項9記載の放電励起ガスレーザ装置において、
前記放電励起ガスレーザ装置がエキシマレーザ装置であり、
発振周波数が4kHz以上である
ことを特徴とする放電励起ガスレーザ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−65547(P2012−65547A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−265145(P2011−265145)
【出願日】平成23年12月2日(2011.12.2)
【分割の表示】特願2006−69119(P2006−69119)の分割
【原出願日】平成18年3月14日(2006.3.14)
【出願人】(000102212)ウシオ電機株式会社 (1,414)
【出願人】(300073919)ギガフォトン株式会社 (227)
【Fターム(参考)】