説明

(メタ)アクリルポリマーとその製造方法ならびにそれを用いた高分子固体電解質および電気化学素子

【課題】従来のポリマーに比べて重合度および重合率が大きい固体状の(メタ)アクリルポリマーを提供する。
【解決手段】式(1)の構造単位を有し、酢酸エチル不溶部分の質量から求めたゲル分率G(%)と、酢酸エチル可溶部分の重量平均分子量Mw(万)との間にLog(Mw)>Log30−0.015Gが成立するポリマーとする。


1はH又はCH3、R2はCH3又はC25、R3はH、CH3又はC25、nは5〜23の自然数。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な(メタ)アクリルポリマーとその製造方法、ならびに、それを用いた高分子固体電解質および電気化学素子に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウム二次電池などの電気化学素子(以下、単に「素子」ともいう)に用いる電解質として、高分子固体電解質の開発が進められている。高分子固体電解質は、ベースとなるポリマーに、電気化学反応を担うイオン種を分散させた構造を有しており、通常、膜状やゲル状である。このため、高分子固体電解質を用いた素子は、一般的な電解質溶液(例えば、リチウム塩などの電解質塩を非水溶媒に溶解させた溶液)を用いた素子に比べて、液漏れなどの心配がなく、安全性に優れている。また、素子形状の自由度が高く、情報・携帯機器に用いる電源への応用が期待されている。
【0003】
ベースとなるポリマー(ベースポリマー)として、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイドなどのポリアルキレングリコール鎖(例えば、以下の化学式(3)に示すポリエチレングリコール鎖:PEG鎖)を有するポリマーが数多く検討されている。ポリアルキレングリコール鎖(PAG鎖)では、PAG鎖中の酸素原子によって分極が生じており、酸素原子と上記イオン種との間に、上記イオン種を輸送するために適度な配位結合が形成されると考えられるからである。特に、側鎖部分にPAG鎖を含むポリマー(例えば、特許文献1に記載)が、側鎖の運動性に基づく良好なイオン伝導性を示すと期待されている。なお、特許文献1に記載のポリマーは、PAG鎖としてポリエチレングリコール鎖を側鎖に有する(メタ)アクリルポリマーである。
【0004】
【化3】

【特許文献1】特開2005−142156号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
PAG鎖を側鎖に有する(メタ)アクリルポリマーは、通常、(メタ)アクリルモノマーの溶液重合や紫外線照射重合により形成される。しかし、アルキレングリコール単位の数(上記式(3)におけるn’に相当)がおよそ5以上になると、重合時に、側鎖の物理的なサイズが大きくなることに伴う立体的な重合阻害が生じたり、大きい側鎖による排除作用に伴って、重合基であるアクリル基の濃度低下が生じたり、重合連鎖移動性が増大したりすることから重合度および重合率を上げることができず、未反応のモノマーが残存したり、固体状のベースポリマーの形成が困難であったり(液体状のポリマーとなったり)する。また、通常、モノマー中に不純物として微量の2官能モノマーが存在しているため、重合時にゲル化が起きることがあり、この場合特に、溶液重合、紫外線照射重合などでは重合度および重合率を上げることが難しくなる。
【0006】
得られた低重合度および低重合率の液体状ポリマーにゲル化剤などの架橋剤を加えることにより、固体状のベースポリマーを形成する方法も試みられているが、架橋点の形成により固体状のポリマーは得られるものの、高分子固体電解質として好ましい力学的特性(ゴム状態であることに基づく成形性や柔軟性など)を発現するポリマーを得ることが難しい。
【0007】
アルキレングリコール単位の数が5を下回る場合、当該数が5以上の場合に比べて重合度を増大できるため固体状のベースポリマーを形成できるものの、当該ポリマーはリチウムイオンの分散性や側鎖の運動性に劣るため、高分子固体電解質とした場合に、イオン伝導性の確保が難しい。
【0008】
その他の重合法、例えば、エマルジョン重合や塊状重合により、(メタ)アクリルポリマーを形成することも考えられるが、これらの重合方法では、重合に必須である界面活性剤(エマルジョン重合)の影響や、重合方法の特徴として架橋度が大きくなったり、未反応モノマーが多く残存したりする(塊状重合)影響などにより、高分子固体電解質とした場合に、イオン伝導性を確保しながら、好ましい力学的特性を発現するベースポリマーを得ることが難しい。
【0009】
そこで本発明は、アルキレングリコール単位の数が5以上のPAG鎖を側鎖に含みながらも、同様の側鎖を有する従来のポリマーに比べて重合度および重合率が大きい固体状の(メタ)アクリルポリマーとその製造方法とを提供することを目的とする。本発明はまた、アルキレングリコール単位の数が5以上のPAG鎖を側鎖に含むポリマーをベースポリマーとしながらも、イオン伝導性に優れ、かつ、電解質として好ましい力学的特性を有する高分子固体電解質を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の(メタ)アクリルポリマーは、以下の化学式(1)により示される構造単位を有し、酢酸エチルに不溶な部分の質量から求めたゲル分率G(%)と、酢酸エチルに可溶な部分の重量平均分子量Mw(万)との間に、
Log(Mw)>Log30−0.015G
により示される関係が成立することを特徴としている。
【0011】
【化1】

【0012】
上記式(1)において、R1は、HまたはCH3であり、R2は、CH3またはC25であり、R3は、H、CH3またはC25であり、nは、5以上23以下の自然数である。
【0013】
本発明の(メタ)アクリルポリマーの製造方法は、上記本発明の(メタ)アクリルポリマーの製造方法であって、以下の化学式(2)により示されるモノマーを含むモノマー群を、液体または超臨界の状態にある二酸化炭素中において重合することを特徴としている。
【0014】
【化2】

【0015】
上記式(2)において、R4は、HまたはCH3であり、R5は、CH3またはC25であり、R6は、H、CH3またはC25であり、nは、5以上23以下の自然数である。
【0016】
本発明の高分子固体電解質は、上記本発明の(メタ)アクリルポリマーとイオン種とを含むことを特徴としている。
【0017】
本発明の電気化学素子は、一対の電極と、前記一対の電極によって狭持された電解質とを含む電気化学素子であって、前記電解質が、上記本発明の高分子固体電解質であることを特徴としている。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、アルキレングリコール単位の数が5以上のPAG鎖を側鎖に含み、酢酸エチルに不溶な部分の質量から求めたゲル分率G(%)と、酢酸エチルに可溶な部分の重量平均分子量Mw(万)との関係を所定の範囲に規定することにより、同様の側鎖を有する従来のポリマーに比べて重合度および重合率が大きい固体状の(メタ)アクリルポリマーとすることができる。また、このような(メタ)アクリルポリマーを含むことにより、アルキレングリコール単位の数が5以上のPAG鎖を側鎖に含むポリマーをベースポリマーとしながらも、イオン伝導性に優れ、かつ、電解質として好ましい力学的特性を有する高分子固体電解質とすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明の(メタ)アクリルポリマーは、以下の化学式(1)により示される構造単位を有している。
【0020】
【化1】

【0021】
上記式(1)において、R1は、HまたはCH3であり、R2は、CH3またはC25であり、R3は、H、CH3またはC25であり、nは、5以上23以下の自然数である。上記式(1)により示される構造単位は、(メタ)アクリル酸ポリアルキレングリコールモノアルキルエーテルの重合により形成された構造単位である。本明細書における「(メタ)アクリル酸」の表記は、アクリル酸(R1=H)またはメタクリル酸(R1=CH3)を意味している。
【0022】
上記式(1)により示される構造単位は、PAG鎖を側鎖に含んでおり、R3がHのとき、ポリエチレングリコール鎖を、R3がCH3のとき、ポリプロピレングリコール鎖を、R3がC25のとき、ポリブチレングリコール鎖を、それぞれ側鎖に含んでいる。本発明の(メタ)アクリルポリマーは、上記式(1)により示される構造単位を複数の種類有していてもよい。
【0023】
本発明の(メタ)アクリルポリマーでは、酢酸エチルに不溶な部分(不溶部分)の質量から求めたゲル分率G(%)と、酢酸エチルに可溶な部分(可溶部分)の重量平均分子量Mw(万)との間に、以下の式(A)により示される関係が成立している。
【0024】
Log(Mw)>Log30−0.015G (A)
発明者らは鋭意研究を重ねた結果、上記式(A)に示す関係を満たすことにより、同様の構造単位を有する従来のポリマーに比べて、重合度および重合率が大きい固体状のポリマーとできることを見出した。即ち、本発明の(メタ)アクリルポリマーは、上記従来のポリマーに比べて可溶部分の分子量が大きく、かつ、未反応モノマーの残存量が低減された、常温でゴム状態を示す固体状のポリマーとすることができる。
【0025】
ポリマーが液体状であるか固体状であるかは、その構造単位、分子量およびゲル分率などに左右される。上述したように、上記nが5以上の場合、溶液重合などにより形成される従来のポリマーでは、重合度を大きくできないために分子量が小さく、液体状となる。このようなポリマーに、架橋剤などにより架橋構造を形成すると、架橋密度の上昇、即ち、ゲル分率の上昇に伴って固体状にはなるものの架橋部分が硬直化し、また、ゲル分率の上昇と共に可溶部分(非架橋部分、あるいは、非ゲル部分ともいえる)の分子量が低下することで、常温で高い伸び弾性を示すゴム状態のポリマーとすることができない。これを式(A)にあてはめると、従来の液体状のポリマーでは重合度が低くMwが小さいために式(A)が満たされず、架橋剤などにより架橋構造を形成したとしても、ゲル分率Gの増大に伴って右辺が減少するとともに、Mwがさらに低下して左辺が減少するため、式(A)が満たされない、ということになる。これに対して、本発明の(メタ)アクリルポリマーは式(A)を満たしている、即ち、同一のゲル分率Gを有する上記従来のポリマーよりもMwが大きく(重合度が大きく)、常温でゴム状態を示す固体状のポリマーとすることができる。
【0026】
ゲル分率Gは、ポリマーにおける酢酸エチルに不溶な部分の質量から求めればよく、可溶部分の重量平均分子量(Mw)は、高分子化合物の重量平均分子量の測定方法として一般的である、ゲル透過クロマトグラフィー(GPC)を用いた方法により求めればよい。ゲル分率GおよびMwの具体的な測定方法は、実施例に後述する。なお、酢酸エチルは、ポリマーにおけるゲル部分(架橋部分)と非ゲル部分(非架橋部分)とを分離する分離溶媒であるともいえる。
【0027】
上記nは、例えば、ポリマーを加水分解した後に、GPC測定および/またはNMR(核磁気共鳴)測定を行うことにより求めればよい。
【0028】
上記nの値は、5以上20以下の自然数であることが好ましく、5以上15以下の自然数であることがより好ましい。上記nの値が23を超えるポリマーは、その結晶化温度が常温より高くなり、例えば、高分子電解質のベースポリマーとしては不適当である。
【0029】
本発明の(メタ)アクリルポリマーのMw(可溶部分の重量平均分子量)は、上記式(A)を満たす限り特に限定されないが、通常、15万以上であり、ゲル分率Gが10%以下の場合、30万以上であることが好ましい。
【0030】
本発明の(メタ)アクリルポリマーにおける分子量が10万以下の成分(低分子量成分:低分子量成分には未反応モノマーを含む)の含有率は、10重量%以下であることが好ましい。低分子量成分の含有率は、ポリマーに対するGPC測定により求めればよい。
【0031】
本発明の(メタ)アクリルポリマーのゲル分率Gは、上記式(A)を満たす限り特に限定されないが、通常、0%〜90%の範囲である。ゲル分率が90%を超えると、構造単位によっては、伸び弾性や強度など機械的特性が低下することがある。
【0032】
本発明の(メタ)アクリルポリマーの結晶化温度Tcは、通常、20℃以下であり、重合に用いるモノマーの種類および/または重合時の条件などを制御することにより(即ち、上記n、Mwおよび/またはゲル分率Gなどを制御することにより)、0℃以下とすることができる。結晶化温度Tcは、示差走査熱量分析(DSC)測定により求めればよい。
【0033】
本発明の(メタ)アクリルポリマーは、上記式(A)を満たす限り、上記式(1)により示される構造単位以外の構造単位(構造単位Y)を含んでいてもよい。
【0034】
構造単位Yとしては、例えば、各種の(メタ)アクリル酸エステルモノマー、スチレンや酢酸ビニルなどのビニルモノマー、モルフォリンなどに代表される窒素含有(メタ)アクリルアミドモノマー(環状または非環状を問わない)、ビニレンカーボネート、アクリロニトリルなどの重合により形成された構造単位が挙げられる。上記(メタ)アクリル酸エステルモノマーとしては、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル、アクリル酸−2−エチルヘキシル、アクリル酸オクチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸−2−エチルヘキシルなどの炭素数が8以下の側鎖を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル:アクリル酸メトキシエチル、アクリル酸エトキシエチル、アクリル酸トリエトキシメチルなどの炭素数が7以下のアルコキシ基を側鎖に有するアクリル酸ポリアルコキシアルキル:クラウンエーテル基含有アクリル酸エステルなどの環状エーテル基含有(メタ)アクリル酸エステル:(メタ)アクリル酸テトラヒドロフラン、オキセタン基含有(メタ)アクリル酸などを用いればよい。
【0035】
本発明の(メタ)アクリルポリマーにおける構造単位Yの含有率は、50重量%以下が好ましい。ただし、その具体的な値は、構造単位Yの種類によって異なるが、上記式(A)が満たされる値である必要がある。
【0036】
本発明の(メタ)アクリルポリマーは、例えば、以下に示す本発明の(メタ)アクリルポリマーの製造方法により得ることができる。
【0037】
本発明の製造方法では、以下の化学式(2)により示されるモノマーAを含むモノマー群を、液体または超臨界の状態にある二酸化炭素中において重合すればよい。換言すれば、本発明の(メタ)アクリルポリマーは、モノマーAを含むモノマー群を、液体または超臨界の状態にある二酸化炭素中において重合して得たポリマーである、ともいえる。
【0038】
【化2】

【0039】
上記式(2)において、R4は、HまたはCH3であり、R5は、CH3またはC25であり、R6は、H、CH3またはC25であり、nは、5以上23以下の自然数である。モノマーAにおける上記nは、上記式(1)により示される構造単位の場合と同様に、一般的な手法(例えば、GPC測定および/またはNMR測定)により求めることができる。
【0040】
このような製造方法とすることにより、本発明の(メタ)アクリルポリマーを形成できる理由は明確ではないが、液体または超臨界の状態にある二酸化炭素により生じる、溶解、分散、希釈効果により、重合系の粘度を比較的低く保持できるため、重合系の撹拌効果を向上できる他、二酸化炭素の低ラジカル連鎖移動性により、従来の有機溶剤系の溶液重合に比べて重合度を増大でき(即ち、可溶部分の分子量を増大でき)、同時に重合率を増大できることが要因として考えられる。
【0041】
モノマーAは、PAG鎖を側鎖に有する(メタ)アクリル酸ポリアルキレングリコールモノアルキルエーテルモノマーの1種であり、nが、5以上20以下の自然数であることが好ましく、5以上15以下の自然数であることがより好ましい。nが23を超えるモノマーAは、重合温度によっては液体または超臨界の状態にある二酸化炭素に溶解しにくいため、好ましくない。
【0042】
モノマーAは、R6がHのとき、ポリエチレングリコール鎖を、R6がCH3のとき、ポリプロピレングリコール鎖を、R6がC25のとき、ポリブチレングリコール鎖を、それぞれ含む側鎖を有しているといえる。モノマー群は、複数の種類のモノマーAを含んでいてもよい。
【0043】
液体または超臨界の状態にある二酸化炭素中における重合は、例えば、モノマーAを含むモノマー群と重合開始剤とを耐圧容器内に収容し、耐圧容器内の空気を二酸化炭素に置換して密閉した後に所定の圧力に保持することにより、容器内の二酸化炭素を液体または超臨界の状態に変化させて行えばよい。このとき、撹拌機構を用いて系の撹拌を行うことが好ましく、また、必要に応じて加温してもよい。所定の圧力、温度および時間で重合を行った後、容器内の圧力を大気圧に戻すことにより、本発明の(メタ)アクリルポリマーを得ることができる。
【0044】
重合開始剤は、ラジカル重合に一般的に使用される開始剤であればよく、例えば、重合温度が40℃〜100℃程度の範囲では、開始剤として、ジベンゾイルペルオキシド、ジ−tert−ブチルペルオキシド、クメンハイドロペルオキシド、ラウリルペルオキシドなどの有機過酸化物、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、アゾビスイソバレロニトリルなどのアゾ系化合物を用いればよい。重合温度が20℃〜40℃程度の範囲では、ジベンゾイルペルオキシドおよびジメチルアニリンなどの二元開始剤(Redox開始剤)などを用いればよい。モノマー群と混合する重合開始剤の量は、全モノマー成分100重量部に対して、通常、0.005重量部〜10重量部程度の範囲であり、0.01重量部〜1重量部程度の範囲が好ましい。
【0045】
重合時における二酸化炭素の量は特に限定されないが、全モノマー成分100重量部に対して、例えば、100重量部〜2000重量部程度の範囲であり、200重量部〜900重量部程度の範囲が好ましい。
【0046】
重合は、例えば、5.73MPa〜40MPa程度の圧力下において、20℃〜100℃の範囲で行えばよい。これらの条件のとき、二酸化炭素は液体または超臨界の状態にある。重合時間は特に限定されないが、通常、3時間〜10時間程度である。重合時の圧力および/または温度は、ステップ状に制御してもよい。
【0047】
重合時に、二酸化炭素の他に、モノマー群に含まれるモノマーの混合性を向上させるための重合溶媒として、少量の有機溶媒を加えてもよい。このような有機溶媒としては、酢酸エチル、テトラヒドロフラン、ベンゼン、シクロヘキサンなどを用いればよく、加える有機溶媒の量は、全モノマー成分の重量に対して10倍以下である。
【0048】
モノマー群は、モノマーA以外のモノマーを含んでいてもよい。例えば、重合により上述した構造単位Yを形成するモノマーYをモノマー群が含んでいてもよい。
【0049】
本発明の高分子固体電解質(以下、実施例を除き、単に「電解質」ともいう)は、イオン種と、ベースポリマーとして上記本発明の(メタ)アクリルポリマー(以下、「重合体X」ともいう)とを含んでいる。このような電解質とすることにより、アルキレングリコール単位の数が5以上のPAG鎖を側鎖に含むポリマーをベースポリマーとしながらも、イオン伝導性に優れ、かつ、電解質として好ましい力学的特性を有する高分子固体電解質とすることができる。
【0050】
本発明の高分子固体電解質の23℃におけるイオン伝導度は、通常、1×10-6(S/cm)以上であり、上述したTcの場合と同様の条件を制御することにより、2×10ー6(S/cm)以上あるいは5×10-6(S/cm)以上とすることができる。
【0051】
本発明の高分子固体電解質が含むイオン種は、重合体Xを介して輸送される種(電解質として伝導性を有する種)であれば特に限定されず、例えば、リチウムイオンであればよい。イオン種がリチウムイオンである場合、本発明の電解質は、リチウム一次/二次電池やキャパシタなどに用いることができる。なお、高分子固体電解質は、通常、上記イオン種のカウンターイオンを含んでいる。
【0052】
電解質が含むイオン種の量は、特に限定されない。イオン種がリチウムイオンである場合、重合体Xの重量aに対するリチウムの重量bの比(b/a)の値は、0.01≦b/a≦10の範囲であることが好ましく、0.02≦b/a≦2の範囲がより好ましい。b/aの値が小さすぎる場合は、イオン種の欠乏によって、また、b/aの値が大きすぎる場合は、過剰なイオン種が、カウンターイオンと共に電解質塩として析出したり、イオン会合を起こしたりすることによって、電解質のイオン伝導性が低下する傾向を示す。
【0053】
本発明の高分子固体電解質の形態や構成などは、特に限定されず、例えば、膜状(フィルム状)であればよい。膜状の電解質は取り扱い性に優れており、電気化学素子への応用が容易となる。膜状の電解質は、電解質フィルムであるともいえる。
【0054】
本発明の高分子固体電解質は、重合体Xを支持する支持体をさらに含んでいてもよく、電解質として強度などの力学的特性を向上できる。支持体を含む場合、支持体の片側あるいは両側の主面に重合体Xが配置されていればよい。支持体が多孔質である場合、支持体の内部の空孔に重合体Xが配置されていてもよい。
【0055】
支持体には、例えば、不織布や多孔質フィルムを用いればよい。具体的には、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)などからなる不織布や、PP、PE、エチレン−プロピレン共重合体などからなる多孔質フィルムを用いればよい。支持体の形状は、特に限定されない。
【0056】
本発明の高分子固体電解質は、必要に応じ、重合体Xおよびイオン種以外の材料を含んでいてもよく、例えば、絶縁性を有するポリマー粒子や無機粒子を含んでいてもよい。これらの粒子は、電解質が用いられる環境(例えば、二次電池内)において、溶解しないことが好ましい。粒子の種類を適宜選択することによって、電解質として強度などの力学的特性を向上できたり、電解質を狭持する電極間の短絡抑制効果を高めたり、膜状の電解質とする場合に、その膜厚をより均一にできる。無機粒子の種類は特に限定されないが、絶縁性であり、電解質に含まれるイオン種と実質的に化学反応しない無機粒子が好ましい。具体的には、アルミナ粒子、シリカ粒子などを用いればよく、電解質内における安定性の観点からは、アルミナ粒子を用いることが好ましい。ポリマー粒子としては、例えば、架橋ポリスチレン粒子などのポリスチレン粒子、ポリオレフィン粒子、ポリ4フッ化エチレン粒子などを用いればよい。
【0057】
これらの粒子のサイズは、平均粒径にして、例えば、5μm〜500μm程度の範囲であればよく、電解質に含まれる上記粒子の量は、重合体Xが100重量部に対して、10重量部〜500重量部程度の範囲であればよい。
【0058】
本発明の高分子固体電解質にはイオン種が含まれているが、イオン種は、高分子固体電解質の形成過程における任意の時点で加えればよい。例えば、予めイオン種を加えたモノマー群(モノマーAおよびイオン種を含むモノマー群)を、上記本発明の製造方法に従って重合させてもよいし、重合体Xを形成した後に、重合体Xとイオン種とを混合してもよい。重合体Xにイオン種を混合する際には、例えば、形成した重合体Xを有機溶媒に溶解させて溶液とし、形成した溶液中にイオン種を混合した後に、上記有機溶媒を除去すればよい。
【0059】
混合するイオン種の形態は特に限定されず、例えば、イオン種を含む塩を用いればよい。上述したようにイオン種は特に限定されないが、イオン種がリチウムイオンである場合、リチウム塩を用いればよい。具体的には、例えば、過塩素酸リチウム(LiClO4)、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム(LiCF3SO3)、六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)、四フッ化硼酸リチウム(LiBF4)、六フッ化ヒ酸リチウム(LiAsF6)、六フッ化アンチモン酸リチウム(LiSbF6)、リチウムトリフルオロメタンスルホン酸イミド(LiN(CF3SO22)などを用いればよい。混合するイオン種の量は、高分子固体電解質として必要なイオン種の量に応じて設定すればよく、イオン伝導性による優れる電解質にできることから、LiBF4および/またはLiPF6を用いることが好ましい。
【0060】
本発明の高分子固体電解質は、上述したように、任意の形態や構成とすることができるが、各形態および構成とする方法は、特に限定されない。例えば、重合体Xにイオン種を混合する際に形成した、重合体Xおよびイオン種の混合溶液を、基板の表面に塗布した後に、溶液中の有機溶媒を除去することにより、膜状の高分子固体電解質(電解質フィルム)としてもよい。このとき、基板と電解質フィルムとを剥離する必要がある場合には、剥離性を有するように、基板の表面が処理されていることが好ましい。
【0061】
また、上記混合溶液を多孔質の支持体に含浸させた後に、溶液中の有機溶媒を除去することにより(あるいは上記有機溶媒を残留させた状態で)、支持体を含む膜状の高分子固体電解質(電解質フィルム)としてもよい。得られた電解質フィルムを、一対の電極によって狭持すれば、電気化学素子を形成できる。
【0062】
あるいは、上記混合溶液を電極の表面に塗布した後に溶液中の有機溶媒を除去することによっても、膜状の高分子固体電解質を形成でき、電気化学素子を形成できる。
【0063】
上述したように、本発明の高分子固体電解質は、重合体Xおよびイオン種以外の材料を含んでいてもよいが、これらの材料は、高分子固体電解質の製造工程における任意の時点で加えればよい。
【0064】
本発明の電気化学素子は、一対の電極と、前記一対の電極によって狭持された本発明の高分子固体電解質とを含んでいる。本発明の高分子固体電解質がイオン伝導性に優れることから、特性(例えば、放電特性)に優れる電気化学素子とすることができる。
【0065】
本発明の電気化学素子の具体的な構成は特に限定されない。正極および負極の構成、高分子固体電解質に含まれるイオン種などを選択することによって、一次電池、二次電池、キャパシタ、センサーなどを構成できる。
【0066】
図1に、本発明の電気化学素子の一例を示す。図1に示す電気化学素子1は、コイン型のリチウム二次電池である。電気化学素子1は、リチウムイオンを可逆的に吸蔵および放出できる負極活物質4を含む負極と、リチウムイオンを可逆的に吸蔵および放出できる正極活物質6を含む正極と、正極および負極によって狭持された高分子固体電解質2とを含んでいる。ここで、高分子固体電解質2は、上述した本発明の高分子固体電解質であり、イオン種としてリチウムイオンを含み、リチウムイオン伝導性を有している。正極活物質6は、正極集電体5上に配置されており、負極活物質4は、負極集電体3上に配置されている。負極集電体3は、負極端子を兼ねた封口板8と電気的に接続され、正極集電体5は、正極端子を兼ねたケース7と電気的に接続されている。ケース7と封口板8とは、絶縁性のガスケット9により固定されており、正極、負極および高分子固体電解質2は、ケース7の内部に密閉されている。
【0067】
高分子固体電解質2を除き、電気化学素子1が備える各部材には、リチウム二次電池として一般的な材料を用いればよい。負極活物質4には、例えば、リチウム−アルミニウム合金、リチウム−インジウム合金、リチウム−スズ合金、リチウム−鉛合金、リチウム−ビスマス合金、リチウム−ガリウム合金、リチウム−亜鉛合金、リチウム−カドミニウム合金、リチウム−ケイ素合金、リチウム−カルシウム合金、リチウム−バリウム合金、および、リチウム−ストロンチウム合金などの合金類、酸化鉄、酸化スズ、酸化ニオビウム、酸化タングステンおよび酸化チタンなどの酸化物、コークス、黒鉛および有機物焼成体などの炭素材料を用いればよい。正極活物質6には、例えば、LiCoO2などのリチウムコバルト酸化物、LiMn24などのリチウムマンガン酸化物、LiNiO2などのリチウムニッケル酸化物、LiNiO2のNiをCoにより一部置換したLiNiCoO2、二酸化マンガン、五酸化バナジウムおよびクロム酸化物などの金属酸化物、二硫化チタンおよび二硫化モリブデンなどの金属硫化物などを用いればよく、LiNiO2、LiNiCoO2およびLiMn24から選ばれる少なくとも1種を用いることが好ましい。
【0068】
正極および負極は、集電体および活物質以外に、必要に応じて、黒鉛、カーボンブラック、アセチレンブラックなどからなる導電剤や、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレンなどからなる結着剤を含んでいてもよい。
【0069】
電気化学素子1は、リチウム二次電池の一般的な製造方法により、形成できる。
【実施例】
【0070】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明する。本発明は、以下に示す実施例に限定されない。
【0071】
本実施例では、電解質サンプルを作製し、各電解質サンプルに含まれる重合体の特性(ゲル分率G、可溶部分の重量平均分子量Mw、および、重合率)と、各電解質サンプルのリチウムイオン伝導性とを評価した。
【0072】
最初に、各電解質サンプルの作製方法を示す。
【0073】
−サンプル1−
最初に、モノマーAとしてアクリル酸ポリエチレングリコールモノメチルエーテル(式(1)におけるR1=H、R2=CH3、R3=H、および、n(平均値)=11:シグマ−アルドリッチ社製)100重量部と、重合開始剤としてAIBN0.3重量部とを、全体の重量が3gになるように混合して、密閉可能なステンレス製高圧容器(内容量30ml)内に収容した。次に、容器内に設置した撹拌羽根により内容物を撹拌しながら、容器内に高純度(純度99%)の二酸化炭素を流し込み、容器内の圧力を2MPaとした。二酸化炭素を流し込む際には、容器内の温度を25℃に保持した。容器内の圧力が2MPaになってから数秒経過した後、容器の通気口から二酸化炭素を排出し、再び二酸化炭素を容器内の圧力が2MPaになるまで容器内に流し込んだ。この作業を数回繰り返し、容器内に残存する空気を二酸化炭素に置換した。
【0074】
次に、容器内の温度を25℃に保持したまま、さらに二酸化炭素を容器内に流し込み、容器内の圧力を7MPaとした。次に、容器を加温して、容器内の温度を60℃とし、容器内の温度が60℃に到達した後に、さらに二酸化炭素を容器内に流し込み、容器内の圧力を28MPaとした。この条件(圧力28MPa、温度60℃)下では、二酸化炭素は超臨界の状態にある。この状態で12時間保持し、モノマーAの重合を進行させた。
【0075】
容器を12時間保持した後、通気口を開き、容器内の温度および圧力を、室温および大気圧にゆっくりと戻し、容器内で形成された重合体X1を取り出した。得られた重合体X1は20℃においてゴム状態を示す固体状であった。
【0076】
次に、得られた重合体X1を酢酸エチルに溶解させて濃度20重量%の溶液を形成し、形成した溶液に、イオン種としてリチウムトリフルオロメタンスルホン酸イミド(LiN(CF3SO22:キシダ化学社製)を、重合体X1100重量部に対して15重量部混合し、全体を60℃に保持した状態で均一に撹拌した。次に、多孔質膜(ポリオレフィン製、厚さ16μm)に撹拌後の上記溶液を浸漬させ、シャーレに展開し、80℃で3時間加熱した後に、60℃で12時間真空乾燥して酢酸エチルを除去し、支持体として上記多孔質膜を含む膜状の電解質サンプル1(厚さ40μm)を得た。
【0077】
−サンプル2−
最初に、モノマーAとして、アクリル酸ポリエチレングリコールモノメチルエーテル(式(1)におけるR1=H、R2=CH3、R3=H、および、n(平均値)=11:シグマ−アルドリッチ社製)75重量部と、モノマーYとして、4−アクリルアミドベンゾ−18−クラウン−6を25重量部と、重合開始剤としてAIBN0.3重量部と、重合溶媒として酢酸エチル50重量部とを、全体の重量が3gになるように混合して、密閉可能なステンレス製高圧容器(内容量30ml)内に収容した以外は、サンプル1と同様にして、重合体X2および膜状の電解質サンプル2(厚さ40μm)を得た。得られた重合体X2は20℃においてゴム状態を示す固体状であった。
【0078】
−サンプル3−
最初に、モノマーAとして、アクリル酸ポリエチレングリコールモノメチルエーテル(式(1)におけるR1=H、R2=CH3、R3=H、および、n(平均値)=3:シグマ−アルドリッチ社製)50重量部、および、アクリル酸ポリエチレングリコールモノメチルエーテル(式(1)におけるR1=H、R2=CH3、R3=H、および、n(平均値)=23:シグマ−アルドリッチ社製)50重量部、と、重合開始剤としてAIBN0.3重量部とを、全体の質量が3gになるように混合して、密閉可能なステンレス製高圧容器(内容量30ml)に収容した以外は、サンプル1と同様にして、重合体X3および膜状の電解質サンプル3(厚さ40μm)を得た。得られた重合体X3は20℃においてゴム状態を示す固体状であった。
【0079】
−サンプル4−
最初に、モノマーAとして、アクリル酸ポリエチレングリコールモノメチルエーテル(式(1)におけるR1=H、R2=CH3、R3=H、および、n(平均値)=11:シグマ−アルドリッチ社製)99重量部と、アクリル酸−2−ヒドロキシエチル1重量部と、重合開始剤としてAIBN0.3重量部とを、全体の質量が3gになるように混合して、密閉可能なステンレス製高圧容器(内容量30ml)に収容した以外は、サンプル1と同様にして、重合体X4を得た。得られた重合体X4は20℃においてゴム状態を示す固体状であった。
【0080】
次に、得られた重合体X4を酢酸エチルに溶解させて濃度20重量%の溶液を形成し、形成した溶液に、イオン種としてリチウムトリフルオロメタンスルホン酸イミド(LiN(CF3SO22:キシダ化学社製)を、重合体X4100重量部に対して15重量部混合し、さらに、平均粒径25μmのアルミナ粒子を50重量部、3官能イソシアネート(日本ポリウレタン社製、コロネートL)を1重量部混合し、撹拌した。次に、撹拌後の上記溶液をシャーレに展開し、80℃で3時間の通風加熱を行った後に、60℃で48時間真空乾燥して酢酸エチルを除去し、膜状の電解質サンプル4(厚さ30μm)を得た。
【0081】
−サンプルA(従来例)−
モノマーとして、アクリル酸ポリエチレングリコールモノメチルエーテル(式(1)におけるR1=H、R2=CH3、R3=H、および、n(平均値)=11:シグマ−アルドリッチ社製)100重量部と、重合開始剤としてAIBN0.3重量部と(モノマーと重合開始剤との合計20g)、重合溶媒として酢酸エチル50gとを混合し、通常のラジカル溶液重合(窒素雰囲気下、60℃〜70℃の温度範囲において3時間重合)を行った。重合により形成した溶液から真空乾燥により酢酸エチルを除去したところ、得られた重合体Aは20℃において液体状であった。
【0082】
酢酸エチルを除去する前の溶液の一部を取り出し、取り出した溶液に、イオン種としてリチウムトリフルオロメタンスルホン酸イミド(LiN(CF3SO22:キシダ化学社製)を、重合体A100重量部に対して15重量部混合し、全体を60℃に保持した状態で撹拌した。次に、多孔質膜(ポリオレフィン製、厚さ16μm)に撹拌後の上記溶液を浸漬させ、シャーレに展開し、80℃で3時間加熱した後に、60℃で12時間真空乾燥して酢酸エチルを除去し、多孔質膜からなる支持体中に液体状の重合体Aが含浸した電解質サンプルA(厚さ40μm)を得た。
【0083】
−サンプルB(比較例)−
モノマーとして、アクリル酸ポリエチレングリコールモノメチルエーテル(式(1)におけるR1=H、R2=CH3、R3=H、および、n(平均値)=3:シグマ−アルドリッチ社製)を用いた以外は、サンプル1と同様にして、重合体Bを得た。得られた重合体Bは20℃において液体状であった。
【0084】
次に、得られた重合体Bに、イオン種としてリチウムトリフルオロメタンスルホン酸イミド(LiN(CF3SO22:キシダ化学社製)を、重合体B100重量部に対して15重量部混合し、全体を60℃に保持した状態で撹拌した。次に、多孔質膜(ポリオレフィン製、厚さ16μm)にイオン種を含む撹拌後の重合体Bを浸漬させ、多孔質膜からなる支持体中に液体状の重合体Bが含浸した電解質サンプルB(厚さ40μm)を得た。
【0085】
−サンプルC(従来例)−
モノマーとして、アクリル酸ポリエチレングリコールモノメチルエーテル(式(1)におけるR1=H、R2=CH3、R3=H、および、n(平均値)=11:シグマ−アルドリッチ社製)100重量部と、重合開始剤としてAIBN0.3重量部と(モノマーと重合開始剤との合計20g)、重合溶媒として酢酸エチル100gとを混合し、通常のラジカル溶液重合(窒素雰囲気下、60℃〜70℃の温度範囲において8時間重合)を行った。重合により形成した重合体を含む溶液100重量部に、架橋剤として過酸化ベンゾイル(BPO)1重量部を加え、開放したシャーレに広げて85℃で20分間加熱した後に、乾燥したところ、得られた重合体Cは、20℃において、ゴム状態を示さない固体状であった。
【0086】
酢酸エチルを除去する前の溶液の一部を取り出し、取り出した溶液にサンプル1と同様の処理を行って、膜状の電解質サンプルC(厚さ40μm)を得た。
【0087】
このようにして得た各重合体(重合体X1〜X4および重合体A〜C)について、ゲル分率G、可溶部分の重量平均分子量Mw、および重合率を評価した。
【0088】
(不溶部分と可溶部分との分離、および、ゲル分率Gの測定)
固体状の重合体(重合体X1〜X4、および、重合体C)は、ゲル分率G、および、可溶部分の重量平均分子量Mwを測定するために、酢酸エチル中に7日間浸漬(重合体の体積に対して、少なくとも200倍の体積を有する酢酸エチル中に浸漬、酢酸エチルの温度を23℃に保持)させた後に、濾紙(No.5A)で自然濾過し、濾紙上に残った残留物(不溶部分)を乾燥させ、浸漬前の重合体の質量に対する、乾燥後の残留物の質量の割合を求めてゲル分率G(%)とした。液体状の重合体に対するゲル分率Gは、重合体と酢酸エチルとを混合して7日間放置(条件は、固体状の重合体の場合と同様)した後に、上記濾紙で自然濾過し、濾紙上に残った残留物の質量から同様に求めた。
【0089】
(可溶部分の重量平均分子量Mwの測定)
上記ゲル分率Gの測定において濾紙を透過した溶液(当該溶液は重合体の可溶部分を含む)を3時間減圧乾燥し、当該乾燥により得られた重合体の一部を取り出してジメチルフォルムアミド(DMF)に濃度0.1重量%となるように溶解させ、測定液とした。次に、GPC測定装置(東ソー社製HLC−8120GPC)を用い、上記測定液のGPC測定を行い、得られたGPC曲線から可溶部分の重量平均分子量Mwを求めた。このとき、カラムとして、東ソー社製superAWM-H、super4000、あるいは、super2500を用い、移動相は10mM−LiBr+10mM−リン酸/DMFとし、カラムの温度を40℃とした。標準試料には、ポリエチレンオキサイド(PEO)を用いた。
【0090】
(重合率の測定)
各重合体の重合率は、各重合体に対する、Mwを求めるためのGPC測定により得られたGPC曲線から、未反応モノマーに対応するピーク面積S1と、重合ポリマーに対応するピーク面積S2とを求め、式S2/(S1+S2)×100(%)から算出した。
【0091】
(結晶化温度Tcの測定)
重合体X1〜X4について、その結晶化温度Tcを評価した。各重合体の結晶化温度Tcの評価は、DSC測定により行い、測定の際の昇温速度は10℃/分とした。
【0092】
(リチウムイオン伝導度の評価)
次に、上述のようにして得た各電解質サンプルについて、23℃におけるリチウムイオン伝導度を評価した。評価方法を以下に示す。
【0093】
作製した電解質サンプルを、アルゴン雰囲気下において、一対の白金電極によって狭持し、50℃で14日間保存した後、インピーダンス測定装置(263Aポテンショスタット+5210アンプ:プリンストン アプライド リサーチ社製)を用い、温度23℃にて、複素インピーダンス解析法により実数インピーダンス成分R(Ω)を求めた。電解質サンプルのリチウムイオン伝導率σ(S/cm)は、インピーダンス成分R(Ω)、電解質サンプルの厚さd(cm)、および、白金電極と電解質サンプルとが接触している面積A(cm2)から、式σ=d/(R・A)により求めた。
【0094】
各重合体および各電解質サンプルに対する評価結果を、以下の表1および表2に示す。
【0095】
【表1】

【0096】
【表2】

【0097】
表1に示すように、従来の重合方法であるラジカル溶液重合により形成したサンプルA(重合体A)は、重合率が55%、Mwが21万であり、式(A)を満たさなかった。これに対して、サンプル1〜4(重合体X1〜X4)では重合率が93%以上となり、すべて式(A)を満たした。同一のモノマー群から形成したサンプルAとサンプル1とを比較すると、サンプル1における重合体X1のMwは32万と、サンプルAに比べて大きくなった。
【0098】
サンプルCでは、架橋剤による架橋構造の形成により、サンプルAに比べてゲル分率Gは上昇したものの、同時にMwが低下して、サンプルAと同様に式(A)が満たされなかった。
【0099】
n=3であり、サンプル1と同様の重合方法により形成したサンプルBでは、側鎖が短いために、固体状のポリマーが形成できなかった。
【0100】
なお、比較例であるサンプルBを含め、超臨界の状態にある二酸化炭素中で重合を行ったサンプルでは、架橋剤を加えなかった場合にも架橋構造が形成されたが(ゲル分率G≠0)、これは、重合したモノマー(群)に含まれる多官能性の不純物が原因であると考えられる。
【0101】
また、表2に示すように、サンプル1〜4のリチウムイオン伝導度は、サンプルA〜CCに比べて優れていた。
【産業上の利用可能性】
【0102】
本発明によれば、アルキレングリコール単位の数が5以上のPAG鎖を側鎖に含み、同様の側鎖を有する従来のポリマーに比べて重合度および重合率が大きい、固体状の(メタ)アクリルポリマーとすることができる。また、アルキレングリコール単位の数が5以上のPAG鎖を側鎖に含むポリマーをベースポリマーとしながらも、イオン伝導性に優れ、かつ、電解質として好ましい力学的特性を有する高分子固体電解質とすることができる。
【0103】
本発明の高分子固体電解質は、一次電池、二次電池、電気二重層キャパシタ、ケミカルコンデンサー、センサー、エレクトロクロミックデバイスなど、各種の電気化学素子に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0104】
【図1】本発明の電気化学素子の一例を示す模式図である。
【符号の説明】
【0105】
1 電気化学素子(リチウム二次電池)
2 高分子固体電解質
3 負極集電体
4 負極活物質
5 正極集電体
6 正極活物質
7 ケース
8 封口板
9 ガスケット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の化学式(1)により示される構造単位を有し、
酢酸エチルに不溶な部分の質量から求めたゲル分率G(%)と、
酢酸エチルに可溶な部分の重量平均分子量Mw(万)との間に、
Log(Mw)>Log30−0.015G
により示される関係が成立することを特徴とする(メタ)アクリルポリマー。
【化1】

上記式(1)において、R1は、HまたはCH3であり、R2は、CH3またはC25であり、R3は、H、CH3またはC25であり、nは、5以上23以下の自然数である。
【請求項2】
前記nが、5以上20以下の自然数である請求項1に記載の(メタ)アクリルポリマー。
【請求項3】
前記nが、5以上15以下の自然数である請求項1に記載の(メタ)アクリルポリマー。
【請求項4】
結晶化温度が、20℃以下である請求項1に記載の(メタ)アクリルポリマー。
【請求項5】
請求項1に記載の(メタ)アクリルポリマーの製造方法であって、
以下の化学式(2)により示されるモノマーを含むモノマー群を、液体または超臨界の状態にある二酸化炭素中において重合することを特徴とする(メタ)アクリルポリマーの製造方法。
【化2】

上記式(2)において、R4は、HまたはCH3であり、R5は、CH3またはC25であり、R6は、H、CH3またはC25であり、nは、5以上23以下の自然数である。
【請求項6】
請求項1に記載の(メタ)アクリルポリマーとイオン種とを含むことを特徴とする高分子固体電解質。
【請求項7】
23℃におけるイオン伝導度が、1×10-6(S/cm)以上である請求項6に記載の高分子固体電解質。
【請求項8】
前記イオン種が、リチウムイオンである請求項6に記載の高分子固体電解質。
【請求項9】
一対の電極と、
前記一対の電極によって狭持された電解質とを含む電気化学素子であって、
前記電解質が、請求項6に記載の高分子固体電解質であることを特徴とする電気化学素子。
【請求項10】
前記一対の電極が、前記高分子固体電解質に含まれるイオン種を可逆的に吸蔵および放出できる正極および負極であり、
前記イオン種が、リチウムイオンである請求項9に記載の電気化学素子。

【図1】
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【公開番号】特開2007−106875(P2007−106875A)
【公開日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−298718(P2005−298718)
【出願日】平成17年10月13日(2005.10.13)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】