説明

3−スピロインドリン−2−オン誘導体、これらの調製及び治療的使用

本発明は、シス/トランス異性体又はこれらの混合物の形態での、塩基、水和物又は溶媒和物状態である、式(I)の化合物に関する。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、3−スピロインドリン−2−オン誘導体、これらを調製するためのプロセス及びこれらの治療上の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明の目的は、シス/トランス異性体もしくはこれらの混合物の形態での、塩基、水和物又は溶媒和物状態である、式(I):
【0003】
【化2】

の化合物である。
【0004】
式(I)の化合物は、1以上の環を含有する。したがって、これらは、シス/トランス異性体の形態で存在し得る。これらの異性体及び異性体の混合物は、本発明の一部である。
【0005】
式(I)の化合物は、塩基、水和物及び/又は溶媒和物の形態、つまり、1以上の水分子もしくは溶媒との会合もしくは組み合わせの形態でも存在し得る。このような水和物及び溶媒和物も本発明の一部である。
【0006】
本発明によると、次のスキーム1により説明されるプロセスに従い、式(I)の化合物を調製することができる。
【0007】
【化3】

【0008】
アセトン又はジメチルホルムアミドなどの極性非プロトン性溶媒存在下での過マンガン酸カリウム又は三酸化クロムなどの強力な酸化剤を用いた式(V)の化合物の酸化反応により、式(IV)の化合物を得る。式(V)の化合物の合成は、EP0873309(調製10、化合物(III’.1))に記載されている。テトラヒドロフラン(THF)、ジクロロメタン(CHCl)又はクロロホルムの存在下で、上記で得られた式(IV)の化合物にカルボジイミダゾール及びモルホリンを添加し、式(III)の化合物を得る。上記で得られた式(III)の化合物を式(II)の化合物に添加することにより、式(I)の化合物を得る(式(II)の化合物の合成は、EP0873309(調製13、反応(2)2))に記載されている。)。式(III)の化合物の式(II)の化合物への添加は、塩基性溶液中、CHCl、THF、ジメチルホルムアミド又はジメチルスルホキシドなどの非プロトン性溶媒中で行う。
【0009】
反応物質の調製方法が記載されていない場合、これらは、市販品を購入できるか、又は文献に記載されているか、あるいは、そこに記載されている方法又は当業者にとって公知の方法に従い調製することができる。
【0010】
次の実施例は、本発明による化合物を調製する方法を述べる。この実施例は、限定的なものではなく、ただ本発明を説明するものである。
【0011】
次の式(I)の化合物の調製の実施例において、次の定義を使用する。
【0012】
THF=テトラヒドロフラン、
CDCl=クロロホルム−d、
LC/MS=液体クロマトグラフィー/マススペクトロメトリー、
eq.=モル当量、
Mp=融点、
s=シングレット、
t=トリプレット、
m=マルチプレット、
q=クイントプレット(quintuplet)。
【0013】
2つのBruker装置:AC200及びAvance 600においてH及び13CNMRスペクトル測定を行った。
【0014】
Micromass(R)「TOF」(飛行時間)マススペクトロメーター、モデルLCTにおいてクロマトグラフィー/マススペクトロメトリー法を行った。
【0015】
Buchi融点B−545装置において融点を測定した。
【実施例】
【0016】
段階a):アルコール官能基のカルボン酸への酸化(式(IV)の化合物の調製)
式(V)の化合物5.07g(16.6mmol、1eq.)及びアセトン166mL、次に過マンガン酸カリウム10.49g(66.4mmol、4eq.)をアルゴン雰囲気下の500mLの丸底フラスコに入れる。式(V)の化合物の合成は、EP0873309(調製10、化合物(III’.1))に記載されている。反応混合物を3日間撹拌する。Celite(R)で反応液をろ過し、メタノールでリンスして、次いで真空下で濃縮する。粗製生成物(6.6g)をシリカゲル(150g;40−63μm粒子;使用溶出液は勾配溶出液:CHCl/メタノール:90:10、次の割合:CHCl/メタノール/酢酸:89:9:2である。)で精製する。所望の誘導体を含有する分画を合わせ、次いで真空下で濃縮する。
【0017】
プロトンNMRスペクトルは所望の構造と一致する。
【0018】
段階b):カルボン酸官能基からのアミド官能基の形成(式(III)の化合物の調製)
カルボジイミダゾール728mg(4.72mmol、1.1eq.)、無水テトラヒドロフラン72mL及び段階a)で得られた式(IV)の酸誘導体1.37g(1.37mmol、1eq.)をアルゴン雰囲気下の100mLの丸底フラスコに入れる。2時間撹拌後、モルホリン0.41mL(413mg;4.72mmol、1.1eq.)を添加する。反応液を2時間撹拌し、次に、混合物を塩水で洗浄する。酢酸エチルで水相を数回抽出する。有機相を合わせ、硫酸ナトリウムで乾燥させ、ろ過し、次いで濃縮する。粗製生成物(1.475g)をシリカゲル(64g;40−63μm粒子;使用溶出液は混合液:シクロヘキサン/酢酸エチル/メタノール:45/45/10である。)で精製する。所望の誘導体を含有する分画(20mL)を合わせ、真空下で濃縮する。
【0019】
H及び13C NMRスペクトルは所望の構造と一致する。
【0020】
LC/MS分析から、生成物の構造が確認される(M+H=389)。
【0021】
段階c):インドリノンと塩化スルホニルとの間のカップリング(式(I)の化合物の調製)
段階b)で得た式(III)のモルホリノン誘導体191mg(0.49mmol、1eq.)、ジクロロメタン2mL、塩化ベンジルトリエチルアンモニウム11mg(0.05mmol、0.1eq.)及び式(II)の塩化スルホニル誘導体180mg(0.59mmol、1.2eq.)をアルゴン雰囲気下の25mL丸底フラスコに入れる。式(II)の化合物の合成は、EP0873309(調製13、反応(2)2))に記載されている。反応液を−5℃に冷却した後(塩水/氷浴)、水中40%の水酸化ナトリウム(38mg固体NaOH;0.95mmol、1.93eq.)を添加する。−5℃にて2時間反応液を激しく撹拌し、次いで周囲温度でさらに2時間撹拌する。次いで、混合物を水で洗浄し、ジクロロメタンで水相を数回抽出する。合わせた有機相を硫酸マグネシウムで乾燥させ、ろ過し、次いで濃縮する。粗製生成物(390mg)を48gシリカゲル(40−63μm粒子;使用溶出液は混合液:シクロヘキサン/酢酸エチル/メタノール:45/45/10である。)において精製する。所望の誘導体を含有する分画を合わせ、次いで真空下で濃縮する。
【0022】
H及び13C NMRスペクトルは所望の構造と一致する。
【0023】
13C NMR(CDCl中50MHz):177.5;168.4;165.0;157.5;156.2;142.9;134.1;132.0;131.8;128.2;117.4;114.9;113.1;111.7;109.8;68.3;66.7;63.9;56.1;52.1;46.7;46.1;42.1;31.6;28.6;26.0;14.8。
【0024】
H NMR(CDCl中200MHz):8.15(d,1H,J=8.16Hz);7.7(d,1H,J=8.86Hz);7.4(s,1H);7.2(s,1H);6.76(m,2H);6.0(s,1H);4.16(s,2H);3.98(q,2H,6.9Hz);3.8−3.4(m,12H);1.75(m,8H);1.5(s,9H);1.4(t,3H)。
【0025】
LC/MSによる分析から、所望の生成物の構造が確認される(M+H=658)。
【0026】
Mp=130℃。
【0027】
本発明による化合物に対して、治療における活性物質としてのこれらの長所を示す薬理学的アッセイを行った。本発明の化合物の効果に関して特に試験した。とりわけ、下記の技術に従うインビトロ結合アッセイにおいて、V受容体に対する本発明の化合物の親和性を調べた。
【0028】
次の文章において、
EDTA=エチレンジアミン四酢酸、
BSA=ウシ血清アルブミン、
AVP=バソプレッシン、
DMSO=ジメチルスルホキシド。
【0029】
インビトロ親和性測定−IC50
J.Pharmacol.Exp.Ther.,(2002),300、pp.1122−1130に記載のようなインビトロ親和性アッセイにおいて、バソプレッシンV受容体に対する本発明の化合物の親和性を測定した。
【0030】
MgCl2mM、EDTA 1mM、BSA 0.1%、バシトラシン1mg/mL及び[H]−AVP 3.5nMを含有するTRIS−HCl緩衝液(50mM;pH8.2)200μL中で、組織又は組み換えヒトバソプレッシンV受容体を発現するCHO細胞株由来の原形質膜(およそ20μg/mL)を25℃にて45分間インキュベートする。GF/Bフィルター上でろ過し、洗浄することにより、反応を停止させる。AVP 1μM存在下で非特異的結合を調べる。DMSO中10−2Mの濃度に前もって溶解させた本発明の化合物を希釈範囲で試験する。
【0031】
各濃度に対して、特異的結合の%阻害として結果を表す。「RS1結合」プログラム(BBN Domain、Cambridge,MA)を用いて、IC50(特異的結合の50%を阻害する生成物の濃度)を生成物のそれぞれに対して決定する。
【0032】
これらのIC50値は通常、10−8M未満である。
【0033】
本発明の前記実施例によって得た化合物のIC50は、およそ7.3x10−9Mである。
【0034】
生物学的アッセイの結果から、化合物がV受容体に対して親和性を有し、この受容体の特異的なアンタゴニストであることが示される。
【0035】
薬剤、特にV受容体アンタゴニスト薬剤の調製のために、本発明による化合物を使用することができる。
【0036】
したがって、この態様の別のものに従い、本発明の目的は、少なくとも1つの式(I)の化合物を含有する薬剤である。
【0037】
バソプレッシンV受容体アンタゴニストである化合物は、動物及びヒトにおいて水利尿特性を示す(Cardiovascular Drug Review,(2001)、3:pp.201−214)。従って、本発明による化合物は、広範囲の治療指標を有し、有利に、ヒト及び動物で従来の利尿薬が推奨される全ての病態において従来の利尿薬に代わるものとなり得る。
【0038】
したがって、本発明による化合物は、特に、ヒト及び動物における、中枢神経系及び末梢神経系症状、心血管系症状、内分泌及び肝臓系の症状、腎臓領域の症状、胃、腸及び肺領域の症状の治療及び/又は予防において、眼科領域において、及び性行動障害において、役立ち得る。
【0039】
とりわけ、本発明による化合物は、様々なバソプレッシン依存性症状の治療及び/又は予防において、また、不適切なADH分泌の症候(又はSIADH)などのバソプレッシン分泌機能障害、高血圧、肺高血圧、心不全、循環不全、心筋梗塞、アテローム性動脈硬化症又は冠攣縮性狭心症などの心血管症状治、特に喫煙者において、不安定狭心症及び経皮経管冠動脈形成術(又はPTCA)、心虚血、凝固系の異常、特に血友病、Von Willebrand症候群;中枢神経系症状、例えば、片頭痛、脳血管痙攣、脳出血、脳浮腫、うつ、不安神経症、過食症、精神病的状態、記憶障害;浮腫、腎血管痙攣、腎皮質の壊死、ネフローゼ症候群、小児及び成人での様々な形態における多発性嚢胞腎(又はPKD)、低ナトリウム血症及び低カリウム血症、糖尿病、Schwartz−Bartter症候群又は腎臓結石症などのリノパシー(rinopathies)及び腎臓機能障害;胃血管痙攣、門脈圧亢進症、肝硬変、潰瘍、嘔吐病、例えば悪心(化学療法による悪心を含む。)、乗り物酔い、尿崩症及び遺尿などの胃系症状;肝硬変などの肝臓系症状;腹水及び異常な水分貯留を引き起こす全ての疾患;副腎機能障害(クッシング病)及び特に副腎皮質機能亢進症及び高アルドステロン血症において使用することができる。太りすぎ又は過体重及び肥満である状態における、性行動障害治の治療及び/又は予防において、この適応に対して既に使用されている従来の利尿剤と有利に置き換えることにより、本発明による化合物を使用することもできる。女性において、月経困難症又は早産を治療するために本発明による化合物を使用することができる。小細胞肺癌、低ナトリウム性脳障害、レイノー病、肺症候群及び緑内障の治療において、及び、白内障の予防において、術後処置において(特に腹部、心臓又は出血性の手術後)、及びメニエール病、耳鳴り、眩暈、難聴(特に低音領域での。)又は耳鳴り、水腫、特に内リンパ管水腫などの内耳の疾患又は疾病に対する治療においても、本発明による化合物を使用することもできる。
【0040】
別の態様に従い、本発明は、活性成分として少なくとも1つの本発明による化合物を含有する医薬組成物に関する。これらの医薬組成物は、本発明による少なくとも1つの式(I)の化合物の有効量及び、また、少なくとも1つの医薬的に許容される賦形剤も含有する。
【0041】
当業者にとって公知の通常の賦形剤から、所望の医薬形態及び投与方法に従い、前記賦形剤が選択される。
【0042】
経口、舌下、皮下、筋肉内、静脈内、局所、局所(local)、気管内、鼻腔内、経皮又は直腸投与のための本発明の医薬組成物において、上記式(I)の活性成分又はその可能な、塩、溶媒和物又は水和物を、上記疾患もしくは疾病の予防又は治療のために、動物及びヒトへ、従来の医薬賦形剤との混合物として、単位投与形態において投与することができる。
【0043】
適切な単位投与形態としては、経口投与形態、例えば錠剤、軟又は硬ゼラチンカプセル、粉末、顆粒及び経口用溶液又は懸濁液、舌下、口内、気管内、眼内又は鼻腔内投与形態、吸入による投与のための形態、局所、経皮、皮下、筋肉内もしくは静脈内投与形態、直腸投与形態及びインプラントが挙げられる。局所適用の場合、クリーム、ゲル、軟膏又はローションにおいて本発明による化合物を使用することができる。
【0044】
一例として、錠剤形態中の本発明による化合物の単位投与形態は、次の成分を含有し得る:
本発明の実施例による化合物:50.0mg
マンニトール:223.75mg
クロスカメロースナトリウム:6.0mg
コーンスターチ:15.0mg
ヒドロキシプロピルメチルセルロース:2.25mg
ステアリン酸マグネシウム:3.0mg
前記単位形態は、製剤形態に従い、1人あたり活性成分0.5mgから800mg、とりわけ0.5mgから200mgの1日投与を可能にする用量を含有する。
【0045】
より高い又はより低い投与量が適切である場合があり得;このような投与量は、本発明の範囲から逸脱しない。通常の手段に従い、各患者に適切な投与量は、投与方法及びその患者の体重及び応答に従い、医師により決定される。
【0046】
別の態様に従い、本発明はまた、上述の病態を治療及び/又は予防する方法にも関し、これには、本発明による化合物又はその水和物もしくは溶媒和物の有効量の患者への投与が含まれる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シス/トランス異性体もしくはこれらの混合物の形態で、塩基、水和物又は溶媒和物状態である、式(I)
【化1】

の化合物。
【請求項2】
式(I)の化合物を得るために、式(III)のモルホリノン誘導体を式(II)の塩化スルホニルと反応させることを特徴とする、請求項1に記載の化合物を調製するためのプロセス。
【請求項3】
請求項1に記載の少なくとも1つの式(I)の化合物を含有することを特徴とする、薬剤。
【請求項4】
請求項1に記載の少なくとも1つの式(I)の化合物と、少なくとも1つの医薬的に許容される賦形剤もまた含有することを特徴とする、医薬組成物。
【請求項5】
中枢神経系及び末梢神経系症状、心血管系症状、内分泌及び肝臓系の症状、腎臓領域の症状、胃、腸及び肺領域の症状の治療及び/又は予防での、眼科領域での、及び性行動障害での、使用のための薬剤の調製のための、請求項1に記載の式(I)の化合物の使用。
【請求項6】
様々なバソプレッシン依存性症状の治療及び/又は予防での、及びまた、不適切なADH分泌の症候(又はSIADH)などのバソプレッシン分泌機能障害、高血圧、肺高血圧、心不全、循環不全、心筋梗塞、アテローム性動脈硬化症又は冠攣縮性狭心症などの心血管症状、特に喫煙者において、不安定狭心症及び経皮経管冠動脈形成術(又はPTCA)、心虚血、凝固系の異常、特に血友病、Von Willebrand症候群;中枢神経系症状、例えば、片頭痛、脳血管痙攣、脳出血、脳浮腫、うつ、不安神経症、過食症、精神病的状態、記憶障害;浮腫、腎血管痙攣、腎皮質の壊死、ネフローゼ症候群、小児及び成人での様々な形態における多発性嚢胞腎(又はPKD)、低ナトリウム血症、低カリウム血症、糖尿病、Schwartz−Bartter症候群又は腎臓結石症などのリノパシー(rinopathies)及び腎臓機能障害;胃血管痙攣、門脈圧亢進症、肝硬変、潰瘍、嘔吐病、例えば悪心(化学療法による悪心を含む。)、乗り物酔い、尿崩症及び遺尿などの胃系症状;肝硬変などの肝臓系症状;腹水及び異常な水分貯留を引き起こす全ての疾患;副腎機能障害(クッシング病)及び特に副腎皮質機能亢進症及び高アルドステロン血症、太りすぎ、過体重及び肥満である状態での性行動障害における、月経困難症又は早産、小細胞肺癌、低ナトリウム性脳障害、レイノー病、肺症候群及び緑内障における、及び、白内障の予防における、術後処置における(特に腹部、心臓又は出血性の手術後)、及びメニエール病、耳鳴り、眩暈、難聴(特に低音領域での。)又は耳鳴り、水腫、特に内リンパ管水腫などの内耳の疾患又は疾病の治療における使用に対する薬剤の調製のための、請求項5に記載の式(I)の化合物の使用。

【公表番号】特表2008−512431(P2008−512431A)
【公表日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−530741(P2007−530741)
【出願日】平成17年9月7日(2005.9.7)
【国際出願番号】PCT/FR2005/002220
【国際公開番号】WO2006/030106
【国際公開日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【出願人】(504456798)サノフイ−アベンテイス (433)
【Fターム(参考)】