説明

3次元流路と電気配線を内蔵したLTCC基板、その製造方法、その基板を用いたMEMS素子及びその製造方法

【課題】3次元流路と電気配線を内蔵した設計自由度の高い陽極接合可能なLTCC基板、前記基板をMEMS素子が形成されたシリコンウエハと陽極接合した電子デバイス用のMEMS素子、及びそれらの製造方法を提供する。
【解決手段】LTCC基板用グリーンシートに、焼成・エッチング処理後に3次元の流路と貫通配線となるビアホールを開ける工程、前記ビアホールに金ペーストを印刷する工程、前記グリーンシートを所定枚数積層し、焼成して一体化する工程、前記貫通配線部となるビアを保護した状態で、金導体を除去する工程、及び保護膜を剥離する工程を有する3次元の流路と電気配線を内蔵した陽極接合可能なLTCC基板の製造方法、その方法で得られるLTCC基板、及びその基板をMEMS素子の搭載されたシリコンウエハと陽極接合した各種電子デバイス用のMEMS素子とその製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、3次元の流路と電気配線を1枚の基板に内蔵した陽極接合可能なLTCC基板に関する。さらに詳しく言えば、アクチュエータやセンサー用のMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)素子が形成されたシリコンシリコンウエハと陽極接合可能な、3次元の流路と電気配線を1枚の基板に内蔵したLTCC基板、その製造方法、及びそのLTCC基板とMEMS素子が形成されたシリコンウエハとを陽極接合したMEMS素子とその製造方法に関する。
本発明の3次元流路と電気配線を内蔵した陽極接合可能なLTCC基板は、液体やガスの注入や抽出を行うと同時に電気信号のやり取りが可能な電子デバイス、例えばインクジェットプリンタ、燃料電池、圧力センサ、マイクロ混合器、マイクロリアクターなどのMEMS素子用として有用である。
【背景技術】
【0002】
陽極接合は、ホウケイ酸ガラスに代表されるアルカリ金属を含むガラスとシリコンを接触させた状態で、ガラス中のナトリウムなどのアルカリ金属イオンが動き易い温度まで加熱し、シリコン側を正、ガラス側を負の電極に接続して数百〜千ボルト程度の直流電圧を印加することにより、ガラスとシリコンを接合する方法である。アルカリ金属イオンが負極側に移動した際に生じる非架橋酸素イオンとシリコンが静電的に引き合い、ガラス−シリコン界面で化学結合を生じることにより、強固で信頼性の高い接合が得られ、圧力センサや加速度センサなどの実装技術として多用されている。
【0003】
MEMSは、研究開発段階を過ぎ、自動車、ゲーム機器などのセンサに使用され、実用化、普及化の段階に入っている。携帯電話などの通信機器に搭載するためには、低コスト化とともに、小型・低背・高機能化が求められているが、この解決策としてウエハレベル実装技術が開発されている。ウエハレベル実装を実現するためには、気密封止されたMEMSチップ(デバイス)の電極と接合した実装基板側の電極を裏面に取り出すための貫通配線実装基板が必要である。
【0004】
陽極接合可能なガラス基板を用いて貫通配線と貫通孔を併せ持つ基板とシリコンとを陽極接合することにより、3次元の流路と電気配線を有する構造体を作ることはできるが、ガラス基板の貫通孔は表から裏へのストレートなものしか加工できないため、3次元方向に流路と配線を確保することが困難であり、そのため流路設計の自由度が狭い。また、脆性材料であるガラス基板の孔加工には下記のような問題がある。
【0005】
孔加工として採用されているドリル加工は、孔形状はよいものの孔サイズとピッチの微細化に限界があり、1ウエハ中の孔数が増えるとドリル磨耗では削れなくなる。また、サンドブラスト加工は、多くの孔加工が同時にできるものの、孔の形状が悪く、孔サイズやピッチに限界がある。いずれの工法も、ガラスという脆性材料に応用するためには、孔周辺のクラックによる信頼性低下がないようにプロセス設計する必要がある。孔加工後は、例えば、孔側面の金属化処理、導電用金属芯材の挿入、ロウ材の流し込み、及び鏡面研磨の順で貫通配線が設けられるが、コスト、微細化および大口径化に限界がある点などに問題がある。
こうした問題のあるガラス基板をシリコンと組み合わせて作る3次元流路と電気配線とを併せ持つ製品は設計上の制約が多く、小型化や工程の簡略化に課題があった。
【0006】
シリコン基板については、フェムト秒レーザー光を用いた3次元配線基板が、近年提案されているがコストが相当に高く実用化には遠い。また、ガラス基板とシリコンを積層し、エッチング処理などして複合化し、3次元流路を形成する技術は多数知られているが、1枚の基板に3次元流路と電気配線を内蔵した陽極接合可能なセラミックス基板はこれまで知られていない。
【0007】
本発明者らは、先に陽極接合が可能なLTCC(LOW TEMPARATURE CO-FIRE CERAMICS)基板を開発し、特許出願している(特開2009−280417号公報:特許文献1、及び特開2010−37165号公報:特許文献2)。
このLTCC基板はAg、Cu、Auなどの低抵抗金属と同時に950℃以下の温度(特許文献1)或いは850〜900℃の温度(特許文献2)で焼成して製造することができ、高い抗折強度を有し、薄い大口径の基板でも割れにくいという特長を有し、ハンドリング性に優れている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2009−280417号公報
【特許文献2】特開2010−37165号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、本発明者らが開発した陽極接合が可能な前記LTCC基板に対して、 金(Au)を導体として使用し、層間接続用のビアホールや配線を形成したグリーンシートを任意の所定枚数積層して焼成し一体化することにより、1枚の基板に3次元流路と電気配線を内蔵した設計自由度の高い陽極接合可能な低温同時焼成セラミックス(LTCC)基板を提供することにある。
さらに、本発明は前記陽極接合可能なLTCC基板とMEMS素子が形成されたシリコンウエハとを陽極接合した、液体や気体の注入や抽出を行うと同時に電気信号の伝達(送受信)が可能な電子デバイス用のMEMS素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は下記の陽極接合可能なLTCC基板、その製造方法、MEMS素子とその製造方法に関する。
1.3次元の流路と電気配線を内蔵した陽極接合可能なLTCC基板。
2.焼成後に3次元の流路または貫通配線部となるビアホールを所定箇所に開け、前記流路となるビアホールに焼成時消失する樹脂ペーストを印刷し、前記貫通配線部となるビアホール及び配線部となる表面に金導体を含むペーストを印刷したLTCC基板用グリーンシートを、3次元の流路と貫通配線が確保されるように所定枚数積層して焼成し、一体化してなる前項1に記載の陽極接合可能なLTCC基板。
3.焼成しエッチング処理した後に3次元の流路または貫通配線部となるビアホールを所定箇所に開け、前記ビアホール及び表面の配線部に金粉末を含むペーストを印刷したLTCC基板用グリーンシートを、3次元の流路と貫通配線が確保されるように所定枚数積層して、焼成し一体化した後に3次元の流路となるビアホール内の金導体をエッチング処理により除去してなる前項1に記載の陽極接合可能なLTCC基板。
4.(a)LTCC基板用グリーンシートの所定箇所に、焼成後に3次元の流路または貫通配線部となるビアホールを開ける工程、(b)前記流路となるビアホールに焼成時消失する樹脂ペーストを印刷する工程、(c)前記貫通配線部となるビアホール及び配線部となる表面に金粉末を含むペーストを印刷する工程、(d)前記樹脂ペースト及び金粉末を含むペーストを印刷したグリーンシートを、3次元の流路と貫通配線が確保されるように所定枚数積層する工程、及び(e)前記積層したグリーンシートを焼成し一体化する工程を有することを特徴とする3次元の流路と電気配線を内蔵した陽極接合可能なLTCC基板の製造方法。
5.(a)LTCC基板用グリーンシートの所定箇所に、焼成しエッチング処理した後に3次元の流路または貫通配線部となるビアホールを開ける工程、(c’)前記ビアホール及び表面の配線部に金粉末を含むペーストを印刷する工程、(d’)前記金粉末を含むペーストを印刷したグリーンシートを3次元の流路と貫通配線が確保されるように所定枚数積層する工程、(e’)前記積層したグリーンシートを焼成し一体化する工程、(f)前記貫通配線部となるビア及び配線部となる面を保護膜でカバーした状態で、金導体をエッチング処理して除去する工程、及び(g)保護膜を剥離する工程を有することを特徴とする3次元の流路と電気配線を内蔵した陽極接合可能なLTCC基板の製造方法。
6.前記保護膜としてアルカリウエットエッチング保護膜を用い、金導体のエッチング溶液としてシアン系エッチング液を用いる前項5に記載の陽極接合可能なLTCC基板の製造方法。
7.前項1〜3のいずれかの項に記載のLTCC基板とMEMS素子が形成されたシリコンウエハとを陽極接合してなるMEMS素子。
8.前項1〜3のいずれかの項に記載の鏡面研磨したLTCC基板を、MEMS素子が形成されたシリコンウエハと陽極接合した後ダイシングすることを特徴とするMEMS素子の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、3次元の流路と電気配線を1枚の基板に内蔵した陽極接合可能なLTCC基板を提供したものである。本発明のLTCC基板をシリコンで作成した各種電子デバイス用のMEMS素子と陽極接合で貼り合わせることにより、液体やガスの注入・抽出を行うとともに、電気信号のやり取りも可能な電子デバイス、例えばインクジェットプリンタ、燃料電池、圧力センサ、マイクロ混合器、マイクロリアクターなどを容易に提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明においては、本発明者らが開発した陽極接合可能なLTCC基板、すなわち、特許文献1(特開2009−280417号公報)及び特許文献2(特開2009−280417号公報)に開示したLTCC基板、さらには出願中の特願2010−104290号に記載の陽極接合可能なLTCC基板を使用する。
すなわち、これらのLTCC基板用グリーンシートに焼成後に3次元の流路または貫通配線部となるビアホールを開け、酸化されない金属を導体とし、層間接続用のビア及び配線を形成したグリーンシートを任意の所定枚数積層して焼成し、一体化することにより設計自由度の高い3次元流路と貫通配線を有する本発明の陽極接合可能なLTCC基板を製造することができる。ここで酸化されない金属を導体に用いるのは、酸化されないためにLTCC基板中にイオンとなって溶け込まず、陽極接合時に負極側に移動しないからである。酸化されない金属としては、金(Au)及び白金(Pt)が挙げられるが、Auが好ましい。
【0013】
本発明の陽極接合可能なLTCC基板において、3次元流路を形成する方法としては、グリーンシートの3次元の流路となるビアホールに樹脂ペーストを印刷し、積層したグリーンシートの焼成時に樹脂ペーストを焼失させる方法、及び導体ペースト(Au粉末ペースト)を3次元の流路、貫通配線部となるビアホール及び配線部となる表面に印刷し、積層したグリーンシートの焼結後に3次元の流路となるビアの導体(Au)をエッチングにより除去する方法がある。
以下、両方法を含む本発明の陽極接合可能なLTCC基板の製造方法について説明する。
【0014】
本発明の第一の製造方法は、下記の(a)〜(e)の工程からなる:
(a)LTCC基板用グリーンシートの所定箇所に、焼成後に3次元の流路または貫通配線部となるビアホールを開ける工程、
(b)前記流路となるビアホールに焼成時消失する樹脂ペーストを印刷する工程、
(c)前記貫通配線部となるビアホール及び配線部となる表面に金粉末を含むペーストを印刷する工程、
(d)前記樹脂ペースト及び金粉末を含むペーストを印刷したグリーンシートを、3次元の流路と貫通配線が確保されるように所定枚数積層する工程、及び
(e)前記積層したグリーンシートを焼成し一体化する工程。
【0015】
本発明の第二の方法は、下記の(a)〜(f)の工程からなる。
(a)LTCC基板用グリーンシートの所定箇所に、焼成しエッチング処理した後に3次元の流路または貫通配線部となるビアホールを開ける工程、
(c’)前記ビアホール及び表面の配線部に金粉末を含むペーストを印刷する工程、
(d’)前記金粉末を含むペーストを印刷したグリーンシートを3次元の流路と貫通配線が確保されるように所定枚数積層する工程、
(e’)前記積層したグリーンシートを焼成し一体化する工程、
(f)前記貫通配線部となるビア及び配線部となる面を保護膜でカバーした状態で、金導体をエッチング処理して除去する工程、及び
(g)保護膜を剥離する工程。
【0016】
第一の方法及び第二の方法における工程(a)は、LTCC基板用グリーンシートの所定箇所に所望の大きさ及び数の孔を開ける工程である。孔を開ける方法は、特に限定されないが、例えばパンチピンあるいはレーザー加工により行なうことができる。
【0017】
第一の方法における工程(b)は、前記の流路となるビアホールに焼成時消失する樹脂ペーストを印刷する工程である。樹脂ペーストとしては、積層グリーンシートの焼結時に焼失するような粒径2〜8μm程度の樹脂ビーズにビヒクルを添加し、混練してペーストとしたものが用いられる。樹脂ビーズとしてはアクリルやポリビニルアルコール樹脂等が用いられ、ビヒクルとしては、接合剤(エチルセルロース、アクリル樹脂等)10〜30質量%、溶剤(テルビネオール、ブチルカルビトール、ブチルカルビトールアセテート等)90〜70質量%からなるものが用いられる。このペーストを、スクリーン印刷法を用いて流路となるビアホールに埋め込む。
【0018】
第一の方法の工程(c)及び第二の方法の工程(c’)は、金粉末を含むペーストを印刷する工程である。前者では貫通配線部となるビアホール及び配線部となる表面に、後者では全ビアホール及び配線部となる表面に金粉末を含むペーストを印刷する。なお、積層する際に最上面及び最下面となるグリーンシートは焼成後に陽極接合に必要な鏡面を確保するために研磨処理を行うので、通常、最上下面となるシートには配線用の金ペーストは印刷しない。
【0019】
金ペーストとしては、金粉末をビヒクルと混練した金粉末単体のペースト、もしくは金粉末と硼珪酸ガラス、アルミナ等の無機添加物との混合粉末にビヒクルを添加・混練してペーストとしたものが用いられる。金粉末の平均粒径は1〜5μm程度のものが用いられ、そのペースト中の配合量は約70〜93質量%である。ビヒクルは、接合剤(エチルセルロース、アクリル樹脂等)10〜30質量%、溶剤(テルビネオール、ブチルカルビトール、ブチルカルビトールアセテート等)90〜70質量%からなるものが用いられる。
【0020】
第一の方法の工程(d)及び第二の方法の工程(d’)では、前記金粉末を含むペーストを印刷したグリーンシートを3次元の流路と貫通配線が確保されるように所定枚数積層する。
次いで、前記積層したグリーンシートを焼成し一体化する(第一の方法の工程(e)、第二の方法の工程(e’))。焼成温度は、850〜950℃、好ましくは850〜900℃であり、焼成時間は最高温度での保持時間が1〜3時間程度である。この工程により第一の方法では目的とする、3次元の流路と貫通配線を含む配線を有する陽極接合可能なLTCC基板が得られる。
【0021】
第二の方法では、貫通配線部となるビア及び配線部となる面を耐薬品性の保護膜でカバーした状態で、流路となるビアの金導体をエッチング処理により除去する工程(f)、及びさらに(g)保護膜を溶剤を用いて除去する工程を経ることにより陽極接合可能なLTCC基板が得られる。
【0022】
金導体のエッチング処理に用いられるAuを溶解する薬品としては、シアン系、王水系、よう素系(ヨウ素・ヨウ化アンモニウム水溶液、ヨウ素・ヨウ化カリウムの有機溶液など)が知られているが(THE CHEMICAL TIMES, 2004 No.3, 10-16等)、適度なAuのエッチング速度を有し、かつLTCCの表面粗さを悪化させない薬品を選定することと、この薬品に対してビアを保護する能力をもった保護膜を選定することが重要である。これらの中で、中性で取り扱い易いヨウ素系はAuのエッチング速度が1μm/分程度と遅いが、強アルカリであるシアン系エッチング液はエッチング速度が6μm/分程度と比較的早く、表面粗さを悪化させない点から好ましい。
【0023】
Au導体のエッチング時に貫通配線部を保護する膜としては、例えばアクリロニトリル・スチレン系樹脂とエポキシ樹脂で構成された樹脂が用いられる。具体的には、アルカリウエットエッチング保護膜であるブレバー・サイエンス社(Brewer Science,Inc)製のProTek(商品名)シリーズが好ましい。ProTekシリーズには非感光性のもの(ProTek B3)とネガ型感光性レジスト((ProTek PSB)があるが、後者を用いることにより微細なビアピッチが形成された製品を製作することができる。
【0024】
エッチングによるAuの除去後に、保護膜を剥離する。この剥離は、例えば硫酸過水(H2SO4:H22=2:1)に浸漬することで可能である。
保護膜を塗布する際に用いたプライマ(シランカップリング剤)が表面に残ることがあるが、この残渣を取り除くため、さらにRCA洗浄やO2/CF4プラズマ処理を行うことが望ましい。
【0025】
陽極接合するためには、接合時のLTCC基板の表面粗さを50nmRa程度以下、好ましくは3〜5nmRa程度に鏡面研磨する必要がある。この研磨では、研磨時の削りカスなどが流路に入り込むことを防止するために、樹脂ペーストの埋め込みで3次元流路を形成する第一の方法では、研磨時に孔を予め可溶性の樹脂等で埋めてから研磨し、その後埋め込んだ樹脂を溶剤に溶解させて3次元流路を形成する。また、Au導体を用いて3次元流路を形成する第二の方法では、5nm程度に鏡面研磨した後に3次元貫通配線に相当するビアを前述の耐薬品性の保護膜などでコートして、同様の方法によりAuをエッチング処理して除去する。
【0026】
こうして得られた本発明の3次元の流路と電気配線を内蔵したLTCC基板は、樹脂を介在物に用いるなどの方法によりMEMS素子基板と接合することもできるが、300〜450℃の比較的低い温度で陽極接合ができ、150MPa以上の高い抗折強度を有し、薄く大口径の基板でも割れにくくハンドリング性に優れるという特長を有するので、陽極接合法により各種電子デバイス(インクジェットプリンタ、燃料電池、圧力センサ、ガスセンサ、マイクロ混合器、マイクロリアクター等)用のMEMS素子を容易に製造することができる。
【実施例】
【0027】
以下、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明は下記の例により限定されるものではない。
焼成厚み70μmのグリーンシートに焼成後100μmφになるようなビアホールをパンチングで形成した。このビアホールに金粉末を約90質量%含むペーストでビア導体を充填し、金粉末を約75質量%含むペーストで焼成後の厚み10〜20μm程度になるようにパターンをスクリーン印刷し、乾燥した。こうして準備したグリーンシートを12層積層し、最高温度850℃での保持時間を1時間とし、昇温から降温まで約1日で焼成して、焼成厚み約0.8mmの陽極接合可能な貫通多層配線LTCC基板を作製し、3nmRa程度に鏡面研磨した。この基板上に感光性アルカリウエットエッチング保護膜(Brewer Science Inc,ProTek PSB)を形成し露光、現像処理を行って、3次元流路となるビアホールを露出させた。
【0028】
具体的には、LTCC基板上にプライマ(シランカップリング剤)を適量滴下して、3000rpmで1分間スピンコートした。プライマを塗布後、ホットプレートを用いて110℃で1分間、280℃で1分間加熱した。その後、ProTEK PSB を滴下して、プライマと同様に3000rpmで1分間スピンコートし、ホットプレートを用いて110℃で1分間加熱した。加熱後、i線(波長365nm)を用いて1000mJ/cm2の露光量で露光を行い、露光後ホットプレートを用いて110℃で2分間加熱した。現像は、乳酸エチルに5分間浸漬してよく撹拌して行った。現像後、イソプロピルアルコール(IPA)で洗浄し、スピンドライヤで乾燥した。最後に、ホットプレートを用いて220℃で3分間、加熱して硬化させ約2μmの保護膜を形成した。
【0029】
この基板を、金めっき剥離液(コキプアリップAU−1,上村工業(株)製)15g/L、水酸化カリウム(85%)20g/L、シアン化カリウム15g/L及びイオン交換水から調整したシアン系エッチング液中に浸漬させ超音波をかけながら露出したAuをエッチングし3次元流路を形成した。硫酸過水(H2SO4:H22=2:1)中にこの基板を約30分間程度浸漬させてエッチング保護膜を剥離した。こうして製造した基板は3次元流路と貫通多層配線を併せ持ち、表面粗さも鏡面研磨後と殆ど変化がなかった。また、例えば400℃、600Vの条件でシリコンと陽極接合が可能であった。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明は、3次元の流路と電気配線を1枚の基板に内蔵した陽極接合可能なLTCC基板を提供したものである。本発明のLTCC基板はシリコンで作られたMEMS素子と陽極接合で容易に貼り合わせることができ、液体やガスの注入・抽出を行うとともに、電気信号の伝達が必要な電子デバイス、例えばインクジェットプリンタ、燃料電池、圧力センサ、マイクロ混合器、マイクロリアクターなどのMEMS素子用として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
3次元の流路と電気配線を内蔵した陽極接合可能なLTCC基板。
【請求項2】
焼成後に3次元の流路または貫通配線部となるビアホールを所定箇所に開け、前記流路となるビアホールに焼成時消失する樹脂ペーストを印刷し、前記貫通配線部となるビアホール及び配線部となる表面に金粉末を含むペーストを印刷したLTCC基板用グリーンシートを、3次元の流路と貫通配線が確保されるように所定枚数積層して焼成し、一体化してなる請求項1に記載の陽極接合可能なLTCC基板。
【請求項3】
焼成しエッチング処理した後に3次元の流路または貫通配線部となるビアホールを所定箇所に開け、前記ビアホール及び表面の配線部に金粉末を含むペーストを印刷したLTCC基板用グリーンシートを、3次元の流路と貫通配線が確保されるように所定枚数積層して、焼成し一体化した後に3次元の流路となるビアホール内の金導体をエッチング処理により除去してなる請求項1に記載の陽極接合可能なLTCC基板。
【請求項4】
(a)LTCC基板用グリーンシートの所定箇所に、焼成後に3次元の流路または貫通配線部となるビアホールを開ける工程、(b)前記流路となるビアホールに焼成時消失する樹脂ペーストを印刷する工程、(c)前記貫通配線部となるビアホール及び配線部となる表面に金粉末を含むペーストを印刷する工程、(d)前記樹脂ペースト及び金粉末を含むペーストを印刷したグリーンシートを、3次元の流路と貫通配線が確保されるように所定枚数積層する工程、及び(e)前記積層したグリーンシートを焼成し一体化する工程を有することを特徴とする3次元の流路と電気配線を内蔵した陽極接合可能なLTCC基板の製造方法。
【請求項5】
(a)LTCC基板用グリーンシートの所定箇所に、焼成しエッチング処理した後に3次元の流路または貫通配線部となるビアホールを開ける工程、(c’)前記ビアホール及び表面の配線部に金粉末を含むペーストを印刷する工程、(d’)前記金粉末を含むペーストを印刷したグリーンシートを3次元の流路と貫通配線が確保されるように所定枚数積層する工程、(e’)前記積層したグリーンシートを焼成し一体化する工程、(f)前記貫通配線部となるビア及び配線部となる面を保護膜でカバーした状態で、金導体をエッチング処理して除去する工程、及び(g)保護膜を剥離する工程を有することを特徴とする3次元の流路と電気配線を内蔵した陽極接合可能なLTCC基板の製造方法。
【請求項6】
前記保護膜としてアルカリウエットエッチング保護膜を用い、金導体のエッチング溶液としてシアン系エッチング液を用いる請求項5に記載の陽極接合可能なLTCC基板の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜3のいずれかの項に記載のLTCC基板とMEMS素子が形成されたシリコンウエハとを陽極接合してなるMEMS素子。
【請求項8】
請求項1〜3のいずれかの項に記載の鏡面研磨したLTCC基板を、MEMS素子が形成されたシリコンウエハと陽極接合した後ダイシングすることを特徴とするMEMS素子の製造方法。

【公開番号】特開2012−9590(P2012−9590A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−143578(P2010−143578)
【出願日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【出願人】(390010216)ニッコー株式会社 (49)
【Fターム(参考)】