説明

3次元高度探知鳥類レーダー用装置および方法

高度探知3次元鳥類レーダーは、アンテナの指向仰角を変更する手段を備える方位角スキャンレーダーを備えている。仰角の変更は、多重ビームを備えたアンテナを用いるか、仰角方向走査手段を用いるか、異なる仰角を指向する2つのレーダーを用いることにより行える。異なる仰角で放射されたビームで探知された鳥などのターゲットからの受信反射波の解析により、ターゲットの高度が特定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地上レーダーシステムおよび方法に関する。本発明は、さらに詳しくは、レーダーによるターゲットの探知、追跡、およびターゲット高度の評価に関する。本発明は、鳥類およびその他の飛行中のターゲットのレーダーによる監視に殊に有用である。
【背景技術】
【0002】
鳥類レーダーは、飛行場や風力発電地帯や通信塔の近郊および渡り鳥の飛翔ルートに沿って鳥類の飛行を追跡するために用いられる。鳥類は、航空の安全にとって重大な危険物のひとつである。鳥類監視を必要とする適用分野には、鳥と航空機の衝突危険(BASH:bird aircraft strike hazard)問題と、天然資源管理(NRM: natural resource management)問題がある。航空機に鳥が突入することにより航空機が何十億ドルもの損害を被ると共に貴重な生命が失われていることが報告されており、これは特に飛行場近郊における離着陸時に起こっている。
【0003】
鳥に関連する危険の度合いは、とりわけ鳥の高度にかかっている。鳥探知追跡レーダー使用者は、追跡中の鳥の高度を知る必要がある。しかし最新の鳥類レーダーでも、ターゲット追跡の位置特定を2次元領域で行っているに過ぎない。このようなシステムでは、実質的には(ビーム到達範囲内での)高さ推定を行っていない。このため鳥類レーダーは、対象となる鳥(もしくはその他の飛行物)の高度推定を行う必要がある。鳥類レーダーには、実用的且つ経済的な方法でターゲット高度を推定する手段が必要である。本発明の目的は、このような手段を備えた次世代鳥類レーダーを提供することであり、これによって現技術水準における目下の限界を克服することにある。
【0004】
最新の鳥類レーダーは、スロット付き導波管アレイアンテナならびにパラボラレフレクタまたはカセグレン(ディッシュ)アンテナを装備した安価な民生品(COTS)のX−バンド海洋レーダー送受信機を用いている。受信された原ベースバンド信号がデジタル化され、ターゲットである鳥の探知追跡に用いられる。最新の鳥類レーダーは、危険物の自動検知、位置特定および警告により継続的で昼夜全天候型の状況認識を行う。最新の鳥類レーダーは、危険な可能性のあるターゲットの行動を特定する洗練された判断基準を用いて高品質なターゲット追跡データを供給するとともに、警報を必要とするユーザーに対して警報を通信する。また、最新の鳥類レーダーは、オペレータの相互操作を最小限にする。
【0005】
最新の鳥類レーダーの特徴としては次のようなものが挙げられる:
・ 地上に設置された架台に搭載された低コスト高性能のレーダーアンテナと送受信機
・ ターゲットとクラッタが密集した環境における、小さくてレーダー反射面積(RSC)が狭く巧みに動くターゲットを確実に探知追跡できるレーダー処理
・ 危険を自動検知して遠隔地のユーザーに警報を送る能力
・ 広域探査範囲を提供するレーダーネットワークの形成
・ 低運転費用
・ 低ライフサイクルコスト
・ 研究開発のためのデータ分析サポート
【0006】
民生品海洋レーダーは、非常に安価である。これらの海洋レーダーは、驚異的に優れたハードウエア仕様書を提示している。しかしながら、これらのレーダーは、そのままでは、その信号処理の未熟さ故に鳥類を探知追跡するには性能が十分ではない。民生品の海洋レーダーにデジタイザー回路基板と、民生品のパーソナルコンピュータ(PC)上で作動するレーダープロセッサソフトウエアと、パラボラディッシュアンテナを組み合わせることで、鳥類レーダーを作ることができるが、この最新の鳥類レーダーの3次元(3D)位置特定能力は、非常に限られたものになる。しかしこのようなレーダーを、アンテナおよび処理をカスタマイズすることで、高度推定と高度探査が可能なものに変形できる。
【0007】
スロット付き導波管アレイアンテナは、2次元(2D)の位置特定、すなわち、探知距離と方位角、言い換えれば緯度と経度による位置特定に用いられる。これらのシステムは、一般的に垂直方向(仰角方向)のビーム幅が大きい(約20°)ため、探査範囲体積が大きい。しかしこのようなシステムは、レーダーが通常の向きで水平に回転しているときには追跡中のターゲットの高さを有効に推定することができない。これは、第3次元(仰角方向)におけるビーム不確定性、つまりビームの範囲、が大き過ぎることによる。例えば、レーダーからたった1km離れたターゲットに対するビームの仰角方向の範囲、言い換えれば高さの不確定性は約1000フィートにもなる。これは、もし飛行機と鳥がこのレーダーによって1km離れた場所で追跡されていても、これら2つのターゲットが互いに1000フィート離れているかどうか(つまり、一方が地上にあり、もう一方が垂直ビームの上端、すなわち地上から1000フィートの所にあるかどうか)も、これらが同じ高度にあって衝突の危険があるかどうかも分からないということを意味する。スロットアレイアンテナを、水平ではなく垂直に回転させることにより高度測定可能にしたレーダーが幾つか開発されているが、これらも2Dレーダーとしての機能を持っているにすぎない。(Nocturnal Bird Migration over an Appalachian Ridge at a Proposed Wind Power Project, Mabee et al, Wildlife Society Bulletin 34(3), 2006, page 683 参照)。高度を測定するために、これらのレーダーは、360°の方位角方向探査範囲を提供しているに過ぎず、これは、従来の方位角方向回転レーダーが提供しているものでしかない。
【0008】
現在用いられているパラボラレフレクタまたはカセグレン(ディッシュ)アンテナは、非常に限られた範囲の3D位置特定能力を提供するに過ぎない。これらのアンテナは、単一ビーム(ペンシル形)を採用しており、仰角は固定されているが、方位角方向に回転する。この方位角方向回転により、探査距離−方位角または緯度−経度における位置特定をともなう通常の2次元での360°の探査範囲が提供される。しかしながら、狭い幅(2°から4°程度)のペンシルビームを用いることによって、ビーム幅20°のスロットアレイアンテナに比べて、高さにおける不確定性は著しく低減される。前記の例を引けば、このレーダーから1km離れたターゲットで4°のディッシュアンテナを用いた場合、約200フィートの不確定性ないし誤差範囲で高さを推定することが可能になる。このように非常に近い探知距離においては有用な高さ情報が得られるものの、遠方のターゲットに対しては、高さ推定はなお限定的にしか用いることができない。また、狭いビーム幅のペンシルビームを用いた分、探査範囲体積が限定される。本発明は、より優れた3次元位置特定を可能とすることにより、上記の制約を克服することを目的とする。特に、本明細書に開示する手段は、高度推定性能の向上すなわち高度不確定性の低減と同時に探査範囲体積の拡大を行うものである。
【0009】
Merrill I. Skolnik は、その著書であるIntroduction to Radar Systems, 2nd Edition, McGraw-Hill Book Company 1980とRadar Handbook, 2nd Edition, McGraw-Hill, Inc., 1990の中で、上下動する水平扇ビームを用いた高度探知レーダーについて記述している。これらのレーダーは、別の2次元対空監視レーダーによってターゲットが探知されると、その方角に向けられる。これらの高度探知レーダーは、1分間に20個程度以上はターゲットの高度推定を行うことができない。また、密集したターゲット環境においては方位角−仰角(Az−El)曖昧性に問題がある。軍用の機上監視レーダーや地上監視レーダーは、ただ1つのターゲットのみの高度情報を(両次元における閉ループ指向性を介して)提供する。これらは、モノパルスロービングまたはシーケンシャルロービング技術を用いて、照準範囲外エラー信号を取得するが、高度探知レーダー同様、3次元監視を行うことはできない。一方、軍用3次元監視レーダーは、多重受信ビームまたは高速電子走査ペンシルビームを形成する回転式フェーズドアレイアンテナを採用している。(Radar Applications, Merrill I. Skolnik, IEEE Press New York, 1987参照)。これらのレーダーシステム同様、本発明も本格的3次元監視を行う。すなわち、高度を推定しながらアンテナが方位角方向に回転する。しかしながら、本発明は低コストである。これに対して軍用3次元レーダーシステムは、そのフェーズドアレイアンテナ故に、桁違いに高価である。本発明は、高価なフェーズドアレイを用いず、海洋レーダーとPCベースの処理を用いることで、特に軍用システムに比べて著しいコスト削減を達成するものである。
【0010】
米国およびカナダは、北米バードストライク警告システム(NABSAS:North-American Bird Strike Advisory System)を構想し開発中である。このシステムは、北米全域に配置した多数の局で鳥の活動と(航空機に対する)危険性に関する情報を収集しユーザーに提供しようというものである。このシステムは、データソースの一部として鳥類レーダーのネットワークを含んでおり、鳥の高度ならびに鳥の地上航跡の探知が望まれている。本発明による3次元鳥類レーダーは、この警告システムにとって理想的な鳥類情報源となるであろう。
【0011】
なお、本明細書で説明するのと同様の改良を、国土保安等の他分野で利用される低コストレーダーに適用することができることは、当業者にとって自明であろう。プロット抽出(すなわち探知)機能を備えたいかなるレーダーでも、探知したターゲットの高度推定のために、ここに記載する装置および方法を用いることが可能であろう。そのようなレーダーは、例えば、米国特許出願公報第2006/0238406号に「Low-cost, High-performance Radar Networks」という名称で記載されており、参照することにより、その記載が本明細書に組み込まれるものとする。
【発明の目的】
【0012】
本発明の目的の1つは、現状水準のレーダーシステムの2次元ターゲット位置特定能力を拡張して3次元化する改良を行った最新の鳥類レーダーシステムを提供することである。
【0013】
本発明の第一の目的は、3次元(緯度、経度および高度)において鳥類等のターゲットの位置特定を行える、手頃な価格の3次元鳥類レーダーシステムを提供することにある。
【0014】
本発明の別の目的は、3次元空間においてターゲットである鳥の位置特定を行えるように既存の2次元鳥類レーダーシステムを手頃な価格で改良する手段を提供することにある。
【0015】
本発明の主要目的は、従来の2次元鳥類レーダーに比べて著しく高精度のターゲット高度推定を、探査範囲体積を狭めることなく可能とする手段を提供することにある。
【0016】
本発明の別の目的は、ディッシュアンテナを用いる従来の2次元鳥類レーダーに比べて著しく広い探査範囲体積を、ターゲット高度推定精度を低下させることなく可能とする手段を提供することにある。
【0017】
本発明の更に別の目的は、ターゲットのレーダー反射面積の推定精度を向上させることにある。
【0018】
本発明の最終目的は、鳥と航空機の衝突可能性を判定できるレーダーシステムを提供することにある。
【0019】
本発明の上記およびその他の目的は、本明細書に含まれた図面および記載から明らかになるであろう。なお、本発明の各目的は、本発明の少なくとも1つの実施例によって達成されることに留意されたい。しかしながら、本発明のすべての実施形態が、ここに述べた本発明のすべての目的に必ずしも沿うわけではない。
【発明の概要】
【0020】
本発明は、最新の2次元鳥類レーダーシステムに実用的な改良を施すものであり、これには、アンテナ設計とこれに関連して必要となるレーダー送受信機の変更が含まれる。本発明による改良は次のような特徴を有する。
・ 現行システムに対し、安価かつ付加的な改良である。
・ 高さ方向探査範囲が拡張される。
・ 探査範囲内での高度推定精度が向上する。
・ 地上(仰角ゼロ)でのサイドローブレスポンスが低い。
・ ビーム方位角レスポンスが狭い。
【0021】
本発明によれば、次のような概略レーダーシステム設計が、上記のような望ましい特徴を(程度の差はあるが)実現する。
1.多重ペンシルビームを有するアンテナを備え、これらのビームを高速に時系列で切り替える(シーケンシャルロービング)レーダーシステム
2.多重積層ビームを同時に受信するモノパルスアンテナを採用したレーダーシステム
3.方位角方向に高速回転しながら仰角方向に上下に低速走査する単一のペンシルビームを備えたレーダーシステム。なお、このようなシステムは、高さ方向の探査と高度の推定を一度に行えるものではないが、一定時間に亘る動作により、これを実現する。
4.2つの単一ビームレーダーシステムを互いに異なる一定の仰角で並列的に作動させるシステム
【0022】
本発明による高度探知アンテナおよび高度探知技術を鳥類レーダーに適用することで、探知された鳥等のターゲットに関する高度情報をBASHおよびNRMのために提供する手段が得られる。本発明は、民生(COTS)レーダー送受信機に好適なカスタム設計したアンテナ(カスタム構成されたレーダー送受信機を用いてシステム統合を容易にするものであるが、それでも本発明の主旨に沿うものである)、ならびに新規の検知された鳥等のターゲットの高度を推定するレーダー信号および処理アルゴリズムを用いる。
【0023】
本発明による3次元レーダーシステムは、仰角方向における有効指向方向を変更する手段を備えたアンテナと、前記アンテナを介して放射されるレーダー信号を発生するために前記アンテナに動作接続されたレーダー送信機と、前記アンテナに動作接続されたレーダー受信機と、前記アンテナを1つの軸を中心に回転させるために前記アンテナに動作取付された方位方向走査手段と、前記受信機に動作接続されたプロセッサとを備えており、前記プロセッサが、飛行ターゲットを探知してその位置を方位と距離により特定するように構成され、さらにまた、探知された各ターゲットの高度を、前記アンテナの仰角方向における指向方向の関数として反射波の相対振幅に基づいて推定するように構成されている。
【0024】
本発明によると、上記システムに関連する飛行ターゲットの高度特定方法は、(a)少なくとも1つのレーダーアンテナを有するレーダーシステムを作動してターゲットを照明および検知するステップ、(b)前記レーダーシステムの動作中に、前記少なくとも1つのレーダーアンテナの仰角指向角度を変更するステップ、(c)探知されたターゲットの高度を、前記アンテナの仰角指向角度の関数として反射波振幅の変動により推定するステップを含む。。
【0025】
本発明の第1の形態では、異なる仰角を指向する少なくとも2つの選択可能なレーダービームを有するアンテナを用いたビーム切替方式を採用する。各ビームは、互いに同じもしくは近似する方位角応答を有するペンシルビームであることが好ましい。方位角方向ビーム幅は仰角方向ビーム幅と同じである必要はない。これは、従来のディッシュアンテナを用いた場合と同様である。つまり、用途に応じて好ましいアスペクト比にする。各ビームは、ワーストサイドローブがかなり低く(例えば −20dB)、仰角ゼロでは更に低い(例えば −25dB以下)ことが好ましい。最低位のビームは、仰角ゼロでのグランドリターンが、このビームの下方サイドローブ内に入るのに十分な仰角とすることが好ましい。つまり、最低位ビームはさらに高めの仰角にすると良い。第2ビームは、最低位ビームより一般的にビーム幅の2分の1から2倍高い仰角にされ、その他の任意の上方ビームも同様に分離される。好ましい実施例においては、方位角方向ビーム幅を1°、仰角方向ビーム幅を3°とし、2つのビームの仰角をそれぞれ5°と9°とする。
【0026】
1つの選択肢として、ビームの実際の仰角を、レーダーがオフラインの間に機械的に(例えば、アンテナ構造体を所望の設置位置に傾斜ないし回転させ、その位置に固定することにより)調整可能とすることが望ましい。上記の例では、5°と9°を各ビームの基準(アンテナの傾きがゼロの)設置位置とし、アンテナを傾ける(すなわち、調整する)ことにより、例えば10°と14°の仰角にすることが可能とする。この機械的調整を、レーダー操作者がジョイスティック、スライダ、他の都合のよいソフトウエア、またはハードウエアによる制御インターフェースを適宜用いて電気的に制御することも可能である。
【0027】
本発明によるビーム切替式アンテナの好ましい実施例は、2個以上の縦に重ねられたフィードホーンを備えたレフレクタアンテナであり、各ホーンは、簡単な単一モードのフレア導波管型である。サイドローブをより低減するには、オフセットフィード構造にするのが好ましい場合がある。(これによりフィード妨害が取り除かれる。)
【0028】
アンテナは、好ましくは、送受信を行いつつ、毎分24回転(RPM)以上の速度で連続的に360°方位角方向に回転する。回転速度を選択可能とすることが望ましい。回転式アンテナは、一般的にほぼ地上高度に設置される。つまり、トレイラーもしくは小さな建物の屋根、または専用の基台に設置することができる。設置場所によっては、近隣の障害物を避けるために、アンテナを地面より10フィート程度上に設ける必要があるであろう。回転式アンテナは、通常、環境(風、雨、埃等)から保護される(すなわち、影響されない)ようになっているが、いずれかの保護対策によってビームパターンが大きく妨げられたり、サイドローブが許容レベル以上になったりしないようにすべきである。回転式アンテナのボアサイト(照準範囲)は、機械的装置によって(大抵の場合)妨げられてはならず、一部の実用例では、方位角セクタの一部に障害があっても構わないことがある。
【0029】
ハイパワースイッチは、通常、COTS海洋レーダー送受信機により供給される電力に適合する2kWから60kWの範囲で、アンテナと共に回転し、送信信号用ビームと受信信号用ビームとを切り替える。好ましくはプロセッサがスイッチを制御し、ビーム間の切替をパルス単位で、任意にプログラムされたパターンにしたがって行う。切替は、好ましくは、最遠距離からのリターンと次の送信パルスの開始の間の空き時間に行うことが好ましい。スリップリング接続を有するロータリー・ジョイントは、スイッチとアンテナが方位角方向に回転している間、RF、スイッチへの給電、およびスイッチの切替制御信号のための伝送路を供給する。この代わりに、ワイヤレス接続やバッテリー、および/またはその他の最新の機構を用いてRF、電力、および/またはスイッチ制御を供給することもできる。これにより、専用のロータリージョイントを用いる必要がなくなる。
【0030】
別のビーム切替方式の実施例は、回転スイッチやハイパワースイッチを必要としない。ローパワースイッチが受信(Rx)信号に関してのみ作動する。送信は、両ビーム(あるいは両ビームにまたがる第3のビーム)の外の帯域で行われる。RFが、デュアルチャネルロータリー・ジョイントの和チャネルとハイブリッドチャネルとを介してビームに送達される。両ビームからのRx信号は、ハイブリッドと、デュアルチャネルロータリージョイントの和チャネルおよび差チャネルと、もう一つのハイブリッドとを介してスイッチに送られる。この実施例は、送信が両ビームを介するので、仰角の識別性がやや劣る。
【0031】
本発明の第2の実施形態は、モノパルスシステムであり、これはビーム切替式の代替であるが、システムコストがやや高くつき、複雑になる可能性がある。モノパルスシステムでは、各パルス毎に単一ビームを外へ送信すると同時に、各パルス毎に2つの独特なビームに基づく信号を受信する。ビーム形状の必要条件は、スイッチ切替式の場合同様である。モノパルスシステムは、上下方向に重ねられた2つの受信ビームと両受信ビームをカバーするのに十分な広さの送信ビームとを必要とする。送信は、両ビーム(あるいは両ビームにまたがる第3のビーム)の外で行われる。RFが、デュアルチャネルロータリー・ジョイントの和チャネルを介し、かつハイブリッドチャネルを通して各ビームに送達される。モノパルスシステムは、それぞれアンテナからサンプリングシステムまで延びる2つの受信路を必要とする。両ビームからの受信信号は、ハイブリッドと、デュアルチャネルロータリージョイントの和チャネルおよび差チャネルを介し、かつ別のハイブリッドチャネルを通して受信機に送られる。
【0032】
本発明の第3の形態は、低速仰角方向走査式システムであり、これもスイッチ切替式ビームの別の代替である。単一ビームを、方位角方向に高速回転させながら、仰角方向にゆっくり上下に移動させる(ヘリカル走査)。上下動は機械的に行ってもよいし電子的に行ってもよい。上下動は、ターゲットが数回の連続する走査の間中ビーム内に滞留する程度に、つまり航跡を形成するのに十分な長さ滞留するような低速とする。装置は、方位角方向回転中に上下動を制御できるように構成しなければならない。仰角方向探査範囲は即時的には広くないが、数分間に亘る走査により広がる。これは、この構成の重要な欠点である。つまり、どの鳥も検知できるというわけではないが、一時間毎、一日毎、あるいは季節毎の活動を把握することができる。(この点において、気象レーダーに似ている。)この形態の、多重ビーム方式に比しての主な長所は、探査範囲をより柔軟に選択できることである(例えば、日中は5°から10°の間を指向し、夜間は10°から20°の間を指向するように設定することもできる)。また、この形態は、現行システムに非常に簡単な改良を加えることで実施できる。つまり、アンテナは、簡単な従来のディッシュアンテナでよく、受信機やサンプリングシステムに変更を加える必要もない。データ処理についても、追跡データの解析処理を変更すればよいだけである。ただしプロセッサには、方位角方向(Az)と仰角方向(El)の位置の情報を(走査手段からの信号を介して)常に入力する必要がある。プロセッサは、オペレータが設定するパラメータに従って仰角を調節することが好ましい。
【0033】
本発明の第4の形態は、ビーム切替式システムの別の代替であり、2つ(または2つ以上)の独立した単一ビーム鳥類レーダーシステムを用い、これらのレーダーシステムのアンテナをそれぞれ異なる仰角に固定して設定し、並列に作動させる。各鳥類レーダーが、固有の受信機とプロセッサを用いて、それぞれの探査範囲体積内でターゲットを探知し、好ましくは追跡する。各レーダーからの検出データおよび/または追跡データを、後方の融合処理部で組み合わせて、各レーダーからの各ターゲットの相対的反射波振幅に基づいて、各ターゲットの高度を推定する。
【0034】
本発明の形態に関係なく、所与のターゲットに対して、その高度の推定は、ターゲットの探知距離−方位角セルに可能な限り同時に近く各ビームから受信された信号間の振幅比に基づいて行われる。好ましくは、高度推定アルゴリズムは、どの仰角でそのような比が生じうるかを正確に特定するために補間処理を用いる。これにより、より良好な高度推定を行える。レーダープロセッサは、当業者にとって公知の最新の検出方法を用いて各ビーム内のターゲットを検出し、加えて、好ましくは、例えば、参照することにより本明細書に含まれる、米国特許出願公報第11/110436号の「Low-cost, High-performance Radar Networks」に記載の検出及び追跡アルゴリズムなどのような、当業者にとって公知の最新の多重ターゲット追跡アルゴリズムを用いてターゲットを追跡する。多重ターゲット追跡手段をプロセッサに設けるのが好ましい。なぜならこれにより、ターゲットの航跡の(ビーム間での)関連付けが容易になり、当業者にとって公知の方法を用いた煩わしい探知毎の高度推定を円滑化できるので、より良い高度推定が創出される。探知されたターゲットの高度をユーザーに表示するために、当業者にとって公知の様々な方法を用いることができる。例えば、各ターゲットの高さを色や強度や数字を使って示したり、ヒストグラム等の、いくつかのまたは全てのターゲットの高度分布を示す統計的表示を行ったりすることもできる。
【0035】
高度情報を得ることに関連する利点は、ターゲットのレーダー反射面積(RCS)をより正確に推定できるようになり、ターゲットの分類が容易になることである。レーダーシステムが、特定のターゲットに関して方位角と仰角を把握していれば、当業者にとって公知の方法を用いてターゲット振幅を直にRCSに変換することができる。システムが、ビームの(仰角方向)中心に対する相対位置を把握していないと、ターゲット振幅値に不明なビーム減衰要因が含まれることになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0036】
【特許文献1】米国特許出願公報第2006/0238406号
【特許文献2】米国特許出願公報第11/110436号
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明のビーム切替式鳥類高度探知レーダー装置を示すブロック図である。
【図2】図1に示すビーム切替式装置のローパワースイッチ式の変形例を示すブロック図である。
【図3】本発明のモノパルス式鳥類高度探知レーダー装置を示すブロック図である。
【図4】本発明の低速仰角方向走査式鳥類高度探知レーダー装置を示すブロック図である。
【図5】本発明の周波数走査ビーム切替式鳥類高度探知レーダー装置を示すブロック図である。
【図6】本発明の多重並列式鳥類高度探知レーダー装置を示すブロック図である。
【図7】レーダープロセッサのサブシステムとデータ送信先を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
本発明のビーム切替式鳥類高度検出レーダー装置1のブロック図を図1に示す。各ブロックの特徴は次の通りである。鳥類高度検出レーダー装置1は、レーダー送信機2を備えている。この送信機2は、一般的には非コヒーレントであり、一定幅のパルスを、XバンドまたはSバンド(またはその他の帯域)の一定のパルス繰り返し周波数(PRF)で送信する。鳥類高度検出レーダー装置1は、一般的には連続回転式か扇形走査式かのいずれかのアンテナ3を有する。アンテナ3は、一般的には監視すべき領域内(または領域近辺)の地上高度付近に設置される。
【0039】
アンテナ3が送受信を行っている間、方位角走査手段4がアンテナ3を方位角方向に連続的に回転させる。サーキュレータ5とリミッタ6と受信機7は、海洋レーダー送受信機に用いられているような従来のレーダー構成要素である。サンプリングシステム8はレーダー反射ビデオ信号をデジタル化する。
【0040】
ビーム切替式アンテナ3は、(少なくとも)2つの選択可能な異なる仰角に指向されたレーダービーム15を有する。ハイパワースイッチ10はアンテナ3と共に回転し、送信パルス用ビームの切替と受信信号用ビームの切替を行う。プロセッサ11はスイッチを制御する。スリップリング接続を用いたロータリージョイント12を介して、スイッチとアンテナが方位角方向に回転している間、RF(無線周波数)信号の経路の提供と、スイッチへの給電と、切替制御とが行なわれる。
【0041】
スイッチ制御回路13はスイッチ10を駆動して各切替位置に設定する。スイッチ制御回路13は、好ましくはRF信号14から(または送信機の励振信号から)パルス送信タイミング情報を抽出する。スイッチ制御回路13は、検知したRF信号から、予めプログラムされた遅延時間の後に、つまりプロセッサ11によって指定された遅延時間と切替パターンで、切替状態信号を生成する。好ましくは、切替状態がパルス毎に変化し、これによりビームがパルス毎に交互に切り替わる。
【0042】
図2に、ビーム切替式レーダー装置の別の実施例20を示す。ローパワースイッチ16はアンテナ3と共に回転することなく、Rx信号に関してのみ作動する。送信は、両ビーム15外の帯域で行われる。RFは、デュアルチャネルロータリージョイント19の和チャネルを介し、かつハイブリッドチャネル17を通して両ビーム15に送達される。両ビームからの受信信号は、ハイブリッド17およびデュアルチャネルロータリージョイント19の和チャネルおよび差チャネルを介し、ハイブリッドチャネル18を通してスイッチに送られる。
【0043】
図3に示すモノパルス式鳥類高度検出レーダー装置21は、ビーム切替式レーダー装置の別の実施例である。RFパルスは、デュアルチャネルロータリージョイント19の和チャネルを介し、かつハイブリッド17を通してビーム15に送達される。2つの受信路(LおよびU)22は、それぞれアンテナ3からサンプリングシステム8まで延びている。両ビーム15からの受信信号は、ハイブリッドチャネル17とデュアルチャネルロータリージョイント19の和チャネルおよび差チャネルを介し、かつハイブリッドチャネル18を通して受信機7に送られる。
【0044】
図4に示す低速仰角方向走査式鳥類高度検出レーダー装置24は、本発明の別の実施例である。アンテナ3は、上記設計に比べて簡単な構成の、単一ビーム式である。Az−El走査手段23によってアンテナ3が移動してヘリカル走査を行う。仰角方向ロータリージョイント25と方位角方向ロータリージョイント12が、両次元での走査を行いつつRF送信を行うことを可能としている。
【0045】
走査毎仰角切替方式は、ビーム切替式システムの更に別の形態である。この場合、アンテナは、1つの仰角位置で走査を一回行い、仰角位置を切り替えて次の走査を行い、また元の仰角位置に戻って走査するということを繰り返す。この構成では、一方のビームにおいてのみ探知されるターゲットに対する再訪時間が半減するので、追跡性能が低下する。この解決法は、ビーム切替式アンテナが利用できる場合には使えるであろうが、交互切替パルス(例えば機械スイッチの場合のような)では、この方法は切替に時間がかかり過ぎて適用できない。プロセッサは、追跡物の高度を推測するためには、数回の走査に亘って振幅の交互の変動を分析することになる。追跡手段は、一つおきの走査でのみ探知されるターゲットを処理するように設定されなければならない。このようなターゲットは、一方のビーム範囲の高度内にあるからである。このシステムは、疑似低速仰角方向走査を行うように構成することもできる。疑似低速仰角方向走査では、1つの仰角位置で複数回連続的に走査を行い、それから次の仰角位置に切り替えて複数回連続的に走査する。
【0046】
図5に示す周波数走査式装置26は、ビーム切替式システムの別の実施例であり、ここでは、送受信機のRFの(パルス毎の)チューニングによりビームを仰角方向に走査させて、連続的に選択可能なビーム位置を得ている。この構成は、オペレータによる仰角方向探査範囲の制御をより柔軟なものとする。この装置には、平板形周波数走査フェーズドアレイアンテナ27が採用される。このタイプのアンテナは、移相の必要なしに遙かに低コストでフェーズドアレイ動作を実現する。開口のテーパを厳密に設計することにより、(一般的なレフレクタよりも)サイドローブを低くすることが出来る。レーダー送信機2と受信機7は、かなり広い帯域に亘って迅速に同調可能でなければならない。このため、この装置には安価なCOTS海洋レーダーを用いることができない。
【0047】
図6に示す高度検出鳥類レーダーシステムの別の実施例28は、2つ(又は2つ以上)の並列鳥類レーダーから成り、一方のレーダーサブシステム29が低い仰角で作動し、他方のレーダーサブシステム30が高い仰角で作動するものである。各レーダーサブシステム29,30は独自の受信機7とサンプリングシステム8とプロセッサ11を有する。両者の追跡データ(または検出値)を融合プロセッサ31で融合して、探知されたターゲットの高度推定値を導き出す。
【0048】
他の走査法を用いることも可能であるが、通常360°の方位角方向探査範囲が要求される鳥類レーダーには上記の方法がより適している。例えば、低速で方位角方向に回転しながら高速で機械的に仰角方向上下動(または回転)する走査を行ってもよい。あるいは、往復走査線モードで(電子的または機械的に、あるいは両者を組み合わせて)2次元走査を行うことも可能であろう。フェーズドアレイアンテナを本発明のレーダー探知器に組み込んでもよいが、この構成は、フェーズドアレイアンテナに要する予算が非常に高くつくので、本発明の好ましい実施例とはいえない。
【0049】
本明細書に開示するレーダーシステムの実施例は、標準的COTS技術の特長を最大限活かしてシステムコストを低く抑えるとともに、維持管理、アップグレード能力およびトレーニングに関するライフサイクルコストを低く抑えることを目指すのが好ましい。探知器コストを最小限に抑えるには、レーダー探知器として民生(COTS)海洋レーダーを用いるのが好ましい。レーダープロセッサ11自体が、洗練されたアルゴリズムとCOTSパーソナルコンピュータ(PC)上で作動するソフトウエアとを組み込んでいる。好ましい実施例によって、鳥類レーダーとして適用される低コスト高性能の地上設置型レーダー探知機が提供される。好ましい実施例では、海洋レーダー受信機に受信された原レーダービデオ信号をデジタル化する。また、この好ましい実施例では、米国特許出願公報第2006/0238406号(発明の名称「Low-cost, High-performance Radar Networks」)に記載のような、探知、追跡および表示等に優れた処理能力を有するPCベースのレーダープロセッサを用いる。この先行技術は、この参照により本明細書に組み込まれ、以下にさらに説明する。
【0050】
図7に示すレーダープロセッサ11は、好ましくは、検出処理部32と、追跡処理部33と、後処理部34と表示処理部35とを1つにまとめたものである。検出処理部32は、例えば走査変換、クラッタ抑圧、セクタブランキング、定誤警報率化(CFAR:Constant False Alarm Rate)処理等の適応閾値化、デジタル感度時間制御(STC: Sensitivity Time Control)といった当業者にとって周知のレーダー信号処理を行う。クラッタ抑圧は、地上および天候によるクラッタを取り除くための適応的クラッタマップ処理の使用により行う。セクタブランキングは、対象外の領域における探知や干渉を防ぐためのものである。検出処理部32は、目標プロット36の存在と位置を、好ましくはレーダー走査毎に、報告する。各プロットに関する情報には、好ましくは、時間、探知距離、方位角、(ビーム中心の)仰角および振幅が含まれる。追跡処理部33は、時間順次の検出データ(プロットとも呼ばれる)をターゲット追跡データ37(推定された動態をもつ確認されたターゲット)と誤警報とのいずれかに選別する。各々の追跡されたターゲットの情報(追跡データ)は、時間と推定3次元空間位置と速度とRCSを含むことが望ましい。
【0051】
プロット−トラック関連付けアルゴリズムは、多数のターゲットや探知ミス、誤警報や移動ターゲットにより生ずる曖昧性を解消する手段を提供する。また、トラックフィルタリングアルゴリズムは、関連付けアルゴリズムと表示処理部のためのターゲット動態の高度な推定を可能とする。追跡処理部は、MHTと呼ばれる高度なプロット−トラック関連付けアルゴリズムを用いることが好ましく、また、上記米国特許出願公報第2006/0238406号に記載のような相互多重モデル(IMM)フィルタリングと呼ばれる最先端のトラックフィルタリングアルゴリズムを用いることが好ましい。
【0052】
図1、図2、図3、図4、図5に示す各装置については、プロセッサ11は、本発明による高度検出アルゴリズムも含む。図6の並列型装置については、プロセッサ11とは分離した融合処理部31が高度検出計算を行って、ターゲットの高度推定値を算定する。
【0053】
後処理部34(図7)は、追跡データ37を分析して、好ましくはネットワーク39または融合処理部31のいずれかにターゲットデータ38を伝達する。また後処理部34は、実時間ターゲットデータ38をローカル表示処理部35に配信することもできる。これにより、航跡がリアルタイムでオペレータのモニタに表示される。ターゲットデータ38は、警告や統計的要約や縮小したサブセット等のユーザー専用プロダクトに精製された追跡データ37から成る。
【0054】
本発明の高度検出アルゴリズムは、所与のターゲットに対して、そのターゲットの探知距離−方位角セルに各ビームから可能な限り同時に近い時に受信された振幅の比に基づいている。アンテナ較正データ(予め取得されている)は、ターゲットの振幅比を、そのターゲットの仰角推定値に変換するために用いられ、この仰角推定値を簡単な幾何解析によって高度推定値に変換することができる。好ましくは、高度推定アルゴリズムでは、どの仰角でそのような比が生じうるかを正確に特定するために補間処理を用いる。これにより、より正確な高度推定を行うことができる。振幅の代わりに、振幅の非線形関数を用いることもできる。アンテナの各ビームの仰角方向ビームパターンを較正する必要があるが、その代わりに、比率自体を較正してもよい。必要な較正データを作り出すには、当業者にとって公知のアンテナ較正方法のいずれを用いてもよい。また、当業者にとって公知の表索引法を用いて高度推定値を直接的に導き出してもよい。レーダープロセッサ11は、当業者にとって公知の最新の探知方法を用いて各ビーム内のターゲットを探知する。またレーダープロセッサ11は、好ましくは、参照することにより本明細書に組み込まれる、上記米国特許出願公報第2006/0238406号に記載のような探知追跡アルゴリズムのような、当業者にとって公知の最新の多重ターゲット追跡アルゴリズムを用いてターゲットを追跡する。
【0055】
上記のMHT/IMM自動多重ターゲット追跡手段のような、多数のターゲットの監視追尾にとって理想的な多重ターゲット追跡手段をプロセッサ11が備えることが好ましい。なぜならこれにより、ターゲットトラックの(ビーム間での)関連付けが容易になり、当業者にとって公知の方法を用いた煩わしい探知毎の高度推定を円滑化できるので、これにより、より良い高度推定が創出される。2つの異なる仰角のビーム間でパルス毎に切替を行うアンテナでは、一回のアンテナの全方位角方向走査(一回転)につき、2つのビームの各々に対応する2つのレーダー反射波データ走査マトリクスが得られる。これらの走査マトリクスの各々に対して、検出値が自動的に算定される。このプロセスが走査毎に継続して繰り返される。各検出値は、特定された位置(例えば探知距離/方位角)と振幅(または振幅の所定の非線形関数)を含む。多重ターゲット追跡手段を用いなければ、1回目の走査マトリクスによる複数の検出値と2回目の走査マトリクスによる複数の(それぞれ同じターゲットから得られた)検出値との間の関連付けが非常に難しくなる。これは、検出値自体がノイズを含むためであり、さらに誤警報が状況を混乱させるからである。このような状況は、上記米国特許出願公報第2006/0238406号に記載の技術においてなされているような、検出閾値を下げることで探知感度を上げた場合に更にひどくなる。その結果、複数回の走査に亘って得られた振幅(または比率)を平均化しても、間違った関連付けにより、期待したほど良い結果は得られない。しかし多重ターゲット追跡手段を用いれば、長時間に亘って各走査マトリクス毎に動作するので、高品質で確実な追跡結果が得られる。個々のターゲット毎に、その航跡を、この航跡の形成に使われた各検出値から得られる振幅の記録とすることが好ましい。さらに、振幅のシーケンスを平滑化して、該当するビーム内で、より精度の高いターゲット振幅推定値を生成することが好ましい。これによって、当業者にとって公知のトラック関連付け方法を用いて、ビーム間で、一連の第1走査マトリクスから得られた追跡結果と、それぞれ同じ複数のターゲットに関する一連の第2の走査マトリクスから得られた追跡結果とを関連付けることができるようになる。さらに好ましくは、関連する一対の航跡から得られた平滑化された振幅推定値から、走査毎に振幅比を算定することができる。これにより、複数回の走査に亘り効果的に平滑化された一連の高度推定値を算定できるようになる。この結果、より強固で高精度な高度推定値を得ることができる。上記の平滑化方法の代わりに、走査毎の高度推定値または走査毎の振幅比を平滑化する方法もあるが、このような方法は、上記に比べて干渉や誤探知の影響を受けやすい。
【0056】
正確なターゲット高度(または等価値としての仰角)の情報を得ることに関する利点は、ターゲットのレーダー反射面積(RCS)をより精密に推定できるようになることである。RCSはターゲットの特性の1つであり、ターゲット反射波振幅を用いて推定される。ターゲット反射波振幅は、双方向ビームパターンに応じて決まり、このパターンは、方位角方向の利得と仰角方向次元における利得とを有することを特徴とする。レーダーシステムが、本発明におけるように、特定のターゲットに関して方位角と仰角の両方を認識しているならば、当業者にとって周知のレーダー方程式とビームパターン較正方法を用いてターゲット振幅を直にレーダー反射面積(RCS)に変換することができる。もしシステムが、ビームの(仰角方向)中心に対するターゲットの相対位置を把握していなければ、ターゲット振幅値に不明なビーム利得要因が含まれることになるので、ターゲットのRCSを正確に推定することができない。
【0057】
正確なRCS推定値が得られれば、ターゲットの異なる分類への分類をより良好に行うことができるようになる。例えば、鷲のほうが雀より大きなRCSを有するであろう。RCS推定値の精度が向上すれば、最終的に、これらの推定値を他のレーダー識別情報と共にターゲットの分類に用いる際の性能が向上する。
【0058】
レーダープロセッサにより生成される処理済みの情報は、ローカルリアルタイム表示装置でオペレータに示される。この情報には、例えば、走査変換されたビデオ、検出データ(時間履歴を含む)と追跡データとを含むターゲットデータ、マップ、ユーザーデータ(例えばテキストやプッシュピン)等を含んでもよい。好ましい実施例においては、地理情報システム(GIS)を用いてレーダーターゲットデータを地理表現させ、これによりターゲットデータを地球座標系で標識する。好ましくは、マップをレーダー表示装置に組み込んで、背景を作り、地理表現されたレーダーデータをオーバーレイするとよい。
【0059】
好ましい実施例による追跡データは、個々のターゲットの長期間に亘る行動形態の詳細かつ凝縮された情報を含む。あらゆる設定状況に対して、これらのデータに危険な行動がないかを自動的に調べて、警報を出せるようにすることができる。情報が詳細であるため、例えば、鳥の出発地と目的地、滑走路への接近、密集度等の複雑な行動形態を警告に反映することができる。ターゲットの探知、追跡および危険認識のためのアルゴリズムは、特定の危機や設定状況に対してカスタマイズしてもよい。警報には、オペレータに対する可聴警報や表示による警報、または遠隔ユーザーへのメッセージ配信を含むことができる。低帯域追跡警告情報は、中央基地局に簡単に送信可能であり、また端末ユーザーにも直接送信可能であるので、経済的で効果的な監視ができる。警報の自動配信を要求する遠隔ユーザーに対し、自動的に警報を送信することもできる。この自動化により、レーダー監視システムを無人で作動させ、必要なときのみユーザーに警報を発することができる。さらに、航跡表示手段を遠隔ユーザーに供給して、警報が発せられたときに状況を明確に把握できるようにすることもできる。本システムでは、好ましくは、そのような遠隔警報表示装置を、COTS通信技術を利用して手頃な価格で提供する。
【0060】
以上述べたレーダープロセッサの特徴の多くは、ここでは記載していない特徴と共に、上記米国特許出願公報第2006/0238406号および以下の2つの文献に記載されており、これら全てが、参照することによりこの明細書に組み込まれるものとする:
Low-cost Radar Surveillance of Inland Waterways for Homeland Security Applications, Weber, P et al., 2004 IEEE Radar Conference, April 26-29, 2004, Philadelphia, PA
Affordable Avian Radar Surveillance Systems for Natural Resource Management and BASH Applications, Nohara, T J et al, 2005 IEEE International Radar Conference, May 9-12, 2005, Arlington, VA
【0061】
鳥類レーダーに適用する場合、対象領域を網羅する高性能合成画像を提供するには、単一のレーダーシステムでは不十分であり、数個の独立作動するレーダーシステムを用いても、多くの場合不十分である。どのレーダーにも、探査範囲内に障害物による隙間があり、探査可能範囲も十分広いわけではない。1つ以上のレーダー探知機をネットワーク接続して、それらに基づく複合情報を遠隔ユーザーに伝達することができる。ターゲットデータに全ての重要なターゲット情報、すなわち、データ、時間、位置(本発明の方法により検出された高度も含む)、動態、プロットサイズ、強度等、が含まれるようになるので、遠隔的状況把握を容易に実現できる。本明細書に開示されたレーダーシステムは、中央監視ステーション(CMS)にネットワーク接続してもよい。その場合、CMSが、データを処理、統合(および/または融合)、表示、保管する融合表示処理部を備える。実況レーダーデータの監視に加えて、CMSは、過去に記録されたレーダーデータを再生することもできる。レーダーネットワークからのデータの統合・融合によって達成可能な性能向上には次のようなものがある:
・ ターゲットのRCSの変動に対する空間的多様性(これは小規模ターゲットに必要である)
・ 地理的障害物によるシャドウイングに対する空間的多様性
【0062】
レコーダに、追跡データと検出データとを含むターゲットデータを保存することができる。ターゲットデータは、COTS PCの記憶容量に負担をかけることなく、常時、つまり一日24時間/週7日、保存することができる。これらの同じデータをネットワーク配信することもできる。この結果、レーダー処理ソフトウエアを起動できるコンピュータであればどれでも、これらの保存データを再生することができる。つまり、レーダー装置に接続する必要がない。この構成は、オフライン分析に役に立つ。ターゲットデータは、長期的調査のために保管することができる。レコーダは、ターゲットデータをデータベースに(ならびに、その他のファイルフォーマットにも)継続的に直接書き込む補助をする。データベースは、レーダー処理用コンピュータ、ネットワーク上の別のコンピュータの一方もしくは両方に、ローカルに設けられる。データベースは、後処理、外部の地理情報システム(GIS)との相互交流、遠隔レーダーディスプレイ、ウェブサービスの補助、およびその他の調査開発のために(例えば、ターゲット識別アルゴリズムの調査、および研究開発のために)好適に用いることができる。
【0063】
本発明への適用には、さらに、ターゲットの行動形態に関する知識を増やし確立するための調査開発(R&D)が必要である。この知識を、例えばターゲットの自動識別のために用いることができる。ターゲットデータのオフライン分析は、グランドトゥルースデータ(ground-truth data)と共に鳥の特徴的性質の理解を深めるために用いることができ、これを鳥識別アルゴリズムの開発に用いることができる。BASH管理に適用する場合、追跡中の鳥の種類を知ることは適切な応答(例えば、航空機の離陸や着陸を遅らせるべきかどうか、あるいは、安全性を高めるための回避行動をとるべきかどうかの応答)を行うのに役に立つ。データベースは、上記のような調査開発活動を支援するために、長期間に亘って継続的に、ターゲットの探知追跡データを全て保存することができる。これらの保存データは、研究分析のために、レーダープロセッサに迅速に取り出して再生することができる。
【0064】
以上、本発明の特徴を本明細書に述べてきたが、当業者にとって公知の簡単な変形および応用は、本発明の範囲および主旨に明らかに含まれる。このような変形には、本明細書に記載の機能ブロックをどのように統合するかも含まれる。例えば、サンプリングシステム8をプロセッサ11に統合して1つの機能ユニットにすることは、本発明の主旨から逸脱することなく可能である。
【符号の説明】
【0065】
1 ビーム切替式装置
2 送信機
3 アンテナ
4 方位角走査手段
5 サーキュレータ
6 リミッタ
7 受信機
8 サンプリングシステム
9 回転素子
10 スイッチ
11 プロセッサ
12 ロータリージョイント、方位角方向ロータリージョイント
13 スイッチ制御回路
14 回転素子
15 ビーム
16 スイッチ
17,18 ハイブリッド
19 デュアルチャネルロータリージョイント
20 ローパワービーム切替式レーダー装置
21 モノパルス式レーダー装置
22 受信路
23 Az−El走査手段
24 低速仰角方向走査式レーダー装置
25 仰角方向ロータリージョイント
26 周波数走査式レーダー装置
27 平板形アレイ
28 並列式レーダー装置
29 低仰角レーダーサブシステム
30 高仰角レーダーサブシステム
31 融合処理部
32 検出処理部
33 追跡処理部
34 後処理部
35 表示処理部
36 プロットデータ
37 追跡データ
38 ターゲットデータ
39 ネットワーク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
三次元レーダーシステムであって、
有効指向方向を仰角方向において変更する手段を備えたアンテナと、
前記アンテナを介して放射されるレーダー信号を発生するために前記アンテナに動作接続されたレーダー送信機と、
前記アンテナに動作接続されたレーダー受信機と、
前記アンテナを1つの軸を中心に回転させるために前記アンテナに動作接続された方位方向走査手段と、
前記受信機に動作接続されたプロセッサとを備えており、
前記プロセッサは、飛行ターゲットを探知し、かつその位置を方位角と探査距離から特定するように構成され、また前記プロセッサは、探知された各ターゲットの高度を、前記アンテナの仰角方向における指向方向の関数として反射波の相対振幅に基づいて推定するようにさらに構成されているシステム。
【請求項2】
前記アンテナの仰角方向における前記有効指向方向を変更する手段は、前記アンテナを介して少なくとも2つのビームを発生させる手段と、所与のレーダーパルスに対して所与のビームを選択する手段とを備える、請求項1記載のシステム。
【請求項3】
前記発生手段および前記選択手段が、前記アンテナと共に前記軸の回りを回転するハイパワー無線周波数スイッチを含み、前記スイッチは、送信受信のいずれにおいても操作可能である、請求項2記載のシステム。
【請求項4】
前記選択手段が、前記軸に対して静止しており前記アンテナと共に回転しないローパワー無線周波数スイッチを含み、前記スイッチは、受信においてのみ走査可能である、請求項2記載のシステム。
【請求項5】
前記アンテナはレフレクタであり、前記発生手段は多重フィードを含む、請求項2記載のシステム。
【請求項6】
前記アンテナは周波数走査アンテナであり、前記発生手段は、前記少なくとも2つのビームを発生するよう同調可能な可変周波数送受信機を含む、請求項2記載のシステム。
【請求項7】
前記アンテナはフェーズドアレイアンテナであり、前記発生手段および前記選択手段は、ビーム形成ネットワークを含む、請求項2記載のシステム。
【請求項8】
前記アンテナは仰角方向モノパルスアンテナであり、前記レーダー受信機は、各アンテナ受信チャネルに対する専用受信機を含む、請求項1記載のシステム。
【請求項9】
前記アンテナは多重フィードを備えたレフレクタである、請求項8記載のシステム。
【請求項10】
前記専用受信機は非コヒーレントであり、割り当てられる受信チャネルは、前記アンテナの上方ビームおよび下方ビームに基づく、請求項8記載のシステム。
【請求項11】
前記レーダー送信機およびレーダー受信機は非コヒーレントである、請求項1記載のシステム。
【請求項12】
前記前記レーダー送信機およびレーダー受信機は民生品の海洋レーダーに基づく、請求項1記載のシステム。
【請求項13】
前記受信機がデジタル出力を有する、請求項1記載のシステム。
【請求項14】
前記発生手段が仰角方向走査手段を含む、請求項1記載のシステム。
【請求項15】
前記プロセッサは民生品パーソナルコンピュータである、請求項1記載のシステム。
【請求項16】
前記プロセッサが、統合、干渉抑圧、クラッタ抑圧および適応閾値化を行う、請求項1記載のシステム。
【請求項17】
飛行ターゲットの高度を特定する方法であって、
少なくとも1つのレーダーアンテナを有するレーダーシステムを、ターゲットを照明および検知するように作動するステップと、
前記レーダーシステムの前記作動するステップの間に、前記少なくとも1つのレーダーアンテナの指向仰角を変更するステップと、
探知されたターゲットの高度を、アンテナの指向仰角の関数として反射波振幅の変動により推定するステップと、を含む方法。
【請求項18】
前記変更するステップは、前記アンテナを介して複数のビームを送出するステップを含む、請求項17記載の方法。
【請求項19】
レーダーの送信と受信とを、前記ビーム間で交互にパルス毎に切り替える、請求項18記載の方法。
【請求項20】
レーダーの送信と受信とを、前記ビームの全てを通して、各送信パルスに基づいて行う、請求項18記載の方法。
【請求項21】
前記変更するステップは、仰角方向走査手段を操作するステップを含む、請求項17記載の方法。
【請求項22】
前記レーダーシステムは、少なくとも2つの互いに隣接するレーダーサブシステムを含み、前記変更するステップは、前記少なくとも2つのレーダーサブシステムを、各レーダーサブシステムが異なる仰角を指向するように作動するステップを含む、請求項17記載の方法。
【請求項23】
検知した飛行ターゲットを追跡するようにプロセッサを作動するステップを更に含む、請求項17記載の方法。
【請求項24】
前記推定するステップは、仰角方向の補間処理を含む、請求項17記載の方法。
【請求項25】
前記推定するステップは、ターゲットの航跡を用い、関連付け処理にて、異なるビームでの航跡のどれが同一のターゲットに所属するかを識別するステップを含み、これにより平滑化および高度推定の改善を可能とした、請求項17記載の方法。
【請求項26】
高度推定値を用いてターゲットのレーダー反射面積を更に推定するステップを更に含む、請求項17記載の方法。
【請求項27】
高度推定値を用いてターゲットの分類を更に行うステップを更に含む、請求項17記載の方法。
【請求項28】
ネットワークに高度情報を配信するステップを更に含む、請求項17記載の方法。
【請求項29】
ユーザーに対して自動的に危機または関心のある状況についての通知または警告を行うステップを更に含む、請求項17記載の方法。
【請求項30】
ターゲットの高度、および距離の推定値、ならびにレーダー反射波強度を組み合わせてレーダー反射面積の精密な推定値を生成するステップを更に含む、請求項17記載の方法。
【請求項31】
前記各ターゲットに対し、速度、進行方向、位置、高度、およびこれらそれぞれの不確定範囲を含む推定動態ベクトルを、連続的に更新するステップを更に含む、請求項17記載の方法。
【請求項32】
前記推定するステップを、前記レーダーシステムの視野に入る全てのターゲットに対して実行し、これらのターゲットの3次元位置特定を提供する、請求項17記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2010−525336(P2010−525336A)
【公表日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−504393(P2010−504393)
【出願日】平成19年7月6日(2007.7.6)
【国際出願番号】PCT/CA2007/001186
【国際公開番号】WO2008/131510
【国際公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【出願人】(509297761)アクシピター ラダー テクノロジーズ, インコーポレイテッド (1)
【Fターム(参考)】