説明

4輪駆動車

【課題】 アンダーカバーの有無にかかわらず、簡単な構成でトランスファケースを冷却することができ、アンダーカバーが装着されている場合にもオイル交換を適切に行うことができる。
【解決手段】 エンジンルーム内に横置きされたエンジン3と、その一端側に配置されるとともに内部に変速機構42および差動装置43が組み込まれたトランスアクスルケース4と、これに隣接しエンジン3の車両後方側に配設されるとともに内部に後輪駆動用の伝達機構が組み込まれたトランスファケース5とを備える。このトランスファケース5の下面に、走行風をトランスファケース5に対する車両後方側に案内する案内部材54が設けられる。この案内部材54には車両前後方向に所定の長さを有する案内板541が少なくとも含まれる。その案内板541の前端が車両高さ方向についてエンジン3の下端に略対応する位置或いは当該下端よりも低い位置に配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、後輪車軸に駆動力を分配するためのトランスファ(トランスファギヤ)が内部に収納されたトランスファケースを走行風によって冷却するためのトランスファケースの冷却構造を有する4輪駆動車に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、悪路や滑りやすい路面における走行性に優れているという理由で、4輪を駆動する多軸駆動装置が多く採用されるようになってきている。このような4輪駆動装置では、エンジンの駆動力を前輪だけでなく、後輪にも分配するようにトランスファが設けられ、このトランスファがトランスファケース内に収納されるようになっている。
【0003】
このトランスファケースは、その内部のトランスファを適正に作動させるためにある程度冷却することが望まれ、通常、このケース表面に冷却フィンを立設させて冷却効率を向上させるように構成されている。
【0004】
しかしながら、この冷却フィンを立設させるだけではトランスファケースの冷却性能を充分に改善することができず、特に、排気マニホールド等の排気系がエンジンの車両後方側に配設されるような、いわゆる横置きかつ後方排気式のエンジンが採用されている場合に、このエンジンの車両後方側にトランスファケースが配置されると、エンジンの排気温度に基づいて雰囲気温度が上昇し、このためトランスファケースの冷却が厳しくなることから、さらなる冷却性能の改善が望まれる。
【0005】
このような場合に、トランスファケースを走行風に直接晒される位置に配置することによって冷却性能を向上させることも考えられるが、このトランスファケースは前輪等との位置関係によってレイアウトが制限されるため、このような位置に配置するのは困難である。
【0006】
そこで、従来からこのトランスファケースを冷却するために種々の冷却構造が提供されており、例えば、特許文献1には、エンジンルームの下方を覆うアンダーカバーに、トランスファケースに向けて下方から走行風を導入する冷却風導入ダクトを設けた冷却構造を有する4輪駆動車が提案されている。この特許文献1に記載の4輪駆動車によれば、トランスファケースに走行風を導くことができ、冷却性能を向上させることができる点で有利である。
【特許文献1】特開2003−276648号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところが、この特許文献1に記載の4輪駆動車のように、アンダーカバーに冷却風導入ダクトを設けることとすると、アンダーカバーが必須の構造となり、アンダーカバーを装着していない車両については適用できないことになる。しかも、車両にアンダーカバーが取り付けられている場合には、通常、このアンダーカバーにエンジンのオイルパン内部のオイルを抜くためにオイルパンのドレーン部に対応して比較的大きな作業用の開口部を設けなければならず、このオイルパンのドレーン部と上記冷却風導入ダクトが近接した位置に設けられていると、上記作業用の開口部を適正に配置できないことがあるという不都合が生じる。一方、このアンダーカバーに作業用開口部を設けず、オイル交換の度にアンダーカバーを着脱することとすると、その着脱作業が煩雑でしかもオイル交換作業に長時間費やされることになる。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、アンダーカバーの有無にかかわらず、トランスファケースの冷却性をさらに改善することができる4輪駆動車を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る4輪駆動車は、車両前部のエンジンルーム内にクランク軸の軸線方向を車幅方向と一致させた状態で搭載されたエンジンと、上記エンジンの一端側に配置されるとともに内部に変速機構および差動装置が組み込まれたトランスアクスルケースと、このトランスアクスルケースに隣接し上記エンジンに対して車両後方側に配設されるとともに内部に後輪駆動用の伝達機構が組み込まれたトランスファケースとを備えた四輪駆動車両において、このトランスファケースの下面に、上記エンジンの下方を通過する走行風を上向きに変更してトランスファケースに対する車両後方側に案内する案内部材が設けられ、この案内部材には車両前後方向に所定の長さを有する案内板が少なくとも含まれ、その案内板の前端が車両高さ方向について上記エンジンの下端に略対応する位置或いは当該下端よりも低い位置に配置されていることを特徴とするものである。
【0010】
この発明によれば、このトランスファケースの下面に、上記エンジンの下方を通過する走行風を上向きに変更してトランスファケースに対する車両後方側に案内する案内部材が設けられるので、この案内部材によってトランスファケースの車両後方側に走行風をその流れの成分に上向き成分を有するように変更して導入することができ、この走行風によって、エンジンの車両後方側に配設されたトランスファケースを効果的に冷却することができる。しかも、この案内部材はトランスファケースの下面に配置されるので、アンダーカバーの有無にかかわらずトランスファケースの冷却性能を改善することができる。
【0011】
また、アンダーカバーが装着されている場合でも、案内部材がトランスファケースの下面に設けられているので、アンダーカバーの所定部分、すなわちオイルパンのドレーン部に対応する位置に、オイル交換作業用の開口部を適正に形成することができ、この開口部を通してオイル交換作業を適切に行うことができる。
【0012】
さらに、案内部材には車両前後方向に所定の長さを有する案内板が含まれ、その案内板の前端が車両高さ方向について上記エンジンの下端に略対応する位置或いは当該下端よりも低い位置に配置されているので、この案内部材によって走行風を効率的にトランスファケースの車両後方側に導入させることができ、これによりトランスファケースを効果的に冷却することができる。
【0013】
ここで、上記エンジンに接続される排気マニホールド等の排気系の配置位置は特に限定されるものではないが、例えば、このエンジンに対して車両後方側に排気系が配設されるようにしてもよい(請求項2)。
【0014】
このようなエンジン、いわゆる後方排気式のエンジンでは、エンジンルーム内でも比較的高温になる排気系に隣接してトランスファケースが配設されることになり、この排気系に基づきトランスファケースの周囲に熱気が滞留し易くなってトランスファケースの熱的環境が一層厳しくなって、トランスファケース周囲の熱気を排除することがさらに強く望まれている。したがって、このような後方排気式のエンジンに上記発明を効果的に適用することができる。
【0015】
上記案内部材は、別個独立に設けるものであってもよいが、トランスファケースと一体に形成されているのが好ましい(請求項3)。
【0016】
このように構成すれば、案内部材を別個独立に設ける場合に比べて、取付作業を省略することができ、しかも別個独立の部品を製造する必要がないなど、製造、運搬、保管等の点で容易に取り扱うことができる。
【0017】
この場合、トランスファケースの構造等について具体的に限定されるものではないが、トランスファケースに放熱のための冷却フィンが設けられている場合には、この冷却フィンの下端に上記案内板が一体成形されているのが好ましい(請求項4)。
【0018】
このように構成すれば、冷却フィンと案内部材との伝熱効率が向上するとともに、案内部材によっても冷却させることができ、これによりトランスファケースをより効果的に冷却することができる。
【0019】
ここで、この種のエンジンにはオイルパンが設けられ、このオイルパンは車両後方側の側壁の下部に、その内部のオイルを抜くために工具によって開閉されるドレーン部を有するのが通常であるが、この場合には、このドレーン部に対向する位置に車両の前後方向から上記ドレーン部に工具を挿入可能とする工具挿入空間部が上記案内部材に設けられているのが好ましい(請求項5)。
【0020】
このように構成すれば、案内部材の工具挿入空間部を通して工具をオイルパンのドレーン部側に挿入することができるとともにこの工具によってドレーン部を開閉することができ、これによりメンテナンス性が向上する。
【0021】
この場合、少なくとも上記エンジンの下方を覆うアンダーカバーがさらに設けられ、このアンダーカバーには上記ドレーン部に対応して切り欠かれることにより上記工具挿入空間部に連通する作業用開放部が設けられているのが好ましい(請求項6)。
【0022】
このように構成すれば、アンダーカバーにより車の空力特性を向上させることができ、このアンダーカバーを取り外すことなく、オイルパンのオイルを交換することができ、これによりオイル交換に対する作業性を向上させることができる。
【0023】
さらに、この場合、上記アンダーカバーは、上記案内部材の前方に位置する少なくとも一部分が後上がりに傾斜することにより走行風を当該案内部材に案内する補助案内板部として構成されているのが好ましい(請求項7)。
【0024】
このように構成すれば、走行風をさらに効率的に案内部材に導くことができ、これにより案内部材による冷却性能の改善をさらに増強させることができる。
【発明の効果】
【0025】
この発明に係る4輪駆動車によれば、トランスファケースの車両後方側に導入された走行風によって、当該トランスファケースの車両後方側に滞留する熱気を排除することができるとともに、このトランスファケース自体を効果的に冷却することができ、これによりトランスファケースの冷却性をさらに改善することができる。しかも、この案内部材はトランスファケースの下面に配置されるので、アンダーカバーの有無にかかわらずトランスファケースの冷却性能を改善することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。図1はエンジンを含む車両前部構成の概略を後方斜め下方から見た斜視図であり、図2〜図4はそれぞれ同車両前部構成の概略を示す平面図、背面図および側面図である。なお、本発明に係る4輪駆動車は、エンジンにおいて発生した駆動力を4輪に常時伝達するフルタイム4輪駆動車だけでなく、パートタイム4輪駆動車も含まれる。
【0027】
この車両前部のボンネット1で覆われるエンジンルーム2(図4参照)内には、クランク軸方向Cを車幅方向と一致させた状態でエンジン3が搭載されている。すなわち、エンジン3はエンジンルーム内にいわゆる横置きされている。このエンジン3は、図3に示すように、クランク軸方向Cに沿って4個の気筒が形成されたシリンダブロック31と、その上端部に取り付けられたシリンダヘッド32と、その上部を覆うように設置されたシリンダカバー33と、シリンダブロック31の下面にその下端部を覆うように取り付けられたオイルパン34とを備える。
【0028】
このエンジン3は、いわゆるウェットサンプ式のエンジン潤滑装置(図示せず)によって、オイルパン34内に貯留されているエンジンオイルがエンジン3の各部に循環供給される。このエンジンオイルが貯留されるオイルパン34は、上方に開口する容器状に形成されるとともに、その底壁のうち車両右側後部の底壁が段状に底上げされ、その底上げに伴って形成される下方空間にエアコンコンプレッサ11が配置される(図4参照)。また、このオイルパン34は、その背面壁(車両後方側の側壁)の下端部略中央部にオイル交換時等、その内部のオイルを抜くためのオイルドレーン部341が設けられ、内部のオイルを下抜きし得るように構成されている。このオイルドレーン部341は、オイルパン34の背面壁に貫設されたドレーン口(図示せず)と、このドレーン口にドレーンパッキン(図示せず)を挟んで螺着されるドレーンプラグ342とを有し、略水平方向からソケットレンチ等の工具をドレーンプラグ342に差し込んでこの工具によりドレーンプラグ342を正逆回転することによりドレーン口を開閉可能に構成されている。
【0029】
また、このエンジン3のシリンダヘッド32の背面には、各気筒における燃焼によって発生した排気ガスを集合させて直近の排気浄化装置6bに送る排気マニホールド6aや排気管6c等の排気系6が接続されている。すなわち、このエンジン3は、排気系6がエンジン3の車両後方側に配設された、いわゆる後方排気式のエンジンである。
【0030】
さらに、このエンジン3の一端側(車両左側)には、クラッチ部としてのトルクコンバータ41、変速機構42、およびフロントデフとしての差動装置43が組み込まれたトランスアクスルケース4が、そのトルクコンバータ41の入力軸とエンジン3のクランク軸とが連結された状態で取り付けられている。このトランスアクスルケース4は、図2に示すように、車幅方向にトルクコンバータ41、変速機構42が直列配置されたダンテ・ジアコーザ方式のものが採用されている。そして、トルクコンバータ41の出力軸は変速機構42の入力軸に連結され、変速機構42の出力軸は差動装置43の入力軸に連結される。したがって、エンジン3の駆動力は、トランスアクスルケース4内のトルクコンバータ41、変速機構42および差動装置43にこの順で伝達されるようになっている。トルクコンバータ41、変速機構42、および差動装置43は、通常の構造のものが用いられており、ここではその具体的な説明は省略する。なお、当実施形態の車両は車速やスロットル開度等に応じて変速段を自動的に変更する自動変速機構(トルクコンバータ41,変速機構42)を備えた、いわゆるオートマチック車である。
【0031】
トランスアクスルケース4は、図2および図3に示すように、エンジン3の後端面の下半部に取り付けられ、車両前後方向についてエンジン3の背面よりも後方に延在するように形成される。そして、トランスアクスルケース4のこの後方延在部4aの車幅方向内側面に、トランスアクスルケース4内の前輪駆動用の差動装置43から伝達される駆動力を後輪へ分配出力するトランスファが収納されるトランスファケース5が取り付けられている。このトランスファ、トランスアクスル、トランスアクスルから駆動力が伝達されるドライブシャフト12等によってこの車両の駆動装置が構成されている。
【0032】
トランスファは、上記したように、駆動力を前後車軸に分配するギヤ装置であり、具体的には差動装置43の差動ピニオンからドライブシャフト12に前輪用の駆動力を取り出す一方、差動装置43のデフケースからインプットギヤ、ベベルギヤおよびアウトプットギヤ等を使って90度方向変換してプロペラシャフトに駆動力伝達するものである。当実施形態では、このトランスファについて通常の構造、すなわち公知のものが用いられている。したがって、ここではその詳細な説明は省略する。このトランスファが収納されるトランスファケース5は、アウトプット軸線が車両前後方向に対して若干後下がりになるように搭載角が設定されている。そして、トランスファケース5は、車幅方向左端部がトランスアクスルケース4にボルト等により締結されるとともに、取付ブラケット10を介してエンジン3の背面に取り付けられ、これによりトランスアクスルケース4およびエンジン3に強固に取り付けられている。
【0033】
図5および図6を用いてこのトランスファケース5を具体的に説明する。なお、図5はトランスファケースの側面図であり、図6はトランスファケースの背面図である。このトランスファケース5は、横方向からドライブシャフト12が嵌挿される中空半円柱状の前部体51と、前部体51の車両後側に設けられるとともにベベルギヤ等が回転自在に収納される中間部体52と、この中間部体52の車両後側に略車両前後方向に沿って延び後輪用出力軸が回転自在に収納される円錐台状の後部体53とを備え、さらに前部体51の下側に走行中にエンジン3の下方を通過する走行風を後上がりに傾斜するようにその流れを変更してトランスファケース5に対する車両後方側に案内する案内部材54が当該前部体51に一体形成されている。
【0034】
前部体51には、その下面壁に下方に突出する複数の冷却フィン511が車幅方向に複数個(当実施形態では7個)並設され、トランスファの作動により発生する熱を効率的に放出するように構成されている。この冷却フィン511は、図1に示すように、車両前後方向に沿って延在し、トランスファケース5の前部体51の成形時に一体に形成されている。
【0035】
この冷却フィン511の下端には、案内部材54、詳しくは案内部材54の後述する案内板541が一体に形成されている。案内部材54は、図5に示すように、車両前後方向に対して後上がりに若干傾斜した状態で延びるとともに、断面視コ字状の樋状に形成されている。この案内部材54は、図1および図5に示すように、前部体51の下面とともに走行風の流れを後上がりに傾斜するように変更してこの走行風をトランスファケース5の車両後方側に導く通路を構成し、この通路内に冷却フィン511が配置され、これにより通路は冷却フィン511によって仕切られた状態となっている。また、この通路の前側開口部の下端が後側開口部の下端よりも車両高さ方向について下位に配置されるとともに通路が後上がりとなるように案内部材54が設計されている。したがって、図8に示すように、この案内部材54の前部開口部に導入された走行風は案内部材54の内面および冷却フィン511の表面に沿って車両後方に向かって上向きに傾斜する方向に沿って導かれる。
【0036】
具体的には、案内部材54は、前部体51の下面壁の下方に、当該下面壁と略平行に後上がりに傾斜し略車両前後方向に延びる案内板541を含み、この案内板541の前端が車両高さ方向についてエンジン3の最下端、および後述するアンダーカバー7の補助案内板72の後端よりも低い位置に配置されている。したがって、車両の下方を通過する走行風を案内板541によりすくい上げてトランスファケース5の車両後方側に効果的に導くことができる。
【0037】
この案内部材54の下端は、図3に示すように、車両高さ方向について、オイルパン34のドレーン部341に対して同等ないしは低い位置に配置されている。そして、案内板541は、車幅方向についてこのドレーン部341に対向する位置が直近の2つの冷却フィン511と相俟って上方に向かって逆U字状に湾曲形成されることにより、この湾曲部分の下方がドレーン部341を開閉操作する工具を挿通可能な工具挿入空間部543として構成されている。すなわち、案内板541は、この湾曲部分において、直近の2つの冷却フィン511と共用化されている。このように案内部材54に工具挿入空間部543が設けられると、この工具挿入空間部543を通して工具をドレーンプラグ342にセットさせることができ、メンテナンス性を向上させることができる。
【0038】
トランスファケース5の中間部体52にも、その上下面壁に上下各方に突出する複数の冷却フィン521が車幅方向に多数個並設され、この冷却フィン521が後部体53の前半部にまで延びている。この冷却フィン521のうち下側に突出される冷却フィン521は、図1に示すように、車両後方に向かうに従って漸次その高さが低くなるように形成される。なお、上記前部体51および中間部体52は、その上方が図示省略の断熱部材によって被覆され、排気系6による輻射熱の影響を可及的に抑制するように構成されている。
【0039】
一方、図1に戻って、車両前部には、エンジン3の下方を覆うアンダーカバー7が配設されている。当実施形態では、このアンダーカバー7は、車両の前後方向について、車両前端部からエンジン3の車両後端位置に対応する位置にまで延在する、いわゆるハーフカバータイプのものが採用されている。また、アンダーカバー7は、図7に示すように、その後端部のドレーン部341に対応する部分が、ドレーン部341の下方を開放するように切り欠かれることにより、作業用開放部71が設けられ、ドレーンプラグ342への工具のセットやオイル受け作業等、オイルドレーンに伴う作業がし易いようになっている。この作業用開放部71は、車幅方向に長く形成された底面視略U字状に形成されている。
【0040】
また、アンダーカバー7は、その後端部における作業用開放部71に隣接する位置であって、トランスファケース5の前方に位置する部分が、車幅方向について案内部材54と一部重複する態様で、所定範囲に亘って車両前後方向について漸次後上がりに湾曲して形成されることにより走行風を上向きに変更して案内部材54側ないしはトランスファケース5側に案内する補助案内板部72として構成されている。この補助案内板部72は、当実施形態では、図8に示すように、断面視において、湾曲形状に形成されているが、後上がりに傾斜した形状等に形成されるものであってもよい。
【0041】
以上の構造を有する4輪駆動車では、車両走行中に車両の下方を通過する走行風は、図8に示すように、一部がこの補助案内板部72によって案内部材54に案内され、この案内部材54によってトランスファケース5の車両後方側に積極的に案内されるとともに、他の一部が補助案内板部72を経ることなく直接案内部材54に案内され、トランスファケース5の車両後方側に積極的に案内される。ここで、エンジン、特に当実施形態のような後方排気式のエンジン3ではこの後方側に配置された排気系6に基づき、エンジン3の後方側が比較的高温の雰囲気となりやすい。このような位置に配置されたトランスファケース5の冷却性能は特に厳しくなりやすいが、このようにアンダーカバー7の補助案内板部72やトランスファケース5自身の案内部材54によってトランスファケース5の車両後方側に走行風が積極的に導入されるので、この車両後方側に滞留する比較的高温の熱気を排除して雰囲気温度を低下させることができるとともに、この雰囲気温度の低下を通じてトランスファケース5を冷却することができる。しかも、トランスファケース5に設けられた冷却フィン511が、案内部材54に一体に形成されるとともに、この案内部材54によって形成される走行風通路内に配置されるので、冷却フィン511を直接走行風に晒すことによって放熱効率を向上させることができ、これによりトランスファケース5の冷却性を向上させることができる。
【0042】
また、この案内部材54は、トランスファケース5の前部体51の下面に配置されるので、当実施形態のように、アンダーカバー7がある場合だけでなく、このアンダーカバー7が省略されるような車両についても適用することができトランスファケース5の冷却性能を充分に改善することができる。しかも、例えば従来の4輪駆動車のように、アンダーカバー7に走行風の案内部材が装着されている場合には、オイルパンのドレーン部と案内部材の取り合い関係、すなわちレイアウトが難しく、適正に案内部材を配置することができない虞があるが、当実施形態の4輪駆動車のトランスファー冷却構造によれば、アンダーカバー7が装着されている場合でも、案内部材54がトランスファケース5の下面に設けられているので、アンダーカバー7の所定部分、すなわちオイルパンのドレーン部に対応する位置に、オイル交換作業用の開口部を適正に形成して、オイル交換作業を適切に行いつつ、トランスファケース5を冷却することができる。
【0043】
なお、以上に説明した4輪駆動車は、本発明に係る構造の一実施形態であり、その具体的構成等は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。以下、その変形例を説明する。
【0044】
(1)上記実施形態では、案内部材54がトランスファケース5と一体に形成されたものが用いられているが、この案内部材54は別個独立に形成されるものであっても良い。このように別個独立で形成した場合には、既存の車両についても容易に適用することができるため、汎用性に優れるという利点がある。一方、案内部材54がトランスファケース5と一体に形成すれば、案内部材を別個独立に設ける場合に比べて、取付作業を省略することができ、しかも別個独立の部品を製造する必要がないなど、製造、運搬、保管等の点で有利となる。
【0045】
(2)上記実施形態では、案内部材54の案内板541として断面視直線状、すなわち平板状のものが用いられているが、この案内板541は湾曲、屈曲形成されるものであってもよく、要は車両の前後方向に沿って通過する走行風の流れを斜め上方向に変更してトランスファケース5の車両後方に導入させることができるものであれば、その具体的形状は特に限定されるものではない。
【0046】
(3)また、上記実施形態では、案内部材54の中にトランスファケース5の冷却フィン511が配設され、この案内部材54と冷却フィン511とが一体形成されたものが用いられているが、案内部材54内の冷却フィン511を省略するものであってもよい。ただし、案内部材54内に冷却フィン511が配設されると、案内部材54内には走行風が積極的に導入されることから冷却フィン511による冷却効率が向上するとともに、この案内部材54と冷却フィン511とを一体に形成すると、案内部材54と冷却フィン511との間の伝熱効率も向上させることができ、案内部材54自体による冷却性も向上させることができる。
【0047】
(4)上記実施形態では、補助案内板部72が一体形成されたアンダーカバー7が用いられているが、この補助案内板部をアンダーカバー7と別部材として形成してアンダーカバー7における作業用開放部71の前端縁部に接合するようにしてもよい。この場合には、車両前後方向について補助案内板部材の後端部とドレーン部とが重複しないように補助案内板部材を配置する必要がある。
【0048】
(5)なお、上記実施形態では、アンダーカバー7についてハーフカバータイプのものが用いられているが、エンジンルームの下方を覆うフルカバータイプのものであってもよい。この場合には、このアンダーカバーに、オイルパンのドレーン部およびトランスファケースの下方を含めた比較的大きな開口部が設けられることになる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明に係る4輪駆動車の一実施形態を概略的に示す斜視図である。
【図2】同車両の前部車体構造を概略的に示す平面図である。
【図3】同前部車体構造を概略的に示す背面図である。
【図4】同前部車体構造を概略的に示す側面図である。
【図5】トランスファケースを示す側面図である。
【図6】トランスファケースを示す背面図である。
【図7】アンダーカバーの作業用開放部を示す背面図である。
【図8】4輪駆動車におけるトランスファケースの冷却構造における走行風の流れを示す説明図である。
【符号の説明】
【0050】
3 エンジン
4 トランスアクスルケース
5 トランスファケース
6 排気系
7 アンダーカバー
34 オイルパン
41 トルクコンバータ
42 変速機構
43 差動装置
54 案内部材
71 作業用開放部
72 補助案内板部
341 オイルドレーン部
511 冷却フィン
521 冷却フィン
541 案内板
543 工具挿入空間部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両前部のエンジンルーム内にクランク軸の軸線方向を車幅方向と一致させた状態で搭載されたエンジンと、上記エンジンの一端側に配置されるとともに内部に変速機構および差動装置が組み込まれたトランスアクスルケースと、このトランスアクスルケースに隣接し上記エンジンに対して車両後方側に配設されるとともに内部に後輪駆動用の伝達機構が組み込まれたトランスファケースとを備えた4輪駆動車において、
このトランスファケースの下面に、上記エンジンの下方を通過する走行風を上向きに変更してトランスファケースに対する車両後方側に案内する案内部材が設けられ、この案内部材には車両前後方向に所定の長さを有する案内板が少なくとも含まれ、その案内板の前端が車両高さ方向について上記エンジンの下端に略対応する位置或いは当該下端よりも低い位置に配置されていることを特徴とする4輪駆動車。
【請求項2】
このエンジンに対して車両後方側に配設された排気系をさらに備えることを特徴とする請求項1記載の4輪駆動車。
【請求項3】
上記案内部材は、上記トランスファケースと一体に形成されていることを特徴とする請求項1または請求項2記載の4輪駆動車。
【請求項4】
上記トランスファケースは、その底面壁から下方に向かって垂下する冷却フィンを有し、この冷却フィンの下端に上記案内板が一体成形されていることを特徴とする請求項3記載の4輪駆動車。
【請求項5】
上記エンジンには内部にオイルが充填されるオイルパンが設けられ、このオイルパンは車両後方側の側壁の下部に、その内部のオイルを抜くために工具によって開閉されるドレーン部を有し、このドレーン部に対向する位置に車両の前後方向から上記ドレーン部に工具を挿入可能とする工具挿入空間部が上記案内部材に設けられていることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の4輪駆動車。
【請求項6】
少なくとも上記エンジンの下方を覆うアンダーカバーがさらに設けられ、このアンダーカバーには上記ドレーン部に対応して切り欠かれることにより上記工具挿入空間部に連通する作業用開放部が設けられていることを特徴とする請求項5記載の4輪駆動車。
【請求項7】
上記アンダーカバーは、上記案内部材の前方に位置する少なくとも一部分が後上がりに傾斜することにより走行風を当該案内部材に案内する補助案内板部として構成されていることを特徴とする請求項6記載の4輪駆動車。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−329270(P2006−329270A)
【公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−151583(P2005−151583)
【出願日】平成17年5月24日(2005.5.24)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】