説明

5’−リボヌクレオチドの製造

本発明は、少なくとも55%w/w(NaCl非含有乾燥物重量に基づく)の5’−リボヌクレオチドを含む組成物、ならびに、(i)微生物細胞を処理して、RNAを含む細胞内容物を放出させるステップ;(ii)放出された細胞内容物に存在するRNAを他の可溶性の細胞物質から分離するステップ;および(iii)分離されたRNAを5’−リボヌクレオチドに変換するステップを含む、そのような組成物を製造するための方法を記載する。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
発明の分野
本発明は、5’−リボヌクレオチドを含む組成物、および、このような組成物を製造するための方法に関する。本発明はまた、5’−リボヌクレオチドを含む組成物の、食品または飼料における使用に関する。
【0002】
自己溶解による酵母抽出物は、細胞の破壊および高分子酵母物質の消化(溶解)の後に酵母から得られる可溶性物質の濃縮物である。細胞破壊後に培地に放出された活性な酵母酵素がそのような溶解に関係する。一般に、これらのタイプの酵母抽出物は5’−リボヌクレオチドを含まず、これは、自己溶解プロセス中において、生来のRNAが分解されるか、あるいは、5’−リボヌクレオチドに分解され得ない形態またはほとんど分解され得ない形態に修飾されるからである。これらのタイプの酵母抽出物は、アミノ酸が多く、そのため、基本的な味付け剤として食品業界では使用されている。酵母抽出物に存在するアミノ酸はブイヨン様のブロス味を食品に加える。
【0003】
他方で、加水分解による酵母抽出物は、細胞の破壊、消化(溶解)、そして、溶解時における酵母懸濁物へのプロテアーゼおよび/またはペプチダーゼおよび特にヌクレアーゼの添加の後に酵母から得られる可溶性物質の濃縮物である。酵母の生来の酵素は溶解に先立って不活性化される。この処理の間に、グアニンの5’−リボヌクレオチド(5’−グアニン一リン酸;5’−GMP)、ウラシルの5’−リボヌクレオチド(5’−ウラシル一リン酸;5’−UMP)、シトシンの5’−リボヌクレオチド(5’−シトシン一リン酸;5’−CMP)、およびアデニンの5’−リボヌクレオチド(5’−アデニン一リン酸;5’−AMP)が形成される。アデニル酸デアミナーゼが混合物に添加されたときには、5’−AMPが5’−イノシン一リン酸(5’−IMP)に転換される。したがって、この方法によって得られる加水分解酵母抽出物は5’−リボヌクレオチド類が多く、特に5’−GMPおよび5’−IMPが多い。多くの場合、酵母抽出物はまた、グルタミン酸一ナトリウム(MSG)が多い。5’−IMP、5’−GMPおよびMSGはそれらの風味増強特性について知られている。それらは、ある種の食品において、食欲をそそるおいしい食味を高めることができる。この現象は「口あたり」または旨味として記述される。5’−リボヌクレオチドが多く、場合によりMSGが多い酵母抽出物は通常、スープ、ソース、マリネおよび調味料に添加される。
【0004】
5’−リボヌクレオチドが多い酵母抽出物は、今日まで、RNA含有量が高い酵母菌株を使用して、かつ/または、細胞内容物の部分抽出によって製造されている。このタイプの食味増強性の加水分解酵母抽出物の欠点は、アミノ酸、短いペプチドおよび他の酵母成分が存在することにより、そのような酵母抽出物は、食味の純粋さを要求する適用にはあまり適さないということである。
【0005】
JP51106791は、いくつかのさらなる精製ステップが続く酵母抽出物の限外ろ過を使用するRNAの精製方法を記載する。この一連の精製ステップは、商業的に魅力のあるRNAを得るために必要ではあるが、プロセスを複雑にし、かつ費用のかかるものにしている。この文献には、食品における食味増強剤として使用され得る5’−リボヌクレオチド含有組成物の製造におけるこの精製されたRNAの使用は何ら示唆されていない。
【0006】
本発明の目的は、食味において純粋であり、かつ、いくつかの食品用途および飼料用途において使用され得る、多量の5’−リボヌクレオチドを含有する組成物を提供することである。本発明の別の目的は、上記の特徴を有する5’−リボヌクレオチド含有組成物を製造するための簡便かつ効果的な方法を提供することである。
【0007】
発明の説明
本発明は、少なくとも55%w/w(NaCl非含有乾燥物重量に基づく)の5’−リボヌクレオチドを含む組成物を提供する。本発明の組成物は好ましくは少なくとも65%w/wの5’−リボヌクレオチドを含み、またはより好ましくは少なくとも75%w/wの5’−リボヌクレオチドを含む。好ましくは、本発明の組成物はまたグルタミン酸塩を含む。典型的には、本発明の組成物は最大で98%w/wの5’−リボヌクレオチドを含む。
【0008】
本発明はまた、非常に簡便かつ費用効果的であり、かつ、したがって商業的に非常に魅力的である方法を提供する。好都合なことに、本発明の方法では、酵母抽出物からのRNAの分離が、分離されたRNAの5’−リボヌクレオチドへの変換と組み合わせられている。この方法では、高純度の5’−リボヌクレオチドを、比較的簡便で、かつ、したがって商業的に非常に魅力的なプロセスで製造することが可能である。
【0009】
本発明の方法は、本発明の組成物を製造するために使用することができる。
【0010】
具体的には、本発明は、
(i)微生物細胞を処理して、RNAを含む細胞内容物を放出させること;
(ii)放出された細胞内容物に存在するRNAを他の可溶性の細胞物質から分離すること;および
(iii)分離されたRNAを5’−リボヌクレオチドに変換すること
を含む、5’−リボヌクレオチドを含有する組成物を製造するための方法を提供する。
【0011】
用語「5’−リボヌクレオチド」に関して、これは、5’−GMP、5’−CMP、5’−UMP、ならびに、さらには5’−AMPおよび/または5’−IMPの混合物を示すことがこれにより意図され、この場合、混合物における5’−IMPは、5’−AMPの5’−IMPへの部分的変換または完全な変換によって得られる。
【0012】
用語「5’−リボヌクレオチド」は、本明細書中では、遊離5’−リボヌクレオチドまたはその塩のいずれかを示すことが意図される。
【0013】
本発明の組成物における5’−リボヌクレオチドの重量百分率(%w/w)は組成物のNaCl非含有乾燥物の重量に基づいており、5’−リボヌクレオチドの二ナトリウム塩七水和物(2Na.Aq)として計算される。NaCl非含有は、本発明の組成物がNaClを含有することができないことを意味するのではなく、NaClが、%w/wの計算のために、組成物から除外されていることを意味する。後者の計算は、当業者に知られている方法によって行うことができる。組成物におけるグルタミン酸塩の量は、グルタミン酸百分率(%w/w)として、すなわち、組成物のNaCl非含有乾燥物の重量あたりの遊離グルタミン酸の重量として計算される。
【0014】
本発明の組成物は好ましくはグルタミン酸塩を含み、この場合、グルタミン酸塩対5’−リボヌクレオチドの比率は0.1未満であり、好ましくは0.05未満であり、より好ましくは0.01未満であり、かつ、この比率は0.001よりも大きい。一般に、本発明の組成物は、組成物のNaCl非含有乾燥物に基づいて0.01%w/w〜10%w/w、好ましくは0.05%w/w〜5%w/w、より好ましくは0.1%w/w〜2%w/wのグルタミン酸塩を含む。
【0015】
本発明の組成物は、好ましくは、5’−IMPおよび5’−AMPの合計よりも多い5’−GMPを含む。市販の酵母抽出物はすべてが、5’−IMPおよび5’−AMPの合計よりも少ない5’−GMPを含有する。本発明の5’−リボヌクレオチド組成物は、好ましくは酵母から得られるが、5’−IMPおよび5’−AMPの合計よりも多い5’−GMPを含有する。そのような組成物における5’−IMPおよび5’−AMPの量の合計に関して5’−GMPの量がより多いことは、これにより、現在市販されている酵母抽出物と比較した場合、本発明の組成物のより強い風味増強能がもたらされるので、好都合である。これは、5’−GMPが、風味の増強に関して、5’−IMPよりも機能的であり、その一方で、5’−AMPは風味の増強に寄与していないからである(T.Nagodawithana、“Savoury Flavours”(1995年、編集:Esteekay associates,Inc.、Wisconsin、米国)、302頁)。
【0016】
任意のタイプの微生物を本発明の方法におけるRNA源として使用することができる。細菌および菌類の微生物が好ましく、例えば、食品用途および飼料用途のために好適であるそのような微生物などである。好ましい微生物は、食品規格であるという地位を有する微生物であり、したがって、人間が消費する食品に対して安全に適用することができる。RNA含有量が高い微生物が好まれる。
【0017】
本発明の方法において使用されるために好適な微生物の例には、糸状菌(例えば、トリコデルマ属またはアスペルギルス属など)および酵母が含まれる。好ましくは、サッカロミセス属、クルイベロミセス属またはカンジダ属に属する酵母菌株が使用される。サッカロミセス属に属する酵母菌株、例えば、サッカロミセス・セレビジアエ(Saccharomyces cerevisiae)に属する酵母菌株が好まれる。
【0018】
好適な細菌微生物の例には、乳酸菌、例えば、ラクトバチルス属がある。
【0019】
本発明の方法は、問題としている微生物の発酵液を用いて始めることができる。使用され得る発酵方法はこの分野では知られている。場合により、発酵液は、本発明の方法において使用される前に、例えば、遠心分離またはろ過によって濃縮することができる。例えば、クリーム酵母(15wt%〜27wt%の乾燥物含有量に濃縮されているパン酵母)を使用することができる。
【0020】
発酵液は、一般に、RNA含有量が高い菌株(すなわち、典型的には6%〜15%のRNA含有量を有する菌株)から得られる。このようにして、多量の5’−リボヌクレオチドが加水分解処理時に生じる。RNA含有量が高い酵母菌株または他の微生物菌株が好まれるが、RNA含有量が低い酵母菌株または他の微生物菌株もまた使用することができる。これらの酵母菌株または他の微生物菌株は、本発明の方法を使用して5’−リボヌクレオチド含有量が多い組成物または酵母抽出物に都合よく変換することができる。さらに、本発明の方法を使用して、出発した酵母または微生物のRNA含有量に基づいて予想される含有量よりも大きく、かつ/または、現在入手可能な酵母抽出物に見出される含有量よりも大きい5’−リボヌクレオチド含有量を有する組成物を得ることができる。
【0021】
細胞内容物を放出させるための微生物細胞の処理に先立って、微生物細胞は、好ましくは、細胞に存在する生来の酵素を不活性化するために処理される。一般に、RNAは、自己溶解した微生物抽出物において分解または修飾を受けており、したがって、このRNAを分離することはあまり魅力的ではない。
【0022】
発酵液における生来の酵素の不活性化は、例えば、好適には80℃〜97℃の温度で5分〜10分などによる熱ショックを用いて可能である。この処理により、微生物のRNAを分解する生来の酵素(例えば、ホスファターゼ、RNase、Fdase)が少なくとも不活性化されなければならない。したがって、微生物のRNAは、好ましくは、この処理の後では分解または修飾を受けない。RNA分解は、例えば、好適な酵素の添加によって、より後の段階で生じさせることができる。
【0023】
本発明の方法において、微生物細胞は、RNAを含む細胞内容物を放出させるために処理される。この処理によって、細胞壁が破壊され、かつ/または傷つけられ、これにより、細胞内容物の放出がもたらされる。
【0024】
細胞内容物を細胞から放出させるために、細胞は、当業者に知られている方法を使用して、化学的に、機械的に、または酵素的に処理することができる。
【0025】
機械的な処理には、ホモジネーション技術が含まれる。この目的において、高圧ホモジナイザーの使用が可能である。他のホモジネーション技術では、粒子(例えば、砂および/またはガラスビーズ)と混合すること、または、粉砕装置(例えば、ビーズミル)を使用することが伴い得る。
【0026】
化学的な処理では、塩、アルカリ、および/または、1つもしくは複数の表面活性剤もしくは界面活性剤の使用が伴う。化学的な処理は、特にアルカリが使用されたときにはRNAの部分分解をもたらすことがあり、その結果、2’−リボヌクレオチドおよび3’−リボヌクレオチドの形成がもたらされるので、あまり好ましくない。
【0027】
好ましくは、酵素が、この可溶化または細胞壁溶解ステップのために使用されるが、それはプロセスのより良好な制御がそれによって達成され得るからである。また、酵素の使用は、本発明の方法を大規模で使用するために特に好適にする。セルラーゼ、グルカナーゼ、ヘミセルラーゼ、キチナーゼ、プロテアーゼおよび/またはペクチナーゼを含む数種の酵素調製物を使用することができる。例えば、エンドプロテアーゼなどのプロテアーゼを使用することができる。酵素のための反応条件は、使用される酵素に依存する。一般に、微生物細胞は、4〜10のpHおよび40℃〜70℃の温度で1時間〜24時間、酵素処理される。
【0028】
化学的または酵素的な処理の後、その化学物質または酵素は、好ましくは、RNAが実質的に変化および/または分解しないような条件のもとで中和および/または不活性化されなければならない。
【0029】
酵素の不活性化は、pH処理によって、好ましくは熱処理によって行うことができる。
【0030】
続いて、放出された細胞内容物に存在するRNAがそれ以外の可溶性の微生物細胞物質から分離される。
【0031】
可溶性RNAは、RNA画分の選択的な沈殿化、またはクロマトグラフィー方法のような当業者に知られている方法によって他の可溶性物質から分離することができる。好ましくは、RNAをそれ以外の可溶性の微生物細胞物質から分離することは、限外ろ過(UF)によって行われる。限外ろ過は経済的に非常に好都合であり、大規模での使用のために、また、食品規格の製造物の製造において特に好適である。実験室規模では、RNAの分離はいくつかの方法で行うことができ、それらのそれぞれにより、少量のRNAの非常に純粋なサンプルを得ることができる。これらの方法は、多くの場合、非常に労働集約的であり、かつ費用がかかる。本発明は、RNAまたは5’−リボヌクレオチドの大規模分離のために特に有用であり、かつ、RNAまたは5’−リボヌクレオチドの製造を商業的に魅力のある規模で可能にする方法を提供する。本発明は、良好な純度および高い収率を伴って5’−リボヌクレオチドをもたらす方法を提供する。大規模とは、本発明の方法における出発物質が10m以上の発酵装置で製造される微生物の発酵液であり得ることを意味する。
【0032】
UFが、RNAをそれ以外の可溶性の細胞物質から分離するために使用される場合、分子量カットオフが10kD〜50kDまたは好ましくは20kD〜50kDであるフィルターを使用することができる。一般に、より大きいフィルターサイズは、より大きな流れをフィルターに通すことを可能にするが、より多くの損失、および/またはあまり純粋でない製造物をもたらし得る。RNA画分は、限外ろ過ステップから得られる保持液において回収される。最終的な組成における5’−リボヌクレオチドの量が、プロセスで使用された限外ろ過フィルターのタイプによって、また、限外ろ過ステップ時の洗浄効率によって影響され得ることは当業者には明らかである。
【0033】
分離されたRNAは、好ましくは酵素的に、5’−リボヌクレオチドに変換することができる。
【0034】
酵素5’−ホスホジエステラーゼ(5’−Fdase)を、RNAを5’−リボヌクレオチドに変換するために使用することができる。5’−ホスホジエステラーゼは微生物起源または植物起源(例えば、麦芽根抽出物)から得ることができる。市販の微生物5’−Fdaseの一例が、アマノ(日本)によって製造されている酵素RP−1である。デアミナーゼ(例えば、アデニルデアミナーゼ)を、5’−AMPを5’−IMPに変換するために使用することができる。市販のデアミナーゼの一例が、アマノ(日本)によって製造されているデアミナーゼ500である。
【0035】
5’−FdaseおよびデアミナーゼによるRNAの5’−リボヌクレオチドへの変換は二段階ステップまたは一段階プロセスで行うことができる。
【0036】
RNA分離に先だって、本発明の好ましい実施形態では、微生物細胞に由来する固形物(例えば、細胞壁など)が、放出された細胞内容物に存在する可溶性物質(RNA、タンパク質、炭水化物、ミネラル、脂質およびビタミンを含む)から分離される。これは、固液分離を行うために好適な任意の方法によって達成することができる。例えば、遠心分離またはろ過を使用することができる。微生物細胞に由来する固形物が、RNAをそれ以外の可溶性の微生物細胞物質から分離する前に除去されない場合、固形物は、RNAを5’−リボヌクレオチドに変換した後、任意の固液分離方法によって除去することができる。
【0037】
本発明に関連して、「放出された細胞内容物に存在するRNAを他の可溶性の細胞物質から分離すること」のような表現、または、「分離されたRNAを5’−リボヌクレオチドに変換すること」のような表現は、すべてのRNAが分離または変換されなければならないことを必ずしも意味しないことがそれぞれ理解される。分離されるRNAの量が、使用された分離方法のタイプに依存すること、および、変換されるRNAの量がいくつかの要因(例えば、使用された酵素のタイプ)に依存することは当業者には明らかである。
【0038】
RNAを5’−リボヌクレオチドに変換した後で、場合により、微生物細胞に由来する固形物を除去した後に得られる5’−リボヌクレオチドを含有する画分は、好ましくは、5’−リボヌクレオチドよりも大きい分子量を有する化合物から、好ましくは限外ろ過によって精製される。精製度は、使用される限外ろ過膜の分子量カットオフに依存する。
【0039】
5’−リボヌクレオチドを含有する画分(これは、場合により限外ろ過による精製の後の画分である)は、一般に、当業者に知られている方法によってさらに濃縮および/または乾燥され得る溶液として得られる。
【0040】
本発明の方法によって得ることができる5’−リボヌクレオチドを含む組成物は、5’−リボヌクレオチド含有量が大きく、食味が純粋である。本明細書を通して、表現「食味が純粋である」は、本発明の組成物が適切な量で食品または飼料に加えられたとき、その組成物が得られる微生物に典型的な何らかの特定の食味および/または特徴、あるいは、その組成物から来る何らかのブロス的なブイヨン様の食味および/または特徴が、前記の食品または飼料において最小限に抑えられているか、または存在しないことを意味する。好ましくは、微生物に典型的な何らかの特定の食味および/またはにおいおよび/または特徴が、本発明の組成物では最小限に抑えられているか、または存在しない。
【0041】
例えば、本発明の組成物は、サッカロミセス属酵母が出発物質として使用された場合には、酵母の味を生じさせることがなく、または、カンジダ属酵母が出発物質として使用された場合には、甘く感じることがない。本発明の組成物は、食品製造物に適切な量で加えられたとき、ブイヨン様またはブロス的な食味をもたらさない。
【0042】
本発明の実施形態によれば、5’−リボヌクレオチド組成物は任意の所望される比率で任意の従来の酵母抽出物に加えることができる。結果として、任意の所望される5’−リボヌクレオチド含有量を有する酵母抽出物を得ることができる。
【0043】
本発明の組成物は天然の供給源に由来し、特に、好ましくは食品規格である微生物に由来する。
【0044】
本発明の5’−リボヌクレオチドを含む組成物は、任意の食品製造物または飼料製造物において、特に、その食味および/または芳香および/または口あたりを改善および/または強化するために使用することができる。前記組成物が添加され得る典型的なタイプの食品には、酪農食品、ベーカリー食品、野菜、果実、肉、菓子類、脂肪、油、飲料物(例えば、炭酸飲料、または、ミルクのような酪農食品に由来する飲料物、野菜、果実に由来する飲料物、アルコール飲料など)、または、それらに由来する任意の加工食品が含まれる。
【0045】
本発明の組成物は、総脂肪が低下している食品または低い食品(もしくは飲料物)において好適な適用が見出される。本発明に関連して、総脂肪が低下している食品または低い食品は、一般に、それに含まれる総脂肪の低下、および/または、脂肪代用物による前記総脂肪の置き換えをもたらす任意の加工、配合または再配合によって、対応する高脂肪食品から得られる。前記加工および前記脂肪代用物はこの分野では知られている。
【0046】
総脂肪が低下している食品または低い食品の明らかな欠点は、このタイプの食品は、対応する高脂肪の食品製造物または飲料物製造物の風味のこくがないということである。この欠点は、本発明の組成物を使用して、総脂肪が低下している食品または低い食品の食味および/または芳香および/または口あたりにおける脂肪的特徴を改善することによって克服することができる。後者は、本発明の組成物を含む、総脂肪が低下している食品または低い前記食品が、対応する高脂肪食品の食味および/または芳香および/または口あたりとのより多くの類似点を有するということを意味する。
【0047】
本発明の組成物は、人工甘味料を含む食品において別の好適な適用が見出される。人工甘味料の使用に関連した明らかな欠点は、副次的な味または後味(例えば、苦み)の存在または発生である。最も一般的な人工甘味料は、単独または組合せで使用されたときに上記の問題をもたらしており、このような人工甘味料には、アセスルファム−K、アリテーム、アスパルテーム、シクラメート、ネオテーム、ネオヘスペリジン、サッカリン、ステビオサイド、スクラロースおよびタウマチンがある。この欠点は、本発明の組成物を使用して、食品または飲料物における人工甘味料の副次的な味または後味を隠すことによって克服することができる。本発明はまた、人工甘味料と、本発明の組成物とを含む組成物を包含する。
【0048】
本発明の組成物は、飲料物の食味および/または芳香および/または口あたりを改善するために、より具体的な表現では、特に、飲料物の食味および/または芳香における特定の植物的特徴および/または果実的特徴および/またはアルコール的特徴を改善するために使用することができる。例えば、本発明の組成物は、野菜ジュースの特定の植物味および/または植物芳香、あるいは、果実ジュースの特定の果実味および/または果実芳香、あるいは、ワインおよびビールのようなアルコール飲料物(特に、アルコール含有量が低いか、または低下したそのようなアルコール飲料物)の特定のアルコール味および/またはアルコール芳香を改善するために使用することができる。
【0049】
上記の適用において食品または飲料物に添加される5’−リボヌクレオチド組成物の量は、食品または飲料物のタイプ、およびその適用に依存する。5’−リボヌクレオチド組成物の量は、食品または飲料物に関しては、例えば、0.0001%w/w〜10%w/wの間で変化し得る。
【0050】
次に、本発明がいくつかの実施例によって例示されるが、これらに限定することを意図しない。
【0051】
(実施例1)
40,000kgのクリーム酵母(乾燥固体は18.2%である)を、すべての酵母酵素活性を不活性化するために、95℃で10分間、連続流通式熱交換器において熱処理した。続いて、不活性化された酵母を、pH8.0および62℃においてPescalase(Bacillus licheniformis由来のエンドプロテアーゼ、DSM N.V.、オランダ)で6時間、回分様式で処理した。その後、プロテアーゼを70℃で1時間の熱処理(回分様式)によって不活性化し、pHを塩酸で5.3に下げた。固形物を連続遠心分離によって反応混合物から除いた。残った上清を50kDの限外フィルターで限外ろ過して、高分子量画分(RNAを含む)を、無機成分、ビタミン、炭水化物(トレハロースなど)、遊離アミノ酸、ペプチドおよび小タンパク質のような低分子量物質から分離した。その後、RNAを5’−リボヌクレオチドに加水分解するために、高分子量画分(保持物UF1)を、pH5.3および65℃で15時間、酵素5’−ホスホジエステラーゼと回分様式でインキュベーションした。次いで、遊離した5’−AMPを、pH5.1および55℃での2.5時間のインキュベーション期間中に酵素デアミナーゼによって5’−IMPに変換した。最後に、反応混合物を、50kDフィルターを使用して再び限外ろ過した。ろ液の乾燥固体はほとんどが5’−リボヌクレオチドからなった(ろ液UF2)。
【0052】
サンプルを、下記の方法に従うHPLCによってRNA含有量および/または5’−リボヌクレオチド含有量に関して分析した。サンプル中のRNAはアルカリ処理時に加水分解された。GMP(すなわち、RNAの加水分解に由来する2’−GMPおよび3’−GMP)を、Whatman Partisil 10−SAXカラム、溶出液としてのリン酸塩緩衝液(pH3.35)、およびUV検出を使用して、5’−GMPを標準物として使用するHPLCによって定量した。塩化ナトリウム非含有乾燥物に基づくRNA含有量の重量百分率は、塩化ナトリウム非含有乾燥物に基づく遊離GMPの重量百分率の約4倍に対応する。
【0053】
ろ液UF2もまた、5’−GMP、5’−IMP、5’−AMPおよびグルタミン酸の含有量について分析された。5’−GMP、5’−AMPおよび5’−IMPのサンプル中の量(塩化ナトリウム非含有乾燥物に基づくその二ナトリウム七水和物の重量百分率として表される)を、Whatman Partisil 10−SAXカラム、溶出液としてのリン酸塩緩衝液(pH3.35)、およびUV検出を使用するHPLCによって測定した。濃度は、5’−GMP、5’−IMP、5’−AMPの標準物に基づいて計算された。グルタミン酸の量は、食物および他の材料の試験キット(Boehringer Mannheim/R−Biopharm、Enzymatic BioAnalysis/Food Analysis、カタログ番号10139092035、カタログ年:2004、R−BIOPHARM AG、Darmstad、ドイツ)でのL−グルタミン酸測定のためのL−グルタミン酸比色測定法によって測定された。
【0054】
この抽出プロセスのデータが表1に示される。
【0055】
【表1】

【0056】
組成物中における5’−リボヌクレオチドの量は塩化ナトリウム非含有乾燥物に基づいて約97%w/wである。
【0057】
(実施例2)
2100gのクリーム酵母(乾燥固体は18.2%である)を、すべての酵母酵素活性を不活性化するために、95℃で10分間、熱処理した。続いて、不活性化された酵母を、pH8.0および62℃においてPescalase(Bacillus licheniformis由来のエンドプロテアーゼ、DSM N.V.、オランダ)で6時間、回分様式で処理した。その後、プロテアーゼを70℃で1時間の熱処理(回分様式)によって不活性化し、pHを塩酸で5.3に下げた。加水分解物を50kD限外フィルターで限外ろ過して、高分子量画分(RNAを含む)および細胞壁を、無機成分、ビタミン、炭水化物(トレハロースなど)、遊離アミノ酸、ペプチドおよび小タンパク質のような低分子量の可溶性物質から分離した。RNAを5’−リボヌクレオチドに加水分解するために、保持物を、pH5.3および65℃で15時間、酵素5’−ホスホジエステラーゼと回分様式でインキュベーションした。次いで、遊離した5’−AMPを、pH5.1および55℃での2.5時間のインキュベーション期間中に酵素デアミナーゼによって5’−IMPに変換した。最後に、固形物を遠心分離によって除き、ペレット画分を脱イオン水で洗浄して、再び遠心分離した。両方の上清(最初の上清および洗浄液)を一緒にして、全体を50kDの限外フィルターで限外ろ過して、5’−リボヌクレオチドを含む低分子量物質を高分子量物質から分離した。得られた限外ろ過液を濃縮し、スプレー乾燥した。
【0058】
得られた粉末を、5’−GMP、5’−AMPおよび5’−IMPの濃度について分析した。また、グルタミン酸および塩化ナトリウムの濃度が最終製造物において測定され、RNA濃度がクリーム酵母において測定された。塩化ナトリウムは、Jenway塩化物メーターPCLM3(Jenway、Essex、英国)を用いてサンプル中の塩化物イオンを測定し、塩化ナトリウムの対応する量を計算することによって決定された。この抽出プロセスのデータが表2に表される。
【0059】
【表2】

【0060】
組成物における5’−リボヌクレオチドの量はNaCl非含有乾燥物に基づいて73%w/wである。この量は、実施例1の最終製造物における量(NaCl非含有乾燥物に基づいて約97%)よりも少ない。このことは、組成物における5’−リボヌクレオチドの量がプロセスのタイプによって影響され得ることを意味する。
【0061】
(実施例3)
プロセスが、実施例2に記載のように、2100gのクリーム酵母(18.2%の乾燥固体)から出発して行われた。しかしながら、本実施例では、30kDの限外フィルターが適用された(実施例2では50kDの限外フィルター)。
【0062】
この抽出プロセスのデータが表3に表される。
【0063】
【表3】

【0064】
組成物における5’−リボヌクレオチドの量はNaCl非含有乾燥物に基づいて約78%w/wである。この量は、50kDのUFフィルターによって製造された組成物(実施例2)における場合よりも約5%大きい。このことは、組成物における5’−リボヌクレオチドの量がUFフィルターのタイプによって影響され得ることを意味する。
【0065】
(実施例4)
人工甘味料添加コカコーラ(登録商標)およびレギュラー型ファンタオレンジ(登録商標)における5’−リボヌクレオチド含有組成物の使用
【0066】
人工甘味料添加コカコーラ(登録商標)(コカコーラライト(登録商標)−コカコーラ社−ロッテルダム)またはレギュラー型ファンタオレンジ(登録商標)(コカコーラ社−ロッテルダム)に対する本発明による5’−リボヌクレオチド含有組成物の添加の効果を調べた。
【0067】
組成物は、NaCl非含有乾燥物に基づいて17.8%w/wの5’−GMP、17.6%w/wの5’−IMP(すなわち、約70%w/wの5’−リボヌクレオチド)、および0.7%w/wのグルタミン酸を含有していた。塩化ナトリウム含有量は乾燥物に基づいて1%未満であった。1リットルの飲料物につき50mgの組成物の投与量が使用された。
【0068】
組成物を含む飲料物の食味および/または芳香および/または口あたりが、食品食味試験において専門家の一団によって分析され(実験1および実験2)、その飲料物自体の食味および/または芳香および/または口あたりと比較された。コカコーラライト(登録商標)の場合、組成物を含む飲料物の食味および/または芳香および/または口あたりが、レギュラー型コカコーラ(登録商標)(Coca Cola Company−Rotterdam)の食味および/または芳香および/または口あたりと比較された。
【0069】
結果を表4(コカコーラライト(登録商標))および表5(ファンタオレンジ(登録商標))にそれぞれ示す。
【0070】
【表4】

【0071】
【表5】

【0072】
これらの結果は、コカコーラライト(登録商標)またはファンタオレンジ(登録商標)の食味および/または芳香および/または口あたりに対するリボヌクレアーゼ組成物の肯定的な効果を明確に示している。組成物を含むコカコーラライト(登録商標)では、飲料物における人工甘味料(アスパルテーム、サイクラミン酸ナトリウムおよびアセスルファム)の存在による後味が隠されている。組成物を含むファンタオレンジ(登録商標)では、全体的な食味(特に、それにおける果実的特徴)が改善されている。
【0073】
また、従来の酵母抽出物が使用されたときには通常的であるような酵母的特徴が飲料物に持ち込まれていない。このことは、本発明による組成物が食味において純粋であり、酵母抽出物または酵母組成物に由来する酵母的な食味/特徴の存在が非常に望ましくない飲料物適用のために特に好適であることを明らかにしている。
【0074】
(実施例5)
【0075】
プロセスチーズにおける5’−リボヌクレオチド含有組成物の使用
【0076】
実施例4の組成物が100gのチーズスプレッドあたり50mgの投与量で低脂肪チーズスプレッド(Slimkulpjeナチュラル15+、これは5%w/wの総脂肪を含む)に添加された。組成物を含むチーズスプレッド(実験1)の食味および/または芳香が、食品食味試験において専門家の一団によって分析され、そのチーズスプレッド自体(低脂肪)の食味と、また、対応する高脂肪製品(高脂肪)(Goudkuipjeナチュラル48+、これはERU−Woerden(オランダ)によって製造され、21%w/wの総脂肪を含む)の食味と比較された。
【0077】
結果を表6に示す。
【0078】
【表6】

【0079】
これらの結果は、総脂肪が低いプロセスチーズの食味および/または芳香および/または口あたりに対する本発明の組成物の肯定的な効果を明確に示している。特に、組成物を含む低脂肪スプレッドチーズの食味および/または芳香および/または口あたりは、高脂肪スプレッドチーズの食味および/または芳香および/または口あたりとのより多くの類似点を有する。また、組成物に由来する酵母的特徴が食品に持ち込まれていない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも55%w/w(NaCl非含有乾燥物重量に基づく)の5’−リボヌクレオチドを含み、かつ、グルタミン酸塩をさらに含む組成物。
【請求項2】
少なくとも65%w/wまたは少なくとも75%w/w(NaCl非含有乾燥物重量に基づく)の5’−リボヌクレオチドを含む請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
グルタミン酸塩対5’−リボヌクレオチドの比率が0.1未満であり、好ましくは0.05未満であり、より好ましくは0.01未満であり、かつ、この比率は0.001よりも大きい請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
0.01%w/w〜10%w/w(NaCl乾燥物重量に基づく)のグルタミン酸塩を含む請求項1から3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
5’−IMPおよび5’−AMPの合計よりも多い5’−GMPを含む請求項1から4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
(i)微生物細胞を処理して、RNAを含む細胞内容物を放出させること;
(ii)放出された細胞内容物に存在するRNAを他の可溶性の細胞物質から分離すること;および
(iii)分離されたRNAを5’−リボヌクレオチドに変換すること
を含む、5’−リボヌクレオチドを含有する組成物を製造するための方法。
【請求項7】
微生物細胞の生来の酵素が、微生物細胞を処理して細胞内容物を放出させる前に不活性化される請求項6に記載の方法。
【請求項8】
細胞が酵素的、化学的または機械的に処理される請求項6または7に記載の方法。
【請求項9】
細胞が酵素的に処理され、好ましくは、前記細胞を処理するために使用される酵素がプロテアーゼである請求項8に記載の方法。
【請求項10】
微生物細胞に由来する固形物が、放出された細胞内容物に存在するRNAを他の可溶性の細胞物質から分離する前に除かれる請求項6から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
固形物が遠心分離またはろ過によって除かれる請求項10に記載の方法。
【請求項12】
他の可溶性の細胞物質からのRNAの分離が限外ろ過によって行われる請求項6から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
分離されたRNAが、好ましくは5’−Fdaseによって、または、5’−Fdaseおよびデアミナーゼによって、5’−リボヌクレオチドに酵素的に変換される請求項6から12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記5’−リボヌクレオチドが、5’−リボヌクレオチドよりも大きい分子量を有する化合物を除去することによってさらに精製される請求項6から13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記5’−リボヌクレオチドよりも大きい分子量を有する化合物の除去が限外ろ過によって行われる請求項14に記載の方法。
【請求項16】
請求項1から5のいずれか一項に記載の組成物、または、請求項6から15のいずれか一項に記載の方法によって製造される5’−リボヌクレオチドを含有する組成物の、食品または飼料における使用。
【請求項17】
総脂肪が低下している食品または低い食品の食味および/または芳香および/または口あたりにおける脂肪的特徴を改善するための、請求項1から5のいずれか一項に記載の組成物、または請求項6から15のいずれか一項に記載の方法によって製造される5’−リボヌクレオチドを含有する組成物の使用。
【請求項18】
食品における人工甘味料の後味を隠すための、請求項1から5のいずれか一項に記載の組成物、または請求項6から15のいずれか一項に記載の方法によって製造される5’−リボヌクレオチドを含有する組成物の使用。
【請求項19】
飲料の食味および/または芳香および/または口あたりにおける特定の植物的特徴および/または果実的特徴および/またはアルコール的特徴を改善するための、請求項1から5のいずれか一項に記載の組成物または請求項6から15のいずれか一項に記載の方法によって製造される5’−リボヌクレオチドを含有する組成物の使用。

【公表番号】特表2006−525794(P2006−525794A)
【公表日】平成18年11月16日(2006.11.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−501611(P2006−501611)
【出願日】平成16年1月23日(2004.1.23)
【国際出願番号】PCT/EP2004/000658
【国際公開番号】WO2004/067758
【国際公開日】平成16年8月12日(2004.8.12)
【出願人】(505074311)
【Fターム(参考)】