説明

ACE阻害剤の合成方法

トランドラプリルの合成方法であって、N-[1-(S)-エトキシカルボニル-3-フェニルプロピル]-L-アラニン N-カルボキシ無水物をトランスオクタヒドロ-1H-インドール-2-カルボン酸と、水に混合しない不活性な有機溶媒を含む第1の有機溶媒中及び塩基の存在下において縮合すること、及び、第2の有機溶媒からトランドラプリルを単離することを含む方法。N-[1-(S)-エトキシカルボニル-3-フェニルプロピル]-L-アラニン N-カルボキシ無水物はまた、第1の有機溶媒中及び塩基の存在下において、(2S,3aR,7aS) オクタヒドロ-1H-インドール-2-カルボン酸と縮合され、トランドラプリルが単離される。また、ラセミのトランスオクタヒドロ-1H-インドール-2-カルボン酸の分割のための方法も提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、下式(I)の化合物、(2S,3aR,7aS)-1-[(2S)-2-[[(1S)-1-エトキシカルボニル-3-フェニルプロピル]アミノ]-1-オキソプロピル]オクタヒドロ-1H-インドール-2-カルボン酸、即ち、トランドラプリル(trandolapril)の改善された単純且つ効率的な合成方法及び単離方法に関する:
【化6】

【背景技術】
【0002】
式(I)の化合物、トランドラプリル(Trandolapril)は、化学的には(2S,3aR,7aS)-1-[(2S)-2-[[(1S)-1-エトキシカルボニル-3-フェニルプロピル]アミノ]-1-オキソプロピル]オクタヒドロ-1H-インドール-2-カルボン酸と記載される。トランドラプリルは、非スルフヒドリルのアンジオテンシン転換酵素(ACE)阻害剤、トランドラプリラット(trandolaprilat)のエチルエステルプロドラッグである。
【0003】
トランドラプリルは、血圧を下げるために用いられる薬である。血圧は、動脈及び静脈の狭窄(狭小化)の程度に依存する。動脈及び静脈が狭小になるほど血圧は高くなる。アンジオテンシンIIは、動脈及び静脈の壁の筋肉を収縮させ、動脈及び静脈を狭くし、それによって血圧を上昇させる、体内で作られる化学物質である。アンジオテンシンIIは、アンジオテンシン転換酵素(ACE)と呼ばれる酵素によって形成される。トランドラプリルは、ACEの阻害剤であり、アンジオテンシンIIの形成をブロックし、それによって血圧を下げる。血圧の低下は、心臓が抗して血液を送り出す圧力が低いために、心臓が激しく働く必要がないことをも意味する。心臓の不全の効率が改善され、心臓からの血液の拍出量は上昇する。従って、トランドラプリルのようなACE阻害剤は心不全の治療に有用である。
【0004】
トランドラプリルのACE-阻害活性は、主にその二酸代謝産物、トランドラプリラットのためであり、これはACE活性の阻害剤よりおよそ8倍活性である。
【0005】
トランドラプリルは他の関連する化合物とともに、US4933361において最初に開示された。トランドラプリルの合成方法は、US4933361及びWO9633984に開示されている。
【0006】
US4933361はトランドラプリルの合成方法を開示しており、ここでは、オクタヒドロ インドール-2-カルボン酸のラセミのベンジルエステルをN-[1-(S)-エトキシカルボニル-3-フェニルプロピル]-L-アラニン (ECPPA)と反応させ、ラセミのベンジルトランドラプリルを得ており、これをカラムクロマトグラフィーで精製してベンジルトランドラプリルの2S異性体を得、これはさらに炭素上のPdにより脱ベンジル化されて、トランドラプリルが泡沫状の固体として得られる。この方法は確実に不便であり、例えばその産物は、極めて低い収率で得られる。精製はカラムクロマトグラフィーを用いて行われ、これは工業的規模への拡大には適さない。
【0007】
WO9633984には、N-[1-(S)-エトキシカルボニル-3-フェニルプロピル]-L-アラニンをN-クロロスルフィニルイミダゾールで活性化して(N-[1-(S) N-[1-(S)-エトキシカルボニル-3-フェニルプロピル]-L-アラニル-N-スルホニル無水物が得られ、さらにシリル保護された2S,3aR,7aS オクタヒドロインドール2-カルボン酸と反応させてトランドラプリルを得る方法が開示されている。この方法の主な不利益は、シリル保護された中間体が水分に極めて感受性であり、該方法が、無水状態を維持することを必要とし、また、用いられる溶媒が完全に乾燥している必要があることである。工業規模でそのような状態を維持することは極めて困難であり、その失敗は産物の低収率をもたらす。
【0008】
本発明の方法で用いられるN-[1-(S)-エトキシカルボニル-3-フェニルプロピル]-L-アラニンN-カルボキシ無水物を調製する方法は周知であり、JP57175152A、US4496541、EP215335、US5359086及びEP1197490B1に開示されている。
【0009】
トランスオクタヒドロ-1H-インドール-2-カルボン酸及びそのエステルは、トランドラプリルの合成において鍵となる中間体である。合成されるとき、トランスオクタヒドロ-1H-インドール-2-カルボン酸は、以下に示すような4つの異性体の混合物である。
【化7】

【0010】
従来技術で既知の方法から、トランスオクタヒドロ-1H-インドール-2-カルボン酸はそのエステルに転換され、次いで該エステルはN-[1-(S)-エトキシカルボニル-3-フェニルプロピル]-L-アラニン(ECPPA)と直接反応され、次にその異性体がカラムクロマトグラフィーによって分離されるか、或いは、該エステルはECPPAと反応され、続いて脱保護される。トランスオクタヒドロ-1H-インドール-2-カルボン酸は、通常、その保護された形態で用いられる。遊離のトランスオクタヒドロ-1H-インドール-2-カルボン酸を、所望の異性体(上記の異性体D)に転換するために分割する試みはなされていない。さらにその上、従来技術の方法は全て立体選択的ではなく、故に、必要な異性体の分割は、その後の濃縮を必要とする。
【0011】
EP0088341及びUS4490386は、α-フェニルエチルアミンを用いたN-ベンゾイル(2RS,3aR,7aS) オクタヒドロ-1H-インドール-2-カルボン酸の分割のための方法を開示している。
【0012】
US6559318及びEP1140826は、そのニトリル中間体の酵素的な分割を用いた(2S,3aR,7aS) オクタヒドロ-1H-インドール-2-カルボン酸の合成方法を開示している。酵素的な分割は、多くの工程を含み、また精製のためにカラムクロマトグラフィーを必要とし、その方法を工業的に非経済的にしている。
【0013】
WO8601803は、10-D-カンファースルホン酸を用いた(2S,3aR,7aS) オクタヒドロ-1H-インドール-2-カルボン酸のエチルエステル及びベンジルエステルの調製を開示している。
【0014】
WO2004065368は、トランドラプリルを調製するため、10-D-カンファースルホン酸を用いた分割による、(2S,3aR,7aS) オクタヒドロ-1H-インドール-2-カルボン酸ベンジルエステルの合成を開示している。該産物が最初に分割を必要とし、次いで該エステルが脱保護されてさらなる収率の損失をもたらして収率を低くし損失を生じさせるために、この方法は収率が乏しい。
【0015】
WO2005/051909は、トランドラプリル、即ち、{N-[1-(S)-カルベトキシ-3-フェニルプロピル}-S-アラニル-2S,3aR,7aS-オクタヒドロインドール-2-カルボン酸}並びにその薬学的に許容される塩の調製方法を開示しており、トランドラプリルのジアステレオマーの混合物を得るために、水と水に混和性の溶媒の混合物中の、1:1〜1.6:1のモル比の、トランスオクタヒドロインドール-2-カルボン酸と{N-[1-(S)-エトキシカルボニル-3-フェニルプロピル}-S-アラニル(NCA)のN-カルボキシ無水物のラセミ混合物を用いている。該ジアステレオマーは、アセトンと水からの結晶化を繰り返して、塩に転換され、そして、塩基と反応して純粋なトランドラプリルと与える。このように、水と水に混和性の溶媒の存在下における縮合反応は、立体選択的ではない。
【0016】
N-[1-(S)-エトキシカルボニル-3-フェニルプロピル]-L-アラニン(ECPPA)から開始してN-[1-(S)-エトキシカルボニル-3-フェニルプロピル]-L-アラニン N-カルボキシ無水物を調製する方法は周知であり、JP57175152A、US4496541、EP215335、US5359086及びEP1197490B1に開示されている。
【0017】
従来技術で開示されているトランドラプリルの合成方法は、上記のような多くの不利益を有している。それ故、トランドラプリルの単純且つ効率的な合成方法が必要とされている。本発明はこの問題を解決する方法を開示する。本発明は、従来の文献で開示されたどのような方法からも、明らかではなくまた予測されるものでもない。
【発明の目的】
【0018】
本発明の目的は、(2S,3aR,7aS) オクタヒドロ-1H-インドール-2-カルボン酸から、(2S,3aR,7aS)-1-[(2S)-2-[[(1S)-1-エトキシカルボニル-3-フェニルプロピル]アミノ]-1-オキソプロピル] - オクタヒドロ-1H-インドール-2-カルボン酸を合成する改善された方法を提供することである。
【0019】
他の目的は、ラセミのトランスオクタヒドロ-1H-インドール-2-カルボン酸からトランドラプリルを調製するための立体選択的な方法を提供することである。
【0020】
さらなる目的は、(2RS,3aR,7aS) オクタヒドロ-1H-インドール-2-カルボン酸の分割方法を提供することである。
【0021】
本発明のさらに他の目的は、トランドラプリルを含む薬学的組成物を提供することである。
【発明の概要】
【0022】
本発明の第1の側面に従って、式(I)のトランドラプリルの合成方法が提供される:
【化8】

【0023】
ここで、該方法は、式(II)のN-[1-(S)-エトキシカルボニル-3-フェニルプロピル]-L-アラニン N-カルボキシ無水化合物
【化9】

【0024】
を式(III)のトランスオクタヒドロ-1H-インドール-2-カルボン酸
【化10】

【0025】
と縮合させることを含む。
【0026】
該縮合は、好ましくは、適切には水に混合しない不活性な有機溶媒を含む、第1の有機溶媒中で行われる。該縮合はまた、適切には有機塩基である、塩基の存在下で行われ得る。一つの態様において、該塩基はトリエチルアミンである。式(I)のトランドラプリルは、第2の有機溶媒から単離することができる。
【0027】
本発明の第2の側面に従って、式(I)のトランドラプリルの合成方法が提供され、該方法は式(II)の化合物
【化11】

【0028】
を、式(IV)の(2S,3aR,7aS) オクタヒドロ-1H-インドール-2-カルボン酸
【化12】

【0029】
と縮合させることを含む。
【0030】
縮合は、好ましくは、第1の有機溶媒中で行われる。縮合はまた、適切には有機塩基である、塩基の存在下で行われ得る。一つの態様において、該塩基はトリエチルアミンである。式(I)のトランドラプリルは次いで単離されることができる。該トランドラプリルは、第2の有機溶媒から単離できる。一つの態様において、該第1の有機溶媒は、水に混合しない不活性な有機溶媒である。他の態様において、式(IV)の(2S,3aR,7aS) オクタヒドロ-1H-インドール-2-カルボン酸は、好ましくはR (+)フェニルエチルアミンを用いて、第3の有機溶媒中で、式(III)の化合物の分割によって調製される。該第3の有機溶媒はアルコールであってよく、適切にはエタノールであってよい。
【0031】
好ましい態様において、式(II)のN-[1-(S)-エトキシカルボニル-3-フェニルプロピル]-L-アラニンN-カルボキシ無水化合物は、式(III)又は(IV)のオクタヒドロ-1H-インドール-2-カルボン酸に対してサブモル(sub-molar)比で反応される。一つの態様において、式(II)のN-[1-(S)-エトキシカルボニル-3-フェニルプロピル]-L-アラニンN-カルボキシ無水化合物の、式(III)のトランスオクタヒドロ-1H-インドール-2-カルボン酸に対するモル比は、0.4〜0.9:1である。特に好ましい態様において、式(II)のN-[1-(S)-エトキシカルボニル-3-フェニルプロピル]-L-アラニンN-カルボキシ無水化合物の、式(III)のトランスオクタヒドロ-1H-インドール-2-カルボン酸に対するモル比は0.5〜0.8:1である。
【0032】
一つの態様において、該第1の有機溶媒は非極性である。適切には、該第1の有機溶媒はジクロロメタン、ジクロロエタン、クロロホルム、トルエン、キシレン又は有機エステルである。好ましくは、該第1の有機溶媒はジクロロメタンである。
【0033】
他の態様において、該第2の有機溶媒は、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、アセトン、アセトニトリル又はイソプロピルアルコールであり、好ましくはアセトニトリルである。
【0034】
他の態様において、前記縮合は、5℃から環境温度の温度範囲で行われ、好ましくは環境温度で行われる。
【0035】
さらなる態様において、該方法はさらに、縮合反応の生成物を水で反応停止することを含む。任意に、該反応停止された生成物のpHは4〜7に調整されてよく、適切には酸で調整される。典型的には、該pHは4.2に調整される。該方法はさらに、該pHを調整された生成物を適切な溶媒で抽出し、続いて該抽出された生成物を残渣に濃縮することを含んでよい。この態様において、該第2の有機溶媒は、該残渣からトランドラプリルを単離するために用いられる。
【0036】
本発明の第三の側面に従って、式(IV)の(2S,3aR,7aS) オクタヒドロ-1H-インドール-2-カルボン酸化合物を得るための、ラセミのトランスオクタヒドロ-1H-インドール-2-カルボン酸の分割方法が提供され、ここで、該分割は、分離剤(resolving agent)、好ましくはR-(+)-フェニルエチルアミン分割剤を使用する。一つの態様において、該分割は、アルコールのような溶媒中で行われる。好ましくは、該溶媒はエタノールである。
【0037】
本発明の他の側面に従って、トランドラプリルを調製する方法における、式(IV)の(2S,3aR,7aS) オクタヒドロ-1H-インドール-2-カルボン酸の使用が提供される。
【0038】
本発明のさらなる側面に従って、本発明の方法に従って調製されたトランドラプリルが提供される。
【0039】
本発明のさらに他の側面に従って、本発明の方法に従って調製されたトランドラプリル、及び薬学的に許容される担体を含有する薬学的組成物が提供される。
【0040】
「サブモル比(sub-molar proportion)」という用語は、ここでは、等モルよりも少ない割合を意味するように用いられる。換言すれば、N-[1-(S)-エトキシカルボニル-3-フェニルプロピル]-L-アラニンN-カルボキシ無水物の、トランス-オクタヒドロ-1H-インドール-2-カルボン酸に対するサブモル比とは、N-[1-(S)-エトキシカルボニル-3-フェニルプロピル]-L-アラニン N-カルボキシ無水物のトランス-オクタヒドロ-1H-インドール-2-カルボン酸に対する比が、(1未満):1であることを意味する。本発明の好ましい態様において、N-[1-(S)-エトキシカルボニル-3-フェニルプロピル]-L-アラニンN-カルボキシ無水物のトランス-オクタヒドロ-1H-インドール-2-カルボン酸に対するモル比は0.4〜0.9:1であり、より好ましくは0.5〜0.8:1である。
【発明の詳細な説明】
【0041】
本発明は、トランドラプリルの合成のための、改善された単純且つ効率的な方法に関し、理想的には工業的規模に拡大するのに適した方法に関する。本発明の方法は、下記のスキーム1に記載される。
【化13】

【0042】
本発明の一つの側面から、トランドラプリルの合成方法が提供され、ここで、トランスオクタヒドロ-1H-インドール-2-カルボン酸(III)は、適切な有機溶媒、好ましくは水に混合しない不活性な非極性有機溶媒中で、N-[1-(S)-エトキシカルボニル-3-フェニルプロピル]-L-アラニンN-カルボキシ無水物(II)(ここではNCAと称する)と反応される。該有機溶媒は、ジクロロメタン、ジクロロエタン、クロロホルム、トルエン、キシレン又は有機エステルであってよい。好ましくは、該有機溶媒はジクロロメタンである。縮合は、塩基、好ましくはトリエチルアミンの存在下で行われる。
【0043】
該反応は、好ましくは、5℃から環境温度の温度範囲で行われ、より好ましくは環境温度で行われる。ここで用いるように、「環境温度」とは、約25℃〜約30℃の範囲の温度を意味する。
【0044】
該反応マスは、水で反応停止されてよく、そのpHは酸で4〜7に調整され、好ましくはpH 4.2に調整される。該反応マスは次いで、適切にはジクロロメタンで抽出され、濃縮されて残渣にされる。該残渣は、適切な溶媒、好ましくは酢酸エチル、酢酸イソプロピル、アセトン、アセトニトリル、イソプロピルアルコール中に、より好ましくはアセトニトリル中に、溶解されて還流されてよい。その生成物は、該反応マスを室温に冷却し、得られた固体を濾過することによって単離される。
【0045】
本発明の他の側面から、式(IV)の(2S,3aR,7aS) オクタヒドロ-1H-インドール-2-カルボン酸化合物を得るための、好ましくはR-(+)-フェニルエチルアミンを分割剤として用いた、ラセミのトランスオクタヒドロ-1H-インドール-2-カルボン酸の分割の方法が提供される。アルコール、好ましくはエタノールを含む溶媒が、該分割工程で用いられ得る。従来文献の方法は全て、ラセミのトランスオクタヒドロ-1H-インドール-2-カルボン酸のエステルの分割を記載しているが、それらの従来文献のいずれも、トランスオクタヒドロ-1H-インドール-2-カルボン酸を分割する方法を教示していない。
【0046】
本発明のための反応条件を最適化する過程の間に、驚くべき結果が得られ、これは、本発明の他の目的を導くものである。NCAをラセミのトランスオクタヒドロ-1H-インドール-2-カルボン酸と直接反応させることによって、トランドラプリルが合成できるということが発見された。ここでは、式(III)の化合物を分割する必要がない。これは、効率的な方法をもたらす。
【0047】
また、我々は、NCAを、所望の異性体のトランスオクタヒドロ-1H-インドール-2-カルボン酸(上記の異性体D)と選択的に反応させ、これにより、本発明の方法を立体選択的な方法にすることを見出した。縮合工程の間に水に混合しない不活性な有機溶媒を使用することは、該方法の立体選択性に寄与する。縮合工程の間に、水に混合しない不活性な有機溶媒と、トランスオクタヒドロ-1H-インドール-2-カルボン酸(III)に対してサブモル比のN-[1-(S)-エトキシカルボニル-3-フェニルプロピル]-L-アラニンN-カルボキシ無水物(II)の両方を使用することもまた、立体選択性に寄与する。
【0048】
NCA (II)が、ラセミのトランス酸に対して等モル比で用いられた場合、著しい量のNCAが未反応で残り、ECPPAとして回収されることが観察された。これは、我々に、反応で用いるNCA (II)の量を低下させ、極めて励みになる結果を与えた。それ故、本発明の最も好ましい態様において、ラセミのトランスオクタヒドロ-1H-インドール-2-カルボン酸の、サブモル比のNCA (II)、好ましくは約0.4〜0.9モル、より好ましくは0.5〜0.8モル、との反応を含む、トランドラプリルの合成方法が提供される。
【0049】
該反応に必要なNCAは、N-[1-(S)-エトキシカルボニル-3-フェニルプロピル]-L-アラニンから開始して既知の方法で合成される。
【0050】
本発明の薬学的組成物は、錠剤、ペレット、フィルム、糖又は腸コーティングされた錠剤又はペレット、カプセル、懸濁液、溶液、エマルジョンなどのような、任意の従来の形態であってよい。
【0051】
薬学的組成物の処方において、活性成分は、適切な溶媒、賦形剤(fillers)、希釈剤、崩壊剤、結合剤、着色剤、界面活性剤、潤滑剤、保存剤などから選択される一以上の薬学的に許容される担体のような、任意の従来の薬学的に許容される担体と組み合わされることができる。
【0052】
以下の具体的な例は、本発明の方法の実行の最も好ましい態様を説明するために提示される。該実施例は、ここで説明された具体的な態様に限定されず、本明細書で定義されたような置換を含む。
【実施例】
【0053】
実施例1
工程A:N-[1-(S)-エトキシカルボニル-3- フェニルプロピル]-L-アラニン N-カルボキシ無水物(NCA)の調製
リン酸二水素二ナトリウム二水和物(177 gms;0.994モル)を水(300 ml)に35℃で溶解し、環境温度に冷却した。ジクロロメタン(250 ml)を充填し、15分間撹拌した。N-[1-(S)-エトキシカルボニル-3-フェニルプロピル]-L-アラニン(106 gms;0.381モル)を上記溶液に添加し、該反応マスを15℃に冷却した。ジクロロメタン(40 ml)に溶解したトリホスゲン(52.8 gms;0.177モル)の溶液を、該反応マスに15〜20℃で40分間滴下して加えた。該反応マスをさらに30分間撹拌した。ピリジン(0.5 ml; 0.006モル)を加え、該反応マスを15〜20℃で1時間撹拌した。該反応マスを沈降させ、層を分離した。有機層を2N HClで、中性pHが得られるまで洗浄した。該有機層をさらに水で洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥した。該溶媒を蒸発させて残渣を得た(110 gms)。
【0054】
工程B:(2S,3aR,7aS)-1-[(2S)-2-[[(1S)-1-エトキシカルボニル-3-フェニルプロピル] アミノ]-1-オキソプロピル]オクタヒドロ-1H-インドール-2-カルボン酸の調製
(2S,3aR,7aS)オクタヒドロ-1H-インドール-2-カルボン酸(65 gms 0.384モル)をジクロロメタン(200 ml)中で撹拌し、トリエチルアミン(30 ml)を環境温度で30分間撹拌しながら加えた。ジクロロメタン(50 ml)中に溶解したN-[1-(S)-エトキシカルボニル-3-フェニルプロピル]-L-アラニンN-カルボキシ無水物(110 gms; 0.378モル)(工程Aの残渣)を、前記反応マスに環境温度で滴下して加え、さらに3時間撹拌した。水(500 ml)を加え、該反応マスを15℃に冷却し、該反応マスのpHを2N HClで4.2に調整した。有機層を分離し、水層をジクロロメタンで再抽出した。併せた有機層を硫酸ナトリウムで乾燥させ、残渣に濃縮した。該残渣を酢酸エチルに還流温度で溶解した。該反応マスを環境温度に冷却した。得られた固体を濾過し、減圧下で乾燥し、50 gのトランドラプリル(HPLC純度99.5%)を得た。
【0055】
実施例2
ラセミのトランスオクタヒドロ-1H-インドール-2-カルボン酸(65 gms; 0.384モル)をジクロロメタン(200 ml)中に撹拌し、トリエチルアミン(30 ml)を、環境温度で30分間撹拌しながら加えた。ジクロロメタン(300ml)中に溶解したN-[1-(S)-エトキシカルボニル-3-フェニルプロピル]-L-アラニンN-カルボキシ無水物(67 gms; 0.23モル)(実施例1の工程Aの方法で調製した)を、該反応マスに環境温度で滴下して加え、さらに3時間撹拌した。水(500 ml)を加え、該反応マスを15℃に冷却し、該反応マスのpHを2N HClで4.2に調整した。その有機層を分離した。該有機層を硫酸ナトリウムで乾燥し、残渣に濃縮した。該残渣を還流温度で酢酸エチルに溶解した。該反応マスを環境温度に冷却した。得られた固体を濾過し、30〜35℃の減圧下で乾燥し、34 gのトランドラプリル(HPLC純度99.3%)を得た。
【0056】
実施例3
ラセミのトランスオクタヒドロ-1H-インドール-2-カルボン酸(100 gms; 0.592モル)をジクロロメタン(300 ml)中に撹拌し、トリエチルアミン(46 ml)を環境温度で30分間撹拌しながら加えた。ジクロロメタン(300 ml)中に溶解したN-[1-(S)-エトキシカルボニル-3-フェニルプロピル]-L-アラニンN-カルボキシ無水物(119 gms; 0.42モル)(実施例1の工程Aの方法で調製した)を、該反応マスに環境温度で滴下して加え、さらに3時間撹拌した。水(700 ml)を加え、該反応マスを15℃に冷却し、該反応マスのpHを2N HClで4.2に調整した。その有機層を分離した。該有機層を硫酸ナトリウムで乾燥し、残渣に濃縮した。該残渣を酢酸エチルに還流温度で溶解した。該反応マスを環境温度に冷却した。得られた固体を濾過し、減圧下の30〜35℃で乾燥し、55 gのトランドラプリル(HPLC純度99.5%)を得た。
【0057】
実施例4
ラセミのトランスオクタヒドロ-1H-インドール-2-カルボン酸(50 gms; 0.295モル)をジクロロメタン(150 ml)中で撹拌し、トリエチルアミン(23 ml)を環境温度で30分間撹拌しながら加えた。ジクロロメタン(150 ml)中に溶解したN-[1-(S)-エトキシカルボニル-3-フェニルプロピル]-L-アラニンN-カルボキシ無水物(41 gms; 0.148モル)(実施例1の工程Aの方法で調製した)を、該反応マスに環境温度で滴下して加え、さらに3時間撹拌した。水(350 ml)を加え、該反応マスを15℃に冷却し、該反応マスのpHを2N HClで4.2に調整した。その有機層を分離した。該有機層を硫酸ナトリウムで乾燥し、残渣に濃縮した。該残渣を酢酸エチルに還流温度で溶解した。該反応マスを環境温度に冷却した。得られた固体を濾過し、減圧下、30〜35℃で乾燥し、25 gのトランドラプリルを得た(HPLC純度99.3%)。
【0058】
実施例5
ラセミのトランスオクタヒドロ-1H-インドール-2-カルボン酸(410 gms 2.42モル)をエチルアルコール(3.8 ltrs)中で還流した。該反応マスの過熱を中断し、R-(+)-フェニルエチルアミン(500 gms; 4.13モル)を該反応マスに充填し、環境温度で16〜18時間撹拌した。該反応マスを次いで10℃に冷却し、得られた固体を濾過した。この固体を水(3.6 ltrs.)及び10% NaOH(100 ml)の混合物中で15分間撹拌した。清澄な水層を酢酸エチル(1 ltr)で洗浄した。該水層のpHを10% HClで6.5に調整した。該水層を減圧下、60℃未満で残渣に濃縮した。アセトニトリル(100 ml)を充填し、完全に蒸留し、さらに、アセトニトリル(100 ml)を充填し、得られた懸濁液を環境温度で1時間撹拌し濾過した。その固体を濾過し、アセトニトリルで洗浄し、減圧下60℃で乾燥させて、200 gの(2S,3aR,7aS) オクタヒドロ-1H-インドール-2-カルボン酸を得た。
【0059】
本発明が請求の範囲の範囲内で改変可能であることは認められるであろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)のトランドラプリルの合成方法であって、
【化1】

式(II)のN-[1-(S)-エトキシカルボニル-3-フェニルプロピル]-L-アラニン N-カルボキシ無水化合物を、
【化2】

式(III)のトランスオクタヒドロ-1H-インドール-2-カルボン酸
【化3】

と、水に混合しない不活性な有機溶媒を含む第1の有機溶媒中及び塩基の存在下で縮合させること、及び、第2の有機溶媒から式(I)のトランドラプリルを単離すること、を含む方法。
【請求項2】
式(I)のトランドラプリルの合成方法であって、式(II)の化合物を、
【化4】

式(IV)の(2S,3aR,7aS) オクタヒドロ-1H-インドール-2-カルボン酸
【化5】

と、第1の有機溶媒中及び塩基の存在下で縮合させること、及び、式(I)のトランドラプリルを単離することを含む方法。
【請求項3】
前記式(I)のトランドラプリルが、第2の有機溶媒から単離されることを特徴とする、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
式(IV)の(2S,3aR,7aS) オクタヒドロ-1H-インドール-2-カルボン酸が、第3の有機溶媒中で、R (+)フェニルエチルアミンを用いた式(III)の化合物の分割によって調製される、請求項2又は3に記載の方法。
【請求項5】
前記第3の有機溶媒がアルコールである、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記第3の有機溶媒がエタノールである、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記式(II)のN-[1-(S)-エトキシカルボニル-3-フェニルプロピル]-L-アラニン N-カルボキシ無水化合物が、式(III)又は(IV)のオクタヒドロ-1H-インドール-2-カルボン酸に対してサブモル(sub-molar)比で反応される、請求項1〜6の何れか一項に記載の方法。
【請求項8】
式(II)のN-[1-(S)-エトキシカルボニル-3-フェニルプロピル]-L-アラニン N-カルボキシ無水化合物の、式(III)のトランスオクタヒドロ-1H-インドール-2-カルボン酸に対するモル比が0.4〜0.9:1である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
式(II)のN-[1-(S)-エトキシカルボニル-3-フェニルプロピル]-L-アラニン N-カルボキシ無水化合物の、式(III)のトランスオクタヒドロ-1H-インドール-2-カルボン酸に対するモル比が、0.5〜0.8:1である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記第1の有機溶媒が水に混合しない不活性な有機溶媒を含む、請求項2〜6の何れか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記第1の有機溶媒が非極性である、請求項1〜10の何れか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記第1の有機溶媒が、ジクロロメタン、ジクロロエタン、クロロホルム、トルエン、キシレン又は有機エステルである、請求項1〜11の何れか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記第1の有機溶媒がジクロロメタンである、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記縮合のために用いられる塩基が有機塩基である、請求項1〜13の何れか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記塩基がトリエチルアミンである、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記第2の有機溶媒が、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、アセトン、アセトニトリル又はイソプロピルアルコールである、請求項1又は請求項3〜15の何れか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記第2の有機溶媒がアセトニトリルである、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記縮合が、5℃から環境温度の範囲の温度で行われる、請求項1〜17の何れか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記縮合が、環境温度で行われる、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記縮合反応の生成物を水により反応停止させることをさらに含む、請求項1〜19の何れか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記反応停止された生成物のpHを酸で4〜7に調整することをさらに含む、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記pHが4.2に調整される、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記pHを調整された生成物を適切な溶媒で抽出し、続いて、該抽出された生成物を残渣に濃縮することをさらに含む、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記第2の有機溶媒は、前記残渣からトランドラプリルを単離するために用いられる、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
式(IV)の(2S,3aR,7aS)オクタヒドロ-1H-インドール-2-カルボン酸化合物を得るためにラセミのトランスオクタヒドロ-1H-インドール-2-カルボン酸を分割する方法であって、前記分割がR-(+)-フェニルエチルアミンを分割剤として用いることを特徴とする方法。
【請求項26】
前記分割がアルコールを含む溶媒中で行われる、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記アルコールがエタノールである、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
トランドラプリルの調製方法における、式(IV)の(2S,3aR,7aS) オクタヒドロ-1H-インドール-2-カルボン酸の使用。
【請求項29】
請求項1〜24の何れか一項に従って調製されたトランドラプリル。
【請求項30】
請求項1〜24の何れか一項に従って調製されたトランドラプリル、及び薬学的に許容される担体を含む薬学的組成物。
【請求項31】
実施例1〜5を援用することによってここに実質的に記載されるトランドラプリルの合成及び単離方法。

【公表番号】特表2008−545006(P2008−545006A)
【公表日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−519991(P2008−519991)
【出願日】平成18年7月5日(2006.7.5)
【国際出願番号】PCT/GB2006/002496
【国際公開番号】WO2007/003947
【国際公開日】平成19年1月11日(2007.1.11)
【出願人】(501312451)シプラ・リミテッド (56)
【Fターム(参考)】