説明

ALIP型フローはんだ付け装置

【課題】
流路反転型のALIP型電磁ポンプは、推力発生流路から反転流路へと溶融はんだの流れる方向が反転する領域での流動損失が大きく、吐出力の微細な変動が発生し、はんだ付け品質を変動させる。
【解決手段】
電磁ポンプ30内の推力発生流路35から反転流路37へ送給流路が反転推移する位置に、外部コアおよび移動磁界発生用コイル31が設けられていない領域でかつ内部コア33を設けられていない領域を設けて、推力発生流路および反転流路の送給流速よりも送給流速が低下する圧力室36を形成し、反転流路37が形成された内部コア33の吐出口38に吐出流速を急激に低下させる拡散室10を備えたチャンバ体9を連携して設け、該チャンバ体9に吹き口体16を設ける。前記推力発生流路35と圧力室36と反転流路37と拡散室10とにより溶融はんだの流速の微細な変動のうちの繰り返し周期の短い変動を吸収する高域変動除去フィルタを形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プリント配線板の被はんだ付け部に溶融はんだを供給してはんだ付けを行うフローはんだ付け装置に関するものであって、特に、誘導型電磁ポンプを使用したフローはんだ付け装置に関する。
【0002】
誘導型電磁ポンプを使用したフローはんだ付け装置は、溶融はんだの噴流状態を安定に維持できると供に溶融はんだを送給するパラメータの再現性と安定性が極めて良好で、いつでも同じ条件のはんだ付け実装が可能となって安定したはんだ付け品質を得ることができるという特徴を有している。
【背景技術】
【0003】
送給するべき媒体に直接に電磁力を作用させて推力を発生させ、これをポンプの吐出力および吸い込み力とする電磁ポンプ(LEP:linear electromagnetic pump)には、大別して誘導型(induction type)と伝導型(conduction type) とがある。一般的に、送給するべき媒体への通電が不要な誘導型が多く使用されている例が多い。
【0004】
さらに、この誘導型の電磁ポンプには、大別してフラットリニア型(FLIP型:flat linear induction pump) とアニュラリニア型(ALIP型:annular linear induction pump)そしてヘリカル型(HIP型:helical induction pump) とがあり、それぞれ固有の構成を有している。
【0005】
ALIP型電磁ポンプを使用したフローはんだ付け装置の技術として、特許文献1の技術がある。この技術は、ALIP型電磁ポンプの一端を封止すると共に内部コアに反転流路を設けて構成したもので、推力発生流路で推力が与えられて送給される溶融はんだの方向を前記封止端で反転させて前記反転流路に送給する構成であり、推力発生流路における溶融はんだの送給方向と内部コアに設けられた反転流路を流れる溶融はんだの送給方向とは逆方向になる。そして、推力発生流路の吸い込み口と反転流路の吐出口とを同じ側に設けることができる。
【0006】
この特許文献1に開示される技術では、ALIP型電磁ポンプがはんだ槽の外側に位置しているので、特に電磁ポンプのメンテナンス作業を容易に行うことができる特徴を有している。また、はんだ槽の容積も小さくできる。なお、標準的なALIP型電磁ポンプの例としては、特許文献2が参考になる。
【特許文献1】特開2005−205479号公報
【特許文献2】特開平 5−260719号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1の技術では、ALIP型電磁ポンプの封止端すなわち推力発生流路から内部コアの反転流路へと溶融はんだの流れる方向が反転する領域における流動損失が大きく、また、この流動損失の微細な変動が電磁ポンプの吐出力すなわち内部コアに設けられた反転流路からの吐出力の微細な変動となって現れる。
【0008】
この吐出力の微細な変動は、従来の回転式ポンプによる吐出力の変動に比べれば遙に小さい大きさであるが、推力が一定している電磁ポンプの長所を完全に引き出すための障害になる。すなわち、前記の吐出力の微細な変動は溶融はんだの噴流波の形状を変動させ、この変動がプリント配線板への溶融はんだの供給圧力を変動させて、はんだ付け品質を変動させる原因になる。
【0009】
近年になって、前記の吐出力の微細な変動のうちの短周期の変動が、1枚のプリント配線板内において部分的にはんだ付け品質を低下させる原因となっていることが判り、その解消が求められていた。
【0010】
本発明は、電磁ポンプ内における流動損失を低減すると共に吐出力の微細な変動を吸収するALIP型フローはんだ付け装置を実現することによって、従来よりも一層安定した噴流波を形成して高いはんだ付け品質を安定に維持することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、アニュラリニア型(ALIP型:annular linear induction pump)電磁ポンプ内において溶融はんだの送給方向が反転する位置に圧力室を設けると共に電磁ポンプの吐出口に体積の大きい拡散室を設け、溶融はんだを送給する際の流動損失を低減すると共に吐出力の微細な変動を吸収するように構成したところに特徴がある。
【0012】
(1)アニュラリニア型(ALIP型)電磁ポンプをはんだ槽の槽壁に設けたフローはんだ付け装置において、前記アニュラリニア型(ALIP型)電磁ポンプが、その推力パイプの一端を封止してキャップ形状にすると供にこの推力パイプの内側に挿入される内部コアの軸芯に沿って反転流路を設けることで前記推力パイプと前記内部コアとの間に推力発生流路を形成し、この推力発生流路と前記反転流路とで送給流路を形成した流路反転型のアニュラリニア型(R−ALIP型:return through type annular linear induction pump)電磁ポンプとして構成され、その推力パイプをはんだ槽の側壁に設けると供に、外部コアおよび移動磁界発生用コイルを前記推力パイプの外側に環装して設ける。
【0013】
そして、前記推力パイプには前記推力発生流路から前記反転流路へ送給流路が反転推移する位置に前記外部コアおよび移動磁界発生用コイルが設けられていない領域でかつ前記推力パイプ内に前記内部コアを設けられていない領域を設けて前記推力発生流路における送給流速および前記反転流路の送給流速よりも送給流速が低下する圧力室を形成する。
【0014】
さらに、前記反転流路が形成された内部コアの吐出口に吐出流速を急激に低下させる拡散室を備えたチャンバ体を連繋して設け、さらに前記チャンバ体には溶融はんだの噴流波を形成する吹き口体を設ける。
【0015】
すなわち、前記推力発生流路と前記圧力室と前記反転流路と前記拡散室とにより溶融はんだの流速の微細な変動のうちの繰り返し周期の短い変動を吸収する高域変動除去フィルタを形成したALIP型フローはんだ付け装置である。
【0016】
これにより、推力発生流路から反転流路に溶融はんだが送給される際に発生する流動損失が少なくなる。したがって、電磁ポンプ全体の効率も向上する。また、推力発生流路と反転流路とがそれぞれ流動インダクタンスとして作用し、推力パイプの圧力室とチャンバ体の拡散室とがそれぞれ流動キャパシタンスとして作用するので、これらにより吐出力の高域変動除去フィルタが形成され、吐出力の微細な変動のうちの高域の変動が除去されて形状の安定した噴流波を形成することができる。
【0017】
(2)前記(1)のALIP型フローはんだ付け装置において、電磁ポンプ内の送給方向を基準とした推力パイプの縦断面における圧力室の長さが推力パイプの内径よりも長くかつチャンバ体の拡散室における溶融はんだの流速が反転流路における流速の1/10以下に減速する横断面積に設けられて成るように構成する。
【0018】
このように、圧力室の長さを推力パイプの内径よりも長く構成することにより、推力発生流路から反転流路へ溶融反転流路の流れが反転する際の流動損失を小さくすることができる。すなわち、推力発生流路から反転流路への流れ方向の反転が圧力室における溶融はんだの圧力を媒介として行われるようになり、流動損失を低減することができる。
【0019】
また、ALIP型電磁ポンプにおいて、推力方向を基準とする横断面における長さよりも縦断面の長さが長い推力発生流路や反転流路は、送給される溶融はんだから見てインダクタンスとして作用し、送給流速が急激に低下する推力パイプの圧力室やチャンバ体の拡散室はキャパシタンスとして作用する。
【0020】
したがって、推力発生流路→圧力室→反転流路→拡散室と送給される溶融はんだは、流速や圧力の変動のうちの周期の短い成分すなわち高域成分を濾過して吸収する高域減衰フィルタとして作用する。そのため、吐出力の微細な変動のうちの高域の変動が確実に除去されて形状の安定した噴流波を形成することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、電磁ポンプ内における流動損失を低減すると共に吐出力の微細な変動を吸収するALIP型フローはんだ付け装置を実現することによって、電磁ポンプの効率が良好で従来よりも一層安定した噴流波を形成することができるようになる。
【0022】
その結果、プリント配線板の各部のはんだ付け品質が均一かつ安定になり、高いはんだ付け品質を維持することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明におけるALIP型フローはんだ付け装置の構成例を図1〜図3を用いて説明する。図1は、ALIP型フローはんだ付け装置の全体の構成を説明する図で、はんだ槽部分は縦断面で示し、制御系の構成をブロック図で示してある。また、図2は、ALIP型フローはんだ付け装置の全容を説明する斜視図で、図2(a)は吹き口体の側部側にALIP型電磁ポンプを設けた例を示し、図2(b)は吹き口体の前部(または後部)側にALIP型電磁ポンプを設けた例を示す。さらに図3は、本発明に用いられるALIP型電磁ポンプの分解斜視図で、はんだ槽に設けられる推力パイプと、この推力パイプ内に挿入される内部コアと、推力パイプに挿抜自在に設けられる外部コアおよび移動磁界発生用コイルの挿抜関係を示している。
【0024】
(1)構成例
まず、本発明のALIP型フローはんだ付け装置の構成を説明する前に、はんだ槽におけるはんだの加熱方法について説明しておく。
【0025】
すなわち、はんだ槽には槽底や槽壁に沿ってヒータが設けてあり、該はんだ槽内に収容されたはんだを加熱して溶融させ、目的とする温度に保持するように構成されている。はんだの温度は温度制御装置により制御される仕組みであり、該温度制御装置は温度センサの温度検出結果を参照し、はんだの温度が予め指示された温度になるようにヒータに供給する電力を制御する仕組みとなっている。
【0026】
なお、具体的な構成を説明すると、図1に例示するはんだ(溶融はんだを含む)5の加熱方法はシーズヒータ6に直接はんだが触れているので直接加熱方式と呼称されている。この方式では、はんだ槽1の槽底に沿ってヒータ6が設けてあり、このヒータ6ではんだを加熱して溶融させ、加熱されたはんだの温度を温度センサ7によって検出し、この検出結果を参照して温度制御装置8によりヒータ6に供給する電力を制御することによってはんだの温度を予め指示された温度に保つように制御している。他方で図6に例示するようにシーズヒータ22にはんだが触れることがなく、はんだ槽を介してはんだを加熱する方式は間接加熱方式と呼称されている。もちろん、図1の本発明の構成例でこの間接加熱方式を用いてもよい。
【0027】
図6(a)(b)は、はんだ槽に設けられる後述のポンプやチャンバ体や吹き口体等を省略して図示した図で、図1の横断面に相当する図である。通常使用されるシーズヒータはその横断面が円形であるが、この間接加熱に使用するシーズヒータの横断面は多角形(図6の例では三角形)に構成してある。この三角形のシーズヒータは、その製造工程におけるセージング工程(圧縮して延ばす工程)で成形して製造する。
【0028】
そして、取り付けに際してこの三角形のシーズヒータの面をはんだ槽の外壁面に面接触させることによって、シーズヒータで発生した熱エネルギーを効力良くはんだ槽に伝導させることが可能になり、はんだを加熱する際の電力効力を大幅に向上させることができるようになる。なお、図6(a)での例では、はんだ槽1の平坦な壁面にシーズヒータ22を面接触させて押さえ板23とねじ24とで固定する構成であるが、図6(b)のようにはんだ槽に溝部25を設けておいてこの溝部25に三角形のシーズヒータ22が嵌合するように面接触させて押さえ板22とねじ23とで固定する構成にしてもよい。
【0029】
本発明のALIP型フローはんだ付け装置を図1に基づいて上記の直接加熱方式を用いたはんだ槽の場合について説明する。
【0030】
この装置では、はんだ槽1の側壁2の推力パイプ取り付け孔3にALIP型電磁ポンプ30の推力パイプ32を溶接やねじ込みまたはその他の手段で設けてあり、この推力パイプ32内にその中心軸に反転流路37を設けたパイプ状の内部コア33を挿抜自在に挿入し、この内部コア33の反転流路37とチャンバ体9とが連繋して設けられている。なお、推力パイプ32をはんだ槽1に設ける位置は、図2(a)のように吹き口体の側部側であってもよいし、図2(b)のように吹き口体の前部側または後部側であってもよい。
【0031】
次に、本発明で用いられるALIP型電磁ポンプの構成について図1および図3を用いて説明する。
【0032】
推力パイプ32の外側には、内部コア33との間に移動磁界を発生させる外部コアと移動磁界発生用コイルとが一体に形成された駆動体31が回転可能かつ挿抜可能に設けられている。これにより、推力パイプ32と内部コア33との間に推力発生流路35が形成され、この流路から送出される溶融はんだは内部コア33の反転流路37を通ってチャンバ体9へ送給される。この構成のALIP型電磁ポンプを、流路反転型のアニュラリニア型(R−ALIP型:return through type annular linear induction pump)電磁ポンプと呼称する。
【0033】
そして、推力発生流路35から反転流路37へ溶融はんだの流れる方向が反転する位置の推力パイプ内には圧力室36を設けてあり、この圧力室36内には内部コアは無く圧力室外には外部コアや移動磁界発生用コイルも無い。そして、この圧力室36の縦断面における長さすなわち電磁ポンプの推力方向の長さは推力パイプ32の内径よりも長く構成する。これにより、圧力室36における溶融はんだの流速の平均値が推力発生流路35や反転流路37を流れる溶融はんだの流速の何れに対しても2倍以上遅くなり、溶融はんだの流動損失が低減される。圧力室36の縦断面における長さを推力パイプ32の内径よりも短く構成すると、圧力室36における流速の平均値がそれ程には遅くならないので、流動損失を低減する作用が期待できなくなる。
【0034】
また、チャンバ体9の電磁ポンプ30と連繋する位置には、溶融はんだの流れる方向を基準とした横断面積が急激に拡大する拡散室10を設けてあり、この拡散室10における溶融はんだの流速が電磁ポンプの反転流路37における溶融はんだの流速の1/10以下になるようにその大きさを決める。すなわち、拡散室10の横断面積を反転流路37の横断面積の10倍以上とすることによって、拡散室10の流速を反転流路37の流速の1/10以下とすることができる。後述するが、先の圧力室36とチャンバ体9の拡散室10とは流動キャパシタンスとして作用するものであり、この拡散室10における溶融はんだの流速の低下は数分の1以下でも良い作用が得られるが、これを1/10以下になるように決めることにより噴流波19の形状の安定性が、特にその波高の安定性が格段に良好となり、肉眼で確認できるような高域変動が皆無となる。
【0035】
このチャンバ体9は吊り下げ部12によりはんだ槽1の上端縁にねじ14で固定してあり、把手13により着脱容易に構成してある。すなわち、この把手13を把持してチャンバ体9を電磁ポンプ30の吐出口38に嵌合させ、その嵌合状態ではんだ槽1に固定している。そして、チャンバ体9には噴流波19を形成するための吹き口体16が設けてあり、スリーブ20を通したねじ21により溶融はんだ液面上において固定とその解除の作業が行えるように構成してある。すなわち、プリント配線板の種類によりはんだ付けに使用する噴流波の種類を変更することすなわち吹き口体16を交換することが行われているが、この交換作業を容易に行うことができるように考慮してある。そして、チャンバ体9内には溶融はんだの流れベクトルを揃える整流板15を設けてあり吹き口17の位置による噴流ベクトルを揃えるように構成してある。
【0036】
なお、ALIP型電磁ポンプ30は、外部コア31の形状を円柱状に形成することができるため、通常はその外観も円柱状である。また、その内部コア33も円柱状であり、該外部コア31と内部コア33との環状の空間すなわち流路に移動磁界を発生させ、この流路のはんだに推力を与えて移動させ、吐出力および吸い込み力を発生させる。
【0037】
次に、ALIP型電磁ポンプの駆動システムについて説明する。
【0038】
この流路反転型のアニュラリニア型(R−ALIP型)電磁ポンプ(以下反転式ALIP型電磁ポンプと呼称する)は、多相交流電源装置40(例えば、VVVF型3相インバータ電源装置)と接続され、多相交流電力を電磁ポンプの磁界発生用コイル31に供給する。
【0039】
なお、この多相交流電源装置40は、制御装置41との通信によりその出力電圧や周波数、電力等々が任意に調節され制御される構成である。そして、制御装置41はコンピュータシステムで構成され、キーボード等の指示操作部42とLCD等の表示部43とを備えていて、指示操作部42からの指示により前記多相交流電源装置40の作動を制御する。
【0040】
また、前記の温度制御装置8も制御装置41との通信によりヒータ6への供給電力や温度またPID等の制御特性が任意に調節され制御される構成である。
【0041】
ここで、はんだの融点ははんだの種類により異なり、従来から使用されて来た錫−鉛はんだ(例えば鉛37%で残部が錫)では約183℃、鉛フリーはんだの錫−亜鉛はんだ(例えば亜鉛9%で残部が錫)では約199℃、錫−銀−銅はんだ(例えば銀約3.5%,銅約0.7%,残部が錫)では約220℃、等々である。
【0042】
そのため、使用されるはんだの種類により被はんだ付けワークであるプリント配線板のはんだ付け実装に際して使用されるはんだの温度は異なるが、プリント配線板に搭載される電子部品の耐熱温度が考慮されるため、約220℃〜260℃程度の範囲で使用される例が最も多い。
【0043】
本発明のALIP型フローはんだ付け装置の有するその他の特徴について説明する。
【0044】
はんだ槽1には、FCD−400やFCD−500(JIS)等の鋳鉄を使用する。これにより電磁ポンプからの漏洩磁界は、その殆どを推力パイプ取り付け孔3においてはんだ槽1で捕捉してはんだ槽内すなわちはんだ内に漏洩することを阻止することができる。電磁ポンプの外部コア31から推力発生流路35を通り内部コア33に至った移動磁界の殆どは逆のルートを通り外部コア31に戻る。しかし、どうしても吸い込み口34や吐出口38となる電磁ポンプの端部においては漏洩磁界を生じ易いが、この漏洩磁界がはんだ内に漏洩することを阻止することができる。
【0045】
はんだ槽の部材として従来から使用されているステンレスは非磁性の部材であり、はんだも同様に非磁性の部材である(最大でも透磁率は数10程度以下)。これに対し、鋳鉄等の鉄部材の透磁率は、数1000〜10000程度であり、この100倍以上の相違によって、漏洩磁界は磁気抵抗の少ないはんだ槽に捕捉される。しかも、電磁ポンプの内部コアの透磁率と同等以上の透磁率を有する鉄部材によりはんだ槽を構成するので、漏洩磁界を確実に捕捉できる。
【0046】
なお、はんだ槽1すなわち鋳鉄の熱膨脹係数とはんだの熱膨脹係数とが大きく異なるために、溶融はんだが凝固した後にさらに常温まで冷却する過程でその凝固したはんだの大きさすなわち外形形状がはんだ槽よりも収縮する。そのため、はんだ槽1に設けられたチャンバ体9の吊り下げ部12には、図1に例示するような矢印A方向の極めて大きな力が作用し、逆にはんだを溶融させる際には矢印B方向の極めて大きな力が作用する。
【0047】
この矢印A方向の力と矢印B方向の力は、フローはんだ付け装置の運転開始(電源ON)と運転終了(電源OFF)とのたびにチャンバ体9とその吊り下げ部12や吹き口体16に加わることになり、ストレス要因となる。そこで、このストレス要因を開放するために、図7に例示するようにはんだ槽1に対して吊り下げ部12を摺動可能に設けるとよい。
【0048】
図7は、吊り下げ部12の固定構成例を説明する図で、図7(a)ははんだ槽1の上端縁を上方から見た図、図7(b)は(a)をI−I断面で見た図、である。すなわち、収縮/膨脹方向(矢印A/B方向)に長孔27を設け、樹脂製のカラ26等を介してねじ14により摺動可能に固定する構成である。長孔27は吊り下げ部12またははんだ槽1のいずれに設けてもよいが、図7の例では吊り下げ部12に設けている。なお、カラ26とねじ14あるいはカラ26と吊り下げ部12との間にスパイラルばねを介装したり、カラに代えてスパイラルばねを介装してもよい。ちなみに、図1の例では図の左側の吊り下げ部12に図7の構成を適用するとよいが、左右両側の吊り下げ部に適用してもよい。
【0049】
(2)作動
多相交流電源装置40から反転式ALIP型電磁ポンプ30に電力が供給されると推力発生流路35に移動磁界が発生し、溶融はんだには移動磁界の移動方向へ推力が与えられる。そのため、吸い込み口34から溶融はんだが吸い込まれ、推力発生流路35を経て推力パイプ32の圧力室36へ送給される。この圧力室36で流速が低減された溶融はんだは、推力発生流路35で得た運動エネルギーを圧力エネルギーに変換した後に反転流路37へ送給される。続いて反転流路37の出口すなわち吐出口38からチャンバ体9へ溶融はんだが送給され、チャンバ体9の拡散室10で流速が急速に低減された溶融はんだは整流板15が流速のベクトルを揃えた後に吹き口体16の吹き口17から噴流して噴流波19を形成し、続いて案内板18を流下してはんだ槽1内に還流する。
【0050】
反転式ALIP型電磁ポンプにおいて、推力方向を基準とする横断面における長さよりも縦断面の長さが長い推力発生流路や反転流路は、送給される溶融はんだから見て流動インダクタンスとして作用し、送給流速が急激に低下する推力パイプの圧力室やチャンバ体の拡散室は流動キャパシタンスとして作用する。そのため、これを等価な電気回路で描くと図4のように描くことができる。
【0051】
すなわち、推力発生流路35と反転流路37はインダクタンスとして表現され、推力パイプの圧力室36とチャンバ体の拡散室10とはキャパシタンスとして表現される。そして、推力が電源であり吹き口体16が負荷として表現できる。なお、推力は推力発生流路において一様に分布する分布定数として表現するべきであるが、図4ではこれを等価な集中定数として表現している。
【0052】
図4に示される回路は低域通過フィルタの回路でありそれは高域除去フィルタである。流速や圧力の変動周期が短い成分は推力発生流路35と反転流路37で阻止されつつ圧力室36と拡散室10で吸収され、吹き口体16には高域変動が除去された噴流波19が形成される。そして、特に波高の高域変動が除去される。
【0053】
高域変動が除去された噴流波でプリント配線板に溶融はんだを供給すると、このプリント配線板に多数存在する各被はんだ付け部に短時間的に一様なパラメータで溶融はんだが供給されるようになり、プリント配線板のどの位置(領域)においても一様なはんだ付け品質を得ることができるようになる。すなわち、隣り合う複数の被はんだ付け部において同じ濡れ性で同じフィレット形状のはんだ付けを行うことができるようになる。
【0054】
これにより、プリント配線板上の位置(領域)によってはんだ付け品質が低下する部分が個々のプリント配線板ごとに変化するということが無くなり、高いはんだ付け品質を安定に維持することができるようになる。
【0055】
ところで、はんだ槽内の清掃作業を行うためにはんだ槽内から溶融はんだを抜き去ることが行われている。この作業は、はんだ槽の槽底に設けられたドレン弁から行うことが通常である。他方で、特許文献1においては、電磁ポンプの推力パイプ下端部にドレン弁を設けてはんだ槽内の溶融はんだを抜き去るように構成されている。これは、はんだ槽内から溶融はんだを抜き去っても、電磁ポンプの推力パイプ内に溶融はんだが残ってしまうからである。
【0056】
しかし、特許文献1のように溶融はんだの流れ方向が反転する部分にドレン弁を設けると、すなわち電磁ポンプの推力パイプの下端部にドレン弁を設けると、この下端部の形状がドレン弁による段部を有する不連続な形状になるために、溶融はんだの吐出力を減衰させたり吐出力に微細な変動を与えたりする問題がある。
【0057】
本発明のフローはんだ付け装置の構成では、はんだ槽1に設けたドレン弁4を開放すれば、反転式ALIP型電磁ポンプの推力パイプ32内の溶融はんだがその吸い込み口34や吐出口38から流出するため、推力パイプ32にドレン弁を設ける必要がない。したがって、この点からも特許文献1の技術のように吐出力を減衰させたり吐出力に微細な変動を与えたりすることがなくなる。
【0058】
なお、吹き口体16内やチャンバ体9内の溶融はんだも反転式ALIP型電磁ポンプ30を通して流出する。また、それらを一体にしてはんだ槽から取り外すことにより流出させることもできる。さらに、チャンバ体9に微細な孔11を設けておけばその孔から流出させることもできる。
【0059】
(3)はんだ付けシステムの構成例
図5は、図2(b)に例示するALIP型フローはんだ付け装置を使用してはんだ付けシステムを構成した例を説明する図で、はんだ付けシステムを上方から見た図である。なお、図を見やすくするために搬送コンベアは平行する一点鎖線で表している。
【0060】
すなわち、搬送コンベア52により搬送されるプリント配線板56を、予備加熱装置50のパネルヒータ53から放射される赤外線と熱風吹き出し口54から吹き出す熱風とにより予備加熱を行い、続いてフローはんだ付け装置51で溶融はんだの噴流波からその被はんだ付け部に溶融はんだを供給してはんだ付けを行い、その後に冷風供給装置55で冷却してはんだ付け強度等が増すように構成されている。
【0061】
この例では、プリント配線板56の搬送方向を基準とするはんだ槽の前端側に設けられた反転式ALIP型電磁ポンプ30が、予備加熱装置50とフローはんだ付け装置51との隙間に位置するように設けてある。これは、予備加熱されたプリント配線板の温度が噴流波に接触する前に低下することがないように、電磁ポンプにより発生する熱対流をプリント配線板に供給するように位置させた例である。電磁ポンプの温度は溶融はんだの温度よりも高くなり、一般的に100〜150℃程度高くなるので、この排熱を予備加熱に利用するように構成している。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明に係るALIP型フローはんだ付け装置は、電子部品をプリント配線板にはんだ付け実装する際に使用される。本発明により、大型平面テレビ等において採用が著しい大型のプリント配線板のフローはんだ付けに際して、その各部のはんだ付け品質が高くかつ均一なプリント配線板を製造することができるようになり、高信頼性の電子装置を供給できるようにすることによって電機産業に対する貢献は著しいものになる。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明のALIP型フローはんだ付け装置全体の構成を説明する図
【図2】本発明のALIP型フローはんだ付け装置の斜視図
【図3】本発明に用いられる反転式ALIP型電磁ポンプの分解斜視図
【図4】はんだの流れを電気回路で描いた等価回路図
【図5】本発明のALIP型フローはんだ付け装置を用いたはんだ付けシステムの構成を説明する図
【図6】はんだの加熱方法を説明する図
【図7】吊り下げ部の固定構成を説明する図
【符号の説明】
【0064】
1 はんだ槽
2 側壁
3 推力パイプ取り付け孔
4 ドレン弁
5 はんだ
6 ヒータ
7 温度センサ
8 温度制御装置
9 チャンバ体
10 拡散室
11 孔
12 吊り下げ部
13 把手
14 ねじ
15 整流板
16 吹き口体
17 吹き口
18 案内板
19 噴流波
20 スリーブ
21 ねじ
22 シーズヒータ
23 押さえ板
24 ねじ
25 溝部
26 カラ
27 長孔
30 反転式ALIP型電磁ポンプ
31 外部コアおよび移動磁界発生用コイル
32 推力パイプ
33 内部コア
34 吸い込み口
35 推力発生流路
36 圧力室
37 反転流路
38 吐出口
40 多相交流電源装置
41 制御装置
42 指示操作部
43 表示部
50 予備加熱装置
51 フローはんだ付け装置
52 搬送コンベア
53 パネルヒータ
54 熱風吹き出し口
55 冷風供給装置
56 プリント配線板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アニュラリニア型(ALIP型)電磁ポンプをはんだ槽の槽壁に設けたフローはんだ付け装置において、
前記アニュラリニア型(ALIP型)電磁ポンプが、その推力パイプの一端を封止してキャップ形状にすると供にこの推力パイプの内側に挿入される内部コアの軸芯に沿って反転流路を設けることで前記推力パイプと前記内部コアとの間に推力発生流路を形成し、この推力発生流路と前記反転流路とで送給流路を形成した流路反転型のアニュラリニア型(R−ALIP型)電磁ポンプとして構成され、その推力パイプがはんだ槽の側壁に設けられると供に外部コアおよび移動磁界発生用コイルが前記推力パイプの外側に環装して設けられ、
前記推力パイプには前記推力発生流路から前記反転流路へ送給流路が反転推移する位置に前記外部コアおよび移動磁界発生用コイルが設けられていない領域でかつ前記推力パイプ内に前記内部コアを設けられていない領域を設けて前記推力発生流路における送給流速および前記反転流路の送給流速よりも送給流速が低下する圧力室を形成し、
前記反転流路が形成された内部コアの吐出口に吐出流速を急激に低下させる拡散室を備えたチャンバ体が連繋して設けられ、さらに前記チャンバ体には溶融はんだの噴流波を形成する吹き口体が設けられ、
前記推力発生流路と前記圧力室と前記反転流路と前記拡散室とにより溶融はんだの流速の微細な変動のうちの繰り返し周期の短い変動を吸収する高域変動除去フィルタを形成して成ること、
を特徴とするALIP型フローはんだ付け装置。
【請求項2】
電磁ポンプ内の送給方向を基準とした推力パイプの縦断面における圧力室の長さが推力パイプの内径よりも長くかつチャンバ体の拡散室における溶融はんだの流速が反転流路における流速の1/10以下に減速する横断面積に設けられて成ること、
を特徴とする請求項1記載のALIP型フローはんだ付け装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−30072(P2008−30072A)
【公開日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−204393(P2006−204393)
【出願日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【出願人】(000232450)日本電熱計器株式会社 (25)
【Fターム(参考)】