ATカット水晶振動子およびその製造方法
【課題】
逆メサ型ATカット水晶振動子の支持による振動エネルギ漏洩を回避し、支持によるQ値の劣化を防止する
【解決手段】
支持端部における高調波厚み滑り振動の周波数と励振部の厚み滑り振動の周波数を一致させない条件下で、励振部の厚み寸法hと支持端部の厚み寸法Hを選定すれば、逆メサ型ATカット水晶振動子における支持端部と逆メサ励振部の共鳴現象が生じない。それゆえ支持固定による振動エネルギ漏洩が、抑制されるのでQ値の劣化が防止できる。
逆メサ型ATカット水晶振動子の支持による振動エネルギ漏洩を回避し、支持によるQ値の劣化を防止する
【解決手段】
支持端部における高調波厚み滑り振動の周波数と励振部の厚み滑り振動の周波数を一致させない条件下で、励振部の厚み寸法hと支持端部の厚み寸法Hを選定すれば、逆メサ型ATカット水晶振動子における支持端部と逆メサ励振部の共鳴現象が生じない。それゆえ支持固定による振動エネルギ漏洩が、抑制されるのでQ値の劣化が防止できる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、携帯電話などに使用されるATカット水晶振動子およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話等に代表される無線携帯機器や、パーソナルコンピュータ、時計等の電子機器の小型化と高精度化の要求が高まっている中で、このような電子機器には、小型でしかも安定な高周波信号源が必要不可欠である。この要求を満足させるための代表的な高周波信号源がATカット水晶振動子である。
ATカット水晶振動子は、良好な結晶の安定性から、発振素子としての品質の指標である共振先鋭度すなわちQ値が極めて大きく、さらにその共振周波数の温度安定度すなわち周波数温度特性も非常に良好である。これが、無線携帯機器、パーソナルコンピュータ等の安定な高周波信号源として、広くATカット水晶振動子が利用されている理由である。しかししかし、特許文献1にて開示されているように、このATカット水晶振動子は、近年の強い高周波及び小型化対応の要求に関しては、十分に満足させることができないことも明らかになってきている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−97046
【発明の概要】
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
図5は矩形状ATカット水晶振動子の角度方位と形状概要を説明する概念図である。図5記載の三本の座標軸、すなわちX軸、Y軸、及びZ軸は水晶単結晶の基本対称軸である。またATカット水晶振動子501は、X軸を回転軸として反時計回りにカット角θだけ回転させた回転座標系すなわち、XY’Z’座標系において定義された水晶薄板であある。前記水晶薄板の厚み方向はY’軸方向、長辺方向はX軸、短辺方向はZ’軸方向である。前記ATカット水晶振動子の表裏面中心部には一対の励振電極502が配置されており、この一対の励振電極502により、厚み方向に励振電界が印加される構成となっている。通常、図5記載のカット角θは、35度から36度の範囲に設定されており、このθの範囲内で、誘発する厚みすべり振動の共振周波数の周波数温度特性は、非常に良好である事が知られている。
図6は、図5記載のATカット水晶振動子の厚みすべり振動の共振変位を説明する概念図であり、図5記載のATカット水晶振動子501のXY’側面図である。図中のx軸、y軸は、ATカット水晶振動子501の重心点を座標原点601とした座標軸である。さらにこのATカット水晶振動子501の厚み方向寸法はtである。このx軸、y軸はそれぞれ、図5記載のY’軸、X軸と平行な座標軸である。本発明に係る厚みすべり振動の共振変位が本図記載の共振変位602である。この共振変位602は、y軸方向で正弦波的な変位分布をもっており、ATカット水晶振動子の表面で最大変位を持つ。この共振変位602はZ’軸方向では変位量の変化はない。この共振変位602の変位式Uは、近似的に次式で与えられる。
【0006】
【数1】
【0007】
ここで、Aは図6記載の励振電極502に印加される電圧振幅とATカット水晶振動子501の持つ圧電性によって決定される振動振幅である。また、nは正の奇数整数であって、
【0008】
【数2】
【0009】
で与えられている。この数字は高調波次数であって、この数字の値によって、振動モードの次数が決定される。図6記載の共振変位は、n=1に対応しており、基本波振動である。n=3においては、その共振変位は三次高調波振動となり、その共振変位は図7記載の共振変位701となる。さらにn=5においては、その共振変位は五次高調波振動となり、その共振変位は図8記載の共振変位801となる。また、このATカット水晶振動子の共振周波数Fは、ほぼ厚みtに反比例し、次式で与えられている。
【0010】
【数3】
【0011】
ここで、nは数1及び数2記載の正の奇数整数で与えられるオーバートーン次数である。
近年、高周波及び小型化対応が強く要求されているATカット水晶振動子においては、従来の機械加工法にかわって、音叉型水晶振動子と同じ、一枚の大型ウェハからフォトリソ加工を用いて振動子形状を加工する、フォトエッチング型のATカット水晶振動子が注目されている。フォトリソ加工は、従来の機械加工に比較して、微細かつ複雑な形状の高精度加工が実現でき、さらに一枚のウェハから大量に生産できるという大きな特徴をもっており、小型電子デバイスの製造には非常に有効な加工方法である。ところが本発明に係る高周波領域のATカット水晶振動子においては、数3にて示したように、その周波数が厚みによって決定されるという特徴があるので、振動部の厚みが非常に薄くなってしまい、大型ウェハとしてバッチ処理を行う場合、そのハンドリングに大きな問題が生じていた。この問題を解決する方策として、近年注目されているATカット形状として、逆メサ型構造が提案されている。
【0012】
図9はこの逆メサ型ATカット水晶振動子のATカット水晶振動子901の構造を示した斜視図である。ATカット水晶振動子901の表面には、凹状形状をした逆メサ振動部902が形成されている。この逆メサ振動部902の表面と図示しないがATカット水晶振動子901の裏面には一対の励振電極903が形成されている。さらに凹状形状をした逆メサ振動部902の外周部にはマウント電極904とマウント電極905が前記の励振電極903と一体同時形成されている。
図10は図9記載のATカット水晶振動子901のX1−X2断面図である。厚みhなる逆メサ振動部902において、励振電極903によって励振される厚み滑り振動の共振変位が、図記載の共振変位1001であって、この共振変位は、数3におけるn=1に対応しており、基本波振動である。さらに、その共振周波数Fは、逆メサ振動部902の厚みhと数3を用いて、
【0013】
【数4】
【0014】
とかける。さらにその変位式Uは、座標原点1004を逆メサ振動部902の重心位置とし、座標軸x及びyを図6と同じ定義とし、数2と同様に、
【0015】
【数5】
【0016】
と書ける。また図9記載のマウント電極904とマウント電極905が形成されている端部が支持端部1002であり、この支持端部1002に対向する端部が対向端部1003である。この支持端部1002及び対向端部1003の厚み寸法は、両者同じくHである。通常、この支持端部1002でATカット水晶振動子901が支持固定される。
この逆メサ型ATカット水晶振動子は、励振部が逆メサ部に形成されており、この励振部の周囲は、逆メサ部よりも厚くなるので、大型ウェハとしてバッチ処理を行う場合、そのハンドリングに対する問題がなく、高周波帯及び超小型のATカット水晶振動子として、非常に注目されている。しかし、ATカット水晶振動子901を支持端部1002にて支持固定すると、その等価抵抗値Rmが大きく増加してしまい、その結果として、ATカット水晶振動子の大きな特徴である高い共振先鋭度すなわち高Q値が、実現できないという不具合が生じている。この現象は支持による振動エネルギの漏洩現象である。それゆえ逆メサ型ATカット水晶振動子の小型化が実現できていない。すなわち、本発明の解決すべき課題は、逆メサ型ATカット水晶振動子において、支持による振動エネルギ漏洩が回避する事である。
【課題を解決するための手段】
【0017】
図11は図10記載の支持端部1002近傍のX1−X2断面図であって、支持による振動エネルギ漏洩を説明するための図である。本発明に係る逆メサ型ATカット振動子の支持端部1002の厚み寸法Hは、逆メサ振動部902の厚み寸法hに比較して、大きな値となっている。それゆえ、励振モードが基本波振動の場合、その共振周波数は支持端部1002の持つ共振周波数よりも高い周波数である。それゆえ、逆メサ励振部902にて励起された基本波振動は、支持端部と共鳴せず減衰する。ところが、図11記載のように支持端部1002の厚み寸法Hと、逆メサ励振部902の厚み寸法hが
【0018】
【数6】
【0019】
なる関係にあると、数1から数6で説明できるように、支持端部1002のもつ厚みすべり振動の三次高調波振動と逆メサ励振部902の基本波振動の周波数が一致してしまい、逆メサ励振部902の基本振動によって、支持端部1002が共鳴振動を起こしてしまう。この共鳴現象を説明する図が図11であって、逆メサ励振部902にて励起された共振変位が共振変位1001であり、この共振変位1001にて支持端部1002にて発生した三次高調波の共鳴共振変位が共鳴共振変位1101である。本図の如く支持端部1002が共鳴振動を生じると、支持固定による振動エネルギ漏洩が非常に大きくなり、前述の如くQ値の劣化を招いてしまうのである。本図は支持端部の三次高調波振動との共鳴の場合を図示したものであるが、一般に支持端部1002の厚み寸法Hと、逆メサ励振部902の厚み寸法hが
【0020】
【数7】
【0021】
なる関係がある場合、支持端部1002のm次高調波との共鳴が生じる事は自明である。ここで、mは数2と同様に、正の奇数であって、
【0022】
【数8】
【0023】
となる。以上が、本発明に係る逆メサ型ATカット水晶振動子における振動エネルギ漏洩現象の説明である。
この、逆メサ型ATカット水晶振動子における支持端部と逆メサ励振部の共鳴現象を抑制する為には、逆メサ励振部の厚み滑り振動の周波数が支持端部における高調波厚み滑り振動の周波数と一致しない範囲にある事が必要である。すなわち、pを1以上の任意の正整数として、以下の不等式が成立するように逆メサ励振部の厚み寸法hと支持端部の厚み寸法Hを選定すればよい。
【0024】
【数9】
【0025】
実際の逆メサ型ATカット水晶振動子おける、逆メサ励振部の厚み滑り振動の周波数は、形成されるべき励振電極の形状、厚み、材質等で変化する事が知られている。また、同様に支持端部における高調波厚み滑り振動の周波数も、形成されるべきマウント電極の形状、厚み、材質等で変化する。それゆえ、より一般的にはpを1以上の任意の正整数として、逆メサ励振部の厚み滑り振動の実測周波数をF0、支持端部における第2p−1次高調波の実測周波数をF2p−1、第2p+1次高調波の実測周波数をF2p+1とすれば、
【0026】
【数10】
【0027】
なる条件で、逆メサ励振部の厚み寸法hと支持端部の厚み寸法Hを選定すればよいのである。
【0028】
図12は、逆メサ型ATカット水晶振動子の支持固定後のQ値とH/hとの関係を図示した特性図である。横軸は逆メサ励振部の厚み寸法hと支持端部の厚み寸法Hの比H/hであり、縦軸は支持固定後のQ値である。Q値のH/h依存性を示す特性曲線が特性曲線1201である。この特性曲線1201から、H/hが奇数近傍においてQ値は極小値、H/hが偶数近傍においてQ値は極大値とる事が判明する。この現象は、先に説明した逆メサ励振部の厚み滑り振動と支持端部における高調波厚み滑り振動の周期的な共鳴共振現象で説明できる。また、H/hが増加するに従って、Q値の極小値と極大値の差は小さくなり、Q値の変化量は小さくなっている事も判明する。この現象は、支持端部における高調波厚み滑り振動が持っているQ値が、高調波次数が高くなるにつれて減少し、逆メサ励振部の厚み滑り振動と共鳴共振を起こし難くなる事で説明できる。しかし、大きなH/hの値を設定する事は、図10記載の逆メサ振動部902を深く加工する必要があり、プロセス上好ましくない。現実的プロセス上、H/hは10以下が望ましい。H/hは10以下の領域でも、その値が偶数値近傍では、Q値は極めて安定している。この安定な領域が、本図記載の安定領域1202であり、この安定領域1202は、H/hが任意の偶数値を中心値として、ほぼ±0.5の範囲と規定できる。すなわち、本図記載の特性曲線1201より、pを1以上、10以下の任意正整数として、
【0029】
【数11】
【0030】
の範囲内にH/hを設定すれば、現実的なプロセスにおいても支持による振動エネルギ漏洩が回避できるのである。
【発明の効果】
【0031】
以上の説明から、支持端部における高調波厚み滑り振動の周波数と逆メサ励振部の厚み滑り振動の周波数を一致させない条件下で、逆メサ励振部の厚み寸法hと支持端部の厚み寸法Hを選定すれば、逆メサ型ATカット水晶振動子における支持端部と逆メサ励振部の共鳴現象が生じない。それゆえ支持固定による振動エネルギ漏洩が抑制されるのでQ値の劣化が防止でき、その結果、超小型及び高周波の逆メサ型ATカット水晶振動子が実現できるのである。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】:本発明に係る逆メサ型ATカット水晶振動子の実施例1を示すためのX1−X2断面図
【図2】:本発明に係る逆メサ型ATカット水晶振動子の実施例2を示すためのX1−X2断面図
【図3】:本発明に係る逆メサ型ATカット水晶振動子の実施例3を示すためのX1−X2断面図
【図4】:本発明に係る逆メサ型ATカット水晶振動子の実施例4を示すためのX1−X2断面図
【図5】:矩形状ATカット水晶振動子の角度方位と形状概要を説明する概念図
【図6】:図5記載のATカット水晶振動子の厚みすべり振動の共振変位を 説明する概念図
【図7】:三次高調波振動に対応する共振変位の概念図
【図8】:五次高調波振動に対応する共振変位の概念図
【図9】:逆メサ型ATカット水晶振動子の構造を示した斜視図
【図10】:図9記載の逆メサ型ATカット水晶振動子のX1−X2断面図である
【図11】:図10記載の支持端部近傍のX1−X2断面図
【図12】:逆メサ型ATカット水晶振動子の支持固定後のQ値とH/hとの関係を図示した特性図
【発明を実施するための形態】
【0033】
発明を実施するための形態として、以下の4つの実施例を元にして説明を行なう。
【実施例1】
【0034】
図1は、本発明に係る逆メサ型ATカット水晶振動子の実施例1を示すためのATカット水晶振動子101のX1−X2断面図であって、逆メサ振動部102の厚み寸法はhである。また、カット方位は、その座標原点107を逆メサ振動部102の重心位置とし、座標軸x及び座標軸yを図6と同じ定義としている。この逆メサ振動部102は、ATカット水晶振動子101の片側表面のみから、エッチング加工などによって形成されている。この逆メサ面には、励振電極103、さらにこの励振電極103と対向するATカット水晶振動子101の裏面位置に励振電極104が形成されている。このATカット水晶振動子101の支持端部105及び対向端部106の厚み寸法は1である。これら支持端部105及び対向端部106の厚み寸法Hは、一枚の水晶ウェハからウェットエッチング等の加工を用いて、ATカット水晶振動子101をバッチ処理にて形成する場合は、この水晶ウェハの厚み寸法に等しい。この支持端部105の厚み寸法Hは、逆メサ振動部102の厚み寸法h、逆メサ振動部102の加工深さ寸法H−h及びpを1以上、10以下の任意正整数として、数11を用いて、以下の数式を満足する範囲内に設定されている。
【0035】
【数12】
【0036】
この数12を満足するように、支持端部105の厚み寸法、言い換えれば、逆メサ加工前の水晶ウェハの厚みを選定する事で、逆メサ型ATカット水晶振動子における支持端部と逆メサ励振部の共鳴現象が生じない。それゆえ支持固定による振動エネルギ漏洩が抑制されるのでQ値の劣化が防止でき、その結果、超小型及び高周波の逆メサ型ATカット水晶振動子が実現できるのである。
【実施例2】
【0037】
図2は、本発明に係る逆メサ型ATカット水晶振動子の実施例2を示すためのATカット水晶振動子201のX1−X2断面図であって、ATカット水晶振動子201の片面より、エッチング加工等の方法によって、厚み寸法hなる逆メサ振動部203を形成したATカット水晶振動子である。本図において、ATカット水晶振動子201の片面より逆メサ加工を施した加工部が片面逆メサ加工部片面逆メサ加工部202である。さらに、逆メサ振動部203と支持端部204及び対向端部205を連結するための連結部206が、逆メサ加工が施された後、新たにエッチング加工等によって形成されている。この連結部206の厚み寸法は、逆メサ振動部203の厚み寸法hよりも小さい値である事は自明である。また、カット方位は、その座標原点207を逆メサ振動部203の重心位置とし、座標軸x及び座標軸yを図6と同じ定義としている。+y軸側の逆メサ振動部203の表面には励振電極208が、−軸側の逆メサ振動部203の表面には励振電極209が形成されている。このATカット水晶振動子201の支持端部204及び対向端部205の厚み寸法はHである。これら支持端部204及び対向端部205の厚み寸法Hは、一枚の水晶ウェハからウェットエッチング等の加工にて、ATカット水晶振動子201をバッチ処理して形成する場合は、この水晶ウェハの厚み寸法に等しい。
この支持端部205の厚み寸法Hは、逆メサ振動部203の厚み寸法h、片面逆メサ加工部202の加工深さ寸法H―h及びpを1以上、10以下の任意正整数として、図1記載のATカット水晶振動子101と同様、数12を満足する範囲内に設定されている。支持端部204の厚み寸法、言い換えれば、逆メサ加工前の水晶ウェハの厚みを選定する事で、逆メサ型ATカット水晶振動子における支持端部と逆メサ励振部の共鳴現象が生じない。それゆえ支持固定による振動エネルギ漏洩が抑制されるのでQ値の劣化が防止でき、その結果、超小型及び高周波の逆メサ型ATカット水晶振動子が実現できるのである。
【実施例3】
【0038】
図3は、本発明に係る逆メサ型ATカット水晶振動子の実施例3を示すためのATカット水晶振動子301のX1−X2断面図であって、ATカット水晶振動子301の表裏面より、エッチング加工等の方法によって、逆メサ加工を施して逆メサ振動部304を形成した逆メサ型ATカット水晶振動子である。本図において、ATカット水晶振動子301の表面より逆メサ加工を施した加工部が表面逆メサ加工部302であり、その加工深さ寸法はΔ1、裏面より逆メサ加工を施した加工部が、裏面逆メサ加工部303であって、その加工深さ寸法はΔ2である。また、逆メサ振動部304の厚み寸法はhである。また、カット方位は、その座標原点309を逆メサ振動部304の重心位置とし、座標軸x及び座標軸yを図6と同じ定義としている。逆メサ振動部304の表裏面には、励振電極305と励振電極306が形成されている。
このATカット水晶振動子301の支持端部307及び対向端部308の厚み寸法はHである。これら支持端部307及び対向端部308の厚み寸法Hは、一枚の水晶ウェハからウェットエッチング等の加工にて、ATカット水晶振動子301をバッチ処理して形成する場合は、この水晶ウェハの厚み寸法に等しい。
この支持端部307の厚み寸法Hは、逆メサ振動部304の厚み寸法h、表面逆メサ加工部302の加工深さ寸法Δ1、裏面逆メサ加工部303の加工深さ寸法Δ2及びpを1以上、10以下の任意正整数として、数11を用いて、以下の数式を満足する範囲内に設定されている。
【0039】
【数13】
【0040】
この数13を満足するように、支持端部307の厚み寸法、言い換えれば、逆メサ加工前の水晶ウェハの厚みを選定する事で、逆メサ型ATカット水晶振動子における支持端部と逆メサ励振部の共鳴現象が生じない。それゆえ支持固定による振動エネルギ漏洩が抑制されるのでQ値の劣化が防止でき、その結果、超小型及び高周波の逆メサ型ATカット水晶振動子が実現できるのである。
【実施例4】
【0041】
図4は、本発明に係る逆メサ型ATカット水晶振動子の実施例4を示すためのATカット水晶振動子401のX1−X2断面図であって、ATカット水晶振動子401の表裏面より、エッチング加工等の方法によって、逆メサ振動部404を形成した逆メサ型ATカット水晶振動子である。本図において、ATカット水晶振動子401の表面より逆メサ加工を施した加工部が表面逆メサ加工部402であり、その加工深さ寸法はΔ1、裏面より逆メサ加工を施した加工部が、裏面逆メサ加工部403であって、その加工深さ寸法はΔ2である。この表裏面の逆メサ加工によって、形成されて逆メサ振動部404の厚み寸法はhである。さらに、逆メサ振動部404と支持端部405及び対向端部406を連結するための連結部407が、加工深さ寸法Δ1と加工工深さ寸法Δ2なる逆メサ加工が施された後、新たにエッチング加工等によって形成されている。この連結部407の厚み寸法は、逆メサ振動部404の厚み寸法hよりも小さい値である事は自明である。また、カット方位は、その座標原点408を逆メサ振動部404の重心位置とし、座標軸x及び座標軸yを図6と同じ定義としている。逆メサ振動部404の表裏面には、励振電極409(+y軸側)と励振電極410(−y軸側)が形成されている。このATカット水晶振動子401の支持端部405及び対向端部406の厚み寸法はHである。これら支持端部405及び対向端部406の厚み寸法Hは、一枚の水晶ウェハからウェットエッチング等の加工にて、ATカット水晶振動子401をバッチ処理して形成する場合は、この水晶ウェハの厚み寸法に等しい。
この支持端部405の厚み寸法Hは、逆メサ振動部404の厚み寸法h、表面逆メサ加工部402の加工深さ寸法Δ1、裏面逆メサ加工部403の加工深さ寸法Δ2及びpを1以上、10以下の任意正整数として、図3記載のATカット水晶振動子301と同様、数13を満足する範囲内に設定されている。支持端部405の厚み寸法、言い換えれば、逆メサ加工前の水晶ウェハの厚みを選定する事で、逆メサ型ATカット水晶振動子における支持端部と逆メサ励振部の共鳴現象が生じない。それゆえ支持固定による振動エネルギ漏洩が抑制されるのでQ値の劣化が防止でき、その結果、超小型及び高周波の逆メサ型ATカット水晶振動子が実現できるのである。
【符号の説明】
【0042】
101,201,301,401,501,901:ATカット水晶振動子
102,203,304,404,902:逆メサ振動部
103,104,207,208,305,306,409,410,502,903:励振電極
105,204,307,405,1002:支持端部
106,205,308,406,1003:対向端部
107,207,309,601,1004:座標原点
202:片面逆メサ加工部
203:振動部
206,407:連結部
302,402:表面逆メサ加工部
303,403:裏面逆メサ加工部
602,701,801,1001:共振変位
904,905:マウント電極
1101:共鳴共振変位
1201:特性曲線
1202:安定領域
【技術分野】
【0001】
本発明は、携帯電話などに使用されるATカット水晶振動子およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話等に代表される無線携帯機器や、パーソナルコンピュータ、時計等の電子機器の小型化と高精度化の要求が高まっている中で、このような電子機器には、小型でしかも安定な高周波信号源が必要不可欠である。この要求を満足させるための代表的な高周波信号源がATカット水晶振動子である。
ATカット水晶振動子は、良好な結晶の安定性から、発振素子としての品質の指標である共振先鋭度すなわちQ値が極めて大きく、さらにその共振周波数の温度安定度すなわち周波数温度特性も非常に良好である。これが、無線携帯機器、パーソナルコンピュータ等の安定な高周波信号源として、広くATカット水晶振動子が利用されている理由である。しかししかし、特許文献1にて開示されているように、このATカット水晶振動子は、近年の強い高周波及び小型化対応の要求に関しては、十分に満足させることができないことも明らかになってきている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−97046
【発明の概要】
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
図5は矩形状ATカット水晶振動子の角度方位と形状概要を説明する概念図である。図5記載の三本の座標軸、すなわちX軸、Y軸、及びZ軸は水晶単結晶の基本対称軸である。またATカット水晶振動子501は、X軸を回転軸として反時計回りにカット角θだけ回転させた回転座標系すなわち、XY’Z’座標系において定義された水晶薄板であある。前記水晶薄板の厚み方向はY’軸方向、長辺方向はX軸、短辺方向はZ’軸方向である。前記ATカット水晶振動子の表裏面中心部には一対の励振電極502が配置されており、この一対の励振電極502により、厚み方向に励振電界が印加される構成となっている。通常、図5記載のカット角θは、35度から36度の範囲に設定されており、このθの範囲内で、誘発する厚みすべり振動の共振周波数の周波数温度特性は、非常に良好である事が知られている。
図6は、図5記載のATカット水晶振動子の厚みすべり振動の共振変位を説明する概念図であり、図5記載のATカット水晶振動子501のXY’側面図である。図中のx軸、y軸は、ATカット水晶振動子501の重心点を座標原点601とした座標軸である。さらにこのATカット水晶振動子501の厚み方向寸法はtである。このx軸、y軸はそれぞれ、図5記載のY’軸、X軸と平行な座標軸である。本発明に係る厚みすべり振動の共振変位が本図記載の共振変位602である。この共振変位602は、y軸方向で正弦波的な変位分布をもっており、ATカット水晶振動子の表面で最大変位を持つ。この共振変位602はZ’軸方向では変位量の変化はない。この共振変位602の変位式Uは、近似的に次式で与えられる。
【0006】
【数1】
【0007】
ここで、Aは図6記載の励振電極502に印加される電圧振幅とATカット水晶振動子501の持つ圧電性によって決定される振動振幅である。また、nは正の奇数整数であって、
【0008】
【数2】
【0009】
で与えられている。この数字は高調波次数であって、この数字の値によって、振動モードの次数が決定される。図6記載の共振変位は、n=1に対応しており、基本波振動である。n=3においては、その共振変位は三次高調波振動となり、その共振変位は図7記載の共振変位701となる。さらにn=5においては、その共振変位は五次高調波振動となり、その共振変位は図8記載の共振変位801となる。また、このATカット水晶振動子の共振周波数Fは、ほぼ厚みtに反比例し、次式で与えられている。
【0010】
【数3】
【0011】
ここで、nは数1及び数2記載の正の奇数整数で与えられるオーバートーン次数である。
近年、高周波及び小型化対応が強く要求されているATカット水晶振動子においては、従来の機械加工法にかわって、音叉型水晶振動子と同じ、一枚の大型ウェハからフォトリソ加工を用いて振動子形状を加工する、フォトエッチング型のATカット水晶振動子が注目されている。フォトリソ加工は、従来の機械加工に比較して、微細かつ複雑な形状の高精度加工が実現でき、さらに一枚のウェハから大量に生産できるという大きな特徴をもっており、小型電子デバイスの製造には非常に有効な加工方法である。ところが本発明に係る高周波領域のATカット水晶振動子においては、数3にて示したように、その周波数が厚みによって決定されるという特徴があるので、振動部の厚みが非常に薄くなってしまい、大型ウェハとしてバッチ処理を行う場合、そのハンドリングに大きな問題が生じていた。この問題を解決する方策として、近年注目されているATカット形状として、逆メサ型構造が提案されている。
【0012】
図9はこの逆メサ型ATカット水晶振動子のATカット水晶振動子901の構造を示した斜視図である。ATカット水晶振動子901の表面には、凹状形状をした逆メサ振動部902が形成されている。この逆メサ振動部902の表面と図示しないがATカット水晶振動子901の裏面には一対の励振電極903が形成されている。さらに凹状形状をした逆メサ振動部902の外周部にはマウント電極904とマウント電極905が前記の励振電極903と一体同時形成されている。
図10は図9記載のATカット水晶振動子901のX1−X2断面図である。厚みhなる逆メサ振動部902において、励振電極903によって励振される厚み滑り振動の共振変位が、図記載の共振変位1001であって、この共振変位は、数3におけるn=1に対応しており、基本波振動である。さらに、その共振周波数Fは、逆メサ振動部902の厚みhと数3を用いて、
【0013】
【数4】
【0014】
とかける。さらにその変位式Uは、座標原点1004を逆メサ振動部902の重心位置とし、座標軸x及びyを図6と同じ定義とし、数2と同様に、
【0015】
【数5】
【0016】
と書ける。また図9記載のマウント電極904とマウント電極905が形成されている端部が支持端部1002であり、この支持端部1002に対向する端部が対向端部1003である。この支持端部1002及び対向端部1003の厚み寸法は、両者同じくHである。通常、この支持端部1002でATカット水晶振動子901が支持固定される。
この逆メサ型ATカット水晶振動子は、励振部が逆メサ部に形成されており、この励振部の周囲は、逆メサ部よりも厚くなるので、大型ウェハとしてバッチ処理を行う場合、そのハンドリングに対する問題がなく、高周波帯及び超小型のATカット水晶振動子として、非常に注目されている。しかし、ATカット水晶振動子901を支持端部1002にて支持固定すると、その等価抵抗値Rmが大きく増加してしまい、その結果として、ATカット水晶振動子の大きな特徴である高い共振先鋭度すなわち高Q値が、実現できないという不具合が生じている。この現象は支持による振動エネルギの漏洩現象である。それゆえ逆メサ型ATカット水晶振動子の小型化が実現できていない。すなわち、本発明の解決すべき課題は、逆メサ型ATカット水晶振動子において、支持による振動エネルギ漏洩が回避する事である。
【課題を解決するための手段】
【0017】
図11は図10記載の支持端部1002近傍のX1−X2断面図であって、支持による振動エネルギ漏洩を説明するための図である。本発明に係る逆メサ型ATカット振動子の支持端部1002の厚み寸法Hは、逆メサ振動部902の厚み寸法hに比較して、大きな値となっている。それゆえ、励振モードが基本波振動の場合、その共振周波数は支持端部1002の持つ共振周波数よりも高い周波数である。それゆえ、逆メサ励振部902にて励起された基本波振動は、支持端部と共鳴せず減衰する。ところが、図11記載のように支持端部1002の厚み寸法Hと、逆メサ励振部902の厚み寸法hが
【0018】
【数6】
【0019】
なる関係にあると、数1から数6で説明できるように、支持端部1002のもつ厚みすべり振動の三次高調波振動と逆メサ励振部902の基本波振動の周波数が一致してしまい、逆メサ励振部902の基本振動によって、支持端部1002が共鳴振動を起こしてしまう。この共鳴現象を説明する図が図11であって、逆メサ励振部902にて励起された共振変位が共振変位1001であり、この共振変位1001にて支持端部1002にて発生した三次高調波の共鳴共振変位が共鳴共振変位1101である。本図の如く支持端部1002が共鳴振動を生じると、支持固定による振動エネルギ漏洩が非常に大きくなり、前述の如くQ値の劣化を招いてしまうのである。本図は支持端部の三次高調波振動との共鳴の場合を図示したものであるが、一般に支持端部1002の厚み寸法Hと、逆メサ励振部902の厚み寸法hが
【0020】
【数7】
【0021】
なる関係がある場合、支持端部1002のm次高調波との共鳴が生じる事は自明である。ここで、mは数2と同様に、正の奇数であって、
【0022】
【数8】
【0023】
となる。以上が、本発明に係る逆メサ型ATカット水晶振動子における振動エネルギ漏洩現象の説明である。
この、逆メサ型ATカット水晶振動子における支持端部と逆メサ励振部の共鳴現象を抑制する為には、逆メサ励振部の厚み滑り振動の周波数が支持端部における高調波厚み滑り振動の周波数と一致しない範囲にある事が必要である。すなわち、pを1以上の任意の正整数として、以下の不等式が成立するように逆メサ励振部の厚み寸法hと支持端部の厚み寸法Hを選定すればよい。
【0024】
【数9】
【0025】
実際の逆メサ型ATカット水晶振動子おける、逆メサ励振部の厚み滑り振動の周波数は、形成されるべき励振電極の形状、厚み、材質等で変化する事が知られている。また、同様に支持端部における高調波厚み滑り振動の周波数も、形成されるべきマウント電極の形状、厚み、材質等で変化する。それゆえ、より一般的にはpを1以上の任意の正整数として、逆メサ励振部の厚み滑り振動の実測周波数をF0、支持端部における第2p−1次高調波の実測周波数をF2p−1、第2p+1次高調波の実測周波数をF2p+1とすれば、
【0026】
【数10】
【0027】
なる条件で、逆メサ励振部の厚み寸法hと支持端部の厚み寸法Hを選定すればよいのである。
【0028】
図12は、逆メサ型ATカット水晶振動子の支持固定後のQ値とH/hとの関係を図示した特性図である。横軸は逆メサ励振部の厚み寸法hと支持端部の厚み寸法Hの比H/hであり、縦軸は支持固定後のQ値である。Q値のH/h依存性を示す特性曲線が特性曲線1201である。この特性曲線1201から、H/hが奇数近傍においてQ値は極小値、H/hが偶数近傍においてQ値は極大値とる事が判明する。この現象は、先に説明した逆メサ励振部の厚み滑り振動と支持端部における高調波厚み滑り振動の周期的な共鳴共振現象で説明できる。また、H/hが増加するに従って、Q値の極小値と極大値の差は小さくなり、Q値の変化量は小さくなっている事も判明する。この現象は、支持端部における高調波厚み滑り振動が持っているQ値が、高調波次数が高くなるにつれて減少し、逆メサ励振部の厚み滑り振動と共鳴共振を起こし難くなる事で説明できる。しかし、大きなH/hの値を設定する事は、図10記載の逆メサ振動部902を深く加工する必要があり、プロセス上好ましくない。現実的プロセス上、H/hは10以下が望ましい。H/hは10以下の領域でも、その値が偶数値近傍では、Q値は極めて安定している。この安定な領域が、本図記載の安定領域1202であり、この安定領域1202は、H/hが任意の偶数値を中心値として、ほぼ±0.5の範囲と規定できる。すなわち、本図記載の特性曲線1201より、pを1以上、10以下の任意正整数として、
【0029】
【数11】
【0030】
の範囲内にH/hを設定すれば、現実的なプロセスにおいても支持による振動エネルギ漏洩が回避できるのである。
【発明の効果】
【0031】
以上の説明から、支持端部における高調波厚み滑り振動の周波数と逆メサ励振部の厚み滑り振動の周波数を一致させない条件下で、逆メサ励振部の厚み寸法hと支持端部の厚み寸法Hを選定すれば、逆メサ型ATカット水晶振動子における支持端部と逆メサ励振部の共鳴現象が生じない。それゆえ支持固定による振動エネルギ漏洩が抑制されるのでQ値の劣化が防止でき、その結果、超小型及び高周波の逆メサ型ATカット水晶振動子が実現できるのである。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】:本発明に係る逆メサ型ATカット水晶振動子の実施例1を示すためのX1−X2断面図
【図2】:本発明に係る逆メサ型ATカット水晶振動子の実施例2を示すためのX1−X2断面図
【図3】:本発明に係る逆メサ型ATカット水晶振動子の実施例3を示すためのX1−X2断面図
【図4】:本発明に係る逆メサ型ATカット水晶振動子の実施例4を示すためのX1−X2断面図
【図5】:矩形状ATカット水晶振動子の角度方位と形状概要を説明する概念図
【図6】:図5記載のATカット水晶振動子の厚みすべり振動の共振変位を 説明する概念図
【図7】:三次高調波振動に対応する共振変位の概念図
【図8】:五次高調波振動に対応する共振変位の概念図
【図9】:逆メサ型ATカット水晶振動子の構造を示した斜視図
【図10】:図9記載の逆メサ型ATカット水晶振動子のX1−X2断面図である
【図11】:図10記載の支持端部近傍のX1−X2断面図
【図12】:逆メサ型ATカット水晶振動子の支持固定後のQ値とH/hとの関係を図示した特性図
【発明を実施するための形態】
【0033】
発明を実施するための形態として、以下の4つの実施例を元にして説明を行なう。
【実施例1】
【0034】
図1は、本発明に係る逆メサ型ATカット水晶振動子の実施例1を示すためのATカット水晶振動子101のX1−X2断面図であって、逆メサ振動部102の厚み寸法はhである。また、カット方位は、その座標原点107を逆メサ振動部102の重心位置とし、座標軸x及び座標軸yを図6と同じ定義としている。この逆メサ振動部102は、ATカット水晶振動子101の片側表面のみから、エッチング加工などによって形成されている。この逆メサ面には、励振電極103、さらにこの励振電極103と対向するATカット水晶振動子101の裏面位置に励振電極104が形成されている。このATカット水晶振動子101の支持端部105及び対向端部106の厚み寸法は1である。これら支持端部105及び対向端部106の厚み寸法Hは、一枚の水晶ウェハからウェットエッチング等の加工を用いて、ATカット水晶振動子101をバッチ処理にて形成する場合は、この水晶ウェハの厚み寸法に等しい。この支持端部105の厚み寸法Hは、逆メサ振動部102の厚み寸法h、逆メサ振動部102の加工深さ寸法H−h及びpを1以上、10以下の任意正整数として、数11を用いて、以下の数式を満足する範囲内に設定されている。
【0035】
【数12】
【0036】
この数12を満足するように、支持端部105の厚み寸法、言い換えれば、逆メサ加工前の水晶ウェハの厚みを選定する事で、逆メサ型ATカット水晶振動子における支持端部と逆メサ励振部の共鳴現象が生じない。それゆえ支持固定による振動エネルギ漏洩が抑制されるのでQ値の劣化が防止でき、その結果、超小型及び高周波の逆メサ型ATカット水晶振動子が実現できるのである。
【実施例2】
【0037】
図2は、本発明に係る逆メサ型ATカット水晶振動子の実施例2を示すためのATカット水晶振動子201のX1−X2断面図であって、ATカット水晶振動子201の片面より、エッチング加工等の方法によって、厚み寸法hなる逆メサ振動部203を形成したATカット水晶振動子である。本図において、ATカット水晶振動子201の片面より逆メサ加工を施した加工部が片面逆メサ加工部片面逆メサ加工部202である。さらに、逆メサ振動部203と支持端部204及び対向端部205を連結するための連結部206が、逆メサ加工が施された後、新たにエッチング加工等によって形成されている。この連結部206の厚み寸法は、逆メサ振動部203の厚み寸法hよりも小さい値である事は自明である。また、カット方位は、その座標原点207を逆メサ振動部203の重心位置とし、座標軸x及び座標軸yを図6と同じ定義としている。+y軸側の逆メサ振動部203の表面には励振電極208が、−軸側の逆メサ振動部203の表面には励振電極209が形成されている。このATカット水晶振動子201の支持端部204及び対向端部205の厚み寸法はHである。これら支持端部204及び対向端部205の厚み寸法Hは、一枚の水晶ウェハからウェットエッチング等の加工にて、ATカット水晶振動子201をバッチ処理して形成する場合は、この水晶ウェハの厚み寸法に等しい。
この支持端部205の厚み寸法Hは、逆メサ振動部203の厚み寸法h、片面逆メサ加工部202の加工深さ寸法H―h及びpを1以上、10以下の任意正整数として、図1記載のATカット水晶振動子101と同様、数12を満足する範囲内に設定されている。支持端部204の厚み寸法、言い換えれば、逆メサ加工前の水晶ウェハの厚みを選定する事で、逆メサ型ATカット水晶振動子における支持端部と逆メサ励振部の共鳴現象が生じない。それゆえ支持固定による振動エネルギ漏洩が抑制されるのでQ値の劣化が防止でき、その結果、超小型及び高周波の逆メサ型ATカット水晶振動子が実現できるのである。
【実施例3】
【0038】
図3は、本発明に係る逆メサ型ATカット水晶振動子の実施例3を示すためのATカット水晶振動子301のX1−X2断面図であって、ATカット水晶振動子301の表裏面より、エッチング加工等の方法によって、逆メサ加工を施して逆メサ振動部304を形成した逆メサ型ATカット水晶振動子である。本図において、ATカット水晶振動子301の表面より逆メサ加工を施した加工部が表面逆メサ加工部302であり、その加工深さ寸法はΔ1、裏面より逆メサ加工を施した加工部が、裏面逆メサ加工部303であって、その加工深さ寸法はΔ2である。また、逆メサ振動部304の厚み寸法はhである。また、カット方位は、その座標原点309を逆メサ振動部304の重心位置とし、座標軸x及び座標軸yを図6と同じ定義としている。逆メサ振動部304の表裏面には、励振電極305と励振電極306が形成されている。
このATカット水晶振動子301の支持端部307及び対向端部308の厚み寸法はHである。これら支持端部307及び対向端部308の厚み寸法Hは、一枚の水晶ウェハからウェットエッチング等の加工にて、ATカット水晶振動子301をバッチ処理して形成する場合は、この水晶ウェハの厚み寸法に等しい。
この支持端部307の厚み寸法Hは、逆メサ振動部304の厚み寸法h、表面逆メサ加工部302の加工深さ寸法Δ1、裏面逆メサ加工部303の加工深さ寸法Δ2及びpを1以上、10以下の任意正整数として、数11を用いて、以下の数式を満足する範囲内に設定されている。
【0039】
【数13】
【0040】
この数13を満足するように、支持端部307の厚み寸法、言い換えれば、逆メサ加工前の水晶ウェハの厚みを選定する事で、逆メサ型ATカット水晶振動子における支持端部と逆メサ励振部の共鳴現象が生じない。それゆえ支持固定による振動エネルギ漏洩が抑制されるのでQ値の劣化が防止でき、その結果、超小型及び高周波の逆メサ型ATカット水晶振動子が実現できるのである。
【実施例4】
【0041】
図4は、本発明に係る逆メサ型ATカット水晶振動子の実施例4を示すためのATカット水晶振動子401のX1−X2断面図であって、ATカット水晶振動子401の表裏面より、エッチング加工等の方法によって、逆メサ振動部404を形成した逆メサ型ATカット水晶振動子である。本図において、ATカット水晶振動子401の表面より逆メサ加工を施した加工部が表面逆メサ加工部402であり、その加工深さ寸法はΔ1、裏面より逆メサ加工を施した加工部が、裏面逆メサ加工部403であって、その加工深さ寸法はΔ2である。この表裏面の逆メサ加工によって、形成されて逆メサ振動部404の厚み寸法はhである。さらに、逆メサ振動部404と支持端部405及び対向端部406を連結するための連結部407が、加工深さ寸法Δ1と加工工深さ寸法Δ2なる逆メサ加工が施された後、新たにエッチング加工等によって形成されている。この連結部407の厚み寸法は、逆メサ振動部404の厚み寸法hよりも小さい値である事は自明である。また、カット方位は、その座標原点408を逆メサ振動部404の重心位置とし、座標軸x及び座標軸yを図6と同じ定義としている。逆メサ振動部404の表裏面には、励振電極409(+y軸側)と励振電極410(−y軸側)が形成されている。このATカット水晶振動子401の支持端部405及び対向端部406の厚み寸法はHである。これら支持端部405及び対向端部406の厚み寸法Hは、一枚の水晶ウェハからウェットエッチング等の加工にて、ATカット水晶振動子401をバッチ処理して形成する場合は、この水晶ウェハの厚み寸法に等しい。
この支持端部405の厚み寸法Hは、逆メサ振動部404の厚み寸法h、表面逆メサ加工部402の加工深さ寸法Δ1、裏面逆メサ加工部403の加工深さ寸法Δ2及びpを1以上、10以下の任意正整数として、図3記載のATカット水晶振動子301と同様、数13を満足する範囲内に設定されている。支持端部405の厚み寸法、言い換えれば、逆メサ加工前の水晶ウェハの厚みを選定する事で、逆メサ型ATカット水晶振動子における支持端部と逆メサ励振部の共鳴現象が生じない。それゆえ支持固定による振動エネルギ漏洩が抑制されるのでQ値の劣化が防止でき、その結果、超小型及び高周波の逆メサ型ATカット水晶振動子が実現できるのである。
【符号の説明】
【0042】
101,201,301,401,501,901:ATカット水晶振動子
102,203,304,404,902:逆メサ振動部
103,104,207,208,305,306,409,410,502,903:励振電極
105,204,307,405,1002:支持端部
106,205,308,406,1003:対向端部
107,207,309,601,1004:座標原点
202:片面逆メサ加工部
203:振動部
206,407:連結部
302,402:表面逆メサ加工部
303,403:裏面逆メサ加工部
602,701,801,1001:共振変位
904,905:マウント電極
1101:共鳴共振変位
1201:特性曲線
1202:安定領域
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ATカット水晶振動子の表裏面の少なくとも一方の面に一個の凹部が形成され、かつ前記凹部に振動部が形成されているATカット水晶振動子において、前記振動部の厚み滑り振動の共振周波数をF0、pを1以上の任意の正整数として、前記ATカット水晶振動子の凹部が形成されていない部位である外周部における厚み滑り振動の第2p−1次高調波の周波数をF2p−1、前記外周部における厚み滑り振動の第2p+1次高調波の周波数をF2p+1として、数10が成立していることを特徴としたATカット水晶振動子。
【数10】
【請求項2】
前記振動部の厚みをh、前記外周部の厚みをH、さらにpを1以上の任意の正整数として、数11が成立している事を特徴とした、請求項1記載のATカット水晶振動子。
【数11】
【請求項3】
前記ATカット水晶振動子の表裏面の一方の面より一個の凹部が形成され、かつ前記凹部の底面には凸部が形成され、前記凸部の表面部と前記ATカット水晶振動子の裏面に一対の励振電極が形成されることで、前記ATカット水晶振動子の前記凸部を振動部とした事を特徴とする請求項1または2に記載のATカット水晶振動子。
【請求項4】
前記ATカット水晶振動子の表裏面より二個の凹部が形成され、かつ前記二個の凹部の底面には、一対の励振電極が形成される事によって、振動部とする事を特徴とした請求項1また2に記載のATカット水晶振動子。
【請求項5】
前記二個の凹部の底面において、前記底面にそれぞれ新たに凸部が形成され、該凸部の表裏面に一対の励振電極を形成することで、前記凹部に振動部を形成する事を特徴とした請求項4に記載のATカット水晶振動子。
【請求項6】
ATカット水晶振動子の表裏面の少なくとも一方の面に一個の凹部を形成し振動部を作り、
前記ATカット水晶振動子の表裏面に前記振動部を励振させるための励振電極及びマウント電極を形成し、
前記振動部の厚み滑り振動の共振周波数をF0、pを1以上の任意の正整数として、前記ATカット水晶振動子の凹部が形成されていない部位である外周部における厚み滑り振動の第2p−1次高調波の周波数をF2p−1、前記外周部における厚み滑り振動の第2p+1次高調波の周波数をF2p+1とすると、数10が成立することを特徴としたATカット水晶振動子の製造方法。
【数10】
【請求項7】
前記振動部の厚みをh、前記外周部の厚みをH、さらにpを1以上の任意の正整数として、数11が成立するように前記ATカット水晶振動子を加工する事を特徴とした、請求項6記載のATカット水晶振動子の製造方法。
【数11】
【請求項8】
前記ATカット水晶振動子の表裏面の一方の面より一個の凹部を形成し、
前記凹部の底面の端部に溝を形成することで凸部を形成し、
前記凸部の表面と前記ATカット水晶振動子の裏面に一対の励振電極を形成することで、前記ATカット水晶振動子に振動部を形成する事を特徴とした請求項6または7に記載のATカット水晶振動子の製造方法。
【請求項9】
前記ATカット水晶振動子の表裏面より二個の凹部を形成し、
前記二個の凹部の底面に一対の励振電極をそれぞれ形成することで、前記ATカット水晶振動子の前記凹部の底面に振動部を形成する事を特徴とした請求項6または7に記載のATカット水晶振動子の製造方法。
【請求項10】
前記二個の凹部の底面において、前期底面の端部に溝を形成することで凸部をそれぞれ形成し、
前記凸部の表裏面に励振電極を形成することで、前記凸部に振動部を形成する事を特徴とする請求項9記載のATカット水晶振動子の製造方法。
【請求項1】
ATカット水晶振動子の表裏面の少なくとも一方の面に一個の凹部が形成され、かつ前記凹部に振動部が形成されているATカット水晶振動子において、前記振動部の厚み滑り振動の共振周波数をF0、pを1以上の任意の正整数として、前記ATカット水晶振動子の凹部が形成されていない部位である外周部における厚み滑り振動の第2p−1次高調波の周波数をF2p−1、前記外周部における厚み滑り振動の第2p+1次高調波の周波数をF2p+1として、数10が成立していることを特徴としたATカット水晶振動子。
【数10】
【請求項2】
前記振動部の厚みをh、前記外周部の厚みをH、さらにpを1以上の任意の正整数として、数11が成立している事を特徴とした、請求項1記載のATカット水晶振動子。
【数11】
【請求項3】
前記ATカット水晶振動子の表裏面の一方の面より一個の凹部が形成され、かつ前記凹部の底面には凸部が形成され、前記凸部の表面部と前記ATカット水晶振動子の裏面に一対の励振電極が形成されることで、前記ATカット水晶振動子の前記凸部を振動部とした事を特徴とする請求項1または2に記載のATカット水晶振動子。
【請求項4】
前記ATカット水晶振動子の表裏面より二個の凹部が形成され、かつ前記二個の凹部の底面には、一対の励振電極が形成される事によって、振動部とする事を特徴とした請求項1また2に記載のATカット水晶振動子。
【請求項5】
前記二個の凹部の底面において、前記底面にそれぞれ新たに凸部が形成され、該凸部の表裏面に一対の励振電極を形成することで、前記凹部に振動部を形成する事を特徴とした請求項4に記載のATカット水晶振動子。
【請求項6】
ATカット水晶振動子の表裏面の少なくとも一方の面に一個の凹部を形成し振動部を作り、
前記ATカット水晶振動子の表裏面に前記振動部を励振させるための励振電極及びマウント電極を形成し、
前記振動部の厚み滑り振動の共振周波数をF0、pを1以上の任意の正整数として、前記ATカット水晶振動子の凹部が形成されていない部位である外周部における厚み滑り振動の第2p−1次高調波の周波数をF2p−1、前記外周部における厚み滑り振動の第2p+1次高調波の周波数をF2p+1とすると、数10が成立することを特徴としたATカット水晶振動子の製造方法。
【数10】
【請求項7】
前記振動部の厚みをh、前記外周部の厚みをH、さらにpを1以上の任意の正整数として、数11が成立するように前記ATカット水晶振動子を加工する事を特徴とした、請求項6記載のATカット水晶振動子の製造方法。
【数11】
【請求項8】
前記ATカット水晶振動子の表裏面の一方の面より一個の凹部を形成し、
前記凹部の底面の端部に溝を形成することで凸部を形成し、
前記凸部の表面と前記ATカット水晶振動子の裏面に一対の励振電極を形成することで、前記ATカット水晶振動子に振動部を形成する事を特徴とした請求項6または7に記載のATカット水晶振動子の製造方法。
【請求項9】
前記ATカット水晶振動子の表裏面より二個の凹部を形成し、
前記二個の凹部の底面に一対の励振電極をそれぞれ形成することで、前記ATカット水晶振動子の前記凹部の底面に振動部を形成する事を特徴とした請求項6または7に記載のATカット水晶振動子の製造方法。
【請求項10】
前記二個の凹部の底面において、前期底面の端部に溝を形成することで凸部をそれぞれ形成し、
前記凸部の表裏面に励振電極を形成することで、前記凸部に振動部を形成する事を特徴とする請求項9記載のATカット水晶振動子の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2010−187307(P2010−187307A)
【公開日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−31382(P2009−31382)
【出願日】平成21年2月13日(2009.2.13)
【出願人】(000002325)セイコーインスツル株式会社 (3,629)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年2月13日(2009.2.13)
【出願人】(000002325)セイコーインスツル株式会社 (3,629)
【Fターム(参考)】
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