説明

Al−Zn溶射皮膜含有Al合金部材

【課題】 Al−Zn溶射皮膜の耐膨れ性・耐剥離性を高める方法を見出し、Al−Zn溶射皮膜が積層されたAl合金部材の長寿命化を図る。
【解決手段】 Al合金基材の表面にAl−Zn溶射皮膜が形成されているオープンラックベーパライザ用のAl合金部材であって、この溶射皮膜は、少なくとも、基材と溶射皮膜との界面近傍に存在する気孔においては、EPMAによる断面観察結果として、0.3質量%以上の炭素が検出されるように、炭素を含む充填剤によって含浸処理がなされていることを特徴とするAl−Zn溶射皮膜含有Al合金部材である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Al−Zn溶射皮膜が被覆されたAl合金部材に関し、特に、Al−Zn溶射皮膜の耐久性(耐膨れ性・耐剥離性)に優れており、液化天然ガス等の低温流体を気化するためのオープンラックベーパライザに有用なAl合金部材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
天然ガス(NG)は、通常、低温高圧の液体状態(液化天然ガス:LNG)で移送・貯蔵されているが、使用時には気化する必要がある。気化に際しては、従来から、海水を熱源として利用したオープンラックベーパライザ(ORV)が用いられている。ORVは、海水が熱交換パネル(伝熱管を多数並設したもの)の外側を濡らしながら垂下し、この海水の熱を利用してパネル内部の極低温LNGをNGへと気化させるように構成されている。
【0003】
上記パネル用部材には、熱伝導性が良好で、伝熱面積を増やすために複雑な形状へ加工しても展伸可能であり、溶接性にも優れている、という観点から、JIS H4000のA3203のようなAl−Mn合金や、A5052のようなAl−Mg合金等が使用されてきた。しかし、そもそも海水という腐食環境下に常に曝されていると、Al合金であっても腐食しやすく、一旦浸食が始まると、浸食部分の腐食が集中的に進行して孔が開く現象、すなわち、孔食を受け易いという欠点がある。このため、ORV用Al合金の防食処理が盛んに検討され、その一つとして、基材合金よりも腐食し易い合金を被覆して、犠牲防食作用によって基材合金の長期耐食性を保証する技術が採用されている。このような被覆用合金としては、Al−2%Zn合金や、Al−3%Zn合金等が知られており、これらは、通常、溶射法によって基材表面に形成される。
【0004】
この溶射皮膜は、犠牲防食作用のため、また、垂下する海水に常に曝されているため、次第に浸食されるものであるが、溶射皮膜に存在する多数の気孔がその浸食を促進することがある。すなわち、これらの気孔から海水が溶射皮膜に侵入した場合、Znが添加されているとはいえAlの作用で溶射皮膜表面は不働態化し易いことから、溶存酸素が不足して電位が低くなる気孔内部と不働態化により電位が高くなる溶射皮膜最表面との間で酸素濃淡電池が形成されて、気孔内部、特に基材との界面が優先的に活性溶解し、溶射皮膜全体の剥離へとつながるのである。
【0005】
また、LNGをORVで気化させる場合、熱交換パネルやヘッダ内の温度は−20〜−10℃になることから、Al合金基材が収縮して溶射皮膜にも圧縮応力が加わるが、この皮膜応力は溶射皮膜とAl合金基材との界面付近で最も大きくなる傾向があり、界面付近では常に剪断力がかかっているような状態となる。従って、溶射皮膜中の気孔を通じて海水が上記界面に達した場合、酸素濃淡電池形成による気孔内部の活性溶解作用に剪断力の作用が加わって、界面部の皮膜の活性溶解が著しく助長され、早期に界面破壊が発生して溶射皮膜が剥離に至ってしまう。
【0006】
一方、溶射皮膜の損耗の主要因が、熱交換パネルの氷結繰り返し作用と、貝殻等の海生生物による擦過・摩耗作用によるものであるとして、溶射皮膜表面に封孔処理剤を塗布した後、さらにエポキシ系樹脂またはウレタン系樹脂を積層硬化させた技術が公開されている(特許文献1)。
【0007】
上記特許文献1の技術では最上層の樹脂層は犠牲防食作用を弱める上にコスト高の原因になるが、本発明者等は、この樹脂層を設けずに封孔処理剤のみを用いて溶射皮膜の気孔を封じてやれば上記した酸素濃淡電池形成による気孔内部の活性溶解作用は防止できるのではないかと考え、追試実験を行ったところ、実機レベルでは、6箇月経過後から溶射皮膜の表層からの溶解や膨れが進行し始め、1年程度で界面剥離に至り、溶射皮膜の長寿命化にはほとんど効果がなかった。すなわち、特許文献1の比較例1と同様の結果となった。
【特許文献1】特開平8−29095号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
追試実験結果は上記のようになったが、本発明では、最上層の硬化樹脂層を形成せずに、Al−Zn溶射皮膜の耐膨れ性・耐剥離性を高める方法を見出し、Al−Zn溶射皮膜が積層されたAl合金部材の長寿命化を図ることを課題として掲げた。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のAl−Zn溶射皮膜含有Al合金部材は、Al合金基材の表面にAl−Zn溶射皮膜が形成されているオープンラックベーパライザ用のAl合金部材であって、この溶射皮膜は、少なくとも、基材と溶射皮膜との界面近傍に存在する気孔においては、EPMAによる断面観察結果として、0.3質量%以上の炭素が検出されるように、炭素を含む充填剤によって含浸処理がなされているところに特徴を有している。断面観察方法は後で詳しく説明する。
【0010】
この充填剤はエポキシ樹脂であることが好ましい。なお、上記Al−Zn溶射皮膜含有Al合金部材が熱交換パネルおよび/またはヘッダに使用されているオープンラックベーパライザは、本発明に含まれる。上記Al合金部材を製造するには、Al合金基材表面にAl−Zn溶射皮膜を形成した後、動粘度30mm2/s以下の充填剤溶液をAl−Zn溶射皮膜表面に塗布する方法が推奨される。
【発明の効果】
【0011】
本発明のAl−Zn溶射皮膜含有Al合金部材では、Al合金基材とAl−Zn溶射皮膜との界面近傍にまで充填剤を浸透させて、界面近傍の気孔に充填剤を充填することができたので、溶射皮膜の耐膨れ剥離性を高めることに成功した。従って、オープンラックベーパライザにおいて、垂下する海水に曝されるという過酷な環境下であっても、溶射皮膜が浸食されにくく、犠牲防食効果も長期間に亘って働くため、Al合金部材の寿命を長くすることが可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明のORV用部材の基材としては、Al単独でもよいが、耐食性に優れたA3203、A5052、A5083等のORV用として公知のAl合金が特に限定されず使用することができる。
【0013】
溶射皮膜形成に用いられるAl−Zn合金としては、Znが少なくとも0.5質量%含まれていることが好ましい。0.5質量%より少ないと、Al合金基材に対する犠牲防食性が不足する。Zn量は1質量%以上がより好ましく、1.5質量%以上がさらに好ましい。ただし、Zn量が85質量%を超えると、犠牲防食効果は充分得られるものの溶射皮膜が早期に溶解して皮膜寿命が短くなるので、Zn量は85質量%以下とすることが好ましい。より好ましいZn量の上限は70質量%、さらに好ましくは60質量%以下である。溶射皮膜は厚いほど外環境遮断能が高いため、100μm以上の厚みで形成することが望ましい。150μm以上がより好ましく、200μm以上がさらに好ましい。ただし、溶射皮膜が厚くなり過ぎると、皮膜中の残留圧縮応力が膜厚増加分だけ累積されて、大きな界面破壊力が発生して、皮膜が剥離し易くなるため、膜厚は2mm以下に抑えることが好ましい。1.5mm以下がより好ましく、1mm以下がさらに好ましい。溶射皮膜は、公知の溶射法により形成すればよい。
【0014】
溶射皮膜には、通常、直径が1〜30μm程度の多数の気孔が生成する。前記した通り、この気孔は、海水による溶射皮膜の浸食増進や、基材との界面における皮膜の膨れ剥離の原因となるため、充填剤によって気孔を塞ぐ。このとき用いられる充填剤は、炭素を含むものであり、有機樹脂が好ましい。例えば、エポキシ樹脂、ブチラール樹脂、シリコーン樹脂、フッ素樹脂、アルキド樹脂、アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、飽和ポリエステル樹脂等が挙げられるが、特に、Alとの濡れ性および密着性に優れている点から、神東塗料社製「SAクリヤー」等のエポキシ樹脂や、大日本塗料社製の「MSシーラー」等のブチラール樹脂が好ましい。
【0015】
しかし、前記した追試実験の結果の通り、市販のエポキシ樹脂をそのまま溶射皮膜表面にスプレー塗布するのでは、溶射皮膜の長寿命化は図れない。この点について、本発明者等が種々検討し、溶射皮膜が積層されたAl合金基材をEPMAで断面観察した場合、エポキシ樹脂の含浸度合いが、溶射皮膜表層と基材界面近傍とでは大きく異なっていることが見出された。すなわち、溶射皮膜表層ではかなりの気孔が充填剤によって充填されているのに対し、基材界面近傍の気孔には、ほとんどエポキシ樹脂が浸透していなかったのである。このため、前記追試実験では、溶射皮膜の膨れや剥離が発生したと考えられる。
【0016】
本発明者等がさらに検討した結果、溶射皮膜と基材との界面近傍に存在している気孔に、エポキシ樹脂等の炭素を含む充填剤が、炭素濃度として0.3質量%以上充填されていれば、溶射皮膜の海水による膨れ剥離がかなり抑制できることを見出した。充填剤の充填量は多いほどよく、炭素濃度として0.5質量%以上がより好ましく、1質量%以上がさらに好ましい。4質量%以上では膨れ剥離を可及的に防止することができる。なお、「溶射皮膜と基材との界面近傍」とは、溶射皮膜と基材との界面から溶射皮膜側50μmまでの皮膜を指すものとする。
【0017】
気孔中の炭素濃度を測定するには、EPMA法を用いる。具体的には、まず、溶射皮膜が積層されたAl合金基材を厚さ方向に切断して、断面観察用試料とする。断面観察用試料は、切り出し箇所が広範囲に亘るように、すなわち、一部領域に偏ることのないように、基材のあちこちから無作為に少なくとも10点程度切り出すことが望ましい。そして、EPMAを用いて、溶射皮膜と基材との界面を少なくとも長さ200μm程度に亘って観察できるように、100〜250倍程度で約200μm×約200μmの視野でEPMA像を観察する(EPMAマッピング)。SEM像も併せて観察することが望ましい。次に、EPMA像(必要によりSEM像も)の観察視野で確認された溶射皮膜と基材との界面に接する全ての気孔1個ずつ(電子線照射領域に複数の気孔が入るなら複数個でも構わない)について、定量分析対象の気孔全体が照射領域に入るようにプローブ径を2〜100μmの範囲で調整して電子線を照射し、炭素濃度を定量分析(ポイント分析)する。ただし、炭素の定量分析結果(これをCOとする)は、電子線照射面積全体の値としてカウントされるので、電子線照射面積(円形)をプローブ径から算出する(これをXとする)と共に、電子線照射領域中の気孔(定量分析対象の気孔)の面積を算出し(これをYとする)、COにX/Yを乗じて補正して、この補正値を気孔中の炭素濃度C(質量%)とした。気孔は、ほぼ円形に近似できるため、その直径から面積が計算できる。また、気孔の形状が円形に近似できない場合は、円形と四角形に分割する等の方法を用いれば面積が算出できる。そして、界面近傍の気孔中の炭素濃度を平均し、この平均値が0.3質量%以上であれば本発明範囲内とした。
【0018】
溶射皮膜と基材との界面近傍の気孔内部の炭素濃度を0.3質量%以上にするためには、エポキシ樹脂等の炭素を含む充填剤(またはその溶液)の動粘度を30mm2/s以下にしてから、溶射皮膜表面に塗工する必要がある。充填剤(またはその溶液)の動粘度が30mm2/sより大きい場合は、溶射皮膜表面から、該皮膜と基材との界面近傍へ充填剤(またはその溶液)が含浸できず、界面近傍の気孔内部の炭素濃度が0.3質量%よりも小さくなる。より好ましい充填剤(またはその溶液)の動粘度は20mm2/s以下、さらに好ましくは10mm2/s以下である。動粘度の測定は、20℃で、JIS K2283−1993年の3.7.3に基づいて行う。
【0019】
エポキシ樹脂等の充填剤の動粘度は通常、上記上限値より超えているので、充填剤の種類に応じて、有機溶剤等のシンナーで希釈した充填剤溶液を用いるか、あるいは充填剤(またはその溶液)の温度を高めてから、溶射皮膜に塗工すればよい。例えば、神東塗料社製のエポキシ樹脂である「SAクリヤー」を充填剤として用いる場合には、「SAクリヤー」の原液(動粘度:20℃で35mm2/s)90質量%と、シンナー10質量%(「NR−30シンナー」:大伸化学社製:トルエン60質量%、メチルエチルケトン20〜30質量%、ブチルセロソルブ10〜20質量%の混合物)混合することで、20℃での動粘度が28mm2/sである充填剤溶液を得ることができる。
【0020】
充填剤(またはその溶液;以下、単に充填剤溶液という)を溶射皮膜に含浸させる方法、すなわち、充填剤溶液の塗工方法としては、溶射皮膜表面に、スプレーで吹き付ける方法が簡便であるが、ディッピング、種々のコーターによる塗工、刷毛塗り等の方法も採用可能である。スプレー塗工の場合は、前記動粘度の充填剤溶液を用いて、スプレー圧:1〜10MPaの範囲で、塗工厚さが1〜100μmとなるように塗工するとよい。充填剤溶液は溶射皮膜の気孔中に含浸されていくので、精確に塗膜厚を把握するのは難しいが、例えば、ガラス等の非含浸基材を用いて、所定の動粘度(固形分)の充填剤溶液を所定のスプレー圧で所定時間吹き付けたときの塗工厚さを調べる等の方法で、所望の塗工量とするために必要なスプレー時間を算出してスプレーを行えば、必要量の塗工を行うことができる。非含浸基材では塗工厚さと塗膜厚が同じであるが、溶射皮膜では充填剤溶液は内部に含浸されるので、溶射皮膜最表面に残留した塗膜厚は上記塗工厚さより小さい値となる。塗工中および塗工後は、加熱を行っても行わなくてもいずれでも構わないが、雰囲気温度が20〜25℃であっても、エポキシ樹脂の硬化は進行する。
【実施例】
【0021】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも可能であり、それらは何れも本発明の技術的範囲に含まれる。なお、以下の実施例における「%」および「部」は、特に断らない限り、「質量%」および「質量部」を意味する。
【0022】
実験No.1
Al合金基材としてはA5083を用いた。200mm×200mm×5mm厚のAl合金基材の片面に、Al−2%Zn溶射皮膜(厚さ300μm)を形成した。充填剤溶液として、この溶射皮膜表面に、神東塗料社製エポキシ樹脂「SAクリヤー」の原液(動粘度:20℃で35mm2/s)を、スプレー圧5MPaで、非含浸基材に塗布した場合に塗工厚が50μmとなる条件で塗工した。なお、得られた塗膜は、大部分が溶射膜に含浸していた。この充填剤を塗工・充填させたサンプルは、全部で11枚作成した。
【0023】
得られたサンプルのうちの1枚から、切り出し箇所がなるべく広範囲に亘るように10点の断面観察用試料を切り出し、各試料について、EPMA(日本電子社製;X線マイクロアナライザー「JXA−8800」)を用い、加速電圧15kV、照射電流0.30μAで、断面マッピングと、溶射皮膜とAl合金基材界面近傍の気孔についての前記した方法によるポイント分析を行い、補正後の炭素濃度C質量%(平均値)を求めた。
【0024】
10点の断面観察用試料についての各炭素濃度C質量%をさらに相加平均して、前記「SAクリヤー」の原液を用いたときの溶射皮膜とAl合金基材界面近傍における気孔内部の炭素濃度C質量%とした。結果を表1に示した。
【0025】
また、前記サンプルの残りの10枚を、20℃、pH8.2.流速3m/秒の人工海水に3ヶ月浸漬し、その後、溶射皮膜を内側にして90°曲げ加工したときに、溶射皮膜表面に発生した膨れ剥離部分の面積を測定した。面積率の測定結果は表1に併記した。
【0026】
さらに、図1には、上記10点の断面観察用試料のうちの1つについての観察結果を示した。図1の左側は100倍のSEM像(前記EPMA装置に付属しているSEMによる))であり、右側はEPMAのCマッピング像である。溶射皮膜表面から100μm程度の深さにある気孔では炭素濃度が高いが、基材との界面近傍に存在する気孔は、炭素濃度がかなり低くなっていることがわかる。
【0027】
実験No.2
上記「SAクリヤー」の原液100%に代えて、原液95%とシンナー5%(「NR−30シンナー」:大伸化学社製)を表1に示した比率で混合して、表1に示した動粘度の充填剤溶液を用いた以外は実験No.1と同様にして、界面近傍の気孔内部の炭素濃度C質量%と膨れ剥離面積率を求め、表1に結果を併記した。
【0028】
実験No.3
充填剤として、上記「SAクリヤー」の原液90%と上記シンナー10%の混合溶液を用いた以外は実験No.1と同様にして、界面近傍の気孔内部の炭素濃度C質量%と膨れ剥離面積率を求め、表1に結果を併記した。また、図2には、10点の断面観察用試料のうちの1つについての観察結果を示した。図2の左側は250倍のSEM像であり、右側はEPMAのCマッピング像である。溶射皮膜表面から50μm程度の深さにある気孔では炭素濃度が1.8%と高く、基材との界面近傍に存在する気孔でも炭素濃度が0.3%以上になっていることがわかる。
【0029】
実験No.4〜8
上記「SAクリヤー」の原液100%に代えて、充填剤溶液として、表1に示した混合比のものを用いた以外は実験No.1と同様にして、界面近傍の気孔内部の炭素濃度C質量%と膨れ剥離面積率を求め、表1に結果を併記した。
【0030】
なお、図3は、実験No.5の断面観察結果で、左側は100倍のSEM像、右側はEPMAのCマッピング像である。また、図4は、実験No.7の断面観察結果で、左側は250倍のSEM像、右側はEPMAのCマッピング像である。図3の界面近傍の気孔中には0.5%を超える炭素が検出されている。図4では界面近傍の気孔中の炭素濃度が1%を超えており、充填剤溶液濃度を低くしたことにより、界面近傍まで充填剤が充分に含浸していることが確認できた。
【0031】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0032】
Al−Zn溶射皮膜とAl合金基材との界面近傍に存在する気孔内部の炭素濃度を一定値以上にすることにより、溶射皮膜の耐久性(耐膨れ剥離性)を向上させることを見出したので、Al−Zn溶射膜含有Al合金部材の長寿命化が可能となった。従って、このAl合金部材は、流動海水に曝されるオープンラックベーパライザ用の熱交換器やヘッダとして好適に使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】実験No.1(樹脂原液のまま)のSEM像(左)とEPMAのCマッピング像である。
【図2】実験No.3(樹脂原液90%+シンナー10%)のSEM像(左)とEPMAのCマッピング像である。
【図3】実験No.5(樹脂原液80%+シンナー20%)のSEM像(左)とEPMAのCマッピング像である。
【図4】実験No.7(樹脂原液70%+シンナー30%)のSEM像(左)とEPMAのCマッピング像である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Al合金基材の表面にAl−Zn溶射皮膜が形成されているオープンラックベーパライザ用のAl合金部材であって、この溶射皮膜は、少なくとも、基材と溶射皮膜との界面近傍に存在する気孔においては、EPMAによる断面観察結果として、0.3質量%以上の炭素が検出されるように、炭素を含む充填剤によって含浸処理がなされていることを特徴とするAl−Zn溶射皮膜含有Al合金部材。
【請求項2】
上記炭素を含む充填剤がエポキシ樹脂である請求項1に記載のAl−Zn溶射皮膜含有Al合金部材。
【請求項3】
請求項1または2に記載のAl−Zn溶射皮膜含有Al合金部材が、熱交換パネルおよび/またはヘッダに使用されていることを特徴とするオープンラックベーパライザ。
【請求項4】
請求項1または2に記載のAl−Zn溶射皮膜含有Al合金部材を製造する方法であって、Al合金基材表面にAl−Zn溶射皮膜を形成した後、動粘度が30mm2/s以下の充填剤をAl−Zn溶射皮膜表面に塗布することを特徴とするAl−Zn溶射皮膜含有Al合金部材の製造方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−234269(P2006−234269A)
【公開日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−49124(P2005−49124)
【出願日】平成17年2月24日(2005.2.24)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】