説明

CVDダイヤモンド析出用基体及び析出面の形成方法

【課題】
超硬合金を始めとする工具材料、或いは鉄族金属から成る構造材料などの基礎部材上に、部材成分等の影響を受けない状態でダイヤモンド膜を形成する技術を提供すること。
【解決手段】
本発明に係る析出用基体は、硬質材料からなる基礎材に、種子ダイヤモンド結晶をマトリックス中に保持含有する被覆層が表面に接合されたCVDダイヤモンド析出用基体であって、(1) 前記種子ダイヤモンド結晶としてのダイヤモンド粒子の平均粒径が1μm以下であり、(2) マトリックスがSi、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、Wからなる第一金属群から選ばれる1種以上の第一金属種及び/又は、該第一金属種とホウ素、炭素又はチッ素から選ばれる非金属物質との化合物である第一金属化合物を含有し、上記ダイヤモンド粒子は該マトリックス中に分散され、(3) 上記硬質材料と被覆層との接合部に、上記第一金属種の金属原子及び硬質材料を構成する金属原子、或いはその一方の拡散によるに拡散層が形成されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は化学気相析出法(CVD)によりダイヤモンド被覆層を形成する基礎として効果的な基体、及びかかる基体において析出面を形成するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
硬さ、熱伝導性、摩擦係数などに優れたダイヤモンドの特性を利用した工具や耐摩耗材料が、製造現場における生産性の向上に寄与している。ダイヤモンドは機械加工が極めて困難であることから、所定形状に形成された基礎部材上の必要とされる作用面だけに薄膜の状態で配置するのが好ましい使用形態となっている。
【0003】
高品質のダイヤモンド膜はプラズマ状態を経由するCVD法で作られているが、ヘテロエピタキシャル成長用の基礎材としては、シリコンが圧倒的に多く、モリブデン、白金も僅かに使用されている。これらの材料を基礎材として用いる場合にも、核形成密度を高めて緻密で平滑な膜形成を目的とする場合には、自発核形成に頼らず、基礎材上に予め微粉ダイヤモンドを配置して成長起点とする、ホモエピタキシャル成長技術が用いられている。
【0004】
一方工具素材材料として好ましい超硬合金や合金鋼からなる部材表面への、ダイヤモンド膜の直接析出は不可能視されている。この理由としては超硬合金に含まれるコバルトなどの鉄族金属中への炭素の拡散量が大きいことに加えて、大気圧下の高温で鉄族金属と共存する炭素はグラファイト構造として安定化することから、成長起点として微粉ダイヤモンドを配置しても、CVD反応の際にはダイヤモンドとして存在し得ないことが挙げられる。
【0005】
このことから従来技術においては、超硬合金からなる基礎部材の場合、成分の鉄族金属によってダイヤモンド膜形成時の高温下でダイヤモンドのグラファイト化が促進されるのを避けるため、ダイヤモンドとコバルトとの接触を防ぐ目的で、基礎部材表面のコバルトを予め除去する操作が必要であった。しかし結合剤のコバルト除去に伴う部材の強度低下が避けられず、ダイヤモンド膜析出基礎材としての本来の性能が発揮できなかった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記問題点の解決されたダイヤモンド析出用基体、即ち超硬合金を始めとする工具材料、或いは鉄族金属から成る構造材料などの基礎部材上に、部材成分等の影響を受けない状態でダイヤモンド膜を形成する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、ダイヤモンド膜を析出すべき基礎材に密着させて、セラミックス質または金属間化合物を主成分とする薄膜の中間層を形成し、この中間層中に、基礎材から隔離された状態で成長起点となる微粉ダイヤモンドを分散させることにより、基礎材材質の影響を受けない状態でダイヤモンド膜を形成することに成功した。
【0008】
本発明の要旨とするところは、硬質材料からなる基礎材に、種子ダイヤモンド結晶をマトリックス中に保持含有する被覆層が表面に接合されたCVDダイヤモンド析出用基体であって、(1) ダイヤモンド粒子の平均粒径が1μm以下であり、(2) マトリックスがSi、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、Wからなる群から選ばれる第一金属種の1種以上及び/又は、該第一金属のホウ素、炭素又はチッ素から選ばれる非金属物質との化合物である第一金属化合物を含有し、上記ダイヤモンド粒子は該マトリックス中に分散され、(3) 上記硬質材料と被覆層との接合部に、上記第一群の金属原子及び硬質材料を構成する金属原子、或いはその一方の拡散によるに拡散層が形成されていることを特徴とする。
【0009】
上記において基礎材は、CVDによるダイヤモンド層析出の対象としてみた物体、基礎部材はかかる物体が構造用部材として何らかの形状に作成されているもの、また(析出用)基体は、基礎材又は基礎部材の表面に、種子結晶を含む被覆層が形成された構成全体を指す用語として使用される。
【0010】
かかる析出用基体は、本発明によれば次の各工程、即ち(1) 硬質材料からなる基礎材の表面の一部を、Si、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、Wからなる第一金属群から選ばれる1種以上の第一金属種及び/又は、該第一金属種とホウ素、炭素又はチッ素から選ばれる非金属物質との化合物である第一金属化合物を含有するマトリックスで覆う工程、(2)ダイヤモンド粒子を上記基礎材表面に分布せしめる工程、及び(3) 上記ダイヤモンド粒子を、前記第一金属種及び/又は前記第一金属化合物を含有する前記マトリックスで保持する工程を有し、この際(4) 上記工程(1)乃至(3)の少なくとも一つを熱の影響下で行うことにより上記硬質材料からなる基礎材とマトリックスとの境界に、前記第一金属種の原子及び上記硬質材料を構成する金属原子の双方或いは一方の原子が拡散した接合部を形成し、該接合部を介して硬質材料からなる基礎材とマトリックスとを接合せしめる方法によって、効果的に作成される。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、マトリックス材はダイヤモンド粒子を固着保持すると共に、基礎材との間に進行する拡散作用により強固に基礎材と接合される。マトリックス中に含有された微粉ダイヤモンド粒子を成長起点としてダイヤモンドの析出が進行するので、基材材質の影響を受けない状態で、即ち従来不可能であった超硬合金やステンレス鋼材の上に、平滑なダイヤモンドの膜を形成することができる。
【0012】
基礎材の材質は用途に応じて任意に選択可能である。大きな衝撃が加わる切削工具についてはコバルト含有量の多い超硬合金、耐摩耗性が重視される大型構造材料ではステンレス鋼、耐摩耗性と放熱とが同時に要求される場面では銅を用いることができる。いずれの材質においても、ダイヤモンド成長層は、ダイヤモンドのグラファイト化を促進しない材質の中間層によって効果的に隔離されるので、健全なダイヤモンド層を形成することができる。
【0013】
基礎材は予め所定の形状の部材に製作しておくことによって、ダイヤモンド膜形成後の仕上げ加工の手間と時間とを省くことができ、また多様なサイズや形状の耐摩耗材料の製作が可能となった。
【0014】
工具製作を目的とする場合、基礎材材質には、WC及びCoを主成分として含有する通常の超硬合金が利用できるが、鉄族金属、例えばSUS種等のステンレス鋼板上にもダイヤモンド膜の形成が可能である。この場合にはダイヤモンド含有中間層として、ダイヤモンドと基礎材との中間の熱膨張係数を有する材料(炭化物系や窒化物系)を選択することにより、ダイヤモンド膜形成工程や、温度上昇を伴う使用条件におけるダイヤモンド形成層の剥がれに伴うトラブルを大幅に減らすことができる。
【0015】
本発明においてマトリックス中に分布されるダイヤモンド粒子としては、静的超高圧力を用いて合成されたダイヤモンド砥粒の粉砕粉が利用できる。即ちこれらの粒子は、主として劈 (へき)開割れ、ならびに結晶構造の乱れた箇所が起点になって微粉化された単結晶の破砕片であることから、結晶性は良好であり、表面は単層または数層の異種原子または官能基で覆われているにすぎない。さらに粉砕後の精製工程において結晶内に取り込まれていた不純物が薬品処理によって除かれることから、異種元素の混入量も低くなっている。従ってこのタイプのダイヤモンドは良好な成長起点として機能する。
【0016】
デトネーションタイプのダイヤモンドも、成長起点として同様に用いることができる。このタイプの一次粒子の粒径は10nm以下であるが、乾燥状態では強く凝縮して見かけ上100nm以上の二次粒子となっているので、使用に先立ってできるだけ一次粒子の粒径にまで分散させておく必要がある。なお動的超高圧力利用によるデトネーションダイヤは、合成時間が極めて短いことから、多量の欠陥を含み、また表面は崩れた構造となっていて結晶性も良好とはいえない。
【0017】
前記ダイヤモンド粒子は、マトリックス中に分散れてダイヤモンド膜形成の出発点となることから、サブミクロン、即ち平均粒径1μm以下の微粉が好ましく、平滑膜の形成を目指す場合には 0.1μm以下のナノメーター級微粉が好ましい。
【0018】
ダイヤモンド含有中間層におけるダイヤモンドの含有量は、マトリックス全体に対する質量パーセントとして1乃至40%が好ましい範囲である。ダイヤモンドの含有量1%下においては成長起点の不足から均一厚さの平滑膜の形成に困難を生じる場合があり、一方40%を超える高含有量の場合には、中間層マトリックスによる成長起点ダイヤモンドの固定強度の低下に起因して形成膜の剥がれを生じることがある。
【0019】
これらのダイヤモンド微粉は通常は平滑膜の成長起点となることから、整粒された粒度分布幅の狭い品種が望ましく、粒度分布の指標として、累積粒度分布における中央値D50値に対するD10値及びD90値の比につき、それぞれ0.6以上及び1.6以下が好ましい範囲である。
【0020】
微粉のダイヤモンド粉末粒子は、製造過程で水と接触していることから、表面は酸素含有官能基で覆われている場合が多い。CVDダイヤモンド形成における水素プラズマ雰囲気中で、これらの官能基は脱離し、ダイヤモンド表面は水素終端された状態になることから、ダイヤモンド形成に関しては、原料ダイヤモンドの表面状態を考慮する必要はないが、前段階において、成長起点の中間層におけるマトリックス材料(分散媒)との密着性向上、ならびに中間層被覆形成操作の際におけるダイヤモンドの酸化またはグラファイト化阻止のために、予め表面が水素終端されていることが望ましい。
【0021】
中間層被覆の原料としては、遷移金属(周期律表IV、V、VI族金属)の炭化物、窒化物、ほう化物を形成する金属元素と非金属元素との組み合わせが出発原料として用いられる。これらは化合物形成の際に生じる発熱によって、溶着による基礎材への接合も可能である。また上記出発原料にさらに金属間化合物を添加することもできる。即ち出発原料粉として、(Si、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W)から選ばれる金属と(B、C)から選ばれる非金属との粉末の組み合わせによる炭化物、ほう化物の形成、中間層形成反応を窒素雰囲気中で実施することによる窒化物、さらにはこれらの混合物の形成を目的として、これらの粉末がマトリックス材として、ダイヤモンド微粉と混合して用いられる。またホウ素、窒素源として窒化ホウ素微粉も用いられる。
【0022】
こうして得られる中間層の材料は多岐に亘るが、好ましい主成分材料として、金属チタンから出発する材料では、TiB、TiC、TiN、TiCN、Ti-B-N、Ti-B-Cなどの金属-非金属の組合せ、Ti-Al-C、Ti-Cr-C、Ti-Si-C、Ti-Ta-C、Ti-Mo-C、Ti-W-C、Ti-Al-W-C、Ti-Cr-Ni-C、Ti-Al-Ni-C、Ti-Al-B、Ti-Cr-B、Ti-Mo-B、Ti-Al-N、Ti-Si-N、Ti-Al-Si-N、Ti-Al-B-N、Ti-Cr-B-N、Ti-Si-B-N、Ti-Al-Si-B-N、Ti-Si-B-C-N等の複数の金属-非金属の組合せが可能である。さらにTiを他の遷移金属元素Cr、Ta、 V、Nb、Mo、W等に置換した組合せ、例えばCr-B、Cr-Al-N、Cr-B-Nも可能である。
【0023】
上記に含まれる成分中のSi、Al、Niは、遷移金属との金属間化合物の形成や、相対的な低融点成分として、拡散、溶融による中間層を介した基礎材とダイヤモンド層との強固な接合に寄与すると見做されている。なおダイヤモンドのグラファイト化を促進することが知られているNiも、含有量が数パーセント以下の低濃度であれば、障害にはならないことが認められている。従ってマトリックス中に遷移金属との金属間化合物の含有を望む場合には、Si、Alや少量のNiが添加される。
【0024】
また上記出発原料混合物に添加する形で、予め形成された炭化物や、窒化物の微粉、例えばWC、TiC、TaC、Cr32、TiN,TaNを加えることができる。
【0025】
これらの出発原料粉は市販の微粉ないしは超微粉がそのまま用いられる場合が多いが、出発原料粉に予め遊星ミルなどを用いたMA(mechanical alloying或いはmechanical activation)技術による表面活性化処理を施すことによって、被覆形成時の燃焼温度の引き下げを図ると、ダイヤモンドのグラファイト化阻止、形成膜中に生じる歪の低下に有効である。
【0026】
中間層を介してダイヤモンドと基礎材との強固な結合を実現するために、ダイヤモンド含有中間層の形成には、基礎材上に中間層を構成するマトリックス材料が化学結合によって固着されていなければならない。このため本発明においては、ダイヤモンド含有中間層の形成に加熱を行ことによって、基礎材と形成中間層との間の結合を促進する。
【0027】
例えばダイヤモンドを固定するためのマトリックス原料成分を基礎材表面に付着させた後、加熱操作によってマトリックス原料成分と基礎材成分との間に相互拡散を生ぜしめる手法や、基礎材構成成分融液をマトリックス成分中へ溶浸させる手法による接合方法を挙げることができる。
【0028】
最も有効な接合方法としては、被覆層材料を溶融乃至半溶融の溶滴状態で基礎材表面に移行析出させる、熔着技術が有効である。このための持続時間の短い高温発生技術としては、低エネルギーのためダイヤモンドの劣化が阻止される火花放電(ESD)乃至火花放電合金化(ESA)、アーク放電等の放電技術や、広い面積への膜形成加工が可能な溶射技術が好適な例である。
放電や熔射を利用する手法は共に、局所における到達温度は2000℃を超える高温となるものの、高温持続時間が短いことから、ダイヤモンドがグラファイト化するための誘導時間内に膜形成反応が完結することが確認されている。なおESD技術によるダイヤモンド含有材料膜の形成は公知である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0029】
【特許文献1】特開平11-106948
【0030】
ESD(ESA)技術では例えば図1に示すように、熔着材料を棒状に成形した消耗電極(陽極)1をホルダー2に保持し、作業テーブル3等に固定した被処理材(基礎材)4を陰極として電源(省略)に接続する。両極の間で微小な放電を生ぜしめ、被覆層材料(消耗電極成分)を溶滴として移行せしめ、溶融状態で被処理材表面に固着させ、被覆層5を形成する。陽極棒先端と陰極面との間には例えば数百Hzの細かなパルス振動が与えられ、持続時間がμ秒オーダーの短時間間欠(パルス)放電とすることで、放電エネルギーを低く保ち、溶着物の温度上昇が抑えられる。
【0031】
本発明において、ダイヤモンドを含有する被覆材料についてのESD(ESA)操作条件として、パルス当たりの放電エネルギー(Eジュール)は、0.01≦E(J)≦10の範囲が好ましい。Eが0.01Jに満たないと入力エネルギーが足りないために被覆原料の軟化乃至熔融が生じず、10Jを超えると、発熱量過大となって、ダイヤモンドの黒鉛化が顕著になって好ましくない。一方、全析出工程におけるパルス総数(N):500≦N≦5400000、パルス電流の周波数(fHz):0.0185≦f/N≦0.1の組合せが好ましい範囲である。
【0032】
ダイヤモンド含有中間層を形成するマトリックス材料が炭化物系の場合には、出発原料として遷移金属粉を用い、これと組み合わされる炭素源として、ダイヤモンドを用いることができる。例えばチタンやタングステンの金属粉末と混合するダイヤモンド粉末量を、炭化物形成に関する化学量論比以上とすることにより、ダイヤモンド由来の炭化物中にダイヤモンド粉が強固に固定された中間層が得られ、超硬合金基材の物性を維持しながら、表面に形成された炭化物被覆層中のダイヤモンド微粉を起点としたダイヤモンド膜を有する複合材を得ることができる。この方法を用いることによって、炭化物形成時における発熱が高温発生に補助的に貢献する効果も得られる。
【0033】
ダイヤモンド粒子の固定方法としては、CVD、PVDの手法も用いることができる。この場合、ダイヤモンドのグラファイト化を促進する金属を含有する材料を基礎材乃至基礎部材として用いる場合には、下地層としてCVD、PVDの手法によるセラミックス層またはセラミックス原料の金属層を予め形成し、この上へダイヤモンド粒子を散布し、さらにセラミックス形成原料金属層を析出させてから加熱することによって、セラミックス層中へのダイヤモンド粒子の固定と同時に、基礎材成分とセラミックス成分との相互拡散による、基礎材とセラミックス層との接合が可能になる。
【0034】
中間層内に固定されたダイヤモンド微粉を起点としてのダイヤモンド膜の形成には、既に技術が確立されている各種のCVDダイヤモンド形成方法が用いられる。なかでも広い面積にダイヤモンド保護膜を均一に形成する方法としては、熱フィラメント法がよく知られているが、マイクロ波CVD、高周波CVDなど各種の方法が利用可能である。
【実施例1】
【0035】
金属チタン微粉末TC-459(東邦チタニウム製、平均粒径20μm以下)、不定形ホウ素粉末、カーボニルニッケル粉の質量比68:30:2混合物を燃焼合成に供して得られた粉末に、呼称50nmのナノサイズダイヤモンド(MD50-OB、D50=58nm、D10=37nm、D90=92nm、比表面積値 129 m2/g、表面は水素終端加工済み)を質量比で1%添加して混合し、得られた混合粉を外径10mm、肉厚1mmの銅管中に充填し、引き抜き加工によって直径3.2mmに仕上げた丸棒状の電極棒を作製した。
【0036】
この電極棒を用いて図1に準じた構成で被覆層の形成を行った。回転式作業テーブルを用い、この上に外径75mm、内径50mm、厚さ5mmの20%Co-WC合金製のリング(基礎材)を固定した。作業テーブルを10r.p.m.で回転させながら、リングに電極棒を軽く押し当て、10mm/min.の速度で移動させて厚さ約2μmの被覆を形成した。電源装置としてAlier-Metal を用い、放電条件はE=0.3J、f=500Hz、N=27000とした。
【0037】
被覆中のダイヤモンドを核として、熱フィラメントCVD法により厚さ約5μmのダイヤモンド膜の形成を行い、サンドポンプの回転シール材に使用した。
【実施例2】
【0038】
金属チタン微粉(東邦チタニウム製、平均粒径20μm)と不定形ホウ素粉末との等モル混合粉末86%(%値は質量基準。以下同様)及び銅粉末(粉末粒度はすべて25μm以下) 12%に、表面を水素終端済みの呼称20nmのダイヤモンド(MD20-OB、D50=23nm、D10=17nm、D90=38nm、比表面積値198m2/g)を2%添加し、十分に混合した後、15%のパラフィンワックスを添加して練った。これを押出成型によって直径3mmの棒状体とし、水素雰囲気中700℃での焼成工程を経て、相対密度約75%の電極棒とした。
【0039】
この電極棒を用いて実施例1と同じ操作により、E= 0.1 J、f= 1000Hz、N=45000の条件を用いてCo-WC合金製リング上へのダイヤモンド含有膜形成を実施した。
次いで被覆中のダイヤモンド粒子を核として、熱フィラメント法により厚さ約5μmのダイヤモンド膜の形成を行い、サンドポンプの回転シール材に供した。
【実施例3】
【0040】
金属チタン微粉(東邦チタニウム製、平均粒径20μm)、カーボンブラック(東海カーボン製、SRF、平均粒径66nm、比表面積27 m2/g)、呼称50nmのダイヤモンド(MD50-OB)を質量比において77:16:6を秤取し、十分に混合し、加圧成型によって直径5mm長さ50mm相対密度80%の棒状電極棒に仕上げた。レースセンター用の先端円錐状の超硬合金(13%Co-WC)基礎材の円錐面上に、ESD技術を用いて約2%のダイヤモンドを含む厚さ約15μmの炭化チタン層を形成した。形成層はダイヤモンド砥石を用いて平滑化し、この上へ熱フィラメント法を用いて厚さ約15μmのダイヤモンド膜を形成した。
【実施例4】
【0041】
金属クロム粉(PKh-1、GOST 5905-2004、平均粒径25μm)と、呼称50 nmのダイヤモンド(MD50-OB、トーメイダイヤ製)とを質量比95:5で秤取して十分に混合し, 直径5 mm、長さ50 mm、相対密度75%の丸棒型電極棒を製作した。Alier-Metal 装置によるESD技術を用いて、6%Co-WC製の先端円錐形のレースセンター基礎材上に、厚さ25μmのクロム・炭化物クロム層中に2%のダイヤモンドが分散した被覆層の形成を行った。被覆層を#400のダイヤモンド砥石で軽く研磨して平坦化した後、熱フィラメントCVD法を用いて厚さ約10μmのダイヤモンド膜を形成した。
【実施例5】
【0042】
消耗電極棒として外径10mm、肉厚1mmの銅管中に5%の粒径50nmのダイヤモンド(MD50-OB、D50=53nm、D10=34nm、D90=83nm、比表面積値89 m2/g)、90%金属チタン微粉(東邦チタニウム製、平均粒径20μm)とカーボンブラックとの等モル混合物、5%の(9:1のAl-Ni微粉混合物)を充填し、引抜加工によって直径3.2mmに仕上げた丸棒を用いた。
【0043】
基礎部材(被加工物)は直径12mm、先端角度60°、長さ18mmのSK-3鋼のレースセンターであって、これを火花放電装置Elitron-52Bに装着した。30r.p.m.で回転させながら、放電条件としてE=1J、f=500 Hz、N=15000、電流を1.0Aとして厚さ約3μmの被覆層を形成した。基礎材と被覆層とはFe-Al-Ni合金形成による強固な接合が得られた。マイクロ波CVD装置を用いてこの被覆上に厚さ約10μmのダイヤモンド層を形成し、超硬合金ロール研磨装置のセンターとして使用した。
【実施例6】
【0044】
炭化タングステン微粉末WC-F(日本新金属製、粒径0.6μm)、金属チタン微粉末TC-459(東邦チタニウム製、平均粒径20μm以下)、表面水素終端済みの呼称20nmのダイヤモンド(MD20-OB、D50=23nm、D10=17nm、D90=38nm、比表面積値198 m2/g)を質量比で68.1:20.2:11.6秤取し、遊星ミルを用いて混合・粉砕を行った。加圧成型によって直径5mm長さ50mm相対密度80%の棒状電極棒に仕上げた。
【0045】
基礎部材としての被加工物は直径12mm、先端角度60°、長さ18mmのSK-3鋼のレースセンターで、これを火花放電装置KPM50に装着し、30r.p.m.で回転させながら、放電電流1.0Aとして厚さ約3μmの被覆層を形成した。被覆層中には約2%(約6vol%)の微粉ダイヤモンドが含まれていた。
【0046】
この被覆上に、マイクロ波CVD装置を用いて厚さ約10μmのダイヤモンド層を形成し、超硬合金ロール研磨用の円筒研削盤のセンターとして使用した。
【実施例7】
【0047】
超硬合金(13%Co-WC)の基礎材上に厚さ約0.1μmのクロム蒸着膜を形成した。この上に平均粒径1μmのダイヤモンド粒子をスピンコート法によって分散し、さらに厚さ約1.2μmのクロム蒸着膜を形成した。
【0048】
得られた基礎材を水素雰囲気中で800℃に20分間保持し、超硬合金とクロム蒸着膜間の拡散層形成を行った。表面を平均粒径約1μmのダイヤモンドパウダーを分散させたスラリーを用いて軽く研磨することによりダイヤモンドを露出させ、その上に熱フィラメントCVD法によってダイヤモンドの析出を行った。
【0049】
生成品の断面観察において、ダイヤモンドとクロムとの界面にはCVD条件で炭化クロム層が生成され、この炭化クロム層を介して、基板の超硬合金と強固に結合していることが認められた。
【実施例8】
【0050】
超硬合金(6%Co-WC)の基礎材上に、下地として、厚さ約0.5μmの窒化クロム膜を蒸着によって形成した。呼称50 nmのダイヤモンド(MD50-OB:D50=53nm、D10=34nm、D90=83nm、比表面積=89 m2/g)をスピンコート法によって窒化クロム膜上へ分散させ、熱フィラメントCVD法によりダイヤモンド膜を形成した。
【0051】
生成品の断面観察の結果、ダイヤモンドと窒化クロムとの接合部には相互拡散による炭窒化クロムの形成が認められ、さらに超硬合金基礎材に強固に接合していることが認められた。
【実施例9】
【0052】
基礎材として超硬合金(6%Co-WC)板上に、厚さ約0.1μmの金属クロム膜を蒸着法によって形成し、次いで同様に蒸着によって窒化クロム膜を金属クロム膜上に形成した。この窒化クロム膜上に、呼称20nmのダイヤモンド(MD20-OB:D50=23nm、D10=17nm、D90=38nm、比表面積=198 m2/g)をスピンコート法で分散し、熱フィラメントCVD法によってダイヤモンド膜を形成した。
【0053】
生成品の断面観察において、ダイヤモンドと窒化クロムとの接合部には相互拡散による炭窒化クロムの形成が認められ、さらに超硬合金基板に強固に接合していることが認められた。
【実施例10】
【0054】
超硬合金(20%Co-WC合金)板上に厚さ約0.5μmのVC膜をスパッタリングによって形成し、この上へ平均粒径0.2μmのダイヤモンド粒子をディッピング法によって付着し、さらに厚さ約2μmのVC膜をスパッタリングによって形成した。次いで10-4Torrで900℃に保ち、主として超硬合金中のコバルト成分のVC膜中への拡散を実施した。
【0055】
表面を、平均粒径約1μmのダイヤモンドパウダーを分散させたスラリーを用いて軽く研磨してダイヤモンドを露出させ、熱フィラメントCVD法によるダイヤモンド形成を行った。
【実施例11】
【0056】
表面に5%のTiCコートを施した、平均粒径0.5μmのダイヤモンド15%と、平均粒径10μmのCr粉85%との混合粉を溶射材として用い、センターレスグラインダーのプレード用として製作されたSUS316板上に、次の条件によりダイヤモンド含有膜の形成を行った。
【0057】
【表1】

【0058】
溶射面を#800のダイヤモンド砥石を用いて研削し、溶射材に埋もれていたダイヤモンドを露出させると共に、ダイヤモンド粒子表面のTiC被覆を剥がして、結晶面を露出させ、熱フィラメントCVD法でダイヤモンド膜の形成を行った。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明によれば、ダイヤモンドを、基礎材材質の影響を受けずに成長させることができるので、成長阻害作用を持つ鉄族金属を含有する超硬合金や各種鋼材の上に、強固に接合した健全なダイヤモンド層を析出させることができるので、広範な部材の上に耐摩耗性の被覆を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明の実施に適用可能な、ESD乃至ESAのための構成を示す説明図である。
【符号の説明】
【0061】
1 消耗電極(陽極)
2 ホルダー
3 作業テーブル
4 被処理材(基礎材)
5 被覆層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
硬質材料からなる基礎材に、種子ダイヤモンド結晶をマトリックス中に保持含有する被覆層が表面に接合されたCVDダイヤモンド析出用基体であって、
(1) 前記種子ダイヤモンド結晶としてのダイヤモンド粒子の平均粒径が1μm以下であり、
(2) マトリックスがSi、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、Wからなる第一金属群から選ばれる1種以上の第一金属種及び/又は、該第一金属種とホウ素、炭素又はチッ素から選ばれる非金属物質との化合物である第一金属化合物を含有し、上記ダイヤモンド粒子は該マトリックス中に分散され、
(3) 上記硬質材料と被覆層との接合部に、上記第一金属種の金属原子及び硬質材料を構成する金属原子、或いはその一方の拡散によるに拡散層が形成されていることを特徴とする析出用基体。
【請求項2】
前記マトリックスが前記第一金属化合物を主成分とし、さらに前記第一金属種と、Al、Si、Niからなる第二金属群から選ばれる第二金属種との間の金属間化合物をより少量含有する、請求項1に記載の析出用基体。
【請求項3】
前記マトリックスがさらに、予め形成された遷移金属の炭化物、窒化物、ホウ化物を含有する、請求項1又は2に記載の析出用基体。
【請求項4】
前記ダイヤモンド粒子の平均粒径が0.1μm以下である、請求項1に記載の析出用基体。
【請求項5】
前記マトリックスが、全体に対する質量比にてダイヤモンド粒子を1乃至40%含有する、請求項1に記載の析出用基体。
【請求項6】
前記基礎材が主成分としてWC及びCoを含有する、請求項1に記載の析出用基体。
【請求項7】
前記ダイヤモンド粒子が整粒された粒子であり、かつ累積粒度分布表示においてD50値に対するD10値の比が0.6以上、またD90値の比が1.6以下である、請求項4〜6の何れか一項に記載の析出用基体。
【請求項8】
請求項1に記載のダイヤモンド析出用基体における析出面の形成方法であって、
(1) 硬質材料からなる基礎材の表面の一部を、Si、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、Wからなる第一金属群から選ばれる1種以上の第一金属種及び/又は、該第一金属種とホウ素、炭素又はチッ素から選ばれる非金属物質との化合物である第一金属化合物を含有するマトリックスで覆う工程、
(2) ダイヤモンド粒子を上記基礎材表面に分布せしめる工程、及び
(3) 上記ダイヤモンド粒子を、前記第一金属種及び/又は前記第一金属化合物を含有する前記マトリックスで保持する工程を有し、この際
(4) 上記工程(1)乃至(3)の少なくとも一つを熱の影響下で行うことにより上記硬質材料からなる基礎材とマトリックスとの境界に、前記第一金属種の原子及び上記硬質材料を構成する金属原子の双方或いは一方の原子が拡散した接合部を形成し、該接合部を介して硬質材料からなる基礎材とマトリックスとを接合せしめることを特徴とする方法。
【請求項9】
(5) Si、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、Wからなる第一金属群から選ばれる1種以上の前記第一金属種の粉末と、該第一金属種とホウ素、炭素又はチッ素から選ばれる非金属物質の粉末とを密に混合して混合粉とする工程、及び
(6) 該混合粉を加圧成形して電極棒とする工程
をさらに含み、
前記工程(6)において加圧成形された電極棒と前記基礎材との間で放電を行うことにより電極棒に含有された前記第一金属種を溶滴として前記基礎材の表面に到達せしめると共に、前記第一金属種のホウ化物、炭化物又はチッ化物である前記第一金属化合物を生成して基礎材の表面の一部にマトリックスを形成する
ことを特徴とする請求項8に記載のダイヤモンド析出用基体における析出面の形成方法。
【請求項10】
(5) Si、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、Wからなる第一金属群から選ばれる1種以上の前記第一金属種の粉末を加圧成形して電極棒とする工程をさらに含み、
前記電極棒を用いて前記第一金属種の粒子を基礎材の表面に移行させ、さらに基礎材の表面に移行した前記第一金属種を大気中の窒素との反応により窒化物に変換することで、基礎材表面に前記第一金属種及び第一金属化合物を含有する前記マトリックスを形成する
ことを特徴とする請求項8に記載のダイヤモンド析出用基体における析出面の形成方法。
【請求項11】
前記放電が前記電極棒と基礎材との間における火花放電又はアーク放電であり、該放電により前記粉末を溶滴として移行させる、請求項9又は10に記載の方法。
【請求項12】
前記移行を、前記第一金属種をターゲット材としてスパッタリングによって行う、請求項9又は10に記載の方法。
【請求項13】
前記第一金属種に、Al、Si、Niからからなる第二金属群から選ばれる第二金属種の粉末を密に混合し、前記放電の際に発生熱の影響下で両者の反応により金属間化合物とし、マトリックス中に含有させる、請求項9の方法。
【請求項14】
前記放電における単パルスエネルギーE、パルス電流の周波数f、及び全析出工程におけるパルス総数Nを次の範囲に設定して操作を制御する請求項11に記載の方法。
単パルスエネルギー E 0.01 ≦ E(J) ≦ 10
全析出工程におけるパルス総数 N 500 ≦ N ≦ 5400000
パルス電流の周波数 f 0.0185 ≦ f/N ≦ 0.1
【請求項15】
請求項8〜14の何れか一項に記載のダイヤモンド析出用基体における析出面の形成方法において用いられる電極棒であって、
Si、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、Wからなる第一金属群から選ばれる1種以上の前記第一金属種の粉末及び/又は該第一金属種とホウ素、炭素又はチッ素から選ばれる非金属物質の粉末とを密に混合して混合粉とし、該混合粉を加圧成形して成る
ことを特徴とするダイヤモンド析出用基体における析出面の形成方法において用いられる電極棒。

【図1】
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【公開番号】特開2011−105585(P2011−105585A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−235651(P2010−235651)
【出願日】平成22年10月20日(2010.10.20)
【出願人】(000147811)トーメイダイヤ株式会社 (9)
【出願人】(509291781)ナショナル ユニバーシティ オブ サイエンス アンド テクノロジー エムアイエスアイエス (1)
【出願人】(509291792)ロシアン アカデミー オブ サイエンシズ、プロホロフ ゼネラル フィジックス インスティテュート (1)
【Fターム(参考)】