説明

D級増幅器

【課題】 大きな波形歪みを発生させることなく、パワーリミットコントロールを行うことができるD級増幅器を提供する。
【解決手段】 誤差積分器110は、入力信号と帰還信号の誤差を積分し、積分値を示す積分値信号を出力する。パルス幅変調回路130は、積分値信号のレベルに応じたパルス幅のデジタル信号を出力する。出力バッファ150は、パルス幅変調回路130から出力されるデジタル信号に基づいて負荷を駆動する。出力バッファ150の出力信号は、誤差積分器110に帰還される。クランプ回路120は、積分値信号のレベルを指定されたクランプレベル以内に制限する。減衰制御部300は、クランプ回路120によるクランプが行われ、D級増幅器の負荷駆動波形に一定量の歪が生じるのに応じて、減衰器160に誤差積分器110に対する入力信号の減衰を行わせる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、オーディオ機器のパワーアンプなどに好適なD級増幅器に関する。
【背景技術】
【0002】
D級増幅器は、入力信号に応じてパルス幅やパルスの時間密度が変調されたパルス列を生成し、このパルス列により、負荷を駆動するアンプである。このD級増幅器は、オーディオ機器等においてスピーカを駆動するパワーアンプとして用いられる場合が多い。特許文献1〜3には、D級増幅器として、入力信号とD級増幅器の出力側からの帰還信号との誤差を積分する誤差積分器と、この誤差積分器が出力する積分値信号のレベルに応じたパルス幅のパルスを発生するパルス幅変調回路とを備え、このパルス幅変調回路の出力パルスに基づいて負荷を駆動する構成のものが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−124624号公報
【特許文献2】特開2007−124625号公報
【特許文献3】特開2006−262104号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、D級増幅器は、その用途によっては、負荷であるスピーカの音量調整等のために、出力パワーを所望の範囲内に制限するパワーリミットコントロール機能が求められる場合がある。従来のD級増幅器では、誤差積分器に対する入力信号の入力経路にクランプ回路を設け、誤差積分器に対する入力信号が所望のレベルを越えないようにクランプすることによりパワーリミットコントロール機能を実現していた。しかし、このような構成では、誤差積分器に対する入力信号がクランプ回路によりクランプされるため、D級増幅器の出力信号に大きな波形歪みが発生するという問題があった。
【0005】
この発明は、以上説明した事情に鑑みてなされたものであり、出力信号波形に大きな歪みを発生させることなく、出力パワーを所望の上限値以内に制限することができるD級増幅器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明は、入力信号と帰還信号の誤差を積分し、積分値を示す積分値信号を出力する誤差積分器と、前記積分値信号のレベルに応じたパルス幅のデジタル信号を出力するパルス幅変調回路と、前記パルス幅変調回路から出力されるデジタル信号に基づいて負荷を駆動する出力バッファと、前記出力バッファの出力信号を前記帰還信号として前記誤差積分器に帰還させる帰還手段と、前記積分値信号のレベルを指定されたクランプレベル以内に制限するクランプを行うクランプ手段と、減衰指令に応じて前記誤差積分器に対する入力信号のレベルを減衰させる減衰手段と、前記クランプ手段により前記クランプが行われるのに応じて、前記減衰指令を前記減衰手段に供給する減衰制御手段とを具備することを特徴とするD級増幅器を提供する。
【0007】
かかる発明によれば、クランプ手段により積分値信号のレベルがクランプレベル以内に制限されるため、D級増幅器の出力信号のパルス幅変調度の最大値をクランプレベルに応じた値にすることができ、D級増幅器の出力パワーをクランプレベルに応じた上限値以内に制限することができる。また、クランプ手段によりクランプが行われるのに応じて、減衰手段により誤差積分器に対する入力信号の減衰が行われる。従って、D級増幅器の出力信号に大きな波形歪みが発生するのを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】この発明の一実施形態であるD級増幅器の構成を示す回路図である。
【図2】同実施形態における三角波信号の波形を示す図である。
【図3】同実施形態におけるパルス幅変調回路の各部の信号波形を示す図である。
【図4】同実施形態における減衰制御部の各部の信号波形を示す図である。
【図5】同実施形態におけるD級増幅器の各部の信号波形を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照し、この発明の実施の形態を説明する。
図1は、この発明の一実施形態であるD級増幅器の構成を示す回路図である。このD級増幅器は、入力端101pおよび101nに与えられる正逆2相のアナログ入力信号VIpおよびVInのレベルに応じてパルス幅変調された正逆2相のデジタル信号VOpおよびVOnを生成し、出力端102pおよび102nから各々出力する回路である。ここで、出力端102pおよび102n間には、フィルタおよびスピーカコイル等の負荷200が介挿されている。また、入力端101pおよび出力端102n間には、抵抗R11、R12、R13、R14およびR15が直列に介挿され、入力端101nおよび出力端102p間には、抵抗R21、R22、R23、R24およびR25が直列に介挿されている。これらの各抵抗の抵抗値は、R11=R21、R12=R22、R13=R23、R14=R24、R15=R25となっている。
【0010】
誤差積分器110の正相入力端111pには、抵抗R11、R12およびR13を介して正相の入力アナログ信号VIpが与えられ、誤差積分器110の逆相入力端111nには抵抗R21、R22およびR23を介して逆相の入力アナログ信号VInが与えられる。また、誤差積分器110の正相入力端111pには、抵抗R15およびR14を介して逆相デジタル信号VOnが帰還され、誤差積分器110の逆相入力端111nには、抵抗R25およびR24を介して正相デジタル信号VOpが帰還される。そして、誤差積分器110は、このようにして与えられる入力アナログ信号VIpおよびVInとデジタル信号VOpおよびVOnとの誤差を積分して、積分結果を示す正逆2相の積分値信号VDpおよびVDnを正相出力端112pおよび逆相出力端112nから各々出力する。
【0011】
誤差積分器110に対する入力アナログ信号VIpおよびVInの入力経路において、抵抗R12およびR13の共通接続点と抵抗R22およびR23の共通接続点の間にはキャパシタC10が介挿されている。このキャパシタC10が設けられた入力経路は、誤差積分器110に入力アナログ信号VIpおよびVInが入力される過程において入力信号から高域の雑音を除去するローパスフィルタとして機能する。
【0012】
また、誤差積分器110に対する入力アナログ信号VIpおよびVInの入力経路において、抵抗R11およびR12の共通接続点と抵抗R21およびR22の共通接続点の間には減衰器160が介挿されている。この減衰器160は、誤差積分器110に対する入力信号のレベルを減衰させる手段である。本実施形態における減衰器160は、MOSFET(Metal-Oxide-Semiconductor構造の電界効果トランジスタ)などによるスイッチである。この減衰器160は、減衰指令パルスSWが与えられることによってON状態となり、入力アナログ信号を断続的に減衰させる減衰手段として機能する。なお、減衰指令パルスSWを発生する手段については後述する。
【0013】
誤差積分器110としては各種のものが考えられるが、図示の例では、差動増幅器113と、4個のキャパシタC1〜C4と2個の抵抗R1およびR2により構成された2次の誤差積分器110が用いられている。ここで、差動増幅器113の正相入力端(+入力端)および逆相入力端(−入力端)は、各々誤差積分器110の正相入力端111pおよび逆相入力端111nとなっており、差動増幅器113の正相出力端(+出力端)と逆相出力端(−出力端)は、各々誤差積分器110の正相出力端112pおよび逆相出力端112nとなっている。そして、差動増幅器113の正相入力端と逆相出力端との間には、誤差を積分するためのキャパシタC1およびC2が直列に介挿されており、これらのキャパシタの共通接続点は抵抗R1を介して接地されている。また、差動増幅器113の逆相入力端と正相出力端との間にも、誤差を積分するためのキャパシタC3およびC4が直列に介挿されており、これらのキャパシタの共通接続点は抵抗R2を介して接地されている。
【0014】
クランプ回路120は、誤差積分器110によって出力される積分値信号VDpおよびVDnの各々が予め設定された上限クランプレベルULを上回り、または予め設定された下限クランプレベルLLを下回ることがないように、積分値信号VDpおよびVDnのクランプを行う回路である。クランプレベル設定回路121は、例えばこのD級増幅器が収容された筐体に設けられた操作子(図示略)の操作により発生される外部設定信号あるいはD級増幅器の外部の装置から与えられる外部設定信号に応じて、クランプ回路120の上限クランプレベルULおよび下限クランプレベルLLを設定する回路である。
【0015】
パルス幅変調回路130は、誤差積分器110からクランプ回路120を介して与えられる積分値信号VDpおよびVDnのレベルに応じたパルス幅を持った2相のパルスVOp’およびVOn’を発生する回路である。さらに詳述すると、パルス幅変調回路130は、VDp>VDnの場合には、レベル差VDp−VDnに応じたパルス幅を持った負のパルスVOp’を出力し、VDn>VDpの場合には、レベル差VDn−VDpに応じたパルス幅を持った負のパルスVOn’を出力する。なお、パルス幅変調回路130の詳細な構成例については後述する。
【0016】
プリドライバ140は、パルス幅変調回路130が出力するパルスVOp’およびVOn’を出力バッファ150に伝達する回路であり、例えばノンインバーティングバッファである。出力バッファ150は、インバータ151とインバータ152とを有する。図示の通り、インバータ151および152は、PチャネルのMOSFETおよびNチャネルのMOSFETを電源+VBおよび接地間に直列に介挿してなる周知のインバータである。ここで、インバータ151は、パルス幅変調回路130からプリドライバ140を介して与えられるパルスVOn’をレベル反転し、上述したデジタル信号VOnとして出力端102nから出力する。また、インバータ152は、パルス幅変調回路130からプリドライバ140を介して与えられるパルスVOp’をレベル反転し、上述したデジタル信号VOpとして出力端102pから出力する。
【0017】
出力バッファ150から誤差積分器110へのデジタル信号VOpおよびVOnの帰還経路において、抵抗R15およびR14の共通接続点と抵抗R25およびR24の共通接続点の間にはキャパシタC20が介挿されている。このキャパシタC20が介挿された帰還経路は、デジタル信号VOpおよびVOnが誤差積分器110へ帰還される際に帰還信号から高域の雑音を除去するローパスフィルタとして機能する。
【0018】
次にパルス幅変調回路130の構成例について説明する。図1に示す例では、パルス幅変調回路130は、三角波発生器131と、コンパレータ132および133と、インバータ134および135と、NANDゲート136および137により構成されている。図2は、三角波発生器131が発生する三角波信号TRp、TRnの波形を示す図である。また、図3(a)および(b)はパルス幅変調回路130の各部の信号波形を示す図であり、図3(a)はVDp>VDnの場合における信号波形を、図3(b)はVDn>VDpの場合における信号波形を示すものである。
【0019】
三角波発生器131は、図2に示すように、電圧0Vから所定の電圧+VPまで一定の勾配で立ち上がり、電圧+VPから電圧0Vまで一定の勾配で立ち下がる一定周期の三角波信号TRpを発生するとともに、この三角波信号TRpと逆相関係にある三角波信号TRnを発生する。なお、電圧+VPは、電源電圧+VBと同じ電圧でもよく、異なる電圧でもよい。
【0020】
図3(a)および(b)に示すように、コンパレータ132は、三角波信号TRpと積分値信号VDnとを比較し、三角波信号TRpが積分値信号VDnを越えている期間はLレベル、それ以外の期間はHレベルとなる信号VEnを出力する。コンパレータ133は、三角波信号TRpと積分値信号VDpとを比較し、三角波信号TRpが積分値信号VDpを越えている期間はLレベル、それ以外の期間はHレベルとなる信号VEpを出力する。インバータ134は、信号VEpをレベル反転した信号を出力する。インバータ135は、信号VEnをレベル反転した信号を出力する。
【0021】
NANDゲート136は、信号VEnとインバータ134の出力信号との論理積をとることにより、上述したパルスVOn’を出力する。ここで、信号VEnは三角波信号TRpが積分値信号VDnを越えていない期間にHレベルとなり、インバータ134の出力信号は三角波信号TRpが積分値信号VDpを越えている期間にHレベルとなる。従って、NANDゲート136は、図3(b)に示すように、VDn>VDpである場合において、三角波信号TRpの信号値がVDnとVDpとの間にある期間だけLレベルとなる負のパルスVOn’を出力する。すなわち、NANDゲート136は、VDn>VDpである場合において、レベル差VDn−VDpに比例したパルス幅のパルスVOn’を出力する。
【0022】
また、NANDゲート137は、信号VEpとインバータ135の出力信号との論理積をとることにより、上述したパルスVOp’を出力する。ここで、信号VEpは三角波信号TRpが積分値信号VDpを越えていない期間にHレベルとなり、インバータ135の出力信号は三角波信号TRpが積分値信号VDnを越えている期間にHレベルとなる。従って、NANDゲート137は、図3(a)に示すように、VDp>VDnである場合において、三角波信号TRpの信号値がVDnとVDpとの間にある期間だけLレベルとなる負のパルスVOp’を出力する。すなわち、NANDゲート137は、VDp>VDnである場合において、レベル差VDp−VDnに比例したパルス幅のパルスVOp’を出力する。
以上がパルス幅変調回路130の詳細である。
【0023】
次に減衰制御部300について説明する。この減衰制御部300は、クランプ回路120によって積分値信号VDpおよびVDnのクランプが行われるのに応じて、上述した減衰指令パルスSWを発生して減衰器160に供給し、誤差積分器110に対する入力信号を減衰させる制御を行う回路である。図4はこの減衰制御部300の各部の信号波形を示す図である。
【0024】
この減衰制御部300は、歪検出部310と減衰指令発生部320に大別することができる。歪検出部310は、誤差積分器110の正相入力端111pの入力レベルV1と逆相入力端111nの入力レベルV2とに基づき、クランプ回路120によって積分値信号VDpまたはVDnのクランプが行われたことにより一定量の歪みがD級増幅器からフィルタおよび負荷200への出力波形(以下、負荷駆動波形という)に発生したか否かを検出する回路である。この歪検出部310による歪検出の原理は次の通りである。
【0025】
まず、クランプ回路120による積分値信号VDpおよびVDnのクランプが行われていない状態では、誤差積分器110に対する入力信号に見合ったレベルの帰還信号が出力端102nおよび102p側から誤差積分器110の入力側に帰還されるため、誤差積分器110は正相入力端111pの入力レベルV1と逆相入力端111nの入力レベルV2を同一の電圧に維持した状態で動作する。さらに詳述すると、入力信号VIpおよびVInが誤差積分器110の動作点である基準レベルVREFにあるとき、誤差積分器110の正相入力端111pの入力レベルV1は、電圧VIp(=VREF)と接地状態である電圧VOn(=0V)との差電圧(=VREF)を抵抗R11、R12およびR13と抵抗R14およびR15とにより分圧した電圧{(R14+R15)/(R11+R12+R13+R14+R15)}VREFとなる。同様に、誤差積分器110の逆相入力端111nの入力レベルV2は、電圧VIn(=VREF)と接地状態である電圧VOp(=0V)との差電圧(=VREF)を抵抗R21、R22およびR23と抵抗R24およびR25とにより分圧した電圧{(R24+R25)/(R21+R22+R23+R24+R25)}VREF={(R14+R15)/(R11+R12+R13+R14+R15)}VREF=V1となる。そして、入力信号VIpおよびVInが基準レベルVREFを中心に互いに逆相となるように振動し、かつ、入力信号VIpおよびVInの振幅が小さくて積分値信号VDpおよびVDnのクランプが行われない状態では、誤差積分器110の入力レベルV1およびV2は、図4に示すように、互いに同じレベルを維持しながら、電圧{(R14+R15)/(R11+R12+R13+R14+R15)}VREFから高電位方向に入力信号VIpおよびVInの振幅に応じた電圧だけ振動する。
【0026】
しかし、クランプ回路120により積分値信号VDpまたはVDnのクランプが行われると、誤差積分器110に対する入力信号に見合ったレベルの帰還信号が誤差積分器110の入力側に帰還されず、帰還信号に対して入力信号のレベルが過剰になる。このため、クランプ回路120によるクランプが行われる度に、図4に示すように、入力レベルV1と入力レベルV2との間にクランプにより生じる負荷駆動波形の歪量に応じたレベル差が発生する。
【0027】
そこで、歪検出部310は、この入力レベルV1と入力レベルV2との間のレベル差が一定の閾値を越えた場合に、クランプ回路120によるクランプが行われて負荷駆動波形に一定量の歪が生じた旨の歪検出信号Cdetを出力するのである。
【0028】
本実施形態では、歪検出部310は、コンパレータ311および312と、ORゲート313とにより構成されている。ここで、コンパレータ311および312は、正相入力端と逆相入力端との間に上記閾値に相当するオフセット電圧Vofsを有している。そして、コンパレータ311は、正相入力端に電圧V1が逆相入力端に電圧V2が与えられており、正相入力端の電圧V1が逆相入力端の電圧V2よりもオフセット電圧Vofs以上高いときにHレベルの信号を出力する。また、コンパレータ312は、正相入力端に電圧V2が逆相入力端に電圧V1が与えられており、正相入力端の電圧V2が逆相入力端の電圧V1よりもオフセット電圧Vofs以上高いときにHレベルの信号を出力する。そして、ORゲート313は、コンパレータ311の出力信号またはコンパレータ312の出力信号がHレベルのとき、すなわち、クランプ回路120による積分値信号VDpまたはVDnのクランプが行われて負荷駆動波形に一定量の歪が生じて、図4に示すように、|V1−V2|がオフセット電圧Vofsを越えたときに、歪検出信号CdetをHレベル(アクティブレベル)とする。
【0029】
減衰指令発生部320は、電源+VBおよび接地間に直列に介挿された定電流源321、スイッチ322およびキャパシタC30と、キャパシタC30に並列接続された抵抗R30と、コンパレータ323および324と、ローアクティブORゲート325とにより構成されている。スイッチ322には、歪検出信号Cdetが与えられる。ここで、歪検出信号CdetがHレベルのときには、スイッチ322がONとなり、定電流源321の出力電流によりキャパシタC30の充電が行われる。また、抵抗R30は、キャパシタC30に充電された電荷を放電させる。コンパレータ323は、正相入力端に三角波信号TRpが、逆相入力端にキャパシタC30の電圧VC1が与えられ、三角波信号TRpがキャパシタC30の電圧VC1を下回っている期間、Lレベルの信号をローアクティブORゲート325に出力する。また、コンパレータ324は、正相入力端に三角波信号TRnが、逆相入力端にキャパシタC30の電圧VC1が与えられ、三角波信号TRnがキャパシタC30の電圧VC1を下回っている期間、Lレベルの信号をローアクティブORゲート325に出力する。従って、ローアクティブORゲート325は、図4に示すように、三角波信号TRpがキャパシタC30の電圧VC1を下回っている期間および三角波信号TRnがキャパシタC30の電圧VC1を下回っている期間の各期間において、Hレベルとなる減衰指令パルスSWを発生し、この減衰指令パルスSWを減衰器160に与え、スイッチである減衰器160をONにする。
以上が本実施形態によるD級増幅器の構成の詳細である。
【0030】
次に本実施形態の動作を説明する。図5(a)および(b)はD級増幅器の各部の信号波形を示す図である。上述した通り、誤差積分器110は、入力アナログ信号と出力デジタル信号との誤差を積分する。このため、クランプ回路120によるクランプが行われない場合には、誤差積分器110から得られる積分値信号VDpおよびVDnは、入力アナログ信号VIpおよびVInの波形に対して出力デジタル信号に相当するリップルが重畳したような波形となる。
【0031】
図5(a)に示す例では、入力アナログ信号VIpおよびVInのレベルが低いため、積分値信号VDpおよびVDnは、下限クランプレベルLLと上限クランプレベルULの間の範囲内にあり、クランプ回路120による積分値信号VDpおよびVDnのクランプは行われていない。パルス幅変調回路130では、この積分値信号VDpおよびVDnと三角波信号TRpとの比較が行われ、VDp>VDnである期間は、デジタル信号VOpとしてVDp−VDnに応じたパルス幅の正のパルスが出力され、デジタル信号VOnは継続的にLレベルとされる。また、VDn>VDpである期間は、デジタル信号VOnとしてVDn−VDpに応じたパルス幅の正のパルスが発生され、デジタル信号VOpは継続的にLレベルとされる。
【0032】
クランプ回路120による積分値信号VDpおよびVDnのクランプが行われない状態では、入力アナログ信号VIpおよびVInのレベルに応じたパルス幅のデジタル信号VOpおよびVOnが得られるため、誤差積分器110では、入力信号と帰還信号との釣り合いが保たれ、誤差積分器110は、正相入力端のレベルV1および逆相入力端のレベルV2を同一レベルに維持して動作する。この状態では、歪検出部310では歪検出信号CdetがLレベルとなり、減衰指令発生部320では、キャパシタC30の電圧VC1が0Vとなるため、減衰指令パルスSWは発生されない。このため、減衰器160の両端に現れるアナログ信号VIp’およびVIn’の波形は、入力アナログ信号VIpおよびVInに対して所定の係数を乗算した相似波形となる。
【0033】
しかし、入力アナログ信号VIpおよびVInのレベルが高くなると、誤差積分器110が出力する積分値信号VDpおよびVDnは、やがてクランプレベルLLおよびULに到達し、図5(b)に例示するように、クランプ回路120による積分値信号VDpおよびVDnのクランプが行われる。このクランプ回路120による積分値信号VDpおよびVDnのクランプが行われると、誤差積分器110では、帰還信号に対して入力信号が過剰な状態となり、正相入力端のレベルV1および逆相入力端のレベルV2との間にレベル差が発生する。そして、クランプ回路120によるクランプが行われてレベル差|V1−V2|がオフセット電圧Vofsを越える度に、歪検出部310では歪検出信号CdetがHレベルとなり、減衰指令発生部320では、キャパシタC30の電圧VC1が上昇し、三角波信号TRpおよびTRnの各ピーク点に同期して減衰指令パルスSWが発生される。この結果、減衰器160の両端におけるアナログ信号VIp’およびVIn’は、減衰指令パルスSWがLレベルの期間は、元の入力アナログ信号VIpおよびVInに対応した信号値、減衰指令信号SWがHレベルの期間は0Vとなり、図示のように、一定時間間隔で間引きを行った波形となる。従って、誤差積分器110に対して実質的に入力されるアナログ信号が減衰し、一定の歪量になるように積分値信号VDpおよびVDnが縮小される。
【0034】
さらに詳述すると、入力アナログ信号VIpおよびVInの振幅が大きくなり、積分値信号VDpおよびVDnの振幅を下限クランプレベルLLから上限クランプレベルULまでの範囲内に制限するクランプ動作が行われる状況では、入力アナログ信号VIpおよびVInの振幅が大きくなる程、減衰指令パルスSWのパルス幅を大きくして間引き率を大きくし、D級増幅器全体としての利得を低下させる、いわば負帰還制御が行われる。このような負帰還制御が働く結果、出力デジタル信号VOpおよびVOnのパルス幅変調度がある上限値以内に収まるように、D級増幅器全体としての利得が最適値に調整される。この出力デジタル信号VOpおよびVOnのパルス幅変調度の上限値は、下限クランプレベルLLおよび上限クランプレベルULに依存する。何故ならば、本実施形態によるD級増幅器では、誤差積分器110が出力する積分値信号VDpおよびVDnのレベルに応じて出力デジタル信号VOpおよびVOnのパルス幅変調度が決定される一方、この積分値信号VDpおよびVDnが下限クランプレベルLLから上限クランプレベルULまでの範囲を越えようとするときに積分値信号VDpおよびVDnのクランプが行われ、間引きのための減衰指令パルスSWが発生され、積分値信号VDpおよびVDnのレベルの増加並びにこれに伴うパルス幅変調度の増加が抑えられるからである。
【0035】
本実施形態においてクランプに対する応答特性は、キャパシタC30の容量値および抵抗R30の抵抗値により調整可能である。クランプの発生に対し、短い時間で減衰指令パルスSWを発生させる必要があるときは、キャパシタC30の容量値を小さくすればよい。また、クランプ状態でなくなった後、減衰指令パルスSWが停止されるまでの時間を長くする必要があるときは、抵抗R30の抵抗値を大きくすればよい。
【0036】
以上説明したように、本実施形態によれば、誤差積分器110が出力する積分値信号VDpおよびVDnが下限クランプレベルLLおよび上限クランプレベルULの範囲を越えようとすると、積分値信号VDpおよびVDnのクランプが行われ、このクランプが行われるのに応じて、誤差積分器110に入力されるアナログ信号を時間軸上において断続的に間引く動作が行われ、D級増幅器のゲインが下げられる。この場合、誤差積分器110に入力されるアナログ信号は、断続的に間引かれ、D級増幅器の出力デジタル信号VOpおよびVOnの最大パルス幅変調度を所望の値とし、出力パワーを所望の範囲内に制限することができる。
【0037】
また、本実施形態では、積分値信号VDpおよびVDnのクランプを行うことにより最大パルス幅変調度の制限を行うので、最大パルス幅変調度を精度よく制限することができるという利点がある。ここで、最大パルス幅変調度を制限するための手段として、誤差積分器110の入力側の信号、例えばキャパシタC10の両端の信号をクランプする手段が考えられる。しかし、本実施形態では、減衰器160としてスイッチを使用し、このスイッチをON/OFFすることにより誤差積分器110に対する入力信号を減衰させる構成を採用しているため、キャパシタC10の両端の信号にはスイッチである減衰器160のON/OFF切り換えに伴うノイズが重畳する。しかも、このノイズの振幅は、減衰指令パルスSWのパルス幅と入力信号振幅に依存して変化する。このため、キャパシタC10の両端の信号をクランプしたとしても、精度のよいクランプを行うことができず、誤差積分器110に対する入力信号に与える減衰量を正確に制御することができない。これに対し、本実施形態では、積分値信号VDpおよびVDnのクランプを行うことにより最大パルス幅変調度の制限を行う。ここで、積分値信号VDpおよびVDnには、D級増幅器の出力デジタル信号VOpおよびVOnの帰還に伴うリップルが重畳されるが、このリップルの振幅は比較的小さく、また、減衰指令パルスSWのパルス幅に依存しない。従って、本実施形態によれば、最大パルス幅変調度をクランプレベルに応じた値に精度よく制限することができる。
【0038】
<他の実施形態>
以上、この発明の実施形態を説明したが、この発明には、他にも各種の実施形態が考えられる。例えば次の通りである。
【0039】
(1)上記実施形態では、この発明を差動構成の平衡型のD級増幅器に適用した例を挙げたが、この発明は差動構成でない非平衡型のD級増幅器にも勿論適用可能である。
【0040】
(2)上記実施形態では、誤差積分器110の正相入力端と逆相入力端のレベル差に基づいてクランプ回路120によるクランプを検出したが、他の方法によりクランプの検出を行ってもよい。例えばクランプ回路120として、2個のダイオードのカソードを積分値信号VDpおよびVDnが出力される各信号線に接続し、両ダイオードのアノードを下限クランプレベルLLよりダイオードの順方向電圧分だけ高い電圧を出力する定電圧源に接続するとともに、別の2個のダイオードのアノードを積分値信号VDpおよびVDnが出力される各信号線に接続し、両ダイオードのカソードを上限クランプレベルULよりダイオードの順方向電圧分だけ低い電圧を出力する定電圧源に接続した構成のものが考えられる。このような構成のクランプ回路120では、積分値信号VDpおよびVDnが下限クランプレベルLLから上限クランプレベルULまでの範囲を越えてクランプが行われるとき、ダイオードを介して定電圧源に電流が流れる。この電流を検出することにより、クランプ回路120によるクランプを検出するようにしてもよい。
【0041】
(3)減衰指令発生部320におけるキャパシタC30の容量値、抵抗R30の抵抗値、定電流源321の電流値、または歪検出部310におけるコンパレータ311および312のオフセット電圧Vofsを操作子の操作等により調整可能な構成としてもよい。この構成によれば、操作子の操作等により、減衰指令パルスSWの出力を開始させるときの積分値信号VDpおよびVDnのクランプの度合い(例えば積分値信号VDpおよびVDnがクランプレベルを維持する時間)を制御することができ、D級増幅器の出力信号の波形歪みをどの程度まで許容するかを制御することが可能になる。
【符号の説明】
【0042】
110……誤差積分器、120……クランプ回路、121……クランプレベル設定回路、130……パルス幅変調回路、140……プリドライバ、150……出力バッファ、200……フィルタおよび負荷、300……減衰制御部、310……歪検出部、320……減衰指令発生部、160……減衰器。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力信号と帰還信号の誤差を積分し、積分値を示す積分値信号を出力する誤差積分器と、
前記積分値信号のレベルに応じたパルス幅のデジタル信号を出力するパルス幅変調回路と、
前記パルス幅変調回路から出力されるデジタル信号に基づいて負荷を駆動する出力バッファと、
前記出力バッファの出力信号を前記帰還信号として前記誤差積分器に帰還させる帰還手段と、
前記積分値信号のレベルを指定されたクランプレベル以内に制限するクランプを行うクランプ手段と、
減衰指令に応じて前記誤差積分器に対する入力信号のレベルを減衰させる減衰手段と、
前記クランプ手段により前記クランプが行われるのに応じて、前記減衰指令を前記減衰手段に供給する減衰制御手段と
を具備することを特徴とするD級増幅器。
【請求項2】
前記パルス幅変調回路は、周期信号である三角波信号と前記積分値信号との比較することにより前記積分値信号のレベルに応じたパルス幅のデジタル信号を出力するものであり、
前記減衰手段は、前記誤差積分器に対する入力信号の供給/遮断を切り換えるスイッチであり、
前記減衰制御手段は、前記クランプ手段により前記クランプが行われるのに応じて、前記誤差積分器に対する入力信号の遮断を行わせる前記減衰指令を前記減衰手段に供給することを特徴とする請求項1に記載のD級増幅器。
【請求項3】
前記減衰制御手段は、前記クランプ手段によるクランプが行われることにより前記出力バッファによる負荷の駆動波形に一定量の歪が発生するのに応じて、前記減衰指令を前記減衰手段に供給することを特徴とする請求項1または2に記載のD級増幅器。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2010−200216(P2010−200216A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−45306(P2009−45306)
【出願日】平成21年2月27日(2009.2.27)
【出願人】(000004075)ヤマハ株式会社 (5,930)
【Fターム(参考)】