説明

DME地上装置

【課題】マルチパス環境下におけるシステム遅延を、容易に調べることのできる機能を有するDME地上装置を提供すること。
【解決手段】DME地上装置10の監視制御部14内のマルチパス試験部23は、擬似質問信号を発生する擬似質問信号発生部24と、この擬似質問信号発生部24により発生した前記擬似質問信号に所定の遅延及び位相を付与し反射波としての擬似質問信号を生成する擬似信号生成手段25、26と、この擬似信号生成手段25、26により生成された反射波と擬似質問信号発生部24により発生された信号である直接波とを合成する信号合成手段27とを具えるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、航空機と地上装置間の距離を測定するDME地上装置(DME:Distance Measurineg Equipment)に係り、特にマルチパス環境下でシステム遅延を測定することができるDME地上装置に関する。
【背景技術】
【0002】
航空機に対して用いられている距離測定装置(DME:Distance Measurineg Equipment;以下、DME装置という)では、航空機に機上装置として質問装置(interrogator:インタロゲータ)、地上側に応答装置(transponder:トランスポンダ)と呼ばれる送受信機をそれぞれ設け、質問装置がUHF帯の質問パルス(ペアパルスとなっている)を応答装置に対して発射してから、応答装置からの応答パルス(ペアパルスとなっている)を受信するまでの時間に基づいて距離を測定している。これらのDME装置等のパルス送受信装置は広く知られている(例えば、特許文献1を参照)。
【0003】
DME装置では、機上局(DME地上装置)から発射され予め設定する周波数の質問パルスが地上局で受信されると、地上局は所定のシステム遅延(地上局が応答開始までの固定遅延時間)の後に質問パルスの周波数とは異なる周液数の応答パルスを発射し、機上局は質問パルスを送信してから応答パルスを受信するまでの時間を測定して指示器に表示したり、システム遅延を常時監視し、測定したシステム遅延が許容範囲を逸脱するとアラーム信号をするようにしてモニタしている(例えば、特許文献2を参照)。
【0004】
すなわち、機上局(DME地上装置)は質問パルスを送信してから応答パルスを受信するまでの時間Tを測定し、測距離Rを次の式によって求めている。
【0005】
R=(T−t)/12.3
この式において、tはシステム遅延、またT、tはそれぞれμSEC単位、またRは海里単位である。
【0006】
このような距離計測システムにおいては、質問信号と応答信号との周波数の有効利用、隣接周波数帯への影響の軽減等のために、疑似ガウス波形が使用されている。又、このガウス波形において時間を測定するための時間軸上の基準点は、図3に示すように半振幅レベルの点をとっている。
【0007】
従来、この種の距離計測システムは、受信パルスを単に包絡線検波し、半振幅レベルの点を時間Tの測定基準にしている。そのため、例えば、空港周辺の建物、空港内のターミナルビル、航空機格納庫等の建物による反射波による影響によりマルチパスが構成されるような場合、無線周波数領域でのベクトル合成が行なわれる。
【0008】
その結果、検波パルス波形に歪を生じ、時間Tの基準をとる半振幅レベルの点の時間位置に変動を受け、距離計測の誤差を生じていた。
【0009】
DME地上装置では、システム性能がマルチパスの生ずる状況においても、所定の仕様を満足する必要があり、マルチパス環境をシュミレートしたシステム試験を実施する必要がある。
【0010】
そのようなマルチパス環境をシュミレートするためには、直接波を模擬する系と反射波を模擬する系の2系統に信号を分配し、反射波を模擬する系において、時間的に遅延される機能と位相を制御する機能を備えた冶具を用意する必要がある。
【特許文献1】特許第2629612号公報
【特許文献2】特開平3−78683号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従来用いられている冶具としては、時間的に遅延させる機能をアナログ的に実現する手段として、例えば、長いケーブルを用いて物理的に遅延させている。したがって、遅延時間量が長くなると、非常に長いケーブルを必要としていた。また、連続的に遅延量が設定できないなどの不便さが生じていた。
【0012】
なお、上述の特許文献1には、DME地上装置に用いられる航空機搭載用のパルス受信機が記載されており、特許文献2には、擬似質問信号に対するシステム遅延が許容範囲内にあるかを監視する監視モニタについて記載されているが、いずれもマルチパス環境下におけるシステム遅延については全く記載されていないし、示唆もされていない。
【0013】
本発明は、これらの事情を考慮してなされたもので、マルチパス環境下におけるシステム遅延を、容易に調べることのできる機能を有するDME地上装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の一態様によれば、航空機からの質問信号を受信する空中線部と、この空中線部により受信した質問信号を受信し、該質問信号に対する応答信号を生成して送信するトランスポンダ部と、このトランスポンダ部を監視制御する監視制御部とを備え、前記監視制御部は、前記航空機からの質問信号を受けてから応答信号を送信するまでの遅延時間をモニタする遅延時間モニタ部とマルチパス環境下の影響を試験するためのマルチパス試験部とを有し、前記マルチパス試験部は、擬似質問信号を発生させ、該擬似質問信号に所定の遅延及び位相を付与して反射波とした擬似質問信号と直接波としての該擬似質問信号とを合成し、前記トランスポンダ部に供給することを特徴とするDME地上装置が提供される。
【0015】
また、本発明のDME地上装置では、前記遅延時間モニタ部は、擬似質問信号が送出された時点から、前記トランスポンダ部において生成された応答信号が入力してきた時点までの時間を測定する時間計測手段を有していることを特徴とする。
【0016】
また、本発明のDME地上装置では、前記マルチパス試験部は、擬似質問信号を発生する擬似質問信号発生部と、この擬似質問信号生成部において生成された擬似質問信号を所定時問遅延させる遅延回路と、この遅延回路により遅延された擬似質問信号の位相量を変えて反射信号に似せた信号を生成する位相制御部と、この位相制御部により生成された反射波と、前記擬似質問信号発生部により発生された信号である直接波とを合成する加算器を具備していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、マルチパス環境下でのシステム遅延を、確実に測定して監視できるDME地上装置が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。尚、各図において同一箇所については同一の符号を付すとともに、重複した説明は省略する。
【0019】
図1は、本発明にかかるDME地上装置の実施形態を示すブロック図である。DME地上装置10は、その構成を大別すると、図示しない航空機の機上装置(不図示)からの質問信号を受信しその応答信号を送信するアンテナ部である空中線部11と、この空中線部11に接続された方向性結合器12と、航空機からの質問信号に対して応答信号を生成するトランスポンダ部13と、このDME地上装置10の全体を監視する監視制御部14とにより構成されている。
【0020】
空中線部11は、航空機(不図示)の機上装置からの質問パルス信号を捕捉するためのアンテナである。
【0021】
第1方向性結合器12は、一般に用いられているもので、入力された信号を隔離、分離または結合するためのマイクロ波伝送のルーティングに用いられる汎用機器である。
【0022】
図2はトランスポンダ部13の概略構成を示すブロック図である。図2に示したように、トランスポンダ部13は、質問信号受信部15と、応答信号生成部16と、応答信号送出部17と、送信レート監視制御部18と、スキッタパルス生成部19とを有している。
【0023】
質問信号受信部15は、方向性結合器12を介して入力された航空機からの質問信号を受信し解読するものである。
【0024】
なお、質問信号受信部15はデコーダで、受信した質問信号の判別を行うため、自動スレショールド制御とパルス幅分別とを組み合わせ、質問信号を解読している。デコード回路としては、公知のパルスピークを基準に調整されたスレショールドを用いて入力信号をディジタルパルスに整形した後、ある一定の許容値内のパルス幅を有する信号を取り出す回路や、整形されたパルス群からある一定のパルス幅以上のパルスを取り出す回路を用いることができる。
【0025】
応答信号生成部16は、質問信号受信部15において解読された信号に基いて応答信号を生成するものである。
【0026】
また、応答信号生成部16は、質問信号受信部15で解読された信号に対して、所定のシステム遅延時間(例えば50μs)を付与し、再度コード(符号)化し、応答信号として生成している。
【0027】
応答信号送出部17は、応答信号生成部16で生成された応答信号を送出するものである。この応答信号は応答信号送出部17より方向性結合器12を介して空中線部11より、質問信号を発した航空機に送信される。
【0028】
送信レート監視制御部18は、応答信号送出部17から送出される応答信号の送信レートを監視し、その制御を行うものである。
【0029】
スキッタパルス生成部19は、常時、スキッタパルスの基となるランダムパルスを生成し、応答信号の送出のみでは送信レートが低すぎる場合に、応答信号の代わりにスキッタパルスを送出する。
【0030】
次に、監視制御部14は、第1方向性結合器12に接続される第2方向性結合器21と、この第2方向性結合器21に接続され、トランスポンダ部13により航空機からの質問信号を受けてから応答信号を送信するまでの遅延時問を測定監視する遅延時間モニタ部22と、第2方向性結合器21を介してマルチパス環境下の擬似質問信号を生成し出力するマルチパス試験部23とを有している。
【0031】
第2方向性結合器21は、機能的には第1方向性結合器12と同じで、入力された信号を隔離、分離または結合するためのマイクロ波伝送のルーティングに用いられる汎用機器である
遅延時間モニタ部22は、第2方向性結合器21から擬似質問信号が送出された時点から、トランスポンダ部13において生成された応答信号が第2方向性結合器21を介して遅延時間モニタ部22に入ってきた時点までの時間を測定するカウンタ回路等の時間計測手段を有している。この時間計測手段の計測によりマルチパス環境下におけるシステム遅延の時間を求めてモニタしている。
【0032】
マルチパス試験部23は、擬似質問信号を発生する擬似質問信号発生部24と、この擬似質問信号生成部24において生成された擬似質問信号を所定時問遅延させる遅延回路25と、この遅延回路25により遅延された擬似質問信号の位相量を変えて反射信号に似せた信号を生成する位相制御部26とを具備している。さらに、位相制御部26により生成された反射波と、擬似質問信号発生部24により発生された信号である直接波とを合成する信号合成手段として加算器27を有している。
【0033】
すなわち、加算器27により反射波と直接波との双方の信号を合成することにより、マルチパス環境を生成している。
【0034】
なお、遅延回路25は、入力信号に対して所定の遅延時間を入力して、入力信号を所定時間だけ遅延して出力する手段で、例えば、水晶フィルタで構成され、この水晶フィルタの遅延特性が利用されている。
【0035】
位相制御部26は、予め指定されたフェージングをかけて位相を変化させる手段で、遅延回路25により遅延された擬似質問信号の位相量を変えて反射信号に似せた信号を生成する。
【0036】
次に、上述した構成のDME地上装置のマルチパス環境下におけるシステム遅延の測定監視動作について説明する。
【0037】
監視制御部14では、擬似質問信号発生部24から擬似質問信号を発生させる。この擬似質問信号は一方で加算器27に直接波としての擬似質問信号として供給される。
【0038】
他方、遅延回路25及び位相制御部26において所定の遅延時間及び位相量がそれぞれを与えられる。そして、反射波としての擬似質問信号として加算器27に供給される。加算器27で直接波と反射波とが合成され、マルチパス環境下の擬似質問信号が生成される。
【0039】
加算器27で加算されたマルチパス環境下の擬似質問信号は、第2方向性結合器21及び第1方向性結合器12を介して、トランスポンダ部13に供給される。このとき、マルチパス環境下の擬似質問信号は第2方向性結合器21を介して遅延時間モニタ部22にも入力され、遅延時間モニタ部22で質問信号の受信されたタイミングが測定される。
【0040】
一方、トランスポンダ部13では、入力された擬似質問信号に対する応答信号が生成される。この生成された応答信号は所定値の遅延を与えられて、第1方向性結合器12を介して監視制御部14に入力される。
【0041】
監視制御部14に入力された応答信号は、第2方向性結合器21を介して遅延時間モニタ部14に入力される。
【0042】
遅延時間モニタ部22においては、第2方向性結合器21から擬似質問信号が送出された時点から、トランスポンダ部13において生成された応答信号が第2方向性結合器21を介して遅延時間モニタ部22に入ってきた時点までの時間が測定される。この時間の測定により、マルチパス環境下におけるシステム遅延の時間が高精度で確実に求めることができる。
【0043】
なお、本発明は上記の実施形態のそのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記の実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明に係るDME地上装置の実施形態を示すブロック図である。
【図2】本発明に係るDME地上装置を構成しているトランスポンダ部の構成を示すブロック図である。
【図3】ガウス波形における半振幅レベルの説明図である。
【符号の説明】
【0045】
10…DME地上装置、11…空中線部、12…第1方向性結合器、13…トランスポンダ部、14…監視制御部、15…質問信号受信部、16…応答信号生成部、17…応答信号送出部、18…送信レート監視制御部、19…スキッタパルス生成部、21…第2方向性結合器、22…遅延時間モニタ部、23…マルチパス試験部、24…擬似質問信号発生部、25…遅延回路、26…位相制御部、27…加算器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
航空機からの質問信号を受信する空中線部と、
この空中線部により受信した質問信号を受信し、該質問信号に対する応答信号を生成して送信するトランスポンダ部と、
このトランスポンダ部を監視制御する監視制御部とを備え、
前記監視制御部は、前記航空機からの質問信号を受けてから応答信号を送信するまでの遅延時間をモニタする遅延時間モニタ部とマルチパス環境下の影響を試験するためのマルチパス試験部とを有し、
前記マルチパス試験部は、擬似質問信号を発生させ、該擬似質問信号に所定の遅延及び位相を付与して反射波とした擬似質問信号と直接波としての該擬似質問信号とを合成し、前記トランスポンダ部に供給することを特徴とするDME地上装置。
【請求項2】
前記遅延時間モニタ部は、擬似質問信号が送出された時点から、前記トランスポンダ部において生成された応答信号が入力してきた時点までの時間を測定する時間計測手段を有していることを特徴とする請求項1記載のDME地上装置。
【請求項3】
前記マルチパス試験部は、擬似質問信号を発生する擬似質問信号発生部と、この擬似質問信号生成部において生成された擬似質問信号を所定時問遅延させる遅延回路と、この遅延回路により遅延された擬似質問信号の位相量を変えて反射信号に似せた信号を生成する位相制御部と、この位相制御部により生成された反射波と、前記擬似質問信号発生部により発生された信号である直接波とを合成する加算器を具備していることを特徴とする請求項1または2記載のDME地上装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−298597(P2008−298597A)
【公開日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−145284(P2007−145284)
【出願日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】