説明

ECRスパッタ装置

【課題】ターゲットから金属元素を金属の状態で放出させて成膜するメタルモード成膜を安定化させる。
【解決手段】プラズマ生成室から基板に向かいプラズマの流路において、プラズマ中の酸素活性種の流れを制御することによって、ターゲット表面での急激な酸化を抑制するともに、基板表面での酸化反応を促進し、メタルモード成膜を安定化させる。反応室内に、プラズマが基板に向けて流れる流路に沿って配置するターゲット電極と、プラズマに流れを制御するシールドとを備え、シールドによりプラズマ中の酸素活性種の流れを制御する。基板方向に向かうプラズマとターゲット方向に向かうプラズマの流動比率を変更することによって、ターゲット表面に向かう酸素活性種の量を抑制すると共に、基板に向かう酸素活性種の量を相対的に増大させ、ターゲット表面での急激な酸化を抑制し、基板に向かう酸素活性種の量を増すことで基板表面での酸化反応を促進する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ECRプラズマを利用したスパッタリング装置に関し、とくに、メタルモード領域で行うメタルモード成膜に関する。
【背景技術】
【0002】
ECRスパッタリング装置は、ECR(Electron Cyclotron Resonance)プラズマを生成し、プラズマ中のイオンによりターゲットをスパッタし、このスパッタによって放出されたスパッタ粒子を被処理基板の表面に堆積させて成膜する装置である。処理室内に反応性ガスを導入しておくと、ターゲットから飛散したスパッタ粒子は、飛散中にまたは被処理基板表面上で反応性ガスと化学反応を起こし、反応による生成物が被処理基板表面に薄膜として堆積する。この反応性ECRスパッタ法により、化合物半導体や圧電性セラミックなどの薄膜を形成することができる。従来、反応性ガスとしてOガスを処理室内に導入し、Arイオンで金属亜鉛ターゲットをスパッタし、ターゲットからのZn粒子をOガスと反応させてZnO膜を成膜するECRスパッタリング装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
図7は従来のECRスパッタ成膜装置の概略構成を示す図である。図7において、ECRスパッタ成膜装置101は、プラズマ生成室102と反応室103とを備える。プラズマ生成室102の壁部にはマイクロ波導入孔104が設けられる。高周波電源(図示していない)で発生されたマイクロ波は、発信機およびEHチューナー(図示していない)でインピーダンス整合された後、マイクロ波導波管(図示していない)を通して導かれ、マイクロ波導入孔104のマイクロ波導入窓(図示していない)を通してプラズマ生成室102内に導入される。プラズマ生成室102の外周には磁場コイル105が設けられる。
【0004】
反応室103は、プラズマ引き出し用の開口部を通してプラズマ生成室102と連通している。反応室103には、排気口106とガス導入口107とが設けられ、排気口106は反応室103の内部を真空排気し、ガス導入口107は他端をガス供給源に接続して反応室103内に反応ガス等を導入する。
【0005】
プラズマ処理は、真空排気装置によって反応室103およびプラズマ生成室102内を所定圧力に減圧し、磁場コイル105に直流電流を供給し、ガス導入口107から反応室103およびプラズマ生成室102内に反応ガスを導入し、マイクロ波をプラズマ生成室102内に導入する。反応ガスは、マイクロ波の電界と磁場コイル105の磁場による電子サイクロトロン共鳴による高密度プラズマが生成され、正イオンと電子に分離する。
【0006】
プラズマ内において、電子は軽量であるため高速で運動し、短時間でプラズマから抜け出して壁部に衝突して消滅する。一方、正イオンは電子に比べて質量が大きく低速であるため、プラズマ中に長く存在する。これにより、プラズマは全体として正の電荷となり、イオンシースを形成する。基板112を支持する基板支持部111は、このイオンシースの正電荷に誘引されて負電荷が蓄積され、負の自己バイアス電圧が発生する。プラズマ中の正イオンは、磁場コイル105の発散磁界によって反応室に輸送された後、この負の自己バイアス電圧によって加速されて基板112に衝突し、基板112上に蓄積して膜を形成する。
【0007】
特許文献2には、従来のECRスパッタ成膜装置における問題点として、金属化合物薄膜を反応性成膜するときの安定性を確保することが困難となる場合があることを指摘している。上記特許文献2では、以下のように指摘している。
【0008】
ECRプラズマ成膜法の大きな特徴として、金属ターゲットとアルゴン・酸素混合ガスとを用いて化合物薄膜を形成する反応性成膜がある。このような反応性成膜において、酸素流量をある微小な範囲に制御すると、ターゲット表面から金属元素がスパッタされて飛び出し、試料基板上に吸着した後に酸素が付着・反応して金属酸化物薄膜が形成されるようなプロセスで薄膜が成長する。これに対し、酸素流量を多くしていくとターゲット表面に酸素が付着して酸化し、酸化物の状態でスパッタされて飛び出すモードになる。前者のように、ターゲットから金属元素のままで飛び出す場合をメタルモード成膜、酸化物として飛び出す場合を酸化物モード成膜という。メタルモード成膜では、金属のスパッタリング効率が酸化物に比べて圧倒的に高いことから、成膜速度が大きく取れるという大きな利点がある。
【0009】
一方で、酸素雰囲気中でターゲット表面を常に安定に金属の状態で保つことが難しく、成膜中に何らかの要因でターゲット表面が酸化されて酸化物モードに移行してしまう問題があった。メタルモード成膜を安定に保持できる酸素流量範囲をメタルモードマージンと言い、この範囲が広いほど安定な成膜が可能となる。Siターゲットを用いたSiO成膜や、Alターゲットを用いたAl成膜では十分なマージンが確保できるが、その他の高融点金属酸化物成膜などでは十分でない場合が多く、特にTiO成膜では、これまで安定なメタルモード成膜が極めて困難であった。
【0010】
特許文献2は、上記問題点を解決する手段として、ターゲットの下流側に粒子分布を制御する遮蔽リングの機構を設け、これによって成膜速度を下げて、試料基板への酸素供給時間を長くし、また、試料室側からターゲットへの酸素の供給を抑制し、試料基板に酸素を供給しつつターゲット表面の酸化を防ぐ点が記載されている。特許文献2の遮蔽リングは図7中において符号200で示している。
【0011】
ECRスパッタ成膜装置では、それぞれ異なる目的ではあるが、遮蔽部材を設けることによってプラズマや反応性ガスの流れを制御する構成も提案されている。
【0012】
例えば、プラズマの流れを制御する構成として、ターゲットの下流側にプラズマ制限筒を設ける構成が提案されている(特許文献3参照)。この構成では、プラズマの拡がりを制限し、プラズマがチャンバー内壁に照射されるのを抑制し、ダストや異常プラズマによるダメージを抑制している。
【0013】
また、反応性ガスの流れを制御する構成として、反応室内においてターゲットの下流側に遮蔽部材を設置する構成が提案されている(特許文献4参照)。この構成では、処理室内に、遮蔽部材と基板支持部で囲んだリング状空間を形成し、このリング状空間内に反応性ガスを導入することによって、反応性ガスのターゲットへの流れを規制し、ターゲットの酸化や窒化を抑制している。
【0014】
【特許文献1】特開平10−030179号公報
【特許文献2】特開2005−171328号公報(段落0006)
【特許文献3】特開2003−129236号公報(段落0006)
【特許文献4】特開2005−226130号公報(段落0019,0026,0028)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
上記したように、メタルモード成膜では、金属のスパッタリング効率が酸化物に比べて圧倒的に高いことから、成膜速度が大きく取れるという大きな利点がある一方、酸素雰囲気中でターゲット表面を常に安定に金属の状態で保つことが難しいという問題があり、この問題を解決する手段として、特許文献2ではターゲットの下流側に粒子分布を制御する遮蔽リングの機構を設けている。
【0016】
この遮蔽リングの機構は、成膜速度の低減することで試料基板への酸素供給時間を長くすること、反応室(試料室)側からターゲットへの酸素の供給を抑制することでターゲット表面の酸化を防ぐことによって、メタルモード成膜を安定化している。
【0017】
しかしながら、この遮蔽リング機構によるメタルモード成膜の安定化は、ECRプラズマ成膜装置の構成において、プラズマが流れ込む反応室(試料室)内に反応性ガスを導入し、反応室内の基板の近傍で酸素活性種(ラジカル)を形成してターゲット粒子を基板上に成膜させる構成において有効であり、必ずしも他の構成のECRプラズマ成膜装置において有効とはならない。
【0018】
ECRプラズマ成膜装置において、ターゲットよりも上流のプラズマ生成室に反応性ガスを導入して酸素活性種(ラジカル)を形成し、Arイオンと共に反応室(試料室)内に導入し、Arイオンでターゲットをスパッタしてスパッタ粒子を発生させて基板に飛来させると共に、酸素活性種(ラジカル)を基板に送ることによってターゲット粒子を基板上に成膜させる構成では、遮蔽リング機構によって反応室(試料室)側からターゲットへの酸素の供給抑制という作用を適用することができず、メタルモード成膜を安定化させることはできない。
【0019】
図8は、イオンと酸素活性種(ラジカル)とをプラズマ生成室から反応室(試料室)内の供給する構成を示している。この構成において、ターゲット113の下流側の基板112との間に遮蔽リング200を設けると、酸素活性種(ラジカル)Oの流れは遮蔽リング200によって制限され、基板112に供給される酸素活性種(ラジカル)Oの流量が低下することになる。
【0020】
図8に示すように、ターゲットの下流側に遮蔽リング機構を設けた場合には、プラズマ中の酸素活性種(ラジカル)はターゲット表面を通過して基板側に流れるため、酸素流量を増やしていくと酸素活性種(ラジカル)のターゲット表面の濃度は高くなり、所定量を超えた段階で急激にターゲット表面が酸化され、成膜レートが急激に低下してメタルモードから酸化物モードに移行する。この酸化物モードでは、基板は酸化物のターゲット粒子で成膜される。この酸化物モード成膜は不完全酸化物であり、完全な酸化に至らない。
【0021】
また、基板に供給される酸素活性種(ラジカル)は遮蔽リング機構によって制限されるため、基板の表面付近の酸素活性種(ラジカル)の濃度が低くなって成膜レートが低下するおそれがある。
【0022】
このため、従来のECRスパッタ装置では、酸化物薄膜を得るための反応性スパッタにおいて、成膜レートを高めるために酸素流量を増加させると、メタルモード領域から酸化物モードに移行し、メタルモード領域での完全酸化膜を生成することが困難であるという問題がある。また、酸化物モード成膜は不完全酸化物であるため、成膜の吸収係数kは大きくなり、高い反射特性を得ることができないという問題がある。
【0023】
そこで、本発明は前記した従来の問題点を解決し、プラズマ生成室内のECRプラズマで生成したプラズマを反応室に導入し、プラズマ中のイオンによるターゲットのスパッタにより発生するスパッタ粒子と、プラズマ中の酸素活性種(ラジカル)とによって基板を成膜するECRプラズマ成膜装置において、ターゲットから金属元素を金属の状態で放出させて成膜するメタルモード成膜を安定化させることを目的とする。
【0024】
より詳細には、ターゲットの酸素活性種(ラジカル)による酸化を低減し、メタルモード成膜から酸化物モード成膜への移行を抑制し、これによって、ターゲットから酸化状態になく金属状態のままの金属元素をターゲット粒子として放出させ、このターゲット粒子の基板表面での酸化を促進することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0025】
本発明は、プラズマ生成室から基板に向かいプラズマの流路において、プラズマ中の酸素活性種(ラジカル)の流れを制御することによって、ターゲット表面での急激な酸化を抑制するともに、基板表面での酸化反応を促進することによって、メタルモード成膜を安定化させる。
【0026】
本発明によるプラズマ中の酸素活性種の流れの制御は、磁場によって基板方向に輸送されるプラズマの流動比率を変更し、ターゲット表面に向かう比率を下げ、基板に向かう比率を上げることで行う。基板方向に向かうプラズマとターゲット方向に向かうプラズマの流動比率を変更することによって、ターゲット表面に向かう酸素活性種の量を抑制すると共に、基板に向かう酸素活性種の量を相対的に増大させる。
【0027】
ターゲット表面に向かう酸素活性種の量を抑制することによって、ターゲット表面での急激な酸化を抑制し、基板に向かう酸素活性種の量を増すことによって基板表面での酸化反応を促進する。
【0028】
本発明は、プラズマ生成室内のECRプラズマで生成したプラズマを反応室に導入し、プラズマ中のイオンによりターゲットをスパッタしてスパッタ粒子を発生させ、このスパッタ粒子とプラズマ中の酸素活性種とによって基板を成膜するECRプラズマ成膜装置において、反応室内に、プラズマが基板に向けて流れる流路に沿って配置するターゲット電極と、プラズマに流れを制御するシールドとを備える。
【0029】
本発明のシールドは、基板方向に向かうプラズマとターゲット方向に向かうプラズマの流動比率を変更することによって、プラズマ中の酸素活性種(ラジカル)の流れを制御するものである。このシールドは、ターゲット電極が基板と対向する面を除くターゲット電極の周囲を囲むと共に、ターゲット電極との間に所定距離を開けて配置する。さらに、シールドの特徴的なものとして、シールドがプラズマの流路と対向する面は、ターゲット電極がプラズマの流路と対向する面よりも基板方向に延出した構成を備える。
【0030】
本発明が備えるシールドは、プラズマの流路と対向する面が、ターゲット電極がプラズマの流路と対向する面よりも基板方向に延出した構成とすることによって、基板方向に向かうプラズマとターゲット方向に向かうプラズマの流動比率を変更し、ターゲット方向に向かうプラズマの量を低減させ、基板方向に向かうプラズマの量を増加させる。
【0031】
このシールドによって、ターゲットに向かう酸素活性種の量は相対的に減少するが、ターゲットをスパッタするプラズマ中にイオンは、ターゲットに印加した負のバイアス電位によって引かれるため、ターゲット表面では、基板表面でメタルモード成膜を行うに充分な量の金属元素状態のターゲット粒子を放出することができる。
【0032】
一方、プラズマ中の酸素活性種は電気的に中性な状態にあるため、ターゲットの負のバイアス電位によって引かれることなく、シールドに沿って基板方向に案内される。
【0033】
また、シールドは、ターゲット電極と所定距離を開けて配置されると共に、絶縁あるいはアースされる。シールドとターゲット電極との間の距離は、アーク放電が生じない距離に設定することができる。シールドとターゲット電極との間のアーク放電を抑制することによって、アーク放電で放出される微粒子の発生を抑制し、また、ターゲット電極の損傷を防ぐことができる。
【0034】
本発明の一形態において、ターゲット電極は、プラズマの流路側の内径面と、この内径面の径よりも大径の外径面と、基板と対向する面を傾斜面とを有する断面形状が台形の環状電極とし、シールドは、この傾斜面を除くターゲット電極の周囲を囲むと共に、ターゲット電極の内径面と対向する面を、この面と対向するターゲット電極の内径面よりも基板方向に延出させる構成とする。
【0035】
本発明の他の形態において、ターゲット電極は、プラズマの流路側の内径面と、基板と対向する面を平面とを有する断面形状が矩形の環状電極とし、シールドは、この平面を除くターゲット電極の周囲を囲むと共に、ターゲット電極の内径面と対向する面を、この面と対向するターゲット電極の内径面よりも基板方向に延出させる構成とする。また、シールド電極の内径は、プラズマの流路方向に同一径とすることができる。
【0036】
本発明の各形態は、シールドがプラズマと対向する面を、ターゲット電極の内径面よりも基板方向に延出させる構成とすることによって、ターゲット方向に向かうプラズマの量を低減させ、基板方向に向かうプラズマの量を増加させる。
【0037】
また、本発明の形態によれば、酸素流量を増加させた場合であっても、シールドがターゲット表面に向かう酸素活性種の量の増加を抑制するため、ターゲット表面は急激に酸化されることなく金属状態のターゲット粒子が放出され、基板表面において成膜レートが高いメタルモード領域において酸化膜を得ることができる。
【発明の効果】
【0038】
本発明によれば、プラズマ生成室内のECRプラズマで生成したプラズマを反応室に導入し、プラズマ中のイオンによるターゲットのスパッタにより発生するスパッタ粒子と、プラズマ中の酸素活性種(ラジカル)とによって基板を成膜するECRプラズマ成膜装置において、ターゲットから金属元素を金属の状態で放出させて成膜するメタルモード成膜を安定化させることができる。
【0039】
より詳細には、ターゲットの酸素活性種(ラジカル)による酸化を低減し、メタルモード成膜から酸化物モード成膜への移行を抑制し、これによって、ターゲットから酸化状態になく金属状態のままの金属元素をターゲット粒子として放出させ、このターゲット粒子の基板表面での酸化を促進することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0040】
以下、本発明の実施の形態について、図を参照しながら詳細に説明する。
【0041】
図1は、本発明のECRスパッタ装置の構成例を説明するための概略図である。
【0042】
ECRスパッタ装置1は、ECRプラズマを生成するためのプラズマ生成室2と、成膜対象物である基板12が収容される反応室3とを備えている。プラズマ生成室2と反応室3とはプラズマ引き出し開口2aを介して連通しており、反応室3は真空ポンプ(図示していない)により排気口6から真空排気される。
【0043】
プラズマ生成室2には、マイクロ波導入孔4、ガス導入口7、および空芯の磁場コイル5が設けられている。高周波電源8で発生されたマイクロ波は、発振器およびEHチューナー9でインピーダンス整合された後、マイクロ波導波管10を通して導かれ、マイクロ波導入孔4のマイクロ波導入窓(図示していない)を通してプラズマ生成室2内に導入される。
【0044】
プラズマ生成室2は、2.45GHzのマイクロ波に対して空洞共振器として機能するように構成している。磁場コイル5により87.5(mT)の磁場を生成し、周波数2.45GHzのマイクロ波をマイクロ波導入窓から導入する。
【0045】
プラズマ生成室2のガス導入口7には、ガスラインL1,L2によりガスが供給される。ガスラインL1はアルゴンガスを供給し、ガスラインL2は酸素ガスを供給する。ガスラインL1にはバルブB1を設け、バルブB1を開閉することによってアルゴンガスの供給を制御する。また、ガスラインL2には、バルブB2を設け、バルブB2を開閉することによって酸素ガスの供給を制御する。また、マスフローコントローラM1、マスフローコントローラM2は、アルゴンガスおよび酸素ガスの流量を制御する。
【0046】
一方、反応室3内には、ターゲット電極13と、このターゲット電極13の一部の面を除いて周囲を囲むシールド20と、基板12を保持する基板支持部11とを設ける。ターゲット電極13は、例えば、プラズマの流路側の内径面と、この内径面よりも大径の外径面と、基板と対向する面を傾斜面とを有した断面形状が台形の環状電極とし、中央部分に貫通口が形成されたコーン形状の形状とする他、プラズマの流路側の内径面と、基板と対向する平面とを有した断面形状が矩形の環状電極とし、中央部分に貫通口が形成された円盤状の形状とすることができる。
【0047】
このターゲット電極13の中央部分に形成された貫通口は、プラズマ生成室のプラズマ引き出し開口2aと基板12との間に配置され、プラズマ引き出し開口2aからのプラズマが流れ流路を形成する。
【0048】
ターゲット電極13の材料は、例えばアルミを使用する。ターゲット電極13はDC電源14と接続し、ターゲット電極13にDCパルス電圧を印加することができる。この場合、ターゲット電極13には、電極の電位がプラズマに対してマイナス電位となるように、例えば、−200〜−800Vの電圧を印加する。なお、ターゲット電極13にはDCパルス電圧の代りに、正極側を接地し、負極側をターゲット電極13に接続した高周波電源を用いて高周波電圧を印加してもよい。
【0049】
基板支持部11には、基板12を軸回転する駆動機構を設けてもよい。また、基板支持部11に高周波電源15と接続し、基板支持部11の電位がプラズマに対してマイナス電位になるように高周波電圧を印加する。アーキングが発生しなければ高周波電源の代りにDC電源を使用してもよい。
【0050】
プラズマ処理は、真空排気装置(図示しない)によって反応室3およびプラズマ生成室2内を所定圧力に減圧し、磁場コイル5に直流電流を供給してプラズマ生成室2内に87.5mTの磁場を生成し、ガス導入口7から反応室3およびプラズマ生成室2内に反応性ガスを導入し、高周波電源8で発振させ発振器およびEHチューナー9でインピーダンス整合させた2.45GHzのマイクロ波をマイクロ波導入孔4の窓からプラズマ生成室2内に導入する。
【0051】
反応性ガスは、マイクロ波の電界と磁場コイル5の磁場を875ガウスとすることによって電子サイクロトロン共鳴による高密度プラズマが生成され、正イオンと電子に分離する。
【0052】
プラズマ生成室2内では、ECRによってアルゴンガスがイオン化して高密度なプラズマが生成される。さらに酸素ガスをプラズマ生成室2に供給すると、ECRによって酸素ガスが活性化して酸素活性種(ラジカル)が生成される。プラズマ中には電子、アルゴンイオン、励起状態のアルゴン、アルゴン原子、酸素活性種、酸素原子が存在する。
【0053】
プラズマ内において、移動度の大きな電子は磁場コイル5により形成された発散磁界の磁力線に沿って引き出し開口2aから反応室3内に移動する。電子は軽量であるため高速で運動し、短時間でプラズマから抜け出して壁部に衝突して消滅する。一方、正イオンは電子に比べて質量が大きく低速であるため、プラズマ中に長く存在する。これにより、プラズマは全体として正の電荷となり、イオンシースを形成する。基板12を支持する基板支持部11は、このイオンシースの正電荷に誘引されて負電荷が蓄積され、負の自己バイアス電圧が発生する。
【0054】
その結果、プラズマ生成室2のプラズマから見ると反応室3の電子が存在する空間はマイナス電位となっているため、プラズマ中のアルゴンイオンは磁場コイル5の発散磁界の磁力線に沿って反応室3へ移動する。また、酸素活性種(ラジカル)は拡散によって反応室3へ移動する。このようにして反応室3にプラズマは引き出される。
【0055】
マイナス電位となるようにターゲット電極13に電圧を印加すると、アルゴンイオンは、ターゲット電圧による電界によってターゲット電極13の方向に加速され、ターゲット電極13の表面に入射する。加速されたアルゴンイオンがターゲット電極13に入射すると、スパッタ現象によりアルミのスパッタ粒子がターゲット電極13から基板12の方向に放出される。
【0056】
基板12には、ターゲット電極13から放出されたアルミの酸化されていない金属状態の粒子と、プラズマ中の酸素活性種(ラジカル)とが存在し、これらが反応してメタルモード成膜が行われ、基板12の表面にアルミ薄膜が成膜される。
【0057】
シールド20は、ターゲット電極13が基板12と対向する面を除くターゲット電極13の周囲を囲むと共に、ターゲット電極13との間に所定距離を開けて配置する。
【0058】
図2はシールド20の一構成例を示している。
【0059】
図2において、ターゲット電極13は、プラズマの流路側の内径面13aと、この内径面13aの径よりも大径の外径面13bと、基板12と対向する傾斜面13cとを有する断面形状が台形の環状電極である。一方、シールド20は、傾斜面13cを除くターゲット電極13の周囲を囲むと共に、ターゲット電極13の内径面13aと対向する内径面20aは、この内径面20aと対向するターゲット電極13の内径面13aよりも基板方向に延出して形成される。内径面20aの延出した長さは、その全長Dが少なくともターゲット電極13の内径面13aの長さdよりも長尺とし、例えば、内径面13aと外径面13bとの中間の長さよりも長尺とする。
【0060】
なお、この内径面20aの延出する長さは、ターゲット電極13の形成、プラズマが流れる流路径、プラズマが移動する速度等に応じて定めることができる。また、内径面13aの内径は、プラズマの流路に沿って同一径とすることができる。
【0061】
図3はシールド20による作用、特に延出面による作用を説明するための図である。図3(a)は延出面を有するシールドの場合を示し、図3(b)は延出面を有さないシールドの場合を示している。なお、図3では、プラズマ生成室から基板12に向かうプラズマ中にアルゴンイオン(Ar)と、酸素活性種として酸素ラジカル(O)が含まれる場合を示している。ここで“”は活性種であることを示している。
【0062】
図3(a)において、プラズマ中のアルゴンイオン(Ar)は、基板12の方向に移動する間に、DC電源14によって負電位に印加されたターゲット電極13に誘引される。このとき、ターゲット電極13は、傾斜面13cを除く周囲の面はシールド20によって囲まれ、このシールド20は絶縁あるいはアースされているため、アルゴンイオン(Ar)は傾斜面13cのみに入射する。アルゴンイオン(Ar)はターゲット電極13の傾斜面13cに入射し、この傾斜面13cをスパッタして、ターゲットの金属原子を放出する。
【0063】
一方、プラズマ中の酸素ラジカル(O)は、ターゲット電極13の内径面13aと対向するシールド20の内径面20aにガイドされて基板12の方向に移動する。酸素ラジカル(O)は電気的に中性であるため、ターゲット電極13に誘引されることなく、基板12の方向に移動する。このとき、シールド20の内径面20aは、基板12の方向に延出した部分によって、酸素ラジカル(O)をターゲット電極13側に拡散させることなく、基板12方向に導く。
【0064】
これによって、酸素ラジカル(O)がターゲット電極方向と基板方向に流れる流動比率を変更し、相対的に、ターゲット電極13の表面に到達する酸素ラジカル(O)を低減させ、基板12の表面に到達する酸素ラジカル(O)を増大させる。
【0065】
ターゲット電極13の表面では酸素ラジカル(O)の到達量が相対的に減少するため、仮に、酸素流量が増加した場合であっても、酸素ラジカル(O)によるターゲット電極が急激に酸化することを抑制し、ターゲット電極表面から放出されるターゲット粒子を金属のままとし酸化物の状態となることを抑制する。
【0066】
また、基板12の表面では酸素ラジカル(O)の到達量が相対的に増大するため、酸素ラジカル(O)の濃度が高まり、ターゲット電極13から放出されたターゲット粒子をメタルモード領域で完全酸化させて成膜することができる。
【0067】
一方、図3(b)において、プラズマ中のアルゴンイオン(Ar)は、基板12の方向に移動する間に、DC電源14によって負電位に印加されたターゲット電極13に誘引される。このアルゴンイオン(Ar)の誘引動作、およびアルゴンイオン(Ar)のスパッタによるターゲット粒子の放出動作は図3(a)の場合と同様である。
【0068】
一方、プラズマ中の酸素ラジカル(O)は、ターゲット電極13の内径面13aと対向するシールド20の内径面20a′を通過した後、拡散する。このとき、シールド20の内径面20a′がターゲット電極13の内径面13aと対向するだけの長さである場合には、酸素ラジカル(O)は、シールド20の内径面20a′を通過した後、基板12の方向に移動する他に、ターゲット電極13の傾斜面13cの方向にも拡散する。このため、ターゲット電極13の傾斜面13cには、拡散したプラズマが流れこみ、相対的に、ターゲット電極13の表面に到達する酸素ラジカル(O)が増え、基板12の表面に到達する酸素ラジカル(O)が減少する。
【0069】
ターゲット電極13の表面では酸素ラジカル(O)の到達量が相対的に増大するため、仮に、酸素流量が増加した場合には、酸素ラジカル(O)によるターゲット電極が急激に酸化され、ターゲット電極表面ではメタルモード領域から酸化物モード領域に移行し、ターゲット電極13の傾斜面13cから放出されるターゲット粒子は酸化物となる。
【0070】
また、基板12の表面では酸素ラジカル(O)の到達量が相対的に減少するため、酸素ラジカル(O)の濃度が低下し、ターゲット電極13から放出されたターゲット粒子をメタルモード領域で完全酸化させて成膜することが困難となる。
【0071】
図4はシールド20の別の構成例を示している。この構成例は、断面が平板状のターゲット電極に対応するシールドの例である。
【0072】
図4において、ターゲット電極13は、プラズマの流路側の内径面13aと、基板12と対向する平面13dとを有する断面形状が略矩形形状の環状電極であり、図4(a)の示す例は、ターゲット電極13の平面13dが基板12と平行に設置される配置例であり、図4(b)の示す例は、ターゲット電極13の平面13dが基板12に対して斜めに設置される配置例である。
【0073】
シールド20は、平面13dを除くターゲット電極13の周囲を囲むと共に、ターゲット電極13の内径面13aと対向する内径面20aは、この内径面20aと対向するターゲット電極13の内径面13aよりも基板方向に延出して形成される。内径面20aの延出した全長のる長さDは、少なくともターゲット電極13の内径面13aの長さdよりも長尺とする。また、ターゲット電極13を傾斜して配置する場合には、例えば、内径面13aと外径面13bとの中間の長さよりも長尺とする。
【0074】
なお、この内径面20aの延出する長さは、ターゲット電極13の形成、プラズマが流れる流路径、プラズマが移動する速度等に応じて定めることができる。また、内径面13aの内径は、プラズマの流路に沿って同一径とすることができる。
【0075】
図5は、本発明のシールド構造による効果を説明するための図である。図5において、横軸は、プラズマ生成室内に導入する酸素流量を示し、酸素流量sccmは一定温度で規格化された1分間あたりで表した流量cc(cm3)/minを示している。また、縦軸は成膜レート(Å/sec)、成膜の吸収係数kを表している。
【0076】
図5において、酸素流量が少ない場合にはメタルモード領域で成膜され、図5中のCで示す高い成膜レートを示す。一方、酸素流量が増加するとメタルモード領域から酸化物モード領域に移行して成膜が行われ、図5中のDで示すように成膜レートが低下する。また、成膜の光学特性を評価する吸収係数kは、酸素流量が増加するほど低い値となる。
【0077】
したがって、基板上に成膜する酸化物薄膜の吸収係数kを下げると共に、高い成膜レートを実現するには、図中のCで示すメタルモード領域において、酸素流量を多くする必要がある。しかしながら、酸素流量を増大させると、メタルモード領域から酸化物領域に移行して成膜レートが低下する。そのため、メタルモード領域から酸化物領域に移行するときの酸素流量ができるだけ多くなる特性が望ましい。
【0078】
AとBの特性を比較すると、大きな酸素流量においてメタルモード領域から酸化物領域に移行する特性Bによれば、高い成膜レートと吸収係数kの両方を満たすことができる。
【0079】
図5中の破線Aは、図3(b)の構成に示すように、シールド20の内径面20aの長さをターゲット電極13の内径面13aの長さとほぼ同程度とした構成において、酸素流量を増加させたときの成膜レートの変化を示している。また、図5中の実線Bは、図3(a)の構成に示すように、シールド20の内径面20aの長さをターゲット電極13の内径面13aよりも長く設定し、シールド20の内径面20aを基板側に延出させた構成において、酸素流量を増加させたときの成膜レートの変化を示している。
【0080】
したがって、シールド20の内径面20aを基板側に延出させた構成とすることで、高い成膜レートと低吸係数kの両方を満たす特性を得ることができる。
【0081】
次に、図6に本発明による成膜例を示す。ここでは成膜条件は以下の通りである。
成膜物質 :Al
ターゲット:高純度アルミ
導入ガス :Ar、O
成膜時圧力:0.1〜0.3パスカル
マイクロ波電力:500〜1000W
ターゲットバイアス電力:100〜200W
【0082】
図6において、横軸は、プラズマ生成室内に導入する酸素流量sccmを示し、縦軸は成膜レート(Å/sec)、成膜の吸収係数k、屈折率nを表している。
【0083】
図3(b)の構成に示すように、シールド20の内径面20aの長さをターゲット電極13の内径面13aの長さとほぼ同程度とした構成の場合には、図6中のEで示す酸素流量のあたりでメタルモード領域から酸化物領域に移行して成膜レートが低下するのに対して、本発明のシールド構成のように基板側に延出さることで、メタルモード領域から酸化物領域に移行する酸素流量を増大させ、成膜の吸収係数kを下げることができる。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】本発明のECRスパッタ装置の構成例を説明するための概略図である。
【図2】本発明のシールドの構成例を示す図である。
【図3】本発明のシールドによる作用を説明するための図である。
【図4】本発明のシールドの別の構成例を示す図である。
【図5】本発明のシールド構造による効果を説明するための図である。
【図6】本発明による成膜例の酸素流量と成膜レートとの関係を示す図である。
【図7】従来のECRスパッタ成膜装置の概略構成を示す図である。
【図8】従来の遮蔽リングを備えるECRスパッタ成膜装置の概略構成を示す図である。
【符号の説明】
【0085】
1…ECRスパッタ装置、2…プラズマ生成室、2a…プラズマ引き出し開口、3…反応室、4…マイクロ波導入孔、5…磁場コイル、6…排気口、7…ガス導入口、8…高周波電源、9…発信器及びEHチューナー、10…導波管、11…基板支持部、12…基板、13…ターゲット電極、13a…内径面、13b…外径面、13c…傾斜面、13d…平面、14…バイアス電源、15…高周波電源、20…シールド、20a、20a′…内径面、101…スパッタ成膜装置、102…プラズマ生成室、103…反応室、104…マイクロ波導入孔、105…磁場コイル、106…排気口、107…ガス導入口、111…基板支持部、112…基板、113…ターゲット、200…遮蔽リング、B1…バルブ、B2…バルブ、L1,L2…ガスライン、M1,M2…マスフローコントローラ、k…吸収係数、n…屈折率。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラズマ生成室内のECRプラズマで生成したプラズマを反応室に導入し、プラズマ中のイオンによりターゲットをスパッタしてスパッタ粒子を発生させ、当該スパッタ粒子とプラズマ中の酸素活性種とによって基板を成膜するECRプラズマ成膜装置において
前記反応室内に、
前記プラズマが基板に向けて流れる流路に沿って配置するターゲット電極と、
前記ターゲット電極が前記基板と対向する面を除くターゲット電極の周囲を囲むと共に、当該ターゲット電極との間に所定距離を開けて配置するシールドとを備え、
前記シールドが前記プラズマの流路と対向する面は、前記ターゲット電極がプラズマの流路と対向する面よりも基板方向に延出していることを特徴とする、ECRスパッタ装置。
【請求項2】
前記ターゲット電極は、前記プラズマの流路側の内径面と、当該内径面の径よりも大径の外径面と、前記基板と対向する面を傾斜面とを有する断面形状が台形の環状電極であり、
前記シールドは、前記傾斜面を除くターゲット電極の周囲を囲むと共に、前記ターゲット電極の内径面と対向する面は、当該面と対向するターゲット電極の内径面よりも基板方向に延出することを特徴とする、請求項1に記載のECRスパッタ装置。
【請求項3】
前記ターゲット電極は、前記プラズマの流路側を内径面と、前記基板と対向する平面とを有する断面形状が略矩形の環状電極であり、
前記シールドは、前記平面を除くターゲット電極の周囲を囲むと共に、前記ターゲット電極の内径面と対向する面は、当該面と対向するターゲット電極の内径面よりも基板方向に延出することを特徴とする、請求項1に記載のECRスパッタ装置。
【請求項4】
前記シールド電極の内径面の径は、前記プラズマの流路方向に沿って同一径であることを特徴とする、請求項1から3のいずれか一つに記載のECRスパッタ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−179826(P2009−179826A)
【公開日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−17778(P2008−17778)
【出願日】平成20年1月29日(2008.1.29)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】