説明

EGRバルブ構造

【課題】エアクリーナからインテークマニホールドに至る間の吸気通路内で再循環ガスを吸気に戻して燃焼温度を下げようとすると、再循環ガス中のカーボン(煤)がEGRバルブやバルブに対する弁座に付着し、EGRバルブの作動性が低下するという課題があった。
【解決手段】エンジン回転数の高い場合等、比較的車両の発生音が大きい時に、EGRバルブのバルブ部材をバルブ開閉方向で開口部と重なる位置(パーシャルの位置)に保持し、脈動する再循環ガスがバルブと弁座の隙間を流れる際に、バルブが弁座と接触し、振動させ、バルブに付着した煤を払い落とす。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンの排気ガスを吸気通路に戻すEGRバルブの構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
内燃機関で発生するNOなどの排気ガスは、環境汚染を促進する物質として排出を低減するように努力されている。この効果的な方法の1つに、排気ガスの一部を吸気側に返すEGR(Exhaust Gas Recirculation)がある。EGRの技術は以下の原理に基づくものである。まず、窒素は安定な元素であるが、超高温下では酸素と反応してNOを生成する。つまり、燃焼室での燃焼が超高温になるためNOが生成すると言える。そこで、すでに燃焼したガスの一部を吸気に戻す(以後「再循環ガス」と呼ぶ。)ことで、吸気中の酸素割合を減少させ、内燃機関中の燃焼温度を下げることで、NOの生成を抑制する。
【0003】
一方、EGRは吸気中の酸素濃度を低下させるものなので、馬力の低下や、不完全燃焼による炭素の生成という問題が生じる。従って、EGRはむやみに使用すればよいという技術ではなく、再循環ガスを吸気に戻す頻度やタイミングを調節する必要がある。そのため、再循環ガスの戻り系の配管中には、EGRバルブが配置され、吸気に混ぜる再循環ガスを制御している。
【0004】
ところで、このEGRバルブは、常時再循環ガスに曝されるため、煤(カーボン)が付着しやすい。煤が付着すると、EGRバルブの開閉が出来なくなるという課題が生じていた。この課題に対しては、いくつかの解決手段が提案されている。
【0005】
特許文献1は、弁体(バルブ)の先端に、排気還流弁口の内径より小径のスクラッチ部を設けた排気還流制御装置が開示されている。この発明によると、弁体が上下して排気還流弁口を開閉する度に、スクラッチ部が排気還流弁口の内壁面に付着した煤を掻き落とし、煤の固着を防止する。
【0006】
また、特許文献2は、弁子(バルブ)を有する弁軸が、回転可能にダイヤフラムに支承され、その弁軸の先端にはインペラが取り付けられているEGRバルブが開示されている。この発明によると、弁子が開き、再循環ガスが流れると、インペラが再循環ガス吸入口の内壁に沿って回転し、煤の固着を防止する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】実開昭62−6282号公報
【特許文献2】実開昭58−44465号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記のように、EGRバルブの煤固着の回避に、物理的に煤を払い落すのは、効果的である。しかし、特許文献1の発明では、内燃機関の低回転域から中回転域において、排気還流弁口内にスクラッチ部が形成されたバルブの先端が残っている。したがって、スクラッチ部が排気還流弁口と当接し、異音が発生するという課題が生じる。
【0009】
また、特許文献2では、弁軸が回転可能にダイヤフラムに支承されているので、弁子(バルブ)自体は回転するだけである。インペラは再循環ガス吸入口の内壁面の煤の掻き落としには効果がある。しかし、一度弁子自体に付着した煤はそのまま固着し、除去できなくなるという課題があった。
【0010】
また、特許文献1および2のいずれの発明においても、EGRバルブの先端に別部材を付加する必要があり、コストアップという課題も生じる。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は上記の課題に鑑み想到されたものであり、別部材を使用することなく、EGRバルブに付着する煤を物理的に除去できる、EGR構造を提供することを目的とする。
【0012】
具体的には、本発明は、
エアクリーナから内燃機関のインテークマニホールドにエアを送る吸気通路の途中に設けられた開口部をバルブ部材が開閉するEGRバルブ構造であって、
内燃機関の所定の運転状態(領域)において、前記バルブ部材が、前記バルブの開閉方向で前記開口部と重なる位置に保持されることを特徴とするEGRバルブ構造を提供するものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、上記の構成を有するので、エンジン回転数が上がった時等、車両の発生音が大きい時に、EGRバルブを少しだけ開き、再循環ガスの脈動でEGRバルブを開口部の縁と衝突させることで、EGRバルブ周辺に付着した煤を除去するので、別部材を必要としない。すなわち、コストや重量増加なしに煤を除去することができるという効果を奏する。
【0014】
また、本発明を減速時に用いた場合は、排気ガス中の煤成分の増加、いわゆるスモーク量への影響なく、煤成分のバルブへの付着を防止できるという効果がある。また、車両の発生音が大きい時にEGRバルブを開口部の縁と衝突させるため、EGRバルブの振動が異音として聞こえないという効果も奏する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明のEGRバルブ構造の配置を示す図である。
【図2】本発明のEGRバルブ構造の断面図を示す図である。
【図3】本発明のバルブ位置を示す図である。
【図4】制御装置の処理を例示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1を参照して、本発明のEGR構造は、エアクリーナ2(図示せず)からエンジンのインテークマニホールド3(図示せず)に至るインテークエアコネクタ(吸気通路)10に形成される。なお、本明細書では説明上エアクリーナ2側を上流と呼び、インテークマニホールド3側を下流と呼ぶ。インテークエアコネクタ10には、再循環ガスをインテークエアコネクタ10内に導入するための再循環ガス流入口である開口部13が設けられている。開口部13には再循環ガス配管14が接続されており、エンジンの排気側5に連結されている。
【0017】
従って、吸気7はエアクリーナ2側からインテークマニホールド3側に向かって流れる。そして、その吸気7に再循環ガスが混入され、吸気7aとなりインテークマニホールド3へ流れる。
【0018】
図2に開口部13を拡大した図を示す。EGRバルブ20は、インテークエアコネクタ10内の開口部13と対向する内壁から、インテークエアコネクタ10内を横断して開口部13に向けて配置されている。シャフト駆動部23は、制御装置50からの指示によって、シャフト22をその軸方向に移動させる。シャフトの先端にはバルブ部材21が配設されている。
【0019】
開口部13は、インテークエアコネクタ10の内壁に形成された貫通孔である。そして、開口部13には、バルブ部材21を受ける弁座30が形成されている。弁座30は、インテークエアコネクタ10の内壁に直接形成されていてもよいし、別部材で形成されていてもよい。
【0020】
バルブ部材21は、外径の異なる円筒形が中心軸を同じくして連結された形状であり、大径と小径の円筒形の間に階段状の段差が形成されている。大径の円筒型の側面が弁体の外側面24であり、小径の円筒形の側面が弁体の内側面26となる。外側面と内側面の間に弁座との当たり面25が形成されている。なお、バルブ部材21は、複数の部材を連結して形成するだけでなく、一体的に形成されていてもよい。
【0021】
弁座30は開口部13に形成されており、以下のようにバルブ部材21に対応した階段状の段差を有する。インテークエアコネクタ10の内壁側の開口部上面33には、バルブ部材21の外側面24を形成する大径より大きな凹みが形成される。そして、凹みの底には、凹みの径より小さく、再循環ガス配管14に繋がる貫通孔が形成される。すなわち、貫通孔の縁には、段差が形成される。凹みの内壁はバルブ規制面34であり、段差面はバルブ受け面35、貫通孔の内壁は開口部内壁36と呼ぶ。なお、開口部内壁36の内径は、弁体の内側面26の外径より大きく形成されている。
【0022】
以上のようにシャフト22が下がるとバルブ部材21の当たり面25が弁座30の受け面35に当接し、再循環ガスはインテークエアコネクタ10に導入されない。これを閉位置と呼ぶ。また、シャフト22が上がり、バルブ部材21が弁座から完全に離れると、再循環ガスがインテークエアコネクタ10内に導入される。この時のバルブ部材の位置を開位置と呼ぶ。
【0023】
制御装置50は通常ECU(Engine Control Unit)が用いられるが、他の専用の制御装置を用意してもよい。制御装置50は、エンジン側4からのエンジン回転数に関する信号と、車軸若しくは駆動系からの速度に関する信号(これらをまとめてSgとする)を受信する。そして、これらの信号Sgに基づいて、バルブ部材21の開閉を行う。開閉は制御装置50からの開閉信号Sbによって行われる。
【0024】
図3は、本発明のEGRバルブ構造が、作動している状態を示す。制御装置50は、エンジン回転数が高い場合の他、車速が高速若しくは高速からの減速時であることを判断すると、シャフト駆動部23に指示信号Sbpを送る。この指示信号Sbpは、通常使われるバルブ部材21を開位置に保持する信号でもなく、閉位置に保持する信号でもない本発明固有の位置に保持するための信号である。
【0025】
この指示信号Sbpを受信すると、シャフト駆動部23は、バルブ部材21を少しだけ浮かせた位置に配置させる。この位置では、バルブ部材21の当たり面25は、弁座30の受け面35に当接せず、なおかつ開口部上面33よりバルブ開方向には位置しない。つまり、図3の断面形状を参照して、バルブ部材21は、バルブ部材21の開閉方向で開口部13と重なる位置に保持されている。より詳しくは、バルブ部材21の開閉方向において、バルブ部材21の当たり面25が、弁座30のバルブ受け面35から開口部上面33の間に位置する場合をバルブの開閉方向で開口部と重なる位置、若しくはパーシャル位置と呼ぶ。
【0026】
バルブ部材21がバルブの開閉方向で開口部と重なる位置に保持された場合は、再循環ガスは、再循環ガス配管14からバルブの当たり面25と弁座30のバルブ受け面35の隙間41を通り、バルブの外側面24と弁座30のバルブ規制面34との隙間42を抜けてインテークエアコネクタ10に抜ける。
【0027】
ところで、排気ガスは各気筒から周期的に排出されるので、開口部13の再循環ガス配管14側では、脈動的に圧力が高くなる。また、上記の隙間は狭いので、均等に再循環ガスが抜けることはなく、さらに、長いシャフトの先端にバルブ部材が固定されているので、容易に脈動によって振動を生じる。この振動によってバルブの外側面24や内側面26が弁座30のバルブ規制面34や開口部内壁36と衝突を起こす。この衝突による振動によって、開口部の弁座やバルブに付着した煤は振り落とされる。
【0028】
一方、この振動は、エンジン回転数が高い場合や減速時等、エンジン音やタイヤの走行音といった車両発生音が大きい時に起こすように制御されるので、乗員にはほとんど自覚されず、異音と判断されることはない。
【0029】
図4に制御装置50の動作フローを例示するが、この動作フローに限定されるものではなく、他の処理が適宜導入されていてもよい。制御装置50は、エンジン始動とともに本発明のEGRバルブ制御の処理を開始する(S100)。処理が開始されると、終了判断を行う(S102)。終了判断は、エンジンスイッチが切られた場合でよい。
【0030】
終了判断であった場合(S102のY分岐)は、終了処理(S119)行い、処理を終了する(S120)。終了処理は、少なくともバルブを閉位置に保持することを含めるほか、他の処理を行ってもよい。終了判断でなければ(S102のN分岐)、エンジン回転数や車速等の情報(パラメータ)を読み出す(S104)。次にEGRバルブをパーシャルの位置に保持するか否かを判断する(S106)。
【0031】
この判断の条件としては、エンジン回転数が所定回転数以上(例えば2500rpm以上)であるか、車速が所定速度以上(例えば時速80km以上)であるか、若しくは高速からの減速時にエンジンブレーキが効いている場合と言った条件等(これらを「所定の運転状態(領域)」とも呼ぶ。)が挙げられるが、車両発生音が大きい場合であれば、これらに限定されるものではない。これらの状態では、車両からの発生音が大きくなり、また排気の脈流も高いため高周波域の音になるので、乗員には異音と聞こえないからである。また、減速時であれば、排気ガス中の煤成分を増加させることなく、バルブの煤付着が防止できるという効果もある。
【0032】
パーシャルの位置に保持する場合(S106のY分岐)は、煤落としの処理(S112)に移行する。煤落としの処理(S112)では、バルブ部材をバルブの開閉方向で開口部と重なる位置(パーシャルの位置:図4では「P位置」と記載)に所定時間保持させる。この保持の時間は、0.1〜1秒程度でよく、他の条件によって可変であってもかまわない。保持時間終了後、処理はステップS102に戻る。
【0033】
パーシャルの位置に保持しない場合(S106のN分岐)は、バルブを開く条件であるか否かを判断し(S108)、バルブを開く場合(S108のY分岐)はシャフト駆動部23にバルブを開く信号を送り、バルブを開位置に所定時間保持し(S114)、処理をステップS102に戻す。バルブを開かない場合(S108のN分岐)は、バルブを閉位置に所定時間保持し、ステップS102に戻る。
【0034】
以上の処理を繰り返すことで、所定の条件の場合だけ、バルブは本発明のパーシャルの位置に保持され、振動によって煤の付着は回避される。
【0035】
なお、本明細書では、バルブ部材21がインテークマニホールド中に上がることで、開口部が開くバルブについて説明したが、バルブが再循環ガス配管14中に押し込まれることで開口部が開く構造のバルブであっても、本発明は適用することができる。
【0036】
また、本明細書では、バルブは略階段状の形状を周縁に有するバルブについて説明したが、略階段形状ではなく、バルブの周縁および弁座がテーパ形状であっても本発明を適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明のEGR構造は、車両の吸気システムに好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0038】
1 EGR構造
2 エアクリーナ
3 インテークマニホールド
4 エンジン側
7 吸気(ブローバイガスを含む吸気)
7a 吸気(ブローバイガスおよび再循環ガスを含む吸気)
9 再循環ガス
10 インテークエアコネクタ
13 開口部
14 再循環ガス配管
20 EGRバルブ
21 バルブ部材
22 シャフト
23 シャフト駆動部
24 外側面
25 当たり面
26 内側面
30 弁座
33 開口部上面
34 バルブ規制面
35 バルブ受け面
36 開口部内壁
41 隙間
42 隙間
50 制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エアクリーナから内燃機関のインテークマニホールドにエアを送る吸気通路の途中に設けられた開口部をバルブ部材が開閉するEGRバルブ構造であって、
内燃機関の所定の運転状態(領域)において、前記バルブ部材が、前記バルブの開閉方向で前記開口部と重なる位置に保持されることを特徴とするEGRバルブ構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−252406(P2011−252406A)
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−125200(P2010−125200)
【出願日】平成22年5月31日(2010.5.31)
【出願人】(000002967)ダイハツ工業株式会社 (2,560)
【Fターム(参考)】