説明

FRP成形体の製造方法及び製造システム

【課題】繊維の張力を低減したり、樹脂の粘度を高めることなく、高Vf化を抑制できるFRP成形体の製造方法及び製造システムを提供する。
【解決手段】FRP成形体の製造方法は、フィラメント・ワインディング法によりFRP成形体を製造する方法であって、熱硬化性の樹脂を繊維に含浸させる工程(a)と、中空の回転部材の内部を減圧しながら、樹脂を含浸した繊維を回転部材の周囲に巻き付けることにより、樹脂含浸繊維層を形成する工程(b)とを備える。また、FRP成形体の製造システムは、熱硬化性の樹脂を繊維に含浸させる樹脂含浸部30と、回転部材としてのライナ50を回転駆動する回転駆動部53と、樹脂を含浸した繊維を回転部材の方向に導くことにより、回転部材の周囲に繊維を巻き付ける繊維束ガイド40と、回転部材の内部を減圧する真空ポンプ60とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィラメント・ワインディング法によりFRP(Fiber Reinforced Plastics:繊維強化プラスチック)成形体を製造する方法及びシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、燃料電池システムに用いられる高圧水素タンクの開発が進んでいる。特に、車載用の燃料電池システムにおいては、強度の確保や軽量化等の観点から、FRP製のガスタンクが有力視されている。
【0003】
FRP製のガスタンクは、一般に、フィラメント・ワインディング法(以下、「FW法」という)を用いて製造される。FW法においては、未硬化(液体状又はゲル状)の熱硬化性樹脂を含浸させた繊維(例えば、炭素繊維)を、回転するライナ(内容器)の周囲に数層から数十層巻きつけることにより樹脂含浸繊維層を形成し、この層を加熱することにより樹脂を熱硬化させる。それにより、繊維及び熱硬化樹脂からなる繊維強化プラスチック(FRP)層が形成される。
【0004】
関連する技術として、特許文献1には、内殻の外面を覆うFRP補強層の巻付工程や熱処理工程において、内殻の内部を加圧状態とする耐圧容器の製造方法が開示されている。また、特許文献2には、内殻をその内側から治具によって支持しつつ内殻の外周壁に補強繊維を巻き付けるFRP製耐圧容器の製造方法が開示されている。
【特許文献1】特開2000−186799号公報
【特許文献2】特開平11−147262号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、FW法によって作製されたFRP成形体においては、FRP層の内で比較的外表面に近い側(以下、「外層」という)に比べて、内側、即ちライナに近い側(以下、「内層」という)の繊維体積含有率(fiber volume content:Vf)が高くなる傾向がある。ここで、繊維体積含有率とは、FRP層の単位体積に占める繊維の割合のことである。以下において、繊維体積含有率が高くなる現象のことを「高Vf化」ともいう。
【0006】
高Vf化の主な原因としては、樹脂含浸繊維のライナへ巻き付けが進み、積層量が増加するに従って、樹脂含浸繊維にかかる張力による巻き締め効果により、繊維に含浸させた樹脂が染み出してしまうことが挙げられる。また、FW工程(樹脂含浸繊維の巻き付け工程)の間に受ける遠心力により、樹脂がライナの外側に向かって染み出し易くなる。さらに、樹脂含浸繊維をライナに巻き付ける際には、繊維の張力によってライナが内側に凹むのを避けるために、ライナの内部を加圧するので、内側から外側に向けて、より樹脂が染み出し易くなる。
【0007】
繊維からの樹脂の染み出しを抑制するために、例えば、樹脂含浸繊維の張力を小さくすると、タンクの強度は低下してしまう。或いは、樹脂の粘度を高くしても、樹脂が繊維に染み込み難くなるので、やはりタンクの強度がかえって低下してしまう。そのため、樹脂含浸繊維を巻いている途中での樹脂の染み出しを抑制することは困難であり、現状では、樹脂含浸繊維の張力を設定することにより、Vfも成り行きで決まってしまう。
【0008】
このような内層の高Vf化は、ガスタンクの使用圧力が高圧になるほど顕著となる。ガスタンクに強度を付与するために、樹脂含浸繊維を巻く層数を増やして、繊維強化プラスチック層を厚くする必要があるからである。しかしながら、ガスタンクにおいては内層に最も大きな応力がかかるため、内層のVfが高過ぎると疲労耐久性能が大幅に低下し、内層に亀裂が生じてしまうおそれがある。そのため、内層の高Vf化を抑制し、適切なVfを得られるFRP成形体の製造方法が望まれている。
しかしながら、特許文献1及び2には、FRP層の高Vf化の問題については一切記載されていない。
【0009】
そこで、上記の問題点に鑑み、本発明は、繊維の張力を低減したり、樹脂の粘度を高めることなく、高Vf化を抑制できるFRP成形体の製造方法及び製造システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明の1つの観点に係るFRP成形体の製造方法は、フィラメント・ワインディング法によりFRP成形体を製造する方法であって、熱硬化性の樹脂を繊維に含浸させる工程(a)と、中空の回転部材の内部を減圧しながら、前記樹脂を含浸した繊維を前記回転部材の周囲に巻き付けることにより、樹脂含浸繊維層を形成する工程(b)とを備える。
かかる構成とすることにより、回転部材の内部圧力が外部圧力よりも小さくなるので、この圧力差により、樹脂含浸繊維層における繊維からの樹脂の染み出しが抑制される。
【0011】
ここで、工程(b)において、前記回転部材の外部を加圧しながら前記回転部材の内部を減圧することにより、回転部材の内部と外部との間の圧力差が大きくなるので、繊維からの樹脂の染み出しがさらに抑制される。
【0012】
また、工程(b)においては、前記回転部材の収縮を抑制しながら、前記回転部材の内部を減圧することが望ましい。例えば、前記回転部材の内部を支持体によって支持しても良い。それにより、回転部材の内部と外部との圧力差や繊維の張力等による回転部材の変形を抑制することができる。
【0013】
前記FRP成形体の製造方法は、前記樹脂含浸繊維層を加熱することにより、前記樹脂含浸繊維層を熱硬化させる工程をさらに備えても良い。
【0014】
さらに、熱硬化した前記樹脂含浸繊維層内から回転部材を取り出しても良く、この場合には、ライナレスのFRP成形体を作製することができる。
【0015】
本発明の1つの観点に係るFRP成形体の製造システムは、フィラメント・ワインディング法によりFRP成形体を製造するシステムであって、熱硬化性の樹脂を繊維に含浸させる樹脂含浸部と、回転部材を回転駆動する回転駆動部と、前記樹脂を含浸した繊維を前記回転部材の方向に導くことにより、前記回転部材の周囲に前記繊維を巻き付ける繊維ガイドと、前記回転部材の内部を減圧するポンプとを備える。
このように、ポンプを用いて回転部材の内部圧力を外部圧力よりも小さくするので、この圧力差により、回転部材の周囲に巻き付けられた繊維からの樹脂の染み出しが抑制される。
【0016】
前記FRP成形体の製造システムは、前記回転部材が配置されるチャンバと、前記チャンバ内を加圧する第2のポンプとをさらに備えても良い。それにより、回転部材の内部と外部との間の圧力差がさらに大きくなるので、繊維からの樹脂の染み出しがさらに抑制される。
【0017】
また、前記FRP成形体の製造システムは、前記回転部材を内部から支持する支持体をさらに備えても良い。それにより、回転部材の内部と外部との圧力差や繊維の張力による回転部材の変形を抑制することができる。この支持体は、折り畳み可能又は伸縮可能な構造を有することが望ましく、それにより、回転部材の内部から支持体を容易に取り出すことができる。
【0018】
或いは、前記回転部材として、折り畳み可能又は伸縮可能な構造を有する回転部材を用いても良く、この場合には、回転部材の周囲に直接樹脂含浸繊維層を形成し、樹脂の熱硬化後に回転部材を取り出すことにより、ライナレスのFRP成形体を作製することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、回転部材の内部圧力を外部圧力よりも小さくした状態で、回転部材の周囲に繊維を巻き付けるので、回転部材の内外の圧力差により、繊維からの樹脂の染み出しを抑えることができる。それにより、繊維の張力を低減したり、樹脂の粘度を高めることなく、FRP層における高Vf化を抑制できるので、強度や耐久性の高いFRP成形体を作製することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら詳しく説明する。なお、同一の構成要素には同一の参照番号を付して、説明を省略する。
図1を参照しながら、本発明の第1の実施形態に係るFRP成形体の製造方法及びシステムについて説明する。図1に示すFRP成形体の製造システムは、フィラメント・ワインディング(FW)法により中空の回転部材(ワーク)の周囲に繊維強化プラスチック(FRP)層を形成するシステムであり、繊維束供給部10と、張力測定器20と、樹脂含浸部30と、繊維束ガイド(アイロ)40と、ワークとしてのライナ50を回転駆動する回転駆動部53と、真空ポンプ60とを備えている。
【0021】
繊維束供給部10には、繊維束f1〜f3が巻き付けられた複数(図1においては3つ)のボビン11a〜11cが備えられている。繊維束f1〜f3としては、カーボン繊維や金属繊維等の導電性を有する繊維が用いられ、本実施形態においては、カーボン繊維の無撚りのマルチフィラメントを用いている。なお、マルチフィラメントは、フィラメント数が3000〜96000本程度である。
繊維束供給部10は、繊維束f1〜f3の張力を調整して張力測定器20に送り出す。張力測定器20は、繊維束f1〜f3の張力を測定し、その測定結果を繊維束供給部10にフィードバックする。
【0022】
樹脂含浸部30は、未硬化の状態(液体又はゲル状)の熱硬化性の樹脂が貯留された樹脂槽31と、繊維束f1〜f3を樹脂槽31の所定の位置に案内する含浸ローラ32〜34とを備えており、繊維束f1〜f3に樹脂槽31内の樹脂を含浸させる。熱硬化性の樹脂としては、エポキシ樹脂、変性エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂等が用いられる。
【0023】
繊維束ガイド40は、樹脂を含浸した繊維束f1〜f3を1つに束ねることにより繊維束Fを形成し、これをワーク(図1においては、ライナ50)に案内する。繊維束ガイド40は、ワークの長手方向及びそれに垂直な方向に往復可能であり、且つ、ワークに対する角度を変更できるように回転可能な状態で設置されている。
【0024】
ワークは、例えば、円筒等の回転体形状の型(マンドレル)やタンクを製造する場合の内容器(ライナ)等であり、金属や、ポリエチレン樹脂やポリプロピレン樹脂等の硬質樹脂によって形成されている。図1においては、ワークとして、口金51が取り付けられた高圧ガスタンクのライナ50を設置している。
【0025】
ライナ50は、その軸心を中心に回転可能となるように、支持部54を介して回転駆動部53に取り付けられている。回転駆動部53は可変速モータを有しており、このモータによってライナ50を回転駆動する。このようなライナ50の回転運動と繊維束ガイド40の往復運動とを同期させることにより、繊維束Fがライナ50に所定のパターンで巻き付けられる。それにより、ライナ50の周囲に樹脂含浸繊維層52が形成される。繊維束Fの巻き方(パターン)については特に限定されず、例えば、フープ巻きやヘリカル巻きや、それらを組み合わせた巻き方であっても良い。
真空ポンプ60は、ライナ50に取り付けられており、ライナ50の内部を排気する。
【0026】
このFRP成形体の製造システムにおいては、ライナ50の内部を真空ポンプ60によって排気することにより、ライナ内部をライナ外部(大気圧)よりも減圧した状態で、繊維束Fをライナ50に巻き付ける。その理由は、次の通りである。
一般的なフィラメント・ワインディング法においては、図2の(b)に示すように、大気中においてライナ200の内部を加圧しながら繊維の巻き付けを行う。この場合に、ライナ200の内部は正圧となるので、ライナ200の内部と外部との間の圧力差により、樹脂含浸繊維層201において、繊維に含浸した樹脂がライナ200の外側に向かって染み出しやすくなる。
【0027】
それに対して、本実施形態においては、ライナ50の内部を減圧しながら繊維の巻き付けを行う。この場合には、図2の(a)に示すように、ライナ50の内部は負圧となるので、樹脂含浸繊維層52においては、繊維に含浸した樹脂の染み出しが抑制される。
【0028】
このようにして樹脂含浸繊維層52を形成した後で、ライナ50を回転駆動部53から取り外して加熱炉において加熱することにより、樹脂含浸繊維層52を熱硬化させる。それにより、FRP成形体が完成する。
【0029】
次に、本発明の第2の実施形態に係るFRP成形体の製造システム及び方法について、図3を参照しながら説明する。
図3に示すFRP成形体の製造システムは、図1に示す製造システムに対して、ライナ50が配置されるチャンバ70と、チャンバ70内を加圧する圧縮ポンプ71とを追加したものである。その他の構成については、図1に示すものと同様である。
本実施形態においては、ライナ50の内部を減圧すると共に、チャンバ70内、即ち、ライナ50の外部を加圧しながら樹脂含浸繊維層52を形成する。
【0030】
図4は、ライナの周囲に形成された樹脂含浸繊維層における樹脂の染み出し量を示している。図4の(b)に示すように、ライナの内部を加圧しながら繊維の巻き付けを行う一般的なフィラメント・ワインディング法においては、ライナの外部圧力PATMに対して、ライナの内部圧力P0が高くなるので、この圧力差(P0−PATM>0)のため、ある程度の樹脂の染み出しを避けることはできない。それに対して、図4の(a)に示すように、本実施形態においては、ライナの内部を減圧すると共にライナの外部を加圧するので、ライナの内部圧力PINに対して、外部圧力POUTがより高くなるので、この大きな圧力差(POUT−PIN>0)により、繊維からの樹脂の染み出しを大幅に低減することができる。
【0031】
次に、本発明の第3の実施形態に係るFRP成形体の製造システム及び方法について、図5を参照しながら説明する。
本実施形態においては、図1又は図3に示すFRP成形体の製造システムにおいて、ライナ50の内部を減圧し、或いは、ライナ50に繊維束Fを巻きつけたときに、ライナ50自体が収縮して変形しないように、その内部を支持体によって支持しながら樹脂含浸繊維層52を形成する。
【0032】
図5に示すように、補助マンドレル100は、軸部101と、複数の骨格部材102と、内壁支持部103とを備えており、軸部101を中心に折り畳み可能な構造(例えば、傘構造)を有している。図5の(a)は、補助マンドレル100を開いた状態を示しており、図5の(b)は、補助マンドレル100を折り畳んだ状態を示している。補助マンドレル100は、折り畳んだ状態で、口金51に設けられた貫通口を通ってライナ50に出し入れされる。
【0033】
複数の骨格部材102は、軸部101の軸方向の複数箇所に間隔をおいて取り付けられており、且つ、各取り付け位置においては、軸部101の周方向に間隔をおいて、軸101を囲むように取り付けられている。また、各骨格部材102は、軸部101に対して所定の角度の範囲内で可動となるように取り付けられている。
【0034】
内壁支持部103は、ライナ50の内壁に沿って配置される複数の部材によって形成されている。これらの複数の部材は、ライナ50の内壁の全面を覆うように、面状の部材によって形成しても良いし、ライナ50の内壁を網目状又は放射状又は格子状に覆うように、複数の棒状又はパイプ状の部材によって形成しても良い。また、これらの各部材は、骨格部材102の一端に取り付けられている。
【0035】
図5の(a)に示すように、補助マンドレル100を開くと、骨格部材102が軸部101に対して所定の角度で立ち上がった状態となる。例えば、ライナ50の胴部(円柱形状の部分)の内側においては、複数の骨格部材102が軸部101に対して略垂直に立ち上がり、軸部101を中心とする放射状に広がる。また、ライナ50の底部側(図においては左側)においては、複数の骨格部材102が配置に応じた角度で立ち上がり、複数の円錐面状に広がる。それにより、各骨格部材102の一端に取り付けられた内壁支持部103の複数の部材が、ライナ50の内壁を覆うように曲面を形成すると共に、骨格部材102によってライナ50の内壁側に押し付けられる。このとき、内壁支持部103は、ライナ50の形状を維持するために、ライナ50の内壁に密着していることが望ましい。そのために、例えば、各骨格部材102にバネ構造を設けても良い。
【0036】
また、図5の(b)に示すように、補助マンドレル100を折り畳むと、骨格部材102は軸部101に沿うように倒れた状態となる。それにより、内壁支持部103を形成する複数の部材が、各々に取り付けられた骨格部材102と共に軸部101周辺に集合する。それにより、補助マンドレル100の外径が口金51に設けられた貫通口よりも小さくなるので、補助マンドレル100が貫通口を通過できるようになる。
【0037】
ライナ50の周囲に樹脂含浸繊維層52を形成する際には、まず、折り畳んだ状態の補助マンドレル100をライナ50内に挿入する。そして、補助マンドレル100を開くことによりライナ50を内側から支持し、真空ポンプ60(図1、図3)によるライナ50内の減圧と、圧縮ポンプ71(図3)によるチャンバ70内の加圧とを開始する。この状態で、樹脂を含浸した繊維束Fをライナ50に巻き付ける。
【0038】
繊維束Fの巻き付けが終了すると、ライナ50を回転駆動部53から取り外して加熱炉において加熱することにより、樹脂含浸繊維層52を熱硬化させる。それにより、FRP成形体が完成する。補助マンドレル100をライナ50から取り出すタイミングは、樹脂含浸繊維層52の加熱前であっても、加熱後であっても良い。
【0039】
以上説明した本実施形態においては、補助マンドレルにおいて骨格部材を折り畳む構造を採用しているが、補助マンドレルをライナから出し入れする際に、口金に設けられた貫通口を通行できる程度に補助マンドレルの径を小さくすることができれば、どのような構造を採用しても良い。例えば、伸縮可能な構造や、骨格部材自体を折り曲げる構造や、これらを組み合わせた構造を採用しても良い。また、繊維束の巻き付けの最中に補助マンドレルが変形しないように、それらの構造にストッパーを設けることが望ましい。或いは、補助マンドレルの一部を取り外し可能な構造にして、補助マンドレルをライナから出し入れできるようにしても良い。
【0040】
次に、本発明の第4の実施形態に係るFRP成形体の製造システム及び方法について説明する。
本実施形態においては、図1又は図3に示すFRP成形体の製造システムにおいて、繊維束Fを巻き付けるワークとして、ライナ50の替わりに、図6に示す折り畳み式マンドレル110を用いる。
【0041】
折り畳み式マンドレル110は、軸部111と、骨格部材112と、壁部113とを備えており、軸部111を中心に折り畳み可能な構造(例えば、傘構造)を有している。図6の(a)は、折り畳み式マンドレル110を開いた状態を示しており、図6の(b)は、折り畳み式マンドレル110を閉じた状態を示している。なお、折り畳み式マンドレル110の折り畳み構造については、図5に示す補助マンドレル100と同様である。
【0042】
本実施形態においては、図6の(a)に示すように、折り畳み式マンドレル110に口金80を取り付け、これをワークとして、図1又は図3に示すライナ50の替わりに回転駆動部53に取り付ける。そして、システムを駆動して、折り畳み式マンドレル110の周囲及び口金80の円周方向の周囲に、樹脂を含浸した繊維束Fを直接巻き付けることにより、樹脂含浸繊維層81を形成する。その後、折り畳み式マンドレル110を回転駆動部53から取り外して加熱炉において加熱することにより、樹脂含浸繊維層81を熱硬化させる。そのようにして形成されたFRP層82から、折り畳み式マンドレル110を折り畳んで取り出す。それにより、ライナレスのガスタンクが完成する。
【0043】
なお、本実施形態においても、第3の実施形態と同様に、マンドレルの構造としては、口金に設けられた貫通口を通行できる程度にマンドレルの径を小さくすることができれば、折り畳み構造や伸縮構造等のどのような構造を採用しても構わない。或いは、マンドレルの一部を取り外しできる構造としても良い。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明の第1の実施形態に係るFRP成形体の製造システムの構成を示す模式図である。
【図2】ライナの内部及び外部の圧力の状態を示す模式図である。
【図3】本発明の第2の実施形態に係るFRP成形体の製造システムの構成を示す模式図である。
【図4】ライナの内部及び外部の圧力と樹脂の染み出し量を示すグラフである。
【図5】本発明の第3の実施形態に係るFRP成形体の製造方法を説明するための図である。
【図6】本発明の第4の実施形態に係るFRP成形体の製造方法を説明するための図である。
【符号の説明】
【0045】
f1〜f3、F…繊維束、30…樹脂含浸部、40…繊維束ガイド、50…ライナ、52…樹脂含浸繊維層、53…回転駆動部、60…真空ポンプ、70…チャンバ、71…圧縮ポンプ、81…樹脂含浸繊維層、82…FRP層、100…補助マンドレル、102、112…骨格部材、103…内壁支持部、110…折り畳み式マンドレル、113…壁部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィラメント・ワインディング法によりFRP成形体を製造する方法であって、
熱硬化性の樹脂を繊維に含浸させる工程(a)と、
中空の回転部材の内部を減圧しながら、前記樹脂を含浸した繊維を前記回転部材の周囲に巻き付けることにより、樹脂含浸繊維層を形成する工程(b)と、
を備えるFRP成形体の製造方法。
【請求項2】
工程(b)は、前記回転部材の外部を加圧しながら前記回転部材の内部を減圧することを含む、請求項1記載のFRP成形体の製造方法。
【請求項3】
工程(b)は、前記回転部材の収縮を抑制しながら、前記回転部材の内部を減圧することを含む、請求項1又は2記載のFRP成形体の製造方法。
【請求項4】
工程(b)が、前記回転部材の内部を支持体によって支持することを含む、請求項3記載のFRP成形体の製造方法。
【請求項5】
前記樹脂含浸繊維層を加熱することにより、前記樹脂含浸繊維層を熱硬化させる工程(c)をさらに備える請求項1〜4のいずれか1項記載のFRP成形体の製造方法。
【請求項6】
工程(c)の後で、前記回転部材を熱硬化した前記樹脂含浸繊維層内から取り出す工程をさらに備える、請求項5記載のFRP成形体の製造方法。
【請求項7】
フィラメント・ワインディング法によりFRP成形体を製造するシステムであって、
熱硬化性の樹脂を繊維に含浸させる樹脂含浸部と、
回転部材を回転駆動する回転駆動部と、
前記樹脂を含浸した繊維を前記回転部材の方向に導くことにより、前記回転部材の周囲に前記繊維を巻き付ける繊維ガイドと、
前記回転部材の内部を減圧するポンプと、
を備えるFRP成形体の製造システム。
【請求項8】
前記回転部材が配置されるチャンバと、
前記チャンバ内を加圧する第2のポンプと、
をさらに備える請求項7記載のFRP成形体の製造システム。
【請求項9】
前記回転部材を内部から支持する支持体をさらに備える請求項7又は8記載のFRP成形体の製造システム。
【請求項10】
前記支持体が、折り畳み可能又は伸縮可能な構造を有する、請求項9記載のFRP成形体の製造システム。
【請求項11】
前記回転部材として、折り畳み可能又は伸縮可能な構造を有する回転部材が配置される、請求項7又は8記載のFRP成形体の製造システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−34941(P2009−34941A)
【公開日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−202789(P2007−202789)
【出願日】平成19年8月3日(2007.8.3)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】