説明

Fas媒介アポトーシス誘導剤の肝毒性を低減させる方法

本発明は、Fas媒介アポトーシス誘導剤で治療された患者の肝臓に対する副作用を予防する、又は低減する方法であって、肝細胞のTNF受容体媒介アポトーシス予防剤の投与を含む方法、に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Fas媒介アポトーシス誘導剤の肝毒性を低減させる新しい方法に関する。
【背景技術】
【0002】
肝臓はFas媒介性の細胞毒性に著しく感受性が高いことが知られている。それらの効力が原因で、いくつかのFas媒介アポトーシス誘導剤が肝毒性の高い危険性を示し得る(DeVries & al. Drugs Today (Barc). 2003;39 Suppl C:95-109)。作動性抗Fas抗体のマウスへの投与は、急性肝不全と数時間内の死をもたらし得る(Ni & al., 1994,Exp. Cell. Res. 215,332-337; Ogaswara & al., 1993, Nature 364, 806-809)。
【0003】
可溶性Fasリガンドの多量体化型の毒性は投与経路に依存することも明らかにされている。とりわけ、50 μg/kg Mega-FasL(ACRP30フラグメントに融合したFasLの細胞外ドメインの六量体)のマウスへの静脈内注射は肝不全による2から6時間内の死を引き起こす。それに反して、同用量のMega-FasLの腹腔内注射は死を引き起こさない(参照することによりその内容が本明細書に組み込まれる、EP 032912473)。実際、数倍多い用量(100-200 μg/kg)の腹腔内注射によりようやく死が観測される。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、Fas媒介アポトーシス誘導剤で治療された患者の肝臓に対する副作用を予防する、もしくは低減させる新しい方法に関する。該方法は、肝細胞のTNF受容体媒介アポトーシス予防剤の投与を含む。TNF受容体は、TNFRl及びTNFR2のうちから選択される。
【0005】
TNF受容体媒介アポトーシス予防剤は、TNF及び/もしくはリンホトキシンの放出を予防することが好ましく、又は、肝細胞のTNF媒介アポトーシスを予防する抗TNF/TNFR相互作用剤であることが好ましい。
【0006】
当該投与は本発明に従い、Fas媒介アポトーシス誘導剤と連続的に、別々に、又は同時になされ得る。
【0007】
本発明において連続的な治療とは、Fas媒介アポトーシス誘導剤での治療に先立ったTNF受容体媒介アポトーシス予防剤での前治療、又はFas媒介アポトーシス誘導剤での治療後及び治療中のTNF受容体媒介アポトーシス予防剤での後治療、並びにそれらの組み合わせのいずれか、を意味する。
【0008】
前治療は、Fas媒介アポトーシス誘導剤での治療に先立ち、TNF媒介アポトーシスを予防する。
【0009】
後治療は、Fas媒介アポトーシス誘導剤での治療後、ALAT及びASATのような肝臓酵素の濃度上昇の検出に基づき、検出時の毒性を低減するために開始され得る。
【0010】
あるいは、前治療の後に後治療が続けられ得る。
【0011】
連続的に又は別々に用いられる場合、Fas媒介アポトーシス誘導剤及びTNF受容体媒介アポトーシス予防剤は、それぞれが選択された投与経路に好適な、別々の医薬組成物で用いられる。しかしながら、両組成物は同じ包装又は同じ治療キット中に組み合わされ得る。
【0012】
同時に用いられる場合、Fas媒介アポトーシス誘導剤及びTNF受容体媒介アポトーシス予防剤は、選択された投与経路に好適な同じ医薬組成物中に組み合わされ得る。
【0013】
Fas媒介アポトーシス誘導剤及びTNF受容体媒介アポトーシス予防剤を含む医薬組成物も、別々の医薬組成物中にFas媒介アポトーシス誘導剤及びTNF受容体媒介アポトーシス予防剤を含む治療キットと同様に、本発明の一部である。
【0014】
適切な医薬組成物、及び医薬組成物を作成するために用いられる担体、アジュバント、防腐剤等が当業者に周知である(Gennaro (ed.), Remington's Pharmaceutical Sciences, 19th Edition (Mack Publishing Company 1995)を参照)。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明において、Fas媒介アポトーシス誘導剤は、作動性Fas抗体、及び可溶性FasL分子又はその多量体を含む。
【0016】
本発明の方法で治療される疾病又は病態は、細胞増殖を含む全ての病態を包含する。該病態は、より詳しくは、その制御及び/又は治療のために細胞死が誘発されなければならない病態であって、血液悪性腫瘍、より詳しくは中皮腫、卵巣癌、膵臓癌、前立腺癌、乳癌、非小細胞肺癌、メラノーマ、結腸癌、膠芽細胞腫、骨髄腫、及び白血病だけでなく、原発性癌及び二次癌、並びにその転移のような病態、を含む。
【0017】
種々の癌細胞株のFasLの六量体によるアポトーシスへの感度が下の表1で示される。
【0018】
【表1】

【0019】
作動性Fas抗体は当該分野で公知であり、参照することによりその内容が本明細書に組み込まれる、Tinel & al. (Hepatology. 2004 Mar;39 (3):655-66)、Rubio Pomar & al. (Biol Reprod. 2004 May 5)、Pechelet & al. (Biochem Pharmacol. 2004 Feb 1;67 (3):523-37)、Clarke & al. (Haematologica. 2004 Jan;89(1):11-20)、Imai & al. (Oncogene. 2003 Dec 18;22(58):9231- 42)、Legembre & al. (J Immunol. 2003 Dec 1;171(11):5659-62)、Chun & al. (Toxicol Lett. 2003 Dec 15;146(1):75-81)に記載の抗体を含む。
【0020】
可溶性FasL分子は、FasL分子の、より詳しくはこのリガンドの可溶性細胞外ドメインの、モノマー、オリゴマー及び多量体を含む。好ましい実施形態において、可溶性FasL分子は多量体化FasL分子の中から選択される。
【0021】
本発明において、多量体化FasL分子は、Fasリガンドの少なくとも4つの球状可溶性細胞外領域、好ましくは少なくとも5つの、より好ましくは少なくとも6つの、さらに好ましくは6つの、多量体化部分に結合したFasリガンドの球状可溶性細胞外領域を含む。
【0022】
多量体化FasL分子は、最終的に集合して、十二量体(2つの六量体)又は十八量体(3つの六量体)を含む、より重合度の高い多量体を形成し得る。
【0023】
本発明の好ましい実施態様において、Fasリガンドの多量体型は、式(I)のポリペプチドを含む各モノマーが集合した、6つのモノマーを含む六量体である:
H-L (I)
ここで、
-Lは、Fasリガンドの可溶性細胞外領域を含む、FasリガンドのC末端側部分を表し、
-Hは、N末端側の六量体化部分を表す。
【0024】
本発明において、リガンド部分Lは、Fasリガンドの可溶性細胞外領域の「全長」、及び同じ領域の生物学的機能性フラグメントを含む。「生物学的機能性フラグメント」とは、同じ受容体への実質的に同じアフィニティーでの結合能を保存するTNFファミリーのリガンドの可溶性細胞外領域のフラグメントである。
【0025】
Lは好ましくは、上記リガンドの細胞外可溶性領域の全長を含む。
【0026】
本発明の1実施形態において、LはヒトFASリガンド(hFasL)の、アミノ酸Glu139からleu281までを含む、細胞外ドメインを包含する。
【0027】
本発明において、六量体は、「真の」六量体、三量体の二量体、又は二量体の三量体のうちのいずれかである。1つ目の場合は、Hは六量体化ポリペプチドHPである。後者の場合、Hは、二量体化ポリペプチド(DP)から成る1つ目の部分と、三量体化ポリペプチド(TP)から成る2つ目の部分の、2部分を含む。
【0028】
本発明において、ポリペプチドは、下記の式(Ia)、(Ib)及び(Ic)のうちの1つにより表されるポリペプチドを含む:
HP-L (Ia) (「真の」六量体)、
DP-TP-L (Ib) (二量体の三量体)、及び
TP-DP-L (Ic) (三量体の二量体)
ここでL、HP、DP及びTPは上記と下記で定義される。
【0029】
HP、TP及びDPの例は当該分野で周知であり、天然の六量体、三量体、又は二量体ポリペプチドの単離されたペプチドフラグメントを含み、該単離されたフラグメントは、該天然の六量体、二量体又は三量体の、六量体化、二量体化又は三量体化に関与している。
【0030】
そのような分子は当該分野で周知であり、ACRP30もしくはACRP30様蛋白質(W096/39429、WO 99/10492、WO 99/59618、WO 99/59619、WO 99/64629、WO 00/26363、WO 00/48625、WO 00/63376、WO 00/63377、WO 00/73446、WO 00/73448又はWO 01/32868)、apMl(Maeda et al., Biochem. Biophys. Res. Comm. 221: 286-9,1996)、Clq(Sellar et al., Biochem. J. 274: 481-90,1991)あるいはClq様蛋白質(WO 01/02565)のような、コレクチンファミリーのポリペプチドを含む。これらの蛋白質はコラーゲンリピートGly-Xaa-Xaa'から成る「コラーゲンドメイン」を含む。
【0031】
他のオリゴマー化されたポリペプチドは当該分野で公知であり、Carilage Matrix Protein (CMP) (Beck & al., 1996, J. Mol. Biol., 256,909-923)のような、「コイルドコイル」ドメイン(Kammerer RA, Matrix Biol 1997 Mar;15(8-9):555-65; discussion 567-8、Lombardi & al., Biopolymers 1996;40(5):495-504; http://mdl.ipc.pku.edu.cn/scop/data/scop.1.008.001.html)を持つポリペプチド、又は、ロイシンジッパーを持つポリペプチドもしくはオステオプロテジェリン(Yamaguchi & al., 1998)のような二量体化ドメインを持つポリペプチドを含む。
【0032】
本発明の特定の実施形態において、HPはClqファミリーのポリペプチドのA、B又はC鎖の六量体化ドメインを含む。
【0033】
TPは当該分野で公知であり、CMPの三量体化ドメイン(C末端側部分)(すなわち、GeneBank 115555、アミノ酸451-493)、又はACRP30及びACRP30様分子の三量体化ドメインを含む。本発明の好ましい実施形態において、TPはコラーゲンリピートのストレッチを含む。
【0034】
本発明によると、「コラーゲンリピートのストレッチ」は、一続きの隣り合った式(II)のコラーゲンリピートから成る。
-(Gly-Xaa-Xaa’)n- (II)
ここで、
-Xaa及びXaa’は独立してアミノ酸残基を表し、
-nは10から40までの整数を表す。
【0035】
Xaa及びXaa'は、好ましくはAla、Arg、Asn、Asp、Cys、Gln、Glu、Gly、His、Ile、Leu、Lys、Met、Phe、Pro、Ser、Thr、Trp、Tyr又はValのような天然アミノ酸の中から独立して選択される。
【0036】
Xaa は、好ましくはAla、Arg、Asp、Glu、Gly、His、Ile、Leu、Met、Pro又はThrの中から、より好ましくはArg、Asp、Glu、Gly、His又はThrの中から選択されたアミノ酸残基を独立して表す。
【0037】
Xaa'は、好ましくはAla、Asn、Asp、Glu、Leu、Lys、Phe、Pro、Thr又はValのうちから、より好ましくはAsp、Lys、Pro又はThrのうちから選択されたアミノ酸残基を独立して表す。
【0038】
Xaa'がPro残基を表す場合、コラーゲンリピートGly-Xaa-Proは「完全な」コラーゲンリピートとして定められ、他のコラーゲンリピートが「不完全な」コラーゲンリピートとして定められる。
【0039】
本発明の好ましい実施形態において、コラーゲンリピートのストレッチは少なくとも1つの完全なコラーゲンリピート、より好ましくは少なくとも5つの完全なコラーゲンリピートを含む。
【0040】
本発明の好ましい実施形態において、nは15から35までの、より好ましくは20から30までの、さらに好ましくは21、22、23又は24の整数である。
【0041】
本発明において、コラーゲンリピートのストレッチは2つの隣り合ったコラーゲンリピート間に挿入された3つまでの「非コラーゲン残基」をも含み得る。これらの「非コラーゲン残基」は1、2又は3アミノ酸残基で成り、但し、「非コラーゲン残基」が3アミノ酸残基から成る場合は最初のアミノ酸はGlyではない。
【0042】
本発明の好ましい実施形態において、TPは不断の22のコラーゲンリピートのストレッチから成る。より好ましくは、TPは、WO 96/39429のSEQ ID NO 2で示される、mACRP30のアミノ酸45から110までに相当する、SEQ ID NO 1の22のコラーゲンリピートのストレッチから成る:
Gly Ile Pro Gly His Pro Gly His Asn Gly Thr Pro Gly Arg Asp Gly Arg Asp Gly Thr Pro Gly Glu Lys Gly Glu Lys Gly Asp Ala Gly Leu Leu Gly Pro Lys Gly Glu Thr Gly Asp Val Gly Met Thr Gly Ala Glu Gly Pro Arg Gly Phe Pro Gly Thr Pro Gly Arg Lys Gly Glu Pro Gly Glu Ala
【0043】
本発明の別の好ましい実施形態において、TPはWO 96/39429のSEQID NO 7で示される、hACRP30のアミノ酸42から1107までに相当する、22のコラーゲンリピートのストレッチから成る。
【0044】
DPは当該分野で公知であり、免疫グロブリンの二量体化フラグメント(Fcフラグメント)、オステオプロテジェリンのC末端側二量体化ドメイン(受容体:δN- OPG、アミノ酸:187-401)、又は、少なくとも6つの、好ましくは8から30までのアミノ酸を含み、かつ二量体化を可能にするポリペプチド配列を含む。これらのペプチドは一般的に、ジスルフィド結合の形成を可能にする、少なくとも1つのシステイン残基を含む。本発明においてDPとして有用な他のポリペプチドは、7残基ごとに存在するロイシン残基を含む「ロイシンジッパー」として規定されたペプチドである。
【0045】
少なくとも1つのシステイン残基を含むそのようなペプチドの例は、下記のペプチドを含む:
Val Asp Leu Glu Gly Ser Thr Ser Asn Gly Arg Gln Cys Ala Gly Ile Arg Leu
Glu Asp Asp Val Thr Thr Thr Glu Glu Leu Ala Pro Ala Leu Val Pro Pro Pro Lys Gly Thr Cys Ala Gly Trp Met Ala
Gly His Asp Gln Glu Thr Thr Thr Gln Gly Pro Gly Val Leu Leu Pro Leu Pro Lys Gly Ala Cys Thr Gly Trp Met Ala
上記の二番目の配列はWO 96/39429のSEQ ID NO 2で示される、mACRP30のアミノ酸17から44までに相当し、また、上記の三番目の配列はWO 96/39429のSEQ ID NO 7のアミノ酸15から41までに相当する。
【0046】
少なくとも1つのシステイン残基を含む他のペプチドは、WO 99/10492、WO 99/59618、WO 99/59619、WO 99/64629、WO 00/26363、WO 00/48625、WO 00/63376、WO 00/63377、WO 00/73446、WO 00/73448又はWO 01/32868に開示される、ACRP30(ACRP30様)に構造的類似性を示す分子のコラーゲンリピートのストレッチの上流域のアミノ酸配列中に見出され得る。
【0047】
ロイシンジッパーは、当該分野で周知であり、天然蛋白質中に見出され、当業者に利用可能な生物情報学的手段を用いて最終的に同定され得る(http://www.bioinf.man.ac.uk/zip/faq.shtml;http://2zip.molgen.mpg.de/; Hirst, J. D., Vieth, M. ,Skolnick, J. & Brooks, C. L. III, Predicting Leucine Zipper Structures from Sequence, Protein Engineering, 9,657-662 (1996))。
【0048】
本発明において、式I、Ia、Ib、又はIcのポリペプチド中の構成要素L、H、HP、TP及び/又はDPは、ペプチド結合により集合する。それらは本発明におけるポリペプチドの、六量体形成能、及びリガンドLに対応する受容体への結合能、といった機能性に影響を及ぼさない「リンカー」により分離され得る。そのようなリンカーは分子生物学の分野で周知である。
【0049】
本発明において、ポリペプチドはまた、本発明におけるポリペプチドの機能性に影響を与えないペプチド配列を、そのN末端及び/又はC末端に含み得る。これらのペプチドは、本発明におけるポリペプチドの精製又は検出のためのアフィニティータグを含み得る。そのようなアフィニティータグは、当該分野で周知であり、FLAGペプチド(Hopp et al., Biotechnology 6: 1204 (1988))又はMyc-Hisタグを含む。
【0050】
本発明の好ましい実施形態において、Hは二量体化ポリペプチド(DP)及び三量体化ポリペプチド(TP)を含み、最も好ましくは下記の式により表される:
DP-TP-L (Ib)
ここでR、DP及びTPは上記及び下記で定義される。
【0051】
より好ましくは、DP及びTPはともにWO 96/39429のSEQ ID NO 2で示される、mACRP30のアミノ酸17から110まで、又はWO 96/39429のSEQ ID NO 7で示される、hACRP30のアミノ酸15から107までを表す。
【0052】
本発明の好ましい実施形態において、ポリペプチドは、融合ポリペプチドm又はhACRP30:hFasL(MegafasL)、より具体的には、参照することによりその内容が本明細書に組み込まれるWO 01/49866に開示されるm又はhACRP30:hFasLを含む。
【0053】
本発明の他の実施形態において、六量体化部分は、参照することでその内容が本明細書に組み込まれるPCT出願No. PCT/EP02/09354に開示される、gi2765420のアミノ酸248から473を含むIgGのFc部を含む。
【0054】
肝細胞のTNF受容体媒介アポトーシス予防剤、及び、より特定すると、TNF媒介アポトーシスを予防する、抗TNF/TNFR相互作用剤もまた当該分野で公知である。それらは抗TNF抗体及び可溶性TNF受容体のような公知の抗癌剤を含む。それらはまた、サリドマイド又はスラミンのような、TNF活性を阻害する低分子量分子も含む。それらはまた、リンホトキシン-αのようなTNFRl及びTNFR2の他のリガンドの阻害剤も含む。
【0055】
抗TNF抗体は当該分野で公知である。好ましい実施形態において、抗TNF抗体はモノクローナル抗体、より好ましくはCentocorよりRemicadeという商品名で販売されているインフリキシマブのような、組換えモノクローナル抗体である。
【0056】
可溶性受容体は、好ましくはTNF受容体の可溶性細胞外領域を含む。好ましい実施形態において、可溶性TNF受容体は、tetradrimer、五量体(WO 01/49866)又は六量体(WO 03/095489)のような多量体である。好ましい実施形態において、可溶性受容体は、Wyethより商品名Embrelで販売されているエタネルセプトである。
【0057】
本発明の方法において、Fas媒介アポトーシス誘導剤での治療は、同じ疾病の治療に好適な他の分子もしくは組成物を含む他手段の治療だけでなく、放射線治療、化学療法又は最終的には外科手術のような同じ疾病の治療の当該分野において公知の他手段の治療とも組合わされ得る。
【0058】
同じ疾病の治療に好適な他の分子又は組成物は、Dictionaire Vidal (2003 ed.)、Merk Index又はPhysician Desk Reference中で「Cancerologie」という見出しの下でリストされた任意の分子又は組成物のように、当該分野で周知である。
【0059】
上記で定義されたFas媒介アポトーシス誘導剤及び、より特定すると、上記で定義されたFasLの可溶性領域の六量体の、現存化学療法でのアジュバントとしての使用が、本発明の他の実施形態である。例として、MegaFasLがシスプラチンと組み合わされると細胞死が大いに増加されたが、これらの化合物のいずれか単独では不十分な細胞死のみしか観測されなかった。実際に、MegaFasLの抗腫瘍的有効性が、単剤として及びシスプラチンとの併用で、最初にin vitroでの中皮腫及び卵巣癌細胞株に対して評価された。細胞毒性実験は、MegaFaslでの治療の3日前までの、毒性水準下量の化学療法での細胞前治療が、治療間の強い相乗作用を誘発することを示した。
【0060】
本発明はまた、上記定義の肝細胞のTNF/リンホトキシン媒介アポトーシス予防剤の、上記定義のFas媒介アポトーシス誘導剤で治療された患者の肝臓に対する副作用の予防又は低減のために用いられる薬物の調製のための使用にも関する。
【0061】
本発明はまた、上記定義の肝細胞のTNF/リンホトキシン媒介アポトーシス予防剤、及び上記定義のFas媒介アポトーシス誘導剤の、癌治療薬の調製のための使用にも関する。
【0062】
本発明はまた、上記定義の肝細胞のTNF受容体媒介アポトーシス予防剤、及び上記定義のFas媒介アポトーシス誘導剤を含む製品であって、その制御及び/又は治療のために細胞死が誘発されなければならない上記定義の病態の治療において、同時な、別々な、又は連続した使用に供される製品にも関する。
【実施例1】
【0063】
後述の治療は、本発明に従って行われ得る。
【0064】
ある進行段階の悪性腫瘍(中皮腫、又は卵巣癌)を患う患者にはまず、繰り返しEmbrelを注射する。あるいは、患者には、炎症状態の治療のために処方されるような、いくつかの標準的なサリドマイド治療を施す。その後患者を、Mega-FasLの投与(静脈内もしくは腹腔内、ボーラス注射法、又は灌流)を始める前に、標準的な化学療法剤(すなわちシス-白金又は5-フルオロウラシル)で治療する。
【0065】
以下の継続中のin vivoでの実験を行う。
1)TNFR1及びTNFR2二重ノックアウトマウス、並びに対照野生型マウスに、漸増用量の
Mega-FasLを注射する。ALAT及びASATレベル、並びに生存をモニターする。TNF受容体欠損マウスは、正常マウスよりも肝毒性に対する低い感受性を示すことが予測される。
2)正常マウスに、漸増用量のMega-FasLの注射前に、組換えTNFR1-Fc融合蛋白質(TNF-α及びリンホトキシン-αを中和する)を投与する。ALAT及びASATレベル、並びに生存をモニターする。TNFR1-Fc蛋白質で治療されたマウスは、未治療のマウスよりも肝毒性に対する低い感受性を示すことが予測される。
3)正常マウスに、スラミン又はサリドマイドを投与する。続いて、漸増用量のMega-FasLをこれらの動物に注射する。その後、ALAT及びASATレベル、並びに生存を経時的にモニターする。サリドマイド又はスラミンで治療されたマウスは、未治療のマウスよりもMega-FasL誘導肝毒性に対する低い感受性を示すことが予測される(Eichhorst et al. 2004. Suramin inhibits death receptor- induced apoptosis in vitro and fulminant apoptotic liver damage in mice. Nature Medicine 10: 602)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Fas媒介アポトーシス誘導剤で治療された患者の肝臓に対する副作用を予防する、又は低減する方法であって、肝細胞のTNF受容体媒介アポトーシス予防剤の投与を含む方法。
【請求項2】
当該投与がFas媒介アポトーシス誘導剤と連続的に、別々に、又は同時になされ得る、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
連続的な治療が、Fas媒介アポトーシス誘導剤での治療に先立った肝細胞のTNF受容体媒介アポトーシス予防剤での前治療、又はFas媒介アポトーシス誘導剤での治療後及び治療中の肝細胞のTNF受容体媒介アポトーシス予防剤での後治療、並びにそれらの組み合わせのいずれかである、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前治療が、Fas媒介アポトーシス誘導剤での治療に先立って、NTF/リンホトキシン媒介アポトーシスを予防する、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
後治療が、Fas媒介アポトーシス誘導剤での治療後、ALAT及びASATのような肝臓酵素の濃度上昇の検出に基づき、検出時の毒性を低減するために開始される、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
Fas媒介アポトーシス誘導剤が作動性Fas抗体及び可溶性FasL分子を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
可溶性FasL分子が、FasLの可溶性細胞外ドメインの多量体化分子の中から選択される、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
Fas-Lの可溶性細胞外ドメインが、hFasLのアミノ酸Glu139からleu281までを含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
多量体化部分が、mACRP30のアミノ酸17から110まで、又はhACRP30のアミノ酸15から107までを含む、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
肝細胞のTNF受容体媒介アポトーシス予防剤が、抗TNF抗体、及び可溶性TNF受容体の中から選択された抗TNF/TNFR相互作用剤である、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
抗TNF抗体がインフリキシマブである、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
可溶性受容体がエタネルセプトである、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
肝細胞のTNF媒介アポトーシス予防剤が、TNFの機能を阻害する化合物であって、好ましくはサリドマイドである、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
Fas媒介アポトーシス誘導剤、及び肝細胞のTNF受容体媒介アポトーシス予防剤を含む、医薬組成物。
【請求項15】
別々の医薬組成物の中に、Fas媒介アポトーシス誘導剤、及び肝細胞のTNF受容体媒介アポトーシス予防剤を含む、治療キット。

【公表番号】特表2008−501666(P2008−501666A)
【公表日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−513947(P2007−513947)
【出願日】平成17年5月27日(2005.5.27)
【国際出願番号】PCT/EP2005/052436
【国際公開番号】WO2005/117966
【国際公開日】平成17年12月15日(2005.12.15)
【出願人】(503409964)アポクシス ソシエテ アノニム (2)
【Fターム(参考)】