説明

Fe基ナノ結晶合金粉末及びその製造方法、並びに、圧粉磁心及びその製造方法

【課題】良好な磁気特性を有する圧粉磁心を提供すること。
【解決手段】圧粉磁心の材料粉を非晶質性合金粉末ではなく、Fe基ナノ結晶合金粉末とする。即ち、ナノ結晶相の析出に係る熱処理(P2)と圧粉磁心の硬化(P3)とを分け、圧粉磁心の硬化前に、ナノ結晶化を図っておくこととする。更に、ナノ結晶相の析出に係る熱処理を行う際に、第2結晶化開始温度に至る前に昇温速度を下げることとする。これにより、高磁化のbccFeからなる30nm以下の微細なナノ結晶が析出したナノ結晶合金粉末を用いて優れた軟磁気特性と高飽和磁束密度とを有する圧粉磁心を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、良好な磁気特性を有する圧粉磁心とその製造方法並びに当該圧粉磁心製造に適するFe基ナノ結晶合金粉末とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
Fe基ナノ結晶合金は、高飽和磁束密度と低磁歪の両立が可能な軟磁性材料である。このFe基ナノ結晶合金は、概略、非晶質相を主相とする合金に対して熱処理を施すことによって得ることができる。
【0003】
特許文献1には、Fe基ナノ結晶合金粉末を用いた圧粉磁心が開示されている。従来の圧粉磁心は、特許文献1の実施例に示されているように、非晶質相を主相とする合金粉末とバインダとを混合し、加圧成型した後、硬化することにより製造されていた。即ち、従来、ナノ結晶相の析出と圧粉磁心の硬化とを同一熱処理により行っていた。
【0004】
なお、特許文献2及び特許文献3には、熱処理時における結晶粒の粒成長を抑制するために出発原料となる合金にNbやZrなどの金属元素を含有する技術について開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−349585号公報
【特許文献2】特許第2573606号公報
【特許文献3】特許第2812574号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の実施例の方法により製造すると、良好な磁気特性を有する圧粉磁心が得られない場合がある。
【0007】
そこで、本発明は、良好な磁気特性を有する圧粉磁心の製造に用いることのできる粉末及び粉末の製造方法、並びにそれを用いて製造される圧粉磁心及び圧粉磁心の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の発明者らは、非晶質相を主相とする合金を熱処理してナノ結晶相を析出させようとする際、相変態に伴うエネルギー放出が起こり、合金が自己発熱してしまうことを見出した。
【0009】
前述したように、特許文献1の方法においては、ナノ結晶相の析出と圧粉磁心の硬化とを同一熱処理により行っていることから、合金が相変態時に自己発熱してしまうと硬化の際には設定温度よりも高い温度となってしまう場合がある。このような予期せぬ熱処理温度の上昇は、例えば、結晶粒の粗大化や化合物相の生成を生じさせ、圧粉磁心の磁気特性の低下を招く恐れがある。
【0010】
そこで、本発明の発明者らは、ナノ結晶相の析出に係る熱処理と圧粉磁心の硬化とを敢えて分けることにより、熱処理温度の制御を意図したとおりに行えるようにし、特に、ナノ結晶相の析出に係る熱処理に際しては、結晶粒の粗大化や化合物相の生成の抑制を図れるように処理内容を設定することとした。具体的には、本発明は以下に掲げる手段を提供する。
【0011】
即ち、本発明は、第1のFe基ナノ結晶合金粉末の製造方法として、
非晶質相を主相とする合金粉末を作製する粉末作製工程と、作製した前記合金粉末に対して所定の熱処理を行う熱処理工程とを備えるFe基ナノ結晶合金粉末の製造方法であって、
前記合金粉末は、所定の温度で熱処理した場合におけるDSC曲線の発熱ピークを2つ以上有するものであり、
前記所定の熱処理は、第1結晶化開始温度(Tx1)と第1結晶化終了温度(Tz1)の間の温度範囲の70%を少なくとも含む加熱範囲であって第2結晶化開始温度(Tx2)までは達しない加熱範囲に亘って前記合金粉末を毎分30℃以上の昇温速度にて加熱してFe基ナノ結晶合金粉末を得るものであり、
前記第1結晶化開始温度は、前記DSC曲線のベースラインから最も低温側の前記発熱ピークである第1ピークに至るまでの第1立ち上がり部のうちの最も正の傾きの大きい点を通る接線である第1上昇接線と前記ベースラインとの交点にて定まるものであり、
前記第1結晶化終了温度は、前記第1ピークから前記ベースラインに至るまでの第1立ち下がり部のうちの最も負の傾きの大きい点を通る接線である第1下降接線と前記ベースラインとの交点にて定まるものであり、
前記第2結晶化開始温度は、前記ベースラインから前記第1ピークの次の前記発熱ピークである第2ピークに至るまでの第2立ち上がり部のうちの最も正の傾きの大きい点を通る接線である第2上昇接線と前記ベースラインとの交点にて定まるものである
Fe基ナノ結晶合金粉末の製造方法を提供する。
【0012】
また、本発明は、第2のFe基ナノ結晶合金粉末の製造方法として、第1のFe基ナノ結晶合金粉末の製造方法であって、
前記加熱範囲は、前記第1結晶化開始温度と第1結晶化終了温度の間の温度範囲の70%以上100%以下である
Fe基ナノ結晶合金粉末の製造方法を提供する。
【0013】
また、本発明は、第3のFe基ナノ結晶合金粉末の製造方法として、第1又は第2のFe基ナノ結晶合金粉末の製造方法であって、
前記昇温速度は、毎分300℃以下である
Fe基ナノ結晶合金粉末の製造方法を提供する。
【0014】
また、本発明は、第4のFe基ナノ結晶合金粉末の製造方法として、第1乃至第3のいずれかのFe基ナノ結晶合金粉末の製造方法であって、
前記合金粉末の前記第1結晶化開始温度と前記第2結晶化開始温度との差ΔTは、70℃以上300℃以下である
Fe基ナノ結晶合金粉末の製造方法を提供する。
【0015】
また、本発明は、第5のFe基ナノ結晶合金粉末の製造方法として、第1乃至第4のいずれかのFe基ナノ結晶合金粉末の製造方法であって、
前記合金粉末は、組成式FeSiCu(但し、79≦a≦84at%、5≦b≦13at%、0≦c≦8at%、1≦x≦10at%、0≦y≦5at%、0.4≦z≦1.4at%、及び0.08≦z/x≦1.2)で表わされる
Fe基ナノ結晶合金粉末の製造方法を提供する。
【0016】
また、本発明は、第6のFe基ナノ結晶合金粉末の製造方法として、第5のFe基ナノ結晶合金粉末の製造方法であって、
Feの一部をTi、Zr、Hf、Nb、Ta、Mo、W、Cr、Co、Ni、Al、Mn、Ag、Zn、S、Sn、As、Sb、Bi、Y、N、O、V、Mg、Ca及び希土類元素のうち1種類以上の元素で置換してなるFe基ナノ結晶合金において、Ti、Zr、Hf、Nb、Ta、Mo、W、Cr、Co、Ni、Al、Mn、Ag、Zn、S、Sn、As、Sb、Bi、Y、N、O、V、Mg、Ca及び希土類元素のうち1種類以上の元素は組成全体の3at%以下であり、Ti、Zr、Hf、Nb、Ta、Mo、W、Cr、Co、Ni、Al、Mn、Ag、Zn、S、Sn、As、Sb、Bi、Y、N、O、V、Mg、Ca及び希土類元素のうち1種類以上の元素とFeとの合計は前記aについての条件79≦a≦84at%を満たす
Fe基ナノ結晶合金粉末の製造方法を提供する。
【0017】
更に、本発明は、第7のFe基ナノ結晶合金粉末の製造方法として、第1乃至第6のいずれかのFe基ナノ結晶合金粉末の製造方法であって、
前記粉末作製工程において、前記合金粉末は、ガスアトマイズ法又は水アトマイズ法により作製される
Fe基ナノ結晶合金粉末の製造方法を提供する。
【0018】
また、本発明は、第1乃至第7のいずれかの製造方法により製造されたFe基ナノ結晶合金粉末とバインダとを混合して混合物を得る工程と、前記混合物を加圧成型して圧粉体を得る工程と、前記圧粉体を硬化して圧粉磁心を得る工程とを備える圧粉磁心の製造方法を提供する。
【0019】
また、本発明は、第1のFe基ナノ結晶合金粉末として、
組成式FeSiCu(但し、79≦a≦84at%、5≦b≦13at%、0≦c≦8at%、1≦x≦10at%、0≦y≦5at%、0.4≦z≦1.4at%、及び0.08≦z/x≦1.2)で表わされるFe基ナノ結晶合金粉末であって、
当該Fe基ナノ結晶合金粉末の内部に析出したbccFe結晶の平均結晶粒径が30nm以下である
Fe基ナノ結晶合金粉末を提供する。
【0020】
また、本発明は、第2のFe基ナノ結晶合金粉末として、第1のFe基ナノ結晶合金粉末であって、
Feの一部をTi、Zr、Hf、Nb、Ta、Mo、W、Cr、Co、Ni、Al、Mn、Ag、Zn、S、Sn、As、Sb、Bi、Y、N、O、V、Mg、Ca及び希土類元素のうち1種類以上の元素で置換してなるFe基ナノ結晶合金において、Ti、Zr、Hf、Nb、Ta、Mo、W、Cr、Co、Ni、Al、Mn、Ag、Zn、S、Sn、As、Sb、Bi、Y、N、O、V、Mg、Ca及び希土類元素のうち1種類以上の元素は組成全体の3at%以下であり、Ti、Zr、Hf、Nb、Ta、Mo、W、Cr、Co、Ni、Al、Mn、Ag、Zn、S、Sn、As、Sb、Bi、Y、N、O、V、Mg、Ca及び希土類元素のうち1種類以上の元素とFeとの合計は前記aについての条件79≦a≦84at%を満たす
Fe基ナノ結晶合金粉末を提供する。
【0021】
また、本発明は、第3のFe基ナノ結晶合金粉末として、
組成式FeSiCu(但し、79≦a≦84at%、5≦b≦13at%、0≦c≦8at%、1≦x≦10at%、0≦y≦5at%、0.4≦z≦1.4at%、及び0.08≦z/x≦1.2)で表わされるFe基ナノ結晶合金粉末であって、
飽和磁歪定数が18×10-6以下である
Fe基ナノ結晶合金粉末を提供する。
【0022】
また、本発明は、第4のFe基ナノ結晶合金粉末として、第3のFe基ナノ結晶合金粉末であって、
Feの一部をTi、Zr、Hf、Nb、Ta、Mo、W、Cr、Co、Ni、Al、Mn、Ag、Zn、S、Sn、As、Sb、Bi、Y、N、O、V、Mg、Ca及び希土類元素のうち1種類以上の元素で置換してなるFe基ナノ結晶合金において、Ti、Zr、Hf、Nb、Ta、Mo、W、Cr、Co、Ni、Al、Mn、Ag、Zn、S、Sn、As、Sb、Bi、Y、N、O、V、Mg、Ca及び希土類元素のうち1種類以上の元素は組成全体の3at%以下であり、Ti、Zr、Hf、Nb、Ta、Mo、W、Cr、Co、Ni、Al、Mn、Ag、Zn、S、Sn、As、Sb、Bi、Y、N、O、V、Mg、Ca及び希土類元素のうち1種類以上の元素とFeとの合計は前記aについての条件79≦a≦84at%を満たす
Fe基ナノ結晶合金粉末を提供する。
【0023】
更に、本発明は、第1乃至第4のいずれかのFe基ナノ結晶合金粉末とバインダとを混合したものを加圧成型した後、熱処理して得られる圧粉磁心を提供する。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、ナノ結晶相の析出に係る熱処理と圧粉磁心の硬化とを分けた上で、ナノ結晶相の析出に係る熱処理を行う際に、第2結晶化開始温度に至る前に昇温速度を下げることとしたため、高磁化のbccFeからなる30nm以下の微細なナノ結晶が析出したナノ結晶合金粉末(即ち、結晶粒の粗大化や化合物相の生成の抑制された良好なナノ結晶合金粉末)を得ることができる。
【0025】
また、上述したような良好なナノ結晶合金粉末を用いて圧粉磁心を製造することとしたため、ナノ結晶合金粉末の特性に不確定要素が少なくなり、優れた軟磁気特性と高飽和磁束密度とを有する圧粉磁心を得ることができる。特に、飽和磁歪定数が18×10-6以下である(即ち、ゼロに近い)ナノ結晶合金粉末を用いて圧粉磁心を製造する場合には、成型やバインダの硬化に伴って粉末内部に発生する応力歪みを低減させることができるため、更に優れた軟磁気特性を有する圧粉磁心を得ることができる。
【0026】
特に、上述したような組成式で表わされる合金から製造された場合には、優れた軟磁気特性と1.60Tを超える高飽和磁束密度を有するFe基ナノ結晶合金粉末を得ることができる。また、当該組成式の合金は、NbやZrを含有しなくともナノ結晶化が可能なものであることから、原料価格を低減することが可能である。更に、合金粉末を熱処理していることから、圧粉磁心作製前に粉末に錆が生じてしまうといった事態を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の実施の形態による圧粉磁心の製造方法を模式的に示したフロー図である。
【図2】図1の熱処理工程における熱処理条件を設定するために使用されるDSC曲線を示す図である。
【図3】本発明の実施例12及び比較例3による圧粉磁心のXRDパターンを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明の実施の形態による圧粉磁心の製造方法は、図1に示されるように、概略、3つの工程:即ち、非晶質相を主相とする合金粉末(非晶質性合金粉末)を作製する粉末作製工程P1と;非晶質性合金粉末を熱処理してFe基ナノ結晶合金粉末を作製する熱処理工程P2と;Fe基ナノ結晶合金粉末を用いて圧粉磁心を作製する磁心作製工程P3とを備えている。
【0029】
粉末作製工程P1においては、例えば、溶湯を細かく粉末化するアトマイズ法を用いて所望とする合金粉末を得ることができる。詳しくは、Feや半金属元素等の原料を秤量した後、溶解して合金溶湯を生成する。この合金溶湯をノズルから排出して出来た合金溶湯の流れに冷却媒体を衝突させて、合金溶湯を微細化すると共に急冷し、非晶質性合金粉末を得る。ここで、冷却媒体についての限定は特にはない。従って、例えば、アルゴンなどの不活性ガスや窒素及び空気などの各種気体を用いるガスアトマイズ法や、高圧の水を用いる水アトマイズ法を採用することができる。加えて、高速回転する金属ロールや金属板に合金溶湯を衝突させることにより粉末化することとしても良い。更には、微細化と急冷とに異なる媒体を用いて実施しても良い。
【0030】
熱処理工程P2においては、概略、加熱範囲に注意して、以下に詳述するように所定の加熱範囲のみについて毎分30℃以上の昇温速度にて非晶質性合金粉末に対する熱処理を施す。
【0031】
熱処理工程P2において処理対象となる非晶質性合金粉末は、図2に示されるように、所定の昇温速度となるように加熱し続けた場合に、発熱ピーク(11,15)を2つ以上有するようなDSC(示差走査熱量分析:Differential scanning calorimetry)曲線10を得られるようなものである。以下、2つの発熱ピークのうち、最も低温側の発熱ピークを第1ピーク11といい、第1ピーク11の次の発熱ピークを第2ピーク15という。また、DSC曲線10のベースライン20から第1ピーク11に至るまでの第1立ち上がり部12のうちの最も正の傾きの大きい点を通る接線である第1上昇接線32とベースライン20との交点にて定まる温度を第1結晶化開始温度Tx1とし、第1ピーク11からベースライン21に至るまでの第1立ち下がり部13のうちの最も負の傾きの大きい点を通る接線である第1下降接線34とベースライン21との交点にて定まる温度を第1結晶化終了温度Tz1とする。同様に、ベースライン22から第2ピーク15に至るまでの第2立ち上がり部16のうちの最も正の傾きの大きい点を通る接線である第2上昇接線42とベースライン22との交点にて定まる温度を第2結晶化開始温度Tx2とし、第2ピーク15からベースライン23に至るまでの第2立ち下がり部17のうちの最も負の傾きの大きい点を通る接線である第2下降接線44とベースライン23との交点にて定まる温度を第2結晶化終了温度とする。
【0032】
第1ピーク11で示される発熱反応は、合金粉末に最初の結晶化(第1結晶化)が生じた際の発熱反応であり、第2ピーク15で示される発熱反応は、合金粉末に2回目の結晶化(第2結晶化)が生じた際の発熱反応である。第1結晶化によって析出するのは、主として、軟磁性を担うbccFe(αFe,Fe−Si)であり、第2結晶化によって析出するのは、主として、磁気特性を劣化させるFe−BやFe−Pなどである。従って、第1結晶化のみを促進すれば、優れた磁気特性を有するFe基ナノ結晶合金粉末を製造することができる。
【0033】
そのため、本実施の形態においては、第1結晶化開始温度(Tx1)と第1結晶化終了温度(Tz1)の間の温度範囲の70%を少なくとも含む加熱範囲であって第2結晶化開始温度(Tx2)までは達しない加熱範囲を所定の加熱範囲とする。ここで、所定の加熱範囲を第1結晶化開始温度と第1結晶化終了温度の間の少なくとも70%以上としたのは、加熱範囲が70%未満の場合には、結晶粒の生成及び成長が不十分となり、製造されたFe基ナノ結晶合金粉末の保磁力が劣化してしまうためである。なお、第2結晶化の抑制を確実なものとするため、所定の加熱範囲は、第1結晶化開始温度と第1結晶化終了温度の間の温度範囲の70%以上100%以下とするのが好ましい。
【0034】
また、第1結晶化のみを促進すると共に第2結晶化を抑制することにより、bccFeの結晶のみを安定して析出させるためには広いΔT(=Tx2−Tx1)を有していることが必要とされる。このため、本実施の形態においては、ΔTが70℃以上300℃以下であることが好ましい。
【0035】
本実施の形態による熱処理工程P2において、所定の加熱範囲における昇温速度は毎分30℃以上である。かかる昇温速度とするのは、昇温速度が毎分30℃より遅いと、結晶粒が粗大化し、製造されたFe基ナノ結晶合金の保磁力が劣化してしまうためである。なお、低保磁力特性のFe基ナノ結晶合金粉末を安定的に得るためには、昇温速度は、毎分300℃以下であることが望ましい。
【0036】
毎分30℃以上で昇温させる熱処理方法としては、例えば、赤外線加熱や高周波加熱など急速昇温が可能な装置を用いた熱処理方法や、結晶化以下の温度で余熱した試料を第1結晶化の発熱反応以上の温度の炉に入れる熱処理方法が考えられる。しかしながら、本発明は、これらに限定されたものではない。
【0037】
なお、Fe基ナノ結晶合金粉末の出発原料たる非晶質性合金粉末として適切なものは、組成式FeSiCu(但し、79≦a≦84at%、5≦b≦13at%、0≦c≦8at%、1≦x≦10at%、0≦y≦5at%、0.4≦z≦1.4at%、及び0.08≦z/x≦1.2)で表わされる組成を有するものであり、従って、製造されるFe基ナノ結晶合金も同様の組成を有している。
【0038】
上記Fe基ナノ結晶合金粉末において、Fe元素は主元素であり、磁性を担う必須元素である。飽和磁束密度の向上及び原料価格の低減のため、Feの割合が多いことが基本的には好ましい。Feの割合が79at%より少ないと、望ましい飽和磁束密度が得られない。Feの割合が84at%より多いと、液体急冷条件下における非晶質相の形成が困難になり、アトマイズにより作製した合金粉末において、結晶相の割合が増加してしまう。即ち、Feの割合が84at%より多いと、均質なナノ結晶組織が得られず、合金粉末は劣化した軟磁気特性を有することとなる。従って、Feの割合は、79at%以上、84at%以下であるのが望ましい。特に1.60T以上の飽和磁束密度が必要とされる場合、Feの割合が80at%以上であることが好ましい。
【0039】
上記Fe基ナノ結晶合金粉末において、B元素は非晶質相の形成を担う必須元素である。Bの割合が5at%より少ないと、液体急冷条件下における非晶質相の形成が困難になる。Bの割合が13at%より多いと、ΔTが減少し、均質なナノ結晶組織を得ることができず、合金粉末は劣化した軟磁気特性を有することとなる。従って、Bの割合は、5at%以上、13at%以下であることが望ましい。特に量産化のため合金粉末が低い融点を有する必要がある場合、Bの割合が10at%以下であることが好ましい。
【0040】
上記Fe基ナノ結晶合金粉末において、Si元素は非晶質相の形成を担う元素であり、ナノ結晶化にあたってはナノ結晶の安定化に寄与する。Siの割合が8at%よりも多いと、非晶質形成能が低下し、更に軟磁気特性が劣化する。従って、Siの割合は、8at%以下であることが望ましく、更に5at%以下が好ましい。
【0041】
上記Fe基ナノ結晶合金粉末において、P元素は非晶質相の形成を担う必須元素であり、アトマイズにおいては、合金溶湯の融点低下により粘性を低減し、球状の粉末を作製しやすくする効果を有している。Pの割合が1at%より少ないと、液体急冷条件下における非晶質相の形成が困難になる。Pの割合が10at%より多いと、飽和磁束密度が低下し軟磁気特性が劣化する。従って、Pの割合は、1at%以上、10at%以下であることが望ましい。
【0042】
上記Fe基ナノ結晶合金粉末において、C元素は非晶質相の形成を担う元素である。本実施の形態においては、B元素、Si元素、P元素、C元素の組み合わせを用いることで、いずれか一つしか用いない場合と比較して、非晶質形成能やナノ結晶の安定性を高めることとしている。また、Cは安価であるため、Cの添加により他の半金属量が低減され、総材料コストが低減される。但し、Cの割合が5at%を超えると、合金組成物が脆化し、軟磁気特性の劣化が生じるという問題がある。従って、Cの割合は、5at%以下が望ましい。特にCの割合が3at%以下であると、溶解時におけるCの蒸発に起因した組成のばらつきを抑えることができる。
【0043】
上記Fe基ナノ結晶合金粉末において、Cu元素はナノ結晶化に寄与する必須元素である。Cuの割合が0.4at%より少ないと、ナノ結晶化が困難になる。Cuの割合が1.4at%より多いと、非晶質相が不均質になり、熱処理によって均質なナノ結晶組織が得られず、軟磁気特性が劣化する。従って、Cuの割合は、0.4at%以上、1.4at%以下であることが望ましく、特に合金粉末の酸化及びナノ結晶への粒成長を考慮するとCuの割合は0.6at%以上、1.3at%以下であることが好ましい。
【0044】
P原子とCu原子との間には強い引力がある。従って、合金粉末が特定の比率のP元素とCu元素とを含んでいると、10nm以下のサイズのクラスターが形成され、このナノサイズのクラスターによって、ナノ結晶が析出する際にbccFe結晶は微細構造を有するようになる。本実施の形態において、Pの割合(x)とCuの割合(z)との特定の比率(z/x)は、0.08以上、1.2以下である。この範囲以外では、均質なナノ結晶組織が得られず、従って合金粉末は優れた軟磁気特性を有せない。なお、特定の比率(z/x)は、合金粉末の酸化を考慮すると、0.08以上0.8以下であることが好ましい。
【0045】
ここで、耐食性の改善や電気抵抗の調整などのため、飽和磁束密度の著しい低下が生じない範囲でFeの一部をTi、Zr、Hf、Nb、Ta、Mo、W、Cr、Co、Ni、Al、Mn、Ag、Zn、S、Sn、As、Sb、Bi、Y、N、O、V、Mg、Ca及び希土類元素のうち1種類以上の元素で置換してもよい。但し、Ti、Zr、Hf、Nb、Ta、Mo、W、Cr、Co、Ni、Al、Mn、Ag、Zn、S、Sn、As、Sb、Bi、Y、N、O、V、Mg、Ca及び希土類元素のうち1種類以上の元素は組成全体の3at%以下であり、Ti、Zr、Hf、Nb、Ta、Mo、W、Cr、Co、Ni、Al、Mn、Ag、Zn、S、Sn、As、Sb、Bi、Y、N、O、V、Mg、Ca及び希土類元素のうち1種類以上の元素とFeとの合計はFeの割合aについての条件79≦a≦84at%を満たすものとする。
【0046】
特許文献1等の従来技術のように磁心の形態に成型した後にナノ結晶化を図るのではなく、上述したように粉末の形態のままナノ結晶化を図る場合であっても、相変態に伴う合金の自己発熱は生じる。しかし、粉末は比表面積が大きいことから、放熱特性に優れており、従って、自己発熱が結果物たるFe基ナノ結晶合金粉末の磁気特性に与える影響は極めて限られたものとなる。本実施の形態においては、このように安定して良好な磁気特性を有するFe基ナノ結晶合金粉末を熱処理工程P2にて得た後、そのFe基ナノ結晶合金粉末を用いて磁心作製工程P3にて圧粉磁心を作製する。
【0047】
具体的には、まず、Fe基ナノ結晶合金粉末を樹脂などのバインダと混合・造粒して造粒粉を得る。次いで、金型を用いて造粒粉を加圧成型して圧粉体を得る。その後、圧粉体を硬化して圧粉磁心を得る。このようにして得られた圧粉磁心に含まれるFe基ナノ結晶合金粉末は、熱処理条件が適切にコントロールされていることから、結晶の粗大化や不要な化合物の生成の抑制されたものであり、従って、圧粉磁心も優れた軟磁気特性と高飽和磁束密度を有するものとなる。尚、飽和磁歪定数がゼロに近い(例えば、18×10-6以下の)ナノ結晶合金粉末を用いることにより、成型やバインダの硬化に伴って発生する応力歪みが少ない圧粉磁心の製造が可能であるが、このような歪みを除去するために、結晶粒の粗大化が起こらない範囲において、熱処理を行っても良い。
【実施例】
【0048】
以下、実施例を挙げ、上述した本発明の実施の形態によるFe基ナノ結晶合金粉末及びその製造方法並びにそのFe基ナノ結晶合金粉末を含む圧粉磁心及びその製造方法について、複数の実施例を参照にしながら具体的に説明する。
【0049】
Fe、Fe−Si、Fe−B、Fe−P、Cuからなる原料をFe83.3SiCu0.7の合金組成になるように秤量し、高周波溶解にて溶解した。その後、溶解した合金溶湯を窒素雰囲気中において水アトマイズ法にて処理し、平均粒径45μmの合金粉末を作製した。結晶化に伴う発熱反応は示差走査型熱量分析計(DSC)を用いて表1に示す熱処理条件と同じ昇温速度にて評価した。粉末の非晶質性を評価するに当たり、「アモルファス度」という評価基準を用いた。ここで、「アモルファス度」とは、X線回折装置(XRD)にて非晶質であることが確認されている同じ合金組成の薄帯における発熱量を基準にして、bccFe(αFe,Fe−Si)の析出に伴う単位重量あたりの発熱量を百分率で表したものである。具体的には、DSCにより測定した第1ピークの発熱量と、同じ合金組成を有する厚さ約20μm、幅1mmの薄帯における第1ピークの発熱量とを比較して上述した「アモルファス度」を求めることにより、粉末の非晶質性を評価した。結晶粒径は、表1に示した熱処理条件にてナノ結晶化熱処理を施した後に、XRDを用いてbccFe(αFe,Fe−Si)のメインピークを測定し、Scherrerの式により算出した。
【0050】
【表1】

【0051】
表1から理解されるように、粉末作製工程P1により作製されたFe83.3SiCu0.7の合金組成を有する粉末は、アモルファス度が70%であり、非晶質相を主相としていることがわかる。実施例1〜3のFe基ナノ結晶合金粉末は、熱処理工程P2において、第1結晶化開始温度と第1結晶化終了温度の間の少なくとも70%以上の加熱範囲に亘って、毎分30℃以上の昇温速度にて加熱したことから、結晶粒径30nm以下の微細組織を有している。一方、比較例1のFe基ナノ結晶合金粉末は、熱処理工程P2における昇温速度が毎分30℃未満のため、結晶粒径は30nmより大きく、すなわち結晶の粗大化が確認されている。
【0052】
Fe、Fe−Si、Fe−B、Fe−P、Cuからなる原料を表2に示す合金組成になるように秤量し、高周波溶解にて溶解した。その後、溶解した合金溶湯を窒素雰囲気中において水アトマイズ法にて処理し、平均粒径45μm程度の合金粉末を作製した。結晶化に伴う発熱反応は示差走査型熱量分析計(DSC)を用いて、毎分40℃の昇温速度にて評価した。粉末の非晶質性は、DSCにより測定した第1ピークの発熱量と、同じ合金組成を有する厚さ約20μm、幅1mmの薄帯における第1ピークの発熱量とを比較して得られる「アモルファス度」により評価した。飽和磁束密度は、合金粉末に、赤外線加熱装置を用いて毎分40℃の昇温速度にて加熱し、表2に示した熱処理条件にてナノ結晶化熱処理を施した後に、振動試料型磁力計(VSM)を用いて1500kA/mの磁場にて測定した。評価結果を表2に示す。
【0053】
【表2】

【0054】
表2から理解されるように、実施例4〜11のFe基ナノ結晶合金粉末は、Fe量が79≦a≦84at%の範囲にあることから、アモルファス度70%以上の非晶質相を主相とする合金粉末を得ることができ、ナノ結晶化後の飽和磁束密度についても1.61T以上の高い飽和磁束密度を得ることができている。一方、比較例2のFe基ナノ結晶合金粉末は、Fe量が84.8at%であるため、急冷により得られた合金粉末のアモルファス度は10%であり、非晶質相を主相とする合金粉末を得られていないことがわかる。
【0055】
続いて、実施例12及び13として、実施例5及び7のFe基ナノ結晶合金粉末を用いて圧粉磁心を作製し、電磁気特性を評価した。比較例3及び4として、実施例5及び7と同じ合金組成であり、熱処理工程P2を施していない、非晶質相を主相とする合金粉末を用いて圧粉体を作製し、その後、ナノ結晶化のための熱処理を施した場合の電磁気特性を評価した。また、比較例5として、比較例2のFe基ナノ結晶合金粉末(粉末作製工程P1で作製された合金粉末が非晶質相を主相としないFe基ナノ結晶合金粉末)を用いて圧粉磁心を作製し、電磁気特性を評価した。以下に、本実施例による磁心作製工程P3,即ち、圧粉磁心の作製方法について示す。
【0056】
まず、合金粉末と合金粉末に対して重量比で4%となる熱硬化性バインダを混合し、500μmのメッシュを通して造粒した。造粒粉2.5gを金型に入れ、油圧式自動プレス機により圧力735MPaにて成型し、外径13mm−内径8mmの円筒形状の圧粉体を作製した。バインダが硬化する温度に設定した恒温槽内に圧粉体を保持して、バインダを硬化させ、圧粉磁心を得た。比較例3及び4においては、バインダを硬化させた後、赤外線加熱装置を用いて、475℃まで毎分40℃の昇温速度となるように加熱し、475℃にて10分間保持した後、空冷し、圧粉磁心を得た。電磁気特性については、周波数20kHzにおける初透磁率μiと周波数20kHz−磁束密度100mTにおけるコアロスPcvを測定し、評価した。なお、初透磁率μiはインピーダンスアナライザを用いて測定し、コアロスPcvはB−Hアナライザを用いて測定した。評価結果を表3に示す。
【0057】
【表3】

【0058】
表3から理解されるように、実施例12及び13の圧粉磁心は、比較例3及び4に示す圧粉体を作製した後にナノ結晶化熱処理を施した磁心に対して、高い初透磁率μiと低いコアロスPcvを示しており、優れた軟磁気特性を得ることができている。また、比較例5の圧粉磁心は、実施例12及び13と比較して、十分な軟磁気特性が得られておらず、これは、粉末作製工程P1において、作製された合金粉末のアモルファス度が10%であり、非晶質相を主相とする合金粉末が得られていないためである。
【0059】
図3は、実施例12と比較例3に示す圧粉磁心のXRDパターンである。図3を参照すると、実施例12のナノ結晶合金粉末より作製した圧粉磁心の結晶相はbccFe(αFe,Fe−Si)のみであるが、比較例3に示す圧粉磁心においては、bccFe(αFe,Fe−Si)に加えて、Fe−B系化合物が生成していることが確認できる。また、実施例12のFe基ナノ結晶合金粉末のXRDパターンより、Scherrerの式を用いて算出した結晶粒径は24nmであり、本実施の形態において、30nm以下の微結晶を析出できていることがわかった。このように、本発明の実施例によるFe基ナノ結晶合金粉末を用いた磁心は、化合物の生成が防がれており、且つ、優れた軟磁気特性と高飽和磁束密度を有するものであることが理解される。
【0060】
Fe、Fe−Si、Fe−B、Fe−P、Cuからなる原料を表4に示す合金組成になるように秤量し、高周波溶解にて溶解した。その後、溶解した合金溶湯を窒素雰囲気中において水アトマイズ法にて処理し、平均粒径45μm程度の合金粉末を作製した。合金粉末を、赤外線加熱装置を用いて毎分40℃の昇温速度にて加熱し、表4に示した熱処理条件にてナノ結晶化熱処理を施した。熱処理した合金粉末と合金粉末に対して重量比で2%となる熱硬化性バインダとを混合し、500μmのメッシュを通して造粒した。造粒粉2.5gを金型に入れ、油圧式自動プレス機により圧力735MPaにて成型し、外径13mm−内径8mmの円筒形状の圧粉体を作製した。バインダが硬化する温度に設定した恒温槽内に圧粉体を保持して、バインダを硬化させ、圧粉磁心を得た。飽和磁歪定数は、各合金粉末と同じ合金組成を有する厚さ約20μm、幅4mm、長さ15mmの薄帯に対して、各合金粉末と同じ熱処理条件にて熱処理を施した後に、歪みゲージを貼り付け、無磁場の状態に200kA/mの磁場を印可した際の歪みゲージの抵抗値の変化によって測定した。尚、コアロスPcvは、B−Hアナライザを用いて、周波数20kHz−磁束密度100mTにおいて測定した。評価結果を表4に示す。
【0061】
【表4】

【0062】
表4から理解されるように、圧粉磁心のコアロスPcvは、飽和磁歪定数が小さい合金粉末を用いて製造された方が低くなる傾向を示している。具体的には、飽和磁歪定数が18×10-6より大きなFe基合金粉末を用いて製造されている比較例6〜11の圧粉磁心は、600kW/m以上のコアロスPcvを有している。一方、実施例14〜16の圧粉磁心は、飽和磁歪定数が18×10-6以下のFe基ナノ結晶合金粉末を用いて製造されていることから、600kW/m未満の低いコアロスPcvを有しており、優れた軟磁気特性を得られることがわかる。
【0063】
以上、具体的な例を掲げて本発明について説明してきたが、本発明は上述した実施の形態や実施例に限定されるものではない。例えば、粉末の平均粒径や粒度分布の相違は問題なく、粉末形状についても、球状のみならず、凹凸を有する不規則形状や多孔質であっても構わない。また、粒子表面が平滑でも粗くても構わないし、粒子表面に酸化膜や合金組成に含まれる特定の元素が偏析していても可能である。また、熱処理工程において、本加熱の前に予備加熱を行う、昇温速度を途中で変更する等の多段階加熱とすることも可能であり、保持時間の長さについても自由に変更することもできる。更に、圧粉磁心を作製する際のバインダも変更可能であり、バインダ量は合金粉末の比表面積に応じて適宜増減することができ、バインダの種類についても有機系・無機系を問わない。また、熱硬化性ではなく、紫外線硬化型等の結着剤を使用することも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0064】
上述した実施の形態では、本発明のFe基ナノ結晶合金粉末が圧粉磁心の磁心材料に適用可能である旨を説明したが、当該Fe基ナノ結晶合金粉末は他の磁性部品に利用することができる。
【符号の説明】
【0065】
P1 粉末作製工程
P2 熱処理工程
P3 磁心作製工程
10 DSC曲線
11 第1ピーク
12 第1立ち上がり部
13 第1立ち下がり部
15 第2ピーク
16 第2立ち上がり部
17 第2立ち下がり部
20〜23 ベースライン
32 第1上昇接線
34 第1下降接線
42 第2上昇接線
44 第2下降接線
Tx1 第1結晶化開始温度
Tz1 第1結晶化終了温度
Tx2 第2結晶化開始温度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非晶質相を主相とする合金粉末を作製する粉末作製工程と、作製した前記合金粉末に対して所定の熱処理を行う熱処理工程とを備えるFe基ナノ結晶合金粉末の製造方法であって、
前記合金粉末は、所定の温度で熱処理した場合におけるDSC曲線の発熱ピークを2つ以上有するものであり、
前記所定の熱処理は、第1結晶化開始温度(Tx1)と第1結晶化終了温度(Tz1)の間の温度範囲の70%を少なくとも含む加熱範囲であって第2結晶化開始温度(Tx2)までは達しない加熱範囲に亘って前記合金粉末を毎分30℃以上の昇温速度にて加熱してFe基ナノ結晶合金粉末を得るものであり、
前記第1結晶化開始温度は、前記DSC曲線のベースラインから最も低温側の前記発熱ピークである第1ピークに至るまでの第1立ち上がり部のうちの最も正の傾きの大きい点を通る接線である第1上昇接線と前記ベースラインとの交点にて定まるものであり、
前記第1結晶化終了温度は、前記第1ピークから前記ベースラインに至るまでの第1立ち下がり部のうちの最も負の傾きの大きい点を通る接線である第1下降接線と前記ベースラインとの交点にて定まるものであり、
前記第2結晶化開始温度は、前記ベースラインから前記第1ピークの次の前記発熱ピークである第2ピークに至るまでの第2立ち上がり部のうちの最も正の傾きの大きい点を通る接線である第2上昇接線と前記ベースラインとの交点にて定まるものである
Fe基ナノ結晶合金粉末の製造方法。
【請求項2】
請求項1記載のFe基ナノ結晶合金粉末の製造方法であって、
前記加熱範囲は、前記第1結晶化開始温度と第1結晶化終了温度の間の温度範囲の70%以上100%以下である
Fe基ナノ結晶合金粉末の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2記載のFe基ナノ結晶合金粉末の製造方法であって、
前記昇温速度は、毎分300℃以下である
Fe基ナノ結晶合金粉末の製造方法。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれかに記載のFe基ナノ結晶合金粉末の製造方法であって、
前記合金粉末の前記第1結晶化開始温度と前記第2結晶化開始温度との差ΔTは、70℃以上300℃以下である
Fe基ナノ結晶合金粉末の製造方法。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれかに記載のFe基ナノ結晶合金粉末の製造方法であって、
前記合金粉末は、組成式FeSiCu(但し、79≦a≦84at%、5≦b≦13at%、0≦c≦8at%、1≦x≦10at%、0≦y≦5at%、0.4≦z≦1.4at%、及び0.08≦z/x≦1.2)で表わされる
Fe基ナノ結晶合金粉末の製造方法。
【請求項6】
請求項5記載のFe基ナノ結晶合金粉末の製造方法であって、
Feの一部をTi、Zr、Hf、Nb、Ta、Mo、W、Cr、Co、Ni、Al、Mn、Ag、Zn、S、Sn、As、Sb、Bi、Y、N、O、V、Mg、Ca及び希土類元素のうち1種類以上の元素で置換してなるFe基ナノ結晶合金において、Ti、Zr、Hf、Nb、Ta、Mo、W、Cr、Co、Ni、Al、Mn、Ag、Zn、S、Sn、As、Sb、Bi、Y、N、O、V、Mg、Ca及び希土類元素のうち1種類以上の元素は組成全体の3at%以下であり、Ti、Zr、Hf、Nb、Ta、Mo、W、Cr、Co、Ni、Al、Mn、Ag、Zn、S、Sn、As、Sb、Bi、Y、N、O、V、Mg、Ca及び希土類元素のうち1種類以上の元素とFeとの合計は前記aについての条件79≦a≦84at%を満たす
Fe基ナノ結晶合金粉末の製造方法。
【請求項7】
請求項1乃至請求項6のいずれかに記載のFe基ナノ結晶合金粉末の製造方法であって、
前記粉末作製工程において、前記合金粉末は、ガスアトマイズ法又は水アトマイズ法により作製される
Fe基ナノ結晶合金粉末の製造方法。
【請求項8】
請求項1乃至請求項7のいずれかの製造方法により製造されたFe基ナノ結晶合金粉末とバインダとを混合して混合物を得る工程と、前記混合物を加圧成型して圧粉体を得る工程と、前記圧粉体を硬化して圧粉磁心を得る工程とを備える圧粉磁心の製造方法。
【請求項9】
組成式FeSiCu(但し、79≦a≦84at%、5≦b≦13at%、0≦c≦8at%、1≦x≦10at%、0≦y≦5at%、0.4≦z≦1.4at%、及び0.08≦z/x≦1.2)で表わされるFe基ナノ結晶合金粉末であって、
当該Fe基ナノ結晶合金粉末の内部に析出したbccFe結晶の平均結晶粒径が30nm以下である
Fe基ナノ結晶合金粉末。
【請求項10】
請求項9記載のFe基ナノ結晶合金粉末であって、
Feの一部をTi、Zr、Hf、Nb、Ta、Mo、W、Cr、Co、Ni、Al、Mn、Ag、Zn、S、Sn、As、Sb、Bi、Y、N、O、V、Mg、Ca及び希土類元素のうち1種類以上の元素で置換してなるFe基ナノ結晶合金において、Ti、Zr、Hf、Nb、Ta、Mo、W、Cr、Co、Ni、Al、Mn、Ag、Zn、S、Sn、As、Sb、Bi、Y、N、O、V、Mg、Ca及び希土類元素のうち1種類以上の元素は組成全体の3at%以下であり、Ti、Zr、Hf、Nb、Ta、Mo、W、Cr、Co、Ni、Al、Mn、Ag、Zn、S、Sn、As、Sb、Bi、Y、N、O、V、Mg、Ca及び希土類元素のうち1種類以上の元素とFeとの合計は前記aについての条件79≦a≦84at%を満たす
Fe基ナノ結晶合金粉末。
【請求項11】
組成式FeSiCu(但し、79≦a≦84at%、5≦b≦13at%、0≦c≦8at%、1≦x≦10at%、0≦y≦5at%、0.4≦z≦1.4at%、及び0.08≦z/x≦1.2)で表わされるFe基ナノ結晶合金粉末であって、
飽和磁歪定数が18×10-6以下である
Fe基ナノ結晶合金粉末。
【請求項12】
請求項11記載のFe基ナノ結晶合金粉末であって、
Feの一部をTi、Zr、Hf、Nb、Ta、Mo、W、Cr、Co、Ni、Al、Mn、Ag、Zn、S、Sn、As、Sb、Bi、Y、N、O、V、Mg、Ca及び希土類元素のうち1種類以上の元素で置換してなるFe基ナノ結晶合金において、Ti、Zr、Hf、Nb、Ta、Mo、W、Cr、Co、Ni、Al、Mn、Ag、Zn、S、Sn、As、Sb、Bi、Y、N、O、V、Mg、Ca及び希土類元素のうち1種類以上の元素は組成全体の3at%以下であり、Ti、Zr、Hf、Nb、Ta、Mo、W、Cr、Co、Ni、Al、Mn、Ag、Zn、S、Sn、As、Sb、Bi、Y、N、O、V、Mg、Ca及び希土類元素のうち1種類以上の元素とFeとの合計は前記aについての条件79≦a≦84at%を満たす
Fe基ナノ結晶合金粉末。
【請求項13】
請求項9乃至請求項12のいずれかに記載のFe基ナノ結晶合金粉末とバインダとを混合したものを加圧成型した後、硬化して得られる圧粉磁心。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−136770(P2012−136770A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−230809(P2011−230809)
【出願日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【出願人】(000134257)NECトーキン株式会社 (1,832)
【Fターム(参考)】