HBV感染症およびHBV介在性疾患の予防/治療用組成物
本発明は、少なくとも2つのB型肝炎ウイルス表面抗原(HBsAg)、それらの断片、および/またはそれらをコードする核酸を含み、かつHBVコア抗原(HBcAg)または該抗原をコードする核酸を全く含有しない組成物に関し、かかるHBsAgはHBV遺伝子型におけるS領域および/またはプレS1領域において異なる。また、本発明は、それらの組成物を含むHBV感染症またはHBV介在性疾患の予防/治療用の医薬組成物、特にワクチンに関し、さらに、B型肝炎の治療的処置に対する患者に特異的な薬物の調製方法に関する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも2つのB型肝炎ウイルス表面抗原(HBsAg)、それらの断片および/またはそれらをコードする核酸を含む組成物に関し、該HBsAgはHBsAgのS領域および/またはプレS1領域におけるB型肝炎ウイルス(HBV)遺伝子型において異なり、該組成物はHBVコア抗原(HBcAg)またはその抗原をコードする核酸を全く含有しない。また、本発明は、医薬組成物、特にそれらの組成物を含むワクチンおよびHBV感染症またはHBV介在性疾患の予防/治療におけるそれらの使用に関する。本発明は、肝炎の治療的処置において患者特異的な薬物を調製する方法ならびに、HBV遺伝子型の診断用キットにも関する。
【背景技術】
【0002】
世界中で2億5000万人を超える人々がB型肝炎ウイルス(HBV)に感染する。極めて多数の感染者は、慢性肝不全、肝硬変、および肝細胞癌(HCC)などを含む病理学的結果を呈する。急性HBV感染症を発症する特定の人々がいる一方で発症しない人々もいる理由はほとんど理解されていない。臨床データおよび他の慢性ウイルス感染症との類似性は、ウイルス感染症の制御下での細胞介在性免疫応答、特に細胞障害性Tリンパ球を含む免疫応答における意義について強調している。細胞障害性T細胞応答の誘発は、急性HBV感染症の除去、および慢性HBV感染症の予防における決定因子である。ウイルスゲノムは、特にエンベロープタンパク質であるプレS1、プレS2およびS抗原(HBsAg)、ポリメラーゼ、ならびにコアタンパク質(HBcAg)をコードする。
【0003】
慢性B型肝炎は慢性持続性または慢性的に悪性の経過をたどる可能性がある肝臓の進行性炎症である。慢性持続性肝炎は、繊維化の亢進を伴う肝臓の拡大した門脈域に限局される浸潤を呈し;臨床的には、持続性肝炎の徴候が長年(最大で10年)にわたって残存し、症例の約80%がHBsAg陽性である。病原性は、細胞性免疫系の不全および持続性ウイルス感染症に基づく可能性が高い。
【0004】
226個のアミノ酸からなるタンパク質(p24/gp27すなわちSタンパク質)である小さなB型肝炎表面抗原(HBsAg)は、20〜30nmのリポタンパク質粒子内に単独で構築される重要なHBV抗原である。該粒子内では、複数の分子間および分子内でのジスルフィド結合によって100〜150個のサブユニットが架橋される。種々のサブタイプおよび遺伝子型のHBV単離物由来のSタンパク質の可変性は限られている。4つの安定なHBsAgサブタイプであるadw、ayw、adrおよびayrは、免疫優勢の「ある決定因子」(残基124〜147を含む親水性領域)の近隣に位置する位置122および160における単一アミノ酸交換に関する。同サブタイプは、以前からHBV感染症における何らかの生物学的なまたは病原性における差異によるものとされてはいない。
【0005】
慢性HBsAgキャリアの血漿から得られるワクチンは、1982年にドイツ連邦共和国で最初に認可された。それ以来、ワクチンは遺伝子技術によって生産され、リスクを有する集団の能動免疫化に用いられている。接種に先立って血清反応陰性の95%の人々は1年後に免疫応答を示す。用いられるあらゆるB型肝炎ワクチンは、B型肝炎ウイルスの非感染性のさやに対応する高濃度の精製HBsAgタンパク質を含有し、ウイルスDNAを含有せず、またはホルマリンで不活化される。
【0006】
先行技術における不利な点は、免疫される少なくとも5%の人々が免疫応答を示さない「非応答者」であることである。さらに、慢性持続性肝炎の治療に対するワクチンは現在までに知られていない。
【0007】
国際公開第01/40279号パンフレットおよび国際公開第01/38498号パンフレットにはB型肝炎ウイルス遺伝子型Gに基づくワクチンについての記載があるが、その2つの特許明細書には異なる遺伝子型の組み合わせについての記載はない。
【0008】
マイケル(Michel)ら、PNAS 92(1995年)、5307−5311頁およびマンチニ(Mancini)ら、PNAS 93(1996年)、12496−12501頁は、HBsAgに基づくDNAワクチンに関する。この文献には異なるHBV遺伝子型のHBsAgの組み合わせを含有する組成物の使用に関する記載はない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
したがって本発明は、HBV感染症またはHBV介在性疾患の予防/治療に関する改善された手段を提供するという課題に基づく。本発明は、肝炎の治療的処置において患者特異的な薬物を提供するという課題にも基づく。更なる目的は、HBV感染症の診断において改善されたキットを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明における根本的な課題は、少なくとも2つのB型肝炎ウイルス表面抗原(HBsAg)、それらの断片、および/またはそれらをコードする核酸を含む組成物の提供によって解決される。この場合、HBsAgはHBsAgのS領域および/またはプレS1領域におけるB型肝炎ウイルス(HBV)遺伝子型において異なり、組成物はHBVコア抗原(HBcAg)または同抗原をコードする核酸を含有しない。
【0011】
本発明は、以下に示す驚くべき観察に基づいている。肝臓において常時HBsAgサブタイプaywを発現するトランスジェニックマウスは、慢性HBV感染症に特異的な免疫療法プロトコルの効率を評価するための前臨床モデルとしてみなされる。上記マウスは、持続性抗原血症の結果として生じるHBsAgを大量に産生し、かつHBsAgに対して実質上耐性を有する。発明者は、一方でトランスジェニックマウス(ayw)の遺伝子型にそのHBsAg遺伝子型において正確に対応するワクチン、他方でトランスジェニックマウスの遺伝子型とは異なるHBsAg遺伝子型を含有するワクチンでHBsAg−トランスジェニックマウスを免疫している。トランスジェニックマウスに対してその固有のHBsAgに対応するHBsAg抗原によって繰り返し免疫したにもかかわらず、細胞障害性T細胞応答が何も認められなかった。一方、トランスジェニックマウスに対してその固有の遺伝子型とは異なるHBsAg遺伝子型で免疫したところ、HBsAgに対し、遺伝子型に特異的でかつ交差反応性のある細胞障害性T細胞応答が得られた。これは自然発生するHBsAg変異体が交差反応性T細胞免疫のプライミングによって「耐性」を破壊できることを示す。細胞障害性T細胞の免疫の活性化は、HBsAg ayw−抗原の低下に加え、HBVの有効な制御下で急性肝炎に対応する肝臓に特異的な徴候および症状をもたらす。HBsAg ayw−抗原のアミノ酸配列がHBsAg adw2−抗原のアミノ配列と小数の位置に限って異なることから観察された免疫応答は特に顕著である。本発明では、T細胞エピトープ内のアミノ酸における極めて少数の保存的置換が同エピトープに対するT細胞応答において変化をもたらす場合があることが確認されている。
【0012】
タンパク質抗原に対するT細胞応答の特異性および効率は、様々なレベル、特に(i)エピトープ(または抗原ペプチド)のタンパク質分解による遊離;(ii)主要組織適合性複合体(MHC)に提示される糖タンパク質に対する抗原ペプチドの親和性;および(iii)同一抗原における種々のエピトープに対して競合的に起こるT細胞応答の負の干渉といった決定因子に基づいて調節される。タンパク質抗原の天然変異体は:
(i)タンパク質からのより効率的な抗原ペプチドのタンパク質分解によるプロセシング(遊離);
(ii)提示されたMHC分子に対する抗原ペプチドの高親和性結合;
(iii)エピトープの免疫原性を弱める、(i)および/または(ii)の記載と類似の過程を介する(同一タンパク質抗原における他のエピトープに対する応答を抑制する)免疫優勢エピトープの除去;
(iv)新たなエピトープが生成できる
といった4つの方法において(エピトープ内部もしくはエピトープに隣接する重要な配列における個々のアミノ酸交換または新たなエピトープの創出によって)特異的なT細胞応答を誘発できる。
【0013】
本発明に関連して、遺伝子型によって示されるHBsAg天然変異体は、同変異体が刺激するT細胞応答における特異性に関して比較的幅広いスペクトルを有することが明らかにされる。
【0014】
本発明と関連して、「HBV遺伝子型」という用語はB型肝炎ウイルスゲノムの全体性を意味する。HBV遺伝子型は、好ましくは全配列決定および系統発生解析によって決定される。現段階では、8つの標準的な遺伝子型が知られている。これら8つの遺伝子型はヌクレオチド相互における8%のバリエーションに基づいており、これについてはバーソロミューズ(Bartholomeusz)、Rev.Med.Virol.13(2003年)、1−14頁を参照されたし。好ましくは、HBV遺伝子型Aは、参照核酸配列Genbank X02763、すなわちHBV遺伝子型Aafrに対するGenbank AF297621に従う参照核酸配列を有する。HBV遺伝子型Baに対する参照核酸配列はGenbank D00330であり、遺伝子型Bjに対する参照核酸配列はAB073858である。HBV遺伝子型Cに対する参照核酸配列はGenbank AY206389であり、遺伝子型Causについては参照核酸配列はGenbank AB048704に相当する。遺伝子型Dに対する参照核酸配列はGenbank X02496である。遺伝子型Eに対する参照核酸配列はX75657である。遺伝子型Fに対する参照核酸配列はX69798である。遺伝子型Gに対する参照核酸配列はAF160501であり、遺伝子型Hに対する参照核酸配列はAY090454である。
【0015】
上記の遺伝子型については、以下のように遺伝子型とサブタイプの間にはある種の相関がある。すなわち、遺伝子型Aは、サブタイプのadw2、ayw1と相関し、遺伝子型Bはadw2、ayw1と相関し、遺伝子型Cはadw2、adrq+、adrq−、ayr、adrと相関する。遺伝子型Dはayw2、ayw3、ayw4と相関する。遺伝子型Eはayw4と相関する。遺伝子型Fはadw4q−、adw2およびayw4と相関し、遺伝子型Gはadw2と相関し、かつ遺伝子型Hはadw4と相関する。
【0016】
感染患者のHBVサブタイプの測定は、例えば抗d、抗y、抗r、抗a(w)といったモノに特異的な抗体を活用することで血清学的に実施できる。同測定は寒天ゲル拡散試験の形態またはラジオイムノアッセイの形態で実施できる(クールージュ A.M.(Courouce、A.M.)、ホーランド P.V.(Holland、P.V.)、ミュラー J.Y.(Muller、J.Y.)およびソリエ J.P.(Soulier、J.P.)、Bibliotheca Haematologica no.42、S.Karger、バーゼル、1976年によって公開された「HB抗原サブタイプ」)。
【0017】
患者血清由来のHBsAgをコードするDNAの配列決定により、サブタイプも決定できる。次いでHBsAgのアミノ酸配列は決定された核酸配列から派生する。次いでサブタイプの割り付けは、マグニス L.O.(Magnius、L.O.)およびノーダー H.(Norder、H.)、「Subtypes、Genotypes and molecular epidemiology of the hepatitis B virus as reflected by sequence variability of the S−gene」 Intervirology 38(1−2):24−34頁にて記載されたように、位置122および160におけるアミノ酸を用いて行われる。
【0018】
本発明と関連して、「B型肝炎ウイルス表面抗原」(HBsAg)という表現は小さいHBV表面抗原またはSタンパク質(p24/gp27)を意味する。HBsAgは、プレS1タンパク質ドメインも含む可能性がある。好ましくは、HBsAgはSタンパク質および/またはプレS1タンパク質のドメインからなる。
【0019】
HBsAgの番号付けについては、キッド・ユンググレーン(Kidd−Ljunggren)ら、J.Gen.Virol.83(2002年)、1267−1280頁に従う系が用いられる。
【0020】
「断片」という用語は、本発明によるとHBsAgの断片を含む。好ましくは、断片は、少なくとも5個のアミノ酸を含み、T細胞エピトープ、すなわち好ましくは少なくとも10個、特に少なくとも20個、より特殊な場合には少なくとも50個のアミノ酸を含有する。好ましい実施形態によると、組成物は少なくとも2つのHBsAgまたは2つのそれらの断片を含む。上記の組成物は、特にポリペプチドに基づくワクチンとして用いる場合に適する。特に、組成物が異なるHBV遺伝子型を有するHBsAg由来の2つの断片を含む場合、第1および第2の断片は少なくとも10個のアミノ酸、好ましくは20個のアミノ酸を共に有するが、アミノ酸の少なくとも1個分だけ互いに異なる。
【0021】
上記のように、本発明は、遺伝子型が異なる結果として生じる抗原(HBsAg)における差異が極めてわずかである場合でさえ、互いに極めてわずかに異なるだけの修飾されたT細胞エピトープが生成され、T細胞応答性における変化が顕著になるという認識に基づく。したがって、互いに少なくとも1個のアミノ酸だけ異なる2つの断片は、HBsAgに関して既知の遺伝子型を単純に配列比較することによって容易に検出できる。互いに少なくとも1個のアミノ酸だけ異なる適切な断片は、本発明に従う組成物において使用できる。好ましくは、同断片は少なくとも1つのT細胞エピトープ、特にヒト細胞エピトープを含有する。T細胞エピトープを決定する方法は、例えばラウアー(Lauer)ら、J.Virol.76(2002年)、6104−6113頁において知られている。
【0022】
好ましい実施形態によると、組成物は少なくとも2つのHBsAgおよび/または少なくとも2つのそれらの断片を含む。
【0023】
好ましくは、少なくとも第1のHBsAgまたはその断片および第2のHBsAgをコードする核酸またはその断片を含む組成物が提供され、この場合第1および第2のHBsAgがHBV遺伝子型において異なる。
【0024】
さらに好ましい実施形態によると、組成物は2つのHBsAgをコードする少なくとも2つの核酸を含み、この場合HBsAgはHBV遺伝子型において異なる。核酸は、先に定義された断片をコードする核酸でもありうる。核酸はウイルスDNAまたは合成DNAである場合があり、この場合の合成DNA配列は修飾されたヌクレオチド間結合を含有するものを含むものとして理解される。核酸は、組換えベクター系を介する発現に必要とされる場合があるRNA分子でもありえる。さらに本発明によると、混合されたDNA/RNA分子は核酸としても検討に値する。
【0025】
好ましい実施形態によると、遺伝子型が既知の遺伝子型のA、B、C、D、E、F、GおよびHから選択される。個々の参照核酸配列については、先に定義された切片に対して参照される。遺伝子型は通常、参照核酸配列に対する8%のヌクレオチドのバリエーションを介して定義される。すなわち参照核酸配列と少なくとも92%同一である核酸は、同定義に従う遺伝子型としても理解される。参照核酸配列に対しては少なくとも95%、特に98%の同一性が特に好ましい。ここで、参照核酸配列に対する「同一性」は既知の方法を活用して決定される。一般に、特定の要件を考慮するアルゴリズムを含む特別なコンピュータプログラムが用いられる。
【0026】
同一性を決定する好ましい方法は、第一に比較される配列間で最大限の一致をもたらす。同一性を決定するためのコンピュータプログラムとして、GAP(デベロイ J.(Deveroy、J.)ら、Nucleic Acid Research 12(1984年)、387頁;Genetics Computer Group University of Wisconsin、Medicine(WI);およびBLASTP、BLASTNおよびFASTA(アルトシュル S.(Altschul、S.)ら、J.Mol.Biol.215(1990年)、403−410頁を含むGCGプログラムパッケージが挙げられるがこれらに限定されない。BLASTXプログラムは、National Center For Biotechnology Information(NCBI)や他のソース(BLAST Handbook、アルトシュル S.(Altschul、S.)ら、NCBI NLM NIH Bethesda ND22894;アルトシュル S.(Altschul、S.)ら;上記)から入手できる。同様に、同一性を決定するのに既知のSmith−Watermanアルゴリズムが利用できる。
【0027】
核酸の比較における好ましいパラメータは以下を含む:
ニードルマン(Needleman)およびヴンシュ(Wunsch)アルゴリズム、J.Mol.Biol.48(1970年)、443−453頁
比較マトリックス:
マッチ=+10
ミスマッチ=0
ギャップペナルティ:50
ギャップ長ペナルティ:3
【0028】
GAPプログラムは、上記パラメータとともに用いる場合にも同様に適する。上記パラメータは、核酸配列比較におけるデフォルトパラメータである。アルゴリズムの更なる例であるギャップ・オープニング・ペナルティ、ギャップ延長ペナルティおよび比較マトリックスは、プログラムハンドブックWisconsin Package、Version 9、1997年9月におけるものを含む。その選択は実施される比較に依存し、さらにGAPもしくはBest Fitが用いられる場合には配列ペア間、またはFASTAもしくはBLASTが用いられる場合には配列と大規模な配列データバンクの間で比較が実施中か否かに依存する。
【0029】
上記アルゴリズムに基づいた92%の一致は、本発明と関連した92%の同一性を示す。同一性がより高い場合にも同様に適用される。
【0030】
本発明による組成物は、好ましくは変異体が参照核酸配列によってコードされるポリメラーゼの活性に実質的に相当する活性を有するポリメラーゼをコードする、および/または変異体が参照核酸によってコードされるHBsAgの免疫応答性に実質的に相当する免疫応答性を有するHBsAgをコードすることを特徴とする。
【0031】
本明細書におけるポリメラーゼ活性は、キム(Kim)ら、Biochem.Mol.Biol.Int.1999年;47(2)、301−308頁にしたがって測定できる。HBsAgの免疫応答性は、商用の抗原ELISAを介して測定できる。「実質的に参照核酸によってコードされるHBsAgの免疫応答性による」とは、抗体が変異体によってコードされるHBsAgに関して実質的に同一の親和性を有する参照HBsAgに結合することを意味する。
【0032】
好ましい実施形態によると、組成物は、少なくとも3つ、好ましくは少なくとも5つの異なるHBsAg、それらの断片および/またはそれらをコードする核酸を含む。
【0033】
特に好ましくは、組成物はあらゆる既知のHBV遺伝子型のHBsAg、それらの断片および/またはそれらをコードする核酸を含む。
【0034】
本発明による組成物の更なる好ましい実施形態にしたがって、HBsAgをコードする核酸またはその断片は、哺乳類細胞、好ましくはヒト細胞におけるHBsAgの発現に適するプロモータの制御下でベクターに存在する。組成物がHBsAgまたはその断片をコードする少なくとも2つの核酸を含む場合、これらの核酸は同一ベクター(バイナリーベクター)においてまたは異なるベクターにおいて互いに独立して存在できる。適切なベクターとして、たとえば、プラスミド、アデノウイルス、ワクシニアウイルス、バキュロウイルス、麻疹ウイルス、およびレトロウイルスが挙げられる。一般に、ベクターは、トランスフェクトされた哺乳類細胞におけるベクターの複製に作用する複製源を含む。
【0035】
適切なプロモータは、構成プロモータ(constitutive promoter)および誘導プロモータ(inducible promoter)の両方でありうる。好ましいプロモータは、CMVおよびSV−40に由来する。
【0036】
上記の組成物は、単に個々の成分を混合することによって取得できることから、調製が極めて容易である。適切な溶媒および担体は、組成物(ポリペプチドおよび/または核酸)の性質に依存する。原理上、水を含有する系が好ましい。HBsAgまたはその断片は、合成的にまたは組換え調製を介して得られる。調製されたポリペプチドは、クロマトグラフ法によって精製できる。
【0037】
あるいは、組成物は組換え発現系におけるHBsAgまたはその断片をコードする少なくとも2つの核酸の共発現によって得られる。当業者であれば、極めて多くの発現系や方法に熟知するあろうし、好ましくは酵母が宿主細胞として用いられ、特に好ましくはメタノール資化性酵母(Hansenula polymorpha)、出芽酵母(Saccharomyces cerevisiae)および酵母(Pichia pastoris)が用いられる。核酸は、ベクター内または互いに独立の2つのベクター内に存在できる。適切なベクターおよびプロモータについては先に説明した通りである。
【0038】
本発明の更なる態様にしたがって、本発明による組成物および医薬的に許容できる担体を含む医薬組成物が調製される。医薬的に許容できる担体は、当業者にとっては既知である。例として、多糖類、水中油型乳剤、ポリ−ラクチド−コ−グリコール酸の添加の有無にかかわらないHBsAgのアルミニウム塩、リン酸カルシウム、凍結乾燥物などが挙げられる。上記担体自体がアジュバント活性を含まない場合、それらは例えば、脂質Aミメティクス(mimetics)、免疫活性化ヌクレオチドまたは細菌毒素などの更なるアジュバントと混合できる。
【0039】
本発明による医薬組成物として、特にワクチンが挙げられる。本発明によると、医薬組成物、特にワクチンは、HBV感染症またはHBV介在性疾患の治療的処置に適する。医薬組成物、特にワクチンは、HBV感染症またはHBV介在性疾患の予防的処置にも適する。HBV感染症は、特に慢性持続性B型肝炎感染症である。HBV介在性疾患は、急性慢性B型肝炎感染症でありうる。更なるHBV介在性疾患として、肝硬変および原発性肝細胞癌が挙げられる。ワクチンは、臨床的に不顕性のHBV保菌者、すなわち真の意味でまだ疾患を患っていないが将来的にHBV介在性疾患を発症するリスクが高い保菌者に対する投与に適する。
【0040】
医薬組成物は、筋肉内、皮下、皮内、静脈内、粘膜、または経口を介して投与できるが、かかる投与は好適なものを示すにすぎず、それらに限定されることはない。
【0041】
医薬組成物は、用量範囲が0.1から1000μg/HBsAgもしくはその断片、好ましくは2.5から40μg/HBsAgもしくはその断片の、少なくとも2つのHBsAgまたはそれらの断片を含む。
【0042】
医薬組成物がHBsAgまたはその断片をコードする核酸を含む場合、それらは10から1000μg/HBsAgもしくはその断片をコードする核酸の用量範囲で存在する。
【0043】
本発明の更なる態様は、
a)感染患者が保有するHBV遺伝子型を決定するステップと;
b)a)によって決定される患者のHBV遺伝子型とは異なるHBV遺伝子型の少なくとも1つのHBsAg、HBsAgの断片またはHBsAgまたはその断片をコードする核酸を含む薬物を提供するステップと、
を含むB型肝炎の治療的処置における薬物の調製方法を提供する。
【0044】
上記のように、本発明で重要な認識は、慢性持続性肝炎の前臨床モデルでは、トランスジェニック動物の遺伝子型と異なるHBV遺伝子型由来のHBsAgによるトランスジェニック動物の治療によって治療効果が得られているということである。
【0045】
遺伝子型は、全HBVゲノムまたはHBsAgをコードする少なくとも一部の配列決定および系統発生解析、制限断片長多型(RFLP)、多重PCRといった方法によって決定できる。
【0046】
少なくとも1つのHBsAg、その断片またはその断片のHBsAgをコードする核酸の調製を介したそれ自体が知られた方法で薬物の提供を行う。
【0047】
更なる態様によると、本発明はHBV感染症の遺伝子型における診断用キットを提供する。キットは、2つのHBsAgに特異的な結合剤が種々のHBV遺伝子型に特異的であることを特徴とする、少なくとも2つのHBsAgに特異的な結合剤を含む。少なくとも2つのHBsAgに特異的な結合剤は、HBsAg遺伝子型に特異的なプライマーおよび/または特異的抗体でありうる。プライマーは、10〜30ヌクレオチド長を有する可能性があり、かつ個々の遺伝子型における既知のHBsAg配列に相補的である。抗体は、例えば所望のHBsAg遺伝子型にそれぞれ対応するHBsAgを有するマウスなどの実験動物への免疫、本質的に知られた方法によるハイブリドーマの調製、およびサブタイプに特異的なモノクローナル抗体に対するスクリーニングによって得られる抗体である。
【0048】
本発明は、実施例と関連させて以下により詳細に説明されることになる。しかしながら、実施例は本発明を限定することを意図するものではない。
【実施例】
【0049】
実施例
材料および方法
概要
研究中のHBVサブタイプadw2は遺伝子型Aに対応する。HBVサブタイプaywは遺伝子型Dに対応する。HBVサブタイプadrは遺伝子型Cに対応する。
【0050】
マウス
標準の病原体が存在しない条件下でC57BL/6JBom(B6)マウス(H−2b)を保存した。
【0051】
C57BL/6J−TgN(Alb1HBV)44Briトランスジェニック(HBs−tg)マウスのHBsAgayw(登録番号V01460 J02203を有するHBV配列によってコードされる)をJackson Laboratory(バーハーバー、メイン州)から得た。8〜16週齢の雌雄マウスを用いた。
【0052】
細胞、組換えHBsAg粒子および抗原HBsAgペプチド
用いたH−2b細胞系RBL5を[10]に示す。HBsAgaywおよびHBsAgadw2とほぼ等しい量を発現した安定なRBL5トランスフェクタントを調製した(データは示さず)。サブタイプのayw、adw2およびadrの組換えHBsAg粒子は、ライン・バイオテック(Rhein Biotech GmbH)(デュッセルドルフ、ドイツ)から入手可能である。メタノール資化性酵母(Hansenula polymorpha)宿主株RB10で調製されたHBsAg粒子を[3]で示すように精製した。合成Kb拘束性S208−215ILSPFLPL(ayw)またはIVSPFIPL(サブタイプadw2)ペプチドおよびKb拘束性S190−197VWLSVIWM(ayw)またはVWLSAIWM(adw2)ペプチドをジェリニ・バイオツールズ(Jerini BioTools)(ベルリン、ドイツ)から入手した。ペプチドを10mg/mlの濃度でDMSO溶液に溶解し、使用前に培地で希釈した。
【0053】
プラスミドおよびDNAによる免疫
[4;5]で記載のように、HBsAgayw、HBsAgadw2およびHBsAgadrをpCl(Promega)およびBMGneoベクター内でクローニングした。DNAワクチンとして、HBsAgayw、HBsAgadw2およびHBsAgadrを十分に等しく発現するプラスミドpCl/Sayw、pCl/Sadw2およびpCI/Sadrを用いた。これらのプラスミドDNAで一時的にトランスフェクト済みの細胞を由来とするHBsAgの免疫沈降によってこれを示した(データは示さず)。したがって、DNAワクチンまたはトランスフェクタントによるHBsAgの種々の発現量に基づいてHBsAgエピトープにおける免疫原性上の差異を解明することができなかった。[4]に記載のように、筋肉内への核酸の免疫では、プラスミドDNA1μg/μlを含有するPBS(リン酸緩衝生理食塩水)50μlをそれぞれの前脛骨筋内に注射した。各場合に1μg/μl pCI/Sayw、1μg/μl pCI/Sadw2および1μg/μl pCI/Sadrを含有するPBS50μlを注射することにより、HBsAgサブタイプの混合物による免疫を行った。
【0054】
HBsAgタンパク質粒子による免疫
マウス1匹あたりPBS(リン酸緩衝生理食塩水)100μl中のCpGオリゴヌクレオチド(ODN1826、MWG バイオテック(MWG Biotech)、エーバースベルク、ドイツ)30μgまたはRC−529(コリクサ(Corixa Corp.)、シアトル、ワシントン州、米国)8μgとともに、HBsAgタンパク質粒子5μgを皮下注射した。HBsAgサブタイプの混合物で免疫した各場合において、HBsAgayw5μg、HBsAgadw25μgおよびHBsAgadr5μgのタンパク質粒子をPBS100μl中のCpGオリゴヌクレオチドアジュバント30μgまたはRC−529 8μgとともに皮下注射した。
【0055】
特異的な脾臓および肝臓におけるCD8+T細胞の頻度の測定
脾臓細胞懸濁液[1]および肝NPC(非実質)細胞の調製について記載されている[6;7]。5μg/μlのHBsAg由来ペプチド、HBsAgを発現するトランスフェクタント(106個/ml)、HBsAg粒子でパルスした細胞のいずれかを含むRPMI−1640培地において脾臓細胞および肝NPC(1x106個/ml)を1時間にわたってインキュベートした。次いで、ブレフェルディンA(BFA)(カタログ番号15870;シグマ)5μg/μlを添加し、培養物をさらに4時間インキュベートした。細胞を採取し、それらの表面を抗CD8mAbで染色し、固定化し、浸透化し、そして細胞質IFNγに対する染色を行った。CD8+IFNγ+CTLの頻度をFACS解析によって測定した。CD8+IFNγ+T細胞/105個の脾臓または肝臓のT細胞における平均値を示す。
【0056】
特異的CD8+T細胞系の移入
CD8+T細胞系をpCl/SaywのDNAワクチンに免疫したB6マウスの脾臓から採取した。in vitroにおいてKb/S208−215拘束性ペプチド1(ILSPFLPL)またはKb/S190−197拘束性ペプチド2(VWLSVIWM)でパルスした同質遺伝子的RBL5細胞で脾臓細胞を再刺激した。特異的IFNγ発現試験によって明らかなように、in vitroにおいて約2週間にわたって増殖させた系において80%を超えるCD8+T細胞は予定のエピトープ特異性を有した。細胞を洗浄し、同系における5×106個の細胞を静脈内に注射した。対照細胞は、3日間にわたってConAで刺激した培養物から単離した非特異的CD8+Tブラストであった。
【0057】
血清中のトランスアミナーゼ、HBsAgおよび抗HBsAg抗体の測定
注射後に特定の時刻に、尾静脈由来の血液の採取により、個々の、免疫マウスまたは対照マウスから血清抗体が繰り返し得られた。Reflotron(登録商標)試験(カタログ番号745138;ロシュ・ダイアグノスティックス(Roche Diagnostics GmbH))を用いて血液において血清アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)活性を行った。
【0058】
トランスジェニックマウスの血清におけるHBsAg濃度を市販のELISA AUSZYME II(アボット・ラボラトリーズ(ABBOTT Laboratories)、ヴィースバーデン、ドイツ)試験によって測定した。市販のIMxAUSAB試験(カタログ番号7A39−20;アボット(Abbott)、ヴィースバーデン、ドイツ)を用いてマウス血清におけるHBsAgに対する抗体について明らかにした。
【0059】
6つの標準血清を活用して抗体濃度を定量した。測定されたOD値が標準血清1〜6にあるように試験血清を希釈した。本明細書に示す同値を測定された抗体濃度(mlU/ml)を介して血清希釈倍率によって測定した。所定の血清力価は4匹の各マウスの平均値±標準偏差に相当する。
【0060】
組織学
肝臓組織薄片(<3mm)を24時間にわたって4%ホルマリン(pH7.0)で固定し、パラフィン包埋した。2μm厚のパラフィン切片をヘマトキシリン−エオシン(H&E)で染色した。
【0061】
Kbに対するHBsAgペプチドの拘束
[8、9]に記載のように、3μMのヒトβ2mの存在下で上昇した試験ペプチド濃度および放射活性物質で標識したVSV NP 52−59標識ペプチドの規定濃度(約2nM)で、アフィニティ精製したMHCクラスI分子Kbを18℃で48時間にわたってインキュベートした。次いで、Sephadex G50カラムを用いたゲルろ過によってMHCクラスI分子に対するペプチドの拘束について測定した[8]。放射活性物質で標識したVSV NP 52〜59ペプチドを排除量(MHC結合ペプチド)および含有量(遊離ペプチド)に位置づけた。これをγ線分光分析によって測定し、そして試験ペプチド総量に対するMHC分子に結合していた試験ペプチドの割合を測定した。標識ペプチドの拘束に対する50%の阻害(IC50値)を得るために必要な試験ペプチド濃度を測定した。IC50値が低下すると、試験ペプチドの拘束が亢進する。リガンドの低下を防止するために、すべての拘束に関する実験において15〜25%以下の拘束を得るのに十分なMHC量を用いた。これらの条件下で、IC50値は解離定数(Kd)に対する近似値である。阻害実験としてあらゆる拘束に関する実験を行った。
【0062】
実施例1
エピトープ1またはエピトープ2に特異的なKbに制限されたCD8+T細胞系の養子移入はHBs−tg B6マウスにおいて肝障害を誘発する。
B6マウス脾臓由来のHBsAgのエピトープ1またはエピトープ2(図1B)に特異的で、pCl/SaywプラスミドDNAで免疫した短寿命CD8+T細胞系を産生した。同細胞系内では細胞の>95%はCD8+であり、これらCD8+T細胞の>80%において特異的IFNγの発現を誘発した。血清トランスアミナーゼにおける短期間であるが大幅な上昇によって示されたように、ある導入遺伝子から肝臓におけるHBsAgaywを発現したコンジェニックB6宿主内への同細胞系における5×106個の細胞の養子移入は、急性肝障害を誘発した(図2)。移入の5〜6日後に血清トランスアミナーゼ値は正常化し、CD8+T細胞が移入されていない時点で宿主内で検出可能であった。ポリクローナル(ミトゲンで活性化された)CD8+Tブラストと同数の移入によっては肝障害を呈さなかった。したがって、(i)特異的CD8+T細胞がHBs−tgマウスにおける肝障害を有効に誘発し([2]に記載)、(ii)内因性もしくは外因性HBsAgのプロセシングによって産生されたHBsAgエピトープが導入遺伝子を発現する肝臓内に存在し、かつ(iii)養子導入のCD8+T細胞をトランスジェニック宿主から速やかに取り出す。したがって、HBsAgにおいて種々の特異性を有する移入CD8+T細胞は、肝臓で使用でき、原位置において活性化できるが、安定的に吸収できない。
【0063】
実施例2:HBsAgエピトープ1および2を認識するKb拘束性CTLは脾臓および肝臓において認められた。
ワクチンでプライミングしたHBsAgに特異的なCD8+T細胞がHBsAgを発現する正常またはトランスジェニック(HBs−tg)B6マウスの肝臓で使用できるか否かについて検討した(図3)。12〜15日以前にpCl/Saywワクチンで免疫済みのB6マウスから脾臓細胞および非実質肝細胞(NPC)を単離した。正常B6マウス由来の脾臓および肝臓におけるCD8+T細胞集団内にエピトープ1またはエピトープ2に特異的なCD8+T細胞を認めた(図3A)。肝臓CD8+T細胞集団内のHBsAgに特異的なCD8+T細胞の頻度は高かったものの、それらの絶対数は脾臓の場合よりも少なかった(データは示さず)。一方、HBsAgaywをコードするDNAワクチンで免疫済みのHBsAgayw tg B6マウスでは、CD8+T細胞の応答性が実証されなかった(図3B)。DNAワクチンによる3回のブースター注射(3週間の間隔)、HBsAg抗原粒子およびオリゴヌクレオチドアジュバントによる繰り返し免疫のいずれも、HBs−tgマウスにおいてHBsAgに特異的なCD8+T細胞の免疫をもたらさなかった(データは示さず)。したがって、マウスが耐性を示す対象である同じHBsAg変異体を用いる接種プロトコルは、有効な抗ウイルス性CD8+T細胞の免疫に対してプライミングしない。
【0064】
実施例3:HBsAgaywおよびHBsAGadw2変異体のエピトープに対するKb拘束性T細胞応答
タンパク質が226アミノ酸残基を有する、HBV単離物由来のHBsAgaywおよびHBsAgadw2タンパク質は、16アミノ酸残基において異なる(ゆえにこれらのアミノ酸は93%一致)。用いられたHBsAgaywタンパク質配列は、HBs−tg B6マウスによって発現された、導入遺伝子にコードされたHBsAgaywの配列と同一である。選択したHBsAgaywおよびHBsAgadw2のKb拘束性エピトープ1および2の配列は、エピトープ内の1および2のアミノ酸残基においてそれぞれ異なるが、同一のフランキング配列(図1A、B)を有する。HBsAgaywおよびHBsAgadw2のS208−215エピトープ1は2つの位置で異なる。すなわちadw2では、位置2でバリン(V)残基がロイシン(L)と置き換わり、かつ位置6でイソロイシン(I)がロイシン(L)残基と置き換わる(図1B)。Kbに対するエピトープ1の結合親和性は比較的低い。すなわちエピトープ1のHBsAgadw2変異体は、エピトープのHBsAgayw変異体の場合よりもKbに対してより高い結合親和性を示した(表1)。一方、Kbに対するエピトープ2の結合親和性は高かった(表1)。
【0065】
【表1】
【0066】
pCl/SaywまたはpCl/Sadw2のDNAワクチンで免疫したB6マウスは、HBsAgaywもしくはHBsAgadw2粒子あるいは、HBsAgaywもしくはHBsAgadw2における抗原ペプチドS208−215のいずれかでパルス済みのプライミングした脾臓CD8+T細胞に対するex vivoでの再刺激の5時間後に認めた、Kb拘束性エピトープ1に対してCD8+T細胞応答を示した(図4A、群2、3)。(i)エピトープ1に特異的なCTLをpCl/SaywまたはpCl/Sadw2によってプライミングし、かつ(ii)HBsAgaywもしくはHBsAgadw2粒子でパルスした、またはペプチドILSPFLPL(ayw)もしくはペプチドIVSPFIPL(adw2)でパルスした細胞がプライミングしたCD8+T細胞に対してエピトープ1を提示することから、エピトープ1のaywおよびadw2変異体は交差反応性を示した。したがって、8−merエピトープ1内の2か所の置換によって有効なプロセシング、Kb拘束性またはエピトープの提示は阻害されなかった。
【0067】
pCl/Sayw DNAワクチンでプライミングしたCD8+T細胞は、HBsAgaywまたはHBsAgadw2のエピトープ2(S190−197)を認識した(図5A;群2)。このことはHBsAgaywを発現するペプチドでパルスした細胞またはトランスフェクタントを用いた再刺激の5時間後にex vivoで実証された。プライミングしたCD8+T細胞は、内因性HBsAgadw2を発現するトランスフェクタントを認識しなかった。pCl/Sadw2 DNAワクチンによる免疫は、エピトープ2に特異的なT細胞(図5A、群3)をプライミングしなかった。pCl/Sadw2(pCl/Saywではない)DNAワクチンでプライミングしたCD8+T細胞は、トランスフェクタントによって提示された未知のエピトープ/制限の特異性を有するadw2に特異的なエピトープを認識したが、これについての更なる検討は行わなかった(図5、群3)。したがって、位置5におけるアミノ酸の置換(疎水性アミノ酸バリンVと疎水性アミノ酸アラニンAの交換)は、エピトープ2の産生を阻害するが、Kb分子によるその提示を阻害しない([1]。
【0068】
実施例4:HBsAgエピトープ1に対する交差反応性Kb拘束性CD8+T細胞応答はHBs−tg B6マウスにおいてプライミングされる。
HBs−tg B6マウスは、肝臓における導入遺伝子からHBsAgaywを発現する。HBs−tgマウスをHBsAgayw(pCl/Sayw)またはHBsAgadw2(pCl/Sadw2)で免疫した(図4、5B)。pCl/Sayw DNAワクチンによるHBs−tg B6マウスの繰り返し免疫によってCD8+T細胞応答は全く得られなかった(図4、5B、群2)。一方、pCl/Sadw2 DNAワクチンによるHBs−tg B6マウスの免疫によってHBsAgに対するCD8+T細胞応答が得られた(図4B、群3)。この交差反応性CD8+T細胞応答は、HBsAgaywもしくはHBsAgadw2粒子またはペプチド形態のエピトープ1のaywもしくはadw2変異体でパルスした細胞を認識した(図4B、群3)。これらのCD8+T細胞は、RBL5/SaywトランスフェクタントまたはKb拘束性エピトープ2のS190−197を認識しなかった(図5B、群3)。CD8+T細胞は、RBL5/Sadw2トランスフェクタントによって提示されるがRBL5/Saywトランスフェクタントによって提示されない不確定の決定因子に向け、サブタイプに特異的な応答性を示した(図5B、群3)。
このことはHBsAg天然変異体が交差反応性T細胞免疫のプライミングによって「耐性を破壊」できることを示す。
【0069】
特異的CD8+T細胞集団がpCl/Sadw2で免疫したトランスジェニックマウスの抗原を産生する肝臓において実証できるか否かの詳細について検討を行った。pCl/Sadw2で免疫したHBs−tg B6マウス由来の脾臓および肝臓におけるNMCでは、特異的CD8+T細胞応答性は数ヶ月にわたって実証可能である(図6)。したがって、養子導入のCD8+T細胞と対照的に(図2)、ワクチンでプライミングした抗HBVに特異的なCD8+T細胞は、3ヶ月を超える期間にわたって抗原を産生する標的器官内で使用でき、安定的な吸収を示す。
【0070】
実施例5:HBsAgエピトープ1に対して特異的なCD8+T細胞応答を示す免疫したHBs−tgマウスの肝臓における組織病理
HBsAgに特異的なCD8+T細胞は、HBsAgを産生する肝臓において炎症性反応を誘発した。処理を施していないB6マウスは、正常な肝臓組織を呈した(図7A、B)。HBs−tg B6マウス由来の肝細胞は肥大し、ヒトHBV感染症の症例にも認められる「スリガラス様肝細胞」の特徴を示す微細な顆粒状の薄い好酸性細胞質を呈した(図7C、D)。炎症性浸潤は認められなかった。
【0071】
pCl/Sadw2(pCl/Saywではなく)DNAワクチンで免疫したHBs−tgマウスは、重度の肝組織病理を呈した(図7E)。実質(図7F)および門脈周囲(図7G)領域に認めた炎症性浸潤物は主に単核球からなっていた(図7F)。極めて多くの小さいリンパ球様細胞を実質および門脈周囲領域内に分布させた。炎症性細胞の局在化された群は、アポトーシス肝細胞の周囲に存在した(図7H)。肝細胞の肥大および水腫様腫大は、免疫したHBs−tgマウスでは処理していないHBs−tgマウスよりも大きかった。一部の中規模から小規模の核は、凝集クロマチンおよび核周辺光輪を呈したが(図7Fの矢印)、それはアポトーシスの初期段階を示す。さらに、アポトーシス肝細胞を呈する極めて多くのカウンシルマン小体を認めた(図7H、矢印)。一部の肝細胞は、核の空胞変性を呈した(図7、矢印)。顕著な胆汁うっ滞は認められなかった。
【0072】
実施例6:HBs−tgマウスにおけるHBsAgに特異的なCD8+T細胞のプライミングは抗原血症における低下と相関する。
処理されていないHBs−tgマウスにおけるHBsAgは、30〜50ng/mlの血清濃度を示す(図8A)。交差反応性CD8+T細胞を発現したマウスは、HBsAgadw2での免疫が抗原血症の低下(5〜15ng/mlの範囲内の濃度)を示した後でエピトープ1に応答する一方で、HBsAgに特異的ないかなるCD8+T細胞の免疫でも起こさないHBsAgaywで免疫した動物は、抗原血症濃度において全く変化を示さなかった(図8A)。したがって、抗原血症の部分的な制御は、免疫したトランスジェニックマウスにおける特異的CD8+T細胞の発生と相関する。
【0073】
実施例7:抗HBsAg血清抗体がHBsAgadw2で免疫されているHBsayw−tgマウスにおいて発生する。
T細胞免疫に加えて、液性抗HBsAg免疫は、抗原血症の監視における役割を果たすことができる。ワクチン接種した正常およびトランスジェニックマウスにおいて抗HBsAg血清抗体の発生を認めた。正常(非トランスジェニック)B6マウスおよびコンジェニックHBs−tg B6マウスにpCL/SaywまたはpCL/Sadw2 DNAワクチンで2回免疫した。種々のサブタイプにおけるHBsAgを測定するImxAUSAB試験(Abbott)を用いた最終の免疫の2週間後に、HBsAgに特異的なこれらの血清抗体力価を測定した。pCL/SaywまたはpCL/Sadw2プラスミドDNAで免疫した非トランスジェニックマウスがHBsAgに対する高い血清抗体濃度をもたらした一方で、pCL/Sadw2(pCL/Saywではない)プラスミドDNAで免疫した後に限ってHBs−tgマウスは抗HBsAg血清抗体応答を示した(図8B)。HBsAgaywまたはHBsAgadw2粒子で免疫したマウスにおいて同様の抗体応答を認めた(データは示さず)。(HBsAgaywまたはHBsAgadw2粒子でコーティングしたプレートを用いた)サブタイプに特異的なELISAによると、正常マウスではすべてのワクチンによって引き起こされる>95%の抗体応答はHBsAgの「ある」決定因子に向けられ、HBs−tgマウスでは>90%の抗体応答はadw2に特異的な決定因子に向けられる(データは示さず)。
【0074】
実施例8:交差反応性Kb拘束性CD8+T細胞の効率的なプライミングは、HBs−tg B6マウスにおいてHBsAgタンパク質粒子による免疫によってHBsAgエピトープ1に応答する。
サブタイプaywまたはadw2のHBsAgタンパク質粒子による正常B6マウスの免疫は、Kb拘束性エピトープ1(S208−215)に対するCD8+T細胞が介在する免疫応答を引き起こす(図9A)。したがって、ワクチン(タンパク質粒子またはDNA)の性質に無関係に種々の配列を含むエピトープが交差反応性T細胞応答をプライミング可能であることを示しうる。DNAワクチンによる免疫と同様に(図5)、B6マウスに対するサブタイプaywのHBsAgタンパク質粒子によるワクチン注射はHBsAg Kb拘束性エピトープ2(S190−197)に対するCD8+細胞応答をプライミングするが、サブタイプadw2のHBsAgタンパク質粒子によるワクチン注射はプライミングしない(図9A)。
【0075】
HBsayw−tgマウスをサブタイプaywまたはサブタイプadw2のいずれかに相当するHBsAgタンパク質粒子ワクチンで免疫した。HBsAgaywタンパク質ワクチンで繰り返し免疫した後でCD8+T細胞応答が全く起きなかった一方で、異種のHBsAgadwタンパク質抗原による免疫はエピトープ1に対するHBsAgに特異的なCD8+T細胞応答を引き起こした(図9B)。したがって、HBsAg天然変異体は、さらにタンパク質サブユニットのワクチン接種を介する交差反応性T細胞応答のプライミングによって既存の耐性を破壊できることが実証される。
【0076】
実施例9:HBsAg天然変異体の混合物による免疫によるHBs−tg B6マウスにおけるHBsAgエピトープ1に対する交差反応性Kb拘束性CD8+T細胞応答の効率的なプライミング
HBsayw−tgマウスを、3つのHBsAgサブタイプのayw(pCI/Sayw)、adw2(pCI/Sadw2)およびadr(pCI/Sadr)をコードするDNAワクチン(図10A)と、サブタイプayw、adw2およびadrの混合物を含有するHBsAgタンパク質粒子ワクチン(図10B)で免疫した。HBsAg天然変異体の混合物は、DNAとタンパク質粒子の両方で免疫した後、エピトープ1に対する交差反応性Kb拘束性CD8+T細胞応答をプライミングした。
【0077】
実施例10:HBsAg天然変異体の混合物による免疫後のHBs−tgマウスにおける抗原血症の低下
処理していないHBs−tgマウスでは、30〜50ng/mlの血清濃度を認める。異種HBsAgワクチン(HBsAgadw2)または天然HBsAg変異体の混合物(HBsAgayw+HBsAgadw2+HBsAgadr)による免疫後に、エピトープ1に対する交差反応性CD8+T細胞応答を起こす動物は、抗原血症の低下(5-17ng/mlのHBsAg濃度)を示す。相同性を示すHBsAgayw単独で免疫することで、HBsAgに特異的なT細胞の免疫を誘発できる動物では、血清中の抗原量において何の変化も認めなかった。したがって、HBsAg天然変異体の混合物による免疫が抗原血症の低下をもたらす可能性がある。
【0078】
実施例11:HBsAg天然変異体の混合物による免疫後のHBs−tgマウスにおける抗HBsAg血清抗体の誘発
正常B6マウスは、HBsAgayw、HBsAgadw2、HBsAgadr(示さず)とこの3つのサブタイプの混合物による免疫後に顕著な抗体応答を示す。
【0079】
免疫後のHBs−tgマウスにおけるHBsAgに特異的な血清抗体の形成について検討した。HBs−tgマウスは、天然HBsAg変異体の混合物または異種のサブタイプadw2による免疫後に限って血清抗体応答を示した。相同性を示すサブタイプaywによる免疫後に抗HBsAgの応答は何も誘発されなかった。サブタイプに特異的なELISA(HBsAgaywおよびHBsAgadw2タンパク質粒子でコーティングしたマイクロタイタープレート)は、HBs−tgマウスでは>90%のHBsAgに特異的な抗体応答がadw2に特異的な決定因子に向けて生じることを示した(データは示さず)。
【0080】
参考文献
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【図面の簡単な説明】
【0081】
図面の説明
【図1】HBsAg変異体。(A)小さいB型肝炎表面抗原(HBsAg)である、遺伝子型Dに対応するayw(1)および遺伝子型Aに対応するadw2(2)のアミノ酸配列が示される。(B)HBsAgのaywおよびadw2に由来する、Kb拘束性エピトープ配列。エピトープ1(S208−215)が外因性HBsAgをプロセシングする細胞によってのみ提示された一方、エピトープ2(S190−197)は内因性HBsAgをプロセシングする細胞によってのみ提示された。
【図2】エピトープ1またはエピトープ2に特異的な細胞障害性T細胞系(CTLL)をHBsトランスジェニック(HBs−tg)宿主に移入することによって細胞障害性T細胞系がHBsトランスジェニックにおいて一時的な肝障害を引き起こす。脾臓細胞がpCI/SaywDNAで免疫されたB6マウスから摘出され、in vitroにおいて同質遺伝子的RBL5細胞で再刺激された。この場合、RBL5細胞はKb/S208−215拘束性ペプチド1(ILSPFLPL)もしくはKb/S190−197拘束性ペプチド2(VWLSVIWM)でパルスされるか、またはConAで刺激された。5×106個のCD8+CTLL/マウスがHBs−tgマウスに静脈内(i.v.)注射され、かつ平均血清アラニントランスアミナーゼ(ALT)値が測定された。
【図3】免疫されたマウスの肝臓および脾臓におけるHBsAgに特異的なCD8+T細胞に関するEx vivoにおける実証。C57BL/6マウスは、pCl/Sayw DNA100μgの単回注射によって筋肉内に免疫された。免疫の12日後に特異的CD8+T細胞の存在が示された。単離された肝臓単核球(MNC)および脾臓細胞がin vitroにおいてKb/S208−215拘束性ペプチド1(ILSPFLPL)またはKb/S190−197拘束性ペプチド2(VWLSVIWM)で(ブレフェルディンAの存在下で)4時間にわたって再刺激された。1群あたりマウス4〜6匹(互いに独立の2つの実験から)におけるCD8+IFNγ+T細胞/105個のCD8+T細胞±標準偏差の平均頻度が示される。
【図4】HBs−tgマウスにおけるHBsAgに特異的なCD8T細胞のエピトープ1に対する応答。肝臓においてHBsAgaywを発現するHBs−tgマウスは、HBsAgサブタイプayw(pCl/Sayw)もしくはadw2(pCl/Sadw2)をコードするDNAワクチンまたは負の制御ベクターpCl(挿入を含まないベクター)で(4週間の間隔をあけて)筋肉内に3回免疫された。最終の免疫から12日後に、脾臓細胞が免疫されたマウスから摘出され、かつin vitro(ブレフェルディンAの存在下で)においてRBL5細胞で4時間にわたって再刺激された。この場合、RBL5細胞はayw(RBL5/SPayw)もしくはadw2(RBL5/SPadw2)のサブタイプのHBsAg粒子またはHBsAgayw(ILSPFLPL)もしくはHBsAgadw2(IVSPFIPL)のKb/S208−215拘束性ペプチド1で再刺激された。1群あたり(互いに独立の2つの実験から)マウス4〜6匹の脾臓IFNγ+CD8+T細胞/105個のCD8+T細胞±標準偏差の平均数が示される。
【図5】HBs−tgマウスにおいてHBsAgに特異的なCD8T細胞のエピトープ2に対する応答。脾臓細胞が図4のキャプションにおいて記載のように免疫されたマウスから摘出され、in vitroにおいて同質遺伝子的RBL5/SaywもしくはRBL5/Sadw2トランスフェクタント、またはHBsAgayw(VWLSVIWM)もしくはHBsAgadw2(VWLSAIWM)のKb/S190−197エピトープ2で再刺激された。1群あたりマウス4匹の脾臓IFNγ+CD8+T細胞/105個のCD8+T細胞±標準偏差の平均数が示される。
【図6】S208−215に特異的なCD8+T細胞が免疫されたHBs−tgマウスの肝臓において実証された。トランスジェニックHBs−tgマウスがHBsAgadw2(pCl/Sadw2)をコードするDNAワクチンで(4週間の間隔で)3回免疫された。最終の注射の12日後に、肝臓および脾臓細胞が免疫されたマウスから摘出され、かつin vitroにおいてKb/S208−215拘束性ペプチドILSPFLPLで再刺激された。1群あたりマウス4匹の脾臓IFNγ+CD8+T細胞/105個のCD8+T細胞±標準偏差の平均数が示される。
【図7】pCl/Sadw2DNAワクチンで免疫されているHBs−tgマウス肝臓の組織病理。B6マウス(A、B)では病的な肝組織は何も認められなかった。HBs−tgマウス(C、D)は中等度の細胞肥大を呈したが、その細胞質はスリガラス様を呈している(D)。肝細胞の核は中等度に多形性の様相を呈した。門脈周囲浸潤物はまれである。pCl/Sadw2DNAによる繰り返し免疫は、肝臓(E−I)において急性ウイルス性肝炎に相当する重度の組織形態学的変化を誘発する。炎症性浸潤物は、クッパー細胞、リンパ球および小葉実質(F)や門脈周囲領域(G)内に位置する少数の多形核顆粒球を含む。肝細胞は水症性の様相を呈し、アポトーシスの初期段階の徴候(F、矢印)である濃縮した核を有することが多い。好酸小体(H、矢印)すなわちアポトーシス肝細胞は全体に認められ、病巣の炎症性浸潤物の周囲に存在することが多い。多数の肝細胞は著明な空胞変性を呈する(I、矢印)。ホルマリン固定されたパラフィン包埋組織のH&E染色。オリジナル倍率:A、CおよびEにおいてx10;B、DおよびFにおいてx40;G〜Iにおいてx63。
【図8】HBs−tgマウスにおけるHBsAgに特異的な血清抗体応答の誘発。B6マウスおよびトランスジェニックHBs−tgマウスがHBsAgadw2(pCl/Sadw2)またはHBsAgayw(pCl/Sayw)をコードするDNAワクチンで筋肉注射で免疫され、3週間後に同じワクチンでブーストされた。最終の注射の4週間後、血清試料がHBsAg抗原(A)またはHBsAgに特異的な抗体(B)に対して試験された。マウス4〜6匹/群における平均抗体力価(mIU/ml)およびHBsAg血清濃度(ng/ml)±標準偏差が示される。
【図9】HBsAgに特異的なCD8+T細胞は、正常B6およびHBsayw−tgマウスにおけるエピトープ1(S208−215)およびエピトープ2(S190−197)に応答する。動物は、サブタイプaywまたはadw2におけるHBsAgタンパク質粒子(SP)でそれぞれ筋肉注射で(21日の間隔をおいて)3回免疫された。タンパク質ワクチンは、アジュバントとしてCpG−オリゴヌクレオチド(ODN)またはRC−529とそれぞれ混合された。PBSは負の制御として用いられた。最終の免疫の12日後に脾臓が動物から摘出され、次いで単離された脾臓細胞がin vitro(ブレフェルディンAの存在下でにおいてHBsAgに特異的なペプチドでパルスしたRBL5細胞で)4時間にわたって再刺激された。この目的のため、それぞれの場合にHBsAgayw(ILSPFLPL)もしくはHBsAgadw2(IVSPFIPL)のKb/S208−215拘束性ペプチド1またはHBsAgayw(VWLSVIWM)もしくはHBsAgadw2(VWLSAIWM)のKb/S190−197拘束性ペプチド2が用いられた。1群あたり(互いに独立の2つの実験から)マウス4〜6匹における脾臓IFNγ+CD8+T細胞/105個のCD8+T細胞±標準偏差の数が示される。
【図10】HBsayw−tgマウスにおけるエピトープ1(S208−215)に対するHBsAgに特異的なCD8+T細胞応答。A.肝臓においてHBsAgaywを発現するHBs−tgマウスが、HBsAgサブタイプayw(pCI/Sayw)単独もしくは3つのサブタイプayw(pCI/Sayw)、adw2(pCI/sadw2)およびadr(pCI/Sadr)をコードするDNAワクチンまたは負の制御ベクターpCI(挿入なしのベクター)で筋肉注射で(4週間の間隔で)3回免疫された。最終の免疫の12日後に脾臓が動物から摘出された。単離された脾臓細胞がin vitro(ブレフェルディンAの存在下で)においてHBsAgayw(ILSPFLPL)またはHBsAgadw2(IVSPFIPL)のKb/S208−215拘束性ペプチド1でパルスしたRBL5細胞で4時間にわたって再刺激された。1群あたり(互いに独立の2つの実験から)マウス4〜6匹における脾臓IFNγ+CD8+T細胞/105個のCD8+T細胞±標準偏差の数が示される。B.A.HBsayw−tgマウスがサブタイプaywのHBsAgタンパク質粒子(SP)またはサブタイプayw、adw2およびadrのHBsAgタンパク質粒子の混合物で筋肉注射で(21日間の間隔で)3回免疫された。タンパク質ワクチンが、アジュバントとしてCpG−オリゴヌクレオチド(ODN)またはRC−529(サブタイプの混合物に限って示される)とそれぞれ混合された。PBSは負の制御として用いられた。最終の免疫の12日後に脾臓が動物から摘出された。単離された脾臓細胞がin vitro(ブレフェルディンAの存在下で)においてHBsAgayw(ILSPFLPL)またはHBsAgadw2(IVSPFIPL)のKb/S208−215拘束性ペプチド1でパルスしたRBL5細胞で4時間にわたって再刺激された。1群あたり(互いに独立の2つの実験から)マウス4〜6匹における脾臓IFNγ+CD8+T細胞/105個のCD8+T細胞±標準偏差の数が示される。
【図11】HBs−tgマウスにおけるHBsAgに特異的な血清抗体応答の誘発。B6マウスおよびトランスジェニックHBs−tgマウスが、サブタイプaywもしくはサブタイプadw2のHBsAgタンパク質粒子ワクチン(SP)またはサブタイプayw、adw2およびadrの混合物で筋肉注射で免疫され、3週間後に同一ワクチンでブーストされた。タンパク質ワクチンは、アジュバントとして添加物としてCpG−オリゴヌクレオチド(ODN)を含有した。ブースター注射の4週間後、血清試料がHBsAg(A)およびHBsAgに特異的な抗体(B)に対して試験された。マウス4〜6匹/群における平均抗体力価(mIU/ml)およびHBsAg血清濃度(ng/ml)±標準偏差が示される。
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも2つのB型肝炎ウイルス表面抗原(HBsAg)、それらの断片および/またはそれらをコードする核酸を含む組成物に関し、該HBsAgはHBsAgのS領域および/またはプレS1領域におけるB型肝炎ウイルス(HBV)遺伝子型において異なり、該組成物はHBVコア抗原(HBcAg)またはその抗原をコードする核酸を全く含有しない。また、本発明は、医薬組成物、特にそれらの組成物を含むワクチンおよびHBV感染症またはHBV介在性疾患の予防/治療におけるそれらの使用に関する。本発明は、肝炎の治療的処置において患者特異的な薬物を調製する方法ならびに、HBV遺伝子型の診断用キットにも関する。
【背景技術】
【0002】
世界中で2億5000万人を超える人々がB型肝炎ウイルス(HBV)に感染する。極めて多数の感染者は、慢性肝不全、肝硬変、および肝細胞癌(HCC)などを含む病理学的結果を呈する。急性HBV感染症を発症する特定の人々がいる一方で発症しない人々もいる理由はほとんど理解されていない。臨床データおよび他の慢性ウイルス感染症との類似性は、ウイルス感染症の制御下での細胞介在性免疫応答、特に細胞障害性Tリンパ球を含む免疫応答における意義について強調している。細胞障害性T細胞応答の誘発は、急性HBV感染症の除去、および慢性HBV感染症の予防における決定因子である。ウイルスゲノムは、特にエンベロープタンパク質であるプレS1、プレS2およびS抗原(HBsAg)、ポリメラーゼ、ならびにコアタンパク質(HBcAg)をコードする。
【0003】
慢性B型肝炎は慢性持続性または慢性的に悪性の経過をたどる可能性がある肝臓の進行性炎症である。慢性持続性肝炎は、繊維化の亢進を伴う肝臓の拡大した門脈域に限局される浸潤を呈し;臨床的には、持続性肝炎の徴候が長年(最大で10年)にわたって残存し、症例の約80%がHBsAg陽性である。病原性は、細胞性免疫系の不全および持続性ウイルス感染症に基づく可能性が高い。
【0004】
226個のアミノ酸からなるタンパク質(p24/gp27すなわちSタンパク質)である小さなB型肝炎表面抗原(HBsAg)は、20〜30nmのリポタンパク質粒子内に単独で構築される重要なHBV抗原である。該粒子内では、複数の分子間および分子内でのジスルフィド結合によって100〜150個のサブユニットが架橋される。種々のサブタイプおよび遺伝子型のHBV単離物由来のSタンパク質の可変性は限られている。4つの安定なHBsAgサブタイプであるadw、ayw、adrおよびayrは、免疫優勢の「ある決定因子」(残基124〜147を含む親水性領域)の近隣に位置する位置122および160における単一アミノ酸交換に関する。同サブタイプは、以前からHBV感染症における何らかの生物学的なまたは病原性における差異によるものとされてはいない。
【0005】
慢性HBsAgキャリアの血漿から得られるワクチンは、1982年にドイツ連邦共和国で最初に認可された。それ以来、ワクチンは遺伝子技術によって生産され、リスクを有する集団の能動免疫化に用いられている。接種に先立って血清反応陰性の95%の人々は1年後に免疫応答を示す。用いられるあらゆるB型肝炎ワクチンは、B型肝炎ウイルスの非感染性のさやに対応する高濃度の精製HBsAgタンパク質を含有し、ウイルスDNAを含有せず、またはホルマリンで不活化される。
【0006】
先行技術における不利な点は、免疫される少なくとも5%の人々が免疫応答を示さない「非応答者」であることである。さらに、慢性持続性肝炎の治療に対するワクチンは現在までに知られていない。
【0007】
国際公開第01/40279号パンフレットおよび国際公開第01/38498号パンフレットにはB型肝炎ウイルス遺伝子型Gに基づくワクチンについての記載があるが、その2つの特許明細書には異なる遺伝子型の組み合わせについての記載はない。
【0008】
マイケル(Michel)ら、PNAS 92(1995年)、5307−5311頁およびマンチニ(Mancini)ら、PNAS 93(1996年)、12496−12501頁は、HBsAgに基づくDNAワクチンに関する。この文献には異なるHBV遺伝子型のHBsAgの組み合わせを含有する組成物の使用に関する記載はない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
したがって本発明は、HBV感染症またはHBV介在性疾患の予防/治療に関する改善された手段を提供するという課題に基づく。本発明は、肝炎の治療的処置において患者特異的な薬物を提供するという課題にも基づく。更なる目的は、HBV感染症の診断において改善されたキットを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明における根本的な課題は、少なくとも2つのB型肝炎ウイルス表面抗原(HBsAg)、それらの断片、および/またはそれらをコードする核酸を含む組成物の提供によって解決される。この場合、HBsAgはHBsAgのS領域および/またはプレS1領域におけるB型肝炎ウイルス(HBV)遺伝子型において異なり、組成物はHBVコア抗原(HBcAg)または同抗原をコードする核酸を含有しない。
【0011】
本発明は、以下に示す驚くべき観察に基づいている。肝臓において常時HBsAgサブタイプaywを発現するトランスジェニックマウスは、慢性HBV感染症に特異的な免疫療法プロトコルの効率を評価するための前臨床モデルとしてみなされる。上記マウスは、持続性抗原血症の結果として生じるHBsAgを大量に産生し、かつHBsAgに対して実質上耐性を有する。発明者は、一方でトランスジェニックマウス(ayw)の遺伝子型にそのHBsAg遺伝子型において正確に対応するワクチン、他方でトランスジェニックマウスの遺伝子型とは異なるHBsAg遺伝子型を含有するワクチンでHBsAg−トランスジェニックマウスを免疫している。トランスジェニックマウスに対してその固有のHBsAgに対応するHBsAg抗原によって繰り返し免疫したにもかかわらず、細胞障害性T細胞応答が何も認められなかった。一方、トランスジェニックマウスに対してその固有の遺伝子型とは異なるHBsAg遺伝子型で免疫したところ、HBsAgに対し、遺伝子型に特異的でかつ交差反応性のある細胞障害性T細胞応答が得られた。これは自然発生するHBsAg変異体が交差反応性T細胞免疫のプライミングによって「耐性」を破壊できることを示す。細胞障害性T細胞の免疫の活性化は、HBsAg ayw−抗原の低下に加え、HBVの有効な制御下で急性肝炎に対応する肝臓に特異的な徴候および症状をもたらす。HBsAg ayw−抗原のアミノ酸配列がHBsAg adw2−抗原のアミノ配列と小数の位置に限って異なることから観察された免疫応答は特に顕著である。本発明では、T細胞エピトープ内のアミノ酸における極めて少数の保存的置換が同エピトープに対するT細胞応答において変化をもたらす場合があることが確認されている。
【0012】
タンパク質抗原に対するT細胞応答の特異性および効率は、様々なレベル、特に(i)エピトープ(または抗原ペプチド)のタンパク質分解による遊離;(ii)主要組織適合性複合体(MHC)に提示される糖タンパク質に対する抗原ペプチドの親和性;および(iii)同一抗原における種々のエピトープに対して競合的に起こるT細胞応答の負の干渉といった決定因子に基づいて調節される。タンパク質抗原の天然変異体は:
(i)タンパク質からのより効率的な抗原ペプチドのタンパク質分解によるプロセシング(遊離);
(ii)提示されたMHC分子に対する抗原ペプチドの高親和性結合;
(iii)エピトープの免疫原性を弱める、(i)および/または(ii)の記載と類似の過程を介する(同一タンパク質抗原における他のエピトープに対する応答を抑制する)免疫優勢エピトープの除去;
(iv)新たなエピトープが生成できる
といった4つの方法において(エピトープ内部もしくはエピトープに隣接する重要な配列における個々のアミノ酸交換または新たなエピトープの創出によって)特異的なT細胞応答を誘発できる。
【0013】
本発明に関連して、遺伝子型によって示されるHBsAg天然変異体は、同変異体が刺激するT細胞応答における特異性に関して比較的幅広いスペクトルを有することが明らかにされる。
【0014】
本発明と関連して、「HBV遺伝子型」という用語はB型肝炎ウイルスゲノムの全体性を意味する。HBV遺伝子型は、好ましくは全配列決定および系統発生解析によって決定される。現段階では、8つの標準的な遺伝子型が知られている。これら8つの遺伝子型はヌクレオチド相互における8%のバリエーションに基づいており、これについてはバーソロミューズ(Bartholomeusz)、Rev.Med.Virol.13(2003年)、1−14頁を参照されたし。好ましくは、HBV遺伝子型Aは、参照核酸配列Genbank X02763、すなわちHBV遺伝子型Aafrに対するGenbank AF297621に従う参照核酸配列を有する。HBV遺伝子型Baに対する参照核酸配列はGenbank D00330であり、遺伝子型Bjに対する参照核酸配列はAB073858である。HBV遺伝子型Cに対する参照核酸配列はGenbank AY206389であり、遺伝子型Causについては参照核酸配列はGenbank AB048704に相当する。遺伝子型Dに対する参照核酸配列はGenbank X02496である。遺伝子型Eに対する参照核酸配列はX75657である。遺伝子型Fに対する参照核酸配列はX69798である。遺伝子型Gに対する参照核酸配列はAF160501であり、遺伝子型Hに対する参照核酸配列はAY090454である。
【0015】
上記の遺伝子型については、以下のように遺伝子型とサブタイプの間にはある種の相関がある。すなわち、遺伝子型Aは、サブタイプのadw2、ayw1と相関し、遺伝子型Bはadw2、ayw1と相関し、遺伝子型Cはadw2、adrq+、adrq−、ayr、adrと相関する。遺伝子型Dはayw2、ayw3、ayw4と相関する。遺伝子型Eはayw4と相関する。遺伝子型Fはadw4q−、adw2およびayw4と相関し、遺伝子型Gはadw2と相関し、かつ遺伝子型Hはadw4と相関する。
【0016】
感染患者のHBVサブタイプの測定は、例えば抗d、抗y、抗r、抗a(w)といったモノに特異的な抗体を活用することで血清学的に実施できる。同測定は寒天ゲル拡散試験の形態またはラジオイムノアッセイの形態で実施できる(クールージュ A.M.(Courouce、A.M.)、ホーランド P.V.(Holland、P.V.)、ミュラー J.Y.(Muller、J.Y.)およびソリエ J.P.(Soulier、J.P.)、Bibliotheca Haematologica no.42、S.Karger、バーゼル、1976年によって公開された「HB抗原サブタイプ」)。
【0017】
患者血清由来のHBsAgをコードするDNAの配列決定により、サブタイプも決定できる。次いでHBsAgのアミノ酸配列は決定された核酸配列から派生する。次いでサブタイプの割り付けは、マグニス L.O.(Magnius、L.O.)およびノーダー H.(Norder、H.)、「Subtypes、Genotypes and molecular epidemiology of the hepatitis B virus as reflected by sequence variability of the S−gene」 Intervirology 38(1−2):24−34頁にて記載されたように、位置122および160におけるアミノ酸を用いて行われる。
【0018】
本発明と関連して、「B型肝炎ウイルス表面抗原」(HBsAg)という表現は小さいHBV表面抗原またはSタンパク質(p24/gp27)を意味する。HBsAgは、プレS1タンパク質ドメインも含む可能性がある。好ましくは、HBsAgはSタンパク質および/またはプレS1タンパク質のドメインからなる。
【0019】
HBsAgの番号付けについては、キッド・ユンググレーン(Kidd−Ljunggren)ら、J.Gen.Virol.83(2002年)、1267−1280頁に従う系が用いられる。
【0020】
「断片」という用語は、本発明によるとHBsAgの断片を含む。好ましくは、断片は、少なくとも5個のアミノ酸を含み、T細胞エピトープ、すなわち好ましくは少なくとも10個、特に少なくとも20個、より特殊な場合には少なくとも50個のアミノ酸を含有する。好ましい実施形態によると、組成物は少なくとも2つのHBsAgまたは2つのそれらの断片を含む。上記の組成物は、特にポリペプチドに基づくワクチンとして用いる場合に適する。特に、組成物が異なるHBV遺伝子型を有するHBsAg由来の2つの断片を含む場合、第1および第2の断片は少なくとも10個のアミノ酸、好ましくは20個のアミノ酸を共に有するが、アミノ酸の少なくとも1個分だけ互いに異なる。
【0021】
上記のように、本発明は、遺伝子型が異なる結果として生じる抗原(HBsAg)における差異が極めてわずかである場合でさえ、互いに極めてわずかに異なるだけの修飾されたT細胞エピトープが生成され、T細胞応答性における変化が顕著になるという認識に基づく。したがって、互いに少なくとも1個のアミノ酸だけ異なる2つの断片は、HBsAgに関して既知の遺伝子型を単純に配列比較することによって容易に検出できる。互いに少なくとも1個のアミノ酸だけ異なる適切な断片は、本発明に従う組成物において使用できる。好ましくは、同断片は少なくとも1つのT細胞エピトープ、特にヒト細胞エピトープを含有する。T細胞エピトープを決定する方法は、例えばラウアー(Lauer)ら、J.Virol.76(2002年)、6104−6113頁において知られている。
【0022】
好ましい実施形態によると、組成物は少なくとも2つのHBsAgおよび/または少なくとも2つのそれらの断片を含む。
【0023】
好ましくは、少なくとも第1のHBsAgまたはその断片および第2のHBsAgをコードする核酸またはその断片を含む組成物が提供され、この場合第1および第2のHBsAgがHBV遺伝子型において異なる。
【0024】
さらに好ましい実施形態によると、組成物は2つのHBsAgをコードする少なくとも2つの核酸を含み、この場合HBsAgはHBV遺伝子型において異なる。核酸は、先に定義された断片をコードする核酸でもありうる。核酸はウイルスDNAまたは合成DNAである場合があり、この場合の合成DNA配列は修飾されたヌクレオチド間結合を含有するものを含むものとして理解される。核酸は、組換えベクター系を介する発現に必要とされる場合があるRNA分子でもありえる。さらに本発明によると、混合されたDNA/RNA分子は核酸としても検討に値する。
【0025】
好ましい実施形態によると、遺伝子型が既知の遺伝子型のA、B、C、D、E、F、GおよびHから選択される。個々の参照核酸配列については、先に定義された切片に対して参照される。遺伝子型は通常、参照核酸配列に対する8%のヌクレオチドのバリエーションを介して定義される。すなわち参照核酸配列と少なくとも92%同一である核酸は、同定義に従う遺伝子型としても理解される。参照核酸配列に対しては少なくとも95%、特に98%の同一性が特に好ましい。ここで、参照核酸配列に対する「同一性」は既知の方法を活用して決定される。一般に、特定の要件を考慮するアルゴリズムを含む特別なコンピュータプログラムが用いられる。
【0026】
同一性を決定する好ましい方法は、第一に比較される配列間で最大限の一致をもたらす。同一性を決定するためのコンピュータプログラムとして、GAP(デベロイ J.(Deveroy、J.)ら、Nucleic Acid Research 12(1984年)、387頁;Genetics Computer Group University of Wisconsin、Medicine(WI);およびBLASTP、BLASTNおよびFASTA(アルトシュル S.(Altschul、S.)ら、J.Mol.Biol.215(1990年)、403−410頁を含むGCGプログラムパッケージが挙げられるがこれらに限定されない。BLASTXプログラムは、National Center For Biotechnology Information(NCBI)や他のソース(BLAST Handbook、アルトシュル S.(Altschul、S.)ら、NCBI NLM NIH Bethesda ND22894;アルトシュル S.(Altschul、S.)ら;上記)から入手できる。同様に、同一性を決定するのに既知のSmith−Watermanアルゴリズムが利用できる。
【0027】
核酸の比較における好ましいパラメータは以下を含む:
ニードルマン(Needleman)およびヴンシュ(Wunsch)アルゴリズム、J.Mol.Biol.48(1970年)、443−453頁
比較マトリックス:
マッチ=+10
ミスマッチ=0
ギャップペナルティ:50
ギャップ長ペナルティ:3
【0028】
GAPプログラムは、上記パラメータとともに用いる場合にも同様に適する。上記パラメータは、核酸配列比較におけるデフォルトパラメータである。アルゴリズムの更なる例であるギャップ・オープニング・ペナルティ、ギャップ延長ペナルティおよび比較マトリックスは、プログラムハンドブックWisconsin Package、Version 9、1997年9月におけるものを含む。その選択は実施される比較に依存し、さらにGAPもしくはBest Fitが用いられる場合には配列ペア間、またはFASTAもしくはBLASTが用いられる場合には配列と大規模な配列データバンクの間で比較が実施中か否かに依存する。
【0029】
上記アルゴリズムに基づいた92%の一致は、本発明と関連した92%の同一性を示す。同一性がより高い場合にも同様に適用される。
【0030】
本発明による組成物は、好ましくは変異体が参照核酸配列によってコードされるポリメラーゼの活性に実質的に相当する活性を有するポリメラーゼをコードする、および/または変異体が参照核酸によってコードされるHBsAgの免疫応答性に実質的に相当する免疫応答性を有するHBsAgをコードすることを特徴とする。
【0031】
本明細書におけるポリメラーゼ活性は、キム(Kim)ら、Biochem.Mol.Biol.Int.1999年;47(2)、301−308頁にしたがって測定できる。HBsAgの免疫応答性は、商用の抗原ELISAを介して測定できる。「実質的に参照核酸によってコードされるHBsAgの免疫応答性による」とは、抗体が変異体によってコードされるHBsAgに関して実質的に同一の親和性を有する参照HBsAgに結合することを意味する。
【0032】
好ましい実施形態によると、組成物は、少なくとも3つ、好ましくは少なくとも5つの異なるHBsAg、それらの断片および/またはそれらをコードする核酸を含む。
【0033】
特に好ましくは、組成物はあらゆる既知のHBV遺伝子型のHBsAg、それらの断片および/またはそれらをコードする核酸を含む。
【0034】
本発明による組成物の更なる好ましい実施形態にしたがって、HBsAgをコードする核酸またはその断片は、哺乳類細胞、好ましくはヒト細胞におけるHBsAgの発現に適するプロモータの制御下でベクターに存在する。組成物がHBsAgまたはその断片をコードする少なくとも2つの核酸を含む場合、これらの核酸は同一ベクター(バイナリーベクター)においてまたは異なるベクターにおいて互いに独立して存在できる。適切なベクターとして、たとえば、プラスミド、アデノウイルス、ワクシニアウイルス、バキュロウイルス、麻疹ウイルス、およびレトロウイルスが挙げられる。一般に、ベクターは、トランスフェクトされた哺乳類細胞におけるベクターの複製に作用する複製源を含む。
【0035】
適切なプロモータは、構成プロモータ(constitutive promoter)および誘導プロモータ(inducible promoter)の両方でありうる。好ましいプロモータは、CMVおよびSV−40に由来する。
【0036】
上記の組成物は、単に個々の成分を混合することによって取得できることから、調製が極めて容易である。適切な溶媒および担体は、組成物(ポリペプチドおよび/または核酸)の性質に依存する。原理上、水を含有する系が好ましい。HBsAgまたはその断片は、合成的にまたは組換え調製を介して得られる。調製されたポリペプチドは、クロマトグラフ法によって精製できる。
【0037】
あるいは、組成物は組換え発現系におけるHBsAgまたはその断片をコードする少なくとも2つの核酸の共発現によって得られる。当業者であれば、極めて多くの発現系や方法に熟知するあろうし、好ましくは酵母が宿主細胞として用いられ、特に好ましくはメタノール資化性酵母(Hansenula polymorpha)、出芽酵母(Saccharomyces cerevisiae)および酵母(Pichia pastoris)が用いられる。核酸は、ベクター内または互いに独立の2つのベクター内に存在できる。適切なベクターおよびプロモータについては先に説明した通りである。
【0038】
本発明の更なる態様にしたがって、本発明による組成物および医薬的に許容できる担体を含む医薬組成物が調製される。医薬的に許容できる担体は、当業者にとっては既知である。例として、多糖類、水中油型乳剤、ポリ−ラクチド−コ−グリコール酸の添加の有無にかかわらないHBsAgのアルミニウム塩、リン酸カルシウム、凍結乾燥物などが挙げられる。上記担体自体がアジュバント活性を含まない場合、それらは例えば、脂質Aミメティクス(mimetics)、免疫活性化ヌクレオチドまたは細菌毒素などの更なるアジュバントと混合できる。
【0039】
本発明による医薬組成物として、特にワクチンが挙げられる。本発明によると、医薬組成物、特にワクチンは、HBV感染症またはHBV介在性疾患の治療的処置に適する。医薬組成物、特にワクチンは、HBV感染症またはHBV介在性疾患の予防的処置にも適する。HBV感染症は、特に慢性持続性B型肝炎感染症である。HBV介在性疾患は、急性慢性B型肝炎感染症でありうる。更なるHBV介在性疾患として、肝硬変および原発性肝細胞癌が挙げられる。ワクチンは、臨床的に不顕性のHBV保菌者、すなわち真の意味でまだ疾患を患っていないが将来的にHBV介在性疾患を発症するリスクが高い保菌者に対する投与に適する。
【0040】
医薬組成物は、筋肉内、皮下、皮内、静脈内、粘膜、または経口を介して投与できるが、かかる投与は好適なものを示すにすぎず、それらに限定されることはない。
【0041】
医薬組成物は、用量範囲が0.1から1000μg/HBsAgもしくはその断片、好ましくは2.5から40μg/HBsAgもしくはその断片の、少なくとも2つのHBsAgまたはそれらの断片を含む。
【0042】
医薬組成物がHBsAgまたはその断片をコードする核酸を含む場合、それらは10から1000μg/HBsAgもしくはその断片をコードする核酸の用量範囲で存在する。
【0043】
本発明の更なる態様は、
a)感染患者が保有するHBV遺伝子型を決定するステップと;
b)a)によって決定される患者のHBV遺伝子型とは異なるHBV遺伝子型の少なくとも1つのHBsAg、HBsAgの断片またはHBsAgまたはその断片をコードする核酸を含む薬物を提供するステップと、
を含むB型肝炎の治療的処置における薬物の調製方法を提供する。
【0044】
上記のように、本発明で重要な認識は、慢性持続性肝炎の前臨床モデルでは、トランスジェニック動物の遺伝子型と異なるHBV遺伝子型由来のHBsAgによるトランスジェニック動物の治療によって治療効果が得られているということである。
【0045】
遺伝子型は、全HBVゲノムまたはHBsAgをコードする少なくとも一部の配列決定および系統発生解析、制限断片長多型(RFLP)、多重PCRといった方法によって決定できる。
【0046】
少なくとも1つのHBsAg、その断片またはその断片のHBsAgをコードする核酸の調製を介したそれ自体が知られた方法で薬物の提供を行う。
【0047】
更なる態様によると、本発明はHBV感染症の遺伝子型における診断用キットを提供する。キットは、2つのHBsAgに特異的な結合剤が種々のHBV遺伝子型に特異的であることを特徴とする、少なくとも2つのHBsAgに特異的な結合剤を含む。少なくとも2つのHBsAgに特異的な結合剤は、HBsAg遺伝子型に特異的なプライマーおよび/または特異的抗体でありうる。プライマーは、10〜30ヌクレオチド長を有する可能性があり、かつ個々の遺伝子型における既知のHBsAg配列に相補的である。抗体は、例えば所望のHBsAg遺伝子型にそれぞれ対応するHBsAgを有するマウスなどの実験動物への免疫、本質的に知られた方法によるハイブリドーマの調製、およびサブタイプに特異的なモノクローナル抗体に対するスクリーニングによって得られる抗体である。
【0048】
本発明は、実施例と関連させて以下により詳細に説明されることになる。しかしながら、実施例は本発明を限定することを意図するものではない。
【実施例】
【0049】
実施例
材料および方法
概要
研究中のHBVサブタイプadw2は遺伝子型Aに対応する。HBVサブタイプaywは遺伝子型Dに対応する。HBVサブタイプadrは遺伝子型Cに対応する。
【0050】
マウス
標準の病原体が存在しない条件下でC57BL/6JBom(B6)マウス(H−2b)を保存した。
【0051】
C57BL/6J−TgN(Alb1HBV)44Briトランスジェニック(HBs−tg)マウスのHBsAgayw(登録番号V01460 J02203を有するHBV配列によってコードされる)をJackson Laboratory(バーハーバー、メイン州)から得た。8〜16週齢の雌雄マウスを用いた。
【0052】
細胞、組換えHBsAg粒子および抗原HBsAgペプチド
用いたH−2b細胞系RBL5を[10]に示す。HBsAgaywおよびHBsAgadw2とほぼ等しい量を発現した安定なRBL5トランスフェクタントを調製した(データは示さず)。サブタイプのayw、adw2およびadrの組換えHBsAg粒子は、ライン・バイオテック(Rhein Biotech GmbH)(デュッセルドルフ、ドイツ)から入手可能である。メタノール資化性酵母(Hansenula polymorpha)宿主株RB10で調製されたHBsAg粒子を[3]で示すように精製した。合成Kb拘束性S208−215ILSPFLPL(ayw)またはIVSPFIPL(サブタイプadw2)ペプチドおよびKb拘束性S190−197VWLSVIWM(ayw)またはVWLSAIWM(adw2)ペプチドをジェリニ・バイオツールズ(Jerini BioTools)(ベルリン、ドイツ)から入手した。ペプチドを10mg/mlの濃度でDMSO溶液に溶解し、使用前に培地で希釈した。
【0053】
プラスミドおよびDNAによる免疫
[4;5]で記載のように、HBsAgayw、HBsAgadw2およびHBsAgadrをpCl(Promega)およびBMGneoベクター内でクローニングした。DNAワクチンとして、HBsAgayw、HBsAgadw2およびHBsAgadrを十分に等しく発現するプラスミドpCl/Sayw、pCl/Sadw2およびpCI/Sadrを用いた。これらのプラスミドDNAで一時的にトランスフェクト済みの細胞を由来とするHBsAgの免疫沈降によってこれを示した(データは示さず)。したがって、DNAワクチンまたはトランスフェクタントによるHBsAgの種々の発現量に基づいてHBsAgエピトープにおける免疫原性上の差異を解明することができなかった。[4]に記載のように、筋肉内への核酸の免疫では、プラスミドDNA1μg/μlを含有するPBS(リン酸緩衝生理食塩水)50μlをそれぞれの前脛骨筋内に注射した。各場合に1μg/μl pCI/Sayw、1μg/μl pCI/Sadw2および1μg/μl pCI/Sadrを含有するPBS50μlを注射することにより、HBsAgサブタイプの混合物による免疫を行った。
【0054】
HBsAgタンパク質粒子による免疫
マウス1匹あたりPBS(リン酸緩衝生理食塩水)100μl中のCpGオリゴヌクレオチド(ODN1826、MWG バイオテック(MWG Biotech)、エーバースベルク、ドイツ)30μgまたはRC−529(コリクサ(Corixa Corp.)、シアトル、ワシントン州、米国)8μgとともに、HBsAgタンパク質粒子5μgを皮下注射した。HBsAgサブタイプの混合物で免疫した各場合において、HBsAgayw5μg、HBsAgadw25μgおよびHBsAgadr5μgのタンパク質粒子をPBS100μl中のCpGオリゴヌクレオチドアジュバント30μgまたはRC−529 8μgとともに皮下注射した。
【0055】
特異的な脾臓および肝臓におけるCD8+T細胞の頻度の測定
脾臓細胞懸濁液[1]および肝NPC(非実質)細胞の調製について記載されている[6;7]。5μg/μlのHBsAg由来ペプチド、HBsAgを発現するトランスフェクタント(106個/ml)、HBsAg粒子でパルスした細胞のいずれかを含むRPMI−1640培地において脾臓細胞および肝NPC(1x106個/ml)を1時間にわたってインキュベートした。次いで、ブレフェルディンA(BFA)(カタログ番号15870;シグマ)5μg/μlを添加し、培養物をさらに4時間インキュベートした。細胞を採取し、それらの表面を抗CD8mAbで染色し、固定化し、浸透化し、そして細胞質IFNγに対する染色を行った。CD8+IFNγ+CTLの頻度をFACS解析によって測定した。CD8+IFNγ+T細胞/105個の脾臓または肝臓のT細胞における平均値を示す。
【0056】
特異的CD8+T細胞系の移入
CD8+T細胞系をpCl/SaywのDNAワクチンに免疫したB6マウスの脾臓から採取した。in vitroにおいてKb/S208−215拘束性ペプチド1(ILSPFLPL)またはKb/S190−197拘束性ペプチド2(VWLSVIWM)でパルスした同質遺伝子的RBL5細胞で脾臓細胞を再刺激した。特異的IFNγ発現試験によって明らかなように、in vitroにおいて約2週間にわたって増殖させた系において80%を超えるCD8+T細胞は予定のエピトープ特異性を有した。細胞を洗浄し、同系における5×106個の細胞を静脈内に注射した。対照細胞は、3日間にわたってConAで刺激した培養物から単離した非特異的CD8+Tブラストであった。
【0057】
血清中のトランスアミナーゼ、HBsAgおよび抗HBsAg抗体の測定
注射後に特定の時刻に、尾静脈由来の血液の採取により、個々の、免疫マウスまたは対照マウスから血清抗体が繰り返し得られた。Reflotron(登録商標)試験(カタログ番号745138;ロシュ・ダイアグノスティックス(Roche Diagnostics GmbH))を用いて血液において血清アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)活性を行った。
【0058】
トランスジェニックマウスの血清におけるHBsAg濃度を市販のELISA AUSZYME II(アボット・ラボラトリーズ(ABBOTT Laboratories)、ヴィースバーデン、ドイツ)試験によって測定した。市販のIMxAUSAB試験(カタログ番号7A39−20;アボット(Abbott)、ヴィースバーデン、ドイツ)を用いてマウス血清におけるHBsAgに対する抗体について明らかにした。
【0059】
6つの標準血清を活用して抗体濃度を定量した。測定されたOD値が標準血清1〜6にあるように試験血清を希釈した。本明細書に示す同値を測定された抗体濃度(mlU/ml)を介して血清希釈倍率によって測定した。所定の血清力価は4匹の各マウスの平均値±標準偏差に相当する。
【0060】
組織学
肝臓組織薄片(<3mm)を24時間にわたって4%ホルマリン(pH7.0)で固定し、パラフィン包埋した。2μm厚のパラフィン切片をヘマトキシリン−エオシン(H&E)で染色した。
【0061】
Kbに対するHBsAgペプチドの拘束
[8、9]に記載のように、3μMのヒトβ2mの存在下で上昇した試験ペプチド濃度および放射活性物質で標識したVSV NP 52−59標識ペプチドの規定濃度(約2nM)で、アフィニティ精製したMHCクラスI分子Kbを18℃で48時間にわたってインキュベートした。次いで、Sephadex G50カラムを用いたゲルろ過によってMHCクラスI分子に対するペプチドの拘束について測定した[8]。放射活性物質で標識したVSV NP 52〜59ペプチドを排除量(MHC結合ペプチド)および含有量(遊離ペプチド)に位置づけた。これをγ線分光分析によって測定し、そして試験ペプチド総量に対するMHC分子に結合していた試験ペプチドの割合を測定した。標識ペプチドの拘束に対する50%の阻害(IC50値)を得るために必要な試験ペプチド濃度を測定した。IC50値が低下すると、試験ペプチドの拘束が亢進する。リガンドの低下を防止するために、すべての拘束に関する実験において15〜25%以下の拘束を得るのに十分なMHC量を用いた。これらの条件下で、IC50値は解離定数(Kd)に対する近似値である。阻害実験としてあらゆる拘束に関する実験を行った。
【0062】
実施例1
エピトープ1またはエピトープ2に特異的なKbに制限されたCD8+T細胞系の養子移入はHBs−tg B6マウスにおいて肝障害を誘発する。
B6マウス脾臓由来のHBsAgのエピトープ1またはエピトープ2(図1B)に特異的で、pCl/SaywプラスミドDNAで免疫した短寿命CD8+T細胞系を産生した。同細胞系内では細胞の>95%はCD8+であり、これらCD8+T細胞の>80%において特異的IFNγの発現を誘発した。血清トランスアミナーゼにおける短期間であるが大幅な上昇によって示されたように、ある導入遺伝子から肝臓におけるHBsAgaywを発現したコンジェニックB6宿主内への同細胞系における5×106個の細胞の養子移入は、急性肝障害を誘発した(図2)。移入の5〜6日後に血清トランスアミナーゼ値は正常化し、CD8+T細胞が移入されていない時点で宿主内で検出可能であった。ポリクローナル(ミトゲンで活性化された)CD8+Tブラストと同数の移入によっては肝障害を呈さなかった。したがって、(i)特異的CD8+T細胞がHBs−tgマウスにおける肝障害を有効に誘発し([2]に記載)、(ii)内因性もしくは外因性HBsAgのプロセシングによって産生されたHBsAgエピトープが導入遺伝子を発現する肝臓内に存在し、かつ(iii)養子導入のCD8+T細胞をトランスジェニック宿主から速やかに取り出す。したがって、HBsAgにおいて種々の特異性を有する移入CD8+T細胞は、肝臓で使用でき、原位置において活性化できるが、安定的に吸収できない。
【0063】
実施例2:HBsAgエピトープ1および2を認識するKb拘束性CTLは脾臓および肝臓において認められた。
ワクチンでプライミングしたHBsAgに特異的なCD8+T細胞がHBsAgを発現する正常またはトランスジェニック(HBs−tg)B6マウスの肝臓で使用できるか否かについて検討した(図3)。12〜15日以前にpCl/Saywワクチンで免疫済みのB6マウスから脾臓細胞および非実質肝細胞(NPC)を単離した。正常B6マウス由来の脾臓および肝臓におけるCD8+T細胞集団内にエピトープ1またはエピトープ2に特異的なCD8+T細胞を認めた(図3A)。肝臓CD8+T細胞集団内のHBsAgに特異的なCD8+T細胞の頻度は高かったものの、それらの絶対数は脾臓の場合よりも少なかった(データは示さず)。一方、HBsAgaywをコードするDNAワクチンで免疫済みのHBsAgayw tg B6マウスでは、CD8+T細胞の応答性が実証されなかった(図3B)。DNAワクチンによる3回のブースター注射(3週間の間隔)、HBsAg抗原粒子およびオリゴヌクレオチドアジュバントによる繰り返し免疫のいずれも、HBs−tgマウスにおいてHBsAgに特異的なCD8+T細胞の免疫をもたらさなかった(データは示さず)。したがって、マウスが耐性を示す対象である同じHBsAg変異体を用いる接種プロトコルは、有効な抗ウイルス性CD8+T細胞の免疫に対してプライミングしない。
【0064】
実施例3:HBsAgaywおよびHBsAGadw2変異体のエピトープに対するKb拘束性T細胞応答
タンパク質が226アミノ酸残基を有する、HBV単離物由来のHBsAgaywおよびHBsAgadw2タンパク質は、16アミノ酸残基において異なる(ゆえにこれらのアミノ酸は93%一致)。用いられたHBsAgaywタンパク質配列は、HBs−tg B6マウスによって発現された、導入遺伝子にコードされたHBsAgaywの配列と同一である。選択したHBsAgaywおよびHBsAgadw2のKb拘束性エピトープ1および2の配列は、エピトープ内の1および2のアミノ酸残基においてそれぞれ異なるが、同一のフランキング配列(図1A、B)を有する。HBsAgaywおよびHBsAgadw2のS208−215エピトープ1は2つの位置で異なる。すなわちadw2では、位置2でバリン(V)残基がロイシン(L)と置き換わり、かつ位置6でイソロイシン(I)がロイシン(L)残基と置き換わる(図1B)。Kbに対するエピトープ1の結合親和性は比較的低い。すなわちエピトープ1のHBsAgadw2変異体は、エピトープのHBsAgayw変異体の場合よりもKbに対してより高い結合親和性を示した(表1)。一方、Kbに対するエピトープ2の結合親和性は高かった(表1)。
【0065】
【表1】
【0066】
pCl/SaywまたはpCl/Sadw2のDNAワクチンで免疫したB6マウスは、HBsAgaywもしくはHBsAgadw2粒子あるいは、HBsAgaywもしくはHBsAgadw2における抗原ペプチドS208−215のいずれかでパルス済みのプライミングした脾臓CD8+T細胞に対するex vivoでの再刺激の5時間後に認めた、Kb拘束性エピトープ1に対してCD8+T細胞応答を示した(図4A、群2、3)。(i)エピトープ1に特異的なCTLをpCl/SaywまたはpCl/Sadw2によってプライミングし、かつ(ii)HBsAgaywもしくはHBsAgadw2粒子でパルスした、またはペプチドILSPFLPL(ayw)もしくはペプチドIVSPFIPL(adw2)でパルスした細胞がプライミングしたCD8+T細胞に対してエピトープ1を提示することから、エピトープ1のaywおよびadw2変異体は交差反応性を示した。したがって、8−merエピトープ1内の2か所の置換によって有効なプロセシング、Kb拘束性またはエピトープの提示は阻害されなかった。
【0067】
pCl/Sayw DNAワクチンでプライミングしたCD8+T細胞は、HBsAgaywまたはHBsAgadw2のエピトープ2(S190−197)を認識した(図5A;群2)。このことはHBsAgaywを発現するペプチドでパルスした細胞またはトランスフェクタントを用いた再刺激の5時間後にex vivoで実証された。プライミングしたCD8+T細胞は、内因性HBsAgadw2を発現するトランスフェクタントを認識しなかった。pCl/Sadw2 DNAワクチンによる免疫は、エピトープ2に特異的なT細胞(図5A、群3)をプライミングしなかった。pCl/Sadw2(pCl/Saywではない)DNAワクチンでプライミングしたCD8+T細胞は、トランスフェクタントによって提示された未知のエピトープ/制限の特異性を有するadw2に特異的なエピトープを認識したが、これについての更なる検討は行わなかった(図5、群3)。したがって、位置5におけるアミノ酸の置換(疎水性アミノ酸バリンVと疎水性アミノ酸アラニンAの交換)は、エピトープ2の産生を阻害するが、Kb分子によるその提示を阻害しない([1]。
【0068】
実施例4:HBsAgエピトープ1に対する交差反応性Kb拘束性CD8+T細胞応答はHBs−tg B6マウスにおいてプライミングされる。
HBs−tg B6マウスは、肝臓における導入遺伝子からHBsAgaywを発現する。HBs−tgマウスをHBsAgayw(pCl/Sayw)またはHBsAgadw2(pCl/Sadw2)で免疫した(図4、5B)。pCl/Sayw DNAワクチンによるHBs−tg B6マウスの繰り返し免疫によってCD8+T細胞応答は全く得られなかった(図4、5B、群2)。一方、pCl/Sadw2 DNAワクチンによるHBs−tg B6マウスの免疫によってHBsAgに対するCD8+T細胞応答が得られた(図4B、群3)。この交差反応性CD8+T細胞応答は、HBsAgaywもしくはHBsAgadw2粒子またはペプチド形態のエピトープ1のaywもしくはadw2変異体でパルスした細胞を認識した(図4B、群3)。これらのCD8+T細胞は、RBL5/SaywトランスフェクタントまたはKb拘束性エピトープ2のS190−197を認識しなかった(図5B、群3)。CD8+T細胞は、RBL5/Sadw2トランスフェクタントによって提示されるがRBL5/Saywトランスフェクタントによって提示されない不確定の決定因子に向け、サブタイプに特異的な応答性を示した(図5B、群3)。
このことはHBsAg天然変異体が交差反応性T細胞免疫のプライミングによって「耐性を破壊」できることを示す。
【0069】
特異的CD8+T細胞集団がpCl/Sadw2で免疫したトランスジェニックマウスの抗原を産生する肝臓において実証できるか否かの詳細について検討を行った。pCl/Sadw2で免疫したHBs−tg B6マウス由来の脾臓および肝臓におけるNMCでは、特異的CD8+T細胞応答性は数ヶ月にわたって実証可能である(図6)。したがって、養子導入のCD8+T細胞と対照的に(図2)、ワクチンでプライミングした抗HBVに特異的なCD8+T細胞は、3ヶ月を超える期間にわたって抗原を産生する標的器官内で使用でき、安定的な吸収を示す。
【0070】
実施例5:HBsAgエピトープ1に対して特異的なCD8+T細胞応答を示す免疫したHBs−tgマウスの肝臓における組織病理
HBsAgに特異的なCD8+T細胞は、HBsAgを産生する肝臓において炎症性反応を誘発した。処理を施していないB6マウスは、正常な肝臓組織を呈した(図7A、B)。HBs−tg B6マウス由来の肝細胞は肥大し、ヒトHBV感染症の症例にも認められる「スリガラス様肝細胞」の特徴を示す微細な顆粒状の薄い好酸性細胞質を呈した(図7C、D)。炎症性浸潤は認められなかった。
【0071】
pCl/Sadw2(pCl/Saywではなく)DNAワクチンで免疫したHBs−tgマウスは、重度の肝組織病理を呈した(図7E)。実質(図7F)および門脈周囲(図7G)領域に認めた炎症性浸潤物は主に単核球からなっていた(図7F)。極めて多くの小さいリンパ球様細胞を実質および門脈周囲領域内に分布させた。炎症性細胞の局在化された群は、アポトーシス肝細胞の周囲に存在した(図7H)。肝細胞の肥大および水腫様腫大は、免疫したHBs−tgマウスでは処理していないHBs−tgマウスよりも大きかった。一部の中規模から小規模の核は、凝集クロマチンおよび核周辺光輪を呈したが(図7Fの矢印)、それはアポトーシスの初期段階を示す。さらに、アポトーシス肝細胞を呈する極めて多くのカウンシルマン小体を認めた(図7H、矢印)。一部の肝細胞は、核の空胞変性を呈した(図7、矢印)。顕著な胆汁うっ滞は認められなかった。
【0072】
実施例6:HBs−tgマウスにおけるHBsAgに特異的なCD8+T細胞のプライミングは抗原血症における低下と相関する。
処理されていないHBs−tgマウスにおけるHBsAgは、30〜50ng/mlの血清濃度を示す(図8A)。交差反応性CD8+T細胞を発現したマウスは、HBsAgadw2での免疫が抗原血症の低下(5〜15ng/mlの範囲内の濃度)を示した後でエピトープ1に応答する一方で、HBsAgに特異的ないかなるCD8+T細胞の免疫でも起こさないHBsAgaywで免疫した動物は、抗原血症濃度において全く変化を示さなかった(図8A)。したがって、抗原血症の部分的な制御は、免疫したトランスジェニックマウスにおける特異的CD8+T細胞の発生と相関する。
【0073】
実施例7:抗HBsAg血清抗体がHBsAgadw2で免疫されているHBsayw−tgマウスにおいて発生する。
T細胞免疫に加えて、液性抗HBsAg免疫は、抗原血症の監視における役割を果たすことができる。ワクチン接種した正常およびトランスジェニックマウスにおいて抗HBsAg血清抗体の発生を認めた。正常(非トランスジェニック)B6マウスおよびコンジェニックHBs−tg B6マウスにpCL/SaywまたはpCL/Sadw2 DNAワクチンで2回免疫した。種々のサブタイプにおけるHBsAgを測定するImxAUSAB試験(Abbott)を用いた最終の免疫の2週間後に、HBsAgに特異的なこれらの血清抗体力価を測定した。pCL/SaywまたはpCL/Sadw2プラスミドDNAで免疫した非トランスジェニックマウスがHBsAgに対する高い血清抗体濃度をもたらした一方で、pCL/Sadw2(pCL/Saywではない)プラスミドDNAで免疫した後に限ってHBs−tgマウスは抗HBsAg血清抗体応答を示した(図8B)。HBsAgaywまたはHBsAgadw2粒子で免疫したマウスにおいて同様の抗体応答を認めた(データは示さず)。(HBsAgaywまたはHBsAgadw2粒子でコーティングしたプレートを用いた)サブタイプに特異的なELISAによると、正常マウスではすべてのワクチンによって引き起こされる>95%の抗体応答はHBsAgの「ある」決定因子に向けられ、HBs−tgマウスでは>90%の抗体応答はadw2に特異的な決定因子に向けられる(データは示さず)。
【0074】
実施例8:交差反応性Kb拘束性CD8+T細胞の効率的なプライミングは、HBs−tg B6マウスにおいてHBsAgタンパク質粒子による免疫によってHBsAgエピトープ1に応答する。
サブタイプaywまたはadw2のHBsAgタンパク質粒子による正常B6マウスの免疫は、Kb拘束性エピトープ1(S208−215)に対するCD8+T細胞が介在する免疫応答を引き起こす(図9A)。したがって、ワクチン(タンパク質粒子またはDNA)の性質に無関係に種々の配列を含むエピトープが交差反応性T細胞応答をプライミング可能であることを示しうる。DNAワクチンによる免疫と同様に(図5)、B6マウスに対するサブタイプaywのHBsAgタンパク質粒子によるワクチン注射はHBsAg Kb拘束性エピトープ2(S190−197)に対するCD8+細胞応答をプライミングするが、サブタイプadw2のHBsAgタンパク質粒子によるワクチン注射はプライミングしない(図9A)。
【0075】
HBsayw−tgマウスをサブタイプaywまたはサブタイプadw2のいずれかに相当するHBsAgタンパク質粒子ワクチンで免疫した。HBsAgaywタンパク質ワクチンで繰り返し免疫した後でCD8+T細胞応答が全く起きなかった一方で、異種のHBsAgadwタンパク質抗原による免疫はエピトープ1に対するHBsAgに特異的なCD8+T細胞応答を引き起こした(図9B)。したがって、HBsAg天然変異体は、さらにタンパク質サブユニットのワクチン接種を介する交差反応性T細胞応答のプライミングによって既存の耐性を破壊できることが実証される。
【0076】
実施例9:HBsAg天然変異体の混合物による免疫によるHBs−tg B6マウスにおけるHBsAgエピトープ1に対する交差反応性Kb拘束性CD8+T細胞応答の効率的なプライミング
HBsayw−tgマウスを、3つのHBsAgサブタイプのayw(pCI/Sayw)、adw2(pCI/Sadw2)およびadr(pCI/Sadr)をコードするDNAワクチン(図10A)と、サブタイプayw、adw2およびadrの混合物を含有するHBsAgタンパク質粒子ワクチン(図10B)で免疫した。HBsAg天然変異体の混合物は、DNAとタンパク質粒子の両方で免疫した後、エピトープ1に対する交差反応性Kb拘束性CD8+T細胞応答をプライミングした。
【0077】
実施例10:HBsAg天然変異体の混合物による免疫後のHBs−tgマウスにおける抗原血症の低下
処理していないHBs−tgマウスでは、30〜50ng/mlの血清濃度を認める。異種HBsAgワクチン(HBsAgadw2)または天然HBsAg変異体の混合物(HBsAgayw+HBsAgadw2+HBsAgadr)による免疫後に、エピトープ1に対する交差反応性CD8+T細胞応答を起こす動物は、抗原血症の低下(5-17ng/mlのHBsAg濃度)を示す。相同性を示すHBsAgayw単独で免疫することで、HBsAgに特異的なT細胞の免疫を誘発できる動物では、血清中の抗原量において何の変化も認めなかった。したがって、HBsAg天然変異体の混合物による免疫が抗原血症の低下をもたらす可能性がある。
【0078】
実施例11:HBsAg天然変異体の混合物による免疫後のHBs−tgマウスにおける抗HBsAg血清抗体の誘発
正常B6マウスは、HBsAgayw、HBsAgadw2、HBsAgadr(示さず)とこの3つのサブタイプの混合物による免疫後に顕著な抗体応答を示す。
【0079】
免疫後のHBs−tgマウスにおけるHBsAgに特異的な血清抗体の形成について検討した。HBs−tgマウスは、天然HBsAg変異体の混合物または異種のサブタイプadw2による免疫後に限って血清抗体応答を示した。相同性を示すサブタイプaywによる免疫後に抗HBsAgの応答は何も誘発されなかった。サブタイプに特異的なELISA(HBsAgaywおよびHBsAgadw2タンパク質粒子でコーティングしたマイクロタイタープレート)は、HBs−tgマウスでは>90%のHBsAgに特異的な抗体応答がadw2に特異的な決定因子に向けて生じることを示した(データは示さず)。
【0080】
参考文献
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【図面の簡単な説明】
【0081】
図面の説明
【図1】HBsAg変異体。(A)小さいB型肝炎表面抗原(HBsAg)である、遺伝子型Dに対応するayw(1)および遺伝子型Aに対応するadw2(2)のアミノ酸配列が示される。(B)HBsAgのaywおよびadw2に由来する、Kb拘束性エピトープ配列。エピトープ1(S208−215)が外因性HBsAgをプロセシングする細胞によってのみ提示された一方、エピトープ2(S190−197)は内因性HBsAgをプロセシングする細胞によってのみ提示された。
【図2】エピトープ1またはエピトープ2に特異的な細胞障害性T細胞系(CTLL)をHBsトランスジェニック(HBs−tg)宿主に移入することによって細胞障害性T細胞系がHBsトランスジェニックにおいて一時的な肝障害を引き起こす。脾臓細胞がpCI/SaywDNAで免疫されたB6マウスから摘出され、in vitroにおいて同質遺伝子的RBL5細胞で再刺激された。この場合、RBL5細胞はKb/S208−215拘束性ペプチド1(ILSPFLPL)もしくはKb/S190−197拘束性ペプチド2(VWLSVIWM)でパルスされるか、またはConAで刺激された。5×106個のCD8+CTLL/マウスがHBs−tgマウスに静脈内(i.v.)注射され、かつ平均血清アラニントランスアミナーゼ(ALT)値が測定された。
【図3】免疫されたマウスの肝臓および脾臓におけるHBsAgに特異的なCD8+T細胞に関するEx vivoにおける実証。C57BL/6マウスは、pCl/Sayw DNA100μgの単回注射によって筋肉内に免疫された。免疫の12日後に特異的CD8+T細胞の存在が示された。単離された肝臓単核球(MNC)および脾臓細胞がin vitroにおいてKb/S208−215拘束性ペプチド1(ILSPFLPL)またはKb/S190−197拘束性ペプチド2(VWLSVIWM)で(ブレフェルディンAの存在下で)4時間にわたって再刺激された。1群あたりマウス4〜6匹(互いに独立の2つの実験から)におけるCD8+IFNγ+T細胞/105個のCD8+T細胞±標準偏差の平均頻度が示される。
【図4】HBs−tgマウスにおけるHBsAgに特異的なCD8T細胞のエピトープ1に対する応答。肝臓においてHBsAgaywを発現するHBs−tgマウスは、HBsAgサブタイプayw(pCl/Sayw)もしくはadw2(pCl/Sadw2)をコードするDNAワクチンまたは負の制御ベクターpCl(挿入を含まないベクター)で(4週間の間隔をあけて)筋肉内に3回免疫された。最終の免疫から12日後に、脾臓細胞が免疫されたマウスから摘出され、かつin vitro(ブレフェルディンAの存在下で)においてRBL5細胞で4時間にわたって再刺激された。この場合、RBL5細胞はayw(RBL5/SPayw)もしくはadw2(RBL5/SPadw2)のサブタイプのHBsAg粒子またはHBsAgayw(ILSPFLPL)もしくはHBsAgadw2(IVSPFIPL)のKb/S208−215拘束性ペプチド1で再刺激された。1群あたり(互いに独立の2つの実験から)マウス4〜6匹の脾臓IFNγ+CD8+T細胞/105個のCD8+T細胞±標準偏差の平均数が示される。
【図5】HBs−tgマウスにおいてHBsAgに特異的なCD8T細胞のエピトープ2に対する応答。脾臓細胞が図4のキャプションにおいて記載のように免疫されたマウスから摘出され、in vitroにおいて同質遺伝子的RBL5/SaywもしくはRBL5/Sadw2トランスフェクタント、またはHBsAgayw(VWLSVIWM)もしくはHBsAgadw2(VWLSAIWM)のKb/S190−197エピトープ2で再刺激された。1群あたりマウス4匹の脾臓IFNγ+CD8+T細胞/105個のCD8+T細胞±標準偏差の平均数が示される。
【図6】S208−215に特異的なCD8+T細胞が免疫されたHBs−tgマウスの肝臓において実証された。トランスジェニックHBs−tgマウスがHBsAgadw2(pCl/Sadw2)をコードするDNAワクチンで(4週間の間隔で)3回免疫された。最終の注射の12日後に、肝臓および脾臓細胞が免疫されたマウスから摘出され、かつin vitroにおいてKb/S208−215拘束性ペプチドILSPFLPLで再刺激された。1群あたりマウス4匹の脾臓IFNγ+CD8+T細胞/105個のCD8+T細胞±標準偏差の平均数が示される。
【図7】pCl/Sadw2DNAワクチンで免疫されているHBs−tgマウス肝臓の組織病理。B6マウス(A、B)では病的な肝組織は何も認められなかった。HBs−tgマウス(C、D)は中等度の細胞肥大を呈したが、その細胞質はスリガラス様を呈している(D)。肝細胞の核は中等度に多形性の様相を呈した。門脈周囲浸潤物はまれである。pCl/Sadw2DNAによる繰り返し免疫は、肝臓(E−I)において急性ウイルス性肝炎に相当する重度の組織形態学的変化を誘発する。炎症性浸潤物は、クッパー細胞、リンパ球および小葉実質(F)や門脈周囲領域(G)内に位置する少数の多形核顆粒球を含む。肝細胞は水症性の様相を呈し、アポトーシスの初期段階の徴候(F、矢印)である濃縮した核を有することが多い。好酸小体(H、矢印)すなわちアポトーシス肝細胞は全体に認められ、病巣の炎症性浸潤物の周囲に存在することが多い。多数の肝細胞は著明な空胞変性を呈する(I、矢印)。ホルマリン固定されたパラフィン包埋組織のH&E染色。オリジナル倍率:A、CおよびEにおいてx10;B、DおよびFにおいてx40;G〜Iにおいてx63。
【図8】HBs−tgマウスにおけるHBsAgに特異的な血清抗体応答の誘発。B6マウスおよびトランスジェニックHBs−tgマウスがHBsAgadw2(pCl/Sadw2)またはHBsAgayw(pCl/Sayw)をコードするDNAワクチンで筋肉注射で免疫され、3週間後に同じワクチンでブーストされた。最終の注射の4週間後、血清試料がHBsAg抗原(A)またはHBsAgに特異的な抗体(B)に対して試験された。マウス4〜6匹/群における平均抗体力価(mIU/ml)およびHBsAg血清濃度(ng/ml)±標準偏差が示される。
【図9】HBsAgに特異的なCD8+T細胞は、正常B6およびHBsayw−tgマウスにおけるエピトープ1(S208−215)およびエピトープ2(S190−197)に応答する。動物は、サブタイプaywまたはadw2におけるHBsAgタンパク質粒子(SP)でそれぞれ筋肉注射で(21日の間隔をおいて)3回免疫された。タンパク質ワクチンは、アジュバントとしてCpG−オリゴヌクレオチド(ODN)またはRC−529とそれぞれ混合された。PBSは負の制御として用いられた。最終の免疫の12日後に脾臓が動物から摘出され、次いで単離された脾臓細胞がin vitro(ブレフェルディンAの存在下でにおいてHBsAgに特異的なペプチドでパルスしたRBL5細胞で)4時間にわたって再刺激された。この目的のため、それぞれの場合にHBsAgayw(ILSPFLPL)もしくはHBsAgadw2(IVSPFIPL)のKb/S208−215拘束性ペプチド1またはHBsAgayw(VWLSVIWM)もしくはHBsAgadw2(VWLSAIWM)のKb/S190−197拘束性ペプチド2が用いられた。1群あたり(互いに独立の2つの実験から)マウス4〜6匹における脾臓IFNγ+CD8+T細胞/105個のCD8+T細胞±標準偏差の数が示される。
【図10】HBsayw−tgマウスにおけるエピトープ1(S208−215)に対するHBsAgに特異的なCD8+T細胞応答。A.肝臓においてHBsAgaywを発現するHBs−tgマウスが、HBsAgサブタイプayw(pCI/Sayw)単独もしくは3つのサブタイプayw(pCI/Sayw)、adw2(pCI/sadw2)およびadr(pCI/Sadr)をコードするDNAワクチンまたは負の制御ベクターpCI(挿入なしのベクター)で筋肉注射で(4週間の間隔で)3回免疫された。最終の免疫の12日後に脾臓が動物から摘出された。単離された脾臓細胞がin vitro(ブレフェルディンAの存在下で)においてHBsAgayw(ILSPFLPL)またはHBsAgadw2(IVSPFIPL)のKb/S208−215拘束性ペプチド1でパルスしたRBL5細胞で4時間にわたって再刺激された。1群あたり(互いに独立の2つの実験から)マウス4〜6匹における脾臓IFNγ+CD8+T細胞/105個のCD8+T細胞±標準偏差の数が示される。B.A.HBsayw−tgマウスがサブタイプaywのHBsAgタンパク質粒子(SP)またはサブタイプayw、adw2およびadrのHBsAgタンパク質粒子の混合物で筋肉注射で(21日間の間隔で)3回免疫された。タンパク質ワクチンが、アジュバントとしてCpG−オリゴヌクレオチド(ODN)またはRC−529(サブタイプの混合物に限って示される)とそれぞれ混合された。PBSは負の制御として用いられた。最終の免疫の12日後に脾臓が動物から摘出された。単離された脾臓細胞がin vitro(ブレフェルディンAの存在下で)においてHBsAgayw(ILSPFLPL)またはHBsAgadw2(IVSPFIPL)のKb/S208−215拘束性ペプチド1でパルスしたRBL5細胞で4時間にわたって再刺激された。1群あたり(互いに独立の2つの実験から)マウス4〜6匹における脾臓IFNγ+CD8+T細胞/105個のCD8+T細胞±標準偏差の数が示される。
【図11】HBs−tgマウスにおけるHBsAgに特異的な血清抗体応答の誘発。B6マウスおよびトランスジェニックHBs−tgマウスが、サブタイプaywもしくはサブタイプadw2のHBsAgタンパク質粒子ワクチン(SP)またはサブタイプayw、adw2およびadrの混合物で筋肉注射で免疫され、3週間後に同一ワクチンでブーストされた。タンパク質ワクチンは、アジュバントとして添加物としてCpG−オリゴヌクレオチド(ODN)を含有した。ブースター注射の4週間後、血清試料がHBsAg(A)およびHBsAgに特異的な抗体(B)に対して試験された。マウス4〜6匹/群における平均抗体力価(mIU/ml)およびHBsAg血清濃度(ng/ml)±標準偏差が示される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも2つのB型肝炎ウイルス表面抗原(HBsAg)、それらの断片、および/またはそれらをコードする核酸、を含み、かつHBVコア抗原(HBcAg)または同抗原をコードする核酸を含有しない組成物であって、前記HBsAgがB型肝炎ウイルス(HBV)遺伝子型におけるHBsAgのS領域および/またはプレS1領域において異なる、組成物。
【請求項2】
前記組成物が、少なくとも2つのHBsAgおよび/または少なくとも2つのそれらの断片を含むことを特徴とする、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
一若しくは複数のHBsAgの前記断片が、少なくとも5個のアミノ酸およびT細胞エピトープを含み、好ましくは少なくとも10個、特に少なくとも20個、さらに特に少なくとも50個のアミノ酸を含むことを特徴とする、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
前記断片が、HBsAgの「ある決定因子」を含むことを特徴とする、請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
第1および第2の断片が、少なくとも10個、好ましくは少なくとも20個の共通のアミノ酸を有するが、少なくとも1個のアミノ酸は互いに異なることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項6】
前記組成物が、HBsAgまたはそれらの断片をコードする少なくとも2つの核酸を含むことを特徴とする、請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
前記遺伝子型が、A、B、C、D、E、F、G、またはHから選択されることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項8】
(i)前記HBV遺伝子型Aが、Genbank X02763に従う参照核酸配列、Genbank AF297621に従う参照核酸配列、またはヌクレオチド配列の少なくとも92%が同一であるそれらの変異体を有し;
(ii)前記HBV遺伝子型Bが、Genbank D00330に従う参照核酸配列、Genbank AB073858に従う参照核酸配列、またはヌクレオチド配列の少なくとも92%が同一であるそれらの変異体を有し;
(iii)前記HBV遺伝子型Cが、Genbank AY206389に従う参照核酸配列、Genbank AB048704に従う参照核酸配列、またはヌクレオチド配列の少なくとも92%が同一であるそれらの変異体を有し;
(iv)前記HBV遺伝子型Dが、Genbank X02496に従う参照核酸配列、またはヌクレオチド配列の少なくとも92%が同一であるその変異体を有し;
(v)前記HBV遺伝子型Eが、Genbank X75657に従う参照核酸配列、またはヌクレオチド配列の少なくとも92%が同一であるその変異体を有し;
(vi)前記HBV遺伝子型Fが、Genbank X69798に従う参照核酸配列、またはヌクレオチド配列の少なくとも92%が同一であるその変異体を有し;
(vii)前記HBV遺伝子型Gが、Genbank AF160501に従う参照核酸配列、またはヌクレオチド配列の少なくとも92%が同一であるその変異体を有し;および
(viii)前記HBV遺伝子型Hが、Genbank AY090454に従う参照核酸配列、またはヌクレオチド配列の少なくとも92%が同一であるその変異体を有することを特徴とする、請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
前記変異体が、前記参照核酸配列によってコードされるポリメラーゼの活性に実質的に相当する活性を有するポリメラーゼをコードし、および/または前記変異体が、前記参照核酸配列によってコードされるHBsAgの免疫応答性に実質的に相当する免疫応答性を有するHBsAgをコードすることを特徴とする、請求項8に記載の組成物。
【請求項10】
前記組成物が、少なくとも3つ、好ましくは5つの異なるHBsAg、それらの断片、および/またはそれらをコードする核酸を含むことを特徴とする、請求項1〜9のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項11】
前記組成物が、すべての既知のHBV遺伝子型のHBsAg、それらの断片、および/またはそれらをコードする核酸を含むことを特徴とする、請求項1〜10のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項12】
前記HBsAgまたはその断片をコードする核酸が、哺乳類細胞内でのHBsAgの発現に適するプロモータの制御下で、ベクター内に存在することを特徴とする、請求項1〜11のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項13】
前記ベクターが、プラスミド、アデノウイルス、ワクシニアウイルス、バキュロウイルス、麻疹ウイルス、およびレトロウイルスから選択されることを特徴とする、請求項12に記載の組成物。
【請求項14】
前記プロモータが、構成プロモータおよび誘導プロモータから選択されることを特徴とする、請求項13に記載の組成物。
【請求項15】
前記個々の成分を混合するステップを含む、請求項1〜14のいずれか1項に記載の組成物を調製する方法。
【請求項16】
宿主細胞、好ましくは酵母細胞、特にメタノール資化性酵母(Hansenula polymorpha)、出芽酵母(Saccharomyces cerevisiae)、または酵母(Pichia pastoris)において、HBsAgまたはそれらの断片をコードする少なくとも2つの核酸を共発現させることを含む、請求項1〜14のいずれか1項に記載の組成物を調製する方法。
【請求項17】
請求項1〜14のいずれか1項に記載の組成物および医薬的に許容できる担体を含む医薬組成物。
【請求項18】
HBV感染症またはHBV介在性疾患の治療的処置における、請求項1〜14のいずれか1項に記載の組成物の使用。
【請求項19】
HBV感染症またはHBV介在性疾患の予防的処置における、請求項1〜14のいずれか1項に記載の組成物の使用。
【請求項20】
前記HBV感染症が、慢性持続性B型肝炎であることを特徴とする、請求項18または19に記載の使用。
【請求項21】
前記HBV介在性疾患が、急性慢性B型肝炎感染症、肝硬変、または原発性肝細胞癌であることを特徴とする、請求項18または19に記載の使用。
【請求項22】
前記組成物が筋肉内、皮下、皮内、静脈内、粘膜、または経口を介して投与されることを特徴とする、請求項18〜21のいずれか1項に記載の使用。
【請求項23】
B型肝炎の治療的処置のための薬物の調製方法であって、
a)患者に感染したHBV遺伝子型を決定することと;
b)a)によって決定される前記患者のHBV遺伝子型とは異なる、HBV遺伝子型の少なくとも1つのHBsAg、その断片、またはHBsAgをコードする核酸を含む薬物を提供することとを含む、調製方法。
【請求項24】
前記遺伝子型が、PCR法によって決定されることを特徴とする、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
少なくとも2つのHBsAgに特異的な結合剤を含み、該2つのHBsAgに特異的な結合剤が異なるHBV遺伝子型に特異的であることを特徴とする、HBV感染症の遺伝子型診断用キット。
【請求項26】
前記2つのHBsAgに特異的な結合剤が、プライマーおよび/または抗体であることを特徴とする、請求項25に記載のキット。
【請求項1】
少なくとも2つのB型肝炎ウイルス表面抗原(HBsAg)、それらの断片、および/またはそれらをコードする核酸、を含み、かつHBVコア抗原(HBcAg)または同抗原をコードする核酸を含有しない組成物であって、前記HBsAgがB型肝炎ウイルス(HBV)遺伝子型におけるHBsAgのS領域および/またはプレS1領域において異なる、組成物。
【請求項2】
前記組成物が、少なくとも2つのHBsAgおよび/または少なくとも2つのそれらの断片を含むことを特徴とする、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
一若しくは複数のHBsAgの前記断片が、少なくとも5個のアミノ酸およびT細胞エピトープを含み、好ましくは少なくとも10個、特に少なくとも20個、さらに特に少なくとも50個のアミノ酸を含むことを特徴とする、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
前記断片が、HBsAgの「ある決定因子」を含むことを特徴とする、請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
第1および第2の断片が、少なくとも10個、好ましくは少なくとも20個の共通のアミノ酸を有するが、少なくとも1個のアミノ酸は互いに異なることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項6】
前記組成物が、HBsAgまたはそれらの断片をコードする少なくとも2つの核酸を含むことを特徴とする、請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
前記遺伝子型が、A、B、C、D、E、F、G、またはHから選択されることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項8】
(i)前記HBV遺伝子型Aが、Genbank X02763に従う参照核酸配列、Genbank AF297621に従う参照核酸配列、またはヌクレオチド配列の少なくとも92%が同一であるそれらの変異体を有し;
(ii)前記HBV遺伝子型Bが、Genbank D00330に従う参照核酸配列、Genbank AB073858に従う参照核酸配列、またはヌクレオチド配列の少なくとも92%が同一であるそれらの変異体を有し;
(iii)前記HBV遺伝子型Cが、Genbank AY206389に従う参照核酸配列、Genbank AB048704に従う参照核酸配列、またはヌクレオチド配列の少なくとも92%が同一であるそれらの変異体を有し;
(iv)前記HBV遺伝子型Dが、Genbank X02496に従う参照核酸配列、またはヌクレオチド配列の少なくとも92%が同一であるその変異体を有し;
(v)前記HBV遺伝子型Eが、Genbank X75657に従う参照核酸配列、またはヌクレオチド配列の少なくとも92%が同一であるその変異体を有し;
(vi)前記HBV遺伝子型Fが、Genbank X69798に従う参照核酸配列、またはヌクレオチド配列の少なくとも92%が同一であるその変異体を有し;
(vii)前記HBV遺伝子型Gが、Genbank AF160501に従う参照核酸配列、またはヌクレオチド配列の少なくとも92%が同一であるその変異体を有し;および
(viii)前記HBV遺伝子型Hが、Genbank AY090454に従う参照核酸配列、またはヌクレオチド配列の少なくとも92%が同一であるその変異体を有することを特徴とする、請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
前記変異体が、前記参照核酸配列によってコードされるポリメラーゼの活性に実質的に相当する活性を有するポリメラーゼをコードし、および/または前記変異体が、前記参照核酸配列によってコードされるHBsAgの免疫応答性に実質的に相当する免疫応答性を有するHBsAgをコードすることを特徴とする、請求項8に記載の組成物。
【請求項10】
前記組成物が、少なくとも3つ、好ましくは5つの異なるHBsAg、それらの断片、および/またはそれらをコードする核酸を含むことを特徴とする、請求項1〜9のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項11】
前記組成物が、すべての既知のHBV遺伝子型のHBsAg、それらの断片、および/またはそれらをコードする核酸を含むことを特徴とする、請求項1〜10のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項12】
前記HBsAgまたはその断片をコードする核酸が、哺乳類細胞内でのHBsAgの発現に適するプロモータの制御下で、ベクター内に存在することを特徴とする、請求項1〜11のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項13】
前記ベクターが、プラスミド、アデノウイルス、ワクシニアウイルス、バキュロウイルス、麻疹ウイルス、およびレトロウイルスから選択されることを特徴とする、請求項12に記載の組成物。
【請求項14】
前記プロモータが、構成プロモータおよび誘導プロモータから選択されることを特徴とする、請求項13に記載の組成物。
【請求項15】
前記個々の成分を混合するステップを含む、請求項1〜14のいずれか1項に記載の組成物を調製する方法。
【請求項16】
宿主細胞、好ましくは酵母細胞、特にメタノール資化性酵母(Hansenula polymorpha)、出芽酵母(Saccharomyces cerevisiae)、または酵母(Pichia pastoris)において、HBsAgまたはそれらの断片をコードする少なくとも2つの核酸を共発現させることを含む、請求項1〜14のいずれか1項に記載の組成物を調製する方法。
【請求項17】
請求項1〜14のいずれか1項に記載の組成物および医薬的に許容できる担体を含む医薬組成物。
【請求項18】
HBV感染症またはHBV介在性疾患の治療的処置における、請求項1〜14のいずれか1項に記載の組成物の使用。
【請求項19】
HBV感染症またはHBV介在性疾患の予防的処置における、請求項1〜14のいずれか1項に記載の組成物の使用。
【請求項20】
前記HBV感染症が、慢性持続性B型肝炎であることを特徴とする、請求項18または19に記載の使用。
【請求項21】
前記HBV介在性疾患が、急性慢性B型肝炎感染症、肝硬変、または原発性肝細胞癌であることを特徴とする、請求項18または19に記載の使用。
【請求項22】
前記組成物が筋肉内、皮下、皮内、静脈内、粘膜、または経口を介して投与されることを特徴とする、請求項18〜21のいずれか1項に記載の使用。
【請求項23】
B型肝炎の治療的処置のための薬物の調製方法であって、
a)患者に感染したHBV遺伝子型を決定することと;
b)a)によって決定される前記患者のHBV遺伝子型とは異なる、HBV遺伝子型の少なくとも1つのHBsAg、その断片、またはHBsAgをコードする核酸を含む薬物を提供することとを含む、調製方法。
【請求項24】
前記遺伝子型が、PCR法によって決定されることを特徴とする、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
少なくとも2つのHBsAgに特異的な結合剤を含み、該2つのHBsAgに特異的な結合剤が異なるHBV遺伝子型に特異的であることを特徴とする、HBV感染症の遺伝子型診断用キット。
【請求項26】
前記2つのHBsAgに特異的な結合剤が、プライマーおよび/または抗体であることを特徴とする、請求項25に記載のキット。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公表番号】特表2007−504112(P2007−504112A)
【公表日】平成19年3月1日(2007.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−524340(P2006−524340)
【出願日】平成16年8月27日(2004.8.27)
【国際出願番号】PCT/EP2004/009590
【国際公開番号】WO2005/023297
【国際公開日】平成17年3月17日(2005.3.17)
【出願人】(506058554)ライン ビオテヒ ゲゼルシャフト フューア ノイエ ビオテヒノロギシェ プロツェスェ ウント プロドゥクテ エムベーハー (2)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成19年3月1日(2007.3.1)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年8月27日(2004.8.27)
【国際出願番号】PCT/EP2004/009590
【国際公開番号】WO2005/023297
【国際公開日】平成17年3月17日(2005.3.17)
【出願人】(506058554)ライン ビオテヒ ゲゼルシャフト フューア ノイエ ビオテヒノロギシェ プロツェスェ ウント プロドゥクテ エムベーハー (2)
【Fターム(参考)】
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