説明

IL−1阻害剤を用いて血管石灰化を抑制する方法

本発明は、IL−1阻害剤を投与することによって、対象における血管石灰化を抑制、阻害又は防止する方法に関する。本発明において有用であるIL−1阻害剤としては、アナキンラ、IL−1抗体、IL−1RI抗体、IL−1トラップ分子、可溶性IL−1受容体、抗IL−1/IL−1Rペプチド及びペプチボディなどが挙げられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に、医薬品の分野に関し、より詳細には、血管石灰化を抑制、治療又は防止する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
IL−1系
これまでに発見された最も強力な炎症性サイトカインの1つはインターロイキン1(IL−1)である。IL−1は、多数の疾患及び病状における重要な媒介物質であると考えられる。IL−1は、(これだけではないが)マクロファージ/単球系譜の細胞によって産生され、2つの形態、すなわち、IL−1アルファ(IL−1α)及びIL−1ベータ(IL−1β)として産生され得る。IL−1系の第3のサイトカインは、拮抗物質として作用し、IL−1受容体拮抗物質(IL−1ra)と称される。
【0003】
3種類の公知のIL−1受容体サブユニットがある。活性な受容体複合体は、I型受容体(IL−1 RI)とIL−1受容体アクセサリータンパク質(IL−1RAcP)からなる。IL−1 RIは、3種類の天然リガンド(IL−1アルファ、IL−1ベータ及びIL−1ra)の結合を担い、IL−1RAcPの非存在下で、これらの結合を担うことができる。しかし、シグナル伝達には、IL−1アルファ又はIL−1ベータとIL−1RAcPとの相互作用が必要である。IL−1raは、IL−1RAcPと相互作用せず、したがってシグナル伝達することができない。第3の受容体サブユニットであるII型受容体(IL−1 RII)は、IL−1アルファ又はIL−1ベータと結合するが、細胞内ドメインを欠いているので、シグナル伝達することができない。代わりに、IL−1 RIIは、膜結合型と開裂分泌型の両方においておとり受容体として作用することによって、IL−1生理活性を阻害する。Dinarello (1996) Blood 87:2095−2147を参照されたい。
【0004】
IL−1raは、IL−1 RIに結合することによってIL−1アルファ及びIL−1ベータを阻害するが、細胞内シグナル又は生物学的反応を伝達しない。IL−1raは、インビトロとインビボの両方でIL−1の生物活性を阻害し、敗血症ショック、リウマチ様関節炎、移植片対宿主病、発作及び心臓虚血の動物モデルにおいて有効であることが判明した。E.コリ(E. coli)中で産生されるIL−1raの組換え体は、現在、米国及び欧州において医薬品としての使用が認可されている。この薬物は、一般名がアナキンラであり、商品名Kineret(登録商標)として市販されている。
【0005】
血管石灰化
血管石灰化は、慢性腎疾患(CKD)の周知の一般的合併症であり、心血管の罹患率及び死亡率のリスクを増大させる(Giachelli, C. J. Am. Soc. Nephrol. 15:2959−64, 2004; Raggi, P. et al. J. Am. Coll. Cardiol. 39:695−701, 2002)。CKDにおける血管石灰化の原因はまだ解明されていないが、関連する危険因子としては、年齢、性別、高血圧、透析までの時間、糖尿病及び糖不耐性、肥満、喫煙などが挙げられる(Zoccali C. Nephrol. Dial. Transplant 15:454−7, 2000)。しかし、これらの従来の危険因子は、患者集団における心血管の原因による高い死亡率を十分に説明していない。最近の観察によれば、血清のカルシウムとリンの積(Ca×P)が高くなるカルシウムとリンの代謝におけるある異常は、末期腎不全患者における、動脈石灰化の発生の一因となり、恐らくは循環器疾患の一因となる(Goodman, W. et al. N. Engl. J. Med. 342:1478−83, 2000; Guerin, A. et al. Nephrol. Dial. Transplant 15:1014−21, 2000; Vattikuti, R. & Towler, D. Am. J. Physiol. Endocrinol. Metab., 286:E686−96, 2004)。
【0006】
進行型CKDの別の特徴は、高い副甲状腺ホルモン(PTH)レベルと鉱質代謝の乱れとを特徴とする二次性副甲状腺機能亢進症(HPT)である。二次性HPT患者において認められるカルシウム、リン及びCa×Pの増加は、血管石灰化の高いリスクと関連がある(Chertow, G. et al. Kidney Int. 62:245−52, 2002; Goodman, W. et al. N. Engl. J. Med. 342:1478−83, 2000; Raggi, P. et al. J. Am. Coll. Cardiol. 39:695−701, 2002)。カルシウム系リン酸塩結合剤、活性ビタミンDステロール投与など、二次性HPTに対して一般に使用される治療的介入は、血管石灰化の発生又は増悪を伴う高カルシウム血症及び高リン酸塩血症をもたらし得る(Chertow, G. et al. Kidney Int. 62:245−52, 2002; Tan, A. et al. Kidney Int 51:317−23, 1997; Gallieni, M. et al. Kidney Int 42:1191−8, 1992)。
【0007】
血管石灰化は、慢性腎不全の重要な、重篤になり得る合併症である。2つのパターンの血管石灰化が特定された(Proudfoot, D & Shanahan, C. Herz 26:245−51, 2001)。通常、尿毒症患者には両方のタイプが存在する(Chen, N. & Moe, S. Semin Nephrol 24:61−8, 2004)。第1の中膜石灰化は、平滑筋細胞から骨芽細胞様細胞への表現型の転換と併せて、血管の中膜において発生する。他方のアテローム発生は、脂質の多いマクロファージ及び内膜増殖を伴う。
【0008】
中膜壁の石灰化は、比較的若年の慢性腎不全患者において発生し得、腎疾患の非存在下でも、真性糖尿病患者に一般的である。動脈の中膜壁中のカルシウムの有無によって、このタイプの血管石灰化をアテローム性動脈硬化症に付随する血管石灰化から区別する(Schinke T. & Karsenty G. Nephrol Dial Transplant 15:1272−4, 2000)。アテローム硬化型の血管石灰化は、動脈の内膜層に沿った粥状斑において発生する(Farzaneh−Far A. JAMA 284:1515−6, 2000)。石灰化は、通常、大きい、十分に発達した病変部において最大であり、年齢と伴に増加する(Wexler L. et al. Circulation 94:1175−92, 1996; Rumberger J. et al. Mayo Clin Proc 1999; 74:243−52.)。アテローム性動脈硬化症患者における動脈石灰化の程度は、疾患の重症度に一般に対応する。中膜壁の石灰化と異なり、アテローム硬化型の血管病変部は、カルシウムを含んでも、含まなくとも、動脈の内腔を侵害し、血流を損なう。動脈硬化巣内のカルシウムの局所的な沈着は、酸化脂質及び他の酸化的ストレスによる炎症、並びに単球及びマクロファージによる浸潤のために起こり得る(Berliner J. et al. Circulation 91:2488−96, 1995)。
【0009】
一部の末期腎不全患者は、カルシフィラキシス又は石灰化性尿毒症性動脈病(calcific uremic arteriolopathy)と呼ばれる重篤な閉塞性動脈疾患を発症する。この症候群は、小動脈中の広範なカルシウム沈着を特徴とする(Gipstein R. et al. Arch Intern Med 136:1273−80, 1976; Richens G. et al. J Am Acad. Dermatol. 6:537−9, 1982)。この疾患の患者においては、動脈石灰化及び血管閉塞は、組織の虚血及び壊死をもたらす。末梢血管が関与すると、下腿の皮膚の潰よう化、又は足若しくは手の指の壊疽を生じ得る。腹壁、大腿及び/又はでん部の皮膚及び皮下脂肪組織の虚血及び壊死は、石灰化性尿毒症性動脈病の近位型(proximal form)の特徴である(Budisavljevic M. et al. J Am Soc Nephrol. 7:978−82, 1996; Ruggian J. et al. Am. J. Kidney Dis. 28:409−14, 1996)。この症候群は、肥満の個体においてより頻繁に発生し、理由は不明であるが、女性は男性よりも罹患する頻度が高い(Goodman W. J. Nephrol. 15(6):S82−S85, 2002)。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
血清の鉱質レベルを正常化する、又は血管組織若しくは移植片の石灰化を抑制、阻害若しくは防止する現行療法は、効力が限られ、容認できない副作用を生じる。したがって、血管石灰化を阻害及び防止する有効な方法が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、IL−1阻害剤の治療有効量を対象に投与することを含む、対象における血管石灰化を阻害、抑制又は防止する方法を提供する。一態様においては、血管石灰化は、アテローム硬化型石灰化であり得る。別の態様においては、血管石灰化は中膜石灰化であり得る。
【0012】
一態様においては、対象は、慢性腎不全又は末期腎不全に罹患し得る。別の態様においては、対象は透析前であり得る。更に別の態様においては、対象は尿毒症に罹患し得る。別の態様においては、対象はI又はII型真性糖尿病に罹患し得る。別の主題においては、対象は心血管障害に罹患し得る。一態様においては、対象はヒトであり得る。
【0013】
一態様においては、IL−1阻害剤は、一般名アナキンラの分子であり得る。別の態様においては、IL−1阻害剤は、以下の図4に示す配列(配列番号1)を有する分子であり得、以下「Fc−IL−1ra」と記述する。更に別の態様においては、IL−1阻害剤は、IL−1受容体に対する抗体であり得る。IL−1受容体に対する好ましい抗体は、2004年5月20日に公開された米国特許出願公開第2004/0097712号(米国特許出願第10/656,769号)に記載されている。更に別の態様においては、IL−1阻害剤は、IL−1トラップ分子であり得る。
【0014】
一態様においては、本発明の方法に使用されるIL−1阻害剤は、N−((6−(メチルオキシ)−4’−(トリフルオロメチル)−1,1’−ビフェニル−3−イル)メチル)−1−フェニルエタンアミン、又は薬剤として許容されるその塩であり得る。
【0015】
一態様においては、本発明は、ビタミンDステロールをあらかじめ対象に投与する、血管石灰化を阻害、抑制又は防止する方法を提供する。一態様においては、ビタミンDステロールは、カルシトリオール、アルファカルシドール、ドキセルカルシフェロール、マキサカルシトール又はパリカルシトールであり得る。一態様においては、IL−1阻害剤をビタミンDステロールの投与前又は投与後に投与することができる。別の態様においては、IL−1阻害剤をビタミンDステロールと組み合わせて投与することができる。
【0016】
一態様においては、IL−1阻害剤をRENAGEL(登録商標)と組み合わせて投与することができる。
【0017】
本発明は、治療上有効なIL−1阻害剤を対象に投与することを含む、対象の血清クレアチニンレベルを低下させる方法を更に提供する。一態様においては、対象は、対象へのビタミンDステロールの投与によって誘発される高い血清クレアチニンレベルを有し得る。
【0018】
発明の詳細な説明
最近の科学文献では、血管石灰化に対するサイトカインの効果を検討することが示唆されている。Yao et al.(2004), Scandinavian J. Urol. Nephrol. 38:405−16は、末期腎不全(ESRD)患者において彼らが「炎症及び大きな酸化的ストレスと内皮障害との強い関連性」とみなすものを見出した。Malberti and Ravini(2005), Giornale Italiano di Nefrologia(22 Suppl.) 31:S47−52は、血管石灰化が、一般集団よりも、又は正常な腎機能を有する循環器疾患患者よりも、透析患者においてより頻繁であることに注目し、ESRD患者の栄養及び心血管状態に対する消炎処置の効果を検討することを示唆している。Moe and Chen(2005), Blood Purif. 23:64−71は、サイトカインなどの炎症媒介物質が、血管石灰化に対して直接の刺激効果を有し得ることに注目し、サイトカインによって媒介される炎症を抑制することが「血管石灰化を制限する妥当な治療手法」であることを示唆している。しかし、この文献は、血管石灰化を媒介し得る炎症性サイトカインを特定していない。
【0019】
Nicklin et al.(2000), J. Exper. Med. 191:303−11は、IL−1raを欠くマウスが、大動脈の変曲点及び分岐点において動脈の致死的炎症を発症することを見出した。Arai et al.(1998), J. Toxicological Sciences 23:121−8は、1,25ジヒドロキシビタミンDがIL−1の合成を増大させることを見出した。しかし、この文献は、血管石灰化の防止におけるIL−1受容体の拮抗作用の決定的な役割を明らかにしていない。
【0020】
本発明は、IL−1阻害剤を用いて血管石灰化を抑制、阻害又は防止する方法を対象とする。
【0021】
IL−1阻害剤全般
「IL−1」とはIL−1α及びIL−1βを指す。
【0022】
本明細書では「IL−1阻害剤」とは、IL−1α、IL−1β、IL−1 RI、IL−1受容体アクセサリータンパク質(IL−1RAcP)、インターロイキン1変換酵素(ICE)との直接又は間接的相互作用、IL−1α又はβの受容体を介してシグナル伝達を媒介するタンパク質との直接又は間接的相互作用、IL−1α、IL−1β、IL−1 RI又はIL−1 RIIの発現又は放出を制御するタンパク質との直接又は間接的相互作用によって、IL−1α、IL−1β又はIL−1受容体I型(IL−1 RI)の生理活性を低下させる分子を指す。IL−1の阻害は、IL−1の転写、発現、又はIL−1産生細胞からの放出の下方制御;遊離IL−1の結合;IL−1とその受容体の結合の妨害;IL−1受容体複合体の形成(すなわち、IL−1受容体I型とIL−1 RacPの結合)の妨害;及びその受容体との結合後のIL−1シグナル伝達の調節の妨害を含めて、幾つかの機序によって生じる。したがって、「IL−1阻害剤」という用語は、アナキンラ、IL−1 RI抗体などのIL−1ベータ阻害剤及びIL−1受容体拮抗物質(IL−1ra)を含むが、これらだけに限定されない。
【0023】
IL−1阻害剤クラスは以下のものを含み、以下で更に詳述する。
【0024】
以下に示す、IL−1ra、抗IL−1受容体モノクローナル抗体などのインターロイキン1受容体拮抗物質、
可溶性IL−1受容体、抗IL−1モノクローナル抗体などのIL−1結合タンパク質、
IL−1ベータの産生及び分泌を阻害するのに使用することができる、インターロイキン1ベータ変換酵素(ICE)又はカスパーゼIの阻害剤(例えば、その開示を参照により本明細書に援用する、国際公開第99/46248号、同99/47545号及び同99/47154号)、
インターロイキン1ベータプロテアーゼ阻害剤、
並びにIL−1のインビボ合成又は細胞外放出を遮断する化合物及びタンパク質。
【0025】
「IL−1結合タンパク質」という用語は、IL−1と結合し、したがってIL−1ベータがIL−1 RIに結合して生理活性を発揮するのを防止する分子を指す。したがって、IL−1ベータ阻害剤としては、IL−1ベータ抗体、IL−1ベータに結合するペプチド、IL−1ベータに結合するペプチボディ(peptibodies)、可溶性IL−1受容体分子、及びIL−1トラップ分子が挙げられるが、これらだけに限定されない。
【0026】
「IL−1受容体拮抗物質」という用語は、IL−1 RI若しくはIL−1RAcPに結合する分子、又はIL−1 RIとIL−1RAcPの相互作用を防止する分子を指す。したがって、「IL−1受容体拮抗物質」という用語は、アナキンラ、Fc−IL−1ra、IL−1 RI抗体、IL−1RAcP抗体、IL−1 RI又はIL−1 RAcPに結合するペプチド、及びIL−1 RI又はIL−1 RAcPに結合するペプチボディを含むが、これらだけに限定されない。
【0027】
例示的なIL−1阻害剤は、以下の参考文献に開示されている:
米国特許第5,747,444号、同5,359,032号、同5,608,035号、同5,843,905号、同5,359,032号、同5,866,576号、同5,869,660号、同5,869,315号、同5,872,095号、同5,955,480号、同5,965,564号、
国際公開第98/21957号、同96/09323号、同91/17184号、同96/40907号、同98/32733号、同98/42325号、同98/44940号、同98/47892号、同98/56377号、同99/03837号、同99/06426号、同99/06042号、同91/17249号、同98/32733号、同98/17661号、同97/08174号、同95/34326号、同99/36426号、同99/36415号、
欧州特許出願第534978号及び同894795号、並びに
仏国特許出願FR 2762514号。
【0028】
IL−1受容体拮抗物質
本発明では、以下で考察するIL−1ra並びにその変種及び誘導体を「IL−1raタンパク質」と総称する。以下で考察する、上記参考文献に記載の分子並びにその変種及び誘導体を「IL−1阻害剤」と総称する。
【0029】
IL−1raは、天然のインターロイキン1阻害剤として作用するヒトタンパク質であり、IL−1α及びIL−1βを含むIL−1ファミリーメンバーの1メンバーであるヒトタンパク質である。(IL−1ra並びにその変種及び誘導体を含めた)好ましい受容体拮抗物質、並びにその製造及び使用方法は、(参照により本明細書に組み込む)国際公開第91/08285号、同91/17184号、AU 9173636、国際公開第92/16221号、同93/21946号、同94/06457号、同94/21275号、FR 2706772、国際公開第94/21235号;DE 4219626号、国際公開第94/20517号、同96/22793号、同97/28828号、同99/36541号、米国特許第5,075,222号及び同6,599,873号に記載されている。IL−1raとしては、グリコシル化及び非グリコシル化IL−1受容体拮抗物質などが挙げられる。
【0030】
具体的には、IL−1raの3つの有用な形態及びその変種が、5,075,222号特許に開示され、記載されている。その第1のものは’222号特許では「IL−1i」と呼ばれ、SDS−PAGEによって22−23kD分子として特徴づけられ、約4.8の等電点を有し、Mono Q FPLCカラムから約52mM NaClのTris緩衝剤溶液、pH7.6で溶出する。第2のIL−1raβは、22−23kDタンパク質として特徴づけられ、Mono Qカラムから48mM NaClで溶出する。IL−1raα及びIL−1raβはグリコシル化されている。第3のIL−1raxは、20kDタンパク質として特徴づけられ、Mono Qカラムから48mM NaClで溶出し、グリコシル化されていない。5,075,222号特許は、阻害剤をコードする遺伝子を単離し、遺伝子を適切なベクター及び細胞タイプにクローニングし、遺伝子を発現させて、阻害剤を製造する方法も開示している。
【0031】
得られる分子が生物活性である(例えば、IL−1阻害能を有する)ことを前提に、IL−1raのアミノ酸配列内で、欠失、挿入及び置換の多数の組合せ(個々に、又は一括して「変種」)が可能であることを当業者は理解されたい。特定の変種は、参照により本明細書に組み込まれる米国特許第5,075,222号及び米国特許出願第11/097,453号に記載されている。
【0032】
「IL−1受容体拮抗物質」という用語は、修飾IL−1ra、及びIL−1raを含む融合タンパク質も更に含む。例示的な融合タンパク質としては、Fc−IL−1ra(図4、配列番号1)、及び米国特許第6,294,170号に記載の分子が挙げられる。
【0033】
抗体
「IL−1ベータ抗体」及び「IL−1ベータに対する抗体」とは、IL−1ベータに特異的に結合する抗体を指す。IL−1ベータ抗体の一例は、MAb 201として知られ、市販されている。追加のIL−1ベータ抗体は、以下に記載するように製造することができる。IL−1抗体の更なる例は、(参照により本明細書に援用する)国際公開第9501997号、同9402627号、同9006371号、EP 364778、EP 267611、EP 220063及び米国特許第4,935,343号に記載されている。
【0034】
IL−1βに対して特異的結合親和性を有する抗体は、標準方法によって製造することができる。或いは、抗体は、例えばR&D Systems, Inc.、Minneapolis、Minnから、市販されている場合もある。「抗体」という用語は、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、ヒト化抗体、キメラ抗体、単鎖Fv抗体断片、Fab断片及びF(ab)断片を含む。ポリクローナル抗体は、免疫動物の血清中に含まれる特定の抗原に特異的である抗体分子の不均一な集団である。ポリクローナル抗体は、周知の方法によって製造することができる。
【0035】
同様に、「IL−1 RI抗体」及び「IL−1 RIに対する抗体」とは、IL−1 RIに特異的に結合する抗体を指す。IL−1 RI抗体の例は、その開示を参照により本明細書に組み込むEP 623 674、及び2004年5月20日に公開された米国特許出願公開第2004/0097712号(米国特許出願第10/656,769号)に記載されている。追加のIL−1 RI抗体は、以下に記載するように製造することができる。
【0036】
「抗体」という用語は、無傷の抗体、又は特異的結合に対して無傷の抗体と競合する結合性断片を指し、キメラ抗体、ヒト化抗体、全ヒト抗体及び二重特異性抗体を含む。ある実施形態においては、結合性断片は、組換えDNA技術によって製造される。別の実施形態においては、結合性断片は、無傷の抗体の酵素切断又は化学切断によって製造される。結合性断片としては、Fab、Fab’、F(ab’)、Fv及び単鎖抗体が挙げられるが、これらだけに限定されない。
【0037】
「重鎖」という用語は、完全長重鎖、及びIL−1 RIに対する特異性を付与するのに十分な可変領域配列を有するその断片を含む。完全長重鎖は、可変領域ドメインVと、3個の定常領域ドメインC1、C2及びC3を含む。Vドメインはポリペプチドのアミノ末端に存在し、C3ドメインはカルボキシル末端に存在する。
【0038】
「軽鎖」という用語は、完全長軽鎖、及びIL−1 RIに対する特異性を付与するのに十分な可変領域配列を有するその断片を含む。完全長軽鎖は、可変領域ドメインVと定常領域ドメインCを含む。重鎖同様、軽鎖の可変領域ドメインは、ポリペプチドのアミノ末端に存在する。
【0039】
モノクローナル抗体は、抗原内に含まれる特別なエピトープに対する抗体の均一な集団であり、標準ハイブリドーマ技術によって調製することができる。特に、モノクローナル抗体は、Kohler, G. et al., Nature, 1975, 256:495に記載のものなど、培養連続細胞系による抗体分子の製造を規定する任意の技術、ヒトB細胞ハイブリドーマ技術(Kosbor et al., Immunology Today, 1983, 4:72; Cole et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 1983, 80:2026)、及びEBVハイブリドーマ技術(Cole et al., Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy, Alan R. Liss, Inc., 1983, pp.77−96)によって得ることができる。かかる抗体は、IgG、IgM、IgE、IgA、IgD、及びその任意のサブクラスを含めて、任意の免疫グロブリンクラスであり得る。本発明のモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマは、インビトロ又はインビボで培養することができる。
【0040】
キメラ抗体は、ネズミモノクローナル抗体に由来する可変領域とヒト免疫グロブリン定常領域とを含む分子など、異なる部分が異なる動物種に由来する分子である。キメラ抗体は、標準技術によって製造することができる。
【0041】
IL−1βに対して特異的結合親和性を有する抗体断片を公知技術によって生成することができる。例えば、かかる断片としては、抗体分子のペプシン消化によって製造することができるF(ab’)断片、及びF(ab’)断片のジスルフィド架橋を還元することによって生成することができるFab断片が挙げられるが、これらだけに限定されない。或いは、Fab発現ライブラリーを構築することができる。例えば、Huse et al., 1989, Science, 246:1275を参照されたい。単鎖Fv抗体断片は、Fv領域の重鎖断片と軽鎖断片をアミノ酸架橋(例えば、15から18アミノ酸)によって連結して、単鎖ポリペプチドを得ることによって形成される。単鎖Fv抗体断片は、標準技術によって製造することができる。例えば、米国特許第4,946,778号を参照されたい。
【0042】
「Fab断片」は、1本の軽鎖と1本の重鎖のC1及び可変領域とを含む。Fab分子の重鎖は、別の重鎖分子とジスルフィド結合を形成することができない。
【0043】
「Fab’断片」は、1本の軽鎖と1本の重鎖を含み、重鎖は、鎖間ジスルフィド結合が2本の重鎖間に形成されてF(ab’)分子を形成することができるように、C1ドメインとC2ドメインの間に追加の定常領域を含む。
【0044】
「F(ab’)断片」は、2本の軽鎖と、鎖間ジスルフィド結合が2本の重鎖間で形成されるように、C1ドメインとC2ドメインの間に定常領域の一部を含む2本の重鎖とを含む。
【0045】
「Fv領域」は、重鎖と軽鎖の両方の可変領域を含むが、定常領域を欠く。
【0046】
「単鎖抗体」は、重鎖と軽鎖の可変領域が柔軟なリンカーによって連結されて、抗原結合性領域を形成する単一のポリペプチド鎖を形成したFv分子である。単鎖抗体は、(参照により本明細書に援用する)国際公開第88/01649号並びに米国特許第4,946,778号及び同5,260,203号に詳細に考察されている。
【0047】
「多重特異性」又は「多官能」抗体以外の「二価の抗体」は、ある実施形態においては、同一の抗原特異性を有する結合性部位を含むと理解される。
【0048】
「二重特異性」又は「二官能性」抗体は、2組の異なる重鎖/軽鎖対と2個の異なる結合性部位とを有するハイブリッド抗体である。二重特異性抗体は、ハイブリドーマの融合、又はFab’断片の連結を含めて、ただしこれらだけに限定されない種々の方法によって製造することができる。例えば、Songsivilai & Lachmann(1990), Clin. Exp. Immunol. 79:315−321; Kostelny et al.(1992). J. Immunol. 148:1547−1553を参照されたい。
【0049】
好ましい抗体は、2004年5月20日に公開された米国特許出願公開第2004/0097712号(以下、’712出願と記述する。)に記載されている。以下から選択される重鎖可変領域を有する抗体が特に好ましい。
【0050】
【化1】


【0051】
上記は、’712出願の配列番号10、14及び16である。これらの配列を組み入れた抗体は、’712出願に記載のとおりに調製することができる。その全部を参照により本明細書に組み込む’712出願の配列番号20、22、24、26、28、30、32、34及び36から選択される配列を有する重鎖の全部又は免疫学的に機能的な断片を含む抗体が最も好ましい。
【0052】
以下から選択される軽鎖可変領域を有する抗体も特に好ましい。
【0053】
【化2】

【0054】
上記は、’712出願の配列番号12及び18である。これらの配列を組み入れた抗体は、’712出願に記載のとおりに調製することができる。その全部を参照により本明細書に援用する、’712出願の配列番号38及び40から選択される配列を有する軽鎖の全部又は免疫学的に機能的な断片を含む抗体が最も好ましい。
【0055】
配列番号408から410を重鎖可変領域として記述したが、当業者は、(例えば、軽鎖可変領域として)抗体中又は別の分子(例えば、Fc融合分子)中の異なる位置でIL−1Rと結合するこれらの配列を使用することができる。同様に、配列番号411及び412を軽鎖可変領域として記述したが、当業者は、(例えば、重鎖可変領域として)抗体中又は別の分子(例えば、Fc融合分子)中の異なる位置でIL−1Rと結合するこれらの配列を使用することができる。同じ技術を使用して、追加のIL−1ベータ抗体、又はIL−1ベータ抗体由来の分子を調製することができる。すなわち、MAb201重鎖及び軽鎖の各可変領域を、抗体枠組み内の異なる位置で、また、異なる分子形態で、使用することができる。この段落に記載するかかる全分子は本発明の範囲内である。
【0056】
ペプチド及びペプチボディ
ファージディスプレイペプチドライブラリーは、目的タンパク質のペプチド作動物質及び拮抗物質を特定する際に強力な方法として出現した。例えば、(その各々を参照により本明細書に組み込む)Scott et al.(1990), Science 249:386; Devlin et al.(1990), Science 249:404;1996年12月19日に公開された国際公開第96/40987号;1998年4月16日に公開された国際公開第98/15833号並びに米国特許第5,223,409号、同5,733,731号、同5,498,530号、同5,432,018号、同5,338,665号及び同5,922,545号を参照されたい。かかるライブラリーにおいては、ランダムペプチド配列は、繊維状ファージのコートタンパク質との融合によって示される。典型的には、示されたペプチドは、抗体に固定された、受容体の細胞外ドメインに対して親和溶出される。保持されたファージは、親和精製及び再増殖(repropagation)を繰り返すことによって濃縮することができる。最適な結合ペプチドの配列を決定して、構造的に関係する1つ以上のペプチドファミリー内の重要な残基を特定することができる。例えば、Cwirla et al.(1997), Science 276:1696−9を参照されたい。ここでは、2種類のファミリーが特定された。ペプチド配列は、残基をアラニンスキャンニングによって、又はDNAレベルでの変異誘発によって、安全に置換し得ることも示唆し得る。変異誘発ライブラリーを作製し、スクリーニングして、最適なバインダーの配列を更に最適化することができる。Lowman(1997), Ann. Rev. Biophys. Biomol. Struct. 26:401−24。
【0057】
ファージディスプレイなどの技術を用いて、ペプチドIL−1阻害剤を生成することができる。かかるペプチドは、その各々を参照により本明細書に組み込む米国特許第5,608,035号、同5,786,331号、同5,880,096号及び同6,660,843号に記載のように生成される。かかるペプチドは、Fcドメイン、ポリエチレングリコール、又は他の半減期延長成分と連結し得る(米国特許第6,660,843号参照)。Fcドメインに連結されたかかるペプチドを「ペプチボディ」と称する。IL−1及びIL−1受容体以外の標的を対象とするペプチボディは、ヒト臨床試験において効力を示した。ペプチボディ用の適切な幾つかのペプチドを下記表1に示す。
【0058】
【表1】













【0059】
上記ペプチドは、表4のペプチド、並びに上記米国特許第6,660,843号の(参照により本明細書に組み込む。)配列番号212、907−910、917、979、213から271、671から906、911から978、及び980から1023に対応し、当分野で公知の方法によって調製することができる。かかるペプチドは、本発明のIL−1阻害剤の範囲内である。
【0060】
表1に記載のペプチドなどのペプチドを使用して、次式の分子及びその多量体を作製することができる。
【0061】
I (X−F−(X
II X−F
III F−X
IV F−(L−P
V F−(L−P−(L−P
式中、
は、ポリエチレングリコール(PEG)、デキストラン、好ましくはFcドメインなどの半減期延長ビヒクルであり、
及びXは、−(L−P、−(L−P−(L−P、−(L−P−(L−P−(L−P及び−(L−P−(L−P−(L−P−(L−Pから各々独立に選択され、
、P、P及びPは各々独立に、薬理学的に活性なIL−1拮抗ペプチドの配列であり、
、L、L及びLは各々独立にリンカーであり、
a、b、c、d、e及びfは各々独立に0又は1であり、ただしaとbの少なくとも一方は1である。
【0062】
がFcドメインである上記式の分子は「ペプチボディ」と命名された。ペプチボディは、上記米国特許第6,660,843号に記載のように調製することができる。ペプチボディを含めて、全ビヒクル連結ペプチド分子は、本明細書の意味内のIL−1阻害剤である。
【0063】
可溶性IL−1受容体
「可溶性IL−1受容体分子」とは、可溶性IL−1 RI(sIL−1 RI)、可溶性IL−1 RII(sIL−1 RII)及び可溶性IL−1RAcP(sIL−1RAcP);sIL−1 RI、sIL−1 RII及びIL−1RAcPの断片;「IL−1トラップ」分子、及びヒト血清アルブミン、トランスチレチン又はFcドメインとの融合タンパク質を含めた、sIL−1 RI、sIL−1 RII、sIL−1RAcP及び任意のその断片の融合タンパク質、並びに上記のいずれかの誘導体(例えば、ポリエチレングリコールに連結された可溶性受容体)を指す。可溶性IL−1受容体分子は、その開示を参照により本明細書に組み込む米国特許第5,492,888号、同5,488,032号、同5,464,937号、同5,319,071号及び同5,180,812号に記載されている。
【0064】
IL−1受容体の断片としては、IL−1α及びβと結合し、IL−1活性をインビトロ及びインビボで阻害する、ヒトI型IL−1受容体の残基86−93に対応する合成ポリペプチドが挙げられるが、これだけに限定されない。Tanihara et al.(1992) Biochem. Biophys. Res. Commun. 188:912を参照されたい。
【0065】
IL−1トラップ
IL−1トラップは、参照により本明細書に組み込む米国特許第5,844,099号に基本的に記載されているとおりである。手短に述べると、IL−1トラップは、ヒトサイトカイン受容体細胞外ドメインとヒトIgG1のFc部分とを含む融合タンパク質である。IL−1トラップは、IL−1シグナル伝達に必要な両方の受容体成分、すなわち、IL−1 I型受容体(IL−1RI)とIL−1受容体アクセサリータンパク質(AcP)の細胞外ドメインを単一の分子に取り込んでいる。IL−1トラップは、両方の受容体成分を含むので、IL−1α及びIL−1βとピコモルの親和性で結合する。一方、AcPの非存在下でIL−1RI単体は、約1nMの親和性で結合する。IL−1トラップは、AcP、IL−1RI及びFcの細胞外ドメインをコードする配列を介在リンカー配列なしに直線状に融合することによって作製された。融合タンパク質をコードする発現構築体をチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞に移入し、IL−1トラップを培地に分泌する高産生系を単離する。IL−1トラップは、タンパク質分子量が201kDの2量体糖タンパク質であり、グリコシル化を含めた全分子量が約252kDである。Fc領域中のジスルフィド結合は、2量体を共有結合によって連結する。
【0066】
血管石灰化
本明細書では「血管石灰化」とは、血管における細胞外基質ヒドロキシアパタイト(リン酸カルシウム)結晶沈着物の形成、成長又は沈着を意味する。血管石灰化は、冠動脈、弁、大動脈及び他の血管の石灰化を包含する。この用語は、アテローム硬化型石灰化及び中膜壁石灰化を含む。
【0067】
「アテローム硬化型石灰化」とは、動脈の内膜層に沿った粥状斑において発生する血管石灰化を意味する。
【0068】
本明細書では「中膜石灰化」「中膜壁石灰化」又は「メンケベルク硬化症」とは、動脈の中膜壁におけるカルシウムの存在を特徴とする石灰化を意味する。
【0069】
血管石灰化を阻害することに関連した「阻害すること」とは、細胞外基質ヒドロキシアパタイト結晶沈着物の形成、成長又は沈着を防止する、遅延させる、又は逆転させることを意味するものとする。
【0070】
「治療」又は「治療すること」という用語は、病理学的血管石灰化症状の発達を阻害する、又は逆転させるIL−1阻害剤のある量を、必要な人に投与することを含む。
【0071】
「防止」又は「防止すること」という用語は、臨床的に明らかな血管石灰化障害全体の開始を防止すること、若しくはその進行を防止/遅延させること、又は血管石灰化障害個々の前臨床的に明らかな段階の開始を防止することを含む。この用語は、血管石灰化障害を発生するリスクのあるものの予防処置を含む。
【0072】
「治療有効量」という句は、障害の重症度及び発生頻度の改善目標を達成するIL−1阻害剤量である。障害の重症度の改善としては、血管石灰化の逆転、血管石灰化の進行の減速などが挙げられる。一態様においては、「治療有効量」とは、血清クレアチニンレベルを低下させる、又は血清クレアチニンレベルの増加を防止する、IL−1阻害剤の量を意味する。
【0073】
本明細書では「対象」という用語は、石灰化を示す、又は発症するリスクのある、ヒト又は他のほ乳動物を意味するものとする。かかる個体は、例えば、アテローム性動脈硬化症、狭窄、再狭窄、腎不全、糖尿病、プロテーゼ移植、組織傷害、年齢関連性の血管疾患などの症状に関連した血管石灰化を有し得、又は発症するリスクがあり得る。これらの症状の予後及び臨床の徴候は当分野で公知である。本発明の方法による治療を受ける個体は、例えば、糖尿病、慢性腎疾患、腎不全、腎移植又は腎臓透析に関連した全身的な鉱質の不均衡を有し得る。
【0074】
ヒトアテローム性動脈硬化症、腎不全、高リン酸塩血症、糖尿病、年齢関連性の血管石灰化、及び血管石灰化に関連した他の症状の信頼できる指標である動物モデルは、当分野で公知である。例えば、Yamaguchi et al., Exp. Path.,は、血管壁石灰化の実験モデルを記載している。25: 185−190, 1984。
【0075】
血管石灰化の評価
血管石灰化を検出及び測定する方法は、当分野で周知である。一態様においては、石灰化を測定する方法としては、血管におけるカルシウム−リン沈着の程度を検出及び測定する直接的方法が挙げられる。
【0076】
一態様においては、血管石灰化を測定する直接的方法は、単純レントゲン写真、冠動脈造影法;デジタルサブトラクション蛍光透視を含めた蛍光透視;透視シネ撮影法;従来のらせん電子ビームコンピュータ断層撮影法;血管内超音波検査(IVUS);磁気共鳴画像法;経胸郭及び経食道心エコー法などのインビボ画像処理方法を含む。当業者は、最も一般的には、蛍光透視及びEBCTを用いて、石灰化を非侵襲的に検出する。冠動脈の介入者(interventionalist)は、透視シネ撮影法及びIVUSを用いて、血管形成術前の特定の病変部における石灰化を評価する。
【0077】
一態様においては、血管石灰化は、単純レントゲン写真によって検出することができる。この方法の利点は、フィルムの入手が容易なこと及び低コストであるが、欠点は低感度である。Kelley M. & Newell J. Cardiol Clin. 1:575−595, 1983。
【0078】
別の態様においては、蛍光透視によって冠動脈の石灰化を検出することができる。蛍光透視は、中程度から大型の石灰化を検出することができるが、小型の石灰沈着の検出能力は低い。Loecker et al. J. Am. Coll. Cardiol. 19:1167−1172, 1992。蛍光透視は、入院患者と外来患者の両方の状況で広範に利用可能であり、比較的安価であるが、幾つかの欠点がある。低度から中度の感度にすぎない上に、蛍光透視によるカルシウムの検出は、操作者の技術と経験、及び検討する視野数に依存する。他の重要な要因としては、蛍光透視装置の変動、患者の体型、重層化した解剖構造、及び椎骨、弁輪などの構造における重層化した石灰化などが挙げられる。蛍光透視では、カルシウムの定量が不可能であり、フィルム資料は一般に得られない。
【0079】
更に別の態様においては、従来のコンピュータ断層撮影法(CT)によって血管検出を検出することができる。カルシウムはX線を減衰させるので、コンピュータ断層撮影法(CT)は、血管石灰化の検出感度が極めて高い。従来のCTは、冠動脈石灰化の検出能力が蛍光透視よりも優れていると考えられるが、その制限は走査時間が長いことであり、その結果、モーションアーチファクト、容積平均、呼吸による位置ずれ(breathing misregistration)、及び粥腫量の定量不能が生じる。Wexler et al. Circulation 94:1175−1192, 1996。
【0080】
更に別の態様においては、走査時間が従来のCTよりもかなり短いらせん又はスパイラルコンピュータ断層撮影法によって石灰化を検出することができる。断面の重ね合わせによってもカルシウム検出が改善される。Shemesh等は、らせんCTによる冠動脈カルシウムの画像処理が、血管造影的に重要な冠動脈の閉塞性疾患と比較して、91%の感度及び52%の特異性を有すると報告した。Shemesh et al. Radiology 197:779−783, 1995。しかし、他の予備的データによれば、これらのより短い走査時間でも、特に単一のらせんCTを用いても、石灰沈着は心臓の動きのためにぼやけ、小型の石灰化を見ることができない場合がある。Baskin et al. Circulation 92(suppl I):I−651, 1995。したがって、らせんCTは、石灰化の検出において、蛍光透視及び従来のCTよりも依然として優れている。二重らせんCTスキャナーは、より高い分解能及びより薄いスライス性能のために、冠動脈石灰化の検出において単一らせんスキャナーよりも高感度であると考えられる。Wexler et al.(前掲)。
【0081】
別の態様においては、電子ビームコンピュータ断層撮影法(EBCT)を血管石灰化の検出に使用することができる。EBCTは、標準X線管ではなく、電子銃及び固定タングステン「標的」を用いてX線を発生させるので、走査時間が極めて短い。当初はシネ又は超高速CTと呼ばれたが、最新のスパイラルスキャナーも走査時間が1秒未満であるので、標準CTスキャンから区別するためにEBCTという用語が現在は使用される。冠動脈のカルシウムを検出するために、走査スライス厚さ3mmで100msでEBCT画像が得られる。軸方向の30から40の隣接する走査が、テーブル移動(table incrementation)によって得られる。1回又は2回の連続した別々の息止め中に通常は得られる走査は、心臓の動きの影響を最小限に抑えるために、心電図シグナルによってRR間隔の80%において、拡張期の終端近く、かつ心房収縮前に作動する。画像収集時間が短いと、心臓の収縮に関係するモーションアーチファクトが実質的に排除される。混濁していない冠動脈は、EBCTによって容易に特定される。というのは、動脈周囲の脂肪のCT密度は低いので、冠動脈中の血液と顕著なコントラストを生じ、一方、壁在のカルシウムは、血液よりもCT密度が高いので明白だからである。さらに、スキャナーソフトウェアによって、カルシウム面積及び密度を定量することができる。任意の採点システムが、X線減衰係数、又はハウンスフィールド単位で測定されるCT値、及び石灰化沈着の面積に基づいて考案された。Agatston et al. J. Am. Coll. Cardiol. 15:827−832. 1990。冠動脈のカルシウムのスクリーニング試験は、わずか数秒の走査時間しか必要とせず、10又は15分間以内に終了することができる。電子ビームCTスキャナーは、従来のCTスキャナー又はスパイラルCTスキャナーよりも高価であり、比較的少数の場所で利用可能である。
【0082】
一態様においては、血管内超音波検査(IVUS)を使用して、血管石灰化、特に、冠動脈のアテローム性動脈硬化症を検出することができる。Waller et al. Circulation 85:2305−2310, 1992。カテーテル先端に取り付けられた回転反射鏡を備えた変換器を用いることによって、心臓のカテーテル処置中の冠動脈の断面画像を得ることができる。ソノグラムは、動脈の内腔だけでなく、動脈壁の厚さ及び組織特性についての情報も提供する。石灰化は、シャドウイングによって高エコー域として見られる。線維性の非石灰化粥腫は、シャドウイングなしで高エコー域として見られる。Honye et al. Trends Cardiovasc Med. 1:305−311. 1991。他の画像処理様式に対して、IVUSの使用上の欠点は、IVUSが侵襲的であり、選択的冠動脈造影法と併せてのみ現在は実施され、樹状冠動脈(coronary tree)の限られた部分しか可視化しないことである。侵襲的ではあるが、この技術は、臨床的に重要である。というのは、冠動脈造影図で正常所見の患者においてアテローム硬化の関与を示すことができ、バルーン血管形成術及び粥腫切除装置の選択の前に、狭窄病変部の形態学的特性を規定するのに役立つからである。Tuzcu et al. J. Am. Coll. Cardiol. 27:832−838, 1996。
【0083】
別の態様においては、血管石灰化を磁気共鳴画像法(MRI)によって測定することができる。しかし、MRIの冠動脈石灰化検出能力にはある程度限界がある。微小石灰化は、多量の軟部組織を含むボクセルの信号強度を実質的に変えないので、かかるカルシウム収集物の正味のコントラストは低い。したがって、少量の石灰化をMRIで検出することは困難であり、冠動脈石灰化の検出において、MRIに関する報告はなく、その予想される役割もない。Wexler et al.(前掲)。
【0084】
別の態様においては、血管石灰化を経胸郭(表面)心エコー法によって測定することができる。経胸郭(表面)心エコー法は、特に僧帽弁及び大動脈弁の石灰化の検出に感度が高い。しかし、冠動脈の可視化は、利用可能な外部音響窓が限られているのでまれにしか記述されない。経食道心エコー法は、近位の冠動脈を可視化できることが多い、広範に利用可能な方法である。Koh et al. Int. J. Cardiol. 43:202−206, 1994。Fernandes et al. Circulation 88:2532−2540, 1993。
【0085】
別の態様においては、血管石灰化をVan Kossa法によって生体外で評価することができる。この方法は、電気化学列におけるそれぞれの順位のために、銀イオンを炭酸イオン又はリン酸イオンによって溶液から追い出すことができるという原理に依拠する。銀親和反応は、本質的に光化学的であり、活性化エネルギーは強力な可視光又は紫外線から供給される。組織の炭酸イオン又はリン酸イオンの実証し得る形態は、カルシウムイオンと常に結合しているので、この方法は、組織のカルシウム沈着部位を実証するものとみなすことができる。
【0086】
石灰化を直接測定する他の方法としては、蛍光免疫染色及び濃度測定が挙げられるが、これらだけに限定されない。別の態様においては、血管石灰化を評価する方法としては、血管石灰化の決定要因及び/又は危険因子を測定する方法が挙げられる。かかる要因としては、リン、カルシウム及びカルシウム×リンの積、副甲状腺ホルモン(PTH)、低比重リポタンパクコレステロール(LDL)、高比重リポタンパクコレステロール(HDL)、トリグリセリド並びにクレアチニンの各血清レベルが挙げられるが、これらだけに限定されない。これらの要因を測定する方法は当分野で周知である。血管石灰化を評価する他の方法としては、骨形成要因の評価が挙げられる。かかる要因としては、骨特異的アルカリホスファターゼ(BSAP)、オステオカルシン(OC)、I型コラーゲンのカルボキシ末端プロペプチド(PICP)、I型コラーゲンのアミノ末端プロペプチド(PINP)などの骨形成マーカー;I型コラーゲンの架橋C−テロペプチド(ICTP)、酒石酸抵抗性酸性ホスファターゼ、TRACP及びTRAP5B、コラーゲン架橋のN−テロペプチド(NTx)、コラーゲン架橋のC−テロペプチド(CTx)などの血清骨吸収マーカー;ヒドロキシプロリン、遊離及び総ピリジノリン(Pyd)、遊離及び総デオキシピリジノリン(Dpd)、コラーゲン架橋のN−テロペプチド(NTx)、コラーゲン架橋のC−テロペプチド(CTx)などの尿骨吸収マーカーなどが挙げられる。
【0087】
治療方法
一態様においては、本発明は、個体における血管石灰化を阻害、抑制又は防止する方法を提供する。この方法は、本発明のIL−1阻害剤の治療有効量を個体に投与することを含む。一態様においては、本発明の化合物の投与は、細胞外基質ヒドロキシアパタイト結晶沈着物の形成、成長又は沈着を遅延させ、又は逆転する。本発明の別の態様においては、本発明の化合物の投与は、細胞外基質ヒドロキシアパタイト結晶沈着物の形成、成長又は沈着を防止する。
【0088】
本発明の方法を使用して、アテローム硬化型石灰化及び中膜石灰化、並びに血管石灰化を特徴とする他の症状を防止又は治療することができる。一態様においては、血管石灰化は、慢性腎不全又は末期腎不全を伴い得る。別の態様においては、血管石灰化は、透析前若しくは透析後又は尿毒症を伴い得る。更に別の態様においては、血管石灰化は、I又はII型真性糖尿病を伴い得る。更に別の態様においては、血管石灰化は、心血管障害を伴い得る。
【0089】
一態様においては、IL−1阻害剤の有効量を投与すると、大動脈石灰化を起こさずに血清PTHを低下させることができる。別の態様においては、IL−1阻害剤を投与すると、血清クレアチニンレベルを低下させることができ、又は血清クレアチニンレベルの増加を防止することができる。別の態様においては、IL−1阻害剤を投与すると、副甲状腺(PT)の肥厚化を減衰させることができる。
【0090】
併用療法の一態様においては、本発明のIL−1阻害剤は、カルシウム様物質(calcimimetics)、ビタミンD及び(カルシトリオール、アルファカルシドール、ドキセルカルシフェロール、マキサカルシトール、パリカルシトールなどのビタミンDステロールを含めた)その類似体などのビタミン及びその類似体、抗生物質、炭酸ランタン、LIPITOR(登録商標)などの高脂血症治療薬、降圧薬、(ステロイド性及び非ステロイド性)抗炎症薬、炎症誘発性サイトカイン阻害剤(ENBREL(登録商標)、KINERET(登録商標))、並びに心血管作動薬と一緒に使用することができる。ビタミンDステロール及び/又はRENAGEL(登録商標)。一態様においては、本発明の組成物は、カルシウム様物質、ビタミンDステロール及び/又はRENAGEL(登録商標)の投与前に、投与と同時に、又は投与後に投与することができる。本発明の併用療法によって症状を治療する投与計画は、患者のタイプ、年齢、体重、性別及び健康状態、疾患の重症度、投与経路、並びに使用する特定の化合物を含めて、種々の要因に応じて選択され、したがって広範に変わり得る。
【0091】
本発明によれば、IL−1阻害剤は、単独で投与することができ、又はビタミンDステロール及び/又はRENAGEL(登録商標)などの血管石灰化を治療する他の薬物と組み合わせて投与することができる。ビタミンDステロールとしては、カルシトリオール、アルファカルシドール、ドキセルカルシフェロール、マキサカルシトール、パリカルシトールなどが挙げられる。一態様においては、IL−1阻害剤は、ビタミンDステロールの投与前又は投与後に投与することができる。別の態様においては、IL−1阻害剤は、ビタミンDステロールと同時投与することができる。本発明の方法を実施して、血管組織に対するカルシトリオールの鉱化作用を減弱させることができる。一態様においては、本発明の方法を使用して、カルシウム、リン及びCa×P積の血清レベルを増加させるカルシトリオールの作用を逆転し、それによって血管石灰化を防止又は阻害することができる。別の態様においては、本発明の方法を使用して、血清クレアチニンレベルを安定化又は低下させることができる。一態様においては、疾患によるクレアチニンレベル増加に加えて、クレアチニンレベルの更なる増加は、カルシトリオールなどのビタミンDステロール治療によるものであり得る。
【0092】
また、外科的及び非外科的治療と併せて、IL−1阻害剤を投与することができる。一態様においては、本発明の方法を透析と一緒に差止(injunction)において実施することができる。
【0093】
以下の実施例は、本発明をより詳細に説明するためのものであって、その範囲を限定するものと解釈すべきではない。
【実施例1】
【0094】
ラットにおいてアデニンによって誘発される二次性副甲状腺機能亢進症(SHPT)及び石灰化、並びにFc−IL−1raによる大動脈石灰化の防止
この実験は、図1に示すプロトコルを使用した。
【0095】
栄養補助食品として含まれるアデニン(0.75%)を成体の雄性スプレーグドーリーラットに給餌した。化学的性質の分析(総血清カルシウム、亜リン酸、血中尿素窒素[BUN]、クレアチニン、PTH)用血液を、薬物療法前、薬物療法0日(前処置)及び21日目に麻酔下のラットの眼か後方の洞から採取した。PTHレベル用血液(0.5ml)をSST(凝固活性化剤)ブランドの血液管に採取し、凝固させた。血清を除去し、評価するまで−70℃で保存した。ラットPTH(1−34)免疫放射線測定キット(Immutopics、San Clemente、CA)を用いて、供給業者の指示に従って、PTHレベルを定量した。カルシウム及び亜リン酸を血液化学分析計(AU 400; Olympus、Melville、NY)によって測定した。
【0096】
固定された(ホルマリン、PBS)摘出大動脈からDxaスキャナー(Piximus densitomer、GE Healthcare)を用いて骨塩量を定量することによって、血管石灰化を評価した。
【0097】
このモデルにおいては、食餌中のアデニンによって誘発されるCKD/SHPTは、かなりの腎機能障害(高BUN、クレアチニン)及び大動脈石灰化をもたらす。Fc−IL−1raは、このモデルにおいて大動脈石灰化(大動脈の低骨塩量)の発生を防止したが(図2)、BUN、クレアチニンレベルには影響を及ぼさなかった。また、Fc−IL−1raは、このモデルにおいて副甲状腺サイズを減少させ(図3A)、血清PTHレベルを低下させた(図3B)。
【実施例2】
【0098】
ビタミンDによって誘発された血管石灰化に対するIL−1raの効果
この実験に用いたプロトコルは以下のように要約することができる。
【0099】
PILOT:血管石灰化に対するIL−1raの効果。
【0100】
ビタミンD 100ng×3週間±IL−1Ra(皮下)→VC用大動脈
雌性Lewisラット250g(ポンプ移植)
Sigma−Aldrich, Corp(St.Louis、MO)製1α,25−ジヒドロキシコレカルシフェロールとして供給されたビタミンDを90%エタノールに溶解させて、1mM原液を調製し、リン酸緩衝食塩水(PBS)で最終希釈するまで−20℃で保存した。ビタミンD(0.1μg、PBS 0.2mlの投与量)を皮下(s.c.)注射によって投与した。
【0101】
IL−1ra
投与量 5mg/kg/h SC注入
終点:Von Kossa
群(n=6/群)
1.ビタミンD 100ng
2. ビタミンD 100ng+IL1−Ra(5mg/kg/h SC)
3. ビタミンD 100ng+ビヒクル(ポンプ)
4. ビヒクル(n=2)
21日間の処置
屠殺:von Kossa染色用に大動脈を切除
【実施例3】
【0102】
ビタミンDによって誘発された血管石灰化に対するFc−IL−1raの効果
この実験に用いたプロトコルは以下のように要約することができる。
【0103】
PILOT:血管石灰化に対するFc IL−1raの効果。
【0104】
ビタミンD 100ng×3週間±Fc IL−1Ra(皮下)→VC用大動脈
雌性Lewisラット250g及び/又は雄性SDラット(250g)
Sigma−Aldrich, Corp(D−1530 −.1mg、St.Louis、MO)製1α,25−ジヒドロキシコレカルシフェロールとして供給されたビタミンDを90%エタノールに溶解させて、1mM原液を調製し、リン酸緩衝食塩水(PBS)で最終希釈するまで−20℃で保存した。ビタミンD(0.1μg、PBS 0.2mlの投与量)を皮下(s.c.)注射によって投与した。
【0105】
Fc IL−1ra
投与量100mg/kg SC/日
終点:Von Kossa
群(n=6/群)
1. ビタミンD 100ng
2. ビタミンD 100ng+Fc IL1−Ra(100mg/kg/d SC)
3. ビタミンD 100ng+ビヒクル(ポンプ)
4. ビヒクル(n=2)
21日間の処置
屠殺:von Kossa染色用に大動脈を切除
【実施例4】
【0106】
IL−1ra−Fc(IL−1阻害剤)を用いた、カルシトリオール(ビタミンD3)によって誘発された大動脈石灰化の抑制
IL−1受容体拮抗物質Fc−IL−1ra、カルシトリオール、Fc−IL−1ra+カルシトリオールの組合せ)又はその対応するビヒクルを、部分的腎摘出(5/6Nx)によって誘発された慢性腎疾患(CKD)及び二次性副甲状腺機能亢進症(SHPT)のげっ歯類動物モデルに投与した。実験概念図を図5に示す。投与群を下記表2に示す。
【0107】
【表2】

【0108】
大動脈を処置第4週(trt wk4)に切除し、固定し、染色した。処置の内容を知らない病理医が、無機化(Von Kossa)及び重症度を決定し、採点した(石灰化スコア:0=石灰化なし、1=最小、2=軽度、3=中度、4=顕著、5=重度)。
【0109】
(部分的(5/6)腎摘出によって誘発された)二次性副甲状腺機能亢進症に伴う定着した慢性腎疾患のげっ歯類動物モデルに全身投与されたFc−IL−1raは、血管石灰化を起こさなかったのに対して、カルシトリオールは、顕著から重度の大動脈石灰化を起こした。処置開始前の8週間で尿毒症が確立されたモデルにおいて、Fc−IL−1raは、カルシトリオール(ビタミンD3)によって誘発された大動脈石灰化を減衰させた(図6)。また、カルシトリオールで処置した尿毒症対象における重度の石灰化の発生率(4/8又は50%)は、Fc−IL−1raと組み合わせてカルシトリオールを投与した動物において減少した(1/8又は12.5%)。
【0110】
上記明細書は多数の定義を含む。これらの定義は、特に限定しない限り、本明細書を通して使用する用語に当てはまる。定義は、各用語の複数形及び単数形に等しく当てはまる。
【0111】
本明細書に引用する全刊行物、特許及び特許出願を、個々の刊行物又は特許出願が参照により本明細書に組み込まれるように具体的かつ個別に示されたごとく、参照により本明細書に組み込まれる。
【0112】
上記発明を、明瞭に理解できるように図示及び実施例によってある程度詳細に記述したが、添付した特許請求の範囲の精神又は範囲から逸脱することなく、ある変更及び改変がなされ得ることは、本発明の教示に照らして当業者には容易に明らかとなる。
【図面の簡単な説明】
【0113】
【図1】慢性腎疾患(CKD)及び二次性副甲状腺機能亢進症(SHPT)のアデニンモデルの実験概念図である。
【図2】CKDの動物モデルにおけるFC−IL−1raを用いた大動脈血管石灰化の防止を示すグラフである。図2のアステリスクは、試験条件下で(p=0.005;独立t検定;対照(A5S)ビヒクル(赤;n=4);Fc−IL−1ra(青の陰影付き、n=7))、Fc−IL−1raで処理した7匹の動物のうち7匹で石灰化が起こらなかった(骨塩量0g/cm2)ことを示す。
【図3】CKD/SHPTの動物モデルにおけるFc−IL−1raによる副甲状腺サイズ(A)及び血清PTH(B)の減少を示すグラフである。図3Aにおいて、アステリスク(*)は、A5Sビヒクル対照とFc−IL−1raの副甲状腺野生型/体野生型を示す;p=0.009;独立t検定;対照(ビヒクル、A5S)、赤;n=8);Fc−IL−1ra、(青、n=13)。図3Bにおいて、ポンド記号(#)は、A5Sビヒクル対照とFc−IL−1raの血清PTHを示す;p=0.028;独立t検定;対照(ビヒクル、A5S)、赤;n=4);Fc−IL−1ra、(青、n=7)。
【図4】本明細書でFc−IL−1raと称する分子のアミノ酸配列(配列番号1)を示す図である。
【図5】CKD及び二次性HPTの5/6腎摘出モデルの実験概念図である。
【図6】Fc−IL−1raで処理した尿毒症ラットにおいて、カルシトリオールによって誘発された大動脈石灰化の減衰を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象における血管石灰化を阻害、抑制又は防止する医薬品の製造のためのIL−1阻害剤の使用。
【請求項2】
対象が慢性腎不全に罹患している、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
対象が末期腎不全に罹患している、請求項1に記載の使用。
【請求項4】
対象が透析前である、請求項1に記載の使用。
【請求項5】
対象が尿毒症に罹患している、請求項1に記載の使用。
【請求項6】
対象がI又はII型真性糖尿病に罹患している、請求項1に記載の使用。
【請求項7】
対象が心血管障害を有する、請求項1に記載の使用。
【請求項8】
IL−1阻害剤が、アナキンラである、又はアナキンラの配列を含む、請求項1に記載の使用。
【請求項9】
IL−1阻害剤がIL−1RI抗体である、請求項1に記載の使用。
【請求項10】
IL−1阻害剤がカルシウム様化合物と組み合わせて投与される、請求項1に記載の使用。
【請求項11】
IL−1阻害剤がシナカルセットHCLと組み合わせて投与される、請求項1に記載の使用。
【請求項12】
IL−1阻害剤が、ビタミンDステロールと組み合わせて投与される、請求項1に記載の使用。
【請求項13】
IL−1阻害剤がRENAGEL(登録商標)と組み合わせて投与される、請求項1に記載の使用。
【請求項14】
対象の血清クレアチニンレベルを低下させる医薬品の製造におけるIL−1阻害剤の使用。
【請求項15】
対象が、対象へのビタミンDステロールの投与によって誘発される高い血清クレアチニンレベルを有する、請求項14に記載の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2009−512710(P2009−512710A)
【公表日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−536836(P2008−536836)
【出願日】平成18年10月20日(2006.10.20)
【国際出願番号】PCT/US2006/041113
【国際公開番号】WO2007/047969
【国際公開日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【出願人】(500049716)アムジエン・インコーポレーテツド (242)
【Fターム(参考)】