説明

ITOスパッタリングターゲットおよびその製造方法

【解決手段】走査型電子顕微鏡を用いて倍率1000倍で観察して得られた組織画像の中から任意に20μm×20μmの領域を30個選択し、波長分散型電子線マイクロアナライザーにて各領域におけるInおよびSnの質量組成(質量%)を分析し、Sn/(In+Sn)比を求め、この比から換算して得られた30個のSnO2組成の平均である平均
組成xと、前記30個のSnO2組成の標準偏差σとが、2≦x/σ≦6の関係を満足す
ることを特徴とするITOスパッタリングターゲット。
【効果】本発明のITOスパッタリングターゲットは、圧縮強さが大きく、高パワーを負荷してスパッタリングを行っても割れが発生することが少なく、アーキングおよびノジュールの発生も抑制することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ITOスパッタリングターゲットおよびその製造方法に関し、さらに詳しくは、SnO2組成の分布に適度なバラツキがあり、スパッタリング時に割れやアーキング
の発生のすくないITOスパッタリングターゲットおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ITO(Indium-Tin-Oxide)膜は高い透過性と電気伝導性を有することから、フラットパネルディスプレイの透明電極等に利用されている。このITO膜の形成は、ITOスパッタリングターゲットをスパッタリングすることにより行われる。スパッタリング時には、高レートを得るためにスパッタリングターゲットに高パワーが負荷されるので、ITOスパッタリングターゲットのようなセラミックスターゲットにおいては、割れが生じやすい。タッチパネル用のITO膜の製造においては、3質量%前後のSnO2を含有して
いるITOスパッタリングターゲットが使用されており、このような濃度のSnO2を含
有しているITOスパッタリングターゲットにおいては、上記の割れが特に起こりやすいことが知られている。このため、3質量%前後のSnO2を含有しているITOスパッタ
リングターゲットにおいては、割れの発生を防止することが特に重要視されている。
【0003】
また、ITOスパッタリングターゲットにおいては、成膜の歩留まりを良くするために、スパッタリング時におけるアーキングやノジュールの発生を低減あるいは防止することも重要視されている。
【0004】
従来、このようなITOスパッタリングターゲットの割れ、アーキングおよびノジュールの発生等を防止するために、ターゲット中におけるSnO2の分布のバラツキを小さく
することや、ターゲットの密度を99%以上に上げることなどが提案されてきた。
【0005】
特開平7−166341号公報には、スズ量が2〜6wt%に調整された平均粒径0.1μm以下の酸化インジウム−酸化スズ複合粉末を焼結して得られる、相対密度が90%以上で、InO2相以外のSnO2相および中間化合物相がほとんど存在しない単相構造を有するインジウム・スズ酸化物膜用スパッタリング用ターゲットが開示されている。
【0006】
特開平4−51409号公報には、SnO2の平均組成が4〜12重量%であり、スズ
組成が平均組成の0.8〜1.2倍の範囲内にある、スズ組成の分布のバラツキが小さいITO焼結体が開示されている。
【0007】
特開平8−67517号公報には、酸化物粒子の平均粒度が2〜20μmであり且つ密度が理論密度の95%以上であるインジウム−スズ酸化物からなり、少なくとも97重量%の該酸化物粒子が混晶としてインジウム酸化物の結晶格子中に存在する、インジウム及びスズの特に均一且つ均質な分布が保証された焼結体が開示されている。
【0008】
特開2001−58822号公報には、インジウムとスズを溶解した酸性溶液に重炭酸アンモニウム溶液を加えることにより生成したインジウムとスズの共沈水酸化物を不活性ガス中で共沈水酸化物を焼成することによって得られた、スズの分散性のよいスズドープ酸化インジウム粉末が開示されている。
【0009】
特開平7−145478号公報には、酸化インジウム粉90重量%と酸化スズ粉10重量%とを混合した混合粉を焼結して得られた、粒径10μm以下のSnリッチ相が焼結体中に均一に分散存在しているITO焼結体からなるITOスパッタリングターゲットが開
示されている。
【0010】
しかし、これら従来の技術では、割れ、アーキングおよびノジュールの発生等を実用上十分に抑制することのできるITOスパッタリングターゲットを得ることができていないのが実情であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平7−166341号公報
【特許文献2】特開平4−51409号公報
【特許文献3】特開平8−67517号公報
【特許文献4】特開2001−58822号公報
【特許文献5】特開平7−145478号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、スパッタリング時の割れ、アーキングおよびノジュールの発生を抑制することのできるITOスパッタリングターゲット、およびその効率的な製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、前記目的を達成するために鋭意研究した結果、ITOスパッタリングターゲットにおいてスズの分散性や密度を過度に高めると、かえってターゲットの割れがおきやすく、アーキングも発生しやすくなるという知見を得た。本発明は、この知見に基づき完成されたものである。
【0014】
すなわち本発明は、走査型電子顕微鏡を用いて倍率1000倍で観察して得られた組織画像の中から任意に20μm×20μmの領域を30個選択し、波長分散型電子線マイクロアナライザーにて各領域におけるInおよびSnの質量組成(質量%)を分析し、Sn/(In+Sn)比を求め、この比から換算して得られた30個のSnO2組成の平均で
ある平均組成xと、
前記30個のSnO2組成の標準偏差σとが、
2≦x/σ≦6
の関係を満足することを特徴とするITOスパッタリングターゲットである。
【0015】
前記ITOスパッタリングターゲットの好適な態様として、
SnO2の平均組成xが1〜5質量%であり、
相対密度が95%以上であり、
圧縮強さが1000〜1600MPaであり、
走査型電子顕微鏡を用いて倍率3000倍で観察して得られた組織画像に現れる結晶粒の粒径が5〜35μmであり、
走査型電子顕微鏡を用いて倍率3000倍で観察して得られた組織画像に現れる、微細粒子を含んだ結晶粒の面積に対する、該結晶粒中に含まれる微細粒子の総面積の比率の平均が7〜30%である。
【0016】
他の発明は、In23粉末および SnO2粉末の混合粉末を1250〜1400℃で焼成して得られる合成原料の粉末を含有する焼成用粉末を焼成することを特徴とする前記ITOスパッタリングターゲットの製造方法である。
【0017】
前記製造方法の好適な態様として、
前記合成原料が、In4Sn312として存在するSnを含有し、
前記焼成用粉末がIn23粉末、またはIn23粉末およびSnO2粉末を含有し、
前記焼成用粉末が前記合成原料の粉末を5〜50質量%含有する。
【発明の効果】
【0018】
本発明のITOスパッタリングターゲットは、圧縮強さが大きく、高パワーを負荷してスパッタリングを行っても割れが発生することが少なく、アーキングおよびノジュールの発生も抑制することができる。ITOスパッタリングターゲットの製造方法によれば、前記ITOスパッタリングターゲットを効率的に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1は、本発明のITOスパッタリングターゲットの一具体例を、走査型電子顕微鏡を用いて倍率3000倍で観察したときに得られた組織画像である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
<ITOスパッタリングターゲット>
本発明に係るITOスパッタリングターゲットは、
走査型電子顕微鏡を用いて倍率1000倍で観察して得られた組織画像の中から任意に20μm×20μmの領域を30個選択し、波長分散型電子線マイクロアナライザーにて各領域におけるInおよびSnの質量組成(質量%)を分析し、Sn/(In+Sn)比を求め、この比から換算して得られた30個のSnO2組成の平均であるSnO2組成の平均組成xと、
前記30個のSnO2組成の標準偏差σとが、
2≦x/σ≦6
の関係を満足することを特徴とする。
【0021】
本発明において平均組成xおよび標準偏差σは、以下のようにして求められる。
【0022】
本ITOスパッタリングターゲットを、走査型電子顕微鏡を用いて倍率1000倍で観察して写真撮影を行い、たとえば約100μm×130μmの組織画像を得る。この組織画像の中で、視野を変えて任意に20μm×20μmの領域を、相互に重ならないように30個規定する。この30個の領域それぞれに対して、波長分散型電子線マイクロアナライザーを用いてInおよびSnの質量組成(質量%)を分析し、Sn/(In+Sn)比を求める。この比をSnO2組成に換算する。すなわち、この比に1.2696(SnO2の分子量/Snの原子量=150.6888/118.69)を乗じてSnO2組成とする。
【0023】
この30個のそれぞれの領域におけるSnO2組成をx1、x2、・・・、x30とすると
、平均組成xは次式により求められる。
【0024】
【数1】

【0025】
また、標準偏差σは次式により求められる。
【0026】
【数2】

【0027】
x/σは、ターゲット中におけるSnO2組成の高低に依存しない、SnO2組成の分布
のバラツキを示す指標であって、x/σの数値が大きいほど、ターゲット中におけるSnO2組成の分布のバラツキが小さい、つまりSnO2が均一に分散していることを意味し、x/σの数値が小さいほど、ターゲット中におけるSnO2組成の分布のバラツキが大き
い、つまりSnO2の分散状態が悪いことを意味する。
【0028】
本発明のITOスパッタリングターゲットにおいては、2≦x/σ≦6である。本発明のITOスパッタリングターゲットは、x/σがこのように特定の数値範囲をとることにより、つまり数十〜数百μmの組織範囲におけるSnO2組成の分布が適当な範囲のバラ
ツキを有することにより、高パワーを負荷してスパッタリングを行っても割れが発生することが少なく、またアーキングおよびノジュールの発生頻度も少ないという効果を有する。本発明のITOスパッタリングターゲットにおけるx/σの範囲としては、より好ましくは2.5≦x/σ≦5.6であり、さらに好ましくは3.0≦x/σ≦5.0である。
【0029】
ITOスパッタリングターゲットにおいて、SnO2組成の分布がある程度のバラツキ
を有することにより割れの発生が抑制される理由は明らかではないが、SnO2組成の分
布のバラツキが大きい場合には、SnO2組成の高い部分はIn4Sn312のような硬質
な組成を有していると考えられ、ターゲット組織を構成している結晶粒間に亀裂が生じても、その亀裂が硬いSnO2組成の高い部分に到達することによりその亀裂の進行が止ま
り、その結果ターゲットの割れが阻止されるものと考えられる。一方、SnO2組成の分
布のバラツキが小さい場合には、SnO2組成の高い部分が存在しないか、あっても少な
いため、一旦結晶粒間に亀裂が発生するとその亀裂の進行が止まらず、その結果ターゲットの割れに至るものと考えられる。
【0030】
このようにSnO2組成の分布のバラツキは大きい方が割れの発生防止には有効である
と考えられるが、バラツキが大きすぎるとアーキングが発生しやすくなるので好ましくない。このため、割れ、アーキングおよびノジュールの発生を有効に抑制できる好適なバラツキの程度として2≦x/σ≦6という範囲が決定される。
【0031】
本発明のITOスパッタリングターゲットは、SnO2の平均組成xが1〜5質量%で
ある場合に特に有用である。このような低スズ含有量のITOスパッタリングターゲットにおいては、割れが特に起こりやすく、SnO2組成の分布のバラツキを上記の範囲に設
定することにより、この割れの発生を効果的に防止することができる。SnO2の平均組
成xが5質量%を超えると、平均組成xが1〜5質量%の場合よりも、ターゲットの割れが生じにくい。これは、SnO2の平均組成xが5質量%を超えると、SnO2が固溶しきれなくなって、結晶粒間にSnがリッチな相が現れて(特開平7−145478号公報参照)、結晶粒間に生じた亀裂の進行がこのSnリッチ相により阻止されるためであると考えられる。このため、平均組成xが1〜5質量%の場合は、SnO2の平均組成xが5質
量%より大きい場合よりも、上記のSnO2組成の分布のバラツキを考慮する必要性が大
きい。
【0032】
本発明のITOスパッタリングターゲットは、上記のようにSnO2組成の分布が適度
なバラツキを有することにより圧縮強さが大きく、パワー割れが発生することが少ない。本発明のITOスパッタリングターゲットの圧縮強さとしては、好ましくは1000〜1600MPaであり、より好ましくは1100〜1600MPaであり、さらに好ましくは
1200〜1600MPaである。
【0033】
本発明のITOスパッタリングターゲットは、相対密度が好ましくは95%以上であり、より好ましくは97%以上であり、さらに好ましくは98%以上である。前記相対密度の上限値については特に限定されないが、通常100%以下である。上記相対密度を有す
るターゲット、いわゆる高密度のターゲットであると、該ターゲットをスパッタリングしたときの熱衝撃や温度差などに起因するターゲットの割れが生じにくく、ターゲット厚を無駄なく有効に活用することができる。また、パーティクルおよびアーキングの発生を有効に低減することができ、スパッタリング速度を向上させることもできる。なお、前記相対密度は、焼結後のスパッタリングターゲットについてアルキメデス法に基づき測定した値である。
【0034】
図1に、後述の製造方法で原料粉末として合成原料粉末およびIn23粉末を用いて製造された本発明のITOスパッタリングターゲットの一具体例を、走査型電子顕微鏡を用いて倍率3000倍で観察したときに得られる組織画像を示す。この組織画像において粒界線によって区画された多角形状の領域が結晶粒を表す。
【0035】
本発明のITOスパッタリングターゲットにおいては、走査型電子顕微鏡を用いて倍率3000倍で観察して得られた約33μm×43μmの組織画像に現れる結晶粒の平均粒径が5〜35μmであることが好ましい。
【0036】
ここで結晶粒の粒径は、前記組織画像上で水平フェレ径として求められる。水平フェレ径は、上記走査型電子顕微鏡観察における粒子解析により求められる値である。結晶粒の平均粒径すなわち水平フェレ径の平均値は、倍率3000倍で走査型電子顕微鏡観察したときの約33μm×43μm視野内において、結晶粒をランダムに20個抽出し、それぞれの結晶粒について求めた水平フィレ径の値を平均したものである。
【0037】
前記結晶粒の平均粒径が5〜35μmであると、 SnO2組成のバラツキが好適な範
囲内になるので好ましい。平均粒径が5μmより小さいとSnO2組成のバラツキが小さ
くなりすぎ、平均粒径が35μmより大きいとSnO2組成のバラツキが大きくなりすぎ
る傾向がある。前記結晶粒の平均粒径としては、より好ましくは5〜15μmであり、さらに好ましくは7〜14μmである。
【0038】
図1に示した組織画像には、白く点状に表される微細粒子を含んだ結晶粒と、微細粒子を含まない結晶粒とが存在する。微細粒子を含んだ結晶粒は、後述する理由により、合成原料の粉末由来の結晶粒であり、微細粒子を含まない結晶粒はIn23粉末由来の結晶粒であると考えられる。また微細粒子は、In4Sn312またはSnO2であると考えられ
る。
【0039】
本発明のITOスパッタリングターゲットにおいては、走査型電子顕微鏡を用いて倍率3000倍で観察して得られた約33μm×43μmの組織画像に現れる、微細粒子を含んだ結晶粒の面積に対する、該結晶粒中に含まれる微細粒子の総面積の比率の平均(以下、面積率という)が7〜30%であることが好ましい。前記面積率が7〜30%であると、微細粒子を含む結晶粒中のSnO2組成が高くなり、SnO2組成のバラツキが好適な範囲になりやすい。前記面積率が7%より小さいとSnO2組成のバラツキが小さくなりす
ぎ、前記面積率が30%より大きいとSnO2組成のバラツキが大きくなりすぎる傾向が
ある。前記面積率としては、より好ましくは8〜28%であり、さらに好ましくは10〜25%である。
【0040】
前記面積率の求め方については、実施例において詳述した。
【0041】
本発明のITOスパッタリングターゲットを製造する方法には特に制限はないが、以下の製造方法によれば、本発明のITOスパッタリングターゲットを効率的に製造することができる。
<ITOスパッタリングターゲットの製造方法>
本発明のITOスパッタリングターゲットの製造方法は、In23粉末および SnO2粉末の混合粉末を1250〜1400℃で焼成して得られる合成原料の粉末を含有する焼成用粉末を焼成することを特徴とする。この製造方法においては、通常、前記合成原料粉末および他の原料粉末を含有した前記焼成用粉末に必要によりバインダーを加えて圧縮成形し、得られた成形体を必要に応じて脱脂した後、該成形体を焼成して得られた焼結体を適宜加工してITOスパッタリングターゲットを製造する。
【0042】
原料粉末であるIn23粉末としては、通常BET(Brunauer-Emmett-Teller)法で測定した平均粒径が0.08〜0.3μmであるIn23粉末が使用される。原料粉末であるSnO2粉末としては、通常BET法で測定した平均粒径が0.1〜0.5μmであるS
nO2粉末が使用される。なお平均粒径Dは、BET法により求められた比表面積をS、
比重をdとしたとき、D=6/d・Sにより求められる。
【0043】
混合粉末は、In23粉末とSnO2粉末とを混合することにより得られる。混合粉末
におけるSnO2粉末の含有比率としては、好ましくは3〜20質量%、より好ましくは
5〜15質量%、さらに好ましくは7〜12質量%である。このような含有比率であると、SnO2組成が1〜5質量%のITOスパッタリングターゲットを製造する際、焼成用
粉末中の合成原料の配合割合を少なくすることができ、その結果SnO2組成のバラツキ
を大きくすることができる点で好ましい。混合方法には特に制限はなく、例えばポットに入れて、ボールミル混合により行うことができる。
【0044】
合成原料は、混合粉末を1250〜1400℃で焼成して得られる。この焼成により得られた合成原料は、In4Sn312として存在するSnを含有する。焼成温度が1250℃より低いとIn4Sn312が十分には生成されず、1400℃より高いと焼成により得られた合成原料を粉砕することが困難になる。焼成温度としては、より好ましくは1250〜1380℃であり、さらに好ましくは1250〜1350℃である。
【0045】
合成原料は、例えば圧縮粉砕および乳鉢による粉砕により粉砕され、合成原料粉末とされる。この合成原料粉末のBET法による平均粒径としては、好ましくは0.1〜0.8μm、より好ましくは0.1〜0.5μmである。合成原料粉末の平均粒径がこの範囲内であると、SnO2組成のバラツキが好適な範囲内にあり、かつ高密度の焼結体を得やす
くなる。
【0046】
焼成用粉末は、合成原料粉末を含有する。焼成用粉末は、通常、合成原料粉末の他に、原料粉末としてIn23粉末、またはIn23粉末および SnO2粉末を含有する。焼成用粉末における合成原料粉末の含有割合は、好ましくは5〜50質量%であり、より好ましくは10〜30質量%であり、さらに好ましくは15〜25質量%である。焼成用粉末における合成原料粉末の含有割合がこの範囲内であると、面積率が7〜30%の範囲内にあり、SnO2組成のバラツキが好適な範囲内にある焼結体を得やすくなる。
【0047】
焼成用粉末に含有されるIn23粉末としては、通常BET法で測定した平均粒径が0.08〜0.3μm、好ましくは0.1〜0.2μmであるIn23粉末が使用される。焼成用粉末に含有されるSnO2粉末としては、通常BET法で測定した平均粒径が0.
1〜0.5μm、好ましくは0.1〜0.2μmであるSnO2粉末が使用される。焼成
用粉末に含有されるIn23粉末およびSnO2粉末の平均粒径が前記範囲内であると、
結晶粒の粒径が5〜35μmであり、SnO2組成のバラツキが好適な範囲内にある焼結
体を得やすくなる。焼成用粉末に含有されるIn23粉末および SnO2粉末はそれぞれ、合成原料の調製に使用されたIn23粉末および SnO2粉末と同じ粉末であってもよく、異なる粉末であってもよい。
【0048】
焼成用粉末におけるIn23粉末の含有割合は、好ましくは50〜95質量%であり、より好ましくは70〜95質量%である。焼成用粉末におけるSnO2粉末の含有割合は
、好ましくは0〜5質量%であり、より好ましくは0〜3質量%である。
【0049】
焼成用粉末は、合成原料粉末と他の原料粉末とを、例えばボールミル等により混合することにより得られる。
【0050】
この焼成用粉末は、そのまま成形して成形体とし、これを焼結して焼結体とすることもできるが、必要により焼成用粉末にバインダーを加えて成形してもよい。このバインダーとしては、公知の粉末冶金法において成形体を得るときに使用されるバインダー、例えばポリビニルアルコール等を使用することができる。また得られた成形体は、必要に応じて公知の粉末冶金法において採用される方法により脱脂してもよい。成形方法も、公知の粉末冶金法において採用される方法を適用することができる。
【0051】
得られた成形体を焼結することにより焼結体を得る。焼成は、公知の粉末冶金法において採用される焼結炉を用いることができる。
【0052】
昇温速度は、高密度化および割れ防止の観点から、通常100〜500℃/hである。最高焼結温度は、通常1450〜1700℃、好ましくは1500〜1600℃であり、最高焼結温度での保持時間は通常3〜30h、好ましくは5〜10hである。最高焼結温度および保持時間が前記範囲内であると、上述したSnO2組成の分布のバラツキを有す
るITOスパッタリングターゲットを確実に得ることができる。最高焼結温度および保持時間をそれぞれ適宜決定することにより、SnO2組成の分布のバラツキの程度、すなわ
ちx/σを適宜調整することが可能である。降温速度は、割れ防止の観点から、通常20〜200℃/hである。
【0053】
このようにして得られたITO焼結体を、必要に応じて所望の形状に切り出し、研削等することによりITOスパッタリングターゲットとすることができる。
【0054】
図1は、この製造方法により、原料粉末として合成原料粉末およびIn23粉末を用いて製造されたITOスパッタリングターゲットの、走査型電子顕微鏡により得られた組織画像の一例である。
【0055】
この製造方法により上記本発明のITOスパッタリングターゲットを製造することができる。この製造方法により、SnO2組成の平均組成xと標準偏差σとが上記の関係を満
たすようなSnO2組成の分布に適度なバラツキを有するITOスパッタリングターゲッ
トが得られる理由は必ずしも明らかではないが、この製造方法において使用される合成原料中のSnが前述のとおりIn4Sn312として存在しており、このIn4Sn312は焼結時における組織中への拡散がSnO2に比べて遅いために、焼結終了時においても組織
全体に均一に分散することができず、その結果SnO2組成の分布に適度なバラツキが生
じるものと考えられる。前述のとおり、図1に示した組織は、白く点状に表される微細粒子を含んだ結晶粒と、微細粒子を含まない結晶粒とからなるモザイク状の組織となっている。微細粒子を含んだ結晶粒は、合成原料粉末由来の結晶粒であり、微細粒子を含まない結晶粒はIn23粉末由来の結晶粒であると考えられる。微細粒子はIn4Sn312またはSnO2であると考えられる。前述のように合成原料粉末中のIn4Sn312は拡散が
遅いため、焼結終了時においても合成原料粉末由来の結晶粒中に留まる割合が高く、その合成原料粉末由来の結晶粒中に留まったIn4Sn312が微細粒子として現れていると考えられる。
【0056】
これに対して、上記合成原料を用いず、In23粉末およびSnO2粉末のみを使用す
る従来の製造方法においては、SnO2の焼結時の拡散が速いために、短時間で組織全体
に分散してしまい、その結果SnO2組成の平均組成xと標準偏差σとが上記の関係を満
たすようなSnO2組成の分布に適度なバラツキを有する組織を得ることが困難なものと
考えられる。
(実施例)
[実施例1]
BET法で測定した平均粒径が0.1μmであるIn23粉末の含有量が90質量%、同じく平均粒径が0.2μmであるSnO2粉末の含有量が10質量%となるように、両
者を混合して混合粉末を調製した。この混合粉末を1350℃で、3時間焼結することにより合成原料を作成した。この合成原料を、圧縮粉砕した後、ボールミル粉砕をして、合成原料粉末とした。メディアは直径10mmのZrO2ボールとした。
【0057】
この合成原料粉末の含有量が10質量%、前記In23粉末の含有量が90質量%になるように両者を混合し、20Lのポリプロピレン製ポットに入れ、ボールミル混合することにより焼結用粉末を得た。メディアは直径10mmのZrO2ボールとした。
【0058】
焼結用粉末に、4質量%に希釈したポリビニルアルコールを焼結用粉末に対して6質量%添加し、乳鉢を用いてポリビニルアルコールを粉末によく馴染ませ、5.5メッシュの篩に通した。得られた焼結用原料をプレス用の型に充填し、プレス圧1t/cm2で60
秒間成形した。
【0059】
得られた成形体を容量が約1m3の焼結炉に入れ、炉内に1L/hで酸素をフローさせ
、焼成雰囲気を酸素フロー雰囲気とし、1550℃で10h焼結した。昇温速度を350℃/h、降温速度を100℃/hとした。
【0060】
得られた焼結体を切削加工することにより、ITOスパッタリングターゲットを製造した。
【0061】
このITOスパッタリングターゲットに対して、以下の評価を行った。結果を表1に示した。
結晶粒の平均粒径
結晶粒の平均粒径すなわち水平フェレ径の平均値は、以下のようにして求めた。
【0062】
得られたITOスパッタリングターゲットを、上面から5mmの位置で厚み方向に水平にダイヤモンドカッターにより切断して得られた切断面を、エメリー紙#170、#320、#800、#1500、#2000を用いてそれぞれ90度ずつ回転させながら段階的に研磨し、最後
にバフ研磨して鏡面に仕上げた後、40℃のエッチング液(硝酸(60〜61%水溶液、関東化学(株)製、硝酸1.38 鹿1級 製品番号28161-03)、塩酸(35.0〜37.0%水溶液、関東化学(株)製、塩酸 鹿1級 製品番号18078-01)および純水を体積比でHCl:H2O:HNO3=1:1:0.08の割合で混合)に9分間浸漬してエッチングし、現れた面を走査型電子顕微鏡(JXA-8800-R、JEOL社製)を用いて、加速電圧15kV、電子電流0.05μAの条件で、倍率3000倍にて観察した。写真撮影を行い、組織画像を得た。得られた約33μm×43μm視野内において、結晶粒をランダムに20個抽出した。
【0063】
粒子解析ソフト(粒子解析Version3.0、住友金属テクノロジー株式会社製)を用い
、まず結晶粒のSEM像をトレースしてスキャナで画像認識させ、この画像を二値化した。この際、1画素がμm単位で表示されるように換算値を設定した。次いで、計測項目として水平フェレ径を選択することにより、結晶粒の水平方向の全画素数より算出した水平フェレ径(μm)の値を得た。この操作を抽出した20個の結晶粒について行った。20個の結晶粒の水平フェレ径の平均値を結晶粒の平均粒径とした。
SnO2の平均組成および標準偏差
得られたITOスパッタリングターゲットを、走査型電子顕微鏡(JXA-8800-R、JEOL社製)を用いて、加速電圧15kV、電子電流0.05μAの条件で、倍率1000倍で観察して写真撮影を行い、約100μm×130μmの組織画像を得た。この組織画像の中から、任意に20μm×20μmの領域を、相互に重ならないように30個選択した。この30個の領域それぞれに対して、波長分散型電子線マイクロアナライザー(JEOL社製)を用いてSnO2組成を測定した。具体的には、各領域におけるInお
よびSnの質量組成(質量%)を分析し、Sn/(In+Sn)の比率(質量%)を求め、これをSnO2量に換算した。すなわちSn/(In+Sn)の比率に1.2696(
SnO2の分子量/Snの原子量=150.6888/118.69)を乗じて得た数値をSnO2量(質量%)とした。
【0064】
30個のそれぞれの領域におけるSnO2組成をx1、x2、・・・、x30とし、平均組
成xを次式により求めた。
【0065】
【数3】

【0066】
標準偏差σは次式により求めた。
【0067】
【数4】

【0068】
相対密度
前記スパッタリングターゲットの相対密度をアルキメデス法に基づき測定した。具体的には、スパッタリングターゲットの空中重量を体積(=スパッタリングターゲット焼結体の水中重量/計測温度における水比重)で除し、下記式(X)に基づく理論密度ρ(g/
cm3)に対する百分率の値を相対密度(単位:%)とした。結果を表1に示した。
【0069】
【数5】

【0070】
(式(X)中、C1〜Ciはそれぞれターゲット焼結体の構成物質の含有量(重量%)を示し、ρ1〜ρiはC1〜Ciに対応する各構成物質の密度(g/cm3)を示す。)。
【0071】
具体的には、理論密度(真密度または計算密度)ρは、ρiをIn23で7.179g
/cm3、SnO2で6.95g/cm3として、各組成の焼結体で計算した。たとえば理
論密度ρは、1%SnO2では7.177g/cm3、3%SnO2では7.172g/c
3、5%SnO2では7.167g/cm3である。
微粒子の面積率
得られたITOスパッタリングターゲットに対し上記「結晶粒の平均粒径」と同様の処理を行い、走査型電子顕微鏡(JXA-8800-R、JEOL社製)にて倍率3000倍で約33×43μm2の組織画像を得た。
【0072】
粒子解析ソフト(粒子解析Version3.0、住友金属テクノロジー株式会社製)を用い
、まず結晶粒のSEM像をトレースしてスキャナで画像認識させ、この画像を二値化した。この際、1画素がμm単位で表示されるように換算値を設定した。微細粒子を含む結晶粒を任意に10個選択し、それぞれに対して、まず結晶粒の面積(A1)を求め、次いでその結晶粒に含まれる微細粒子の面積の合計(A2)を求め、(A2/A1)×100を計算した。10個の結晶粒の(A2/A1)×100の平均をこのITOスパッタリングターゲットの微粒子の面積率とした。
圧縮強さ
圧縮強度は、JISファインセラミックスの圧縮強さ試験R1608-1990に従って測定した。
アーキング
スパッタリングターゲットを直径152.4mm、厚さ6mmに加工し、これをバッキングプレートに接合し、下記のスパッタリング条件にしたがってスパッタリング処理を施した。この処理を、投入電力量2W/cm2で10時間行った。以下のアーキングカウン
ターを用いて、この処理中に発生したアーキング回数をカウントした。
【0073】
<スパッタリング条件>
装置;DCマグネトロンスパッタ装置、排気系クライオポンプ、ロータリーポンプ
到達真空度;3×10-6Pa
スパッタ圧力;0.4Pa
酸素分圧;1×10-3Pa
<アーキングカウンター>
型式;μArc Moniter MAM Genesis MAM データコレクター Ver.2.02
(LANDMARK TECHNOLOGY社製)
高パワー割れ
前記「アーキング」で示したスパッタリング条件にしたがってスパッタリング処理を施した。この処理を、投入電力量を1〜10W/cm2の範囲内で徐々に出力アップしなが
ら行った。この処理中にスパッタリングターゲットの割れの発生を観察し、以下の基準で高パワー割れを評価した。
○:投入電力量5W/cm2で割れが発生しなかった
×:投入電力量5W/cm2未満で割れが発生した
[実施例2〜13、比較例4]
混合粉末を調製する際に、前記In23粉末および前記SnO2粉末の含有量が表1に
示した割合となるように両者を混合し、また焼結用粉末を調製する際に、合成原料、前記In23粉末および前記SnO2粉末の含有量が表1に示した割合となるようにこれらを
ボールミル混合したこと以外は実施例1と同様にしてITOスパッタリングターゲットを製造した。
【0074】
このITOスパッタリングターゲットに対して、実施例1と同様の評価を行った。結果を表1に示した。
[比較例1〜3]
焼結用粉末を調製する際に合成原料を使用せず、前記In23粉末およびSnO2粉末
の含有量が表1に示した割合となるように両者を混合したこと以外は実施例1と同様にしてITOスパッタリングターゲットを製造した。
【0075】
このITOスパッタリングターゲットに対して、実施例1と同様の評価を行った。結果を表1に示した。
【0076】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
走査型電子顕微鏡を用いて倍率1000倍で観察して得られた組織画像の中から任意に20μm×20μmの領域を30個選択し、波長分散型電子線マイクロアナライザーにて各領域におけるInおよびSnの質量組成(質量%)を分析し、Sn/(In+Sn)比を求め、この比から換算して得られた30個のSnO2組成の平均である平均組成xと、
前記30個のSnO2組成の標準偏差σとが、
2≦x/σ≦6
の関係を満足することを特徴とするITOスパッタリングターゲット。
【請求項2】
SnO2の平均組成xが1〜5質量%であることを特徴とする請求項1に記載のITO
スパッタリングターゲット。
【請求項3】
相対密度が95%以上であることを特徴とする請求項1または2に記載のITOスパッタリングターゲット。
【請求項4】
圧縮強さが1000〜1600MPaであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のITOスパッタリングターゲット。
【請求項5】
走査型電子顕微鏡を用いて倍率3000倍で観察して得られた組織画像に現れる結晶粒の粒径が5〜35μmであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のITOスパッタリングターゲット。
【請求項6】
走査型電子顕微鏡を用いて倍率3000倍で観察して得られた組織画像に現れる、微細粒子を含んだ結晶粒の面積に対する、該結晶粒中に含まれる微細粒子の総面積の比率の平均が7〜30%であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のITOスパッタリングターゲット。
【請求項7】
In23粉末および SnO2粉末の混合粉末を1250〜1400℃で焼成して得られる合成原料の粉末を含有する焼成用粉末を焼成することを特徴とする請求項1に記載のITOスパッタリングターゲットの製造方法。
【請求項8】
前記合成原料が、In4Sn312として存在するSnを含有することを特徴とする請求項7に記載のITOスパッタリングターゲットの製造方法。
【請求項9】
前記焼成用粉末がIn23粉末、またはIn23粉末およびSnO2粉末を含有するこ
とを特徴とする請求項7または8に記載のITOスパッタリングターゲットの製造方法。
【請求項10】
前記焼成用粉末が前記合成原料の粉末を5〜50質量%含有することを特徴とする請求項7〜9のいずれか1項に記載のITOスパッタリングターゲットの製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2011−80116(P2011−80116A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−233715(P2009−233715)
【出願日】平成21年10月7日(2009.10.7)
【出願人】(000006183)三井金属鉱業株式会社 (1,121)
【Fターム(参考)】