説明

In−Ga−Zn系酸化物スパッタリングターゲット

【課題】相対密度が高く、抵抗が低く、均一で、良好な酸化物半導体や透明導電膜等の酸化物薄膜を作製しうるスパッタリングターゲットを提供する。
【解決手段】下記に示す酸化物Aと、ビックスバイト型の結晶構造を有する酸化インジウム(In)と、を含有するスパッタリングターゲット。
酸化物A:インジウム元素(In)、ガリウム元素(Ga)、及び亜鉛元素(Zn)を含み、X線回折測定(Cukα線)により、入射角(2θ)が、7.0°〜8.4°、30.6°〜32.0°、33.8°〜35.8°、53.5°〜56.5°及び56.5°〜59.5°の各位置に回折ピークが観測される酸化物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化物半導体や透明導電膜等の酸化物薄膜作製用のスパッタリングターゲットに関する。
【背景技術】
【0002】
酸化インジウム及び酸化亜鉛、又は酸化インジウム、酸化亜鉛及び酸化ガリウムからなる非晶質の酸化物膜は、可視光透過性を有し、かつ、導電体、又は半導体から絶縁体まで広い電気特性を有するため、透明導電膜や半導体膜(例えば、薄膜トランジスタ等に用いられる)として着目されている。
特に、細川等によって、酸化インジウムと酸化亜鉛を含むn型半導体材料が見出されて以来(特許文献1)、酸化インジウムと酸化亜鉛を含む種々の酸化物半導体が注目されてきた。
【0003】
上記酸化物膜の成膜方法としては、スパッタリング、PLD(パルスレーザーデポジション)、蒸着等の物理的な成膜、及びゾルゲル法等の化学的な成膜が検討されている。このなかでも、比較的低温で大面積に均一に成膜できることから、スパッタリング法等の物理的成膜が中心に検討されている。
上記の物理的成膜で酸化物薄膜を成膜する際は、均一に、安定して、効率よく(高い成膜速度で)成膜するために、酸化物焼結体からなるターゲットを用いることが一般的である。
【0004】
上記の酸化物膜を作製するためのターゲット(主にスパッタリングターゲット)としては、In(ZnO)(m=2〜20)、InGaZnO、InGaZnO等の公知の結晶型の組成、又はそれと近い組成のものを中心に検討している。
具体的には、InとZnを主成分とし、一般式In(ZnO)(m=2〜20)で表される六方晶層状化合物を含む酸化物の焼結体からなることを特徴とするターゲットや、この酸化物に、さらに正三価以上の原子価を有する元素の少なくとも1種を20原子%以下でドープしたターゲットが公開されている(特許文献2)。
また、InGaZnOやInGaZnOの六方晶層状化合物の結晶構造(ホモロガス結晶構造)を示すターゲットが検討されている(特許文献3、4、5)。
【0005】
また、In(ZnO)(m=2〜20)の六方晶層状化合物とInとの混合物や、In(ZnO)(m=2〜20)の六方晶層状化合物とZnOとの混合物からなるターゲット(特許文献2)、InGaZnOの六方晶層状化合物とZnGaのスピネル構造の混合物からなるターゲット(特許文献6)等、混合物の特性を生かしたターゲットの開発が検討されている。
また、特許文献7にはInGaO(ZnO)等、InGaO(ZnO)(m=1〜20)で表される酸化物及びその合成方法が公開されている。
【0006】
ところで、ターゲットについて、上述した公知の結晶型以外の酸化物についての検討はされておらず、薄膜に関して検討されている程度である(特許文献3、8)。具体的には、コスパッタリング等により、成膜時に組成比を調整する方法で形成した薄膜について検討されている。
尚、公知の結晶型ではない酸化物について、粉末の原料を焼成して得られる焼結体の固溶限界や格子定数の変化が報告されている(非特許文献1、2)。非特許文献2では、In1.5Ga0.5(ZnO)の結晶構造を持つ酸化物の存在を仮定し計算した例はあるが、酸化物の合成やスパッタリングターゲットへの適用等、具体的な検討はされていなかった(非特許文献2、TABLE IV)。
【0007】
一方、酸化インジウム、酸化亜鉛及び酸化ガリウムの組成比を変えて種々の薄膜トランジスタを作製する検討がなされている(特許文献9)。しかし、各組成におけるターゲットの検討が不十分であったため、比抵抗はまだ高いものであった。
また、金属組成比(In:Ga:Zn)が30:15:55のIn−Ga−Zn−O焼結体を用いて、非晶質酸化物半導体膜及び薄膜トランジスタを形成した例が開示されている(特許文献10)。しかし、薄膜のGaの含有比率がターゲットのGaの含有比率の3分の2程度と極端に減少してしまうという問題があった。これは、ターゲットの性状が不適切であることを示唆している。しかし、ターゲット性状やその改善に関する検討はなされていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第4318689号
【特許文献2】特開平6−234565号公報
【特許文献3】特開平8−245220号公報
【特許文献4】特開2007−73312号公報
【特許文献5】国際公開第2009/084537号パンフレット
【特許文献6】国際公開第2008/072486号パンフレット
【特許文献7】特開昭63−239117号公報
【特許文献8】特開2007−281409号公報
【特許文献9】国際公開第2009/075281号パンフレット
【特許文献10】特開2008−53356号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】J.Am.Ceram.Soc.,82[10]2705−2710(1999)
【非特許文献2】Journal of Solid State Chemistry,93[2]298−315(1991)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、相対密度が高く、抵抗が低く、均一で、良好な酸化物半導体や透明導電膜等の酸化物薄膜を作製しうるスパッタリングターゲットを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らが鋭意研究した結果、従来から知られていたIn(ZnO)及びInGaO(ZnO)の結晶型とは異なる、新たな結晶構造を有する酸化物を発見した。この酸化物は、In(ZnO)で表される結晶構造とInGaO(ZnO)で表される結晶構造の中間的な結晶構造を有していると推定される。そして、この新たな酸化物とビックスバイト型の結晶構造を有するInをともに含有する酸化物混合体が、酸化物半導体用途の薄膜の成膜に好適なスパッタリングターゲットとして好適であることを見出し、本発明を完成させた。
本発明によれば、以下のスパッタリングターゲット等が提供される。
1.下記に示す酸化物Aと、ビックスバイト型の結晶構造を有する酸化インジウム(In)と、を含有するスパッタリングターゲット。
酸化物A:インジウム元素(In)、ガリウム元素(Ga)、及び亜鉛元素(Zn)を含み、X線回折測定(Cukα線)により、入射角(2θ)が、7.0°〜8.4°、30.6°〜32.0°、33.8°〜35.8°、53.5°〜56.5°及び56.5°〜59.5°の各位置に回折ピークが観測される酸化物。
2.インジウム元素(In)、ガリウム元素(Ga)及び亜鉛元素(Zn)の原子比が、下記式(1)及び(2)を満たす、1に記載のスパッタリングターゲット。
0.10≦Zn/(In+Ga+Zn)≦0.45 (1)
0.05<Ga/(In+Ga+Zn)<0.18 (2)
3.インジウム元素(In)及びガリウム元素(Ga)の原子比が、下記式(3)を満たす、1又は2に記載のスパッタリングターゲット。
0.14≦Ga/(In+Ga) (3)
4.含有される金属元素が、実質的にIn,Ga及びZnである1〜3のいずれかに記載のスパッタリングターゲット。
5.抵抗が10mΩcm以下、相対密度95%以上である1〜4のいずれかに記載のスパッタリングターゲット。
6.上記1〜5のいずれかに記載スパッタリングターゲットを用いて作製された酸化物薄膜。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、相対密度が高く、抵抗が低く、酸化物半導体や酸化物薄膜の作製に適したスパッタリングターゲットを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】(a)はInGaO(ZnO)の結晶構造の概念図、(b)はIn(ZnO)の概念図、(c)は酸化物Aの結晶構造の概念図である。
【図2】参照例で作製した酸化物焼結体のX線回折チャートである。
【図3】実施例1で作製した酸化物焼結体のX線回折チャートである。
【図4】実施例2で作製した酸化物焼結体のX線回折チャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明のスパッタリングターゲットは、インジウム元素(In)、ガリウム元素(Ga)、及び亜鉛元素(Zn)を含む、In−Ga−Zn系酸化物焼結体からなり、下記の2つの結晶構造をともに有することを特徴とする。
結晶構造1:酸化物A(インジウム元素(In)、ガリウム元素(Ga)、及び亜鉛元素(Zn)を含み、X線回折測定(Cukα線)により、入射角(2θ)が、7.0°〜8.4°、30.6°〜32.0°、33.8°〜35.8°、53.5°〜56.5°及び56.5°〜59.5°の各位置に回折ピークが観測される酸化物)
結晶構造2:ビックスバイト型の結晶構造を有する酸化インジウム(In
【0015】
上記酸化物Aは、本発明者らが新規に発見した結晶構造であり、X線回折測定(Cukα線)により得られるチャートにおいて、下記のA〜Eの領域に回折ピークが観測される。
A.入射角(2θ)=7.0°〜8.4°(好ましくは7.2°〜8.2°)
B.2θ=30.6°〜32.0°(好ましくは30.8°〜31.8°)
C.2θ=33.8°〜35.8°(好ましくは34.5°〜35.3°)
D.2θ=53.5°〜56.5°(好ましくは54.1°〜56.1°)
E.2θ=56.5°〜59.5°(好ましくは57.0°〜59.0°)
【0016】
尚、2θが30.6°〜32.0°(上記領域B)及び33.8°〜35.8°(上記領域C)の位置に観測される回折ピークの一方がメインピークであり、他方がサブピークであることが好ましい。
尚、メインピークとは、2θが5〜80°の範囲で最も強度(高さ)の強いピークであり、サブピークとは、2番目に強度の強いピークのことである。
尚、メインピークが重なる場合は、他のピークからメインピークの強度を逆算することが可能である。
【0017】
本願において、X線回折の測定条件は、例えば以下の通りである。
装置:(株)リガク製Ultima−III
X線:Cu−Kα線(波長1.5406Å、グラファイトモノクロメータにて単色化)
2θ−θ反射法、連続スキャン(1.0°/分)
サンプリング間隔:0.02°
スリット DS、SS:2/3°、RS:0.6mm
【0018】
X線回折測定(Cukα線)により得られるチャートにおいて上記のピークが観測される酸化物結晶は、JCPDS(Joint Committee of Powder Diffraction Standards)カードにはなく、今まで確認されていない新規な結晶である。
酸化物AのX線回折チャートは、InGaO(ZnO)(JCPDS:40−0252)で示される結晶構造及びIn(ZnO)(JCPDS:20−1442)で示される結晶構造に類似している。しかしながら、酸化物AはInGaO(ZnO)特有のピーク(上記領域Aのピーク)、及びIn(ZnO)特有のピーク(上記領域D及びEのピーク)を有し、かつ、InGaO(ZnO)及びIn(ZnO)には観測されないピーク(上記領域B)を有する。従って、酸化物Aは、InGaO(ZnO)及びIn(ZnO)とは異なる。
【0019】
上記領域Bのピークについて、このピークはIn(ZnO)とInGaO(ZnO)のメインピークの間、即ち、31°付近と32°付近の間にある。従って、InGaO(ZnO)のメインピークよりも低角側にシフトしており(格子間距離が広がっていると思われる)、In(ZnO)のメインピークよりも高角側にシフトしている(格子間距離が狭まっていると思われる)。
【0020】
酸化物Aの結晶構造は、InGaO(ZnO)(JCPDS:40−0252)の結晶構造及びIn(ZnO)(JCPDS:20−1442)の結晶構造に類似していると考えられる。
図1の(a)に、InGaO(ZnO)の結晶構造を、(b)にIn(ZnO)の結晶構造を、(c)に推定される酸化物Aの結晶構造を示す。
In(ZnO)(mは1〜20の整数)で表される結晶構造やInGaO(ZnO)(mは1〜20の整数)で表される結晶構造は「六方晶層状化合物」あるいは「ホモロガス相の結晶構造」と呼ばれ、異なる物質の結晶層を何層か重ね合わせた長周期を有する「自然超格子」構造から成る結晶である。結晶周期ないし各薄膜層の厚さが、ナノメーター程度の場合、これら各層の化学組成や層の厚さの組み合わせによって、単一の物質や各層を均一に混ぜ合わせた混晶の性質とは異なる固有の特性が得られる。
【0021】
ホモロガス相の結晶構造は、例えば、ターゲットの粉砕物又は切削片について測定したX線回折パターンが、組成比から想定されるホモロガス相の結晶構造X線回折パターンと一致することから確認できる。具体的には、JCPDSカードから得られるホモロガス相の結晶構造X線回折パターンと一致することから確認することができる。
【0022】
In(ZnO)(mは1〜20の整数)で表される結晶構造は、InO1.5層とInZnO2.5層とZnO層が1:1:(m−1)の比率で周期的に繰り返された構造を有すると考えられている。また、InGaO(ZnO)(mは1〜20の整数)で表される結晶構造は、InO1.5層とGaZnO2.5層とZnO層が1:1:(m−1)の比率で周期的に繰り返されると考えられている。
このように、In(ZnO)(mは1〜20の整数)で表される結晶構造やInGaO(ZnO)(mは1〜20の整数)のX線回折による測定結果は、ピーク位置が異なる(格子間距離は異なる)がパターンは似たものとなる。
【0023】
酸化物Aの結晶構造は、上述したIn(ZnO)やInGaO(ZnO)と同様に、「六方晶層状化合物」あるいは「ホモロガス相の結晶構造」からなる結晶であると推定している。酸化物Aは、InGaO(ZnO)特有のピーク(上記領域Aのピーク)、及びIn(ZnO)特有のピーク(上記領域D及びEのピーク)を併せ持っている。このことから、InZnO2.5層及びGaZnO2.5層のどちらとも異なるIn1−dGaZnO2.5層(0<d<1)と表される層が生成しているものと考えられる。即ち、InO1.5層とIn1−dGaZnO2.5層(0<d<1)とZnO層を1:1:(m−1)の比率で周期的に繰り返した構造と推定している。
【0024】
尚、In1−dGaZnO2.5層(0<d<1)は、InZnO2.5層とGaZnO2.5層が混在した状態、InZnO2.5層のInの一部がGaに置換された状態、又はIn,Ga,Zn及びOを含む新たな構造を有する層であると考えられる。
【0025】
酸化物Aにおいては、X線回折測定により本発明特有の回折パターンを示していれば、酸化物の酸素が過剰であっても不足(酸素欠損)していても構わない(酸素元素の原子比が化学量論比からずれていても良い)。酸化物の酸素が過剰であると、ターゲットとしたときに抵抗が高くなりすぎるおそれがあるため、酸素欠損を持っていることが好ましい。
【0026】
結晶構造2である、ビックスバイト型の結晶構造を有する酸化インジウム(In)は、X線回折測定により、JCPDSカード:06−0416の回折ピークを有することにより特定される。
【0027】
スパッタリングターゲットにおける上記結晶構造1の含有率(原子%)は、30%〜70%であることが好ましく、特に、40%〜60%であることが好ましい。また、結晶構造2の含有率は、30%〜70%であることが好ましく、特に、40%〜60%であることが好ましい。
尚、本発明のスパッタリングターゲットは、上記結晶構造1及び結晶構造2以外の結晶構造を含有していてもよい。例えば、ターゲットの焼成工程の条件等により、ターゲットがIn(ZnO)、InGaZnO等の結晶構造を含む場合がある。しかしながら、本発明の効果を得るためには、結晶構造1又は結晶構造2の一方を主成分(第1成分)とし、他方を副成分(第2成分)とすることが好ましい。特に、結晶構造1及び結晶構造2の含有率の合計が90%以上であることが好ましく、さらに、95%以上であることが好ましく、100%であってもよい。
各結晶の含有率は、X線回折チャートの回折ピークの強度比から算出できる。
【0028】
本発明のスパッタリングターゲットの元素組成について、インジウム元素(In)、ガリウム元素(Ga)及び亜鉛元素(Zn)の原子比が、下記式(1)及び(2)を満たすことが好ましい。
0.10≦Zn/(In+Ga+Zn)≦0.45 (1)
0.05<Ga/(In+Ga+Zn)<0.18 (2)
【0029】
上記式(1)について、Znの比率が0.10未満や0.45超であると、ターゲットの抵抗が高くなるおそれがある。
Znの比率は、0.25〜0.42であることがさらに好ましく、特に、0.30〜0.40であることが好ましい。この範囲の場合、酸化物AとInで表されるビックスバイト構造をともに含んだターゲットを作製しやすい。
【0030】
上記式(2)について、Gaの比率が0.05以下であると、得られる酸化物薄膜の耐湿性が低下したり、薄膜トランジスタ(半導体薄膜)を作製した際にウェットエッチングの速度が速くなりすぎるおそれがある。一方、0.18以上だと、ターゲットの抵抗が高くなったり、薄膜トランジスタ(半導体薄膜)を作製した際に移動度が低下するおそれがある。
Gaの比率は、0.10〜0.17であることが好ましく、さらに、0.12〜0.16であることが好ましい。
尚、Gaの比率が0.13に近いと、酸化物Aの結晶を生成させやすい。
【0031】
本発明のスパッタリングターゲットの元素組成は、さらに、インジウム元素(In)及びガリウム元素(Ga)の原子比が、下記式(3)を満たすことが好ましい。
0.14≦Ga/(In+Ga) (3)
尚、式(3)におけるGaの上限は0.35以下であることが好ましい。
【0032】
本発明のターゲット又は酸化物薄膜に含まれる各元素の原子比は、誘導結合プラズマ発光分析装置(ICP−AES)により含有元素を定量分析して求めることができる。
具体的に、ICP−AESを用いた分析では、溶液試料をネブライザーで霧状にして、アルゴンプラズマ(約6000〜8000℃)に導入すると、試料中の元素は熱エネルギーを吸収して励起され、軌道電子が基底状態から高いエネルギー準位の軌道に移る。この軌道電子は10−7〜10−8秒程度で、より低いエネルギー準位の軌道に移る。この際にエネルギーの差を光として放射し発光する。この光は元素固有の波長(スペクトル線)を示すため、スペクトル線の有無により元素の存在を確認できる(定性分析)。
【0033】
また、それぞれのスペクトル線の大きさ(発光強度)は試料中の元素数に比例するため、既知濃度の標準液と比較することで試料濃度を求めることができる(定量分析)。
定性分析で含有されている元素を特定後、定性分析で含有量を求め、その結果から各元素の原子比を求める。
【0034】
本発明では、本発明の効果を損ねない範囲において、上述したIn、Ga、Zn以外の他の金属元素、例えば、Sn、Ge、Si、Ti、Zr、Hf等を含有していてもよい。
本発明においては、ターゲットに含有される金属元素は、実質的にIn,Ga及びZnのみであってもよい。尚、「実質的」とは、原料や製造工程等により不可避的に含まれる不純物等以外の元素を含まないことを意味する。
【0035】
本発明のターゲットは、例えば、各金属元素を含有する原料粉末を焼結することにより製造できる。以下、製造工程について説明する。
(1)配合工程
原料の配合工程は、本発明の酸化物に含有される金属元素の化合物を混合する必須の工程である。
原料としては、インジウム化合物の粉末、ガリウム化合物の粉末、亜鉛化合物の粉末等の粉末を用いる。インジウムの化合物としては、例えば、酸化インジウム、水酸化インジウム等が挙げられる。亜鉛の化合物としては、例えば、酸化亜鉛、水酸化亜鉛等が挙げられる。各々の化合物として、焼結のしやすさ、副生成物の残存のし難さから、酸化物が好ましい。
原料の純度は、通常2N(99質量%)以上、好ましくは3N(99.9質量%)以上、特に好ましくは4N(99.99質量%)以上である。純度が2Nより低いと耐久性が低下したり、液晶側に不純物が入り、焼き付けが起こるおそれがある。
原料の一部として金属亜鉛(亜鉛末)を用いることが好ましい。原料の一部に亜鉛末を用いるとホワイトスポットの生成を低減することができる。
金属酸化物等のターゲットの製造に用いる原料を混合し、通常の混合粉砕機、例えば、湿式ボールミルやビーズミル又は超音波装置を用いて、均一に混合・粉砕することが好ましい。
【0036】
原料として酸化物を使用する場合、酸化インジウム、酸化ガリウム、酸化亜鉛の比表面積(BET比表面積)は、通常各々3〜18m/g、3〜18m/g、3〜18m/gであり、好ましくは各々7〜16m/g、7〜16m/g、3〜10m/gであり、より好ましくは各々7〜15m/g、7〜15m/g、4〜10m/gであり、特に好ましくは各々11〜15m/g、11〜15m/g、4〜5m/gである。比表面積が小さすぎると焼結体中に各々の元素の凝集体が成長する、原料粉末の結晶型が残存する、想定外の結晶型が生成し性状が変化する、などのおそれがある。比表面積が大きすぎると想定外の結晶型が生成し性状が変化する、分散不良を起こし外観不良や特性のムラが生じる、などのおそれがある。
【0037】
(2)仮焼工程
仮焼工程では、上記工程で得た混合物を仮焼する。尚、本工程は必要に応じて設けられる工程である。仮焼工程により、酸化物の密度を上げることが容易になるが、製造コストが上がるおそれがある。そのため、仮焼を行わずに密度を上げられることがより好ましい。
仮焼工程においては、500〜1200℃で、1〜100時間の条件で上記の混合物を熱処理することが好ましい。500℃未満又は1時間未満の熱処理では、インジウム化合物や亜鉛化合物、錫化合物の熱分解が不十分となる場合がある。一方、熱処理条件が、1200℃を超えた場合又は100時間を超えた場合には、粒子の粗大化が起こる場合がある。
従って、特に好ましいのは、800〜1200℃の温度範囲で、2〜50時間、熱処理(仮焼)することである。
尚、ここで得られた仮焼物は、下記の成形工程及び焼成工程の前に粉砕することが好ましい。粉砕は原料粉の粒径が平均粒径(D50)が好ましくは2μm以下、より好ましくは1μm以下、特に好ましくは0.5μm以下まで行うとよい。目的は、原料の均一分散化である。粒径の大きい原料粉が存在すると場所による組成むらが生じるおそれがある。場所による組成むらは、スパッタ時の異常放電の原因となる。また、組成むらがターゲットと作製した薄膜の組成のずれの原因となるおそれがある。
【0038】
(3)成形工程
成形工程は、上述した配合工程で得た混合物(上記仮焼工程を設けた場合には仮焼物)を加圧成形して成形体とする必須の工程である。この工程により、ターゲットとして好適な形状に成形する。仮焼工程を設けた場合には得られた仮焼物の微粉末を造粒した後、成形処理により所望の形状に成形することができる。
成形処理としては、例えば、プレス成形(一軸成形)、金型成形、鋳込み成形、射出成形等が挙げられるが、焼結密度の高いターゲットを得るためには、冷間静水圧(CIP)等で成形するのが好ましい。
尚、単なるプレス成形(一軸プレス)であると圧力にムラ生じて、想定外の結晶型が生成してしまうおそれがある。
また、プレス成形(一軸プレス)後に、冷間静水圧(CIP)、熱間静水圧(HIP)等を行い2段階以上の成形工程を設けてもよい。
CIP(冷間静水圧、あるいは静水圧加圧装置)を用いる場合、面圧800〜4000kgf/cmで0.5〜60分保持することが好ましく、面圧2000〜3000kgf/cmで2〜30分保持することがより好ましい。前記範囲内であると、成形体内部の組成むらなどが減り均一化されることが期待される。また、面圧が800kgf/cm以下であると、焼結後の密度が上がらないあるいは抵抗が高くなるおそれがある。面圧4000kgf/cm以上であると装置が大きくなりすぎ不経済となるおそれがある。保持時間が0.5分以下であると焼結後の密度が上がらないあるいは抵抗が高くなるおそれがある。60分以上であると時間が掛かりすぎ不経済となるおそれがある。
尚、成形処理に際しては、ポリビニルアルコールやメチルセルロース、ポリワックス、オレイン酸等の成形助剤を用いてもよい。
【0039】
(4)焼成工程
焼成工程は、上記成形工程で得られた成形体を焼成する必須の工程である。
焼成は、熱間静水圧(HIP)焼成等によって行うことができる。
焼成条件としては、酸素ガス雰囲気又は酸素ガス加圧下に、通常、1100〜1600℃において、通常30分〜360時間、好ましくは8〜180時間、より好ましくは12〜96時間焼成する。焼成温度が1100℃未満であると、ターゲットの密度が上がり難くなったり、焼結に時間がかかり過ぎるおそれがある。一方、1600℃を超えると成分の気化により、組成がずれたり、炉を傷めたりするおそれがある。
燃焼時間が30分未満であると、ターゲットの密度が上がり難く、360時間より長いと、製造時間がかかり過ぎコストが高くなるため、実用上採用できない。
【0040】
一方、酸素を含有しない雰囲気で焼成したり、1600℃以上の温度において焼成したりすると、得られるターゲットの密度を十分に向上させることができず、スパッタリング時の異常放電の発生を十分に抑制できなくなる場合がある。
焼成時の昇温速度は、通常8℃/分以下、好ましくは4℃/分以下、より好ましくは2℃/分以下、さらに好ましくは1℃/分以下、特に好ましくは0.5℃/分以下である。8℃/分以下であると本発明のターゲットが得られやすい。また、降温時にクラックが発生しにくい。
また、焼成時の降温速度は、通常4℃/分以下、好ましくは2℃/分以下、より好ましくは1℃/分以下、さらに好ましくは0.8℃/分以下、特に好ましくは0.5℃/分以下である。4℃/分以下であると本発明のターゲットが得られやすい。また、降温時にクラックが発生しにくい。
【0041】
(5)還元工程
還元工程は、上記焼成工程で得られた焼結体のバルク抵抗をターゲット全体で均一化するためのものであり、必要に応じて設けられる工程である
本工程で適用することができる還元方法としては、例えば、還元性ガスによる方法や真空焼成又は不活性ガスによる還元等が挙げられる。
還元性ガスによる還元処理の場合、水素、メタン、一酸化炭素、又はこれらのガスと酸素との混合ガス等を用いることができる。
不活性ガス中での焼成による還元処理の場合、窒素、アルゴン、又はこれらのガスと酸素との混合ガス等を用いることができる。
還元処理時の温度は、通常100〜800℃、好ましくは200〜800℃である。また、還元処理の時間は、通常0.01〜10時間、好ましくは0.05〜5時間である。
【0042】
上記の各工程により、上記結晶構造1及び2をともに含む酸化物焼結体が得られる。この酸化物焼結体は、相対密度が高く、抵抗が低く、抗折強度が高く、均一性が高く、酸化物半導体や透明導電膜等酸化物薄膜を作製するためのターゲットとして適している。
【0043】
上記の酸化物焼結体を必要に応じて所望の形状に加工することにより最終製品が得られる。
加工は、上記の酸化物焼結体をスパッタリング装置への装着に適した形状に切削加工し、また、バッキングプレート等の装着用治具を取り付けるために行う。酸化物焼結体をスパッタリングターゲットとするには、焼結体を、例えば、平面研削盤で研削して表面粗さRa5μm以下とする。さらに、スパッタリングターゲットのスパッタ面に鏡面加工を施して、平均表面粗さRaが1000オングストローム以下としてもよい。この鏡面加工(研磨)は機械的な研磨、化学研磨、メカノケミカル研磨(機械的な研磨と化学研磨の併用)等の、すでに知られている研磨技術を用いることができる。例えば、固定砥粒ポリッシャー(ポリッシュ液:水)で#2000以上にポリッシングしたり、又は遊離砥粒ラップ(研磨材:SiCペースト等)にてラッピング後、研磨材をダイヤモンドペーストに換えてラッピングすることによって得ることができる。このような研磨方法には特に制限はない。
【0044】
得られたスパッタリングターゲットをバッキングプレートへボンディングする。ターゲットの厚みは通常2〜20mm、好ましくは3〜12mm、特に好ましくは4〜6mmである。また、複数のターゲットを一つのバッキングプレートに取り付け、実質一つのターゲットとしてもよい。
【0045】
研磨後、ターゲットを洗浄する。洗浄処理にはエアーブローあるいは流水洗浄等を使用できる。エアーブローで異物を除去する際には、ノズルの向い側から集塵機で吸気を行なうとより有効に除去できる。尚、以上のエアーブローや流水洗浄では限界があるので、さらに超音波洗浄等を行なうこともできる。この超音波洗浄は周波数25〜300KHzの間で多重発振させて行なう方法が有効である。例えば周波数25〜300KHzの間で、25KHz刻みに12種類の周波数を多重発振させて超音波洗浄を行なうのが良い。
【0046】
本発明スパッタリングターゲットは、相対密度が95%以上であることが好ましく、96%以上がより好ましく、97%以上が特に好ましい。95%未満だとターゲットが割れやすかったり、異常放電が発生しやすかったりするおそれがある。
相対密度とは、加重平均より算出した理論密度に対して相対的に算出した密度である。各原料の密度の加重平均より算出した密度が理論密度であり、これを100%とする。
【0047】
ターゲットの抵抗は、0.01mΩcm以上10mΩcm以下が好ましく、0.1mΩcm以上5mΩcm以下がより好ましく、0.2mΩcm以上3mΩcm以下が特に好ましい。抵抗値が10mΩcmを超えると、長時間DCスパッタリングを続けている場合、異常放電によりスパークが発生し、ターゲットが割れたり、スパークにより飛び出した粒子が成膜基板に付着し、酸化物半導体膜としての性能を低下させたりする場合がある。一方、0.01mΩcmより小さいと、ターゲットの抵抗がパーティクルの抵抗より小さくなり、飛散してきたパーティクルにより異常放電が起きるおそれがある。
【0048】
ターゲット内における、亜鉛以外の陽性元素のばらつき範囲が0.5%以内であることが好ましい。0.5%以内であると、ターゲットの抵抗の均一性を向上できる(ばらつきを減少できる)。また、成膜品のばらつきを低減できる。
陽性元素のばらつき範囲は、ターゲットの10点から切り出した試料をICPで分析することにより測定できる。
【0049】
ターゲット内における相対密度のばらつきの範囲が3%以内であることが好ましい。密度のばらつきの範囲が3%以内であると、ターゲットの抵抗の均一性が向上できる(ばらつきを減少できる)。また、成膜品のばらつきを低減できる。
相対密度のばらつきは、焼結体の任意の10箇所を切り出して、その相対密度をアルキメデス法で求め、その平均値、最大値及び最小値を基に下記式から算出する。
相対密度のばらつき=(最大−最小)/平均×100(%)
【0050】
ターゲット内におけるフェレー径2μm以上のピンホール数が単位面積当たり50個/mm以下が好ましく、20個/mm以下がより好ましく、5個/mm以下がさらに好ましい。フェレー径2μm以上のピンホール数が50個/mmより多いと、ターゲット使用初期から末期まで異常放電が多発する傾向にあるため好ましくない。また、得られるスパッタ膜の平滑性も低下する傾向にある。焼結体内部のフェレー径2μm以上のピンホールが5個/mm以下だと、ターゲット使用初期から末期まで異常放電を抑制でき、また、得られるスパッタ膜は非常に平滑である。
ここで、フェレー径とは、ピンホールを粒子として見立てた場合に、粒子を挟むある一定方向の平行線間隔のことをいう。例えば、倍率100倍のSEM像による観察で計測できる。
【0051】
本発明のスパッタリングターゲットを用いて、基板等の対象物にスパッタすることにより、本発明の酸化物薄膜を成膜することができる。酸化物薄膜は薄膜トランジスタの半導体層、酸化物薄膜層等に好適に使用できる。
成膜時の膜厚としては、1〜45nmが好ましく、3〜30nmがさらに好ましく、5〜20nmが特に好ましい。膜厚が、45nm以下となることにより、移動度が高く、S値が低い半導体となることが期待できる。
【実施例】
【0052】
実施例1
(1)酸化物焼結体の作製
出発原料として、In(純度4N、アジア物性材料社製)、Ga(純度4N、アジア物性材料社製)及びZnO(純度4N、高純度化学社製)を使用した。
これらの原料を秤量し、湿式媒体攪拌ミルを使用して混合粉砕した。尚、湿式媒体攪拌ミルの媒体には1mmφのジルコニアビーズを使用した。
そして混合粉砕後、スプレードライヤーで乾燥させた。得られた混合粉末を金型に充填し、冷間静水圧(CIP)にて面圧2200kgf/cm、5分保持にて加圧成形し成形体を作製した。
その後、電気炉にて焼結した。焼結条件は以下のとおりとした。
昇温速度:2℃/分
焼結温度:1500℃
焼結時間:6時間
焼結雰囲気:酸素流入
降温時間:72時間
【0053】
(2)スパッタリングターゲットの作製
焼結後、厚さ6mmの焼結体を厚さ5mm直径4インチに研削、研磨した。この焼結体からターゲット用焼結体を切り出した。焼結体の側辺をダイヤモンドカッターで切断して、表面を平面研削盤で研削して表面粗さRa0.5μm以下のターゲット素材とした。
次に、表面をエアーブローし、さらに周波数25〜300kHzの間で25kHz刻みに12種類の周波数を多重発振させて3分間超音波洗浄した。ターゲット素材を得た。
【0054】
この後、ターゲット素材をインジウム半田にて無酸素銅製のバッキングプレートにボンディングしてターゲットとした。ターゲットの表面粗さRa≦0.5μmであり、方向性のない研削面を備えていた。
製造したターゲットDCスパッタ成膜装置に装着した。0.3PaのAr雰囲気下で、100Wにて100時間連続スパッタを行い、表面に発生するノジュールを計測した。その結果、ターゲット表面にはほとんどノジュールが発生しなかった。また、成膜時に異常放電はほとんど発生しなかった。
【0055】
得られた酸化物焼結体(ターゲット)について、下記の評価を行った。結果を表1に示す。
(A)酸化物焼結体の金属元素の比率
誘導結合プラズマ発光分析装置(ICP−AES、島津製作所社製)で分析した。
【0056】
(B)酸化物焼結体の結晶構造
X線回折測定(XRD)により判定した。
・装置:(株)リガク製Ultima−III
・X線:Cu−Kα線(波長1.5406Å、グラファイトモノクロメータにて単色化)
・2θ−θ反射法、連続スキャン(1.0°/分)
・サンプリング間隔:0.02°
・スリット DS、SS:2/3°、RS:0.6mm
【0057】
(C)ターゲットの特性
(a)相対密度
原料粉の密度から計算した理論密度と、アルキメデス法で測定した焼結体の密度から、下記計算式にて算出した。
相対密度=(アルキメデス法で測定した密度)÷(理論密度)×100(%)
(b)バルク抵抗
抵抗率計(三菱化学(株)製、ロレスタ)を使用し四探針法(JIS R1637)に基づき測定、10箇所の平均値を抵抗率値とした。
(c)抵抗の均一性
抵抗率計(三菱化学(株)製、ロレスタ)を使用し四探針法(JIS R1637)に基づき測定、10箇所の平均値と標準偏差から、下記計算式にて算出した。
(標準偏差)÷(平均値)×100(%)
(d)ピンホール数(平均空孔数)
焼結体の任意の方向にて鏡面研磨後、エッチングし、組織をSEM(走査型電子顕微鏡)で観察し、単位面積当たりの直径1μm以上の空孔の個数を数えた。
【0058】
(D)ターゲットの成膜特性
(a)異常放電
96時間で発生した異常放電回数を測定した。
(b)パーティクル(発塵量)
チャンバー内にスライドガラスを設置し、96時間連続成膜後のスライドガラスに付着した1μm以上のパーティクルの密度を、顕微鏡を用いて計測した。
その結果、パーティクルが少ない方から順に、104個/m2以内:○、104個/m2超:×として評価した。
(c)ノジュール(ノジュール発生密度)
96時間連続成膜後の成膜後のスパッタリングターゲットの写真からノジュールで被覆された面積を計算し、以下の式で発生密度を計算した。
ノジュール発生密度=ノジュール発生面積÷スパッタリングターゲット面積
その結果、ノジュールが少ない方から順に、10-1以内:○、10-1超:×として評価した。
【0059】
(E)薄膜の評価
作製したターゲットを用い、下記の条件で薄膜(厚さ50nm)を作製し、熱処理前後の電気特性を評価した。
・成膜条件
全圧は0.65Pa、酸素分圧はAr:19.6sccm、O:0.4sccm、パワーはRF100W、T−S間距離は100mm、基板温度は室温(加熱なし)とした。
・熱処理条件
オーブンを用い、大気下、300℃、1時間処理した。
・電子キャリア密度とホール移動度の測定
東陽テクニカ製、Resi Test8310(ホール測定装置)を用いて評価した(測定条件:室温(25℃)、0.5[T]、10−4〜10−12A、AC磁場ホール測定)。
【0060】
実施例1で製造したターゲットのX線回折測定(XRD)チャートを図2に示す。尚、比較のため、XRDチャートの下部にZnIn(JCPDS:20−1442)のチャート及びInGaZn(JCPDS:40−0252)のチャートを示す。このチャートの解析結果から、2θ=7.70°、31.24°、34.80°、55.10°、57.96°の5本のピークが確認でき、酸化物Aを含んでいることが確認できた(ZnInやInGaZnの混合物とは異なっていた)。さらに、JCPDSカードのInで表されるビックスバイト構造に対応するピークも確認できた。すなわち、Inで表されるビックスバイト構造と酸化物Aの混合物になっていることが確認できた。
また、ピーク強度比から、酸化物AとInで表されるビックスバイト構造の比は凡そ5:4であった。
また、誘導結合プラズマ発光分析装置(ICP−AES)によりスパッタにより成膜した薄膜の含有元素を定量分析した。原子比でIn:Ga:Znは、51:10:39でターゲットとほぼ一致(各組成の原子比がターゲットの±2%以内)し、Ga含有量の大きな変動はなかった。
【0061】
実施例2、3
原料の組成比を表1に示すように変更した他は、実施例1と同様にターゲットを作製し、評価した。結果を表1に示す。また、実施例2のX線回折チャートを図3に示す。
【0062】
参照例
酸化物A単体からなる酸化物焼結体を作製した。具体的には、原料の組成比を表1に示すように変更した他は、実施例1と同様にした。得られたターゲットを評価した。結果を表1に示す。
参照例で製造した酸化物焼結体のX線回折測定(XRD)チャートを図4に示す。尚、比較のため、XRDチャートの下部にInGaO(ZnO)(JCPDS:40−0252)のチャート及びIn(ZnO)(JCPDS:20−1442)のチャートを示す。
この酸化物はInGaO(ZnO)特有のピーク(図4中、○で示す)、及びIn(ZnO)特有のピーク(図4中、○で示す)を有し、かつ、InGaO(ZnO)及びIn(ZnO)には観測されないピークを有する。従って、この酸化物は、InGaO(ZnO)及びIn(ZnO)とは異なる新規な結晶系を有する。
【0063】
本発明のスパッタリングターゲットは、新規な結晶である酸化物AとInで表されるビックスバイト構造をともに含む。この結果、酸化物Aのみからなるターゲットよりも、焼結密度(相対密度)が向上し、抵抗が低下していることがわかる。これは、酸素欠損を生じやすいビックスバイト構造により、ターゲットのキャリア電子が生じ、新規結晶の層状構造で導電することが可能になったためと推定される。
【0064】
比較例1
酸化インジウム粉末(純度4N)を秤量し、湿式媒体攪拌ミルを使用して粉砕した。尚、湿式媒体攪拌ミルの媒体には1mmφのジルコニアビーズを使用した。
そして混合粉砕後、スプレードライヤーで乾燥させた。得られた粉末を金型に充填しコールドプレス機にて加圧成形し成形体を作製した。
得られた成形体を、酸素を流通させながら酸素雰囲気中1200℃の高温で4時間焼結した。これによって、仮焼工程を行うことなく相対密度82.2%であるスパッタリングターゲット用焼結体を得た。
X線回折により焼結体中には、Inで表されるビックスバイト構造が存在することが確認された。この焼結体のバルク抵抗は、2500mΩcmであった。
製造したターゲット(4インチφ、厚み5mm)をバッキングプレートにボンディングし、DCスパッタ成膜装置に装着した。0.3PaのAr雰囲気下で、100Wにて100時間連続スパッタを行い、表面に発生するノジュールを計測した。その結果、ターゲット表面のほぼ全面にノジュールの発生が認められた。
得られたターゲットを実施例1と同様に評価した。結果を表1に示す。
【0065】
比較例2
酸化インジウム粉末(純度4N)、酸化ガリウム粉末(純度4N)及び酸化亜鉛粉末(純度4N)を重量比でほぼIn:Ga:ZnO=34:46:20となるように秤量し、湿式媒体攪拌ミルを使用して混合粉砕した。尚、湿式媒体攪拌ミルの媒体には1mmφのジルコニアビーズを使用した。
そして混合粉砕後、スプレードライヤーで乾燥させた。得られた混合粉末を金型に充填しコールドプレス機にて加圧成形し成形体を作製した。
得られた成形体を、酸素を流通させながら酸素雰囲気中1200℃の高温で4時間焼結した。これによって、仮焼工程を行うことなく相対密度90.8%(焼結体密度5.85g/cm)であるIGZOスパッタリングターゲット用焼結体を得た。
X線回折により焼結体中には、ZnGaの結晶が存在することが確認されたが、InGaZnOは観察されなかった。この焼結体のバルク抵抗は、150mΩcmであった。
製造したターゲット(4インチφ、厚み5mm)をバッキングプレートにボンディングし、DCスパッタ成膜装置に装着した。0.3PaのAr雰囲気下で、100Wにて100時間連続スパッタを行い、表面に発生するノジュールを計測した。その結果、ターゲット表面のほぼ半分にノジュールの発生が認められた。
得られたターゲットを実施例1と同様に評価した。結果を表1に示す。
【0066】
比較例3
組成比を表1のようにした以外は比較例2同様にターゲットを作製・評価した。結果を表1に示す。
【0067】
【表1】

【0068】
[TFTの作製・評価]
実施例1−3及び参照例で作製したターゲットを使用してボトムゲート構造の電界効果型トランジスタを作製した。
スパッタリングターゲットを、スパッタ法の一つであるRFマグネトロンスパッタリング法の成膜装置に装着し、熱酸化膜(100nm)付シリコン基板上に、膜厚が15nmのチャンネル層(半導体層)を成膜した。スパッタ条件は、上述の薄膜作製と同様とした。フォトリソグラフィにより半導体領域(いわゆる島)を構成した。
次に、半導体付き基板を、大気下300℃で0.5時間熱処理した。
リフトオフのために、フォトレジスト材料を塗布しフォトレジスト膜を形成後、ソース電極及びドレイン電極となる金属薄膜を成膜した。金属薄膜は、DCスパッタリングでTi/Au/Tiの順に積層して成膜した。成膜後リフトオフでパターニングしてソース電極、ドレイン電極を形成した。
その後、金属薄膜付き基板を、再度大気下300℃で1時間熱処理して、W=30μm、L=30μmのSi基板をゲート電極としたボトムゲート構造の電界効果型トランジスタを製造した。
尚、半導体層の膜厚が40nmのものも同様に作製した。
【0069】
得られた電界効果型トランジスタについて、下記の評価を行った。結果は表2に示す。
(1)電界効果移動度(μ)、S値、閾値電圧(Vth)
半導体パラメーターアナライザー(ケースレー4200)を用い、大気圧の乾燥窒素雰囲気下、室温、遮光環境下で測定した。
(2)膜厚測定
膜厚計((株)小坂研究所 ET3000)を用いて測定した。
結果を表2に示す。
【0070】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明のスパッタリングターゲットは、酸化物薄膜の形成に好適に使用できる。酸化物薄膜は、例えば、薄膜トランジスタの半導体層等に使用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記に示す酸化物Aと、
ビックスバイト型の結晶構造を有する酸化インジウム(In)と、を含有するスパッタリングターゲット。
酸化物A:インジウム元素(In)、ガリウム元素(Ga)、及び亜鉛元素(Zn)を含み、X線回折測定(Cukα線)により、入射角(2θ)が、7.0°〜8.4°、30.6°〜32.0°、33.8°〜35.8°、53.5°〜56.5°及び56.5°〜59.5°の各位置に回折ピークが観測される酸化物。
【請求項2】
インジウム元素(In)、ガリウム元素(Ga)及び亜鉛元素(Zn)の原子比が、下記式(1)及び(2)を満たす、請求項1に記載のスパッタリングターゲット。
0.10≦Zn/(In+Ga+Zn)≦0.45 (1)
0.05<Ga/(In+Ga+Zn)<0.18 (2)
【請求項3】
インジウム元素(In)及びガリウム元素(Ga)の原子比が、下記式(3)を満たす、請求項1又は2に記載のスパッタリングターゲット。
0.14≦Ga/(In+Ga) (3)
【請求項4】
含有される金属元素が、実質的にIn,Ga及びZnである請求項1〜3のいずれかに記載のスパッタリングターゲット。
【請求項5】
抵抗が10mΩcm以下、相対密度95%以上である請求項1〜4のいずれかに記載のスパッタリングターゲット。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載スパッタリングターゲットを用いて作製された酸化物薄膜。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−106002(P2011−106002A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−264085(P2009−264085)
【出願日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【Fターム(参考)】