説明

MIMOシステムにおけるビームステアリング

本出願は、送信器および受信器の両方においてビームフォーマを備えるMIMOシステム(複数入力および複数出力)に関する。チャネル選択のための方法は、各空間チャネルがステアリングベクトルに関連付けられるということに基づいて、送信ビームのための適切なステアリングパラメータを計算する。適切なステアリングパラメータ、すなわち適切な送信ビームは、全空間にわたる、すなわちすべてのθおよびφにわたる探索プロセスによって、または閉じた数学的手続きによって、すなわち内積のための式を導出することによって決定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数入力および複数出力の(MIMO)通信システム、およびそれを組み込むシステムのコンピュータのための装置、方法、信号、およびプログラムに関する。具体的には、本発明は、そのようなシステムにおけるチャネル行列の識別に関する。そのようなシステムは、たとえば、無線通信システムにおいて使用することが可能である。
【背景技術】
【0002】
多くの最近の研究は、複数入力および複数出力(MIMO)のアーキテクチャを使用する無線通信システムの分野を対象としてきた。そのようなシステムは、通信リンクの送信器端部および受信器端部の両方において、複数の要素からなるアンテナを使用する通信チャネルを使用する。各要素が独立した空間フェーディングを経験するように、十分なマルチパスアクティビティが所与のチャネル内に存在するとすれば、適切な信号処理手段を使用することによって、所与の通信チャネルにわたって利用可能なデータレートが、送信要素および受信要素の数の少ない方に比例することが示されている(たとえば、G.J.FoschiniおよびM.j.Gans、「On Limits of Wireless Communications in a Fading Environment When Using Multiple Antennas」、Wireless Personal Communications、Vol.6、No.3、1998年3月、311ページによる)。インドアチャネルでは(たとえば、無線ローカルエリアネットワークのもの)、そのような条件は、放射要素がほぼ半波長以上の分離において配置されるとき、通常満たされる。
【0003】
MIMOチャネルの特徴付けおよびそのデータ通信容量の理論的な態様の進展は、MIMOチャネルにわたって送信されるデータストリームの検出および復号のための高度化された空間処理方法の開発と、並行して行われてきた。最も有名で簡単な方法の1つは、Foschini(「Layered Space−Time Architecture for Wireless Communication in a Fading Environment When Using Multiple Antennas」、BellLabs.Tech.Journal、Vol 1、No2、Autumn 1996年、41〜59ページ)によって開発された。
【0004】
MIMO技術は、現在、次世代無線システムについて、またIEEE802.11a、IEEE802.11b、およびブルートゥース規格、ならびにモバイル通信システム(UMTSなど)に基づくシステムなどの既存システムに対する潜在的な更新の両方として考慮されている。そのようなアプローチは、商用的に魅力的であるが、その理由は、既存システムと比較してチャネル容量の潜在的に著しい増大を提供し、したがって、システムは、使用者数の増大を支援し、それによりネットワークオペレータの収益増大を作り出すことができるからである。それにより、MIMO技術は、最も貴重な通信リソース、すなわち帯域幅およびパワーの割付けまたは消費を対応して増大させずに、有効データ伝送容量の潜在的な増大を提供する。
【0005】
コヒーレントな変調ならびに復調(およびしたがって高品質ロバスト通信リンク/高容量)を使用する、知られている高度化無線システムの実際の実施に共通して、チャネル推定の実施が必要である。すなわち、受信器システムは、送信器と受信器との間において複素チャネル利得を推定する手続きを行わなければならない。複素チャネル利得の推定は、そのような複素チャネル利得に関連する有害な影響を緩和することを可能にするために必要である。広帯域システムでは、推定プロセスは、時間、および任意の所与の時間において所与の周波数範囲の両方にわたって生じる可能性がある、複素チャネル利得の変化に対処するように、時間および/または周波数の領域にわたる複数の推定を得ることを必要とする可能性がある。知られているシステムでは、このプロセスは、通常、受信器によって知られている所定のトレーニングシーケンスの送信を必要とする。知られているトレーニングシーケンスを受信信号と比較することによって、受信器は、チャネルの推定を導出することができる。チャネル推定は、変化する無線チャネルを受信器によって適切に追跡することができるように、繰り返して適用されなければならないので(周波数にわたって、および時間にわたって)、これは、トレーニングシーケンスを繰り返して送信し、それにより、そうでない場合には有益なデータ送信に使用することができる帯域幅を占有することを必然的に伴う。
【0006】
知られているシステムでは、MIMOチャネルのためのチャネル推定の複雑さは、送信アンテナの数と受信アンテナの数の積と共に増大するが、その理由は、各受信アンテナが、各送信アンテナと各受信アンテナとの間において複素チャネル利得を推定しなければならないからである。したがってたとえば、2×2MIMOシステムでは、4つのチャネル推定が実施され、一方、4×4MIMOアーキテクチャでは、16のチャネル推定が実施される。
【0007】
その結果、単一入力および単一出力(SISO)の動作のために当初設計されたシステムは、MIMOチャネル推定を可能にするために、必要なチャネル推定トレーニングシーケンスについて、著しく修正されなければならない。
【0008】
以下の刊行されている国際特許出願も、MIMOシステムに関する。WO 03/04/1300 Al(Qualcomm)、WO 03/073552 Al(Nortel Networks)、WO 02/087108 Al(Koninklijke Philips)、WO 2004/038984 Al(Qualcomm)、WO 03/058871 A1(Qualcomm)、WO 03/050968 A2(Qualcomm)、WO 2004/054191 Al(Qualcomm)、WO 2004/038988 A2(Qualcomm)、およびWO 2004/008657 Al(Qualcomm)。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、通信システム、具体的には無線通信システムにおいてチャネルを選択するコンピュータのための方法、装置、およびプログラムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の第一の態様によれば、チャネルを特徴付けるために直交する送信ビームを使用するMIMOシステムのための信号を送信する方法が提供される。
【0011】
具体的には、複数入力および複数出力の通信システムのための信号を送信する方法が提供され、方法は、複数の所定の方向にわたって1セットの相互に直交する送信ビームを向けるステップと、送信ビームから、受信器において受信された信号の特性に応答して、相互に直交する送信ビームの好ましい方向を選択するステップとを含む。
【0012】
一実施形態では、複数の所定の方向は、利用可能な送信空間に実質的にわたる。
【0013】
他の実施形態では、特性は、受信信号の直交性の尺度である。
【0014】
他の実施形態では、選択された方向は、複数の所定の方向の1つである。
【0015】
他の実施形態では、選択された方向は、複数の所定の方向の1つである必要はない。
【0016】
他の実施形態では、選択された方向は、受信信号の特性から計算される。
【0017】
他の実施形態では、複数の所定の方向は、送信空間に実質的にわたるには不十分である。
【0018】
他の実施形態では、複数の所定の方向は、2つの方向からなる。
【0019】
他の実施形態では、好ましい方向は、受信信号の特性に適用された数学的計算に応答して選択される。
【0020】
他の実施形態では、送信ビームの数は、2、3、および4の1つである。
【0021】
他の実施形態では、選択は、送信方向を識別する指示の受信に応答して行われる。
【0022】
方法は、無線通信システムにおいて使用されることが可能である。
【0023】
いくつかの実施形態では、データの送信は、送信ビームを向ける間に続行される。
【0024】
他の実施形態では、少なくとも1つの送信ビームの変調レベルは、受信信号の特性に応答して選択される。
【0025】
他の実施形態では、特性は、複素チャネル利得である。
【0026】
他の実施形態では、変調レベルは、ゼロであるように選択される。
【0027】
他の実施形態では、変調レベルは、複素チャネル利得がそれぞれ小さいと測定される場合、ゼロであるように選択される。
【0028】
本発明の他の態様によれば、本発明に関連付けられた方法を実施するように構成された通信システムのための受信器装置が提供される。
【0029】
具体的には、複数入力および複数出力の通信システムのための受信器が提供され、受信器は、複数の所定の方向にわたって向けられる1セットの相互に直交する送信ビームから信号を受信するように構成された受信装置と、各所定の方向について、受信装置によって受信された信号の品質を表す、受信装置によって受信された信号の特性を決定するように構成された装置と、(a)複数またはすべての所定の方向の特性、および(b)受信信号の特性に応答して導出される好ましい方向の指示の少なくとも一方を送信するように構成された装置とを備える。
【0030】
本発明の他の態様によれば、本発明に関連付けられた方法を実施するように構成された通信システムのための送信器装置が提供される。
【0031】
具体的には、複数入力および複数出力の通信システムのための送信器が提供され、送信器は、複数の所定の方向にわたって1セットの相互に直交する送信ビームを向けるように構成された、ビームステアリング装置と、送信ビームから、受信器において受信された信号の特性に応答して、相互に直交する送信ビームの好ましい方向を選択するための選択装置とを備える。
【0032】
本発明は、随意選択で他の追加の装置と組み合わされる、本発明を実現する装置の1つまたは複数のインスタンスを備える通信のためのシステムをも提供する。
【0033】
具体的には、前述の態様による受信器および送信器を備える通信システムが提供される。
【0034】
いくつかの実施形態では、装置は、受信器、送信器、または組み合わされた両方であるかに関係なく、携帯式装置である。そのような機器は、確実に非限定的に、モバイル電話、携帯端末(PDA)、携帯コンピュータ、およびハンドヘルドデータ記録機器などを含むことが可能である。
【0035】
本発明は、以上の方法を実施するように構成されたコンピュータチップのセット(セットが単一のチップのみを備える場合を含む)をも提供する。そのようなチップのセットは、上述された装置およびシステムを構成する。
【0036】
本発明は、機械可読形態にあり、かつ、動作時、装置および/または方法の各機能を実施するように構成されたコンピュータソフトウエアをも提供する。この文脈では、そのようなコンピュータソフトウエアは、任意のレベルにおけるコード(たとえば、ソースコード、中間コード、オブジェクトコード、またはあらゆる他の「レベル」)を包含し、さらに、本発明を直接実施するために、本発明のコンピュータシミュレーションを創出するために、または本発明を実現することができるコンピュータ回路もしくはチップの物理的レイアウトを創出するために、コンパイルされるように構成されたコードを含むことを理解されたい。
【0037】
具体的には、複数入力および複数出力の通信システムのためのコンピュータのためのプログラムが提供され、プログラムは、複数の所定の方向にわたって1セットの相互に直交する送信ビームを向け、送信ビームから、受信器において受信された信号の特性に応答して、相互に直交する送信ビームの好ましい方向を選択するように構成されたコード部分を備える。
【0038】
複数入力および複数出力の通信システムのコンピュータのためのプログラムも提供され、プログラムは、複数の所定の方向にわたって向けられる1セットの相互に直交する送信ビームから信号を受信し、各所定の方向について、受信装置によって受信された信号の品質を表す、受信装置によって受信された特性を決定し、(a)複数またはすべての所定の方向の特性、および(b)受信信号の特性に応答して導出される好ましい方向の少なくとも一方を送信するように構成されたコード部分を備える。
【0039】
本発明は、本発明の他の態様によって使用される信号をも対象とする。
【0040】
具体的には、複数入力および複数出力の通信システムのための信号が提供され、信号は、トレーニングシーケンスを搬送する複数の相互に直交する送信ビームを備え、送信ビームは、方向の所定のセットにわたって向けられる。
【0041】
本発明の他の態様によれば、前述の態様による方法を実施するように構成された通信ネットワークにわたって提供される通信サービスが提供される。
【0042】
方法は、MIMOシステムにおけるチャネル計算によってチャネル推定を有効に置き換える。必要な計算の全体的な複雑さは、知られている方法と比較して低減され、その結果、方法を実施するために必要な時間が短縮される。
【0043】
さらに、長いトレーニングシーケンス(知られているシステムにおける個々の送信および受信アンテナの対あたり)の必要性が、著しく低減される。
【0044】
本発明の方法は、余分なMIMOトレーニングシーケンスを送信するために、既存のSISOシステムを修正する必要がないという点で、単一入力および単一出力(SISO)のシステムを著しく修正することを必要とせずに、チャネル推定を実施するために使用されることが可能である。SISO通信は、商用的に望ましいMIMOチャネルが推定されるのと同時に続行することができる。
【0045】
チャネル識別中、システムは、より低い送信レートまでドロップバックすることができ、たとえば、SISO送信が、チャネル識別中にチャネルにわたって続行されることを可能にする。
【0046】
好ましい特徴は、当業者には明らかであるように、適宜組み合わされることが可能であり、本発明の態様のいずれかと組み合わされることが可能である。
【0047】
本発明がどのように実施されることが可能であるかを示すために、ここで、本発明の実施形態が、例示としてのみ、添付の図を参照して以下に記述される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0048】
本発明は、特異値分解(SVD)に関して、チャネル行列の構造を利用するMIMOチャネルについて値を導出する方法を提供する。そのような方法は、知られているシステムより少ないチャネルトレーニングシーケンスを必要とすることが可能である。本発明は、最も「自然な」形態においてチャネルを直接見つけ、それにより、最適な通信を容易にする。
【0049】
図1を参照すると、可能な複数入力および複数出力(MIMO)のシステムは、複数の送信アンテナ要素Aに結合された送信ビームフォーマTを備える送信器システム、および複数の受信アンテナ要素Aに結合された受信ビームフォーマRを備える受信システムを備える。送信器要素は、受信器への複数の送信ビームを形成するように互いに関連して動作するように構成され、各送信ビームは、複数の送信器要素の放出によって形成される。
【0050】
順方向送信のための送信器システムに提供された信号ベクトルdが、適切な送信媒体Mにおいて複数の個々の経路Pにわたって送信アンテナから、受信器へ送信され、受信器から、受信信号ベクトルdが、順方向送信のために回復される。データベクトルdの要素dが、並行して送信される。
【0051】
送信器媒体および受信器に関連付けられたデータ変換は、それぞれ、データがシステムを通過する際にデータに作用する行列によって表すことができる。具体的には、ここで図2を参照すると、SVDの理論から、送信媒体Mによって実施され、nを受信アンテナ要素の数、およびnを送信アンテナ要素の数として、n行およびn列からなる変換を表す任意のチャネル行列Mは、以下のように表すことができることが知られている。
M=UΣV (1)
上式で、UおよびVは、それぞれ、Mの行空間および列空間にわたる直交行列であり、Σは、対角成分σが、UおよびVの行空間および列空間を接続し、それによりMを構成する特異値であり、(.)は、複素共役(エルミート)転地演算を表す。
【0052】
このSVDの形態は有用であるが、その理由は、行列Vによって決定された直交するビームの適切なセットが送信器によって形成される最適な場合、受信ビームが相互に直交し、それぞれが、送信ビームの1つを除いてすべてから分離されるように、1セットの直交する受信ビームUを受信器において形成することができるからである。すなわち、以下のようになる。
=(U×M×V)d
=(U×(UΣV)×V)d
=(U×U)Σ(V×V)d
=(I)Σ(I)d
=Σd (2)
上式で、Σはチャネル利得を表し、行列Σは、各要素が、直交チャネルのそれぞれのチャネル利得(非複素数)である対角行列である。
【0053】
これは、適切な直交する送信ビームセットVを探索し、受信器における直交性条件について試験することによって、Mを推定する機会を創出する。
【0054】
すべての条件が満たされるとき、UおよびVは識別され、各直交対のパワーは、測定されることができ、簡単にはΣにおける適切な値である。したがって、送信媒体を特徴付けるチャネル行列Mが見つけられる。
【0055】
第1の実施形態では、適切なビームフォーマのための探索プロセスを実施することが必要である。適切なビームフォーマのための探索は、送信器において直交ビームフォーマを使用することによって行われることが可能である。送信器における直交ビームフォーマは、列が直交する行列Bによって表されることが可能である。したがって、このビームフォーマは、第2のユニタリステアリング行列Jによって、直交するビーム形成空間にわたって向けられることが可能である。Jは、ユニタリ(直交)でなければならないが、その理由は、Jが実施する変換は、直交するビームを含まなければならないからである。したがって、受信器によって出力されたデータdに対する送信器に入力されたデータdに関する受信器と送信器との関係は、以下によって与えられる。
=(UΣV)×(JB)d (3)
Bは、任意のn×nの直交行列とすることができる。たとえば、容易に見つけられることができる、フーリエ直交セットとすることが可能である。
【0056】
2×2の場合について、行列Jは以下の形態を有することを示すことができる。
【数1】

上式で、c=cosθ、s=|sinθ|eiφである。目的は、行列JBがVに直交するように、Jの適切な値を識別することである。θおよびφの値を変化させることは、利用可能なビーム形成空間にわたって直交するビーム形成行列Bを向け、送信器および受信器においてパラメータを適切に選択するために、出力受信ビームは、以下のように直交する。
=Σ×d (5)
【0057】
ここで図3を参照して、2つの送信アンテナ要素AT1、AT2、および2つの受信器アンテナ要素AR1、AR2、ならびにチャネル行列Mの場合を具体的に考慮する。以下において与えられる例では、Mの特定の値が、すべての送信器アンテナと受信器アンテナの対間において独立レイリーフェーディングチャネルを想定して、確率モデルから導出される。
【0058】
【数2】

ステアリング行列Jは、以下の形態をとる。
【数3】

上式で、c=cosθ、s=|sinθ|eiφである。したがって、ビームは、θおよびφを変化させることによって、全複素直交空間にわたって向けられることが可能である。これは、事前に設定された領域にわたって個々の値を劇的に増分させることによって、またはθおよびφについて事前に設定されたエントリを有するルックアップテーブルによってなど、任意の適切な手段によって達成することができる。ビームステアリング機構30は、送信アンテナに供給された個々のデータストリームのパラメータx11、x12、x21、x22を決定する。
【0059】
図4aは、全φ空間にわたって向け、結果として得られる受信器ビーム間の内積を測定した結果を示す。図4bは、全θ空間にわたって向け、受信器ビーム間の内積を測定した結果を示す。図5は、組み合わされた(φおよびθ)探索空間の概略的プロットを示す。
【0060】
共に、3つのプロットは、ピークが、θおよびφの適切な値を識別して、送信ビーム形成行列Vを構築するために使用することができるどのような点であるかを示す。次いで、Uが、受信器出力によって決定される。ピークにおいて、Jを識別することができ、したがって、適切な送信ビーム加重行列V(=JB)が決定される。次いで、Uが、異なる送信ビームについて各受信器アンテナにおいて観測された信号ベクトル(大きさおよび位相)から構築される。チャネル利得Σは、2つの識別された直交する受信ビームについて測定されたパワーから構築されることが可能である。したがって、チャネル行列Mは、有効に識別される。
【0061】
チャネル利得行列Σについて導出された情報は、チャネル利得が許容可能なレベルより低いか、およびいつ低くなるか、したがって、ある送信ビームを使用するのに適切ではない可能性があるのはいつかを決定するために使用されることが可能である。所与の送信ビームに関する利得が過度に低くなり、それにより、そのSNRが、所与のレート(変調レベル)におけるデータ送信には過度に低くなる場合、そのビームの使用は、(一時的に)中断されることが可能である。したがって、この情報は、MIMOチャネルにわたる適応変調を支援するために使用されることが可能である。また、その時間において送信媒体によって支援される独立チャネルの数を識別するようにも作用する。特定の送信器/受信器ビーム対を使用することができないように、送信が完全に不可能であることができる。行列Σは、所与の時間および周波数において利用可能なMIMOチャネルの数を有効に識別する。
【0062】
上述された特定のチャネル行列について、必要なパラメータは、θ=22.21°およびφ=161.48°である。したがって予期される回転角度の追加のあいまいさのために、2つのピークが、φについて観測され、4つのピークが、θについて観測される。
【0063】
記述された詳細な例は、2つの送信アンテナおよび2つの受信アンテナを有するシステムに関するが、方法は、当然、より大規模なシステム、ならびに等しくない数の送信アンテナおよび受信アンテナを有するシステムに拡張されることができる。具体的には、図6を参照すると、3つの送信アンテナおよび3つの受信アンテナを有する構成が、構築されることが可能である。
【0064】
3つの送信アンテナおよび3つの受信アンテナを含む実施形態は、以下のように、送信加重の直交セットBを選択することを含む。
【数4】

【0065】
結果として得られるビームの直交セットは、それぞれの回転行列を使用して、すべての3つの直交平面を経て回転されることが可能である。
【数5】

【数6】

【数7】

上式で、c=cosθおよびs=sinθejφである。4×4システム以上への拡張は簡単であり、詳細は、当業者には明らかである。
【0066】
ここで図7を参照すると、チャネル選択の方法は、
送信器において、対応する送信加重xijを有する送信ビームの直交セットを選択するステップと、
所定の範囲の方向にわたって直交送信ビームのセットを向け、これが、たとえば、ステアリング行列Jを再計算すること、または記憶されているルックアップテーブルから所定のJの連続値を探索することを含むことが可能である、直交送信ビームのセットを向けるステップと、
受信器において、受信した送信器からの送信ビームを監視し、それらの直交性の尺度を得るステップと
直交性の尺度に応答して、その後使用される1セットの送信ビームを選択し、かつ送信器に選択を通知するステップとを含む。
【0067】
受信器の端部において識別された送信ビームのセットは、任意の適切な通信媒体および符号化によって送信器に再び通信されることが可能である。対応する送信加重xijは、送信行列Vにおける所望の加重Vijに対応する。所与の送信ビームの方向が、十分に長い間送信器において維持される場合、送信器に送信されるメッセージは、現在のビームの方向が選択されることを送信器に示すために、簡単な「停止」メッセージとすることが可能である。
【0068】
方法は、チャネルの特性が時間にわたって変化する可能性があるので、接続の初期セットアップの際だけでなく、送信の過程中、時々使用することもできる。
【0069】
一度に1つの送信アンテナのみからのデータの送信を必要とする、知られているシステムとは異なり、本発明の方法は、ライブデータ送信と同じ方式で、複数のアンテナ上において同時にトレーニングシーケンスを送信することを使用する。これは、トレーニングデータを個々の送信アンテナに供給するために、知られているシステムに存在する別の回路を必要としないことを意味する。個々の送信アンテナ/受信アンテナの対を構成するのではなく、共に作用する複数のアンテナによって形成されたビーム全体を有効に構成することによって、トレーニングシーケンスの数も低減されることが可能である。
【0070】
この技術の1つの具体的な応用分野は、高度化ワイヤレスローカルエリアネットワーク(WLAN)およびワイヤレスパーソナルエリアネットワーク(WPAN)のためのMIMO通信の分野にある。この市場における現行規格(すなわち、802.1lxファミリおよびブルートゥース)への更新は、関連する規格設定団体によって現在考慮されている。
【0071】
方法は、最も「自然な」形態のチャネルを直接見つけ、改良された最適通信システムが使用されることを可能にするので、方法は、すべての処理が、送信アンテナおよび受信アンテナにおいて実施されるという意味で独立型である。したがって、SISO通信は、MIMOチャネル推定が進行している間、続行することができる。
【0072】
4つ以上の送信器または4つ以上の受信器への拡張は、簡単である。
【0073】
上述された方法では、入力のための適切なステアリングパラメータを計算するために探索手続きが使用され、それにより、適切な解のために全空間にわたって探索することが必要である可能性がある。しかし、本発明者は、ステアリングパラメータは、内積の式を導出することによって、閉じた数学的手続きにより決定することができることをさらに実現した。
【0074】
複素数の2×2の場合を考慮し、チャネル行列のSVDについて明確に書くと、行列Bによって確定される2つの送信ビームからの出力は以下を与える。
【数8】

上式で、Bは、恒等式行列に等しい直交行列であるように選択される。
【0075】
【数9】

これにより、以下のようになる。
【数10】

これは、以下を与える。
【数11】

【数12】

受信ビームの内積を計算することにより、以下の形態の式が与えられる。
【数13】

上式では、以下の通りである。
【数14】

【0076】
その結果、内積は、θ=90°またはφ=0°であるとき、y(または、θ=0°であるとき、
【数15】

)を識別するために使用することができる。θ=45°またはφ=0°である場合、内積は、yを計算することができる項j/m(y)+y/2を与える。実数の場合のように、この式は、恒等式を使用することによって簡単にすることができる。
cosθ=0.5(1+cos2θ)
sinθ=0.5(1−cos2θ)
cosθsinθ=0.5sin2θ (19)
これにより、以下が与えられる。
【数16】

【0077】
この場合、目的は、式(20)がゼロであるように、パラメータθおよびφを識別することである。式(20)は、以下のように再構成することができる。
【数17】

または
【数18】

これにより、以下のようになり、
【数19】

式(22)の実数項と虚数項を等しくすることにより、以下が与えられる。
【数20】

【数21】

【0078】
式(25)から、以下としてφの解を導出することが可能である。
【数22】

この結果を再び式(24)に代入することにより、以下が与えられる。
【数23】

【0079】
その結果、適切な送信ビームが、式(27)により見つけられることが可能であり、特異値が、受信ビームの内積の平方根から見つけられることが可能である。
【0080】
例として、チャネル行列が下式によって与えられる以下の場合を考慮する。
【数24】

θ=0°およびφ=0°とすると、
【数25】

は、0.3047−j0.6621であることがわかる。同様に、θ=90°およびφ=0°である場合、yは、0.3047−+j0.6221であることがわかる。θ=45°およびφ=0°である場合、yは、1.7066であることがわかる。
式(26)を使用して
【数26】

について解くと、以下が与えられ、
【数27】

式(27)から、以下を有する。
【数28】

【0081】
したがって、必要なステアリング行列は、以下のようになる。
【数29】

【0082】
受信器における出力は、以下によって与えられる。
【数30】

これは、下式のために、直交ベクトルである。
【数31】

【0083】
その結果、チャネル行列の特異値は、以下のようになる。
【数32】

および
【数33】

【0084】
この方法は、θおよびφの2つの選択からyおよびyの値を計算するはるかにより簡単なタスクによって、直交条件を満たす解を見つけるためのすべてのθおよびφにわたる探索プロセスを置き換える。これらの2つの方向から、かつ閉じた形態の解を使用して、直交性を保証する
【0085】
【数34】

および
【数35】

の値を計算することができる。
【0086】
したがって、この後者のアプローチは、チャネルの特性に対して経て向けられなければならない送信方向の数を著しく低減し、収益を担うトラフィックに対して失われる送信帯域幅を対応して低減する。さらに、このアプローチにおいて必要な追加の計算は、比較的簡単であり、計算の遅延、およびしたがってチャネルの特徴付けの遅延をさらに低減するために、ルックアップテーブルによって(少なくとも部分的に)実施することができる。
【0087】
他の実施形態では、少なくとも1つの送信ビームの変調レベルが、受信信号の特性に応答して選択される。この特性は、たとえば、送信に関連付けられた複素チャネル利得Σとすることが可能である。いくつかの場合、たとえば複素チャネル利得がすでに非常に小さい場合、ゼロの変調レベルが割り当てられることが可能である。
【0088】
一般的に、最適なパワー割付けは、ウォータフィリングなどの知られている技術を使用して、尺度チャネル利得に基づいて様々なチャネルに対して行うことが可能である。
【0089】
本明細書の教示の理解について当業者には明らかであるように、本明細書において与えられたあらゆる範囲またはデバイスは、追求される効果を失わずに、拡張または変更されることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0090】
【図1】本発明による通信システムの概略図である。
【図2】本発明による送信媒体を表す例示的な行列を示す図である。
【図3】本発明による通信装置の他の概略図である。
【図4a】本発明による、受信ビームの出力の内積の逆数の絶対値が、φの関数としてどのように変化するかを示す概略的なグラフである。
【図4b】本発明による、受信ビームの出力の内積の逆数の絶対値が、θの関数としてどのように変化するかを示す概略的なグラフである。
【図5】本発明による、受信ビームの内積の逆数の絶対値が、探索空間全体にわたってどのように変化するかを示す概略的なグラフである。
【図6】本発明による通信システムの他の概略図である。
【図7】本発明による方法の概略図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数入力および複数出力の通信システムのための信号を送信する方法であって、
複数の所定の方向にわたって1セットの相互に直交する送信ビームを向けるステップと、
送信ビームから、受信器において受信された信号の特性に応答して、相互に直交する送信ビームの好ましい方向を選択するステップとを含む方法。
【請求項2】
複数の所定の方向が、利用可能な送信空間に実質的にわたる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
特性が、受信信号の直交性の尺度である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
選択された方向が、複数の所定の方向の1つである、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
選択された方向が、複数の所定の方向の1つであることを必要としない、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
選択された方向が、受信信号の特性から計算される、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
複数の所定の方向が、送信空間に実質的にわたるには不十分である、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
複数の所定の方向が、2つの方向からなる、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
好ましい方向が、受信信号の特性に適用された数学的計算に応答して選択される、請求項7または8に記載の方法。
【請求項10】
送信ビームの数が、2、3、および4の1つである、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
選択が、送信方向を識別する指示の受信に応答して行われる、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
無線通信システムにおいて使用される、請求項1から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
データの送信が、送信ビームを向ける間に続行される、請求項1から12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
少なくとも1つの送信ビームの変調レベルが、受信信号の特性に応答して選択される、請求項1から13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
特性が、複素チャネル利得である、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
変調レベルが、ゼロであるように選択される、請求項14から16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
変調レベルが、複素チャネル利得がそれぞれ小さいと測定される場合、ゼロであるように選択される、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
複数入力および複数出力通信のシステムのための受信器であって、
複数の所定の方向にわたって向けられる1セットの相互に直交する送信ビームから信号を受信するように構成された受信装置と、
各所定の方向について、受信装置によって受信された信号の品質を表す、受信装置によって受信された信号の特性を決定するように構成された装置と、
(a)複数のまたはすべての所定の方向の特性、および(b)受信信号の特性に応答して導出される好ましい方向の指示の少なくとも一方を送信するように構成された装置とを備える受信器。
【請求項19】
複数入力および複数出力の通信システムのための送信器であって、
複数の所定の方向にわたって1セットの相互に直交する送信ビームを向けるように構成されたビームステアリング装置と、
送信ビームから、受信器において受信された信号の特性に応答して、相互に直交する送信ビームの好ましい方向を選択するための選択装置とを備える送信器。
【請求項20】
請求項18に記載の受信器および請求項19に記載の送信器を備える、通信システム。
【請求項21】
装置が携帯式装置である、請求項18から20のいずれか一項に記載の装置。
【請求項22】
複数入力および複数出力の通信システムのコンピュータのためのプログラムであって、
複数の所定の方向にわたって1セットの相互に直交する送信ビームを向け、
送信ビームから、受信器において受信された信号の特性に応答して、相互に直交する送信ビームの好ましい方向を選択するように構成された、コード部分を備えるプログラム。
【請求項23】
複数入力および複数出力の通信システムのコンピュータのためのプログラムであって、
複数の所定の方向にわたって1セットの相互に直交する送信ビームから信号を受信し、
各所定の方向について、受信装置によって受信された信号の品質を表す、受信装置によって受信された信号の特性を決定し、
(a)複数またはすべての所定の方向の特性、および(b)受信信号の特性に応答して導出される好ましい方向の指示の少なくとも一方を送信するように構成された、コード部分を備えるプログラム。
【請求項24】
複数入力および複数出力の通信システムのための信号であって、信号が、トレーニングシーケンスを搬送する複数の相互に直交する送信ビームを備え、送信ビームが、方向の所定のセットにわたって向けられる信号。
【請求項25】
請求項1から17のいずれか一項に記載の方法を実施するように構成された通信ネットワークにわたって提供される通信サービス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4a】
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【図4b】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2008−504773(P2008−504773A)
【公表日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−518699(P2007−518699)
【出願日】平成17年7月4日(2005.7.4)
【国際出願番号】PCT/GB2005/002591
【国際公開番号】WO2006/003413
【国際公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【出願人】(501352882)キネテイツク・リミテツド (93)
【Fターム(参考)】