説明

NOxのSCRのための方法及び触媒システム

【課題】排気ガス中の窒素酸化物類を窒素に還元する方法を提供する。
【解決手段】還元剤の存在下に、少なくとも二つの触媒床を含む触媒システムに通過させることを含む、排気ガス中の窒素酸化物類を窒素に還元する方法であって、第一の触媒床が、鉄−ベータ−ゼオライトであり、そして下流の第二の触媒床が、アルミナ上に支持された銀である、前記方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンモニア及び尿素のような還元剤を用いて、排気ガスからの窒素酸化物類を還元するための方法及び触媒システムに関する。特に、本発明は、還元剤を用いて窒素酸化物類を還元するための二段床触媒(dual bed catalyst)システムであって、ここでこの触媒システムは、第一の触媒床が、鉄−ベータ−ゼオライト(Fe−ベータ−ゼオライト)であり、そして下流の第二の触媒床が、アルミナに支持された銀(Ag/Al)である、前記触媒システムに関する。より詳細には、本発明は、水素とアンモニアとの混合物を、排気ガスに添加し、そして続いてそのガスを、第一の触媒床が、鉄−ベータ−ゼオライト(Fe−ベータ−ゼオライト)であり、そして下流の第二の触媒床が、アルミナに支持された銀(Ag/Al)である適当な二段床触媒を通過させることによって、リーン−バーン燃焼エンジンからの排気ガス中のNOxを、窒素に転化するための方法及び触媒システムに関する。
【背景技術】
【0002】
据置型及び自動車の用途における排気ガスによる窒素酸化物類の放出は、長い間主要な環境問題であった。窒素酸化物類(NO)の有害な影響は良く知られており、そのため、より厳しい環境規制に対処できる方法及び触媒システムを見出すべく、集中的な研究が続けられている。NOx還元のための従来の触媒はバナジウムを含むが、これら触媒は、厳しくなる環境規制により、それらの使用の禁止が予想されるため、その魅力が次第に失われつつある。自動車ビジネス、特に、リーン−バーンエンジンにおいて、NOxの窒素(N)への還元は、普通、還元剤としてアンモニア又は尿素を用いて、適当な触媒による、いわゆる選択的接触還元(SCR)において実施される。
【0003】
リーン−バーン燃焼プロセス中の排気からNOxを除去するためにアンモニア(尿素の水溶液もまたはアンモニア源として使用できる)によってNOxの選択的接触還元(SCR)を利用するシステムは、据置型及び自動車の用途のいずれについても十分に確立されている。
【0004】
いくつかの用途、特に自動車の用途において、V/W/TiO及びFe−ゼオライトのような市販のSCR触媒を用いる場合、標準的なSCR反応(4NO+4NH+O=4N+6HO)は、いくつかの国の法律で定められているNOx転化率要求を満たすのには、低温(約200℃)では十分な速さではない。これら低温における高いNOx転化率を得る一つの方法は、いわゆる急速SCR反応(NO+NO+2NH=2N+3HO)を利用することである。通常の条件において、リーン燃焼排気中のNOxの主たる部分はNOである。したがって、急速SCR反応に要求される1:1に近いNO:NO比を得るためには、NOをNOに酸化するための酸化触媒が、SCR触媒の上流に通常使用される。この解決法にはいくつかの欠点:すなわち、(1)NO酸化に必要な酸化触媒が、高価なPtの高い充填量を要し;(2)酸化触媒が、時間とともに著しく失活してSCR作用における変化を招き、それがNH/尿素用量の調節を困難にし;(3)運転温度間隔全体にわたって1:1という最適のNO:NO比を得ることができないという欠点を有する。
【0005】
高いSCR活性は、急速SCR反応を利用することなく、Cu−ゼオライト材料によって達成できるが、Cu−ゼオライトは、Fe−ゼオライトと比べて、多くの用途におけるそれらの使用を制限するような熱水による失活傾向がある。
【0006】
米国特許第6,689,709号(特許文献1)は、高温(425、550℃)でアンモニアにより、窒素酸化物類の選択的還元のための鉄−ベータ−ゼオライトの使用を開示している。600〜800℃で0.25〜8時間触媒を予備スチーミング(pre−steaming)することにより、触媒が熱水的安定性となることを示している。
【0007】
Richter et al.(Catalysis Letters Vol. 94, Nos. 1−2, page 115, April 2004)(非特許文献1)は還元剤としてHとNHとの混合物を使用するとき、SCR触媒として良好な、Ag/Al機能に基づくいく種かの触媒を示している。NH:H:NOのモル比1:10:1、及び残りの酸素(6体積%O)を有するガスにおいて、200℃という低い温度でほぼ完全なNO転化が達成される。しかしながら、ガスから水素が除去される場合、NO転化は、150〜450℃の範囲内のすべての温度においてより制限されてしまう。NH:H:NOのモル比1:2.5:1を有するガス、すなわち、低減された量の水素及び残りの酸素(6体積%O)を有するガスにおいては、300℃で90%を超えるNO転化率が達成される。80%に近いNOx転化率は、NH:H:NOのモル比1:1.5:1を有するガス中300℃で得られる。換言すれば、1モルのNOを還元するには、1.5〜2.5又はそれ以上のモル数の水素が必要である。そのような触媒を単独で用いるには、より広い範囲の温度、すなわち、150〜550℃にわたって許容可能なNOx転化率を得るのに相当量の水素を使用する必要がある。
【0008】
アンモニア(又は尿素)によるH−支援のSCR除去におけるAg/Al触媒の性能に関する我々独自の研究では、この触媒が、十分な量の水素(1000ppm)の存在下で、175〜250℃の低温範囲内で、NH:H:NOのモル比約1:3:1を有するガスのNH−脱NO中に、非常に期待できるNOx転化率をもたらすことが示されている。しかしながら、費用を低く抑えるための望ましい水素の不在下では、触媒は、アンモニア又は尿素によるSCR除去において活性ではない。この触媒に関する我々の研究ではまた、1モルのNOを還元するのに、かなりの量の水素、すなわち、1.5〜2モルの水素が必要であることが示されている。さらには、触媒は、供給ガス中のSOの存在に起因して、特に、ガス中の高いSO濃度に短時間(例えば、30ppm、2時間)さらされる時、ガス中の低いSO濃度により長い期間(例えば、8ppm、8時間)さらされる場合と比較して、反復的な触媒サイクル後に不活性化する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許第6,689,709号
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Richter et al.(Catalysis Letters Vol. 94, Nos. 1−2, page 115, April 2004)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
したがって、上記の問題を克服する、NOx還元のための方法及び触媒を提供することが望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
当初、本出願人は、Ag/Al触媒を、Fe−ベータ−ゼオライトと単純に、機械的に混合することにより、低温(約200℃)において高いNOx転化率を得ることを意図していた。これは、上述したような急速SCR反応を促進するためにアンモニアの存在下でNOをNOに酸化できるという目標を伴う。しかしながら、研究により、次の思わぬ展開が認められた:本出願人は、驚くべきことに、鉄−ベータ−ゼオライトとアルミナ上に支持された銀とのこの順での、かつ、積層された触媒システムの形態での組み合わせ、及び、還元剤が、アンモニアと水素との混合物を含む場合に、アルミナに支持された銀だけが使用される場合と比較して、水素の消費量が低減されることを見出した。NH:H:NOのモル比約1:0.3:1を有するガス、すなわち、NOを1モル還元するのに1モルより少ない水素しか必要でないガスにおいてさえ、250〜550℃の広い温度範囲において良好なSCR触媒活性が見出される。本出願人は、鉄−ベータ−ゼオライトと、アルミナ上に支持された銀とのこの順での、かつ、積層された触媒システム(二段床触媒システム)の形態での組み合わせによって、失活に対する非常に高い耐性が得られることも見出した。したがって、150〜550℃の温度間隔全体にわたって触媒の活性が所望するレベルに保たれるだけでなく、その温度間隔全体にわたって得られるNOx転化率を得るための水素が、150〜200℃の最も低い温度でしか要求されず、使用される水素の量が、アルミナ上に支持された銀触媒を単独で使用する場合よりも低い。
【0013】
ここで用いられる“二段床”という用語は、少なくとも二つの触媒床、すなわち、上流床(第一の触媒床)と続く下流床(第二の触媒システム)とを含む触媒システムを意味する。“二段床”という用語は、第二の触媒床の下流の第三の床の使用を排除するものではない。
【0014】
従って、本発明の第一の局面において、本発明者等は、排気ガスを還元剤の存在下で、少なくとも二つの触媒床を含む触媒システムに通過させることを含む、排気ガス中の窒素酸化物類を窒素に還元する方法であって、上記の二つの触媒床において、第一の触媒床が鉄−ベータ−ゼオライトであり、そして下流の第二の触媒床がアルミナ上に支持された銀である、上記の方法を提供する。
【0015】
かくして、Ag/AlとFe−ベータ−ゼオライトを単純に機械的に混合することに替えて、それらを積層し、そしてそのようにしてそれらが物理的に分離されることは明らかである。鉄−ベータ−ゼオライトと下流のAg/Alの別々の層を有する本発明の触媒システムの性能が、混合されたAg/Alと鉄−ベータ−ゼオライトの性能より優れていることが見出された。積層された触媒は安定な性能を示し、そして反復的な触媒サイクルの後で失活化する傾向を全く示さない。
【0016】
好ましくは、還元剤は、アンモニア、尿素、水素、C14のようなアルカン類、アルケン類、及びそれらの混合物から選択される。より好ましくは、還元剤は、水素とアンモニアの混合物である。そのような還元剤は、下記の実施形態の一つ又は二つ以上と組み合わせて使用することもできる。
【0017】
好ましくは、上記又は下記の実施形態の一つ又はより多くと組み合わせて、ガス中のNH:H:NOのモル比は1:0.3〜3:1であり、そして反応温度は、150〜550℃の範囲内である。
【0018】
本発明の一実施形態において、上記又は下記の実施形態の一つ又はより多くと組み合わせて、第二の触媒床中の銀の量(銀充填量)は、0.5〜5重量%、より好ましくは銀の量は1重量%である。
【0019】
銀は、初期湿式含浸法によって充填してよい。
【0020】
アルミナは、好ましくは、SASOL (SASOL N1、BET表面積:150m/g)から市販のアルミナのようなγ−アルミナである。
【0021】
本発明者等は、本方法で使用される水素濃度において、銀充填量がNO転化率に対して影響を及ぼすことを見出した。より具体的には、本発明者等は、1重量%の銀充填により、広い温度範囲にわたって高いNO転化率と高いNH転化率の両方が得られることを見出した。150〜400℃の温度範囲内で約95%のNO転化率が得られる一方、150〜550℃の温度範囲全体にわたって、NH転化率が約95%である場合にNHスリップは低く維持される。これとは対照的に、触媒に対して2及び5重量%のようなより高い銀の充填量によって、低い転化率と高いアンモニアスリップの両方をもたらす結果となる。例えば、175℃において、2及び5重量%の場合のNOx転化率は、それぞれ80%及び70%であり、そしてその後温度が上昇するにつれて急に低減する。おそらくは、1重量%の銀充填量による高いNO及びNH転化率が、微細に分散されたAg種の低い酸化活性に起因する一方で、より高いAg充填量は、Ag種の小規模な凝集を招き得る。1重量%銀を有するこの第二の触媒は、アンモニア酸化において実質上不活性であるのに対し、より高い銀含有量、例えば、5重量%の銀によって、顕著なアンモニア酸化が起こり、そしてNOが形成する結果となる。
【0022】
本発明の別の実施形態において、上記又は下記の実施形態の一つ又は二つ以上と組み合わせて、アルミナはベーマイトである。本発明者等は、銀がこの特別なタイプのアルミナに、好ましくは、初期湿式含浸法によって充填され、特に、この第二の触媒中で銀の量が1重量%超である場合に、特に、この第二の触媒中で銀の量が2〜5重量%、より具体的には、2、3、及び5重量%である場合に、NOとNH転化率が高められることを見出した。例えば、アルミナ上の第二の銀触媒が、2重量%のAgを含み、そしてアルミナがベーマイトである場合に、300℃におけるNO転化率は、市販のアルミナ(γ−アルミナ、SASOL N1、BET表面積150m/g)上に2重量%のAgを使用する際の約60%から、ベーマイトを使用する際の約80%に高められる。おそらくは、Ag種が、このアルミナ表面とより強く相互に作用し、それにより、それらの凝集を減少できる一方で、望ましくない水素とアンモニア酸化抑制される。
【0023】
本発明のさらに別の実施形態において、上記又は下記の実施形態の一つ又はより多くえお組み合わせると、本方法は、不活性材料の少なくとも一つの層を第一と第二の触媒床の間に提供することをさらに含む。この不活性層材料は、好ましくは、5mmの石英層のような薄層として設けられる石英(SiO)である。Fe−ベータ−ゼオライト触媒床とアルミナ上の銀触媒床との間に不活性材料の層を挟むことにより、これらの活性床の完全な分離が可能になる。言い換えるならば、特に、NO還元のための触媒活性における望ましくない局部的な低下を生じさせるおそれのある触媒床の境界面におけるFe−ベータ−ゼオライト触媒とアルミナ上の銀触媒との混合が回避される。
【0024】
アンモニアは、アンモニア溶液又は尿素溶液の形態で供給できる。アンモニアが純粋な形態で供給される場合、加圧タンク中の液体アンモニアとして貯蔵できるか、あるいは例えば加熱又は国際公開第07000170A号パンフレットに記載されるようなその他の手段で、アンモニアが塩から遊離される金属アミン塩のような固体形態で貯蔵できる。よって、本発明のさらなる一実施形態により、上記又は下記の実施形態の一つ又はより多くと組み合わせて、アンモニアが遊離される固体金属アミンの形態のアンモニア貯蔵媒体からアンモニアが供給され、アンモニア分解反応器中でアンモニアが分解されることによって水素が供給される。そのような設定において、要求されるアンモニアと水素の流れは、図1に示すような設定において示されるように、アンモニアの二つの流れを別々に制御することによって達成できる;一方は排気ガスに直接流れ、そして他方はアンモニア分解反応を介して排気ガスに行く。
【0025】
それに代えて、アンモニアの一つの流れだけを制御し、そしてアンモニア水素比を、図2に示すようにアンモニア分解反応器中の温度を制御することによって変える。後者は、自動車用途において経験される運転条件の急速な変化に追随するために温度を十分迅速に変えられるアンモニア分解反応器が必要であり;それ故、それは、低い熱質量を有するある種のマイクロリアクターでならなくてはならない。水素の一部又は全部は、都合が良ければ、エンジン管理によって供給される。アンモニア分解反応器は、優先的にアンモニア分解触媒で充填される。そのような触媒は、Fe、Co、Ni、Ruのような活性金属又はそれらの組み合わせをベースとすることができる。しかしながら、アンモニア分解反応器に触媒作用を及ぼすことができるいずれの材料も使用可能である。
【0026】
水素は、水素貯蔵タンクから又は例えばディーゼルなどの燃焼プロセスで使用される燃料を幾分改質することによって供給できる。
【0027】
さらに別の実施形態において、上記又は下記の実施形態の一つ又は二つ以上を組み合わせて、本方法は、第二の触媒床の下流にアンモニア酸化触媒をさらに含み、好ましくは、触媒は白金を含む。そのような触媒は、SCRからのアンモニアスリップの酸化によって転化され、そして高いNO転化率により150℃又はそれよりも下の非常に低い温度でH−SCR反応を生じさせることができる。
【0028】
放出要求の全てを満たす自動車用途における排気処理システムを持たせるために、CO、HC及び粒子状の放出物を許容可能なレベルまで還元するその他の要素を有する排気システム中にSCR触媒がしばしば位置する。酸化触媒は、CO及び炭化水素をCO及びHOの形態に酸化することによって転化する。粒状物(ほとんどが煤)は、再生を助けるよう触媒化できる可能性のあるパーティキュレートフィルター中に捕捉される。図3〜図5に例示されるように、これらの要素は、別々の方法で配置できる。最適の構成は、特定のエンジン並びに用途に依存する。表1は、異なるシステムによってもたらされる利点、欠点及び機会を示す。
【0029】
フィルターの再生(酸化による煤の除去)は、最適のシステムを設計する関連局面でもある。再生は、通常運転中の受動的な手段によってある程度まで達成できる。このことは、フィルターが煤酸化触媒で被覆されたフィルターに及び/又はOと比較して煤酸化における比較的高い活性のNOに、最も頻繁に依存する。NOによる煤の酸化は、200℃ですでに始まる。いずれの方法も、図3〜図5に示すシステム中で使用可能である。フィルターが、SCR触媒後に配置されたシステムにおいては、NHの流れが時折停止されない限り、NOを煤酸化剤として使用できず、その流れの停止は潜在的に行い得る。
【0030】
もし、受動的な再生がフィルターを清浄に保つのに十分でない場合、能動的な再生が時々必要である。これは、フィルターを、捕捉された煤が酸素リッチの雰囲気中で燃焼される温度まで加熱することによって達成される。典型的には、フィルター中の全部の煤が酸化された完全な再生には650℃の温度で10分間が必要である。ディーゼル用途においては、そのような高い排気温度は、そのようなエンジン運転のもとで比較的高い濃度の不燃焼ディーゼルを燃焼させるために、排気システム中でディーゼル酸化触媒と組み合わせて、後にディーゼルをエンジンに注入するによって最も頻繁に達成される。しかしながら、フィルターの電気加熱のような及びフィルターの前に別の燃料バーナーを適用するようなその他の手段もまた選択肢となる。
【0031】
【表1】

【0032】
活性触媒成分は、ほとんどの用途に関して、モノリス基材上に被覆される。好ましくは、上記又は下記の一つ又はより多くの実施形態と組み合わせて、鉄−ベータ−ゼオライト及びアルミナ上の銀触媒は、Fe−ベータ−ゼオライトと下流のAg/Alの物理的な分離の必要性だけでなく、排気システムにおける低い圧力低下による通常の機械的に安定な触媒要素を得るために、モノリス基材の両端にそれぞれ被覆される。モノリス基材は、押出成形されたコージライト、あるいは金属又は繊維材料の波形構造物をベースとすることができる。
【0033】
触媒は、フィルターとSCRを、図3に示すシステム中で機能的に統合するために、パーティキュレートフィルター上に別々に被覆することもできる。
【0034】
本発明の第二の局面において、本発明者等は、本方法で使用される触媒システムを提供する。従って、請求項11に記載されるように、本発明者等は、少なくとも二つの触媒床を含む、排気ガスから窒素酸化物類の還元のための触媒システムであって、第一の触媒床が鉄−ベータ−ゼオライトであり、そして下流の第二の触媒床がアルミナ上に支持された銀である、上記の触媒システムも提供する。
【0035】
別の実施形態において、触媒システムは、請求項12に記載されるように、材料の少なくとも一つの不活性層を第一と第二の触媒床の間にさらに含むことができる。これにより、上記で説明したように、鉄−ベータ−ゼオライトとアルミナ上の銀との完全な分離を可能にすることにより、特に両方の触媒の接触境界面における、性能の潜在的な局部的低下を低減できる。
【0036】
請求項11又は12による触媒システムは、ガス中に残存するいずれのアンモニアも除去するだけでなく、非常に低い温度、すなわち100℃のような150℃よりも低い温度において高い性能(高いNO転化率)を促進するために、第二の触媒床の下流にアンモニア酸化触媒床をさらに含むことができる。
【0037】
請求項11〜13のいずれか一つに記載の触媒システムは、還元剤、好ましくは、アンモニア、尿素、水素、アルカン類、アルケン類、及びそれらの混合物、より好ましくは、水素とアンモニアの混合物、最も好ましくは、等モル量濃度の水素とアンモニアの混合物から選択される還元剤の存在下で使用される。
【0038】
請求項14に記載されるように、本発明は、リーン燃焼エンジン、ガスタービン、及びボイラーからの排気ガスの処理のための、請求項11〜13のいずれか一つに記載の触媒システムの使用をも包含する。
【図面の簡単な説明】
【0039】
添付の図面を参照すると、
【図1】本発明の方法の一般的な実施形態を示しており、ここで、アンモニアと水素は、流れが合流し、排気ガス中のSCR触媒システムと接触する前の別個のラインに供給される。
【図2】本発明の方法の実施形態を示しており、そこでは、アンモニアと水素は、単一のラインを介して供給され、そのラインでは、水素は排気ガス中のSCR触媒システムと接触する前にアンモニア分解反応器とを通過することによって生成される。
【図3】図1の一般的な実施形態のより具体的な実施形態を示しており、排気ガス中のSCR触媒システムに関する酸化触媒とパーティキュレートフィルターの異なる配置を含んでいる。
【図4】図1の一般的な実施形態のより具体的な実施形態を示しており、排気ガス中のSCR触媒システムに関する酸化触媒とパーティキュレートフィルターの異なる配置を含んでいる。
【図5】図1の一般的な実施形態のより具体的な実施形態を示しており、排気ガス中のSCR触媒システムに関する酸化触媒とパーティキュレートフィルターの異なる配置を含んでいる。
【図6】NH SCRにおける1重量%Ag/アルミナの性能に対するH濃度の影響を示している。上部は、NOx転化率を示し、そして下部はNH残部(残量)の百分率を示している。
【図7】NH SCR中に積層された鉄−ベータ−ゼオライト及び1重量%Ag/アルミナを含む本発明による触媒の性能に対するH入り口濃度の影響を示している。上部は、NOx転化率を示し、そして下部はNH残部(残量)の百分率を示している。
【図8】単純に機械的に混合された鉄−ベータ−ゼオライト及びアルミナ上の銀対鉄−ベータ−ゼオライト及びアルミナ上の銀の二段床触媒の、失活に関する比較調査を示している。上部は、NOx転化率を示し、そして下部はNH残部(残量)の百分率を示している。
【実施例】
【0040】
例1(比較):
濃度が100〜1600ppmに変化する際のNH−脱NO中の1%Ag−Al(1重量%)おける性能を評価するために、実験を行った。これらの実験により、H共供給(coffeding)によるプロセス全体の効果の、高いNOx転化率に必要なHの量の観点での評価が可能になる。
【0041】
1重量%Ag/Al(SASOL 1、SBET=150m/g)を含む触媒を、初期湿式含浸法によって調製した。その際、3.0gAl(SASOL N1)を、初期湿式含浸法により、0.014gAg/mlを含むAgNOの水溶液(2.2ml)に含浸することによって、1重量%Agを充填した。生成物を空気中において室温で一晩乾燥させた。得られた材料を、気流(〜300ml/分)中で600℃において(4時間)か焼した。温度は、0.5℃/分の速度で室温から600℃まで高めた。
【0042】
NH−脱NOx中の1%Ag−Alの性能を異なるH濃度において図6中の上部に示す。反応条件:GHSV=72000h−1、供給ガス組成:345ppm NH、300ppmNO、100〜1600ppmH、7%O、4.5%HO、10%CO、残部N。全体の流速:500ml/分。触媒充填量:0.36g1% Ag/Al(Sasol#1)。
【0043】
NOx転化率は、H濃度が100〜750ppmに上昇するにつれて急速に上昇し、1000及び1600ppmまでのH濃度のさらなる上昇は、NOx転化率をとりわけ向上させない。排気ガス中に残存するNHの量の依存性もまた、100〜750ppmへのH濃度の上昇が、結果として、NHスリップの急速な低減を招く一方で、H含有量のさらなる上昇はこのパラメーターを本質的に変化させない。
【0044】
注目すべきは、水素含有量が最適量未満(例えば500〜250ppm)である場合の反応温度によるNOx転化率の変化である。NOx転化率は、250〜450℃において本質的に一定のままであり、反応温度のさらなる上昇にともない若干低減される。このことは、反応速が、広い温度範囲内の反応温度で実質上変化しないことを示している。同様の傾向が、排気ガス中に残存するNHの量の分析によって関連づけることができる(図6、下部)
【0045】
これらのデーターは、反応速度が本質的に広い温度範囲内での反応温度に依存していることをほのめかしている。反応機構全体のある工程中に水素が加わり、そして触媒に供給された水素の量と転化されたNOxの量との間に化学量論的関係があることが考えられる。従って、NH−脱NO中のAg/AlによるNOx転化率は、水素濃度に関して非常に感応性であると思われる。1つのNO分子の還元には、少なくとも1.5〜2の水素分子が必要である。
【0046】
例2(本発明):
NH−脱NO中の積層されたFe−ベータ−ゼオライト(市販のCP7124)と、1%Ag−Al(1重量%)の性能を異なるH濃度において調査した。反応混合物中に添加されたHの量を、100ppm〜1600ppmに変え、そして触媒性能を100〜550℃で評価した。反応条件:供給ガス組成:340ppmNH、300ppmNO、100−1600ppmH、7%O、4.5%HO、10%CO、残部N。全体の流速: 500ml/分。触媒充填量:0.12gFe−ベータ−ゼオライト(前部層)+0.36g1% Ag/Al(下流層)。
【0047】
積層された触媒は0.12g最上層(0.2cm)のFe−ベータ−ゼオライト、フラクションの0.4〜1.0mm、及び0.36g最下層(0.5cm)の1重量%Ag/Al(SASOL 1)。
【0048】
積層された触媒は、初期湿式含浸法によって調製され、その際、5.0gAl(SASOL N1)を、0.014gAg/mlを含むAgNOの水溶液(3.7ml)に初期湿式含浸させて、1重量%のAgで充填した。生成物を、空気中で室温において一晩乾燥させた。得られた材料を、気流(〜300ml/分)中で550℃において(4時間)か焼した。温度は、0.5℃/分の速度で室温から550℃まで高めた。
【0049】
最上層:0.12g(0.2cm)のCP7124(Fe−ベータ)、フラクション0.4〜1.0mm
【0050】
最下層:上述のように調製された0.36g(0.5cm)の1重量%Ag/Al(SASOL 1)−100、フラクション0.4〜1.0mm
【0051】
積層された(二段床)Fe−ベータ−ゼオライト及び1%Ag−Alの異なるH濃度における性能を、図7の上部で比較している。100〜525ppmのH濃度の上昇が結果として150〜300℃の温度範囲において触媒性能を急速に向上させる。750、1000及び1600ppmそれぞれまでのH濃度のさらなる上昇は、結果として、触媒性能のわずかな上昇を招き、これは特に120〜170℃で顕著である。触媒性能における最も顕著な向上は、H含有量が500〜600ppmに上昇する際に観察される。
【0052】
例1により、本発明者等は、Ag/Al触媒に関して、1モルのNOの還元に、1.5〜2モルのHが必要であることを見出した。入口NO濃度が約300ppmであり、その一部が、前面のFe−ベータ−ゼオライトによって還元されることを考慮すると、500ppmのHが、残りのNOxの効率的な還元に十分であろう。
【0053】
積層されたFe−ベータ−ゼオライト/1%Ag−Al触媒は、Ag−Al触媒(例1)と比較して、H濃度に対する性能の同様の依存性を示している。一方、Fe−ベータ−ゼオライト触媒の存在により、100ppmという低いH濃度でさえも、250〜550℃における良好な触媒活性がもたらされる。150〜250℃内において、H濃度の525ppmへの上昇により触媒性能の顕著な向上が達成できる一方、750〜1600ppmへのさらなる上昇の結果、NOx転化率のわずかな向上を招く。これらのデーターは、積層された触媒システムが、Ag−Al成分とFe−ベータ−ゼオライト成分との間の性能の相乗効果に起因して、Ag−Alと比較して、H消費量に関してより効果的であることを示している。より詳細には、水素消費量が、アルミナ上に支持された銀だけが使用された場合と比較して低減される。良好なSCR触媒活性(250℃ですでに約60%NOx転化率)が、約1:0.3:1モル比のNH:H:NOを有するガスでさえ、250〜550℃の広い温度範囲で見られる、すなわち1モルのNOの還元に、1モルより少ない水素しか必要としない。
【0054】
例3:
Fe−ベータ−ゼオライトをAg/Alと単純に機械的に混合した混合物の性能を、Fe−ベータ−ゼオライトとAg/Alとの二段床と比較した。その際、両方の触媒は空間的に分離されており、Fe−ベータ−ゼオライトは触媒の前部である。
【0055】
機械的に混合された触媒システム:0.31g(0.5cm)の1重量%Ag/Al(ベーマイト)−下記のように調製された−を、0.12g(0.2cm)のFe−ベータ−ゼオライト(CP 7124)を混合し、完全に粉砕して粉末とし、そして0.4〜1.0mmのフラクションに圧縮した。1重量%のAg/Al(ベーマイト)を、初期湿式含浸法で調製した。その際、3.0gのベーマイトを、0.014gAg/mlを含むAgNO水溶液(2.2ml)に初期湿式含浸させて、1重量%のAgを充填した。生成物を、空気中で室温において一晩乾燥させて、得られた材料を、気流(〜300ml/分)中で600℃において(4時間)か焼した。0.5℃/分の速度で温度を、室温から600℃まで高めた。得られた混合物の触媒組成は、1重量%Ag/Al(ベーマイト)(0.31g)+Fe−ベータ−ゼオライト(0.12g)であった。
【0056】
積層された(二段床)触媒:積層されたFe−ベータ−ゼオライト+1重量%Ag/Al(ベーマイト)の触媒システムを調製した。最上層は、0.12g(0.2cm)のFe−ベータ−ゼオライト(CP 7124)、フラクションの0.4〜1.0mmを含んでいた。最下層は、0.31g(0.5cm)の1重量%Ag/Al(ベーマイト)(上記のように調製された)、フラクションの0.4〜1.0mmからなるものであった。その結果積層された触媒の触媒組成は、Fe−ベータ−ゼオライト(0.12g)+1重量%Ag/Al(ベーマイト)(0.31g)であった。
【0057】
得られたこのデーターは、おそらくは、反応混合物中における冷却後の触媒が加熱されると、混合された触媒の激しい失活を示している。図8において、混合システムと積層された触媒システムの安定性を、反復触媒運転に対して比較する。
【0058】
第二の及び続く触媒運転の工程中、積層された触媒の失活はない(円及び四角)。積層された触媒の安定性は、混合された触媒(三角)と比較して著しくより高いと思われ、そのために1度の運転後の性能を示す。
【0059】
不完全なNOx転化(図8、上部)は、供給ガス中における低下したアンモニアの濃度によるものであることがわかった。アンモニア含有量を340〜350ppmに増加した後、3度の運転後の、積層された触媒によるNOx転化率(ひし形)は、1度の運転後の新たに調製された混合された触媒によって観察される場合(三角)と本質的に同じである。この図は、積層されたFe−ベータ−ゼオライト(前部)+Ag−Al(下流)触媒の性能が、混合されたAg−Al+Fe−ベータ−ゼオライト触媒の性能よりも優れていることが判明したことを示している。この前者の触媒は、安定な性能を示し、かつ、反復的触媒サイクル後の失活傾向を全く示さない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
還元剤の存在下に、少なくとも二つの触媒床を含む触媒システムに通過させることを含む、排気ガス中の窒素酸化物類を窒素に還元する方法であって、第一の触媒床が、鉄−ベータ−ゼオライトであり、そして下流の第二の触媒床が、アルミナ上に支持された銀である、前記方法。
【請求項2】
前記還元剤が、アンモニア、尿素、水素、アルカン類、アルケン類、及びそれらの混合物から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記還元剤が水素とアンモニアの混合物である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記第二の触媒床中の銀の量が0.5〜5重量%である。請求項1〜3のいずれか一つに記載の方法。
【請求項5】
前記銀の量が1重量%である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記アルミナがべーマイとである、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
少なくとも一つの材料の不活性層を、前記第一の触媒床と第二の触媒床との間に設けることをさらに含む、請求項1〜6のいずれか一つに記載の方法。
【請求項8】
前記アンモニアが、アンモニアが放出される固体金属アミンの形態のアンモニア貯蔵媒体から供給され、そして、前記水素が、アンモニア分解反応器中でアンモニアを分解させることによって供給される、請求項1〜7のいずれか一つに記載の方法。
【請求項9】
アンモニア酸化触媒床を、前記第二の触媒床の下流にさらに含む、請求項1〜8のいずれか一つに記載の方法。
【請求項10】
前記鉄−ベータ−ゼオライト触媒及びアルミナ上に支持された銀触媒が、モノリス基材の両側に被覆される、請求項1〜9のいずれか一つに記載の方法。
【請求項11】
第一の触媒床が、鉄−ベータ−ゼオライトであり、そして下流の第二の触媒床が、アルミナ上に支持された銀である、少なくとも二つの触媒床を含む、排気ガスからの窒素酸化物類を還元するための触媒システム。
【請求項12】
少なくとも一つの材料の不活性層を、前記第一の触媒床と第二の触媒床との間にさらに含む、請求項11に記載の触媒システム。
【請求項13】
アンモニア酸化触媒床を前記第二の触媒床の下流にさらに含む、請求項11又は12に記載の触媒システム。
【請求項14】
リーン燃焼エンジン、ガスタービン、及びボイラーからの排気ガスの処理のための、請求項11〜13のいずれか一つに記載の触媒システムの使用。

【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−78968(P2011−78968A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2010−212322(P2010−212322)
【出願日】平成22年9月22日(2010.9.22)
【出願人】(590000282)ハルドール・トプサー・アクチエゼルスカベット (50)
【Fターム(参考)】