Ni合金ターゲット材の製造方法
【課題】 スパッタリング膜のバラツキを抑制すべく、均一な組織を有するNi合金ターゲット材を製造する方法を提供する。
【解決手段】 (Cr、Mo、W)から選ばれる1種または2種以上を10〜30質量%含み、残部Niおよび不可避的不純物からなるNi合金ターゲット材の製造方法において、前記Ni合金を溶解鋳造したインゴットを温度800〜1300℃、圧下率50%以上で塑性加工を施した後、800〜1300℃で0.5〜3時間の再結晶化熱処理を行うNi合金ターゲット材の製造方法である。
【解決手段】 (Cr、Mo、W)から選ばれる1種または2種以上を10〜30質量%含み、残部Niおよび不可避的不純物からなるNi合金ターゲット材の製造方法において、前記Ni合金を溶解鋳造したインゴットを温度800〜1300℃、圧下率50%以上で塑性加工を施した後、800〜1300℃で0.5〜3時間の再結晶化熱処理を行うNi合金ターゲット材の製造方法である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、垂直磁気記録媒体のNi合金中間層を形成するためのNi合金ターゲット材の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、磁気記録技術の進歩は著しく、ドライブの大容量化のために、磁気記録媒体の高記録密度化が進められている。しかしながら、現在広く世の中で使用されている面内磁気記録方式の磁気記録媒体では、高記録密度化を実現しようとすると、記録ビットが微細化し、記録ヘッドで記録できないほどの高保磁力が要求される。そこで、これらの問題を解決し、記録密度を向上させる手段として垂直磁気記録方式が検討されている。
【0003】
垂直磁気記録方式とは、垂直磁気記録媒体の磁性膜中に媒体面に対して磁気容易軸が垂直方向に配向するように形成したものであり、記録密度を上げてもビット内の反磁界が小さく、記録再生特性の低下が少ない高記録密度に適した方法である。そして、垂直磁気記録方式においては、記録感度を高めた磁気記録膜層と軟磁性膜層とを有する記録媒体が開発されており、このような媒体構造では、軟磁性層と磁気記録層の間に中間層や下地層が成膜された記録媒体が開発されている。
そして、このような記録媒体の中間層としては、中間層上に形成される下地層や磁気記録層の配向を制御する作用が要求されており、Ni−W系などのNi合金を適用することが提案されている(例えば、特許文献1)。
【特許文献1】US2006/0275629 A1
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載されるNi合金の中間層は一般的にスパッタリング法により成膜される。そして、スパッタリングにおいては、希ガスイオン(典型的にはAr+イオン)がターゲット材表面に衝突した際、原子間に割り込み、その周囲の原子を激しく振動させる。その振動はターゲット材の結晶最密方向に最も伝播されやすく、表面原子が最密方向へ放出される。さらに、ターゲット材の結晶粒界は、結晶配列が大きく乱れているため、スパッタリング中の原子放出挙動が結晶粒内とは異なる。したがって、結晶粒径が不均一になるとスパッタ膜がバラツキ易くなるという問題がある。
また、特許文献1に記載されるNi合金膜を形成するためのスパッタリング用ターゲット材は、一般的にNi合金の溶解鋳造インゴットに圧延を施して作製されている。本願発明者らの検討によれば、溶解鋳造−圧延でNi合金ターゲット材を作製したところ不均一な金属組織となることを確認した。
本発明の目的は、上記の問題を解決し、スパッタリング膜のバラツキを抑制すべく、均一な組織を有するNi合金ターゲット材を製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記の問題に関して種々の検討を行った結果、Ni合金を溶解鋳造したインゴットを適度な温度範囲と圧下率で熱間塑性加工をした上で、適切な温度で再結晶化熱処理を行うことで、ターゲット材の厚さ方向における金属組織の不均一性を改善できることを見出し本発明に到達した。
【0006】
すなわち、本発明は、(Cr、Mo、W)から選ばれる1種または2種以上を10〜30質量%含み、残部Niおよび不可避的不純物からなるNi合金ターゲット材の製造方法において、前記Ni合金を溶解鋳造したインゴットを温度800〜1300℃、圧下率50%以上で塑性加工を施した後、800〜1300℃で0.5〜3時間の再結晶化熱処理を行うNi合金ターゲット材の製造方法である。
また、本発明のNi合金ターゲット材の製造方法は、IVa族(Ti、Zr、Hf)、Va族(V、Nb、Ta)、IIIb族(B、Al、Ga、In)、IVb族(C、Si、Ge、Sn、Pb)から選択される1種または2種以上を5質量%以下含むNi合金にも適用できる。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、安定したスパッタリングが行える垂直磁気記録媒体の中間層を成膜するためのNi合金ターゲット材を提供でき、垂直磁気記録媒体を製造する上で極めて有効な技術となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の最も重要な特徴は、スパッタリングの安定化のために厚み方向に均一な金属組織を有するNi合金ターゲット材を得るべく、Ni合金を溶解鋳造したインゴットを適度な温度範囲と圧下率で熱間塑性加工をした上で、再結晶化の促進が十分に可能な適度な温度域で熱処理を行うNi合金ターゲット材の製造方法を見出した点にある。
【0009】
まず、本発明のNi合金の合金組成について説明する。
本発明のNi合金ターゲット材は、(Cr、Mo、W)から選ばれる1種または2種以上を10〜30質量%含み残部Niおよび不可避的不純物からなる組成とする。
本発明で製造されるNi合金ターゲット材は、垂直磁気記録媒体の中間層の形成に適用され、その中間層は、上部に形成される下地層や磁気記録層の配向を制御する作用を有する必要がある。そこで、まず、Ni合金でなる中間層は、上部膜の配向を制御するため面心立方構造(fcc)を維持することが重要となる。また、特にマグネトロンスパッタリング法で効率的に成膜を行うためにターゲット材としてはNiが元来有する磁性を低下させる必要がある。そのため、スパッタリング成膜した際に、fccを維持しつつ、ターゲット材として磁性を低減するため、Niに対して(Cr、Mo、W)から選ばれる1種または2種以上を10〜30質量%含むこととした。また、スパッタリング膜の耐食性を向上させるためにも、Niに対して上記元素を10〜30質量%含むことが効果的である。
【0010】
次に、本発明のNi合金ターゲット材の製造方法を説明する。
まず、上記組成となるように溶解鋳造されたNi合金インゴットを得、続いて、そのNi合金インゴットを温度800〜1300℃に加熱し、圧下率50%以上の塑性加工を施す。
Niに対して、Cr、Mo、Wを10質量%以上含むNi合金においては、Ni合金インゴットの塑性加工性を向上させるために、800〜1300℃の熱間領域での塑性加工が必要となる。加熱温度が800℃未満の場合には、加工性が十分でないため、塑性加工時に割れ等が発生する可能性が高くなる。また、1300℃を超える場合には液相発現温度に近づきすぎるために、逆に軟化によって塑性加工性の低下が生じ、正常な塑性加工が困難な場合が生じるためである。
【0011】
また、鋳造インゴットからの塑性加工における圧下率は、トータルで50%以上とする。インゴットからの圧下率を50%以上とすることで、鋳造組織を破壊することが可能となり、次工程の再結晶化熱処理において、均一な再結晶組織を得られるためである。なお、圧下率とは、((インゴット厚さ−塑性加工後厚さ)/インゴット厚さ)×100(%)で表すものである。
また、塑性加工においては、鋳造インゴットから圧下率10〜30%の圧延を数回行いトータルで圧下率が50%以上とすることが好ましい。さらにインゴットの形状によっては、インゴットを上記温度域で熱間鍛造した後に熱間圧延を行ってもよい。その場合にもインゴットからの圧下率は50%以上とする。
【0012】
次いで、熱間塑性加工後に、800〜1300℃で0.5〜3時間の再結晶化熱処理を行う。熱間塑性加工後に、上記の温度域で熱処理を行うことはNi合金の均一な再結晶組織を得るために重要である。熱間塑性加工において、動的再結晶が進行する場合もあるが、均一な組織を得るためには、上記の温度域での熱処理を行うことで、素材の厚さ方向に均一な再結晶組織を得ることができる。
なお、熱処理温度が800℃未満の場合には、再結晶が十分に進行しない場合があり、1300℃を超える場合には、再結晶の際の結晶成長が早くなり、均一な金属組織を得がたくなる場合があるため上記の温度範囲とする。また、熱処理時間が0.5時間に満たない場合には、塑性加工、特に圧延時の方向性が残存した金属組織のままであり、3時間を超える場合には結晶成長が進行し過ぎる場合があるため、加熱時間は0.5〜3時間に設定する。
【0013】
また、本発明のNi合金ターゲト材は、IVa族(Ti、Zr、Hf)、Va族(V、Nb、Ta)、IIIb族(B、Al、Ga、In)、IVb族(C、Si、Ge、Sn、Pb)から選択される1種または2種以上の添加元素を5質量%以下含んでもよい。これらの元素を含むことで、スパッタ膜特性に大きな影響を及ぼすことなく耐食性の改善が可能となるためである。
【0014】
また、本発明のNi合金ターゲット材の酸素量は100質量ppm以下に制御することが好ましい。垂直磁気記録媒体の中間層成膜は、膜の結晶系や配向が重要であり、ターゲット材中の酸素量が100質量ppmを超えると結晶系や配向に影響を及ぼすためである。
ターゲット中の酸素量を100質量ppm以下に制御するためには、例えば、純度99.9%以上の原料を用い真空中の高周波加熱炉で加熱・溶解後鋳造をすればよい。
【0015】
また、上記の製造方法で得られるNi合金ターゲット材は、ターゲット材の板厚方向における組織を平均結晶粒径が200μm以下の再結晶組織とすることが好ましい。平均結晶粒径が200μmを超えると金属組織のバラツキが大きく、スパッタリング時の安定性が低下する場合があるためである。より好ましくは、150μm以下である。
【実施例1】
【0016】
Ni−20Cr(質量%)のNi合金となるように原料を秤量し、溶解鋳造したインゴットを得た。なお、鋳造インゴットは、純度99.9%以上の原料を用い真空中の高周波加熱炉で加熱・溶解したのち、鉄製の鋳型に鋳造し作製した。その後、表1に示す製造条件で、塑性加工および熱処理を施したNi合金素材を得た後、機械加工によってΦ164×7(mm)の円板形状のNi−Crターゲット材を作製した。作製したターゲット材の板厚方向の中心から10×10×7(mm)の試料を作製して、ミクロ組織観察及び酸素量分析を行った。ミクロ組織観察において測定した平均結晶粒径および酸素量分析の結果を表2に示す。なお、ミクロ組織は上記の試料を鏡面研磨後に塩化第二鉄水溶液で化学腐食を行った後に光学顕微鏡で観察した。試料1〜6のそれぞれのミクロ組織を図1〜図6に示す。平均結晶粒径は、光学顕微鏡で観察した像を、JIS G551の切断法に準じて測定した1結晶粒当たりの平均線分長として示した。ただし、試料5および6は圧延組織のため測定不可であった。また、酸素量分析は、赤外線吸収法で行った。
【0017】
【表1】
【0018】
【表2】
【0019】
表1及び表2から、本発明のNi合金ターゲット材の製造方法により得られたNi合金ターゲット材では、均一な金属組織が得られていることが分かる。
【実施例2】
【0020】
Ni−20W(質量%)のNi合金となるように原料を秤量し、溶解鋳造したインゴットを得た。なお、鋳造インゴットは、純度99.9%以上の原料を用い真空中の高周波加熱炉で加熱・溶解したのち、鉄製の鋳型に鋳造し作製した。その後、表3に示す製造条件で、塑性加工および熱処理を施したNi合金素材を得た後、機械加工によってΦ164×7(mm)の円板形状のNi−Wターゲット材を作製した。なお、圧延工程は、加熱温度を変化させた二回加熱の圧延を実施した。作製したターゲット材の板厚方向の中心から10×10×7(mm)の試料を作製して、ミクロ組織観察及び酸素量分析を行った。ミクロ組織観察において測定した平均結晶粒径および酸素量分析の結果を表4に示す。なお、ミクロ組織は上記の試料を鏡面研磨後に塩化第二鉄水溶液で化学腐食を行った後に光学顕微鏡で観察した。試料7、8のそれぞれのミクロ組織を図7、8に示す。平均結晶粒径は、光学顕微鏡で観察した像を、JIS G551の切断法に準じて測定した1結晶粒当たりの平均線分長とした。ただし、試料8は圧延組織のため測定不可であった。また、酸素量分析は、赤外線吸収法で行った。
【0021】
【表3】
【0022】
【表4】
【0023】
表3及び表4から、本発明のNi合金ターゲット材の製造方法により得られたNi合金ターゲット材では、均一な金属組織が得られていることが分かる。
【実施例3】
【0024】
Ni−15W−5Cr(質量%)のNi合金となるように原料を秤量し、溶解鋳造したインゴットを得た。なお、鋳造インゴットは、純度99.9%以上の原料を用い真空中の高周波加熱炉で加熱・溶解したのち、鉄製の鋳型に鋳造し作製した。その後、表5に示す製造条件で、塑性加工および熱処理を施したNi合金素材を得た後、機械加工によってΦ164×7(mm)の円板形状のNi−W−Crターゲット材を作製した。作製したターゲット材の板厚方向の中心から10×10×7(mm)の試料を作製して、ミクロ組織観察及び酸素量分析を行った。ミクロ組織観察において測定した平均結晶粒径および酸素量分析の結果を表6に示す。なお、ミクロ組織は上記の試料を鏡面研磨後に塩化第二鉄水溶液で化学腐食を行った後に光学顕微鏡で観察した。試料9〜12のそれぞれのミクロ組織を図9〜12に示す。平均結晶粒径は、光学顕微鏡で観察した像を、JIS G551の切断法に準じて測定した1結晶粒当たりの平均線分長とした。ただし、試料12は圧延組織のため測定不可であった。また、酸素量分析は、赤外線吸収法で行った。
【0025】
【表5】
【0026】
【表6】
【0027】
表5及び表6から、本発明のNi合金ターゲット材の製造方法により得られたNi合金ターゲット材では、均一な金属組織が得られていることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明のNi合金ターゲット材は垂直磁気記録媒体のNi合金中間層を安定形成に優れているため、垂直磁気記録媒体の安定製造に不可欠な技術となる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】試料1のミクロ組織例である。
【図2】試料2のミクロ組織例である。
【図3】試料3のミクロ組織例である。
【図4】試料4のミクロ組織例である。
【図5】試料5のミクロ組織例である。
【図6】試料6のミクロ組織例である。
【図7】試料7のミクロ組織例である。
【図8】試料8のミクロ組織例である。
【図9】試料9のミクロ組織例である。
【図10】試料10のミクロ組織例である。
【図11】試料11のミクロ組織例である。
【図12】試料12のミクロ組織例である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、垂直磁気記録媒体のNi合金中間層を形成するためのNi合金ターゲット材の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、磁気記録技術の進歩は著しく、ドライブの大容量化のために、磁気記録媒体の高記録密度化が進められている。しかしながら、現在広く世の中で使用されている面内磁気記録方式の磁気記録媒体では、高記録密度化を実現しようとすると、記録ビットが微細化し、記録ヘッドで記録できないほどの高保磁力が要求される。そこで、これらの問題を解決し、記録密度を向上させる手段として垂直磁気記録方式が検討されている。
【0003】
垂直磁気記録方式とは、垂直磁気記録媒体の磁性膜中に媒体面に対して磁気容易軸が垂直方向に配向するように形成したものであり、記録密度を上げてもビット内の反磁界が小さく、記録再生特性の低下が少ない高記録密度に適した方法である。そして、垂直磁気記録方式においては、記録感度を高めた磁気記録膜層と軟磁性膜層とを有する記録媒体が開発されており、このような媒体構造では、軟磁性層と磁気記録層の間に中間層や下地層が成膜された記録媒体が開発されている。
そして、このような記録媒体の中間層としては、中間層上に形成される下地層や磁気記録層の配向を制御する作用が要求されており、Ni−W系などのNi合金を適用することが提案されている(例えば、特許文献1)。
【特許文献1】US2006/0275629 A1
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載されるNi合金の中間層は一般的にスパッタリング法により成膜される。そして、スパッタリングにおいては、希ガスイオン(典型的にはAr+イオン)がターゲット材表面に衝突した際、原子間に割り込み、その周囲の原子を激しく振動させる。その振動はターゲット材の結晶最密方向に最も伝播されやすく、表面原子が最密方向へ放出される。さらに、ターゲット材の結晶粒界は、結晶配列が大きく乱れているため、スパッタリング中の原子放出挙動が結晶粒内とは異なる。したがって、結晶粒径が不均一になるとスパッタ膜がバラツキ易くなるという問題がある。
また、特許文献1に記載されるNi合金膜を形成するためのスパッタリング用ターゲット材は、一般的にNi合金の溶解鋳造インゴットに圧延を施して作製されている。本願発明者らの検討によれば、溶解鋳造−圧延でNi合金ターゲット材を作製したところ不均一な金属組織となることを確認した。
本発明の目的は、上記の問題を解決し、スパッタリング膜のバラツキを抑制すべく、均一な組織を有するNi合金ターゲット材を製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記の問題に関して種々の検討を行った結果、Ni合金を溶解鋳造したインゴットを適度な温度範囲と圧下率で熱間塑性加工をした上で、適切な温度で再結晶化熱処理を行うことで、ターゲット材の厚さ方向における金属組織の不均一性を改善できることを見出し本発明に到達した。
【0006】
すなわち、本発明は、(Cr、Mo、W)から選ばれる1種または2種以上を10〜30質量%含み、残部Niおよび不可避的不純物からなるNi合金ターゲット材の製造方法において、前記Ni合金を溶解鋳造したインゴットを温度800〜1300℃、圧下率50%以上で塑性加工を施した後、800〜1300℃で0.5〜3時間の再結晶化熱処理を行うNi合金ターゲット材の製造方法である。
また、本発明のNi合金ターゲット材の製造方法は、IVa族(Ti、Zr、Hf)、Va族(V、Nb、Ta)、IIIb族(B、Al、Ga、In)、IVb族(C、Si、Ge、Sn、Pb)から選択される1種または2種以上を5質量%以下含むNi合金にも適用できる。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、安定したスパッタリングが行える垂直磁気記録媒体の中間層を成膜するためのNi合金ターゲット材を提供でき、垂直磁気記録媒体を製造する上で極めて有効な技術となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の最も重要な特徴は、スパッタリングの安定化のために厚み方向に均一な金属組織を有するNi合金ターゲット材を得るべく、Ni合金を溶解鋳造したインゴットを適度な温度範囲と圧下率で熱間塑性加工をした上で、再結晶化の促進が十分に可能な適度な温度域で熱処理を行うNi合金ターゲット材の製造方法を見出した点にある。
【0009】
まず、本発明のNi合金の合金組成について説明する。
本発明のNi合金ターゲット材は、(Cr、Mo、W)から選ばれる1種または2種以上を10〜30質量%含み残部Niおよび不可避的不純物からなる組成とする。
本発明で製造されるNi合金ターゲット材は、垂直磁気記録媒体の中間層の形成に適用され、その中間層は、上部に形成される下地層や磁気記録層の配向を制御する作用を有する必要がある。そこで、まず、Ni合金でなる中間層は、上部膜の配向を制御するため面心立方構造(fcc)を維持することが重要となる。また、特にマグネトロンスパッタリング法で効率的に成膜を行うためにターゲット材としてはNiが元来有する磁性を低下させる必要がある。そのため、スパッタリング成膜した際に、fccを維持しつつ、ターゲット材として磁性を低減するため、Niに対して(Cr、Mo、W)から選ばれる1種または2種以上を10〜30質量%含むこととした。また、スパッタリング膜の耐食性を向上させるためにも、Niに対して上記元素を10〜30質量%含むことが効果的である。
【0010】
次に、本発明のNi合金ターゲット材の製造方法を説明する。
まず、上記組成となるように溶解鋳造されたNi合金インゴットを得、続いて、そのNi合金インゴットを温度800〜1300℃に加熱し、圧下率50%以上の塑性加工を施す。
Niに対して、Cr、Mo、Wを10質量%以上含むNi合金においては、Ni合金インゴットの塑性加工性を向上させるために、800〜1300℃の熱間領域での塑性加工が必要となる。加熱温度が800℃未満の場合には、加工性が十分でないため、塑性加工時に割れ等が発生する可能性が高くなる。また、1300℃を超える場合には液相発現温度に近づきすぎるために、逆に軟化によって塑性加工性の低下が生じ、正常な塑性加工が困難な場合が生じるためである。
【0011】
また、鋳造インゴットからの塑性加工における圧下率は、トータルで50%以上とする。インゴットからの圧下率を50%以上とすることで、鋳造組織を破壊することが可能となり、次工程の再結晶化熱処理において、均一な再結晶組織を得られるためである。なお、圧下率とは、((インゴット厚さ−塑性加工後厚さ)/インゴット厚さ)×100(%)で表すものである。
また、塑性加工においては、鋳造インゴットから圧下率10〜30%の圧延を数回行いトータルで圧下率が50%以上とすることが好ましい。さらにインゴットの形状によっては、インゴットを上記温度域で熱間鍛造した後に熱間圧延を行ってもよい。その場合にもインゴットからの圧下率は50%以上とする。
【0012】
次いで、熱間塑性加工後に、800〜1300℃で0.5〜3時間の再結晶化熱処理を行う。熱間塑性加工後に、上記の温度域で熱処理を行うことはNi合金の均一な再結晶組織を得るために重要である。熱間塑性加工において、動的再結晶が進行する場合もあるが、均一な組織を得るためには、上記の温度域での熱処理を行うことで、素材の厚さ方向に均一な再結晶組織を得ることができる。
なお、熱処理温度が800℃未満の場合には、再結晶が十分に進行しない場合があり、1300℃を超える場合には、再結晶の際の結晶成長が早くなり、均一な金属組織を得がたくなる場合があるため上記の温度範囲とする。また、熱処理時間が0.5時間に満たない場合には、塑性加工、特に圧延時の方向性が残存した金属組織のままであり、3時間を超える場合には結晶成長が進行し過ぎる場合があるため、加熱時間は0.5〜3時間に設定する。
【0013】
また、本発明のNi合金ターゲト材は、IVa族(Ti、Zr、Hf)、Va族(V、Nb、Ta)、IIIb族(B、Al、Ga、In)、IVb族(C、Si、Ge、Sn、Pb)から選択される1種または2種以上の添加元素を5質量%以下含んでもよい。これらの元素を含むことで、スパッタ膜特性に大きな影響を及ぼすことなく耐食性の改善が可能となるためである。
【0014】
また、本発明のNi合金ターゲット材の酸素量は100質量ppm以下に制御することが好ましい。垂直磁気記録媒体の中間層成膜は、膜の結晶系や配向が重要であり、ターゲット材中の酸素量が100質量ppmを超えると結晶系や配向に影響を及ぼすためである。
ターゲット中の酸素量を100質量ppm以下に制御するためには、例えば、純度99.9%以上の原料を用い真空中の高周波加熱炉で加熱・溶解後鋳造をすればよい。
【0015】
また、上記の製造方法で得られるNi合金ターゲット材は、ターゲット材の板厚方向における組織を平均結晶粒径が200μm以下の再結晶組織とすることが好ましい。平均結晶粒径が200μmを超えると金属組織のバラツキが大きく、スパッタリング時の安定性が低下する場合があるためである。より好ましくは、150μm以下である。
【実施例1】
【0016】
Ni−20Cr(質量%)のNi合金となるように原料を秤量し、溶解鋳造したインゴットを得た。なお、鋳造インゴットは、純度99.9%以上の原料を用い真空中の高周波加熱炉で加熱・溶解したのち、鉄製の鋳型に鋳造し作製した。その後、表1に示す製造条件で、塑性加工および熱処理を施したNi合金素材を得た後、機械加工によってΦ164×7(mm)の円板形状のNi−Crターゲット材を作製した。作製したターゲット材の板厚方向の中心から10×10×7(mm)の試料を作製して、ミクロ組織観察及び酸素量分析を行った。ミクロ組織観察において測定した平均結晶粒径および酸素量分析の結果を表2に示す。なお、ミクロ組織は上記の試料を鏡面研磨後に塩化第二鉄水溶液で化学腐食を行った後に光学顕微鏡で観察した。試料1〜6のそれぞれのミクロ組織を図1〜図6に示す。平均結晶粒径は、光学顕微鏡で観察した像を、JIS G551の切断法に準じて測定した1結晶粒当たりの平均線分長として示した。ただし、試料5および6は圧延組織のため測定不可であった。また、酸素量分析は、赤外線吸収法で行った。
【0017】
【表1】
【0018】
【表2】
【0019】
表1及び表2から、本発明のNi合金ターゲット材の製造方法により得られたNi合金ターゲット材では、均一な金属組織が得られていることが分かる。
【実施例2】
【0020】
Ni−20W(質量%)のNi合金となるように原料を秤量し、溶解鋳造したインゴットを得た。なお、鋳造インゴットは、純度99.9%以上の原料を用い真空中の高周波加熱炉で加熱・溶解したのち、鉄製の鋳型に鋳造し作製した。その後、表3に示す製造条件で、塑性加工および熱処理を施したNi合金素材を得た後、機械加工によってΦ164×7(mm)の円板形状のNi−Wターゲット材を作製した。なお、圧延工程は、加熱温度を変化させた二回加熱の圧延を実施した。作製したターゲット材の板厚方向の中心から10×10×7(mm)の試料を作製して、ミクロ組織観察及び酸素量分析を行った。ミクロ組織観察において測定した平均結晶粒径および酸素量分析の結果を表4に示す。なお、ミクロ組織は上記の試料を鏡面研磨後に塩化第二鉄水溶液で化学腐食を行った後に光学顕微鏡で観察した。試料7、8のそれぞれのミクロ組織を図7、8に示す。平均結晶粒径は、光学顕微鏡で観察した像を、JIS G551の切断法に準じて測定した1結晶粒当たりの平均線分長とした。ただし、試料8は圧延組織のため測定不可であった。また、酸素量分析は、赤外線吸収法で行った。
【0021】
【表3】
【0022】
【表4】
【0023】
表3及び表4から、本発明のNi合金ターゲット材の製造方法により得られたNi合金ターゲット材では、均一な金属組織が得られていることが分かる。
【実施例3】
【0024】
Ni−15W−5Cr(質量%)のNi合金となるように原料を秤量し、溶解鋳造したインゴットを得た。なお、鋳造インゴットは、純度99.9%以上の原料を用い真空中の高周波加熱炉で加熱・溶解したのち、鉄製の鋳型に鋳造し作製した。その後、表5に示す製造条件で、塑性加工および熱処理を施したNi合金素材を得た後、機械加工によってΦ164×7(mm)の円板形状のNi−W−Crターゲット材を作製した。作製したターゲット材の板厚方向の中心から10×10×7(mm)の試料を作製して、ミクロ組織観察及び酸素量分析を行った。ミクロ組織観察において測定した平均結晶粒径および酸素量分析の結果を表6に示す。なお、ミクロ組織は上記の試料を鏡面研磨後に塩化第二鉄水溶液で化学腐食を行った後に光学顕微鏡で観察した。試料9〜12のそれぞれのミクロ組織を図9〜12に示す。平均結晶粒径は、光学顕微鏡で観察した像を、JIS G551の切断法に準じて測定した1結晶粒当たりの平均線分長とした。ただし、試料12は圧延組織のため測定不可であった。また、酸素量分析は、赤外線吸収法で行った。
【0025】
【表5】
【0026】
【表6】
【0027】
表5及び表6から、本発明のNi合金ターゲット材の製造方法により得られたNi合金ターゲット材では、均一な金属組織が得られていることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明のNi合金ターゲット材は垂直磁気記録媒体のNi合金中間層を安定形成に優れているため、垂直磁気記録媒体の安定製造に不可欠な技術となる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】試料1のミクロ組織例である。
【図2】試料2のミクロ組織例である。
【図3】試料3のミクロ組織例である。
【図4】試料4のミクロ組織例である。
【図5】試料5のミクロ組織例である。
【図6】試料6のミクロ組織例である。
【図7】試料7のミクロ組織例である。
【図8】試料8のミクロ組織例である。
【図9】試料9のミクロ組織例である。
【図10】試料10のミクロ組織例である。
【図11】試料11のミクロ組織例である。
【図12】試料12のミクロ組織例である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(Cr、Mo、W)から選ばれる1種または2種以上を10〜30質量%含み、残部Niおよび不可避的不純物からなるNi合金ターゲット材の製造方法において、
前記Ni合金を溶解鋳造したインゴットを温度800〜1300℃、圧下率50%以上で塑性加工を施した後、800〜1300℃で0.5〜3時間の再結晶化熱処理を行うことを特徴とするNi合金ターゲット材の製造方法。
【請求項2】
IVa族、Va族、IIIb族、IVb族から選択される1種または2種以上を5質量%以下含むことを特徴とする請求項1に記載のNi合金ターゲット材の製造方法。
【請求項1】
(Cr、Mo、W)から選ばれる1種または2種以上を10〜30質量%含み、残部Niおよび不可避的不純物からなるNi合金ターゲット材の製造方法において、
前記Ni合金を溶解鋳造したインゴットを温度800〜1300℃、圧下率50%以上で塑性加工を施した後、800〜1300℃で0.5〜3時間の再結晶化熱処理を行うことを特徴とするNi合金ターゲット材の製造方法。
【請求項2】
IVa族、Va族、IIIb族、IVb族から選択される1種または2種以上を5質量%以下含むことを特徴とする請求項1に記載のNi合金ターゲット材の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2010−133001(P2010−133001A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−312526(P2008−312526)
【出願日】平成20年12月8日(2008.12.8)
【出願人】(000005083)日立金属株式会社 (2,051)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年12月8日(2008.12.8)
【出願人】(000005083)日立金属株式会社 (2,051)
【Fターム(参考)】
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