OATP−R遺伝子発現増強組成物
【課題】本発明は、安全性がより高く、かつ、OATP−R遺伝子発現増強作用を有するOATP−R遺伝子発現増強組成物や、該OATP−R遺伝子発現増強組成物を含有する腎機能障害の予防・治療剤等を提供することを目的とする。
【解決手段】スタチン又はその薬学上許容され得る塩を含有するOATP−R遺伝子発現増強組成物を用いることを特徴とする。スタチンとしては、セリバスタチン(cerivastatin)、アトルバスタチン(atorvastatin)、フルバスタチン(fluvastatin)、シンバスタチン(simvastatin)、ロバスタチン(lovastatin)、ピタバスタチン(pitavastatin)、プラバスタチン(pravastatin)、メバスタチン(mevastatin)、ロスバスタチン(rosuvastatin)及びシラスタチン(cilastatin)を好適に例示することができる。
【解決手段】スタチン又はその薬学上許容され得る塩を含有するOATP−R遺伝子発現増強組成物を用いることを特徴とする。スタチンとしては、セリバスタチン(cerivastatin)、アトルバスタチン(atorvastatin)、フルバスタチン(fluvastatin)、シンバスタチン(simvastatin)、ロバスタチン(lovastatin)、ピタバスタチン(pitavastatin)、プラバスタチン(pravastatin)、メバスタチン(mevastatin)、ロスバスタチン(rosuvastatin)及びシラスタチン(cilastatin)を好適に例示することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、OATP−R遺伝子発現増強組成物や、該OATP−R遺伝子発現増強組成物を含有する腎機能障害の予防・治療剤等に関する。
【背景技術】
【0002】
腎不全患者等の腎機能障害を有する患者、特に腎透析を受ける患者の数は年々増加の一途を辿っており、現在20万人の患者が維持透治療を行っており、さらに毎年3万人以上が新たに透析導入に至っている。透析療法には、一人あたり年間約500万円の費用がかかるため、20万人に対して約1兆円の医療費が恒常的に必要となっている。また、近年、慢性腎臓病(Chronic Kidney Disease:CKD)という疾患概念が提唱され、その予防・治療の重要性に対する認識が高まりを見せている。CKDはCommon Diseaseであり、患者数は膨大(約2000万人)であることから、CKD対策が急務の課題となっている。以上のような状況下において、腎不全やCKD等の腎機能障害の症状の予防法や、そのような症状を緩和し、透析導入を遅らせる治療法が開発されれば、患者のQOL(クオリティオブライフ)に資するだけでなく、医療費の大幅な削減が可能となり社会に大きく貢献することが出来る。
【0003】
腎不全等の腎疾患の治療剤としては、一本鎖の肝細胞増殖因子を有効成分とするもの(特許文献1参照)や、特定のステロイドを含有するもの(特許文献2参照)や、コロニー刺激因子(CSF)を有効成分とするもの(特許文献3参照)が知られている。しかし、得られる治療効果は十分とは言えず、より優れたより実用的な腎機能障害の予防・治療剤が求められていた。
【0004】
また、高血圧症は生活習慣病の1種とされ、患者の数も増加傾向にあるとされる。高血圧症は、虚血性心疾患、脳卒中、腎不全などの発症リスクともなるため、予防・治療の必要性が高い。高血圧症の治療剤としては、通常の降圧剤のほか、コーヒー豆抽出物を有効成分とするもの(特許文献4参照)や、アンジオテンシンII受容体拮抗作用を有する化合物を有効成分とするもの(特許文献5参照)が知られている。しかし、より優れたより実用的な高血圧症の予防・治療剤が求められていた。
【0005】
腎臓には多種多様なトランスポーターが存在し、多様な物質輸送に関与している。なかでも有機アニオントランスポーター(OATP:organic anion transporting polypeptide)ファミリーは、生体内から不要となった有機アニオン等を体外に出すための排出・解毒ポンプとして機能するトランスポーターのファミリーであり、該トランスポーターはその幅広い基質認識性と多岐にわたる臓器分布から、内因性物質や薬物の体内動態において重要な役割を行うトランスポーターと考えられている。本発明者は、世界に先駆けて15個以上の有機アニオントランスポーターを単離し、胆汁酸、甲状腺ホルモン、ステロイドホルモン、プロスタグランジン類等が単に拡散でなく有機アニオントランスポーターにより細胞膜輸送されるという知見を世界に先駆けて報告してきた。更に、本発明者は、腎臓にのみ発現している有機アニオントランスポーターであるOATP−R(OATP4C1やOATP−M1とも呼ばれる)を世界で初めて発見し(非特許文献1)、その内容に関する特許出願が日本において特許登録された(特許文献6参照)。
【0006】
さらに、本発明者らは、そのOATP−Rの発現調節を明らかにするために、5’上流転写領域を詳細に解析したところ、ダイオキシンの核内受容体であるアリルハイドロカーボン受容体(AHR)が結合する繰り返し配列として知られるxenobioticresponse element(XRE)類似配列が、ヒトやラットのOATP−R遺伝子の5’上流転写領域に存在することを見い出した(特許文献7参照)。さらに、本発明者らは、ヒトOATP−Rの5’上流転写領域の下流にレポーター遺伝子を配置したプラスミドを、AHRを発現するHela細胞にトランスフェクトした細胞を作製し、該細胞を用いたレポーターアッセイを行なった。その結果、AHRに結合する3−メチルコランスレン(3−MC)によって、レポーター遺伝子の転写活性が上昇すること、及び、前述の5’上流転写領域中に、転写開始点より上流−100塩基付近のXRE類似領域が存在する場合において、転写活性の上昇傾向が特に顕著であることが分かった(特許文献7参照)。また、5’上流転写領域中のXRE類似領域の配列を除去又は改変することにより、レポーター遺伝子の転写活性が顕著に低下することから、ヒトOATP−R遺伝子の転写制御には、XRE類似領域が関連している可能性が示唆された(特許文献7参照)。以上のように3−MCは、OATP−R遺伝子発現増強活性を有しているが、3−MCはダイオキシン類似物質であるため、毒性等の観点から、ヒトに投与することはできなかった。
【0007】
一方、スタチンとは、HMG−CoA(3−ヒドロキシ−3−メチルグルタリル−CoA)還元酵素の働きを阻害することによって、血液中のLDLコレステロール値を低下させる薬物の総称である。より詳細な作用機作としては、メバロン酸経路の律速酵素であるHMG−CoA還元酵素の働きをスタチンが阻害することで、肝臓でのコレステロール生合成が低下し、その結果、コレステロール恒常性維持のため肝臓でのLDL受容体発現が上昇し、血液から肝臓へのLDLコレステロールの取り込みが促進され、血液中のコレステロールが低下するというものである。これまでに各種のスタチンが高脂血症治療剤として開発され(特許文献8、特許文献9等参照)、現在、高脂血症の治療剤として広く普及している。また、Dahl食塩感受性ラットにプラバスタチンを投与すると血圧が低下することが報告されている(非特許文献2参照)。しかし、スタチンがOATP−Rの発現を増強することは知られていなかった。
【0008】
【特許文献1】特開2008−195628号公報
【特許文献2】特表2005−506321号公報
【特許文献3】再表2005/034986号公報
【特許文献4】特開2006−083182号公報
【特許文献5】特開平06−312926号公報
【特許文献6】日本国特許第4008481号公報
【特許文献7】特開2008−100927号公報
【特許文献8】特開2005−089300号公報
【特許文献9】特表2003−524582号公報
【非特許文献1】PNAS March 9, 2004. vol.101, no.10, 3569-3574
【非特許文献2】Hypertens. Res., 2005, vol.28, no.12, 1009-1015
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、安全性がより高く、かつ、OATP−R遺伝子発現増強作用を有するOATP−R遺伝子発現増強組成物や、該OATP−R遺伝子発現増強組成物を含有する腎機能障害の予防・治療剤等を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために、前述の特許文献7のアッセイ系を利用して、様々な薬物の中からヒトOATP−R遺伝子発現増強作用を有する薬物のスクリーニングを行ったところ、高脂血症剤としてすでに実用化され広く用いられているスタチンがヒトOATP−R遺伝子の発現を増強することを見い出した。さらに、本発明者らは、ヒト腎臓由来細胞であるACHN細胞にスタチンを投与したところ、該ACHN細胞内では、ヒトOATP−R遺伝子のmRNAが増加し、それに伴い、OATP−R基質である甲状腺ホルモンの細胞内取り込み活性が上昇することを見い出した。また、本発明者らは、スタチンをラットに経口投与したところ、腎臓におけるOATP−R遺伝子の発現をスタチンが増強することを見い出した。さらに、本発明者らは、高食塩食に加えてスタチンを継続してラットに与えると、高食塩食のみを与えたラットと比較して、血圧の上昇が有意に抑制されることを見い出した。また、スタチンをラットに経口投与することによって得られる腎機能改善は、血圧の変化やクレアチニンの腎クリアランスの変化に依存しているのではなく、スタチン投与によるOATP−R発現の増強によって、ADMA等の腎不全時に蓄積する物質の排泄が促進し、腎障害が軽減することによるものであることを見い出した。本発明者らは、以上の知見に基づいて本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち本発明は、(1)スタチン又はその薬学上許容され得る塩を含有するOATP−R遺伝子発現増強組成物や、(2)スタチンが、セリバスタチン(cerivastatin)、アトルバスタチン(atorvastatin)、フルバスタチン(fluvastatin)、シンバスタチン(simvastatin)、ロバスタチン(lovastatin)、ピタバスタチン(pitavastatin)、プラバスタチン(pravastatin)、メバスタチン(mevastatin)、ロスバスタチン(rosuvastatin)及びシラスタチン(cilastatin)から成る群から選択される上記(1)に記載のOATP−R遺伝子発現増強組成物や、(3)スタチンが、セリバスタチン(cerivastatin)又はアトルバスタチン(atorvastatin)である上記(1)に記載のOATP−R遺伝子発現増強組成物や、(4)OATP−R遺伝子が、ヒトOATP−R遺伝子又はラットOATP−R遺伝子である上記(1)〜(3)のいずれかに記載のOATP−R遺伝子発現増強組成物に関する。
【0012】
また本発明は、(5)スタチン又はその薬学上許容され得る塩を含有するOATP−R遺伝子発現増強組成物を含有する腎機能障害の予防・治療剤や、(6)腎機能障害が、急性腎不全、慢性腎不全、急性腎炎、慢性腎炎、急性尿細管壊死、尿細管間質障害、慢性腎臓病及びネフローゼ症候群からなる群から選択される上記(5)に記載の腎機能障害の予防・治療剤に関する。
【0013】
さらに本発明は、(7)OATP−R遺伝子発現増強組成物の製造における、スタチン又はその薬学上許容され得る塩の使用方法に関する。
【0014】
さらにまた本発明は、(8)腎機能障害の予防・治療剤の製造における、スタチン又はその薬学上許容され得る塩の使用方法に関する。
【発明の効果】
【0015】
本発明のOATP−R遺伝子発現増強組成物は、腎臓に特異的に発現するOATP−R遺伝子の発現を増強することができる。OATP−R遺伝子がコードするOATP−Rは、胆汁酸、ジゴキシン、ウアバイン、cAMP等の腎不全物質を対外に排出する活性を有することが知られており(本発明者らの出願である特願2008−264674号も参照)、OATP−R遺伝子の発現を増強することによって、腎機能が改善して腎不全物質の体外への排出機能が促進されて、腎機能障害の予防効果や治療効果が得られると考えられる。
【0016】
また、本発明のOATP−R遺伝子発現増強組成物(腎機能障害の予防・治療剤)を用いることによって、透析では除去できない尿毒症物質を排泄することが可能となる。さらに、腎機能障害患者に対して本発明のOATP−R遺伝子発現増強組成物(腎機能障害の予防・治療剤)を投与した場合、腎機能障害の進行を止めるか又は遅らせることができるため、透析等の煩雑な治療を行う必要がなくなったり、透析等の煩雑な治療を導入する時期を遅らせることができる。腎機能障害の進行を少なくとも遅らせることができれば、その間にその腎機能障害患者に効果的な治療剤や投与方法を選択する猶予が得られ、個々の腎機能障害患者にとって最適な治療法を選択することが可能となる。
【0017】
また、本発明のOATP−R遺伝子発現増強組成物は、腎機能の改善作用に加えて、血圧上昇の抑制作用も有している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明のOATP−R遺伝子発現増強組成物としては、スタチン又はその薬学上許容され得る塩(以下、併せて「スタチン等」とも言う。)を含有している限り特に制限されず、前述のスタチン等としては、OATP−R遺伝子発現を増強する活性を有するスタチン等である限り特に制限されず、例えばセリバスタチン(cerivastatin)、アトルバスタチン(atorvastatin)、フルバスタチン(fluvastatin)、シンバスタチン(simvastatin)、ロバスタチン(lovastatin)、ピタバスタチン(pitavastatin)、プラバスタチン(pravastatin)、メバスタチン(mevastatin)、ロスバスタチン(rosuvastatin)及びシラスタチン(cilastatin)、又はこれらの誘導体を好適に例示することができ、中でも、セリバスタチン、アトルバスタチン、又はこれらの誘導体をより好適に例示することができる。これらのスタチン等を2種類以上併用することもできる。なお、ヒト生体に用いる場合は、既に高脂血症治療剤として市販されており、毒性の観点からの安全性が確認されているセリバスタチン、アトルバスタチン、フルバスタチン、シンバスタチン、ロバスタチン、ピタバスタチン、プラバスタチン、メバスタチン、ロスバスタチン、シラスタチン等のスタチンを特に好適に用いることができる。
【0019】
上記のスタチンの「誘導体」とは、スタチンの基本骨格を維持しつつ、スタチンの置換基の位置を変更した物質や、スタチンの基本骨格を維持しつつ、スタチンのある分子を別の分子に置換した物質や、スタチンの基本骨格を維持しつつ、スタチンに特定の置換基を付加した物質や、スタチンの基本骨格を維持しつつ、スタチンから特定の置換基を取り除いた物質等を意味する。スタチンの基本骨格には、例えば図10に示される各スタチンの構造式のうちのいずれか2つ以上の構造式に共通する骨格を含んでいる。スタチンの誘導体の中でも、スタチンのラクトンやエステルを特に好適に例示することができる。
【0020】
スタチン等がOATP−R遺伝子発現を増強する作用機作の詳細は不明であるが、スタチンの基本骨格が何等かの作用を生じ、OATP−R遺伝子発現を増強するものと考えられる。
【0021】
上記の「OATP−R遺伝子発現を増強する活性を有するスタチン等」とは、OATP−R遺伝子を発現し得るヒト又はラット腎細胞株と共培養したり、ヒト又はラットに投与した場合に、不存在又は非投与の場合と比較して、腎細胞等のOATP−R遺伝子を発現し得る細胞内におけるOATP−Rの発現が、mRNAレベル及び/又はタンパク質レベルで上昇するスタチン等をいう。ヒトの場合についてより具体的には、後述の実施例1、2におけるヒト腎癌細胞株を用いたヒトOATP−R遺伝子発現アッセイや後述の実施例7におけるルシフェラーゼアッセイにおいて、コントロール(スタチン非投与又はDMSO投与)の場合より、ヒトOATP−R遺伝子のmRNA発現や転写活性が上昇するスタチン等や、後述の実施例3、4における甲状腺ホルモンの細胞内取り込みアッセイにおいて、コントロール(スタチン非投与)の場合より、甲状腺ホルモンの細胞内取り込み量が上昇するスタチン等を含み、ラットの場合についてより具体的には、後述の実施例5のラットを用いたインビボにおけるOATP−R遺伝子発現アッセイにおいて、コントロール(水)を投与した場合より、ラットOATP−R遺伝子のmRNA発現が上昇するスタチン等を含む。
【0022】
上記のOATP−R遺伝子のmRNA発現の上昇の程度としては、特に制限されないが、コントロールと比較して、割合として、好ましくは5%以上、より好ましくは10%以上、さらに好ましくは15%以上である場合を好適に例示することができ、上記の甲状腺ホルモンの取込量の上昇の程度としては、特に制限されないが、コントロールと比較して、割合として、好ましくは%以上、より好ましくは10%以上、さらに好ましくは15%以上である場合を好適に例示することができる。なお、上記のOATP−R遺伝子としては、OATP−Rのコード領域の上流にXRE類似配列を備えているOATP−R遺伝子である限り特に制限されず、ヒトOATP−R遺伝子、ラットOATP−R遺伝子を特に好適に例示することができる。
【0023】
「薬学上許容され得る塩」には、例えばナトリウム、カリウム、リチウム、カルシウム、マグネシウム、バリウム、アンモニウムなどの無毒性アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩などが包含される。この他、上記塩には、スタチンと適当な有機酸ないし無機酸との反応による無毒性酸付加塩も包含される。代表的無毒性酸付加塩としては、例えば塩酸塩、塩化水素酸塩、臭化水素酸塩、硫酸塩、重硫酸塩、酢酸塩、蓚酸塩、吉草酸塩、オレイン酸塩、ラウリン酸塩、硼酸塩、安息香酸塩、乳酸塩、リン酸塩、p−トルエンスルホン酸塩(トシレート)、クエン酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、コハク酸塩、酒石酸塩、スルホン酸塩、グリコール酸塩、マレイン酸塩、アスコルビン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、ナプシレートなどが例示される。かかる塩は、当業界で周知の方法により調製することができる。これらの塩の中のうち、無毒性アルカリ金属塩やアルカリ土類金属塩を好適に例示することができ、ナトリウム塩やカルシウム塩を特に好適に例示することができる。
【0024】
上記の各種スタチン等は、高脂血症剤として市販されているものを用いることもでき、また、特公平2−46031号公報、米国特許第4,231,938号公報、米国特許第4,346,227号公報、米国特許第5,354,772号公報、米国特許第5,273,995号公報、米国特許第5,177,080号公報、米国特許第3,983,140号公報、米国特許第5,260,440号公報、国際公開特許出願WO 00/42024公報、米国特許第5,753,675号公報等に記載された公知の反応を組み合わせて、適宜製造することもできる。
【0025】
本発明のOATP−R遺伝子発現増強組成物に用いる「スタチン又はその薬学上許容され得る塩」の中で特に好ましいものとして、セリバスタチンナトリウム、セリバスタチンラクトン、アトルバスタチンカルシウム、フルバスタチンナトリウム、シンバスタチン、ロバスタチン、ピタバスタチンカルシウム、プラバスタチンナトリウム、メバスタチン、ロスバスタチンカルシウム及びシラスタチンナトリウムを例示することができる。
【0026】
本発明のOATP−R遺伝子発現増強組成物としては、上記のスタチン等を含有している限り特に制限されないが、任意成分として、OATP−R遺伝子を増強する他の成分や、薬学上許容される担体をさらに含有していてもよい。薬学上許容される担体としては、例えば賦形剤、結合剤、溶剤、溶解補助剤、懸濁化剤、乳化剤、等張化剤、緩衝剤、安定化剤、無痛化剤、防腐剤、抗酸化剤、着色剤などの任意成分を配合することができる。
【0027】
本発明のOATP−R遺伝子発現増強組成物の剤型としては、特に制限はなく、上記のスタチン等そのものであってもよいし、散剤、顆粒剤、錠剤等の固形製剤であってもよいし、溶液剤、乳剤、懸濁剤などの液剤であってもよい。また、本発明のOATP−R遺伝子発現増強組成物の投与方法としては、経口投与や静脈投与等を例示することができるが、投与が簡便であることから、経口投与を好ましく例示することができる。
【0028】
本発明のOATP−R遺伝子発現増強組成物の投与量としては、OATP−R遺伝子発現を増強する活性が得られる限り特に制限されず、投与対象に応じて適宜投与量を調整することができる。投与対象としては、OATP−R遺伝子発現を増強する活性が得られる限り特に制限されないが、哺乳動物を例示することができ、中でもヒト、ラットを好適に例示することができ、特にヒトを好適に例示することができる。
【0029】
本発明のOATP−R遺伝子発現増強組成物は、腎機能予防・治療剤としても使用することができる。OATP−Rは、胆汁酸、ジゴキシン、ウアバイン、cAMP等の腎不全物質を対外に排出する活性を有することが知られており、OATP−R遺伝子の発現を増強することによって、腎機能を改善して腎不全物質の体外への排出機能が促進されて、腎機能障害の予防効果や治療効果が得られると考えられるからである。実際、後述の実施例8には、本発明のOATP−R遺伝子発現増強組成物が、腎機能の指標の1つであるADMAクリアランスを有意に上昇させることが実証されている。
【0030】
上記の腎機能障害としては、腎臓における尿形成や排泄に関連する機能の障害である限り特に制限されず、例えば、急性腎不全、慢性腎不全、急性腎炎、慢性腎炎、急性尿細管壊死、尿細管間質障害、慢性腎臓病及びネフローゼ症候群を好適に例示することができる。
【0031】
上記の本発明の腎機能予防・治療剤には、本発明のOATP−R遺伝子発現増強組成物の他に、任意成分として、他の腎機能の予防・治療剤をさらに含有していてもよい。
【0032】
また、本発明のOATP−R遺伝子発現増強組成物は、腎機能の改善作用に加えて、血圧上昇の抑制作用も有している(後述の実施例6のアッセイ参照)ので、高血圧症、特に好ましくは腎機能障害を伴う高血圧症の予防や治療にも有効に用いることができる。なお、血圧上昇の抑制作用を得るためには、単にOATP−R遺伝子発現増強作用を得るよりも多いスタチンを投与する必要があるが、その適切な投与量は、投与対象に応じて適宜調整するなどして確認することができる。
【0033】
また、本発明には、OATP−R遺伝子発現増強組成物の製造におけるスタチン又はその薬学上許容され得る塩の使用方法や、腎機能障害の予防・治療剤の製造におけるスタチン又はその薬学上許容され得る塩の使用方法や、スタチン又はその薬学上許容され得る塩を哺乳動物(特にヒト又はラット)に投与することを特徴とする腎機能障害の予防・治療方法も含まれる。これらの使用や方法における文言の内容やその好ましい態様は、前述したとおりである。
【0034】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。
【実施例1】
【0035】
[ヒト腎癌細胞株であるACHN細胞を用いたヒトOATP−R遺伝子発現アッセイ 1]
ヒトOATP−R(hOATP−R)遺伝子のmRNA発現を増強することが知られる3−MCと同様に、スタチンがヒトOATP−R遺伝子のmRNA発現を増強するか否かを確認するために、ヒト腎癌細胞株であるACHN細胞を用いて、ヒトOATP−R遺伝子について定量RT−PCRを行なった。具体的には以下のような方法で行なった。
【0036】
ヒト腎癌細胞株であるACHN細胞株は、東北大学加齢医学研究所医用細胞資源センターより供与された。このACHN細胞はOATP−R遺伝子を発現し得る細胞である。このACHN細胞を24ウェルプレートに、1ウェル当たり2.4×105 cellずつ分注し、特定の培地(RPMI1640培地に、FBS、ペニシリン、ストレプトマイシンを、それぞれ最終濃度がFBS10%、ペニシリン100U/ml、ストレプトマイシン100μg/mlとなるように添加した培地)中、37℃、5%CO2の条件下で48時間培養した。ACHN細胞が70−80%のコンフルエントになったのを確認してから、培地を無血清培地であるOPTI−MEM1に交換し、4時間培養した後、24ウェル内の無血清培地と等量の特定の培地を、それぞれのウェル内に添加した。この特定の培地としては、20%FBS/RPMI1640培地に、サンプルとしてプラバスタチン(Prava)を最終濃度100μMで添加したサンプル培地を用いた。また、サンプル培地に代えて、サンプル無添加(control)の20%FBS/RPMI1640培地(ネガティブコントロール培地)や、サンプルとしてジメチルスルホキシド(DMSO)を最終濃度0.1質量%で添加した20%FBS/RPMI1640培地(ネガティブコントロール培地)、及び、サンプルとして3−MC(3MC)を最終濃度5μMで添加した20%FBS/RPMI1640培地(ポジティブコントロール)を用いた。
【0037】
これらの特定の培地を添加してから24時間培養した後、培養細胞を10mlのTRIZOL液(インビトロジェン社製)に加え、ポリトロン破砕機の最大速度(100,000rpm)で1分間ホモジナイズした。ホモジナイズした溶液に2倍量のクロロフォルム液を加えて攪拌後、遠心分離し、水相部分を別のチューブに移した。この水相に2倍量のイソプロピルアルコールを添加し、15000rpmで冷却遠心を行ってRNAを抽出した。抽出したRNAをテンプレートとし、SuperScriptIII RTS ファーストストランドcDNA合成キット(インビトロジェン社製)を用いてcDNA合成を行った。TaqMan Probe(アプライドバイオシステム社製)を用いて定量RT−PCRを行い、培養細胞中のヒトOATP−R遺伝子のmRNA発現量を定量した。
【0038】
各サンプルについてN=5にて定量し、各サンプルごとにmRNA発現量の平均値を算出した。水の場合のmRNA発現量の平均値を1として、各サンプルのmRNA発現量の平均値を補正し、相対mRNA量を算出した。以上の定量RT−PCRの結果を図1の左パネルに示す。図1の左パネルの結果から分かるように、プラバスタチンを投与した場合は、コントロールである水やDMSOを投与した場合に比べて、ヒトOATP−R遺伝子の相対mRNA量が、有意かつ顕著に上昇していた。また、プラバスタチンを投与した場合のヒトOATP−R遺伝子のmRNA量(GAPDHに対する相対発現量)は、3−MCと比べても、著しく上昇していた。これらの結果から、プラバスタチンが、腎臓細胞におけるヒトOATP−R遺伝子のmRNA発現を上昇させることが示された。
【実施例2】
【0039】
[ヒト腎癌細胞株であるACHN細胞を用いたヒトOATP−R遺伝子発現アッセイ 2]
サンプルとして、プラバスタチン等を添加する代わりに、フルバスタチン(Fluva)を10μM、30μM又は100μM(それぞれ最終濃度)で添加したこと以外は、実施例1と同様の方法により、定量RT−PCRを行なった。その結果を図1の右パネルに示す。フルバスタチンを投与した場合はいずれの濃度でも、コントロールと比べて、ヒトOATP−R遺伝子のmRNA量(GAPDHに対する相対発現量)は、顕著に上昇していた。これらの結果から、フルバスタチンも、腎臓細胞におけるヒトOATP−R遺伝子のmRNA発現を上昇させることが示された。
【実施例3】
【0040】
[甲状腺ホルモンの細胞内取り込みアッセイ 1]
スタチンがヒトOATP−R遺伝子のmRNA発現を上昇させるだけでなく、ヒトOATP−Rの発現も上昇させ、細胞におけるOATP−Rの機能を増強するか否かを確認するために、OATP−Rの基質となる甲状腺ホルモン(トリヨードサイロニン:T3)とACHN細胞とを用いて、T3の細胞内取り込みアッセイを行なった。具体的には、以下のような方法で行なった。
【0041】
まず、ヨウ素として放射性ヨウ素(125I)を有するトリヨードサイロニン(125I−T3)(アマシャム社製)と、ACHN細胞とを用意した。ACHN細胞を20%FBS/RPMI1640培地で48時間培養した後、該培地に125I−T3を添加し、さらに、サンプルとして10μM(最終濃度)のフルバスタチンを添加した。このACHN細胞をフルバスタチンの添加から24時間、37℃でインキュベートした後、ACHN細胞を分離し、細部内のタンパク質を0.1N NaOHに溶解し、一部をBCA法により蛋白定量した。得られたタンパク質(N=5)中の125I−T3量を、放射線を測定することによって測定し、その平均値を算出した。また、フルバスタチンを添加しなかったこと以外は同様の方法で、125I−T3量の平均値を算出した。これらの両場合について、単離したタンパク質1mgあたりの125I−T3含有量の平均値(fmol)を図2の左パネルに示す。図2の左パネルの結果から分かるように、フルバスタチンを投与した場合は、コントロールである水を投与した場合に比べて、125I−T3の取込量が、有意かつ顕著に上昇していた。この結果から、フルバスタチンが、腎臓細胞におけるヒトOATP−Rの発現も上昇させ、該細胞におけるOATP−Rの機能を増強して輸送能を向上させることが示された。
【実施例4】
【0042】
[甲状腺ホルモンの細胞内取り込みアッセイ 2]
インキュベート時間を24時間から48時間に変更したこと以外は、実施例3と同様の方法により、甲状腺ホルモンの細胞内取り込みアッセイを行なった。この変更後のアッセイ方法において、サンプルとして10μM(最終濃度)のフルバスタチンを添加する代わりに、100μM、300μM又は500μM(それぞれ最終終濃度)のプラバスタチン(Prava)を添加して、甲状腺ホルモン(125I−T3)の細胞内取り込みアッセイを行なった。これらの結果を、各サンプルについて、単離したタンパク質1mgあたりの125I−T3含有量の平均値(fmol)にて図2の右パネルに示す。図2の右パネルから分かるように、プラバスタチンを投与した場合はいずれの濃度でも、コントロールと比べて、125I−T3の取込量が顕著に上昇していたが、特にプラバスタチンの濃度が100μMの場合は取込量の上昇が特に優れていた。また、10μMのフルバスタチンを投与した場合も、125I−T3の取込量の上昇が特に優れていた。これらの結果から、プラバスタチンについても、腎臓細胞におけるヒトOATP−Rの発現をも上昇させ、該細胞におけるOATP−Rの機能を増強して輸送能を向上させることが示された。
【実施例5】
【0043】
[インビボにおけるOATP−R遺伝子発現アッセイ]
スタチンのOATP−R遺伝子発現増強作用が、インビボにおいても得られるか否かを確認するために、ラットを用いて、インビボにおけるOATP−R遺伝子発現アッセイを行なった。具体的には以下のような方法で行なった。
【0044】
10匹のSDラットを水(コントロール)投与群(5匹)、プラバスタチン(Prava)投与群(5匹)に分けた。プラバスタチン投与群には、水を溶媒としてプラバスタチンを200mg/kg/dayで7日間、フィーディングチューブを用いて経口投与した。コントロール群には、プラバスタチン投与群に投与したのと同量の水を投与した。7日間の投与終了後、各SDラットを解剖して、腎臓を摘出した。摘出した腎臓1gを10mlのTRIZOL液(インビトロジェン社製)に加え、ポリトロン破砕機の最大速度(100,000rpm)で1分間ホモジナイズした。ホモジナイズした溶液に2倍量のクロロフォルム液を加えて攪拌後、遠心分離し、水相部分を別のチューブに移した。この水相に2倍量のイソプロピルアルコールを添加し、15000rpmで冷却遠心を行ってRNAを抽出した。抽出したRNAをテンプレートとし、SuperScriptIII RTS ファーストストランドcDNA合成キット(インビトロジェン社製)を用いてcDNA合成を行った。TaqMan Probe(アプライドバイオシステム社製)を用いて実施例1記載の方法と同様の方法で定量RT−PCRを行い、ラット腎臓細胞中のOATP−R遺伝子のmRNA発現量(GAPDHに対する相対発現量)を、各サンプル群についてN=5にて定量し、各サンプルごとにmRNA発現量の平均値を算出した。コントロールである水を用いた場合のラットOATP−R遺伝子のmRNA発現量を1として、各サンプルのmRNA発現量の平均値を補正し、相対mRNA量を算出した。これらの結果を図3右パネルに示す。図3右パネルから分かるように、プラバスタチンのOATP−R遺伝子発現増強活性は、インビボにおいても得られることが示された。なお、ラットOATP−R遺伝子やヒトOATP−R遺伝子と同様にXRE類似配列を有するcyp1a1遺伝子のmRNA発現量を、実施例1記載の方法と同様の方法による定量RT−PCRによって定量した。その結果、ラット腎臓細胞中のCyp1a1遺伝子のmRNA発現も、プラバスタチンによって増強していることが示された(図3左パネル)。なお、CYP1a1は、低分子有機化合物を酸化的に修飾し、その他の誘導される解毒酵素とともに働いて、いわゆる解毒反応を司る酵素である。したがって、プラバスタチン等のスタチンは、腎機能障害を予防・治療するだけでなく、腎臓の解毒作用をも向上すると考えられる。
【実施例6】
【0045】
[インビボにおけるスタチンの血圧上昇抑制作用確認アッセイ]
スタチンが、血圧上昇抑制作用を有しているかを確認するために、ラットを用いて、インビボにおける血圧上昇抑制作用確認アッセイを行なった。具体的には以下のような方法で行なった。
【0046】
15匹のダール食塩感受性ラットを、低食塩食(LS)(コントロール)投与群(5匹)、高食塩食(HS)投与群(5匹)、高食塩食及びプラバスタチン(HS+スタチン)投与群(5匹)に分けた。HS+スタチン投与群においては、飲水に代えて、1mg/mlのプラバスタチン水溶液をラット1匹当たり約60〜80ml/day与えた。アッセイ前(0W)の各群のラットの血圧をテイルカフ(tail cuff)にて測定し、各群間に血圧差がないことを確認した。また、検査、処置による血圧変動時は、血圧がベースラインに戻ることを確認して測定を再開した。また、テレメトリーシステムとしては、Data Sciences International(DSI)製を使用し、それぞれテレメトリー送信器:TA11PA-C40、テレメトリー用受信機:RPC-1、大気圧校正装置:APR-1、データ変換マトリクス:DEM、データ取得・解析ソフトウェア:DataquestARTSilver Version2.2 を使用した。このようにして、各ラット群の収縮期の血圧を、アッセイの開始から1週間毎に4週間後まで測定した。各時期における各群の平均血圧の推移を図4に示す。図4の結果から分かるように、HS投与群ではLS投与群に比べて、週を追う毎に収縮期の平均血圧が上昇していった。しかし、HS+スタチン投与群ではLSとほぼ同様に平均血圧が推移しており、アッセイ開始から3週間後(3W)や4週間後(4W)では、HS投与群に比べて、平均血圧の上昇が有意に抑制されていた。
【実施例7】
【0047】
[HEK293細胞を用いたルシフェラーゼアッセイ]
上記の特許文献7の実施例2の2)に記載しているように、ヒトOATP−R遺伝子の転写活性領域の下流にルシフェラーゼ遺伝子を組み込んだレポータープラスミドを、ヒト胎児腎臓由来細胞株であるHEK239細胞にトランスフェクションした。この細胞を用いたルシフェラーゼアッセイを行うことによって、各種スタチンのヒトOATP−R遺伝子の転写活性への影響を調べた。コントロールであるDMSOを用いた場合のルシフェラーゼ発現量を1として補正した結果を図5に示す。図5の結果から分かるように、シンバスタチン(図5の[1])、ロバスタチン(図5の[2])、フルバスタチンナトリウム(図5の[3])、セリバスタチンナトリウム(図5の[4])、セリバスタチンラクトン(図5の[5])ピタバスタチンカルシウム(図5の[6])、プラバスタチンナトリウム(図5の[7])、メバスタチン(図5の[8])、アトルバスタチンカルシウム(図5の[9])、ロスバスタチンカルシウム(図5の[10])、シラスタチンナトリウム(図5の[11])のいずれも、コントロールであるDMSOと比較して、ヒトOATP−R遺伝子の転写活性を上昇させることが示された。中でも、フルバスタチンナトリウム、セリバスタチンラクトン、アトロバスタチンカルシウムは、ヒトOATP−Rの転写活性を上昇させる程度が特に優れていた。
【実施例8】
【0048】
[スタチンによる腎機能改善作用の作用機作に関するアッセイ]
スタチンによる腎機能改善作用が、血圧の変化に依存しているのか否か等を確認するために、図6に示す一連のアッセイを行なった。具体的には以下の方法により行なった。
【0049】
(1)プラバスタチン投与のラット血圧への影響
まず、ウイスターラットを10匹用意し、プラバスタチン(Prava)投与群とコントロール投与群に5匹ずつ分けた。後述の5/6腎摘(5/6Nx)手術の1週間前(−1W)から、プラバスタチン投与群には、0.1mg/mlのプラバスタチン溶液をラット1匹当たり約30〜40ml/day与え、コントロール投与群には同量の水を与えた。腎摘手術直後を0Wとし、図6に記載のスケジュールにしたがって、各操作を行なった。ウイスターラットの腎摘手術及び血圧の測定は以下のような方法で行なった。
【0050】
各ウイスターラットに、睡眠薬(43mg/kgのケタミン及び2.9mg/kgのキシラジン)を腹腔内投与した後、正中より開腹して、右腎動脈、右腎静脈及び尿管を4−0絹糸にて結紮し、右腎臓を切除した。左腎動脈は血流残存部分が1/3となるように分枝を7−0絹糸にて結紮し、開腹前の総腎臓量に対してトータルで1/6腎臓のみ残るようにした。このようにして、5/6腎臓摘出(5/6腎摘)ラット(以下、「腎摘ラット」ともいう。)を作製した。また、これらの各腎摘ラットの血圧を随時測定するために、テレメトリーの本体をラット腹腔内に設置し、センサー部分を左大腿動から挿入、固定した。5/6腎摘手術後は、各ラットを個別にケージにて飼育し、テレメトリーにて3分毎に10秒間の血圧測定を24時間行なった。なお、プラバスタチン(Prava)投与群及びコントロール投与群はそれぞれ腎摘手術を行なう前にテイルカフ(tail cuff)にて血圧を測定し、両群間に血圧差がないことを確認した。また、検査、処置による血圧変動時は、血圧がベースラインに戻ることを確認して測定を再開した。また、テレメトリーシステムとしては、Data Sciences International(DSI)製を使用し、それぞれテレメトリー送信器:TA11PA-C40、テレメトリー用受信機:RPC-1、大気圧校正装置:APR-1、データ変換マトリクス:DEM、データ取得・解析ソフトウェア:DataquestARTSilver Version2.2 を使用した。
【0051】
以上のようにして、プラバスタチン(Prava)投与群及びコントロール投与群の収縮期血圧を腎摘手術の翌日から26日目まで測定し、各ラットの各日の平均血圧を同じ群内で平均した値を算出した。その結果を図7に示す。図7から分かるように、プラバスタチン投与群とコントロール投与群の間で収縮期血圧の差は見られなかった。なお、前述の実施例6のアッセイでは、高食塩食+プラバスタチン投与群において、高食塩食投与群と比較して、血圧上昇の抑制が見られたが、本実施例8(1)の実験では、プラバスタチン(Prava)投与群とコントロール投与群の間に収縮期血圧の差は見られなかった。これは、実施例8(1)の実験におけるプラバスタチンの投与量が、実施例6のアッセイにおけるそれよりもかなり少ない(10分の1以下)ことによるものだと考えられる。
【0052】
(2)クレアチニンの腎クリアランスアッセイ
前述の図6のスケジュールで作製・飼育した両群の腎摘ラットに血漿中及び尿中のクレアチニン濃度や尿量を、後述の実施例8(4)のアッセイと同様の方法を用いて測定し、クレアチニンの腎クリアランス(ml/min/kg)を算出した。その結果を図8に示す。図8から分かるように、クレアチニンの腎クリアランスについては、プラバスタチン投与群とコントロール投与群との間に、有意な差は見られなかった。
【0053】
(3)インビボにおけるOATP−R遺伝子発現アッセイ
上記実施例8(1)の0W(すなわち、プラバスタチン投与の開始から1週間経過時点)における腎摘手術で摘出した各ラットの腎組織について、上記実施例5と同様の方法で定量RT−PCRを行い、ラット腎臓細胞中のOATP−R遺伝子のmRNA発現量(GAPDHに対する相対発現量)を、両群の各ラットについて測定した。各ラットのOATP−R遺伝子のmRNA発現量を同じ群内で平均した値を算出した。その結果を図9に示す。図9の結果から分かるように、プラバスタチン投与群のラットでは、コントロール投与群と比較して、OATP−R遺伝子のmRNA発現量が有意に上昇していた。
【0054】
(4)インビボにおける非対称ジメチルアルギニン量測定アッセイ
前述の図6のスケジュールで作製・飼育した両群の腎摘ラットに血漿中及び尿中の非対称ジメチルアルギニン(asymmetrical dimethylarginine;ADMA)量を測定した。ADMAは、腎不全物質として知られており、一酸化窒素の合成を抑制する作用及び血圧上昇作用を有することが知られている。
【0055】
サンプル用の尿としては、各ラットについて、図6記載の時期にメタボリックケージにて蓄積した尿を用いた。また、サンプル用の血漿としては、各ラットについて、図6記載の時期に採取した血液から分離した血漿を用いた。サンプル用の尿や血漿は、内標準物質を調整したメタノール溶液にて撹拌し、さらにCHCl3を添加して撹拌し、4600gで5分間遠心分離した後、上清を限外ろ過フィルター(分画分子量5000)にとり、4℃、9100gで2時間遠心分離し、得られたろ液を遠心濃縮したものを、SRL社に依頼して液体クロマトグラフィーにて各サンプル内のADMAの濃度を測定してもらった。そして、血漿中のADMA濃度は各ラットについてすべての時期を併せて平均した値(nmol/ml)を算出し、それを同じ群内でさらに平均した値を算出した。また、尿中のADMAについては、まず測定したADMA濃度から、各時期におけるそのラットの1日あたりのADMA排泄量(nmol/day)を算出し、それをすべての時期について併せて平均した値を算出し、それを同じ群内でさらに平均した値を算出した。また、尿中のADMA濃度、血漿中のADMA濃度、及び1分間当たりの尿量に基づいて、ADMAの腎クリアランス(尿中のADMA濃度×1分間当たりの尿量/血漿中のADMA濃度;ml/min)を算出した。これらの結果を図10に示す。血漿中のADMA濃度は、プラバスタチン投与群とコントロール投与群であまり変わらなかったが(図10の左パネル参照)、尿中のADMA量(図10の中央パネル)及びADMAの腎クリアランスについては、プラバスタチン投与群において、コントロール群と比較して有意な上昇が確認できた。
【0056】
(5)DDAH1及びDDAH2の腎臓でのmRNA発現アッセイ
なお、上記実施例8(4)における、腎摘TG(+)ラット群の血漿中のADMA濃度が低い理由が、ADMA分解の亢進でないことを確認するために、生体内のADMA分解酵素であるDDAH1とDDAH2の腎臓での発現を定量PCRにより調べた。その結果を図12に示す。その結果、腎摘TG(+)ラット群におけるDDAH1やDDAH2のmRNA発現(GAPDHに対する相対発現量)は、腎摘TG(−)ラット群のそれと変化がなかった。
【0057】
(6)以上のように、スタチンによる腎臓からのAMDA排泄は、血圧の変化やクレアチニンの腎クリアランスの変化に依存しておらず、スタチンはOATP−Rの発現を増強させることで腎臓からのAMDA排泄を増加させていることが分かった。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】左パネル、右パネルのいずれも、ヒト腎癌細胞株であるACHN細胞を用いたヒトOATP−R遺伝子発現アッセイの結果を示す図である。
【図2】左パネル、右パネルのいずれも、甲状腺ホルモンの細胞内取り込みアッセイの結果を示す図である。
【図3】図3右パネル:インビボにおけるラットOATP−R遺伝子発現アッセイの結果を示す図である。図3左パネル:インビボにおけるラットCYP1a1遺伝子発現アッセイの結果を示す図である。
【図4】インビボにおけるスタチンの血圧上昇抑制作用確認アッセイの結果を示す図である。
【図5】HEK293細胞を用いたルシフェラーゼアッセイの結果を示す図である。
【図6】スタチンによる腎機能改善作用が、血圧の変化に依存しているのか否か等を確認するための一連のアッセイの概要を示す図である。
【図7】プラバスタチン(Prava)投与群ラット及びコントロール投与群ラットにおける、収縮期の血圧を示す図である。グラフの横軸は、腎摘手術からの経過日数を示し、縦軸は血圧(mmHg)を示す図である。
【図8】プラバスタチン(Prava)投与群ラット及びコントロール投与群ラットにおける、クレアチニンの腎クリアランスアッセイの結果を示す図である。
【図9】インビボにおけるOATP−R遺伝子発現アッセイの結果を示す図である。
【図10】左パネル:プラバスタチン投与群とコントロール投与群における、血漿中のADMA濃度を示す図である。中央パネル:プラバスタチン投与群とコントロール投与群における、尿中のADMA量を示す図である。右パネル:プラバスタチン投与群とコントロール投与群における、ADMAの腎クリアランスを示す図である。
【図11】各種のスタチンの構造式を示す図である。
【図12】腎摘TG(+)ラット群及び腎摘TG(−)ラット群の腎臓におけるDDAH1及びDDAH2の発現を示す図である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、OATP−R遺伝子発現増強組成物や、該OATP−R遺伝子発現増強組成物を含有する腎機能障害の予防・治療剤等に関する。
【背景技術】
【0002】
腎不全患者等の腎機能障害を有する患者、特に腎透析を受ける患者の数は年々増加の一途を辿っており、現在20万人の患者が維持透治療を行っており、さらに毎年3万人以上が新たに透析導入に至っている。透析療法には、一人あたり年間約500万円の費用がかかるため、20万人に対して約1兆円の医療費が恒常的に必要となっている。また、近年、慢性腎臓病(Chronic Kidney Disease:CKD)という疾患概念が提唱され、その予防・治療の重要性に対する認識が高まりを見せている。CKDはCommon Diseaseであり、患者数は膨大(約2000万人)であることから、CKD対策が急務の課題となっている。以上のような状況下において、腎不全やCKD等の腎機能障害の症状の予防法や、そのような症状を緩和し、透析導入を遅らせる治療法が開発されれば、患者のQOL(クオリティオブライフ)に資するだけでなく、医療費の大幅な削減が可能となり社会に大きく貢献することが出来る。
【0003】
腎不全等の腎疾患の治療剤としては、一本鎖の肝細胞増殖因子を有効成分とするもの(特許文献1参照)や、特定のステロイドを含有するもの(特許文献2参照)や、コロニー刺激因子(CSF)を有効成分とするもの(特許文献3参照)が知られている。しかし、得られる治療効果は十分とは言えず、より優れたより実用的な腎機能障害の予防・治療剤が求められていた。
【0004】
また、高血圧症は生活習慣病の1種とされ、患者の数も増加傾向にあるとされる。高血圧症は、虚血性心疾患、脳卒中、腎不全などの発症リスクともなるため、予防・治療の必要性が高い。高血圧症の治療剤としては、通常の降圧剤のほか、コーヒー豆抽出物を有効成分とするもの(特許文献4参照)や、アンジオテンシンII受容体拮抗作用を有する化合物を有効成分とするもの(特許文献5参照)が知られている。しかし、より優れたより実用的な高血圧症の予防・治療剤が求められていた。
【0005】
腎臓には多種多様なトランスポーターが存在し、多様な物質輸送に関与している。なかでも有機アニオントランスポーター(OATP:organic anion transporting polypeptide)ファミリーは、生体内から不要となった有機アニオン等を体外に出すための排出・解毒ポンプとして機能するトランスポーターのファミリーであり、該トランスポーターはその幅広い基質認識性と多岐にわたる臓器分布から、内因性物質や薬物の体内動態において重要な役割を行うトランスポーターと考えられている。本発明者は、世界に先駆けて15個以上の有機アニオントランスポーターを単離し、胆汁酸、甲状腺ホルモン、ステロイドホルモン、プロスタグランジン類等が単に拡散でなく有機アニオントランスポーターにより細胞膜輸送されるという知見を世界に先駆けて報告してきた。更に、本発明者は、腎臓にのみ発現している有機アニオントランスポーターであるOATP−R(OATP4C1やOATP−M1とも呼ばれる)を世界で初めて発見し(非特許文献1)、その内容に関する特許出願が日本において特許登録された(特許文献6参照)。
【0006】
さらに、本発明者らは、そのOATP−Rの発現調節を明らかにするために、5’上流転写領域を詳細に解析したところ、ダイオキシンの核内受容体であるアリルハイドロカーボン受容体(AHR)が結合する繰り返し配列として知られるxenobioticresponse element(XRE)類似配列が、ヒトやラットのOATP−R遺伝子の5’上流転写領域に存在することを見い出した(特許文献7参照)。さらに、本発明者らは、ヒトOATP−Rの5’上流転写領域の下流にレポーター遺伝子を配置したプラスミドを、AHRを発現するHela細胞にトランスフェクトした細胞を作製し、該細胞を用いたレポーターアッセイを行なった。その結果、AHRに結合する3−メチルコランスレン(3−MC)によって、レポーター遺伝子の転写活性が上昇すること、及び、前述の5’上流転写領域中に、転写開始点より上流−100塩基付近のXRE類似領域が存在する場合において、転写活性の上昇傾向が特に顕著であることが分かった(特許文献7参照)。また、5’上流転写領域中のXRE類似領域の配列を除去又は改変することにより、レポーター遺伝子の転写活性が顕著に低下することから、ヒトOATP−R遺伝子の転写制御には、XRE類似領域が関連している可能性が示唆された(特許文献7参照)。以上のように3−MCは、OATP−R遺伝子発現増強活性を有しているが、3−MCはダイオキシン類似物質であるため、毒性等の観点から、ヒトに投与することはできなかった。
【0007】
一方、スタチンとは、HMG−CoA(3−ヒドロキシ−3−メチルグルタリル−CoA)還元酵素の働きを阻害することによって、血液中のLDLコレステロール値を低下させる薬物の総称である。より詳細な作用機作としては、メバロン酸経路の律速酵素であるHMG−CoA還元酵素の働きをスタチンが阻害することで、肝臓でのコレステロール生合成が低下し、その結果、コレステロール恒常性維持のため肝臓でのLDL受容体発現が上昇し、血液から肝臓へのLDLコレステロールの取り込みが促進され、血液中のコレステロールが低下するというものである。これまでに各種のスタチンが高脂血症治療剤として開発され(特許文献8、特許文献9等参照)、現在、高脂血症の治療剤として広く普及している。また、Dahl食塩感受性ラットにプラバスタチンを投与すると血圧が低下することが報告されている(非特許文献2参照)。しかし、スタチンがOATP−Rの発現を増強することは知られていなかった。
【0008】
【特許文献1】特開2008−195628号公報
【特許文献2】特表2005−506321号公報
【特許文献3】再表2005/034986号公報
【特許文献4】特開2006−083182号公報
【特許文献5】特開平06−312926号公報
【特許文献6】日本国特許第4008481号公報
【特許文献7】特開2008−100927号公報
【特許文献8】特開2005−089300号公報
【特許文献9】特表2003−524582号公報
【非特許文献1】PNAS March 9, 2004. vol.101, no.10, 3569-3574
【非特許文献2】Hypertens. Res., 2005, vol.28, no.12, 1009-1015
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、安全性がより高く、かつ、OATP−R遺伝子発現増強作用を有するOATP−R遺伝子発現増強組成物や、該OATP−R遺伝子発現増強組成物を含有する腎機能障害の予防・治療剤等を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために、前述の特許文献7のアッセイ系を利用して、様々な薬物の中からヒトOATP−R遺伝子発現増強作用を有する薬物のスクリーニングを行ったところ、高脂血症剤としてすでに実用化され広く用いられているスタチンがヒトOATP−R遺伝子の発現を増強することを見い出した。さらに、本発明者らは、ヒト腎臓由来細胞であるACHN細胞にスタチンを投与したところ、該ACHN細胞内では、ヒトOATP−R遺伝子のmRNAが増加し、それに伴い、OATP−R基質である甲状腺ホルモンの細胞内取り込み活性が上昇することを見い出した。また、本発明者らは、スタチンをラットに経口投与したところ、腎臓におけるOATP−R遺伝子の発現をスタチンが増強することを見い出した。さらに、本発明者らは、高食塩食に加えてスタチンを継続してラットに与えると、高食塩食のみを与えたラットと比較して、血圧の上昇が有意に抑制されることを見い出した。また、スタチンをラットに経口投与することによって得られる腎機能改善は、血圧の変化やクレアチニンの腎クリアランスの変化に依存しているのではなく、スタチン投与によるOATP−R発現の増強によって、ADMA等の腎不全時に蓄積する物質の排泄が促進し、腎障害が軽減することによるものであることを見い出した。本発明者らは、以上の知見に基づいて本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち本発明は、(1)スタチン又はその薬学上許容され得る塩を含有するOATP−R遺伝子発現増強組成物や、(2)スタチンが、セリバスタチン(cerivastatin)、アトルバスタチン(atorvastatin)、フルバスタチン(fluvastatin)、シンバスタチン(simvastatin)、ロバスタチン(lovastatin)、ピタバスタチン(pitavastatin)、プラバスタチン(pravastatin)、メバスタチン(mevastatin)、ロスバスタチン(rosuvastatin)及びシラスタチン(cilastatin)から成る群から選択される上記(1)に記載のOATP−R遺伝子発現増強組成物や、(3)スタチンが、セリバスタチン(cerivastatin)又はアトルバスタチン(atorvastatin)である上記(1)に記載のOATP−R遺伝子発現増強組成物や、(4)OATP−R遺伝子が、ヒトOATP−R遺伝子又はラットOATP−R遺伝子である上記(1)〜(3)のいずれかに記載のOATP−R遺伝子発現増強組成物に関する。
【0012】
また本発明は、(5)スタチン又はその薬学上許容され得る塩を含有するOATP−R遺伝子発現増強組成物を含有する腎機能障害の予防・治療剤や、(6)腎機能障害が、急性腎不全、慢性腎不全、急性腎炎、慢性腎炎、急性尿細管壊死、尿細管間質障害、慢性腎臓病及びネフローゼ症候群からなる群から選択される上記(5)に記載の腎機能障害の予防・治療剤に関する。
【0013】
さらに本発明は、(7)OATP−R遺伝子発現増強組成物の製造における、スタチン又はその薬学上許容され得る塩の使用方法に関する。
【0014】
さらにまた本発明は、(8)腎機能障害の予防・治療剤の製造における、スタチン又はその薬学上許容され得る塩の使用方法に関する。
【発明の効果】
【0015】
本発明のOATP−R遺伝子発現増強組成物は、腎臓に特異的に発現するOATP−R遺伝子の発現を増強することができる。OATP−R遺伝子がコードするOATP−Rは、胆汁酸、ジゴキシン、ウアバイン、cAMP等の腎不全物質を対外に排出する活性を有することが知られており(本発明者らの出願である特願2008−264674号も参照)、OATP−R遺伝子の発現を増強することによって、腎機能が改善して腎不全物質の体外への排出機能が促進されて、腎機能障害の予防効果や治療効果が得られると考えられる。
【0016】
また、本発明のOATP−R遺伝子発現増強組成物(腎機能障害の予防・治療剤)を用いることによって、透析では除去できない尿毒症物質を排泄することが可能となる。さらに、腎機能障害患者に対して本発明のOATP−R遺伝子発現増強組成物(腎機能障害の予防・治療剤)を投与した場合、腎機能障害の進行を止めるか又は遅らせることができるため、透析等の煩雑な治療を行う必要がなくなったり、透析等の煩雑な治療を導入する時期を遅らせることができる。腎機能障害の進行を少なくとも遅らせることができれば、その間にその腎機能障害患者に効果的な治療剤や投与方法を選択する猶予が得られ、個々の腎機能障害患者にとって最適な治療法を選択することが可能となる。
【0017】
また、本発明のOATP−R遺伝子発現増強組成物は、腎機能の改善作用に加えて、血圧上昇の抑制作用も有している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明のOATP−R遺伝子発現増強組成物としては、スタチン又はその薬学上許容され得る塩(以下、併せて「スタチン等」とも言う。)を含有している限り特に制限されず、前述のスタチン等としては、OATP−R遺伝子発現を増強する活性を有するスタチン等である限り特に制限されず、例えばセリバスタチン(cerivastatin)、アトルバスタチン(atorvastatin)、フルバスタチン(fluvastatin)、シンバスタチン(simvastatin)、ロバスタチン(lovastatin)、ピタバスタチン(pitavastatin)、プラバスタチン(pravastatin)、メバスタチン(mevastatin)、ロスバスタチン(rosuvastatin)及びシラスタチン(cilastatin)、又はこれらの誘導体を好適に例示することができ、中でも、セリバスタチン、アトルバスタチン、又はこれらの誘導体をより好適に例示することができる。これらのスタチン等を2種類以上併用することもできる。なお、ヒト生体に用いる場合は、既に高脂血症治療剤として市販されており、毒性の観点からの安全性が確認されているセリバスタチン、アトルバスタチン、フルバスタチン、シンバスタチン、ロバスタチン、ピタバスタチン、プラバスタチン、メバスタチン、ロスバスタチン、シラスタチン等のスタチンを特に好適に用いることができる。
【0019】
上記のスタチンの「誘導体」とは、スタチンの基本骨格を維持しつつ、スタチンの置換基の位置を変更した物質や、スタチンの基本骨格を維持しつつ、スタチンのある分子を別の分子に置換した物質や、スタチンの基本骨格を維持しつつ、スタチンに特定の置換基を付加した物質や、スタチンの基本骨格を維持しつつ、スタチンから特定の置換基を取り除いた物質等を意味する。スタチンの基本骨格には、例えば図10に示される各スタチンの構造式のうちのいずれか2つ以上の構造式に共通する骨格を含んでいる。スタチンの誘導体の中でも、スタチンのラクトンやエステルを特に好適に例示することができる。
【0020】
スタチン等がOATP−R遺伝子発現を増強する作用機作の詳細は不明であるが、スタチンの基本骨格が何等かの作用を生じ、OATP−R遺伝子発現を増強するものと考えられる。
【0021】
上記の「OATP−R遺伝子発現を増強する活性を有するスタチン等」とは、OATP−R遺伝子を発現し得るヒト又はラット腎細胞株と共培養したり、ヒト又はラットに投与した場合に、不存在又は非投与の場合と比較して、腎細胞等のOATP−R遺伝子を発現し得る細胞内におけるOATP−Rの発現が、mRNAレベル及び/又はタンパク質レベルで上昇するスタチン等をいう。ヒトの場合についてより具体的には、後述の実施例1、2におけるヒト腎癌細胞株を用いたヒトOATP−R遺伝子発現アッセイや後述の実施例7におけるルシフェラーゼアッセイにおいて、コントロール(スタチン非投与又はDMSO投与)の場合より、ヒトOATP−R遺伝子のmRNA発現や転写活性が上昇するスタチン等や、後述の実施例3、4における甲状腺ホルモンの細胞内取り込みアッセイにおいて、コントロール(スタチン非投与)の場合より、甲状腺ホルモンの細胞内取り込み量が上昇するスタチン等を含み、ラットの場合についてより具体的には、後述の実施例5のラットを用いたインビボにおけるOATP−R遺伝子発現アッセイにおいて、コントロール(水)を投与した場合より、ラットOATP−R遺伝子のmRNA発現が上昇するスタチン等を含む。
【0022】
上記のOATP−R遺伝子のmRNA発現の上昇の程度としては、特に制限されないが、コントロールと比較して、割合として、好ましくは5%以上、より好ましくは10%以上、さらに好ましくは15%以上である場合を好適に例示することができ、上記の甲状腺ホルモンの取込量の上昇の程度としては、特に制限されないが、コントロールと比較して、割合として、好ましくは%以上、より好ましくは10%以上、さらに好ましくは15%以上である場合を好適に例示することができる。なお、上記のOATP−R遺伝子としては、OATP−Rのコード領域の上流にXRE類似配列を備えているOATP−R遺伝子である限り特に制限されず、ヒトOATP−R遺伝子、ラットOATP−R遺伝子を特に好適に例示することができる。
【0023】
「薬学上許容され得る塩」には、例えばナトリウム、カリウム、リチウム、カルシウム、マグネシウム、バリウム、アンモニウムなどの無毒性アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩などが包含される。この他、上記塩には、スタチンと適当な有機酸ないし無機酸との反応による無毒性酸付加塩も包含される。代表的無毒性酸付加塩としては、例えば塩酸塩、塩化水素酸塩、臭化水素酸塩、硫酸塩、重硫酸塩、酢酸塩、蓚酸塩、吉草酸塩、オレイン酸塩、ラウリン酸塩、硼酸塩、安息香酸塩、乳酸塩、リン酸塩、p−トルエンスルホン酸塩(トシレート)、クエン酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、コハク酸塩、酒石酸塩、スルホン酸塩、グリコール酸塩、マレイン酸塩、アスコルビン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、ナプシレートなどが例示される。かかる塩は、当業界で周知の方法により調製することができる。これらの塩の中のうち、無毒性アルカリ金属塩やアルカリ土類金属塩を好適に例示することができ、ナトリウム塩やカルシウム塩を特に好適に例示することができる。
【0024】
上記の各種スタチン等は、高脂血症剤として市販されているものを用いることもでき、また、特公平2−46031号公報、米国特許第4,231,938号公報、米国特許第4,346,227号公報、米国特許第5,354,772号公報、米国特許第5,273,995号公報、米国特許第5,177,080号公報、米国特許第3,983,140号公報、米国特許第5,260,440号公報、国際公開特許出願WO 00/42024公報、米国特許第5,753,675号公報等に記載された公知の反応を組み合わせて、適宜製造することもできる。
【0025】
本発明のOATP−R遺伝子発現増強組成物に用いる「スタチン又はその薬学上許容され得る塩」の中で特に好ましいものとして、セリバスタチンナトリウム、セリバスタチンラクトン、アトルバスタチンカルシウム、フルバスタチンナトリウム、シンバスタチン、ロバスタチン、ピタバスタチンカルシウム、プラバスタチンナトリウム、メバスタチン、ロスバスタチンカルシウム及びシラスタチンナトリウムを例示することができる。
【0026】
本発明のOATP−R遺伝子発現増強組成物としては、上記のスタチン等を含有している限り特に制限されないが、任意成分として、OATP−R遺伝子を増強する他の成分や、薬学上許容される担体をさらに含有していてもよい。薬学上許容される担体としては、例えば賦形剤、結合剤、溶剤、溶解補助剤、懸濁化剤、乳化剤、等張化剤、緩衝剤、安定化剤、無痛化剤、防腐剤、抗酸化剤、着色剤などの任意成分を配合することができる。
【0027】
本発明のOATP−R遺伝子発現増強組成物の剤型としては、特に制限はなく、上記のスタチン等そのものであってもよいし、散剤、顆粒剤、錠剤等の固形製剤であってもよいし、溶液剤、乳剤、懸濁剤などの液剤であってもよい。また、本発明のOATP−R遺伝子発現増強組成物の投与方法としては、経口投与や静脈投与等を例示することができるが、投与が簡便であることから、経口投与を好ましく例示することができる。
【0028】
本発明のOATP−R遺伝子発現増強組成物の投与量としては、OATP−R遺伝子発現を増強する活性が得られる限り特に制限されず、投与対象に応じて適宜投与量を調整することができる。投与対象としては、OATP−R遺伝子発現を増強する活性が得られる限り特に制限されないが、哺乳動物を例示することができ、中でもヒト、ラットを好適に例示することができ、特にヒトを好適に例示することができる。
【0029】
本発明のOATP−R遺伝子発現増強組成物は、腎機能予防・治療剤としても使用することができる。OATP−Rは、胆汁酸、ジゴキシン、ウアバイン、cAMP等の腎不全物質を対外に排出する活性を有することが知られており、OATP−R遺伝子の発現を増強することによって、腎機能を改善して腎不全物質の体外への排出機能が促進されて、腎機能障害の予防効果や治療効果が得られると考えられるからである。実際、後述の実施例8には、本発明のOATP−R遺伝子発現増強組成物が、腎機能の指標の1つであるADMAクリアランスを有意に上昇させることが実証されている。
【0030】
上記の腎機能障害としては、腎臓における尿形成や排泄に関連する機能の障害である限り特に制限されず、例えば、急性腎不全、慢性腎不全、急性腎炎、慢性腎炎、急性尿細管壊死、尿細管間質障害、慢性腎臓病及びネフローゼ症候群を好適に例示することができる。
【0031】
上記の本発明の腎機能予防・治療剤には、本発明のOATP−R遺伝子発現増強組成物の他に、任意成分として、他の腎機能の予防・治療剤をさらに含有していてもよい。
【0032】
また、本発明のOATP−R遺伝子発現増強組成物は、腎機能の改善作用に加えて、血圧上昇の抑制作用も有している(後述の実施例6のアッセイ参照)ので、高血圧症、特に好ましくは腎機能障害を伴う高血圧症の予防や治療にも有効に用いることができる。なお、血圧上昇の抑制作用を得るためには、単にOATP−R遺伝子発現増強作用を得るよりも多いスタチンを投与する必要があるが、その適切な投与量は、投与対象に応じて適宜調整するなどして確認することができる。
【0033】
また、本発明には、OATP−R遺伝子発現増強組成物の製造におけるスタチン又はその薬学上許容され得る塩の使用方法や、腎機能障害の予防・治療剤の製造におけるスタチン又はその薬学上許容され得る塩の使用方法や、スタチン又はその薬学上許容され得る塩を哺乳動物(特にヒト又はラット)に投与することを特徴とする腎機能障害の予防・治療方法も含まれる。これらの使用や方法における文言の内容やその好ましい態様は、前述したとおりである。
【0034】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。
【実施例1】
【0035】
[ヒト腎癌細胞株であるACHN細胞を用いたヒトOATP−R遺伝子発現アッセイ 1]
ヒトOATP−R(hOATP−R)遺伝子のmRNA発現を増強することが知られる3−MCと同様に、スタチンがヒトOATP−R遺伝子のmRNA発現を増強するか否かを確認するために、ヒト腎癌細胞株であるACHN細胞を用いて、ヒトOATP−R遺伝子について定量RT−PCRを行なった。具体的には以下のような方法で行なった。
【0036】
ヒト腎癌細胞株であるACHN細胞株は、東北大学加齢医学研究所医用細胞資源センターより供与された。このACHN細胞はOATP−R遺伝子を発現し得る細胞である。このACHN細胞を24ウェルプレートに、1ウェル当たり2.4×105 cellずつ分注し、特定の培地(RPMI1640培地に、FBS、ペニシリン、ストレプトマイシンを、それぞれ最終濃度がFBS10%、ペニシリン100U/ml、ストレプトマイシン100μg/mlとなるように添加した培地)中、37℃、5%CO2の条件下で48時間培養した。ACHN細胞が70−80%のコンフルエントになったのを確認してから、培地を無血清培地であるOPTI−MEM1に交換し、4時間培養した後、24ウェル内の無血清培地と等量の特定の培地を、それぞれのウェル内に添加した。この特定の培地としては、20%FBS/RPMI1640培地に、サンプルとしてプラバスタチン(Prava)を最終濃度100μMで添加したサンプル培地を用いた。また、サンプル培地に代えて、サンプル無添加(control)の20%FBS/RPMI1640培地(ネガティブコントロール培地)や、サンプルとしてジメチルスルホキシド(DMSO)を最終濃度0.1質量%で添加した20%FBS/RPMI1640培地(ネガティブコントロール培地)、及び、サンプルとして3−MC(3MC)を最終濃度5μMで添加した20%FBS/RPMI1640培地(ポジティブコントロール)を用いた。
【0037】
これらの特定の培地を添加してから24時間培養した後、培養細胞を10mlのTRIZOL液(インビトロジェン社製)に加え、ポリトロン破砕機の最大速度(100,000rpm)で1分間ホモジナイズした。ホモジナイズした溶液に2倍量のクロロフォルム液を加えて攪拌後、遠心分離し、水相部分を別のチューブに移した。この水相に2倍量のイソプロピルアルコールを添加し、15000rpmで冷却遠心を行ってRNAを抽出した。抽出したRNAをテンプレートとし、SuperScriptIII RTS ファーストストランドcDNA合成キット(インビトロジェン社製)を用いてcDNA合成を行った。TaqMan Probe(アプライドバイオシステム社製)を用いて定量RT−PCRを行い、培養細胞中のヒトOATP−R遺伝子のmRNA発現量を定量した。
【0038】
各サンプルについてN=5にて定量し、各サンプルごとにmRNA発現量の平均値を算出した。水の場合のmRNA発現量の平均値を1として、各サンプルのmRNA発現量の平均値を補正し、相対mRNA量を算出した。以上の定量RT−PCRの結果を図1の左パネルに示す。図1の左パネルの結果から分かるように、プラバスタチンを投与した場合は、コントロールである水やDMSOを投与した場合に比べて、ヒトOATP−R遺伝子の相対mRNA量が、有意かつ顕著に上昇していた。また、プラバスタチンを投与した場合のヒトOATP−R遺伝子のmRNA量(GAPDHに対する相対発現量)は、3−MCと比べても、著しく上昇していた。これらの結果から、プラバスタチンが、腎臓細胞におけるヒトOATP−R遺伝子のmRNA発現を上昇させることが示された。
【実施例2】
【0039】
[ヒト腎癌細胞株であるACHN細胞を用いたヒトOATP−R遺伝子発現アッセイ 2]
サンプルとして、プラバスタチン等を添加する代わりに、フルバスタチン(Fluva)を10μM、30μM又は100μM(それぞれ最終濃度)で添加したこと以外は、実施例1と同様の方法により、定量RT−PCRを行なった。その結果を図1の右パネルに示す。フルバスタチンを投与した場合はいずれの濃度でも、コントロールと比べて、ヒトOATP−R遺伝子のmRNA量(GAPDHに対する相対発現量)は、顕著に上昇していた。これらの結果から、フルバスタチンも、腎臓細胞におけるヒトOATP−R遺伝子のmRNA発現を上昇させることが示された。
【実施例3】
【0040】
[甲状腺ホルモンの細胞内取り込みアッセイ 1]
スタチンがヒトOATP−R遺伝子のmRNA発現を上昇させるだけでなく、ヒトOATP−Rの発現も上昇させ、細胞におけるOATP−Rの機能を増強するか否かを確認するために、OATP−Rの基質となる甲状腺ホルモン(トリヨードサイロニン:T3)とACHN細胞とを用いて、T3の細胞内取り込みアッセイを行なった。具体的には、以下のような方法で行なった。
【0041】
まず、ヨウ素として放射性ヨウ素(125I)を有するトリヨードサイロニン(125I−T3)(アマシャム社製)と、ACHN細胞とを用意した。ACHN細胞を20%FBS/RPMI1640培地で48時間培養した後、該培地に125I−T3を添加し、さらに、サンプルとして10μM(最終濃度)のフルバスタチンを添加した。このACHN細胞をフルバスタチンの添加から24時間、37℃でインキュベートした後、ACHN細胞を分離し、細部内のタンパク質を0.1N NaOHに溶解し、一部をBCA法により蛋白定量した。得られたタンパク質(N=5)中の125I−T3量を、放射線を測定することによって測定し、その平均値を算出した。また、フルバスタチンを添加しなかったこと以外は同様の方法で、125I−T3量の平均値を算出した。これらの両場合について、単離したタンパク質1mgあたりの125I−T3含有量の平均値(fmol)を図2の左パネルに示す。図2の左パネルの結果から分かるように、フルバスタチンを投与した場合は、コントロールである水を投与した場合に比べて、125I−T3の取込量が、有意かつ顕著に上昇していた。この結果から、フルバスタチンが、腎臓細胞におけるヒトOATP−Rの発現も上昇させ、該細胞におけるOATP−Rの機能を増強して輸送能を向上させることが示された。
【実施例4】
【0042】
[甲状腺ホルモンの細胞内取り込みアッセイ 2]
インキュベート時間を24時間から48時間に変更したこと以外は、実施例3と同様の方法により、甲状腺ホルモンの細胞内取り込みアッセイを行なった。この変更後のアッセイ方法において、サンプルとして10μM(最終濃度)のフルバスタチンを添加する代わりに、100μM、300μM又は500μM(それぞれ最終終濃度)のプラバスタチン(Prava)を添加して、甲状腺ホルモン(125I−T3)の細胞内取り込みアッセイを行なった。これらの結果を、各サンプルについて、単離したタンパク質1mgあたりの125I−T3含有量の平均値(fmol)にて図2の右パネルに示す。図2の右パネルから分かるように、プラバスタチンを投与した場合はいずれの濃度でも、コントロールと比べて、125I−T3の取込量が顕著に上昇していたが、特にプラバスタチンの濃度が100μMの場合は取込量の上昇が特に優れていた。また、10μMのフルバスタチンを投与した場合も、125I−T3の取込量の上昇が特に優れていた。これらの結果から、プラバスタチンについても、腎臓細胞におけるヒトOATP−Rの発現をも上昇させ、該細胞におけるOATP−Rの機能を増強して輸送能を向上させることが示された。
【実施例5】
【0043】
[インビボにおけるOATP−R遺伝子発現アッセイ]
スタチンのOATP−R遺伝子発現増強作用が、インビボにおいても得られるか否かを確認するために、ラットを用いて、インビボにおけるOATP−R遺伝子発現アッセイを行なった。具体的には以下のような方法で行なった。
【0044】
10匹のSDラットを水(コントロール)投与群(5匹)、プラバスタチン(Prava)投与群(5匹)に分けた。プラバスタチン投与群には、水を溶媒としてプラバスタチンを200mg/kg/dayで7日間、フィーディングチューブを用いて経口投与した。コントロール群には、プラバスタチン投与群に投与したのと同量の水を投与した。7日間の投与終了後、各SDラットを解剖して、腎臓を摘出した。摘出した腎臓1gを10mlのTRIZOL液(インビトロジェン社製)に加え、ポリトロン破砕機の最大速度(100,000rpm)で1分間ホモジナイズした。ホモジナイズした溶液に2倍量のクロロフォルム液を加えて攪拌後、遠心分離し、水相部分を別のチューブに移した。この水相に2倍量のイソプロピルアルコールを添加し、15000rpmで冷却遠心を行ってRNAを抽出した。抽出したRNAをテンプレートとし、SuperScriptIII RTS ファーストストランドcDNA合成キット(インビトロジェン社製)を用いてcDNA合成を行った。TaqMan Probe(アプライドバイオシステム社製)を用いて実施例1記載の方法と同様の方法で定量RT−PCRを行い、ラット腎臓細胞中のOATP−R遺伝子のmRNA発現量(GAPDHに対する相対発現量)を、各サンプル群についてN=5にて定量し、各サンプルごとにmRNA発現量の平均値を算出した。コントロールである水を用いた場合のラットOATP−R遺伝子のmRNA発現量を1として、各サンプルのmRNA発現量の平均値を補正し、相対mRNA量を算出した。これらの結果を図3右パネルに示す。図3右パネルから分かるように、プラバスタチンのOATP−R遺伝子発現増強活性は、インビボにおいても得られることが示された。なお、ラットOATP−R遺伝子やヒトOATP−R遺伝子と同様にXRE類似配列を有するcyp1a1遺伝子のmRNA発現量を、実施例1記載の方法と同様の方法による定量RT−PCRによって定量した。その結果、ラット腎臓細胞中のCyp1a1遺伝子のmRNA発現も、プラバスタチンによって増強していることが示された(図3左パネル)。なお、CYP1a1は、低分子有機化合物を酸化的に修飾し、その他の誘導される解毒酵素とともに働いて、いわゆる解毒反応を司る酵素である。したがって、プラバスタチン等のスタチンは、腎機能障害を予防・治療するだけでなく、腎臓の解毒作用をも向上すると考えられる。
【実施例6】
【0045】
[インビボにおけるスタチンの血圧上昇抑制作用確認アッセイ]
スタチンが、血圧上昇抑制作用を有しているかを確認するために、ラットを用いて、インビボにおける血圧上昇抑制作用確認アッセイを行なった。具体的には以下のような方法で行なった。
【0046】
15匹のダール食塩感受性ラットを、低食塩食(LS)(コントロール)投与群(5匹)、高食塩食(HS)投与群(5匹)、高食塩食及びプラバスタチン(HS+スタチン)投与群(5匹)に分けた。HS+スタチン投与群においては、飲水に代えて、1mg/mlのプラバスタチン水溶液をラット1匹当たり約60〜80ml/day与えた。アッセイ前(0W)の各群のラットの血圧をテイルカフ(tail cuff)にて測定し、各群間に血圧差がないことを確認した。また、検査、処置による血圧変動時は、血圧がベースラインに戻ることを確認して測定を再開した。また、テレメトリーシステムとしては、Data Sciences International(DSI)製を使用し、それぞれテレメトリー送信器:TA11PA-C40、テレメトリー用受信機:RPC-1、大気圧校正装置:APR-1、データ変換マトリクス:DEM、データ取得・解析ソフトウェア:DataquestARTSilver Version2.2 を使用した。このようにして、各ラット群の収縮期の血圧を、アッセイの開始から1週間毎に4週間後まで測定した。各時期における各群の平均血圧の推移を図4に示す。図4の結果から分かるように、HS投与群ではLS投与群に比べて、週を追う毎に収縮期の平均血圧が上昇していった。しかし、HS+スタチン投与群ではLSとほぼ同様に平均血圧が推移しており、アッセイ開始から3週間後(3W)や4週間後(4W)では、HS投与群に比べて、平均血圧の上昇が有意に抑制されていた。
【実施例7】
【0047】
[HEK293細胞を用いたルシフェラーゼアッセイ]
上記の特許文献7の実施例2の2)に記載しているように、ヒトOATP−R遺伝子の転写活性領域の下流にルシフェラーゼ遺伝子を組み込んだレポータープラスミドを、ヒト胎児腎臓由来細胞株であるHEK239細胞にトランスフェクションした。この細胞を用いたルシフェラーゼアッセイを行うことによって、各種スタチンのヒトOATP−R遺伝子の転写活性への影響を調べた。コントロールであるDMSOを用いた場合のルシフェラーゼ発現量を1として補正した結果を図5に示す。図5の結果から分かるように、シンバスタチン(図5の[1])、ロバスタチン(図5の[2])、フルバスタチンナトリウム(図5の[3])、セリバスタチンナトリウム(図5の[4])、セリバスタチンラクトン(図5の[5])ピタバスタチンカルシウム(図5の[6])、プラバスタチンナトリウム(図5の[7])、メバスタチン(図5の[8])、アトルバスタチンカルシウム(図5の[9])、ロスバスタチンカルシウム(図5の[10])、シラスタチンナトリウム(図5の[11])のいずれも、コントロールであるDMSOと比較して、ヒトOATP−R遺伝子の転写活性を上昇させることが示された。中でも、フルバスタチンナトリウム、セリバスタチンラクトン、アトロバスタチンカルシウムは、ヒトOATP−Rの転写活性を上昇させる程度が特に優れていた。
【実施例8】
【0048】
[スタチンによる腎機能改善作用の作用機作に関するアッセイ]
スタチンによる腎機能改善作用が、血圧の変化に依存しているのか否か等を確認するために、図6に示す一連のアッセイを行なった。具体的には以下の方法により行なった。
【0049】
(1)プラバスタチン投与のラット血圧への影響
まず、ウイスターラットを10匹用意し、プラバスタチン(Prava)投与群とコントロール投与群に5匹ずつ分けた。後述の5/6腎摘(5/6Nx)手術の1週間前(−1W)から、プラバスタチン投与群には、0.1mg/mlのプラバスタチン溶液をラット1匹当たり約30〜40ml/day与え、コントロール投与群には同量の水を与えた。腎摘手術直後を0Wとし、図6に記載のスケジュールにしたがって、各操作を行なった。ウイスターラットの腎摘手術及び血圧の測定は以下のような方法で行なった。
【0050】
各ウイスターラットに、睡眠薬(43mg/kgのケタミン及び2.9mg/kgのキシラジン)を腹腔内投与した後、正中より開腹して、右腎動脈、右腎静脈及び尿管を4−0絹糸にて結紮し、右腎臓を切除した。左腎動脈は血流残存部分が1/3となるように分枝を7−0絹糸にて結紮し、開腹前の総腎臓量に対してトータルで1/6腎臓のみ残るようにした。このようにして、5/6腎臓摘出(5/6腎摘)ラット(以下、「腎摘ラット」ともいう。)を作製した。また、これらの各腎摘ラットの血圧を随時測定するために、テレメトリーの本体をラット腹腔内に設置し、センサー部分を左大腿動から挿入、固定した。5/6腎摘手術後は、各ラットを個別にケージにて飼育し、テレメトリーにて3分毎に10秒間の血圧測定を24時間行なった。なお、プラバスタチン(Prava)投与群及びコントロール投与群はそれぞれ腎摘手術を行なう前にテイルカフ(tail cuff)にて血圧を測定し、両群間に血圧差がないことを確認した。また、検査、処置による血圧変動時は、血圧がベースラインに戻ることを確認して測定を再開した。また、テレメトリーシステムとしては、Data Sciences International(DSI)製を使用し、それぞれテレメトリー送信器:TA11PA-C40、テレメトリー用受信機:RPC-1、大気圧校正装置:APR-1、データ変換マトリクス:DEM、データ取得・解析ソフトウェア:DataquestARTSilver Version2.2 を使用した。
【0051】
以上のようにして、プラバスタチン(Prava)投与群及びコントロール投与群の収縮期血圧を腎摘手術の翌日から26日目まで測定し、各ラットの各日の平均血圧を同じ群内で平均した値を算出した。その結果を図7に示す。図7から分かるように、プラバスタチン投与群とコントロール投与群の間で収縮期血圧の差は見られなかった。なお、前述の実施例6のアッセイでは、高食塩食+プラバスタチン投与群において、高食塩食投与群と比較して、血圧上昇の抑制が見られたが、本実施例8(1)の実験では、プラバスタチン(Prava)投与群とコントロール投与群の間に収縮期血圧の差は見られなかった。これは、実施例8(1)の実験におけるプラバスタチンの投与量が、実施例6のアッセイにおけるそれよりもかなり少ない(10分の1以下)ことによるものだと考えられる。
【0052】
(2)クレアチニンの腎クリアランスアッセイ
前述の図6のスケジュールで作製・飼育した両群の腎摘ラットに血漿中及び尿中のクレアチニン濃度や尿量を、後述の実施例8(4)のアッセイと同様の方法を用いて測定し、クレアチニンの腎クリアランス(ml/min/kg)を算出した。その結果を図8に示す。図8から分かるように、クレアチニンの腎クリアランスについては、プラバスタチン投与群とコントロール投与群との間に、有意な差は見られなかった。
【0053】
(3)インビボにおけるOATP−R遺伝子発現アッセイ
上記実施例8(1)の0W(すなわち、プラバスタチン投与の開始から1週間経過時点)における腎摘手術で摘出した各ラットの腎組織について、上記実施例5と同様の方法で定量RT−PCRを行い、ラット腎臓細胞中のOATP−R遺伝子のmRNA発現量(GAPDHに対する相対発現量)を、両群の各ラットについて測定した。各ラットのOATP−R遺伝子のmRNA発現量を同じ群内で平均した値を算出した。その結果を図9に示す。図9の結果から分かるように、プラバスタチン投与群のラットでは、コントロール投与群と比較して、OATP−R遺伝子のmRNA発現量が有意に上昇していた。
【0054】
(4)インビボにおける非対称ジメチルアルギニン量測定アッセイ
前述の図6のスケジュールで作製・飼育した両群の腎摘ラットに血漿中及び尿中の非対称ジメチルアルギニン(asymmetrical dimethylarginine;ADMA)量を測定した。ADMAは、腎不全物質として知られており、一酸化窒素の合成を抑制する作用及び血圧上昇作用を有することが知られている。
【0055】
サンプル用の尿としては、各ラットについて、図6記載の時期にメタボリックケージにて蓄積した尿を用いた。また、サンプル用の血漿としては、各ラットについて、図6記載の時期に採取した血液から分離した血漿を用いた。サンプル用の尿や血漿は、内標準物質を調整したメタノール溶液にて撹拌し、さらにCHCl3を添加して撹拌し、4600gで5分間遠心分離した後、上清を限外ろ過フィルター(分画分子量5000)にとり、4℃、9100gで2時間遠心分離し、得られたろ液を遠心濃縮したものを、SRL社に依頼して液体クロマトグラフィーにて各サンプル内のADMAの濃度を測定してもらった。そして、血漿中のADMA濃度は各ラットについてすべての時期を併せて平均した値(nmol/ml)を算出し、それを同じ群内でさらに平均した値を算出した。また、尿中のADMAについては、まず測定したADMA濃度から、各時期におけるそのラットの1日あたりのADMA排泄量(nmol/day)を算出し、それをすべての時期について併せて平均した値を算出し、それを同じ群内でさらに平均した値を算出した。また、尿中のADMA濃度、血漿中のADMA濃度、及び1分間当たりの尿量に基づいて、ADMAの腎クリアランス(尿中のADMA濃度×1分間当たりの尿量/血漿中のADMA濃度;ml/min)を算出した。これらの結果を図10に示す。血漿中のADMA濃度は、プラバスタチン投与群とコントロール投与群であまり変わらなかったが(図10の左パネル参照)、尿中のADMA量(図10の中央パネル)及びADMAの腎クリアランスについては、プラバスタチン投与群において、コントロール群と比較して有意な上昇が確認できた。
【0056】
(5)DDAH1及びDDAH2の腎臓でのmRNA発現アッセイ
なお、上記実施例8(4)における、腎摘TG(+)ラット群の血漿中のADMA濃度が低い理由が、ADMA分解の亢進でないことを確認するために、生体内のADMA分解酵素であるDDAH1とDDAH2の腎臓での発現を定量PCRにより調べた。その結果を図12に示す。その結果、腎摘TG(+)ラット群におけるDDAH1やDDAH2のmRNA発現(GAPDHに対する相対発現量)は、腎摘TG(−)ラット群のそれと変化がなかった。
【0057】
(6)以上のように、スタチンによる腎臓からのAMDA排泄は、血圧の変化やクレアチニンの腎クリアランスの変化に依存しておらず、スタチンはOATP−Rの発現を増強させることで腎臓からのAMDA排泄を増加させていることが分かった。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】左パネル、右パネルのいずれも、ヒト腎癌細胞株であるACHN細胞を用いたヒトOATP−R遺伝子発現アッセイの結果を示す図である。
【図2】左パネル、右パネルのいずれも、甲状腺ホルモンの細胞内取り込みアッセイの結果を示す図である。
【図3】図3右パネル:インビボにおけるラットOATP−R遺伝子発現アッセイの結果を示す図である。図3左パネル:インビボにおけるラットCYP1a1遺伝子発現アッセイの結果を示す図である。
【図4】インビボにおけるスタチンの血圧上昇抑制作用確認アッセイの結果を示す図である。
【図5】HEK293細胞を用いたルシフェラーゼアッセイの結果を示す図である。
【図6】スタチンによる腎機能改善作用が、血圧の変化に依存しているのか否か等を確認するための一連のアッセイの概要を示す図である。
【図7】プラバスタチン(Prava)投与群ラット及びコントロール投与群ラットにおける、収縮期の血圧を示す図である。グラフの横軸は、腎摘手術からの経過日数を示し、縦軸は血圧(mmHg)を示す図である。
【図8】プラバスタチン(Prava)投与群ラット及びコントロール投与群ラットにおける、クレアチニンの腎クリアランスアッセイの結果を示す図である。
【図9】インビボにおけるOATP−R遺伝子発現アッセイの結果を示す図である。
【図10】左パネル:プラバスタチン投与群とコントロール投与群における、血漿中のADMA濃度を示す図である。中央パネル:プラバスタチン投与群とコントロール投与群における、尿中のADMA量を示す図である。右パネル:プラバスタチン投与群とコントロール投与群における、ADMAの腎クリアランスを示す図である。
【図11】各種のスタチンの構造式を示す図である。
【図12】腎摘TG(+)ラット群及び腎摘TG(−)ラット群の腎臓におけるDDAH1及びDDAH2の発現を示す図である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スタチン又はその薬学上許容され得る塩を含有するOATP−R遺伝子発現増強組成物。
【請求項2】
スタチンが、セリバスタチン(cerivastatin)、アトルバスタチン(atorvastatin)、フルバスタチン(fluvastatin)、シンバスタチン(simvastatin)、ロバスタチン(lovastatin)、ピタバスタチン(pitavastatin)、プラバスタチン(pravastatin)、メバスタチン(mevastatin)、ロスバスタチン(rosuvastatin)及びシラスタチン(cilastatin)から成る群から選択される請求項1に記載のOATP−R遺伝子発現増強組成物。
【請求項3】
スタチンが、セリバスタチン(cerivastatin)又はアトルバスタチン(atorvastatin)である請求項1に記載のOATP−R遺伝子発現増強組成物。
【請求項4】
OATP−R遺伝子が、ヒトOATP−R遺伝子又はラットOATP−R遺伝子である請求項1〜3のいずれかに記載のOATP−R遺伝子発現増強組成物。
【請求項5】
スタチン又はその薬学上許容され得る塩を含有するOATP−R遺伝子発現増強組成物を含有する腎機能障害の予防・治療剤。
【請求項6】
腎機能障害が、急性腎不全、慢性腎不全、急性腎炎、慢性腎炎、急性尿細管壊死、尿細管間質障害、慢性腎臓病及びネフローゼ症候群からなる群から選択される請求項5に記載の腎機能障害の予防・治療剤。
【請求項7】
OATP−R遺伝子発現増強組成物の製造における、スタチン又はその薬学上許容され得る塩の使用方法。
【請求項8】
腎機能障害の予防・治療剤の製造における、スタチン又はその薬学上許容され得る塩の使用方法。
【請求項1】
スタチン又はその薬学上許容され得る塩を含有するOATP−R遺伝子発現増強組成物。
【請求項2】
スタチンが、セリバスタチン(cerivastatin)、アトルバスタチン(atorvastatin)、フルバスタチン(fluvastatin)、シンバスタチン(simvastatin)、ロバスタチン(lovastatin)、ピタバスタチン(pitavastatin)、プラバスタチン(pravastatin)、メバスタチン(mevastatin)、ロスバスタチン(rosuvastatin)及びシラスタチン(cilastatin)から成る群から選択される請求項1に記載のOATP−R遺伝子発現増強組成物。
【請求項3】
スタチンが、セリバスタチン(cerivastatin)又はアトルバスタチン(atorvastatin)である請求項1に記載のOATP−R遺伝子発現増強組成物。
【請求項4】
OATP−R遺伝子が、ヒトOATP−R遺伝子又はラットOATP−R遺伝子である請求項1〜3のいずれかに記載のOATP−R遺伝子発現増強組成物。
【請求項5】
スタチン又はその薬学上許容され得る塩を含有するOATP−R遺伝子発現増強組成物を含有する腎機能障害の予防・治療剤。
【請求項6】
腎機能障害が、急性腎不全、慢性腎不全、急性腎炎、慢性腎炎、急性尿細管壊死、尿細管間質障害、慢性腎臓病及びネフローゼ症候群からなる群から選択される請求項5に記載の腎機能障害の予防・治療剤。
【請求項7】
OATP−R遺伝子発現増強組成物の製造における、スタチン又はその薬学上許容され得る塩の使用方法。
【請求項8】
腎機能障害の予防・治療剤の製造における、スタチン又はその薬学上許容され得る塩の使用方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2010−90094(P2010−90094A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−264675(P2008−264675)
【出願日】平成20年10月10日(2008.10.10)
【出願人】(502133066)株式会社ジェノメンブレン (7)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年10月10日(2008.10.10)
【出願人】(502133066)株式会社ジェノメンブレン (7)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】
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