RETナノセンサーの使用方法
本発明は、代謝産物濃度を検出し監視するための方法であって、リガンド結合時の蛍光共鳴エネルギー移動の検出および測定を含む方法を提供する。本発明の方法は、生細胞培養物における代謝産物レベルの変化のリアルタイム監視に役立つ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、米国仮特許出願第60/955,122号(2008年8月10日出願)の利益を主張し、その内容は全て本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、概して、共鳴エネルギー移動(RET)を使ってリガンド濃度の変化を測定し検出するための方法に関する。特に本発明は、微生物における糖質の代謝フラックスを監視するためのRETセンサーを提供する。
[政府の支援に関する陳述]
【0003】
この研究は助成金番号NIH R33DK070272による支援を受けた。政府はこの発明に対して一定の権利を持ちうる。
【背景技術】
【0004】
本明細書に記載する刊行物および特許出願は全て、個々の刊行物または特許出願について参照によって組み込まれる旨を具体的かつ個別に示した場合と同じように、参照により本明細書に組み込まれる。
【0005】
本明細書で議論する刊行物は、単に、それらが本願の出願日前に開示されたという理由で記載されるに過ぎない。本発明が、先行発明を理由として、上述の刊行物に先行してなされたとは言えないという自白であると解釈されるべき記述は、本明細書には何もない。
【0006】
異なる組織または器官の生細胞の異なるコンパートメントにおける代謝産物および溶質の組成ならびにそのレベルの変化を解析するには、多くの時間がかかり、細胞を破壊する必要がある。そのうえ、ほとんどの技法は、代謝産物および溶質の変化をリアルタイムで測定するわけではなく、細胞レベルまたは細胞下レベルでの局所代謝産物濃度の時間的および空間的変動を考慮しない。加えて、当技術分野で知られている方法は分解能が低く、アーチファクトが発生しやすい。
【0007】
例えば、細胞の異なるコンパートメントにおけるアラビノースおよびマルトースの分布は、ほとんどわかっていない。現在利用可能な技術はいずれも、これらの問題に、十分には対処できない。非水系分画は静的、侵襲的であり、細胞レベルの分解能を持たず、アーチファクトの影響を受けやすい。NMRi(核磁気共鳴映像法)およびPET(陽電子放出断層撮影法)などの分光学的方法では動的データが得られるが、これらは空間分解能が低い。想像できるとおり、空間での分解能は得られず、その結果、代謝産物濃度の分布に関する情報は全て失われる。また、代謝産物の細胞下分布に関する情報を得るには、今までのところ、破壊的アプローチ後にそれぞれのコンパートメントを解析する必要がある(Bussisら, Planta (1997) 202, 126-136)。そのような測定に関して、細胞における代謝産物レベルのリアルタイムでの検出および監視に対応できるツールはない。
【0008】
蛍光タンパク質の出現により、光学的手段で容易に検出することができる細胞内ラベリング、とりわけペプチドの細胞内ラベリングが可能になった。例えば、オワンクラゲ(Aequorea Victoria)由来の緑色蛍光タンパク質(GFP)は、多くの生物で広く使用されるレポーター遺伝子である。異なる光学的性質を持つ複数の変異体が開発されている。さらにまた、エネルギー移動を示す蛍光タンパク質の組合せは、そのタンパク質に隣接する環境のコンフォメーション変化に呼応して、弁別的蛍光を与える。しかし、先行技術に記載されている方法には制約があるので、有機化合物(例えば糖、アミノ酸、有機酸、ビタミン)、有機高分子などといった広範な分析物の測定を容易にするセンサー分子を提供する差し迫った必要がある。先行技術の制約に鑑み、細胞における代謝産物レベルの変化のリアルタイムでの検出および監視に対応できるシステムおよび方法が必要とされている。
【0009】
ターゲット分子と認識エレメントとの相互作用を、1つ以上のシグナリングエレメントのアロステリック調節によって、観察可能な巨視的シグナルに変換する、遺伝子コード型分子センサーの開発は、これらの問題のいくつかに対する解答になりうる。認識エレメントは、単にターゲットを結合するだけでもよいし、ターゲットを結合してそれを酵素的に変換してもよいし、あるいは、プロテアーゼセンサーの構築における特異的ターゲット配列の使用のように、ターゲットの基質として働いてもよい。最も一般的なレポーターエレメントは、立体的に分離された蛍光タンパク質のドナー-アクセプターFRETペア(GFP光学変異体その他)であるが(Fehr, M., Frommer, W.B.およびLalonde, S. 2002, Proceedings of the National Academy of Sciences of the USA 99:9846-9851)、単一の蛍光タンパク質または酵素も同様に実用的である。いくつかの分子センサーは、レポーターエレメントに対するアロステリック効果と、その結果生じる出力とを拡大するために、コンフォメーションアクチュエーター(最も一般的には、認識エレメントの1つのコンフォメーション状態に結合するペプチド)も使用する。
【0010】
細菌ペリプラズム結合タンパク質スーパーファミリー(PBP)のメンバーは、高いアフィニティ(アトモル濃度〜低マイクロモル濃度)および特異性で、何百という基質を認識する。PBPは、リガンド結合時に著しいコンフォメーション変化を起こすことが、さまざまな実験技法によって示されており、個々の糖結合性PBPと1対のGFP変異体との融合を使って、バイオセンサーが作製された(Fehr, M., Frommer, W.B.およびLalonde, S. 2002, Proc. Natl. Acad. Sci. 99:9846-9851)。そのようなセンサーは、細胞における糖の取り込みおよびホメオスタシスを測定するために使用されており、核標的タイプのセンサーを使って細胞下分析物レベルが決定された。PBPは、グルコース(Fehrら, 2003, J. Biol. Chem. 278:19127-19133)およびグルタミン酸(Okumotoら, 2005, Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 102:8740-8745)などのキー代謝産物をイメージングするための蛍光インジケータータンパク質(FLIP)の構築にうまく活用されている。細菌PBPを使ったバイオセンサー開発の成功は、類似する戦略を採用することで、他のタイプの分子を監視するためのバイオセンサーを作製しうるかもしれないことを示唆している。微生物細胞(具体的には培養原核細胞)における分子の細胞内濃度を監視するためのバイオセンサーは、これまで、開発されていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、細胞培養物における、または複数の細胞にわたって積分された、細胞内代謝産物および代謝フラックスを検出し監視する方法を提供する。本発明の方法は、細胞レベルおよび細胞下レベルの分解能でデータをもたらし、低侵襲性である。本発明は、共鳴エネルギー移動(RET)の変化を測定し、解析するためのデバイスも提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
ある実施形態において、本発明は、生細胞培養物における分子の細胞内レベルを検出するための方法であって、生細胞中でナノセンサーを発現させること(ナノセンサーはドナー成分、アクセプター成分、および分子結合部位を含む)、および分子結合部位に分子が結合した時のアクセプター成分とドナー成分の間の共鳴エネルギー移動の変化を検出し、それによって、生細胞における分子のレベルを検出することを含む方法を提供する。
【0013】
もう一つの実施形態において、本発明は、生細胞培養物における分子の細胞内レベルを監視する方法であって、生細胞中でナノセンサーを発現させ(ナノセンサーはドナー成分、アクセプター成分、および分子結合部位を含む)、アクセプター成分とドナー成分の間の共鳴エネルギー移動の変化を検出し、それによって、生細胞における分子の細胞内レベルを監視することを含む方法を提供する。
【0014】
本発明は、生細胞培養物における代謝フラックスを監視する方法であって、生細胞中でナノセンサーを発現させること(ナノセンサーはドナー成分、アクセプター成分、および代謝産物結合部位を含む)、およびアクセプター成分とドナー成分の間の共鳴エネルギーの変化を検出し、それによって、細胞における代謝フラックスを監視することを含む方法も提供する。
【0015】
分子は、分析物、代謝産物、リガンド、基質、または分子結合部位(もしくは代謝産物結合部位)に結合するであろう任意の化合物であることができる。分子は、糖、アミノ酸、ペプチド、有機酸、金属またはイオン、酸化物、水酸化物またはそれらの複合体(conjugate)、無機イオン、アミン、ポリアミンおよびビタミンからなる群より選択することができる。糖は、アラビノース、マルトース、グルコース、ガラクトース、スクロース、トレハロース、フルクトース、キシロース、セロビオースおよびリボースからなる群より選択することができる。
【0016】
結合部位への分子の結合は、ドナー成分とアクセプター成分の相対的位置にコンフォメーション変化を誘発し、それが共鳴エネルギー移動の変化をもたらす。結合部位はドナー成分中に存在してもよいし、ドナー成分および/またはアクセプター成分に結合された別個の成分であってもよい。分子結合部位はペリプラズム結合タンパク質(PBP)などのタンパク質上に存在しうる。
【0017】
共鳴エネルギー移動(RET)は、蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)、リン光共鳴エネルギー移動(PRET)、化学発光共鳴エネルギー移動(CRET)、または生物発光共鳴エネルギー移動(BRET)であることができる。
【0018】
生細胞培養物は原核細胞または真核細胞を含みうる。原核細胞の例には、細菌または古細菌などがあるが、これらに限るわけではない。真核細胞の例には、酵母、真菌、原生生物、および植物などがあるが、これらに限るわけではない。
【0019】
分子の細胞内レベルは、リアルタイムまたはオンライン時間枠で、検出および/または監視される。培養生細胞の代謝フラックスは、リアルタイムまたはオンライン時間枠で、監視および/または検出される。
【0020】
生細胞培養物の細胞内分子のレベルまたは代謝フラックスを検出しかつ/または監視する方法は、ドナー成分の放出およびアクセプター成分由来の放出から検出されるエネルギー放出値の比を算出することを含みうる。
【0021】
本発明は、本発明で使用するためのナノセンサーを提供する。一例として、本発明は、生細胞におけるペントース代謝フラックスを監視しかつ/または検出するためのアラビノースセンサーを提供する。本発明は、生細胞におけるヘキソース代謝フラックスを監視しかつ/または検出するためのグルコースセンサーも提供する。さらにまた本発明は、二糖フラックスまたはマルトースへのグルコースフラックスを監視しかつ/または検出するためのマルトースセンサーを提供する。
【0022】
ある実施形態では、細胞がバイオ燃料を生産するために遺伝子操作されている生細胞培養物において、分子または代謝産物の分子内レベルを検出しかつ/または監視するために、本発明の方法を使用することができる。細胞は原核生物または真核生物であることができる。一例として、細胞は、細菌、古細菌、または真核生物からなる群より選択することができる。真核生物の例には、酵母、真菌、原生生物、および植物などがあるが、これらに限るわけではない。
【0023】
本発明の方法は、インビボ系で、例えばトランスジェニック動物において、行なうことができる。本方法は、ナノセンサーをコードする導入遺伝子を持つ動物を用意することを含みうる。一般に、トランスジェニック動物は、所与の導入遺伝子をその導入遺伝子の発現が許されるような形でゲノムに組み込むことによって作出されるか、または野生型遺伝子を破壊して野生型遺伝子のノックアウトをもたらすことによって作出される。トランスジェニック動物を作出するための方法は、WagnerおよびHoppe(米国特許第4,873,191号;これは参照により本明細書に組み込まれる)、Brinsterら(1985;これは参照によりその全てが本明細書に組み込まれる)によって、また「Manipulating the Mouse Embryo; A Laboratory Manual」第2版(Hogan, Beddington, CostantimiおよびLong編、Cold Spring Harbor Laboratory Press、1994;これは参照によりその全てが本明細書に組み込まれる)に、広く記載されている。
【0024】
米国特許第5,639,457号も、トランスジェニックブタ作出およびトランスジェニックウサギ作出などのトランスジェニック動物に関する教示内容について、参照により本明細書に組み込まれる。米国特許第5,175,384号、同第5,175,385号、同第5,530,179号、同第5,625,125号、同第5,612,486号および同第5,565,186号も、同様に、トランスジェニックマウス作出およびトランスジェニックラット作出に関する教示内容について、それぞれ参照により本明細書に組み込まれる。
【0025】
さらにまた、本発明は、生細胞における共鳴エネルギー移動をリアルタイムまたはオンライン時間枠で測定するためのデバイスを提供する。ある実施形態において、本発明のデバイスは、RET検出ユニット、参照ユニット、および較正ユニットを含む(図8)。
【0026】
RET検出ユニットは、第1フィルタ(フィルタ1)(光源からの光はこのフィルタを通過して、生細胞中のドナー成分を励起する);第2フィルタ(フィルタ2)(ドナー成分から放出された光はこのフィルタを通過して検出器に到達する);第3フィルタ(フィルタ3)(アクセプター成分から放出された光はこのフィルタを通過して検出器に到達する);ドナー励起後のドナーの放出光強度を測定するための第1検出器(検出器1);およびドナー励起後のアクセプターの放出光強度を測定するための第2検出器(検出器2)を含む。
【0027】
参照ユニットは、分子を励起するための光源;第1フィルタ(フィルタ3)(アクセプター成分から放出された光はこのフィルタを通過して検出器に到達する。これはRET検出ユニット中のフィルタ3と同一である);および第2フィルタ(フィルタ4)(光源から放出された光はこのフィルタを通過して、生細胞中のアクセプター成分を励起する);およびアクセプター励起後のアクセプターの放出光強度を測定するための第3検出器(検出器3)を含む。
【0028】
較正ユニットは、分析物保存溶液が入っている容器を持つ注入器と、デバイスを封鎖することができるバルブとを含む。注入器は、センサーの応答を検証する目的で、外部リガンドを使って測定セル(デバイス)を較正するために使用される。理論的には、FRET値はレシオメトリックであり、センサーレベルには依存しないはずだが、光学的問題および信号対雑音が、読出しに影響を及ぼしうる。したがって較正は、アポ比(apo ratio)および飽和比(sat ratio)を検出するための手段となり、そこから、通常の成長条件における実際のインビボレベルを算出することができる。
【0029】
もう一つの実施形態において、デバイス(図9)は、分子を励起するための光源;フィルタ(光源からの光はこのフィルタ通過して、生細胞中のドナー成分を励起する);ドナーおよびアクセプターからの放出光を分散させる光学コンポーネント;ならびに分散された光のスペクトルを記録するための検出器を含む。
【0030】
本発明のデバイス中の光源は、LED、水銀灯、キセノンランプ、およびレーザーからなる群より選択することができる。
【0031】
本発明のデバイス中の検出器は、少なくとも2つの光電子増倍管検出器;およびそれら少なくとも2つの光電子増倍管検出器からのシグナルを処理するプロセッサを含みうる。光電子増倍管検出器は感光性ダイオードまたはCCDチップである。プロセッサは、ドナー成分の放出およびアクセプター成分由来の放出から検出されるエネルギー放出値の比を含む光強度値の比を算出する。
【0032】
本発明は、発酵または加水分解プロセス中に糖の濃度を監視する方法であって、発酵槽にデバイスを装着すること、およびデバイスを使って糖の濃度を監視することを含む方法を提供する。
【0033】
本発明は、発酵または加水分解プロセス中に糖の濃度を監視する方法であって、デバイスに発酵槽培養物を通過させること、およびデバイスを使って糖の濃度を監視することを含む方法も提供する。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】大腸菌(Escherichia coli)L-アラビノース結合タンパク質AraFの三次元構造をリボン表示で表した図。結合したアラビノースはスティック表示で示されている。
【図2】D/L-アラビノースの存在下におけるFRETナノセンサーFLIParaF.Ec-200nのインビトロFRET比変化を表す図。D/L-アラビノースの存在下におけるこのFRETナノセンサーの結合定数Kdは230±18nMである。
【図3】異なる濃度のペントース基質およびヘキソース基質がFRETナノセンサーFLIParaF.Ec-200nの放出比(528nm/485nm)に及ぼす影響を示すグラフ。
【図4】30℃における大腸菌BL21(DE3)細胞中の細胞内アラビノースのFLIPara-230n検出を示すグラフ。μMで表した培地中の最終D/L-アラビノース濃度。矢印はアラビノース添加の時点を示す。バーは少なくとも3つのレプリケートの標準偏差を示す。
【図5】t=50分におけるアラビノース依存的なセンサー応答を示すグラフ。FLIParaF.Ec-200nのアフィニティ定数(Kd)に相当する細胞内アラビノース濃度には、3.6±1.2μMの外部アラビノース濃度で到達することから、その時点における細胞内濃度は、細胞外濃度の約15分の1であることが示される。
【図6】30℃における大腸菌BL21(DE3)細胞中の細胞内マルトースのFLIPmal-37μ(p3367)検出を示すグラフ。μMで表した培地中の最終マルトース濃度。矢印はマルトース添加の時点を示す。バーは少なくとも3つのレプリケートの標準偏差を示す。
【図7】t=25分におけるマルトース依存的なセンサー応答を示すグラフ。センサーのアフィニティ定数(Kd)に相当する細胞内濃度には、10.0±2.5mMの外部マルトース濃度で到達することから、その時点における細胞内濃度は、細胞外濃度の約250分の1であることが示される。
【図8】細胞培養物におけるECFP-VENUSナノセンサー出力をオンライン監視するためのFRET検出デバイスを表す図。デバイスは、RET検出ユニット、参照検出ユニットおよび較正ユニットで構成されている。光源は400〜550nmの光を放出する。フィルタ1:433nm、フィルタ2:485nm、フィルタ3:528nm。フィルタ4:500nm。BS:ビームスプリッター。較正ユニットは、分析物保存溶液用のリザーバーを持つ注入器と、測定セルを封鎖することができるバルブとからなる。
【図9】細胞培養物におけるECFP-VENUSナノセンサー出力をオンライン監視するための代替FRET検出デバイスを表す図。このデバイスは、光源、433nmフィルタ、光分散器および検出器で構成されている。
【図10】図10A〜Dはフラックス変化を測定するためのナノセンサーの使用を表す。(A)FLII12Pglu700μ-δ6のグルコース誘発性FRET変化の理論曲線。S=Δr/ΔRmax=[gluc]/([gluc]+Kd)。式中、S、ナノセンサー飽和度;Δr、部分比変化;ΔRmax、最大比変化;[gluc]、グルコース濃度;Kd、ナノセンサーのアフィニティ定数(FLII12Pglu700μ-δ6の場合は0.66mM)。薄い灰色で網掛けした区域はFLII12Pglu700μ-δ6検出範囲の10〜90%信頼範囲を示し、濃い灰色で網掛けした区域は20〜80%信頼範囲を示す。(B)比データの変動(SD)がグルコース濃度の決定に及ぼす影響。実線は、比データ±2.5%SDの変動を示し、破線は比データ±5%SDの変動を示す。比データの平均から算出されるグルコース濃度を100%に設定した。インビボグルコース濃度は次の式から算出した:[gluc]vivo=Kd×(Δr-1)/(ΔRmax-Δr)。式中、[G]は、グルコース濃度;Kd、ナノセンサーのアフィニティ定数;Δr、部分比変化;ΔRmax、最大比変化。(C)細胞潅流時のインビボグルコース濃度動態およびFLII12Pglu700μ-δ6のナノセンサー範囲の例。ナノセンサー範囲内でのグルコース濃度動態から、1)蓄積速度、2)排除速度、3)定常状態レベル、および4)ナノセンサー応答の遅延の相違がわかる。灰色の線は、実際のインビボグルコース濃度動態を示し、黒い線はFLII12Pglu700μ-δ6のナノセンサー飽和度を示す。(D)インビボグルコース濃度-時間プロット(黒い線)と、FLII12Pglu700μ-δ6の比±SDおよび信頼範囲(灰色の線)。信頼範囲外では、SDが、見掛けのグルコース濃度の高い変動につながる。
【図11】図11Aおよび11Bは改良型マルトースセンサーの構築とインビトロ解析を表す。(A)元のFLIPmalセンサーとリンカーが短縮された改良型FLIPmalセンサーの略図。大文字のアミノ酸配列は、強化シアン蛍光タンパク質/強化黄色蛍光タンパク質またはmalEに相当し、小文字は合成リンカーに相当する(太字の配列は制限部位である)。(B)マルトースの存在下におけるFLIPmalセンサー変異体のインビトロ蛍光共鳴エネルギー移動比変化。エラーバーは標準偏差を表す(n=3)。
【図12】図12Aおよび12Bは、FLIPmalセンサーで検出される細胞内マルトースの蓄積を表す。(A)FLIPmal-40μΔ1-強化黄色蛍光タンパク質を発現させる大腸菌BL21-Gold(DE3)細胞が入っているマイクロタイタープレートウェルへのバッファーまたは50mMマルトースの注入後、30秒間隔で測定した細胞質マルトース蓄積。矢印はTecan Infinite M200蛍光光度計の注入器を使ってマルトースを添加した時点を示す(図3Aとは対照的に、この手順では速度の決定が可能であることに注意)。(B)大腸菌BL21-Gold(DE3)細胞中でFLIPmal-40μΔ-強化黄色蛍光タンパク質によって検出されるマルトースに関する用量応答曲線。細胞内マルトースレベルは、外部濃度と比較して、約700分の1である(K0.5=7.4mM)。エラーバーは標準偏差を表す(n=3)。
【発明を実施するための形態】
【0035】
発明の詳細な説明
以下の説明には本発明を理解するのに役立ちうる情報が含まれる。これは、本明細書に提示する情報のいずれかが本願発明に対して先行技術であるまたは関連性があるという自白ではなく、明示的もしくは暗示的に言及する刊行物のいずれかが先行技術であるという自白でもない。
【0036】
本発明の他の目的、利点および特徴は、ここに提示する明細書および図面を精査すれば、当業者には明白になるだろう。したがって、本発明のさらなる目的および利点は、以下の説明から明瞭になるだろう。
【0037】
概論
本発明は、生細胞中の分子を検出または監視するための非侵襲的または低侵襲的方法を提供する。本発明は、生細胞中の分子を検出または監視するための手段としての、分子間の共鳴エネルギー移動に基づく。
【0038】
本発明は、先行技術の技法ではまだ計測不可能である化合物の濃度のリアルタイムでの検出、監視および測定に対応できる手段および方法を提供する。ある態様において、そのような手段および方法は、インビボ測定に対応できる。
【0039】
本発明者らは、驚いたことに、生細胞(例えば細菌細胞培養物)における細胞内分子レベルを監視するために、ナノセンサーを使用することができるということを見出した。
【0040】
ある態様において、本発明は、細胞内リガンド濃度の変化を監視するためのシステムであって、リガンド結合インジケーターを発現させる生細胞を監視するための手段;および共鳴エネルギー移動の変化を解析するための手段を含み、前記共鳴エネルギー移動の変化が、細胞におけるリガンドのレベルの変化を示すシステムを提供する。ある態様では、リガンド結合インジケーターが、少なくとも一つのリガンド結合タンパク質成分;リガンド結合タンパク質成分に共有結合されたドナー成分;およびリガンド結合タンパク質成分に共有結合されたアクセプター成分を含む。もう一つの態様では、リガンド結合インジケーターが、リガンド結合蛍光インジケーターを含む。共鳴エネルギー移動の変化は、発酵プロセス中のリガンドのレベルの変化を示しうる。本発明のシステムは、共鳴エネルギー移動の変化の連続的解析にも使用することができる。
【0041】
本発明は、任意のタイプの生細胞、例えば細菌細胞、およびバイオ燃料を産生する細胞を監視するためのシステムも提供する。ある態様では、監視が、生細胞の代謝状態を監視するために行なわれる。もう一つの態様では、監視が蛍光分光法を含む。本発明は、任意のリガンドの、例えば限定するわけではないが、糖、アミノ酸、ペプチド、有機酸、金属またはイオン、酸化物、水酸化物またはそれらの複合体、無機イオン、アミン、ポリアミンおよびビタミンなどの、細胞内濃度の変化の検出にも対応する。
【0042】
さらに本発明は、生細胞におけるリガンドのレベルの変化を検出する方法であって、リガンド結合インジケーターを発現させる生細胞を監視すること(インジケーターは少なくとも一つのリガンド結合タンパク質成分、リガンド結合タンパク質成分に共有結合されたドナー成分;およびリガンド結合タンパク質成分に共有結合されたアクセプター成分を含む);および前記ドナー成分と前記アクセプター成分の間の共鳴エネルギー移動の変化を検出することを含み、前記共鳴エネルギー移動の変化が細胞におけるリガンドのレベルの変化を示す方法を提供する。本発明の方法は、細胞におけるリガンドのレベルの変化を解析することを、さらに含んでもよい(細胞におけるリガンドのレベルの変化の解析が、細胞におけるリガンドの代謝の変化を示す場合を含む)。ある態様では、共鳴エネルギー移動の変化を検出するステップが、アクセプター成分から放出された光を測定することを含む。もう一つの態様では、共鳴エネルギー移動の変化を検出するステップが、ドナー成分から放出された光を測定すること、アクセプター成分から放出された光を測定すること、およびドナー成分から放出された光とアクセプター成分から放出された光の比を算出することを含む。さらにもう一つの態様では、共鳴エネルギー移動の変化が、細胞におけるリガンドの細胞内代謝の変化を示す。さらにもう一つの態様において、本発明の方法は、細胞の連続的監視を提供する。
【0043】
本発明は、細胞における細胞内リガンド濃度の変化をオンライン測定するためのデバイスであって、リガンド結合インジケーターを発現させる生細胞を監視するために使用することができる監視コンポーネント;および共鳴エネルギー移動の変化を解析するための解析コンポーネントを含み、前記共鳴エネルギー移動の変化が細胞におけるリガンドのレベルの変化を示すデバイスも提供する。
【0044】
本発明は、細菌細胞培養における細胞内リガンド濃度を検出するためのデバイスであって、光源、アクセプターフルオロフォアの励起に特異的なフィルタ、ドナーフルオロフォアの励起に特異的なフィルタ、アクセプターフルオロフォアからのエネルギー放出に特異的なフィルタ、ドナーフルオロフォアからのエネルギー放出に特異的なフィルタ、および検出器を含むデバイスも提供する。ある態様では、検出器が、少なくとも2つの光電子増倍管検出器;およびそれら少なくとも2つの光電子倍増管検出器からのシグナルを処理するプロセッサを含む。もう一つの態様では、プロセッサを、光強度値の比を算出するために使用することができ、その比は、ドナーフルオロフォアの励起から検出されるエネルギー放出値とアクセプターフルオロフォアからのエネルギー放出との比を含む。光源としては、例えばLED、キセノンランプ、またはレーザーなどを挙げることができる。
【0045】
本発明は、生細胞における細胞内リガンド濃度の変化を監視するための方法およびシステム(リガンド結合インジケーターを発現させる生細胞を監視するためのシステム、および共鳴エネルギー移動の変化を検出し解析するためのシステムを含む)であって、共鳴エネルギー移動の変化が細胞におけるリガンドのレベルの変化を示すものを提供する。例えば、ある実施形態は、生細胞における代謝フラックスを決定するためのシステムであって、共鳴エネルギー移動の変化が細胞におけるリガンドの細胞内濃度、代謝またはフラックスの変化の尺度となるシステムである。
【0046】
ナノセンサー
本発明は、第1検出部分および第2検出部分を含むナノセンサーを提供する。第1検出部分および第2検出部分はクロモフォアである。第1検出部分はエネルギー吸収分子かつエネルギー放出分子、第2検出部分は第1分子の放出ピークとオーバーラップする励起ピークを持つエネルギー吸収分子であることができ、これにより、第2分子は、第1分子からのエネルギーを無放射的に吸収して、検出可能なシグナル(測定することもできるもの)の形で、エネルギーを放出することになる。
【0047】
第1検出部分と第2検出部分は共有結合で連結することができる。例えば本発明のナノセンサーは、第1エネルギー放出タンパク質および第2エネルギー吸収タンパク質を含む融合タンパク質であることができる。第1タンパク質および第2タンパク質は、1つ以上のリンカーペプチドによって融合することができる。リンカーは任意の長さまたはアミノ酸配列を持ちうる。リンカーは、融合タンパク質のコンフォメーションを最適化し、エネルギー放出シグナルを改善するために挿入することができる。
【0048】
ナノセンサーの第1部分および第2部分は、化学的結合(chemical conjugation)により、それらが共鳴エネルギー移動にとって最適な近接性を保つような形で連結することもできる。
【0049】
「エネルギー放出分子」という用語は第1検出部分を指し、(i)適切な形のエネルギーを吸収し、(ii)そのエネルギーの少なくとも一部を共鳴エネルギー移動(RET)によって第2検出部分に伝達することができる(これにより、第2検出部分のエネルギー放出が誘発される)、放射エネルギーを放出する能力を持つ分子を含む。第1検出部分の放射エネルギー放出の原因は、当業者にとって考えうるものであればなんでもよく、例えば化学反応(化学発光もしくは生物発光)または放射線の吸収(蛍光もしくはリン光)が関与しうる。
【0050】
第2検出部分は、エネルギー放出分子とオーバーラップする励起ピークを持つ分子を含む。第2検出部分中の分子の例として、蛍光分子または蛍光タンパク質などのクロモフォアが挙げられる。
【0051】
「共鳴エネルギー移動」(RET)という用語は、ドナー分子(第1検出部分)からアクセプター分子(第2検出部分)への励起エネルギーの無放射移動を指す。ドナー分子とアクセプター分子とを含むナノセンサーのコンフォメーション変化は、検出部分間のRETに検出可能な変化をもたらす。そのような変化は、例えば、適切な結合化合物の非存在下における融合タンパク質の放出スペクトルを、そのような化合物の存在下における同じ融合タンパク質と比較することによって調べることができる。例えばRETが増加すると、アクセプターの放出ピークは高くなり、ドナーの放出ピークは低くなる。したがって、ドナーの放出強度に対するアクセプターの放出強度の比は、検出部分間のRETの程度の指標になる。化合物が結合した時の融合タンパク質のコンフォメーション変化は、検出部分間の距離の増減をもたらしうる。しかし、距離だけでなく、検出部分相互の相対的位置の他の性質、例えば配向なども、RETに影響する。したがって、ナノセンサーにおける検出部分のトポロジーに依存して、化合物の結合時に、RETが増加または減少しうる。また、RET挙動は、例えば滴定実験を行なうことなどにより、実験的に決定することができる。
【0052】
ナノセンサーの第1検出部分中の分子に依存して、共鳴エネルギー移動は、蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)、生物発光共鳴エネルギー移動(BRET)、化学発光共鳴エネルギー移動(CRET)、およびリン光共鳴エネルギー移動(PRET)であることができる。
【0053】
第1検出部分および第2検出部分によって生成される検出可能なシグナルは、例えば蛍光光度計など(マイクロプレート蛍光分光測光器など)、または当該検出部分の強度を選択的に測定する他の任意のデバイスを使って測定することができる。
【0054】
蛍光ナノセンサー
本発明は、蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)を使って特定小分子の細胞内レベルの変化を検出し測定するための蛍光ナノセンサーを提供する。この蛍光ナノセンサーは、例えば発酵プロセスにおいて細胞内代謝産物レベルを監視するために使用することができる。「バイオセンサー」「ナノセンサー」および「リガンド結合インジケーター」という用語は、本発明では可換的に使用され、それぞれに、例えば融合タンパク質、蛍光インジケータータンパク質(FLIP)、および任意のタイプの生細胞におけるリガンドのレベルを連続的に監視するために使用することができる他の任意の適切なコンストラクトを包含するものとする。さらにまた、本明細書で使用する用語「リガンド結合インジケーター」は、少なくとも一つのリガンド結合タンパク質成分、ドナー成分およびアクセプター成分を含み、ドナー成分とアクセプター成分の間の共鳴エネルギー移動の変化が、リガンド結合タンパク質成分へのリガンドの結合を示すような、任意のコンストラクトを包含する。ある実施形態では、リガンド結合蛍光インジケーターが、少なくとも一つのリガンド結合タンパク質成分;リガンド結合タンパク質成分に共有結合されたドナーフルオロフォア成分;およびリガンド結合タンパク質成分に共有結合されたアクセプターフルオロフォア成分を含み、ドナー成分とアクセプター成分の間のFRETの変化の検出が、リガンド結合タンパク質成分へのリガンドの結合を示す。
【0055】
ある実施形態によれば、共鳴エネルギー移動の変化は、例えば、蛍光放出比解析機による蛍光放出比の検出および解析の例に関して後述するように、エネルギー放出比の変化として検出される。「エネルギー放出」という用語は、当技術分野で知られる適切なデバイスによって検出することができる光学的シグナル(可視光スペクトルに含まれるものであってもよい)を指す。エネルギー放出の変化には、与えられた波長における光強度の有意な変化、すなわち増加もしくは減少、または互いに比較される2つ以上の異なる波長における光強度を比の有意な変化(「レシオメトリック測定」ともいう)が含まれうる。ある実施形態によれば、本発明のナノセンサーは、リガンドがリガンド結合部分に結合した状態と比較して、リガンドがリガンド結合部分に結合していない状態の、少なくとも0.01%、好ましくは少なくとも0.1%、より好ましくは少なくとも1%、よりいっそう好ましくは少なくとも2%、さらに好ましくは少なくとも5%、最も好ましくは少なくとも10%という、光強度の変化、または2つ以上の異なる波長における光強度間の比の変化を与える。エネルギー放出値またはエネルギー放出比の解析は、エネルギー放出値を、リガンドまたは分析物濃度とエネルギー放出との関係を示す標準曲線と比較することによって行なうことができる。
【0056】
本明細書で使用する用語「連続的監視」は、リアルタイムでの監視、あるいは実質的にリルタイムでの監視を指すと理解される。本明細書で使用する用語「リガンド」は、細胞に入り込む、細胞内に存在する、または細胞を離れる、任意の分子を指すと理解され、例えば任意の基質または代謝産物を含むが、これらに限るわけではない。例えば、リガンドであるグルコースは、例えば解糖の結果として起こる、またはグルコースを利用する細胞内の他の何らかの生化学的プロセスの結果として起こる、細胞内グルコース濃度の何らかの変化に関して、連続的に監視することができる。そのような連続的監視により、生細胞へのリガンドの取り込みおよび生細胞からのリガンドの流出のリアルタイム変化に関して、驚くほど価値のある情報が得られると共に、生細胞におけるリガンドの生合成、代謝および分解、例えば代謝フラックス、ならびに他の利用のリアルタイム変化に関する情報も得られる。ある実施形態において、蛍光リガンド結合インジケーターは、少なくとも一つのリガンド結合タンパク質成分;リガンド結合タンパク質成分に共有結合されたドナーフルオロフォア成分;およびリガンド結合タンパク質成分に共有結合されたアクセプターフルオロフォア成分を含むことができ、ドナー成分とアクセプター成分の間の共鳴エネルギー移動の変化の検出が、リガンド結合タンパク質成分へのリガンドの結合を示す。
【0057】
本明細書にいう「共有結合された(covalently coupled)」とは、ドナー蛍光成分およびアクセプター蛍光成分が、リガンド結合タンパク質成分に、例えば前記リガンド結合タンパク質成分中の選択されたアミノ酸への化学結合(chemical linkage)によって、結合(conjugate)されうることを意味する。「共有結合された」という表現は、リガンド結合タンパク質成分がドナー成分およびアクセプター成分を含む融合タンパク質として発現されるように、ドナー成分およびアクセプター成分が、リガンド結合タンパク質成分に、遺伝子レベルで融合されうることも意味する。本明細書で述べるように、ドナー成分およびアクセプター成分は、ドナー成分が励起され、リガンドがリガンド結合タンパク質成分に結合した時に、ドナー成分とアクセプター成分の間のFRETに変化が起こる限り、リガンド結合タンパク質成分の末端に融合されてもよいし、リガンド結合タンパク質成分の内部に融合されてもよい。
【0058】
「蛍光共鳴エネルギー移動」(FRET)という用語は、ドナー(第1検出部分)からアクセプター分子(第2検出部分)への励起エネルギーの無放射移動を指す。FRETには、それぞれオーバーラップした放出スペクトルおよび励起スペクトルを持つドナーフルオロフォアおよびアクセプターフルオロフォアが必要である。ドナーの励起後、エネルギーはアクセプターへと無放射的に伝達され、アクセプターによって放出される。このプロセスの効率は、フルオロフォア間の距離、およびフルオロフォアの双極子の相対的配向に依存する。センサーにおけるリガンド結合誘発性コンフォメーション変化は、各代謝産物のレベルと相関するFRET効率の変化をもたらしうる。
【0059】
ナノセンサーのリガンド結合タンパク質成分のコンフォメーション変化を誘発するリガンドを結合すると、検出部分間のFRETに、検出可能な変化が検出される。そのような変化は、例えば、適切な結合化合物の非存在下におけるナノセンサーの放出スペクトルを、そのような化合物の存在下における同じナノセンサーと比較することで、決定することができる。例えばFRETが増加する場合、アクセプターの放出ピークは高くなり、ドナーの放出ピークは低くなる。ある実施形態では、検出部分によって放出されるエネルギーの変化がFRETの増加または減少である。FRETでは、ドナーとアクセプターが両方とも、すなわち、どちらの検出部分も、蛍光タンパク質または蛍光分子部分であり、FRETを測定するには、第1検出部分によるエネルギー放出を励起するのに適したエネルギー、すなわち放射線が、ナノセンサーに供給される。
【0060】
ある実施形態において、本発明は、リガンド結合認識エレメントおよびフルオロフォアレポーターエレメントからなるタンパク質であるFRETナノセンサーを提供する。本発明は、リガンド結合認識エレメントおよびフルオロフォアレポーターエレメントをコードする単離された核酸も提供する。本発明は、2つの検出部分と、化合物の結合時にコンフォメーション変化を起こす、それら2つの検出部分の間にあるペリプラズム結合タンパク質(PBP)部分とを含む融合タンパク質である、FRETナノセンサーも提供する。
【0061】
もう一つの実施形態では、本発明のナノセンサーは、2つの検出部分(ここでは、第1検出部分がエネルギー放出タンパク質部分であり、かつ第2検出部分が蛍光タンパク質部分であるか、または2つの検出部分がスプリット蛍光タンパク質の一部分である)と、化合物の結合時にコンフォメーション変化を起こす、前記2つの検出部分の間にあるPBP部分とを含む融合タンパク質を含み、そのコンフォメーション変化は、2つの検出部分によって放出されるエネルギーの変化をもたらす。
【0062】
本発明のリガンド結合インジケーターは、与えられた任意の液体中の分析物を検出するためにも役立つ。例えば蛍光インジケーターは、培養中の生細胞における特定分子の細胞内レベルの連続的監視および/または溶液中の特定分子レベルの連続的監視に役立つ。本発明との関連で使用される用語「分析物」は、PBPに結合されて、PBPにおけるコンフォメーション変化を生じさせることができる、リガンド、化合物または分子を指す。PBPのそのようなコンフォメーション変化は、それがPBPに融合された2つの検出部分の相対的位置、すなわち距離、配向および/または空間的関係を、検出部分によって生じるエネルギー放出が検出可能な変化を起こすような形で、変化させることができるという点で、利用できることがわかった。「および/または」という用語は、本明細書で使用される場合は常に、「および」「または」ならびに「その用語によって接続されたエレメントの全部または一部の他の組合せ」という意味を含む。
【0063】
細胞内分析物測定には、本発明のナノセンサーまたは本発明の前記ナノセンサーをコードするヌクレオチド配列を、トランスフェクション、形質転換、直接マイクロインジェクションによって、またはナノセンサーをコードしそれを細胞内で発現させる能力を持つRNAのマイクロインジェクションによって、細胞内に導入することができる。ナノセンサーを細胞内に導入する方法に加えて、この実施形態は、上述した細胞内の分析物を検出するための方法にも相当し、この方法では、ナノセンサーをコードし、その細胞中でナノセンサーを発現させる能力を持つ、核酸分子、発現コンストラクトまたはベクターで、細胞が遺伝子操作される。
【0064】
本発明によれば、光学的検出になじみ、かつ異種タンパク質を発現させるように形質転換またはトランスフェクトすることができる細胞は、原則として、どの種類の細胞でも、本発明において使用することができる。したがって細胞は、細菌、酵母、原虫、古細菌、または培養細胞、例えば脊椎動物(ヒトを含む哺乳動物など)由来の培養細胞、または植物細胞であることができる。一定の応用例では、病原に冒された細胞、例えば腫瘍細胞または感染性因子(例えばウイルス)に感染した細胞を選択することが有用なこともあり、この場合、測定は対応する健常細胞との比較で行なわれる。同様に、細胞は組織、器官または生物の一部であることもできる。また、細胞を固定化してもよく、これにより、その観察が容易になる。
【0065】
「ペリプラズム結合タンパク質」または「PBP」という用語は、ローブ-ヒンジ-ローブ三次元構造を特徴とするタンパク質であって、リガンドの結合時に、本明細書に記載するリガンド検出にとって十分かつ適切なコンフォメーション変化を起こすものを指す。ローブは球体ないし楕円体である。ヒンジ領域は2つ以上のアミノ酸鎖を含有しうる。この構造はさらに、ローブ間に裂溝が存在することを特徴とし、それが基質結合部位、すなわち解析対象化合物が結合する部位になる。化合物が結合すると、PBPはコンフォメーション変化を起こし、それによって、2つのローブが相対的位置を変える。この動きは、しばしば、ハエトリソウもしくはパックマンのような動き、またはヒンジツイスト(hinge-twist)動作とも呼ばれる。好ましくは、本発明の融合タンパク質に使用されるPBPは、酵素活性を持たない。表1に三次元構造が既にわかっているPBPの例を示す。また、構造がまだ特徴づけられていない表1のタンパク質は、当技術分野で知られている方法により、既存の構造に基づいてモデル化することができる。本発明のバイオセンサーにとって有用なPBPは、これらの例と同じ三次元構造を持つか、またはそれらに類似している。したがって、それらは、上述のローブ-ヒンジ-ローブ構造と、化合物が結合した時のコンフォメーション変化とを示す。そのようなローブ-ヒンジ-ローブ構造を持つタンパク質を同定する方法は、平均的なタンパク質三次元構造解析技術を持つ人には知られている。さらにまた、当業者には、これらの構造基準に合致するタンパク質のなかから、上述したようなコンフォメーション変化を示すものを同定することも可能である。そのためには、その基質が結合した状態のタンパク質から得られる三次元構造データを、基質が結合していない状態のタンパク質から得られるデータと比較することができる。タンパク質の三次元構造を決定するための方法は当業者にはよく知られており、Mancini, Structure (1997) 5, 741-750(低温電子顕微鏡法)、Qian, Biochemistry (1998) 37, 9316-9322(NMR)、Shilton, J. Mol. Biol. (1996) 264, 350-363(関連構造に基づくモデリング)およびSpurlino, J. Biol. Chem. (1991) 266, 5202-5219(X線結晶解析)などの文献に記載されている。
【0066】
PBPは、キー代謝産物をイメージングするための蛍光インジケータータンパク質(FLIP)の構築を含む本発明のバイオセンサーの構築に利用することができる。本発明によるバイオセンサーの構築に利用されるPBPは、SCOP(structural classification of proteins;Murzin, J. Mol. Biol. 247 (1995), 536-540)の命名法によるタンパク質スーパーファミリー「ペリプラズム結合タンパク質様I」(PBP様I)、「ペリプラズム結合タンパク質様II」(PBP様II)または「ヘリカルバックボーン(helical backbone)」金属受容体スーパーファミリーの一つに属するか、Saierら, 1993 Microbiol Rev. 57, 320-346によって定義されたファミリーに属するか、またはwww.biology.ucsd.edu/.about.ipaulsen/transportに示されている輸送タンパク質の編集物において「ATP依存性」と分類される結合タンパク質に属しうる。
【0067】
本発明のバイオセンサーの構築に利用しうるPBPは、天然のPBPであることができる。そのようなPBPは、例えばグラム陰性細菌またはグラム陽性細菌に由来しうる。そのようなPBPの例を表1に示す。
【0068】
表1:細菌ペリプラズム結合タンパク質
【表1−1】
【表1−2】
【表1−3】
【表1−4】
【表1−5】
【表1−6】
表1:ナノセンサーの作製に適したペリプラズム結合タンパク質。同定した種は、それが該当する場合には、その3D構造が知られているものである。現在、PBPの3D構造は、主として、大腸菌およびネズミチフス菌由来のものが知られている。これらの構造は、http://scop.mrc-lmb.cam.ac.uk/scop/index.htmまたはhttp://ncbi.nlm.nih.govに示されている。「3D」という見出しを付けた欄は、各PBPの三次元オープン(open:「o」)構造または三次元クローズ(close:「c」)構造が、文献から入手できるかどうかを示している。
【0069】
細菌PBPは、表1に示すように、糖、アミノ酸、ビタミン、ミネラル、イオン、金属およびペプチドを含む多種多様な分子および栄養素を結合する能力を持つ。したがってPBPに基づくリガンド結合センサーは、本発明の方法によってこれらの分子のいずれかを検出し定量することが可能になるように、設計することができる。測定可能なリガンド結合機能を維持する部位特異的な突然変異、欠失または挿入を含む人工的に操作された変異体の他に、表1に列挙したPBPの天然の種変異体も使用することができる。
【0070】
同様に、グラム陰性細菌の類縁種に由来するオルソログなど、表1に挙げたPBPのホモログも、本発明を実施するために使用することができる。さらにまた、用語「PBP」には、グラム陰性細菌のPBPの機能的アナログも包含される。そのような機能的アナログも同様にローブ-ヒンジ-ローブ構造を示し、化合物を結合することができ、化合物を結合した時には、上述のようにコンフォメーション変化を示すことができる。例えば、そのような機能的アナログには、グラム陽性細菌中に見出されるグラム陰性細菌由来のPBPのホモログが含まれる(Quiocho, Mol. Microbiol. 20 (1996), 17-25;Gilson, EMBO J. 7 (1988), 3971-3974;Turner, J. Bacteriol (1999) 181:2192-2198)。機能的PBPアナログのさらなる例には、上述のスーパーファミリーに属するタンパク質であって、グラム陰性細菌のペリプラズムには存在しないもの、例えばPBP様Iスーパーファミリーの例として、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)由来のアミド受容体/アミダーゼオペロンの負の調節因子(AmiC)、大腸菌由来のlacリプレッサー(lacR)コアC末端ドメイン、およびPBP-IIスーパーファミリーの例として枯草菌由来のチアミナーゼIまたは大腸菌由来のプトレシン受容体(potF)が含まれる。
【0071】
さらにまた、用語「PBP」には、上述したペリプラズム結合タンパク質の任意の一つの誘導体も、そのような誘導体が上述のローブ-ヒンジ-ローブ構造、結合能力、および化合物の結合時に起こる適切なコンフォメーション変化を持つ限り、包含されると考えられる。また、当業者が、当技術分野で知られている適切な技法、例えばインビトロまたはインビボ突然変異誘発、PCRシャフリング突然変異誘発、化学修飾などによって、天然PBPを修飾し、最適化できることも、理解すべきである。
【0072】
用語「化合物」(本明細書の全体を通して「分析物」または「リガンド」または「分子」または「基質」ともいう)は、リガンド結合タンパク質成分(上述のPBP部分など)によって結合されうる任意の化合物を指す。検出すべき化合物、リガンドまたは分析物に応じて、適切なリガンド結合タンパク質成分またはPBPを選択して、本発明のバイオセンサーを構築することができる。本発明のバイオセンサーによって検出することができる化合物の例を表1に記載する。
【0073】
「化合物の結合」という用語は、ある態様においては、上述のようにPBP部分のコンフォメーション変化をトリガーする、リガンド結合タンパク質成分(例えばPBP部分)への化合物の非共有結合的結合を指す。そのような結合は、化合物とリガンド結合タンパク質成分(例えば上述のPBP部分)との間の塩橋、水素結合、ファンデルワールス力、スタッキング力、錯体形成またはそれらの組合せなどといった、非共有結合的相互作用を伴いうる。また、結合ポケット内の水分子との相互作用も含まれうる。
【0074】
本発明は、上記バイオセンサーをコードするヌクレオチド配列を含む核酸分子、ならびに前記核酸分子を含む発現カセット、ベクター、および宿主細胞にも関係する。ある実施形態は、アラビノースFRETナノセンサーをコードする単離された核酸であり、このナノセンサーは、アラビノース結合タンパク質成分、アラビノース結合タンパク質成分に共有結合されたドナー蛍光タンパク質成分、およびアラビノース結合タンパク質成分に共有結合されたアクセプター蛍光タンパク質成分を含み、ドナー成分が励起され、アラビノースがアラビノース結合タンパク質成分に結合すると、ドナー成分とアクセプター成分の間のFRETが変化する。したがって、本発明のFRETナノセンサーは、ペントースであるアラビノースの特異的検出に使用することができ、そのようなセンサーは、細菌(例えば大腸菌)におけるアラビノースおよびマルトースのフラックスを、蛍光分光法を使って監視するために、うまく使用することもできる。
【0075】
リガンド結合タンパク質成分の一例は、なかんずく、大腸菌由来の高アフィニティアラビノース結合タンパク質AraFである。AraFは、フレキシブルなヒンジ領域によって連結された2つの明確なローブに折りたたまれる306アミノ酸残基からなるポリペプチドである(図1)(Quiocho, F.A.およびVyas, N.K., 1984, Nature 310(5976), 381-6)。リガンド結合部位は、2つのローブの間の界面に位置する(Quiocho, F.A.およびVyas, N.K., 1984, Nature 310(5976), 381-6)。アラビノース結合領域をコードするAraF配列の任意の部分を、本発明の核酸に使用することができる。AraFまたは他の生物に由来するそのホモログのいずれかのアラビノース結合部分を、本明細書に記載するベクターにクローニングし、本明細書に開示するアッセイにより、活性に関してスクリーニングすることができる。
【0076】
測定可能なアラビノース結合機能を維持する部位特異的な突然変異、欠失または挿入を含む人工的に操作された変異体の他に、アラビノース結合タンパク質(例えばAraF)の天然の種変異体も使用することができる。変異体核酸配列は、AraFの遺伝子配列に対して、例えば、少なくとも30、40、50、60、70、75、80、85、90、95、または99%の類似度または一致度を持つ。適切な変異体核酸配列は、ストリンジェンシーの高いハイブリダイゼーション条件下で、AraFの遺伝子にハイブリダイズすることもできる。高ストリンジェンシー条件は当技術分野では知られている。例えばManiatisら「Molecular Cloning: A Laboratory Manual」第2版、1989および「Short Protocols in Molecular Biology」Ausubel,ら編を参照されたい(これらの文献はどちらも参照により本明細書に組み込まれる)。ストリンジェントな条件は配列依存的であり、状況が異なればストリンジェントな条件も異なるだろう。
【0077】
本明細書に開示するナノセンサーによって測定することができるリガンド濃度の範囲を拡大するために、本発明の人工的変異体は、リガンドに対して低下したアフィニティを示すように設計することができる。リガンドに対して減少したまたは増加した結合アフィニティーを示すさらなる人工的変異体を、ランダム突然変異誘発法または部位特異的突然変異誘発法によって構築し、それをベクターにクローニングし、活性に関してスクリーニングすることができる。ナノセンサーによって認識されるリガンドを変化させるために、ナノセンサーの結合特異性を、突然変異誘発によって変化させることもできる。例えばLoogerら, 2003, Nature, 423 (6936):185-190を参照されたい。
【0078】
2つ以上のリガンドによってその活性が制御されるアロステリック酵素を生じさせるために、例えば、アラビノース結合成分またはマルトース結合成分と、互いに共有結合されまたは融合され、かつドナー蛍光成分およびアクセプター蛍光成分に共有結合されまたは融合された、1つ以上の追加リガンド結合成分とを使って、本発明のナノセンサーを設計することもできる。2つ以上のリガンドに対する二重特異性を持つアロステリック酵素は当技術分野では記載されており、それらは、本明細書に記載するFRETナノセンサーを構築するために使用することができる(GuntasおよびOstermeier, 2004, J. Mol. Biol. 336(1):263-73)。
【0079】
本発明のナノセンサーは、組み合わせることでFRETにおいてドナー成分およびアクセプター成分として役立ちうる、任意の適切なドナー蛍光タンパク質成分およびアクセプター蛍光タンパク質成分を組み込むことができる。ドナー成分およびアクセプター成分の例には、GFP(緑色蛍光タンパク質)、CFP(シアン蛍光タンパク質)、BFP(青色蛍光タンパク質)、YFP(黄色蛍光タンパク質)、およびその強化変異体からなる群より選択されるものが含まれ、一例として、ドナー/アクセプターペアeCFP/YFP VenusまたはeCFP/Venusが挙げられる(Venusは、改良されたpH耐性および成熟時間を持つYFPの変異体である(Nagai, T., Ibata, K., Park, E.S., Kubota, M., Mikoshiba, K.およびMiyawaki, A. (2002)))。ドナー蛍光成分およびアクセプター蛍光成分を選択する際に考慮すべき基準は、例えば米国特許第6,197,928号(この特許は参照によりその全てが本明細書に組み込まれる)に開示されているように、当技術分野では知られている。
【0080】
遺伝子サイレンシングは、ナノセンサーのフルオロフォアが類似する配列または関連する配列のストレッチを含む場合に、一定の細胞において、特に丸ごとの生物において、ナノセンサーの発現に有害な影響を持ちうる。そのような例では、フルオロフォアコード配列を、フルオロフォアの核酸配列は改変されるが、コードされるアミノ酸配列は改変されないような形で、各フルオロフォアのコドンの1つ以上の縮重位置またはゆらぎ位置で改変することが考えられる。フルオロフォアの機能に有害な影響を及ぼさない1つ以上の保存的置換を組み込むこともできる。
【0081】
本発明はさらに、ナノセンサーをコードする単離された核酸分子を含有するベクター(発現ベクターを含む)、核酸を含む宿主細胞、ならびにその核酸によってコードされるナノセンサータンパク質を提供する。そのような核酸、ベクター、宿主細胞およびタンパク質は、例えば、本明細書に記載するナノセンサーを使って、分析物レベルの変化を検出する方法、発酵プロセス中に細胞内分子レベルの変化またはフラックスを監視するための方法、および培養中に生細胞における特定分子の細胞内レベルを監視するための方法、または溶液中の特定分子レベルを連続的に監視する方法などに使用することができる。
【0082】
例示的ベクターには、バクテリオファージ、バキュロウイルスまたはレトロウイルスなどのウイルスに由来するベクター、細菌に由来するベクター、または細菌配列と他の生物由来の配列との組合せ、例えばコスミドまたはプラスミドなどがある。そのようなベクターには、バイオセンサーをコードする核酸配列に作動的に連結された発現制御配列を含有する発現ベクターが含まれる。ベクターは、原核細胞、例えば大腸菌もしくは他の細菌、または動物細胞もしくは植物細胞を含む真核細胞中で機能するように適合させることができる。例えば、本発明のベクターは、一般に、意図する宿主細胞に適合する複製起点、意図した宿主細胞に適合する1つ以上の選択可能マーカー、および1つ以上のマルチクローニング部位などといったエレメントを含有するだろう。ベクターに含めるべき個々のエレメントの選択は、例えば意図する宿主細胞、インサートのサイズ、挿入される配列の調節的発現(すなわち、誘導性プロモーターまたは調節可能なプロモーターの使用などによるもの)が望まれるかどうか、そのベクターの所望するコピー数、所望する選択系などといった要因に依存するだろう。宿主細胞とベクターの間の適合性の確保に関与する要因は、さまざまな応用例について、当技術分野ではよく知られている。ある実施形態では、選択マーカーならびに転写および翻訳開始配列、そして場合によっては細胞下ターゲティング配列をも含有するプラスミドに、ナノセンサーをコードするDNA配列が組み込まれる。
【0083】
本発明は、本発明のベクターまたは発現ベクターをトランスフェクトされた宿主細胞(原核細胞、例えば大腸菌もしくは他の細菌、または真核細胞、例えば酵母細胞、動物細胞もしくは植物細胞を含む)も包含する。
【0084】
ある実施形態では、本発明で使用されるベクターが、ドナー蛍光分子およびアクセプター蛍光分子をコードする核酸の間に、アラビノースまたはマルトース結合性のドメインまたはタンパク質成分をクローニングして、例えばドナー蛍光分子およびアクセプター蛍光分子に共有結合されたアラビノース結合ドメインを含むキメラタンパク質または融合タンパク質の発現が起こるようにすることを可能にする。例示的ベクターとして、Fehrら (2002)(「Visualization of maltose uptake in living yeast cells by fluorescent nanosensors」Proc. Natl. Acad. Sci. USA 99:9846-9851;この文献は参照によりその全てが本明細書に組み込まれる)に開示されている細菌pRSET-FLIP誘導体が挙げられる。融合タンパク質が発現されるように正しい読み枠でベクター中に核酸をクローニングする方法は、当技術分野ではよく知られている。
【0085】
本発明のナノセンサーは、細胞質、細胞表面または細胞内小器官、例えば核、小胞、ER、液胞などを含む、細胞内のどの場所でも発現させることができる。タンパク質の発現を異なる細胞コンパートメントにターゲティングするための方法およびベクターコンポーネントは当技術分野ではよく知られており、その選択は、バイオセンサーを発現させるその細胞または生物に依存する。例えば、Okumoto, S., Looger, L.L., Micheva, K.D., Reimer, R.J., Smith, S.J.およびFrommer, W.B. (2005) Proc. Natl Acad Sci USA 102(24):8740-8745;Fehr, M., Lalonde, S., Ehrhardt, D.W.およびFrommer, W.B. (2004) J. Fluoresc. 14(5), 603-609を参照されたい(これらの文献は参照によりその全てが本明細書に組み込まれる)。
【0086】
もう一つの実施形態によれば、ドナー蛍光成分をコードする配列とアクセプター蛍光成分をコードする配列とが、リガンド結合ドメインの別々の末端に、リガンド結合時にドナーとアクセプターの間のFRETの変化が検出されうるような形で融合されるように、本発明のナノセンサーを構築することができる。蛍光ドメインは、場合によっては、1つ以上のフレキシブルなリンカー配列により、リガンド結合ドメインから引き離すことができる。ある実施形態では、そのようなリンカー成分が、好ましくは約1〜50アミノ酸残基長、より好ましくは約1〜30アミノ酸残基である。リンカー成分およびそれらの応用は当技術分野ではよく知られており、例えば米国特許第5,998,204号および同第5,981,200号、ならびにNewtonら, Biochemistry 35:545-553 (1996)に記載されている。あるいは、本明細書に記載するリンカーまたはフルオロフォアのいずれかの短縮型を使用してもよい。
【0087】
結合ドメイン(例えばアラビノース結合ドメイン)の性質およびサイズによっては、蛍光成分がナノセンサーの末端ではなくナノセンサーの内部にある位置から発現されディスプレイされるように、蛍光分子コード配列の一方または両方を、そのアラビノース結合タンパク質ドメインのオープンリーディングフレームの内部に挿入することも可能である。そのようなセンサーは、米国特許出願第60/658,141号に概説されており、この特許出願は参照によりその全てが本明細書に組み込まれる。また、アラビノース結合配列などの結合配列を、前後に並んだ分子の間にではなく、単一のフルオロフォアコード配列、すなわちGFP、YFP、CFP、BFPなどをコードする配列中に、挿入することも可能である。米国特許第6,469,154号および米国特許第6,783,958号(これらはそれぞれ参照によりその全てが本明細書に組み込まれる)の開示によれば、そのようなセンサーは、フルオロフォアの活性に影響を及ぼす検出可能な変化をタンパク質内で生じることで応答する。
【0088】
本発明は、単離されたナノセンサー分子、例えば、本明細書に記載する性質を持つ、任意の代謝産物(例えばペントース基質またはヘキソース基質)のレベルを検出するためのナノセンサー、例えばAraFなどのアラビノース結合タンパク質を使って構築されたアラビノース結合蛍光インジケーターなども包含する。そのようなポリペプチドは、本明細書に記載する核酸コンストラクトを使って組換え発現させるか、コンポーネントドメインの一部または全部を化学的に結合させることによって製造することができる。
【0089】
本発明の一実施形態において、本発明は、ペントース基質およびヘキソース基質(これらはどちらも植物細胞壁の主要コンポーネントである)の細胞内レベルの変化を監視するためのナノセンサーを包含する。さらにもう一つの実施形態において、本発明は、細胞におけるアラビノース(L-アラビノース、D-アラビノース、またはD/L-アラビノースを含む)の細胞内レベルの変化を監視するためのナノセンサーを包含する。一つの例では、本発明の核酸およびタンパク質は、インビトロでも、植物内または動物内でも、そして特に細菌細胞においても、L-アラビノース結合を検出し、L-アラビノースレベルの変化を測定するのに役立つ。
【0090】
発現された本発明のナノセンサーは、場合によっては、転写-翻訳系で、または組換え細胞で生産し、かつ/または当技術分野で知られる生化学的および/または免疫学的精製方法によって、そこから単離することができる。本発明のポリペプチドは、脂質二重層、例えば細胞膜抽出物、もしくは人工的脂質二重層、またはナノ粒子などに導入することができる。
【0091】
生物発光共鳴エネルギー移動に基づくナノセンサー
本発明の一態様では、細胞内でのリガンド濃度の変化を監視するために、生物発光共鳴エネルギー移動(BRET)を使用することができる。一般にBRET技術は、生物発光ドナータンパク質から蛍光アクセプタータンパク質への共鳴エネルギーの移動に基づく。本発明の一態様において、BRETは、例えばウミシイタケ(Renilla)ルシフェラーゼ(Rluc)をドナーとし、緑色蛍光タンパク質(GFP)の突然変異体をアクセプター分子として利用する、生物発光ドナータンパク質から蛍光アクセプタータンパク質への共鳴エネルギーの移動を伴いうる。したがって、BRET技術は本明細書に記載する蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)と類似しているが、BRETは励起光源を必要としない。
【0092】
本発明のもう一つの態様では、生物発光ルシフェラーゼを候補タンパク質に遺伝子レベルで融合し、緑色蛍光タンパク質突然変異体をもう一つの関心対象タンパク質に融合することができる。関心対象のリガンドは、それら2つの融合タンパク質間の細胞相互作用に関与することが知られているものであることができ、例えばリガンドは、それら2つの融合タンパク質間のタンパク質-タンパク質相互作用を誘発するものであることができる。したがって、リガンドの細胞内濃度が増加すると、ルシフェラーゼと緑色蛍光タンパク質とは共鳴エネルギー移動が起こるのに十分なほど接近することになり、その結果、生物発光放出の色が変化して、対応するリガンド濃度の変化が示されうる。BRETは、あるリガンドが、ネイティブ細胞内における、例えば内在性膜タンパク質または特定細胞小器官にターゲティングされるタンパク質との、タンパク質相互作用に及ぼす影響を検出するためにも役立ちうる。
【0093】
本発明のもう一つの態様によれば、生物発光共鳴エネルギー移動を、リガンド濃度の変化が無傷の生細胞における1つ以上の受容体の活性化(例えば無傷の細胞におけるGタンパク質共役受容体活性化)に及ぼす影響を調べるためのアッセイに使用することができる。そのような受容体は、細胞ホメオスタシスの1つ以上の側面、1つ以上の分子の細胞への取り込みおよび/または細胞からの流出、および/または細胞代謝もしくは細胞内での他の生化学的事象および経路の諸側面に関与しうる。BRETは、本発明によれば、リガンド濃度の変化が生細胞における細胞内シグナリング事象に及ぼす影響を連続的に監視するためにも使用することができる。
【0094】
RETを測定し解析するためのデバイス
本発明では、本明細書にさらに詳しく説明するように、エネルギー放出強度を測定することによって、FRET、BRETおよびCRETを含む(ただしこれらに限るわけではない)共鳴エネルギー移動(RET)の変化を測定し解析するためのシステムおよびデバイスも考えられる。ある例では、細胞における細胞内リガンド濃度の変化をオンライン測定するためのデバイスが提供され、この場合、デバイスは、リガンド結合蛍光インジケーターを発現させる生細胞を監視するために使用することができる監視コンポーネントと、エネルギー放出の変化を解析するために使用することができる解析コンポーネントとを含み、エネルギー放出の変化は、例えば細胞におけるリガンドレベルの変化、または細胞におけるリガンドの利用もしくは代謝の変化を示しうる。
【0095】
本発明の一態様では、細胞培養物もしくは発酵培地において、または溶液中であるか、固形もしくは半固形の基層上にあるかを問わず、任意のタイプの生細胞からの、エネルギー放出センサー出力をオンライン監視するためのシステムが提供される。このシステムは、例えば光源、選択的光学フィルタ、および光子を定量的に測定する記録デバイスを含みうる。一般に本発明は、本発明のナノセンサーで形質転換またはトランスフェクトされた任意のタイプの細胞における共鳴エネルギー移動の変化をリアルタイムでオンライン測定するためのシステムを包含する。したがって本発明は、生細胞全般における、特に細菌細胞における、任意の細胞内リガンド(任意のタイプのペントース基質またはヘキソース基質を含む)のレベルまたは濃度の変化を検出し解析するために使用することができるシステムを提供する。
【0096】
もう一つの態様において、本発明は、細菌細胞培養における細胞内リガンド濃度または代謝産物濃度を検出するためのデバイスであって、光源、アクセプターフルオロフォアの励起に特異的なフィルタ、ドナーフルオロフォアの励起に特異的なフィルタ、アクセプターフルオロフォアからのエネルギー放出に特異的なフィルタ、ドナーフルオロフォアからのエネルギー放出に特異的なフィルタ、および検出器を含むデバイスを提供する。ある態様において、検出器は、少なくとも2つの放出エネルギー検出器、例えば光電子増倍管検出器または電荷結合素子センサー;および検出器からのシグナルを処理するプロセッサを含む。あるいは、ドナー成分およびアクセプター成分の放出スペクトルを記録するコンポーネントを使ってデバイスを構築することもできる。これらのコンポーネントには、例えば、照明スリットおよび光を分散させる格子、何らかの種類の放出エネルギー検出器、例えば所定の波長を持つ分散された光の強度を収集するCCDチップが含まれる。もう一つの構成では、コンポーネントが、ダイオードアレイ検出器に接続されたポリクロメーターからなりうる。もう一つの態様では、光強度値の比(この比は、ドナーフルオロフォアの励起およびアクセプターフルオロフォアからのエネルギー放出から検出されるエネルギー放出値の比を含む)を算出するために、プロセッサを使用することができる。光源としては、例えばLED、キセノンランプ、またはレーザーを挙げることができる。
【0097】
本明細書に記載する「監視コンポーネント」という用語は、エネルギー放出の変化を監視し検出するためのシステムまたはデバイス(例えば蛍光放出を測定するために蛍光分光法を使用するシステムを含む)の任意の適切なコンポーネントを包含する。
【0098】
ある実施形態では、選択された波長における蛍光エネルギー放出強度をFRETドナーフルオロフォアの選択的励起後に記録することによってFRETをオンライン測定するために、システムを使用することができる。ドナーフルオロフォアの励起後は、エネルギーがFRETアクセプターフルオロフォアに無放射的に伝達され、アクセプターによって放出される。細胞内環境がフルオロフォアの光学的性質に及ぼす影響を監視するために、FRETアクセプターが選択的に励起された後のFRETアクセプターのエネルギー放出強度を記録する。RETの変化は、当技術分野で知られる種々の適切な技法を使って測定できることを理解すべきである。一つの例は、FRETをオンライン測定するための分光蛍光測定システムである。もう一つの例は、生物発光共鳴エネルギー移動の変化を検出し解析するためのシステムである。
【0099】
ある実施形態において、本発明では、生細胞における細胞内リガンド濃度または細胞内代謝産物濃度をオンライン測定するための分光蛍光測定システムの使用が考えられる。蛍光分光法は、例えば、FRETナノセンサーでトランスフェクトまたは形質転換された細胞(例えばトランスフェクト哺乳動物細胞または形質転換細菌細胞)を含有する試料を監視するために使用することができる。試料はホルダーに入れることができ、試料は溶液または懸濁液の形態をとるか、基層上の固形物、例えば濾紙上に保持または固定化された生細胞のバッチであることができる。
【0100】
蛍光分光蛍光光度計は、本発明によれば、典型的には、ドナーフルオロフォアおよびアクセプターフルオロフォアを、例えば、窒素レーザーによって励起されたパルス色素レーザーなどのパルス励起源を使って、または窒素レーザー単独によって、励起するための励起源を含む。FRETナノセンサーでトランスフェクトまたは形質転換された細胞の試料は、既知のスペクトル分布を持つ(特徴的に、限られた光のバンド幅を持つ)放射線に曝露することができる。ある例では、励起放射線の分布が、典型的には、FRETナノセンサー中のドナーフルオロフォアおよびアクセプターフルオロフォアの励起スペクトルの範囲内にあるか、あるいは、ほぼその範囲内にある。
【0101】
分光蛍光光度計は、典型的には、蛍光検出システム、例えば光電子増倍管を利用する検出手段も含み、それが、典型的には、励起源から間隔をおいて設置され、励起パルスに呼応して生じるドナーフルオロフォアおよびアクセプターフルオロフォアからの蛍光放射線放出を受け取るような位置に配置されるだろう。ある実施形態では、有害な競合蛍光を引き起こす周囲物質の蛍光が実質的に減衰してしまった後に初めて、蛍光検出システムがゲートオンされる。
【0102】
FRETの変化を決定することには、FRETドナーフルオロフォアの選択的励起後にアクセプター蛍光タンパク質成分から放出された光を測定することが含まれうる。あるいは、FRETの変化を決定することには、ドナー蛍光タンパク質成分から放出された光を測定すること、アクセプター蛍光タンパク質成分から放出された光を測定すること、およびドナー蛍光タンパク質成分から放出された光とアクセプター蛍光タンパク質成分から放出された光の比を算出することが含まれうる。FRETを決定するステップは、ドナー成分の励起状態寿命または異方性変化を測定することも含みうる(Squire A, Verveer PJ, Rocks O, Bastiaens PI. J Struct Biol. 2004 Jul;147(1):62-9「Red-edge anisotropy microscopy enables dynamic imaging of homo-FRET between green fluorescent proteins in cells」)。そのような方法は当技術分野では知られており、米国特許第6,197,928号(この文献は参照により本明細書に組み込まれる)に記載されている。
【0103】
本発明のシステムは、蛍光放出比解析機を利用した蛍光放出比の検出および解析にも対応する。ある例示的蛍光検出システムの働きを、図8を参照して説明する。この例では、蛍光放出比解析機を使って、細菌細胞におけるFRETナノセンサー応答を監視することができる。図8に図解するように、本デバイスは発酵槽の内側に装着されるか、または本デバイスに発酵槽培養物を連続的に通過させる。図8に図示するデバイスは、光源からなり、その光は2つのフィルターを通過する。光源としては、例えば発光ダイオード(LED)または他の光放出体、例えばキセノンランプもしくはレーザーを挙げることができる。フィルタ1は、FRETアクセプター蛍光タンパク質(例えばVenus)を励起するための励起エネルギーの透過だけを特異的に許す。フィルタ2は、FRETドナー蛍光タンパク質(例えばeCFP)を励起するための励起エネルギーの透過だけを特異的に許す。フィルタ3は、FRETアクセプター放出光(この場合はVenus放出)の透過だけを特異的に許す。フィルタ4は、FRETドナー放出光(この場合はeCFP放出)の透過だけを特異的に許す。光強度を測定する検出器(ここでは光電子増倍管検出器をPMDと略記する)によって記録される光は、例えば簡単な感光性ダイオードまたはCCDチップなど、さまざまな方法で構築することができる。PMD1によって検出される光は、FRETアクセプター蛍光タンパク質(この場合はVenus)の蛍光の質に関する対照として役立つ。PMD2/PMD3光比はセンサーの出力を与える。この蛍光検出システムには、さまざまな濃度の外部リガンド(例えばアラビノース)を使って測定セルを較正するために、注入器も装備することができる。
【0104】
例えば細胞内リガンド濃度の変化を検出するために生物発光共鳴エネルギー移動(BRET)を使用する場合、BRETには、生物発光ドナータンパク質から蛍光アクセプタータンパク質への共鳴エネルギーの移動が関与しうる。ある例では、BRETが、ウミシイタケルシフェラーゼ(Rluc)をドナーとして使用し、緑色蛍光タンパク質(GFP)の突然変異体をアクセプター分子として使用する。したがって、BRET技術は本明細書に記載する蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)と類似しているが、BRETは励起光源を必要としない。その代わりに、BRETを使用する場合、本発明では、生物発光ドナータンパク質およびアクセプタータンパク質の放出強度の変化について監視することによって細胞内リガンド濃度の変化を連続的に検出することができるデバイスが考えられる。
【0105】
検出器によって検出される出力は、励起源による励起に続く放出スペクトルを含めて、また一例として図8を参照して上述したとおり、任意の適切な解析コンポーネントによって、さらに解析することができる。本明細書にいう「解析コンポーネント」には、エネルギー放出比の変化を解析するための任意の適切なデバイス、例えば蛍光放出比解析機、または共鳴エネルギー移動によるエネルギー放出の変化を解析する他のコンポーネントが含まれる。
【0106】
本発明のシステムは、蛍光放出比解析機によって検出し解析されるエネルギー放出の変化などといったセンサー出力をさらに処理し解析するための処理システムも含みうる。例示的処理システムは、メモリデバイス、例えばDDR SDRAM、または一方向行ロジックならびにルーティングおよびパワーバスを持つ他のRAMデバイスを利用しうる。処理システムは、ローカルバス、複数のメモリコントローラおよび/または複数のプライマリバスブリッジに接続された1つ以上のプロセッサを含みうる。さらにまた、メモリコントローラを1つ以上のメモリバスに接続することができ、各メモリバスは、少なくとも一つメモリデバイスを含むメモリコンポーネントを受容することができる。メモリコンポーネントには、メモリカードまたはメモリモジュールも含めることができる。メモリモジュールの例には、シングルインラインメモリモジュール(SIMM)およびデュアルインラインメモリモジュール(DIMM)が含まれる。メモリコントローラは、キャッシュメモリにも接続することができる。パーソナルコンピュータまたはワークステーションなどの汎用コンピュータにとりわけ適した適切な処理アーキテクチャはどれでも、蛍光放出比解析機によって検出され解析されるエネルギー放出の変化などといったセンサー出力のさらなる処理および解析に使用することができる。センサー出力データは、必要に応じて、または所望により、記憶し、送信し、または他の形で利用することもでき、本発明のシステムは、データ記憶デバイスや、サーバーおよびプリンタなどの他の周辺デバイスに作動的に接続することができると理解すべきであり、処理システムの構成には、さまざまな応用例での使用への適合性が増すように、周知の変更を加えることができると認識すべきである。それらの変更には、例えば専用デバイスもしくは専用回路の追加、および/または複数のデバイスの組み込みなどが含まれうる。
【0107】
上述の処理およびデバイスは、使用することおよび製造することができる数多くの方法およびデバイスのうち、例示的な方法および典型的なデバイスを例示したものである。上記の説明は、本発明の目的、特徴および利点を達成する実施形態を例示したものである。しかし、本発明を上述の例示した実施形態に厳密に限定するつもりはない。本明細書には一定の例を記載したが、本発明の目的を達成するために、他の適切な方法、システムおよびデバイスも使用できることは、当業者には理解されるだろう。
【0108】
有用性
本発明のバイオセンサーは広範な用途に役立ちうる。ある実施形態では、本発明のナノセンサーで形質転換またはトランスフェクトされた細胞を、1つ以上の細胞内コンパートメントにおける、ある分子の定常状態レベルまたはある分子のレベル(例えばアラビノースもしくはマルトース、または任意のペントース基質もしくはヘキソース基質のレベル)の変化について、解析することができる。
【0109】
RETの変化を検出または監視し、解析することにより、細胞の試料中のリガンド、基質、代謝産物などといった任意の分子の量を決定することができる。基質または代謝産物は、例えばペントース基質またはヘキソース基質であることができる。基質の例として、アラビノース、グルコース、リボース、キシロース、キシルロース、リブロース、エリスロース、およびキシリトールが挙げられるが、これらに限るわけではない。本発明の一態様では、ナノセンサーがまず、細胞の試料中に、任意の適切なトランスフェクションアッセイまたは形質転換アッセイにより、細胞がそのナノセンサーを発現させるように導入される。次に、それらの細胞をインキュベートすることができ、適当な期間をおいた後に、さまざまな濃度のペントース基質またはヘキソース基質が、その細胞の試料に加えられる。細胞への基質の取り込みは、エネルギー放出比を記録することによって監視し、解析することができる。ペントース基質またはヘキソース基質の代謝または細胞内利用の変化も、エネルギー放出比の監視によって決定することができる。また、RETの変化を細胞内での他の小分子または代謝産物の定常状態レベルの変化との相関関係に関して解析する本明細書に記載の方法に従って、上記の形質転換細胞またはトランスフェクト細胞を、RETの変化について解析することもできる。図3に示すように、異なるペントース基質の異なる濃度に応答して生じるFRETナノセンサーの放出比を解析することができる。試料中の基質の量は、例えば滴定によって確立された検量線を使って、定量することができる。そのような検量線を確立するには、実際の測定時と同じ実験条件を適用することが望ましい。
【0110】
本発明は、ホールセル(whole-cell)での代謝フラックスを検出しかつ/または監視する方法を提供する。本明細書で使用する用語「代謝フラックス」には、細胞、マイクローブ、または微生物の代謝状態に生じる任意の変化が包含される。さらにまた、「代謝状態」という用語は、細胞(例えばマイクローブまたは微生物の細胞)における代謝の総合的状態を広く包含し、エネルギー利用などの細胞活動に付随する、その細胞内で起こる付随生化学的プロセスの全てを含み、一般に、細胞内でのありとあらゆる異化および同化プロセス(例えば成長、複製、構造的完全性の維持、および環境刺激に対する応答に関与する異化および同化プロセスを含むが、これらに限るわけではない)を含む。
【0111】
代謝が、転写制御、翻訳後制御、およびアロステリック制御を含めて、あらゆるレベルで高度に調節されることは、古くから知られている。代謝経路またはシグナリング経路を流れるフラックスは、その個々のコンポーネントの活性によって決定される。フラクソミクスは、フラックスを追跡することによって調節に関与する遺伝子を明確にすることを目的とする。フラックスおよびフラクソミクスは、Wiechartら(Current Opinion in Plant Biology, 2007, 10:323-330)によって詳述されており、この文献は参照によりその全てが本明細書に組み込まれる。フラックスは、生物または細胞を13Cなどのトレーサでパルス標識した後、異なる化合物へのラベルの分配を質量分析法で解析することによって、監視することができる。これは、フラックスを研究するための効率のよいツールであり、フラックスに対する突然変異の影響を比較することを可能にする。フラックスはナノセンサーを使って監視することもできる。
【0112】
ホールセルは原核細胞または真核細胞であることができる。細胞は細菌細胞、酵母細胞、哺乳動物細胞、または植物細胞であることができる。ナノセンサーをコードする核酸を細胞中に導入し、その細胞を、ナノセンサーの発現が可能な条件下で培養する。本発明の方法では、ナノセンサーを発現させる細胞培養物をリアルタイムで監視し、データを解析することにより、細胞の少なくとも一つの代謝パラメータを測定する。あるいは、解析は、測定されたパラメータが対照細胞における匹敵する測定値と相違するかどうかを決定するためのデータの比較を伴ってもよい。対照細胞は、正常細胞であるか、特定の表現型を持つように改変されていない細胞であることができる。
【0113】
本発明では、細胞がリアルタイムまたはオンライン時間枠で監視される。ある態様では、細胞培養物などの複数の細胞が、リアルタイムまたはオンラインで監視される。もう一つの態様では、複数の代謝パラメータがリアルタイムまたはオンラインで監視される。本発明の方法は、細胞の生理学的状態を制御して望ましい方向に進行させるために基質供給、温度、誘導因子の使用などをどう変化させるかを決定することにより、細胞プロセス(例えば発酵)を操作する方法を決定するために使用することができる。一例として、本発明は、食品生産用およびバイオ燃料生産用の植物の収穫量を改善するための情報を提供することになる。
【0114】
本発明は、例えば発酵プロセス中などにおける、細菌細胞培養物中の細胞内代謝産物濃度の監視にも対応する。したがって、本明細書に記載するナノセンサーは、例えば食品産業、医薬産業、およびバイオ燃料産業などにおける、任意の発酵プロセスに応用することができる。本発明は、エタノール生産(例えばグルコースとアラビノースを含有する糖混合物からのエタノール生産)に関与する代謝プロセスの検査にも対応する。例えば、工学的に操作された細胞におけるエタノール生産中に、アラビノース利用の変化を検出する目的で、アラビノースナノセンサーを使用することができる。
【0115】
本明細書で使用する用語「発酵」は、例えば工業的発酵との関わりで言えば、有機物質の分解と他の物質への再構築を伴う、任意のプロセスを包含すると理解すべきである。工業生産能力との関連で、発酵槽培養とは、多くの場合、高濃度の酸素を含む好気的成長条件を指し、一方、生化学的文脈における発酵は嫌気的プロセスである。
【0116】
どの発酵プロセスでも、効率のよい稼働には、基質の量を特定のレベルに維持しなければならない。したがって発酵槽基質濃度を監視しなければならない。デンプンは発酵プロセス用の安価な基質源として使用され、微生物により、グルコースへと分解されてから消費されるため、発酵プロセス中はグルコースの蓄積が起こりうる。しかし、どのデンプン加水分解プロセスでも、グルコースが一定の濃度を超えて蓄積すると、デンプン加水分解酵素の作用が阻害されうる。したがって、発酵プロセス中はグルコースとデンプンの両方(全糖)の濃度を監視する必要がある。一例として、本発明のナノセンサーを使って、発酵プロセス中に、グルコースと全糖の両方を監視することができる。本ナノセンサーは、発酵プロセスに関与する他の糖および代謝産物を監視するために使用することができる。本ナノセンサーは、代謝産物をリアルタイムまたはオンライン時間枠で連続的に監視するために使用することができ、即応的な情報を与えるだろう。
【0117】
本発明のナノセンサーは、例えば、代謝経路中の障害または代謝経路の抑制を示しうる代謝産物の蓄積を監視するために使用することができる。あるいは、細胞内代謝産物レベルの低下により、外部供給の不足が示されうる。エネルギー放出の変化は、発酵プロセス中の細胞内リガンドのレベルまたは濃度の変化を示しうる。リガンドとしては、例えば糖、アミノ酸、ペプチド、有機酸、金属またはイオン、酸化物、水酸化物またはそれらの複合体、無機イオン、(ポリ)アミンおよびビタミンを挙げることができる。図8に示すように、細菌細胞中のFRETナノセンサーは、簡単な蛍光放出比解析機を使って監視することができる。
【0118】
本明細書で使用する用語「バイオ燃料」は、バイオマス(例えば、燃料として使用することができる、または工業生産に使用することができる、炭素系材料を含む、任意の適切な生物学的材料)からなる、またはそのようなバイオマスから誘導される、任意の固形、液状、または気体燃料を広く包含する。バイオ燃料の例は、本発明によれば、バイオマスから誘導される燃料であって、そのような燃料を生産するために工学的に操作されたマイクローブまたは微生物によって生成されるものである。
【0119】
本発明は、代謝状態をオンライン監視するための、細胞における蛍光ナノセンサーの発現にも対応する。細胞は、例えば大腸菌もしくは他の細菌などの原核細胞、または酵母細胞、動物細胞もしくは植物細胞などの真核細胞を含む、任意の供給源から得ることができる。任意の適切な微生物を使って、その微生物そのものをホールセルバイオセンサーとして特定分子レベルのオンライン検出に使用することができるように、蛍光ナノセンサーを発現させることができる。本発明では、好気的条件下または嫌気的条件下での、代謝プロセスの監視も考えられる。
【0120】
本発明は、細胞における代謝フラックスの監視を含む、細胞における代謝産物レベルのリアルタイムでの検出および監視にも対応する。本発明のある実施形態では、生細胞における代謝フラックスを決定する方法(本明細書に記載するリガンド結合蛍光インジケーターを発現させる生細胞を監視し、細胞内での代謝フラックスの変化と相関するRETの変化を決定する方法を含む)が提供される。もう一つの実施形態において、本発明では、バイオ燃料または他のバイオテクノロジー産物を産生するように工学的に操作された微生物細胞における代謝フラックスを決定することが考えられる。
【0121】
本発明の一態様では、発酵プロセス中に細胞の代謝状態のリアルタイム、オンラインかつ/または連続的監視を行なうための、生細胞における代謝フラックスを決定する方法が提供される。本発明の発明者らは、驚いたことに、ペントースであるアラビノースの特異的検出を監視するためにRETナノセンサーを使用できることを見いだし、そのようなセンサーをうまく使って、簡単な蛍光分光法で細菌、具体的には大腸菌におけるフラックスを監視できることを(アラビノースとマルトースを例に挙げて)実証する。1つ以上の細胞外および/または細胞内条件の変化、例えば光、糖供給、湿度、1つ以上の外因性化合物の添加、および/または細胞内での小分子もしくは代謝産物の細胞代謝および利用に影響を及ぼす細胞微小環境内における他の変化に応答して起こる代謝フラックスの変化を、監視することもできる。
【0122】
ある実施形態において、本発明は、細胞の試料における代謝産物のレベルの変化を検出する方法であって、本明細書に記載するナノセンサーを発現させる細胞を監視すること、およびドナー蛍光タンパク質成分とアクセプター蛍光タンパク質成分の間のFRETの変化を検出することを含み、前記ドナー成分と前記アクセプター成分の間のFRETの変化が細胞の試料における代謝産物のレベルの変化を示す方法を含む。ある実施形態によれば、本発明者らは、驚いたことに、そして予想外に、任意の細菌細胞培養における細胞内代謝産物濃度を監視するために本発明のFRETセンサーを使用できることを発見した。
【0123】
本明細書に開示する代謝産物レベルを検出するための方法は、代謝産物濃度または代謝産物変化に関係する活性を調整するために使用することができる化合物をスクリーニングし、同定するためにも使用することができる。ある実施形態において、本発明は、なかんずく、代謝産物結合または代謝産物レベルを調整する化合物を同定する方法であって、(a)本明細書に開示するナノセンサーを発現させる細胞および細胞の試料を含む混合物を、1つ以上の試験化合物と接触させること、および(b)前記接触後の前記ドナー蛍光ドメインと前記アクセプター蛍光ドメインの間のFRETを決定することを含み、前記接触後のFRETの増加または減少によって、前記試験化合物が代謝産物活性または代謝産物レベルを調整する化合物であることが示される方法を含む。この実施形態において「調整する」という用語は、そのような化合物が代謝産物活性を増加もしくは減少させうること、または代謝産物レベルに影響を及ぼす活性(すなわち細胞機能またはシグナリングカスケード)に影響を及ぼしうることを意味する。代謝産物活性を増加または減少させる化合物は、上述のように、異常な代謝産物活性または異常な細胞代謝もしくはシグナル伝達に関連する障害の治療的介入および処置のターゲットになりうる。細胞機能に関連する代謝産物活性または代謝産物レベルを増加または減少させる他の化合物は、その活性に関連する障害を処置するための治療製品に発展させうる。
【0124】
ある例によれば、RETの変化の検出を使って、細胞内でのアラビノース濃度の変化を検出することができる。アラビノースはアルドペントース(単糖)であり、ペクチンおよびヘミセルロースなどの生体高分子のコンポーネントとして自然界に見いだされる。アラビノースは、微生物により、炭素源として代謝されうる。アラビノースはグルコースから合成的に生成させることができ、細菌学では培養培地としてしばしば使用される。もう一つの重要な糖はマルトースであり、これは、α(1→4)結合で接合された2単位のグルコースから形成される二糖である。マルトースは、その数ある用途のなかで、細菌学における培養培地としても、よく使用される。
【0125】
本発明のナノセンサーは、細胞(特に細菌)における代謝産物の合成に関する機序の解明にも役立つだろう。そのようなセンサーにより、細胞へのリガンドまたは基質の取り込みまたは流入、細胞内でのリガンドの細胞下分布および/または区画化、ならびに細胞からのリガンドまたは基質の流出を含む、生細胞におけるフラックスを測定するというユニークな機会も与えられるだろう。そのようなセンサーには、細胞におけるリガンド利用または基質利用などの機能を同定するためのツール、ならびに細胞ホメオスタシスを制御する調節因子およびシグナリングカスケードを同定するためのツールとしての価値もあるだろう。このように、本センサーは、例えばリガンドの取り込みおよび放出ならびに細胞内区画化を含む細胞の活性を特徴づけるために使用することができる。本発明のナノセンサーは、このように、細胞における小分子、例えばアラビノースもしくはマルトースの細胞内レベルを監視するために、または細胞における代謝産物レベルのリアルタイム監視のために、使用することができる。本明細書に記載する用途および有用性は、好気条件下または嫌気条件下、そして他の任意の実験条件下(例えば細胞培地の変化、例えばpH、温度、イオン条件、もしくはリガンド結合に影響を及ぼし、結果として共鳴エネルギー移動によるエネルギー放出に影響を及ぼしうる他の任意の要因の変化を含む)での、細胞内リガンドの濃度の監視にも当てはまることを、同様に理解すべきである。
【0126】
本発明のナノセンサーは、例えば二酸化炭素利用、酸素感受性、温度依存的成長応答性および細胞内因子もしくは細胞外にある外部因子に応答する内在性遺伝子の発現などといった要因による影響を受けうるさまざまな異なる環境条件下での特定の細胞および組織の合成および成長と収量との関連を特徴づけるためにも使用することができる。本センサーは、生化学経路を調べるためにも、例えば微生物におけるアラビノース経路を決定するためにも役立つだろう。これは、アラビノース合成に正または負の影響を及ぼす新規化学物質をハイスループットスクリーニングで開発するためのツールとして使用することができる。本発明のアラビノースセンサーは、創薬および薬物スクリーニングのための優れたツールである。化学物質、代謝イベント、輸送ステップおよびシグナリングプロセスに呼応して、アラビノースなどの代謝産物のレベルを、リアルタイムで測定することができる。本センサーは、細胞における代謝産物レベルの異常な変化を監視するためにも使用することができ、したがって異常な代謝に関連する疾患の診断に役立つという有用性もある。例えば本ナノセンサーは、基礎をなす欠陥を調べ、異常な代謝に関連する疾患の治療法を開発するためのツールになりうる。
【0127】
本明細書に記載する方法およびシステムによれば、本発明では、細胞を2つ以上のナノセンサー(各ナノセンサーは異なるリガンドに特異的なリガンド感知ドメインを含む)でトランスフェクトまたは形質転換することもできると考えられる。そのような細胞は、例えば、細菌細胞培養物の試料中または発酵プロセスから採取した試料中に存在することができ、本明細書に記載するように、共鳴エネルギー移動によるエネルギー放出の変化を監視および解析するために、複合的励起/検出手段で走査することができる。そのようなシステムは、細胞試料の自動または半自動ハイスループットスクリーニングにおいて、例えば異なるリガンドの細胞内濃度の同時変化の監視に、特に有用でありうる。例えば、一方のリガンドの細胞内濃度の減少を伴う他方のリガンドの細胞内濃度の増加、または両方のリガンド濃度の同時増加、一方または両方のリガンド濃度の定常状態での無変化など、2つ以上のナノセンサーの同時監視が異なる出力を与えうることは、当業者には理解されるだろう。
【0128】
本発明を説明し例示するために以下に実施例を記載する。したがって以下の実施例が本発明の範囲を限定すると解釈してはならない。上述し、特許請求の範囲にも記載するとおり、他の多くの実施形態も本発明の範囲に包含されることは、当業者には理解されるだろう。
【実施例1】
【0129】
アラビノースFRETナノセンサーの構築
araF遺伝子(EMBL:K00420)を大腸菌K12ゲノムDNAから相同プライマーを使って増幅することにより、ファージλattB組換え部位に挟まれた停止コドンを持たないaraFからなるPCR産物を得た。このaraF遺伝子を、pDONR(Invitrogen)を介して、それぞれLRリコンビナーゼおよびBPリコンビナーゼ(Invitrogen)を使って、pGW1のeCFPコード配列とVenusコード配列の間に融合した。最終コンストラクトをpGW1araF.Ecと名付け、araF遺伝子の配列が正しいことをDNA配列決定(Sequetech)によって検証した。pGW1araF.Ec上にコードされる遺伝子産物をFLIParaF.Ec-200nと名付けた。
【実施例2】
【0130】
アラビノースFRETナノセンサーのインビトロ特性解析
FLIPWコンストラクトを大腸菌BL21(DE3)Goldに内包させ、以前記述されたようにセンサータンパク質を産生させて、精製した(Fehr, M., Frommer, W.B.およびLalonde, S., 2002「Visualization of maltose uptake in living yeast cells by fluorescent nanosensors」Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 99, 9846-9851)。20mM MOPS pH7.0中の10-4〜10-9Mの範囲のリガンドの希釈系列に、精製されたセンサーを添加し、モノクロメーターマイクロプレートリーダー(Safire、Tecan、オーストリア;eCFP励起433/12nm、eCFP放出485/12およびVenus放出528/12nm)で解析した。eCFPは476nmと501nmに2つの放出ピークを示す(LaMorte, V.J., Zoumi, A.およびTromberg, B.J., 2003「Spectroscopic approach for monitoring two-photon excited fluorescence resonance energy transfer from homodimers at the subcellular level」J. Biomed. Opt. 8, 357-361)。比の算出に使用するeCFP放出は485nmで決定した。70〜75のマニュアルゲインでVenus/eYFP読出しが20,000〜30,000になるように、タンパク質を希釈した。リガンドが結合した時のFRET比の変化を使って、滴定曲線を単一部位結合等温線:
R=Rapo+(Rsat−Rapo)・(n・[L])/(Kd+[L])
(式中、[L]、リガンド濃度;n、等価な結合部位の数;R、比;Rapo、リガンドの非存在下における比;およびRsat、リガンドで飽和した時の比)
に当てはめることによって、アフィニティ定数(Kd)を決定した。3つの独立したタンパク質調製物を解析し、各タンパク質調製物を3重に解析した。
【実施例3】
【0131】
FRETナノセンサーを使った細胞内小分子レベルの監視
それぞれ200nMのKdを持つアラビノースFLIPナノセンサーおよび37μMのKdを持つマルトースFLIPナノセンサーをコードするpGW1FaraF.Ecまたはp3367で、大腸菌BL21(DE3)細胞を形質転換した。バッフル付きエルレンマイヤーフラスコ中、暗所、室温で振とうしながら、培養物をLB中でインキュベートし、少なくとも16時間は4℃で保存した。5mlの培養物を遠沈し、10mlのM9最小塩類培地で洗浄し、遠沈し、9mlのM9培地に再懸濁した。細胞をマイクロプレートに各ウェル90μlずつ分注した。マイクロプレート蛍光分光測光器中で、eCFPを433/6nmで励起し、eCFPおよびVenus放出をそれぞれ485/6nmおよび528/6nmで記録することにより、センサー出力を150秒間隔で監視した。13分間のインキュベーション後に、M9培地中のさまざまな濃度のアラビノースまたはマルトース10μlを細胞に添加し、フルオロフォア放出をさらに45分間記録した。Venus/eCFP比を10μlのM9培地を加えた細胞に対して標準化した。蓄積速度を監視するために、Tecan Infinite M200(Tecan、オーストラリア)の注入モジュールを使用した。
【実施例4】
【0132】
アラビノースFRETナノセンサーのインビトロ特性解析
大腸菌K12 araFをeCFPコード配列とVenusコード配列の間に融合することによってL-アラビノースを検出するためのFRETナノセンサーを構築した。大腸菌における翻訳された融合産物FLIParaF.Ecの産生は、全細胞培養物におけるeCFP-Venus FRETシグナルの放出スペクトルを記録することによって、容易に検出された。eCFPが励起されると、Venusへの著しいエネルギー移動が検出され、Venus/eCFP放出比は2になった。D/L-アラビノースの添加は精製タンパク質のFRET効率を増加させ、それは、eCFP放出強度の減少および随伴するVenus蛍光強度の増加として観測され、結果として放出比を約15%増加させた(図2)。FLIParaF.Ecは、D/L-アラビノースを、230±18nMという見掛けのKdで結合した。AraFはL-アラビノースを98±33nMのアフィニティで結合する(Miller, D.M., 3rd, Olson, J.S., Pflugrath, J.W.およびQuiocho, F.A., 1983「Rates of ligand binding to periplasmic proteins involved in bacterial transport and chemotaxis」J Biol Chem 258(22), 13665-72)。D/L-アラビノース混合物が等量のD異性体およびL異性体からなると仮定すると、L-アラビノースに対するアラビノースFRETナノセンサーのアフィニティは、トリプトファン蛍光分光法によって測定される無修飾AraFのアフィニティに等しい(Miller, D.M., 3rd, Olson, J.S., Pflugrath, J.W.およびQuiocho, F.A., 1983「Rates of ligand binding to periplasmic proteins involved in bacterial transport and chemotaxis」J Biol Chem 258(22), 13665-72)。他の数種類のペントース基質はFRET比の変化を誘発することができなかったので(図3)、FLIParaF.Ec-200nはアラビノースと特異的に相互作用する。
【実施例5】
【0133】
大腸菌における細胞内アラビノースレベルの監視
FLIParaF.Ec-200nを大腸菌BL21(DE3)内で産生させた。異なる濃度のアラビノースをその大腸菌細胞培養物に添加し、FLIParaF.Ec-200n放出比を記録することによって、アラビノース取り込みを監視した(図4)。初期の監視では安定したベースラインが得られた。アラビノースを添加した場合、放出比は、0〜0.1μMでは安定しており、0.1μM〜500μMの外部アラビノースでは増加し、500μM〜10mMでは高く、使用した濃度のうちで最も高い2つの外部アラビノース濃度50mMと100mMではわずかに低下した。50分後の放出比を外部アラビノース濃度に対してプロットしたところ、細胞内アラビノース濃度が細胞外の15分の1であることを示す曲線が得られた(図5)。
【実施例6】
【0134】
マルトースセンサーの構築
この簡単な検出システムを細胞質マルトースレベルの監視に使用できるかどうかを調べるために、また最適化されたFRETセンサーによってアッセイ感度の増加が得られるかどうかを調べるために、リンカー欠失によって一組の改良型マルトースセンサーを構築し、大腸菌中で発現させた。マルトースセンサーFLIPmal-25μは、大腸菌MalEタンパク質をeCFP蛍光タンパク質およびeYFP蛍光タンパク質と融合させることによって、以前に構築されていた(Fehrら, PNAS 99:9846-9851 (2002))。しかし、FLIPmal-25μがマルトースの存在下で示す比の変化はあまり大きくなかった。リンカー欠失を使ってグルコースFRETセンサーの比変化を改良することに成功した前例があるので(Deuschleら, Protein Sci. 12:2304-2314 (2005))、ここでは同じ戦略をマルトースセンサーに応用して、低ないし高マイクロモル濃度域に及ぶKdを持つ一組のマルトースセンサーを得た(図11)。大腸菌MalEタンパク質をeCFP蛍光タンパク質およびVenus蛍光タンパク質と融合することによってマルトースセンサーを構築した。そのセンサーをコードするプラスミドをp3367と名付けた。このセンサーは、37μMという見掛けのKdを持つマルトース依存的FRET変化を示した(FLIPmal-37μ(FLIPmal-40μΔ1-Vともいう))。
【実施例7】
【0135】
大腸菌における細胞内マルトースレベルの監視
改良型FLIPmalセンサーを作製するための土台として、突然変異W62Aを保持するFLIPmal-225μを使用した(Fehrら, PNAS 99:9846-9851 (2002))。FLIPgluΔ13シリーズ(Deuschleら, Protein Sci. 12:2304-2314 (2005))で以前行なったのと同様にして、FLIPmal-225μにおけるリンカー領域の75ヌクレオチド(25アミノ酸;図11A)を、部位特異的突然変異誘発(Kunkel, PNAS 82:488-492 (1985))によって除去した。この新しいFLIPmalセンサーはマルトースに対して200μMのKdを持っており、FLIPmal-200μΔ1-eYFPと名付けられた(FLIPmal-200μΔ1-eYFPは突然変異W62Aを保持する)。このセンサーのアフィニティ突然変異体を、結合ポケットの構造情報に基づく(structure-guided)部位特異的突然変異誘発によって作出することにより、FLIPmal-40μΔ1-eYFP(W62Aに加えて突然変異W230Aを保持するもの)およびFLIPmal-1mΔ1-eYFP(W62Aに加えて突然変異Y155Aを保持するもの)を得た。さらに、malEの最初の5アミノ酸を欠失させた(これは低マイクロモル濃度域のKdを持つセンサーを生じさせることが先に示されていた(Deuschleら, Protein Sci. 12:2304-2314 (2005)))2つのセンサーを構築した。W62Aバックグラウンドにおけるこの5アミノ酸欠失は、400μMのKdを持つセンサー(FLIPmal-400μΔ1-eYFP)を与えた。W62AをW62Wに復帰させたところ、センサーのアフィニティは10μMであることがわかった(FLIPmal-10μΔ1-eYFP)。クローンを配列決定したところ、追加の突然変異(N227A)がFLIPmal-40μΔ1-eYFP中に見つかった(FLIPmal-37μ)。これはおそらく部位特異的突然変異誘発中にアーチファクトとして発生したのだろう。
【0136】
FLIPmal-37μ(FLIPmal-40μΔ1-Vともいう)をBL21(DE3)中で産生させた。その大腸菌細胞培養物に異なる濃度のマルトースを添加し、FLIPmal-37μ放出比を記録することによって、マルトース取り込みを監視した(図4)。放出比の初期の監視では安定したベースラインが得られた(図6)。マルトースを添加すると、比は濃度依存的に増加し、濃度が高いほど、比は大きくなった。50μMおよび100μMのマルトースでは、センサーが、添加後直ちに応答し、添加の3分後にはかなり低下した。50μMの場合、応答はベースラインレベルまで低下した。さらに高いマルトース濃度では、センサーの応答がベースラインレベルより上に留まった。
【0137】
t=25分におけるセンサー応答を外部マルトース濃度に対してプロットすると、単一部位結合曲線に当てはめることができる濃度依存的応答が認められる(図7)。この曲線から導かれる見掛けのKdは10mMであり、これは、このセンサーのインビトロでのKdより約250倍高い。大腸菌の細胞質ゾルにおけるセンサーのKdが変化しないと仮定すると、これは、外側のマルトースレベルと内側のマルトースレベルの間には、250倍の勾配が存在することを意味する。
【実施例8】
【0138】
センサー出力をオンライン検出するためのFRETモニター
細胞懸濁液におけるFRETナノセンサー応答は、簡単な蛍光放出比解析機を使って監視することができる(図8)。このデバイスは発酵槽の内側に装着されるか、またはデバイスに発酵槽培養物を連続的に通過させる。これは、光源からなり、その光は2つのフィルターを通過する。光源はLEDまたは他の光放出体、例えばキセノンランプもしくはレーザーであることができる。フィルタ1は、FRETアクセプター蛍光タンパク質(この場合はVenus)を特異的に励起するためのフィルタである。フィルタ2は、FRETドナー蛍光タンパク質(この場合はeCFP)を励起するためのフィルタである。フィルタ3は、FRETアクセプター放出光(この場合はVenus放出)に特異的である。フィルタ4は、FRETドナー放出光(この場合はeCFP放出)に特異的である。光強度を測定する検出器(ここでは光電子増倍管検出器をPMDと略記する)によって記録される光は、簡単な感光性ダイオード、CCDチップなど、さまざまな方法で構築することができる。PMD1は、FRETアクセプター蛍光タンパク質(この場合はVenus)の蛍光の質に関する対照として役立つ。PMD2/PMD3光比はセンサーの出力を与える。このシステムには、さまざまな濃度の外部リガンド(例えばアラビノース)を使って測定セルを較正するために、注入器を装備することができる。
【実施例9】
【0139】
グルコースナノセンサーを使ったフラックス変化の監視
グルコースに対して0.60mMのアフィニティ定数を持つグルコースナノセンサーは、78μM、175μM、2.8mMおよび6.3mMで、10%、20%、80%および90%の飽和度を示す。細胞内グルコース濃度の算出に関する信頼範囲は、記録されたセンサー応答データの品質によって決まる。大まかに言えば、±2.5%および±5%の標準偏差を持つデータは、それぞれ10%と90%の間の飽和度および20%と80%の間の飽和度で解釈することができる。変動する分析物濃度の存在下でセンサー応答を監視することにより、(1)分析物を添加した時の細胞内蓄積速度(これは、流入速度-代謝および輸出速度から構成される)、(2)分析物を除去した時の排除速度(これは、輸出+代謝−流入から構成される)、(3)センサー応答の定常状態レベル(この場合は流入が代謝および流出に等しい)、および(4)センサー応答が記録されうるまでの時間遅延(これは流入速度または代謝の差を表す)から、標的とする細胞下コンパートメントにおける輸送および代謝に関する情報が得られる。
【0140】
本明細書で議論した刊行物、特許および特許出願は全て参照により本明細書に組み込まれる。本発明をその具体的実施形態に関連して説明したが、さらなる変更が可能であること、本願が、本発明の原理に概して従う本発明のあらゆる変形、使用、または適応を、本発明が関係する技術分野の既知のまたは慣例的な実践の範囲内に含まれるような本開示からの逸脱、ならびに上述のおよび本願特許請求の範囲に記載する不可欠な特徴に当てはまりうるような本開示からの逸脱を含めて、包含するものとされることは理解されるだろう。
【技術分野】
【0001】
本願は、米国仮特許出願第60/955,122号(2008年8月10日出願)の利益を主張し、その内容は全て本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、概して、共鳴エネルギー移動(RET)を使ってリガンド濃度の変化を測定し検出するための方法に関する。特に本発明は、微生物における糖質の代謝フラックスを監視するためのRETセンサーを提供する。
[政府の支援に関する陳述]
【0003】
この研究は助成金番号NIH R33DK070272による支援を受けた。政府はこの発明に対して一定の権利を持ちうる。
【背景技術】
【0004】
本明細書に記載する刊行物および特許出願は全て、個々の刊行物または特許出願について参照によって組み込まれる旨を具体的かつ個別に示した場合と同じように、参照により本明細書に組み込まれる。
【0005】
本明細書で議論する刊行物は、単に、それらが本願の出願日前に開示されたという理由で記載されるに過ぎない。本発明が、先行発明を理由として、上述の刊行物に先行してなされたとは言えないという自白であると解釈されるべき記述は、本明細書には何もない。
【0006】
異なる組織または器官の生細胞の異なるコンパートメントにおける代謝産物および溶質の組成ならびにそのレベルの変化を解析するには、多くの時間がかかり、細胞を破壊する必要がある。そのうえ、ほとんどの技法は、代謝産物および溶質の変化をリアルタイムで測定するわけではなく、細胞レベルまたは細胞下レベルでの局所代謝産物濃度の時間的および空間的変動を考慮しない。加えて、当技術分野で知られている方法は分解能が低く、アーチファクトが発生しやすい。
【0007】
例えば、細胞の異なるコンパートメントにおけるアラビノースおよびマルトースの分布は、ほとんどわかっていない。現在利用可能な技術はいずれも、これらの問題に、十分には対処できない。非水系分画は静的、侵襲的であり、細胞レベルの分解能を持たず、アーチファクトの影響を受けやすい。NMRi(核磁気共鳴映像法)およびPET(陽電子放出断層撮影法)などの分光学的方法では動的データが得られるが、これらは空間分解能が低い。想像できるとおり、空間での分解能は得られず、その結果、代謝産物濃度の分布に関する情報は全て失われる。また、代謝産物の細胞下分布に関する情報を得るには、今までのところ、破壊的アプローチ後にそれぞれのコンパートメントを解析する必要がある(Bussisら, Planta (1997) 202, 126-136)。そのような測定に関して、細胞における代謝産物レベルのリアルタイムでの検出および監視に対応できるツールはない。
【0008】
蛍光タンパク質の出現により、光学的手段で容易に検出することができる細胞内ラベリング、とりわけペプチドの細胞内ラベリングが可能になった。例えば、オワンクラゲ(Aequorea Victoria)由来の緑色蛍光タンパク質(GFP)は、多くの生物で広く使用されるレポーター遺伝子である。異なる光学的性質を持つ複数の変異体が開発されている。さらにまた、エネルギー移動を示す蛍光タンパク質の組合せは、そのタンパク質に隣接する環境のコンフォメーション変化に呼応して、弁別的蛍光を与える。しかし、先行技術に記載されている方法には制約があるので、有機化合物(例えば糖、アミノ酸、有機酸、ビタミン)、有機高分子などといった広範な分析物の測定を容易にするセンサー分子を提供する差し迫った必要がある。先行技術の制約に鑑み、細胞における代謝産物レベルの変化のリアルタイムでの検出および監視に対応できるシステムおよび方法が必要とされている。
【0009】
ターゲット分子と認識エレメントとの相互作用を、1つ以上のシグナリングエレメントのアロステリック調節によって、観察可能な巨視的シグナルに変換する、遺伝子コード型分子センサーの開発は、これらの問題のいくつかに対する解答になりうる。認識エレメントは、単にターゲットを結合するだけでもよいし、ターゲットを結合してそれを酵素的に変換してもよいし、あるいは、プロテアーゼセンサーの構築における特異的ターゲット配列の使用のように、ターゲットの基質として働いてもよい。最も一般的なレポーターエレメントは、立体的に分離された蛍光タンパク質のドナー-アクセプターFRETペア(GFP光学変異体その他)であるが(Fehr, M., Frommer, W.B.およびLalonde, S. 2002, Proceedings of the National Academy of Sciences of the USA 99:9846-9851)、単一の蛍光タンパク質または酵素も同様に実用的である。いくつかの分子センサーは、レポーターエレメントに対するアロステリック効果と、その結果生じる出力とを拡大するために、コンフォメーションアクチュエーター(最も一般的には、認識エレメントの1つのコンフォメーション状態に結合するペプチド)も使用する。
【0010】
細菌ペリプラズム結合タンパク質スーパーファミリー(PBP)のメンバーは、高いアフィニティ(アトモル濃度〜低マイクロモル濃度)および特異性で、何百という基質を認識する。PBPは、リガンド結合時に著しいコンフォメーション変化を起こすことが、さまざまな実験技法によって示されており、個々の糖結合性PBPと1対のGFP変異体との融合を使って、バイオセンサーが作製された(Fehr, M., Frommer, W.B.およびLalonde, S. 2002, Proc. Natl. Acad. Sci. 99:9846-9851)。そのようなセンサーは、細胞における糖の取り込みおよびホメオスタシスを測定するために使用されており、核標的タイプのセンサーを使って細胞下分析物レベルが決定された。PBPは、グルコース(Fehrら, 2003, J. Biol. Chem. 278:19127-19133)およびグルタミン酸(Okumotoら, 2005, Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 102:8740-8745)などのキー代謝産物をイメージングするための蛍光インジケータータンパク質(FLIP)の構築にうまく活用されている。細菌PBPを使ったバイオセンサー開発の成功は、類似する戦略を採用することで、他のタイプの分子を監視するためのバイオセンサーを作製しうるかもしれないことを示唆している。微生物細胞(具体的には培養原核細胞)における分子の細胞内濃度を監視するためのバイオセンサーは、これまで、開発されていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、細胞培養物における、または複数の細胞にわたって積分された、細胞内代謝産物および代謝フラックスを検出し監視する方法を提供する。本発明の方法は、細胞レベルおよび細胞下レベルの分解能でデータをもたらし、低侵襲性である。本発明は、共鳴エネルギー移動(RET)の変化を測定し、解析するためのデバイスも提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
ある実施形態において、本発明は、生細胞培養物における分子の細胞内レベルを検出するための方法であって、生細胞中でナノセンサーを発現させること(ナノセンサーはドナー成分、アクセプター成分、および分子結合部位を含む)、および分子結合部位に分子が結合した時のアクセプター成分とドナー成分の間の共鳴エネルギー移動の変化を検出し、それによって、生細胞における分子のレベルを検出することを含む方法を提供する。
【0013】
もう一つの実施形態において、本発明は、生細胞培養物における分子の細胞内レベルを監視する方法であって、生細胞中でナノセンサーを発現させ(ナノセンサーはドナー成分、アクセプター成分、および分子結合部位を含む)、アクセプター成分とドナー成分の間の共鳴エネルギー移動の変化を検出し、それによって、生細胞における分子の細胞内レベルを監視することを含む方法を提供する。
【0014】
本発明は、生細胞培養物における代謝フラックスを監視する方法であって、生細胞中でナノセンサーを発現させること(ナノセンサーはドナー成分、アクセプター成分、および代謝産物結合部位を含む)、およびアクセプター成分とドナー成分の間の共鳴エネルギーの変化を検出し、それによって、細胞における代謝フラックスを監視することを含む方法も提供する。
【0015】
分子は、分析物、代謝産物、リガンド、基質、または分子結合部位(もしくは代謝産物結合部位)に結合するであろう任意の化合物であることができる。分子は、糖、アミノ酸、ペプチド、有機酸、金属またはイオン、酸化物、水酸化物またはそれらの複合体(conjugate)、無機イオン、アミン、ポリアミンおよびビタミンからなる群より選択することができる。糖は、アラビノース、マルトース、グルコース、ガラクトース、スクロース、トレハロース、フルクトース、キシロース、セロビオースおよびリボースからなる群より選択することができる。
【0016】
結合部位への分子の結合は、ドナー成分とアクセプター成分の相対的位置にコンフォメーション変化を誘発し、それが共鳴エネルギー移動の変化をもたらす。結合部位はドナー成分中に存在してもよいし、ドナー成分および/またはアクセプター成分に結合された別個の成分であってもよい。分子結合部位はペリプラズム結合タンパク質(PBP)などのタンパク質上に存在しうる。
【0017】
共鳴エネルギー移動(RET)は、蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)、リン光共鳴エネルギー移動(PRET)、化学発光共鳴エネルギー移動(CRET)、または生物発光共鳴エネルギー移動(BRET)であることができる。
【0018】
生細胞培養物は原核細胞または真核細胞を含みうる。原核細胞の例には、細菌または古細菌などがあるが、これらに限るわけではない。真核細胞の例には、酵母、真菌、原生生物、および植物などがあるが、これらに限るわけではない。
【0019】
分子の細胞内レベルは、リアルタイムまたはオンライン時間枠で、検出および/または監視される。培養生細胞の代謝フラックスは、リアルタイムまたはオンライン時間枠で、監視および/または検出される。
【0020】
生細胞培養物の細胞内分子のレベルまたは代謝フラックスを検出しかつ/または監視する方法は、ドナー成分の放出およびアクセプター成分由来の放出から検出されるエネルギー放出値の比を算出することを含みうる。
【0021】
本発明は、本発明で使用するためのナノセンサーを提供する。一例として、本発明は、生細胞におけるペントース代謝フラックスを監視しかつ/または検出するためのアラビノースセンサーを提供する。本発明は、生細胞におけるヘキソース代謝フラックスを監視しかつ/または検出するためのグルコースセンサーも提供する。さらにまた本発明は、二糖フラックスまたはマルトースへのグルコースフラックスを監視しかつ/または検出するためのマルトースセンサーを提供する。
【0022】
ある実施形態では、細胞がバイオ燃料を生産するために遺伝子操作されている生細胞培養物において、分子または代謝産物の分子内レベルを検出しかつ/または監視するために、本発明の方法を使用することができる。細胞は原核生物または真核生物であることができる。一例として、細胞は、細菌、古細菌、または真核生物からなる群より選択することができる。真核生物の例には、酵母、真菌、原生生物、および植物などがあるが、これらに限るわけではない。
【0023】
本発明の方法は、インビボ系で、例えばトランスジェニック動物において、行なうことができる。本方法は、ナノセンサーをコードする導入遺伝子を持つ動物を用意することを含みうる。一般に、トランスジェニック動物は、所与の導入遺伝子をその導入遺伝子の発現が許されるような形でゲノムに組み込むことによって作出されるか、または野生型遺伝子を破壊して野生型遺伝子のノックアウトをもたらすことによって作出される。トランスジェニック動物を作出するための方法は、WagnerおよびHoppe(米国特許第4,873,191号;これは参照により本明細書に組み込まれる)、Brinsterら(1985;これは参照によりその全てが本明細書に組み込まれる)によって、また「Manipulating the Mouse Embryo; A Laboratory Manual」第2版(Hogan, Beddington, CostantimiおよびLong編、Cold Spring Harbor Laboratory Press、1994;これは参照によりその全てが本明細書に組み込まれる)に、広く記載されている。
【0024】
米国特許第5,639,457号も、トランスジェニックブタ作出およびトランスジェニックウサギ作出などのトランスジェニック動物に関する教示内容について、参照により本明細書に組み込まれる。米国特許第5,175,384号、同第5,175,385号、同第5,530,179号、同第5,625,125号、同第5,612,486号および同第5,565,186号も、同様に、トランスジェニックマウス作出およびトランスジェニックラット作出に関する教示内容について、それぞれ参照により本明細書に組み込まれる。
【0025】
さらにまた、本発明は、生細胞における共鳴エネルギー移動をリアルタイムまたはオンライン時間枠で測定するためのデバイスを提供する。ある実施形態において、本発明のデバイスは、RET検出ユニット、参照ユニット、および較正ユニットを含む(図8)。
【0026】
RET検出ユニットは、第1フィルタ(フィルタ1)(光源からの光はこのフィルタを通過して、生細胞中のドナー成分を励起する);第2フィルタ(フィルタ2)(ドナー成分から放出された光はこのフィルタを通過して検出器に到達する);第3フィルタ(フィルタ3)(アクセプター成分から放出された光はこのフィルタを通過して検出器に到達する);ドナー励起後のドナーの放出光強度を測定するための第1検出器(検出器1);およびドナー励起後のアクセプターの放出光強度を測定するための第2検出器(検出器2)を含む。
【0027】
参照ユニットは、分子を励起するための光源;第1フィルタ(フィルタ3)(アクセプター成分から放出された光はこのフィルタを通過して検出器に到達する。これはRET検出ユニット中のフィルタ3と同一である);および第2フィルタ(フィルタ4)(光源から放出された光はこのフィルタを通過して、生細胞中のアクセプター成分を励起する);およびアクセプター励起後のアクセプターの放出光強度を測定するための第3検出器(検出器3)を含む。
【0028】
較正ユニットは、分析物保存溶液が入っている容器を持つ注入器と、デバイスを封鎖することができるバルブとを含む。注入器は、センサーの応答を検証する目的で、外部リガンドを使って測定セル(デバイス)を較正するために使用される。理論的には、FRET値はレシオメトリックであり、センサーレベルには依存しないはずだが、光学的問題および信号対雑音が、読出しに影響を及ぼしうる。したがって較正は、アポ比(apo ratio)および飽和比(sat ratio)を検出するための手段となり、そこから、通常の成長条件における実際のインビボレベルを算出することができる。
【0029】
もう一つの実施形態において、デバイス(図9)は、分子を励起するための光源;フィルタ(光源からの光はこのフィルタ通過して、生細胞中のドナー成分を励起する);ドナーおよびアクセプターからの放出光を分散させる光学コンポーネント;ならびに分散された光のスペクトルを記録するための検出器を含む。
【0030】
本発明のデバイス中の光源は、LED、水銀灯、キセノンランプ、およびレーザーからなる群より選択することができる。
【0031】
本発明のデバイス中の検出器は、少なくとも2つの光電子増倍管検出器;およびそれら少なくとも2つの光電子増倍管検出器からのシグナルを処理するプロセッサを含みうる。光電子増倍管検出器は感光性ダイオードまたはCCDチップである。プロセッサは、ドナー成分の放出およびアクセプター成分由来の放出から検出されるエネルギー放出値の比を含む光強度値の比を算出する。
【0032】
本発明は、発酵または加水分解プロセス中に糖の濃度を監視する方法であって、発酵槽にデバイスを装着すること、およびデバイスを使って糖の濃度を監視することを含む方法を提供する。
【0033】
本発明は、発酵または加水分解プロセス中に糖の濃度を監視する方法であって、デバイスに発酵槽培養物を通過させること、およびデバイスを使って糖の濃度を監視することを含む方法も提供する。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】大腸菌(Escherichia coli)L-アラビノース結合タンパク質AraFの三次元構造をリボン表示で表した図。結合したアラビノースはスティック表示で示されている。
【図2】D/L-アラビノースの存在下におけるFRETナノセンサーFLIParaF.Ec-200nのインビトロFRET比変化を表す図。D/L-アラビノースの存在下におけるこのFRETナノセンサーの結合定数Kdは230±18nMである。
【図3】異なる濃度のペントース基質およびヘキソース基質がFRETナノセンサーFLIParaF.Ec-200nの放出比(528nm/485nm)に及ぼす影響を示すグラフ。
【図4】30℃における大腸菌BL21(DE3)細胞中の細胞内アラビノースのFLIPara-230n検出を示すグラフ。μMで表した培地中の最終D/L-アラビノース濃度。矢印はアラビノース添加の時点を示す。バーは少なくとも3つのレプリケートの標準偏差を示す。
【図5】t=50分におけるアラビノース依存的なセンサー応答を示すグラフ。FLIParaF.Ec-200nのアフィニティ定数(Kd)に相当する細胞内アラビノース濃度には、3.6±1.2μMの外部アラビノース濃度で到達することから、その時点における細胞内濃度は、細胞外濃度の約15分の1であることが示される。
【図6】30℃における大腸菌BL21(DE3)細胞中の細胞内マルトースのFLIPmal-37μ(p3367)検出を示すグラフ。μMで表した培地中の最終マルトース濃度。矢印はマルトース添加の時点を示す。バーは少なくとも3つのレプリケートの標準偏差を示す。
【図7】t=25分におけるマルトース依存的なセンサー応答を示すグラフ。センサーのアフィニティ定数(Kd)に相当する細胞内濃度には、10.0±2.5mMの外部マルトース濃度で到達することから、その時点における細胞内濃度は、細胞外濃度の約250分の1であることが示される。
【図8】細胞培養物におけるECFP-VENUSナノセンサー出力をオンライン監視するためのFRET検出デバイスを表す図。デバイスは、RET検出ユニット、参照検出ユニットおよび較正ユニットで構成されている。光源は400〜550nmの光を放出する。フィルタ1:433nm、フィルタ2:485nm、フィルタ3:528nm。フィルタ4:500nm。BS:ビームスプリッター。較正ユニットは、分析物保存溶液用のリザーバーを持つ注入器と、測定セルを封鎖することができるバルブとからなる。
【図9】細胞培養物におけるECFP-VENUSナノセンサー出力をオンライン監視するための代替FRET検出デバイスを表す図。このデバイスは、光源、433nmフィルタ、光分散器および検出器で構成されている。
【図10】図10A〜Dはフラックス変化を測定するためのナノセンサーの使用を表す。(A)FLII12Pglu700μ-δ6のグルコース誘発性FRET変化の理論曲線。S=Δr/ΔRmax=[gluc]/([gluc]+Kd)。式中、S、ナノセンサー飽和度;Δr、部分比変化;ΔRmax、最大比変化;[gluc]、グルコース濃度;Kd、ナノセンサーのアフィニティ定数(FLII12Pglu700μ-δ6の場合は0.66mM)。薄い灰色で網掛けした区域はFLII12Pglu700μ-δ6検出範囲の10〜90%信頼範囲を示し、濃い灰色で網掛けした区域は20〜80%信頼範囲を示す。(B)比データの変動(SD)がグルコース濃度の決定に及ぼす影響。実線は、比データ±2.5%SDの変動を示し、破線は比データ±5%SDの変動を示す。比データの平均から算出されるグルコース濃度を100%に設定した。インビボグルコース濃度は次の式から算出した:[gluc]vivo=Kd×(Δr-1)/(ΔRmax-Δr)。式中、[G]は、グルコース濃度;Kd、ナノセンサーのアフィニティ定数;Δr、部分比変化;ΔRmax、最大比変化。(C)細胞潅流時のインビボグルコース濃度動態およびFLII12Pglu700μ-δ6のナノセンサー範囲の例。ナノセンサー範囲内でのグルコース濃度動態から、1)蓄積速度、2)排除速度、3)定常状態レベル、および4)ナノセンサー応答の遅延の相違がわかる。灰色の線は、実際のインビボグルコース濃度動態を示し、黒い線はFLII12Pglu700μ-δ6のナノセンサー飽和度を示す。(D)インビボグルコース濃度-時間プロット(黒い線)と、FLII12Pglu700μ-δ6の比±SDおよび信頼範囲(灰色の線)。信頼範囲外では、SDが、見掛けのグルコース濃度の高い変動につながる。
【図11】図11Aおよび11Bは改良型マルトースセンサーの構築とインビトロ解析を表す。(A)元のFLIPmalセンサーとリンカーが短縮された改良型FLIPmalセンサーの略図。大文字のアミノ酸配列は、強化シアン蛍光タンパク質/強化黄色蛍光タンパク質またはmalEに相当し、小文字は合成リンカーに相当する(太字の配列は制限部位である)。(B)マルトースの存在下におけるFLIPmalセンサー変異体のインビトロ蛍光共鳴エネルギー移動比変化。エラーバーは標準偏差を表す(n=3)。
【図12】図12Aおよび12Bは、FLIPmalセンサーで検出される細胞内マルトースの蓄積を表す。(A)FLIPmal-40μΔ1-強化黄色蛍光タンパク質を発現させる大腸菌BL21-Gold(DE3)細胞が入っているマイクロタイタープレートウェルへのバッファーまたは50mMマルトースの注入後、30秒間隔で測定した細胞質マルトース蓄積。矢印はTecan Infinite M200蛍光光度計の注入器を使ってマルトースを添加した時点を示す(図3Aとは対照的に、この手順では速度の決定が可能であることに注意)。(B)大腸菌BL21-Gold(DE3)細胞中でFLIPmal-40μΔ-強化黄色蛍光タンパク質によって検出されるマルトースに関する用量応答曲線。細胞内マルトースレベルは、外部濃度と比較して、約700分の1である(K0.5=7.4mM)。エラーバーは標準偏差を表す(n=3)。
【発明を実施するための形態】
【0035】
発明の詳細な説明
以下の説明には本発明を理解するのに役立ちうる情報が含まれる。これは、本明細書に提示する情報のいずれかが本願発明に対して先行技術であるまたは関連性があるという自白ではなく、明示的もしくは暗示的に言及する刊行物のいずれかが先行技術であるという自白でもない。
【0036】
本発明の他の目的、利点および特徴は、ここに提示する明細書および図面を精査すれば、当業者には明白になるだろう。したがって、本発明のさらなる目的および利点は、以下の説明から明瞭になるだろう。
【0037】
概論
本発明は、生細胞中の分子を検出または監視するための非侵襲的または低侵襲的方法を提供する。本発明は、生細胞中の分子を検出または監視するための手段としての、分子間の共鳴エネルギー移動に基づく。
【0038】
本発明は、先行技術の技法ではまだ計測不可能である化合物の濃度のリアルタイムでの検出、監視および測定に対応できる手段および方法を提供する。ある態様において、そのような手段および方法は、インビボ測定に対応できる。
【0039】
本発明者らは、驚いたことに、生細胞(例えば細菌細胞培養物)における細胞内分子レベルを監視するために、ナノセンサーを使用することができるということを見出した。
【0040】
ある態様において、本発明は、細胞内リガンド濃度の変化を監視するためのシステムであって、リガンド結合インジケーターを発現させる生細胞を監視するための手段;および共鳴エネルギー移動の変化を解析するための手段を含み、前記共鳴エネルギー移動の変化が、細胞におけるリガンドのレベルの変化を示すシステムを提供する。ある態様では、リガンド結合インジケーターが、少なくとも一つのリガンド結合タンパク質成分;リガンド結合タンパク質成分に共有結合されたドナー成分;およびリガンド結合タンパク質成分に共有結合されたアクセプター成分を含む。もう一つの態様では、リガンド結合インジケーターが、リガンド結合蛍光インジケーターを含む。共鳴エネルギー移動の変化は、発酵プロセス中のリガンドのレベルの変化を示しうる。本発明のシステムは、共鳴エネルギー移動の変化の連続的解析にも使用することができる。
【0041】
本発明は、任意のタイプの生細胞、例えば細菌細胞、およびバイオ燃料を産生する細胞を監視するためのシステムも提供する。ある態様では、監視が、生細胞の代謝状態を監視するために行なわれる。もう一つの態様では、監視が蛍光分光法を含む。本発明は、任意のリガンドの、例えば限定するわけではないが、糖、アミノ酸、ペプチド、有機酸、金属またはイオン、酸化物、水酸化物またはそれらの複合体、無機イオン、アミン、ポリアミンおよびビタミンなどの、細胞内濃度の変化の検出にも対応する。
【0042】
さらに本発明は、生細胞におけるリガンドのレベルの変化を検出する方法であって、リガンド結合インジケーターを発現させる生細胞を監視すること(インジケーターは少なくとも一つのリガンド結合タンパク質成分、リガンド結合タンパク質成分に共有結合されたドナー成分;およびリガンド結合タンパク質成分に共有結合されたアクセプター成分を含む);および前記ドナー成分と前記アクセプター成分の間の共鳴エネルギー移動の変化を検出することを含み、前記共鳴エネルギー移動の変化が細胞におけるリガンドのレベルの変化を示す方法を提供する。本発明の方法は、細胞におけるリガンドのレベルの変化を解析することを、さらに含んでもよい(細胞におけるリガンドのレベルの変化の解析が、細胞におけるリガンドの代謝の変化を示す場合を含む)。ある態様では、共鳴エネルギー移動の変化を検出するステップが、アクセプター成分から放出された光を測定することを含む。もう一つの態様では、共鳴エネルギー移動の変化を検出するステップが、ドナー成分から放出された光を測定すること、アクセプター成分から放出された光を測定すること、およびドナー成分から放出された光とアクセプター成分から放出された光の比を算出することを含む。さらにもう一つの態様では、共鳴エネルギー移動の変化が、細胞におけるリガンドの細胞内代謝の変化を示す。さらにもう一つの態様において、本発明の方法は、細胞の連続的監視を提供する。
【0043】
本発明は、細胞における細胞内リガンド濃度の変化をオンライン測定するためのデバイスであって、リガンド結合インジケーターを発現させる生細胞を監視するために使用することができる監視コンポーネント;および共鳴エネルギー移動の変化を解析するための解析コンポーネントを含み、前記共鳴エネルギー移動の変化が細胞におけるリガンドのレベルの変化を示すデバイスも提供する。
【0044】
本発明は、細菌細胞培養における細胞内リガンド濃度を検出するためのデバイスであって、光源、アクセプターフルオロフォアの励起に特異的なフィルタ、ドナーフルオロフォアの励起に特異的なフィルタ、アクセプターフルオロフォアからのエネルギー放出に特異的なフィルタ、ドナーフルオロフォアからのエネルギー放出に特異的なフィルタ、および検出器を含むデバイスも提供する。ある態様では、検出器が、少なくとも2つの光電子増倍管検出器;およびそれら少なくとも2つの光電子倍増管検出器からのシグナルを処理するプロセッサを含む。もう一つの態様では、プロセッサを、光強度値の比を算出するために使用することができ、その比は、ドナーフルオロフォアの励起から検出されるエネルギー放出値とアクセプターフルオロフォアからのエネルギー放出との比を含む。光源としては、例えばLED、キセノンランプ、またはレーザーなどを挙げることができる。
【0045】
本発明は、生細胞における細胞内リガンド濃度の変化を監視するための方法およびシステム(リガンド結合インジケーターを発現させる生細胞を監視するためのシステム、および共鳴エネルギー移動の変化を検出し解析するためのシステムを含む)であって、共鳴エネルギー移動の変化が細胞におけるリガンドのレベルの変化を示すものを提供する。例えば、ある実施形態は、生細胞における代謝フラックスを決定するためのシステムであって、共鳴エネルギー移動の変化が細胞におけるリガンドの細胞内濃度、代謝またはフラックスの変化の尺度となるシステムである。
【0046】
ナノセンサー
本発明は、第1検出部分および第2検出部分を含むナノセンサーを提供する。第1検出部分および第2検出部分はクロモフォアである。第1検出部分はエネルギー吸収分子かつエネルギー放出分子、第2検出部分は第1分子の放出ピークとオーバーラップする励起ピークを持つエネルギー吸収分子であることができ、これにより、第2分子は、第1分子からのエネルギーを無放射的に吸収して、検出可能なシグナル(測定することもできるもの)の形で、エネルギーを放出することになる。
【0047】
第1検出部分と第2検出部分は共有結合で連結することができる。例えば本発明のナノセンサーは、第1エネルギー放出タンパク質および第2エネルギー吸収タンパク質を含む融合タンパク質であることができる。第1タンパク質および第2タンパク質は、1つ以上のリンカーペプチドによって融合することができる。リンカーは任意の長さまたはアミノ酸配列を持ちうる。リンカーは、融合タンパク質のコンフォメーションを最適化し、エネルギー放出シグナルを改善するために挿入することができる。
【0048】
ナノセンサーの第1部分および第2部分は、化学的結合(chemical conjugation)により、それらが共鳴エネルギー移動にとって最適な近接性を保つような形で連結することもできる。
【0049】
「エネルギー放出分子」という用語は第1検出部分を指し、(i)適切な形のエネルギーを吸収し、(ii)そのエネルギーの少なくとも一部を共鳴エネルギー移動(RET)によって第2検出部分に伝達することができる(これにより、第2検出部分のエネルギー放出が誘発される)、放射エネルギーを放出する能力を持つ分子を含む。第1検出部分の放射エネルギー放出の原因は、当業者にとって考えうるものであればなんでもよく、例えば化学反応(化学発光もしくは生物発光)または放射線の吸収(蛍光もしくはリン光)が関与しうる。
【0050】
第2検出部分は、エネルギー放出分子とオーバーラップする励起ピークを持つ分子を含む。第2検出部分中の分子の例として、蛍光分子または蛍光タンパク質などのクロモフォアが挙げられる。
【0051】
「共鳴エネルギー移動」(RET)という用語は、ドナー分子(第1検出部分)からアクセプター分子(第2検出部分)への励起エネルギーの無放射移動を指す。ドナー分子とアクセプター分子とを含むナノセンサーのコンフォメーション変化は、検出部分間のRETに検出可能な変化をもたらす。そのような変化は、例えば、適切な結合化合物の非存在下における融合タンパク質の放出スペクトルを、そのような化合物の存在下における同じ融合タンパク質と比較することによって調べることができる。例えばRETが増加すると、アクセプターの放出ピークは高くなり、ドナーの放出ピークは低くなる。したがって、ドナーの放出強度に対するアクセプターの放出強度の比は、検出部分間のRETの程度の指標になる。化合物が結合した時の融合タンパク質のコンフォメーション変化は、検出部分間の距離の増減をもたらしうる。しかし、距離だけでなく、検出部分相互の相対的位置の他の性質、例えば配向なども、RETに影響する。したがって、ナノセンサーにおける検出部分のトポロジーに依存して、化合物の結合時に、RETが増加または減少しうる。また、RET挙動は、例えば滴定実験を行なうことなどにより、実験的に決定することができる。
【0052】
ナノセンサーの第1検出部分中の分子に依存して、共鳴エネルギー移動は、蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)、生物発光共鳴エネルギー移動(BRET)、化学発光共鳴エネルギー移動(CRET)、およびリン光共鳴エネルギー移動(PRET)であることができる。
【0053】
第1検出部分および第2検出部分によって生成される検出可能なシグナルは、例えば蛍光光度計など(マイクロプレート蛍光分光測光器など)、または当該検出部分の強度を選択的に測定する他の任意のデバイスを使って測定することができる。
【0054】
蛍光ナノセンサー
本発明は、蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)を使って特定小分子の細胞内レベルの変化を検出し測定するための蛍光ナノセンサーを提供する。この蛍光ナノセンサーは、例えば発酵プロセスにおいて細胞内代謝産物レベルを監視するために使用することができる。「バイオセンサー」「ナノセンサー」および「リガンド結合インジケーター」という用語は、本発明では可換的に使用され、それぞれに、例えば融合タンパク質、蛍光インジケータータンパク質(FLIP)、および任意のタイプの生細胞におけるリガンドのレベルを連続的に監視するために使用することができる他の任意の適切なコンストラクトを包含するものとする。さらにまた、本明細書で使用する用語「リガンド結合インジケーター」は、少なくとも一つのリガンド結合タンパク質成分、ドナー成分およびアクセプター成分を含み、ドナー成分とアクセプター成分の間の共鳴エネルギー移動の変化が、リガンド結合タンパク質成分へのリガンドの結合を示すような、任意のコンストラクトを包含する。ある実施形態では、リガンド結合蛍光インジケーターが、少なくとも一つのリガンド結合タンパク質成分;リガンド結合タンパク質成分に共有結合されたドナーフルオロフォア成分;およびリガンド結合タンパク質成分に共有結合されたアクセプターフルオロフォア成分を含み、ドナー成分とアクセプター成分の間のFRETの変化の検出が、リガンド結合タンパク質成分へのリガンドの結合を示す。
【0055】
ある実施形態によれば、共鳴エネルギー移動の変化は、例えば、蛍光放出比解析機による蛍光放出比の検出および解析の例に関して後述するように、エネルギー放出比の変化として検出される。「エネルギー放出」という用語は、当技術分野で知られる適切なデバイスによって検出することができる光学的シグナル(可視光スペクトルに含まれるものであってもよい)を指す。エネルギー放出の変化には、与えられた波長における光強度の有意な変化、すなわち増加もしくは減少、または互いに比較される2つ以上の異なる波長における光強度を比の有意な変化(「レシオメトリック測定」ともいう)が含まれうる。ある実施形態によれば、本発明のナノセンサーは、リガンドがリガンド結合部分に結合した状態と比較して、リガンドがリガンド結合部分に結合していない状態の、少なくとも0.01%、好ましくは少なくとも0.1%、より好ましくは少なくとも1%、よりいっそう好ましくは少なくとも2%、さらに好ましくは少なくとも5%、最も好ましくは少なくとも10%という、光強度の変化、または2つ以上の異なる波長における光強度間の比の変化を与える。エネルギー放出値またはエネルギー放出比の解析は、エネルギー放出値を、リガンドまたは分析物濃度とエネルギー放出との関係を示す標準曲線と比較することによって行なうことができる。
【0056】
本明細書で使用する用語「連続的監視」は、リアルタイムでの監視、あるいは実質的にリルタイムでの監視を指すと理解される。本明細書で使用する用語「リガンド」は、細胞に入り込む、細胞内に存在する、または細胞を離れる、任意の分子を指すと理解され、例えば任意の基質または代謝産物を含むが、これらに限るわけではない。例えば、リガンドであるグルコースは、例えば解糖の結果として起こる、またはグルコースを利用する細胞内の他の何らかの生化学的プロセスの結果として起こる、細胞内グルコース濃度の何らかの変化に関して、連続的に監視することができる。そのような連続的監視により、生細胞へのリガンドの取り込みおよび生細胞からのリガンドの流出のリアルタイム変化に関して、驚くほど価値のある情報が得られると共に、生細胞におけるリガンドの生合成、代謝および分解、例えば代謝フラックス、ならびに他の利用のリアルタイム変化に関する情報も得られる。ある実施形態において、蛍光リガンド結合インジケーターは、少なくとも一つのリガンド結合タンパク質成分;リガンド結合タンパク質成分に共有結合されたドナーフルオロフォア成分;およびリガンド結合タンパク質成分に共有結合されたアクセプターフルオロフォア成分を含むことができ、ドナー成分とアクセプター成分の間の共鳴エネルギー移動の変化の検出が、リガンド結合タンパク質成分へのリガンドの結合を示す。
【0057】
本明細書にいう「共有結合された(covalently coupled)」とは、ドナー蛍光成分およびアクセプター蛍光成分が、リガンド結合タンパク質成分に、例えば前記リガンド結合タンパク質成分中の選択されたアミノ酸への化学結合(chemical linkage)によって、結合(conjugate)されうることを意味する。「共有結合された」という表現は、リガンド結合タンパク質成分がドナー成分およびアクセプター成分を含む融合タンパク質として発現されるように、ドナー成分およびアクセプター成分が、リガンド結合タンパク質成分に、遺伝子レベルで融合されうることも意味する。本明細書で述べるように、ドナー成分およびアクセプター成分は、ドナー成分が励起され、リガンドがリガンド結合タンパク質成分に結合した時に、ドナー成分とアクセプター成分の間のFRETに変化が起こる限り、リガンド結合タンパク質成分の末端に融合されてもよいし、リガンド結合タンパク質成分の内部に融合されてもよい。
【0058】
「蛍光共鳴エネルギー移動」(FRET)という用語は、ドナー(第1検出部分)からアクセプター分子(第2検出部分)への励起エネルギーの無放射移動を指す。FRETには、それぞれオーバーラップした放出スペクトルおよび励起スペクトルを持つドナーフルオロフォアおよびアクセプターフルオロフォアが必要である。ドナーの励起後、エネルギーはアクセプターへと無放射的に伝達され、アクセプターによって放出される。このプロセスの効率は、フルオロフォア間の距離、およびフルオロフォアの双極子の相対的配向に依存する。センサーにおけるリガンド結合誘発性コンフォメーション変化は、各代謝産物のレベルと相関するFRET効率の変化をもたらしうる。
【0059】
ナノセンサーのリガンド結合タンパク質成分のコンフォメーション変化を誘発するリガンドを結合すると、検出部分間のFRETに、検出可能な変化が検出される。そのような変化は、例えば、適切な結合化合物の非存在下におけるナノセンサーの放出スペクトルを、そのような化合物の存在下における同じナノセンサーと比較することで、決定することができる。例えばFRETが増加する場合、アクセプターの放出ピークは高くなり、ドナーの放出ピークは低くなる。ある実施形態では、検出部分によって放出されるエネルギーの変化がFRETの増加または減少である。FRETでは、ドナーとアクセプターが両方とも、すなわち、どちらの検出部分も、蛍光タンパク質または蛍光分子部分であり、FRETを測定するには、第1検出部分によるエネルギー放出を励起するのに適したエネルギー、すなわち放射線が、ナノセンサーに供給される。
【0060】
ある実施形態において、本発明は、リガンド結合認識エレメントおよびフルオロフォアレポーターエレメントからなるタンパク質であるFRETナノセンサーを提供する。本発明は、リガンド結合認識エレメントおよびフルオロフォアレポーターエレメントをコードする単離された核酸も提供する。本発明は、2つの検出部分と、化合物の結合時にコンフォメーション変化を起こす、それら2つの検出部分の間にあるペリプラズム結合タンパク質(PBP)部分とを含む融合タンパク質である、FRETナノセンサーも提供する。
【0061】
もう一つの実施形態では、本発明のナノセンサーは、2つの検出部分(ここでは、第1検出部分がエネルギー放出タンパク質部分であり、かつ第2検出部分が蛍光タンパク質部分であるか、または2つの検出部分がスプリット蛍光タンパク質の一部分である)と、化合物の結合時にコンフォメーション変化を起こす、前記2つの検出部分の間にあるPBP部分とを含む融合タンパク質を含み、そのコンフォメーション変化は、2つの検出部分によって放出されるエネルギーの変化をもたらす。
【0062】
本発明のリガンド結合インジケーターは、与えられた任意の液体中の分析物を検出するためにも役立つ。例えば蛍光インジケーターは、培養中の生細胞における特定分子の細胞内レベルの連続的監視および/または溶液中の特定分子レベルの連続的監視に役立つ。本発明との関連で使用される用語「分析物」は、PBPに結合されて、PBPにおけるコンフォメーション変化を生じさせることができる、リガンド、化合物または分子を指す。PBPのそのようなコンフォメーション変化は、それがPBPに融合された2つの検出部分の相対的位置、すなわち距離、配向および/または空間的関係を、検出部分によって生じるエネルギー放出が検出可能な変化を起こすような形で、変化させることができるという点で、利用できることがわかった。「および/または」という用語は、本明細書で使用される場合は常に、「および」「または」ならびに「その用語によって接続されたエレメントの全部または一部の他の組合せ」という意味を含む。
【0063】
細胞内分析物測定には、本発明のナノセンサーまたは本発明の前記ナノセンサーをコードするヌクレオチド配列を、トランスフェクション、形質転換、直接マイクロインジェクションによって、またはナノセンサーをコードしそれを細胞内で発現させる能力を持つRNAのマイクロインジェクションによって、細胞内に導入することができる。ナノセンサーを細胞内に導入する方法に加えて、この実施形態は、上述した細胞内の分析物を検出するための方法にも相当し、この方法では、ナノセンサーをコードし、その細胞中でナノセンサーを発現させる能力を持つ、核酸分子、発現コンストラクトまたはベクターで、細胞が遺伝子操作される。
【0064】
本発明によれば、光学的検出になじみ、かつ異種タンパク質を発現させるように形質転換またはトランスフェクトすることができる細胞は、原則として、どの種類の細胞でも、本発明において使用することができる。したがって細胞は、細菌、酵母、原虫、古細菌、または培養細胞、例えば脊椎動物(ヒトを含む哺乳動物など)由来の培養細胞、または植物細胞であることができる。一定の応用例では、病原に冒された細胞、例えば腫瘍細胞または感染性因子(例えばウイルス)に感染した細胞を選択することが有用なこともあり、この場合、測定は対応する健常細胞との比較で行なわれる。同様に、細胞は組織、器官または生物の一部であることもできる。また、細胞を固定化してもよく、これにより、その観察が容易になる。
【0065】
「ペリプラズム結合タンパク質」または「PBP」という用語は、ローブ-ヒンジ-ローブ三次元構造を特徴とするタンパク質であって、リガンドの結合時に、本明細書に記載するリガンド検出にとって十分かつ適切なコンフォメーション変化を起こすものを指す。ローブは球体ないし楕円体である。ヒンジ領域は2つ以上のアミノ酸鎖を含有しうる。この構造はさらに、ローブ間に裂溝が存在することを特徴とし、それが基質結合部位、すなわち解析対象化合物が結合する部位になる。化合物が結合すると、PBPはコンフォメーション変化を起こし、それによって、2つのローブが相対的位置を変える。この動きは、しばしば、ハエトリソウもしくはパックマンのような動き、またはヒンジツイスト(hinge-twist)動作とも呼ばれる。好ましくは、本発明の融合タンパク質に使用されるPBPは、酵素活性を持たない。表1に三次元構造が既にわかっているPBPの例を示す。また、構造がまだ特徴づけられていない表1のタンパク質は、当技術分野で知られている方法により、既存の構造に基づいてモデル化することができる。本発明のバイオセンサーにとって有用なPBPは、これらの例と同じ三次元構造を持つか、またはそれらに類似している。したがって、それらは、上述のローブ-ヒンジ-ローブ構造と、化合物が結合した時のコンフォメーション変化とを示す。そのようなローブ-ヒンジ-ローブ構造を持つタンパク質を同定する方法は、平均的なタンパク質三次元構造解析技術を持つ人には知られている。さらにまた、当業者には、これらの構造基準に合致するタンパク質のなかから、上述したようなコンフォメーション変化を示すものを同定することも可能である。そのためには、その基質が結合した状態のタンパク質から得られる三次元構造データを、基質が結合していない状態のタンパク質から得られるデータと比較することができる。タンパク質の三次元構造を決定するための方法は当業者にはよく知られており、Mancini, Structure (1997) 5, 741-750(低温電子顕微鏡法)、Qian, Biochemistry (1998) 37, 9316-9322(NMR)、Shilton, J. Mol. Biol. (1996) 264, 350-363(関連構造に基づくモデリング)およびSpurlino, J. Biol. Chem. (1991) 266, 5202-5219(X線結晶解析)などの文献に記載されている。
【0066】
PBPは、キー代謝産物をイメージングするための蛍光インジケータータンパク質(FLIP)の構築を含む本発明のバイオセンサーの構築に利用することができる。本発明によるバイオセンサーの構築に利用されるPBPは、SCOP(structural classification of proteins;Murzin, J. Mol. Biol. 247 (1995), 536-540)の命名法によるタンパク質スーパーファミリー「ペリプラズム結合タンパク質様I」(PBP様I)、「ペリプラズム結合タンパク質様II」(PBP様II)または「ヘリカルバックボーン(helical backbone)」金属受容体スーパーファミリーの一つに属するか、Saierら, 1993 Microbiol Rev. 57, 320-346によって定義されたファミリーに属するか、またはwww.biology.ucsd.edu/.about.ipaulsen/transportに示されている輸送タンパク質の編集物において「ATP依存性」と分類される結合タンパク質に属しうる。
【0067】
本発明のバイオセンサーの構築に利用しうるPBPは、天然のPBPであることができる。そのようなPBPは、例えばグラム陰性細菌またはグラム陽性細菌に由来しうる。そのようなPBPの例を表1に示す。
【0068】
表1:細菌ペリプラズム結合タンパク質
【表1−1】
【表1−2】
【表1−3】
【表1−4】
【表1−5】
【表1−6】
表1:ナノセンサーの作製に適したペリプラズム結合タンパク質。同定した種は、それが該当する場合には、その3D構造が知られているものである。現在、PBPの3D構造は、主として、大腸菌およびネズミチフス菌由来のものが知られている。これらの構造は、http://scop.mrc-lmb.cam.ac.uk/scop/index.htmまたはhttp://ncbi.nlm.nih.govに示されている。「3D」という見出しを付けた欄は、各PBPの三次元オープン(open:「o」)構造または三次元クローズ(close:「c」)構造が、文献から入手できるかどうかを示している。
【0069】
細菌PBPは、表1に示すように、糖、アミノ酸、ビタミン、ミネラル、イオン、金属およびペプチドを含む多種多様な分子および栄養素を結合する能力を持つ。したがってPBPに基づくリガンド結合センサーは、本発明の方法によってこれらの分子のいずれかを検出し定量することが可能になるように、設計することができる。測定可能なリガンド結合機能を維持する部位特異的な突然変異、欠失または挿入を含む人工的に操作された変異体の他に、表1に列挙したPBPの天然の種変異体も使用することができる。
【0070】
同様に、グラム陰性細菌の類縁種に由来するオルソログなど、表1に挙げたPBPのホモログも、本発明を実施するために使用することができる。さらにまた、用語「PBP」には、グラム陰性細菌のPBPの機能的アナログも包含される。そのような機能的アナログも同様にローブ-ヒンジ-ローブ構造を示し、化合物を結合することができ、化合物を結合した時には、上述のようにコンフォメーション変化を示すことができる。例えば、そのような機能的アナログには、グラム陽性細菌中に見出されるグラム陰性細菌由来のPBPのホモログが含まれる(Quiocho, Mol. Microbiol. 20 (1996), 17-25;Gilson, EMBO J. 7 (1988), 3971-3974;Turner, J. Bacteriol (1999) 181:2192-2198)。機能的PBPアナログのさらなる例には、上述のスーパーファミリーに属するタンパク質であって、グラム陰性細菌のペリプラズムには存在しないもの、例えばPBP様Iスーパーファミリーの例として、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)由来のアミド受容体/アミダーゼオペロンの負の調節因子(AmiC)、大腸菌由来のlacリプレッサー(lacR)コアC末端ドメイン、およびPBP-IIスーパーファミリーの例として枯草菌由来のチアミナーゼIまたは大腸菌由来のプトレシン受容体(potF)が含まれる。
【0071】
さらにまた、用語「PBP」には、上述したペリプラズム結合タンパク質の任意の一つの誘導体も、そのような誘導体が上述のローブ-ヒンジ-ローブ構造、結合能力、および化合物の結合時に起こる適切なコンフォメーション変化を持つ限り、包含されると考えられる。また、当業者が、当技術分野で知られている適切な技法、例えばインビトロまたはインビボ突然変異誘発、PCRシャフリング突然変異誘発、化学修飾などによって、天然PBPを修飾し、最適化できることも、理解すべきである。
【0072】
用語「化合物」(本明細書の全体を通して「分析物」または「リガンド」または「分子」または「基質」ともいう)は、リガンド結合タンパク質成分(上述のPBP部分など)によって結合されうる任意の化合物を指す。検出すべき化合物、リガンドまたは分析物に応じて、適切なリガンド結合タンパク質成分またはPBPを選択して、本発明のバイオセンサーを構築することができる。本発明のバイオセンサーによって検出することができる化合物の例を表1に記載する。
【0073】
「化合物の結合」という用語は、ある態様においては、上述のようにPBP部分のコンフォメーション変化をトリガーする、リガンド結合タンパク質成分(例えばPBP部分)への化合物の非共有結合的結合を指す。そのような結合は、化合物とリガンド結合タンパク質成分(例えば上述のPBP部分)との間の塩橋、水素結合、ファンデルワールス力、スタッキング力、錯体形成またはそれらの組合せなどといった、非共有結合的相互作用を伴いうる。また、結合ポケット内の水分子との相互作用も含まれうる。
【0074】
本発明は、上記バイオセンサーをコードするヌクレオチド配列を含む核酸分子、ならびに前記核酸分子を含む発現カセット、ベクター、および宿主細胞にも関係する。ある実施形態は、アラビノースFRETナノセンサーをコードする単離された核酸であり、このナノセンサーは、アラビノース結合タンパク質成分、アラビノース結合タンパク質成分に共有結合されたドナー蛍光タンパク質成分、およびアラビノース結合タンパク質成分に共有結合されたアクセプター蛍光タンパク質成分を含み、ドナー成分が励起され、アラビノースがアラビノース結合タンパク質成分に結合すると、ドナー成分とアクセプター成分の間のFRETが変化する。したがって、本発明のFRETナノセンサーは、ペントースであるアラビノースの特異的検出に使用することができ、そのようなセンサーは、細菌(例えば大腸菌)におけるアラビノースおよびマルトースのフラックスを、蛍光分光法を使って監視するために、うまく使用することもできる。
【0075】
リガンド結合タンパク質成分の一例は、なかんずく、大腸菌由来の高アフィニティアラビノース結合タンパク質AraFである。AraFは、フレキシブルなヒンジ領域によって連結された2つの明確なローブに折りたたまれる306アミノ酸残基からなるポリペプチドである(図1)(Quiocho, F.A.およびVyas, N.K., 1984, Nature 310(5976), 381-6)。リガンド結合部位は、2つのローブの間の界面に位置する(Quiocho, F.A.およびVyas, N.K., 1984, Nature 310(5976), 381-6)。アラビノース結合領域をコードするAraF配列の任意の部分を、本発明の核酸に使用することができる。AraFまたは他の生物に由来するそのホモログのいずれかのアラビノース結合部分を、本明細書に記載するベクターにクローニングし、本明細書に開示するアッセイにより、活性に関してスクリーニングすることができる。
【0076】
測定可能なアラビノース結合機能を維持する部位特異的な突然変異、欠失または挿入を含む人工的に操作された変異体の他に、アラビノース結合タンパク質(例えばAraF)の天然の種変異体も使用することができる。変異体核酸配列は、AraFの遺伝子配列に対して、例えば、少なくとも30、40、50、60、70、75、80、85、90、95、または99%の類似度または一致度を持つ。適切な変異体核酸配列は、ストリンジェンシーの高いハイブリダイゼーション条件下で、AraFの遺伝子にハイブリダイズすることもできる。高ストリンジェンシー条件は当技術分野では知られている。例えばManiatisら「Molecular Cloning: A Laboratory Manual」第2版、1989および「Short Protocols in Molecular Biology」Ausubel,ら編を参照されたい(これらの文献はどちらも参照により本明細書に組み込まれる)。ストリンジェントな条件は配列依存的であり、状況が異なればストリンジェントな条件も異なるだろう。
【0077】
本明細書に開示するナノセンサーによって測定することができるリガンド濃度の範囲を拡大するために、本発明の人工的変異体は、リガンドに対して低下したアフィニティを示すように設計することができる。リガンドに対して減少したまたは増加した結合アフィニティーを示すさらなる人工的変異体を、ランダム突然変異誘発法または部位特異的突然変異誘発法によって構築し、それをベクターにクローニングし、活性に関してスクリーニングすることができる。ナノセンサーによって認識されるリガンドを変化させるために、ナノセンサーの結合特異性を、突然変異誘発によって変化させることもできる。例えばLoogerら, 2003, Nature, 423 (6936):185-190を参照されたい。
【0078】
2つ以上のリガンドによってその活性が制御されるアロステリック酵素を生じさせるために、例えば、アラビノース結合成分またはマルトース結合成分と、互いに共有結合されまたは融合され、かつドナー蛍光成分およびアクセプター蛍光成分に共有結合されまたは融合された、1つ以上の追加リガンド結合成分とを使って、本発明のナノセンサーを設計することもできる。2つ以上のリガンドに対する二重特異性を持つアロステリック酵素は当技術分野では記載されており、それらは、本明細書に記載するFRETナノセンサーを構築するために使用することができる(GuntasおよびOstermeier, 2004, J. Mol. Biol. 336(1):263-73)。
【0079】
本発明のナノセンサーは、組み合わせることでFRETにおいてドナー成分およびアクセプター成分として役立ちうる、任意の適切なドナー蛍光タンパク質成分およびアクセプター蛍光タンパク質成分を組み込むことができる。ドナー成分およびアクセプター成分の例には、GFP(緑色蛍光タンパク質)、CFP(シアン蛍光タンパク質)、BFP(青色蛍光タンパク質)、YFP(黄色蛍光タンパク質)、およびその強化変異体からなる群より選択されるものが含まれ、一例として、ドナー/アクセプターペアeCFP/YFP VenusまたはeCFP/Venusが挙げられる(Venusは、改良されたpH耐性および成熟時間を持つYFPの変異体である(Nagai, T., Ibata, K., Park, E.S., Kubota, M., Mikoshiba, K.およびMiyawaki, A. (2002)))。ドナー蛍光成分およびアクセプター蛍光成分を選択する際に考慮すべき基準は、例えば米国特許第6,197,928号(この特許は参照によりその全てが本明細書に組み込まれる)に開示されているように、当技術分野では知られている。
【0080】
遺伝子サイレンシングは、ナノセンサーのフルオロフォアが類似する配列または関連する配列のストレッチを含む場合に、一定の細胞において、特に丸ごとの生物において、ナノセンサーの発現に有害な影響を持ちうる。そのような例では、フルオロフォアコード配列を、フルオロフォアの核酸配列は改変されるが、コードされるアミノ酸配列は改変されないような形で、各フルオロフォアのコドンの1つ以上の縮重位置またはゆらぎ位置で改変することが考えられる。フルオロフォアの機能に有害な影響を及ぼさない1つ以上の保存的置換を組み込むこともできる。
【0081】
本発明はさらに、ナノセンサーをコードする単離された核酸分子を含有するベクター(発現ベクターを含む)、核酸を含む宿主細胞、ならびにその核酸によってコードされるナノセンサータンパク質を提供する。そのような核酸、ベクター、宿主細胞およびタンパク質は、例えば、本明細書に記載するナノセンサーを使って、分析物レベルの変化を検出する方法、発酵プロセス中に細胞内分子レベルの変化またはフラックスを監視するための方法、および培養中に生細胞における特定分子の細胞内レベルを監視するための方法、または溶液中の特定分子レベルを連続的に監視する方法などに使用することができる。
【0082】
例示的ベクターには、バクテリオファージ、バキュロウイルスまたはレトロウイルスなどのウイルスに由来するベクター、細菌に由来するベクター、または細菌配列と他の生物由来の配列との組合せ、例えばコスミドまたはプラスミドなどがある。そのようなベクターには、バイオセンサーをコードする核酸配列に作動的に連結された発現制御配列を含有する発現ベクターが含まれる。ベクターは、原核細胞、例えば大腸菌もしくは他の細菌、または動物細胞もしくは植物細胞を含む真核細胞中で機能するように適合させることができる。例えば、本発明のベクターは、一般に、意図する宿主細胞に適合する複製起点、意図した宿主細胞に適合する1つ以上の選択可能マーカー、および1つ以上のマルチクローニング部位などといったエレメントを含有するだろう。ベクターに含めるべき個々のエレメントの選択は、例えば意図する宿主細胞、インサートのサイズ、挿入される配列の調節的発現(すなわち、誘導性プロモーターまたは調節可能なプロモーターの使用などによるもの)が望まれるかどうか、そのベクターの所望するコピー数、所望する選択系などといった要因に依存するだろう。宿主細胞とベクターの間の適合性の確保に関与する要因は、さまざまな応用例について、当技術分野ではよく知られている。ある実施形態では、選択マーカーならびに転写および翻訳開始配列、そして場合によっては細胞下ターゲティング配列をも含有するプラスミドに、ナノセンサーをコードするDNA配列が組み込まれる。
【0083】
本発明は、本発明のベクターまたは発現ベクターをトランスフェクトされた宿主細胞(原核細胞、例えば大腸菌もしくは他の細菌、または真核細胞、例えば酵母細胞、動物細胞もしくは植物細胞を含む)も包含する。
【0084】
ある実施形態では、本発明で使用されるベクターが、ドナー蛍光分子およびアクセプター蛍光分子をコードする核酸の間に、アラビノースまたはマルトース結合性のドメインまたはタンパク質成分をクローニングして、例えばドナー蛍光分子およびアクセプター蛍光分子に共有結合されたアラビノース結合ドメインを含むキメラタンパク質または融合タンパク質の発現が起こるようにすることを可能にする。例示的ベクターとして、Fehrら (2002)(「Visualization of maltose uptake in living yeast cells by fluorescent nanosensors」Proc. Natl. Acad. Sci. USA 99:9846-9851;この文献は参照によりその全てが本明細書に組み込まれる)に開示されている細菌pRSET-FLIP誘導体が挙げられる。融合タンパク質が発現されるように正しい読み枠でベクター中に核酸をクローニングする方法は、当技術分野ではよく知られている。
【0085】
本発明のナノセンサーは、細胞質、細胞表面または細胞内小器官、例えば核、小胞、ER、液胞などを含む、細胞内のどの場所でも発現させることができる。タンパク質の発現を異なる細胞コンパートメントにターゲティングするための方法およびベクターコンポーネントは当技術分野ではよく知られており、その選択は、バイオセンサーを発現させるその細胞または生物に依存する。例えば、Okumoto, S., Looger, L.L., Micheva, K.D., Reimer, R.J., Smith, S.J.およびFrommer, W.B. (2005) Proc. Natl Acad Sci USA 102(24):8740-8745;Fehr, M., Lalonde, S., Ehrhardt, D.W.およびFrommer, W.B. (2004) J. Fluoresc. 14(5), 603-609を参照されたい(これらの文献は参照によりその全てが本明細書に組み込まれる)。
【0086】
もう一つの実施形態によれば、ドナー蛍光成分をコードする配列とアクセプター蛍光成分をコードする配列とが、リガンド結合ドメインの別々の末端に、リガンド結合時にドナーとアクセプターの間のFRETの変化が検出されうるような形で融合されるように、本発明のナノセンサーを構築することができる。蛍光ドメインは、場合によっては、1つ以上のフレキシブルなリンカー配列により、リガンド結合ドメインから引き離すことができる。ある実施形態では、そのようなリンカー成分が、好ましくは約1〜50アミノ酸残基長、より好ましくは約1〜30アミノ酸残基である。リンカー成分およびそれらの応用は当技術分野ではよく知られており、例えば米国特許第5,998,204号および同第5,981,200号、ならびにNewtonら, Biochemistry 35:545-553 (1996)に記載されている。あるいは、本明細書に記載するリンカーまたはフルオロフォアのいずれかの短縮型を使用してもよい。
【0087】
結合ドメイン(例えばアラビノース結合ドメイン)の性質およびサイズによっては、蛍光成分がナノセンサーの末端ではなくナノセンサーの内部にある位置から発現されディスプレイされるように、蛍光分子コード配列の一方または両方を、そのアラビノース結合タンパク質ドメインのオープンリーディングフレームの内部に挿入することも可能である。そのようなセンサーは、米国特許出願第60/658,141号に概説されており、この特許出願は参照によりその全てが本明細書に組み込まれる。また、アラビノース結合配列などの結合配列を、前後に並んだ分子の間にではなく、単一のフルオロフォアコード配列、すなわちGFP、YFP、CFP、BFPなどをコードする配列中に、挿入することも可能である。米国特許第6,469,154号および米国特許第6,783,958号(これらはそれぞれ参照によりその全てが本明細書に組み込まれる)の開示によれば、そのようなセンサーは、フルオロフォアの活性に影響を及ぼす検出可能な変化をタンパク質内で生じることで応答する。
【0088】
本発明は、単離されたナノセンサー分子、例えば、本明細書に記載する性質を持つ、任意の代謝産物(例えばペントース基質またはヘキソース基質)のレベルを検出するためのナノセンサー、例えばAraFなどのアラビノース結合タンパク質を使って構築されたアラビノース結合蛍光インジケーターなども包含する。そのようなポリペプチドは、本明細書に記載する核酸コンストラクトを使って組換え発現させるか、コンポーネントドメインの一部または全部を化学的に結合させることによって製造することができる。
【0089】
本発明の一実施形態において、本発明は、ペントース基質およびヘキソース基質(これらはどちらも植物細胞壁の主要コンポーネントである)の細胞内レベルの変化を監視するためのナノセンサーを包含する。さらにもう一つの実施形態において、本発明は、細胞におけるアラビノース(L-アラビノース、D-アラビノース、またはD/L-アラビノースを含む)の細胞内レベルの変化を監視するためのナノセンサーを包含する。一つの例では、本発明の核酸およびタンパク質は、インビトロでも、植物内または動物内でも、そして特に細菌細胞においても、L-アラビノース結合を検出し、L-アラビノースレベルの変化を測定するのに役立つ。
【0090】
発現された本発明のナノセンサーは、場合によっては、転写-翻訳系で、または組換え細胞で生産し、かつ/または当技術分野で知られる生化学的および/または免疫学的精製方法によって、そこから単離することができる。本発明のポリペプチドは、脂質二重層、例えば細胞膜抽出物、もしくは人工的脂質二重層、またはナノ粒子などに導入することができる。
【0091】
生物発光共鳴エネルギー移動に基づくナノセンサー
本発明の一態様では、細胞内でのリガンド濃度の変化を監視するために、生物発光共鳴エネルギー移動(BRET)を使用することができる。一般にBRET技術は、生物発光ドナータンパク質から蛍光アクセプタータンパク質への共鳴エネルギーの移動に基づく。本発明の一態様において、BRETは、例えばウミシイタケ(Renilla)ルシフェラーゼ(Rluc)をドナーとし、緑色蛍光タンパク質(GFP)の突然変異体をアクセプター分子として利用する、生物発光ドナータンパク質から蛍光アクセプタータンパク質への共鳴エネルギーの移動を伴いうる。したがって、BRET技術は本明細書に記載する蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)と類似しているが、BRETは励起光源を必要としない。
【0092】
本発明のもう一つの態様では、生物発光ルシフェラーゼを候補タンパク質に遺伝子レベルで融合し、緑色蛍光タンパク質突然変異体をもう一つの関心対象タンパク質に融合することができる。関心対象のリガンドは、それら2つの融合タンパク質間の細胞相互作用に関与することが知られているものであることができ、例えばリガンドは、それら2つの融合タンパク質間のタンパク質-タンパク質相互作用を誘発するものであることができる。したがって、リガンドの細胞内濃度が増加すると、ルシフェラーゼと緑色蛍光タンパク質とは共鳴エネルギー移動が起こるのに十分なほど接近することになり、その結果、生物発光放出の色が変化して、対応するリガンド濃度の変化が示されうる。BRETは、あるリガンドが、ネイティブ細胞内における、例えば内在性膜タンパク質または特定細胞小器官にターゲティングされるタンパク質との、タンパク質相互作用に及ぼす影響を検出するためにも役立ちうる。
【0093】
本発明のもう一つの態様によれば、生物発光共鳴エネルギー移動を、リガンド濃度の変化が無傷の生細胞における1つ以上の受容体の活性化(例えば無傷の細胞におけるGタンパク質共役受容体活性化)に及ぼす影響を調べるためのアッセイに使用することができる。そのような受容体は、細胞ホメオスタシスの1つ以上の側面、1つ以上の分子の細胞への取り込みおよび/または細胞からの流出、および/または細胞代謝もしくは細胞内での他の生化学的事象および経路の諸側面に関与しうる。BRETは、本発明によれば、リガンド濃度の変化が生細胞における細胞内シグナリング事象に及ぼす影響を連続的に監視するためにも使用することができる。
【0094】
RETを測定し解析するためのデバイス
本発明では、本明細書にさらに詳しく説明するように、エネルギー放出強度を測定することによって、FRET、BRETおよびCRETを含む(ただしこれらに限るわけではない)共鳴エネルギー移動(RET)の変化を測定し解析するためのシステムおよびデバイスも考えられる。ある例では、細胞における細胞内リガンド濃度の変化をオンライン測定するためのデバイスが提供され、この場合、デバイスは、リガンド結合蛍光インジケーターを発現させる生細胞を監視するために使用することができる監視コンポーネントと、エネルギー放出の変化を解析するために使用することができる解析コンポーネントとを含み、エネルギー放出の変化は、例えば細胞におけるリガンドレベルの変化、または細胞におけるリガンドの利用もしくは代謝の変化を示しうる。
【0095】
本発明の一態様では、細胞培養物もしくは発酵培地において、または溶液中であるか、固形もしくは半固形の基層上にあるかを問わず、任意のタイプの生細胞からの、エネルギー放出センサー出力をオンライン監視するためのシステムが提供される。このシステムは、例えば光源、選択的光学フィルタ、および光子を定量的に測定する記録デバイスを含みうる。一般に本発明は、本発明のナノセンサーで形質転換またはトランスフェクトされた任意のタイプの細胞における共鳴エネルギー移動の変化をリアルタイムでオンライン測定するためのシステムを包含する。したがって本発明は、生細胞全般における、特に細菌細胞における、任意の細胞内リガンド(任意のタイプのペントース基質またはヘキソース基質を含む)のレベルまたは濃度の変化を検出し解析するために使用することができるシステムを提供する。
【0096】
もう一つの態様において、本発明は、細菌細胞培養における細胞内リガンド濃度または代謝産物濃度を検出するためのデバイスであって、光源、アクセプターフルオロフォアの励起に特異的なフィルタ、ドナーフルオロフォアの励起に特異的なフィルタ、アクセプターフルオロフォアからのエネルギー放出に特異的なフィルタ、ドナーフルオロフォアからのエネルギー放出に特異的なフィルタ、および検出器を含むデバイスを提供する。ある態様において、検出器は、少なくとも2つの放出エネルギー検出器、例えば光電子増倍管検出器または電荷結合素子センサー;および検出器からのシグナルを処理するプロセッサを含む。あるいは、ドナー成分およびアクセプター成分の放出スペクトルを記録するコンポーネントを使ってデバイスを構築することもできる。これらのコンポーネントには、例えば、照明スリットおよび光を分散させる格子、何らかの種類の放出エネルギー検出器、例えば所定の波長を持つ分散された光の強度を収集するCCDチップが含まれる。もう一つの構成では、コンポーネントが、ダイオードアレイ検出器に接続されたポリクロメーターからなりうる。もう一つの態様では、光強度値の比(この比は、ドナーフルオロフォアの励起およびアクセプターフルオロフォアからのエネルギー放出から検出されるエネルギー放出値の比を含む)を算出するために、プロセッサを使用することができる。光源としては、例えばLED、キセノンランプ、またはレーザーを挙げることができる。
【0097】
本明細書に記載する「監視コンポーネント」という用語は、エネルギー放出の変化を監視し検出するためのシステムまたはデバイス(例えば蛍光放出を測定するために蛍光分光法を使用するシステムを含む)の任意の適切なコンポーネントを包含する。
【0098】
ある実施形態では、選択された波長における蛍光エネルギー放出強度をFRETドナーフルオロフォアの選択的励起後に記録することによってFRETをオンライン測定するために、システムを使用することができる。ドナーフルオロフォアの励起後は、エネルギーがFRETアクセプターフルオロフォアに無放射的に伝達され、アクセプターによって放出される。細胞内環境がフルオロフォアの光学的性質に及ぼす影響を監視するために、FRETアクセプターが選択的に励起された後のFRETアクセプターのエネルギー放出強度を記録する。RETの変化は、当技術分野で知られる種々の適切な技法を使って測定できることを理解すべきである。一つの例は、FRETをオンライン測定するための分光蛍光測定システムである。もう一つの例は、生物発光共鳴エネルギー移動の変化を検出し解析するためのシステムである。
【0099】
ある実施形態において、本発明では、生細胞における細胞内リガンド濃度または細胞内代謝産物濃度をオンライン測定するための分光蛍光測定システムの使用が考えられる。蛍光分光法は、例えば、FRETナノセンサーでトランスフェクトまたは形質転換された細胞(例えばトランスフェクト哺乳動物細胞または形質転換細菌細胞)を含有する試料を監視するために使用することができる。試料はホルダーに入れることができ、試料は溶液または懸濁液の形態をとるか、基層上の固形物、例えば濾紙上に保持または固定化された生細胞のバッチであることができる。
【0100】
蛍光分光蛍光光度計は、本発明によれば、典型的には、ドナーフルオロフォアおよびアクセプターフルオロフォアを、例えば、窒素レーザーによって励起されたパルス色素レーザーなどのパルス励起源を使って、または窒素レーザー単独によって、励起するための励起源を含む。FRETナノセンサーでトランスフェクトまたは形質転換された細胞の試料は、既知のスペクトル分布を持つ(特徴的に、限られた光のバンド幅を持つ)放射線に曝露することができる。ある例では、励起放射線の分布が、典型的には、FRETナノセンサー中のドナーフルオロフォアおよびアクセプターフルオロフォアの励起スペクトルの範囲内にあるか、あるいは、ほぼその範囲内にある。
【0101】
分光蛍光光度計は、典型的には、蛍光検出システム、例えば光電子増倍管を利用する検出手段も含み、それが、典型的には、励起源から間隔をおいて設置され、励起パルスに呼応して生じるドナーフルオロフォアおよびアクセプターフルオロフォアからの蛍光放射線放出を受け取るような位置に配置されるだろう。ある実施形態では、有害な競合蛍光を引き起こす周囲物質の蛍光が実質的に減衰してしまった後に初めて、蛍光検出システムがゲートオンされる。
【0102】
FRETの変化を決定することには、FRETドナーフルオロフォアの選択的励起後にアクセプター蛍光タンパク質成分から放出された光を測定することが含まれうる。あるいは、FRETの変化を決定することには、ドナー蛍光タンパク質成分から放出された光を測定すること、アクセプター蛍光タンパク質成分から放出された光を測定すること、およびドナー蛍光タンパク質成分から放出された光とアクセプター蛍光タンパク質成分から放出された光の比を算出することが含まれうる。FRETを決定するステップは、ドナー成分の励起状態寿命または異方性変化を測定することも含みうる(Squire A, Verveer PJ, Rocks O, Bastiaens PI. J Struct Biol. 2004 Jul;147(1):62-9「Red-edge anisotropy microscopy enables dynamic imaging of homo-FRET between green fluorescent proteins in cells」)。そのような方法は当技術分野では知られており、米国特許第6,197,928号(この文献は参照により本明細書に組み込まれる)に記載されている。
【0103】
本発明のシステムは、蛍光放出比解析機を利用した蛍光放出比の検出および解析にも対応する。ある例示的蛍光検出システムの働きを、図8を参照して説明する。この例では、蛍光放出比解析機を使って、細菌細胞におけるFRETナノセンサー応答を監視することができる。図8に図解するように、本デバイスは発酵槽の内側に装着されるか、または本デバイスに発酵槽培養物を連続的に通過させる。図8に図示するデバイスは、光源からなり、その光は2つのフィルターを通過する。光源としては、例えば発光ダイオード(LED)または他の光放出体、例えばキセノンランプもしくはレーザーを挙げることができる。フィルタ1は、FRETアクセプター蛍光タンパク質(例えばVenus)を励起するための励起エネルギーの透過だけを特異的に許す。フィルタ2は、FRETドナー蛍光タンパク質(例えばeCFP)を励起するための励起エネルギーの透過だけを特異的に許す。フィルタ3は、FRETアクセプター放出光(この場合はVenus放出)の透過だけを特異的に許す。フィルタ4は、FRETドナー放出光(この場合はeCFP放出)の透過だけを特異的に許す。光強度を測定する検出器(ここでは光電子増倍管検出器をPMDと略記する)によって記録される光は、例えば簡単な感光性ダイオードまたはCCDチップなど、さまざまな方法で構築することができる。PMD1によって検出される光は、FRETアクセプター蛍光タンパク質(この場合はVenus)の蛍光の質に関する対照として役立つ。PMD2/PMD3光比はセンサーの出力を与える。この蛍光検出システムには、さまざまな濃度の外部リガンド(例えばアラビノース)を使って測定セルを較正するために、注入器も装備することができる。
【0104】
例えば細胞内リガンド濃度の変化を検出するために生物発光共鳴エネルギー移動(BRET)を使用する場合、BRETには、生物発光ドナータンパク質から蛍光アクセプタータンパク質への共鳴エネルギーの移動が関与しうる。ある例では、BRETが、ウミシイタケルシフェラーゼ(Rluc)をドナーとして使用し、緑色蛍光タンパク質(GFP)の突然変異体をアクセプター分子として使用する。したがって、BRET技術は本明細書に記載する蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)と類似しているが、BRETは励起光源を必要としない。その代わりに、BRETを使用する場合、本発明では、生物発光ドナータンパク質およびアクセプタータンパク質の放出強度の変化について監視することによって細胞内リガンド濃度の変化を連続的に検出することができるデバイスが考えられる。
【0105】
検出器によって検出される出力は、励起源による励起に続く放出スペクトルを含めて、また一例として図8を参照して上述したとおり、任意の適切な解析コンポーネントによって、さらに解析することができる。本明細書にいう「解析コンポーネント」には、エネルギー放出比の変化を解析するための任意の適切なデバイス、例えば蛍光放出比解析機、または共鳴エネルギー移動によるエネルギー放出の変化を解析する他のコンポーネントが含まれる。
【0106】
本発明のシステムは、蛍光放出比解析機によって検出し解析されるエネルギー放出の変化などといったセンサー出力をさらに処理し解析するための処理システムも含みうる。例示的処理システムは、メモリデバイス、例えばDDR SDRAM、または一方向行ロジックならびにルーティングおよびパワーバスを持つ他のRAMデバイスを利用しうる。処理システムは、ローカルバス、複数のメモリコントローラおよび/または複数のプライマリバスブリッジに接続された1つ以上のプロセッサを含みうる。さらにまた、メモリコントローラを1つ以上のメモリバスに接続することができ、各メモリバスは、少なくとも一つメモリデバイスを含むメモリコンポーネントを受容することができる。メモリコンポーネントには、メモリカードまたはメモリモジュールも含めることができる。メモリモジュールの例には、シングルインラインメモリモジュール(SIMM)およびデュアルインラインメモリモジュール(DIMM)が含まれる。メモリコントローラは、キャッシュメモリにも接続することができる。パーソナルコンピュータまたはワークステーションなどの汎用コンピュータにとりわけ適した適切な処理アーキテクチャはどれでも、蛍光放出比解析機によって検出され解析されるエネルギー放出の変化などといったセンサー出力のさらなる処理および解析に使用することができる。センサー出力データは、必要に応じて、または所望により、記憶し、送信し、または他の形で利用することもでき、本発明のシステムは、データ記憶デバイスや、サーバーおよびプリンタなどの他の周辺デバイスに作動的に接続することができると理解すべきであり、処理システムの構成には、さまざまな応用例での使用への適合性が増すように、周知の変更を加えることができると認識すべきである。それらの変更には、例えば専用デバイスもしくは専用回路の追加、および/または複数のデバイスの組み込みなどが含まれうる。
【0107】
上述の処理およびデバイスは、使用することおよび製造することができる数多くの方法およびデバイスのうち、例示的な方法および典型的なデバイスを例示したものである。上記の説明は、本発明の目的、特徴および利点を達成する実施形態を例示したものである。しかし、本発明を上述の例示した実施形態に厳密に限定するつもりはない。本明細書には一定の例を記載したが、本発明の目的を達成するために、他の適切な方法、システムおよびデバイスも使用できることは、当業者には理解されるだろう。
【0108】
有用性
本発明のバイオセンサーは広範な用途に役立ちうる。ある実施形態では、本発明のナノセンサーで形質転換またはトランスフェクトされた細胞を、1つ以上の細胞内コンパートメントにおける、ある分子の定常状態レベルまたはある分子のレベル(例えばアラビノースもしくはマルトース、または任意のペントース基質もしくはヘキソース基質のレベル)の変化について、解析することができる。
【0109】
RETの変化を検出または監視し、解析することにより、細胞の試料中のリガンド、基質、代謝産物などといった任意の分子の量を決定することができる。基質または代謝産物は、例えばペントース基質またはヘキソース基質であることができる。基質の例として、アラビノース、グルコース、リボース、キシロース、キシルロース、リブロース、エリスロース、およびキシリトールが挙げられるが、これらに限るわけではない。本発明の一態様では、ナノセンサーがまず、細胞の試料中に、任意の適切なトランスフェクションアッセイまたは形質転換アッセイにより、細胞がそのナノセンサーを発現させるように導入される。次に、それらの細胞をインキュベートすることができ、適当な期間をおいた後に、さまざまな濃度のペントース基質またはヘキソース基質が、その細胞の試料に加えられる。細胞への基質の取り込みは、エネルギー放出比を記録することによって監視し、解析することができる。ペントース基質またはヘキソース基質の代謝または細胞内利用の変化も、エネルギー放出比の監視によって決定することができる。また、RETの変化を細胞内での他の小分子または代謝産物の定常状態レベルの変化との相関関係に関して解析する本明細書に記載の方法に従って、上記の形質転換細胞またはトランスフェクト細胞を、RETの変化について解析することもできる。図3に示すように、異なるペントース基質の異なる濃度に応答して生じるFRETナノセンサーの放出比を解析することができる。試料中の基質の量は、例えば滴定によって確立された検量線を使って、定量することができる。そのような検量線を確立するには、実際の測定時と同じ実験条件を適用することが望ましい。
【0110】
本発明は、ホールセル(whole-cell)での代謝フラックスを検出しかつ/または監視する方法を提供する。本明細書で使用する用語「代謝フラックス」には、細胞、マイクローブ、または微生物の代謝状態に生じる任意の変化が包含される。さらにまた、「代謝状態」という用語は、細胞(例えばマイクローブまたは微生物の細胞)における代謝の総合的状態を広く包含し、エネルギー利用などの細胞活動に付随する、その細胞内で起こる付随生化学的プロセスの全てを含み、一般に、細胞内でのありとあらゆる異化および同化プロセス(例えば成長、複製、構造的完全性の維持、および環境刺激に対する応答に関与する異化および同化プロセスを含むが、これらに限るわけではない)を含む。
【0111】
代謝が、転写制御、翻訳後制御、およびアロステリック制御を含めて、あらゆるレベルで高度に調節されることは、古くから知られている。代謝経路またはシグナリング経路を流れるフラックスは、その個々のコンポーネントの活性によって決定される。フラクソミクスは、フラックスを追跡することによって調節に関与する遺伝子を明確にすることを目的とする。フラックスおよびフラクソミクスは、Wiechartら(Current Opinion in Plant Biology, 2007, 10:323-330)によって詳述されており、この文献は参照によりその全てが本明細書に組み込まれる。フラックスは、生物または細胞を13Cなどのトレーサでパルス標識した後、異なる化合物へのラベルの分配を質量分析法で解析することによって、監視することができる。これは、フラックスを研究するための効率のよいツールであり、フラックスに対する突然変異の影響を比較することを可能にする。フラックスはナノセンサーを使って監視することもできる。
【0112】
ホールセルは原核細胞または真核細胞であることができる。細胞は細菌細胞、酵母細胞、哺乳動物細胞、または植物細胞であることができる。ナノセンサーをコードする核酸を細胞中に導入し、その細胞を、ナノセンサーの発現が可能な条件下で培養する。本発明の方法では、ナノセンサーを発現させる細胞培養物をリアルタイムで監視し、データを解析することにより、細胞の少なくとも一つの代謝パラメータを測定する。あるいは、解析は、測定されたパラメータが対照細胞における匹敵する測定値と相違するかどうかを決定するためのデータの比較を伴ってもよい。対照細胞は、正常細胞であるか、特定の表現型を持つように改変されていない細胞であることができる。
【0113】
本発明では、細胞がリアルタイムまたはオンライン時間枠で監視される。ある態様では、細胞培養物などの複数の細胞が、リアルタイムまたはオンラインで監視される。もう一つの態様では、複数の代謝パラメータがリアルタイムまたはオンラインで監視される。本発明の方法は、細胞の生理学的状態を制御して望ましい方向に進行させるために基質供給、温度、誘導因子の使用などをどう変化させるかを決定することにより、細胞プロセス(例えば発酵)を操作する方法を決定するために使用することができる。一例として、本発明は、食品生産用およびバイオ燃料生産用の植物の収穫量を改善するための情報を提供することになる。
【0114】
本発明は、例えば発酵プロセス中などにおける、細菌細胞培養物中の細胞内代謝産物濃度の監視にも対応する。したがって、本明細書に記載するナノセンサーは、例えば食品産業、医薬産業、およびバイオ燃料産業などにおける、任意の発酵プロセスに応用することができる。本発明は、エタノール生産(例えばグルコースとアラビノースを含有する糖混合物からのエタノール生産)に関与する代謝プロセスの検査にも対応する。例えば、工学的に操作された細胞におけるエタノール生産中に、アラビノース利用の変化を検出する目的で、アラビノースナノセンサーを使用することができる。
【0115】
本明細書で使用する用語「発酵」は、例えば工業的発酵との関わりで言えば、有機物質の分解と他の物質への再構築を伴う、任意のプロセスを包含すると理解すべきである。工業生産能力との関連で、発酵槽培養とは、多くの場合、高濃度の酸素を含む好気的成長条件を指し、一方、生化学的文脈における発酵は嫌気的プロセスである。
【0116】
どの発酵プロセスでも、効率のよい稼働には、基質の量を特定のレベルに維持しなければならない。したがって発酵槽基質濃度を監視しなければならない。デンプンは発酵プロセス用の安価な基質源として使用され、微生物により、グルコースへと分解されてから消費されるため、発酵プロセス中はグルコースの蓄積が起こりうる。しかし、どのデンプン加水分解プロセスでも、グルコースが一定の濃度を超えて蓄積すると、デンプン加水分解酵素の作用が阻害されうる。したがって、発酵プロセス中はグルコースとデンプンの両方(全糖)の濃度を監視する必要がある。一例として、本発明のナノセンサーを使って、発酵プロセス中に、グルコースと全糖の両方を監視することができる。本ナノセンサーは、発酵プロセスに関与する他の糖および代謝産物を監視するために使用することができる。本ナノセンサーは、代謝産物をリアルタイムまたはオンライン時間枠で連続的に監視するために使用することができ、即応的な情報を与えるだろう。
【0117】
本発明のナノセンサーは、例えば、代謝経路中の障害または代謝経路の抑制を示しうる代謝産物の蓄積を監視するために使用することができる。あるいは、細胞内代謝産物レベルの低下により、外部供給の不足が示されうる。エネルギー放出の変化は、発酵プロセス中の細胞内リガンドのレベルまたは濃度の変化を示しうる。リガンドとしては、例えば糖、アミノ酸、ペプチド、有機酸、金属またはイオン、酸化物、水酸化物またはそれらの複合体、無機イオン、(ポリ)アミンおよびビタミンを挙げることができる。図8に示すように、細菌細胞中のFRETナノセンサーは、簡単な蛍光放出比解析機を使って監視することができる。
【0118】
本明細書で使用する用語「バイオ燃料」は、バイオマス(例えば、燃料として使用することができる、または工業生産に使用することができる、炭素系材料を含む、任意の適切な生物学的材料)からなる、またはそのようなバイオマスから誘導される、任意の固形、液状、または気体燃料を広く包含する。バイオ燃料の例は、本発明によれば、バイオマスから誘導される燃料であって、そのような燃料を生産するために工学的に操作されたマイクローブまたは微生物によって生成されるものである。
【0119】
本発明は、代謝状態をオンライン監視するための、細胞における蛍光ナノセンサーの発現にも対応する。細胞は、例えば大腸菌もしくは他の細菌などの原核細胞、または酵母細胞、動物細胞もしくは植物細胞などの真核細胞を含む、任意の供給源から得ることができる。任意の適切な微生物を使って、その微生物そのものをホールセルバイオセンサーとして特定分子レベルのオンライン検出に使用することができるように、蛍光ナノセンサーを発現させることができる。本発明では、好気的条件下または嫌気的条件下での、代謝プロセスの監視も考えられる。
【0120】
本発明は、細胞における代謝フラックスの監視を含む、細胞における代謝産物レベルのリアルタイムでの検出および監視にも対応する。本発明のある実施形態では、生細胞における代謝フラックスを決定する方法(本明細書に記載するリガンド結合蛍光インジケーターを発現させる生細胞を監視し、細胞内での代謝フラックスの変化と相関するRETの変化を決定する方法を含む)が提供される。もう一つの実施形態において、本発明では、バイオ燃料または他のバイオテクノロジー産物を産生するように工学的に操作された微生物細胞における代謝フラックスを決定することが考えられる。
【0121】
本発明の一態様では、発酵プロセス中に細胞の代謝状態のリアルタイム、オンラインかつ/または連続的監視を行なうための、生細胞における代謝フラックスを決定する方法が提供される。本発明の発明者らは、驚いたことに、ペントースであるアラビノースの特異的検出を監視するためにRETナノセンサーを使用できることを見いだし、そのようなセンサーをうまく使って、簡単な蛍光分光法で細菌、具体的には大腸菌におけるフラックスを監視できることを(アラビノースとマルトースを例に挙げて)実証する。1つ以上の細胞外および/または細胞内条件の変化、例えば光、糖供給、湿度、1つ以上の外因性化合物の添加、および/または細胞内での小分子もしくは代謝産物の細胞代謝および利用に影響を及ぼす細胞微小環境内における他の変化に応答して起こる代謝フラックスの変化を、監視することもできる。
【0122】
ある実施形態において、本発明は、細胞の試料における代謝産物のレベルの変化を検出する方法であって、本明細書に記載するナノセンサーを発現させる細胞を監視すること、およびドナー蛍光タンパク質成分とアクセプター蛍光タンパク質成分の間のFRETの変化を検出することを含み、前記ドナー成分と前記アクセプター成分の間のFRETの変化が細胞の試料における代謝産物のレベルの変化を示す方法を含む。ある実施形態によれば、本発明者らは、驚いたことに、そして予想外に、任意の細菌細胞培養における細胞内代謝産物濃度を監視するために本発明のFRETセンサーを使用できることを発見した。
【0123】
本明細書に開示する代謝産物レベルを検出するための方法は、代謝産物濃度または代謝産物変化に関係する活性を調整するために使用することができる化合物をスクリーニングし、同定するためにも使用することができる。ある実施形態において、本発明は、なかんずく、代謝産物結合または代謝産物レベルを調整する化合物を同定する方法であって、(a)本明細書に開示するナノセンサーを発現させる細胞および細胞の試料を含む混合物を、1つ以上の試験化合物と接触させること、および(b)前記接触後の前記ドナー蛍光ドメインと前記アクセプター蛍光ドメインの間のFRETを決定することを含み、前記接触後のFRETの増加または減少によって、前記試験化合物が代謝産物活性または代謝産物レベルを調整する化合物であることが示される方法を含む。この実施形態において「調整する」という用語は、そのような化合物が代謝産物活性を増加もしくは減少させうること、または代謝産物レベルに影響を及ぼす活性(すなわち細胞機能またはシグナリングカスケード)に影響を及ぼしうることを意味する。代謝産物活性を増加または減少させる化合物は、上述のように、異常な代謝産物活性または異常な細胞代謝もしくはシグナル伝達に関連する障害の治療的介入および処置のターゲットになりうる。細胞機能に関連する代謝産物活性または代謝産物レベルを増加または減少させる他の化合物は、その活性に関連する障害を処置するための治療製品に発展させうる。
【0124】
ある例によれば、RETの変化の検出を使って、細胞内でのアラビノース濃度の変化を検出することができる。アラビノースはアルドペントース(単糖)であり、ペクチンおよびヘミセルロースなどの生体高分子のコンポーネントとして自然界に見いだされる。アラビノースは、微生物により、炭素源として代謝されうる。アラビノースはグルコースから合成的に生成させることができ、細菌学では培養培地としてしばしば使用される。もう一つの重要な糖はマルトースであり、これは、α(1→4)結合で接合された2単位のグルコースから形成される二糖である。マルトースは、その数ある用途のなかで、細菌学における培養培地としても、よく使用される。
【0125】
本発明のナノセンサーは、細胞(特に細菌)における代謝産物の合成に関する機序の解明にも役立つだろう。そのようなセンサーにより、細胞へのリガンドまたは基質の取り込みまたは流入、細胞内でのリガンドの細胞下分布および/または区画化、ならびに細胞からのリガンドまたは基質の流出を含む、生細胞におけるフラックスを測定するというユニークな機会も与えられるだろう。そのようなセンサーには、細胞におけるリガンド利用または基質利用などの機能を同定するためのツール、ならびに細胞ホメオスタシスを制御する調節因子およびシグナリングカスケードを同定するためのツールとしての価値もあるだろう。このように、本センサーは、例えばリガンドの取り込みおよび放出ならびに細胞内区画化を含む細胞の活性を特徴づけるために使用することができる。本発明のナノセンサーは、このように、細胞における小分子、例えばアラビノースもしくはマルトースの細胞内レベルを監視するために、または細胞における代謝産物レベルのリアルタイム監視のために、使用することができる。本明細書に記載する用途および有用性は、好気条件下または嫌気条件下、そして他の任意の実験条件下(例えば細胞培地の変化、例えばpH、温度、イオン条件、もしくはリガンド結合に影響を及ぼし、結果として共鳴エネルギー移動によるエネルギー放出に影響を及ぼしうる他の任意の要因の変化を含む)での、細胞内リガンドの濃度の監視にも当てはまることを、同様に理解すべきである。
【0126】
本発明のナノセンサーは、例えば二酸化炭素利用、酸素感受性、温度依存的成長応答性および細胞内因子もしくは細胞外にある外部因子に応答する内在性遺伝子の発現などといった要因による影響を受けうるさまざまな異なる環境条件下での特定の細胞および組織の合成および成長と収量との関連を特徴づけるためにも使用することができる。本センサーは、生化学経路を調べるためにも、例えば微生物におけるアラビノース経路を決定するためにも役立つだろう。これは、アラビノース合成に正または負の影響を及ぼす新規化学物質をハイスループットスクリーニングで開発するためのツールとして使用することができる。本発明のアラビノースセンサーは、創薬および薬物スクリーニングのための優れたツールである。化学物質、代謝イベント、輸送ステップおよびシグナリングプロセスに呼応して、アラビノースなどの代謝産物のレベルを、リアルタイムで測定することができる。本センサーは、細胞における代謝産物レベルの異常な変化を監視するためにも使用することができ、したがって異常な代謝に関連する疾患の診断に役立つという有用性もある。例えば本ナノセンサーは、基礎をなす欠陥を調べ、異常な代謝に関連する疾患の治療法を開発するためのツールになりうる。
【0127】
本明細書に記載する方法およびシステムによれば、本発明では、細胞を2つ以上のナノセンサー(各ナノセンサーは異なるリガンドに特異的なリガンド感知ドメインを含む)でトランスフェクトまたは形質転換することもできると考えられる。そのような細胞は、例えば、細菌細胞培養物の試料中または発酵プロセスから採取した試料中に存在することができ、本明細書に記載するように、共鳴エネルギー移動によるエネルギー放出の変化を監視および解析するために、複合的励起/検出手段で走査することができる。そのようなシステムは、細胞試料の自動または半自動ハイスループットスクリーニングにおいて、例えば異なるリガンドの細胞内濃度の同時変化の監視に、特に有用でありうる。例えば、一方のリガンドの細胞内濃度の減少を伴う他方のリガンドの細胞内濃度の増加、または両方のリガンド濃度の同時増加、一方または両方のリガンド濃度の定常状態での無変化など、2つ以上のナノセンサーの同時監視が異なる出力を与えうることは、当業者には理解されるだろう。
【0128】
本発明を説明し例示するために以下に実施例を記載する。したがって以下の実施例が本発明の範囲を限定すると解釈してはならない。上述し、特許請求の範囲にも記載するとおり、他の多くの実施形態も本発明の範囲に包含されることは、当業者には理解されるだろう。
【実施例1】
【0129】
アラビノースFRETナノセンサーの構築
araF遺伝子(EMBL:K00420)を大腸菌K12ゲノムDNAから相同プライマーを使って増幅することにより、ファージλattB組換え部位に挟まれた停止コドンを持たないaraFからなるPCR産物を得た。このaraF遺伝子を、pDONR(Invitrogen)を介して、それぞれLRリコンビナーゼおよびBPリコンビナーゼ(Invitrogen)を使って、pGW1のeCFPコード配列とVenusコード配列の間に融合した。最終コンストラクトをpGW1araF.Ecと名付け、araF遺伝子の配列が正しいことをDNA配列決定(Sequetech)によって検証した。pGW1araF.Ec上にコードされる遺伝子産物をFLIParaF.Ec-200nと名付けた。
【実施例2】
【0130】
アラビノースFRETナノセンサーのインビトロ特性解析
FLIPWコンストラクトを大腸菌BL21(DE3)Goldに内包させ、以前記述されたようにセンサータンパク質を産生させて、精製した(Fehr, M., Frommer, W.B.およびLalonde, S., 2002「Visualization of maltose uptake in living yeast cells by fluorescent nanosensors」Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 99, 9846-9851)。20mM MOPS pH7.0中の10-4〜10-9Mの範囲のリガンドの希釈系列に、精製されたセンサーを添加し、モノクロメーターマイクロプレートリーダー(Safire、Tecan、オーストリア;eCFP励起433/12nm、eCFP放出485/12およびVenus放出528/12nm)で解析した。eCFPは476nmと501nmに2つの放出ピークを示す(LaMorte, V.J., Zoumi, A.およびTromberg, B.J., 2003「Spectroscopic approach for monitoring two-photon excited fluorescence resonance energy transfer from homodimers at the subcellular level」J. Biomed. Opt. 8, 357-361)。比の算出に使用するeCFP放出は485nmで決定した。70〜75のマニュアルゲインでVenus/eYFP読出しが20,000〜30,000になるように、タンパク質を希釈した。リガンドが結合した時のFRET比の変化を使って、滴定曲線を単一部位結合等温線:
R=Rapo+(Rsat−Rapo)・(n・[L])/(Kd+[L])
(式中、[L]、リガンド濃度;n、等価な結合部位の数;R、比;Rapo、リガンドの非存在下における比;およびRsat、リガンドで飽和した時の比)
に当てはめることによって、アフィニティ定数(Kd)を決定した。3つの独立したタンパク質調製物を解析し、各タンパク質調製物を3重に解析した。
【実施例3】
【0131】
FRETナノセンサーを使った細胞内小分子レベルの監視
それぞれ200nMのKdを持つアラビノースFLIPナノセンサーおよび37μMのKdを持つマルトースFLIPナノセンサーをコードするpGW1FaraF.Ecまたはp3367で、大腸菌BL21(DE3)細胞を形質転換した。バッフル付きエルレンマイヤーフラスコ中、暗所、室温で振とうしながら、培養物をLB中でインキュベートし、少なくとも16時間は4℃で保存した。5mlの培養物を遠沈し、10mlのM9最小塩類培地で洗浄し、遠沈し、9mlのM9培地に再懸濁した。細胞をマイクロプレートに各ウェル90μlずつ分注した。マイクロプレート蛍光分光測光器中で、eCFPを433/6nmで励起し、eCFPおよびVenus放出をそれぞれ485/6nmおよび528/6nmで記録することにより、センサー出力を150秒間隔で監視した。13分間のインキュベーション後に、M9培地中のさまざまな濃度のアラビノースまたはマルトース10μlを細胞に添加し、フルオロフォア放出をさらに45分間記録した。Venus/eCFP比を10μlのM9培地を加えた細胞に対して標準化した。蓄積速度を監視するために、Tecan Infinite M200(Tecan、オーストラリア)の注入モジュールを使用した。
【実施例4】
【0132】
アラビノースFRETナノセンサーのインビトロ特性解析
大腸菌K12 araFをeCFPコード配列とVenusコード配列の間に融合することによってL-アラビノースを検出するためのFRETナノセンサーを構築した。大腸菌における翻訳された融合産物FLIParaF.Ecの産生は、全細胞培養物におけるeCFP-Venus FRETシグナルの放出スペクトルを記録することによって、容易に検出された。eCFPが励起されると、Venusへの著しいエネルギー移動が検出され、Venus/eCFP放出比は2になった。D/L-アラビノースの添加は精製タンパク質のFRET効率を増加させ、それは、eCFP放出強度の減少および随伴するVenus蛍光強度の増加として観測され、結果として放出比を約15%増加させた(図2)。FLIParaF.Ecは、D/L-アラビノースを、230±18nMという見掛けのKdで結合した。AraFはL-アラビノースを98±33nMのアフィニティで結合する(Miller, D.M., 3rd, Olson, J.S., Pflugrath, J.W.およびQuiocho, F.A., 1983「Rates of ligand binding to periplasmic proteins involved in bacterial transport and chemotaxis」J Biol Chem 258(22), 13665-72)。D/L-アラビノース混合物が等量のD異性体およびL異性体からなると仮定すると、L-アラビノースに対するアラビノースFRETナノセンサーのアフィニティは、トリプトファン蛍光分光法によって測定される無修飾AraFのアフィニティに等しい(Miller, D.M., 3rd, Olson, J.S., Pflugrath, J.W.およびQuiocho, F.A., 1983「Rates of ligand binding to periplasmic proteins involved in bacterial transport and chemotaxis」J Biol Chem 258(22), 13665-72)。他の数種類のペントース基質はFRET比の変化を誘発することができなかったので(図3)、FLIParaF.Ec-200nはアラビノースと特異的に相互作用する。
【実施例5】
【0133】
大腸菌における細胞内アラビノースレベルの監視
FLIParaF.Ec-200nを大腸菌BL21(DE3)内で産生させた。異なる濃度のアラビノースをその大腸菌細胞培養物に添加し、FLIParaF.Ec-200n放出比を記録することによって、アラビノース取り込みを監視した(図4)。初期の監視では安定したベースラインが得られた。アラビノースを添加した場合、放出比は、0〜0.1μMでは安定しており、0.1μM〜500μMの外部アラビノースでは増加し、500μM〜10mMでは高く、使用した濃度のうちで最も高い2つの外部アラビノース濃度50mMと100mMではわずかに低下した。50分後の放出比を外部アラビノース濃度に対してプロットしたところ、細胞内アラビノース濃度が細胞外の15分の1であることを示す曲線が得られた(図5)。
【実施例6】
【0134】
マルトースセンサーの構築
この簡単な検出システムを細胞質マルトースレベルの監視に使用できるかどうかを調べるために、また最適化されたFRETセンサーによってアッセイ感度の増加が得られるかどうかを調べるために、リンカー欠失によって一組の改良型マルトースセンサーを構築し、大腸菌中で発現させた。マルトースセンサーFLIPmal-25μは、大腸菌MalEタンパク質をeCFP蛍光タンパク質およびeYFP蛍光タンパク質と融合させることによって、以前に構築されていた(Fehrら, PNAS 99:9846-9851 (2002))。しかし、FLIPmal-25μがマルトースの存在下で示す比の変化はあまり大きくなかった。リンカー欠失を使ってグルコースFRETセンサーの比変化を改良することに成功した前例があるので(Deuschleら, Protein Sci. 12:2304-2314 (2005))、ここでは同じ戦略をマルトースセンサーに応用して、低ないし高マイクロモル濃度域に及ぶKdを持つ一組のマルトースセンサーを得た(図11)。大腸菌MalEタンパク質をeCFP蛍光タンパク質およびVenus蛍光タンパク質と融合することによってマルトースセンサーを構築した。そのセンサーをコードするプラスミドをp3367と名付けた。このセンサーは、37μMという見掛けのKdを持つマルトース依存的FRET変化を示した(FLIPmal-37μ(FLIPmal-40μΔ1-Vともいう))。
【実施例7】
【0135】
大腸菌における細胞内マルトースレベルの監視
改良型FLIPmalセンサーを作製するための土台として、突然変異W62Aを保持するFLIPmal-225μを使用した(Fehrら, PNAS 99:9846-9851 (2002))。FLIPgluΔ13シリーズ(Deuschleら, Protein Sci. 12:2304-2314 (2005))で以前行なったのと同様にして、FLIPmal-225μにおけるリンカー領域の75ヌクレオチド(25アミノ酸;図11A)を、部位特異的突然変異誘発(Kunkel, PNAS 82:488-492 (1985))によって除去した。この新しいFLIPmalセンサーはマルトースに対して200μMのKdを持っており、FLIPmal-200μΔ1-eYFPと名付けられた(FLIPmal-200μΔ1-eYFPは突然変異W62Aを保持する)。このセンサーのアフィニティ突然変異体を、結合ポケットの構造情報に基づく(structure-guided)部位特異的突然変異誘発によって作出することにより、FLIPmal-40μΔ1-eYFP(W62Aに加えて突然変異W230Aを保持するもの)およびFLIPmal-1mΔ1-eYFP(W62Aに加えて突然変異Y155Aを保持するもの)を得た。さらに、malEの最初の5アミノ酸を欠失させた(これは低マイクロモル濃度域のKdを持つセンサーを生じさせることが先に示されていた(Deuschleら, Protein Sci. 12:2304-2314 (2005)))2つのセンサーを構築した。W62Aバックグラウンドにおけるこの5アミノ酸欠失は、400μMのKdを持つセンサー(FLIPmal-400μΔ1-eYFP)を与えた。W62AをW62Wに復帰させたところ、センサーのアフィニティは10μMであることがわかった(FLIPmal-10μΔ1-eYFP)。クローンを配列決定したところ、追加の突然変異(N227A)がFLIPmal-40μΔ1-eYFP中に見つかった(FLIPmal-37μ)。これはおそらく部位特異的突然変異誘発中にアーチファクトとして発生したのだろう。
【0136】
FLIPmal-37μ(FLIPmal-40μΔ1-Vともいう)をBL21(DE3)中で産生させた。その大腸菌細胞培養物に異なる濃度のマルトースを添加し、FLIPmal-37μ放出比を記録することによって、マルトース取り込みを監視した(図4)。放出比の初期の監視では安定したベースラインが得られた(図6)。マルトースを添加すると、比は濃度依存的に増加し、濃度が高いほど、比は大きくなった。50μMおよび100μMのマルトースでは、センサーが、添加後直ちに応答し、添加の3分後にはかなり低下した。50μMの場合、応答はベースラインレベルまで低下した。さらに高いマルトース濃度では、センサーの応答がベースラインレベルより上に留まった。
【0137】
t=25分におけるセンサー応答を外部マルトース濃度に対してプロットすると、単一部位結合曲線に当てはめることができる濃度依存的応答が認められる(図7)。この曲線から導かれる見掛けのKdは10mMであり、これは、このセンサーのインビトロでのKdより約250倍高い。大腸菌の細胞質ゾルにおけるセンサーのKdが変化しないと仮定すると、これは、外側のマルトースレベルと内側のマルトースレベルの間には、250倍の勾配が存在することを意味する。
【実施例8】
【0138】
センサー出力をオンライン検出するためのFRETモニター
細胞懸濁液におけるFRETナノセンサー応答は、簡単な蛍光放出比解析機を使って監視することができる(図8)。このデバイスは発酵槽の内側に装着されるか、またはデバイスに発酵槽培養物を連続的に通過させる。これは、光源からなり、その光は2つのフィルターを通過する。光源はLEDまたは他の光放出体、例えばキセノンランプもしくはレーザーであることができる。フィルタ1は、FRETアクセプター蛍光タンパク質(この場合はVenus)を特異的に励起するためのフィルタである。フィルタ2は、FRETドナー蛍光タンパク質(この場合はeCFP)を励起するためのフィルタである。フィルタ3は、FRETアクセプター放出光(この場合はVenus放出)に特異的である。フィルタ4は、FRETドナー放出光(この場合はeCFP放出)に特異的である。光強度を測定する検出器(ここでは光電子増倍管検出器をPMDと略記する)によって記録される光は、簡単な感光性ダイオード、CCDチップなど、さまざまな方法で構築することができる。PMD1は、FRETアクセプター蛍光タンパク質(この場合はVenus)の蛍光の質に関する対照として役立つ。PMD2/PMD3光比はセンサーの出力を与える。このシステムには、さまざまな濃度の外部リガンド(例えばアラビノース)を使って測定セルを較正するために、注入器を装備することができる。
【実施例9】
【0139】
グルコースナノセンサーを使ったフラックス変化の監視
グルコースに対して0.60mMのアフィニティ定数を持つグルコースナノセンサーは、78μM、175μM、2.8mMおよび6.3mMで、10%、20%、80%および90%の飽和度を示す。細胞内グルコース濃度の算出に関する信頼範囲は、記録されたセンサー応答データの品質によって決まる。大まかに言えば、±2.5%および±5%の標準偏差を持つデータは、それぞれ10%と90%の間の飽和度および20%と80%の間の飽和度で解釈することができる。変動する分析物濃度の存在下でセンサー応答を監視することにより、(1)分析物を添加した時の細胞内蓄積速度(これは、流入速度-代謝および輸出速度から構成される)、(2)分析物を除去した時の排除速度(これは、輸出+代謝−流入から構成される)、(3)センサー応答の定常状態レベル(この場合は流入が代謝および流出に等しい)、および(4)センサー応答が記録されうるまでの時間遅延(これは流入速度または代謝の差を表す)から、標的とする細胞下コンパートメントにおける輸送および代謝に関する情報が得られる。
【0140】
本明細書で議論した刊行物、特許および特許出願は全て参照により本明細書に組み込まれる。本発明をその具体的実施形態に関連して説明したが、さらなる変更が可能であること、本願が、本発明の原理に概して従う本発明のあらゆる変形、使用、または適応を、本発明が関係する技術分野の既知のまたは慣例的な実践の範囲内に含まれるような本開示からの逸脱、ならびに上述のおよび本願特許請求の範囲に記載する不可欠な特徴に当てはまりうるような本開示からの逸脱を含めて、包含するものとされることは理解されるだろう。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生細胞培養物における分子の細胞内レベルを検出するための方法であって、培養生細胞中でナノセンサーを発現させること、ここで、ナノセンサーはドナー成分、アクセプター成分、および分子結合部位を含む、およびアクセプター成分とドナー成分の間の共鳴エネルギー移動の変化を検出し、それによって、生細胞培養物における分子のレベルを検出することを含む方法。
【請求項2】
分子結合部位がドナー成分上にある、請求項1の方法。
【請求項3】
共鳴エネルギー移動が、蛍光共鳴エネルギー移動、リン光共鳴エネルギー移動、化学発光共鳴エネルギー移動、または生物発光共鳴エネルギー移動である、請求項1の方法。
【請求項4】
分子が、糖、アミノ酸、ペプチド、有機酸、金属またはイオン、酸化物、水酸化物またはそれらの複合体、無機イオン、アミン、ポリアミンおよびビタミンからなる群より選択される、請求項1の方法。
【請求項5】
糖が、アラビノース、マルトース、グルコース、ガラクトース、スクロース、トレハロース、フルクトース、キシロース、セロビオースおよびリボースからなる群より選択される、請求項4の方法。
【請求項6】
生細胞培養物が原核細胞を含む、請求項1の方法。
【請求項7】
原核細胞が細菌または古細菌である、請求項1の方法。
【請求項8】
分子の細胞内レベルがリアルタイムまたはオンライン時間枠で検出される、請求項1の方法。
【請求項9】
分子の細胞内レベルの検出が、ドナー成分の放出およびアクセプター成分由来の放出から検出されるエネルギー放出値の比を算出することを含む、請求項1の方法。
【請求項10】
生細胞培養物における分子の細胞内レベルを監視する方法であって、培養生細胞中でナノセンサーを発現させること、ここで、ナノセンサーはドナー成分、アクセプター成分、および分子結合部位を含む、アクセプター成分とドナー成分の間の共鳴エネルギー移動の変化を検出し、それによって、生細胞培養物における分子のレベルを監視することを含む方法。
【請求項11】
分子結合部位がドナー成分上にある、請求項10の方法。
【請求項12】
共鳴エネルギー移動が、蛍光エネルギー移動、リン光エネルギー移動、化学発光エネルギー移動または生物発光エネルギー移動である、請求項10の方法。
【請求項13】
分子が、糖、アミノ酸、ペプチド、有機酸、金属またはイオン、酸化物、水酸化物またはそれらの複合体、無機イオン、アミン、ポリアミンおよびビタミンからなる群より選択される、請求項10の方法。
【請求項14】
糖が、アラビノース、マルトース、グルコース、ガラクトース、スクロース、トレハロース、フルクトース、キシロース、セロビオースおよびリボースからなる群より選択される、請求項13の方法。
【請求項15】
生細胞培養物が原核細胞を含む、請求項10の方法。
【請求項16】
原核細胞が細菌または古細菌である、請求項10の方法。
【請求項17】
分子の細胞内レベルがリアルタイムまたはオンライン時間枠で監視される、請求項10の方法。
【請求項18】
分子のレベルの監視が、ドナー成分の放出およびアクセプター成分由来の放出から検出されるエネルギー放出値の比を算出することを含む、請求項10の方法。
【請求項19】
生細胞培養物における代謝フラックスを監視する方法であって、培養生細胞中でナノセンサーを発現させること、ここで、ナノセンサーはドナー成分、アクセプター成分、および代謝産物結合部位を含む、およびアクセプター成分とドナー成分の間の共鳴エネルギーの変化を検出し、それによって、生細胞培養物における代謝フラックスを監視することを含む方法。
【請求項20】
代謝産物のための代謝産物結合部位がドナー成分上にある、請求項19の方法。
【請求項21】
共鳴エネルギー移動が、蛍光エネルギー移動、リン光エネルギー移動、化学発光エネルギー移動、または生物発光エネルギー移動である、請求項19の方法。
【請求項22】
代謝産物が、糖、アミノ酸、ペプチド、有機酸、金属またはイオン、酸化物、水酸化物またはそれらの複合体、無機イオン、アミン、ポリアミンおよびビタミンからなる群より選択される、請求項19の方法。
【請求項23】
糖が、アラビノース、マルトース、グルコース、ガラクトース、スクロース、トレハロース、フルクトース、キシロース、セロビオースおよびリボースからなる群より選択される、請求項22の方法。
【請求項24】
生細胞培養物が原核細胞を含む、請求項19の方法。
【請求項25】
原核細胞が細菌または古細菌である、請求項24の方法。
【請求項26】
代謝産物がリアルタイムまたはオンライン時間枠で監視される、請求項19の方法。
【請求項27】
生細胞におけるペントース代謝フラックスを監視する、請求項19の方法。
【請求項28】
ナノセンサーがアラビノースセンサーである、請求項27の方法。
【請求項29】
生細胞におけるヘキソース代謝フラックスを監視する、請求項19の方法。
【請求項30】
ナノセンサーがグルコースセンサーである、請求項29の方法。
【請求項31】
バイオ燃料を生産するために細胞が遺伝子操作される、請求項19の方法。
【請求項32】
細胞が原核生物または真核生物である、請求項31の方法。
【請求項33】
細胞が、細菌、古細菌、または真核生物からなる群より選択される、請求項31の方法。
【請求項34】
代謝フラックスの監視が、ドナー成分の放出およびアクセプター成分由来の放出から検出されるエネルギー放出値の比を算出することを含む、請求項19の方法。
【請求項35】
共鳴エネルギー移動(RET)検出ユニット、参照ユニット、および較正ユニットを含む、生細胞における共鳴エネルギー移動を測定するためのデバイス。
【請求項36】
RET検出ユニットが、
第1フィルタ、光源からの光はこのフィルタを通過して、生細胞中のドナー成分を励起する;
第2フィルタ、ドナー成分から放出された光はこのフィルタを通過して検出器に到達する;
第3フィルタ、アクセプター成分から放出された光はこのフィルタを通過して検出器に到達する;
ドナー励起後のドナーの放出光強度を測定するための第1検出器;および
ドナー励起後のアクセプターの放出光強度を測定するための第2検出器
を含む、請求項35のデバイス。
【請求項37】
参照ユニットが、
分子を励起するための光源;
第3フィルタ、アクセプター成分から放出された光はこのフィルタを通過して検出器に到達する;
第4フィルタ、光源から放出された光はこのフィルタを通過して、生細胞中のアクセプター成分を励起する;および
アクセプター励起後のアクセプターの放出光強度を測定するための第3検出器、
を含む、請求項36のデバイス。
【請求項38】
較正ユニットが、
分析物保存溶液が入っている容器を持つ注入器;および
デバイスを封鎖することができるバルブ、
を含む、請求項37のデバイス。
【請求項39】
分子を励起するための光源;
フィルタ、光源からの光はこのフィルタ通過して、生細胞中のドナー成分を励起する;
ドナーおよびアクセプターからの放出光を分散させる光学コンポーネント;ならびに
分散された光のスペクトルを記録するための検出器
を含む、生細胞における共鳴エネルギー移動を測定するためのデバイス。
【請求項40】
共鳴エネルギー移動をリアルタイムまたはオンライン時間枠で測定する、請求項35のデバイス。
【請求項41】
検出器が、
少なくとも2つの光電子増倍管検出器;および
それら少なくとも2つの光電子増倍管検出器からのシグナルを処理するプロセッサ
を含む、請求項35のデバイス。
【請求項42】
プロセッサが、ドナー成分の放出およびアクセプター成分由来の放出から検出されるエネルギー放出値の比を含む光強度値の比を算出する、請求項41のデバイス。
【請求項43】
光源が、LED、水銀灯、キセノンランプ、およびレーザーからなる群より選択される、請求項35のデバイス。
【請求項44】
光源がLEDである、請求項43のデバイス。
【請求項45】
光電子増倍管検出器が感光性ダイオードまたはCCDチップである、請求項41のデバイス。
【請求項46】
外部リガンドによる較正のための注入器をさらに含む、請求項35のデバイス。
【請求項47】
発酵または加水分解プロセス中に糖の濃度を監視する方法であって、発酵槽に請求項35のデバイスを装着すること、およびそのデバイスを使って糖の濃度を監視することを含む方法。
【請求項48】
発酵または加水分解プロセス中に糖の濃度を監視する方法であって、請求項35のデバイスに発酵槽培養物を通過させること、およびそのデバイスを使って糖の濃度を監視することを含む方法。
【請求項1】
生細胞培養物における分子の細胞内レベルを検出するための方法であって、培養生細胞中でナノセンサーを発現させること、ここで、ナノセンサーはドナー成分、アクセプター成分、および分子結合部位を含む、およびアクセプター成分とドナー成分の間の共鳴エネルギー移動の変化を検出し、それによって、生細胞培養物における分子のレベルを検出することを含む方法。
【請求項2】
分子結合部位がドナー成分上にある、請求項1の方法。
【請求項3】
共鳴エネルギー移動が、蛍光共鳴エネルギー移動、リン光共鳴エネルギー移動、化学発光共鳴エネルギー移動、または生物発光共鳴エネルギー移動である、請求項1の方法。
【請求項4】
分子が、糖、アミノ酸、ペプチド、有機酸、金属またはイオン、酸化物、水酸化物またはそれらの複合体、無機イオン、アミン、ポリアミンおよびビタミンからなる群より選択される、請求項1の方法。
【請求項5】
糖が、アラビノース、マルトース、グルコース、ガラクトース、スクロース、トレハロース、フルクトース、キシロース、セロビオースおよびリボースからなる群より選択される、請求項4の方法。
【請求項6】
生細胞培養物が原核細胞を含む、請求項1の方法。
【請求項7】
原核細胞が細菌または古細菌である、請求項1の方法。
【請求項8】
分子の細胞内レベルがリアルタイムまたはオンライン時間枠で検出される、請求項1の方法。
【請求項9】
分子の細胞内レベルの検出が、ドナー成分の放出およびアクセプター成分由来の放出から検出されるエネルギー放出値の比を算出することを含む、請求項1の方法。
【請求項10】
生細胞培養物における分子の細胞内レベルを監視する方法であって、培養生細胞中でナノセンサーを発現させること、ここで、ナノセンサーはドナー成分、アクセプター成分、および分子結合部位を含む、アクセプター成分とドナー成分の間の共鳴エネルギー移動の変化を検出し、それによって、生細胞培養物における分子のレベルを監視することを含む方法。
【請求項11】
分子結合部位がドナー成分上にある、請求項10の方法。
【請求項12】
共鳴エネルギー移動が、蛍光エネルギー移動、リン光エネルギー移動、化学発光エネルギー移動または生物発光エネルギー移動である、請求項10の方法。
【請求項13】
分子が、糖、アミノ酸、ペプチド、有機酸、金属またはイオン、酸化物、水酸化物またはそれらの複合体、無機イオン、アミン、ポリアミンおよびビタミンからなる群より選択される、請求項10の方法。
【請求項14】
糖が、アラビノース、マルトース、グルコース、ガラクトース、スクロース、トレハロース、フルクトース、キシロース、セロビオースおよびリボースからなる群より選択される、請求項13の方法。
【請求項15】
生細胞培養物が原核細胞を含む、請求項10の方法。
【請求項16】
原核細胞が細菌または古細菌である、請求項10の方法。
【請求項17】
分子の細胞内レベルがリアルタイムまたはオンライン時間枠で監視される、請求項10の方法。
【請求項18】
分子のレベルの監視が、ドナー成分の放出およびアクセプター成分由来の放出から検出されるエネルギー放出値の比を算出することを含む、請求項10の方法。
【請求項19】
生細胞培養物における代謝フラックスを監視する方法であって、培養生細胞中でナノセンサーを発現させること、ここで、ナノセンサーはドナー成分、アクセプター成分、および代謝産物結合部位を含む、およびアクセプター成分とドナー成分の間の共鳴エネルギーの変化を検出し、それによって、生細胞培養物における代謝フラックスを監視することを含む方法。
【請求項20】
代謝産物のための代謝産物結合部位がドナー成分上にある、請求項19の方法。
【請求項21】
共鳴エネルギー移動が、蛍光エネルギー移動、リン光エネルギー移動、化学発光エネルギー移動、または生物発光エネルギー移動である、請求項19の方法。
【請求項22】
代謝産物が、糖、アミノ酸、ペプチド、有機酸、金属またはイオン、酸化物、水酸化物またはそれらの複合体、無機イオン、アミン、ポリアミンおよびビタミンからなる群より選択される、請求項19の方法。
【請求項23】
糖が、アラビノース、マルトース、グルコース、ガラクトース、スクロース、トレハロース、フルクトース、キシロース、セロビオースおよびリボースからなる群より選択される、請求項22の方法。
【請求項24】
生細胞培養物が原核細胞を含む、請求項19の方法。
【請求項25】
原核細胞が細菌または古細菌である、請求項24の方法。
【請求項26】
代謝産物がリアルタイムまたはオンライン時間枠で監視される、請求項19の方法。
【請求項27】
生細胞におけるペントース代謝フラックスを監視する、請求項19の方法。
【請求項28】
ナノセンサーがアラビノースセンサーである、請求項27の方法。
【請求項29】
生細胞におけるヘキソース代謝フラックスを監視する、請求項19の方法。
【請求項30】
ナノセンサーがグルコースセンサーである、請求項29の方法。
【請求項31】
バイオ燃料を生産するために細胞が遺伝子操作される、請求項19の方法。
【請求項32】
細胞が原核生物または真核生物である、請求項31の方法。
【請求項33】
細胞が、細菌、古細菌、または真核生物からなる群より選択される、請求項31の方法。
【請求項34】
代謝フラックスの監視が、ドナー成分の放出およびアクセプター成分由来の放出から検出されるエネルギー放出値の比を算出することを含む、請求項19の方法。
【請求項35】
共鳴エネルギー移動(RET)検出ユニット、参照ユニット、および較正ユニットを含む、生細胞における共鳴エネルギー移動を測定するためのデバイス。
【請求項36】
RET検出ユニットが、
第1フィルタ、光源からの光はこのフィルタを通過して、生細胞中のドナー成分を励起する;
第2フィルタ、ドナー成分から放出された光はこのフィルタを通過して検出器に到達する;
第3フィルタ、アクセプター成分から放出された光はこのフィルタを通過して検出器に到達する;
ドナー励起後のドナーの放出光強度を測定するための第1検出器;および
ドナー励起後のアクセプターの放出光強度を測定するための第2検出器
を含む、請求項35のデバイス。
【請求項37】
参照ユニットが、
分子を励起するための光源;
第3フィルタ、アクセプター成分から放出された光はこのフィルタを通過して検出器に到達する;
第4フィルタ、光源から放出された光はこのフィルタを通過して、生細胞中のアクセプター成分を励起する;および
アクセプター励起後のアクセプターの放出光強度を測定するための第3検出器、
を含む、請求項36のデバイス。
【請求項38】
較正ユニットが、
分析物保存溶液が入っている容器を持つ注入器;および
デバイスを封鎖することができるバルブ、
を含む、請求項37のデバイス。
【請求項39】
分子を励起するための光源;
フィルタ、光源からの光はこのフィルタ通過して、生細胞中のドナー成分を励起する;
ドナーおよびアクセプターからの放出光を分散させる光学コンポーネント;ならびに
分散された光のスペクトルを記録するための検出器
を含む、生細胞における共鳴エネルギー移動を測定するためのデバイス。
【請求項40】
共鳴エネルギー移動をリアルタイムまたはオンライン時間枠で測定する、請求項35のデバイス。
【請求項41】
検出器が、
少なくとも2つの光電子増倍管検出器;および
それら少なくとも2つの光電子増倍管検出器からのシグナルを処理するプロセッサ
を含む、請求項35のデバイス。
【請求項42】
プロセッサが、ドナー成分の放出およびアクセプター成分由来の放出から検出されるエネルギー放出値の比を含む光強度値の比を算出する、請求項41のデバイス。
【請求項43】
光源が、LED、水銀灯、キセノンランプ、およびレーザーからなる群より選択される、請求項35のデバイス。
【請求項44】
光源がLEDである、請求項43のデバイス。
【請求項45】
光電子増倍管検出器が感光性ダイオードまたはCCDチップである、請求項41のデバイス。
【請求項46】
外部リガンドによる較正のための注入器をさらに含む、請求項35のデバイス。
【請求項47】
発酵または加水分解プロセス中に糖の濃度を監視する方法であって、発酵槽に請求項35のデバイスを装着すること、およびそのデバイスを使って糖の濃度を監視することを含む方法。
【請求項48】
発酵または加水分解プロセス中に糖の濃度を監視する方法であって、請求項35のデバイスに発酵槽培養物を通過させること、およびそのデバイスを使って糖の濃度を監視することを含む方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公表番号】特表2010−535531(P2010−535531A)
【公表日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−520997(P2010−520997)
【出願日】平成20年8月8日(2008.8.8)
【国際出願番号】PCT/US2008/009569
【国際公開番号】WO2009/023153
【国際公開日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【出願人】(500026234)カーネギー インスチチューション オブ ワシントン (25)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年8月8日(2008.8.8)
【国際出願番号】PCT/US2008/009569
【国際公開番号】WO2009/023153
【国際公開日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【出願人】(500026234)カーネギー インスチチューション オブ ワシントン (25)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]