説明

SARS

本発明はウイルス学の分野に関する。本発明は、コロナウイルスの群内の本質的に単離された哺乳類プラス鎖一本鎖RNAウイルス(SARS)、およびその成分を提供する。SARS感染に対するPEG化インターフェロンαの効果を解析した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウイルス学の分野、より特には、新規のコロナウイルスに関する。特に、ウイルスタンパク質(の部分)をコードする配列が提供される。さらに、本発明は、疾患、特に呼吸器疾患(非定型肺炎)の、特に哺乳類、より特にヒトにおける診断、予防および/または処置に用いることができる診断の手段および方法、予防の手段および方法、ならびに治療の手段および方法に関する。もう一つの態様において、本発明は、コロナウイルスに感染した動物、好ましくは脊椎動物、より好ましくは鳥または哺乳類、特にヒト、類人猿または齧歯類、より具体的には、SARS関連コロナウイルス(SARS-CoV)に感染した動物、好ましくはヒトの予防または治療の処置のためのインターフェロン、好ましくはPEG化されたインターフェロンの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
最近、新規のウイルスが、比較的容易な飛沫伝染と組み合わさり、ウイルスのヒトでの病原性作用のために世界的規模の健康危機を引き起こした。そのウイルスは、最初に、中国の広東省で見られ、2003年2月に香港へ広がり、2ヶ月間のうちに、世界中の数カ国まで広がることができ、感染した2300人の人々の中から死者78人を出した(New Scientist Online News 13:25 02 April 2003)。ウイルスは、SARS(重症急性呼吸器症候群(Severe Acute Respiratory Syndrome))ウイルスと名付けられ、ヒトにおいて呼吸器疾患(非定型肺炎)を引き起こす。この疾患は、通常、発熱で始まり、時々、悪寒、または頭痛、発疹、下痢、身体全体の不快感(倦怠感)および身体の痛みを含む他の症状を伴う。一部の人達はまた、最初は、軽い呼吸器症候群を経験する。
【0003】
2〜7日後、SARS患者は、伴われうると思われる、乾いた痰がからまない咳を発症しうる、または息切れとして現れる、十分な酸素が血液に到達していない程度まで進行しうる。症例の10%〜20%において、患者は、機械的人工換気を必要とし、最終的に、疾患は、患者の死へと導く可能性がある。病院の職員、子ども、高齢者、および糖尿病もしくは心疾患のような基礎症状または弱まった免疫系をもつ人々は、最も高いリスク群を形成している。他の病原体との重感染は、特にヒトメタニューモウイルス(hMPV)、クラミジアなどのような日和見性病原性微生物と共にしばしば起こるように思われる。
【0004】
ウイルスのインキュベーション時間は、典型的には、2〜7日間であり、疾患は、咳またはくしゃみをして空気中に飛沫を吐き出すSARSに罹患した人々により伝染する。
【0005】
今までに関する限りでは、その疾患について治療法があるかどうかわかっていない。いくつかの抗ウイルス療法が適用されたが、結果は様々であった。
【0006】
また、疾患の蔓延を防ぐことができるように、初期に疾患を認識できることが極めて重要である。その場合のみ、患者を隔離し、隔離予防措置を開始するのに十分な手段を取ることができる。現時点では、実施されている診断のツールはまだ存在しない。
【0007】
このように、この疾患についての診断のツールおよび治療を開発するにおいて大きな必要性がある。
【発明の開示】
【0008】
本発明は、SARSについての病原体であるコロナウイルスに属する、本質的に単離された、哺乳類プラス鎖一本鎖RNAウイルスのヌクレオチド配列を提供する。ウイルスの配列の系統発生解析から(図1)、一つの系統におけるTGEV(伝染性胃腸炎ウイルス)、PEDV(ブタ流行性下痢ウイルス)、および229E(ヒトコロナウイルス229E)により形成される群、別の系統におけるBoCo(ウシコロナウイルス)、およびMHV(マウス肝炎ウイルス)により形成される群、ならびにさらに別の系統におけるAIBV(鳥類伝染性気管支炎ウイルス)の間の中間であるように思われる。一般的に、ウシコロナウイルスは、最も近い類縁体であるように思われる(少なくともウイルスレプリカーゼタンパク質について)。
【0009】
系統発生解析は、そのウイルスまたはそのウイルス由来のウイルスタンパク質もしくは核酸を同定するための、いくぶんかより雑であるとしてもより単刀直入的な他のいくつかの可能な方法もまた本明細書に提供される。経験則として、SARSウイルスを、本明細書で配列により同定されたウイルスのタンパク質または核酸と比較して同定されるウイルスのタンパク質または核酸の相同性のパーセンテージにより同定することができる。ウイルス種、特にRNAウイルス種、はしばしば、類似種を構成し、そのウイルスのクラスターは、それのメンバー中で不均一性を示す。このように、各単離物は、本明細書に提供されている単離物の配列といくぶん異なるパーセンテージ類縁関係をもちうることが予想される。
【0010】
ウイルス単離物を図2に列挙されている配列と比較したい場合、本発明は、コロナウイルスに属する本質的に単離された哺乳類プラス鎖一本鎖RNAウイルス(SARS)であって、ならびにそのウイルスの核酸配列を決定すること、およびその核酸配列が、BoCo、AIPVおよびPEDVと比較して以下の明細書で同定されている核酸について本明細書で同定されたパーセンテージより高い、列挙されている配列に対するパーセンテージ核酸同一性を有することを決定することによって、系統発生的にそれに相当すると同定することができる、本質的に単離された哺乳類プラス鎖一本鎖RNAウイルス(SARS)を提供する。同様に、コロナウイルスに属する本質的に単離された、哺乳類プラス鎖一本鎖RNAウイルス(SARS)であって、ならびにそのウイルスのアミノ酸配列を決定すること、およびそのアミノ酸配列が、BoCo、AIPVおよびPEDVと比較して明細書に提供されたパーセンテージより本質的に高い、列挙されている配列に対するパーセンテージアミノ酸同一性を有することを決定することによって、系統発生的にそれに相当すると同定することができる、本質的に単離された哺乳類プラス鎖一本鎖RNAウイルス(SARS)を提供する。
【0011】
このSARSウイルスの配列情報の提供で、本発明は、疾患、特に呼吸器疾患(非定型肺炎)の、特に哺乳類、より特にヒトにおける診断、予防および/または処置に用いられうる、診断の手段および方法、予防の手段および方法、ならびに治療の手段および方法を提供する。ウイルス学において、特定のウイルス感染の診断、予防および/または処置が、その感染を引き起こすその特定のウイルスに最も特異的である試薬で行われることが最も助言的である。この場合、これは、SARSウイルス感染のその診断、予防および/または処置が、SARSウイルスに最も特異的である試薬で行われることが好ましいことを意味する。しかしながら、これは、決して、特異性がより低いが、十分に交差反応性をもつ試薬が代わりとして用いられる可能性を排除しないが、例えば、それらが、より容易に入手でき、かつすぐ手の届く所でその仕事を十分に扱うからである。本発明は、例えば、動物、特に哺乳類、より特にヒトのSARS感染をウイルス学的に診断するための方法であって、その動物の試料において、本発明によるSARS特異的核酸または抗体とその試料を反応させることによりウイルスの単離物またはその成分の存在を決定する段階を含む方法、および哺乳類のSARS感染を血清学的に診断するための方法であって、その哺乳類試料において、本発明によるSARSウイルス特異的タンパク性分子もしくはその断片または抗原とその試料と反応させることにより、SARSウイルスまたはその成分に対して特異的に誘導される抗体の存在を決定する段階を含む方法を提供する。
【0012】
本発明はまた、本発明に係るSARSウイルス、SARSウイルス特異的核酸、タンパク性分子もしくはその断片、抗原および/または抗体を含むSARS感染を診断するための診断キット、ならびに好ましくは、そのSARSウイルス、SARSウイルス特異的核酸、タンパク性分子もしくはその断片、抗原および/または抗体を検出するための手段であって、その手段が、例えば、当技術分野において用いられるフルオロフォアのような励起性基または酵素的検出系を含む手段を提供する(適した診断キット形式の例は、IF、ELISA、中和アッセイ法、RT-PCRアッセイ法を含む)。核酸、タンパク性分子もしくはその断片のような、まだ同定されていないウイルス成分またはその合成類似体がSARSウイルス特異的と同定されうるかどうかを決定するために、例えば本明細書に提供されているような系統発生解析を用いて、提供されたSARSウイルス配列との、および公知の非SARSウイルス配列(好ましくは、BoCoが用いられる)との配列相同性比較により、その成分の核酸またはアミノ酸配列、例えば、その核酸またはアミノ酸のストレッチ、好ましくは少なくとも10個、より好ましくは少なくとも25個、より好ましくは少なくとも40個のヌクレオチドまたはアミノ酸(それぞれに)について解析すれば十分である。そのSARSまたは非SARSウイルス配列との関連性の程度に依存して、成分または合成類似体を同定することができる。
【0013】
したがって、本発明は、新規な病原学的原因物質、コロナウイルス科に属する本質的に単離された哺乳類プラス鎖一本鎖RNAウイルス(本明細書ではSARSウイルスとも呼ばれる)およびSARSウイルス特異的成分のヌクレオチド配列、またはその合成類似体を提供する。コロナウイルスは、最初、1937年にニワトリから単離されたが、最初のヒトコロナウイルスは、1965年にTyrellおよびBonoeによりインビボで増殖された。現在、この科には、ウシ、ブタ、齧歯類、ネコ、イヌ、鳥類およびヒトに感染する約13種がある。コロナウイルス粒子は、不規則に形づくられ、直径約60〜220 nm、特有の「棍棒状の(club-shaped)」ペプロマー(先端に、長さ約20 nmおよび幅10 nm)を有する外部エンベロープをもつ。この「王冠様(crown-like)」の外観により、その科にそれの名前が与えられている。エンベロープは、2つの糖タンパク質を有する:S、細胞融合に関与し、主な抗原であるスパイク糖タンパク質;およびM、出芽およびエンベロープ形成に関与する膜糖タンパク質。ゲノムは、Nと名付けられた基本的なリンタンパク質に関連している。一本鎖プラス鎖RNA鎖のゲノムであるコロナウイルスは、典型的には、長さが27〜31 Kbであり、5'メチル化キャップおよび3'ポリAテールを含み、それにより、感染した細胞においてmRNAとして直接的に機能することができる。初めに、5'ORF 1(約20 Kb)が翻訳されてウイルスポリメラーゼが産生され、その後、完全長マイナス鎖を生成する。これは、転写産物の「入れ子セット(nested set)」としてmRNAを産生するための鋳型として用いられ、すべて、同一の72個のヌクレオチドの5'非翻訳リーダー配列および同時に起こる3'ポリアデニル化末端を有する。このように産生された各mRNAは、モノシストロン性であり、5'末端における遺伝子は最も長いmRNAから翻訳される等である。これらの特異な細胞質構造は、スプライシングによるのではなく、転写中のポリメラーゼにより生じる。転写酵素、加えてリーダー配列を各ORFの開始点へスプライスする細胞因子と相互作用する、反復遺伝子間配列(AACUAAAC)が遺伝子のそれぞれの間にある。いくつかのコロナウイルスにおいて、上述したタンパク質をコードするが、赤血球凝集素エステラーゼ(HE)およびいくつかの他の非構造的タンパク質もコードする約8つのORFがある。新しく単離されたウイルスは、本発明者らの原型SARSウイルスに十分類似した遺伝子順序および/またはアミノ酸配列および/またはヌクレオチド配列を含む場合、SARSウイルスに系統発生的に相当する、およびそれに従って分類学的に相当する。SARSウイルスと、現在までの同じ科の公知の他のウイルス(BoCoまたはマウス肝炎ウイルス)のいずれかとの間で最も高いアミノ酸配列相同性は、図2に与えられた配列を他のウイルス、特にBoCoおよびマウス肝炎ウイルスの配列と比較した場合に推論できるように、ポリメラーゼタンパク質の部分について18〜61%(%相同性、およびその相同性であるウイルスは、調べられるポリメラーゼの領域に依存する)である。それぞれ、これらの挙げられた最大値より高い相同性をもつ個々のタンパク質または全ウイルス単離物は、SARSウイルスに系統発生的に相当し、およびそれに従って分類学的に相当するとみなされ、一般的に、図2に記載の配列と構造的に対応する核酸配列によりコードされる。これにより、本発明は、配列が図2に記載の単離されたウイルスに系統発生的に相当するウイルスを提供する。
【0014】
他のウイルスと同様に、ある程度の変動が、異なる源から単離されたSARSウイルス間で見出されることが予想されうることは留意されるべきである。また、SARSウイルス、または例えば本明細書に提供されている単離されたSARSウイルス遺伝子のウイルス配列は、例えば、GenBankに見出されることができるような(例えば、アクセッション番号NC_002306(BoCo)またはNC_002645(MHV)における)ウシコロナウイルスもしくはマウス肝炎ウイルスのそれぞれのヌクレオチドまたはアミノ酸配列と95%未満、好ましくは90%未満、より好ましくは80%未満、より好ましくは70%未満、および最も好ましくは65%未満のヌクレオチド配列相同性、または95%未満、好ましくは90%未満、より好ましくは80%未満、より好ましくは70%未満、および最も好ましくは65%未満のアミノ酸配列相同性を示す。
【0015】
世界中のSARS株の配列多様性は、他のコロナウイルスと同様に、いくぶんより高い可能性がある。
【0016】
多数のウイルス単離物が、本出願の優先日の年において単離され、これらのウイルスが上記の相同性を共有することが見出されている。これらのウイルスの配列を、GenBankアクセッション番号AY274119(図10参照)もしくはAY278741もしくはAY338175もしくはAY338174もしくはAY322199もしくはAY322198もしくはAY322197もしくはAH013000もしくはAY322208もしくはAY322207もしくはAY322206もしくはAY322205もしくはAH012999、および/または

に記載の配列に見出すことができる。これにより本発明は、配列が、図2、および/または、例えば、GenBankアクセッション番号AY274119もしくはAY278741もしくはAY338175もしくはAY338174もしくはAY322199もしくはAY322198もしくはAY322197もしくはAH013000もしくはAY322208もしくはAY322207もしくはAY322206もしくはAY322205もしくはAH012999、および/または

に記載の配列の単離されたウイルスに系統発生的に相当するウイルスを含む。
【0017】
本明細書に用いられる場合、用語「ヌクレオチド配列相同性」は、2つの(ポリ)ヌクレオチド間の相同性の存在を意味する。2つの配列におけるヌクレオチドの配列が、最大限の一致のために整列した場合に同じであれば、ポリヌクレオチドは「相同的」配列を有する。2つまたはそれ以上のポリヌクレオチド間の配列比較は、一般的に、配列類似性の局所的領域を同定かつ比較する比較ウィンドウに関して2つの配列の部分を比較することにより行われる。比較ウィンドウは、一般的に、約20個から200個までの連続したヌクレオチドである。50、60、70、80、90、95、98、99または100パーセント配列相同性のような、ポリヌクレオチドについての「配列相同性のパーセンテージ」は、比較ウィンドウに関して2つの最適に整列した配列を比較することにより決定されてもよく、比較ウィンドウにおけるポリヌクレオチド配列の部分は、2つの配列の最適なアライメントのために参照配列(付加または欠失を含まない)と比較して付加または欠失(すなわち、ギャップ)を含む場合がある。パーセンテージは以下の段階により計算される:(a)同一の核酸塩基が両方の配列に存在している位置の数を決定して、一致した位置の数を得る段階;(b)一致した位置の数を比較のウィンドウにおける位置の総数で割る段階;および(c)その結果に100を掛けて、配列相同性のパーセンテージを得る段階。比較のための最適なアライメントを、公知のアルゴリズムのコンピュータ化された実行または観察により行うことができる。容易に入手できる配列比較および複数配列アライメントアルゴリズムは、それぞれ、Basic Local Alignment Search Tool(BLAST)(Altschul, S.F. et al. 1990, J. Mol. Biol. 215:403; Altschul, S.F. et al. 1997, Nucleic Acid Res. 25:3389-3402)およびClustaIWプログラムであり、いずれもインターネットで入手することができる。他の適したプログラムは、Wisconsin Genetics Software Package (Genetics Computer Group(GCG), Madison, WI, USA)におけるGAP、BESTFITおよびFASTAを含む。
【0018】
本明細書に用いられる場合、「実質的に相補的な」とは、2つの核酸配列が、互いと少なくとも約65%、好ましくは約70%、より好ましくは約80%、よりいっそう好ましくは90%、および最も好ましくは約98%の配列相補性を有することを意味する。これは、プライマーおよびプローブが、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするのに十分な、それらの鋳型および標的核酸、それぞれに対しての相補性を示さなければならないことを意味する。それゆえに、本明細書に開示されているプライマー配列は、鋳型上の結合領域の正確な配列を反映する必要はなく、縮重したプライマーが用いられうる。実質的に相補的なプライマー配列は、プライマー結合および第二鎖合成を結果として生じるのに十分な、増幅鋳型に対する配列相補性をもつものである。用語「ハイブリッド」は、相補的なヌクレオチド間で水素結合により形成された二本鎖核酸分子または二重鎖を指す。用語「ハイブリダイズする」または「アニーリングする」とは、核酸配列の一本鎖が相補的なヌクレオチド間で水素結合により二重らせんのセグメントを形成する過程を指す。
【0019】
用語「オリゴヌクレオチド」は、リンの結合(例えば、ホスホジエステル、アルキルおよびアリル-ホスフェート、ホスホロチオネート)、または非リンの結合(例えば、ペプチド、スルファメートなど)により連結されたヌクレオチドモノマーの短い配列(通常、6〜100ヌクレオチド)を指す。オリゴヌクレオチドは、修飾された塩基(例えば、5-メチルシトシン)および修飾された糖群(例えば、2'-O-メチルリボシル、2'-O-メトキシエチルリボシル、2'-フルオロリボシル、2'-アミノリボシルなど)を有する修飾されたヌクレオチドを含んでもよい。オリゴヌクレオチドは、環状、分枝状、または直鎖状の形をもち、任意で、安定した二次構造(例えば、ステム-アンド-ループ、およびループ-ステム-ループ構造)を形成する能力があるドメインを含む、二本鎖および一本鎖DNAならびに二本鎖および一本鎖RNAの天然に存在するまたは合成の分子でありうる。
【0020】
本明細書に用いられる場合、用語「プライマー」は、核酸鎖に相補的であるプライマー伸長産物の合成が引き起こされる条件下に置かれた場合、すなわち、ヌクレオチドならびにDNAポリメラーゼのような重合のための試薬ならびに適した温度およびpHにおいて、DNAポリメラーゼが付着するのを可能にし、それにより、DNA合成の開始の点としての役割を果たす、増幅標的にアニーリングする能力があるオリゴヌクレオチドを指す。(増幅)プライマーは、好ましくは、増幅における最大効率のために一本鎖である。好ましくは、プライマーは、オリゴデオキシリボヌクレオチドである。プライマーは、重合のための試薬の存在下において、伸長産物の合成をプライムするのに十分に長くなければならない。プライマーの正確な長さは、温度およびプライマーの供給源を含む多くの因子に依存する。本明細書に用いられる場合、「双方向性プライマーの対」は、PCR増幅においてのようなDNA増幅の分野において一般に用いられている1つのフォワードおよび1つのリバースのプライマーを指す。
【0021】
用語「プローブ」は、標的核酸配列分析物またはそれのcDNA誘導体における相補的な配列を認識して、それと水素結合二重鎖を形成する一本鎖オリゴヌクレオチド配列を指す。
【0022】
用語「ストリンジェンシー」または「ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件」とは、ハイブリッドの安定性に影響を及ぼすハイブリダイゼーション条件、例えば、温度、塩濃度、pH、ホルムアミド濃度などを指す。これらの条件は、プライマーまたはプローブのそれの標的核酸配列への特異的な結合を最大限にし、かつ非特異的な結合を最小限にするように経験的に最適化される。用いられる場合その用語は、プローブまたはプライマーが、他の配列より検出可能に大きい程度で(例えば、バックグラウンドに対して少なくとも2倍)、標的配列にハイブリダイズする条件への言及を含む。より長い配列は、より高い温度で特異的にハイブリダイズする。一般的に、ストリンジェントな条件は、定義済みのイオン強度およびpHにおいて、特定の配列についての熱融点(Tm)より約5℃低いように選択される。Tmは、相補的標的配列の50%が完全にマッチしたプローブまたはプライマーにハイブリダイズする温度(定義済みのイオン強度およびpH下における)である。典型的には、ストリンジェントな条件は、塩濃度が、pH 7.0〜8.3において、約1.0 M Na+イオン、典型的には約0.01〜1.0 M Na+イオン濃度(または他の塩)であり、温度が、短いプローブまたはプライマー(例えば、10〜50ヌクレオチド)について少なくとも約30℃、および長いプローブまたはプライマー(例えば、50ヌクレオチドより長い)について少なくとも約60℃であることである。ストリンジェントな条件はまた、ホルムアミドのような不安定化剤の添加で達成されうる。例示的な低ストリンジェントなの条件または「低下したストリンジェント条件」は、37℃で、30%ホルムアミド、1 M NaCl、1%SDSの緩衝溶液でのハイブリダイゼーション、および40℃で、2x SSCにおける洗浄を含む。例示的な高ストリンジェントな条件は、37℃で、50%ホルムアミド、1 M NaCl、1%SDSにおけるハイブリダイゼーション、および60℃で、0.1x SSCにおける洗浄を含む。ハイブリダイゼーション手順は、当技術分野において周知であり、例えば、Ausubel et al., Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons Inc., 1994に記載されている。
【0023】
用語「抗体」は、抗体の抗原結合形態(例えば、Fab、F(ab)2)への言及を含む。用語「抗体」は、しばしば、免疫グロブリン遺伝子により実質的にコードされたポリペプチド、または分析物(抗原)を特異的に結合かつ認識するその断片を指す。しかしながら、様々な抗体断片は、無傷の抗体の消化に関して定義されうるが、当業者は、そのような断片が、新たに、化学的にかまたは組換えDNA方法を利用することによるかのいずれかで、合成されうることは認識されているものと思われる。このように、本明細書に用いられる場合、抗体という用語はまた、一本鎖Fvのような抗体断片、キメラ抗体(すなわち、異なる種由来の定常および可変領域を含む)、ヒト化抗体(すなわち、非ヒトの源由来の相補性決定領域(CDR)を含む)、およびヘテロ結合抗体(例えば、二重特異性抗体)を含む。
【0024】
「インターフェロン」とは、少なくとも、そのような物質が由来している動物の種において、抗ウイルス、抗増殖性および免疫調節性活性のような様々な生物活性をもつことが知られている脊椎動物糖タンパク質およびタンパク質の群を総称的に含む用語である。インターフェロンは、ウイルスの感染ならびに他の生物学的および人工的な刺激に応答してT細胞、線維芽細胞および他の細胞により産生される低分子タンパク質および糖タンパク質サイトカイン(15〜28 kD)のクラスを指す。インターフェロンは、細胞膜上で特定の受容体に結合する;それらの効果は、酵素を誘導する、細胞増殖を抑制する、ウイルス増殖を阻害する、マクロファージの食作用活性を増強させる、およびTリンパ球の細胞障害活性を増大させることを含む。インターフェロンは、物理化学的性質、起源の細胞、誘導の様式、および抗体反応を基礎として、5つの主なクラス(α、β、γ、τおよびω)およびいくつかのサブクラス(アラビア数字および文字により示される)へ分類される。
【0025】
要するに、本発明は、コロナウイルスに属する、ならびに、そのウイルスのゲノムの適切な断片の核酸配列を決定し、最尤系統樹が100個のブートストラップおよび3個のジャンブルを用いて作製されている系統樹解析においてそれを検定し、それが、BoCo(ウシコロナウイルス、例えば、GenBankにおけるアクセッション番号NC_002306)、MHV(マウス肝炎ウイルス、例えば、アクセッション番号NC_002645)、AIBV(鳥類伝染性気管支炎ウイルス、例えば、アクセッション番号NC_001451)、PEDV(ブタ流行性下痢ウイルス)、TGEV(伝染性胃腸炎ウイルス、例えば、アクセッション番号NC_003436)または229E(ヒトコロナウイルス229E、例えば、アクセッション番号NC_003045)のウイルス単離物に相当しているよりも図2に記載の配列を有するウイルス単離物に系統発生的により近いことを見出すことにより、それに系統発生的に相当すると同定することができる、本質的に単離された、哺乳類プラス鎖一本鎖RNAウイルス(SARS)を提供する。上で挙げられたGenBankアクセッション番号をもつすべてのウイルス配列は、配列が図2に記載のウイルスに系統発生的に相当するウイルスであると考えられる。
【0026】
そのような系統樹解析に有用な適した核酸ゲノム断片それぞれは、例えば、図2に開示されているRAP-PCR断片、EMC-1〜EMC-14およびRDG-1のいずれかであり、図1に開示されているような系統樹解析に導かれる。
【0027】
適したオープンリーディングフレーム(ORF)は、ウイルスポリメラーゼをコードするORFを含む(ORF 1a)。図2のアミノ酸断片EMC-1、EMC-2、EMC-3、EMC-4、EMC-5、EMC-13および/またはEMC-14を含む配列を有するポリメラーゼと、分析されるポリメラーゼの少なくとも60%の、好ましくは少なくとも70%の、より好ましくは少なくとも80%の、より好ましくは少なくとも90%の、最も好ましくは少なくとも95%の全体のアミノ酸同一性が見出される場合、分析されるウイルス単離物は、本発明によるSARSウイルス単離物を含む。
【0028】
系統発生解析に有用なもう一つの適したオープンリーディングフレーム(ORF)は、Nタンパク質をコードするORFを含む。図2の配列EMC-8を含む配列によりコードされるN-タンパク質と、分析されるN-タンパク質の少なくとも60%の、より好ましくは少なくとも70%の、より好ましくは少なくとも80%の、より好ましくは少なくとも90%の、最も好ましくは少なくとも95%の全体のアミノ酸同一性が見出される場合、分析されるウイルス単離物は、本発明によるSARS単離物を含む。
【0029】
系統発生解析に有用なもう一つの適したオープンリーディングフレーム(ORF)は、スパイクタンパク質SをコードするORFを含む。図2に記載のS-タンパク質のEMC-7の翻訳2およびRDG1配列の翻訳1の配列を含む配列によりコードされるS-タンパク質と、分析されるS-タンパク質の少なくとも60%の、より好ましくは少なくとも70%の、より好ましくは少なくとも80%の、より好ましくは少なくとも90%の、最も好ましくは少なくとも95%の全体のアミノ酸同一性が見出される場合、分析されるウイルス単離物は、本発明によるSARSウイルス単離物を含む。SARSウイルスのS ORFは、ORF 1ab(ウイルスポリメラーゼをコードする)に隣接して位置するように思われ、それが、Sタンパク質とウイルスポリメラーゼの間にいわゆる2a遺伝子およびHE-遺伝子を有するウシコロナウイルスならびにマウス肝炎ウイルスからSARSウイルスを識別するように思われる。
【0030】
本発明は、とりわけ、本発明によるウイルスから得ることができる単離されたもしくは組換えの核酸またはそのウイルス特異的機能性断片を提供する。単離されたまたは組換えの核酸は、図2に与えられている配列、またはストリンジェントな条件下でそれらとハイブリダイズすることができる相同体の配列を含む。特に、本発明は、SARSウイルス核酸を同定するのに適したプライマーおよび/またはプローブを提供する。
【0031】
さらに、本発明は、本発明による核酸を含むベクターを提供する。まず第一に、SARSウイルスのゲノム(の部分)を含むプラスミドベクターのようなベクター、SARSのゲノム(の部分)を含むウイルスベクター(例えば、それらに限定されるわけではないが、ワクシニアウイルス、レトロウイルス、バキュロウイルス)、または他のウイルスもしくは他の病原体のゲノム(の部分)を含むSARSウイルスが提供される。
【0032】
また、本発明は、本発明による核酸またはベクターを含む宿主細胞を提供する。SARSウイルスのポリメラーゼ成分を含むプラスミドまたはウイルスベクターは、関連性のある細胞型(細菌、昆虫細胞、真核細胞)におけるその成分の発現のために、原核細胞において作製される。SARSウイルスゲノムの完全長もしくは部分的コピーを含むプラスミドまたはウイルスベクターは、インビトロまたはインビボでのウイルス核酸の発現のために、原核細胞において作製される。後者のベクターは、キメラのウイルスまたはキメラのウイルスタンパク質の作製のために他のウイルス配列を含みうる、複製欠損ウイルスの作製のためにウイルスゲノムの部分を欠きうる、および弱毒ウイルスの作製のために突然変異、欠失または挿入を含んでもよい。
【0033】
SARSウイルス(野生型、弱毒化、複製欠損またはキメラである)の感染性コピーは、上記の最先端のテクノロジーによりポリメラーゼ成分の共発現で産生されうる。
【0034】
さらに、1つもしくは複数の完全長または部分的SARSウイルスタンパク質を一過性にまたは安定的に発現させる真核細胞が用いられうる。そのような細胞は、トランスフェクション、感染または形質導入により作製されてもよく、挙げられた野生型、弱毒化、複製欠損またはキメラのウイルスの補完に有用でありうる。
【0035】
キメラのウイルスは、2つまたはそれ以上のウイルスから保護する組換えワクチンの作製のために特に役に立ちうる。例えば、ヒトメタニューモウイルスの1つもしくは複数のタンパク質を発現させるSARSウイルスベクター、またはSARSウイルスの1つもしくは複数のタンパク質を発現させるヒトメタニューモウイルスベクターが、そのようなベクターでワクチン接種された個体を両方のウイルス感染から保護することが構想されうる。そのような特定のキメラのウイルスは、例えば、ヒトメタニューモウイルスの重感染がSARSウイルス感染患者において起きると思われるため、本発明において特に有用である。弱毒化および複製欠損ウイルスは、他のウイルスについて示唆されているように、生ワクチンでのワクチン接種の目的のために役に立ちうる。最近、Subbarao, K. et al., J. Virol. 78(7), 3572-3577, 2004は、マウスが、ウイルス全体での以前の免疫化から生じる結果として保護されることを実証した。
【0036】
好ましい態様において、本発明は、本発明による核酸によりコードされるタンパク性分子もしくはコロナウイルス特異的ウイルスタンパク質またはそれらの機能性断片を提供する。有用なタンパク性分子は、例えば、本発明によるウイルスから導き出せる遺伝子またはゲノム断片のいずれかの由来である。本明細書に提供されているような分子またはその抗原性断片は、例えば、診断方法またはキットにおいて、ならびにサブユニットワクチンおよび阻害性ペプチドのような薬学的組成物において有用である。特に有用なのは、抗原もしくはサブユニット免疫原としての封入のための、ウイルスポリメラーゼタンパク質、スパイクタンパク質、ヌクレオキャプシド、またはそれらの抗原性断片であるが、不活性化されたウイルス全体もまた用いることができる。特に有用なのはまた、系統発生解析について同定される組換え核酸断片によりコードされるそれらのタンパク性物質であるが、もちろん、好ましいのは、特に、インビボ(例えば、保護的目的のために、または診断的抗体を供給するために)であろうがインビトロ(例えば、ファージディスプレイテクノロジーまたは合成抗体を作製するために有用な別の技術による)であろうがいずれにせよ、SARSウイルス特異的抗体を誘発するための、系統発生解析に有用なORFの好ましい境界内にあるものである。
【0037】
また本明細書に抗体が提供されるが、それは、本発明によるタンパク性分子もしくはそのSARSウイルス特異的機能性断片を含む抗原と特異的に反応する天然のポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体、または合成(例えば、(ファージ)ライブラリー由来結合分子)抗体であってもよい。当業者は、単離されたウイルス材料および/または組換え的に発現されたウイルスタンパク質を用いて(モノクローナル)抗体を開発することができるものと思われる。Sui et al. (Proc. Natl. Acad. Sci. 101(8), 2536-2541, 2004)は、スパイクタンパク質の断片を一過性に発現させ、ファージディスプレイ方法によりいくつかの抗体を見出した。これらの抗体の一つは、S(スパイク)タンパク質のN末端261〜672位のアミノ酸(図2に記載のS-タンパク質のEMC7の翻訳2およびRDG1配列の翻訳1の配列に対応するものと思われる)へ方向づけられていることが示され、この抗体はまた、中和性質をもつことが実証され、それが成功したワクチンとしての候補でありうることを示した。また、Subbarao et al. (前記)は、SARSウイルスに感染したマウス由来の血清が、中和抗体の存在により、ベロ細胞単層においてSARSウイルスの100 TCID50の感染力を遮断することができることを示した。
【0038】
そのような抗体はまた、そのウイルス単離物またはその成分を本明細書に提供されているような抗体と反応させる段階を含むウイルス単離物をSARSウイルスとして同定するための方法において有用である。これは、例えば、ELISA、RIA、FACSまたは抗原検出アッセイ(Current Protocols in Immunology)の類似した形式を用いて、精製されたもしくは精製されていないSARSウイルスまたはその部分(タンパク質、ペプチド)を用いることにより達成されうる。または、感染した細胞または細胞培養物が、古典的な免疫蛍光または免疫組織化学的技術を用いてウイルス抗原を同定するために用いられうる。この点において特に有用なのは、図2に開示された断片の1つまたは複数を含むヌクレオチド配列によりコードされるSARSウイルスタンパク質に対して産生される抗体である。
【0039】
ウイルス単離物をSARSウイルスとして同定するための他の方法は、そのウイルス単離物またはその成分を本発明によるウイルス特異的核酸と反応させる段階を含む。
【0040】
このように、本発明は、コロナウイルスの科内のSARSウイルス属に属する可能性が高いと同定できるプラス鎖一本鎖RNAウイルスに分類学的に相当する哺乳類ウイルスとして本発明による方法で同定できるウイルス単離物を提供する。
【0041】
方法は、哺乳類のSARSウイルス感染をウイルス学的に診断するための方法において有用であり、その方法は、例えば、その哺乳類試料において、その試料を本発明による核酸または抗体と反応させることにより、ウイルス単離物またはその成分の存在を決定する段階を含む。
【0042】
本発明の方法は、原則として、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR; Mullis 1987, 米国特許第4,683,195号、第4,683,202号、第4,800,159号)のような任意の核酸増幅方法を用いることにより、またはリガーゼ連鎖反応(LCR; Barany 1991, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 88:189-193; 欧州特許出願第320,308号)、自律的配列複製(Self-Sustained Sequence Replication)(3SR; Guatelli et al., 1990, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 87:1874-1878)、鎖置換増幅(SDA; 米国特許第5,270,184号、第5,455,166号)、転写増幅系(TAS; Kwoh et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 86:1173-1177)、Q-βレプリカーゼ(Lizardi et al., 1988, Bio/Technology 6:1197)、ローリングサークル増幅(RCA;米国特許第5,871,921号)、核酸配列に基づいた増幅(NASBA)、クレアベース(Cleavase)断片長多型(米国特許第5,719,028号)、核酸の等温およびキメラプライマー開始型増幅(ICAN)、分枝伸長増幅方法(RAM;米国特許第5,719,028号および第5,942,391号)、または核酸の増幅のための他の適切な方法のような増幅反応を用いることにより行われうる。
【0043】
1つまたは複数の増幅プライマーに対して少数のミスマッチをもつ核酸を増幅するために、増幅反応を、低下したストリンジェント条件下で行うことができる(例えば、38℃のアニーリング温度、または3.5 mM MgCl2の存在を用いるPCR増幅)。当業者は、適したストリンジェント条件を選択することができるもの考えられる。
【0044】
本明細書でのプライマーは、増幅されるべき各特定の配列の異なる鎖に存在するそれらの標的領域に対して「実質的に」相補的(すなわち、少なくとも65%、より好ましくは少なくとも80%、完全に相補的)であるように選択される。例えば、イノシトール残基もしくはあいまいな塩基を含むプライマー配列、または標的配列と比較した場合、1つもしくは複数のミスマッチを含むプライマーでさえも、使用することが可能である。一般的に、標的DNAまたはRNAオリゴヌクレオチドと少なくとも65%、より好ましくは少なくとも80%の相同性を示す配列は、本発明の方法における使用に適しているとみなされる。配列ミスマッチはまた、低ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件を用いる場合、重要ではない。
【0045】
増幅産物の検出は、原則として、当技術分野において公知の任意の適切な方法により達成されうる。検出断片は、放射性標識、抗体、発光色素、蛍光色素もしくは酵素試薬で直接的に染色または標識されうる。直接的DNA染色は、例えば、アクリジンオレンジ、臭化エチジウム、エチジウムモノアジドまたはヘキスト(Hoechst)色素のような相互作用色素を含む。または、DNAまたはRNA断片を、標識されたdNTP塩基の合成された断片への取り込みにより検出することができる。ヌクレオチド塩基と結合されうる検出標識は、例えば、フルオレセイン、シアニン色素またはBrdUrdを含む。プローブに基づいた検出系を用いる場合、本発明における使用のための適切な検出手順は、例えば、酵素イムノアッセイ(EIA)形式を含みうる(Jacobs et al., 1997, J. Clin. Microbiol. 35, 791-795)。EIA手順の様式により検出を行うことについて、増幅反応に用いられるフォワードかまたはリバースのいずれかのプライマーは、標的DNA単位複製配列のその後のEIA検出のために、例えば、ストレプトアビジンをコーティングされたマイクロタイタープレートウェル上での標的DNA PCR単位複製配列の固定化のためのビオチン群のような捕獲群を含んでもよい。当業者は、EIA形式における標的DNA PCR単位複製配列の固定化のための他の群が用いられうることを理解しているものと思われる。
【0046】
本明細書に開示されているような標的DNAの検出に有用なプローブは、好ましくは、DNA増幅手順により増幅されたようなDNA配列領域の少なくとも一部へのみ結合する。当業者は、本明細書に設定されているように、過度の実験なしの標的DNAのヌクレオチド配列に基づいた検出のために適切なプローブを調製することができる。また、標的DNAの相補的なヌクレオチド配列は、DNAであろうがRNAであろうが化学合成された類似体であろうがいずれにせよ、そのような相補鎖が、使用される増幅反応で増幅されるという条件で、本発明の方法において型特異的検出プローブとして適切に用いられうる。
【0047】
本明細書での使用のための適切な検出手順は、例えば、単位複製配列の固定化および、例えば、サザンブロッティングによりそのDNA配列を探索することを含む。他の形式は、上記のようなEIA形式を含みうる。結合の検出を容易にするために、特異的な単位複製配列検出プローブは、増幅反応の反応生成物へのプローブの結合のモニタリングを容易にするために、フルオロファア、発色団、酵素または放射性標識のような標識部分を含みうる。そのような標識は、当業者に周知であり、例えば、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)、β-ガラクトシダーゼ、西洋ワサビペルオキシダーゼ、ストレプトアビジン、ビオチン、ジゴキシゲニン、35Sまたは125Iを含む。他の例は、当業者に明らかであると思われる。
【0048】
検出はまた、例えば、Van den Brule et al. (2002, J. Clin. Microbiol. 40, 779-787)により記載されているようないわゆる逆ラインブロット(RLB)アッセイにより行われてもよい。この目的のために、RLBプローブは、好ましくは、例えば、カルボキシルコーティング化ナイロン膜上へのその後の固定化のために5'アミノ基をもつように合成される。RLB形式の利点は、系の容易さおよびそれの速度であり、それに従って、高処理量の試料処理を可能にする。
【0049】
RNAまたはDNA断片の検出のための核酸プローブの使用は、当技術分野において周知である。ほとんどの場合、これらの手順は、標的核酸のプローブとのハイブリダイゼーション、続いて、ハイブリダイゼーション後の洗浄を含む。特異性は、典型的には、ハイブリダイゼーション後の洗浄の機能であり、重要な因子は、最終洗浄溶液のイオン強度および温度である。核酸ハイブリッドについて、Tmを、Meinkoth and Wahl, Anal. Biochem., 138:267-284 (1984)の方程式:Tm = 81.5℃ + 16.6(log M) + 0.41(%GC) - 0.61(%ホルム) - 500/Lから近似することができる;Mは、一価陽イオンのモル濃度であり、%GCは、核酸におけるグアノシンおよびシトシンヌクレオチドのパーセンテージであり、%ホルムは、ハイブリダイゼーション溶液におけるホルムアミドのパーセンテージであり、ならびにLは、塩基対でのハイブリッドの長さである。Tmは、相補的な標的配列の50%が完全にマッチしたプローブにハイブリダイズしている温度(定義済みのイオン強度およびpH下における)である。Tmは、ミスマッチの1%ごとに約1℃低下し;それに従って、ハイブリダイゼーションおよび/または洗浄条件を、所望の同一性の配列にハイブリダイズするように調整することができる。例えば、>90%同一性をもつ配列が求められる場合には、Tmを10℃減少させることができる。一般的に、ストリンジェントな条件は、定義済みのイオン強度およびpHにおいて、特定の配列およびそれの相補体についての熱融点(Tm)より約5℃低いように選択される。しかしながら、厳しくストリンジェントな条件は、熱融点(Tm)より1、2、3または4℃低い温度でのハイブリダイゼーションおよび/または洗浄を利用しうる;中程度のストリンジェントな条件は、熱融点(Tm)より6、7、8、9または10℃低い温度でのハイブリダイゼーションおよび/または洗浄を利用しうる;低ストリンジェントな条件は、熱融点(Tm)より11、12、13、14、15または20℃低い温度でのハイブリダイゼーションおよび/または洗浄を利用しうる。方程式、ハイブリダイゼーションおよび洗浄構成要素、ならびに所望のTmを用いて、当業者は、ハイブリダイゼーションおよび/または洗浄溶液のストリンジェンシーにおける変化が内在的に記載されていることを理解しているものと思われる。ミスマッチの所望の程度が、結果として、45℃(水溶液)または32℃(ホルムアミド溶液)未満のTmを生じる場合には、より高い温度が用いられうるようにSSC濃度を増加させることが好ましい。核酸のハイブリダイゼーションの広範な手引きは、Tijssen, Laboratory Techniques in Biochemistm and Molecular Biology - Hybridization with Nucleic Acid Probes, Part I, Chapter 2 "Overview of principles of hybridization and the strategy of nucleic acid probe assays", Elesevier, New York (1993);およびCurrent Protocols in Molecular Biology, Chapter 2, Ausubel, et al., Eds., Greene Publishing and Wiley-Interscience, New York (1995)に見出すことができる。
【0050】
もう一つの局面において、本発明は、標的RNAまたはDNAの一般的な検出のためのオリゴヌクレオチドプローブを提供する。本明細書での検出プローブは、本発明の増幅反応により生成された二本鎖核酸の鎖の一つに「実質的に」相補的であるように選択される。好ましくは、プローブは、標的RNAまたはDNAから生成された単位複製配列の固定化でき、例えば、ビオチン標識された、アンチセンス鎖に実質的に相補的である。
【0051】
本発明の検出プローブについて、それらの標的配列に対して1つまたは複数のミスマッチを含むことが許容できる。一般的に、標的オリゴヌクレオチド配列と少なくとも65%、より好ましくは少なくとも80%の相同性を示す配列は、本発明の方法における使用に適しているとみなされる。抗体(モノクローナルおよびポリクローナルの両方)はまた本発明における検出目的のために、例えば、それらが液相で利用されうる、または固相担体に結合されうるイムノアッセイ法において、用いることができる。さらに、これらのイムノアッセイ法におけるモノクローナル抗体を、様々な方法で検出可能に標識することができる。様々なイムノアッセイ形式を、特定のタンパク質(または他の分析物)と特異的反応性の抗体を選択するために用いることができる。例えば、固相ELISAイムノアッセイ法を、タンパク質と特異的免疫反応性のモノクローナル抗体を選択するために日常的に用いることができる。選択的結合を決定するために使用可能なイムノアッセイ形式および条件の説明については、Harlow and Lane, Antibodies, A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Publications, New York (1988)を参照されたい。本発明の抗体を利用できるイムノアッセイの型の例は、直接的かまたは間接的かのいずれかの形式における、競合的および非競合的イムノアッセイ法である。そのようなイムノアッセイ法の例は、ラジオイムノアッセイ法(RIA)およびサンドイッチ(免疫測定)アッセイ法である。本発明の抗体を用いる抗原の検出は、生理学的試料における免疫組織化学的アッセイを含む、正モード、逆モード、または同時モードのいずれかで実行されるイムノアッセイを利用してなされうる。当業者は、過度の実験なしに他のイムノアッセイ方式を知っているものと思われ、または容易に認識できる。
【0052】
抗体は、多くの異なる担体に結合され、標的分子の存在を検出するために用いられうる。周知の担体の例は、ガラス、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン、デキストラン、ナイロン、アミラーゼ、天然および改変されたセルロース、ポリアクリルアミド、アガロースおよび磁鉄鉱を含む。担体の性質は、本発明の目的のために可溶性かまたは不溶性のいずれかでありうる。当業者は、モノクローナル抗体を結合するための他の適切な担体について知っているものと思われ、または日常的な実験を用いてそのようなものを確認することができるものと思われる。
【0053】
本発明はまた、哺乳類のSARSウイルス感染を血清学的に診断するための方法であって、その哺乳類試料において、その試料を本発明によるタンパク性分子もしくはその断片または抗原と反応させることにより、SARSウイルスまたはその成分に対して特異的に誘導される抗体の存在を決定する段階を含む方法を提供する。
【0054】
本明細書に提供された方法および手段は、ウイルス学的診断によろうが血清学的診断によろうが、SARSウイルス感染を診断するための診断キットにおいて特に有用である。そのようなキットまたはアッセイは、例えば、本発明に係るウイルス、核酸、タンパク性分子もしくはその断片、抗原および/または抗体を含みうる。
【0055】
本発明によるウイルス、核酸、タンパク性分子もしくはその断片、抗原および/または抗体の使用はまた、例えば、特にヒトにおける、SARSウイルス感染の処置もしくは予防のための、および/または非定型肺炎の処置もしくは予防のための、薬学的組成物の作製のために供給される。好ましくは、図2の配列EMC7についての翻訳2およびRDG seqの翻訳1に記載のスパイクタンパク質のアミノ酸配列の一部を含むペプチドが、治療的または予防的ペプチドの調製に用いられる。また、好ましくは、図2の配列EMC7についての翻訳2およびRDG seqの翻訳1に記載のスパイクタンパク質のアミノ酸配列を含むタンパク質が、サブユニットワクチンの調製に用いられる。さらに、図2におけるEMC8の翻訳に記載の、コロナウイルスのヌクレオキャプシドは、コロナウイルスに対する細胞性免疫を誘発するために特に有用であることが知られており、サブユニットワクチンの調製のために用いられうる。
【0056】
ウイルスの弱毒化は、この目的のために開発された確立した方法により達成されてもよく、限定されるわけではないが、他の種の関連ウイルスの使用、実験動物または/および組織/細胞培養を通しての連続継代、37C未満の温度での細胞培養を通しての連続継代(低温適応)、分子クローンの部位特異的突然変異誘発、ならびに関連ウイルス間の遺伝子もしくは遺伝子断片の交換を含む。
【0057】
Sui et al.(前記)により示されているように、SARSウイルスのスパイクタンパク質のN末端261〜672位のアミノ酸と反応性であることが示されたヒト化中和抗体が、調製された。
【0058】
本発明によるウイルス、核酸、タンパク性分子もしくはその断片、抗原および/または抗体を含む薬学的組成物は、例えば、本発明による薬学的組成物を個体に与える段階を含む、SARSウイルス感染および/もしくは呼吸器疾患の処置または予防のための方法に用いられうる。これは、その個体がヒトを含む場合、最も有用である。SARSウイルスタンパク質に対する、特にSARSウイルスのスパイクタンパク質に対する、好ましくは図2におけるEMC7の翻訳2およびRDG seqの翻訳1に記載のアミノ酸配列に対する、抗体がまた、受動的ワクチンとして、予防的または治療的目的のために有用である。スパイクタンパク質が非常に強い抗原であること、ならびにスパイクタンパク質に対する抗体が予防的および治療的ワクチンに用いられうることは、他のコロナウイルスから知られている。
【0059】
本発明はまた、本発明によるウイルスを含む細胞培養物または実験動物を確立する段階、その培養物または動物を候補抗ウイルス剤で処置する段階、およびそのウイルスまたはその培養物もしくは動物のそれの感染におけるその剤の効果を決定する段階を含む、非定型肺炎の処置に有用な抗ウイルス剤を得るための方法を提供する。そのような抗ウイルス剤の例は、本明細書に提供されているような、SARSウイルス中和抗体、またはその機能性構成要素を含むが、他の性質の抗ウイルス剤も同様に得られる。本発明はまた、薬学的組成物の調製のために、特に非定型肺炎、特にSARSウイルス感染により引き起こされた場合の処置のための薬学的組成物の調製のために、本発明による抗ウイルス剤の使用を提供し、SARSウイルス感染の処置または予防のための方法に有用な本発明による抗ウイルス剤を含む薬学的組成物を提供し、その方法がそのような薬学的組成物を個体に与える段階を含む。
【0060】
具体的には、本発明は、インターフェロン、特にPEG化されたインターフェロンを含む薬学的組成物を提供する。
【0061】
一般的に、すべてのインターフェロン型がウイルス感染(の症状)を軽減するにおいて少なくともいくらかの活性をもつことが知られているため、すべてのインターフェロン型が本発明に有用であると思われる。しかしながら、優先的には、ウイルスに感染している、またはウイルスに感染するリスクを冒している宿主由来であるインターフェロンが用いられることは理解されるべきである。さらに、最も好ましいのは、インターフェロン-α、特に、SARSのようなヒトを冒すコロナウイルス感染のための、ヒトインターフェロン-αの使用である。αインターフェロンは、感染に応答してヒト身体により産生される天然のタンパク質である。インターフェロンα-2bとしても知られている。I型インターフェロンαファミリーは、臨床的に重要な抗感染および抗腫瘍活性をもつ低分子タンパク質からなる。αインターフェロンは、単独で、またはβインターフェロンもしくはγインターフェロンと併用して投与可能なことは理解されている。
【0062】
遺伝子工学技術により、いくつかの会社がαインターフェロンを大量生産することが可能になり、組換えヒトαインターフェロンとして、またはrhIFNもしくはrIFN-αのような略語により知られている。これは、Viraferon(Schering-Plough製)、Roferon-A(Roche製)およびWellferon(Glaxo SmithKline製)のような商品名で市場で売られている。インターフェロン-αN3、すなわちAlferon N、はインターフェロンαのもう一つの型であり、ヒト白血球由来で、インターフェロン-αの複数の種類を含む。
【0063】
以前に考察されているように、インターフェロン-αの使用についての欠点は、インターフェロンαタンパク質の短い血中半減期および急速なクリアランスである。しかしながら、インターフェロンへのポリエチレングリコール(PEG)の分子の付着が、プロテアーゼにより急速に分解されることからインターフェロンα-2a分子を保護するバリアを形成し、より長い投与期間に渡って標的ウイルスを一貫して抑制するそれの能力を維持することが示された。
【0064】
すでに上記で考察されているように、インターフェロンのようなタンパク質のPEG化は、血流からの急速な除去、最終的には薬剤の急速な分解を防ぐために用いられる。因子2より大きい血中半減期の延長が実証された(Shannon A. Marshall, Drug Discovery Today Volume 8, Issue 5, March 2003, Pages 212-221)。PEG化IFNα-2bは、標準IFNα-2b(7〜9時間)と比較して長時間の血中半減期(40時間)をもつ。より大きなサイズのPEG化IFNα-2aは、糸球体濾過を低下させるように働き、標準IFNα-2a(6〜9時間)と比較してそれの血中半減期(72〜96時間)を著しく延長する(Bruce A. Luxon MD Clinical Therapeutics, Volume 24, Issue 9, September 2002, Pages 1363-1383)。
【0065】
タンパク質のPEG化は、当業者に利用できる標準的技術であり、標準的PEG化インターフェロンは、Roche(PEGASYS(登録商標(インターフェロンα2a))およびSchering-Plough(PEG-Intron A)から市販されている、またはPEG-Alfacon、Infergen(R)(Interferon alfacon-1)のPEG化バージョン、生物工学によるI型インターフェロンαのように開発中である。
【0066】
Schering-Ploughは、有意な臨床的恩恵を与えると同時に、長時間作用性インターフェロンαタンパク質の要求を満たす、タンパク質に12-kDaのモノ-メトキシポリエチレングリコールを付着させることによりIntron(登録商標)Aの半合成型を開発した(PEG Intron)。PEG化は、インターフェロンα-2bタンパク質の比活性を減少させるが、タンパク質濃度と無関係な、PEG Intronの効力は、分子および細胞レベルの両方においてIntron(登録商標)A標準に匹敵する。PEG Intronは、動物およびヒトの両方の研究において薬物動態学的プロフィールを増強させた[Yu-Sen Wang et al. 2002: Advanced Drug Delivery Reviews, Volume 54, Issue 4, 17, Pages 547-570を参照]。PEGASYSにおいて、40キロダルトンの分枝可動性PEGは、インターフェロンα-2a分子に共有結合性に結合し、結合部位受容性を有意に低下させることなく、選択的に保護するバリアを供給する。
【0067】
PEG化分子の薬物動態学的行動は、PEGのサイズおよびPEG部分とタンパク質の間の結合の構造に依存することが理解されている(Shannon A. Marshall, Drug Discovery Today Volume 8, Issue 5, March 2003, Pages 212-221)。より小さいPEGをもつインターフェロンは、素早く分解され、より頻繁な投薬を必要とすることが知られている。このように、より大きなPEGをもつインターフェロンが好ましい。
【0068】
このように、本発明は、PEG化インターフェロン、または結合部位受容性を有意に低下させることなく、インターフェロンを分解されることから保護するための選択的に保護するバリアを供給するまだ開示されていない分子付着物をもつ将来のインターフェロンのすべての型を含む。また、異なるインターフェロンの組み合わせも本発明に含まれる。
【0069】
本発明の最も好ましい態様の一つは、コロナウイルス感染の防止のための予防的処置としてのインターフェロンの使用である。コロナウイルスの感染の前かまたは感染中のいずれかにおいて、類人猿に予防的または治療的処置を施すことは、ヒト対象におけるそのような予防法または治療法の適用についての非常に有用な予測的価値を有している。
【0070】
実験のセクションに示されているように、ウイルス粒子の侵入の前のインターフェロンの投与は、感染および感染後の影響を大いに遅らせる。試験動物へ与えられるウイルス負荷は、「自然の」感染では起こらないまたはほとんど起こらないと思われる高い投与量であることが理解されるべきである。「自然の」環境下におけるウイルス負荷は、本発明の実験に用いられるものよりもより少ない濃度での約10〜105 TCID 50の負荷と等しいであろうことが理解されている。さらに、実験におけるウイルス負荷は、最大部分は、気管内に、すなわち、ウイルスがそれの主要な感染性活性を発揮する場所に適用された。通常には、ウイルスは、呼吸される空気で遭遇し、この空気がまず、鼻および/または口腔を通過するが、そこで、口および/または鼻の上皮ならびに粘膜により除去される(および止められる)大きな機会をもつ。とにかく、本発明者らの実験に用いられた極めて高投与量においてでさえも、インターフェロンの効果を示すことができたという事実は、通常遭遇する感染性ウイルス投与量において、効果はよりいっそう著しいと思われることを示している。それゆえに、予防的投与は、コロナウイルスの感染に対する持続的かつ強い保護を与えることが考えられる。
【0071】
これは、例えば、SARSウイルスのような、高い感染性である、および/または空気感染様式であるウイルスに関して特に重要である。予防的処置は、SARSウイルスの場合、病院の職員、子ども、高齢者、および糖尿病もしくは心疾患または弱まった免疫系のような基礎症状をもつ人々のような、感染するリスクを抱えている人々にとって特に歓迎されるものと思われる。
【0072】
SARS-CoV感染が、ある人々においては無症候性であり、または別の人々においては非呼吸器症状を引き起こすことは、依然として可能性として残っている。無症候性の、または非定型の感染した人々が疾患を伝染させうるという可能性を排除するのに十分な証拠はない。このように、SARS-CoVのようなコロナウイルス感染の防止のための予防的処置は、実際に不可欠である。
【0073】
しかしながら、本発明者らのデータはまた、インターフェロンがまたコロナウイルスの治療に、すなわち、ウイルス感染がすでに確立している時点において、適用できることを示している。本発明者らのインビボのデータは、病的な影響が、インターフェロンの投与により少なくとも遅れることを示している。
【0074】
ヒトおよびマウスの起源のインターフェロンは、国際単位(「IU」)で当技術分野において定量された。本明細書に用いられる場合、インターフェロンの「単位」(「IU」から区別されうる)は、アッセイにより決定される場合、負荷ウイルスのプラークの数の2分の1を阻害するインターフェロン含有材料の希釈度の逆数を意味し、負荷ウイルスは水疱性口内炎ウイルス(「VSV」)である。そのように定量されたインターフェロンの「単位」は、「IU」というものにより表されるインターフェロンの量の約10分の1であることが日常的に見出される。または、インターフェロンをμg/体重kgで定量することができる。
【0075】
インターフェロンは、1 μg/kgから3 μg/kgまでの範囲の用量で与えられる。インターフェロンがPEG化されている場合、用量はより少ない頻度で送達されうる。本発明に従ったコロナウイルス疾患の処置は、1日あたり0.01〜6 μg/kgの用量におけるPEG化インターフェロンを、その動物の口腔および咽頭粘膜とのその用量のインターフェロンの接触を促進するのに適合した剤形で、投与する段階を含む。好ましくは、インターフェロンの用量は、1日あたり0.1〜4 μg/kg、より好ましくは1日あたり0.3〜3 μg/kgである。
【0076】
インターフェロンは、限定されるわけではないが、経口、静脈内、筋肉内、肺および鼻の経路を含む任意の利用可能な手段により投与可能であり、その組成物は、溶液、懸濁液、または特に微粒子の、エアゾールスプレーとして存在している。
【0077】
PEG化インターフェロンが、処置を受けるヒトまたは動物の口腔および咽頭粘膜とのその用量におけるインターフェロンの最大限の接触を保証するのに適合した剤形で投与されることは、重要である。インターフェロンの粘膜との接触は、口腔または咽頭腔における処置溶液の滞留時間を最大限にすることにより増加されうる。このように、最良の結果は、ヒト患者において、患者が、一時、口の中でインターフェロンのその溶液を保持するよう要請される場合、達成されるように思われる。処置されるヒトまたは動物、鳥類、齧歯類の口腔および咽頭粘膜との、およびその後のリンパ系とのインターフェロンの接触は、疑いなく、免疫治療的量のPEG化インターフェロンを投与する最も効率的な方法である。
【0078】
例えば、インターフェロンは、液体(溶液)または固体のいずれかの剤形で投与されうる。このように、インターフェロンは、典型的に血清の安定化量(重量で1〜5%)を含む緩衝水溶液に溶解されて投与されうる。本発明に従って投与されるインターフェロンの担体として適する例示的緩衝溶液は、標準的技術により調製されるリン酸緩衝食塩水である。
【0079】
咀嚼の助けでまたは助けなしで口の中での唾液との接触により溶解されるのに適合したロゼンジのような固体剤形でインターフェロンを供給することも本発明により企図される。そのような単位剤形は、口腔および咽頭粘膜との接触のために口の中での溶解により約1〜約1500 IUのインターフェロンを放出するように製剤化される。このように、本発明に従ったインターフェロンの単位剤形は、チュアブルタイプのビタミンのような圧縮錠を形成するための技術分野で認められている技術により調製されうる。同様に、インターフェロンは、口の中で保持される場合、口腔粘膜との接触のためにインターフェロンを溶解かつ放出するロゼンジを形成するようにデンプンを主材料としたゲル製剤へ組み込まれうる。本発明に従った使用のためのインターフェロンの固体単位剤形は、技術分野で認められている製剤技術を利用して調製されうる。そのような剤形のpHは、約4から約8.5までの範囲でありうる。もちろん、そのような単位剤形へ加工するにおいて、インターフェロンの添加後、約50℃より上に剤形前の製剤を加熱することを避けるべきである。動物使用のための例示的固体剤形は、有効量のインターフェロンを含む糖蜜ブロックである。
【0080】
または、インターフェロンは、カロリーのまたは無カロリーの甘味料、香味油および薬学的に許容される界面活性剤/分散剤を添加された、主薬としてインターフェロンの緩衝水溶液を用いる味の付いたもしくは味の付いていない溶液またはシロップへ製剤化されうる。
【0081】
また、コロナウイルス感染の予防のために呼吸器または胃の細胞においてインターフェロンの発現を引き起こすことが可能な遺伝子治療の方法も企図される。
【0082】
もちろん、本発明の任意の薬物の臨床的使用は、臨床医によりなされうる臨床判断であり、そのような処置の正確な過程は、臨床医の健全な裁量に任せられ、すべてのそのような処置の過程は本発明の範囲内と考えられる。
【0083】
もう一つの好ましい態様は、コロナウイルスの感染を予防または処置することに向けられているもう一つの処置と共のインターフェロンの投与である。そのような他の処置は、例えば、完全不活性化ウイルスワクチン、弱毒ワクチン、サブユニットワクチン、組換えワクチン、受動免疫のための抗体、リバビリンのようなヌクレオシド類似体、RNA依存性RNAポリメラーゼ阻害剤およびプロテアーゼ阻害剤からなる群より選択される、ワクチン、抗体ならびに/または抗ウイルス剤でありうる。
【0084】
ワクチンの投与と共のインターフェロンの使用は、ワクチンの効果を高める。まず第一に、結局はより良い効果になると思われる処置の組み合わせがある。しかしながら、インターフェロンのワクチンとの同時投与はまた、ワクチン接種への免疫応答がより多くの効果があるようにできるものと思われる。通常には、免疫応答は遅く、ウイルス粒子と効果的に戦うことができるのに十分高い抗体の力価に達するために2、3日かかる。インターフェロンが同時投与されない場合、ウイルスは、免疫応答により打ち勝つことができない莫大な量まで増加するチャンスをもつことになったであろう。しかしながら、インターフェロンにより、ウイルスの量は、不在または低いままであり、どんな感染性ウイルス激発(とにかく、もしあれば)でも免疫系により容易に対処されうる。
【0085】
コロナウイルスの感染を予防および/または治療する処置はまた、例えば、リバビリン(例えば、Rebetol(登録商標)(リバビリン、USP))のようなヌクレオシドに基づいた化合物のような他の抗ウイルス化合物との併用療法を含みうる。これらの化合物は、ウイルス複製中に組み込まれるが、ウイルスタンパク質の形成を妨げるかまたは機能性タンパク質を産生しないかのいずれかである、ヌクレオシドを提示することによりウイルス複製に干渉することを通して作用する。インターフェロンの同時投与は、ウイルス複製をよりいっそう減速させるものと思われる。リバビリンおよびインターフェロンの形態の併用は、ウイルス負荷を低下させるのを助けることができる。
【0086】
本発明に従った処置に応答するもう一つの疾患状態は、腫瘍性疾患である。このように、上記に従ったインターフェロンの投与は、単独でまたは他の薬物もしくは療法と併用して、悪性リンパ腫、黒色腫、中皮腫、バーキットリンパ腫および鼻咽頭癌ならびに他の腫瘍性疾患、特に、ホジキン病および白血病のような、既知のまたは疑わしいウイルス性病因および疾患のもの、のような癌の寛解をもたらすのを助けることができる。
【0087】
本発明に従った処置に応答する他の疾患状態は、ヒト、鳥類、ブタ、イヌおよびネコ種においてコロナウイルス原因の感染性疾患である。ヒトコロナウイルスは、コロナウイルス229Eおよび新たに発見されたコロナウイルスHcoV-NL(欧州特許出願第03078772.5号を参照)である。いくつかの他のコロナウイルスは、ネコ伝染性腹膜炎ウイルス(FIPV)、ブタの赤血球凝集性脳脊髄炎ウイルス(HEV)、ならびに鳥類伝染性気管支炎ウイルス(IBV)およびマウス肝炎ウイルス(MHV)のいくつかの株を含め、動物において致死的全身性疾患を引き起こしうる。これらのコロナウイルスは、肝臓、肺、腎臓、消化管、脾臓、脳、脊髄、網膜、および他の組織で複製できる。免疫病理学は、MHVおよびFIPVにおける組織損傷に役割を果たし、サイトカインは、疾患のいくつかの徴候の原因である。有意には、ネコ腸作用性コロナウイルスの持続性、不顕性の感染をもつネコにおいて、毒性ウイルス突然変異体が生じ、致死的感染性腹膜炎、全身性疾患を引き起こしうる。
【0088】
本発明はまた、予防的および/もしくは治療的方法ならびに/または調製の試験に使用できる動物モデルを含む。類人猿は、SARSウイルスに感染し、それにより、臨床症状、およびより重要なことには、SARSウイルスに引き起こされる非定型肺炎を患っているヒトに見出されるのと類似した組織形態を示しうる。ウイルスの感染前か感染中のいずれかで、予防的または治療的処置を類人猿に施すことは、ヒト対象におけるそのような予防法または治療法の適用についての非常に有用な予測的価値をもつものと思われる。
【0089】
本発明は、実施例においてさらに説明されるが、それらに限定されるわけではない。
【0090】
実施例
実施例1. ウイルス単離および特徴付け
単離
単離物HK39849は、入院しているSARS患者から咽頭スワブにより単離され、Vero-E6細胞の培養物へ接種された。M. Peiris博士(Queen Mary Hospital Faculty of Medicine, Hong Kong University, Hong Kong)により提供されたこれらの感染細胞由来の上清の試料は、VERO-118細胞を接種するのに用いられ、これらの細胞由来の細胞培養上清は、等分され、1継代後凍結された。
【0091】
本発明者らは、ウイルス含有細胞培養上清からRNAを単離し、それを、本質的にWelsh & McClelland(NAR 18:7213; PNAS USA 90:10710, 1993)により記載されているように、RNA任意プライム型PCR(RNA arbitrarily primed PCR)(RAP-PCR)にかけた。培養上清におけるウイルスは、連続20〜60%ショ糖勾配で精製された。勾配画分は、EMによりウイルス様粒子について検査され、RNAが、最も多いヌクレオキャプシドが観察された画分含有物から単離された。ウイルス画分から単離された等量のRNAは、RAP-PCRに用いられ、その後、試料は、3% NuSieveアガロースゲル上に並んで流された。同定されていないウイルスに特異的な、サイズが200〜1500塩基対の範囲で異なって示されたバンドは、その後、ゲルから精製され、プラスミドpCR2.1(Invitrogen)にクローニングされ、ベクター特異的プライマーでシーケンシングされた。本発明者らは、これらの配列を用いて、図1の系統樹に示されたコロナウイルスのウイルス配列との類似点を明らかにするBLASTソフトウェア(www.ncbi.nlm.nih.gov/BLAST/)を用いてGenBankデータベースにおける配列に対する相同性を検索した。
【0092】
これらの断片の8つ(EMC-1〜6、13および14)は、ウイルスポリメラーゼをコードするORF(ORF1ab)に位置する、1つ(EMC-7)は、ORF1abの3'末端にまたがり、スパイクタンパク質領域の5'末端へ達している;EMC-10は、EMC-7の3'末端と重複し、それゆえにSタンパク質領域の一部もコードする、ならびにEMC-9は、EMC-10の下流の領域をコードする;EMC-10およびEMC-9内の配列へのプライマーの使用により(下記参照)、これらの2つの配列の間の領域は、PCRにより増幅され、シーケンシングされた。完全な連続した領域は、図2におけるEMC-7に組み入れられた;さらなる配列(図2におけるRDG1)は、スパイクタンパク質の3'末端をコードする。さらなる配列(EMC-8)は、ヌクレオキャプシドコード配列の一部に及んだ。一方、残りの3つの配列(EMC-9、11および12)は、orf 1ab/レプリカーゼの領域であることが見出され、emc 9はemc 11に組み入れられる。これはまだ、図3に反映されていない。
【0093】
系統発生
同定されていないウイルス単離物から得られたヌクレオチド配列を用いるBLAST検索は、主としてコロナウイルス科のメンバーとの相同性を明らかにした。新たに同定されたウイルス単離物と他のコロナウイルスの間の関係について示すように、系統樹が、得られた配列情報に基づいて構築された(図1)。
【0094】
材料および方法
検体収集
ウイルスは、咽頭スワブを用いてSARS患者から、および実験的に感染したサル(咽頭および鼻腔スワブ、血清、血漿ならびに糞)から収集された。
【0095】
ウイルス単離および培養
咽頭スワブを、Vero-E6細胞の培養物へ浸漬し、1〜4日間、インキュベートした。細胞培養上清を、遠心分離により透明にし、凍結保存する前に、0.45マイクロメートルのフィルターを通して濾過した。その後、ウイルスをVero-118細胞において増殖させた。
【0096】
間接的IFAによる抗原検出
実験的に感染したサル由来の試料を、24穴プレートを含むスライドガラスにおいてVero-118細胞で培養した。これらのスライドガラスをPBSで洗浄し、室温で1分間、アセトン中で固定させた。PBSでの洗浄後、スライドを、SARS患者由来のSARS抗体含有血清と37℃で30分間、インキュベートした。PBS中でヒト血清を洗い流した後、スライドを、FITC標識抗ヒト抗体と37℃で30分間、インキュベートした。PBSでの3回の洗浄および水道水での1回の洗浄後、スライドを、グリセロール/PBS溶液(Citifluor, UKC, Canterbury, UK)に包含させ、カバーをかけた。スライドをAxioscop蛍光顕微鏡(Carl Zeiss B.V., Weesp, the Netherlands)を用いて分析した。
【0097】
間接的IFAによるヒトにおける抗体の検出
ウイルスを、24穴プレート含有スライドガラスにおいてVero-118細胞で培養した。これらのスライドガラスをPBSで洗浄し、室温で1分間、アセトン中で固定させた。PBSでの洗浄後、スライドを、SARS患者由来のSARS抗体含有血清と37℃で30分間、インキュベートした。PBS中でヒト血清を洗い流した後、スライドを、FITC標識抗ヒト抗体と37℃で30分間、インキュベートした。PBSでの3回の洗浄および水道水での1回の洗浄後、スライドを、グリセロール/PBS溶液(Citifluor, UKC, Canterbury, UK)に包含させ、カバーをかけた。スライドをAxioscop蛍光顕微鏡(Carl Zeiss B.V., Weesp, the Netherlands)を用いて分析した。
【0098】
ELISAによるヒトにおける抗体の検出
患者試料
SARS疾患をもつ患者の4つの試料、日常的血清学的ウイルス学からの患者の8つの試料;実験的に感染したサル由来の試料(プレ血清、感染から9日および12日後)。
【0099】
結合体
ウイルス全体を結合体として用いた。感染したVero細胞由来の組織培養上清を、60%ショ糖クッション上へ20%ショ糖によりペレットにした。ウイルスをその後、20%ショ糖によりペレットにし、PBS/1% NP40に再懸濁した。PBSを用いる透析後、標準的技術により西洋ワサビペルオシダーゼを結合したウイルスを、多価抗IgM、コードMCB0201(サルと交差反応性)およびモノクローナル抗IgM、コード9000-62(サルと非交差反応性)の両方について3つの濃度(希釈緩衝液9000-03、1:100、1:400および1:1600に希釈された)において試験した。
【0100】
血清を、血清希釈液(コード9000-03)で1:200に希釈し、サル775を1:100、1:200および1:400に希釈した。
【0101】
血清インキュベーション、37℃で1時間、結合体インキュベーション、37℃で1時間、およびTMB(すぐ使用できる):室温で30分間。反応は、硫酸(0.5 M)で停止させた。
【0102】
ウイルス特徴付け
EM分析について、ウイルスを、感染した細胞培養上清から、微量遠心機において4℃、17000 x gで濃縮し、その後、ペレットをPBS中に再懸濁し、ネガティブコントラストEMにより検査した。
【0103】
RNA単離
RNAは、感染した細胞培養物の上清またはショ糖勾配画分から、High Pure RNA単離キットを用いて製造会社(Roche Diagnostics, Almere, The Netherlands)からの使用説明書に従って、単離された。
【0104】
RT-PCR
1段階RT-PCRを、50 mM トリスHCl pH 8.5、50 mM NaCl、4 mM MgCl2、2 mM ジチオスレイトール、200 μM 各dNTP、10ユニット組換えRNAsin(Promega, Leiden, the Netherlands)、10ユニットAMV RT(Promega, Leiden, The Netherlands)、5ユニットAmplitaq Gold DNAポリメラーゼ(PE Biosystems, Nieuwerkerk aan de Ijssel, The Netherlands)および5 μl RNAを含む50 μl 反応物において行った。サイクリング条件は、42℃で45分間および95℃で7分間を1回、95℃で1分間、42℃で2分間および72℃で3分間を40回繰り返し、ならびに72℃で10分間を1回であった。
【0105】
診断的PCRに用いられるプライマー:

【0106】
これらのプライマーは、ポリメラーゼ遺伝子(orf 1ab)の149 bp断片を増幅する:

【0107】
これらのプライマーは、スパイクタンパク質遺伝子(S)における728 bpの領域を増幅する:

【0108】
EMC7-RF998の3'末端をシーケンシングするのを可能にするRF998/RF1002プライマーの組み合わせは、EMC7内に特異的なプライマーであり、EMC1002は、ランダムプライマーとして働いた。
【0109】
RT-PCR、ゲル精製および直接的シーケンシングは、上記のように行われた。
【0110】
RAP-PCR
RAP-PCRは、本質的にWelsh & McClelland(Nuc. Acid Res. 18:7213, 1990; Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90:10710, 1993)により記載されているように、行われた。オリゴヌクレオチド配列は、付録2に記載されている。RT反応について、2 μl RNAを、10 ng/μl オリゴヌクレオチド、10 mM ジチオスレイトール、500 μm 各dNTP、25 mM トリス-HCl pH 8.3、75 mM KClおよび3 mM MgCl2を含む10 μl 反応物において用いた。反応混合物を、70℃で5分間および37℃で5分間、インキュベートし、その後、200ユニット Superscript RT酵素(Life Technologies)を添加した。37℃でのインキュベーションを55分間、続け、72℃での5分間のインキュベーションで反応を終わらせた。
【0111】
RT混合物を希釈して、8 ng/μl オリゴヌクレオチド、300 μm 各dNTP、15 mM トリス-HCl pH 8.3、65 mM KCl、3.0 mM MgCl2および5ユニットTaq DNAポリメラーゼ(PE Biosystems)を含む50 μl PCR反応物を得た。サイクリング条件は、94℃で5分間、40℃で5分間および72℃で1分間を1回、続いて、94℃で1分間、56℃で2分間および72℃で1分間を40回繰り返し、ならびに72℃で5分間を1回であった。RAP-PCR後、15 μl RT-PCR産物を3% NuSieveアガロースゲル(FMC BioProducts, Heerhugowaard, The Netherlands)上に並んで流した。異なって示された断片をQiaquick Gel Extractionキット(Qiagen, Leusden, The Netherlands)でゲルから精製し、pCR2.1ベクター(Invitrogen, Groningen, The Netherlands)に製造会社からの使用説明書に従ってクローニングした。
【0112】
配列分析
ベクターpCR2.1(Invitrogen)にクローニングされたRAP-PCR産物をM13特異的オリゴヌクレオチドでシーケンシングした。RT-PCRにより得られたDNA断片をQiaquick Gel Extractionキット(Qiagen, Leusden, The Netherlands)を用いてアガロースゲルから精製し、PCRに用いられた同じオリゴヌクレオチドで直接的にシーケンシングした。配列分析は、Dyenamic ETターミネーターシーケンシングキット(Amersham Pharmacia Biotech, Roosendaal, The Netherlands)およびABI 373自動DNAシーケンサー(PE Biosystem)を用いて行われた。すべての技術は、製造会社の使用説明書に従って行われた。
【0113】
SARSウイルスを診断するためのRT-PCR
SARSウイルス「遺伝物質」の増幅について、本発明者らは以下のプライマーを用いた:

【0114】
これらのプライマーは、ポリメラーゼ遺伝子(orf 1ab)の149 bp断片を増幅する:

【0115】
これらのプライマーは、スパイクタンパク質遺伝子(S)における728 bpの領域を増幅する。
【0116】
これらのプライマーは、ポリメラーゼ遺伝子(orf 1ab)の149bp断片を増幅する。RT-PCR、ゲル精製、および直接的シーケンシングは上記のように行われた。
【0117】
系統発生解析
すべての系統樹について、DNA配列をClustalWソフトウェアパッケージを用いて整列させ、最尤系統樹を、100個のブートストラップおよび3個のジャンブルを用いるPhylip 3.5プログラムのDNA-MLソフトウェアパッケージを用いて作製した15。系統樹の作製に用いられたTGEV、PEDV、229E、AIBV、BoCoおよびMHVについて以前に公開された配列は、GenBankから入手可能である。
【0118】
実施例2:SARSウイルスを同定するための方法
検体収集
ウイルス単離物を見出すために、好ましくは、ヒト、肉食動物(イヌ、ネコ、イタチ、アザラシなど)、ウマ、反芻動物(ウシ、ヒツジ、ヤギなど)、ブタ、ウサギ、鳥類(家禽、ダチョウなど)由来の、鼻咽頭吸引液、咽頭および鼻腔スワブ、気管支肺胞洗浄液、血清および血漿試料、ならびに便を調べるべきである。鳥類からは、排泄腔スワブおよび糞も調べられうる。血清は、ELISAのような免疫学的アッセイ、RT-PCRのような分子に基づいたアッセイ、およびウイルス中和アッセイのために収集されるべきである。
【0119】
収集されたウイルス検体を5 ml ダルベッコMEM培地(BioWhittaker, Walkersville, MD)で希釈し、ボルテックスミキサーで1分間、徹底的に混合した。懸濁液を840 x gで10分間、遠心分離した。沈澱物を、免疫蛍光技術のために、マルチスポットスライド(Nutacon, Leimuiden, The Netherlands)上に広げ、上清をウイルス単離に用いた。
【0120】
ウイルス単離
ウイルス単離について、Vero-118細胞またはtMK細胞(RIVM, Bilthoven, The Netherlands)を、10%ウシ胎児血清(BioWhittaker, Vervier, Belgium)を追加した下記の培地を含む24穴プレート含有スライドガラス(Costar, Cambridge, UK)において培養した。接種の前に、プレートをPBSで洗浄し、0.52グラム/リットル NaHCO3、0.025 M Hepes(Biowhittaker)、2 mM L-グルタミン(Biowhittaker)、200ユニット/リットル ペニシリン、200 μg/リットル ストレプトマイシン(Biowhittaker)、1グラム/リットル ラクトアルブミン(Sigma-Aldrich, Zwijndrecht, The Netherlands)、2.0グラム/リットル D-グルコース(Merck, Amsterdam, The Netherlands)、10グラム/リットル ペプトン(Oxoid, Haarlem, The Netherlands)および0.02%トリプシン(Life Technologies, Bethesda, MD)を追加したハンクス塩含有イーグルのMEM(ICN, Costa mesa, CA)を供給した。プレートを、患者試料の上清でウェルあたり0.2 mlの3連で、接種し、続いて、840 x gで1時間、遠心分離した。接種後、プレートを37℃で最高1〜3日間、インキュベートし、培養物をCPEについて毎日、調べた。広範なCPEは、一般的に24時間以内に観察され、単層由来の細胞の脱離を含んだ。
【0121】
SARSのウイルス培養
上記のような培地におけるtMK細胞またはVeroクローン118細胞の集密以下の単層に、CPEを示した試料の上清を、または患者もしくは人工的に感染したサルから採取された試料を接種した。
【0122】
ウイルス特徴付け
EM分析について、ウイルスを、感染した細胞培養上清から、微量遠心機において4℃、17000 x gで濃縮し、その後、ペレットをPBS中に再懸濁し、ネガティブコントラストEMにより検査した。
【0123】
間接的IFAによる抗原検出
ウイルスを、24穴スライド含有スライドガラスにおいてVero-118細胞で培養した。これらのスライドガラスをPBSで洗浄し、室温で1分間、アセトン中で固定させた。
【0124】
PBSでの洗浄後、スライドを、SARS患者血清と37℃で30分間、インキュベートした。本発明者らは、患者血清を用いたが、抗体を、ケナガイタチ(ferret)、ヤギおよびウサギ(ポリクローナル抗体について)ならびにマウスおよびハムスター(モノクローナル抗体について)のような様々な動物において産生することができ、抗体の作業希釈は、各免疫化ごとに変化してもよい。PBSでの3回の洗浄および水道水での1回の洗浄後、スライドを、FITC標識ヤギ抗ヒト抗体と37℃で30分間、インキュベートした。PBS中での3回の洗浄および水道水中での1回の洗浄後、スライドを、グリセロール/PBS溶液(Citifluor, UKC, Canterbury, UK)に包含させ、カバーをかけた。スライドをAxioscop蛍光顕微鏡(Carl Zeiss B.V., Weesp, the Netherlands)を用いて分析した。
【0125】
間接的IFAによるヒトにおける抗体の検出
ウイルス特異的抗体の検出について、SARSウイルス感染Vero細胞をカバースリップ上でアセトンで固定させ(上記のように)、PBSで洗浄し、1〜16の希釈度における血清試料と37℃で30分間、インキュベートした。PBSでの2回の洗浄および水道水での1回の洗浄後、スライドを、ヒト抗体に対するFITC標識二次抗体(Dako)と、37℃で30分間、インキュベートした。スライドを上記のように処理した。
【0126】
抗体を蛍光色素で直接的に標識してもよく、結果として、直接的免疫蛍光アッセイを生じる。FITCは、任意の蛍光色素と置き換えることができる。この技術は、哺乳類、反芻動物、鳥類または他の種のような他の動物における抗体に適用されてよく、適切な種に対する二次抗体が用いられることを仮定している。
【0127】
ELISAによるヒトにおける抗体の検出
患者試料
SARSをもつ患者の4つの試料、日常的血清学的ウイルス学からの患者の8つの試料;実験的に感染したサル由来の試料(プレ血清、感染から9日後)。
【0128】
結合体
結合体は、多価抗IgM(サルと交差反応性)およびモノクローナル抗IgM(サルと非交差反応性)の両方について多数の濃度において試験された。
【0129】
血清を、血清希釈液で1:200に希釈し、サル血清を1:100、1:200および1:400に希釈した。
【0130】
血清インキュベーション37℃で1時間、結合体インキュベーション37℃で1時間、およびTMB(すぐ使用できる):室温で30分間。反応は、硫酸(0.5 M)で停止させた。
【0131】
結果は、目により解釈された。4つのSARS-IgM陽性血清(感染細胞上でIFにより検出される場合)のうちの3つは、陰性対照血清より高いスコアであった。1つの血清は、陰性対照の一部によっても達したスコアであった。9日後のサル血清は、反応しなかったが、12日後のは反応した。このように、この研究は、ヌクレオキャプシドの直接的結合で、IgM捕獲方法の開発が可能であることを示している。
【0132】
さらに、この型のアッセイは、当業者により多数の形式で行われうる。アッセイは、ヒトおよび動物からのIgAならびにIgG抗体の検出に拡張されてもよく、限定されるわけではないが、精製された組換えNタンパク質のような異なる捕獲抗原を利用することができる。
【0133】
動物免疫
新たに発見されたウイルスに対するカニクイザル(Cynomologous macaque)特異的抗血清は、カニクイザルの培養ウイルスの実験的気管内設置により産生された。1〜2週間後、動物は採血された。血清は、上記のように間接的IFAによりSARSウイルスに対する反応性について試験された;感染していない対照細胞は、血清の特異性を保証するために用いられた。他の動物種もまた、特異的抗体調製物の作製に適しており、他の抗原調製物が用いられうる。
【0134】
RNA単離
RNAは、感染した細胞培養物の上清またはショ糖勾配画分から、High Pure RNA単離キットを用いて製造会社(Roche Diagnostics, Almere, The Netherlands)からの使用説明書に従って、単離された。RNAはまた、当分野において公知の他の手順に従って単離されうる(Current Protocols in Molecular Biology)。
【0135】
RT-PCR
1段階RT-PCRを、50 mM トリスHCl pH 8.5、50 mM NaCl、4 mM MgCl2、2 mM ジチオスレイトール、200 μM 各dNTP、10ユニット組換えRNAsin(Promega, Leiden, the Netherlands)、10ユニットAMV RT(Promega, Leiden, The Netherlands)、5ユニットAmplitaq Gold DNAポリメラーゼ(PE Biosystems, Nieuwerkerk aan de Ijssel, The Netherlands)および5 μl RNAを含む50 μl 反応物において行った。サイクリング条件は、42℃で45分間および95℃で7分間を1回、95℃で1分間、42℃で2分間および72℃で3分間を40回繰り返し、ならびに72℃で10分間を1回であった。
【0136】
診断的PCRに用いられるプライマー:
SARSウイルス「遺伝物質」の増幅について、本発明者らは以下のプライマーを用いた:

これらのプライマーは、ポリメラーゼ遺伝子(orf 1ab)の149 bp断片を増幅する。RT-PCR、ゲル精製および直接的シーケンシングは、上記のように行われた。
【0137】
配列分析
配列分析は、Dyenamic ETターミネーターシーケンシングキット(Amersham Pharmacia Biotech, Roosendaal, The Netherlands)およびABI 373自動DNAシーケンサー(PE Biosystem)を用いて行われた。すべての技術は、製造会社の使用説明書に従って行われた。PCR断片は、PCRに用いられた同じオリゴヌクレオチドで直接的にシーケンシングされた、または断片は、Qiaquick Gel Extractionキット(Qiagen, Leusden, The Netherlands)でゲルから精製され、pCR2.1ベクター(Invitrogen, Groningen, The Netherlands)において、製造会社からの使用説明書に従ってクローニングされ、その後、M13特異的オリゴヌクレオチドでシーケンシングされた。
【0138】
ELISAによるヒト、哺乳類、反芻動物または他の動物における抗体の検出
SARSウイルス由来の組換えタンパク質が抗原として好ましい。しかしながら、精製されたヌクレオキャプシドもまた用いられうる。抗体検出に適した抗原は、SARSウイルスに曝された、または感染した患者の任意のSARS特異的抗体と結合する任意のSARSタンパク質を含む。本発明の好ましい抗原は、主に、SARSに曝された患者において免疫応答を生じ、それゆえに、典型的には、患者の抗体により最も容易に認識されるものを含む。特に好ましい抗原は、SARSのN、Sタンパク質を含む。
【0139】
免疫学的技術に用いられる抗原は、天然の抗原でありうる、またはその改変されたバージョンでありうる。分子生物学の周知の技術は、免疫学的技術に用いられうる抗原の改変されたバージョンを作製するためにSARS抗原のアミノ酸配列を変えるために用いられうる。
【0140】
遺伝子をクローニングするための、遺伝子を発現ベクターへおよび発現ベクターから操作するための、ならびに異種性宿主において遺伝子によりコードされるタンパク質を発現させるための方法は周知であり、これらの技術は、診断アッセイでの使用の組換え抗原を作製するために宿主において抗原をコードするクローニングされた遺伝子を発現させるための、発現ベクターおよび宿主細胞を供給するために用いられうる。例えば、Molecular cloning, A laboratory manual and Current Protocols in Molecular Biologyを参照されたい。
【0141】
様々な発現系がSARS抗原を産生するために用いられうる。例えば、大腸菌(E. Coli)、枯草菌(B. subtilis)、酵母、昆虫細胞および哺乳類細胞においてタンパク質を産生するのに適した様々な発現ベクターは、記載されており、いずれも、曝された患者において抗SARS抗体を検出するのに適したSARS抗原を産生するために用いられうると思われる。
【0142】
バキュロウイルス発現系は、タンパク質の必要な処理を与えるという利点をもち、それゆえに好ましい。系は、SARS抗原の発現を指示するポリヘドリンプロモーターを利用する。(Matsuura et al. 1987, J. Gen. Virol. 68:1233-1250)。
【0143】
組換えバキュロウイルスにより産生される抗原は、患者において抗SARS抗体を検出するための様々な免疫学的アッセイに用いられうる。ウイルス特異的抗体の検出のための、事実上いずれの免疫学的アッセイにおいても天然のウイルスの代わりに用いられうる。アッセイは、直接的および間接的アッセイ、サンドイッチアッセイ、とりわけプレートまたはビーズを用いるもののような固相アッセイ、ならびに液相アッセイを含む。適したアッセイは、一次および二次抗体を用いるもの、ならびにプロテインAのような抗体結合試薬を用いるものを含む。さらに、様々な検出方法を本発明に用いることができ、比色定量、蛍光、リン光、化学発光、発光および放射性方法を含む。
【0144】
実施例3:動物モデル
マカク(Macaque)
4匹のカニクイザル(Cynomologous Macaque)をVero-118細胞由来ウイルスを用いる気管内設置によりSARSウイルスに感染させた。
【0145】
サルは以下の臨床症状があった:
・嗜眠
・4匹のサルのうちの1匹は重度の肺炎であった。
・鼠径部および腋窩部における軽度から重度の発疹
・水様便
【0146】
10〜16日後、サルを安楽死させた。組織を調べ、以下のことを見出した:
・肺胞が血清で満たされ、それらの構造が崩壊し、気管支間質性肺炎と一致している(図5およびbを参照)
・肺における多細胞合胞体(図5c)
・腎臓における多細胞合胞体(図5d)
・小腸の拡張
【0147】
ウイルスは、組織試料上においてRT-PCRを用いて、および試料を培養し、続いて以下のものからの電子顕微鏡観察法により、検出された:
・肺
・鼻腔スワブ
・咽頭スワブ
・顔
・腎臓
【0148】
EM結果は、カニクイザルから回収されたウイルスが、それらを感染させるために用いられたウイルスと同一の形態をもったことを実証している。
【0149】
これは、カニクイザルが、治療的または予防的目的についての薬学的調製物の効力を試験するための動物モデルとして用いられうることを実証している。
【0150】
ネコおよびケナガイタチ
飼いネコ(n=6)およびケナガイタチ(n=6)に、SARSで死亡した患者5688から得られた106組織培養感染量(TCID50)SCVを気管内に接種し、インビトロでVero118細胞上で4回、継代した。鼻腔、咽頭および直腸スワブを感染後の異なる日数(d.p.i.)において採取した。各群の4匹の動物を4 d.p.i.に安楽死させ、標準的プロトコールに従って剖検を行った。SCV接種ネコに臨床的徴候は観察されなかったが、6匹のケナガイタチのうちの3匹は、2 d.p.i.から4 d.p.i.まで嗜眠性になり、これらのケナガイタチのうちの1匹は、4 d.p.i.に死んだ。すべてのネコおよびケナガイタチ(図7)は、RT-PCRにより決定される場合、2 d.p.i.に始まって、それぞれ、10日目および14日目まで、咽頭からSCVを排出した。ウイルスは、2 d.p.i.〜8 d.p.i.に採取されたすべての咽頭スワブならびに4 d.p.i.および6 d.p.i.における2匹のネコの鼻腔スワブから単離された。SCVは、ケナガイタチからの鼻腔スワブにおいても、ネコまたはケナガイタチの直腸スワブにおいても、検出されなかった。気道の感染は、試験されたすべての動物において明らかであった;SCVをそれらの気管および肺から単離することができた(図8)。
【0151】
1 mlの肺ホモジネートあたりの平均幾何学的ウイルス力価の定量は、ケナガイタチ(1 x 106±0.70 TCID50)と比較してSCV接種ネコ(1 x 103±0.51 TCID50)の肺において相対的に低いSCV力価を示した。組織学的に、SCV感染は、SCV感染マカクにおいてのと類似した、ただし、より軽度、特にSCV感染ネコにおいて、ではあるが、肺病変を伴い、合胞体は見出されなかった。胃腸管および尿管において、SCVはRT-PCRにより検出された(図8)。残りのSCV接種動物(群あたりn=2)の経過観察により、それらはすべて28 d.p.i.までに血清変換したことが明らかになった(中和抗体力価40〜320)。大脳内接種により乳飲みマウスを感染させる2つの試みは失敗した。
【0152】
それぞれ、接種されたネコおよびケナガイタチといっしょに飼育された接種されていないネコ(図7c、n=2)およびケナガイタチ(図7d、n=2)は、SCVに感染した;ウイルス力価は、2日目以降、徐々に増加し、6 d.p.i.〜8 d.p.i.においてピークに達した。どちらのネコも臨床的徴候を示さなかったが、28日目までに血清変換した(40および160のウイルス中和抗体力価)。両方のケナガイタチは、嗜眠および結膜炎を示し、16 d.p.i.および21 d.p.i.に死んだ。病理学的検査に基づいて、これらの2匹の動物における主な病変は、著しい肝臓リピドーシスおよびるいそうであった。これらの動物のどちらもSCV関連肺炎で死んだ証拠はなかったが、SCVが、1匹の動物の死後の肺検体から単離された。
【0153】
結論として、飼いネコおよびケナガイタチは、実験的SCV感染に感受性が高く、SCVの非接種動物への伝染が効率的に起きる。両方の種は、SARSに対する薬物またはワクチン候補を試験する動物モデルとして用いられうる可能性があるものと思われる。
【0154】
実施例4:SARS − インターフェロン実験
第一実験において、2匹のサルの4つの群を注射した。
【0155】
1. PEG-インターフェロン処置
用量:以下のスキームに従って筋内注射される3 μg/kgまたはPBS:
サル:
M001 -3日目、-1日目、+1日目および+3日目においてPBS
M002 -3日目、-1日目、+1日目および+3日目においてPBS
M003 -3日目、-1日目、+1日目および+3日目においてIFN
M004 -3日目、-1日目、+1日目および+3日目においてIFN
M005 -3日目および-1日目においてPBS、ならびに+1日目および+3日目においてIFN
M006 -3日目および-1日目においてPBS、ならびに+1日目および+3日目においてIFN
M007 -3日目、-1日目、+1日目および+3日目においてIFN
M008 -3日目、-1日目、+1日目および+3日目においてIFN
【0156】
2. 感染
0日目におけるすべてのサルのSARSコロナウイルス感染
用量:5 ml PBSにおける106TCID 50
・4 ml 気管内
・1 ml 鼻腔内
・0.5 ml 眼のそれぞれ
【0157】
3. サンプリング
a. 鼻、咽喉および直腸スワブを0日目、2日目および4日目に採取し、1 ml 輸送培地に置いた。
b. サルを4日目に安楽死させ、肺、気管気管支リンパ節および気管の試料を採取した。
【0158】
ウイルスを培養し、Vero-118細胞において力価を決定し、これらを細胞変性的影響についてスコア化した。
【0159】
感染後0日目、2日目および4日目において採取された3つの異なるスワブ(鼻、咽喉および直腸)を用いるウイルス力価決定、ならびに感染後4日目における肺、気管気管支リンパ節および気管からのウイルスの単離は、2匹の対照サル(M001およびM002)が感染に成功したことを実証した(表1)。
【0160】
(表1)PEG化インターフェロンで処理されたカニクイザルによるSARS関連コロナウイルスの排泄

感染後の日数
【0161】
1. 対照動物(M001、M002)
・2日目および4日目における咽頭スワブはすべて陽性であった。
・動物M001はまた、鼻腔スワブ(2日目および4日目)からのSARSコロナウイルスの単離に関して陽性であることが見出された。
・直腸スワブは陽性ではなかった。
・両方の対照動物(M001およびM002)由来の肺、気管および気管気管支リンパ節からの組織検体は、動物が屠殺された4日目において陽性であった。肺組織ホモジネートは、Vero培養物が接種後速やかに陽性であることが見出されたため、高力価でウイルスを含んでいた。
【0162】
2. 予防的に処置された動物(M003、M004、M007 & M008)
・感染後0日目、2日目および4日目に採取された咽頭スワブにおけるウイルス単離試験に関して陰性(表1)
・鼻腔スワブは、これらの動物において陽性とは見出されなかった。
・4日目における動物M004の1つの直腸スワブのみが、陽性のスコアがつけられた(これらの培養物は多量の細菌混入を示したため、PCRアッセイにおいて確認されなければならない)(直腸スワブの培養物)。
・M003およびM004の気管から単離されたウイルスは無い。
・ウイルスは、M004の気管気管支リンパ節から単離されたが、M003からは単離されなかった。
・ウイルスは、M003およびM004の肺から単離されたが、肺由来の試料を接種されたVero-118細胞にCPEが観察されるのにより長い時間がかかったように、対照より低い力価である(PCRにより確認された − 下の図A)。
【0163】
3. 治療的に処置された動物(M005およびM006)
SARSコロナウイルス
・感染後2日目に採取された咽頭スワブから単離された。
・感染後4日目に採取された咽頭スワブから単離されなかった。
・動物M003およびM004からよりも、動物M005およびM006から、より多くの組織試料からより高い力価で単離された(定量はPCRにより確認された)。
【0164】
HEにより染色された肺切片の病理学的検査により、動物M003の肺の低レベル感染が確認された。
【0165】
第二の実験において、カニクイザルの処置に先行して、Vero細胞におけるインビトロ用量設定実験を行った。
【0166】
インビトロ研究
Vero細胞を含むウェルをPEG化組換えIFN-α(PEG-Intron, Shering Corp)で、3連で16時間、処理し、SARSで死亡した患者5688から得られたSCVのウェルあたり100 TCID50を感染させた。16時間後、上清を除去し、細胞を、10%中性緩衝ホルマリンおよび70%エタノールにより固定させた(10 min 室温)。SCV抗原陽性細胞を、組織学の欄に記載されているように、免疫組織化学により可視化した。ウェルあたりSCV感染細胞の数は、平均±s.d.として要約された。
【0167】
マカク研究
カニクイザルの3つの群に、リン酸緩衝食塩水(PBS)の5 mlに懸濁された1 x 106 TCID50 SCVを気管内に感染させた。1つ(対照群、n=4)は、PBSを筋内注射し、2つ(予防群、n=6;曝露後の群、n=4)は、PEG化IFN-αを3 μg/kgの用量で注射した。予防群はSCV感染後-3日目、-1日目、1日目および3日目において、曝露後の群はSCV感染後1日目および3日目において、PEG化IFN-αを注射した。各群からの4匹のマカクを感染後4日目に安楽死させた。動物実験の承認は、Institutional Animal Welfare Committeeから得られた。-3日目、-2日目、-1日目、0日目、+2日目および+4日目において、マカクをケタミンで麻酔し、鼠径静脈から10 mlの血液を採り、咽頭スワブを採取して1 mlの輸送培地に置いた(Fouchier, R.A. et al., J. Clin. Microbiol. 38, 4096-5001)。咽頭スワブは、RT-PCR分析まで-70℃に凍結された。PEG化IFN-αレベルは、標準としてPEG-Intronを用いるELISAを用いて測定され、ネオプテリンのレベルは、van Gool et al.(Psychiatry Res. 119, 125-132, 2003)により記載されているように測定された。剖検は、標準プロトコールに従って行われた;各サルの1つの肺を、気管支内の挿管により10%中性緩衝ホルマリンで膨張させ、10%緩衝ホルマリン中に一晩、吊した。試料を、標準的様式で収集し(肺の頭の部分から1つ、中間部分から1つ、および尾の部分から2つ)、パラフィンに包埋し、5 μmに切断し、免疫組織化学(下記参照)のために用いた、またはヘマトキシリンおよびエオシン(HE)で染色した。肺におけるSCV感染関連炎症の半定量的評価について、各HE染色切片を10x対物レンズを用いる光学顕微鏡観察法により炎症性病巣について検査した。各病巣は、サイズ(1:10x対物レンズの領域以下、2:10x対物レンズの領域より大きく、かつ2.5x対物レンズの領域以下、3:2.5x対物レンズの領域より大きい)および炎症の重症度(1:軽度、2:中位、3:著しい)についてスコアをつけた。炎症性病巣についての累積スコアは、動物あたりの総スコアを提供した。切片は、マカクのアイデンティティの知識無しに検査された。曝露後の群における1匹のサルの肺切片は、食物の残りの死前の吸引からの炎症の存在のために評価されなかった。対照群マカク由来の肺試料は、Kuiken, T. et al.(Lancet 362, 263-270, 2003)により記載されているように、透過顕微鏡観察法のために用いられた。
【0168】
他の肺から採取された3つの肺組織試料(肺の頭の部分から1つ、中間部分から1つ、および尾の部分から1つ)は、Polytron PT2100グラインダー(Kinematica)を用いて2 ml 輸送培地にホモジナイズされた。低速度の遠心分離後、ホモジネートは、10倍段階希釈におけるVero118細胞培養物への接種まで-70℃に凍結された。単離されたウイルスのアイデンティティは、上清のRT-PCRによるSCVと確認された。
【0169】
免疫組織化学
組織学に用いられたのと同じホルマリン固定パラフィン包埋肺試料 − 肺の頭の部分から1つ、中間部分から1つ、および尾の部分から2つ − を、Kuiken et al.(前記)により記載されているように、5 μmに切断し、回復期のSARS患者由来のビオチン化精製ヒトIgG、陰性対照ビオチン化精製ヒトIgG、または希釈緩衝液を用いてSCV抗原を染色した。各肺切片における肺実質の、25個の任意に選択された20x対物レンズ視野が、マカクのアイデンティティの知識無しに、SCV抗原発現の存在について光学顕微鏡観察法により検査された。各動物についての累積スコアは、100領域あたりの陽性領域の数(%)として表された。対照群におけるマカク由来の選択された肺切片は、標準免疫組織化学的手順に従って、上皮細胞の同定について抗サイトケラチンモノクローナル抗体AE1/AE3(Neomarkers)で染色された。
【0170】
SCV RT-PCR
SCVの核タンパク質(NP)遺伝子に特異的なプライマーおよびプローブでのRT-PCRは、Kuiken et al.(前記)により記載されているように、スワブにおいてSCVを定量するために用いられた。SCV貯蔵物の段階希釈は、標準として用いられ、結果は、SCV eq/mlスワブ培地として表された。
【0171】
結果
Vero細胞における用量設定研究(3つの別々の実験)は、ウェルあたりのSCV感染細胞の数への用量依存性効果を示した。有意な効果は、1 ng/ml 薬物の用量ですでに観察されたが、感染細胞の数における劇的な低下は、1 ng/mlより高い用量で観察された(図11a)。
【0172】
対照マカクは、好中球およびまれな合胞体と混合されたタンパク質豊富な浮腫液での肺胞の氾濫、肺胞および細気管支上皮の広範な喪失、ならびに時折生じる2型肺細胞肥厚化を特徴とする、多病巣性急性DAD(びまん性肺胞障害)を示した。免疫組織化学により示されているように、肺胞壁を裏打ちする扁平上皮細胞の広範なSCV抗原発現があった。それらは、連続切片におけるそれらの位置、形態およびケラチンの発現により1型肺細胞として示された。透過電子顕微鏡観察法により、典型的な内部ヌクレオキャプシド様構造をもつ直径約70 nmであるコロナウイルス様粒子が肺胞細胞に見出された。これらの細胞は、それらが肺胞腔を裏打ちする、基底膜に接近して並置される、豊富な飲小胞を含む、および − 2型肺細胞と対照的に − 層状体も微絨毛ももたないことから、1型肺細胞と同定された。6 d.p.i.において実験的に感染したマカクに以前見出されたように、広くないSCV抗原発現もまた、炎症性病巣内の肥厚性2型肺細胞に検出された。これらの組織病理学的および免疫組織化学的発見の組み合わせにより、1型肺細胞が初期感染におけるSCVの主な標的であり、DADを伴うことが示されている。
【0173】
6匹のマカクの群(予防群)への筋内注射後のPEG化IFN-αの高血漿レベルは、3 μg/kg PEG化IFN-αでの皮下注射後の患者において見出されるピークレベルと同様に、注射後1日目に到達された(図11b)(Bukowski, R.M. et al., Cancer 95, 389-396, 2002)。IFN-αはマクロファージを活性化することが知られているため(van Gool et al.、前記)、PEG化IFN-α処置後のネオプテリンの血漿レベルをマクロファージ活性化の測定として測定した。ネオプテリンレベルは、すべての動物において増加し(図11c)、処置されたマカクにおけるPEG化IFN-αの生物学的有効性を確認した。
【0174】
PEG化IFN-αの予防的使用を評価するために、PEG化IFN-α処置の開始後3日目に予防群におけるマカクをSCVに実験的に感染させ、その代わりとしてPBSで処置された4匹のマカクの対照群と、ウイルス学的および病理学的パラメーターを比較した。以前の研究が他の器官において広範なウイルス複製の証拠を提供しなかったため(Kuiper et al.、前記)、本発明者らは、調査を咽頭スワブおよび肺に限定した。すべてのパラメーターが、対照群と比較して予防群において有意に低下することを見出した。ウイルス学により、咽頭からのウイルス排出は抑止され(図12)、4 d.p.i.での肺におけるウイルス力価は有意に低下した(図13a)。免疫組織化学により、1型肺細胞におけるSCVの発現は、90%低下した(図13b)。病理学により、DADの範囲および重症度は、80%低下した(図13c)。これらのデータは、PEG化IFN-αの予防的使用が、完全ではないにしても、実質的に、実験的に感染したマカクの1型肺細胞をSCV感染から保護し、ウイルス排出が抑止され、かつ肺の病変の重症度が低下することを実証している。
【0175】
曝露後の抗ウイルス剤としてのPEG化IFN-αの効力を試験するために、実験的SCV感染後1日目および3日目に4匹のマカクの曝露後の群へPEG化IFN-αを筋肉内に注射し、予防群と同じ方法でそれらを評価した。咽頭からのSCVの排出は、対照群と比較して有意に低下したレベルで2 d.p.i.においてのみ見出された(図12)。さらに、4 d.p.i.での肺におけるウイルス力価は、有意に減少したが、残りのパラメーターはそれほど低下しなかった(図13a〜c)。これらの結果は、曝露後1日目でのPEG化IFN-αの使用が、実験的に感染したマカクの1型肺細胞をSCV感染から保護するが、予防的使用より効果は少ないことを示している。
【0176】
この研究において、本発明者らは、1型肺細胞が、その疾患の初期において、カニクイザルのSCV感染についての主な標的細胞であること、およびPEG化IFN-αが1型肺細胞をSCV感染から保護することを示した。第一点 − 第一期の標的細胞としての1型肺細胞 − は4 d.p.i.での1型肺細胞におけるSCVの広範な存在から明らかである。ヒトおよびマカクにおける病理学的研究が合わせて考えられる場合、出現する肺病変の時間的筋道は以下のとおりである:ウイルス感染およびその後の1型肺細胞の喪失;高度のタンパク性の浮腫液での肺胞腔の氾濫を特徴とする、急性DAD;2型肺細胞肥厚を特徴とする慢性DAD;および重症例において、広範な肺線維症。この事象の筋道は、様々な原因からの急性肺損傷に対するステレオタイプの肺胞の反応に対応している(Ware, L.B. and Matthay, M.A., N. Eng. J. Med. 342, 1334-1349, 2000)。
【0177】
第二点 − PEG化IFN-αは1型肺細胞をSCV感染から保護する − はマカクのSCV接種の3日前に開始されたPEG化IFN-α治療の有益な効果に基づいている。これらのマカクにおいて、1型肺細胞のSCV感染および肺病変の重症度は有意に低下し(図13)、ウイルス排出は抑止された(図12)。PEG化IFN-α処置は、このように、SARSの結果に重要な効果を生じる。それゆえに、SCV感染の初期におけるPEG化IFN-α治療によるウイルス負荷の低下は、肺線維症を伴うSARSの重篤なまたは致死的な結果を防ぐのを助ける。可能性のある疾患緩和に加えて、PEG化IFN-α治療によるウイルス排出の低下はまた、ヒト集団におけるSCVの蔓延を低減させることにより、疫学的効果も生じる。PEG化IFN-α保護の機構が、直接的抗ウイルス活性によるのかまたは免疫刺激性効果によるのかは、まだ決定されていない。
【0178】
PEG化IFN-αでの効果的な曝露後処置が開始されうる時間間隔は、実験的に感染したマカクにおいてよりヒトにおいて長い可能性がある。これは、肺におけるSCV感染のピークが、これらのマカクにおける2 d.p.i.(図12)と比較して、ヒトにおいて約16 d.p.i. − 6日間の平均インキュベーション期間(Booth, C.M. et al., JAMA 289, 2801-2809, 2003)および症状の発生後10日目におけるウイルス排出のピーク(peiris, J.S.M. et al., Lancet 361, 1767-1772, 2003)に基づいた − であることからである。
【0179】
結論として、これらの研究は、1型肺細胞が、その疾患の初期におけるマカクのSCV感染についての主な標的細胞であること、およびPEG化IFN-α、市販されている抗ウイルス薬、がこれらの細胞をSCV感染から保護することを示している。PEG化IFN-αでの予防的または曝露後初期の処置は、医療労働者およびSCVに曝された可能性のある他の人々のSCV感染への影響を低減させること、およびヒト集団におけるウイルスの蔓延を制限することを助けるものと思われる。
【図面の簡単な説明】
【0180】
【図1】単離物HK39849のヌクレオチド配列について、その遺伝学的に最も近い類縁体との系統発生的関係。系統樹は、100個のブートストラップおよび3個のジャンブルを用いる最尤解析により作製された。ヌクレオチド変化の数を表す尺度は各系統樹について示されている。
【図2】SARSウイルス部分の13個のクローン由来のヌクレオチド配列。また、ポリペプチドの推定上のポリペプチド配列、および可能であれば、推定上のポリペプチドとコロナウイルス科の別のメンバーとのアライメントも含まれる。
【図3】ゲノムに関して図2に記載のヌクレオチド配列の位置および他のコロナウイルスとの類似性に基づいたゲノムのオープンリーディングフレームの推定上の指標を示す、SARSウイルスゲノムの概略的マップ。スパイクとヌクレオキャプシドの間の領域についての遺伝子構造は不確定である。EMC1〜EMC14およびRDG 1:図2に提供されている配列。CDCおよびBIN1〜2:配列は、それぞれ、CDC(Dr. W. Bellini、Centers for Disease Control & Prevention, National Centers for Infectious Diseases, 1600 Clifton Road, Atlanta GA 30333, USA)およびBNI(Dr. C. DrostenおよびProf. Dr. H. Schmitz、Bernard Nocht Institute, Bernard-Nocht Str. 74, D-20359 Hamburg, Germany)からの私信により提供された。
【図4】SARSウイルスおよび密接に関連したコロナウイルスのSタンパク質のN末端のアミノ酸比較。HCV OC43=ヒトコロナウイルス単離物OC43;MHV A59:マウス肝炎ウイルス単離物A59、BCV=ウシコロナウイルス。
【図5】感染した細胞培養物の濃縮された上清から得られたSARSウイルスのネガティブコントラストEM写真。
【図6】SARSコロナウイルスの感染が、カニクイザルにおいて肺および腎臓病変を引き起こす。ホルマリン固定パラフィン包埋組織は、ヘマトキシリンおよびエオシンで染色され、光学顕微鏡観察法により調べられた。肺のびまん性肺胞障害(a)があり、肺胞腔(b)は、炎症性細胞および細胞片と混合された高度にタンパク性の浸出液で氾濫している。細気管支の管腔(c)において、および周囲の肺実質において、いくつかの多核合胞体細胞がある(矢印)。腎臓の集合管(d)は、同様の多核合胞体細胞を含む。原型の倍率:a x 12.5; b x 50; c x 100; d x 250。
【図7】飼いネコおよびケナガイタチのSCVでの感染。ネコ(A、n=6)およびケナガイタチ(B、n=6)に、呼吸経路を通して106 TCID50を感染させ、咽頭スワブにおけるSCVの分泌を、リアルタイムPCRにより定量した。群あたり4匹の動物を、4日目に安楽死させたが、残りの2匹は、28日目まで分析した。それぞれ、SCV感染ネコおよびケナガイタチに曝された非感染ネコ(C、n=2)および非感染ケナガイタチ(D、n=2)におけるSCV分泌。リアルタイムPCRの結果は、力価を決定されたSCV標準と比較して示され、TCID50/mlとして示されている(N.D.、行われず)。
【図8】実験的にSCV感染したネコおよびケナガイタチの死後組織におけるSCVの検出。
【図9】マカクにおけるSARSコロナウイルス(SCV)複製に対するPEG化IFN-αの影響。PBS(A)、-3日目、-1日目、+1日目および+3日目におけるPEG-Intron(BおよびC)、ならびにSCV感染後+1日目および+3日目におけるPEG-Intronで処置されたカニクイザルから採取された、咽頭スワブ(感染後0日目、2日目および4日目、黒のバー)および肺(4日目、白のバー)におけるSCV検出。個々のマカクが示されている(群あたりn=2)。ウイルス単離(VI)の結果は、パネルの下方部分に示されており、リアルタイムPCRの結果は、パネルの上方部分に示されている(n.a.、該当なし)。
【図10】SARSコロナウイルスGenBankアクセッション番号AY274119のヌクレオチド配列。
【図11】インビトロでのSCVに対するPEG化IFN-αの抗ウイルス活性およびカニクイザルにおけるその生物学的活性。(a)インビトロでのSCV感染に対するPEG化IFN-αの効果。同様の結果が3つの別々の実験で得られた。(b)-3日目および-1日目においてPBS(対照群;白の四角、n=4)またはPEG化IFN-α(予防群;黒の四角、n=4)で処置されたマカクにおけるPEG化IFN-αの薬物動態学的分析。(c)-3日目および-1日目においてPBS(対照群;白の四角、n=4)またはPEG化IFN-α(予防群;黒の四角、n=4)で処置されたマカクにおけるネオプテリンの誘導。データは、平均±s.d.として表されている;**、対照と比べてP<0.01。
【図12】カニクイザルにおけるSCV排出へのPEG化IFN-αの影響。PBS(対照群、n=4)、予防的に(n=6)または曝露後に(n=4)PEG化IFN-αで処置されたマカクから0 d.p.i.、2 d.p.i.または4 d.p.i.において採取された咽頭スワブにおけるSCV検出。データは、平均±s.d.として表されている;*、2 d.p.i.において対照群と比べてP<0.05、**、2 d.p.i.において対照群と比べてP<0.01。
【図13】SCV感染カニクイザルの肺におけるSCV複製、ウイルス抗原発現および組織学的病変に対するPEG化IFN-αの影響。(a)肺ホモジネートのSCV力価決定。(b)肺切片におけるSCV感染細胞の免疫組織化学的検出。(c)肺切片の組織病理学的スコア。SCV感染マカクは、予防的に(n=4)もしくは曝露後に(n=4)PEG化IFN-αで処置された、またはPBSで(対照群、n=4)処置された。データは、平均±s.d.として表されている;*、対照群と比べてP<0.05、**;対照群と比べてP<0.01。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
図2に記載の1つまたは複数の配列を含む、本質的に単離された哺乳類プラス鎖一本鎖RNAウイルス(SARS)。
【請求項2】
コロナウイルスに属する単離されたプラス鎖一本鎖RNAウイルス(SARS)であって、ウイルスの核酸配列を決定すること、且つそれを最尤系統樹が100個のブートストラップおよび3個のジャンブルを用いて作製されている系統樹解析において検定すること、ならびにそれが、BoCo(ウシコロナウイルス)、MHV(マウス肝炎ウイルス)、AIBV(鳥類伝染性気管支炎ウイルス)、PEDV(ブタ流行性下痢ウイルス)、TGEV(伝染性胃腸炎ウイルス)または229E(ヒトコロナウイルス229E)のウイルス単離物に相当するよりも図2に記載の配列を有するウイルス単離物に系統発生的により近く相当することを見出すことによって、それらに系統発生的に相当すると同定することができる、単離されたプラス鎖一本鎖RNAウイルス(SARS)。
【請求項3】
核酸配列が、ウイルスのウイルスタンパク質をコードするオープンリーディングフレーム(ORF)を含む、請求項1または2記載のウイルス。
【請求項4】
オープンリーディングフレームが、ウイルスのレプリカーゼ、核キャプシドタンパク質およびスパイクタンパク質をコードするORFの群より選択される、請求項3記載のウイルス。
【請求項5】
非定型肺炎を有するヒトから単離することができる、請求項1〜4のいずれか一項記載のウイルス。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項記載のウイルスから得ることができる、単離されたまたは組換えの核酸またはそのSARSウイルス特異的機能性断片。
【請求項7】
請求項6記載の核酸を含むベクター。
【請求項8】
請求項6記載の核酸または請求項7記載のベクターを含む宿主細胞。
【請求項9】
請求項6記載の核酸によりコードされる、単離されたまたは組換えのタンパク性分子またはそのSARSウイルス特異的機能性断片。
【請求項10】
請求項9記載のタンパク性分子またはSARSウイルス特異的機能性断片を含む抗原。
【請求項11】
請求項10記載の抗原に対して特異的に誘導される抗体。
【請求項12】
ウイルス単離物またはその成分を請求項11記載の抗体と反応させる段階を含む、ウイルス単離物をSARSウイルスとして同定する方法。
【請求項13】
ウイルス単離物またはその成分を請求項6記載の核酸と反応させる段階を含む、ウイルス単離物をSARSウイルスとして同定する方法。
【請求項14】
試料を請求項6記載の核酸または請求項11記載の抗体と反応させることにより、哺乳類試料においてウイルス単離物またはその成分の存在を決定する段階を含む、哺乳類のSARS感染をウイルス学的に診断する方法。
【請求項15】
哺乳類試料において、請求項9記載のタンパク性分子もしくはその断片または請求項10記載の抗原と該試料とを反応させることによって、SARSウイルスまたはその成分に対して特異的に誘導される抗体の存在を決定する段階を含む、哺乳類のSARS感染を血清学的に診断する方法。
【請求項16】
請求項1〜5のいずれか一項記載のウイルス、請求項6記載の核酸、請求項9記載のタンパク性分子もしくはその断片、請求項10記載の抗原、および/または請求項11記載の抗体を含む、SARS感染を診断するための診断キット。
【請求項17】
請求項1〜5のいずれか一項記載のウイルス、請求項6記載の核酸、請求項7記載のベクター、請求項8記載の宿主細胞、請求項9記載のタンパク性分子もしくはその断片、請求項10記載の抗原、または請求項11記載の抗体の、薬学的組成物を製造するための使用。
【請求項18】
SARSウイルス感染の処置または予防のための薬学的組成物を製造するための請求項17記載の使用。
【請求項19】
非定型肺炎の処置または予防のための薬学的組成物を製造するための請求項17または18記載の使用。
【請求項20】
請求項1〜5のいずれか一項記載のウイルス、請求項6記載の核酸、請求項7記載のベクター、請求項8記載の宿主細胞、請求項9記載のタンパク性分子もしくはその断片、請求項10記載の抗原、または請求項11記載の抗体を含む、薬学的組成物。
【請求項21】
個体に請求項20記載の薬学的組成物を与える段階を含む、SARSウイルス感染の処置または予防のための方法。
【請求項22】
個体に請求項20記載の薬学的組成物を与える段階を含む、非定型肺炎の処置または予防のための方法。
【請求項23】
図2に記載の配列EMC-1、EMC-2、EMC-3、EMC-4、EMC-5、EMC-6、EMC-7、EMC-13および/もしくはEMC-14またはそれらの相同体を含むRNA配列によりコードされる、ウイルスのレプリカーゼ。
【請求項24】
図2に記載の配列EMC-7の翻訳2およびRDG 1の翻訳1またはその相同体として記載されるアミノ酸を含む、ウイルススパイクタンパク質。
【請求項25】
図2に記載の配列EMC-8またはその相同体を含むRNA配列によりコードされる、ウイルス核キャプシドタンパク質。
【請求項26】
図2に記載の配列EMC-9、EMC-11および/またはEMC-12を含むRNA配列によりコードされる、ウイルスタンパク質。
【請求項27】
図13に記載の配列EMC-1からEMC-13の1つもしくは複数を含む核酸配列、またはストリンジェントな条件下でこれらの配列のいずれかとハイブリダイズすることができる核酸配列。
【請求項28】
コロナウイルス関連疾患の処置または予防のための薬物を製造するためのインターフェロンの使用。
【請求項29】
インターフェロンがインターフェロンαである、請求項28記載の使用。
【請求項30】
インターフェロンがインターフェロン-α2aである、請求項29記載の使用。
【請求項31】
インターフェロンがインターフェロン-α2bである、請求項29記載の使用。
【請求項32】
インターフェロンがPEG化されている、請求項28〜31のいずれか一項記載の使用。
【請求項33】
コロナウイルス関連疾患が、動物、好ましくは脊椎動物、より好ましくは鳥類または哺乳類、特にヒト、類人猿または齧歯類の疾患である、請求項28〜32のいずれか一項記載の使用。
【請求項34】
疾患が呼吸器疾患および/または胃腸炎である、請求項33記載の使用。
【請求項35】
動物がヒトである、請求項33または34記載の使用。
【請求項36】
コロナウイルス関連疾患が、HcoV-NL、ネコ伝染性腹膜炎ウイルス(FIPV)、ブタの赤血球凝集性脳脊髄炎ウイルス(HEV)、鳥類伝染性気管支炎ウイルス(IBV)、またはマウス肝炎ウイルス(MHV)により引き起こされる疾患である、請求項28〜35のいずれか一項記載の使用。
【請求項37】
コロナウイルス関連疾患が、SARSコロナウイルス(SARS-CoV)により引き起こされる疾患である、請求項28〜35のいずれか一項記載の使用。
【請求項38】
SARSウイルスが、図2に記載の1つまたは複数の配列を含むプラス鎖一本鎖RNAウイルス(SARSコロナウイルス)である、請求項37記載の使用。
【請求項39】
SARSウイルスが、GenBnakアクセッション番号AY274119、AY278741、AY338175、AY338174、AY322199、AY322198、AY322197、AH013000、AY322208、AY322207、AY322206、AY322205、またはAH012999に相当するプラス鎖一本鎖RNAウイルス(SARSコロナウイルス)である、請求項38記載の使用。
【請求項40】
コロナウイルスに感染した動物、好ましくは脊椎動物、より好ましくは鳥類または哺乳類、特にヒト、類人猿または齧歯類においてコロナウイルス関連疾患の処置または予防のための方法であって、該動物、好ましくは脊椎動物、より好ましくは鳥類または哺乳類、特にヒト、類人猿または齧歯類にインターフェロンを薬学的に許容される担体と共に投与する段階を含む、方法。
【請求項41】
インターフェロンが、ワクチン、抗体、および/または抗ウイルス剤と共に投与される、請求項40記載の方法。
【請求項42】
ワクチン、抗体、および/または抗ウイルス剤が、完全不活性化ウイルスワクチン、弱毒ワクチン、サブユニットワクチン、組換えワクチン、受動免疫化のための抗体、リバビリンのようなヌクレオシド類似体、RNA依存性RNAポリメラーゼ阻害剤、プロテアーゼ阻害剤からなる群より選択される、請求項41記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公表番号】特表2007−528700(P2007−528700A)
【公表日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−507863(P2006−507863)
【出願日】平成16年4月8日(2004.4.8)
【国際出願番号】PCT/NL2004/000229
【国際公開番号】WO2004/089983
【国際公開日】平成16年10月21日(2004.10.21)
【出願人】(505379423)コロノヴァティブ ビー.ブイ. (2)
【Fターム(参考)】