説明

SAW共振子及びSAW発振器

【課題】Q値が向上したSAW共振子及びこのSAW共振子を備えたSAW発振器の提供。
【解決手段】SAW共振子1は、水晶基板10と、水晶基板10の主面11に設けられた、隣り合う2つのIDT電極20,21と、2つのIDT電極20,21の両側に設けられた反射器30,31とを備え、2つのIDT電極20,21間のギャップをDとし、IDT電極20,21の電極指20a,21a,21a,21bのピッチをLtとし、反射器30,31の電極指30a,31aのピッチをLrとしたときに、(1):n×(Lt/2)<D<0.045×Lt+n×(Lt/2)(但し、nは0以上の整数)、(2):−0.02667×D+0.9992≦Lt/Lr≦−0.00667×D+0.9996、の2つの関係式を満たすことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、SAW共振子及びSAW共振子を備えたSAW発振器に関し、特にSAW共振子のQ値に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、複数個のグレーティング反射器(以下、反射器という)と、該反射器の間に配置された少なくとも1つの励振用交叉指状電極及び受信用交叉指状電極(以下、IDT電極という)とが圧電基板(以下、水晶基板という)上に形成され、IDT電極の電極周期がLである弾性表面波装置において、2つのIDT電極の距離l1が(2n+1)L/4<l1<(n+1)L/2:n=0,1,2,…)に設定された弾性表面波装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
上記弾性表面波装置は、2つのIDT電極の距離l1が上記のように設定されることで、共振モードが複数存在し、弾性表面波装置としてのSAWフィルタに用いた場合、通過帯域の広帯域化が可能になる。
【0003】
【特許文献1】特開昭61−192112号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記弾性表面波装置は、通過帯域の広帯域化と引き換えに、Q値が低下する。これにより、上記弾性表面波装置の構成を弾性表面波装置としてのSAW共振子に適用した場合には、例えば、GHz帯の高精度のSAW発振器などに用いられる際の要求仕様である2000以上のQ値が得られない。
このことから、上記SAW共振子を用いたSAW発振器は、SAW共振子のQ値に大きく依存する位相ノイズ特性が向上せず、所望の性能を満足できないという問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上記課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態または適用例として実現することが可能である。
【0006】
[適用例1]本適用例にかかるSAW共振子は、水晶基板と、前記水晶基板の主面に設けられた隣り合う2つのIDT電極と、前記2つのIDT電極の両側に設けられた反射器とを備え、前記2つのIDT電極間のギャップをDとし、前記2つのIDT電極の電極指のピッチをLtとし、前記反射器の電極指のピッチをLrとしたときに、(1):n×(Lt/2)<D<0.045×Lt+n×(Lt/2)(但し、nは0以上の整数)(2):−0.02667×D+0.9992≦Lt/Lr≦−0.00667×D+0.9996、の2つの関係式を満たすことを特徴とする。
【0007】
これによれば、SAW共振子は、(1):n×(Lt/2)<D<0.045×Lt+n×(Lt/2)(但し、nは0以上の整数)、(2):−0.02667×D+0.9992≦Lt/Lr≦−0.00667×D+0.9996、の2つの関係式を満たす。
【0008】
この2つの関係式を満たすことにより、SAW共振子は、例えば、挿入損失が9dB以下、スプリアスレベルが10dBc以上であって、Q値を2000以上とすることができる。
【0009】
[適用例2]上記適用例にかかるSAW共振子は、前記水晶基板のオイラー角が、(0°,113°〜135°,±(40°〜49°))であることが好ましい。
【0010】
これによれば、SAW共振子は、水晶基板のオイラー角が、(0°,113°〜135°,±(40°〜49°))であることから、水晶基板の2次温度係数を小さくすることができる。
このことから、SAW共振子は、周囲の温度変化に伴う周波数の変動が少ない、優れた周波数温度特性を得ることができる。
【0011】
[適用例3]本適用例にかかるSAW発振器は、適用例1または2に記載のSAW共振子と、前記SAW共振子を励振する発振回路とを備えたことを特徴とする。
【0012】
これによれば、SAW発振器は、適用例1または2に記載のSAW共振子と、SAW共振子を励振する発振回路とを備えていることから、発振時の位相ノイズ特性が向上し、所望の性能を満足することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、SAW共振子及びSAW発振器の実施形態について図面を参照して説明する。
【0014】
(実施形態)
図1は、本実施形態のSAW共振子の主要構成を示す模式平面図である。
図1に示すように、SAW共振子1は、平面形状が略矩形で平板状の水晶基板10と、水晶基板10の主面11に設けられた、隣り合う2つのIDT電極20,21と、2つのIDT電極20,21の両側に設けられた反射器30,31とを備えている。
【0015】
水晶基板10は、オイラー角が(0°,127°,45°)となるように、所定の厚みに研磨された水晶ウエハなどから形成されている。なお、水晶基板10のオイラー角は(0°,127°,45°)に限定する必要はなく、(0°,113°〜135°,±(40°〜49°))の範囲内から選択できる。この範囲内であれば、2次温度係数の小さい良好な周波数温度特性のSAW共振子1が得られる。
IDT電極20,21及び反射器30,31は、水晶基板10の主面11に導体金属を蒸着またはスパッタなどにより薄膜状に形成した後に、フォトリソグラフィ技術などを用いて形成されている。なお、導体金属には、アルミ、アルミ合金などの金属が用いられているが、他にも金,銀,銅,タンタル,タングステンなどの金属やそれらの何れかを主成分とした合金を用いることが可能である。
また、IDT電極20,21及び反射器30,31は、図示しない厚みをtとしたときに、t/λ(SAW(弾性表面波)の波長)=0.05となるように形成されている。なお、t/λ=0.05は一例であり、t/λは0.05以外の値であってもよい。
【0016】
IDT電極20,21は、互いにかみ合う複数対の櫛歯状の電極指20a,20b,21a,21bからなり、電極指20a,20b,21a,21bは、延在方向(長手方向)の一端側がそれぞれ共通接続されている。
また、反射器30,31は、複数の電極指30a,31aからなり、電極指30a,31aは、延在方向の両端がそれぞれ共通接続されている。ただし、共通接続される箇所は電極指30a,31aの延在方向両端でなくてもよく、例えば延在方向の何れか一端のみであってもよいし、延在方向の中心で共通接続されていてもよい。
【0017】
ここで、SAW共振子1は、2つのIDT電極20,21間のギャップをDとし、IDT電極20,21の電極指20a,20b,21a,21bのピッチをLtとし、反射器30,31の電極指30a,31aのピッチをLrとしたときに、
(1):n×(Lt/2)<D<0.045×Lt+n×(Lt/2)(但し、nは0以上の整数)、
(2):−0.02667×D+0.9992≦Lt/Lr≦−0.00667×D+0.9996、
の2つの関係式を満たす構成となっている。
なお、ギャップDは、IDT電極20,21の隣り合う電極指20b,21aの延在方向に沿ったそれぞれの中心線間の距離L1から、片側Lt/4ずつ、合計でLt/2減じた距離である。
【0018】
また、IDT電極20と反射器30との隣り合う電極指20a,30aの延在方向に沿ったそれぞれの中心線間の距離L2、及びIDT電極21と反射器31との隣り合う電極指21b,31aの延在方向に沿ったそれぞれの中心線間の距離L3は、(Lt+Lr)/4となっている。
【0019】
ここで、ギャップD、Lt/Lrの設定過程について図面を参照して説明する。
発明者らは、シミュレーション、試作サンプル確認などの方法を用いて、以下の手順でギャップD、Lt/Lrを設定した。なお、シミュレーションに当たっては、上記(1)の関係式におけるnを0とした。
【0020】
設定の前提条件となる、例えば、GHz帯の高精度のSAW発振器などに用いられるSAW共振子に対する要求仕様は、次のとおりである。
・Q値:2000以上。
・挿入損失:9dB以下。
・スプリアスレベル:10dBc以上。
【0021】
まず、Lt/Lrを0.999に固定して、ギャップDと挿入損失及びスプリアスレベルとの関係をシミュレーションにより把握した。
図2は、ギャップDと挿入損失及びスプリアスレベルとの関係を示したグラフである。図2(a)は、ギャップDと挿入損失との関係を示したグラフであり、図2(b)は、ギャップDとスプリアスレベルとの関係を示したグラフである。
【0022】
図2(a)に示すように、挿入損失9dB以下を満足するギャップDの値は、−0.1Lt〜+0.06Ltとなっている。また、図2(b)に示すように、スプリアスレベル10dBc以上を満足するギャップDの値は、−0.1Lt〜+0.12Ltとなっている。
【0023】
次に、ギャップDを+0.03Ltに固定して、Lt/Lrと挿入損失及びQ値との関係をシミュレーションにより把握した。
図3は、Lt/Lrと挿入損失及びQ値との関係を示したグラフである。図3(a)は、Lt/Lrと挿入損失との関係を示したグラフであり、図3(b)は、Lt/LrとQ値との関係を示したグラフである。
【0024】
図3(a)に示すように、挿入損失は、Lt/Lrが1に近づくに連れて増大し、Lt/Lrが0.9995を超えると、9dB以上となる。
また、図3(b)に示すように、Q値は、Lt/Lrが1に近づくに連れて増大し、1近傍で2000以上となる。
【0025】
次に、ギャップDを0Ltから+0.09Ltに変化させたときの、Lt/Lrと挿入損失及びQ値との関係をシミュレーションにより把握した。
図4は、各ギャップDのLt/Lrと挿入損失及びQ値との関係を示したグラフである。図4(a)は、各ギャップDのLt/Lrと挿入損失との関係を示したグラフであり、図4(b)は、各ギャップDのLt/LrとQ値との関係を示したグラフである。
【0026】
図4(a)に示すように、挿入損失は、ギャップDが0Ltの時には、Lt/Lrが0.9996を超えると、9dB以上となり、ギャップDが+0.015Ltの時には、Lt/Lrが0.9997を超えると、9dB以上となり、ギャップDが+0.03Ltの時には、Lt/Lrが0.9995を超えると、9dB以上となる。
さらに、挿入損失は、ギャップDが+0.045Ltの時には、Lt/Lrが0.9993を超えると、9dB以上となり、ギャップDが+0.06Ltの時には、Lt/Lrが0.9992を超えると、9dB以上となる。
【0027】
図4(b)に示すように、Q値は、ギャップDが0Ltの時には、Lt/Lrが0.9992を超えると、2000以上となり、ギャップDが+0.015Ltの時には、Lt/Lrが0.9988を超えると、2000以上となり、ギャップDが+0.03Ltの時には、Lt/Lrが0.9982を超えると、2000以上となる。
さらに、Q値は、ギャップDが+0.045Lt以上の時には、Lt/Lrが0.9980で、2000を超えている。
【0028】
次に、上述した内容に基づき、SAW共振子1における上記の要求仕様を満足するギャップD及びLt/Lrの範囲を設定した。
図5は、図4に基づくギャップDとLt/Lrとの関係を示した説明図である。図5(a)は、ギャップDとLt/Lrとの関係を示したグラフであり、図5(b)は、図5(a)における、ギャップD及びLt/Lrの範囲を設定する基準となる各点A,B,C,EのギャップD及びLt/Lrの値を示した表である。
【0029】
図5(a)に示すように、ギャップDが0Ltから+0.06Ltの範囲においては、折れ線Fと折れ線Gとに挟まれた領域が、上記の要求仕様を満足するギャップD及びLt/Lrの範囲となる。
そして、その中の各点A,B,C,Eを結ぶ破線で囲まれた(ハッチングを施した)領域内が、上記(1)、(2)の2つの関係式を満足する範囲となる。
ここで、破線Hは、Lt/Lr=−0.00667×D+0.9996、で表され、破線Iは、Lt/Lr=−0.02667×D+0.9992で表される。
【0030】
これにより、SAW共振子1は、ギャップD及びLt/Lrがこの破線で囲まれた領域内であれば、
・Q値:2000以上。
・挿入損失:9dB以下。
・スプリアスレベル:10dBc以上。
の要求仕様を十分満足できるというシミュレーション結果が得られた。
【0031】
次に、上記のギャップD及びLt/Lrの範囲の設定の裏付けとして、従来技術を用いたSAW共振子の試作サンプルと、本実施形態のSAW共振子1の試作サンプル(ギャップD及びLt/Lrが図5(a)の点Jで示した値のサンプル)との比較試験を行った。
以下、比較試験結果について図面を参照して説明する。
【0032】
図6は、従来技術及び本実施形態のSAW共振子の試作サンプルの比較試験結果についての説明図である。図6(a)は、周波数特性図であり、図6(b)は、図6(a)のK部の拡大図であり、図6(c)は、性能比較表である。なお、図6(a)では、実線が本実施形態の試作サンプルを表しており、破線が従来技術の試作サンプルを表している。
なお、2つの試作サンプルは、ギャップD及びLt/Lr以外は共通の仕様である。
【0033】
図6に示すように、本実施形態の試作サンプルは、Q値が2230、挿入損失が7.7dB、スプリアスレベルが20dBcと、要求仕様を十分満足している。
これに対して、従来技術の試作サンプルは、挿入損失が6.1dB、スプリアスレベルが22dBcと、挿入損失、スプリアスレベルに関して要求仕様を満足しているものの、Q値が、900であって要求仕様に対して大きな乖離があり、要求仕様を満足できていない。
【0034】
これに関して、図6(b)に示すように、本実施形態の試作サンプルでは、ギャップD及びLt/Lrを上記の範囲内に設定することで、従来技術の試作サンプルと比較して、ピーク部の周波数帯域が狭帯域化されていることから、Q値が従来技術の試作サンプルの約2.5倍となり、格段に向上している。
上記の比較試験結果により、SAW共振子1におけるギャップD及びLt/Lrの範囲の設定の妥当性が裏付けられた。
【0035】
上述したように、本実施形態のSAW共振子1は、2つのIDT電極20,21間のギャップをDとし、IDT電極20,21の電極指20a,20b,21a,21bのピッチをLtとし、反射器30,31の電極指30a,31aのピッチをLrとしたときに、 (1):n×(Lt/2)<D<0.045×Lt+n×(Lt/2)(但し、nは0以上の整数)、
(2):−0.02667×D+0.9992≦Lt/Lr≦−0.00667×D+0.9996、
の2つの関係式を満たす構成となっている。
【0036】
これにより、SAW共振子1は、挿入損失が9dB以下、スプリアスレベルが10dBc以上であって、Q値を2000以上とすることができる。なお、SAW共振子1は、(1)の関係式におけるnが1以上であっても、弾性表面波の特性により同様の効果を奏することができる。
【0037】
また、SAW共振子1は、水晶基板10のオイラー角が、(0°,113°〜135°,±(40°〜49°))の範囲内であることから、水晶基板10の2次温度係数を小さくすることができる。
このことから、SAW共振子1は、周囲の温度変化に伴う周波数の変動が少ない、優れた周波数温度特性を得ることができる。
【0038】
(SAW発振器)
上述したSAW共振子1と、SAW共振子1を励振する発振回路とを備えることにより、SAW発振器を構成することができる。なお、発振回路は、公知の技術を用いたものでよい。
【0039】
これによれば、SAW発振器は、挿入損失が9dB以下、スプリアスレベルが10dBc以上、Q値が2000以上のSAW共振子1を備えていることから、SAW共振子1のQ値に大きく依存する発振時の位相ノイズ特性が格段に向上する。加えて、SAW発振器は、SAW共振子1のQ値の向上によりジッタを低減することができる。
これらのことから、SAW発振器は、例えば、GHz帯の高精度のSAW発振器として、所望の性能を満足することができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本実施形態のSAW共振子の主要構成を示す模式平面図。
【図2】ギャップDと挿入損失及びスプリアスレベルとの関係を示したグラフ。
【図3】Lt/Lrと挿入損失及びQ値との関係を示したグラフ。
【図4】各ギャップDのLt/Lrと挿入損失及びQ値との関係を示したグラフ。
【図5】図4に基づくギャップDとLt/Lrとの関係を示した説明図。
【図6】従来技術及び本実施形態のSAW共振子の試作サンプルの比較試験結果についての説明図。
【符号の説明】
【0041】
1…SAW共振子、10…水晶基板、11…水晶基板の主面、20,21…IDT電極、20a,20b,21a,21b…IDT電極の電極指、30,31…反射器、30a,31a…反射器の電極指、D…IDT電極間のギャップ、Lt…IDT電極の電極指のピッチ、Lr…反射器の電極指のピッチ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水晶基板と、前記水晶基板の主面に設けられた隣り合う2つのIDT電極と、前記2つのIDT電極の両側に設けられた反射器とを備え、
前記2つのIDT電極間のギャップをDとし、前記2つのIDT電極の電極指のピッチをLtとし、前記反射器の電極指のピッチをLrとしたときに、
(1):n×(Lt/2)<D<0.045×Lt+n×(Lt/2)(但し、nは0以上の整数)
(2):−0.02667×D+0.9992≦Lt/Lr≦−0.00667×D+0.9996
の2つの関係式を満たすことを特徴とするSAW共振子。
【請求項2】
請求項1に記載のSAW共振子において、前記水晶基板のオイラー角が、(0°,113°〜135°,±(40°〜49°))であることを特徴とするSAW共振子。
【請求項3】
請求項1または2に記載のSAW共振子と、前記SAW共振子を励振する発振回路とを備えたことを特徴とするSAW発振器。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2010−74224(P2010−74224A)
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−236064(P2008−236064)
【出願日】平成20年9月16日(2008.9.16)
【出願人】(000003104)エプソントヨコム株式会社 (1,528)
【Fターム(参考)】