説明

SIRT1活性化剤

【課題】 細胞老化の抑制等に有用と考えられるSIRT1を活性化する新規なSIRT1活性化剤を提供する。
【解決手段】 ローズ水、エイジツ抽出物、シモツケソウ抽出物、ワレモコウ抽出物、セイヨウサンザシ抽出物、ノバラ抽出物、真珠タンパク抽出物、ユリ抽出物及びタイソウ抽出物から選択される1種または2種以上を有効成分として配合することにより、SIRT1活性化剤を提供することができた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、SIRT1活性化剤に関する。さらに詳しくは、ローズ水、エイジツ抽出物、シモツケソウ抽出物、ワレモコウ抽出物、セイヨウサンザシ抽出物、ノバラ抽出物、真珠タンパク抽出物、ユリ抽出物及びタイソウ抽出物から選択される1種または2種以上を有効成分とするSIRT1活性化剤に関する。
【背景技術】
【0002】
SIRT1は、細胞核内および細胞質に存在し、NAD+依存性蛋白脱アセチル化酵素として機能し、細胞老化という面で重要な役割を演じている。これまでにSIRT1を活性化することにより細胞死の予防、細胞老化の抑制、細胞の寿命延長、癌発生の予防等に有用であることが報告され、様々なSIRT1活性化剤が検討されている。
【0003】
例えば、ブルーベリー抽出物等がSIRT1を活性化し眼疾患治療用組成物として利用されること(特許文献1参照)、レスベラトロール等がSIRT1を活性化しインシュリン耐性障害を治療すること(特許文献2参照)等が知られているが、SIRT1を活性化するための更なるSIRT1活性化剤に対する要望は強い。
【0004】
【特許文献1】特開2006−298876号公報
【特許文献2】特表2007−527418号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記のような課題に鑑み行われたものであって、その目的とするところは、細胞老化の抑制等に有用と考えられるSIRT1を活性化する新規なSIRT1活性化剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、種々の成分について検討を行った結果、従来はその効果が知られていなかったローズ水、エイジツ抽出物、シモツケソウ抽出物、ワレモコウ抽出物、セイヨウサンザシ抽出物、ノバラ抽出物、真珠タンパク抽出物、ユリ抽出物及びタイソウ抽出物に優れたSIRT1活性作用が存在することを見出し、さらに検討を重ねて本発明を完成させるに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、ローズ水、エイジツ抽出物、シモツケソウ抽出物、ワレモコウ抽出物、セイヨウサンザシ抽出物、ノバラ抽出物、真珠タンパク抽出物、ユリ抽出物及びタイソウ抽出物から選択される1種または2種以上を有効成分とするSIRT1活性化剤に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明のSIRT1活性化剤は、細胞死の予防、細胞老化の抑制、細胞の寿命延長、癌発生の予防等に有用である
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明において用いられるローズ水としては、ダマスクスバラ(Rosa damascena Mill)の花、センティフォリアバラ(Rosa centifolia L.)の花の水蒸気蒸留水を用いることができる。
【0010】
ダマスクスバラは、16世紀にヨーロッパに紹介されたローザガリカ(Rosa gallica)とローザフェニシア(Rosa phoenicia)の交雑原種といわれている種類で、香料原料として栽培されている。
【0011】
また、センティフォリアバラは、ダマスクスバラとシロバラ(Rosa alba)の自然交配雑種といわれ、フランスのグラース地区や、アフリカのモロッコや地中海沿岸各国に栽培されている。
【0012】
本発明においては、バラの花を生のまま公知の水蒸気蒸留装置を用いた方法で水蒸気蒸留を行うことができる。これらの植物体は、表面のすぐ下の膜の薄い細胞内に精油を含むことから、前処理として素材を予備粉砕しなくても、充分に水蒸気蒸留することができる。一般に、微妙な精油の抽出を行う場合は、蒸留される素材が完全に水中に沈んだ状態にて煮沸処理する方法を採用するが、非常に高沸点の芳香物質を抽出したい場合は、素材を水中に浸漬させずに、上部の格子の上に置き、加熱水蒸気を通過させる方法をとることがある。本発明の水蒸気蒸留水は、どちらの方法でも採用できる。
【0013】
本発明の水蒸気蒸留水は、最終的には得られた留分から分取された水層部を、ろ過することで得ることができる。必要であれば、その効果に影響のない範囲で更に、濾過、脱臭、脱色などの処理を加えてもよい。また、得られた水蒸気蒸留水は長期保存される間に腐敗しないよう、パラオキシ安息香酸エステルなどの防腐剤を用いてもよい。
【0014】
本発明において用いられるエイジツ抽出液としては、ノイバラ(Rosa multiflora Thunberg)の果実から50質量%1,3−ブチレングリコール水溶液にて抽出した抽出物を用いることができる。ノイバラは北海道から本州、四国、九州までの川岸の茂み、原野等に生え、朝鮮半島や中国にも分布する。エイジツ(営実)はノイバラの果実である。
【0015】
本発明において用いられるシモツケソウ抽出物としては、セイヨウナツユキソウ(Filipendula ulmaria Maximowicz)の花序から50質量%1,3−ブチレングリコール水溶液にて抽出した抽出物を用いることができる。
【0016】
本発明において用いられるワレモコウ抽出物としては、ワレモコウ(Sanguisorba officinalis L.)の根及び根茎から50質量%1,3−ブチレングリコール水溶液にて抽出した抽出物を用いることができる。
【0017】
本発明において用いられるセイヨウサンザシ抽出物としては、セイヨウサンザシ(Crataegus oxyacantha L.)の花、葉、又は果実から50質量%1,3−ブチレングリコール水溶液にて抽出した抽出物を用いることができる。
【0018】
本発明において用いられるノバラ抽出物としては、ロサカニナ(Rosa canina L.)の果実から50質量%1,3−ブチレングリコール水溶液にて抽出した抽出物を用いることができる。ヨーロッパで野生バラといったとき第一に名が出るのが、ロサカニナで、ヨーロッパ南部から北緯62度までのヨーロッパの広い範囲に分布する。
【0019】
本発明において用いられる真珠タンパク抽出物としては、真珠母貝(アコヤガイ)(Pinctada fucata)の真珠層に含まれる硬たん白質であるコンキオリンを加水分解したものの水溶液に、1,3−ブチレングリコールを加え50質量%1,3−ブチレングリコール水溶液にした抽出物を用いることができる。
【0020】
本発明において用いられるユリ抽出物としては、ユリ(マドンナリリー)(Lilium candidum)の球根から50質量%1,3−ブチレングリコール水溶液にて抽出した抽出物を用いることができる。
【0021】
本発明において用いられるタイソウ抽出物としては、ナツメ(Zizyphus jujuba Miller var.inermis Rehder)の果実から50質量%1,3−ブチレングリコール水溶液にて抽出した抽出物を用いることができる。
【0022】
本発明のローズ水、エイジツ抽出物、シモツケソウ抽出物、ワレモコウ抽出物、セイヨウサンザシ抽出物、ノバラ抽出物、真珠タンパク抽出物、ユリ抽出物及びタイソウ抽出物から選択される1種または2種以上は、優れたSIRT1活性作用を有し、SIRT1活性化剤として利用することができる。
【0023】
本発明のSIRT1活性化剤は、細胞死の予防、細胞老化の抑制、細胞寿命延長、癌細胞発生の予防等に利用することができる。
【0024】
本発明のSIRT1活性化剤は、ローズ水、エイジツ抽出物、シモツケソウ抽出物、ワレモコウ抽出物、セイヨウサンザシ抽出物、ノバラ抽出物、真珠タンパク抽出物、ユリ抽出物及びタイソウ抽出物から選択される1種または2種以上を、そのまま用いてもよいが、その形態およびその他成分の配合の有無等については、何ら制限されない。形態については、液状、ペースト状、ゲル状、固体状、粉末状等の任意の形態を、その用途等に応じて選択でき、その形態とするために必要な各種賦形剤、結合剤、溶剤、その他の一般的な添加剤(酸化防止剤、着色剤、分散剤等)を適宜用いることができる。
【実施例】
【0025】
以下にローズ水、エイジツ抽出物、シモツケソウ抽出物、ワレモコウ抽出物、セイヨウサンザシ抽出物、ノバラ抽出物、真珠タンパク抽出物、ユリ抽出物及びタイソウ抽出物の調製例、SIRT1活性作用を評価するための試験方法及び結果についてさらに詳細に説明するが、本発明の技術的範囲はこれによってなんら限定されるものではない。
【0026】
[調整方法1(ローズ水)]
センティフォリアバラ(Rosa centifolia L.)の新鮮な生花の花弁500gを準備し、精製水2リットルを加えて2時間浸漬した後、水中に沈んだこのままの状態で水蒸気蒸留を行い、得られた留分から分取された水層部をさらにろ過し、1000mLの水蒸気蒸留水を得、これをローズ水とした。
【0027】
[調製方法2(エイジツ抽出物)]
ノイバラの果実1Kgを粉砕し、これに50質量%1,3−ブチレングリコール水溶液50Lを加え、ときどきかき混ぜながら48時間冷浸したのち、ろ過する。ろ液を約1週間冷所に放置して熟成させ、この工程で生じるオリや沈殿をろ過して除去すると同時に更に50質量%1,3−ブチレングリコール水溶液を加えて50Kgのエイジツ抽出物を得た。
【0028】
[調製方法3(シモツケソウ抽出物)]
セイヨウナツユキソウ(Filipendula ulmaria Maximowicz)の花序1Kgに50質量%1,3−ブチレングリコール水溶液50Lを加え、ときどきかき混ぜながら48時間冷浸したのち、ろ過する。ろ液を約1週間冷所に放置して熟成させ、この工程で生じるオリや沈殿をろ過して除去すると同時に更に50質量%1,3−ブチレングリコール水溶液を加えて50Kgのシモツケソウ抽出物を得た。
【0029】
[調整方法4(ワレモコウ抽出物)]
ワレモコウ(Sanguisorba officinalis L.)の根1Kgを粉砕し、これに50質量%1,3−ブチレングリコール水溶液50Lを加え、ときどきかき混ぜながら48時間冷浸したのち、ろ過する。ろ液を約1週間冷所に放置して熟成させ、この工程で生じるオリや沈殿をろ過して除去すると同時に更に50質量%1,3−ブチレングリコール水溶液を加えて50Kgのワレモコウ抽出物を得た。
【0030】
[調整方法5(セイヨウサンザシ抽出物)]
セイヨウサンザシ(Crataegus oxyacantha L.)の果実1Kgを粉砕し、これに50質量%1,3−ブチレングリコール水溶液50Lを加え、ときどきかき混ぜながら48時間冷浸したのち、ろ過する。ろ液を約1週間冷所に放置して熟成させ、この工程で生じるオリや沈殿をろ過して除去すると同時に更に50質量%1,3−ブチレングリコール水溶液を加えて50Kgのセイヨウサンザシ抽出物を得た。
【0031】
[調整方法6(ノバラ抽出物)]
ロサカニナ(Rosa canina L.)の果実1Kgを粉砕し、これに50質量%1,3−ブチレングリコール水溶液50Lを加え、ときどきかき混ぜながら48時間冷浸したのち、ろ過する。ろ液を約1週間冷所に放置して熟成させ、この工程で生じるオリや沈殿をろ過して除去すると同時に更に50質量%1,3−ブチレングリコール水溶液を加えて50Kgのノバラ抽出物を得た。
【0032】
[調整方法7(真珠タンパク抽出物)]
真珠母貝(アコヤガイ)(Pinctada fucata)の真珠層に含まれる硬たん白質であるコンキオリンを加水分解したものの水溶液に、1,3−ブチレングリコールを加え50質量%1,3−ブチレングリコール水溶液とし、真珠タンパク抽出物を得た。
【0033】
[調整方法8(ユリ抽出物)]
ユリ(Lilium candidum)の球根1Kgを粉砕し、これに50質量%1,3−ブチレングリコール水溶液50Lを加え、ときどきかき混ぜながら48時間冷浸したのち、ろ過する。ろ液を約1週間冷所に放置して熟成させ、この工程で生じるオリや沈殿をろ過して除去すると同時に更に50質量%1,3−ブチレングリコール水溶液を加えて50Kgのユリ抽出物を得た。
【0034】
[調整方法9(タイソウ抽出物)]
ナツメ(Zizyphus jujuba Miller var.inermis Rehder)の果実1Kgを粉砕し、これに50質量%1,3−ブチレングリコール水溶液10Lを加え、ときどきかき混ぜながら48時間冷浸したのち、ろ過する。ろ液を約1週間冷所に放置して熟成させ、この工程で生じるオリや沈殿をろ過して除去すると同時に更に50質量%1,3−ブチレングリコール水溶液を加えて10Kgのタイソウ抽出物を得た。
【0035】
上記抽出物を用いて、SIRT1活性作用の評価を行った。
【0036】
<SIRT1活性作用の評価1(ヒト真皮線維芽細胞におけるSIRT1 mRNAの測定>
SIRT1活性作用の評価を、以下に示す方法により行った。試料として、調製方法1、調製方法2、調製方法3、調製方法4により調製した抽出物を用いた。
【0037】
正常ヒト真皮線維芽細胞を1ウェル当り2.0×10 個となるように、96ウェルマイクロプレートに播種した。播種培地には5質量%ウシ胎児血清(FBS)を添加したダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)を用いた。24時間後、5質量%FBS添加DMEM培地にて任意の濃度に調整したサンプル培養液に交換し、さらに24時間培養した。SIRT1 mRNAの定量にはQuantiGene(panomics社製キット)を使用した。SIRT1 mRNAに特異的に設計されたプローブセットを用いて細胞溶解液中のmRNAをプレートに結合、増感標識し、化学発光を測定した。同様に各ウェルのGAPDH mRNAを測定し、SIRT1 mRNA/GAPDH mRNAを求めた。評価結果を試料無添加のコントロールにおけるSIRT1 mRNA/GAPDH mRNAを100とした相対値にて表1に示す。
【0038】
【表1】

【0039】
表1の結果より明らかなように、実施例1、2、3、4の抽出物には優れたSIRT1活性作用が認められた。
【0040】
<SIRT1活性作用の評価1(SIRT1酵素活性測定)>
SIRT1 Fluorimetric Drug Discovery Kit(BIO−MOL社製キット)を使用した。任意の濃度に調整した試料に0.02U/mL SIRT1酵素、25μM NAD+、25μM蛍光標識された基質を添加し、37℃にて60分間インキュベートした。励起波長355nm、発光波長460nmにて蛍光を測定した。評価結果を試料無添加のコントロールにおけるSIRT1酵素活性を100とした相対値にて表2に示す。なお各評価結果に記載した*及び**は、t検定における有意確率P値に対し、有意確率5%未満(P<0.05)を*で、有意確率1%未満(P<0.01)を**でそれぞれ表したものである。
【0041】
【表2】

【0042】
表2の結果より明らかなように、実施例5、6、7、8、9の抽出物には優れたSIRT1活性作用が認められた。
【0043】
以上のことから、ローズ水、エイジツ抽出物、シモツケソウ抽出物、ワレモコウ抽出物、セイヨウサンザシ抽出物、ノバラ抽出物、真珠タンパク抽出物、ユリ抽出物、タイソウ抽出物は優れたSIRT1活性化剤であることがわかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ローズ水、エイジツ抽出物、シモツケソウ抽出物、ワレモコウ抽出物、セイヨウサンザシ抽出物、ノバラ抽出物、真珠タンパク抽出物、ユリ抽出物及びタイソウ抽出物から選択される1種または2種以上を有効成分とするSIRT1活性化剤。

【公開番号】特開2009−161494(P2009−161494A)
【公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−1968(P2008−1968)
【出願日】平成20年1月9日(2008.1.9)
【出願人】(000135324)株式会社ノエビア (258)
【Fターム(参考)】