説明

SOF脱離量推定装置及び推定方法

【課題】機関運転中の排気浄化触媒からのSOF脱離量をより正確に推定することのできるSOF脱離量推定装置及び推定方法を提供する。
【解決手段】電子制御ユニット26は、触媒床温と排気流量とに基づいて、機関運転中の単位時間における排気浄化触媒25からのSOF脱離量を推定するようにしている。そのため、触媒上での燃焼により脱離するSOFの量だけでなく、排気の流勢で触媒表面から剥れ落ちて脱離するSOFの量をも加味してSOF脱離量の推定を行うことができ、SOF脱離量をより正確に推定することができるようになる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の排気系に設けられる排気浄化触媒からの機関運転中のSOF(可溶有機成分:Soluble Organic Fraction)の脱離量を推定するSOF脱離量推定装置及び推定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ディーゼル機関の排気に含まれるカーボンは、同じく排気に含まれるSOFをバインダとして排気浄化触媒に付着する。カーボンが多量に付着すると、排気圧の急激な変化などに伴って付着したカーボンが一時に大量に脱離して、テールパイプから黒煙として排出されてしまう。特に表面積の大きい排気浄化触媒を使用する場合には、より多くのカーボンが排気浄化触媒に付着されるため、上記のような黒煙の排出が顕著となる。
【0003】
こうした黒煙排出を有効に抑制するには、排気浄化触媒のカーボン付着量を正確に推定することが重要であり、そうしたカーボン付着量の推定精度の向上には、SOFの付着状況の正確な把握が必要となる。すなわち、SOF付着量が多くなると、その分、カーボンが付着し易くなるため、カーボン付着量の正確な推定には、SOF付着量の把握が不可欠となる。
【0004】
従来、こうした排気浄化触媒のSOF付着量の推定手法として、特許文献1に記載のものが提案されている。同文献では、内燃機関からのSOFの排出量と触媒床温とから単位時間に排気浄化触媒に新規に付着するSOFの量(SOF吸着速度)を求めるようにしている。一方、排気浄化触媒に付着したSOFは、機関運転中にその一部が加熱分解され、燃焼される。そこで、触媒床温からSOFの燃焼速度を求めるとともに、この燃焼速度と上記SOF吸着速度とから単位時間当りのSOF付着量の変化量を算出し、これを積算することで排気浄化触媒の現時点のSOF付着量を推定するようにしている。
【0005】
また従来、別のSOF付着量の推定手法として、非特許文献1に記載のものが提案されてもいる。同文献では、内燃機関からのHC排出量と触媒床温とに基づいてSOF吸着速度とSOF燃焼速度とを求めるとともに、それらから単位時間当りのSOF付着量の変化量を算出し、これを積算することで排気浄化触媒の現時点のSOF付着量を推定するようにしている。
【特許文献1】特開2005−23848号公報
【非特許文献1】トヨタ技術公開集 発行番号18272 2007年2月28日発行
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
こうした従来の推定手法によっても、排気浄化触媒のSOF付着量をある程度に正確に推定することが可能である。しかしながら、機関運転中に排気浄化触媒からのSOFの脱離形態としては、上記のような燃焼以外の形態によるものも存在しており、機関運転中における排気浄化触媒からのSOF脱離量(脱離速度)の推定精度については未だ改善の余地がある。
【0007】
本発明は、こうした実状に鑑みてなされたものであって、その解決しようとする課題は、機関運転中の排気浄化触媒からのSOF脱離量をより正確に推定することのできるSOF脱離量推定装置及び推定方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以下、上記課題を解決するための手段、及びその作用効果を記載する。
上記課題を解決するため、請求項1に記載の発明は、機関運転中の排気浄化触媒からのSOF脱離量を推定するSOF脱離量推定装置において、触媒床温と排気流量とに基づいて前記SOF脱離量を推定するSOF脱離量推定手段を備えることをその要旨としている。またSOF脱離量推定方法としての請求項5に記載の発明では、機関運転中の排気浄化触媒からのSOF脱離量を推定する方法であって、前記SOF脱離量を、触媒床温と排気流量とに基づいて推定することをその要旨としている。
【0009】
上述のように機関運転中には、排気浄化触媒に付着したSOFの一部が加熱分解により燃焼することで排気浄化触媒から脱離する。こうした燃焼によるSOFの脱離量は、触媒床温に基づいて推定することが可能である。すなわち、触媒床温が高くなるほど、SOFの加熱分解が進み、燃焼によるSOFの脱離量は多くなると推定することができる。
【0010】
一方、機関運転中には、排気浄化触媒を通過する排気の流勢で触媒表面から剥れ落ちて脱離するSOFも存在する。こうした排気の流勢によるSOFの脱離量は、排気流量より推定することが可能である。すなわち、排気流量が多くなるほど、排気浄化触媒を通過する排気の流勢が強まって、触媒表面から剥れ落ちるSOFの量は多くなると推定することができる。
【0011】
その点、上記構成及び上記推定方法では、触媒床温に加え、排気流量にも基づいて排気浄化触媒からのSOF脱離量が推定されている。そのため、燃焼による脱離形態だけでなく、排気の流勢による脱離形態も考慮して、SOF脱離量が推定されるようになり、機関運転中の排気浄化触媒からのSOF脱離量を、より正確に推定することができるようになる。
【0012】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のSOF脱離量推定装置において、前記SOF脱離量推定手段は、前記触媒床温と前記排気流量とに基づいて算出された基本SOF脱離量を、前記排気流量の変化量に基づいて算出された補正値にて補正することで、前記脱離量の推定値を算出することをその要旨としている。また請求項6に記載の発明は、請求項5に記載のSOF脱離量推定方法において、前記SOF脱離量の推定値は、前記触媒床温と前記排気流量とに基づいて算出された基本SOF脱離量を、前記排気流量の変化量に基づいて算出された補正値にて補正することで算出されてなることをその要旨としている。
【0013】
上記構成及び上記推定方法では、触媒床温と排気流量とに基づいて基本SOF脱離量が算出され、更に排気流量の変化量に基づいて補正値が算出されるようになる。そしてその補正値にて基本SOF脱離量を補正することで、SOF脱離量の推定値が算出されるようになる。
【0014】
排気流量が急増したときには、一時により多くのSOFが排気浄化触媒から脱離するようになる。このように排気の流勢にて排気浄化触媒から脱離するSOFの量は、排気流量だけでなく、その変化量にも影響を受ける。その点、上記構成及び推定方法では、排気流量の変化量に基づいて算出された補正値による補正を行うことで、こうした排気流量の変化の影響についても、SOF脱離量の推定結果に取り込むようにしている。そのため、上記構成及び推定方法によれば、機関運転中の排気浄化触媒からのSOF脱離量を更に正確に推定することができるようになる。
【0015】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載のSOF脱離量推定装置において、前記触媒床温を、排気温及び大気温より推定する触媒床温推定手段を備えることをその要旨としている。また請求項7に記載の発明は、請求項5又は6に記載のSOF脱離量推定方法において、前記触媒床温は、排気温及び大気温より推定されてなることをその要旨としている。
【0016】
上記構成及び推定方法では、SOF脱離量の推定に用いられる触媒床温が、排気温及び大気温に基づいて推定されるようになる。そのため、触媒床温を直接検出する各別のセンサを設けずとも、SOF脱離量の推定を行うことが可能となる。
【0017】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜3のいずれか1項に記載のSOF脱離量推定装置において、前記排気流量を、機関回転速度、燃料噴射量、シリンダ流入空気量、排気温及び排気圧により推定する排気流量推定手段を備えることをその要旨としている。また請求項8に記載の発明は、請求項5〜7のいずれか1項に記載のSOF脱離量推定方法において、前記排気流量は、機関回転速度、燃料噴射量、シリンダ流入空気量、排気温及び排気圧により推定されてなることをその要旨としている。
【0018】
上記構成及び推定方法では、SOF脱離量の推定に用いられる排気流量が、機関回転速度、燃料噴射量、シリンダ流入空気量、排気温及び排気圧により推定されるようになる。そのため、排気流量を直接検出する各別なセンサを設けずとも、SOF脱離量の推定を行うことが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明のSOF脱離量推定装置及び推定方法を具体化した一実施形態を、図1〜図4を参照して詳細に説明する。
図1は、本実施の形態のSOF脱離量推定装置の適用されるディーゼル機関の構成を示している。同図に示すように、ディーゼル機関は大きくは、吸気通路10、燃焼室11及び排気通路12を備えて構成されている。
【0020】
吸気通路10の最上流部には、吸入した空気を浄化するエアクリーナ13が設けられ、そのエアクリーナ13には、吸入した空気の温度、すなわち大気温を検出する大気温センサ14が設置されている。またエアクリーナ13の下流には、吸気管15が接続されており、その吸気管15には、その内部を流れる空気の流量、すなわち吸気量を検出するエアフローメータ16が設置されている。そして吸気管15は、吸気マニホールド17及び吸気ポート18を介して燃焼室11に接続されている。
【0021】
燃焼室11の上面には、その内部に燃料を噴射する燃料噴射弁19が設置されている。そして燃焼室11は、排気ポート20及び排気マニホールド21を介して排気管22に接続されている。この排気管22にはその上流から、排気温を検出する排気温センサ23、及び排気圧を検出する排気圧センサ24が設けられ、更にそれらの下流には、排気を浄化する排気浄化触媒25が設置されている。
【0022】
こうしたディーゼル機関の制御は、電子制御ユニット26により実施されている。電子制御ユニット26は、機関制御に係る各種演算処理を実施する中央演算処理装置(CPU)、機関制御用のプログラムやデータの記憶された読込専用メモリ(ROM)、CPUの演算結果を一時記憶するランダムアクセスメモリ(RAM)及び外部と間で信号の入出力するための入出力ポート(I/O)を備えて構成されている。こうした電子制御ユニット26の入力ポートには、上記大気温センサ14、エアフローメータ16、排気温センサ23、排気圧センサ24に加え、更に機関回転速度を検出するNEセンサ27やアクセル操作量を検出するアクセルセンサ28等、ディーゼル機関の運転状況を検出する各種のセンサの検出信号が入力されている。また電子制御ユニット26の出力ポートには、上記燃料噴射弁19などの駆動回路が接続されている。
【0023】
こうした電子制御ユニット26は、各センサの検出信号に基づき把握されるディーゼル機関の運転状況に応じて、燃料噴射弁19等の駆動回路に指令信号を出力することで、ディーゼル機関を制御している。例えば電子制御ユニット26は、NEセンサ27により検出された機関回転速度、及びアクセルセンサ28により検出されたアクセル操作量に基づいて燃料噴射量を決定して、燃料噴射弁19の燃料噴射量制御を実施している。
【0024】
また電子制御ユニット26は、そうした機関制御の一環として、排気浄化触媒25のSOF付着量の推定を行うようにしている。このSOF付着量の推定は、以下の態様で行われる。すなわち、電子制御ユニット26は、現状の機関運転状況に基づいて、単位時間当りの排気浄化触媒25へのSOFの新規付着量(SOF付着速度)と、単位時間当りの排気浄化触媒25からのSOFの脱離量(SOF脱離速度)とをそれぞれ推定して求めるようにしている。そして電子制御ユニット26は、それらSOF付着速度とSOF脱離速度とから単位時間当りの排気浄化触媒25のSOF付着量の変化量を求め、これを積算することで現時点のSOF付着量を推定する。そして電子制御ユニット26は、その推定されたSOF付着量に基づいて、排気浄化触媒25に付着したSOFを強制脱離させるためのSOF再生制御や、付着したSOFによる白煙の発生を抑制するための白煙抑制制御などの各種制御の実行タイミングや実行条件を設定するようにしている。また電子制御ユニット26は、排気浄化触媒25のカーボン付着量の推定にも、上記推定したSOF付着量を利用している。
【0025】
なお上記のような単位時間当りのSOF新規付着量(付着速度)は、例えば機関回転速度や燃料噴射量から推定されるディーゼル機関のSOF排出量と、触媒床温から推定されるSOFの付着率(付着し易さの度合)とに基づいて推定することができる。一方、本実施の形態では、上記のような単位時間当りのSOF脱離量(脱離速度)は、以下の態様で推定するようにしている。
【0026】
以下、こうした本実施の形態におけるSOF脱離量の推定の詳細について説明する。本実施の形態では、排気浄化触媒25からの単位時間当りのSOF脱離量を、触媒床温と排気流量とに基づいて推定するようにしている。
【0027】
機関運転中における排気浄化触媒25からのSOFの脱離の形態には、大きくは次の2つの形態がある。1つは、触媒上での加熱分解によりSOFが燃焼されて脱離する形態、もう1つは、排気の流勢によりSOFが触媒表面から剥れ落ちて脱離する形態である。ここで前者の形態のSOFの脱離は、触媒床温が高いほど多くなり、後者の形態のSOFの脱離は、排気流量が多くなるほど多くなる。よって、触媒床温が高い程、或いは排気流量が多い程、SOFの脱離は多くなる。そこで本実施の形態では、図2に例示するような基本SOF脱離量演算マップを用い、単位時間当りの排気浄化触媒25からのSOFの推定脱離量の基本量である基本SOF脱離量を求めるようにしている。
【0028】
一方、排気流量が急増すると、一時により多くのSOFが排気浄化触媒から脱離するようになる。このように排気の流勢にて排気浄化触媒から脱離するSOFの量は、排気流量だけでなく、その変化量にも影響を受ける。そこで本実施の形態では、排気流量の変化量に応じて上記基本SOF脱離量を補正して、最終的な単位時間当たりのSOF脱離量の推定値(最終SOF脱離量)を求めるようにしている。具体的には、図3に例示するような流量変化補正係数演算マップを用いて算出された流量変化補正係数を上記基本SOF脱離量に乗算することで、最終的なSOF脱離量を算出するようにしている。なお、同図に示すように流量変化補正係数は、排気流量の変化量が一定値Aよりも小さいときにはその値が「1」に設定され、排気流量の変化量が一定値A以上のときには、同変化量に応じてその値が大きい値に設定されるようになっている。
【0029】
また本実施の形態では、上記のような基本SOF脱離量の算出に用いる触媒床温及び排気流量を、直接検出するのではなく、以下の態様で推定して求めるようにしている。
まず触媒床温は、排気温センサ23の検出する排気管22上流部の排気温と、大気温センサ14の検出する大気温とに基づいて推定するようにしている。排気温は、排気温センサ23の設置位置から排気浄化触媒25に至るまでに、排気管22の表面からの放熱によって低下する。このときの排気温の低下代は、排気温センサ23による排気温の検出値と大気温との差が大きい程、大きくなる。また排気浄化触媒25の内部を通過する排気の温度が変化しても、それに応じた触媒床温の変化が生じるまでには若干の遅れがある。そこで本実施の形態では、上記のような排気浄化触媒25に流入するまでの排気管22の表面からの放熱による温度低下と、触媒床温変化の遅れとを考慮して、排気温検出値と大気温とに基づいて触媒床温を推定するようにしている。
【0030】
一方、排気流量は、機関回転速度、燃料噴射量、シリンダ流入空気量、排気温及び排気圧に基づいて推定するようにしている。ここでシリンダ流入空気量は、ディーゼル機関の各気筒の燃焼室11に導入される空気の質量を示しており、その値は、エアフローメータ16の検出する吸気量と機関回転速度とに基づき求められている。そしてこれらのパラメータより、気体の状態方程式(PV=nRT)を用いて排気流量を推定するようにしている。すなわち、上記状態方程式の「P」に排気圧を、「T」に排気温をそれぞれ代入するとともに、燃料噴射量、シリンダ流入空気量及び機関回転速度に基づいて算出された単位時間当りのディーゼル機関の排気の排出質量を「n」として代入して、単位時間当りの排気の体積流量「V」を導出している。なお、上記排気の排出質量の算出に際して、燃料比重は、予め定数として与えられている。
【0031】
図4は、こうした本実施の形態でのSOF脱離量の推定を行うための「SOF脱離量推定ルーチン」のフローチャートを示している。本ルーチンの処理は、機関運転中に、規定の制御周期毎に、電子制御ユニット26により繰り返し実行されている。
【0032】
さて本ルーチンが開始されると、電子制御ユニット26はまず、ステップS10において、排気温及び大気温に基づき触媒床温を推定する。また電子制御ユニット26は、ステップS20において、機関回転速度、燃料噴射量、シリンダ流入空気量、排気温及び排気圧に基づいて排気流量を推定する。そして電子制御ユニット26は、続くステップS30において、排気流量の変化量を算出する。なお、このときの排気流量の変化量は、今回の制御周期における排気流量の推定値から前回の制御周期における排気流量の推定値を減算することで求められている。
【0033】
こうして触媒床温、排気流量及びその変化量を推定すると、電子制御ユニット26はステップS40において、上記推定した触媒床温及び排気流量に基づき、図2の基本SOF脱離量演算マップを用いて基本SOF脱離量を算出する。更に電子制御ユニット26は、続くステップS50において、上記推定した排気流量の変化量に基づいて、図3の流量変化補正係数演算マップを用いて流量変化補正係数を算出する。そして電子制御ユニット26は、ステップS60において、上記算出した基本SOF脱離量に流量変化補正係数を乗算して、最終SOF脱離量を算出し、本ルーチンの処理を終了する。
【0034】
なお本実施の形態では、本ルーチンのステップS40〜S60の処理が、上記SOF脱離量推定手段の行う処理に相当している。また本ルーチンのステップS10の処理が、上記触媒床温推定手段の行う処理に、ステップS20の処理が排気流量推定手段の行う処理に、それぞれ相当している。
【0035】
以上説明した本実施形態のSOF脱離量推定装置及び推定方法によれば、次の効果を奏することができる。
(1)本実施形態では、電子制御ユニット26は、触媒床温と排気流量とに基づいてSOF脱離量を推定するようにしている。上述のように機関運転中の排気浄化触媒25からのSOFの脱離には大きくは、燃焼による脱離と、排気の流勢による脱離との2つの形態がある。そして前者の形態でのSOFの脱離は、触媒床温が高いほど多くなり、後者の形態でのSOFの脱離は、排気流量が多いほど多くなる。その点、本実施の形態では、触媒床温に加え、排気流量にも基づいて排気浄化触媒25からのSOF脱離量が推定されている。そのため、燃焼によるものだけでなく、排気の流勢によるものも考慮して、SOF脱離量が推定されるようになり、機関運転中の排気浄化触媒25からのSOF脱離量をより正確に推定することができるようになる。
【0036】
(2)本実施の形態では、触媒床温と排気流量とに基づいて算出された基本SOF脱離量を、排気流量の変化量に基づいて算出された補正値にて補正することで、最終的なSOF脱離量の推定値である最終SOF脱離量を算出するようにしている。より具体的には、排気流量の変化量に応じて算出された流量変化補正係数を上記基本SOF脱離量に乗算した値を、最終SOF脱離量として求めるようにしている。排気流量が急増したときには、より多くのSOFが排気浄化触媒25から一時に脱離するようになる。このように排気の流勢にて排気浄化触媒25から脱離するSOFの量は、排気流量だけでなく、その変化量にも影響を受ける。その点、本実施の形態では、排気流量の変化量に基づいて算出された補正値(流量変化補正係数)による補正を行うことで、こうした排気流量の変化の影響についても、SOF脱離量の推定結果に取り込むようにしている。そのため、機関運転中の排気浄化触媒25からのSOF脱離量を更に正確に推定することができるようになる。
【0037】
(3)本実施の形態では、上記基本SOF脱離量の算出に用いる触媒床温を、排気温及び大気温より推定して求めるようにしている。そのため、触媒床温を直接検出する各別のセンサを設けずとも、SOF脱離量の推定を行うことが可能となる。
【0038】
(4)本実施の形態では、上記基本SOF脱離量の算出や、流量変化補正係数の算出に供される排気流量変化量の算出に用いられる排気流量を、機関回転速度、燃料噴射量、シリンダ流入空気量、排気温及び排気圧により推定して求めるようにしている。そのため、排気流量を直接検出する各別なセンサを設けずとも、SOF脱離量の推定を行うことが可能となる。
【0039】
なお上記実施形態は、以下のように変更して実施することもできる。
・上記実施の形態では、触媒床温を、排気温及び大気温に基づき推定するようにしていたが、こうした触媒床温の推定を、別の手法で行うようにしても良い。また排気浄化触媒25にその触媒床温を直接検出するセンサが設けられている場合には、そのセンサの検出値を用いてSOF脱離量の推定を行うようにすれば良い。
【0040】
・上記実施の形態での排気流量の推定を、別の手法で行うようにしても良い。また排気通路12に排気流量を直接検出するセンサが設置されている場合には、そのセンサの検出値を用いてSOF脱離量の推定を行うようにすれば良い。
【0041】
・上記実施の形態では、基本SOF脱離量に流量変化補正係数を乗算して最終SOF脱離量を算出するようにしていたが、こうした排気流量の変化量に応じた補正を別の態様で行うことも可能である。例えば排気流量の変化量に応じて算出された補正値を、基本SOF脱離量に加減算して最終SOF脱離量を算出するようにすることも可能である。要は、排気流量が急増したときには、最終SOF脱離量がより大きくなるように補正を行えば、適切なSOF脱離量の算出を行うことができる。
【0042】
・上記実施の形態では、排気流量の変化量に応じた補正値にて基本SOF脱離量を補正して最終SOF脱離量を求めるようにしていたが、適用される内燃機関での排気流量の変化に対するSOF脱離量の変化が無視し得るほど小さいのであれば、こうした排気流量の変化量に応じた補正は割愛するようにしても良い。
【0043】
・上記実施の形態では、ディーゼル機関の排気系に設けられた排気浄化触媒25におけるSOF脱離量を推定するようにしていたが、排気浄化触媒へのSOF付着が問題になる内燃機関であれば、ディーゼル機関以外の内燃機関においても、本発明のSOF脱離量推定装置及び推定方法を適用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明に係るSOF推定装置及び推定方法の一実施形態についてその適用対象となるディーゼル機関の構成を模式的に示す略図。
【図2】同実施形態に採用される基本SOF脱離量演算マップにおける触媒床温、排気流量と基本SOF脱離量との関係を示すグラフ。
【図3】同実施形態に採用される流量変化補正係数演算マップにおける排気流量変化量と流量変化補正係数との関係を示すグラフ。
【図4】同実施形態に採用されるSOF脱離量推定ルーチンの処理手順を示すフローチャート。
【符号の説明】
【0045】
10…吸気通路、11…燃焼室、12…排気通路、13…エアクリーナ、14…大気温センサ、15…吸気管、16…エアフローメータ、17…吸気マニホールド、18…吸気ポート、19…燃料噴射弁、20…排気ポート、21…排気マニホールド、22…排気管、23…排気温センサ、24…排気圧センサ、25…排気浄化触媒、26…電子制御ユニット、27…NEセンサ、28…アクセルセンサ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
機関運転中の排気浄化触媒からのSOF脱離量を推定するSOF脱離量推定装置において、
触媒床温と排気流量とに基づいて前記SOF脱離量を推定するSOF脱離量推定手段を備える
ことを特徴とするSOF脱離量推定装置。
【請求項2】
前記SOF脱離量推定手段は、前記触媒床温と前記排気流量とに基づいて算出された基本SOF脱離量を、前記排気流量の変化量に基づいて算出された補正値にて補正することで、前記脱離量の推定値を算出する
請求項1に記載のSOF脱離量推定装置。
【請求項3】
前記触媒床温を、排気温及び大気温より推定する触媒床温推定手段を備える
請求項1又は2に記載のSOF脱離量推定装置。
【請求項4】
前記排気流量を、機関回転速度、燃料噴射量、シリンダ流入空気量、排気温及び排気圧により推定する排気流量推定手段を備える
請求項1〜3のいずれか1項に記載のSOF脱離量推定装置。
【請求項5】
機関運転中の排気浄化触媒からのSOF脱離量を推定する方法であって、
前記SOF脱離量を、触媒床温と排気流量とに基づいて推定する
ことを特徴とするSOF脱離量推定方法。
【請求項6】
前記SOF脱離量の推定値は、前記触媒床温と前記排気流量とに基づいて算出された基本SOF脱離量を、前記排気流量の変化量に基づいて算出された補正値にて補正することで算出されてなる
請求項5に記載のSOF脱離量推定方法。
【請求項7】
前記触媒床温は、排気温及び大気温より推定されてなる
請求項5又は6に記載のSOF脱離量推定方法。
【請求項8】
前記排気流量は、機関回転速度、燃料噴射量、シリンダ流入空気量、排気温及び排気圧により推定されてなる
請求項5〜7のいずれか1項に記載のSOF脱離量推定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−138560(P2009−138560A)
【公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−313643(P2007−313643)
【出願日】平成19年12月4日(2007.12.4)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】