説明

SmCo系微粒子の製造方法及び磁気記録媒体の製造方法

【課題】更なる高記密度記録を達成する磁気記録媒体の製造を可能にする方法を提供すること。
【解決手段】Sm塩、Co塩、並びに有機ポリマー及び/又は配位子化合物とこれらが溶解する反応溶媒とを含有する反応溶液を加熱して、該反応溶液中でSmCo系微粒子並びに有機ポリマー及び/又は配位子化合物を含む固形混合物を生成させる工程と、固形混合物から、有機ポリマー及び/又は配位子化合物の一部を溶剤への溶解により除去して、残った有機ポリマー及び/又は配位子化合物が付着しているSmCo系微粒子を得る工程とを備える、SmCo系微粒子の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はSmCo系微粒子の製造方法及び磁気記録媒体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
データを長期保存するためのコンピュータテープ等の磁気記録媒体において、記録密度を更に高めることが強く求められている。高密度記録を達成するためには、磁気特性に優れる磁性粒子を微細化し、これを用いて磁性層を形成させることが有効であると期待される。例えば、微細な磁性粒子を製造する方法に関して、ナノメータスケールまで微細化されたSmCo系微粒子の製造方法が提案されている(特許文献1)。
【特許文献1】特開2006−245313号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、従来の方法により得られる磁性粒子を用いた磁気記録媒体では、高密度記録において磁気変換特性等を十分なレベルに維持することが困難であった。例えば、上記特許文献1に記載の方法によれば微細化されたSmCo系微粒子が得られるものの、これを用いて得られる磁気記録媒体は、実際には磁気変換特性等の点で満足できるレベルを達成するのが困難であり、高密度記録に十分に適応できるものではなかった。
【0004】
そこで、本発明は、更なる高記密度記録を達成する磁気記録媒体の製造を可能にする方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
一つの側面において、本発明はSmCo系微粒子の製造方法に関する。本発明に係るSmCo系微粒子の製造方法は、Sm塩、Co塩、並びに有機ポリマー及び/又は配位子化合物とこれらが溶解する反応溶媒とを含有する反応溶液を加熱して、該反応溶液中でSmCo系微粒子並びに有機ポリマー及び/又は配位子化合物を含む固形混合物を生成させる工程と、固形混合物から、有機ポリマー及び/又は配位子化合物の一部を溶剤への溶解により除去して、残った有機ポリマー及び/又は配位子化合物が付着しているSmCo系微粒子を得る工程とを備える。
【0006】
別の側面において、本発明は磁気記録媒体の製造方法に関する。本発明に係る磁気記録媒体の製造方法は、Sm塩、Co塩、並びに有機ポリマー及び/又は配位子化合物とこれらが溶解する反応溶媒とを含有する反応溶液を加熱して、該反応溶液中でSmCo系微粒子並びに有機ポリマー及び/又は配位子化合物を含む固形混合物を生成させる工程と、固形混合物から、有機ポリマー及び/又は配位子化合物の一部を溶剤への溶解により除去して、残った有機ポリマー及び/又は配位子化合物が付着しているSmCo系微粒子を得る工程と、有機ポリマー及び/又は配位子化合物が付着しているSmCo系微粒子を含む磁性塗料を調製する工程と、磁性塗料を用いてSmCo系微粒子を含む磁性層を形成させる工程とを備える。
【0007】
上記本発明に係る製造方法においては、有機ポリマー及び/又は配位子化合物を含む反応溶液中でSm塩及びCo塩からSmCo系微粒子を生成させることにより、十分に微細化されたSmCo系微粒子が有機ポリマー等と混合された固形混合物の状態で生成する。そして、この固形混合物から有機ポリマー等の一部を除去することにより、更なる高密度記録を達成する磁気記録媒体の製造が可能になった。
【0008】
有機ポリマー及び/又は配位子化合物の一部を除去する上記工程において、固形混合物から、有機ポリマー及び/又は配位子化合物の一部を、有機ポリマー及び配位子化合物の合計質量に対するSmCo系微粒子の質量比が1〜10となるまで除去することが好ましい。これにより本発明による高記録密度化の効果が特に顕著に奏される。
【0009】
反応溶液中の反応溶媒を溶剤へ溶媒置換して得た分散液中で固形混合物から有機ポリマー及び/又は配位子化合物の一部を溶媒への溶解により除去してもよい。この場合、有機ポリマー及び/又は配位子化合物が溶解している溶剤の一部を除去してから別の溶剤を加えた分散液を用いて磁性塗料を調製することにより、良好な状態で被覆微粒子が分散した磁性塗料を容易に得ることができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、良好な磁気特性及び電磁変換特性を有し、高密度記録が可能な磁気記録媒体が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0012】
図1は、磁気記録媒体である磁気テープの一実施形態を示す断面図である。図1に示す磁気テープ1は、テープ状の支持体10の一方面上に支持体10側から順に積層された非磁性層20及び磁性層30と、支持体10の他方面上に積層されたバックコート層40とを備える。
【0013】
磁性層40はSmCo系微粒子を含んでいる。磁性層40は、Sm塩、Co塩、並びに有機ポリマー及び/又は配位子化合物とこれらが溶解する反応溶媒とを含有する反応溶液を加熱して、該反応溶液中でSmCo系微粒子並びに有機ポリマー及び/又は配位子化合物を含む固形混合物を生成させる工程と、固形混合物から、有機ポリマー及び/又は配位子化合物の一部を溶剤への溶解により除去して、残った有機ポリマー及び/又は配位子化合物が付着しているSmCo系微粒子を得る工程と、有機ポリマー及び/又は配位子化合物が付着しているSmCo系微粒子を含む磁性塗料を調製する工程と、磁性塗料を用いてSmCo系微粒子を含む磁性層を形成させる工程とを備える方法により形成される。
【0014】
上記反応溶液中のSm塩及びCo塩から、加熱によりSmCo系微粒子が生成する。好ましくは、Sm塩はサマリウムアセチルアセトナート水和物であり、Co塩はコバルトアセチルアセトナート水和物である。
【0015】
反応溶液中のSm塩とCo塩との比率は、Sm:Co=1:3〜1:10程度となるように調製されることが好ましい。これにより、磁気特性に優れるSmCo又はこれに近似する組成を有するSmCo系微粒子が生成する。また、反応溶液に含まれるSm塩及びCo塩の合計重量は、反応溶液全体100重量部に対して0.1〜10重量部であることが好ましい。
【0016】
有機ポリマーとしては、親水性ポリマー又は疎水性ポリマーを用いることができ、親水性ポリマーが好ましい。例えば、ポリ(N−ビニル−2−ピロリドン)(PVP)、ポリビニルアルコール、ポリプロプレングリコール、ポリアクリルアミド、ポリビニルアミン、ポリエチレンイミン、並びにポリアクリル酸、ポリマレイン酸、ポリグルタミン酸及びそれらの塩から群より選ばれる少なくとも1種の親水性ポリマーを有機ポリマーとして用いることができる。あるいは、ポリウレタン、ポリ塩化ビニル、ポリアミド及びポリエステルからなる群より選ばれる少なくとも1種の疎水性ポリマーを有機ポリマーとして用いることができる。有機ポリマーの数平均分子量は、500〜10000であることが好ましい。
【0017】
有機ポリマーに代えて、または有機ポリマーと共に配位子化合物を用いてもよい。配位子化合物は孤立電子対を持つ基を有し、金属(好ましくはSm及びCo)と配位結合して錯体を形成する化合物である。配位子化合物としては、アミン類、カルボン酸類、フォスフィン類、フォスフィンオキシド類、アミド類、及びチオール類からなる群より選ばれる少なくとも1種の有機化合物を用いることができる。これら有機化合物はアルキル基、及び/又はアリル基を有していてもよい。配位子化合物の具体例として、オレイン酸及びオレイルアミンが挙げられる。
【0018】
有機ポリマー及び配位子化合物は、熱、電子線又は紫外線等により反応する極性基を有していることが好ましい。これにより、磁性層の硬化時に、結合剤と、有機ポリマー及び/または配位子化合物とを反応により結合させることができる。この場合、結合剤と有機ポリマー及び/又は配位子化合物とが直接結合してもよいし、他の結合剤を介して結合してよい。極性基としては、ヒドロキシル基及びアミノ基等の活性水素を有する極性基、(メタ)アクリロイル基及びエポキシ基等の公知の反応性極性基が挙げられる。上記極性基を有する有機ポリマー等とジイソシアネート等の公知の硬化剤とを併用してもよい。
【0019】
反応溶液に含まれる有機ポリマー及び配位子化合物の合計質量は、Sm及びCoの合計質量100重量部に対して50〜2000重量部であることが好ましい。有機ポリマー及び配位子化合物の量が係る数値範囲外であると、十分に微細化されたSmCo系微粒子を良好な分散状態で生成させるのが困難となる傾向がある。
【0020】
反応溶媒はアルコール溶媒のような還元性の親水性溶媒を含むことが好ましい。また、十分に反応温度を高めて反応を効率的に進行させるために、反応溶媒はある程度高い沸点を有していることが望まれる。具体的には、SmCo系微粒子を生成させる反応の間に反応溶液に含まれる反応溶媒は150℃以上の沸点を有していることが好ましい。アルコール溶媒としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ペンタエチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,2−ヘキサンジオール及び2−メチル−2,4−ペンタンジオールからなる群より選ばれる少なくとも一種のグリコール類を含むことが好ましい。更に還元を促進させるためNaBH等の還元剤を反応溶液に添加してもよい。
【0021】
反応溶液は、例えば、Sm塩溶液、Co塩溶液、並びに有機ポリマー溶液及び/又は配位子化合物溶液をそれぞれ準備し、それらを混合する方法により調製される。Sm塩溶液及びCo塩溶液は、例えば、Sm塩及びCo塩をそれぞれエーテル系溶媒に溶解して調製される。エーテル系溶媒としては、1,4−ジオキサン、フェニルエーテル及びオクチルエーテルが挙げられる。有機ポリマーが親水性ポリマーである場合は親水性溶媒を用いて、有機ポリマーが疎水性ポリマーである場合は疎水性溶媒を用いて、有機ポリマー溶液が調製される。混合後、反応溶液は十分に攪拌される。
【0022】
上記3つ又は4つの溶液を用いて反応溶液を調製する場合、反応溶媒は親水性溶媒及びエーテル系溶媒を含む混合溶媒である。ただしこの場合、エーテル系溶媒を親水性溶媒に含まれる水分とともに反応溶媒から予め除去してから、SmCo系微粒子を生成させることが好ましい。
【0023】
反応溶液を好ましくは150〜320℃に、より好ましくは250〜300℃に加熱することにより、Sm塩及びCo塩からSmCo系微粒子を生成させる。SmCo系微粒子は、有機ポリマー及び/又は配位子化合物との固形混合物の状態で析出する。生成するSmCo系微粒子はSmとCoとの合金から構成される微粒子であり、例えば2〜7nmの粒径を有する。有機ポリマー及び/又は配位子化合物を含有する反応溶液中でSmCo系微粒子を生成させることにより、このように十分に微細化されたSmCo系微粒子を良好な分散状態で生成させることが可能である。
【0024】
SmCo系微粒子を生成させる際には、SmCo系微粒子を良好な分散状態で生成させるために、例えば0.1〜10質量%程度の低濃度でSmCo系微粒子を生成させることが望ましい。しかし、このような低濃度の分散液を濃縮することなくそのまま磁性塗料の形成に用いると、磁性塗料が低粘度であることから幅や長手方向での膜厚変動が大きくなって磁性塗料の塗布が実際には非常に困難である。
【0025】
固形混合物を生成させた後、固形混合物から有機ポリマー及び/又は配位子化合物の一部を溶剤への溶解により除去して、残った有機ポリマー及び/又は配位子化合物が付着しているSmCo系微粒子を得る。SmCo系微粒子に付着している部分の有機ポリマー及び配位子化合物は溶剤へ溶解し難いため、固形混合物中において、SmCo系微粒子間に存在している部分の有機ポリマー及び/又は配位子化合物を選択的に除去することが可能である。
【0026】
有機ポリマー及び/又は配位子化合物の除去(洗浄)は、より具体的には、例えば、反応溶液中の反応溶媒を有機ポリマー及び/又は配位子化合物の溶解性が高い他の溶剤へ溶媒置換して得た分散液中で有機ポリマー及び/又は配位子化合物を溶剤に溶解させる方法により行うことができる。洗浄後、SmCo系微粒子の表面は残った有機ポリマー及び/又は配位子化合物によって完全に又は部分的に被覆されている場合が多い。
【0027】
溶媒置換は、反応溶液からろ過又は上澄み液の除去により反応溶媒の一部を除去し、そこに溶剤を加える方法により行うことができる。上澄み液の除去は、反応溶液の温度が高い状態で行い、できるだけ多くの反応溶媒を除去することが好ましい。得られた分散液の攪拌及び/又は超音波振動の印加により有機ポリマー及び/又は配位子化合物を溶剤に溶解させて、固形混合物を洗浄することができる。洗浄を効率的に行うために、攪拌及び超音波振動を併用することが好ましい。洗浄の際、分散液を、必要により還流させながら溶剤の沸点以下の温度に加熱する。加熱温度は好ましくは室温〜80℃程度である。SmCo系微粒子の酸化を防止するために、好ましくは不活性ガス雰囲気下で洗浄が行われる。
【0028】
洗浄に要する時間は、好ましくは0.25〜24時間、より好ましくは0.5〜12時間である。反応溶液から反応溶媒を除去して固形混合物を乾固させることなく調製した分散液の攪拌により有機ポリマー等を除去する場合、0.25〜3時間の攪拌で十分である場合が多い。
【0029】
分散液の攪拌及び/又は超音波振動の印加による洗浄の後、分散液中の溶剤(反応溶媒を含む)の一部を除去してから別の溶剤を加えて得た分散液中で更に洗浄を行ってもよい。所望の量の有機ポリマー及び/又は配位子化合物が除去されるまで、洗浄を繰り返すことができる。溶媒置換及び洗浄は好ましくは3〜5回繰り返される。溶剤の一部を除去する方法として、上澄みを除去する、または、ウルトラフィルターで除去する等の方法が挙げられる。
【0030】
有機ポリマーが親水性ポリマーである場合、アセトン、親水性ケトン類及びアルコールが洗浄のために好適に用いられる。アルコールとしてはメチルアルコール、エチルアルコール等の炭素数3以下の直鎖アルコールやtert−ブチルアルコールが用いられる。親水性ケトン類としてはエチルメチルケトンがある。一方、有機ポリマーが疎水性ポリマーである場合、キシレン、ヘキサン、シクロヘキサノンのようなケトン類、低極性のエステル、及びアミドが溶剤として好適に用いられる。SmCo系微粒子の酸化を防止するために、予め脱水及び/又は脱酸素処理を施した溶剤を用いることが好ましい。
【0031】
洗浄に用いられる溶剤は、SmCo系微粒子を生成させる反応の間に反応溶液に含まれる反応溶媒(混合溶媒の場合は最も高い沸点を有する溶媒)より低い沸点(好ましくは200℃以下、より好ましくは150℃未満)を有する低沸点溶媒であることが好ましい。これにより、磁性塗料から磁性層を形成させる際に、磁性塗料の塗膜の乾燥が容易になって、生産効率向上や品質安定化の点で有利となる。
【0032】
洗浄により、有機ポリマー及び配位子化合物の合計質量に対するSmCo系微粒子の質量比が1〜10となるまで除去することが好ましい。係る質量比が10を超えると分散性が低下する傾向がある。また、質量比が1未満では磁気記録媒体として用いた際の磁性層中のSmCo粒子密度が低下して、良好な記録再生特性を得にくくなる傾向がある。
【0033】
有機ポリマー及び/又は配位子化合物が付着しているSmCo系微粒子を用いて、SmCo系微粒子、SmCo系微粒子に付着している有機ポリマー及び/又は配位子化合物、並びに結合剤とこれらが溶解又は分散している溶剤(好ましくは上記低沸点溶媒)とを含有する磁性塗料を調製する。磁性塗料は、上記成分の他、分散剤、潤滑剤、研磨剤、硬化剤及び帯電防止剤等のその他の成分を含有していてもよい。
【0034】
結合剤は、磁気記録媒体の磁性層に用いられるものであれば特に制限はないが、分散性の向上の観点から、上記有機ポリマー及び/又は上記配位子化合物との良好な相溶性を有するポリマーが好ましい。例えば有機ポリマーが親水性ポリマーである場合は親水性の結合剤として好適に用いられる。疎水性ポリマーである場合は疎水性の結合剤が好適に用いられる。上記有機ポリマーと同種のポリマーを結合剤として用いることが特に好ましい。
【0035】
疎水性の結合剤の具体例としては、ポリ塩化ビニル系重合体又は共重合体、ポリウレタン系樹脂、ポリアクリル樹脂及びポリエステル系樹脂等の熱硬化性樹脂又は放射線硬化性樹脂が挙げられる。親水性の結合剤の具体例としては、ポリ(N−ビニル−2−ピロリドン)、ポリアクリル酸、ポリマレイン酸、ポリグルタミン酸又はこれらの塩、ビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリアクリルアミド、ポリビニルアミン及びポリエチレンイミン又はこれらの誘導体若しくは共重合体、セルロース、水溶性アクリル樹脂、水溶性ポリビニルアセタール、水溶性ポリビニルブチラール、並びに水溶性ウレタン樹脂が挙げられる。磁性層の塗膜強度を上げるために、結合剤の分子量やキュリー温度(Tg)や構造を選択することが好ましい。結合剤の数平均分子量は、好ましくは5000〜100000、さらに好ましくは10000〜50000である。
【0036】
磁性塗料は、例えば、有機ポリマー及び/又は配位子化合物が溶解している溶剤の一部を洗浄後の分散液から除去し、そこに有機ポリマー及び/又は配位子化合物が溶解していない溶剤及び/又は結合剤を加えてスラリー(分散液)を得る工程と、スラリーを混練する工程と、混練後のスラリーに追加の溶剤を加えて磁性塗料を得る工程とを備える方法により調製される。スラリーを得る工程と混練する工程を同時に行ってもよい。この場合、例えば、有機ポリマー及び/又は配位子化合物が付着しているSmCo系微粒子を含む分散液に溶剤及び/又は結合剤を徐々に加えながら混練する。混練後のスラリーに追加の溶剤を加えてスラリーを希釈し、希釈されたスラリーにおいて分散機によりスラリー中の固形分を分散させる工程を加えることが好ましい。スラリーを得る工程の後、これを混練する工程を行うことなく、得られたスラリーにおいて分散機によりスラリー中の固形分を分散させて、磁性塗料を作成してもよい。スラリーを混練する際のスラリーの固形分濃度は75〜95質量%が好ましい。このような範囲の固形分濃度を有するスラリーを混練することにより、SmCo系微粒子と結合剤が均一に混合されるとともに、良好な分散状態が得られる。希釈後のスラリーの固形分濃度は10〜30質量%が好ましい。このような固形分濃度を有するスラリーにおいて分散を行うことにより、SmCo系微粒子が十分に分散された磁性塗料を容易に得ることができる。結合剤及び必要により加えられるその他の成分は、混練前又は混練後のスラリーに任意の段階で適宜添加される。
【0037】
上記固形分濃度の算出の際、「固形分」の質量にはSmCo系微粒子、有機ポリマー、配位子化合物及びその他の固形成分が含まれる。
【0038】
非磁性層20上に磁性塗料からなる塗膜を形成させる工程と、塗膜に対して磁場配向処理を施す工程と、塗膜から溶剤を除去する工程と、塗膜を平滑化する工程と、塗膜を硬化させる工程とを含む方法により、磁性層30が形成することができる。塗膜の平滑化は、好ましくはカレンダー処理により行われる。
【0039】
磁気テープ1は、上記実施形態のような方法により磁性層30を形成させる工程の他、支持体10の一方面上に非磁性層20を形成する工程と、支持体10の他方面上にバックコート層40を形成する工程とを更に備える製造方法により製造することができる。
【0040】
支持体10としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート及びポリエチレンナフタレート等のポリエステル樹脂、ポリアミド、ポリイミド、並びにポリアミドイミドのフィルムのような樹脂フィルムを用いることができる。
【0041】
非磁性層40は、非磁性粒子、結合剤と、必要により分散剤、研磨剤及び潤滑剤等のその他の成分とを含む非磁性塗料を用いて形成される。非磁性粒子としては、カーボンブラック、α酸化鉄、酸化チタン、炭酸カルシウム、αアルミナ又はこれらの混合物を用いることができる。
【0042】
さらなる高密度記録化のため、垂直記録方式を採用する場合には、軟磁性材料を含有する軟磁性層を磁性層の支持体側に設けることが好ましい。軟磁性層を備えることにより、磁性層に垂直磁気記録が可能となり、従来の長手磁気記録の場合に比べて、磁気テープ1の記録密度を向上させることができる。軟磁性材料としては、Fe合金又はCo(コバルト)合金等を用いることができる。軟磁性層は、磁性層に隣接して設けることが好ましい。
【0043】
バックコート層10は、カーボンブラックまたはこれ以外の非磁性無機粉と、結合剤とを含むバックコート層用塗料を用いて形成される。
【0044】
非磁性層40及びバックコート層10の形成は、磁気テープの製造において通常採用されている方法により行うことができる。
【0045】
各層を形成する順序は、非磁性層20を形成した後に磁性層30を形成すること以外は任意である。磁性層30を形成した後、得られた積層体を所望のテープ状に裁断して、磁気テープ1が得られる。通常、磁気テープ1は所定のカートリッジ内に組み込まれる。
【0046】
本発明は、以上説明した実施形態に限定されるものではなく、発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更が可能である。例えば、本発明の磁気記録媒体は、磁気カード又は磁気ディスクであってもよい。
【実施例】
【0047】
以下、実施例を挙げて本発明についてより具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0048】
実施例
SmCo系微粒子の作製
サマリウムアセチルアセトナート水和物([CHCOCH=C(O−)CHSm・xHO)223.8重量部を、1,4ジオキサン20000重量部に溶解させ、Sm塩溶液を調製した。また、コバルトアセチルアセトナート([CHCOCH=C(O−)CHCo)534.4重量部を、1,4ジオキサン20000重量部に溶解させ、Co塩溶液を調製した。さらに、テトラエチレングリコール90000重量部にポリ(N−ビニル−2−ピロリドン)(PVP)を1000重量部溶解させて、PVP溶液を調製した。
【0049】
上記Sm塩溶液とCo塩溶液を上記PVP溶液に添加して得た反応溶液を約12時間攪拌した。その後、Sm塩原料やアルコール溶媒中に含まれる水分を除去するために、窒素気流下で、110℃に保ちながら反応溶液を約1時間加熱した。このときSm塩やCo塩の溶解に使用された1,4ジオキサンも水分と共に除去され、Sm塩及びCo塩はアルコール溶媒(テトラエチレングリコール、沸点325℃)中に移行した。続いて、窒素気流下で反応溶液を280℃で約3時間の加熱還流により化学反応を進行させて、SmCo系磁性微粒子を含む固形混合物を反応溶液中で生成させた。この反応溶液をキャピラリーで分取して無水エタノールで溶媒置換した後、TEM観察用グリッドに滴下して乾燥させた。乾燥後の残渣をTEMにより観察したところ、生成したSmCo系微粒子は2〜7nmの範囲の粒径を有していた。
【0050】
上記固形混合物を含む反応溶液を、窒素ガス雰囲気下にてアセトンに溶媒置換した。溶媒置換後の分散液におけるSmCo系微粒子の濃度が1質量%程度になるように調整した。得られた分散液を撹拌装置と冷却管を装備した還流装置内に入れ、窒素ガスをバブリングし、50℃に加熱し撹拌しながら3時間還流させた。還流後、分散液を静置してSmCo系微粒子を沈降させ、上澄み液を全量の2/3以上除去した。次に除去した上澄み液と同量のアセトンを加え、上記と同様にして50℃で3時間加熱しながら撹拌を行った後、分散液を静置してSmCo系微粒子を沈降させ、上澄み液を全量の2/3以上除去した。この操作を5回繰り返し、固形混合物から過剰なPVPを除去した。PVPの除去後、PVPに対するSm及びCoの総重量の重量比は約7であった。最後の洗浄の後、SmCo系微粒子:100重量部、PVP:14重量部、アセトン:29重量部の比率となるようにアセトンを除去して、固形分濃度80質量%の分散液を得た。
【0051】
磁性塗料の調製
上記で得られた、PVPが付着しているSmCo系微粒子を含む分散液:143重量部と、結合剤としての追加のポリビニルアルコール(数平均分子量10000):11重量部と、α−Al:6重量部と、フタル酸:2重量部とをブチルアルコールに加えて、固形分濃度80質量%のスラリーを得た。スラリーにおいて、SmCo系微粒子/(ポリビニルアルコールとPVPの総量)=4/1(質量比)である。スラリーを加圧ニーダーで2時間混練した。混練後のスラリーにブチルアルコールを加えて固形分濃度30質量%まで希釈した後、ジルコニアビーズを充填した横型ピンミルを用いて分散処理を行った。その後、ブチルアルコール、ステアリン酸:1質量部、及びステアリン酸ブチル:1質量部を加えて、固形分濃度10質量%のスラリーとした。このスラリー100重量部に水溶性ポリイソシアネート化合物:0.82質量部を加え、磁性塗料を得た。
【0052】
非磁性層用塗料の調製
針状α−Fe(戸田工業:DB−65):85質量部、カーボンブラック(三菱化学:#850B):15質量部、電子線硬化型塩化ビニル系樹脂(アクリル変性塩化ビニル−エポキシ含有モノマー共重合体:重合度260):15質量部、電子線硬化型ポリエステルポリウレタン樹脂(アクリル変性ポリエステルポリウレタン樹脂:数平均分子量=26000):10質量部、α−Al:5質量部、o−フタル酸:2質量部、メチルエチルケトン(MEK):10重量部、トルエン:10重量部、及びシクロヘキサン:10重量部を加圧ニーダーに投入し、2時間混練を行った。混練後、得られたスラリーに、混合溶媒(MEK/トルエン/シクロヘキサン=2/2/6(重量比))を加えて固形分濃度30質量%のスラリーを得た。得られたスラリーをジルコニアビーズを充填した横型ピンミルにて8時間、分散処理に供した。その後、上記と同様の混合溶媒、ステアリン酸:1質量部、及びステアリン酸ブチル:1質量部を加えて固形分濃度10質量%のスラリーである非磁性層用の塗料を得た。
【0053】
バックコート層用塗料の調製
ニトロセルロース(旭化成工業:BTH1/2):50重量部、ポリエステルポリウレタン樹脂(東洋紡績:UR−8300):40重量部、カーボンブラック(Cabot:BP800):85重量部、BaSO:15重量部、オレイン酸銅:5質量部、及び銅フタロシアニン:5質量部をボールミルに投入し、24時間の分散を行った。その後、混合溶媒(MEK/トルエン/シクロヘキサン=1/1/1(質量比))を加えて固形分濃度10質量%のスラリーとした。得られたスラリー100重量部にイソシアネート化合物(日本ポリウレタン:コロネート−L)1.1重量部を加えて、バックコート層用塗料を得た。
【0054】
磁気テープの作製
厚さ6.1μmのポリエチレンテレフタレートフィルムの表面上に、上記非磁性層用塗料を乾燥厚み2.0μmとなるよう塗布し、塗膜を乾燥し、カレンダー処理し、最後に電子線照射により硬化させて、非磁性層を形成した。次に、非磁性層上に上記磁性塗料を乾燥厚み0.20μmとなるように塗布し、塗膜に対して磁場配向処理を行い、乾燥し、カレンダー処理して磁性層を形成した。次いで、ポリエチレンテレフタレートフィルムの裏面上に上記バックコート層用塗料を乾燥厚み0.6μmとなるように塗布し、塗膜を乾燥し、カレンダー処理して、バックコート層を形成した。このようにして、両面に各層が形成された磁気テープ原反を得た。この磁気テープ原反を60℃のオーブンに24時間入れて、磁性層を熱硬化させた。その後、1/2インチ(12.65mm)幅に裁断し、磁気テープを得た。
【0055】
(比較例)
SmCo系微粒子の作製
上記実施例と同様にして反応溶液中で固形混合物を生成させ、アセトンによる洗浄を行うことなく、無水エタノールに溶媒置換した。次いで、ウルトラフィルターを用いたろ過により無水エタノールを除去して、固形分濃度80質量%の分散液(スラリー)を得た。
【0056】
磁性塗料の調製
上記で得られた、PVP及びSmCo系微粒子を含む分散液(スラリー):953重量部(SmCo系微粒子:100重量部、PVP:660重量部、及び無水エタノール:193重量部、SmCo系微粒子/PVP重量比=0.15/1、固形分濃度80質量%)を、加圧ニーダーにより2時間混練した。混練後のスラリーに、ブチルアルコールを加えて固形分濃度を30質量%とした。得られたスラリーをジルコニアビーズ充填した横型ピンミルによる分散処理に供した。その後、ブチルアルコール、ステアリン酸:1質量部及びステアリン酸ブチル:1質量部を加えて固形分濃度10質量%のスラリーとした。このスラリー100質量部に水溶性ポリイソシアネート化合物:0.82質量部を加え、磁性塗料を得た。
【0057】
磁気テープの作製
上記で得られた磁性塗料を用いたことの他は実施例と同様にして、磁気テープを作製した。
【0058】
電磁変換特性の評価
上記実施例及び比較例で得られた磁気テープに対して、ドラムテスタを用いて、MIGヘッドにより0.2μmの記録波長で記録し、GMRヘッドを用いて再生して、電磁変換特性を測定した。
【0059】
実施例の磁気テープからは良好なC/N等の電磁変換特性が得られた。一方、比較例の磁気テープからは信号が測定できなかった。これは、磁気テープの磁性層における磁性粒子の密度が低いために、磁性層の磁気特性が低すぎたからであると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】磁気記録媒体の一実施形態としての磁気テープを示す断面図である。
【符号の説明】
【0061】
10…支持体、20…非磁性層、30…磁性層、40…バックコート層、100…磁気記録媒体(磁気テープ)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Sm塩、Co塩、並びに有機ポリマー及び/又は配位子化合物とこれらが溶解する反応溶媒とを含有する反応溶液を加熱して、該反応溶液中でSmCo系微粒子並びに前記有機ポリマー及び/又は前記配位子化合物を含む固形混合物を生成させる工程と、
前記固形混合物から、前記有機ポリマー及び/又は前記配位子化合物の一部を溶剤への溶解により除去して、残った前記有機ポリマー及び/又は前記配位子化合物が付着している前記SmCo系微粒子を得る工程と、
を備える、SmCo系微粒子の製造方法。
【請求項2】
前記固形混合物から、前記有機ポリマー及び/又は前記配位子化合物の一部を、前記有機ポリマー及び前記配位子化合物の合計質量に対する前記SmCo系微粒子の質量比が1〜10となるまで除去する、請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
Sm塩、Co塩、並びに有機ポリマー及び/又は配位子化合物とこれらが溶解する反応溶媒とを含有する反応溶液を加熱して、該反応溶液中でSmCo系微粒子並びに前記有機ポリマー及び/又は前記配位子化合物を含む固形混合物を生成させる工程と、
前記固形混合物から、前記有機ポリマー及び/又は前記配位子化合物の一部を溶剤への溶解により除去して、残った前記有機ポリマー及び/又は前記配位子化合物が付着している前記SmCo系微粒子を得る工程と、
前記有機ポリマー及び/又は前記配位子化合物が付着している前記SmCo系微粒子を含む磁性塗料を調製する工程と、
前記磁性塗料を用いて前記SmCo系微粒子を含む磁性層を形成させる工程と、
を備える、磁気記録媒体の製造方法。
【請求項4】
前記固形混合物から、前記有機ポリマー及び/又は前記配位子化合物の一部を、前記有機ポリマー及び前記配位子化合物の合計質量に対する前記SmCo系微粒子の質量比が1〜10となるまで除去する、請求項3記載の製造方法。
【請求項5】
前記反応溶液中の前記反応溶媒を前記溶剤へ溶媒置換して得た分散液中で前記固形混合物から前記有機ポリマー及び/又は前記配位子化合物の一部を前記溶剤への溶解により除去し、
前記有機ポリマー及び/又は前記配位子化合物が溶解している前記溶剤の一部を除去してから別の前記溶剤を加えた前記分散液を用いて前記磁性塗料を調製する、請求項3又は4記載の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2009−111277(P2009−111277A)
【公開日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−284149(P2007−284149)
【出願日】平成19年10月31日(2007.10.31)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】