説明

T字継手の溶接方法及び装置

【課題】T字継手の溶接方法及び装置において、溶接時間を短縮して作業効率の向上を図ると共に、未接合部の発生を防止して溶接品質の向上を図る。
【解決手段】レーザビームLBを照射可能であると共にレーザ溶接用シールドガスを吹付け可能なレーザ加工ヘッド31と、溶接ワイヤWを供給可能であると共にアーク溶接用シールドガスを吹付け可能なアークトーチ32と、レーザ加工ヘッド31及びアークトーチ32と各被溶接部材11,12とを溶接方向に沿って相対移動させる移動装置33と、レーザ加工ヘッド31とアークトーチ32と移動装置33を制御する制御装置34とを設け、制御装置34は、レーザ加工ヘッド31によるレーザ出力を1〜6kWに設定すると共に、レーザビーム角α及び第2被溶接部材12の板厚に基づいて第1被溶接部材11からのレーザ狙い位置までの距離Lを設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ溶接とガスアーク溶接を複合して用いることで、T字継手となる2つの被溶接部材を1パスで接合するT字継手の溶接方法及び装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
板状をなす2枚の被溶接部材をT字形状に溶接することで、T字継手を形成する場合、その溶接方法として、例えば、レーザ溶接方法やガスアーク溶接方法が用いられる。即ち、一方の被溶接部材の平面に対して他方の被溶接部材の端面を接触させた状態で、各被溶接部材の隅部に対して、一方側及び他方側から2パスでレーザ溶接またはガスアーク溶接を行い、一方の被溶接部材と他方の被溶接部材とをT字形状に接合する。
【0003】
しかし、このレーザ溶接方法及びガスアーク溶接方法には、種々の課題がある。例えば、ガスアーク溶接方法では、深い溶込み量が期待できないことから、接合部に未溶接部分が発生し、十分な強度を得ることができないおそれがある。強度を得ようと脚長を大きくすると、大入熱により溶接変形が大きくなる。一方、レーザ溶接方法では、ガスアーク溶接方法と比べて、接合部の未溶接部分を少なくすることができるが、完全になくすことはできない。また、通常、ワイヤを供給しないことから、ガスアーク溶接ほど脚長を大きく確保することが困難となり、十分な強度を得ることができないおそれがある。
【0004】
そこで、レーザ溶接とガスアーク溶接を複合させた溶接方法として、下記特許文献1,2に記載されたものがある。特許文献1に記載された継手の溶接方法は、構造物のT継手にすみ肉溶接を行うに際し、ガスアーク溶接とレーザ溶接とを複合させて溶接を行うとき、この溶接の条件として、レーザ出力、アーク電流、溶接速度、継手部材表面上でのアーク/レーザ間距離を所定値に設定するものである。また、特許文献2に記載されたレーザ併用交流ミグパルスアーク溶接方法は、ガスシールドされたワイヤと被溶接物との間に交流電力を供給して溶接線上でアークを発生させ、レーザ発振装置から出力されたレーザ光を伝送経路を通してアークの発生部又はその周辺部に照射して重ねすみ肉溶接を行うとき、被溶接物の上板及び下板の厚さ、溶接線上のワイヤの先端位置とレーザ光のスポット位置との先端間距離を所定値に設定するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−276969号公報
【特許文献2】特開2003−245786号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、上述した特許文献1の継手の溶接方法にあっては、構造物のT継手におけるすみ肉溶接部に対して、その両側から2パスで溶接を行っている。そのため、溶接時間が長くなり、作業効率を向上させることが困難となる。そして、無理に片側から1パスで溶接しようとすると、溶接速度を低下させて溶け込み量を確保する必要があり、溶接時間が長くなり、結局のところ、2パスでの溶接方法に対して溶接時間の向上は見込めない。また、この場合、溶接速度を低下させることなく溶け込み量を確保しようとすると、大出力のレーザ装置が必要となり、高コスト化を招いてしまう。更に、大出力COレーザにおける溶接では、アーク溶接のアーク溶接用シールドガスの影響を大きく受け、溶接部に発生するプラズマにより溶け込みが阻害され、溶接品質も劣化してしまう。
【0007】
また、上述した特許文献2のレーザ併用交流ミグパルスアーク溶接方法にあっては、ガスアーク溶接とレーザ溶接を複合して重ねすみ肉溶接を行うものが開示されているものの、T字継手における隅部に対してその片側から1パスで溶接を行う技術については何ら記載されていない。
【0008】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、溶接時間を短縮して作業効率の向上を図ると共に、未接合部の発生を防止して溶接品質の向上を図るT字継手の溶接方法及び装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明のT字継手の溶接方法は、第1被溶接部材の平面部に第2被溶接部材の端面部を接触させてT字形状に組み合わせ、前記各被溶接部材の隅部に対して片側から1パスでレーザ溶接及びアーク溶接を行うT字継手の溶接方法であって、レーザ溶接の溶接条件としてのレーザ出力を1〜6kWに設定すると共に、レーザビーム角及び前記第2被溶接部材の板厚に基づいてレーザ狙い位置を設定する、ことを特徴とする。
【0010】
また、本発明のT字継手の溶接装置は、第1被溶接部材の平面部に第2被溶接部材の端面部を接触させてT字形状に組み合わせ、前記各被溶接部材の隅部に対して片側から1パスでレーザ溶接及びアーク溶接を行うT字継手の溶接装置であって、レーザを照射可能であると共にレーザ溶接用シールドガスを吹付け可能なレーザ加工ヘッドと、溶接ワイヤを供給可能であると共にアーク溶接用シールドガスを吹付け可能なアークトーチと、前記レーザ加工ヘッド及びアークトーチと前記各被溶接部材とを溶接方向に沿って相対移動させる移動装置と、前記レーザ加工ヘッドと前記アークトーチと前記移動装置を制御する制御装置とを備え、前記制御装置は、前記レーザ加工ヘッドによるレーザ出力を1〜6kWに設定すると共に、レーザビーム角及び前記第2被溶接部材の板厚に基づいてレーザ狙い位置を設定する、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明のT字継手の溶接方法及び装置によれば、各被溶接部材の隅部に対して片側から1パスでレーザ溶接及びアーク溶接を行うとき、レーザ溶接の溶接条件としてのレーザ出力を1〜6kWに設定すると共に、レーザビーム角及び第2被溶接部材の板厚に基づいてレーザ狙い位置を設定する。従って、T字継手の片側から1パスで溶接を行うことで、溶接時間を短縮して作業効率の向上を図ることができると共に、未接合部の発生を防止して溶接品質の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、本発明の実施の形態1に係るT字継手の溶接装置を表す概略構成図である。
【図2】図2は、実施の形態1のT字継手の溶接装置の正面図である。
【図3】図3は、実施の形態1のT字継手の溶接装置の平面図である。
【図4】図4は、従来のT字継手の溶接方法による接合部の概略図である。
【図5】図5は、実施の形態1のT字継手の溶接方法による接合部の概略図である。
【図6】図6は、実施の形態1の溶接方法による溶接速度に対するレーザ狙い位置尤度を表すグラフである。
【図7】図7は、T字継手の溶接方法を説明するための概略図である。
【図8−1】図8−1は、一般的なT字継手の溶接方法による接合部の概略図である。
【図8−2】図8−2は、一般的なT字継手の溶接方法による接合部の概略図である。
【図8−3】図8−3は、一般的なT字継手の溶接方法による接合部の概略図である。
【図9】図9は、本発明の実施の形態2に係るT字継手の溶接装置を表す概略構成図である。
【図10】図10は、従来のT字継手の溶接方法による接合部の概略図である。
【図11】図11は、実施の形態2のT字継手の溶接方法による接合部の概略図である。
【図12】図12は、本発明の実施の形態3に係るT字継手の溶接装置を表す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本発明に係るT字継手の溶接方法及び装置の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0014】
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1に係るT字継手の溶接装置を表す概略構成図、図2は、実施の形態1のT字継手の溶接装置の正面図、図3は、実施の形態1のT字継手の溶接装置の平面図、図4は、従来のT字継手の溶接方法による接合部の概略図、図5は、実施の形態1のT字継手の溶接方法による接合部の概略図、図6は、実施の形態1の溶接方法による溶接速度に対するレーザ狙い位置尤度を表すグラフ、図7は、T字継手の溶接方法を説明するための概略図、図8−1〜図8−3は、一般的なT字継手の溶接方法による接合部の概略図である。
【0015】
実施の形態1のT字継手の溶接方法及び装置は、第1被溶接部材の平面部に第2被溶接部材の端面部を接触させてT字形状に組み合わせ、この各被溶接部材の隅部に対して片側から1パスでレーザ溶接及びアーク溶接を行うものであって、レーザ溶接の溶接条件としてのレーザ出力を1〜6kWに設定すると共に、レーザビーム角及び第2被溶接部材の板厚に基づいてレーザ狙い位置を設定する。
【0016】
以下、実施の形態1のT字継手の溶接方法及び装置について、具体的に説明する。
【0017】
実施の形態1のT字継手の溶接方法は、図7に示すように、平板形状をなす第1被溶接部材11の平面部に、同じく平板形状をなす第2被溶接部材12の端面部を接触させてT字形状に組み合わせ、この各被溶接部材11,12の隅部に対して片側から1パスでレーザ溶接及びアーク溶接を行う。
【0018】
このT字継手の溶接方法にて、第1被溶接部材11の板厚t、第2被溶接部材12の板厚t、レーザビーム角α、第1被溶接部材11の平面部からのレーザ狙い位置までの距離Lとすると、隅部を片側1パスで溶接するためには各被溶接部材11,12の継手部分Sが接合され、且つ、溶接を行う隅部とは反対の隅部側のルート部Sから溶接裏ビードが出る必要がある。このときのレーザ狙い位置、つまり、適正なレーザ狙い位置(第1被溶接部材11からの距離L)は、下記数式(1)により算出することができる。
L=t×tanα (1)
【0019】
ここで、レーザ溶接のみでのT字継手の溶接方法において、溶接速度0.7m/min、レーザ出力5.5kW、被溶接部材12の板厚t=8mm、レーザビーム角α=7.5°とした場合を考える。この場合、上記数式(1)より適正なレーザ狙い位置までの距離Lは、約1.1mmとなる。
【0020】
図8−1〜図8−3に、レーザ狙い位置までの距離Lを異ならせたときのT字継手の接合部を示している。この場合、図8−1の接合部21は、レーザ狙い位置までの距離L=0.4mm、図8−2の接合部22は、レーザ狙い位置までの距離L=0.6mm、図8−3の接合部23は、レーザ狙い位置までの距離L=1.1mmとしたときのものである。
【0021】
図7及び図8−1に示すように、レーザ狙い位置までの距離L=0.4mmの場合、継手部分Sにて、レーザビーム入射側は接合されているが、反対側のルート部Sでは全く溶接裏ビードが出ていないことが確認できた。図7及び図8−2に示すように、レーザ狙い位置までの距離L=0.6mmの場合、継手部分Sにて、ルート部Sでは十分に溶け込んで溶接裏ビードが出ているが、特にレーザビーム入射側では、十分に接合されていないことが確認できた。図7及び図8−3に示すように、レーザ狙い位置までの距離L=1.1mmと大きくなった場合、継手部分Sにて、ルート部Sでは十分に溶け込んで溶接裏ビードが出ているが、レーザビーム入射側から中央部にかけて、十分に接合されていないことが確認できた。
【0022】
上述した結果から、溶接速度0.7m/minにおいては、レーザ狙い位置までの距離Lの位置ずれを考えると、隅部を片側1パスで溶接することは困難であり、継手部分S及びルート部Sを両者共に溶け込ませるためには、入熱量を増加しなければならず、レーザ溶接のみでのT字継手の溶接方法では、溶接速度を減少する必要がある。
【0023】
下記の表1には、レーザ溶接のみでのT字継手の溶接方法において、第2被溶接部材12の板厚t=8mmまたはt=9mm、であるとき、溶接速度に対して、継手部分Sとルート部Sが両者共に溶け込んだT字継手が得られるレーザ狙い位置尤度を示している。この場合、十分なレーザ狙い位置尤度を確保しようとすると、溶接速度の減少が必要であることが確認できた。
【0024】
【表1】

【0025】
以上のことより、T字継手のレーザ溶接にて、隅部を片側1パスで溶接するためには、レーザ狙い位置(第1被溶接部材11からの距離L)を適正に設定して溶接裏ビードを確実に出すこと、溶接速度を低速にして入熱量を増加させ、レーザビーム入射側の継手部分を接合させることが必要である。しかし、溶接速度を減少させることにより生産性が低下するため、この溶接速度の低下は避けるべきである。そこで、本実施の形態では、速度低下を招くT字継手におけるレーザビーム入射側での溶け込み確保をアーク溶接で補う、レーザ溶接とアーク溶接を複合させた溶接方法及び装置としている。
【0026】
実施の形態1のT字継手の溶接装置は、図1乃至図3に示すように、第1被溶接部材11の平面部に第2被溶接部材12の端面部を接触させてT字形状に組み合わせ、この各被溶接部材11,12の隅部に対して片側から1パスでレーザ溶接及びアーク溶接を行うものである。即ち、本実施の形態のT字継手の溶接装置は、レーザ加工ヘッド31と、アークトーチ32と、移動装置33と、制御装置34とを有している。レーザ加工ヘッド31は、先端部からレーザビームLBを照射可能であると共に、レーザ溶接用シールドガスを吹付け可能である。アークトーチ32は、先端部から溶接ワイヤWを供給可能であると共に、アーク溶接用シールドガスを吹付け可能である。移動装置33は、レーザ加工ヘッド31とアークトーチ32とを搭載する図示しない移動テーブルを有し、この移動テーブルを駆動装置により各被溶接部材11,12の溶接方向に沿って移動可能である。制御装置34は、レーザ加工ヘッド31とアークトーチ32と移動装置33を制御可能である。この場合、レーザ加工ヘッド31及びアークトーチ32を固定し、移動装置33は、T字形状をなす各被溶接部材11,12を移動するようにしてもよい。
【0027】
ここで、t,tは、各被溶接部材11,12の板厚、Lは、第1被溶接部材11の平面部(第2被溶接部材12の端面)からのレーザ狙い位置までの距離、Dは、レーザ狙い位置と溶接ワイヤWの先端との距離である。また、αは、第1被溶接部材11の平面部に対するレーザ加工ヘッド31によるレーザビーム角、βは、第1被溶接部材11の平面部に対するアークトーチ32の傾斜角度、γは、第2被溶接部材12に対するアークトーチ32の傾斜角度である。
【0028】
そして、制御装置34は、レーザ加工ヘッド31によるレーザ出力を1〜6kWに設定すると共に、レーザビーム角α及び第2被溶接部材12の板厚tに基づいてレーザ狙い位置までの距離Lを設定している。
【0029】
また、その他の溶接条件は、次のものに設定されている。各被溶接部材11,12は、板厚t=4〜6mm、t=5〜10mmの軟鋼を用いる。レーザ加工ヘッド31によるレーザ溶接において、レーザビームLBは、出力5.5kWのCOレーザとする。レーザ加工ヘッド31によるレーザビーム角αは、7.5(7.5〜20.0)°とする。加工時に、レーザ加工ヘッド31のノズル31aから供給するレーザ溶接用シールドガスは、ヘリウムガスとし、10〜40l/minの速度で吹き付けるものとする。
【0030】
また、アークトーチ32によるアーク溶接において、電流値は、150(50〜200)A、電圧値は、25Vとする。このアークトーチ32よりアーク溶接用シールドガスとして80%Ar−20%COを5〜25l/minの速度で吹きつけるものとする。アークトーチ32による溶接ワイヤWの狙い位置は、レーザ狙い位置と同様であり、レーザ狙い位置と溶接ワイヤWの先端部の距離Dは、0〜10mmとする。アークトーチ32の傾斜角度βは、30〜90°に設定し、アークトーチ32の傾斜角度γは、40〜75°に設定する。この場合、レーザ加工ヘッド31とアークトーチ32は、一体に取付けられており、レーザ狙い位置とワイヤ狙い位置とを結んだ直線は、溶接進行方向に対して平行に設定されている。
【0031】
また、溶接方向へのレーザ溶接及びガスアーク溶接の先行基準は、アーク溶接におけるレーザビーム入射側での溶け込み増加を考えているため、レーザ溶接を先行させるものとしている。アーク溶接を先行させる場合に比べて、すでにレーザ溶接によりできた溶融池にアーク溶接を行うことで、各被溶接部材11,12に対する熱効率が良く、深溶け込みが期待でき、さらにアークの発生も安定になる。この場合の溶接速度は、0.5〜2.0m/minに設定している。
【0032】
従って、第1被溶接部材11の平面部に第2被溶接部材12の端面部を接触させてT字形状に組み合わせた状態で、制御装置34は、移動装置33によりレーザ加工ヘッド31とアークトーチ32を図1の矢印方向に移動し、各被溶接部材11,12の隅部に対して片側から1パスでレーザ溶接とアーク溶接を連続して行う。
【0033】
図4は、溶接速度0.7m/minでレーザ溶接のみによるT字継手の溶け込み断面である。この図4からわかるように、レーザ溶接のみでは、接合部41にレーザビーム入射側に未接合部が発生している。一方、図5は、溶接速度0.7m/minでレーザ溶接とアーク溶接を複合させた溶接によるT字継手の溶け込み断面である。この図5からわかるように、レーザ溶接とアーク溶接の複合溶接では、接合部41については十分に溶け込んでいることが確認できた。
【0034】
また、図6は、第2被溶接部材12の板厚が9mmに対する、レーザ溶接のみ、レーザ溶接とアーク溶接の複合溶接における溶接速度とレーザ狙い位置尤度を示したグラフである。この図6からわかるように、レーザ溶接のみの溶接Bに比べ、レーザ溶接とアーク溶接の複合溶接Aは、レーザ狙い位置尤度拡大の効果が得られている。特に、レーザ狙い位置が大きい場合、つまり、第1被溶接部材11から遠ざけた場合においての尤度拡大が見られ、アーク溶接におけるレーザビーム入射側の溶け込みが十分であることが確認できる。設備仕様面から、例えば、レーザ狙い位置のズレが±0.2mmに抑える必要がある場合、レーザ溶接では、溶接速度を0.5m/minまで低下させる必要があるが、レーザ溶接とアーク溶接の複合溶接では、0.7m/minでの溶接が可能である。
【0035】
即ち、T字継手の片側1パスに対して、レーザ溶接のみで十分なレーザ狙い位置尤度を得られる溶接速度よりも速い場合においても、レーザ溶接とアーク溶接を複合させた溶接方法では、レーザ狙い位置を適正に設定することで、レーザビーム入射の反対側のルート部で溶接裏ビードを出し、レーザ溶接とアーク溶接の併用により、レーザビーム入射側の継手部分を接合させることが可能となる。
【0036】
このように実施の形態1のT字継手の溶接方法及び装置にあっては、第1被溶接部材11の平面部に第2被溶接部材12の端面部を接触させてT字形状に組み合わせ、各被溶接部材11,12の隅部に対して片側から1パスでレーザ溶接及びアーク溶接を行うものであって、レーザビームLBを照射可能であると共にレーザ溶接用シールドガスを吹付け可能なレーザ加工ヘッド31と、溶接ワイヤWを供給可能であると共にアーク溶接用シールドガスを吹付け可能なアークトーチ32と、レーザ加工ヘッド31及びアークトーチ32と各被溶接部材11,12とを溶接方向に沿って相対移動させる移動装置33と、レーザ加工ヘッド31とアークトーチ32と移動装置33を制御する制御装置34とを設け、制御装置34は、レーザ加工ヘッド31によるレーザ出力を1〜6kWに設定すると共に、レーザビーム角α及び第2被溶接部材12の板厚に基づいてレーザ狙い位置、つまり、第1被溶接部材11からのレーザ狙い位置までの距離Lを数式(1)により設定している。
【0037】
従って、各被溶接部材11,12からなるT字継手の片側から1パスで溶接を行うことで、溶接時間を短縮して作業効率の向上を図ることができると共に、未接合部の発生を防止して溶接品質の向上を図ることができる。
【0038】
通常、1パスで未接合部がないような溶接を実現するためには、溶け込み深さの大きいレーザ溶接が適用されるが、T字継手の場合にはレーザビームを直接、溶接箇所の真上から照射させることが不可能であり、レーザビームを傾けて溶接する。このとき、レーザ出力が小さい、または、溶接速度が速い場合には、溶け込み形状が細長くなり、レーザビーム入射の反対側に未溶接部が発生したり、レーザビーム入射側で未溶接部が発生したりする。この未接合部をなくそうとすれば、溶け込みが太く長い形状が適しているが、これを実現させるためには、溶接速度の低下、あるいは、大出力のレーザ装置が必要となり、生産性低下やコストアップに繋がってしまう。
【0039】
そこで、本実施の形態では、レーザ溶接とアーク溶接を複合させた溶接方法及び装置にて、溶接速度が速くなった場合についても、レーザ溶接は第2被溶接部材12の板厚によりレーザ狙い位置、つまり、第1被溶接部材11からレーザ狙い位置までの距離Lを適正に設定している。そのため、レーザビーム入射と反対側における溶け込みを、アーク溶接はレーザビーム入射側における溶け込みを確保できる。また、レーザ溶接のみでは、1パスで溶接が可能なレーザ狙い位置範囲は小さいが、本実施の形態では、レーザ狙い位置がずれても、レーザビーム入射側での未溶接部をアーク溶接による接合が可能となり、レーザ狙い位置尤度を拡大させることができる。
【0040】
実施の形態2.
図9は、本発明の実施の形態2に係るT字継手の溶接装置を表す概略構成図、図10は、従来のT字継手の溶接方法による接合部の概略図、図11は、実施の形態2のT字継手の溶接方法による接合部の概略図である。なお、前述した実施例で説明したものと同様の機能を有する部材には同一の符号を付して重複する説明は省略する。
【0041】
実施の形態2のT字継手の溶接方法及び装置は、第1被溶接部材11の平面部に第2被溶接部材12の端面部を接触させてT字形状に組み合わせ、この各被溶接部材11,12の隅部に対して片側から1パスでレーザ溶接及びアーク溶接を行うものであって、レーザ溶接の溶接条件としてのレーザ出力を1〜6kWに設定すると共に、レーザビーム角及び第2被溶接部材12の板厚に基づいてレーザ狙い位置を設定する。そして、アーク溶接よりレーザ溶接を先行して行い、レーザ溶接部より溶接方向の前方側からレーザ溶接部に巻き込み防止用サイドガスを吹付けるようにする。
【0042】
実施の形態2のT字継手の溶接装置は、図9に示すように、第1被溶接部材11の平面部に第2被溶接部材12の端面部を接触させてT字形状に組み合わせ、この各被溶接部材11,12の隅部に対して片側から1パスでレーザ溶接及びアーク溶接を行うものである。即ち、本実施の形態のT字継手の溶接装置は、ノズル31aを有するレーザ加工ヘッド31と、アークトーチ32と、移動装置33と、制御装置34とを有している。この場合、移動装置33は、レーザ加工ヘッド31及びアークトーチ32、または、T字形状をなす各被溶接部材11,12を移動可能としている。
【0043】
また、実施の形態2のT字継手の溶接装置は、レーザ加工ヘッド31より溶接方向の前方側に位置して、レーザ溶接部に対してアーク溶接用シールドガスの巻き込みを防止する巻き込み防止用サイドガスを吹き付けるガス供給装置51を設けている。更に、レーザ溶接部を撮影する高速度カメラ52と、この高速度カメラ52が撮影した画像を処理する画像処理装置53とを設けている。そして、制御装置34は、画像処理装置53が処理した画像に基づいて溶接開始点と溶接終了点を決定している。
【0044】
この場合、レーザ加工ヘッド31のノズル31aからは、レーザ溶接用シールドガスとしてHeを25l/minで供給可能し、アークトーチ32からは、アーク溶接用シールドガスとして80%Ar−20%COを15l/minで供給可能とする。従って、実施の形態2のT字継手の溶接装置により溶接方法では、溶接時には、レーザ溶接先行として、レーザ加工ヘッド31及びアークトーチ32または、被溶接部材11,12を移動させ、ガス供給装置51よりレーザ溶接部に向けてHeガス(巻き込み防止用サイドガス)を噴きつけながら溶接を行う。更に、このとき、高速度カメラ52により溶接現象を撮影する。
【0045】
この高速度カメラ52が撮影した溶接現象によると、ガス供給装置51よりHeガス(巻き込み防止用サイドガス)を噴きつけなかった場合、レーザ加工ヘッド31のノズル31aの先端のレーザ照射部からプラズマが発生していることが確認できた。これは、アークトーチ32から噴きつけられるアーク溶接用シールドガスがノズル31aからのHeシールドガスの効果を小さくしているからである。レーザ照射部のHeシールド中にアークトーチ32から噴きつけられるアーク溶接用シールドガスの巻き込まれる量が多い場合には、レーザ照射部上では熱伝導率の高いHeの割合が少なくなり、温度が上昇する。それに伴い、金属蒸気が電離しプラズマ化する。その結果、プラズマによりCOレーザの吸収や屈折が起こり、母材に入るレーザパワーが減少し溶け込みが浅くなる。図10に、このときの溶け込み断面を示しており、貫通溶接61ができていないことが確認できた。
【0046】
一方、本実施の形態のように、ガス供給装置51よりHeガス(巻き込み防止用サイドガス)を噴きつけた場合、ノズル31aからのHeシールドガス(レーザ溶接用シールドガス)中にアークトーチ32からのアーク溶接用シールドガスの巻き込み量を少なくさせることとなり、レーザ照射部からのプラズマ発生を抑えることができた。図11に、このときの溶け込み断面を示しており、貫通溶接62が可能であることが確認できた。
【0047】
即ち、溶接前方のガス供給装置51よりHeガスを噴きつけることで、レーザ照射部へ混入するアーク溶接用シールドガスを低減でき、片側1パス溶接が可能となる。また、ノズル31aからのHeシールドがなく、ガス供給装置51からのHeガス供給のみで溶接しても、同様の抑制効果が期待できる。
【0048】
このように実施の形態2のT字継手の溶接方法及び装置にあっては、レーザ加工ヘッド31と、アークトーチ32と、移動装置33と、制御装置34とを設けると共に、レーザ加工ヘッド31より溶接方向の前方側にレーザ溶接部に巻き込み防止用サイドガスを吹き付けるガス供給装置51を設けている。
【0049】
従って、ガス供給装置51は、アークトーチ32からアーク溶接用シールドガスが、レーザ加工ヘッド31からのレーザ溶接用シールドガスと混合し、十分にシールドされずにレーザプラズマが発生して溶け込みが浅くなることを防ぐためのものである。そのため、溶接進行方向の前方から巻き込み防止用サイドガスを供給することで、アークトーチ32からのアーク溶接用シールドガスがレーザ加工ヘッド31から噴出されるレーザ溶接用シールドガスに混合する量を抑えることができ、溶け込みが深い溶接が可能となり、溶接品質を向上することができる。
【0050】
実施の形態3.
図12は、本発明の実施の形態3に係るT字継手の溶接装置を表す概略構成図である。なお、前述した実施例で説明したものと同様の機能を有する部材には同一の符号を付して重複する説明は省略する。
【0051】
実施の形態3のT字継手の溶接方法及び装置は、第1被溶接部材11の平面部に第2被溶接部材12の端面部を接触させてT字形状に組み合わせ、この各被溶接部材11,12の隅部に対して片側から1パスでレーザ溶接及びアーク溶接を行うものであって、レーザ溶接の溶接条件としてのレーザ出力を1〜6kWに設定すると共に、レーザビーム角及び第2被溶接部材12の板厚に基づいてレーザ狙い位置を設定する。そして、各被溶接部材11,12の隅部における溶接開始点より所定距離だけ溶接方向後方から、レーザ加工ヘッド31を移動させると共にレーザ溶接用シールドガスを吹付け、溶接開始点でレーザビームLBを照射している。
【0052】
実施の形態3のT字継手の溶接装置は、図12に示すように、第1被溶接部材11の平面部に第2被溶接部材12の端面部を接触させてT字形状に組み合わせ、この各被溶接部材11,12の隅部に対して片側から1パスでレーザ溶接及びアーク溶接を行うものである。即ち、本実施の形態のT字継手の溶接装置は、ノズル31aを有するレーザ加工ヘッド31と、アークトーチ32と、移動装置33と、制御装置34とを有している。この場合、移動装置33は、レーザ加工ヘッド31及びアークトーチ32、または、T字形状をなす被溶接部材11,12を移動可能としている。
【0053】
また、実施の形態3のT字継手の溶接装置は、レーザ溶接部を撮影する高速度カメラ52と、この高速度カメラ52が撮影した画像を処理する画像処理装置53とを設けている。そして、制御装置34は、画像処理装置53が処理した画像に基づいて各被溶接部材11,12の隅部における溶接開始点と溶接終了点を決定し、この溶接開始点より所定距離Aだけ溶接方向後方から、レーザ加工ヘッド31を移動させると共にレーザ溶接用シールドガスを吹付け、溶接開始点でレーザビームLBを照射している。
【0054】
従って、被溶接部材11,12を固定し、レーザ加工ヘッド31及びアークトーチ32を移動装置33により移動可能とする。高速度カメラ52及び画像処理装置53は、レーザ加工ヘッド31に取付けられており、高速度カメラ52により撮影可能な位置までレーザ加工ヘッド31を下降させる。そして、溶接開始点と溶接終了点、被溶接部材11,12の板厚に応じた適正なレーザ狙い位置を決定し、レーザ溶接先行により溶接開始点から溶接を行う。
【0055】
このとき、レーザ加工ヘッド31は、溶接開始点と溶接終了点を結ぶ延長上で溶接開始点より溶接進行方向とは反対側に所定の距離(加速距離)Aとして20mmを確保し、その位置からノズル31aよりHeシールド(レーザ溶接用シールドガス)とアークトーチ32よりアーク溶接用シールドガス80%Ar−20%COを流しながら移動し、溶接開始点からレーザビームLBを照射する。レーザ加工ヘッド31を移動させながら溶接することで、レーザ照射部には見かけ上、アーク溶接用シールドガスが溶接進行方向とは逆方向に流れていることになる。溶接中の現象を高速度カメラで撮影し観察した結果、レーザ照射部でのプラズマ発生が抑えられており、貫通溶接が可能なことが確認できた。即ち、レーザ加工ヘッド31を移動させることで、レーザ照射部にはアーク溶接用シールドガスの混入量を低減でき、片側1パス溶接が可能となる。
【0056】
このように実施の形態3のT字継手の溶接方法及び装置にあっては、レーザ加工ヘッド31と、アークトーチ32と、移動装置33と、制御装置34とを設けると共に、レーザ溶接部を撮影する高速度カメラ52と、この高速度カメラ52が撮影した画像を処理する画像処理装置53とを設け、制御装置34は、画像処理装置53が処理した画像に基づいて各被溶接部材11,12の隅部における溶接開始点と溶接終了点を決定し、溶接開始点より所定距離Aだけ溶接方向後方から、レーザ加工ヘッド31を移動させると共に、レーザ溶接用シールドガスを吹き付け、溶接開始点でレーザビームLBを照射している。
【0057】
従って、レーザ加工ヘッド31を、溶接開始点より所定距離Aだけ溶接方向後方から移動させることで、レーザ溶接部において見かけ上、溶接方向前方よりガスが供給されたようなシールド状態となり、レーザ溶接部にアークトーチ32からのガス混入量を低減し、レーザプラズマの発生を抑制し、溶け込みの深い溶接が可能となり、溶接品質を向上することができる。
【産業上の利用可能性】
【0058】
以上のように、本発明にかかるT字継手の溶接方法及び装置は、被溶接部材の板厚に基づいてレーザ狙い位置を設定することで、溶接時間を短縮して作業効率の向上を図ると共に、未接合部の発生を防止して溶接品質の向上を図るものであり、T字継手のすみ肉溶接に適用して有用である。
【符号の説明】
【0059】
11 第1被溶接部材
12 第2被溶接部材
31 レーザ加工ヘッド
32 アークトーチ
33 移動装置
34 制御装置
51 ガス供給装置
52 高速度カメラ
53 画像処理装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1被溶接部材の平面部に第2被溶接部材の端面部を接触させてT字形状に組み合わせ、前記各被溶接部材の隅部に対して片側から1パスでレーザ溶接及びアーク溶接を行うT字継手の溶接方法であって、
レーザ溶接の溶接条件としてのレーザ出力を1〜6kWに設定すると共に、レーザビーム角及び前記第2被溶接部材の板厚に基づいてレーザ狙い位置を設定する、
ことを特徴とするT字継手の溶接方法。
【請求項2】
アーク溶接よりレーザ溶接を先行して行い、レーザ溶接部より溶接方向の前方側からレーザ溶接部にアーク溶接用シールドガスの混入を防止する巻き込み防止用サイドガスを吹付けることを特徴とする請求項1に記載のT字継手の溶接方法。
【請求項3】
前記各被溶接部材の隅部における溶接開始点より所定距離だけ溶接方向後方から、レーザ加工ヘッドを移動させると共にレーザ溶接用シールドガス及びアーク溶接用シールドガスを吹付け、溶接開始点でレーザを照射することを特徴とする請求項1または2に記載のT字継手の溶接方法。
【請求項4】
第1被溶接部材の平面部に第2被溶接部材の端面部を接触させてT字形状に組み合わせ、前記各被溶接部材の隅部に対して片側から1パスでレーザ溶接及びアーク溶接を行うT字継手の溶接装置であって、
レーザを照射可能であると共にレーザ溶接用シールドガスを吹付け可能なレーザ加工ヘッドと、
溶接ワイヤを供給可能であると共にアーク溶接用シールドガスを吹付け可能なアークトーチと、
前記レーザ加工ヘッド及びアークトーチと前記各被溶接部材とを溶接方向に沿って相対移動させる移動装置と、
前記レーザ加工ヘッドと前記アークトーチと前記移動装置を制御する制御装置とを備え、
前記制御装置は、前記レーザ加工ヘッドによるレーザ出力を1〜6kWに設定すると共に、レーザビーム角及び前記第2被溶接部材の板厚に基づいてレーザ狙い位置を設定する、
ことを特徴とするT字継手の溶接装置。
【請求項5】
前記レーザ加工ヘッドより溶接方向の前方側にレーザ溶接部に巻き込み防止用サイドガスを吹き付けるガス供給装置を設けることを特徴とする請求項4に記載のT字継手の溶接装置。
【請求項6】
前記制御装置は、前記各被溶接部材の隅部における溶接開始点より所定距離だけ溶接方向後方から、前記レーザ加工ヘッドを移動させると共にレーザ溶接用シールドガス及びアーク溶接用シールドガスを吹き付け、溶接開始点でレーザを照射することを特徴とする請求項4または5に記載のT字継手の溶接装置。
【請求項7】
レーザ溶接部を撮影するカメラと、該カメラが撮影した画像を処理する画像処理装置とを設け、前記制御装置は、前記画像処理装置が処理した画像に基づいて溶接開始点と溶接終了点を決定することを特徴とする請求項6に記載のT字継手の溶接装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8−1】
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【図8−2】
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【図8−3】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2011−36883(P2011−36883A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−186358(P2009−186358)
【出願日】平成21年8月11日(2009.8.11)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】